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特許7097475ワイヤ放電加工機の加工方法および加工プログラム生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機の加工方法および加工プログラム生成装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20220630BHJP
【FI】
B23H7/02 K
B23H7/02 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021074768
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2022-01-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】倉ケ谷 翼
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-155301(JP,A)
【文献】特開平04-025320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工溝により切り離されたワークの内側部分をなす中子を分割して切り離すワイヤ放電加工機の加工方法であって、
前記中子を前記ワークから切り離さないための切り残し部を残して前記加工溝を加工する第1の加工処理と、
前記中子を分割して順番に切り離す第2の加工処理と、
前記切り残し部を切り離す第3の加工処理と、を有するワイヤ放電加工機の加工方法。
【請求項2】
前記第1の加工処理は、分割された前記中子が前記加工溝の内側で移動しないための爪部を前記加工溝の加工経路上に形成して前記爪部と前記加工溝を加工することを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工機の加工方法。
【請求項3】
さらに前記第3の加工処理の後に、前記爪部を前記ワークから除去する第4の加工処理を有することを特徴とする請求項2記載のワイヤ放電加工機の加工方法。
【請求項4】
前記第2の加工処理は、前記中子を分割する分割線の加工経路上に、分割された前記中子が前記加工溝の内側で移動しないための爪部を形成して前記爪部と前記分割線を加工することを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工機の加工方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の加工処理を実行する加工プログラムを生成することを特徴とする加工プログラム生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割した中子の落下を防止することができるワイヤ放電加工機の加工方法および加工プログラム生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加工電極とワークとの間に形成される極間に放電を発生させて行う放電加工を板状等のワークに対するワイヤ電極による糸鋸状の切断加工に適用したワイヤ放電加工は広く知られている。このようなワイヤ放電加工では、加工間隙の絶縁を回復する目的、放電による発熱により高温になるワイヤ電極とワークを冷却する目的、加工間隙に発生する加工屑を除去する目的のため、下部ワイヤガイド部に設けられたノズル口から所望の圧力を有する噴流を噴射しながら放電加工を行い、その後、中子の回収を行う。
中子の回収方法としては、中子を吸着して上方に持ち上げて取り出す方法(特許文献1)や上方から中子を押圧して回収する方法(特許文献2)または最後まで切り残しておいた箇所や落下防止のために中子とワークとを接着している箇所を切断して中子を取り出す方法(特許文献3、特許文献4)等が用いられている。
【0003】
また、上述の回収方法において、ワークから切り出す中子の重量が大きい場合や体積が大きい場合、中子をあらかじめ複数に分割し、分割後の中子を順に除去する方法が用いられている(特許文献5、特許文献6、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6599532号公報
【文献】特開2019-181637号公報
【文献】特開平08-025145号公報
【文献】特許第5813517号公報
【文献】実開平05-002823号公報
【文献】特開平02-167621号公報
【文献】特願2020-204071号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中子を複数に分割して除去しながらワークに対して放電加工を行うと、ワークから分割した中子を回収することによりできた空間に加工液の噴流が逃げてしまい、放電加工中のワークと中子の残されている部分との間の加工間隙に加工液が適切に供給されない問題が発生していた。加工間隙に加工液の噴流が噴射されない場合、加工屑が加工間隙に詰まることやワイヤ電極とワークの絶縁状態が悪くなる問題が発生し、ワーク側の加工面の仕上がり精度が落ちてしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、中子を分割処理した場合であっても、放電加工中のワークと中子との間の加工間隙に対して適切に加工液を供給することができるワイヤ放電加工機の加工方法および加工プログラム生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加工溝により切り離されたワークの内側部分をなす中子を分割して切り離すワイヤ放電加工機の加工方法であって、前記中子を前記ワークから切り離さないための切り残し部を残して前記加工溝を加工する第1の加工処理と、前記中子を分割して順番に切り離す第2の加工処理と、前記切り残し部を切り離す第3の加工処理とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、中子をワークから切り離さずに加工溝を加工する第1の加工処理を最初に行い、その後に中子を順番に切り離す第2の加工処理を行うため、ワークから分割した中子を回収することによりできた空間に加工液の噴流が逃げてしまう問題や加工間隙に加工液の噴流が噴射されない問題を解消することが可能となる。
【0009】
本発明のワイヤ放電加工機の加工方法において、第1の加工処理は、分割された前記中子が前記加工溝の内側で移動しないための爪部を前記加工溝の加工経路上に形成して前記爪部と前記加工溝を加工することを特徴とする。
また本発明のワイヤ放電加工機の加工方法において、さらに前記第3の加工処理の後に、前記爪部を前記ワークから除去する第4の加工処理を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、第1の加工処理には加工溝の加工経路上に爪部を設ける処理が含まれるため、切り残し部を残して加工溝を加工した場合であっても爪部によりワークに中子を固定して、中子が加工溝の内側で傾いてワークに接触してしまう等の問題を解消することができる。
【0011】
本発明のワイヤ放電加工機の加工方法において、第2の加工処理は前記中子を分割する分割線の加工経路上に、分割された前記中子が前記加工溝の内側で移動しないための爪部を形成して前記爪部と前記分割線を加工することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第2の加工処理には分割線の加工経路上に爪部を設ける処理が含まれるため、分割された中子が加工溝の内側に適切に固定される。よって、中子が回収前に加工溝の内側を移動してしまう問題や適切に中子を回収できない問題を解消することが可能となる。
【0013】
本発明の明細書において「加工溝の形状」とは、ワークに形成する製品の輪郭形状である。また、「加工形状データ」とは、加工溝の形状が示されたCADデータである。さらに「加工経路」とは、加工プログラムにより規定された経路であって、ワイヤ電極を実際に移動させるときの線路である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中子の分割処理を行う場合であっても、放電加工中のワークと中子との間の加工間隙に対して適切に加工液を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のワイヤ放電加工システム100を示す全体構成図である。
図2】上記実施形態の上側ガイド組体2と下側ガイド組体3を示す拡大図である。
図3】上記実施形態の加工プログラム生成装置20の構成を示すブロック図である。
図4】本発明のワイヤ放電加工システム100により形成される爪部Tの形状を示す説明図である。
図5】上記実施形態の加工プログラム90の第1の加工経路911を説明する説明図である。
図6】上記実施形態の加工プログラム90の第2の加工経路912を説明する説明図である。
図7】上記実施形態の加工プログラム90の第3の加工経路913を説明する説明図である。
図8】上記実施形態の切り残し部Kと爪部Tの配置関係を説明する説明図である。
図9】上記実施形態の加工プログラム90の第4の加工経路914を説明する説明図である。
図10】上記実施形態のワイヤ放電加工システム100の全体動作の概要を示すフローチヤートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1.1 ワイヤ放電加工システム100の全体構成)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明のワイヤ放電加工システム100の全体構成図である。同図を参照して概要を説明すると、ワイヤ放電加工システム100は、ワイヤ放電加工機10と、加工プログラム生成装置20から構成される。
ワイヤ放電加工機10は、加工機本体1と、加工機本体1を駆動するための各軸モータ6と、電源装置7と、制御装置9から構成され、制御装置9には加工プログラム生成装置20が接続されている。
【0017】
加工機本体1は、上側ガイド組体2と下側ガイド組体3との間に工具電極としてのワイヤ電極Eを連続的に供給し、ワークWを加工槽4内のワークスタンド5に載置した状態で加工液に浸漬し、各軸モータ6によりワイヤ電極EとワークWとの極間の距離を所定に設定しつつ電源装置7により極間に所定の電圧を印加して放電を発生させワークWの放電加工を行う構成となっている。
また加工機本体1には、中子Nを回収するための中子移動装置8が設けられている。例えば、中子移動装置8は、永久磁石等を有する中子吸着保持部を備え、切り抜かれた中子Nを中子吸着保持部に吸着させることにより、ワークWから取り出した後、中子Nを加工機本体1の図示しない中子回収バケットに回収する。
【0018】
図2は、上記実施形態の上側ガイド組体2と下側ガイド組体3を示す拡大図である。
上側ガイド組体2は、ワイヤ電極Eを位置決めして案内するワイヤガイド21(ガイド本体)と、ワイヤ電極Eに給電する通電体23と、ワークWと中子Nとの間の加工間隙に対してワイヤ電極Eに同軸に下方向に向けて加工液の噴流を供給する噴流ノズル22とを一体化してなるアセンブリである。下側ガイド組体3は、ワイヤ電極Eを位置決めして案内するワイヤガイド31(ガイド本体)と、ワークWと中子Nとの間の加工間隙に対してワイヤ電極Eに同軸に上方向に向けて加工液の噴流を供給する噴流ノズル32とを一体化してなるアセンブリである。
【0019】
制御装置9は、加工プログラム生成装置20から加工プログラム90を受信し、解読して制御信号を送信する装置である。すなわち、ワイヤ放電加工機10は、制御装置9が生成した制御信号に基づいて各軸モータ6を駆動し、加工プログラム90で指定される加工経路に沿ってワイヤ電極Eを移動させながら、加工溝G1の荒加工、仕上げ加工を行う。
【0020】
ここで加工プログラム90とは制御装置9へ放電加工条件と移動指令などを与えるものである。加工プログラム90で指定される加工経路に沿って、所望の形状となるようにモータ等の各駆動軸が制御される。
加工プログラム90は、NC言語によってプログラミングされたプログラムであり、複数のブロックで構成される。ブロックには、特定の1つの動作(移動、停止、放電加工開始等)を実行されるのに必要な情報が含まれ、具体的には機械の動作モード(各種位置決定、移動等)を決定するGコード、各部の移動先を示す座標語、移動速度、動作以外の補助的な機能を指令するMコード等を用いて構成される。
【0021】
図3は、上記実施形態の加工プログラム生成装置20の構成を示すブロック図である。
加工プログラム生成装置20は、ワイヤ放電加工機10で実行するための加工プログラムを生成して、制御装置9に送信する装置である。加工プログラム生成装置20は、中子Nの重量に基づいて分割数を演算するとともに、加工溝G1の加工経路、中子Nを分割するための分割線の加工経路および爪部Tの加工経路の移動指令を含む加工プログラム90を生成する。
加工プログラム生成装置20は、入力部30、表示部40、記憶部50、処理部60から構成される。
【0022】
入力部30は、例えば、キーボード、マウス、或いはタッチパネル等で構成されており、入力部30から処理部60に対してCADデータである加工形状データ70が入力される。なお、入力部30は、USBおよびLANを介してCADソフトウェアが搭載されている装置と接続されて加工形状データ70が入力される構成も含む。
【0023】
表示部40は、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ等で構成されており、入力部30から入力された情報や処理部60により処理された情報を表示する。表示部40の画面上には、例えば作業者が入力部30を介して入力したワークWの加工形状データ70に基づいて描画情報が表示される。
【0024】
図4は、本発明のワイヤ放電加工システム100により形成される爪部Tの形状を示す説明図であり、図8は、上記実施形態の切り残し部Kと爪部Tの配置関係を説明する説明図である。
記憶部50は、ハードディスク、CD-ROM等で構成されており各種データが記憶される。
記憶部50には、中子Nの重量と分割数の相関関係を示すデータ51、ワークWの密度データ52、爪部データ53、切り残し部データ54が格納される。
中子Nの重量と分割数の相関関係を示すデータ51は、中子Nの全体の重量の大きさに対して最適な中子Nの分割数を示す情報である。中子移動装置8が中子Nを吸着して回収可能な機械性能等から事前に算出し、記憶部50に格納する。
ワークWの密度データ52は、加工を行うワークWの単位体積当たりの質量であり、ワークWの材質により決定されるため、材質と密度を紐づけたデータテーブルとして格納されている。ここで、ワークWの材質が鉄等であって、取り扱うワークWの材質がひとつしか存在しない場合は、ワークWの密度データ52をデータテーブルとして格納する必要はない。密度データ52を使用する代わりに単位体積重量を使用することも可能である。
爪部データ53は、爪部Tの形状を示すデータ、加工経路に爪部Tを付加する位置を示すデータである。
本実施形態においては、加工溝G1の加工経路上および中子Nの分割線72の加工経路上に、中子Nが加工溝G1の内側を移動しないための爪部Tを設ける。
例えば爪部Tの形状を示すデータは、断面三角形状、断面フック状、断面凸形状(図4)、断面台形形状等を示すデータであり、加工経路に爪部Tを付加する位置を示すデータは、例えば付加する位置が分割線72の加工経路上の位置であることや、加工溝G1の加工経路上の位置であること等を示すデータである。少なくとも1以上の爪部Tが、中子Nを分割した分割中子Nx(x=1,2,・・・,分割数)のうち、最後に加工する分割中子Nx(図4では分割中子N4)の加工形状軌跡内であって、加工溝G1の加工経路上の位置に設けられるように定められている。
また、分割線72の加工経路上に付加される爪部Tは、分割中子Nxのうちの少なくとも1つが切り離された後に形成される空間の方向に次に切り離される分割中子Nxが移動して所定の位置からずれないように分割中子Nxを保持する作用を有する。したがって、空間がない状態で最初に分割中子Nxを切り離すための分割線72の加工経路上には爪部Tを付加しないように爪部データ53に設定することができる。
また、加工溝G1の加工経路上に付加される爪部Tは、加工溝G1の重心71から垂直方向に切り残し部Kがあるとした場合に加工溝G1の重心71から水平方向に伸びる線を基準として、加工溝G1の重心71から爪部Tの中心へ伸びる線の角度θを20°以上45°以下になる位置に設けるように爪部データ53に設定することができる(図8)。このように爪部データ53を設定すれば、第1の加工経路911に沿って最初に加工溝G1の大部分を荒加工した後であっても、中子Nが加工溝G1の中で傾くことなく加工することが可能となる。
【0025】
切り残し部データ54は、切り残し部Kを設ける位置を規定したデータである。切り残し部Kは荒加工時において、中子Nをワークから完全には切り離さないために、加工溝G1の加工経路970a上に設定された範囲である。ここでは、切り残し部Kは、分割中子Nxのうち、最後に加工する分割中子Nx(図4では分割中子N4)の加工形状軌跡内であって、加工溝G1の加工経路上に設定される。
【0026】
処理部60は、入力部30から入力された加工形状データ70と記憶部50に記憶された各種データに基づいて加工プログラム90を生成するものであり、記憶データ取得部61、重量演算部62、分割演算部63、加工プログラム生成部64から構成される。
【0027】
記憶データ取得部61は、記憶部50に格納された各種データを取得する。
【0028】
重量演算部62は、加工形状データ70から中子Nの形状データを算出し、中子Nの体積を演算するとともに、記憶データ取得部61が取得したワークWの密度データ52に基づいて中子Nの重量を演算する。なお、中子Nの重量のデータは、加工プログラムを生成する操作者が入力部30から直接入力することによって取得することもできるが、重量演算部62を備える本実施形態によると、操作者の負担が軽減される点でより有利である。
【0029】
分割演算部63は、重量演算部62で求めた中子Nの重量と、中子Nの重量と分割数の相関関係を示すデータ51から中子Nの分割数を演算する。分割数は、中子移動装置8がワークWの内側部分をなす分割中子Nxを確実に保持して、加工槽内に落下させることなく機外に移動させて除去できるサイズ(形状と質量)に分割できる数である。
【0030】
加工プログラム生成部64は、加工形状データ70、分割演算部63により演算された中子Nの分割数の情報、爪部データ53、切り残し部データ54から、加工プログラム90を生成する。
加工プログラム生成部64は、加工溝G1の荒加工(ファーストカット)、仕上げ加工(セカンドカット以降)についての加工プログラム90を生成するものであるが、ここでは特に荒加工時のワイヤ電極Eに対する移動指令の生成に関して特に説明を行う。
具体的には、加工プログラム生成部64は切り残し部Kを残した状態で加工溝G1を形成する第1の加工経路911と、分割中子Nxを切り離す第2の加工経路912と、切り残し部Kを切断する第3の加工経路913と、加工溝G1に付加された爪部Tを切離して除去する第4の加工経路914を生成し、荒加工時に第1の加工経路911、第2の加工経路912、第3の加工経路913、第4の加工経路914の順に移動指令が行われる加工プログラム90を生成する。
加工プログラム生成部64によって生成される加工プログラム90に規定される加工経路は、加工溝G1の加工経路970a、分割線72の加工経路972a,972b,972c,972d、爪部Tの加工経路973a,973b,973c以外に、上記加工経路に至るまでのアプローチ経路を含む。
【0031】
図5は、本発明の加工プログラム90の第1の加工経路911を説明する説明図である。
第1の加工経路911は、ワイヤ電極Eが中子Nの重心71である加工開始位置P01から分割線72の加工経路972aと一致するアプローチ経路に沿って加工溝G1上のアプローチ点P02へ移動し、アプローチ点P02から加工溝G1の加工形状に沿って加工溝G1の加工経路970a上を移動し、その後爪部Tの形状に沿って爪部Tの加工経路973a上を移動、そして最後に切り残し部Kを残して加工位置P03で停止する経路である(図5)。図5に示す例においては、切り残し部Kはアプローチ点P02から加工位置P03の間の加工溝G1の加工形状に沿った加工経路上の範囲で示されている。
加工プログラム生成部64は、加工形状データ70、爪部データ53および切り残し部データ54から加工溝G1の加工経路970a上に爪部Tの加工経路973aを付加し、爪部Tの加工経路973aに近接した位置に切り残し部Kを残した第1の加工経路911を生成する。
【0032】
図6は、本発明の加工プログラム90の第2の加工経路912を説明する説明図である。
加工プログラム生成部64は、ワークWの内側部分をなす中子Nを分割した分割中子Nxを切り離す加工経路である第2の加工経路912を生成する。
加工プログラム生成部64は、分割演算部63により演算された中子Nの分割数から、分割中子Nxどうしが同一の形状、同一の質量となるように中子Nの重心71を基準に中子Nを等分割する第2の加工経路912を生成する。例えば、図4に示される加工例において、第2の加工経路912は、中子Nの重心71から等分割する直線の分割線72の加工経路972b,972c,972dを含む。
加工プログラム生成装置20は、中子Nの形状に対応して複数の分割中子Nxがそれぞれ同じ形状であるように等分割することができないときは、中子の重心71を基準に複数の分割中子Nxが可能な限り同じ質量になるように分割する。
また加工プログラム生成部64は、爪部データ53から分割線72の加工経路972c,972d上に爪部Tの加工経路973b,973cを付加して第2の加工経路912を生成する。
【0033】
図6に示される加工例においては、第2の加工経路912は3つの加工経路から構成される。1つ目の加工経路は、ワイヤ電極Eが加工開始位置P01に戻り、加工開始位置P01から分割線72の加工経路972bに沿って加工溝G1上の加工位置P04へ移動する加工経路である。2つ目の加工経路は、再びワイヤ電極Eが加工開始位置P01に戻り、加工開始位置P01から分割線72の加工経路972c上を移動し、その途中で爪部Tの形状に沿って爪部Tの加工経路973b上を移動、そして再び分割線72の加工経路972c上を移動して加工位置P05で停止する加工経路である。3つ目の加工経路は、再びワイヤ電極Eが加工開始位置P01に戻り、加工開始位置P01から分割線72の加工経路972d上を移動し、その途中で爪部Tの形状に沿って爪部Tの加工経路973c上を移動、そして再び分割線72の加工経路972d上を移動して加工位置P06で停止する加工経路である。
このように、ワイヤ電極Eが、1つ目の加工経路、2つ目の加工経路、3つ目の加工経路に沿って第2の加工経路912上を順に移動すると、分割中子N1,N2,N3がワイヤ電極Eにより順に加工溝G1から切り離される。分割中子N1,N2,N3が加工溝G1から切り離されるたびに中子移動装置8により回収される。分割中子N2,N3が加工溝G1から切り離された場合であっても、爪部Tの作用により空間の方向に移動することがない。
【0034】
図7は、本発明の加工プログラム90の第3の加工経路913を説明する説明図である。
加工プログラム生成部64は加工形状データ70、切り残し部データ54から切り残し部Kを切断する第3の加工経路913を生成する。
図7に示される加工例においては、第3の加工経路913は、ワイヤ電極Eが中子Nの重心71である加工開始位置P01に戻り、加工開始位置P01から分割線72の加工経路972aと一致するアプローチ経路に沿って加工溝G1上のアプローチ点P02へ移動し、アプローチ点P02から加工溝G1の加工形状に沿った切り残し部Kの加工経路970b上を移動して加工位置P03で停止する経路である。
【0035】
図9は、本発明の加工プログラム90の第4の加工経路914を説明する説明図である。
加工プログラム生成部64は加工形状データ70、爪部データ53から中子Nに含まれる全ての分割中子Nxを切り離して機外に排除した後に残される製品に不要な爪部Tを除去する第4の加工経路914を生成する。
図9に示される加工例においては、第4の加工経路914は、ワイヤ電極Eが加工開始位置である加工位置P03から加工溝G1の加工経路970aに沿って加工位置P07へ移動し、その後、加工溝G1の加工形状に沿った加工経路上を加工位置P08まで移動して停止する経路である。ここで、加工位置P07から加工位置P08までの加工経路970cは爪部Tの底部が加工溝G1の加工経路上に付加された範囲であり、ワイヤ電極Eが加工経路970cを移動することにより、爪部Tを除去することができる。爪部Tを除去する際に爪部Tを切り離し落下させて除去することが望ましくない場合は、選択的に、爪部Tを全て加工する、いわゆるコアレス加工によって爪部Tを除去するようにすることができる。コアレス加工を実施するときの第4の加工経路は、爪部Tの先端側を始点として、コアレス加工において周知の手法によって生成される爪部Tを全て加工によって除去するような線形になるが、爪部Tを切り離す場合と爪部Tを全て加工によって除去する場合の何れであっても、第4の加工経路が爪部Tを除去する加工経路であることに変わりがない。
【0036】
(1.2 ワイヤ放電加工システム100の全体動作)
図10は、本発明のワイヤ放電加工システム100の全体動作の概要を示すフローチヤートである。同図を参照してワイヤ放電加工システム100の全体動作の概要について説明を行う。
加工プログラム生成装置20は、実際の製品の加工形状である入力部30を介して加工形状データ70を取得する(S1:入力工程)。加工プログラム生成装置20は、加工形状データ70、分割演算部63により演算された中子Nの分割数の情報、爪部データ53、切り残し部データ54から、加工プログラム90を生成する(S2:加工プログラム生成工程)。加工プログラム90の生成工程においては、荒加工時の加工経路として第1の加工経路911,第2の加工経路912,第3の加工経路913および第4の加工経路914の移動指令を行う加工プログラム90を生成する。
その後、加工プログラム生成装置20は、加工プログラム90をワイヤ放電加工機10に送信する。
制御装置9は、加工プログラム生成装置20から送信された加工プログラム90を読み込み(S3)、解読して制御信号を生成する。
制御装置9は、生成した制御信号により各軸モータ6および電源装置7を動作させ、ワークWと中子Nの加工間隙に噴流ノズル22,32から加工液を供給しながら荒加工を行う。具体例としては、制御装置9は、ワイヤ電極Eを移動させ、第1の加工経路911に沿って加工溝G1および加工溝G1に付加された爪部Tを加工する(S4、図5:第1の加工処理)。切り残し部Kおよび爪部TによりワークWと中子Nは接合されているため、第1の加工経路911の加工処理が終了しても加工溝G1内の中子Nが落下することはない。
次に制御装置9は、第2の加工経路912に沿って爪部Tを形成しながら中子Nを順番に分割してワークWから切離するくり抜き加工が繰り返し行われる(S5:第2の加工処理)。ワークWから分割した分割中子Nxを切離するたびに、中子移動装置8を駆動し、分割した中子NをワークWから取り出し、中子Nを中子回収バケットに回収する(S6)。
荒加工工程の途中の状態にあっては、分割線72上に形成された爪部Tと分割された中子Nが係合するため、中子NをワークWから除去することによりできた空間に未回収の中子Nが移動することや落下することがなく、加工溝G1内部にとどまっている状態となる。
そして次に第3の加工経路913に沿ってワイヤ電極Eを移動させ、切り残し部Kを切離するくり抜き加工を行う(S7:第3の加工処理)。切り残し部Kを切離した後であっても、加工溝G1上に形成された爪部Tと分割した中子Nが係合するため、中子NをワークWから除去することによりできた空間に未回収の中子Nが移動することや落下することがなく、加工溝G1内部にとどまっている状態となる。中子移動装置8を駆動し、分割した中子NをワークWから取り出し、中子Nを中子回収バケットに回収する。
最後に、第4の加工経路914に沿ってワイヤ電極Eを移動させ、加工溝G1に付加された爪部Tを切り離す(S8:第4の加工処理)。
荒加工工程が終了すると、仕上げ加工が実行される(S9、S10)。仕上げ加工工程においては、加工溝G1に仕上げ加工を行い、実際の製品の形状に仕上げる。
そして、仕上げ加工が終了か否かの判別を行ない(S1)、加工プログラム90の実行が終了する。
【0037】
このように第1の加工経路911により中子Nの外周を加工する際には、切り残し部Kおよび爪部TによりワークWと中子Nは接合されているため、第1の加工経路911の加工処理が終了しても加工溝G1内の中子Nが落下することはなく、その後の分割処理を行うことができる。さらに、製品の輪郭形状である加工形状における加工溝G1の大部分の加工をワークWから中子Nを一度も回収していない状態で先行して行うため、分割した中子Nを回収した後の空間に加工液の噴流が集中した状態で加工形状を加工する場合と比較して、加工屑が加工間隙に詰まることやワイヤ電極EとワークWの絶縁状態が悪くなる問題を防ぐことが可能となる。
【0038】
なお、上記実施例ではワークWを、荒加工、仕上げ加工の2段階で加工する場合について説明したが、さらに多くの加工段階で又は荒加工のみで加工を終了する加工であってもよく、ワークW側に設けられた爪部Tを除去する作業はどのタイミングで行ってもよい。
また、本実施形態において中子Nの分割数は重量演算部62で求めた中子Nの重量を用いて分割演算部63により演算して求めていたが、中子Nの分割数は作業者により入力部30を介して設定されてもよい。その場合、重量演算部62および分割演算部63は省略することができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の応用実施または変形実施が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のワイヤ放電加工機は、加工中に中子を分割処理した場合であっても加工精度および加工効率の飛躍的な向上に貢献する。
【符号の説明】
【0041】
E:ワイヤ電極
G1:加工溝
N:中子
T:爪部
W:ワーク
1:加工機本体
2:上側ガイド組体
3:下側ガイド組体
4:加工槽
5:ワークスタンド
6:各軸モータ
7:電源装置
9:制御装置
10:ワイヤ放電加工機
20:加工プログラム生成装置
30:入力部
40:表示部
50:記憶部
60:処理部
61:記憶データ取得部
62:重量演算部
63:分割演算部
64:加工プログラム生成部
70:加工形状データ
90:加工プログラム
【要約】      (修正有)
【課題】中子を分割処理した場合であっても、放電加工中のワークと中子との間の加工間隙に対して適切に加工液を供給することができるワイヤ放電加工機の加工方法および加工プログラム生成装置を提供すること。
【解決手段】加工溝(G1)により切り離されたワーク(W)の内側部分をなす中子を分割して切り離すワイヤ放電加工機の加工方法であって、中子をワーク(W)から切り離さないための切り残し部(K)を残して加工溝(G1)を加工する第1の加工処理と、中子を分割して順番に切り離す第2の加工処理と、切り残し部(K)を切り離す第3の加工処理とを備える。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10