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特許7097594空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルター。
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  • 特許-空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルター。 図1
  • 特許-空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルター。 図2
  • 特許-空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルター。 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルター。
(51)【国際特許分類】
   A47J 31/08 20060101AFI20220701BHJP
   A47J 31/06 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
A47J31/08
A47J31/06 101
A47J31/06 103
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017209834
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019080748
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 育男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健二
【審査官】比嘉 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189674(JP,A)
【文献】特開2017-186069(JP,A)
【文献】登録実用新案第3143464(JP,U)
【文献】特開平07-096153(JP,A)
【文献】特開2006-061789(JP,A)
【文献】特開2017-119932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/08
A47J 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布あるいは抄紙のいずれかによって構成される飲料抽出フィルターであって、不織布あるいは抄紙が、比重が1.0以上、屈折率が1.65以下の熱可塑性樹脂からなる繊維とバインダー繊維とによって構成され、バインダー繊維のバインダー成分が熱融着することにより構成繊維同士が熱融着してなり、バインダー繊維がバインダー成分のみで構成される単相型のバインダー繊維であることを特徴とする空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルター。
【請求項2】
比重が1.0以上、屈折率が1.65以下の熱可塑性樹脂からなる繊維が、ポリフッ化ビニリデン繊維、ナイロン6繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の飲料抽出フィルター。
【請求項3】
バインダー繊維を構成するバインダー成分が、エチレングリコール、イソフタル酸およびテレフタル酸とからなる共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1または2記載の飲料抽出フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紅茶、緑茶などのティーバッグやコーヒーフィルター、また出汁パック等の飲料物を抽出するためのフィルター材料として好適な飲料抽出フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紅茶、緑茶などのティーバッグやコーヒーフィルターなどの飲料抽出フィルターとしては、ナイロン糸またはポリ乳酸糸を平織にした紗織物、熱可塑性合成繊維からなる短繊維不織布、パルプを主成分とする抄紙が用いられている。
【0003】
一般に、紗織物は、ナイロン6やポリ乳酸からなるモノフィラメント製の織物が用いられ、モノフィラメントの特性と紗織物の特性とが相まって透明性が高い。このことから、モノフィラメント製の紗織物を飲料抽出フィルターに用いた場合、消費者は内包されている紅茶葉、緑茶葉を目視することが可能である。しかしながら、紗織物は、不織布や抄紙と比較すると高価であるという欠点を有している。一方、不織布や抄紙は、紗織物と比較して、透明性に劣り、内包する紅茶葉や緑茶葉を目視しにくい。
【0004】
特許文献1には、紗織物のように透明性に優れ、かつ不織布製フィルターのように高い生産性を上げることができるフィルター材料として、紗織物に不織布を積層してなる繊維シートを提案している。しかしながら、特許文献1の繊維シートでは、高価な紗織物に不織布を積層してなるため、積層するための加工コストもかかるため、より高価なシートになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5907219号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、安価に製造可能な抄紙や不織布において、消費者がティーバッグ等の飲料フィルターを手に取った際に、紅茶葉、緑茶葉等の内包物を目視確認できるとともに、お湯で抽出中も茶葉等の内包物の状態を目視確認できる高付加価値性のある飲料抽出フィルターを提供することを課題とする。
【0007】
本発明者等は、不織布や抄紙において、紗織物と同等程度の透明性を確保しよう検討した。例えば、不織布や抄紙の目合いを粗くすることにより、透明性を向上させることが考えられるが、目合いを粗くすれば、内包する紅茶葉、緑茶葉等のフィルター効果に悪影響をきたすことになる。また、目付を小さくすることで、透明性を向上させることも検討したが、目付を小さくすれば、強度が劣るため、使用時に破れ等が発生する恐れがある。
【0008】
そこで、目合いや目付を変更せずに、透明性を向上する手段を種々検討したところ、構成繊維として特定の複屈折率のものを用いることにより、不織布や抄紙の透明性が向上することを見出し、本発明に到達した。本発明はこの知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、 不織布あるいは抄紙のいずれかによって構成される飲料抽出フィルターであって、不織布あるいは抄紙が、比重が1.0以上、屈折率が1.65以下の熱可塑性樹脂からなる繊維とバインダー繊維とによって構成され、バインダー繊維のバインダー成分が熱融着することにより構成繊維同士が熱融着してなり、バインダー繊維がバインダー成分のみで構成される単相型のバインダー繊維であることを特徴とする空気中及び水中で透明性を有する飲料抽出フィルターを要旨とするものである。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の飲料抽出フィルターは、不織布あるいは抄紙のいずれかによって構成され、不織布あるいは抄紙は、比重が1.0以上、屈折率が1.65以下の熱可塑性樹脂からなる繊維によって主として構成される。ここで、主として構成されるとは、不織布あるいは抄紙を構成する主体となる繊維(主体繊維)であるとの意味である。
【0012】
主体繊維を構成する熱可塑性樹脂の比重が1.0以上とすることにより、水の比重よりも高いため、お湯の中で抽出に用いる際に、フィルターが水面に浮きあがることなく、水中に沈みやすく抽出フィルターとして良好に機能することができる。
【0013】
本発明における主体繊維を構成する熱可塑性樹脂が、一般的な溶融紡糸法で透明な繊維形状を形成することが可能な樹脂であり、かつ、屈折率が1.65以下である。熱可塑性樹脂の屈折率を1.65以下とすることにより、水の屈折率である1.33と近似するため、飲料抽出フィルターを使用する際にお湯に浸けた場合、繊維と水の界面での光の反射が少なく、繊維と水との界面がわかりにくくなり同化しやすくなるため、フィルター内の内包物が視認しやすくなる。
【0014】
このような熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。さらに、本発明で用いる熱可塑性樹脂は、透明性が求められるものであるため、透明性を阻害する添加剤は添加しないものとし、特に繊維が白色化する酸化チタンは添加しないものとする。したがって、透明性を阻害する酸化チタンは添加されないため、空気中にて透明性を有する繊維となる。
【0015】
上記した熱可塑性樹脂は、一般に公知の溶融紡糸法で繊維化され、延伸後、所望の繊維長にカットされて、空気中および水中において所望の透明性を有する主体繊維となる。繊維の太さは特に限定されるものではないが、0.5デシテックスから100デシテックスの範囲が好ましい。特に、繊維の繊度が細くなると、繊維表面の反射が多くなるため、好ましくは1.0デシテックス以上、より好ましくは11デシテックス以上が好ましい。また、主体繊維の横断面形状は、円形断面であっても異形断面であってもよいが、異形断面の場合は、透明性が阻害されない断面形状を選択することをを考慮して、楕円形もしくは偏平形が好ましい。
【0016】
繊維長は繊維の繊度と加工性を考慮して決定すればよく、抄紙用繊維の場合は3mm~25mm、短繊維不織布用繊維の場合は32mm~128mmの範囲が好ましい。なお、短繊維不織布用繊維の場合、カットする前に繊維に捲縮を付与する。捲縮の数は繊維の繊度を考慮して決定されるが、繊維の長さ25mm当たりに7~20個が好ましい。
本発明では上記した繊維を主体繊維として不織布または抄紙に加工する。不織布または抄紙に加工する際、主体繊維同士を一体化して形態保持するために、バインダー繊維を用いる。バインダー繊維としては、高融点熱可塑性樹脂成分(以下、「高融点成分」ともいう。)と低融点熱可塑性樹脂成分(以下、「低融点成分」ともいう。)とから構成される複合型のバインダー繊維がよく知られており、中でも芯鞘複合バインダー繊維がよく知られている。そして、高融点成分/低融点成分の組み合わせとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート/低融点共重合ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレンが知られている。
【0017】
本発明では、このような複合バインダー繊維ではなく、バインダー成分のみで構成される単相型のバインダー繊維を用いる。
【0018】
高融点成分と低融点成分とから構成される複合型のバインダー繊維は、バインダー成分として機能するのは低融点成分であり、高融点成分はバインダー成分として機能しない。複合型のバインダー繊維に溶融接着のための熱処理を施すと、低融点成分が溶融して繊維同士の接着成分として機能し、一方、高融点成分は溶融することなく繊維形状を維持して繊維として残る。そうすると、溶融接着後において、バインダー繊維は、溶融した低融点成分と、繊維形態を維持した繊維としての高融点成分との繊維界面で、光による反射が発生し、得られる不織布や抄紙において透明性が阻害されやすい。したがって、本発明では、バインダー成分のみにより構成される単相バインダー繊維を用いる。



【0019】
バインダー繊維を構成するバインダー成分としては、主体繊維を構成する熱可塑性樹脂との融点差が20℃以上である低融点の熱可塑性樹脂が好ましく、より好ましくは融点差が40℃以上である低融点の熱可塑性樹脂である。具体的なバインダー成分としては、エチレングリコールとイソフタル酸およびテレフタル酸とからなる共重合ポリエステルが挙げられる。共重合ポリエステルにおいて、イソフタル酸の共重合量が多くなるほど、結晶性が失われ、非晶性の熱可塑性樹脂となるが、バインダー成分において、明確な融点を有しないものは、軟化点を融点とみなす。
【0020】
バインダー繊維の繊度は、特に限定しないが、主体繊維と混合する際に均一な分散性を考慮すると1~10デシテックス程度がよい。
【0021】
上記した主体繊維とバインダー繊維を用いて、不織布あるいは抄紙とする。主体繊維とバインダー繊維の混合比率は特に限定するものではないが、主体繊維/バインダー繊維=50/50~90/10(質量比)であることが好ましい。主体繊維とバインダー繊維とを混合して乾式ウェブまたは湿式ウェブを作成し、その後、加熱により、バインダー繊維を溶融させて、構成繊維同士を熱接着し、不織布あるいは抄紙を製造する。加熱手段としては、乾式ウェブまたは湿式ウェブの全面において熱が付与されることが好ましいため、熱風乾燥機内に通すことや、一対の熱ロール間を通すことにより、ウェブ全面に熱を付与し、構成繊維同士を熱接着するとよい。
【0022】
本発明において、飲料抽出フィルターを構成する不織布または抄紙の目付は、実用強度や取扱い性の観点から適宜選択すればよく、特に限定するものではないが、10g/m~60g/mの範囲が好ましい。
【0023】
上記した本発明における不織布または抄紙を用いて、ティーバッグやコーヒーフィルター等の所望の形状に裁断・加工し、茶葉等を内包して、飲料抽出フィルターを得ることができる。なお、裁断・加工の際には、本発明のフィルターは、熱可塑性繊維によって構成されるため、溶断処理を施すこともでき、また、ヒートシールにより茶葉等の内包物を内包後に容易にシールすることも可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の飲料抽出フィルターは、比重が1.0以上、屈折率が1.55以下の熱可塑性樹脂からなる繊維を主体繊維とする不織布あるいは抄紙により構成される。したがって、消費者がティーバッグ等の飲料フィルターを手に取った際に、紅茶葉、緑茶葉等の内包物を目視確認できるとともに、お湯で抽出中も茶葉等の内包物の状態を目視確認でき、また、使用の際に、お湯中に沈みやすく良好な抽出性を有し、高付加価値性のある飲料抽出フィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例における評価に用いた文字ボードの概略平面図である。
図2】実施例における透明性(空気中)の評価状況を示す概略図である。
図3】実施例における透明性(水中)の評価状況を示す概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1:文字ボード
2:試料
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の飲料抽出フィルターの評価は以下の方法により行った。
(1)透明性(空気中)
図1に記載するごとき、黒色地にフォントサイズ:8、9、10、12、14、16、18、20の9種類の大きさで“あ い う え お”と印字された白文字(フォント:MS P ゴシック)の文字ボードを用意する。そして、図2の透明性(空気中)の評価状況を示す概略図のごとき、評価する。すなわち、文字ボードの位置からの距離が20mmの位置に試料を取付ける。測定者は試料を通して、文字ボード上に印字された“あ い う え お”の文字を観察し、明瞭に識別できるフォントサイズのうち最も小さいサイズを判定する。
(2)透明性(水中)
図1記載に記載するごとき黒色地にフォントサイズ:8、9、10、12、14、16、18、20の9種類の大きさで“あ い う え お”と印字された白文字(フォント:MS P ゴシック)の文字ボードを用意する。そして、図3の透明性(水中)の評価状況を示す概略図のごとき評価する。すなわち、文字ボード上に、水の入ったシャーレを置く。シャーレの底面全体が試料によって覆われるように、水の入ったシャーレ中に試料を浸し入れる。なお、その際に、試料に皺等による重なり箇所が発生しないようにする。測定者は、水の入ったシャーレの底面に存在する試料を通して、“あ い う え お”の文字を観察し、明瞭に識別できるフォントサイズのうち最も小さいサイズを判定する。
(3)熱可塑性樹脂の屈折率
ASTM D542法に基づき測定した。
【0028】
実施例1
酸化チタンが添加されていない屈折率1.53のナイロン6短繊維(繊度:13デシテックス、繊維長:5mm、横断面形状:円形)を主体繊維とし、バインダー繊維として融点110℃の共重合ポリエステル短繊維(構成成分:エチレングリコール、イソフタル酸、テレフタル酸、繊度:6.6デシテックス、繊維長:5mm)を混率として、主体繊維:バインダー繊維=70:30の比率で混合して湿式ウェブを得、その後、温度150℃の熱風乾燥機内にて、加熱処理を施し、目付の45g/mの実施例1の抄紙を得た。
【0029】
実施例2
実施例1において、主体繊維であるナイロン6短繊維の繊度を1.7デシテックスとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の抄紙を得た。
【0030】
実施例3
実施例1において、主体繊維として、酸化チタンが添加されていない屈折率1.42のポリフッ化ビニリデン短繊維(繊度:100デシテックス、繊維長:10mm、横断面形状:円形)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の抄紙を得た。
【0031】
実施例4
実施例1において、主体繊維として、酸化チタンが添加されていない屈折率1.65のポリエチレンテレフタレート短繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:5mm、横断面形状:円形)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の抄紙を得た。
【0032】
比較例1
実施例1において、主体繊維として、酸化チタン添加量0.3質量%の屈折率1.53のナイロン6短繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:5mm、横断面形状:円形)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の抄紙を得た。
【0033】
得られた実施例1~4、比較例1の抄紙の透明性評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

図1
図2
図3