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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】イネの生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/22 20180101AFI20220701BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20220701BHJP
   C02F 1/48 20060101ALI20220701BHJP
   A01G 7/04 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
A01G22/22 Z
H05H1/24
C02F1/48 B
A01G7/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018147257
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020018277
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】518133201
【氏名又は名称】富士通クライアントコンピューティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 博司
(72)【発明者】
【氏名】水野 正明
(72)【発明者】
【氏名】北野 英己
(72)【発明者】
【氏名】前島 正義
(72)【発明者】
【氏名】松本 省吾
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 元気
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088559(WO,A1)
【文献】特開2017-127267(JP,A)
【文献】特開昭49-024718(JP,A)
【文献】特開2016-152796(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0373923(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0102025(US,A1)
【文献】水野彰,杤久保文嘉,内田諭,小田昭紀,高木浩一,林信哉,2.大気圧プラズマを学ぼう,プラズマ・核融合学会誌,83巻11号,日本,2007年,913-919頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/22
A01G 7/00- 7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液を準備する水溶液準備工程と、
前記水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化水溶液とするプラズマ照射工程と、
イネの成長点に前記プラズマ活性化水溶液を供給する水溶液供給工程と、
有し、
水溶液供給工程では、前記イネの周囲を筒状部材により囲うとともに前記筒状部材の内部の水を汲み上げることにより前記成長点を露出させること
を特徴とするイネの生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイネの生産方法において、
前記水溶液供給工程を、前記イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間に実施することを特徴とするイネの生産方法。
【請求項3】
イネの周囲を筒状部材により囲うとともに前記筒状部材の内部の水を汲み上げることによりイネの成長点を露出させ、
露出した前記イネの前記成長点に向けて大気圧プラズマを直接照射すること
を特徴とするイネの生産方法。
【請求項4】
請求項3に記載のイネの生産方法において、
前記成長点へのプラズマの照射を、前記イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間に実施すること
を特徴とするイネの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、イネの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水にプラズマを照射することにより水中の微生物等を殺菌する技術が開示されている。また、特許文献1のプラズマ装置は、水中に電流を流すことなくプラズマを水中に照射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-183867号公報
【文献】特開2014-195450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、酵母に大量の大気圧プラズマを照射した場合には酵母の生菌数は減少するが、酵母に少量の大気圧プラズマを照射した場合に酵母の生菌数は増加することが記載されている。このように、プラズマを照射することにより酵母を活性化する可能性および死滅させる可能性について研究されてきている。しかし、その他の生物へのプラズマの影響については必ずしも明らかではない。
【0006】
ところで、お米は日本国内で主に食用米として消費されている。また、山田錦に代表される酒造好適米(酒米)は、酒造に用いられる。また、国内のお米の消費量が減少傾向にある中でお米の輸出量は増加傾向にある。他方では、少子高齢化が急激に進む我が国においては生産者が減少の一途をたどっており、生産性の維持が問題となっている。このような状況下において、お米の生産量の増加と品質の向上が望まれている。
【0007】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、イネの収穫量の増加とお米の品質の向上とを図ったイネの生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様におけるイネの生産方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液を準備する水溶液準備工程と、水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化水溶液とするプラズマ照射工程と、イネの成長点にプラズマ活性化水溶液を供給する水溶液供給工程とを有し、水溶液供給工程では、イネの周囲を筒状部材により囲うとともに筒状部材の内部の水を汲み上げることにより成長点を露出させることを特徴とする。
また、第2の態様におけるイネの生産方法では、イネの周囲を筒状部材により囲うとともに筒状部材の内部の水を汲み上げることによりイネの成長点を露出させ、露出したイネの成長点に向けて大気圧プラズマを直接照射する。
【0009】
このイネの生産方法は、玄米の収穫量を増加させる。また、収穫した玄米における未熟米の割合を減少させる。そして、酒造好適米に対しては、酒造に重要な心白米の割合を増加させる。つまり、酒造好適米の品質が向上する。
【発明の効果】
【0010】
本明細書では、イネの収穫量の増加とお米の品質の向上とを図ったイネの生産方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態のプラズマ発生装置のガス噴出口を走査するロボットアームの構成を説明するための概念図である。
図2図2.Aは第1のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、図2.Bは電極の形状を示す図である。
図3図3.Aは第2のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、図3.Bはプラズマ領域の長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
図4】第1の実施形態における第3のプラズマ発生装置の概略構成を示す図である。
図5】第1の実施形態における第3のプラズマ発生装置の上部構造を示す概略構成図である。
図6】第1の実施形態における第3のプラズマ発生装置の下部構造を示す概略構成図である。
図7】第1の実施形態において第3のプラズマ発生装置がプラズマを照射している場合を説明するための図である。
図8】第1の実施形態における水溶液供給工程を説明するための図である。
図9】第2の実施形態におけるプラズマ照射工程を説明するための図である。
図10】実験Aにおける玄米の収穫量を示すグラフである。
図11】実験Aにおける収穫した玄米における完全粒の割合を示すグラフである。
図12】実験Aにおける収穫した玄米の粒数に対する各米の割合を示すグラフである。
図13】実験Bにおける1株より収穫された玄米の重量(収穫量)を示すグラフである。
図14】実験Bにおける収穫した玄米における未熟米および割れ米の割合を示すグラフである。
図15】実験Bにおける収穫した玄米における腹白米および心白米の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施形態について、イネの生産方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。なお、プラズマ発生装置の寸法等は例示であり、例示されている数値範囲以外の数値を用いてもよい。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。第1の実施形態のイネの生産方法においては、プラズマ活性化水溶液をイネの成長点に向けて供給する。このプラズマ活性化水溶液は、乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。そのため、まず、プラズマを照射するプラズマ発生装置について説明する。
【0014】
1.プラズマ活性化水溶液製造装置
1-1.プラズマ活性化水溶液製造装置の構成
本実施形態のプラズマ活性化水溶液製造装置PMは、図1に示すように、プラズマ照射装置P1と、アームロボットM1とを有している。プラズマ照射装置P1は、プラズマを発生させるとともに、そのプラズマを溶液に向けて照射するためのものである。
【0015】
アームロボットM1は、図1に示すように、プラズマ照射装置P1の位置をx軸、y軸、z軸方向のそれぞれの方向に移動させることができるようになっている。なお、説明の便宜上、プラズマを照射する向きを-z軸方向としている。これにより、溶液の液面と、プラズマ照射装置P1との間の距離を調整することができる。また、このプラズマ活性化水溶液製造装置PMは、予めプラズマ照射時間を設定することにより、その時間だけプラズマを照射することができるものである。
【0016】
プラズマ照射装置P1には、後述するように、3種類の方式(第1のプラズマ発生装置P10および第2のプラズマ発生装置P20および第3のプラズマ発生装置P30)がある。そして、いずれの方式を用いてもよい。なお、第3のプラズマ発生装置P30は、図1に示すロボットアームM1等を有していない。
【0017】
1-2.第1のプラズマ発生装置
図2.Aはプラズマ発生装置P10の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P10は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ発生装置である。図2.Bは、図2.Aのプラズマ発生装置P10の電極2a、2bの形状の詳細を示す図である。
【0018】
プラズマ発生装置P10は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2mm以上3mm以下である。筐体部10の厚みは0.2mm以上0.3mm以下である。筐体部10の長さは10cm以上30cm以下である。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。
【0019】
電極2a、2bは、対向して配置されている対向電極対である。電極2a、2bの対向面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、図2.Bに示すように、対向面のそれぞれに多数の凹部(ホロー)Hが形成されている。そのため、電極2a、2bの対向面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。
【0020】
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ発生装置P10では、電極2aの対向面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対向面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、例えば24cmである。電極2a、2b間の距離は、これより小さい距離であってもよい。
【0021】
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。
【0022】
ガス導入口10iからアルゴンを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。図2.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。
【0023】
1-3.第2のプラズマ発生装置
図3.Aはプラズマ発生装置P20の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P20は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ発生装置である。図3.Bは、図3.Aのプラズマ発生装置P20のプラズマ発生領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【0024】
プラズマ発生装置P20は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、図3.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ発生領域Pの直上までのスリット幅(図3.Bの左右方向の幅)は、例えば1mmである。
【0025】
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1mm以上2mm以下の範囲内である。また、スリット形状の場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。また、ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。
【0026】
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、図1に示したプラズマ発生装置P10と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。
【0027】
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ発生装置P20を図3.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。
【0028】
1-4.第3のプラズマ発生装置
図4は、第3のプラズマ発生装置P30の概略構成を示す概念図である。プラズマ発生装置P30は、収容している溶液にプラズマを照射するためのものである。
【0029】
図4に示すように、プラズマ発生装置P30は、第1電極110と、第2電極210と、第1の電位付与部120と、第2の電位付与部220と、第1のリード線130と、第2のリード線230と、ガス供給部140と、ガス管結合コネクター150と、ガス管160と、第1電極保護部材170と、第2電極保護部材240と、第1電極支持部材180と、密閉部材191と、結合部材192と、容器250と、封止部材260と、架台270と、を有している。
【0030】
1-4-1.電極の概略構成
第1電極110は、筒形状部110aを有している。そして、その筒形状部110aの内部にプラズマガスを供給することができるようになっている。つまり、第1電極110の内部は、ガス供給部140と連通している。第1電極110は、筒形状部110aから第2電極210に向けてガスを吹き出すようになっている。そして、第1電極110の先端部は、注射針形状をしている。つまり、第1電極110の先端部は、第1電極110の軸方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面を有している。そして、第1電極110の先端部には、マイクロホローが形成されている。
【0031】
第2電極210は、第1電極110と対向する電極である。第2電極210は、棒状電極である。第2電極210は、円柱形状である。もしくは、多角柱形状であってもよい。もしくは、先端の尖った針形状であってもよい。ここで、第2電極210は、先端部211を有している。第2電極210の先端部211は、イリジウムを含有するイリジウム合金でできている。例えば、イリジウムと白金との合金である。または、イリジウムと白金とオスミウムとの合金である。イリジウム合金は、硬度が高く、耐熱性に優れている。そのため、イリジウム合金は、第2電極210の先端部211に好適である。また、イリジウムの代わりに、白金を用いてもよい。もしくは、パラジウムであってもよい。または、イリジウムと白金とパラジウムとのうちの少なくとも一種類以上を含む金属もしくは合金であるとよい。また、第2電極210の先端部211は金であってもよい。また、放電時には、第2電極210は、容器250に収容されている溶液に浸かっている。
【0032】
第1の電位付与部120は、第1電極110に周期的に変化する電位を付与するためのものである。第2の電位付与部220は、第2電極210に周期的に変化する電位を付与するためのものである。ここで、第1の電位付与部120と第2の電位付与部220とのうちのどちらか一方は、接地されていてもよい。第1のリード線130は、第1電極110と第1の電位付与部120とを電気的に接続するためのものである。第1のリード線130は、ニッケル合金もしくはステンレスであるとよい。第2のリード線230は、第2電極210と第2の電位付与部220とを電気的に接続するためのものである。第2のリード線230は、ニッケル合金もしくはステンレスであるとよい。これにより、第1電極110と第2電極210との間に高周波の電圧が印加されることとなる。つまり、第1の電位付与部120および第2の電位付与部220は、第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加するための電圧印加部である。
【0033】
1-4-2.ガス供給経路
プラズマ発生装置P30は、前述したように、ガス供給部140と、ガス管結合コネクター150と、ガス管160と、を有している。そのため、ガス供給部140は、ガス管160およびガス管結合コネクター150を介して、第1電極110の筒形状部の内部にプラズマガスを供給する。ここで、ガス供給部160は、例えば、Arガスを供給する。もしくは、その他の希ガスを供給してもよい。もしくは、酸素ガス等その他のガスを微量に含んでいてもよい。そのため、プラズマガスは、第1電極110から溶液250に収容されている溶液に向けて吹き付けられることとなる。
【0034】
1-4-3.上部構造の構成
図5は、プラズマ発生装置P30の上部構造を示す図である。図5に示すように、第1電極110は、先端部111を有している。先端部111は、図4に示すように、第2電極210に対面する位置に配置されている。第1電極110の先端部111は、傾斜面111aを有している。傾斜面111aは、第1電極110の軸方向に垂直な面に対して傾斜している面である。また、先端部111には、マイクロホロー111bが形成されている。マイクロホロー111bは、長さ0.5mm以上1mm以下、幅0.3mm以上0.5mm以下の微小な凹部である。
【0035】
また、前述したように、プラズマ発生装置P30は、密閉部材191と、結合部材192と、を有している。密閉部材191は、図4に示す容器250に取り付けられるとともに容器250の内部を密閉するためのものである。結合部材192は、第1電極110とガス管結合コネクター150とを、密閉部材191等を介して連結するための部材である。
【0036】
1-4-4.下部構造の構成
図6は、プラズマ発生装置P30の下部構造を示す図である。前述したように、プラズマ発生装置P30は、容器250と、封止部材260と、架台270と、を有している。容器250は、内部に溶液を収容することができるようになっている。ここで、溶液とは、水溶液や有機溶剤をも含むこととする。また、容器250は、第1電極110および第2電極210を内部に収容している。また、容器250は、目盛を有しているとよい。容器250の内部に収容されている溶液の量を計量するためである。
【0037】
封止部材260は、第2電極保護部材240と、容器250との間の隙間を塞ぐためのものである。封止部材260として、例えば、オーリングが挙げられる。容器250の密閉性を確保し、溶液が容器250の底部に漏れ出すのを防止するものであれば、これ以外の部材を適用してもよい。架台270は、容器250その他の各部材を支持するためのものである。
【0038】
2.プラズマ発生装置により発生されるプラズマ
2-1.第1のプラズマ発生装置および第2のプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。
【0039】
本実施形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生させる。また、このプラズマは大気中に放出されているため、酸素ラジカルや窒素ラジカル等を発生させる。
【0040】
このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。なお、誘電体バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×1011cm-3以上1×1013cm-3以下の程度である。したがって、プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電体バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。
【0041】
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K以上2500K以下の範囲内である。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ発生領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から水面までの距離を異なる条件とすることにより、液面の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。
【0042】
2-2.第3のプラズマ発生装置
図7は、プラズマ発生装置P30がプラズマを発生させている様子を模式的に示す図である。プラズマ発生装置P30により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。
【0043】
図7に示すように、ガス供給部140から供給されるプラズマガスは、第1電極110から矢印K1の向きに放出される。そして、第1電極110と第2電極210との間に高周波の電圧を印加すると、第1電極110と第2電極210との間にプラズマ発生領域PG1が形成される。図7のプラズマ発生領域PG1は、概念的に描かれている。
【0044】
第1の電位付与部120および第2の電位付与部220が、第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加する電圧印加時には、第2電極210は、液体の内部に配置されている。このように、第1電極110と第2電極210との間には、容器250に収容されている液体と大気とがある。そして、第1電極と第2電極とを結ぶ線が、液体の液面LL1と交差している。
【0045】
そのため、液体の液面LL1と第1電極110との間にプラズマが発生する。このとき、液体の液面LL1は、第1電極110から矢印K1の向きに放出されるプラズマガスの風圧を受けて、液体の側に向かって凹んでいる。そして、液体の内部では溶液が部分的に電気分解し、気化する。その気化したガスの内部でもプラズマが発生する。また、プラズマ発生領域PG1は、液体の液面LL1に接触している。
【0046】
以上により、大気もしくは水に由来するラジカルが発生する。そして、溶液にラジカルが照射されることとなる。これにより、ラジカルは、水分子もしくは溶液中の溶質と反応する。
【0047】
3.プラズマ活性化水溶液の製造方法
3-1.水溶液準備工程
まず、第1の水溶液を準備する。第1の水溶液とは、プラズマを照射する前の水溶液のことをいう。第1の水溶液は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【0048】
3-2.プラズマ照射工程
次に、プラズマ活性化水溶液製造装置PMによりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを第1の水溶液に照射する。プラズマを照射する際における液面とプラズマ噴出口との間の距離は、例えば、3mmである。また、この距離は、例えば、0.1cm以上3cm以下の範囲内で変えてもよい。プラズマ発生領域におけるプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。そして、このプラズマにおけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。ただし、このプラズマ温度は、液面では、室温程度(300K程度)まで下げることもできる。これらのプラズマ条件を表1に示す。これらの条件は、あくまで一例である。
【0049】
[表1]
条件 数値範囲
液面-噴出口距離 0.1cm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×1014cm-3以上 1×1017cm-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
【0050】
このように、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射することにより、第1の水溶液を第2の水溶液にする。第2の水溶液は、プラズマ活性化水溶液である。大気圧プラズマの照射により、第1の水溶液の成分とプラズマに由来するラジカル等とが反応すると考えられる。また、水溶液中に亜硝酸イオンや硝酸イオンが増加する。第1の水溶液の成分は、これらのイオン等とも反応すると考えられる。
【0051】
大気圧プラズマのプラズマ密度は、例えば、2×1016cm-3である。大気圧プラズマの照射時間は、例えば、30秒以上300秒以下である。大気圧プラズマを照射する際の第1の水溶液の体積は、例えば、10ml以上1000ml以下である。
【0052】
この場合には、プラズマ活性化水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、6×1014sec・cm-3・ml-1以上6×1015sec・cm-3・ml-1以下である。ここで、単位体積当たりのプラズマ密度時間積とは、(プラズマ密度)×(照射時間)/(第1の水溶液の体積)である。つまり、単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、単位体積当たりの第1の水溶液に照射されるプラズマ生成物の量である。
【0053】
4.プラズマ活性化水溶液の効果
本実施形態のプラズマ活性化水溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。より具体的には、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する第1の水溶液に大気圧プラズマを照射したものである。このプラズマ活性化水溶液は、イネの収穫量を増やす効果を有する。また、酒米の心白を大きくする効果を有する。このため、プラズマ活性化水溶液は、酒米の生産に好適である。
【0054】
5.プラズマ活性化水溶液を用いたイネの生産方法
本実施形態のイネの生産方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液を準備する水溶液準備工程と、水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化水溶液とするプラズマ照射工程と、イネの成長点にプラズマ活性化水溶液を供給する水溶液供給工程と、を有する。
【0055】
5-1.水溶液準備工程
前述したように、水溶液準備工程では、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する第1の水溶液を準備する。
【0056】
5-2.プラズマ照射工程
次に、プラズマ照射工程を実施する。前述したように、この工程では、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射して第2の水溶液とする。前述したように、第2の水溶液はプラズマ活性化水溶液である。
【0057】
5-3.水溶液供給工程
図8に示すように、水溶液供給工程を実施する。この工程では、プラズマ活性化水溶液をイネの成長点GP1に供給する。植物の成長点とは、分裂能力が高い細胞の集団(分裂組織)がある点である。成長点は一般に、茎または根の先端にある。イネの成長点GP1は、図8に示すように、茎の根元付近に存在する。イネの成長点GP1の位置は、イネの種子があった位置からそれほど離れていない位置にある。
【0058】
水田中のイネの成長点GP1をプラズマ活性化水溶液に浸す。具体的には、図8に示すように、イネの周囲を円筒状の部材により囲うとともに、円筒状の部材を水田の土にめり込ませる。そして、円筒状の部材の内部の水をポンプ等で汲み上げる。これにより、イネの成長点GP1が露出している状態になる。次に、イネの周囲にプラズマ活性化水溶液を供給する。イネは円筒状の部材で囲まれた領域内にあるため、プラズマ活性化水溶液が円筒状の部材の上部より流出するおそれはほとんどない。このように、イネの成長点GP1にプラズマ活性化水溶液を浸しっぱなしにすればよい。これに加えて、供給されたプラズマ活性水溶液は時間の経過とともに土壌中へ浸透し、その後、根からも吸収されることとなる。
【0059】
水溶液供給工程を実施する頻度は、例えば、週に1回以上5回以下である。水溶液供給工程を実施する期間は、イネの定植から出穂までの期間である。
【0060】
5-4.育成工程
その後、水田でイネを栽培すればよい。
【0061】
6.変形例
6-1.水溶液供給工程の方法
本実施形態では、イネの成長点GP1を露出させてからイネの成長点GP1にプラズマ活性化水溶液を供給する。しかし、イネの成長点GP1を露出させることなく、単に水田にプラズマ活性化水溶液を注ぎ足すようにしてもよい。
【0062】
6-2.水溶液供給工程の実施時期
水溶液供給工程を、イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間に実施するとよい。後述するように、玄米の収穫量を増加させる効果が高いからである。
【0063】
6-3.筒状部材
水溶液供給工程では、円筒状の部材によりイネの周囲を囲う。しかし、円筒状の部材でなくとも、筒状の筒状部材であればよい。例えば、筒状部材は六角筒形状である。もちろん、その他の多角形の筒形状であってもよい。
【0064】
6-4.第3のプラズマ発生装置
プラズマ活性化水溶液を製造するにあたってプラズマ発生装置P30を用いてもよい。そのために、プラズマ発生装置P30によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを第1の水溶液に照射する。第1電極110を第1の水溶液の外に配置するとともに第2電極210を第1の水溶液の中に配置する。そして、第1電極110の筒形状部110aから第1の水溶液に向かってガスを照射する。そして、その状態で第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加する。
【0065】
6-5.第3のプラズマ発生装置の第1電極
本実施形態のプラズマ発生装置P30では、第1電極110の筒形状部110aは、円筒形状である。しかし、円筒形状に限らない。筒形状であれば、多角形形状であってもよい。
【0066】
6-6.小型化したプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20等をさらに小型化してもよい。十分に小型化することにより、ペン型のプラズマ発生装置を製造することができる。その場合であっても、プラズマ発生装置P10、P20と同等のプラズマ密度が得られる。
【0067】
6-7.組み合わせ
第1の実施形態の変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0068】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、第1の実施形態のプラズマ活性化水溶液を用いない。その代わりに、第2の実施形態においては、大気圧プラズマをイネの成長点に直接照射する。大気圧プラズマ装置として、第1の実施形態のプラズマ発生装置P10、P20を用いることができる。そのため、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0069】
1.イネの生産方法
本実施形態では、プラズマ活性化水溶液をイネの成長点GP1に供給する代わりに、イネの成長点GP1に向けて非平衡大気圧プラズマを直接照射する。
【0070】
1-1.プラズマ照射工程
図9に示すように、イネの成長点GP1に向けて非平衡大気圧プラズマを直接照射する。図9に示すように、イネの周囲を円筒状の部材により囲うとともに、円筒状の部材を水田の土にめり込ませる。そして、円筒状の部材の内部の水をポンプ等で汲み上げる。これにより、イネの成長点GP1が露出している状態になる。次に、プラズマ発生装置P20等を用いて、イネの成長点GP1に向けて大気圧プラズマを直接照射する。プラズマの照射が終わった後には、円筒状の部材を取り除けばよい。
【0071】
プラズマ密度は、第1の実施形態と同様である。プラズマを照射する時間は例えば30秒以上600秒以下である。例えば、大気圧プラズマのプラズマ密度を2×1016cm-3とすると、大気圧プラズマのプラズマ密度と照射時間との積であるプラズマ密度時間積は、6×1017sec・cm-3以上1.2×1019sec・cm-3以下である。
【0072】
プラズマを照射する頻度は、例えば、週に1回以上5回以下である。プラズマを照射する期間は、田植えをしてから出穂までの間である。つまり、イネの定植から出穂までの期間である。
【0073】
1-2.育成工程
その後、水田でイネを栽培すればよい。
【0074】
2.プラズマをイネの成長点に直接照射する効果
イネの成長点GP1に向けて大気圧プラズマを照射することにより、窒素原子または酸素原子に由来する原子・分子、イオン、ラジカル等がイネの成長点GP1に供給される。これにより、イネの収穫量は増加する。また、酒米の心白を大きくする効果を有する。このため、プラズマ活性化水溶液は、酒米の生産に好適である。
【0075】
3.変形例
3-1.プラズマ照射工程の実施時期
成長点へのプラズマの照射を、イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間に実施するとよい。後述するように、玄米の収穫量を増加させる効果が高いからである。
【0076】
3-2.その他の変形例
第1の実施形態とその変形例と第2の実施形態とその変形例とを組み合わせてよい場合がある。
【実施例
【0077】
1.実験A(プラズマの直接照射)
1-1.イネ
本実験では、主食用米のあいちのかおり(イネの品種)を栽培した。
【0078】
1-2.プラズマの直接照射
図9に示すように、田植えをした後のイネの成長点GP1に大気圧プラズマを直接照射した。その際に、プラズマ発生装置P20を用いた。プラズマ発生装置P20におけるプラズマ密度は、2×1016cm-3であった。プラズマガスはアルゴンガスであった。
【0079】
プラズマの照射時間は、30秒または5分であった。プラズマを照射する頻度は、週に2回であった。プラズマを照射する期間として、前期と後期とを設定した。前期は、イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間(約1~2か月)である。後期は、幼穂を形成してから出穂までの期間(約1か月)である。そして、前期に1回当たり30秒間プラズマを照射したイネのグループと、前期に1回当たり5分間プラズマを照射したイネのグループと、前期および後期に1回当たり5分間プラズマを照射したイネのグループと、を育成した。また、プラズマを照射しない対照区のイネを別途設定した。
【0080】
1-3.実験結果
図10は、玄米の収穫量を示すグラフである。イネの成長の前期(定植から幼穂を形成するまでの期間)において、プラズマの照射時間が30秒の場合の1株当たりの玄米の収穫量は、プラズマ未照射の場合の1株当たりの玄米の収穫量より12%多かった。イネの成長の前期(定植から幼穂を形成するまでの期間)において、プラズマの照射時間が5分の場合の1株当たりの玄米の収穫量は、プラズマ未照射の場合の1株当たりの玄米の収穫量より15%多かった。
【0081】
しかし、イネの成長の前期(定植から幼穂を形成するまでの期間)および後期(幼穂を形成してから出穂までの期間)において、プラズマの照射時間が5分の場合の1株当たりの玄米の収穫量は、プラズマ未照射の場合の1株当たりの玄米の収穫量より少なかった。
【0082】
図11は、収穫した玄米における完全粒の割合を示すグラフである。プラズマの照射の有無によらず、完全粒の割合はいずれも80%程度であった。
【0083】
図12は、収穫した玄米の粒数に対する各米の割合を示すグラフである。腹白米は、不完全米の一種である。心白米は、不完全米の一種である。ただし、心白米は、酒造に好適に用いられる。プラズマを照射することにより、腹白米の割合は減少しているが、心白米の割合は増加している。
【0084】
この実験結果から、酒造好適米(酒米)に大気圧プラズマを照射すると、望ましい効果が得られることが予想される。
【0085】
2.実験B(酒米と主食用米との比較)
2-1.イネ
本実験では、主食用米のあいちのかおり(イネの品種)および酒造好適米の山田錦(イネの品種)を栽培した。
【0086】
2-2.プラズマ活性化水溶液
本実験のプラズマ活性化水溶液は、ラクテック(登録商標)と同じ成分の水溶液にプラズマを照射した溶液(PAL:Plasma Activated Lactec(Lactecは登録商標))である。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する乳酸リンゲル液である。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L-乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0087】
プラズマ装置として、プラズマ発生装置P20を用いた。ラクテック(登録商標)へのプラズマの照射時間は、5分であった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生装置P20におけるプラズマの照射口と第1の水溶液との間の距離は、3mmであった。プラズマ発生装置P20におけるプラズマ密度は、2×1016cm-3であった。
【0088】
そして、図8に示すように、PALをイネの成長点GP1に供給した。供給方法は、前述の水溶液供給工程と同様である。
【0089】
2-3.プラズマの直接照射
実験Aと同様に、プラズマ発生装置P20を用いてイネの成長点に大気圧プラズマを直接照射した。プラズマの照射時間は30秒であった。
【0090】
2-4.実験結果
図13は、1株より収穫された玄米の重量(収穫量)を示すグラフである。図13において、蒸留水とあるのは、PALの量に相当する蒸留水をイネに与えたことを示している。また、PALの「×100」の表記は、PALを100倍に薄めたことを示している。「×25」の表記も同様に、PALを25倍に薄めたことを示している。
【0091】
主食用米のあいちのかおりについては、プラズマを直接照射しても、玄米の収穫量はそれほど変わらなかった。PALをイネの成長点に供給した場合には、蒸留水をイネの成長点に供給した場合に比べて、玄米の収穫量が30%ほど増加した。
【0092】
酒米の山田錦については、プラズマを直接照射することにより、玄米の収穫量が10%程度増加した。PALをイネの成長点に供給した場合には、蒸留水をイネの成長点に供給した場合と同程度の玄米の収穫量が得られた。
【0093】
図14は、収穫した玄米における未熟米および割れ米の割合を示すグラフである。図14に示すように、主食用米のあいちのかおりに100倍に薄めたPALをイネの成長点に供給した場合には、蒸留水をイネの成長点に供給した場合に比べて、未熟米の割合が10%程度から3%程度に減少した。なお、割れ米については、PALの有無によらず5%程度であった。
【0094】
一方、酒米の山田錦については、プラズマを直接照射することにより、未熟米が10%程度から6%程度に減少した。割れ米については、プラズマの照射の有無によらず15%程度であった。
【0095】
図15は、収穫した玄米における腹白米および心白米の割合を示すグラフである。図15に示すように、主食用米のあいちのかおりに対して、PALの有無によって腹白米および心白米の割合は大きく変わらなかった。
【0096】
一方、酒米の山田錦については、プラズマを直接照射することにより、心白米の割合が45%程度から50%程度に増加した。
【0097】
3.実験のまとめ
3-1.収穫量の増加
図10に示すように、プラズマの直接照射を用いることにより、玄米の収穫量は増加した。また、収穫量の観点からは、主食用米に対してはPALを用いることが好ましい。酒米に対してはプラズマを直接照射することが好ましい。
【0098】
3-2.品質
また、図14に示すように、プラズマを用いることにより、未熟米の割合が減少した。
【0099】
図15に示すように、プラズマの直接照射を用いることにより、山田錦の心白米の割合が増加した。したがって、プラズマを用いることにより、山田錦の酒造好適米としての品質がより向上するといえる。
【0100】
(付記)
第1の態様におけるイネの生産方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液を準備する水溶液準備工程と、水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化水溶液とするプラズマ照射工程と、イネの成長点にプラズマ活性化水溶液を供給する水溶液供給工程と、を有する。
【0101】
第2の態様におけるイネの生産方法においては、水溶液供給工程を、イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間に実施する。
【0102】
第3の態様におけるイネの生産方法においては、水溶液供給工程では、イネの周囲を筒状部材により囲うとともに筒状部材の内部の水を汲み上げることにより成長点を露出させる。
【0103】
第4の態様におけるイネの生産方法においては、イネの成長点に向けて大気圧プラズマを直接照射する。
【0104】
第5の態様におけるイネの生産方法においては、成長点へのプラズマの照射を、イネの定植から幼穂が形成されるまでの期間に実施する。
【0105】
第6の態様におけるイネの生産方法においては、成長点にプラズマを照射する際に、イネの周囲を筒状部材により囲うとともに筒状部材の内部の水を汲み上げることにより成長点を露出させる。
【符号の説明】
【0106】
P1…プラズマ照射装置
M1…ロボットアーム
PM…プラズマ活性化水溶液製造装置
P10、P20、P30…プラズマ発生装置
10、11…筐体部
10i、11i…ガス導入口
10o、11o…ガス噴出口
2a、2b…電極
P…プラズマ領域
H…凹部(ホロー)
110…第1電極
120…第1の電位付与部
130…第1のリード線
140…ガス供給部
150…ガス管結合コネクター
160…ガス管
170…第1電極保護部材
210…第2電極
220…第2の電位付与部
230…第2のリード線
240…第2電極保護部材
250…容器
260…封止部材
270…架台
GP1…成長点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15