(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】運転シミュレーション装置および運転シミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 9/052 20060101AFI20220701BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20220701BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20220701BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
G09B9/052
G09B19/00 G
A61B3/113
G06F3/01 510
(21)【出願番号】P 2018149509
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504258686
【氏名又は名称】ソフトイーサ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】桑名 潤平
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-045067(JP,A)
【文献】特開2008-139553(JP,A)
【文献】特開2010-002714(JP,A)
【文献】特開2013-061597(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0220513(US,A1)
【文献】特開2015-230632(JP,A)
【文献】特開2018-010310(JP,A)
【文献】山崎 裕介 ほか,初心運転者に対する危険予測訓練法の効果検証,ヒューマンインタフェースシンポジウム2014 論文集,特定非営利活動法人 ヒューマンインタフェース学会,2014年09月09日,p.521-524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00-29/14
A61B 3/00-3/18
G06F 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を仮想的に体験するための映像を記憶する映像記憶部であって、固定物の映像で構成された背景部と、前記背景部内で移動する移動体の映像で構成された非背景部と、を有する前記映像を記憶する映像記憶部と、
仮想的な車両の運転の入力を行う入力部と、
仮想運転の利用者の視線を検知する視線検知装置と、
利用者の視野狭窄の情報を予め記憶する視野狭窄情報の記憶部と、
前記視野狭窄情報の記憶部に記憶された視野狭窄の情報に基づいて、前記映像を加工して狭窄映像を作成する映像作成部であって、前記視線検知装置が検知する視線の位置と、前記視野狭窄の情報と、前記入力部からの入力と、に応じて、視野狭窄した領域に重複する前記背景部の画像を表示しつつ視野狭窄した領域に重複する前記非背景部の画像を変更した前記狭窄映像を作成する前記映像作成部と、
を備えたことを特徴とする運転シミュレーション装置。
【請求項2】
前記視野狭窄の情報は、前記視線を中心とする視野における見えやすさの感度の分布の情報により構成され
ていることを特徴とする請求項1に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項3】
前記映像作成部は、前記感度の分布に応じて、前記非背景部の画像の透過度やコントラストを変更す
ることを特徴とする請求項2に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項4】
コンピュータを、
車両の運転を仮想的に体験するための映像を記憶する映像記憶部であって、固定物の映像で構成された背景部と、前記背景部内で移動する移動体の映像で構成された非背景部と、を有する前記映像を記憶する映像記憶部、
視線を中心とする視野における視野狭窄の情報に基づいて、前記映像を加工して狭窄映像を作成する映像作成部であって、仮想運転の利用者の視線を検知する視線検知装置が検知する視線の位置と、前記視野狭窄の情報と、仮想的な車両の運転の入力を行う入力部からの入力と、に応じて、視野狭窄した領域に重複する前記背景部の画像を表示しつつ視野狭窄した領域に重複する前記非背景部の画像を変更した前記狭窄映像を作成する前記映像作成部、
として機能させることを特徴とする運転シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転シミュレーション装置および運転シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転を模擬的、仮想的に体験させるための運転体験装置、いわゆるドライブシミュレータに関して、以下の技術が公知である。
【0003】
特許文献1(特開2009-174879公報)には、ドライブシミュレータで運転を仮想体験する際に、車両のユーザが変更を希望した制御特性の変更(車両のチューニング)に応じて、ドライブシミュレータの制御データを変更することで、実際の走行前にチューニングの効果をユーザが体感することが可能な技術が記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2017-217226号公報)には、ドライビングシミュレータ(100)において、右眼用の画像と左眼用の画像を作成する際に、使用者の緑内障や白内障等の状態に応じて症状画像(マスク画像MI)を風景画像(SI)に重ねて表示することで、風景の一部がマスク画像(MI)で塗りつぶされたような視野欠損の状況を模擬する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-174879公報
【文献】特開2017-217226公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
自動車の運転において、75歳以上の高齢者を対象に認知機能の確認が強化された。高齢者が運転免許を更新する場合に認知機能検査が義務付けられている。また、認知機能が低下した場合に引き起こしやすいとされる信号無視や逆走など18項目の違反行為が定められ、更新時でなくても、該当する行為をした場合は、認知機能検査を受けることとなっている。認知機能検査を通過した高齢者は、高齢者講習時には、運転シミュレータを使用して運転に必要な身体的な能力等が確認される。
【0007】
運転する高齢者に対して、認知機能に関する検査は行われるようになっているが、目に関する検査は視力検査に限定され、目の疾患による視野障害に関する検査は行われていない。視野障害(視野狭窄)は、緑内障や網膜色素変性、加齢黄斑変性、脳血管障害等の疾患が原因となって、視野の一部が見えにくくなったり、欠損することがある。視野のどの位置が見えにくくなったり、欠損するかは個人差が大きく、視野狭窄の位置や程度はさまざまである。視野狭窄が重篤であれば、本人が認識可能であるが、視野狭窄が軽度であれば、本人も気づかない場合や、気づきにくい場合もある。
【0008】
図7は視野欠損の一例の説明図であり、
図7Aは信号機が視野欠損にかかっていない状態の説明図、
図7Bは信号機が視野欠損にかかっている状態の説明図である。
図7において、視野01の領域の上部に欠損02がある場合、
図7Aに示すように、ドライバーが実際に見える視野において、欠損領域03が発生する。
図7Aに示す状態では、信号機04が見えているが、車が走行して信号機04に近づくと、信号機04が欠損領域03に重なることとなり、信号機04が見えなくなってしまう。実際にこのケースでは、
図7Aの状況で青信号であったのに、
図7Bの状況では赤信号となってしまい、ドライバーはブレーキを踏むことなく、信号を無視してしまう結果となった。
【0009】
図8は視野欠損の他の例の説明図であり、
図8Aは視野欠損がない状態の説明図、
図8Bは視野の下部に視野欠損がある状態の説明図である。
図8において、視野06の領域の下部(下半分)に欠損07がある場合、
図8Aに示すように、子供08の飛び出しがあっても、
図8Bに示すように、子供08が欠損領域09にかかっていると、子供08がドライバーには見えない。実際にこのケースでは、飛び出した子供08を、ブレーキをかけることなく轢いてしまう結果となった。特に、下部に欠損07があると、上部の信号機に視線がいった状況では、特に、歩行者が見えない問題が発生しやすい。
【0010】
このように、視野狭窄により引き起こされやすい事故場面があると考えられるが、過去の報告では、事故歴の有無を検討するなどの実際に事故を起こした場面での検証はなされていない。
したがって、ドライブシミュレータにおいて、このような視野欠損が運転に及ぼす影響、特に、交通事故との因果関係を研究する際には、欠損状態の視野を再現する必要がある。欠損状態の視野を再現する方法としては、特許文献2に記載の技術のように視野の一部を塗りつぶして欠損の状態を模擬したり、欠損箇所を遮蔽した眼鏡(ピンホール眼鏡)を使用することが考えられる。
【0011】
しかしながら、視野欠損の患者は、頭を動かさなくても眼を動かすだけで視線が移動し、視野が移動するが、ピンホール眼鏡を使用した場合は、頭を動かさなければ視線、視野が移動しない。したがって、ピンホール眼鏡では、視野欠損の状況を再現したとは言い難い。
【0012】
図9はフィリングインの説明図であり、
図9Aは脳のフィリングインの機能が働いていない状態の見える像の説明図、
図9Bは
図9Aにおいてフィリングイン機能が働いた場合に見える像の説明図である。
しかも、実際の視野欠損では、欠損領域が見えていないが、
図9Aに示すように黒く見えるのではなく、
図9Bに示すように見えていない領域を脳が自動的に補完する現象、いわゆる「フィリングイン」と呼ばれる現象が発生する。フィリングインとは、片方の眼に見えないところ(盲点、死角)があっても、もう片方の眼で見えた像で、人間の脳が自動的に補う機能、過程、現象のことである。よって、仮に、両目でも視野が欠けているところがある場合であっても、周りの風景から情報を作り出して、あたかも見えているように補正される。
【0013】
特許文献2に記載の技術では、フィリングインが考慮されておらず、視野欠損の患者が実際に見える画像は、特許文献2に記載のように、風景の一部がマスク画像で塗りつぶされたような画像となるのではなく、見えていない部分がフィリングインで補完された画像、映像となる。
したがって、視野欠損の患者は、必ずしも視野欠損を自覚しておらず、また、特許文献2に記載の技術やピンホール眼鏡を使用しても現実を正しく再現することはできない。
ドライブシミュレータとしては、特許文献1,2に記載の技術のように、設定に応じて制御特性を変更可能な技術が知られているが、フィリングインが考慮された視野狭窄を再現したり、仮想的に体験できるものは知られていない。
【0014】
本発明は、視野狭窄の運転に与える影響を体験可能な運転シミュレータを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の運転シミュレーション装置は、
車両の運転を仮想的に体験するための映像を記憶する映像記憶部であって、固定物の映像で構成された背景部と、前記背景部内で移動する移動体の映像で構成された非背景部と、を有する前記映像を記憶する映像記憶部と、
仮想的な車両の運転の入力を行う入力部と、
仮想運転の利用者の視線を検知する視線検知装置と、
利用者の視野狭窄の情報を予め記憶する視野狭窄情報の記憶部と、
前記視野狭窄情報の記憶部に記憶された視野狭窄の情報に基づいて、前記映像を加工して狭窄映像を作成する映像作成部であって、前記視線検知装置が検知する視線の位置と、前記視野狭窄の情報と、前記入力部からの入力と、に応じて、視野狭窄した領域に重複する前記背景部の画像を表示しつつ視野狭窄した領域に重複する前記非背景部の画像を変更した前記狭窄映像を作成する前記映像作成部と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の運転シミュレーション装置において、
前記視野狭窄の情報は、前記視線を中心とする視野における見えやすさの感度の分布の情報により構成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の運転シミュレーション装置において、
前記映像作成部は、前記感度の分布に応じて、前記非背景部の画像の透過度やコントラストを変更することを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明の運転シミュレーションプログラムは、
コンピュータを、
車両の運転を仮想的に体験するための映像を記憶する映像記憶部であって、固定物の映像で構成された背景部と、前記背景部内で移動する移動体の映像で構成された非背景部と、を有する前記映像を記憶する映像記憶部、
視線を中心とする視野における視野狭窄の情報に基づいて、前記映像を加工して狭窄映像を作成する映像作成部であって、仮想運転の利用者の視線を検知する視線検知装置が検知する視線の位置と、前記視野狭窄の情報と、仮想的な車両の運転の入力を行う入力部からの入力と、に応じて、視野狭窄した領域に重複する前記背景部の画像を表示しつつ視野狭窄した領域に重複する前記非背景部の画像を変更した前記狭窄映像を作成する前記映像作成部、
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1,4に記載の発明によれば、視野狭窄の運転に与える影響を体験可能な運転シミュレータを提供することができる。また、請求項1,3に記載の発明によれば、背景部を表示しつつ非背景部の画像を削除した狭窄状態映像を作成することで、フィリングインを再現することができる。
請求項2に記載の発明によれば、2値的な視野狭窄の情報を使用する場合に比べて、視野狭窄の情報として感度の分布情報を使用することで、実際の視野狭窄の状態を再現することができる。
請求項3に記載の発明によれば、感度の分布に応じて透過度を変更しない場合に比べて、表示される映像を実際の視野狭窄の状態で見える状況に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の実施例1の運転シミュレーション装置の説明図である。
【
図2】
図2は実施例1の運転シミュレーション装置が備えている各機能をブロック図で示した図である。
【
図3】
図3はドライブシミュレータで表示される映像の一例の説明図であり、
図3Aは視野狭窄がない状態の映像の説明図、
図3Bは視線が中央にあり且つ視野の左半分が欠損している状態の映像の説明図、
図3Cは
図3Bに比べて視線が左側に移動した場合の映像の説明図である。
【
図4】
図4はドライブシミュレータで表示される映像の他の一例の説明図であり、
図4Aは視野狭窄がない状態の映像の説明図、
図4Bは視線が中央にあり且つ視野の中心部以外が欠損している状態の映像の説明図、
図4Cは
図4Bに比べて視線が右側に移動した場合の映像の説明図である。
【
図6】
図6は実施例1の視野狭窄映像の表示処理のフローチャートの説明図である。
【
図7】
図7は視野欠損の一例の説明図であり、
図7Aは信号機が視野欠損にかかっていない状態の説明図、
図7Bは信号機が視野欠損にかかっている状態の説明図である。
【
図8】
図8は視野欠損の他の例の説明図であり、
図8Aは視野欠損がない状態の説明図、
図8Bは視野の下部に視野欠損がある状態の説明図である。
【
図9】
図9はフィリングインの説明図であり、
図9Aは脳のフィリングインの機能が働いていない状態の見える像の説明図、
図9Bは
図9Aにおいてフィリングイン機能が働いた場合に見える像の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の実施例1の運転シミュレーション装置の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の運転シミュレーション装置の一例としてのドライブシミュレータ1は、体験者2が着席する座席3を有する。座席3の前方には、シミュレータ本体6が配置されている。シミュレータ本体6には、入力部の一例としてのハンドル7が支持されている。また、シミュレータ本体6には、入力部の一例としてのアクセルペダル8およびブレーキペダル9が支持されている。
【0023】
シミュレータ本体6には、ケーブル11を介して表示装置の一例としてのプロジェクタ12が接続されている。プロジェクタ12は、表示部の一例としてのスクリーン13に映像を投影することで表示可能に構成されている。
また、シミュレータ本体6には、視線検知装置16が支持されている。視線検知装置16は、従来公知の種々のものを使用可能であり、例えば、体験者2の眼球の運動を計測して視線を検知、追跡する装置(Tobii社製のアイトラッカー製品等)を使用可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0024】
(実施例1の制御部の説明)
図2は実施例1の運転シミュレーション装置が備えている各機能をブロック図で示した図である。
図1において、シミュレータ本体6には、ドライブシミュレータ1の制御部Cが内蔵されている。
図2において、ドライブシミュレータ1の制御部Cは、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、制御部Cは、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリを有する。また、制御部Cは、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリを有する。また、制御部Cは、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置を有する。したがって、実施例1の制御部Cは、小型の情報処理装置、いわゆるマイクロコンピュータにより構成されている。よって、制御部Cは、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0025】
(ドライブシミュレータ1の制御部Cに接続された信号出力要素)
ドライブシミュレータ1の制御部Cは、切れ角センサSN1や、アクセルペダル踏込センサSN2、ブレーキペダル踏込センサSN3、視線検知装置16、そのほか、図示しないセンサ等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
切れ角センサSN1は、ハンドル7の切れ角(回転角、回転量)を計測する。
アクセルペダル踏込センサSN2は、アクセルペダル8の踏み込み量を計測する。
ブレーキペダル踏込センサSN3は、ブレーキペダル9の踏み込み量を計測する。
視線検知装置16は、体験者2の視線を検知する。
【0026】
(ドライブシミュレータ1の制御部Cに接続された被制御要素)
ドライブシミュレータ1の制御部Cは、プロジェクタ12や、その他の図示しない制御要素に接続されている。制御部Cは、プロジェクタ12等へ、それらの制御信号を出力している。
プロジェクタ12は、スクリーン13に画像(映像)を表示(投影)する。
【0027】
(ドライブシミュレータ1の制御部Cの機能)
ドライブシミュレータ1の制御部(運転シミュレーションプログラム)Cは、前記信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。すなわち、制御部Cは次の機能を有している。
【0028】
図3はドライブシミュレータで表示される映像の一例の説明図であり、
図3Aは視野狭窄がない状態の映像の説明図、
図3Bは視線が中央にあり且つ視野の左半分が欠損している状態の映像の説明図、
図3Cは
図3Bに比べて視線が左側に移動した場合の映像の説明図である。
図4はドライブシミュレータで表示される映像の他の一例の説明図であり、
図4Aは視野狭窄がない状態の映像の説明図、
図4Bは視線が中央にあり且つ視野の中心部以外が欠損している状態の映像の説明図、
図4Cは
図4Bに比べて視線が右側に移動した場合の映像の説明図である。
【0029】
C1:シミュレータ映像記憶部
シミュレータ映像記憶部C1は、ドライブシミュレータの映像を記憶する。
図3A、
図4Aにおいて、実施例1のシミュレータ映像記憶部C1は、建物や道路等の固定物が映像化された背景部31と、背景部31内で移動する車やバイク歩行者等の移動体が映像化された非背景部32と、を有する映像を記憶する。なお、ドライブシミュレータの映像は、特許文献1等に記載されているように従来公知の種々のものを使用可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0030】
C2:視野分布データ記憶部(視野狭窄情報の記憶部)
視野狭窄の情報の記憶部の一例としての視野分布データ記憶部C2は、視野の分布データを記憶する。
図3、
図4において、実施例の視野分布データ記憶部C2は、一例として、
図3に示すように視野36の左半分36aが欠損している情報や、
図4に示すように視野36の中央部以外36bが欠損(求心性視野狭窄)している情報を、視野の分布データ(視野狭窄の情報)として記憶する。
【0031】
図5は視野の情報の一例の説明図である。
なお、視野狭窄の情報は、
図3、
図4に示す場合に限定されない。欠損している領域の位置や数、大きさは、体験したい視野狭窄の状況に応じて任意に変更可能である。また、欠損している部分(見えない部分)/見える部分のような2値的な情報に限定されない。
図5において、視野欠損の患者等から、自動視野計で計測された網膜の決められた場所の感度の分布データを視野の分布データの一例として記憶されている。なお、視野狭窄は、市販されている公知の視野計を使用することで検出可能であり、任意の装置、方法で視野狭窄を含めた視野の状況を検出することが可能である。
【0032】
図5に示す一例において、視野36の中の各画素領域で、黒が濃い部分は感度が悪くほとんど見えない部分であり、黒が薄い部分(白に近い部分)は感度がよく、見える部分である。そして、その中間の濃度の部分(灰色の部分)は感度が中間の部分である。実際の視野欠損では、見えるか見えないかの2値的な状況である方が少なく、はっきりと見える部分(感度が良い部分)、全く見えない部分(感度が悪い部分)、少し見える部分(感度中間)が存在する場合がある。したがって、このような感度分布のデータを使用することも可能である。
なお、感度の段階(感度の分類)は、ドライブシミュレータ1における仕様や設計等に応じて任意に変更可能であり、2段階とすることも可能であり、3段階以上の多段階とすることも可能である。また、感度分布の細かさ(画素の大きさ)も設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。
【0033】
したがって、実施例1の視野狭窄の情報は、自動視野計で検出された視野の情報に基づいて、設計等で予め定められた感度の分類(段階や細かさ)に応じて作成され、視野分布データ記憶部C2に予め保存される。
なお、視野狭窄の情報は、ドライブシミュレータ1を利用する利用者自身の視野狭窄の情報を使用することも可能であるし、他人の視野狭窄の情報や典型的な視野狭窄状態の情報を使用して健常者が視野狭窄の状態での運転を体験することも可能である。
【0034】
C3:視線検知部
視線検知部C3は、視線検知装置16の検知結果に基づいて、体験者2の視線を検知する。視線検知部C3は、
図3、
図4の視線位置37に示すように体験者2の視線を検知する。
C4:ハンドル操作量検知部
ハンドル操作量検知部C4は、切れ角センサSN1の検知結果に基づいて、体験者2のハンドル7の操作量を検出する。
【0035】
C5:アクセル操作量検知部
アクセル操作量検知部C5は、アクセルペダル踏込センサSN2の検知結果に基づいて、体験者2のアクセルペダル8の操作量(踏み込み量)を検出する。
C6:ブレーキ操作量検知部
ブレーキ操作量検知部C6は、ブレーキペダル踏込センサSN3の検知結果に基づいて、体験者2のブレーキペダル9の操作量(踏み込み量)を検出する。
【0036】
C7:狭窄映像作成部
狭窄映像作成部C7は、視線(視線位置)37を中心とする視野36における視野分布データに基づいて、シミュレータ映像記憶部C1の映像を加工して狭窄状態映像41(
図3B、
図3C、
図4B、
図4C)を作成する。実施例1の狭窄映像作成部C7は、体験者2の視線位置37と、視野分布データと、ハンドル7、アクセルペダル8、ブレーキペダル9の操作量に応じて、ドライブシミュレータの仮想空間上で走行するように、狭窄状態映像を作成、更新していく。
図3、
図4において、ドライブシミュレータの映像(
図3A、
図4A)に対して、左半分36aが欠損していたり中央部以外36bが欠損している視野36に基づいて、視線37を中心として欠損領域の映像を変更(加工)する。
【0037】
このとき、フィリングインを再現するために、背景部31については加工をせず、非背景部32について欠損した領域36a,36bと重複する部分を削除するように映像を加工して、狭窄状態映像41(
図3B、
図4B)を作成する。そして、視線37が移動すると、
図3C、
図4Cに示すように、視線37に応じて欠損領域36a,36bを変動させ、変動した欠損領域36a,36bと重複しなくなった非背景部(軽トラックやバイク)32が削除されなくなった狭窄状態映像(視野狭窄映像)41に更新される。
また、ハンドル7の操作量に応じて、ドライブシミュレータの映像31,32が左右に向きが変動し、アクセルペダル8の操作量に応じて前進、加速し、ブレーキペダル9の操作量に応じて減速するように速度が計算され、ドライブシミュレータの映像が更新される。なお、ハンドル7やアクセル、ブレーキの操作に応じて映像を更新すること自体は、従来公知のドライブシミュレータと同様であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。そして、ハンドル7等の操作に応じて更新されたドライブシミュレータの映像と、視線37と視野分布データから視野狭窄映像41が作成、更新される。
【0038】
C8:映像表示部
映像表示部C8は、狭窄映像作成部C7で作成された視野狭窄映像41を、プロジェクタ12を介してスクリーン13に投影(表示)する。
【0039】
(フローチャートの説明)
図6は実施例1の視野狭窄映像の表示処理のフローチャートの説明図である。
図6のフローチャートの各ステップSTの処理は、ドライブシミュレータ1の制御部Cに記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理はドライブシミュレータ1の他の各種処理と並行して実行される。
図6に示すフローチャートはドライブシミュレータ1の起動(電源投入)により開始される。
【0040】
図6のST1において、ドライブシミュレータのデータ(映像)31,32を読み込む。そして、ST2に進む。
ST2において、視野分布データ(視野のデータ)36を読み込む。そして、ST3に進む。
ST3において、視線37の検出を開始する。そして、ST4に進む。
ST4において、視線と視野分布データ36とに応じて、表示画像(視野狭窄映像41)を作成して表示する。そして、ST5に進む。
【0041】
ST5において、ハンドル7の入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST6に進み、ノー(N)の場合はST7に進む。
ST6において、ハンドル7の入力(操作量)に応じて、表示画像(視野狭窄映像41)を更新する。そして、ST5に戻る。
ST7において、アクセルペダル8、ブレーキペダル9の入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST8に進み、ノー(N)の場合はST10に進む。
ST8において、ドライブシミュレータの仮想空間における走行速度を計算する。そして、ST9に進む。
【0042】
ST9において、速度に応じて画像(視野狭窄映像41)を更新する。そして、ST5に戻る。
ST10において、視線37の変動があったか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST11に進み、ノー(N)の場合はST12に進む。
ST11において、視線37の変動に応じて画像(視野狭窄映像41)を更新する。そして、ST5に戻る。
ST12において、ドライブシミュレータを終了する入力がされたか否かを判別する。ノー(N)の場合はST5に戻り、イエス(Y)の場合はドライブシミュレータ1を終了する。
【0043】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のドライブシミュレータ1では、視野狭窄の視野(視野領域)36のデータに応じて、視野狭窄画像41が作成される。視野狭窄画像41では、視野狭窄の状態での映像が表示され、視野に疾患がない体験者2でも視野狭窄の状態での運転を体験することができる。したがって、
図3B、
図4Bに示すように、軽トラックや二輪等が見えない状態で運転することを体験でき、視野狭窄の運転に与える影響を体験することができる。よって、視野狭窄の状態での運転が危険であることの啓発、啓蒙ができる。
特に、実施例1のドライブシミュレータ1では、背景部31と非背景部32とに対して、非背景部32が欠損領域36a,36bに重なる場合に削除され、背景部31は削除されない。したがって、フィリングインの状態も再現することができる。よって、フィリングインが再現されない場合に比べて、実際の視野狭窄の状態により近い状態を再現することができる。
【0044】
また、実施例1のドライブシミュレータ1では、視線37を検出して、視線37の変動に応じて、欠損領域36a,36bを移動させて、視野狭窄画像41が更新される。したがって、ピンホール眼鏡を使用する場合のように、首を動かさなくても、視線を動かした場合に、視野狭窄画像41が更新される。よって、ピンホール眼鏡を使用する場合に比べて、より実際の視野狭窄での運転状態に近い状態を再現することができる。
さらに、
図5に示すような視野領域36において、各画素ごとに感度が異なる視野データを使用し、例えば、感度が高い部分の映像を明るくし、感度が低い部分の映像を暗くするように視野狭窄画像41を作成することで、より実際の視野狭窄の状態を再現することができる。すなわち、感度に応じて、背景部31と非背景部32の両方の明度を変更したり、非背景部32のみの明度を変更する構成とすることも可能である。
また、例えば、視野欠損部分の感度の度合いに応じて、人や車等のオブジェクト(非背景部32)の透過度を変更することも可能である。すなわち、感度が良い部分はオブジェクトがほとんど透過されずに表示され、感度が悪い部分はオブジェクトが透明に近い表示とされることも可能である。
【0045】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H06)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、自動車のドライブシミュレータに適用する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、飛行機の運転を体験するフライトシミュレータや、二輪車の運転を体験するドライブシミュレータ、鉄道車両の運転を体験するシミュレータ、視野に疾患のある歩行者の歩行を体験するシミュレータ等にも適用可能である。
【0046】
(H02)前記実施例において、ドライブシミュレータの構成として、プロジェクタ12とスクリーン13を使用する構成を例示したが、テレビやモニタ等の表示装置に表示する構成に変更したり、ヘッドマウントディスプレイ等の体験者2が装着するタイプの表示装置に変更することも可能である。
(H03)前記実施例において、視線検知装置16として、例示した構成に限定されず、眼鏡型の構成とすることも可能である。また、ヘッドマウントディスプレイを使用する場合は、ヘッドマウントディスプレイに内蔵する構成とすることも可能である。
【0047】
(H04)前記実施例において、入力部材の一例として、ハンドル7、アクセルペダル8、ブレーキペダル9を使用する構成を例示したが、これに限定されない。クラッチペダルやサイドブレーキ、ウインカー等の入力部材を追加することも可能である。
(H05)前記実施例において、ドライブシミュレータの映像データとして、背景部31と非背景部32とを有するものにおいて、背景部31の映像を作成する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、カメラで撮影した画像や実際に見える画像を背景部31として、実在の画像に作成された非背景部32を重ねるようにして映像を表示する構成とすることも可能である。
【0048】
(H06)前記実施例において、建物等の固定物を背景部31としたがこれに限定されない。例えば、信号機のように、時間的な推移で、青、黄、赤と変わっていくものは、固定物とせず、移動体として扱うことも可能である。視野欠損の患者では、例えば、信号機のある交差点を通過する場合に、欠損領域に信号機のランプが重なって認識できない場合、フィリングインで信号機自体(信号機全体)が補完されず、信号機のない交差点と誤認し、結果的に信号無視をしてしまう場合もある。したがって、信号機を移動体とし、非背景部32として処理することで、実際の患者が認識する状況を模擬することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…運転シミュレーション装置、
7,8,9…入力部、
16…視線検知装置、
31…背景部、
31,32…映像、
32…非背景部、
36…視野、
37…視線、
41…狭窄映像、
C1…映像記憶部、
C7…映像作成部。