(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20220630BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20220630BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20220630BHJP
C22C 30/06 20060101ALI20220630BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20220630BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
C23C2/12
C22C18/04
C22C21/10
C22C30/06
C23C2/06
C23C2/26
(21)【出願番号】P 2021150576
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2020183276
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】平 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】大居 利彦
(72)【発明者】
【氏名】岩野 純久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】菅野 史嵩
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-514934(JP,A)
【文献】特許第6715399(JP,B1)
【文献】特許第6715400(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/067678(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0075778(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105483594(CN,A)
【文献】特開2016-166414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
B32B 15/08
B32B 15/092
B32B 15/095
C22C 18/04
C22C 21/10
C22C 30/06
C23C 2/06
C23C 2/26
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%、Mg:1.0~10.0質量%及びSr:0.01~1.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のSi 及びMg
2Siの
、前記めっき皮膜の一部を下地鋼板が現れるまで機械的に削り出して粉末にした状態で測定した、X線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
Si (111)/Mg
2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、
Mg
2Si (111):Mg
2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
【請求項2】
前記めっき皮膜中の前記SiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(2)を満足することを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
Si (111)=0 ・・・(2)
【請求項3】
前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき皮膜中のSiの含有量が、1.0~3.0質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき皮膜中のMgの含有量が、1.0~5.0質量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定的に優れた耐食性を有する溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
55%Al-Zn系に代表される溶融Al-Zn系めっき鋼板は、Znの犠牲防食性とAlの高い耐食性とが両立できているため、溶融亜鉛めっき鋼板の中でも高い耐食性を示すことが知られている。そのため、溶融Al-Znめっき鋼板は、その優れた耐食性から、長期間屋外に曝される屋根や壁等の建材分野、ガードレール、配線配管、防音壁等の土木建築分野を中心に使用されている。特に、大気汚染による酸性雨や、積雪地帯での道路凍結防止用融雪剤の散布、海岸地域開発等の、より厳しい使用環境下での、耐食性に優れる材料や、メンテナンスフリー材料への要求が高まっていることから、近年、溶融Al-Zn系めっき鋼板の需要は増加している。
【0003】
溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、Znを過飽和に含有したAlがデンドライト状に凝固した部分(α-Al相)と、デンドライト間隙(インターデンドライト)に存在するZn-Al共晶組織から構成され、α-Al相がめっき皮膜の膜厚方向に複数積層した構造を有することが特徴である。このような特徴的な皮膜構造により、表面からの腐食進行経路が複雑になるため、腐食が容易に進行しにくくなり、溶融Al-Zn系めっき鋼板はめっき皮膜厚が同一の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ優れた耐食性を実現できることも知られている。
【0004】
このような溶融Al-Zn系めっき鋼板に対して、さらに長寿命化を図ろうとする試みがなされており、Mgを添加した溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が実用化されている。
このような溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板としては、例えば特許文献1に、めっき皮膜中にMgを含むAl-Zn-Si合金を含み、該Al-Zn-Si合金が、45~60重量%の元素アルミニウム、37~46重量%の元素亜鉛及び1.2~2.3重量%のSiを含有する合金であり、該Mgの濃度が1~5重量%である、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献2には、めっき皮膜中に2~10%のMg、0.01~10%のCaの1種以上を含有させることで耐食性の向上を図るとともに、下地鋼板が露出した後の保護作用を高めることを目的とした溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献3には、質量%で、Mg:1~15%、Si:2~15%、Zn:11~25%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる被覆層を形成し、めっき皮膜中に存在するMg2Si相やMgZn2相などの金属間化合物の大きさを10μm以下とすることで、平板及び端面の耐食性の改善を図った溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が開示されている。
【0005】
上述した溶融Al-Zn系めっき鋼板は、白い金属光沢のスパングル模様を有する美麗な外観であることから、塗装を施さない状態で使用されることも多く、その外観に対する要求も強いのが実状である。そのため、溶融Al-Zn系めっき鋼板の外観を改善するような技術も開発されている。
例えば特許文献4には、めっき皮膜中に0.01~10%のSrを含有させることで、しわ状の凹凸欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献5にも、めっき皮膜中に500~3000ppmのSrを含有させることで、まだら欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が開示されている。
観の改善を図る技術が開示されている。
例えば特許文献4には、めっき皮膜中に0.01~10%のSrを含有させることで、しわ状の凹凸欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献5にも、めっき皮膜中に500~3000ppmのSrを含有させることで、まだら欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献6には、めっき皮膜中に0.001~1.0%のSrを含有させることで、表面外観性と耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献7にも、めっき皮膜中に0.001~1.0%のSrを含有させることで、表面外観性と平板部と加工部の耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらにまた、特許文献8にも、めっき皮膜中に0.01~0.2%のSrを含有させることで、表面外観性と耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献9には、めっき皮膜中のSiとMg濃度を特定の比率で制御することで、耐食性を向上させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5020228号公報
【文献】特許第5000039号公報
【文献】特開2002-12959号公報
【文献】特許第3983932号公報
【文献】特表2011-514934号公報
【文献】国際公開第2020/179147号
【文献】国際公開第2020/179148号
【文献】特開2020-143370号公報
【文献】国際公開第2016/140370号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に開示されたような、めっき皮膜中へMgを含有させる技術が、一意的に耐食性の向上をもたらすとは限らない。
特許文献1~3に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板では、めっき成分にMgを含有させることのみで耐食性の向上を図っているが、めっき皮膜を構成する金属相・金属間化合物相の特徴については考慮されておらず、耐食性の優劣について一律に語ることができなかった。そのため、同じめっき浴組成を用いて溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を製造した場合でも、腐食促進試験を実施するとその耐食性にばらつきが存在し、Mgを添加しないAl-Zn系めっき鋼板に対して必ずしも優位にはならない、という問題があった。
同様に、めっき外観性の改善においても、めっき皮膜中にSrを添加したのみでは、必ずしもシワ状の凹凸欠陥を消滅させることができる訳ではなく、特許文献4~8に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板についても、耐食性と外観を両立できていない場合があった。
【0008】
また、溶融Al-Zn-Si浴にMgを添加した浴で鋼板にめっきを施した場合、めっき皮膜中にはα-Al相に加え、Mg2Si相、MgZn2相、Si相が析出することが知られている。しかしながら、各相の析出量や存在比率が耐食性に及ぼす影響については殆ど明らかとされていなかった。
特許文献9に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板では、SiとMgの濃度を特定の比率で管理し、めっき皮膜中のSi相の析出を無くすことで耐食性の改善を図っているが、必ずしもSi相の抑制ができるとは言えず、めっき皮膜中におけるSi相の形成を抑制できた場合においても優れた耐食性が得られない場合がある等、技術的に不完全なものであった。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み、安定的に優れた耐食性及び良好な表面外観性を有する溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板のめっき皮膜中に形成するMg2Si相、MgZn2相、及びSi相について、めっき皮膜における各成分のバランスや、めっき皮膜の形成条件によって析出量が増減し、その存在比率が変化し、組成のバランスによってはいずれかの相が析出しない場合もあることがわかった。また、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板の耐食性が、これらの相の存在比率によって変化し、特にMg2Si相に比べてSi相が少ない場合に耐食性が安定的に向上することを究明した。
ただし、これらのMg2Si相及びSi相については、一般的な手法、例えば走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を表面または断面から二次電子像あるいは反射電子像などの観察を実施しても相の違いを判別することは非常に困難であることが知られている。より詳細な解析ができる手法として、透過型電子顕微鏡を用いて観察を行うことでミクロな情報を得ることは可能であるが、耐食性や外観といったマクロな情報を左右するMg2Si相及びSi相の存在比率まで把握することはできなかった。
そのため、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、X線回折法に着目し、Mg2Si相及びSi相について特定の回折ピークの強度比を利用することによって、相の存在比率を定量的に規定できること、さらに、めっき皮膜中にMg2Si相とSi相が特定の存在比率を満足すると安定的に優れた耐食性を実現できることを見出した。
さらに、本発明者らは、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板の、Mg2Si相、Si相等の存在比率を制御した上で、浴中のSr濃度を制御することで、シワ状の凹凸欠陥の発生を確実に抑え、表面外観性に優れためっき鋼板が得られることも知見した。
【0011】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.めっき皮膜を備える溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%、Mg:1.0~10.0質量%及びSr:0.01~1.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、
Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
【0012】
2.前記めっき皮膜中のSiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(2)を満足することを特徴とする、前記1に記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
Si (111)=0 ・・・(2)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度
【0013】
3.前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、前記1又は2に記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
【0014】
4.前記めっき皮膜中のSiの含有量が、1.0~3.0質量%であることを特徴とする、前記1~3のいずれかに記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
【0015】
5.前記めっき皮膜中のMgの含有量が、1.0~5.0質量%であることを特徴とする、前記1~4のいずれかに記載の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定的に優れた耐食性及び良好な表面外観性を有する溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜を備える。そして、該めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%、Mg:1.0~10.0質量%及びSr:0.01~1.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0019】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、45~65質量%であり、好ましくは50~60質量%である。これは、前記めっき皮膜中のAl含有量が少なくとも45質量%あれば、Alのデンドライト凝固が生じ、α-Al相のデンドライト凝固組織を主体にするめっき皮膜構造を得ることができるためである。該デンドライト凝固組織がめっき皮膜の膜厚方向に積層する構造を取ることで、腐食進行経路が複雑になり、めっき皮膜自体の耐食性が向上する。またこのα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上するため、Alの含有量を50質量%以上とすることが好ましい。一方、前記めっき皮膜中のAl含有量が65質量%を超えると、Znの殆どがα-Al中に固溶した組織に変化し、α-Al相の溶解反応が抑制できず、Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっきの耐食性が劣化する。このため、前記めっき皮膜中のAl含有量は65質量%以下であることを要し、好ましくは60質量%以下である。
【0020】
前記めっき皮膜中のSiは主に下地鋼板との界面に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の界面合金層の成長を抑制し、めっき皮膜と鋼板の密着性を劣化させない目的で添加される。実際に、Siを含有したAl-Zn系めっき浴に鋼板を浸漬させると、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の金属間化合物層が下地鋼板/めっき皮膜界面に生成するが、このときFe-Al-Si系合金はFe-Al系合金よりも成長速度が遅いので、Fe-Al-Si系合金の比率が高いほど、界面合金層全体の成長が抑制される。そのため、前記めっき皮膜中のSi含有量は1.0質量%以上とすることを要する。一方、前記めっき皮膜中のSi含有量が4.0質量%を超えると、前述した界面合金層の成長抑制効果が飽和するだけでなく、めっき皮膜中に過剰なSi相が存在することで腐食が促進されるため、Si含有量は4.0%以下とする。さらに、前記めっき皮膜中のSiの含有量は、過剰なSi相の存在抑制の観点から、好ましくは3.0%以下とする。なお、後述するMgの含有量との関係で、後述の(1)の関係式を満たしやすい観点からも、前記Siの含有量を1.0~3.0質量%とすることが好ましい。
【0021】
前記めっき皮膜は、Mgを1.0~10.0%含有する。前記めっき皮膜中にMgを含有することで、上述したSiをMg2Si相の金属間化合物の形で存在させることができ、腐食の促進を抑制することができる。
また、前記めっき皮膜中にMgを含有すると、めっき皮膜中に金属間化合物であるMgZn2相も形成され、より耐食性を向上させる効果が得られる。前記めっき皮膜中のMg含有量が1.0質量%未満の場合、前記金属間化合物(Mg2Si、MgZn2)の生成よりも、主要相であるα-Al相への固溶にMgが使用されるため、十分な耐食性が確保できない。一方、前記めっき皮膜中のMg含有量が多くなると、耐食性の向上効果が飽和することに加え、α-Al相の脆弱化に伴い加工性が低下するため、含有量は10.0%以下とする。さらに、前記めっき皮膜中のMg含有量は、めっき形成時のドロス発生を抑制し、めっき浴管理を容易にする観点から、5.0質量%以下とすることが好ましい。なお、前記Siの含有量との関係で、後述の(1)の関係式を満たしやすい観点からは、前記Mgの含有量を3.0質量%とすることが好ましく、ドロス抑制との両立性を考慮すると、前記Mgの含有量を3.0~5.0質量%とすることがより好ましい。
【0022】
そして、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板では、前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを要する。
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
【0023】
上記のように、本発明ではMgやSiの含有によってめっき皮膜中に生成するMg2Si相及びSi相の存在比率を、特定の割合に制御することが重要である。これらが耐食性に及ぼす影響については現在調査を継続しており不明な点も多いが、以下のようなメカニズムが推定される。
【0024】
溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板が腐食環境に曝された場合、上記の金属間化合物は、α-Al相よりも優先的に溶解する結果、形成される腐食生成物の近傍はMgが豊富な環境となる。このようなMgリッチの環境下においては、形成される腐食生成物が分解されにくく、その結果としてめっき皮膜の保護作用効果が高まると推定している。また、このめっき皮膜の保護作用向上効果は、めっき皮膜中のSiがSi相ではなくMg2Si相として存在する場合により確実に発現することから、Mg2Si相に対するSi相の存在比率を下げることが有効であると考えられる。
【0025】
前記めっき皮膜中のMg2SiとSiとの存在比率は、X線回折法により得られた回折ピーク強度を用いて、関係(1):Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8を満たすことを要するが、前記めっき皮膜中のMg2Si及びSiの存在比率が関係(1)を満たさない、つまり、Si (111)/Mg2Si (111)>0.8の場合には、前記めっき皮膜中に存在するSi相が多くなるため、前述したMgが豊富な環境を、腐食生成物の近傍で得ることができず、前記めっき皮膜の保護作用向上効果が得られにくくなる。同様の観点から、Mg2Siに対するSiの存在比率(Si (111)/Mg2Si (111))は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることからより好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。
なお、前記めっき皮膜中のMg2SiとSiとの存在比率については、仮にめっき皮膜の組成が本発明の範囲を満たす(Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%、Mg:1.0~10.0質量%及びSr:0.01~1.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる)場合であっても、Mg2Si及びSiの存在比率が関係(1)を満たさない場合には、本発明によるめっき皮膜の保護作用向上効果を十分に得ることができない。
【0026】
ここで、前記関係(1)において、Si (111)は、Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度であり、Mg2Si (111)は、Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度である。
前記X線回折によりSi (111)及びMg2Si (111)を測定する方法としては、前記めっき皮膜の一部を機械的に削り出し、粉末にした状態でX線回折を行うこと(粉末X線回折測定法)で算出することができる。回折強度の測定については、面間隔d=0.3135nmに相当するSiの回折ピーク強度、面間隔d=0.3668nmに相当するMg2Siの回折ピーク強度を測定し、これらの比率を算出することでSi (111)/Mg2Si (111)を得ることができる。
なお、粉末X線回折測定を実施する際に必要なめっき皮膜の量(めっき皮膜を削り出す量)は、精度良くSi (111)及びMg2Si (111)を測定する観点から、0.1g以上あればよく、0.3g以上あることが好ましい。また、前記めっき皮膜を削り出す際に、めっき皮膜以外の鋼板成分が粉末に含まれる場合もあるが、これらの金属間化合物相はめっき皮膜のみに含まれるものであり、また前述したピーク強度に影響することはない。さらに、前記めっき皮膜を粉末にしてX線回折を行うのは、めっき鋼板に形成されためっき皮膜に対してX線回折を行うと、めっき皮膜凝固組織の面方位の影響を受け正しい相比率の計算を行うことが困難なためである。
【0027】
さらに、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板では、より安定的に耐食性を向上させることができる点から、前記めっき皮膜中のSiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(2)を満たすことが好ましい。
Si (111)=0 ・・・(2)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度
一般的に、Al合金の水溶液中への溶解反応においては、Si相がカソードサイトとして存在することで周辺のα-Al相の溶解を促進することが知られていることから、Si相を少なくすることはα-Al相の溶解を抑制する観点でも有効であり、その中でも関係(2)のようにSi相が存在しない皮膜とすること(前記Si(111)の回折ピーク強度をゼロとすること)が耐食性の安定化のために最も優れている。
なお、X線回折によりSiの(111)面の回折ピーク強度の測定方法は、上述した通りである。
【0028】
ここで、上述した関係(1)や関係(2)を満たすための方法については、特に限定はされない。例えば、関係(1)や関係(2)を満たすためには、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスを調整することによって、Mg2Si及びSiの存在比率(Mg2Si (111)及びSi (111)の回折強度)を制御できる。なお、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスは、必ずしも一定の含有割合に設定すれば関係(1)や関係(2)を満たせるという訳ではなく、例えばSiの含有量(質量%)によってMg及びAlの含有比率を変える必要がある。
また、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスを調整する他にも、めっき皮膜形成時の条件(例えば、めっき後の冷却条件)を調整することによって、関係(1)や関係(2)を満たすように、Mg2Si (111)及びSi (111)の回折強度を制御できる。
【0029】
また、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系鋼板では、前記めっき皮膜が、0.01~1.0質量%のSrを含有する。前記めっき皮膜がSrを含有することで、シワ状の凹凸欠陥等の表面欠陥の発生をより確実に抑制することができ、良好な表面外観性を実現できる。
なお、前記シワ状欠陥とは、前記めっき皮膜の表面に形成されたシワ状の凹凸になった欠陥であり、前記めっき皮膜表面において白っぽい筋として観察される。このようなシワ状欠陥は、前記めっき皮膜中にMgを多く添加した場合に、発生しやすくなる。そのため、前記溶融めっき鋼板では、前記めっき皮膜中にSrを含有させることによって、前記めっき皮膜表層においてSrをMgよりも優先的に酸化させ、Mgの酸化反応を抑制することで、前記シワ状欠陥の発生を抑えることが可能となる。
【0030】
前記めっき皮膜は、0.01~1.0質量%のSrを含有するが、前記めっき皮膜中のSr含有量が0.01質量%未満である場合には、外観改善効果が得られず、前記めっき皮膜中のSr含有量が1.0質量%を超える場合には、Srが界面合金層に過剰に取り込まれ、めっき密着性等に悪影響を及ぼす。同様の観点から、前記めっき皮膜中のSr含有量は、0.05~0.5質量%であることが好ましく、0.1~0.4質量%であることがより好ましい。
そして、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系鋼板では、上述しためっき皮膜中のSi及びMg2Siの存在比率が関係(1)を満足し、且つ、前記めっき皮膜が0.01~1.0質量%のSrを含有する。これにより、上述したSrによる表面外観性向上の効果をより享受することができる。この原因については明確ではないが、前記めっき皮膜中のSiが多くなると、めっき表層の酸化がそもそも抑制されにくく、Srを添加したときの外観の改善効果に影響を及ぼすためであると推定される。
【0031】
なお、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板は、Zn及び不可避不純物を含有する。
このうち、前記不可避的不純物はFeを含有する。このFeは、鋼板や浴中機器がめっき浴中に溶出することで不可避的に含まれるものと界面合金層の形成時に下地鋼板からの拡散によって供給される結果、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。前記めっき皮膜中のFe含有量は、通常0.3~2.0質量%程度である。その他の不可避的不純物としては、Cr、Ni、Cu等が挙げられる。前記不可避的不純物の総含有量については、特に限定はされないが、過剰に含有した場合、めっき鋼板の各種特性に影響を及ぼす可能性があるため、合計で5.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
また、前記めっき皮膜は、上述したMgと同様に腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することができる点から、合計で0.01~10質量%の、Cr、Mn、V、Mo、Ti、Ca、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、さらに含有することが好ましい。上述した成分の合計含有量を0.01~10質量%としたのは、十分な腐食遅延効果を得ることができるとともに、効果が飽和することもないためである。
【0033】
なお、前記めっき皮膜の付着量は、各種特性を満足する観点から、片面あたり45~120 g/m2であることが好ましい。前記めっき皮膜の付着量が45g/m2以上の場合には、建材などの長期間耐食性が必要となる用途に対しても十分な耐食性が得られ、また、前記めっき皮膜の付着量が120g/m2以下の場合には、加工時のめっき割れ等の発生を抑えつつ、優れた耐食性を実現できるためである。同様の観点から、前記めっき皮膜の付着量は、45~100g/m2であることがより好ましい。
【0034】
前記めっき皮膜の付着量については、例えば、JIS H 0401:2013年に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液で特定面積のめっき皮膜を溶解剥離し、剥離前後の鋼板重量差から算出する方法で導出することができる。この方法で片面あたりのめっき付着量を求めるには、非対象面のめっき表面が露出しないようにテープでシーリングしてから前述した溶解を実施することで求めることができる。
【0035】
また、前記めっき皮膜の成分組成は、例えば、めっき皮膜を塩酸等に浸漬して溶解させ、その溶液をICP発光分光分析や原子吸光分析等で確認することができる。この方法はあくまでも一例であり、めっき皮膜の成分組成を正確に定量できる方法であればどのような方法でも良く、特に限定するものではない。
【0036】
なお、本発明により得られた溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板のめっき皮膜は、全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となる。そのため、前記めっき皮膜の組成の制御は、めっき浴組成を制御することにより精度良く行うことができる。
【0037】
また、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を構成する下地鋼板については、特に限定はされず、要求される性能や規格に応じて、冷延鋼板や熱延鋼板等を適宜使用することができる。
【0038】
さらに、前記下地鋼板を得る方法についても、特に限定はされない。例えば、前記熱延鋼板の場合、熱間圧延工程、酸洗工程を経たものを使用することができ、前記冷延鋼板の場合には、さらに冷間圧延工程を加えて製造できる。さらに、鋼板の特性を得るために溶融めっき工程の前に、再結晶焼鈍工程等を経ることも可能である。
【0039】
なお、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を製造する方法については、特に限定はされない。例えば、連続式溶融めっき設備で、前記下地鋼板を、洗浄、加熱、めっき浴浸漬することによって製造できる。鋼板の加熱工程においては、前記下地鋼板自身の組織制御のために再結晶焼鈍などを施すとともに、鋼板の酸化を防止し且つ表面に存在する微量な酸化膜を還元するため、窒素-水素雰囲気等の還元雰囲気での加熱が有効である。
【0040】
また、本発明の溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を製造する際に用いるめっき浴については、上述したように、前記めっき皮膜の組成が全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となることから、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%、Mg:1.0~10.0質量%及びSr:0.01~1.0質量%を含有し、残部がZn、Fe及び不可避的不純物からなる組成を有するものを用いることができる。
【0041】
さらに、前記めっき浴の浴温は、特に限定はされないが、(融点+20℃)~650℃の温度範囲とすることが好ましい。
前記浴温の下限を、融点+20℃としたのは、溶融めっき処理を行うためには、前記浴温を凝固点以上にすることが必要であり、融点+20℃とすることで、前記めっき浴の局所的な浴温低下による凝固を防止するためである。一方、前記浴温の上限を650℃としたのは、650℃を超えると、前記めっき皮膜の急速冷却が難しくなり,めっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれがあるためである。
【0042】
また、めっき浴に浸入する下地鋼板の温度(浸入板温)についても、特に限定はされないが、連前記続式溶融めっき操業におけるめっき特性の確保や浴温度の変化を防ぐ観点から、前記めっき浴の温度に対して±20℃以内に制御することが好ましい。
【0043】
さらに、鋼板の前記めっき浴中の浸漬時間については、0.5秒以上である。これは0.5秒未満の場合、前記下地鋼板の表面に十分なめっき皮膜を形成できないおそれがあるためである。浸漬時間の上限については特に限定はされないが、浸漬時間を長くするとめっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれもあることから、8秒以内とすることが好ましい。
【0044】
さらにまた、めっき後の冷却過程では、板温を520°Cから500°Cになるまで3秒以上かけて冷却することが好ましい。前記めっき皮膜中での単体Si相及びMg2Siの析出開始温度は、単体Si相が500~490°C、Mg2Siが520~500°Cである。そのため、前記Mg2Siのみが析出する520~500°Cの温度域の滞在時間を増加させることで、Mg2Siの析出が促進され、単体Si相の析出が抑制されるため、上記(1)の関係を満たしやすくなるためである。
【0045】
なお、溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板は、要求される性能に応じて、前記めっき皮膜の上に、直接又は中間層を介して、塗膜を形成することができる。
【0046】
なお、前記塗膜を形成する方法については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等の形成方法が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することが可能である。
【0047】
また、前記中間層についても、溶融めっき鋼板のめっき皮膜と前記塗膜との間に形成される層であれば特に限定はされない。
【実施例】
【0048】
(サンプル1~44)
常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表1に示す条件の溶融めっき鋼板のサンプル1~44を作製した。
なお、溶融めっき鋼板製造に用いためっき浴の組成については、表1に示す各サンプルのめっき皮膜の組成となるように、めっき浴の組成をAl:30~75質量%、Si:0.5~4.5質量%、Mg:0~10質量%、Sr:0.00~0.15質量%の範囲で種々変化させた。また、めっき浴の浴温は、Al:30~60質量%の場合は590℃、Al:60質量%超の場合は630℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~41では、片面あたり85±5g/m2、サンプル42~44では、片面あたり51~125g/m2となるように制御した。
【0049】
(評価)
上記のように得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0050】
(1)めっき皮膜の構成(付着量、組成、X線回折強度)
めっき後の各サンプルについて、100mmφを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表1に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表1に示す。
さらに、各サンプルについて、100mm×100mmのサイズに剪断後、評価対称面のめっき皮膜を下地鋼板が現れるまで機械的に削り出し、得られた粉末をよく混ぜ合わせた後、0.3gを取出し、X線回折線装置(株式会社リガク製「SmartLab」)を用いて、使用X線:Cu-Kα(波長=1.54178Å)、Kβ線の除去:Niフィルター、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャニング・スピード:4°/min、サンプリング・インターバル:0.020°、発散スリット:2/3°、ソーラースリット:5°、検出器:高速一次元検出器(D/teX Ultra)の条件で、上記粉末の定性分析を行った。各ピーク強度からベース強度を差し引いた強度を各回折強度(cps)とし、Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度、及び、Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度を測定した。測定結果を、表1に示す。
【0051】
(2)耐食性評価
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。なお、該評価用サンプルは同じものを3つ作製した。
上記のように作製した3つの評価用サンプルに対して、いずれも
図1に示すサイクルで腐食促進試験を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、300サイクル後まで行った後、各サンプルの腐食減量をJIS Z 2383及びISO8407に記載の方法で測定し、下記の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
◎:サンプル3個の腐食減量が全て45g/m
2以下
○:サンプル3個の腐食減量が全て70g/m
2以下
×:サンプル1個以上の腐食減量が70g/m
2越え
【0052】
(3)表面外観性
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、目視によって、めっき皮膜の表面を観察した。
そして、観察結果を、以下の基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
◎:シワ状欠陥が全く観察されなかった
○:エッジから50mmの範囲のみにシワ状欠陥が観察された
×:エッジから50mmの範囲以外でシワ状欠陥が観察された
【0053】
(4)加工性
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側に8枚挟んで180°曲げの加工(8T曲げ)を施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープを強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部外面のめっき皮膜の表面状態、及び、使用したテープの表面におけるめっき皮膜の付着(剥離)の有無を目視で観察し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表1に示す。
〇:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められない
△:めっき皮膜にクラックがあるが、剥離が認められない
×:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められる
【0054】
(5)浴安定性
溶融めっき鋼板の各サンプルの製造時、めっき浴の浴面の状態を目視で確認し、溶融Al-Zn系めっき鋼板を製造する際に用いるめっき浴の浴面(Mg含有酸化物のない浴面)と比較した。評価は、以下の基準で行い、評価結果を表1に示す。
〇:溶融Al-Zn系めっき浴(55質量%Al-残部Zn-1.6質量%浴)と同程度
△:溶融Al-Zn系めっき浴(55質量%Al-残部Zn-1.6質量%浴)に比べて白色酸化物が多い
×:めっき浴中に黒色酸化物の形成が認められる
【0055】
【0056】
表1の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、耐食性、表面外観性、加工性及び浴安定性のいずれについてもバランスよく優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、安定的に優れた耐食性及び良好な表面外観性を有する溶融Al-Zn-Si-Mg-Sr系めっき鋼板を提供できる。