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特許7097613疼痛治療のためのアルファ-チューブリンアセチル化の阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】疼痛治療のためのアルファ-チューブリンアセチル化の阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20220701BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220701BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K48/00
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P1/02
A61P15/00
A61P25/04
A61P19/02
A61P29/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018536390
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2016082765
(87)【国際公開番号】W WO2017121621
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-11-11
(31)【優先権主張番号】16151345.2
(32)【優先日】2016-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500262197
【氏名又は名称】ヨーロピアン モレキュラー バイオロジー ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ヘプンストール,ポール
(72)【発明者】
【氏名】モーリー,シェーン
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/133559(WO,A1)
【文献】Nat Commun,2013年,Vol.4,Article 1962
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A,2010年,Vol.107, No.50,p.21517-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ1の発現を減じることが可能な核酸の有効量を含む、感覚神経によって媒介される機械的疼痛処置用組成物であって、ここで該核酸または該核酸の転写物がα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ1をコードするヌクレオチド配列に結合することができる、組成物
【請求項2】
核酸が、siRNAをコードする請求項1に記載の組成物
【請求項3】
機械的疼痛が、減少する請求項1に記載の組成物
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物、および薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む、感覚神経によって媒介される機械的疼痛の予防または治療に使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的疼痛を治療するのに有用な新規鎮痛剤に関する。本発明は、感覚神経によって媒介される神経感覚の抑制のためのα-チューブリンアセチル化の阻害剤の使用を示す。機械的疼痛の知覚は、本発明に関し、特にα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ(Atat)酵素の発現および/または活性の調節により、α-チューブリンアセチル化を変更することによって調節することができる。本発明は、鎮痛剤としてのα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤の医療用途、および疼痛の治療に有用な化合物の同定のためのスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
痛みは、現実のまたは潜在的な組織損傷およびその感情的応答を反映する複雑な主観的感覚である。急性疼痛は、潜在的または実際の傷害を示す生理学的信号である。慢性疼痛は体因性(有機的)または心因性のいずれかであり得る。慢性疼痛はしばしば栄養徴候を伴うか、それに続き、しばしばうつ病をもたらす。慢性疼痛により、個々の苦しみと甚大な社会経済的費用が生じる。既存の薬理学的疼痛治療は、有効性および安全性の点で非常に不満足である。体因性疼痛は、侵害受容性起源、炎症性または神経障害性であり得る。侵害受容性疼痛は、体細胞性または内臓性の疼痛感受性神経線維の進行中の活性化に見合うと判断される。神経障害性疼痛は、末梢神経系における異常な体性感覚プロセスによって維持される神経系における機能不全に起因する。
【0003】
神経障害性疼痛は、神経系、末梢神経、後根神経節、後根、または中枢神経系への損傷に起因し得る持続性または慢性疼痛症候群である。神経障害性疼痛症候群には、アロディニア、帯状疱疹後神経痛および三叉神経痛などの様々な神経痛、幻肢痛、および反射性交感神経性ジストロフィーおよび灼熱痛のような複雑な局所疼痛症候群が含まれる。灼熱痛はしばしば、痛覚過敏およびアロディニアと組み合わせた自発性の焼けるような痛みを特徴とする。神経障害性疼痛の現在の治療方法は、経験した痛みを軽減または排除するのではなく、単に心理的または作業療法によって患者に対処することを手助けすることだけであるため、悲劇的にも、確立された神経障害性疼痛を適切に、予測可能にかつ特異的に治療するための既存の方法はない。特定の状態を対象とする薬物療法がないため、および、現在使用されている薬物療法は、ほんの僅かな軽減しかもたらさず、急性疼痛状態または不安およびうつ病のような副次的効果を軽減するそれらの有効性に基づいているため、神経障害性疼痛または慢性疼痛の治療は、医師および患者の挑戦である。慢性疼痛の発生率は社会で増加しており、社会への負担は健康管理と生産性の低下の両方において巨大である。現在、慢性疼痛緩和のための科学的に有効な治療法はない。結果として、保健社会は、多面的な療法が生活の質のなんらかの改善をもたらす希望と同時に使用される「疼痛管理」を目標としている。したがって、慢性疼痛を和らげることができる薬物が緊急に必要とされている。
【0004】
疼痛はしばしば機械的刺激によって引き起こされる。細胞または組織に作用する機械的力は、イオンチャネルと脂質二重層との直接的相互作用を介して、または下部にある細胞骨格のような他の細胞成分とのさらなる相互作用のいずれかを介して、機械的にゲート開閉されたイオンチャネルの開口部に伝播することができる。細菌機械感受性チャネルMscS7および真核2孔ドメインカリウムチャネルTRAAKおよびTREK18は、それらの機械感受性が原形質膜との相互作用の結果であることを示す還元膜システムで再構成された場合、機械的刺激によって完全に活性化される。しかしながら、真核生物で実施されたインビボ実験から、機械的情報変換は、さらなる細胞成分に依存して機械的感受性を増幅し、形成するという証拠がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、今日まで利用可能な機械的疼痛のための特別な治療法はない。本発明は、最先端の疼痛治療の問題、例えば毒性が強い副作用、および特に機械的刺激によって誘発される標的疼痛に対処する新規な鎮痛剤を提供することを目的としている
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、第一の態様において、対象における感覚神経によって媒介される神経性感覚の阻害における使用のためのα-チューブリンアセチル化阻害剤によって解決される。
【0007】
本明細書において、用語「感覚神経」は、感覚刺激に対応する神経刺激を伝達するように構成された神経に関連する。いくつかの態様によれば、感覚神経は、これに限定されるものではないが、機械的センサーおよび/または化学受容体などの物理的および/または化学的刺激によって活性化される。好ましくは、感覚神経は後根神経節(DRG)神経である。
【0008】
本明細書において、用語「アセチル化」はドナー分子(例えば、アセチルCoA)から特定の標的基質へのアセチル基の酵素的移動をいう。本発明において、酵素的移動の好ましい標的分子はチューブリンであり、より好ましくはα-チューブリンである。α-チューブリン上のリジン40のε-アミノ基のアセチル化は、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)の鞭毛で発見された(L'Hernault and Rosenbaum, 1983 J.Cell Biol. 97:258-263; LeDizet andPiperno, 1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:5720-5724) 微小管の管腔側上の保存された翻訳後修飾である(Nogales et al., 1999 Cell 96:79-88)。これまで、微小管のアセチル化の重要性に関する研究は限定的であった。
【0009】
驚くべきことに、本発明において、哺乳動物のα-チューブリンアセチル化に関与する主な酵素であるAtat1を末梢感覚神経から欠失させると、マウスの機械的感覚において顕著かつ選択的な喪失が生じることが示された。本発明者らは、これが軽い接触および痛みの両方に影響し、α-チューブリンアセチル化の不存在下では皮膚を神経支配するすべての機械的受容器サブタイプの応答性が低いことを示す。本発明者らは、この表現型は、Atat1cKOマウスにおけるアセチル化α-チューブリンの膜直下バンドの喪失によって順次媒介される感覚神経の増加した機械的剛性によって引き起こされることを提唱する。したがって、神経細胞におけるα-チューブリンアセチル化の調節は、触覚刺激および疼痛刺激の感覚および他の機械的に誘導される知覚を改変するための新規なアプローチである。
【0010】
本発明において、用語「神経学的感覚(neurological sensation)」は、特に、動物またはヒトによる機械的刺激のあらゆる知覚であって、最も好ましくは触覚(接触)および/または疼痛をいうものであると理解されるべきである。例えば、神経学的感覚(例えば、慢性疼痛)の病理学的慢性知覚の場合に機械的刺激の存在なしに生じる同一の知覚もさらに含まれる。好ましくは、神経学的感覚は末梢感覚神経、最も好ましくは、DRG末梢感覚神経によって媒介される。
【0011】
本明細書において用語「疼痛」は不快な感覚をいう。例えば、対象は不快感、苦悩または苦痛を経験する。種々の痛みを伴う状態は、広く対立するかまたは有用なカテゴリーにしたがって分類され得ることが当業者に知られている。対立するカテゴリーの例としては、侵害受容性疼痛に対して非侵害受容性疼痛、および急性疼痛に対して慢性疼痛が含まれる。当業者に使用される疼痛の他の共通のカテゴリーの例としては、機械的疼痛、神経障害性疼痛および幻肢痛が含まれる。
【0012】
本明細書において、用語「機械的疼痛」は、神経障害性でない頭痛以外の痛みまたは熱さ、冷たさまたは外部の化学的刺激に曝された結果をいう。機械的疼痛は、身体外傷(熱または化学的な火傷または他の刺激性および/または有害な有害化学物質への有痛性の曝露以外のもの)例えば、術後の痛みおよび切傷、打撲傷および骨折による痛み; 歯痛、義歯痛; 神経根の痛み; 骨関節炎; リウマチ性関節炎; 線維筋痛; 異常感覚性大腿痛(meralgia paresthetica); 背中の痛み; 癌に関連する疼痛; 狭心症; 手根管症候群症候群(carpel tunnel syndrome); 骨折、分娩、痔、腸ガス、消化不良および月経に起因する痛み、を含む。治療可能なそう痒状態には、乾癬性そう痒症、血液透析によるそう痒、水原性そう痒症(aguagenic pruritus)、および外陰部前庭炎に伴うそう痒、接触性皮膚炎、昆刺されおよび皮膚アレルギーが含まれる。
【0013】
本明細書において使用される用語「侵害受容(nociception)」は、侵害性の刺激または潜在的な傷害性の刺激の感覚への変換をいう。
【0014】
本明細書において使用される用語「侵害受容性疼痛」は、末梢神経系の一次知覚痛線維(primary sensory pain fibers)における活性によって引き起こされる痛みをいう。侵害性の刺激または痛みを伴う刺激に典型的に応答する末梢神経系の神経は、一般に、侵害受容器または侵害受容性神経と呼ばれる。さらに、侵害受容性経路は体性感覚皮質に及ぶ。
【0015】
本明細書で使用される用語「非侵害受容性疼痛」は、中枢神経系における神経の活性によって引き起こされる痛みをいう。非侵害受容性疼痛を引き起こす可能性のある中枢神経系の神経の例は、介在神経細胞および投射神経細胞などの脊髄の後角部の神経、または吻側延髄腹内側部(rostral ventromedial medulla :RVM)および中脳水道周囲灰白質(periaqueductal grey:PAG)などの疼痛感覚に関連することが知られている脳の部分の神経を含む。
【0016】
本明細書で使用される用語「急性疼痛」は本来的に一過性であるか、1ヶ月未満持続する痛みをいう。急性疼痛は、典型的には、軟組織の損傷、感染または炎症などの即時の有害な過程に関連し、対象に有害な状態を通知する目的を果たし、このようにしてさらなる有害の治療および予防を可能にする。
【0017】
本明細書で使用される用語「慢性疼痛」は、1ヶ月以上または急性組織損傷の解決を超えて持続する痛み、または再発する痛み、または組織の傷害に関連する痛み、および/または継続または進行が予測される慢性疾患に関連する痛みをいう。継続または進行が予測される慢性疾患の例としては、癌、関節炎、炎症性疾患、慢性創傷、心血管発作、脊髄障害、中枢神経系障害または手術からの回復が含まれてもよい。
【0018】
本明細書で使用される用語「神経障害」は、神経系の正常な機能に悪影響を与えるあらゆる状態をいう。神経障害は、中枢神経系または末梢神経系のどこに由来してもよいが、場合によっては、神経障害性疼痛を生じる。
【0019】
本明細書で使用される用語「神経障害性疼痛」は、神経系自体の損傷または異常な機能に起因する痛みをいう。神経系以外の組織傷害の任意の形態とは独立して存在し得るものである。神経障害性疼痛を引き起こす可能性のある条件の例としては、疾患(例えば、HIV、ヘルペス、糖尿病、癌、自己免疫疾患)、急性外傷(手術、けが、感電)、および慢性外傷(反復運動障害、アルコール、化学療法、または重金属などの化学毒性)を含む。
【0020】
本明細書で使用される用語「幻肢痛」は、患者が切断術により物理的に存在しなくなった、または末梢神経の完全な破壊のために完全に無感覚であることが知られている、体の部分の痛みを感知する状態。
【0021】
本明細書において使用される用語「痛覚過敏」は、侵害受容性刺激または有痛性の刺激に対する増大した感受性をいう。本明細書で使用される用語「アロディニア」は、通常の非侵害性の刺激が痛みを伴うと感じられる状態をいう。痛覚過敏およびアロディニアは、第1および第2のカテゴリーまたは状態に分けることができる。第1の痛覚過敏/アロディニアは、組織傷害を受けた身体の一領域における有痛性の刺激であって、以前は非有痛性の刺激であったものに対する感受性の増加である。第2の痛覚過敏/アロディニアは、疼痛感受性の全体的増加であり、脳内の様々な疼痛処理センターから末梢への入力低下を必要とする。
【0022】
本発明の別の態様は、皮膚のかゆみ、灼熱感、または侵害受容(疼痛)感覚である感覚神経媒介感覚にも関する。上述のとおり、疼痛は、炎症性疼痛、炎症性痛覚過敏、痛覚過敏、神経障害性疼痛、片頭痛、癌性疼痛、内臓性疼痛、変形性関節症疼痛、慢性疼痛および術後疼痛から選択することができる。しかしながら、神経損傷性疼痛が最も好ましい。
【0023】
本発明において、α-チューブリンアセチル化の阻害剤は、ドナー分子からα-チューブリンへのアセチル基の酵素的転移を損なうまたは妨げる任意の化合物であり得る。好ましくは、本発明において、末梢感覚神経のような神経細胞においてα-チューブリンアセチル化を特異的かつ選択的に阻害するような阻害剤である。一態様において、α-チューブリンアセチル化の阻害剤は、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ、そのRNA転写物またはそれをコードする遺伝子座との直接相互作用を介してα-チューブリンアセチル化を阻害し得る。本発明のそのような阻害剤は、「α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤またはアンタゴニスト」または類似表現として言及される。他の態様において、本発明は、アセチル化反応の他の成分、例えばα-チューブリン(基質)またはアセチル供与体分子と相互作用するα-チューブリンアセチル化の阻害剤も含む。そのような阻害剤の一例は、例えば、アセチル部分の受容体として作用する能力を失うK40 α-チューブリン変異体を作製するためのα-チューブリンの例えばCRISPR/Cas9遺伝子編集を媒介する遺伝子構築物であってもよい。
【0024】
上述のとおり、本発明の好ましい態様では、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤またはα-チューブリンアセチル化の阻害剤としてのアンタゴニストに関する。より好ましくは該α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤またはアンタゴニストは哺乳類/ヒトAtat1の阻害剤またはアンタゴニストである。
【0025】
本発明のα-チューブリンアセチル化の阻害剤は好ましくは医薬に使用される。したがって、対象の神経学的感覚の阻害は、対象の侵害性の神経学的感覚の予防または治療であってよく、好ましくは、上述のとおり、疼痛の予防および/または治療である。
【0026】
本明細書に開示される本発明における疼痛の予防または治療は、好ましくは、疼痛に罹患していることが疑われる対象または疼痛に罹患している対象への阻害剤の投与を含む。疼痛は、好ましくは、急性機械的疼痛、慢性機械的疼痛、機械的痛覚過敏、機械的アロディニア、炎症、歯痛、がん性疼痛、内臓性疼痛、関節炎痛、術後疼痛、神経障害性疼痛、陣痛を含む群から選択される。
【0027】
本発明における用語「対象」は、哺乳動物、好ましくはヒトを好ましくはいう。本発明の対象は疼痛に罹患する危険性があるか、または疼痛に苦しんでいる可能性があり、疼痛は本明細書の上記定義通りである。
【0028】
本発明のα-チューブリンアセチル化の阻害剤またはアンタゴニストは、いくつかの態様において、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに対する阻害活性を有する化合物から選択され、該化合物は、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチド模倣物、抗体または抗体様分子;例えば、アンチセンスDNAまたはRNA、リボザイム、RNAまたはDNAアプタマー、siRNA等のDNA、RNAのような核酸であって、ペプチド核酸(PNA)のようなそれらの変異体または誘導体を含む;多糖類またはオリゴ糖のような炭水化物等であって、その変異体または誘導体を含む;脂肪酸のような脂質等であって、その変異体または誘導体を含む;または、小分子リガンド、小細胞透過性分子、およびペプチド模倣化合物を含むがこれらに限定されない小有機分子、である。
【0029】
神経細胞におけるα-チューブリンアセチル化を阻害する方法の選択肢について、当業者はよく知っている。α-チューブリンアセチル化の阻害剤は、例えば、米国特許出願公開2014/0248635号に開示記載されており、この全体を参照することにより本願に組み込まれる。
【0030】
本明細書で使用される用語「α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤」は、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現量の低下または発現速度の低下または活性の低下に影響を及ぼす物質を意味する。そのような物質は、例えば、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに結合し、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ発現の量または速度、または特にその酵素活性を低下させることによって直接作用することができる。α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤はまた、例えば、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼとその基質との相互作用を低減または防止するような方法でα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに結合することによって;α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに結合し、それを例えば部分の除去または付加により、またはその三次元立体構造を変更することにより修飾することによって;および、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに結合し、その安定性または立体構造の完全性を低下させることによって、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現量または発現速度または活性を低下させることができる。α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、例えば調節タンパク質または遺伝子領域の機能を調節し、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ発現の量または速度の低下に影響を及ぼすように調節分子または遺伝子領域に結合することによって間接的に作用することもできる。したがって、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤またはアンタゴニストは、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現量または発現速度または活性の低下をもたらす任意の機序によって作用することができる。
【0031】
α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、例えば、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物または脂質のような天然または非天然の巨大分子であり得る。α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ミニボディー、二機能性抗体、一本鎖抗体(scFv)、可変領域断片(FvまたはFd)、FabまたはF(ab)2などの抗体またはその抗原結合断片であってもよい。α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに特異的なポリクローナル抗体であってもよい。α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、天然に生じる巨大分子の部分的にまたは完全に合成された誘導体、類似体または模倣物、または有機小分子または無機小分子であってもよい。
【0032】
α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、例えば、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼに結合する抗体であってよく、例えばチューブリンに結合するようにして、またはα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ発現量または発現速度または活性の低下を調節する分子の活性を変化させるようにして、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの基質との結合を阻害し得る。本発明の方法に有用な抗体は、モノクローナル抗体、もしくはポリクローナル抗体またはそれらの断片を含む、天然に生じる抗体、またはこれに限定されるものではないが、一本鎖抗体、キメラ抗体、二機能性抗体、相補鎖決定領域移植(CDR移植)抗体、およびヒト抗体、またはそれらの抗原結合断片を含む、非天然に生じる抗体、であってよい。
【0033】
核酸であるα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、例えば、アンチセンスヌクレオチド配列、RNA分子、またはアプタマー配列であってよい。アンチセンスヌクレオチド配列は、細胞内のヌクレオチド配列に結合することができ、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現レベルを調節するか、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現または活性を制御する別の遺伝子の発現を調節することができる。同様に、触媒的なリボザイムのような、RNA分子は、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、またはα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現または活性を制御する他の遺伝子に結合しその発現を変化させることができる。アプタマーは、分子標的に結合することができる三次元構造を有する核酸配列である。
【0034】
一つの好ましい実施態様において、本明細書に記載の本発明は、α-チューブリンアセチル化の阻害剤として使用される遺伝子編集のための遺伝子構築物に関する。遺伝子編集を用いることにより、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現、安定性または活性を調節することができる。あるいは、例えばα-チューブリンアセチル化の既知の標的部位であるリジン40を変異させるなどして、α-チューブリンアセチル化を減少させるために、遺伝子編集を用いてα-チューブリンそれ自体を改変してもよい。遺伝子編集アプローチは本技術分野でよく知られており、標的遺伝子配列が既知である場合に容易に適用することができる。好ましくは、このようなアプローチは、上記の記載に従って感覚神経を特異的に標的とするウィルスベクターを用いた遺伝子治療に使用してもよい。
【0035】
核酸であるα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼアンタゴニストまたは阻害剤は、RNA干渉法における使用のための二本鎖RNA分子であってもよい。RNA干渉(RNAi)は、転写後RNA分解またはサイレンシングによる配列特異的遺伝子サイレンシングの一つの方法である。RNAiは、サイレンシングされる標的遺伝子と相同な配列である二本鎖RNA(dsRNA)の使用によって開始される。RNAiのための適切な二本鎖RNA(dsRNA)は、19のRNA塩基対を形成する標的となる遺伝子に対応する約21個の連続するヌクレオチドのセンスおよびアンチセンス鎖を含み、各3 '末端に2つのヌクレオチドのオーバーハングを残す (Elbashir et al., Nature 411:494-498 (2001); Bass, Nature411:428-429 (2001); Zamore, Nat. Struct. Biol. 8:746-750 (2001))。約25~30ヌクレオチドのdsRNAもRNAiに首尾よく使用されている(Karabinos et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:7863-7868 (2001)。dsRNAは、インビトロで合成することができ、本技術分野で知られている方法によって細胞に導入することができる。
【0036】
一つの好ましい態様において、本明細書で提供されるαチューブリンアセチル化モジュレーターは、機械的疼痛の治療に使用されてもよい。
【0037】
本発明の別の態様は、疼痛の予防または治療に使用するための医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、上述のα-チューブリンアセチル化の阻害剤、および薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む。
【0038】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される担体」はいかなる全ての溶媒、可溶化剤、充填剤、安定剤、結合剤、吸収剤、塩基、緩衝剤、潤滑剤、徐放性ビヒクル、希釈剤、乳化剤、保湿剤、潤滑剤、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤または抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等、医薬品投与に適合性のあるものを含むことを意図する。薬学的に活性のある物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、本技術分野でよく知られている。任意の従来の媒体または薬剤が活性化合物と不適合である場合を除いて、組成物中のその使用が意図される。補助剤も組成物に組み込むことができる。一つの実施態様において、薬学的に許容される担体は、血清アルブミンを含む。
【0039】
本発明の医薬組成物は、その意図される投与経路に適合するように処方される。投与経路の例は、動脈内、静脈内、皮内、皮下、経口、経皮(局所)および経粘膜投与などの非経口投与を含む。
【0040】
非経口、皮内、または皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含むことができる:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの滅菌希釈剤;プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または重硫酸ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤; 酢酸、クエン酸またはリン酸のような緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはブドウ糖のような浸透圧調節剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与バイアルに封入することができる。
【0041】
注射用に適した医薬組成物には、滅菌水性溶液(水溶性の場合)または滅菌注射用溶液または分散液の即時調製のための分散液および滅菌粉末が含まれる。静脈内投与のために、適切な担体は、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF, Parsippany, N.J.)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む。すべての場合において、注射用組成物は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に流動性でなければならない。それは製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散液の場合に必要とされる粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の活動の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトール、および塩化ナトリウムなどのポリアルコールを含むことが好ましい。注射可能な組成物の持続的な吸収は、組成物中に吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによってもたらされ得る。
【0042】
滅菌注射溶液は、必要な量の活性化合物(例えば、ニューレグリン)を、適切な溶媒中に、上記で列挙した成分の1つまたは組合せと共に必要に応じて組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒体および上記に列挙したものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌濾過したその溶液からの有効成分と任意の追加の所望の成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥である。
【0043】
経口組成物は、一般に不活性希釈剤または食用担体を含む。それらは、ゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮することができる。経口治療投与の目的のために、活性化合物を賦形剤と組合せ、錠剤、トローチ剤またはカプセルの形態で使用することができる。経口組成物はまた、口腔洗浄剤として使用するために流体担体を使用して調製することができ、流体担体中の化合物は、経口的に口の中でグチュクチュし、吐き出されるかまたは飲み込まれる。薬学的に適合性のある結合剤、および/またはアジュバント物質は、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含むことができる:微結晶性セルロース、トラガカント・ゴムまたはゼラチンなどの結合剤;例えば澱粉または乳糖などの賦形剤、例えばアルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはコーンスターチなどの崩壊剤;例えばステアリン酸マグネシウムまたはスターテス(Stertes)などの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、メチルサリチレート、またはオレンジフレーバーなどの香味料。
【0044】
吸入による投与のために、化合物は、適切な噴霧剤、例えば二酸化炭素のような気体または噴霧器を含む加圧容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0045】
全身投与は、経粘膜または経皮的手段によることもできる。経粘膜または経皮投与のためには、浸透すべき障壁に適切な浸透剤が製剤中で使用される。そのような浸透剤は当業者に一般的に知られており、経粘膜投与のための、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、点鼻薬または座薬の使用によって達成することができる。当業者に一般的に知られている経皮投与のための医薬組成物は、軟膏剤、軟膏、ゲルまたはクリームである。
【0046】
一態様において、医薬組成物は、有効成分の持続放出または制御放出のために製剤化される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。材料は、商業的に入手することもでき(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いた感染細胞に標的化されたリポソームを含む)、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0047】
投与の容易さおよび投与量の均一性のために、投与単位形態で経口または非経口組成物を処方することが特に有利である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される対象の単位投与量として適した物理的に別個の単位を含み;各単位は、必要とされる薬学的担体に関連して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の投与単位形態の仕様は、活性化合物の独特の特徴および達成されるべき特定の治療効果、および個体の治療のためのそのような活性化合物を配合する技術に固有の限界によって決定され、直接依存する。
【0048】
このような化合物の毒性および治療効果は、例えばLD50(集団の50%に致死)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定するため、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性と治療効果との間の用量比は治療指数であり、これは比率LD50/ED50として表すことができる。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。有毒な副作用を示す化合物を使用することができるが、感染していない細胞への潜在的損傷を最小限にし、それにより副作用を低減するために、かかる化合物を罹患組織の部位に標的化する送達システムを設計するように注意すべきである。
【0049】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトでの使用のための投与量の範囲を定式化する際に使用することができる。このような化合物の投与量は、毒性がほとんどまたは全くないED50を含む血中濃度の範囲内にあることが好ましい。投与量は、使用される投与形態および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変化し得る。本発明の方法において使用される任意の化合物について、治療有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養で決定されたIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、用量を動物モデルで策定することができる。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。医薬組成物は、投与のための説明書と共に容器、パック、またはディスペンサーに含めることができる。
【0050】
本発明のさらに別の態様は、α-チューブリンのアセチル化を対象の感覚神経において阻害または低減する工程を含む、対象の感覚神経によって媒介される神経感覚を阻害する方法に関する。好ましくは、該方法は、感覚神経にα-チューブリンアセチル化の阻害剤、好ましくはα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ(Atat1)の阻害剤を導入する工程を含む
【0051】
本発明の方法のいくつかの態様において、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤を対象に投与する工程をさらに含み得る。
【0052】
該方法の他の態様では、神経感覚に関連する病状に罹患している対象を治療するための方法が提供され、好ましくは、該病状は、急性機械的疼痛、慢性機械的疼痛、機械的痛覚過敏、機械的アロディニア、炎症、歯痛、がん性疼痛、内臓性疼痛、関節炎痛、術後疼痛、神経障害性疼痛、陣痛のような疼痛である。
【0053】
本明細書に記載の本発明のアンタゴニストは、好ましくは、阻害性RNA、阻害性抗体またはその断片、および/または小分子からなる化合物の群から選択される。α-チューブリンのアセチル化の阻害剤およびアンタゴニストの詳細な説明は上述のとおり本明細書で提供されている。
【0054】
本発明に関し、疼痛に対して有効な少なくとも1つの追加の治療化合物、例えばモルヒネ、オピオイドまたは非オピオイド鎮痛薬または他の鎮痛薬が前記対象に投与されることも好ましい。
【0055】
上記の方法に関連して治療可能な疾患は、本明細書において上述のとおり記載されている。
【0056】
治療または予防の間に、他の鎮痛薬、例えばオピオイドまたは非オピオイド鎮痛薬のような痛みに対して有効な少なくとも1つの追加の治療薬が前記患者に投与されることが好ましい。
【0057】
先行技術における上記課題は、さらに、機械的に誘発された、または慢性の神経感覚を阻害するために有用な化合物を同定するためのスクリーニング方法によって解決され、該方法は以下の工程を含み:
(a)(i)α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を発現する生物学的細胞および/または(ii)α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼタンパク質と、候補化合物を接触させる工程;
(b)α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ酵素活性または発現の少なくとも1つを決定する工程;および
(c)工程(b)で決定された活性および/または発現を、候補化合物の非存在下でのα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの活性または発現と比較する工程、
α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの測定された活性および/または発現の減少は、候補化合物がα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤であり、かつ、該候補化合物は、機械的に誘発された神経学的感覚を阻害するために有用であることを示す、方法。
【0058】
いくつかの実施態様は、ex vivo方法またはin vitro方法である上記の方法に関する。
【0059】
本発明のスクリーニング方法によって同定された化合物は、好ましくは、痛みの治療に使用するのに適している。
【0060】
スクリーニングのための候補化合物は、好ましくは、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチド模倣物、抗体または抗体様分子;DNAまたはRNAなどの核酸であって、例えば、アンチセンスDNAもしくはRNA、リボザイム、RNAもしくはDNAアプタマー、siRNA等(ペプチド核酸(PNA)などのこれらの変異体または誘導体を包む);多糖類またはオリゴ糖などの炭水化物(これらの変異体または誘導体を含む);脂肪酸などの脂質(その変異体または誘導体を含む);または、小分子リガンド、小細胞透過性分子、およびペプチド模倣化合物を含むがこれらに限定されない小有機分子、から選択される。
【0061】
スクリーニング方法のいくつかの実施態様は、アッセイを利用するものであって、例えばPCRベースのアッセイを利用し、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼの発現がα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼmRNAを検出することによって決定され、または、例えば、免疫学的に、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼタンパク質を検出することによって決定される。mRNA発現を検出または定量するためのアッセイは、当業者によく知られている。このようなアッセイは定性的または定量的であり得るが、後者が好ましい。
【0062】
代替的または追加の実施態様において、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ活性は、α-チューブリンアセチル化を測定することによって決定されてもよい。この態様において、上記スクリーニング方法は、生物学的細胞のスクリーニングから、α-チューブリンアセチル化を測定するのに適した無細胞アッセイ系に適合させてもよい。この実施態様において、上記スクリーニング方法は、「生物学的細胞」の代わりに「無細胞系」が提供されるように変更される。α-チューブリンアセチル化を評価するための無細胞系は、α-チューブリン、アセチル-CoAなどのアセチル化ドナー、および単離された、または組換え発現されたα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼを単離または組換え発現する成分として含むことができる。候補化合物の存在下または非存在下の系におけるα-チューブリンアセチル化の量は、ドナー分子の減少またはα-チューブリンのアセチル化α-チューブリンへの変換のいずれかの反応をモニターすることによって決定される。
【0063】
添付の図面および配列を参照し、以下の実施例で本発明をさらに説明するが、これに限定されるものではない。本発明の目的のために、本明細書中で引用される全ての参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】(a)低閾値機械的感覚をアッセイするためのテープ試験の結果を要約した棒グラフ。Atat1cKOマウスは、5分の計数期間にわたって有意に少ない応答事象を示した(t-検定、P<0.05)。(b)低閾値機械的感覚をアッセイする綿棒分析の結果。Atat1cKOマウスは、Atat1Controlカウンターパートより有意に少ない応答事象を示した(t-検定、P<0.01)。(c)フォンフレイ(von Frey)閾値のグラフはAtat1cKO動物において有意に少ない応答頻度を示す(RM ANOVA、Holm-Sidak 法、P<0.001)。(d)尾の基部に取り付けられたクリップの認識に対する潜伏時間を示す棒グラフ。Atat1cKO動物は刺激に応答するのにかなり長い時間を要する(t-検定、P < 0.01)。(e)Atat1cKO動物とAtat1Control動物との間で侵害性の熱に対する記録された応答に有意差はなかった(t-検定、P>0.05)。(f)ロータロッド試験(Rotorod test)を使用したアッセイで運動性能(motorperformance)に有意差はなかった(RM ANOVA, Holm-Sidak 法、P> 0.05)。エラーバーはS.E.M.を示す。
図2】(a)緩徐に適合する機械的受容体線維(slowly adapting mechanoreceptor fibers:SAM)の典型的な応答(上)および刺激応答機能(下)、(b)急速に適合する機械受容体線維(rapidly adapting mechanoreceptor fibers:RAM)、(c)D-ヘア求心性(D-hair afferents)、(d)Aδ-機械的受容器(Aδ-mechanonociceptors:AM)、(e)C-線維侵害受容器(C-fibre nociceptors)、αTAT1コントロールおよびαTAT1cKOマウス由来 (反復測定ANOVAおよびポストホックボンフェローニ検定、SAM: P<0.001; RAM: P<0.0001; D-ヘア: P<0.0001; AM: P<0.0001; C-線維:P<0.0001)。(f)C線維発火(discharge)の平均フォンフレイ(von Frey)閾値(マン-ホイットニー検定、P<0.01)。 記録された線維の数は、各パネルの括弧内に示されている。* P<0.05; ** P<0.01; *** P<0.001; **** P<0.0001. エラーバーはS.E.M.を示す。
図3】(a)コントロールのAtat1ControlマウスとAtat1cKOマウス由来の感覚神経における神経突起の圧入(neurite indentation)によって活性化される異なる機械的ゲート電流の割合を示す積み重ねヒストグラム (χ2検定、P<0.05)。 NR、所与の変位512nmに対する 非応答性(non-responsive)。(b)Atat1ControlとAtat1cKO感覚神経の神経細胞体におけるプローブ変位の増加によって誘発されるRA電流の代表的な痕跡。 (c) RA電流の活性化の閾値は、20pA以上の電流を誘発する機械的刺激として決定された。閉じた円は個々の記録された細胞を示す。Atat1cKO感覚神経の変位閾値の顕著な増加に留意(マン-ホイットニー検定)。(d)プローブ変位の増加によって引き起こされるRA電流の刺激応答曲線。感覚神経におけるaTAT1の遺伝的枯渇は、RA電流振幅を有意に減少させた (反復測定ANOVAおよびポストホックボンフェローニ検定、P<0.0001)。(e)EGFP、αTAT1-YFPまたはαTAT1-GGL-YFP cDNAでトランスフェクトしたAtat1cKO感覚神経で観察された異なる機械的ゲート電流の割合を示す積み重ねヒストグラム。野生型αTAT1のトランスフェクションは機械的感受性(mechanosensitivity)の喪失を救済したが、触媒的に不活性なαTAT1(αTAT1-GGL-YFP)のトランスフェクションは、Atat1cKO感覚神経のそれを救済しなかった(χ2 検定, EGFP 対αTAT1-YFP、P<0.05;EGFP対αTAT1-GGL-YFP、P>0.05)。(f)EGFP、α-チューブリンK40R-IRES-YFP(K40R)またはα-チューブリンK40Q-IRES-YFP(K40Q)cDNAでトランスフェクトしたAtat1cKO感覚神経で観察された異なる機械的ゲート電流の割合を示す積み重ねヒストグラム。アセチル化不可能なα-チューブリン変異体(K40R)ではなく、アセチル化α-チューブリン模倣物(K40Q)のトランスフェクションは、Atat1cKO感覚神経における機械感受性を回復させた(χ2 検定、EGFP 対K40Q, P<0.05; EGFP対K40R、P>0.05)。記録された神経の数は、各パネルの括弧内に示されている。** P<0.01; **** P<0.0001;エラーバーはS.E.M.を示す。
図4】(a)Atat1Control培養DRG細胞の抗アセチル化α-チューブリン染色(下の対応する表面図)。アセチル化チューブリンの顕著な膜直下の局在に留意(スケールバー 5μm)。(b)Atat1Control培養DRG細胞の抗α-チューブリン染色 (スケールバー 5μm)。(c)Atat1ControlMEFsの抗アセチル化α-チューブリン染色(スケールバー 20μm)。この細胞型のアセチル化チューブリンの均一な分布に留意。(d)Atat1Control MEFsの抗α-チューブリン染色(スケールバー 20μm)。(e)Atat1Controlマウスから採取した伏在神経内の神経線維の免疫組織化学染色。抗アセチル化-α-チューブリン染色は緑色であり、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)は赤色である(スケールバー 10μm)。抗アセチル化チューブリン染色の膜直下の局在に留意。(f)Avil-Cre::SNAPCaaXマウスのホールマウント角膜標本における自由神経終末の蛍光画像。アセチル化チューブリンは緑色であり、膜結合型SNAP染色は赤色である(スケールバー 30μm)。シグナルの強い共局在に留意。(g)深さでコード化されたAtat1Control培養DRGカラーの抗α-チューブリン染色の超解像画像(目的に近い赤、スケールバー 5μm)。(i)Atat1ControlとAtat1cKOマウスから採取した培養DRG中の平滑末端カンチレバーを用いて、膜をそれぞれ200nm、400nmおよび600nmに刻み込むために必要な圧力を示すAFM解析の図式的概要。Atat1Control細胞よりもAtat1cKOニューロンの膜を圧入するためにはかなり高い圧力が必要とされる(マン-ホイットニー検定、P<0.01)。(j)経時的に高浸透圧ショックに応答してカルセイン(2μM)を負荷したAtat1ControlおよびAtat1cKO DRGからの軸索伸長の相対収縮を示すグラフ。Atat1の欠失は、コントロール試料と比較した軸索収縮率の有意な減少をもたらす (ANOVA on ranks、多重比較 Dunnの方法、P<0.05)。(k)高浸透圧ショックの前(紫色)および後(緑色)のC8 SIRチューブリン標識された微小管のオーバーレイを示す培養DRG細胞からの画像。収縮後の微小管の細胞骨格の明らかな圧縮に留意(スケールバー 10μm)。(l)チューブリン-K40QをトランスフェクトされたAtat1Control、Atat1cKO、およびAtat1cKO神経からのDRG神経における浸透圧で誘導された微小管圧縮を要約する棒グラフ。Atat1cKOはチューブリン-K40Qのトランスフェクションにより救済されたAtat1Control神経と比較して有意に少ない圧縮がある (ANOVA on ranks、多重比較 Dunnの方法、P<0.05)。エラーバーはS.E.M.を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0065】
材料と方法
【0066】
動物と行動実験
ATAT1遺伝子を欠失させる接触感受性に対する効果を研究目的で、我々は、Avil-Cre::ATAT1fl/+ (コントロール)およびAvil-Cre::Atat1fl/fl (cKO)動物を得るために、ATAT1fl/+ マウス17と末梢神経系特異的Cre系統Avilcre/+マウス18系統を交雑させた。マウスは、先の文献18、19に記載された遺伝子型であった、そしてイタリアの法律(9条、 1992年1月27日、116番)に従って、イタリア保健省のライセンスを受け、イタリアのモンテロトンドのEMBL Mouse Biology Unitで維持された。
【0067】
テープ応答アッセイのために、マウスをプレキシガラス容器中で15分間馴化させた。長さ3cm×幅1cmのテープ(Identiテープ)を、動物の背部の脊柱に沿って穏やかに適用した。それから、マウスを5分間モニターし、行動反応の数を記録した。マウスが引っ掻き、噛む、または揺すってテープを取り除こうとするたびに反応として記録された。
【0068】
綿棒の試験のために、マウスを、上昇したメッシュベースの上のプレキシガラスボックスに入れ、30分間慣れさせた。次に、綿棒をピンセットで引っ張ってそのサイズを大きくすることによって「膨らませた(puffed out)」。この拡大した綿棒を次に、穏やかなブラッシング方法を用いて動物の後足に適用した。最初は右に、次いで左後肢に行った。
【0069】
フォンフレイ(von Frey)試験のために、マウスを、上昇したメッシュプラットホーム上で上部が開いたプレキシガラス容器の内部に入れ、1時間馴化させた。0.02g~1gの最終的な力を有する一連のフォンフレイ(von Frey)線維(North Coast Medical、NC12775-99)を動物の後肢の左右の足に交互に適用し、肢体不自由肢の脱力応答を記録した。足撤回反応のはい/いいえが記録された。
【0070】
尾部クリップアッセイのために、(組織損傷を軽減するために)ゴムチューブで覆われ、400gの力を発揮するように調整されたワニ口クリップを、Atat1ControlおよびAtat1cKOマウスの尾の基部に取り付けた。動物をプレキシガラス容器に入れ、咬む、鳴くまたは持つによって示されたクリップの認識の潜伏時間を測定した。
【0071】
ホットプレートアッセイのために、マウスを55℃に予熱したホットプレート(Ugo Basile、35150)上に置き、ジャンプ、後足のフリック(flick)または後足の舐めが観察されるまで待ち時間を測定した。応答がない場合、30秒後にマウスをホットプレートから取り出した。
【0072】
ロータロッド試験(rotarod test)の改変を、未処理のAtat1ControlおよびAtat1cKOマウスで実施した。簡単にいうと、マウスをロータロッド(Rotarod 3375-5 TSE systems)の定常ダウエル(the stationary dowels)(Rotarod 3375-5 TSEシステム)に5分間慣らした。習慣化または試験の各段階の後に、食物および水を自由に与えて5分間の休息期間をおいた。次いで、マウスを5RPMで5分間移動ダウエル(the moving dowels)に馴化させた。この後、マウスを5、10、15、20および25RPMでそれぞれ2分間試験した。次いで、ダウエルに費やした時間を計算した。ダウエルを握っている間の落下または2回のフルスピンは、試験中に失敗とみなされた。
【0073】
Ex vivo 電気生理学
皮膚神経製剤は、本質的に先の文献に記載27されているとおり使用した。簡単にいうと、マウスをCO2吸入を用いて犠牲にし、後肢の皮膚と共に伏在神経を自由に解剖し、浴槽(organ bath)に入れた。この容器をNaCl 123 mM; KCl 3.5 mM; MgSO4 0.7mM; NaH2PO4 1.7 mM; CaCl2 2.0 mM;グルコン酸ナトリウム 9.5 mM; グルコース 5.5 mM; スクロース 7.5 mM; およびHEPES(pH of7.4) 10mMからなる合成間質液(SIF緩衝液)で灌流した。皮膚を真皮側を上にし、線維を裂いたり(fiber teasing)単一ユニット記録するために隣接するチャンバーに神経を配置した。ガラスロッドを用いて機械的探索刺激を与えて単一ユニットを単離し、伝導速度、フォンフレイヘア(von Frey hair)閾値、および閾値上の刺激に対する適応特性によって分類した。コンピューター制御のナノモーター(Kleindiek Nanotechnik)を使用して、既知の振幅および速度の機械的なランプおよびホールド刺激を適用した。2秒または10秒間の標準化された変位刺激を一定の間隔(間隙時間、30秒)で受容野に適用した。プローブは、0.8mmの平坦な円形接触面積を有するステンレス鋼の金属棒であった。線形モーターの動きを駆動する信号と未処理の電気生理学的データを、Powerlab 4.0システムおよびLabchart 7.1ソフトウェア(AD instrument)で収集し、スパイクをソフトウェアのスパイクヒストグラム拡張でオフラインで識別した。
【0074】
パッチクランプ
先の文献27に記載のとおり、DRG神経をマウスから採取し、解離させた。それらは、場合によっては、プレインストールされたプログラムSCN Basic Neuro program 6を使用して、室温でSCN nucleofector kit(Lonza AG)のマウス神経 Nucleofector溶液(20μl)と合計4~5μgのプラスミドDNAでNucleofectorシステム(Lonza AG)を用いてトランスフェクションされた。エレクトロポレーション後、37℃で10分間細胞懸濁液を500μlのRPMI 1640培地(Gibco)に移した。10%ウマ血清を補充したこの懸濁液を使用して、この細胞をガラスカバースリップ上にプレートして記録した。100ng/mlの神経成長因子(NGF)、50ng/mlのBDNFを補充したRPMI培地を、標準DRG培地で3~4時間後に置き換えた。電気生理学実験は、プレーティング後12時間に開始した。
【0075】
単離されたDRG神経からの全細胞記録は、先の文献23に記載されたとおり作製された。記録は、3~7MΩの抵抗を有する火仕上げされたガラス電極を用いてDRG神経から作製された。細胞外溶液はNaCl 140mM、MgCl2 1mM、CaCl2 2 mM、KCl 4 mM、グルコース 4 mM および HEPES(pH7.4) 10 mMを含み、電極はKCl 130mM、NaCl 10mM、MgCl2 1mM、EGTA 1mM および HEPES(pH 7.3) 10mMを含む溶液で満たされた。パッチされた細胞(WAS02; Ditel, Prague)の前に出口のアレイを移動させることにより、薬物含有溶液で細胞を灌流した。CCDカメラおよびイメージングソフトウェアAxioVisionを備えたObserver A1倒立顕微鏡(Zeiss)を用いて、観察を行った。膜電流および電圧を増幅し、40kHzでサンプリングしたEPC-10増幅器を用いて取得し、取得したトレースをPatchmasterおよびFitmasterソフトウェア(HEKA)を用いて分析した。ピペットおよび膜静電容量は、Pulseの自動機能を用いて補償された。ほとんどの実験では、電圧誤差を最小限に抑えるために、直列抵抗の70%が補償され、膜電圧は電圧クランプ回路で-60mVに保持された。全細胞コンフィギュレーションを確立した後、電圧ゲート電流を標準的な一連の電圧コマンドを用いて測定した。手短かに、神経は、150ms、-120mVまで先行パルスされ、5mV(40msの試験パルス持続時間)の増分で、-65から+55mVまで脱分極した。次に、増幅器を電流クランプモードに切り替え、電流注入を用いて活動電位を誘発した。膜静電容量と抵抗が機械的刺激後に20%以上変化した場合、細胞は膜が損傷したとみなされ、データは破棄された。MM3A 極微操作装置システム(Kleindiek)により駆動され、皿の表面に対して45度の角度に配置された熱研磨されたガラスピペット(チップ直径3~5μm)を用いて機械的刺激を適用した。プローブを神経突起の近くに配置し、200~600nmの工程で500ms前進させ、次いで引き上げた。機械的に活性化された電流の運動特性の分析のために、トレースはFitmasterソフトウェア(HEKA)を用いて単一の指数関数で適合させた。データは平均±s.e.m.として示す。
【0076】
免疫蛍光染色
DRG培養における微小管染色のために、細胞をPBSで1回洗浄し、次いで3%パラホルムアルデヒド、0.25%トリトンおよび0.2%グルタルアルデヒドを含む細胞骨格緩衝液(CB)pH6.3中で室温で15分間固定した。細胞をPBST(0.3%トリトン)で3回洗浄した。続いて、試料を室温で1時間、PBS中の5%正常ヤギ血清(NGS)でブロッキングした。それから、細胞を一次抗α-チューブリン(1:1000)(Sigma-Aldrich、T9026)または抗アセチル化-α-チューブリン(1:1000)(Sigma-Aldrich、T7451)を用いてPBS中で4℃で一晩静置した。それから、細胞をPBSで洗浄し、室温で1時間、蛍光標識二次抗体(1:1000)(Alexa Fluor 546 Lifetechnologies)と共に1時間インキュベートした。すべての画像は、ライカSP5共焦点顕微鏡上の40倍対物レンズを使用して取得した。画像の処理および表面プロットの生成はImageJを使用して実行された。画像はHuygensソフトウェアを用いてデコンボリューションした(deconvoluted)。
【0077】
DRG初代培養物中のアクチンフィラメントを、0.5μg/mlのAlexa488-ファロイジン(Lifetechnologies)で染色した。簡潔にいうと、0.3Mスクロースを補充し新たに加えられた細胞骨格緩衝液(10mM MES、138mM KCl、3mM MgCl2、2mM EGTA)中の新鮮な4%PFA(EMグレード、TAAB) で固定し、0.25%Triton-X-100(Sigma-Aldrich)中で透過処理し、2%BSA(Sigma-Aldrich)でブロッキングした。
【0078】
伏在神経の免疫染色は、PFAで固定した後、パラフィン切片上で行った。再水和後、抗原回収を10mMクエン酸ナトリウム(pH6)を用いて沸騰温度で10分間行った。続いて、切片を透過処理し(0.3%Triton X-100)、ブロッキングし(5%ヤギ血清)、抗アセチル化-α-チューブリン(Sigma-Aldrich、T7451)および抗ミエリン塩基性タンパク質(Chemicon、MAB386)で染色した。
【0079】
角膜染色のために、眼を取り出し、4%PFA中で室温で1時間固定した。角膜を解剖し、30分間PBS-Triton 0.03%で透過性にした。続いて、角膜を、1μMのSNAP表面546(New England Biolabs)を含有するPBS-Triton 0.03%中に30分間浸漬した。次いで、試料をPBS- Triton 0.03%で20分間洗浄し、続いてPBS- Triton 0.03%中の5%正常ヤギ血清で30分間ブロッキングした。次に、組織を抗アセチル化-α-チューブリン(1:500)で一晩染色した。それから、試料をPBSで洗浄し、二次抗体(AlexaFluor 488 Lifetechnologies)を5時間加えた。試料を再びPBSで洗浄し、DAPIで10分間染色した。それから、角膜を100%グリセロールを含むガラス上に載せ、画像化した。
【0080】
ホールマウント軸索伸長アッセイについて、個々のDRGをマウスから抽出し、Matrigel(Corning)中で7日間増殖させた。調製物を4%PFAで5分間固定し、4℃で一晩一次抗体PGP9.5(1:200)で標識した。それから、試料を室温で1時間、二次抗体(1:1000)Alexa Fluor 546 (Lifetechnologies)で標識した。すべての画像はライカLMD 7000を使用して取得した。
【0081】
SNAPタグ標識は、先の文献28に記載されているとおり、2μM BG TMRstar基質を麻酔したマウスの指の皮内に注射することによって実施した。5時間後、動物を犠牲にし、試料を画像化のために80%グリセロールにマウントした。
【0082】
伏在神経の電子顕微鏡検査
伏在神経を解剖し、4℃、0.1Mリン酸緩衝液中の新鮮な4%(w/v)PFA、2.5%(w/v)グルタルアルデヒド(TAAB)で24時間後固定した。後固定につづいて試料を1.5%(w/v)のフェロシアン化カリウムを補充した1%(w/v)OsO4と共に2時間インキュベートし、試料をエタノール中で脱水し、プロピレンオキシド/エポン(Epon、寒天)(1:1)で浸潤させた後、樹脂を包埋した。超薄切片を切断し(Ultracut S、Leica)、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で対比染色し、MSC 791 CCDカメラ(Gatan)を備えた透過型電子顕微鏡(TEM)Jeol 1010で観察した。
【0083】
マイクロ流体
DRG神経を10%FBS DMEM中の1:1 Matrigelで懸濁し、2つのチャンバーのマイクロ流体チップ(Xona Microfluidics, SD150)上に播種した。軸索は、2つのチャンバーを3~5日間接続しているマイクロチャンネルを横切って増殖することができた。実験の日に、細胞体および軸索チャンバーの両方の培地を、血清を含まない培地と3時間交換した。真核細胞から家で精製した1μMのモノビオチン化NGFを、1μMのストレプトアビジン結合量子ドット655(Life Technologies)と氷上で30分間結合させ、次いで画像化緩衝液(上記と同じ)で5nMに希釈し、 軸索チャンバー内の培地を置き換えるために使用した。軸索から細胞体チャンバーへの逆流を回避するために、細胞体と軸索チャンバーとの間に25%の体積差が維持された。5%CO2、37℃で1時間インキュベートした後、エンドソームを含むNGF-Qdot655の逆行輸送を、37℃、5%CO2加湿チャンバーを備えた共焦点Ultraview Vox(Perkin Elmer)を用いて画像化した。100秒の時間経過は300msの露光時間で記録した。 粒子追跡機能と自己回帰の動作追跡生成設定を使用してImarisソフトウェアで画像を解析した。
【0084】
超解像顕微鏡
細胞を3mlの温かいPBSで1回洗浄した。続いて、細胞を固定し、0.3%グルタルアルデヒドおよび0.25%Triton X-100を含有する細胞骨格緩衝液中で2分間透過処理を行った。これに続いて、細胞を2%グルタルアルデヒドを含む細胞骨格緩衝液中で10分間固定し、PBS中の0.1%水素化ホウ素ナトリウム(NaBH 4)2mlで7分間処理した。それから、細胞をPBS中で10分間3回洗浄した。細胞をPBS + 2%BSA中で30分間一次抗体(マウス抗α-チューブリン、Neomarker、1:500)と共にインキュベートした。 PBSで10分間3回洗浄した後、細胞を室温で30分間、二次抗体(ヤギ抗マウスAlexa 647、1:500、Molecular Probes A21236)に移した。それから、細胞をPBSで10分間3回洗浄し、次にPALM画像化のためにマウントした。画像化の時、細胞をPALM点滅緩衝液(50mM Tris pH8.0、10mM NaCl、10%グルコース、100U/ml グルコースオキシダーゼ(Sigma-Aldrich)、40ug/ml カタラーゼ(Sigma-Aldrich))で覆った。
【0085】
微小管(MT)ネットワーク形態の分析は、オープンソースソフトウェアCellProfiler29を使用して行われた。MT信号は、最上層フィルタによって増強され、次に、すべての画像について同じ手動閾値で2値化された。バイナリ画像は、CellProfilerの「skelPE」アルゴリズムを使用してスケルトン化され、得られたスケルトンは分岐点検出にかけられた。MTネットワークの複雑さの近似として、分岐点の数をスケルトン内のピクセル数で割った。さらに、MTの局所的な角度分布を測定して、それらが平行に走るか交差するか(角度分散)を評価した。この目的のために、各ピクセルを長さ11ピクセルの線形構造要素を使用して回転する形態学的フィルタにかけ、どの角度で最大応答を得たかを記録した。本発明者らは、MT極性に関する情報がないので、10度の工程で0度から170度までの角度に対する応答を計算した。次に、軸データ3で一般的に行われる角度倍化を使用して、直径51ピクセルのスライディングウインドウ内のMT方向の局所的な円形分散3を測定した。円形分散は、所与の領域内のMTが完全に平行である場合には値1を有し、MTが様々な方向に向いている場合にはより小さい値(0まで)を有する。最後に、所与のセル内のすべてのMTピクセルの平均円形分散を計算した。この値が1に近い場合、51ピクセルの長さスケールで局所的にMTがセルの大部分で平行であることを意味する。
【0086】
原子間力顕微鏡 (AFM)
力分光法測定は、生細胞分析のための流体チャンバ(Biocell; JPK)および試料観察のための倒立光学顕微鏡(Axiovert 200; Zeiss)を備えたNanoWizard AFM(JPK Instruments、Berlin、Germany)を用いて行った。
【0087】
DRG細胞を、予めポリリジン(500μg/ ml 室温で約1時間)の第1の層およびラミニン(20μg/ml 37℃で約1時間)の第2の層で被覆したガラスカバースリップ上に播種した。細胞を測定前に少なくとも15時間培養した。試料を培地に浸した液体チャンバー(Biocell; JPK)に挿入し、室温で測定を行った。細胞の状態は、光学顕微鏡によって絶えず監視された。
【0088】
細胞弾力性を探査するための圧子を、4.5μmの公称直径のシリカ微粒子(Bangs Laboratories Inc.)を、UV感受性接着剤(Loxeal UV Glue)を用いて、0.32N/mまたは0.08N/mの公称ばね定数を有するチプレスV型窒化ケイ素カンチレバー(NanoWorld, Innovative Technologies)に取り付けることによって作製した。シリカビーズを顕微鏡検査下で採取した。 測定の前にカンチレバーのばね定数を熱雑音法を用いて較正した。
【0089】
光学顕微鏡を使用することにより、ビーズに取り付けられたカンチレバーを単一のDRGの神経細胞体上に持ち込み、細胞に押し込むために押し下げた。zピエゾの動きと力が記録された。各細胞において、閉ループフィードバックモードで500pNの力負荷および5μm秒-1の速度で約8~10の力-距離曲線が得られた。
【0090】
細胞の弾性特性は、細胞のヤング率(E)を評価することによって評価した。この値は、記録されたF-D曲線の近似している部分をJPK DPソフトウェアを用いて分析することによって得られた。ソフトウェアは、信号の高さからカンチレバーの曲げを差し引いて、押し込みを計算することにより、接近する曲線を力 - 押し込み曲線に変換します。その後、次の方程式に従って、球形の圧子についてHertz-Sneddonモデルにより、圧入曲線を適合させた:
【0091】
【数1】
【0092】
ここで、δは押し込み深さ、aは圧子の接触半径、Rはシリカビーズ半径、νは試料のポアソン比(細胞に対して0.5に設定)30、Eはヤング率である。適合は、異なる押し込み200、400および600nmで実施した(得られた適合曲線の例についてはSIを参照)。
【0093】
ヤング率の値については、GraphPad Prism 5.0によるマンーホイットニー検定(両側分布)のノンパラメトリック統計解析を用いて、2つのデータ群間の統計的差異を評価した。 p値<0.05は統計的に有意であると考えた。
【0094】
浸透圧収縮アッセイ
培養したDRGを500nM C8 SIR-チューブリンを37℃、1時間でおよび/または37℃で30分間DRG 中の2μMカルセイン色素(Invitrogen C3100MP)で負荷した。それから、細胞を320mOsmで画像化緩衝液(10mM Hepes pH7.4、140mM NaCl、4mM KCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、5mM D-グルコース)に移した。5分間の順化期間の後、細胞を440mOsm(マンニトールで調整したモル浸透圧濃度)高浸透圧ショックに3分間供した。全ての画像処理は、ライカSP5共鳴スキャナを用いて行った。
【0095】
実施例1: Atat1コンディショナルノックアウトマウスは、機械的な非侵害性および侵害性の刺激の感覚を損なう
【0096】
感覚神経におけるAtat1破壊の細胞自律作用を調べるために、発明者らはコンディショナル遺伝子欠失戦略をとった。Atat1flマウス18を、感覚神経特異的Creドライバー系統Avil-Cre19と交配させて、Avil-Cre::Atat1fl/fl(Atat1cKOという)およびコントロールAvil-Cre::Atat1fl/+マウス(Atat1Controlという)を作製した。その後、マウスに一連の行動アッセイを行った。本発明者らはまず、毛状皮膚に適用された非侵害性の機械的刺激を検出する能力を試験した。粘着テープを動物の背中に穏やかに固定し、5分の観察期間にわたって反応の数を数えた。コントロールマウスは定期的にテープを除去しようと試みたが、Atat1cKOマウスは事実上それを無視し、反応の総数は有意に少なかった(図1a)。
【0097】
次に、本発明者らは、足の裏を綿が広げられた綿棒で軽く撫でることによって20、無毛の皮膚に適用された非侵害性の機械的刺激に対するマウスの感受性を調べた。またもや、Atat1cKOマウスは、Atat1Controlマウスよりもこの刺激に対して有意に反応が少なかった(図1b)。本発明者らは、マウスの後足に較正された力のフォンフレイ(von Frey)線維を適用することによって、点滴刺激に対する機械的感受性がAtat1cKOマウスにおいて変化したかどうかを調べた。コントロール動物は0.07gという低い力で反応し、侵害性の範囲の検出が直線的に増加した。しかしながら、Atat1cKOマウスは、フォンフレイ(von Frey)線維の範囲全体で応答を引き起こすために有意により高い力を必要とした(図1c)。
【0098】
侵害性の機械的感受性をより詳細に調べるために、本発明者らは、尾の基部に適用されたクリップに対する応答を分析した。Atat1cKOマウスは、Atat1Controlマウスと比較してクリップの認識にかなり長い待ち時間を示し、本質的に多くの時間それを無視した(図1d)。
【0099】
本発明者らは、ホットプレート上の応答時間を測定することにより、侵害性の熱検出がAtat1欠失による影響かどうかをさらに試験した。本発明者らは、Atat1cKOマウスとAtat1Controlマウスとの間の侵害性の温度に対する離脱潜時に差異がないことを観察した(図1e)。最後に、本発明者らは、ロータロッド装置上での性能を評価することにより、Atat1cKOマウスの運動協調性を評価した。Atat1cKOマウスおよびAtat1Controlマウスは、試験したすべてのスピードにおいて回転ドラムから落下する統計的に同様の潜時を示した。したがって、Atat1は、非侵害性および侵害性の機械的接触の検出には必要であるが、侵害性の熱または自己受容性の調整のためには必要とされない。
【0100】
実施例2:コンディショナルノックアウトマウスでは、感覚神経電気生理学的応答が損なわれる
【0101】
感覚神経軸索は、皮膚で終結し、接触感覚の基礎をなす機能的に異なる機械的受容体の多様な範囲を形成する1。それらは、伝導速度(Aβ、AδおよびC線維への)、それらの適応特性(迅速に適応または緩慢に適応する)およびそれらの機械的閾値によって分類することができる。Atat1欠失がこれらの集団のそれぞれにどのように影響し、接触感受性をどのように制御するのかを決定するために、本発明者らは、伏在神経における単一の皮膚感覚神経からのex vivo皮膚神経調製物を利用した。本発明者らは、速やかに伝導するAβ線維を、緩徐に適合する(slowly adapting:SAM)と急速に適合する(rapidly adapting:RAM)機械的受容体に分離することを最初に考えた。本発明者らは、刺激圧入あたりの活動電位の数が減少していることが明らかなSAM線維の機械的感受性の顕著な低下(図2a)、および、Atat1cKOマウスにおける応答の潜伏期が~10倍増加したことを観察した。発火頻度の低下は、機械的刺激のランプ段階(ramp phase)と静的段階(static phase)の両方で明らかであった。RAM線維は、それらの刺激応答機能において同様の減少を示した(図2b)、また、最大の変位刺激に対する潜時(latency)の増加を示した。これらの線維の特徴は、刺激速度の増加に伴ってより高い発火頻度を示すことであり21、この特徴はAtat1cKOマウスにおいても減少された。機械的、電気的閾値および伝導速度は、Atat1が存在しない場合のAβ線維では変化しなかった。次に、本発明者らは、機械的閾値および適応特性によって、D-ヘアおよびAβ-機械的侵害受容器(AM)単位として分類され得るAδ線維を調べた。機械的受容器の両集団は、それらの刺激応答機能(図2c、図2d)、機械的活性化のためのより長い潜時において有意な減少を示し、および動的刺激に対する感度の低下を示した。電気的閾値および伝導速度は、Atat1がない場合でも変化しなかった。最後に、本発明者らは、感覚求心路の最大集団であるC線維を検討した。他のすべての線維タイプと同様に、C線維は、圧入刺激によって引き起こされる活動電位数の減少を示した(図2e)、また、電気的特性または伝導速度に変化はなかった。際立ったことに、C線維の機械的閾値もAtat1cKOマウスにおいて有意に上昇した。このように、Atat1は、皮膚を支配するすべての主要な線維タイプの機械的感受性に必要とされる。
【0102】
実施例3: Atat1酵素活性の調節が機械的感受性を制御する
【0103】
Atat1の欠損が感覚神経における機械的伝達にどのように影響するかを決定するために、発明者らは、先の尖ってないガラスプローブで圧入された培養DRG神経から機械的感受性の電流を記録した。このような刺激は、急速適応(RA)、中間適応(IA)および緩徐適応(SA)応答としてさらに分類されるDRG神経の~90%の機械的ゲート電流を引き起こす可能性がある23。Atat1が存在しない場合、本発明者らは、DRG中の機械的感受性神経の数の著しい喪失を観察したが、これは各サブタイプの電流で顕著だった(図3a)。さらに、Atat1cKOマウスに機械的感受性電流を依然として示す少ない割合の神経は、有意に減少した電流振幅およびより高い閾値を示したが(図3b-d)、それらの活性化動態に差はなかった。Atat1ControlマウスとAtat1cKOマウスとの間に、DRG神経の減少した機械的感受性が損傷した膜特性から生じないことを示す、電圧ゲートチャンネル活性、静止膜電位、活動電位閾値、およびpH感受性のような他の機能的パラメーターは見いだせなかった。
【0104】
本発明者らは次に、Atat1cKOマウスにおいて観察される機械的感受性の低下が、外因性cDNAの発現によって機械的に活性化された電流が再確立され得るかどうかを試験することによってαTAT1のα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ活性に依存するか否かを調べた。ポジティブコントロールとして、本発明者らは、Atat1-YFP構築物のトランスフェクションが、Atat1cKO培養物における機械的感受性を救済し、DRGにわたるRA、IAおよびSA応答の割合がコントロールレベルに戻ったことを判定した(図3e)。続いて、本発明者らは、アセチルトランスフェラーゼ活性を有さないが、機能的なままである24触媒的に不活性な形態のαTAT1(αTAT1-GGLと呼ぶ)をトランスフェクトした。αTAT1-GGLの発現は、Atat1cKO神経における機械的感受性を回復させなかった、そして、本発明者らは、模擬eGFPトランスフェクションと比較して、機械的に活性化された電流タイプの割合に差異がないことを観察した(図3e)。Atat1は、α-チューブリンに加えて他の基質をアセチル化することも示されている25。したがって、α-チューブリンアセチル化が、Atat1cKOマウスの機械的感覚表現型の基礎をなすかどうかを決定するために、本発明者らはα-チューブリンリジン40のアセチル化を遺伝的に模倣するα-チューブリンのK40Q点突然変異体をトランスフェクトした。K40Q α-チューブリンの発現は、Atat1Controlレベルに対するAtat1cKO DRG神経の機械的感受性を救済したが、電荷保存コントロール変異(K40R)は有意な効果を示さなかった(図3f)。まとめると、これらのデータは、αTAT1のアセチルトランスフェラーゼ活性が機械的感受性を制御し、アセチル化α-チューブリンが有望なエフェクターであることを示した。
【0105】
実施例4:末梢感覚神経における微小管組織
【0106】
本発明者らは、感覚神経におけるアセチル化微小管の分布を調べることにより、アセチル化チューブリンの機械的感受性への潜在的な構造的寄与を調べた。際立ったことに、本発明者らは、アセチル化α-チューブリンが、培養されたDRG神経の原形質膜直下の顕著なバンドに濃縮されていることを観察した(図4a)、一方で、α-チューブリンはすべての細胞の細胞質に均一に分布していた(図4b)。重要なことに、このバンドは、アセチル化α-チューブリンが微小管ネットワーク全体に存在する線維芽細胞などの非機械的感覚細胞には存在しなかった(図4cおよび図4d)。本発明者らは、末梢神経系の無傷の調製物中のアセチル化α-チューブリンの分布をさらに調べた。やはり、アセチル化は、伏在神経における軸索の膜の下で高度に濃縮されていた(図4e)、角膜の感覚神経終末でも同様だった(図4f)。
【0107】
Atat1cKOマウスにおけるアセチル化α-チューブリン膜直下バンドの消失は、DRG神経における微小管の組織化に潜在的な影響を及ぼし、それによって機械的感受性に影響を与える可能性がある。実際に、微小管の配置は、視床下部浸透圧受容神経(hypothalamic osmosensory neurons)の機械的感受性にとって重要であることが最近示されている26。超解像顕微鏡およびα-チューブリン分布の自動分析を利用したが、Atat1ControlマウスとAtat1cKOマウスの感覚神経における微小管の空間的配置の差を検出することはできなかった(図4gおよび図4h)。さらに、アクチン細胞骨格の組織化も、Atat1cKOマウスにおいて変化していないようであった。
【0108】
それでは、アセチル化α-チューブリンバンドの機能は何であって、皮膚の機械的受容体の範囲全体で機械的感受性にどのように影響するだろうか?1つの可能性は、それが細胞の剛性を設定し、それにより原形質膜を置き換えて機械的感受性チャネルを活性化するのに必要な力の大きさに影響を及ぼすことである。本発明者らは、原子間力顕微鏡を用いて膜の弾性を直接測定することによってこれを調べた。Atat1cKOマウスのDRG神経において、本発明者らは、主に膜(200nm)を摂動させる変位から、その下部の細胞骨格(600nm)を変形させる変位に及ぶ圧入の範囲にわたって細胞の剛性が有意に高いことを観察した。したがって、Atat1ControlマウスよりもAtat1cKOマウスの感覚神経を圧入させるためには、より大きな力が必要である。本発明者らは、高浸透圧誘導収縮に対する神経の感受性をアッセイすることにより、このことをさらに検討した。Atat1が存在しない場合、感覚神経軸索は、コントロールの対応物よりも収縮が少なく、アセチル化模倣突然変異α-チューブリンK40Qの発現によって救済され得る効果である(図4j)。
【0109】
最後に、本発明者らは、微小管細胞骨格が浸透圧によって誘導される圧迫にどのように応答するかを調べた。本発明者らは、新規なチューブリン標識蛍光色素を用いて、ライブイメージング実験において個々の微小管束を分解することができた。際立ったことに、本発明者らは、Atat1cKOマウス由来のDRG神経において、高浸透圧溶液の適用時に有意に減少した微小管変位を観察した(図4k、図4l)、このことは、α-チューブリンアセチル化の不存在下で感覚神経が機械的変形に対してより耐性があるという前提をさらに支持する。
【0110】
参考文献
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【0111】
図面の用語
Tape Test:テープ試験
Cotton Swab Test:綿棒試験
Number of responses:応答数
Von Frey test:フォンフレイ試験
Tail clip test:尾部クリップ試験
%response:応答%
Time (s) :時間(秒)
Hotplate assay:ホットプレートアッセイ
Rotorod:ロータロッド
Speed(RPM) :速度(RPM)
Ramp phase:ランプ段階
Spikes per s:1秒あたりのスパイク数
Displacement(μm) :変位(μm)
D-Hair:Dヘア
C fibres:C線維
% of total:全体の%
Percent size:パーセントサイズ
Before:前
After:後
Pixel intensity / area:ピクセル強度/面積
図1
図2
図3
図4