IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 内山工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スペーサ 図1
  • 特許-スペーサ 図2
  • 特許-スペーサ 図3
  • 特許-スペーサ 図4
  • 特許-スペーサ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】スペーサ
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20220701BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20220701BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
F02F1/14 A
F02F1/10 D
F01P3/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018133266
(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公開番号】P2020012388
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-128256(JP,A)
【文献】特開2015-203314(JP,A)
【文献】特開2016-109017(JP,A)
【文献】特開2018-105276(JP,A)
【文献】特開2000-127198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/14
F02F 1/10
F01P 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置されて、冷却水の流れを規制するスペーサにおいて、
合成樹脂からなる支持体と、
前記支持体の内面又は外面に取り付けられる多孔質体とを備え、
前記支持体には、前記多孔質体と重なる位置に形成された貫通孔と、
前記内面及び前記外面のうち前記多孔質体が取り付けられる側とは反対側に前記貫通孔に隣接して設けられるともに、前記貫通孔への前記冷却水の流れ込みを規制する堰部とが設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
請求項1において、
前記堰部は、前記支持体が前記冷却水流路内に配置された状態で、少なくとも一部が前記貫通孔よりも前記冷却水の流通方向の上流側に設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記堰部は、前記貫通孔の全周を囲んで設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項において、
前記多孔質体は、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮された状態から溝状の前記冷却水流路の幅方向に膨大化する特性を有し、
前記堰部は、前記多孔質体が膨大化して前記冷却水流路の一方の溝壁に当接する際、前記堰部の端部が、前記冷却水流路の他方の溝壁に当接するように形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項において、
前記貫通孔が複数設けられ、前記堰部は、前記貫通孔のそれぞれに設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項において、
前記貫通孔は、前記多孔質体と前記支持体とをインサート成型する際、前記多孔質体を成型型に押え付けるための押え部材によって形成される孔であることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路に配置されて用いられるスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
前記内燃機関のシリンダブロックに設けられたオープンデッキタイプの冷却水流路は、開口部を有した溝状に形成されており、冷却水流路を流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を規制するためのスペーサが開口部から挿入されて配置される。スペーサを開口部より冷却水流路に挿入して組付ける際、挿入荷重をなくして組付け性を向上することが望まれる。このような組付け性を考慮したものとしては、下記特許文献1に開示されているスペーサが挙げられる。
下記特許文献1には、スペーサ本体と、スペーサ本体の内面に取り付けられた発泡体とを備え、冷却水流路に組付けられる前は、発泡体が圧縮状態に保持されているスペーサが開示されている。そして、下記特許文献1には、スペーサ本体を厚み方向に貫く貫通孔が、発泡体と重なる位置に形成されたスペーサが開示されている(図15(c)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-128256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなスペーサは、スペーサ本体に貫通孔が形成されていると、貫通孔を通じて発泡体が設けられている側に冷却水が通過してしまい、冷却水の流量を規制するスペーサの機能が低下することが問題となる。
しかしながら、合成樹脂からなるスペーサ本体と発泡体とをインサート成型してスペーサを製造する場合、上記特許文献1の図15(a)及び図15(b)に図示されているように、合成樹脂の射出圧等により発泡体が移動しないよう押えつける押え部材が必要になる。したがって、上記特許文献1のようなスペーサ本体に発泡体が取り付けられたスペーサにおいては、スペーサ本体に形成された貫通孔を省略することは難しい。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、貫通孔が形成された支持体を有したスペーサであっても、貫通孔への冷却水の流れ込みを抑制可能なスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスペーサは、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置されて、冷却水の流れを規制するスペーサにおいて、合成樹脂からなる支持体と、前記支持体の内面又は外面に取り付けられる多孔質体とを備え、前記支持体には、前記多孔質体と重なる位置に形成された貫通孔と、前記内面及び前記外面のうち前記多孔質体が取り付けられる側とは反対側に前記貫通孔に隣接して設けられるともに、前記貫通孔への前記冷却水の流れ込みを規制する堰部とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るスペーサは、貫通孔が形成された支持体を有したスペーサであっても、貫通孔への冷却水の流れ込みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係るスペーサを内燃機関の冷却水流路内に配置した状態の一例を模式的に示す概略的横断平面図である。
図2】第1実施形態に係るスペーサを模式的に示し、(a)は図1のX部の拡大図であり、多孔質体が膨大化する前の状態を示す要部の部分拡大図である。(b)は(a)の状態から多孔質体が膨大化した状態を示す要部の部分拡大図である。
図3】(a)~(b)は第1実施形態に係るスペーサの変形例を模式的に示した図であり、貫通孔と堰部とを示す平面図である。
図4】(a)~(c)は第2実施形態に係るスペーサの製造方法を模式的に示した図であり、(a)は圧縮状態の多孔質体を成型型に配置する工程を示した図、(b)は同多孔質体と樹脂とをインサート成型する工程を示した図、(c)は脱型して得られたスペーサを示した図であり、図5(a)のZ-Z線矢視断面図である。
図5】(a)は第2実施形態に係るスペーサを模式的に示した概略的斜視図であり、(b)は図5(a)のY-Y線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係るスペーサ5は、自動車用エンジン等の内燃機関10のシリンダブロック1に設けられた冷却水流路3内に配置され、内燃機関10の作動に伴い昇温するシリンダボア壁20を冷却する冷却水の流れを規制し過冷却を防止するものである。スペーサ5は、合成樹脂からなる支持体6と、支持体6の内面6a又は外面6bに取り付けられる多孔質体7とを備えている。支持体6には、多孔質体7と重なる位置に形成された貫通孔60と、内面6a及び外面6bのうち多孔質体7が取り付けられる側とは反対側に貫通孔60に隣接して設けられるともに、貫通孔60への冷却水の流れ込みを規制する堰部61とが設けられている。以下、詳述する。
【0010】
<第1実施形態>
図1図3には、第1実施形態に係る半筒状のスペーサ5を示している。
図1に示すシリンダブロック1は、3気筒の内燃機関10を構成するものであり、複数のシリンダボア(気筒)2…が隣接した状態で直列に連なるように設けられている。シリンダブロック1の適所には、不図示のシリンダヘッドとヘッドガスケットを介して締結され合体させるためのボルト用挿通孔1aが複数設けられている。複数のシリンダボア2…の周囲には、オープンデッキタイプの溝状の冷却水流路(ウォータジャケット)3が一連に形成されている。またシリンダブロック1の適所には、この冷却水流路3に通じる冷却水導入口1bと冷却水排出口1cとが設けられている。冷却水排出口1cは、不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して冷却水導入口1bに配管接続される。これによって、冷却水流路3とラジエータとの間で冷却水(不凍液も含む)が循環するように構成される。
なお、シリンダヘッドにも冷却水流路が設けられる場合は、シリンダブロック1の冷却水流路3と、シリンダヘッドの冷却水流路とが連通するよう構成される。この場合は、シリンダブロック1には、冷却水排出口1cがなくても良く、シリンダヘッド側に冷却水排出口が設けられ、これにラジエータに通じる配管が接続される。
【0011】
シリンダボア2と冷却水流路3との間には、シリンダボア壁20が形成され、冷却水流路3を挟んで向かい合う両壁面は、シリンダボア2側の内側壁面3cと、シリンダボア2とは反対側の外側壁面3dとにより構成される。冷却水流路3は、シリンダボア壁20を効率よく冷却できるように形成され、図1に示すようにシリンダボア2を取り囲むよう形成された円弧形状部3aと、隣接するシリンダボア2,2間部分に互いに接近して対をなすよう形成されたくびれ形状部3bとを有している。くびれ形状部3bの溝幅は、冷却水流路3の他の円弧形状部3aの溝幅より大とされている。
【0012】
スペーサ5は、半筒状の支持体6と、支持体6に取り付けられて一体とされた多孔質体7とを備えている。スペーサ5は、冷却水の流れを規制するため、冷却水流路3の開口部4から挿入して冷却水流路3内に組付けられる。図例のスペーサ5は、冷却水流路3内の略半分の領域に配置されるよう形成されており、支持体6の内面6a(シリンダボア2側の側面)に多孔質体7が取り付けられた例を示している。
【0013】
支持体6は、上述のように合成樹脂の成型体からなり、円弧部62と、接続部63と、貫通孔60と、堰部61とを有している。円弧部62は、略半円形状とされ、シリンダボア2のそれぞれに対応して複数形成されている。接続部63は、隣接するシリンダボア2,2間に対応して形成され、隣接する円弧部62,62同士の接続部分となる。貫通孔60は、合成樹脂製の支持体6と多孔質体7とをインサート成型する際に、合成樹脂の射出圧等により多孔質体7が移動しないように押えつける押え部材によって形成されるため、多孔質体7と重なる位置に形成されている。貫通孔60は、多孔質体7側とは反対側の開口縁の全周が、シリンダボア2とは反対側に突出する中空円筒状の堰部61によって囲まれている。
【0014】
多孔質体7としては、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮された状態から溝状の冷却水流路3の幅方向a(図2(b)の矢印・幅方向a参照)に膨大化する特性を有したものが採用される。多孔質体7は、正面視矩形のシート状に形成されている。具体的には、多孔質体7は、上記の特性を持つものであれば、特に限定されないが、例えば、セルロース系スポンジが用いられる。上述のセルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材からなり、連続気泡型で優れた吸水性を有する。またセルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。よって、セルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有するため、多孔質体7として、好適である。この場合、前記所定の外的要因は冷却水であり、多孔質体7に冷却水が接することにより、多孔質体7に外的要因が付加されたことになり、多孔質体7は冷却水流路3の幅方向aに膨大化する。よって、スペーサ5を開口部4から挿入して冷却水流路3内に配置し組付ける際には、多孔質体7は圧縮された状態であるので、スペーサ5自体が薄板体でコンパクトな状態にある。よって、スペーサ5が冷却水流路3内に組付けられる際に、スペーサ5が冷却水流路3の内側壁面3c及び外側壁面3dに干渉することなく、スムーズに組付けられる。
【0015】
図2(a)及び図2(b)を参照しながら、スペーサ5について更に説明する。
図2(a)は図1のX部の部分拡大図である。また図2(b)は多孔質体7が膨大化した状態を示す部分拡大図である。
貫通孔60は、支持体6の内面6a及び外面6bに貫通して形成され、円弧部62に適宜間隔を空けて複数箇所に設けられる。堰部61は、複数の貫通孔60のそれぞれに設けられるとともに、上述したとおり貫通孔60毎に貫通孔60の全周を囲んで形成され、シリンダボア2とは反対側に突出した中空円筒状に形成されている。堰部61の中心は、貫通孔60の中心と一致しており、堰部61は、その一部が、貫通孔60の中心に対して、冷却水の流通方向の上流側に位置している。換言すれば、堰部61は、その一部が貫通孔60よりも冷却水の流通方向の上流側に設けられている。各堰部61は、全て同じ方向に向かって突出するように形成されている。つまり、堰部61の突出方向は、互いに平行である。
【0016】
図2(a)に示すように、多孔質体7が膨張する前の状態では、堰部61の端部61aと冷却水流路3の外側壁面3dとの間の距離は、多孔質体7が最も膨張した際の幅方向aにおける最大膨張量から多孔質体7と冷却水流路3の内側壁面3cとの最短距離を減じた値よりも小さい。これにより、多孔質体7が最も膨張した際に堰部61の端部61aを外側壁面3dに確実に当接させられる。また貫通孔60及び堰部61は、冷却水流路3の周方向における多孔質体7の両端側に対応する位置と、多孔質体7の両端側に設けられた貫通孔60及び堰部61の間、具体的には、円弧部62の頂点に対応する位置(円弧部62の最も突出した位置)と、に設けられている。そして、各堰部61の端部61aは、外側壁面3dに沿うような円弧状に形成されている。よって、冷却水流路3の周方向における多孔質体7の両端側に対応する位置に設けられた堰部61は、その端部61aが、斜めに切断されたような端面であり、且つ外側壁面3dに沿うような緩やかな円弧状に形成されている。
【0017】
このように形成されたスペーサ5は、シリンダブロック1の冷却水流路3内に配置された後(図2(a)参照)、シリンダブロック1の上面に、不図示のシリンダヘッドがヘッドガスケットを介して締結一体とされる。その後、冷却水流路3内に冷却水導入口1bから冷却水が導入されると、多孔質体7に冷却水が接触し、多孔質体7が復元してシリンダボア2側(反圧縮方向)に膨大化する。そして図2(b)に示すように多孔質体7の復元に伴って、多孔質体7の外面7a(シリンダボア2側の側面)が冷却水流路3の内側壁面(シリンダボア2側の壁面)3cに当接する。その一方で、多孔質体7が膨大化し、内側壁面3cに当接するので、支持体6は多孔質体7に押されるように移動し、堰部61の端部61aが外側壁面3dに当接する。多孔質体7は、冷却水流路3を流れる冷却水の冷却能力がシリンダボア壁20に対して過剰な箇所に設けられており、多孔質体7が膨大化すると、多孔質体7によって冷却水が堰き止められ、冷却水は冷却水流路3内を流れにくくなる。こうして冷却水流路3内に設置されるスペーサ5によってシリンダボア壁20の過冷却を防止することができる。
【0018】
このとき、支持体6に貫通孔60が形成されていても、堰部61の存在によって、多孔質体7が設けられている側とは反対側を流れる冷却水が、貫通孔60に流れ込むことは規制される。したがって、貫通孔60を通じて多孔質体7が設けられている側に向う冷却水の流量を低減することができる。よって、スペーサ5の機能の低下を防いで、想定どおりのスペーサ5の機能を実現することができる。また、支持体6に複数の貫通孔60が存在しても、多孔質体7が設けられている側とは反対側を流れる冷却水が、それらの貫通孔60を通過して、多孔質体7側に流入することを抑制できる。さらに堰部61は、貫通孔60の全周を囲んで設けられているので、冷却水が貫通孔60の下流側から回り込んで貫通孔60に流入することも抑制され、貫通孔60に向う冷却水の流れを堰部61によって、しっかりと堰き止めて、貫通孔60への流れ込みを低減することができる。したがって、スペーサ5の機能が複数の貫通孔60の存在により低下することを抑制できる。
【0019】
また上述したように堰部61は、多孔質体7が膨大化して冷却水流路3の内側壁面3cに当接する際、堰部61の端部61aが、冷却水流路3の外側壁面3dに当接するように形成されている(図2(b)参照)。これにより、堰部61は、多孔質体7が冷却水と接触して膨大化した際には、支持体6が多孔質体7側とは反対側に移動して、堰部61の端部61aが冷却水流路の外側壁面3dに当接する。したがって、冷却水が堰部61の端部61aと冷却水流路3の外側壁面3dとの間を流通し難くなり、ひいては堰部61を超えて貫通孔60から流入しようとする冷却水の流量を低減することができる。
【0020】
図3(a)~図3(d)には、堰部61の変形例を種々示している。
堰部61は、図2(a)に示すように中空円筒形状の円筒部分の内径が貫通孔60である例に限定されず、図3(a)に示すように堰部61を貫通孔60の縁部60aから所定の間隔dを空けて形成された中空円筒形状であってもよい。つまり、堰部61の内径が、貫通孔60の径よりも大きくなるように形成してもよい。このように堰部61を貫通孔60の縁部60aから所定の間隔dを空けて全周を囲んで形成した場合でも、貫通孔60への冷却水の流れ込みを抑制することができる。
【0021】
図3(b)~図3(d)は、貫通孔60に対して冷却水の流通方向の上流側に堰部61を設け、貫通孔60への冷却水の流れ込みを規制した例である。
図3(b)に示す堰部61は、冷却水の流通方向の上流側に形成されている。また堰部61は、貫通孔60の縁部60aに沿って形成され、縁部60aに重なる位置に平面視において半円形状に形成されている。また図3(c)に示す堰部61は、冷却水の流通方向の上流側に貫通孔60の縁部60aから所定の間隔dを空けて、平面視において半円形状に形成されている。さらに図3(d)に示す堰部61は、貫通孔60に対して冷却水の流通方向の上流側に貫通孔60の縁部60aから所定の間隔dを空けて形成されるとともに、貫通孔60に向おうとする冷却水に対向する衝立のように平板状に形成されている。より具体的には、堰部61は、上下方向に延びるように形成されている。
これらはいずれも、堰部61が貫通孔60よりも上流側に存在するので、上流側から冷却水が貫通孔60に直接流れ込むことを抑制できる。したがって、貫通孔60を通過する冷却水の量を低減することができ、スペーサ5の機能が低下することを抑制できる。
【0022】
<第2実施形態>
続いて図4及び図5を参照しながら、第2実施形態のスペーサ5を説明するとともに、その製造方法について説明する。第1実施形態と共通する箇所には共通の符号を付し、共通する箇所の説明は省略する。また以下では、第2実施形態に係るスペーサ5の製造方法について説明するが、第1実施形態に係るスペーサ5の製造方法としても適用可能である。
図4(a)及び(b)は、第2実施形態のスペーサ5の製造方法を示し、図4(a)は圧縮状態の多孔質体7を成型型に配置する工程を示している。また図4(b)は多孔質体7と合成樹脂とを一体にインサート成型する工程を示している。そして、図4(c)、図5(a)及び図5(b)は脱型して得られたスペーサ5を示している。また図4及び図5に示すスペーサ5は、第1実施形態に示す半筒状のものではなく、冷却水流路3内の適所に部分的に配置される部分スペーサである。スペーサ5は、冷却水流路3の円弧形状部3aに沿うような円弧形状に形成され、半円弧状の支持体6と、支持体6に取り付けられて一体とされた多孔質体7とを備えている。貫通孔60及び堰部61の形状・構成は、図1図2に示した例と同様である。
【0023】
スペーサ5は、図4(a)及び図4(b)に示すような成型装置100によって製造される。
成型装置100は、下型101と上型103とを有し、型締めしたときに円弧形状のキャビティ102を形成するように構成される。キャビティ102は、凸曲状の下型キャビティ102aと、上型キャビティ102bとで構成されている。下型キャビティ102aは、支持体6の四周部を成型する部分102aaと、多孔質体7が載置される凹段部分102abとを有している。上型キャビティ102bは、支持体6の外面6b(外側壁面3dに対向する面)側部分を成型するように形成されている。下型キャビティ102aの凹段部分102abは、多孔質体7を所望の円弧形状にしたときに載置し得る大きさ及び形状とされている。凹段部分102abの略中心部(凸曲部の最頂部)には、突起102acが形成されている。多孔質体7の所定位置には、貫通した透孔7cが複数形成されている。この透孔7cは、突起102acに挿通される透孔であり、凹段部分102abに形成された突起102acと、多孔質体7に形成された透孔7cは対応関係にある。すなわち、突起102acに透孔7cを挿通させて多孔質体7を載置すれば、凹段部分102ab内に多孔質体7が収まるように、突起102ac及び透孔7cが形成されている。
【0024】
上型キャビティ102bは、多孔質体7の押え部材となる押えピン102baと、押えピン102baの周囲に形成された環状の凹部102bbとを有している。押えピン102baは、型締め方向(図4(a)の白抜き矢印方向参照)に沿って突出して形成され、押えピン102baの突出高さは、支持体6の前記型締め方向に沿った厚みとほぼ等しい高さとなるように設定されている。凹部102bbは、堰部61を形成するためのキャビティを区画し、その溝の深さ寸法が、堰部61の突出高さに相当する。そして、この凹部102bbにまで溶融状態の合成樹脂が行き渡り硬化することで堰部61となる。また上型103には、キャビティ102に溶融状態の合成樹脂を射出するためのゲート部104が、前記凹段部分102abに対向する位置の上型キャビティ102bに臨むように形成されている。
【0025】
<製造方法>
続いて第2実施形態に係るスペーサ5を製造する方法について説明する。
まず、下型101上に、予め所定大きさに裁断され、且つ、所定位置に透孔7cが形成された方形の多孔質体7を配置する。このとき、下型101の突起102acに多孔質体7の透孔7cを嵌め合せ、多孔質体7の位置決めを行う(図4(a)参照)。その後、上型103を下型101に型締めし、溶融状態の合成樹脂をゲート部104から射出していく(図4(b)参照)。上型103を下型101に型締めすると、押えピン102baは、多孔質体7を介して凹段部分102abに当接した状態となり、凹段部分102abに載置された多孔質体7を押え付けた状態となる。これにより、多孔質体7は凹段部分102abの形状に沿って円弧状に変形する。そしてこの状態で、ゲート部104より溶融状態の合成樹脂をキャビティ102内に射出しインサート成型する。ゲート部104から合成樹脂を射出する際、多孔質体7は、高圧な射出圧を受けるが、押えピン102baによって確実に押え付けられているので、凹段部分102ab内から多孔質体7が位置ずれすることなく、インサート成型を行うことができる。またこのとき、溶融状態の合成樹脂は凹部102bbまで充填され行き渡り、堰部61を備えた支持体6を形成することができ、押えピン102baによって貫通孔60が形成される。
このように成型装置100を型締めし、合成樹脂を充填した後、保圧状態で冷却し合成樹脂を硬化させ、型開きして脱型すれば、図4(c)、図5(a)及び図5(b)に示すスペーサ5を得ることができる。
【0026】
支持体6の貫通孔60が形成される箇所は、押えピン102baによって押え付けられた箇所といえ、図5(a)に示すように支持体6の外面6bの四周に沿って複数の貫通孔60と堰部61とが形成される。また図4(c)及び図5(b)に示すように透孔7cに連なって、支持体6には、突起102acによって凹部6cが形成されるが、スペーサ5の機能に何ら影響はない。
【0027】
以上によれば、インサート成型時に、ゲート部104は、凹段部分102abに対向する位置の上型キャビティ102bに臨むように形成されているので、合成樹脂の射出圧は多孔質体7の内面7b側となる部位に直接作用する。このとき、多孔質体7は、透孔7cと突起102acとの嵌め合せによって位置決めされた上、押えピン102baによって、押え付けられるので、多孔質体7が射出圧等で移動したり、捲れたりしない状態でインサート成型できる。つまり、多孔質体7が凹段部分102ab内に収容された状態で支持体6と一体成型できる。そして、上記成型装置100によって製造されるスペーサ5は、インサート成型時に形成される貫通孔60に冷却水が流入することを防ぐ堰部61を備えたものとすることができ、堰部61を備えたスペーサ5を特段、製造工程が複雑化することなく、製造することができる。
【0028】
スペーサ5の構成、形状は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、スペーサ5を構成する支持体6に対して多孔質体7を固着させる位置(冷却水流路3の深さ方向の位置、周方向の位置)や多孔質体7の枚数(冷却水流路3の深さ方向の枚数、周方向の枚数)は、冷却水流路3内に配置されるスペーサ5の安定性、或いは、冷却水流路3内を流通する冷却水の冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。例えば、前記実施形態では、多孔質体7は、支持体6の円弧部62毎に設けられているが、支持体6の全て(複数)の円弧部62に対応するように連なった帯状の多孔質体7を支持体6に取り付けてもよい。また、支持体6の形状は、実施形態では、半筒状(半割状)のものを例示したが、冷却水流路3の全周に及ぶ全筒状のものであってもよい。さらに図示していないが、第2実施形態に示すように半割状より小さな部分スペーサの場合は、冷却水流路3内の一か所に配置してもよいし、複数箇所に配置してもよく、配置する部分スペーサの数は、冷却水流路3内のスペースや求められる仕様等に応じて適宜設定してもよい。さらにまたスペーサ5が適用される内燃機関として、3気筒の内燃機関を例示したが、これに限らず他の気筒数の内燃機関にも適用可能である。貫通孔60及び堰部61の形成個数や形成位置、形状も図例に限定されない。例えば貫通孔60は円形でなくても角形でもよく、堰部61はそのように形成された貫通孔60への冷却水の流入を規制できるように貫通孔60に隣接して設けられていればよい。
【0029】
多孔質体7も上述の実施形態に限定されない。例えば、多孔質体7としては、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、気泡の大きさ(径)が0.1~5mm程度のセルロース系スポンジを用いてもよい。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものが好ましいが、これに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ-テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、或いは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。また、多孔質体7は、セルロース系スポンジに限定されない。多孔質体7としては、例えば、水膨潤性シート、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された多孔質体シート等を用いてもよい。さらに 多孔質体7が膨大化する所定の外的要因としては、冷却水流路3内を流通する冷却水に限定されず、エンジンの作動によって加熱されて所定の温度以上に至った冷却水であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 内燃機関
1 シリンダブロック
3 冷却水流路
5 スペーサ
6 支持体
60 貫通孔
61 堰部
7 多孔質体
図1
図2
図3
図4
図5