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特許7097524非水電解液、電気化学デバイス前駆体、電気化学デバイス、及び電気化学デバイスの製造方法
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  • 特許-非水電解液、電気化学デバイス前駆体、電気化学デバイス、及び電気化学デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】非水電解液、電気化学デバイス前駆体、電気化学デバイス、及び電気化学デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220630BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220630BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220630BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220630BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220630BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220630BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/058
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022524654
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2022004642
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021045217
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021137178
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-049294(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3570351(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/058
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される鎖状スルホン化合物(I)と、
下記一般式(II)で表される環状スルホン化合物(II)と、
を含有し、
前記鎖状スルホン化合物(I)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.01質量%~10質量%である、非水電解液。
【化1】

〔式(I)中、R11及びR12は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基を表す。〕
【化2】


〔式(II)中、R21 は式(ii-1)で表される基であり、
*は、結合位置を示し、
式(ii-1)中、R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基であり、
23は、炭素数1~2のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基であり、
前記R 22 及び前記R 23 の少なくとも一方は、前記式(ii-2)で表される基である。〕
【請求項2】
前記R11が、炭素数1~6のフッ化アルキル基である、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
下記式(III)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物(III)を含有する、請求項1又は請求項2に記載の非水電解液。
【化3】


〔式(III)中、R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。〕
【請求項4】
下記式(IV)で表されるスルホンイミドリチウム塩化合物(IV)を含有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の非水電解液。
【化4】


〔式(IV)中、R41及びR42は、それぞれ独立に、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表す。〕
【請求項5】
下記式(V)で表される環状ジカルボニル化合物(V)を含有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の非水電解液。
【化5】


〔式(V)中、
Mは、アルカリ金属であり、
Yは、遷移元素、周期律表の13族元素、14族元素、又は15族元素であり、
bは、1~3の整数であり、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~8の整数であり、
qは、0又は1であり、
51は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、qが1でmが2~4の場合にはm個のR51はそれぞれが結合していてもよい。)であり、
52は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリール基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、nが2~8の場合はn個のR52はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。)であり、
、及びQは、それぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子である。〕
【請求項6】
モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(VI)を含有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の非水電解液。
【請求項7】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の非水電解液である、電気化学デバイス前駆体。
【請求項8】
前記正極が、正極活物質として、下記式(X)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む、請求項に記載の電気化学デバイス前駆体。
LiNiCoMn … 式(X)
〔式(X)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
【請求項9】
請求項に記載の電気化学デバイス前駆体を準備する工程と、
前記電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施す工程とを含む、電気化学デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載の電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施して得られた電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液、電気化学デバイス前駆体、電気化学デバイス、及び電気化学デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度の電池として、注目されている。
【0003】
特許文献1は、リチウムイオン二次電池用の非水電解液を開示している。特許文献1に具体的に開示の非水電解液は、非水溶媒と、リチウム塩とからなる。非水溶媒は、(トリフルオロメチル)メチルスルホン(CFCHSO)、エチルメチルカーボネート、及びエチレンカーボネートからなる。リチウム塩は、LiPF及びLiN(FSOからなる。
【0004】
特許文献1:国際公開第2020/063882号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、高温環境下で充電又は放電が施されると、容量が低下するとともに、直流抵抗が増加するおそれがあった。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑み、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加を抑制することができる非水電解液、電気化学デバイス前駆体、電気化学デバイス、及び電気化学デバイスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0008】
<1> 下記一般式(I)で表される鎖状スルホン化合物(I)と、
下記一般式(II)で表される環状スルホン化合物(II)と、
を含有し、
前記鎖状スルホン化合物(I)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.01質量%~10質量%である、非水電解液。
【0009】
【化1】
【0010】
〔式(I)中、R11及びR12は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基を表す。〕
【0011】
【化2】
【0012】
〔式(II)中、R21は炭素数3~6のアルキレン基、炭素数2~6のアルケニレン基、又は式(ii-1)で表される基であり、
*は、結合位置を示し、
式(ii-1)中、R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基であり、
23は、炭素数1~2のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基である。〕
【0013】
<2> 前記R11が、炭素数1~6のフッ化アルキル基である、前記<1>に記載の非水電解液。
<3> 前記R21は前記式(ii-1)で表される基であり、
前記R22及び前記R23の少なくとも一方は、前記式(ii-2)で表される基である、前記<1>又は<2>に記載の非水電解液。
<4> 下記式(III)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物(III)を含有する、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の非水電解液。
【0014】
【化3】
【0015】
〔式(III)中、R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。〕
【0016】
<5> 下記式(IV)で表されるスルホンイミドリチウム塩化合物(IV)を含有する、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の非水電解液。
【0017】
【化4】
【0018】
〔式(IV)中、R41及びR42は、それぞれ独立に、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表す。〕
【0019】
<6> 下記式(V)で表される環状ジカルボニル化合物(V)を含有する、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の非水電解液。
【0020】
【化5】
【0021】
〔式(V)中、
Mは、アルカリ金属であり、
Yは、遷移元素、周期律表の13族元素、14族元素、又は15族元素であり、
bは、1~3の整数であり、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~8の整数であり、
qは、0又は1であり、
51は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、qが1でmが2~4の場合にはm個のR51はそれぞれが結合していてもよい。)であり、
52は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリール基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、nが2~8の場合はn個のR52はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。)であり、
、及びQは、それぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子である。〕
【0022】
<7> モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(VI)を含有する、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の非水電解液。
<8> ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の非水電解液である、電気化学デバイス前駆体。
<9> 前記正極が、正極活物質として、下記式(X)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む、前記<8>に記載の電気化学デバイス前駆体。
LiNiCoMn … 式(X)
〔式(X)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
<10> 前記<8>に記載の電気化学デバイス前駆体を準備する工程と、
前記電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施す工程とを含む、電気化学デバイスの製造方法。
<11> 前記<8>又は<9>に記載の電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施して得られた電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加を抑制することができる非水電解液、電気化学デバイス前駆体、電気化学デバイス、及び電気化学デバイスの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の実施形態に係る電気化学デバイス前駆体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0026】
〔非水電解液〕
本実施形態に係る非水電解液について説明する。
【0027】
非水電解液は、電気化学デバイスの電解液として好適に用いられる。電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池を含む。電気化学デバイスの詳細については、図1を参照して後述する。
【0028】
非水電解液は、下記一般式(I)で表される鎖状スルホン化合物(I)と、下記一般式(II)で表される環状スルホン化合物(II)と、を含有する。鎖状スルホン化合物(I)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.01質量%~10質量%である。
鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)の各々の詳細については、後述する。
【0029】
【化6】
【0030】
非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I)と、環状スルホン化合物(II)とを含有し、鎖状スルホン化合物(I)の含有量が、非水電解液の全量に対し、0.01質量%~10質量%であるので、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加は抑制される。
電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加が抑制されるのは、主として、以下の理由によると推測される。
本開示の電気化学デバイスを充電又は放電(以下、「充放電」という。)すると、負極の表面及び正極の表面には固体電解質界面層(SEI:Solid Electrolyte Interphase)膜(以下、「SEI膜」という。)が形成されると考えられる。
以下、負極のSEI膜と、正極のSEI膜とを区別しない場合、負極のSEI膜、及び正極のSEI膜を単に「SEI膜」という場合がある。
SEI膜は、主として、非水電解液中のリチウムイオンと、電気化学デバイスの充放電によって分解された非水電解液の分解物とによって形成されると考えられる。
SEI膜が形成されると、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの充放電サイクルにおいて、本来の電池反応ではない副反応は進行しにくくなると考えられる。電池反応は、正極と負極にリチウムイオンが出入り(インターカレート)する反応を示す。副反応は、負極による非水電解液の還元分解反応、正極による非水電解液の酸化分解反応、正極活物質中の金属元素の溶出等を含む。
本実施形態に係る非水電解液を用いた電気化学デバイスでは、高温環境下で保存された後の充放電サイクルにおいても、SEI膜は厚膜化しにくい。そのため、非水電解液中のリチウムイオンは消費されにくい。
以上の理由により、本実施形態に係る非水電解液は、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加を抑制することができる。
【0031】
<鎖状スルホン化合物(I)>
非水電解液は、下記式(I)で表される鎖状スルホン化合物(I)を含有する。
【0032】
【化7】
【0033】
式(I)中、R11及びR12は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基を表す。
【0034】
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6の炭化水素基は、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有する炭化水素基であってもよい。
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6の炭化水素基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルケニル基等が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、1-エチルプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-メチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、イソプロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基等が挙げられる。
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基が好ましく、アルキル基又はアルケニル基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6の炭化水素基の炭素数としては、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。
【0035】
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基は、直鎖のフッ化炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有するフッ化炭化水素基であってもよい。
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基としては、炭素数1~6のフルオロアルキル基、炭素数1~6のフルオロアルケニル基等が挙げられる。炭素数1~6のフルオロアルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソブチル基等が挙げられる。炭素数1~6のフルオロアルケニル基としては、2-フルオロエテニル基、2,2-ジフルオロエテニル基、2-フルオロ-2-プロペニル基、3,3-ジフルオロ-2-プロペニル基、2,3-ジフルオロ-2-プロペニル基、3,3-ジフルオロ-2-メチル-2-プロペニル基、3-フルオロ-2-ブテニル基、パーフルオロビニル基、パーフルオロプロペニル基、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基としては、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基、又はフッ化アルキニル基が好ましく、フッ化アルキル基又はフッ化アルケニル基がより好ましく、フッ化アルキル基が特に好ましい。
式(I)中、R11及びR12で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基の炭素数としては、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。
【0036】
式(I)中、R11は、炭素数1~6のフッ化アルキル基を表すことが好ましい。これにより、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加をより抑制することができる。
【0037】
鎖状スルホン化合物(I)の具体例として、下記式(I-1)~(I-2)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化8】
【0039】
鎖状スルホン化合物(I)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.01質量%~10質量%であり、好ましくは0.1質量%~5質量%、より好ましくは0.3質量%~3質量%である。鎖状スルホン化合物(I)の含有量が上記範囲内であれば、正極上又は負極上での非水溶媒の分解を抑制しつつ、SEI膜の膜厚の増加を抑制することができる。非水溶媒については、後述する。鎖状スルホン化合物(I)の含有量が上記範囲内であれば、非水電解液中の非水溶媒の分解を抑制できる膜厚のSEI膜が形成される。その結果、電気化学デバイスの高温保存後特性は向上する。
【0040】
<環状スルホン化合物(II)>
非水電解液は、下記式(II)で表される環状スルホン化合物(II)を含有する。
【0041】
【化9】
【0042】
式(II)中、R21は炭素数3~6のアルキレン基、炭素数2~6のアルケニレン基、又は式(ii-1)で表される基であり、
*は、結合位置を示し、
式(ii-1)中、R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基であり、
23は、炭素数1~2のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基である。
【0043】
式(II)中、R21は、式(ii-1)で表される基であることが好ましい。
式(II)中、R22及びR23で表される炭素数1~2のアルキル基の炭素数としては、1が更に好ましい。
【0044】
中でも、式(II)中、R21は式(ii-1)で表される基であり、
22及びR23の少なくとも一方は、式(ii-2)で表される基であることが好ましい。これにより、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加をより抑制することができる。
【0045】
環状スルホン化合物(II)の具体例としては、下記式(II-1)~(II-2)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
【化10】
【0047】
環状スルホン化合物(II)の含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.10質量%~10.0質量%、より好ましくは0.20質量%~5.0質量%、さらに好ましくは0.30質量%~3.0質量%である。環状スルホン化合物(II)の含有量が上記範囲内であれば、正極上又は負極上での非水溶媒の分解を抑制しつつ、SEI膜の膜厚の増加を抑制することができる。環状スルホン化合物(II)の含有量が上記範囲内であれば、非水電解液中の非水溶媒の分解を抑制できる膜厚のSEI膜が形成される。その結果、電気化学デバイスの高温保存後特性は向上する。
【0048】
<環状炭酸エステル化合物(III)>
非水電解液は、下記式(III)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物(III)を含有することが好ましい。
【0049】
【化11】
【0050】
式(III)中、R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。
【0051】
非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)に加えて、非水電解液が環状炭酸エステル化合物(III)を更に含有することで、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加をより抑制することができる。
この効果は、以下の理由によると推測される。
環状炭酸エステル化合物(III)は、高温環境下で保存された後の充放電サイクルにおいても、負極上で非水電解液が還元分解する前に、負極によって還元分解され、SEI膜を形成しやすい。これにより、負極での非水電解液の分解は抑制される。その結果、電気化学デバイスの直流抵抗の増加は、より抑制される。
【0052】
環状炭酸エステル化合物(III)の具体例として、下記式(III-1)~(III-7)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【化12】
【0054】
非水電解液が環状炭酸エステル化合物(III)を含有する場合、環状炭酸エステル化合物(III)の含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.10質量%~10.0質量%、より好ましくは0.20質量%~5.0質量%、さらに好ましくは0.30質量%~3.0質量%である。環状炭酸エステル化合物(III)の含有量が上記範囲内であれば、正極上又は負極上での非水溶媒の分解を抑制しつつ、SEI膜の膜厚の増加を抑制することができる。その結果、電気化学デバイスの高温保存後特性は向上する。環状炭酸エステル化合物(III)の含有量が上記範囲内であれば、非水電解液中の非水溶媒の分解を抑制できる膜厚のSEI膜が形成される。その結果、電気化学デバイスの高温保存後特性は向上する。
【0055】
<スルホンイミドリチウム塩化合物(IV)>
非水電解液は、下記式(IV)で表されるスルホンイミドリチウム塩化合物(IV)を含有することが好ましい。
【0056】
【化13】
【0057】
式(IV)中、R41及びR42は、それぞれ独立に、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表す。
【0058】
非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)に加えて、非水電解液がスルホンイミドリチウム塩化合物(IV)を更に含有することで、電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、容量の低下及び直流抵抗の増加をより抑制することができる。
この効果は、以下の理由によると推測される。
スルホンイミドリチウム塩化合物(IV)は、電気化学デバイスが高温環境下で保存された後、負極上で非水電解液が還元分解する前に、正極によって酸化分解され、SEI膜を形成しやすい。これにより、正極での非水電解液の分解は抑制される。その結果、電気化学デバイスが高温長期保存されても、電気化学デバイスの直流抵抗の増加は、より抑制される。
【0059】
添加剤としスルホンイミドリチウム塩化合物(IV)の具体例として、下記式(IV-1)~(IV-3)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
【化14】
【0061】
非水電解液がスルホンイミドリチウム塩化合物(IV)を含有する場合、スルホンイミドリチウム塩化合物(IV)の含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.10質量%~10.0質量%、より好ましくは0.20質量%~5.0質量%、さらに好ましくは0.30質量%~3.0質量%である。スルホンイミドリチウム塩化合物(IV)の含有量が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、電気化学デバイスは動作し得る。さらにSEI膜がスルホンイミドを主体とする構造を含むことに伴い、電気化学デバイスの電池特性は、向上する。スルホンイミドリチウム塩化合物(IV)の含有量が上記範囲内であれば、SEI膜は、スルホンイミドを主体とする構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくい。その結果、SEI膜の耐久性は向上する。更に、電気化学デバイスの直流抵抗の上昇は、高温環境下で長期に保存されてもより抑制され得る。
【0062】
<環状ジカルボニル化合物(V)>
非水電解液は、下記式(V)で表される環状ジカルボニル化合物(V)を含有することが好ましい。
【0063】
【化15】
【0064】
式(V)中、
Mは、アルカリ金属であり、
Yは、遷移元素、周期律表の13族元素、14族元素、又は15族元素であり、
bは、1~3の整数であり、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~8の整数であり、
qは、0又は1であり、
51は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、qが1でmが2~4の場合にはm個のR51はそれぞれが結合していてもよい。)であり、
52は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリール基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、nが2~8の場合はn個のR52はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。)であり、
、及びQは、それぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子である。
【0065】
非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)に加えて、環状ジカルボニル化合物(V)を含むことで、高温保存後の充放電サイクルにおいても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加は、より抑制される。
この効果は、以下の理由によると推測される。
非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)に加えて、環状ジカルボニル化合物(V)を含むことにより、SEI膜は、その内部に、上述した反応生成物等に加えて、環状ジカルボニル化合物(V)由来の結合を含み得る。これにより、熱的及び化学的に安定な高分子構造は、形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは、起こりにくい。その結果、高温環境下で長期に保存された後の充放電サイクルにおいても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加は、より抑制される。
【0066】
Mは、アルカリ金属である。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。中でも、Mは、リチウムであることが好ましい。
Yは、遷移元素、周期律表の13族元素、14族元素、又は15族元素である。Yとしては、Al、B、V、Ti、Si、Zr、Ge、Sn、Cu、Y、Zn、Ga、Nb、Ta、Bi、P、As、Sc、Hf又はSbであることが好ましく、Al、B又はPであることがより好ましい。YがAl、B又はPの場合、アニオン化合物の合成が比較的容易になり、製造コストを抑えることができる。
bは、アニオンの価数及びカチオンの個数を表す。bは、1~3の整数であり、1であることが好ましい。bが3以下であれば、アニオン化合物の塩が混合有機溶媒に溶解しやすい。
m及びnの各々は、配位子の数に関係する値である。m及びnの各々は、Mの種類によって決まる。mは、1~4の整数である。nは、0~8の整数である。
qは、0又は1である。qが0の場合、キレートリングが五員環となり、qが1の場合、キレートリングが六員環となる。
51は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基を表す。これらのアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基又はハロゲン化アリーレン基は、その構造中に置換基、ヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、これらの基の水素原子の代わりに、置換基を含んでもよい。置換基としては、ハロゲン原子、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、又は水酸基が挙げられる。これらの基の炭素元素の代わりに、窒素原子、硫黄原子、又は酸素原子が導入された構造であってもよい。qが1でmが2~4である場合、m個のR51はそれぞれが結合していてもよい。そのような例としては、エチレンジアミン四酢酸のような配位子を挙げることができる。
52は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン化アリール基を表す。これらのアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基又はハロゲン化アリール基は、R51と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を含んでいてもよく、nが2~8のときにはn個のR52は、それぞれ結合して環を形成してもよい。R52としては、電子吸引性の基が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。
、及びQは、それぞれ独立に、O、又はSを表す。つまり、配位子はこれらヘテロ原子を介してYに結合することになる。
【0067】
環状ジカルボニル化合物(V)の具体例としては、下記式(V-1)~(V-2)で表される化合物が挙げられる。
【0068】
【化16】
【0069】
非水電解液が環状ジカルボニル化合物(V)を含有する場合、環状ジカルボニル化合物(V)の含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%~10質量%、より好ましくは0.05質量%~5.0質量%、さらに好ましくは0.10質量%~3.0質量%、特に好ましくは0.10質量%~2.0質量%である。環状ジカルボニル化合物(V)の含有量が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、電気化学デバイスは動作し得る。さらにSEI膜が環状ジカルボニル構造を含むことに伴い、電気化学デバイスの電池特性は、向上する。環状ジカルボニル化合物(V)の含有量が上記範囲内であれば、SEI膜は、環状ジカルボニルを主体とする構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくい。その結果、SEI膜の耐久性、及び電気化学デバイスの高温保存後特性は、向上する。
【0070】
<フルオロリン酸リチウム化合物(VI)>
非水電解液は、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、「フルオロリン酸リチウム化合物(VI)」という場合がある。)を含有することが好ましい。
ジフルオロリン酸リチウムは、下記式(VI-1)で表され、モノフルオロリン酸リチウムは、下記式(VI-2)で表される。
【0071】
【化17】
【0072】
本開示の非水電解液が鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)に加えて、フルオロリン酸リチウム化合物(VI)を含むことで、高温環境下で保存された後の充放電サイクルにおいても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加は、より抑制される。
【0073】
非水電解液がフルオロリン酸リチウム化合物(VI)を含有する場合、フルオロリン酸リチウム化合物(VI)の含有量は、非水電解液の全量に対して、好ましくは0.001質量%~5質量%、より好ましくは0.01質量%~3質量%、さらに好ましくは0.1質量%~2質量%である。フルオロリン酸リチウム化合物(VI)の含有量が上記範囲内であれば、フルオロリン酸リチウム化合物(VI)の非水溶媒への溶解性を確保することができる。フルオロリン酸リチウム化合物(VI)の含有量が上記範囲内であれば、電気化学デバイスの直流抵抗をさらに下げることができる。
【0074】
<非水溶媒>
非水電解液は、一般的に、非水溶媒を含有する。非水溶媒としては種々公知のものを適宜選択することができる。非水溶媒は1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0075】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、などが挙げられる。
【0076】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などが挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート、などが挙げられる。
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、などが挙げられる。
含フッ素鎖状カーボネート類としては、例えば、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、などが挙げられる。
含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ジフルオロ酢酸メチル、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、などが挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、などが挙げられる。
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、などが挙げられる。
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、などが挙げられる。
含フッ素鎖状エーテル類としては、例えば、HCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH、HCFCFCHOCFCFHCF、CFCFCHOCFCFHCF、C13OCH、C13OC、C17OCH、C17OC、CFCFHCFCH(CH)OCFCFHCF、HCFCFOCH(C、HCFCFOC、HCFCFOCHCH(C、HCFCFOCHCH(CH、などが挙げられる。
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、などが挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、などが挙げられる。
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、などが挙げられる。
【0077】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0078】
非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0079】
非水溶媒の含有量は、非水電解液の全量に対して、好ましくは60質量%~99質量%、より好ましくは70質量%~97質量%、更に好ましくは70質量%~90質量%である。
【0080】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において、好ましくは10.0mPa・s以下である。
【0081】
<電解質>
非水電解液は、一般的に、電解質を含有する。
【0082】
電解質は、フッ素を含むリチウム塩(以下、「含フッ素リチウム塩」という場合がある。)、及びフッ素を含まないリチウム塩の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0083】
含フッ素リチウム塩としては、例えば、無機酸陰イオン塩、有機酸陰イオン塩などが挙げられる。
無機酸陰イオン塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、などが挙げられる。
有機酸陰イオン塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)などが挙げられる。中でも、含フッ素リチウム塩としては、LiPFが特に好ましい。
フッ素を含まないリチウム塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li10Cl10)などが挙げられる。
【0084】
電解質が含フッ素リチウム塩を含む場合、含フッ素リチウム塩の含有割合は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0085】
含フッ素リチウム塩が六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を含む場合、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)の含有割合は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0086】
非水電解液が電解質を含む場合、非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/L、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0087】
非水電解液が六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を含む場合、非水電解液における六フッ化リン酸リチウム(LiPF)の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/L、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0088】
<その他の成分>
非水電解液は、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0089】
その他の成分としては、酸無水物などが挙げられる。
【0090】
〔電気化学デバイス前駆体〕
次に、本開示の実施形態に係る電気化学デバイス前駆体について、説明する。
【0091】
本実施形態に係る電気化学デバイス前駆体は、ケースと、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える。ケースは、正極、負極、セパレータ、及び電解液を収容している。正極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。負極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。セパレータは、正極と負極とを離隔する。電解液は、本実施形態に係る非水電解液である。
【0092】
電気化学デバイス前駆体は、充電及び放電が施される前の電気化学デバイスを示す。つまり、電気化学デバイス前駆体において、負極はSEI膜を含まず、正極はSEI膜を含まない。
【0093】
<ケース>
ケースの形状などは、特に限定はなく、本実施形態に係る電気化学デバイス前駆体の用途などに応じて、適宜選択される。ケースとしては、ラミネートフィルムを含むケース、電池缶と電池缶蓋とからなるケースなどが挙げられる。
【0094】
<正極>
正極は、正極活物質を少なくとも1種含むことが好ましい。正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。
【0095】
本実施形態に係る正極は、正極集電体と、正極合材層とを備える。正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0096】
正極集電体の材質としては、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、正極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、銅などが挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、正極集電体の材質は、アルミニウムであることが好ましい。ここで、「アルミニウム」は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。正極集電体としては、アルミニウム箔が好ましい。アルミニウム箔の材質は、特に限定されず、A1085材、A3003材などが挙げられる。
【0097】
正極合材層は、正極活物質及びバインダーを含有する。
【0098】
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、電気化学デバイス前駆体の用途などに応じて、適宜調整され得る。
【0099】
正極活物質としては、例えば、第1酸化物、第2酸化物などが挙げられる。
第1酸化物は、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする。
第2酸化物は、Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む。Li及びNi以外の金属元素としては、例えば、遷移金属元素、典型金属元素などが挙げられる。第2酸化物は、Li及びNi以外の金属元素として、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含むことが好ましい。Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0100】
正極活物質は、下記式(X)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」という場合がある。)を含むことが好ましい。リチウム含有複合酸化物(X)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0101】
LiNiCoMn … 式(X)
【0102】
式(X)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。
【0103】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.3Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1などが挙げられる。
【0104】
正極活物質は、下記式(Y)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」という場合がある。)を含んでもよい。
【0105】
LiNi1-x-yCoAl … 式(Y)
【0106】
式(Y)中、tは、0.95~1.15であり、xは、0~0.3であり、yは、0.1~0.2であり、x及びyの合計は、0.5未満である。
【0107】
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05などが挙げられる。
【0108】
本実施形態に係る電気化学デバイス前駆体における正極が、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える場合、正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対し、好ましくは10質量%~99.9質量%、より好ましくは30質量%~99質量%、更に好ましくは50質量%~99質量%、特に好ましくは70質量%~99質量%である。
【0109】
バインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子などが挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子などが挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、バインダーは、フッ素樹脂が好ましい。バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0110】
正極合材層中におけるバインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、など)と電池性能との両立の観点から、正極合材層の全量に対し、好ましくは0.1質量%~4質量%である。バインダーの含有量が上記範囲内であると、正極集電体に対する正極合材層の接着性、及び、正極活物質同士の結着性がより向上する。バインダーの含有量が上記範囲内であると、正極合材層中における正極活物質の量をより多くすることができるので、容量がより向上する。
【0111】
本実施形態に係る正極合材層は、導電助剤を含むことが好ましい。
【0112】
導電助剤の材質としては、公知の導電助剤を用いることができる。公知の導電助剤としては、導電性を有する炭素材料が好ましい。導電性を有する炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維、フラーレンなどが挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。導電性炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバーなどが挙げられる。グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛としては、例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などが挙げられる。
【0113】
導電助剤の材質は、市販品であってもよい。カーボンブラックの市販品としては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500など(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスLなど(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRAなど、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRAなど、PUER BLACK100、115、205など(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400Bなど(三菱ケミカル社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、LITX-50、LITX-200など(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、Super-P(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35(デンカ社製、アセチレンブラック)などが挙げられる。
【0114】
本実施形態に係る正極合材層は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0115】
<負極>
負極は、負極活物質を少なくとも1種含む。負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。
【0116】
本実施形態に係る負極は、より好ましくは、負極集電体と、負極合材層と、を備える。負極合材層は、負極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0117】
負極集電体の材質としては、特に制限はなく公知の物を任意に用いることができ、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、負極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、ニッケルメッキ鋼材、銅などが挙げられる。中でも、負極集電体の材質として、加工性の観点から、銅が好ましい。負極集電体として、銅箔が好ましい。
【0118】
本実施形態に係る負極合材層は、負極活物質及びバインダーを含有する。
【0119】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はない。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、並びにリチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、負極活物質は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープすることが可能な炭素材料(以下、「炭素材料」という。)が好ましい。
【0120】
炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料、非晶質炭素材料などが挙げられる。これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。炭素材料の形態は、特に限定されず、例えば、繊維状、球状、フレーク状などが挙げられる。炭素材料の粒径は、特に限定されず、好ましくは5μm~50μm、より好ましくは20μm~30μmである。
非晶質炭素材料として、例えば、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが挙げられる。
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが挙げられる。黒鉛材料は、ホウ素を含有してもよい。黒鉛材料は、金属又は非晶質炭素で被覆されていてもよい。黒鉛材料を被覆する金属の材質としては、金、白金、銀、銅、スズなどが挙げられる。黒鉛材料は、非晶質炭素と黒鉛との混合物であってもよい。
【0121】
本実施形態に係る負極合材層は、導電助剤を含有することが好ましい。導電助剤としては、正極合材層に含まれ得る導電助剤として例示した導電助剤と同様の導電助剤が挙げられる。
【0122】
本実施形態に係る負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0123】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、多孔質の樹脂平板が挙げられる。多孔質の樹脂平板の材質としては、樹脂、この樹脂を含む不織布などが挙げられる。樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミドなどが挙げられる。
【0124】
なかでも、セパレータは、単層又は多層構造の多孔性樹脂シートであることが好ましい。多孔性樹脂シートの材質は、一種又は二種以上のポリオレフィン樹脂を主体とする。セパレータの厚みは、好ましくは5μm~30μmである。セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0125】
〔電気化学デバイス前駆体の一例〕
図1を参照して、本開示の実施形態に係る電気化学デバイス前駆体1の一例について具体的に説明する。図1は、本開示の実施形態に係る電気化学デバイス前駆体1の断面図である。
【0126】
電気化学デバイス前駆体1は、積層型である。図1に示すように、電気化学デバイス前駆体1は、電池素子10と、正極リード21と、負極リード22と、外装体30とを備える。電池素子10は、外装体30の内部に封入されている。外装体30は、ラミネートフィルムで形成されている。電池素子10には、正極リード21及び負極リード22の各々が取り付けられている。正極リード21及び負極リード22の各々は、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
【0127】
本実施形態に係る電池素子10は、図1に示すように、正極11と、セパレータ13と、負極12と、が積層されてなる。正極11は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる。負極12は、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる。正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとは、セパレータ13を介して対向している。
【0128】
電気化学デバイス前駆体1の外装体30の内部には、本実施形態に係る非水電解液が注入されている。本実施形態に係る非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透している。電気化学デバイス前駆体1では、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。なお、正極11は、正極集電体11Aの片方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなり、負極12は、負極集電体12Aの片方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなってもよい。
【0129】
なお、本実施形態では、電気化学デバイス前駆体1は、積層型であるが、本開示はこれに限定されず、電気化学デバイス前駆体1は、例えば、捲回型であってもよい。捲回型は、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いてなる。捲回型は、円筒型、又は角形を含む。
【0130】
本実施形態では、図1に示すように、正極リード21及び負極リード22の各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方向は、外装体30に対して反対方向であるが、本開示はこれに限定されない。例えば、正極リード及び負極リードの各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方法は、外装体30に対して同一方向であってもよい。
【0131】
以下で説明する本開示の実施形態に係る電気化学デバイスの一例としては、電気化学デバイス前駆体1における正極合材層11B及び負極合材層12Bの各々の表面に、電気化学デバイス前駆体1に対する充電及び放電によってSEI膜が形成されている態様の電気化学デバイスが挙げられる。
【0132】
〔電気化学デバイス〕
次に、本開示の実施形態に係る電気化学デバイスについて説明する。
【0133】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施して得られる。
詳しくは、本実施形態に係る電気化学デバイスは、ケースと、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える。正極、負極、セパレータ、及び電解液は、ケースに収容されている。正極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。負極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。電解液は、本実施形態に係る非水電解液である。負極は、SEI膜を含む。正極は、SEI膜を含む。
【0134】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、主として、負極がSEI膜を含む第1点、及び正極がSEI膜を含む第2点で、本実施形態に係る電気化学デバイス前駆体と異なる。つまり、本実施形態に係る電気化学デバイスは、第1点及び第2点の他は、本実施形態に係る電気化学デバイス前駆体と同様である。そのため、以下、本実施形態の電気化学デバイスについて、第1点及び第2点以外の構成部材の説明は省略する。
【0135】
第1点について、「負極は、SEI膜を含む」とは、負極が負極集電体及び負極合材層を備える場合、第1負極形態及び第2負極形態を含む。第1負極形態は、負極合材層の表面の少なくとも一部にSEI膜が形成された形態を示す。第2負極形態は、負極合材層の構成材料である負極活物質の表面にSEI膜が形成された形態を示す。
【0136】
第2点について、「正極は、SEI膜を含む」とは、正極が正極集電体及び正極合材層を備える場合、第1正極形態及び第2正極形態を含む。第1正極形態は、正極合材層の表面の少なくとも一部にSEI膜が形成された形態を示す。第2正極形態は、正極合材層の構成材料である正極活物質の表面にSEI膜が形成された形態を示す。
【0137】
SEI膜は、例えば、鎖状スルホン化合物(I)の分解物、環状スルホン化合物(II)の分解物、鎖状スルホン化合物(I)又は環状スルホン化合物(II)と電解質との反応物、及び当該反応物の分解物からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0138】
正極のSEI膜の成分と負極のSEI膜の成分とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。正極のSEI膜の膜厚と負極のSEI膜の膜厚とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0139】
〔電気化学デバイス前駆体の製造方法〕
次に、本開示の実施形態に係る電気化学デバイス前駆体の製造方法について、説明する。
【0140】
本実施形態に係る電気化学デバイス前駆体の製造方法は、第1準備工程と、第2準備工程と、第3準備工程と、収容工程と、注入工程とを含む。収容工程、及び注入工程は、この順で実行される。第1準備工程、第2準備工程、及び第3準備工程の各々は、収容工程の前に実行される。
【0141】
第1準備工程では、正極を準備する。
正極を準備する方法としては、例えば、正極合材スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させる方法などが挙げられる。正極合材スラリーは、正極活物質及びバインダーを含む。
正極合材スラリーに含まれる溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが挙げられる。
正極合材スラリーの塗布方法は、特に限定されず、例えば、スロットダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティングなどが挙げられる。正極合材スラリーの乾燥方法は、特に限定されず、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;赤外線(例えば遠赤外線)照射による乾燥;などが挙げられる。乾燥時間は、特に限定されず、好ましくは1分~30分である。乾燥温度は、特に限定されず、好ましくは40℃~80℃である。
正極集電体上に正極合材スラリーを塗布し、乾燥させた乾燥物は、加圧処理が施されることが好ましい。これにより、正極活物質層の空隙率は低減する。加圧処理の方法としては、例えば、金型プレス、ロールプレスなどが挙げられる。
【0142】
第2準備工程では、負極を準備する。
負極を準備する方法としては、例えば、負極合材スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させる方法などが挙げられる。負極合材スラリーは、負極活物質及びバインダーを含む。
負極合材スラリーに含まれる溶媒としては、例えば、水、水と相溶する液状媒体などが挙げられる。負極合材スラリーに含まれる溶媒が水と相溶する液状媒体を含むと、負極集電体への塗工性向上させることができる。水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類などが挙げられる。
負極合材スラリーの塗布方法、乾燥方法、及び加圧処理は、正極合材スラリーの塗布方法、乾燥方法、及び加圧処理として例示した方法と同様の方法が挙げられる。
【0143】
第3準備工程では、非水電解液を準備する。
非水電解液を準備する方法としては、例えば、非水溶媒に電解質を溶解させて溶液を得る工程と、得られた溶液に対して、鎖状スルホン化合物(I)及び環状スルホン化合物(II)を添加し混合して、非水電解液を得る工程とを含む。
【0144】
収容工程では、ケースに、正極、負極、及びセパレータを収容する。
例えば、収容工程では、正極、負極、及びセパレータで電池素子を作製する。次いで、正極の正極集電体と正極リードとを電気的に接続するとともに、負極の負極集電体と負極リードとを電気的に接続する。次いで、電池素子をケース内に収容して、固定する。
正極集電体と正極リードとを電気的に接続する方法は、特に限定されず、例えば、超音波溶接、抵抗溶接などが挙げられる。負極集電体と負極リードとを電気的に接続する方法は、特に限定されず、例えば、超音波溶接や抵抗溶接などが挙げられる。
【0145】
以下、ケースに、正極、負極、及びセパレータが収容された状態を「組立体」という。
【0146】
注入工程では、本実施形態に係る非水電解液を組立体の内部に注入する。これにより、非水電解液を、正極合材層、セパレータ、及び負極合材層に浸透させる。その結果、電気化学デバイス前駆体が得られる。
【0147】
〔電気化学デバイスの製造方法〕
次に、本開示の実施形態に係る電気化学デバイスの製造方法について説明する。
【0148】
本実施形態に係る電気化学デバイスの製造方法は、第4準備工程と、エージング工程とを含む。第4準備工程、及びエージング工程は、この順で実行される。
【0149】
第4準備工程では、電気化学デバイス前駆体を準備する。電気化学デバイス前駆体を準備する方法は、電気化学デバイス前駆体の製造方法で説明した方法と同様である。
【0150】
エージング工程では、電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施す。これにより、SEI膜が形成される。つまり、電気化学デバイスが得られる。
【0151】
以下、電気化学デバイス前駆体に対して、充電及び放電を施す処理を「エージング処理」という。
【0152】
エージング処理は、25℃~70℃の環境下で行われてもよい。
エージング処理は、第1充電フェーズと、第1保持フェーズと、第2充電フェーズと、第2保持フェーズと、充放電フェーズとを含んでもよい。
【0153】
第1充電フェーズでは、電気化学デバイス前駆体を、25℃~70℃の環境下で充電する。第1保持フェーズでは、第1充電フェーズ後の電気化学デバイス前駆体を、25℃~70℃の環境下で保持する。第2充電フェーズでは、第1保持フェーズ後の電気化学デバイス前駆体を、25℃~70℃の環境下で充電する。第2保持フェーズでは、第2充電フェーズ後の電気化学デバイス前駆体を、25℃~70℃の環境下で保持する。充放電フェーズでは、第2保持フェーズ後の電気化学デバイス前駆体に対し、25℃~70℃の環境下で、充電及び放電の組み合わせを1回以上施す。
【0154】
本実施形態に係る電気化学デバイスの製造方法で得られる電気化学デバイスが高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加を抑制する効果がより効果的に発揮される。
【実施例
【0155】
以下、本開示に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0156】
〔実施例1〕
下記のようにして、非水電解液を得た。
【0157】
(非水電解液の準備)
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=30:35:35(体積比)で混合した。これにより、非水溶媒としての混合溶媒(非水溶媒)を得た。
LiPF(電解質)を、得られた混合溶媒に対し、最終的に得られる非水電解液中の濃度が1モル/リットルとなるように溶解させ、電解液を得た。
【0158】
以下、得られた電解液を「基本電解液」という。
【0159】
添加剤としての鎖状スルホン化合物(I-1)と、環状スルホン化合物(II-1)とを、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表1に記載の含有量(質量%)となるように、基本電解液に添加した。これにより、非水電解液を得た。
鎖状スルホン化合物(I-1)は下記式(I-1)で表される。環状スルホン化合物(II-1)は下記式(II-1)で表される。
【0160】
【化18】
【0161】
<電気化学デバイス前駆体の作製>
以下のようにして、電気化学デバイス前駆体としてのアルミラミネート型電池を作製した。
【0162】
(第1準備工程)
以下のようにして、正極を準備した。
正極活物質としてLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(94質量%)、導電助剤としてカーボンブラック(3質量%)、及び結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(3質量%)を添加した混合物を得た。得られた混合物を、N-メチルピロリドン溶媒中に分散させ、正極合材スラリーを得た。
正極集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔を準備した。
得られた正極合材スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)上に塗布し、乾燥後、プレス機で圧延し、正極原反を得た。この正極原反は、正極の活物質合材層(以下、「正極合材層」という。)が形成された領域と、正極合材層が形成されていない領域(以下、「タブ接着用未塗工部」という。)とを含む。タブ接着用未塗工部は、余白となる未塗工部である。
得られた正極原反をスリットし、正極を得た。正極は、正極合材層と、タブ接着用未塗工部とを有する。正極合材層のサイズは、幅29mm、長さ40mmであった。タブ接着用未塗工部のサイズは、幅5mm、長さ11mmであった。
【0163】
(第2準備工程)
以下のようにして、負極を準備した。
負極活物質としてグラファイト(96質量%)、導電助剤としてカーボンブラック(1質量%)、増粘剤として純水中で分散したカルボキシメチルセルロースナトリウムを固形分で1質量%、及び結着材として純水中で分散したスチレン-ブタジエンゴムの(SBR)を固形分で2質量%を混合し、負極合材スラリーを得た。
負極集電体として厚さ10μmの銅箔を準備した。
得られた負極合材スラリーを銅箔(負極集電体)上に塗布し、乾燥後、プレス機で圧延し、負極原反を得た。この負極原反は、負極の活物質合材層(以下、「負極合材層」という。)が形成された領域と、負極合材層が形成されていない領域(以下、「タブ接着用未塗工部」という。)を含む。タブ接着用未塗工部は、余白となる未塗工部である。
得られた負極原反をスリットし、負極を得た。負極は、負極合材層と、タブ接着用未塗工部とを有する。負極合材層のサイズは、幅30mm、長さ41mmであった。タブ接着用未塗工部のサイズは、幅5mm、長さ11mmであった。
【0164】
(第3準備工程)
上述した非水電解液の製造で得られた非水電解液を準備した。
【0165】
(収容工程)
セパレータとして、多孔性ポリプロピレンフィルムを準備した。
正極、負極、及びセパレ-タを、負極の塗工面がセパレータに接し、かつ正極の塗工面がセパレータに接する向きで重ねて積層体を得た。次いで、得られた積層体の正極のタブ接着用未塗工部にアルミニウム製の正極タブ(正極リード)を超音波接合機で接合した。得られた積層体の負極のタブ接着用未塗工部にニッケル製の負極タブ(負極リード)を超音波接合機で接合した。正極タブ及び負極タブが接合された積層体を、アルミニウムの両面を樹脂層で被覆した一対のラミネートフィルム(ケース)で挟み込み、次いで三辺を加熱シールし、ラミネート体(組立体)を得た。この際、ラミネート体におけるシールされた三辺のうち、シールされていない開口部に接する一辺から正極タブ及び負極タブがはみ出すようにした。
【0166】
(注入工程)
ラミネート体の開口部から、上述して得た非水電解液を0.25mL注入し、ラミネートの開口部を封止した。これにより、アルミラミネート型電池(電気化学デバイス前駆体)を得た。
【0167】
〔実施例2~実施例8、比較例1~比較例7〕
添加剤としての鎖状スルホン化合物(I-1)と、環状スルホン化合物(II-1)と、環状スルホン化合物(C-1)と、環状スルホン化合物(C-2)と、環状スルホン化合物(C-3)と、ビニレンカーボネート(III-1)と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(IV-1)と、環状ジカルボニル化合物(V-2)と、ジフルオロリン酸リチウム(VI-1)とを、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表1に記載の含有量(質量%)となるように、基本電解液に添加した他は、実施例1と同様にして、アルミラミネート型電池(電気化学デバイス前駆体)を得た。
なお、鎖状スルホン化合物(I-1)は下記式(I-1)で表される。環状スルホン化合物(II-1)は下記式(II-1)で表される。環状スルホン化合物(C-1)は、下記式(C-1)で表される。環状スルホン化合物(C-2)は、下記式(C-2)で表される。環状スルホン化合物(C-3)は、下記式(C-3)で表される。ビニレンカーボネート(III-1)は、下記式(III-1)で表される。リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(IV-1)は、下記式(IV-1)で表される。環状ジカルボニル化合物(V-2)は、下記式(V-2)で表される。ジフルオロリン酸リチウム(VI-1)は、下記式(VI-1)で表される。
【0168】
【化19】
【0169】
〔評価試験〕
得られたアルミラミネート型電池に、下記のエージング処理を施し、第1電池を得た。得られた第1電池に、下記の初期充放電処理を施し、第2電池を得た。得られた第2電池に、下記の直流抵抗評価用処理を施し、第3電池を得た。得られた第3電池に、高温保存処理を施し、第4電池を得た。得られた第4電池に、下記の後期充放電処理を施し、第5電池を得た。
得られた第1電池~第5電池を用いて、下記の測定方法により、高温保存後抵抗、及び容量維持率の各々を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0170】
<エージング処理>
アルミラミネート型電池(電気化学デバイス電池前駆体)に、下記のエージング処理を施し、第1電池を得た。
アルミラミネート型電池(電気化学デバイス電池前駆体)を、25℃~70℃の温度範囲下、終止電圧1.5V~3.5Vの範囲で充電した後、5時間~50時間の範囲で休止させた。次に、25℃~70℃の温度範囲下、終止電圧3.5V~4.2Vの範囲で電池前駆体を充電し、5時間~50時間の範囲で保持した。次に、25℃~70℃の温度範囲下で電池前駆体を4.2Vまで充電し、その後2.5Vまで放電させた。これにより、第1電池を得た。
【0171】
<初期充放電処理>
第1電池に、下記の初期充放電処理を施し、第2電池を得た。
第1電池を、25℃の温度環境にて12時間保持した。次いで、第1電池を充電レート0.2Cにて4.2V(SOC(State Of Charge)100%)まで定電流定電圧充電(0.2C-CCCV)し、次いで30分間休止させ、次いで放電レート0.2Cにて2.5Vまで定電流放電(0.2C-CC)させた。これを3サイクル行って第1電池を安定させた。その後、充電レート0.2Cにて4.2Vまで定電流定電圧充電(0.5C-CCCV)し、次いで30分間休止させ、次いで放電レート1Cにて2.5Vまで定電流放電(1C-CC)させた。これにより、第2電池を得た。
【0172】
<直流抵抗評価用処理>
第2電池に、下記の直流抵抗評価用処理を施し、第3電池を得た。
第2電池を25℃の温度環境で充電レート0.2Cにて3.7VまでCCCV充電した。「CCCV充電」とは、定電流定電圧(Constant Current Constant Voltage)で充電することを意味する。
次いで、第2電池に対し、-10℃の温度環境にて3時間以上静置し、十分に電池を冷却させた。その後、-10℃の温度環境で、放電レート0.1CにてCC10s放電を施し、充電レート0.1CにてCC10s充電を施した。「CC10s放電」とは、定電流(Constant Current)にて10秒間放電することを意味する。「CC10s充電」とは、定電流(Constant Current)にて10秒間充電することを意味する。
次いで、第2電池に対し、放電レート0.2CにてCC10s放電を施し、充電レート0.1CにてCC20s充電を施した。
次いで、第2電池に対し、放電レート0.4CにてCC10s放電を施し、充電レート0.1CにてCC40s充電を施した。
次いで、第2電池に対し、放電レート0.6CにてCC10s放電を行い、充電レート0.1CにてCC60s充電を施した。これにより、第3電池を得た。
【0173】
<高温保存処理>
第3電池に、下記の高温保存処理を施し、第4電池を得た。
第3電池を、25℃の温度環境にて、充電レート0.2Cにて4.2Vまで定電流充電した。次いで、充電状態の第3電池を60℃の雰囲気下で28日間静置した。これにより、第4電池を得た。
【0174】
<後期充放電処理>
第4電池に、下記の後期充放電処理を施し、第5電池を得た。
第4電池を25℃の温度環境で放熱し、第1放電をした後、第1充電をし、第2放電をした。第1放電は、放電レート1Cにて2.5Vまで定電流放電(1C-CC)したことを示す。第1充電は、充電レート0.2Cにて4.2Vまで定電流定電圧充電(0.2C-CCCV)したことを示す。第2放電は、放電レート1Cにて2.5Vまで定電流放電(1C-CC)したことを示す。これにより、第5電池を得た。
【0175】
<高温保存後抵抗の測定方法>
下記式(X1)に示すように、比較例1の第5電池の直流抵抗(DCIR:Direct current internal resistance)に対する、比較例2~比較例7、及び実施例1~実施例8の第5電池の直流抵抗の相対値を、「高温保存後抵抗[%]」(表1参照)とした。
【0176】
高温保存後抵抗[相対値;%]=(第5電池の直流抵抗[Ω]/比較例1の第5電池の直流抵抗[Ω])×100…(X1)
【0177】
直流抵抗は、下記方法により測定した。第5電池に、上述した直流抵抗評価用処理と同様の直流抵抗評価用処理を施した。
放電レート0.1C~0.6Cの各々における「CC10s放電」による各電圧低下量(=放電開始前の電圧-放電開始後10秒目の電圧)と、各電流値(即ち、放電レート0.1C~0.6Cに相当する各電流値)と、に基づき、第5電池の直流抵抗(Ω)を求めた。
【0178】
<容量維持率の測定方法>
下記式(X2)に示すように、比較例1の第4電池の容量維持率に対する、比較例2~比較例7、実施例1~実施例8の第4電池の容量維持率の相対値を、「容量維持率[%]」(表1参照)とした。
【0179】
容量維持率[相対値;%]=(容量維持率/比較例1の容量維持率)×100…(X2)
【0180】
式(X2)中、容量維持率は、上述した後期充放電処理における第2放電をした際に得られた第4電池の放電容量(mAh/g)を、上述した初期充放電処理における第1電池の最後の放電で得られた放電容量(mAh/g)で除したものである。
【0181】
高温保存試験後である第4電池の放電容量の上記相対値は、保存による放電容量の減少率(%)(以下、単に「容量減少率」ともいう)に相当する。ここでいう減少率は、増加せず減少もしない場合を100%と表現し、減少する場合を100%未満と表現し、増加する場合を100%超と表現する態様の減少率である。
【0182】
容量維持率に注目した理由は、電池性能において、容量値自体が大きいことも重要な性能ではあるが、保存期間中の劣化などに起因する容量減少が低減されることも極めて重要な性能であるためである。
【0183】
【表1】
【0184】
表1中、「各添加剤の含有量」は、非水電解液の全量に対する各添加剤の含有量[質量%]を示す。表1中、「-」は、該当する成分を含有しないことを意味する。
【0185】
比較例2の非水電解液は、環状スルホン化合物(II-1)を単独で含有していた。そのため、比較例2の電気化学デバイスは、鎖状スルホン化合物(I-1)を単独で含有する比較例1の非水電解液を用いた電気化学デバイスに対して、高温保存後抵抗が109%、容量維持率が97%であった。すなわち、比較例2の電気化学デバイスは、高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加が抑制されていないことがわかった。
比較例3~比較例5の非水電解液は、環状スルホン化合物(C-1)、環状スルホン化合物(C-2)、又は環状スルホン化合物(C-3)を含有し、環状スルホン化合物(II)を含有しなかった。そのため、比較例3~比較例5の電気化学デバイスは、比較例1の電気化学デバイスに対して、容量維持率が100%以下であった。すなわち、比較例3~比較例5の電気化学デバイスは、高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの容量の低下が抑制されていないことがわかった。
比較例6及び比較例7の非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I-1)を単独で含有するとともに、鎖状スルホン化合物(I-1)の含有量は、比較例1の鎖状スルホン化合物(I-1)の含有量に対して20倍以上であった。そのため、比較例6及び比較例7の電気化学デバイスは、比較例1の非水電解液を用いた電気化学デバイスに対して、高温保存後抵抗が220%以上、容量維持率が65%以下であった。すなわち、比較例6及び比較例7の電気化学デバイスは、高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加が抑制されていないことがわかった。
これに対し、実施例1~実施例8の非水電解液は、鎖状スルホン化合物(I-1)と、環状スルホン化合物(II-1)とを含有する。そのため、実施例1~実施例8の電気化学デバイスは、比較例1の電気化学デバイスに対して、高温保存後抵抗が94%以下で、容量維持率が101%以上であった。すなわち、実施例1~実施例8の電気化学デバイスは、高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの容量の低下及び直流抵抗の増加が抑制されていることがわかった。
実施例1と実施例3との対比、及び実施例2と実施例4との対比から、環状スルホン化合物(II-1)の含有量を0.5質量%超とすることで、高温保存後抵抗が低下することがわかった。すなわち、環状スルホン化合物(II-1)の含有量を0.5質量%超とすることで、高温環境下で長期に保存されても、電気化学デバイスの直流抵抗の増加をより抑制することができることがわかった。
【0186】
2021年3月18日に出願された日本国特許出願2021-045217の開示、及び2021年8月25日に出願された日本国特許出願2021-137178の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【要約】
非水電解液は、一般式(I)で表される鎖状スルホン化合物(I)と、一般式(II)で表される環状スルホン化合物(II)とを含有する。鎖状スルホン化合物(I)の含有量は、非水電解液の全量に対し0.01質量%~10質量%である。式(I)中、R11及びR12は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基を表す。式(II)中、R21は炭素数3~6のアルキレン基、炭素数2~6のアルケニレン基、又は式(ii-1)で表される基であり、*は、結合位置を示し、式(ii-1)中、R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基であり、R23は、炭素数1~2のアルキル基、又は式(ii-2)で表される基である。
図1