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特許7097629最小侵襲投与のための注射可能な予成形される肉眼的三次元スキャフォールド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】最小侵襲投与のための注射可能な予成形される肉眼的三次元スキャフォールド
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20220701BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220701BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220701BHJP
   A61K 35/13 20150101ALI20220701BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220701BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220701BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220701BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220701BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220701BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220701BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220701BHJP
   C12N 11/08 20200101ALN20220701BHJP
   C07K 17/08 20060101ALN20220701BHJP
   C12N 5/00 20060101ALN20220701BHJP
【FI】
A61K47/36 ZNA
A61K9/06
A61K35/12
A61K35/13
A61K38/19
A61K31/7088
A61K31/711
A61K47/32
A61K47/38
A61L27/20
A61P43/00 105
C12N11/08
C07K17/08
C12N5/00
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020095862
(22)【出願日】2020-06-02
(62)【分割の表示】P 2018117680の分割
【原出願日】2012-04-27
(65)【公開番号】P2020143147
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-06-30
(31)【優先権主張番号】61/480,237
(32)【優先日】2011-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バンシェリフ シディ エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ムーニー デビッド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ デビッド
(72)【発明者】
【氏名】サンズ ロジャー ウォーレン
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6741723(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0008443(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61L 27/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互接続したマクロ開口孔を含む、注射可能な、細胞接着クリオゲル組成物であって、
該クリオゲル組成物は、体積で少なくとも75%の孔を含み、
該クリオゲル組成物は、針を通した圧縮による変形後における形状記憶能を有することを特徴とし、
該クリオゲル組成物は、アルギネートポリマーを含み、ここで該アルギネートポリマーは共有結合により架橋されており、
該クリオゲル組成物は、少なくとも50%のポリマー架橋の架橋密度、または、50~98%のポリマー架橋の架橋密度を有する、
組成物。
【請求項2】
アルギネートがアクリル化またはメタクリル化されている、請求項記載の組成物。
【請求項3】
クリオゲルが、約1%(w/v)の濃度のメタクリル化アルギネートマクロモノマーを含む、請求項記載の組成物。
【請求項4】
クリオゲルが、
(a) 水和状態で、体積で少なくとも90%の水を含む;または
(b) 圧縮状態で、体積で25%未満の水を含む、
請求項1記載の組成物。
【請求項5】
クリオゲルのサイズが100μm3~100 mm3である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
マクロ孔が、20μm~300μmの直径を有する、請求項記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、対象に注射されると、クリオゲル組成物中に細胞を動員する、請求項記載の組成物。
【請求項8】
クリオゲル組成物が生物分解性である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
さらに磁性粒子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
磁性粒子がFe3O4ナノ粒子またはFe3O4マイクロ粒子を含む、請求項記載の組成物。
【請求項11】
さらにメカノフォア分子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
メカノフォア分子がポリジアセチレンリポソームを含む、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
1つまたは複数の相互接続したマクロ開口孔中に生体分子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
生体分子が、小分子、核酸、またはタンパク質を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
タンパク質がサイトカインである、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
サイトカインがGM-CSFを含む、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
核酸がCpG核酸オリゴヌクレオチド(CpG-ODN)を含む、請求項14記載の組成物。
【請求項18】
生体分子が病原体関連分子パターン(PAMP)を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項19】
組成物がGM-CSF、および病原体関連分子パターン(PAMP)を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項20】
さらにミクロスフェアを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項21】
ミクロスフェアが、クリオゲル組成物内に物理的に捕捉されている、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
ミクロスフェアがPLGAを含む、請求項20記載の組成物。
【請求項23】
ミクロスフェアがGM-CSFを含む、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
ミクロスフェアが薬物を含む、請求項20記載の組成物。
【請求項25】
(i) 針;
(ii) 請求項1~24のいずれか一項記載の組成物を含む、リザーバー;および
(iii) プランジャー
を含む、シリンジ。
【請求項26】
16ゲージ、18ゲージ、20ゲージ、22ゲージ、24ゲージ、26ゲージ、28ゲージ、30ゲージ、32ゲージ、または34ゲージの針を含む、請求項25記載のシリンジ。
【請求項27】
18~30ゲージの針を含む、請求項25記載のシリンジ。
【請求項28】
組成物のサイズが1 mm3~50 mm3である、請求項25記載のシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府により助成を受けた研究に関する記載
本発明は、米国国立衛生研究所の助成金番号R01 DE013349号の下で米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、薬物および細胞の送達システムのためのポリマースキャフォールドに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
組織工学は、所望の組織の特異的構造または機能に応じて材料を操作することによって、損傷を受けた組織を再生、置換、およびその機能を改善するためのアプローチである。多孔性で生物分解性のポリマースキャフォールドは、細胞に基づく組織工学のための構造支持マトリクスとしてまたは細胞接着基質として利用される。三次元スキャフォールドを外科的に植え込む際の主な副次的な結果は、患者の病気の処置中に医師によってもたらされる外傷である。たとえば、三次元スキャフォールドを外科的に植え込むための現行の技術は、患者の疼痛、出血、および挫傷につながる切開を伴う。そのため、より侵襲性の低い構造のポリマースキャフォールドを開発することが当技術分野において逼迫して必要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、細胞および/または治療物質、たとえば小分子化合物、タンパク質/ペプチド(たとえば、それに対する免疫応答が望まれる抗原)、もしくは核酸などの積荷を積載した、ポリマーに基づく予成形される大きいマクロ多孔性ハイドロゲルを注射するための組成物および最小侵襲方法を提供する。ハイドロゲル(アクアゲルとも呼ばれる)は、親水性であり、時に、水が分散媒体であるコロイド状ゲルとして見いだされるポリマー鎖の網目構造体である。ハイドロゲルは、その著しい水分含有量により、天然の組織と非常に類似する柔軟性の程度を有する非常に吸収性の高い(それらは99%を超える水分を含有することができる)天然または合成ポリマーである。従来のハイドロゲルとは異なり、本明細書において記述されるこれらの細胞/スキャフォールド構築物の独自の特徴は、適当な剪断応力が適用されると、この変形可能なハイドロゲルは劇的にかつ可逆的に圧縮され(その体積の90%まで)、それによって注射可能なマクロ多孔性の予成形スキャフォールドが得られるという点である。この特性により、ゲル/細胞構築物を、シリンジによって標的部位に高い精度で送達することができる。
【0005】
したがって、本発明は、圧縮または脱水による変形後における形状記憶能を特徴とする、高密度の相互接続した開口孔を含む細胞適合性の高度架橋ハイドロゲルポリマー組成物を特色とする。該ハイドロゲルは、修飾されたポリマーを含み、たとえば、ポリマー分子上の部位は、メタクリル酸基(メタクリレート(MA))またはアクリル酸基(アクリレート)によって修飾される。例示的な修飾アルギネートは、MA-アルギネート(メタクリル化アルギネート)である。メタクリル化アルギネートの場合、50%とはアルギネートのメタクリル化の程度に対応する。このことは、反復単位が1つおきにメタクリレート基を含有することを意味する。メタクリル化の程度は、1%から90%まで変化しうる。90%を超えると、化学修飾はポリマーの水溶性について溶解度を低減させうる。ポリマーはまた、メタクリレート基の代わりにアクリレート基によっても修飾することができる。この場合、生成物は、アクリル化ポリマーと呼ばれる。メタクリル化(またはアクリル化)の程度は、ほとんどのポリマーに関して変化させることができる。しかし、いくつかのポリマー(たとえば、PEG)は、100%の化学修飾を行ってもその水溶性特性を維持する。架橋後に、ポリマーは、通常、ほぼ完全なメタクリレート基の変換に至り、このことは架橋効率がほぼ100%であることを示している。たとえば、ハイドロゲル中のポリマーは、50~100%架橋(共有結合)されている。架橋の程度は、ハイドロゲルの耐久性と相関する。したがって、修飾ポリマーの高レベルの架橋(90~100%)が望ましい。
【0006】
たとえば、高度架橋ハイドロゲルポリマー組成物は、少なくとも50%のポリマー架橋(たとえば、75%、80%、85%、90%、95%、98%)を特徴とする。高レベルの架橋は、構造に力学的堅牢性を与える。しかし、架橋の割合は、一般的に100%未満である。前記組成物は、フリーラジカル重合プロセスおよび凍結ゲル化(cryogelation)プロセスを用いて形成される。
【0007】
クリオゲルは、少なくとも75%の孔、たとえば80%、85%、90%、95%、および99%までの孔を含む。孔は、相互接続している。相互接続は、組成物の機能にとって重要であり、相互接続がなければ、水がゲル内に捕捉されたままになるであろう。孔が相互接続していることにより、構造体の内外への水(ならびに細胞および化合物などの他の組成物)の通過が可能となる。完全に水和した状態では、組成物は90~99%の水を含む。圧縮または脱水されたハイドロゲルでは、その水の最大50%、60%、70%が存在しない。
【0008】
いくつかの例において、組成物は、ポリマーに化学的に連結された、たとえば共有結合した細胞接着組成物を含む。たとえば、細胞接着組成物は、RGDアミノ酸配列を含むペプチドを含む。
【0009】
細胞治療の場合、組成物は、1つまたは複数の相互接続した開口孔中に真核細胞を含む。たとえば、該真核細胞は、生きている弱毒化がん細胞を含む(たとえば、放射線照射された細胞はがん抗原として作用する)。任意で、組成物は、1つまたは複数の相互接続した開口孔中に生体分子を含む。生体分子は、小分子化合物(たとえば、分子量1000ダルトン未満)、核酸、タンパク質またはその断片、ペプチドを含む。例示的な生体分子には、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、プラスミドDNAなどの大きい核酸組成物、およびCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG-ODN)などのより小さい核酸組成物が挙げられる。
【0010】
好ましくは、クリオゲル組成物は、中空の針を通して注射可能である。圧縮または脱水時には、前記組成物は、構造の完全性および形状記憶特性を維持する、すなわち圧縮または脱水後に、再度水和されると、または圧縮の剪断力が除去/軽減されると、組成物はその形状を回復する。
【0011】
1つの例において、組成物は、アルギネートに基づくハイドロゲルを含む。クリオゲルが製作されるポリマー組成物の他の例には、ヒアルロン酸、ゼラチン、ヘパリン、デキストラン、カロブガム、PEG、PEG-co-PGAおよびPEG-ペプチドコンジュゲートを含むPEG誘導体が挙げられる。本技術は、任意の生体適合性のポリマー、たとえばコラーゲン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、プルラン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリ(アクリル酸)(PAAc)等に適用することができる。クリオゲルの形状は、鋳型によって決まり、したがって製作者にとって望ましい任意の形状をとることができ、たとえば様々なサイズおよび形状(円板、円柱、四角形、紐等)が低温重合によって調製される。注射可能なクリオゲルは、マイクロメートルのスケールからミリメートルのスケールで調製することができる。体積は、数百μm3から100 mm3以上まで様々である。例示的なスキャフォールド組成物は、サイズが1 mm3から10 mm3である。もう1つの例において、クリオゲルは、体積によって規定される。たとえば、クリオゲルスキャフォールド組成物は、水和状態で25μlの体積を含む。ゲルは、水性媒体中で水和される。例示的なクリオゲル組成物は、典型的に、体積が10~70μlの範囲であり、用途および処置される部位に応じてより大きくてもまたはより小さくてもよい。
【0012】
クリオゲルはスポンジとして作用する。クリオゲルは滅菌される。いくつかの適用において、クリオゲルは水和されて、細胞または他の化合物(たとえば、小分子および他の化合物、核酸、またはタンパク質/ペプチド)を積載し、シリンジまたは他の送達装置中に装填される。たとえば、シリンジは、使用前に予め充填されて冷蔵される。もう1つの例において、クリオゲルは脱水され、たとえば任意でゲル中に積載された薬物または他の化合物と共に凍結乾燥されて、乾燥状態で保存されるかまたは冷蔵される。投与前に、クリオゲルを装填したシリンジまたは装置を、送達される細胞および/または他の化合物を含む溶液に接触させる。たとえば、クリオゲルを予め装填したシリンジの筒に、生理的に適合性の溶液、たとえばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を充填する。実施においては、クリオゲルを所望の解剖学的部位に投与した後、任意で他の成分、たとえば細胞または治療化合物を含む溶液をある容量投与する。たとえば、クリオゲル25μlは、溶液約200μlと共に投与される。そうすると、クリオゲルは再度水和して、インサイチューでその形状の完全性を回復する。クリオゲル配置後に投与されるPBSまたは他の生理的溶液の容量は、一般的にクリオゲル自身の体積の約10倍である。
【0013】
同様に、クリオゲル組成物を用いる方法も本発明の範囲内である。たとえば、組織を修復、再生、または再構築するための方法は、上記の装置/クリオゲル組成物を対象に投与する段階を含む。クリオゲルが細胞を含む場合、該細胞は、シリンジまたは送達装置を通過した後もその生存率を保持し、細胞は、装置/クリオゲル中で増殖し、その後クリオゲル組成物を離れてゲルの外部でおよびレシピエント対象の体組織において機能する。たとえば、クリオゲルは、皮膚充填剤として皮下投与され、それによって組織、たとえば皮膚組織を再構築する。もう1つの例において、クリオゲル装置は幹細胞を含み、該組成物/装置は、対象の損傷組織または疾患組織に投与され、それによって組織、たとえば筋肉、骨、腎臓、肝臓、心臓、膀胱、眼組織または他の解剖学的構造を修復または再生する。
【0014】
もう1つの例において、クリオゲル組成物は、遺伝子材料を送達するための、たとえばプラスミドDNAを送達する方法において用いられる。
【0015】
さらなるもう1つの例において、免疫応答を誘発するための方法が、それに対する免疫応答が誘発される微生物病原体または腫瘍細胞をさらに含む上記のクリオゲル組成物を対象に投与する段階によって行われる。そのようなワクチン組成物は、予防的または治療的に投与される。
【0016】
細胞の生存率は、ずれ揺変プロセスによって受ける影響が最少であるか、または影響を受けず、かつゲル/細胞構築物は導入点に留まる。そのため、これらのゲルは、組織再生(細胞治療、薬物送達)作業などの治療方法において、細胞および他の化合物を標的の生物学的部位に送達するために有用である。
【0017】
本発明は、相互接続したマクロ開口孔を有する注射可能なスキャフォールド組成物を含む装置を提供する。好ましくは、スキャフォールド組成物は、中空の針を通して注射可能である。たとえば、スキャフォールド組成物は、16ゲージ、18ゲージ、20ゲージ、22ゲージ、24ゲージ、26ゲージ、28ゲージ、30ゲージ、32ゲージ、または34ゲージの針を通して注射可能である。圧縮時には、スキャフォールド組成物は、形状記憶特性を維持する。スキャフォールド組成物はまた、それが柔軟性であり(すなわち、脆くない)、剪断圧を与えても破断しないという点において、構造の完全性を維持する。1つの局面において、スキャフォールド組成物は、アルギネートに基づくハイドロゲルである。スキャフォールド組成物は、0.01 mm3から100 mm3である。たとえば、スキャフォールド組成物は、1 mm3から75 mm3、5 mm3から50 mm3、10 mm3から25 mm3である。好ましくは、スキャフォールド組成物は、サイズが1 mm3から10 mm3である。
【0018】
ハイドロゲルは、細胞を移植するために用いる場合、構造に細胞を播種することができるように、および細胞を増殖させて構造の外へと移行させて、修復または再生を必要とする損傷筋または疾患筋などの体組織へと再配置することができるように、孔を含む。たとえば、細胞は、約1×104~1×107個/mlの濃度で播種され、乾燥ハイドロゲル装置上に滴下投与される。対象に送達されるゲル/装置の用量は、損傷または疾患領域のサイズに応じて調整され、たとえば比較的小さい欠損の場合には1 mlのゲルが、および大きい創傷の場合には50 mlまでのゲルが用いられる。好ましくは、ハイドロゲルは、マクロ孔、たとえば直径2μm~1 mmを特徴とする孔を含む。平均孔サイズは、200μmを含む。典型的な細胞は直径約20μmを含むことから、細胞は、相互接続した開口孔を通してクリオゲルの内外に移動することができる。ゲル送達装置は、ヒト、およびウマ、ネコ、またはイヌなどの動物の処置にとって適している。
【0019】
好ましくは、ハイドロゲルは形状記憶能を特徴とする。ハイドロゲルのポリマー鎖は、共有結合によって架橋されるおよび/または酸化される。そのようなハイドロゲルは、最小侵襲性の送達にとって適している。そのようなハイドロゲルは、ヒトの身体に送達する前に、凍結乾燥されて圧縮された後、筋組織の再生のために対象に投与される。最小侵襲性の送達は、身体にごく小さな切開部をもたらすことを特徴とする。たとえば、ハイドロゲルは、針または血管カテーテルを用いて対象の筋肉に投与される。
【0020】
注射可能なクリオゲルは、美容外科において適用される組織充填剤として、組織強化のために、ならびに疾患および外傷によって生じた損傷に起因しうる組織修復のために、中空の構造、たとえば18~30 G針などの非常に細い針の中を通過するように設計されている。注射可能なクリオゲルは、所望の形状、棒、四角形、円板、球、立方体、繊維、フォームの形に成型されうる。いくつかの状況において、注射可能なクリオゲルは、細胞を組み入れるためのスキャフォールドとして用いることができる。成形されたクリオゲルは、細胞と混合して組織工学的な生成物を提供するか、または組織修復もしくは組織増強を助けるためのバイオマトリクスとして用いることができる。組み入れられる細胞は、任意の哺乳動物細胞(たとえば、幹細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、免疫細胞等)でありうる。
【0021】
注射可能なクリオゲルはまた、制御された薬物送達のために薬剤または他の生理活性物質(たとえば、増殖因子、DNA、酵素、ペプチド、薬物等)が組み入れられる形で生成することができる。
【0022】
注射可能なクリオゲルはさらに、アミノ、ビニル、アルデヒド、チオール、シラン、カルボキシル、アジド、アルキンからなる群より選択される官能基の付加によってさらに官能基化されうる。または、クリオゲルは、さらなる架橋剤(たとえば、多分岐ポリマー(multiple arms polymer)、塩、アルデヒド等)の付加によってさらに官能基化されうる。溶媒は、水性溶媒、特に酸性またはアルカリ性溶媒でありうる。水性溶媒は、水混和性の溶媒(たとえば、メタノール、エタノール、DMF、DMSO、アセトン、ジオキサン等)を含みうる。
【0023】
低温架橋は鋳型の中で起こり、注射可能なクリオゲルは分解可能でありうる。孔のサイズは、用いる主溶媒の選択、孔形成物質(porogen)の組み入れ、適用される凍結温度、架橋条件(たとえば、ポリマー濃度)、ならびに用いられるポリマーのタイプおよび分子量によっても制御することができる。
【0024】
治療的使用および美容的使用が本明細書を通して記述される。例示的な適用には、皮膚充填剤として、薬物送達において、創傷被覆材として、術後の癒着予防のために、ならびに細胞治療、遺伝子治療、組織工学、免疫療法などの修復および/または再生医学的適用のための使用が挙げられる。
【0025】
生体分子は、精製された天然に存在する化合物、合成によって生成された化合物、または組み換え型の化合物、たとえばポリペプチド、核酸、小分子、または他の作用物質である。たとえば、前記組成物は、GM-CSF、CpG-ODNなどの病原体関連分子パターン(PAMPs)、および腫瘍抗原または他の抗原を含む。本明細書において記述される組成物は精製される。精製された化合物は、関心対象化合物の重量(乾燥重量)の少なくとも60%である。好ましくは、該調製物は、関心対象化合物の少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも99重量%である。純度は、任意の適当な標準法によって、たとえばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定される。
【0026】
[本発明1001]
ハイドロゲルが圧縮または脱水による変形後における形状記憶を特徴とする、高密度の相互接続した開口孔を含む細胞適合性の高度架橋ハイドロゲルポリマー組成物。
[本発明1002]
少なくとも50%のポリマー修飾を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
少なくとも90%のポリマー修飾を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1004]
少なくとも75%の孔を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1005]
少なくとも90%の孔を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1006]
水和状態で少なくとも90%の水を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1007]
圧縮または脱水されたハイドロゲルにおいて25%未満の水を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1008]
前記ポリマーに共有結合した細胞接着組成物を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1009]
細胞接着組成物が、RGDアミノ酸配列を含むペプチドを含む、本発明1008の組成物。
[本発明1010]
1つまたは複数の前記相互接続した開口孔中に真核細胞を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1011]
前記真核細胞が生きた弱毒化がん細胞を含む、本発明1010の組成物。
[本発明1012]
1つまたは複数の前記相互接続した開口孔中に生体分子を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1013]
前記生体分子が、小分子、核酸、またはタンパク質を含む、本発明1012の組成物。
[本発明1014]
前記タンパク質がGM-CSFを含む、本発明1013の組成物。
[本発明1015]
前記核酸がCpG核酸オリゴヌクレオチドを含む、本発明1013の組成物。
[本発明1016]
中空の針を通して注射可能である、本発明1001の組成物。
[本発明1017]
圧縮時に、構造の完全性および形状記憶特性を維持する、本発明1001の組成物。
[本発明1018]
アルギネートに基づくハイドロゲルである、本発明1001の組成物。
[本発明1019]
ヒアルロン酸、ゼラチン、ヘパリン、デキストラン、カロブガム、PEG、PEG誘導体、コラーゲン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、プルラン、PVA、PHEMA、PNIPAAm、またはPAAcを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1020]
円板、円柱、四角形、長方形、または紐の形状を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1021]
スキャフォールド組成物のサイズが100μm3~100 mm3である、本発明1001の組成物。
[本発明1022]
本発明1001の組成物を対象に投与する段階を含む、組織を修復、再生、または再構築するための方法。
[本発明1023]
前記組成物が皮膚充填剤として皮下投与されて、それによって前記組織を再構築する、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記組成物が幹細胞を含み、前記装置が、対象の損傷組織または疾患組織に投与されて、それによって該組織を修復または再生する、本発明1022の方法。
[本発明1025]
本発明1001の組成物を投与する段階を含む、組織に遺伝子材料を送達するための方法であって、該組成物が核酸をさらに含む、方法。
[本発明1026]
前記核酸がプラスミドDNAを含む、本発明1025の方法。
[本発明1027]
本発明1001の装置を対象に投与する段階を含む、免疫応答を誘発するための方法であって、該装置が、それに対して免疫応答が誘発される微生物病原体または腫瘍細胞をさらに含む、方法。
[本発明1028]
前記装置が予防的または治療的に投与される、本発明1027の方法。
本発明の他の特色および利点は、その好ましい態様に関する以下の説明から、および特許請求の範囲から明らかであろう。他に定義される場合を除き、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において記述される方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験において用いることができるが、適した方法および材料を以下に記述する。本明細書において引用される全ての公開された外国の特許および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用されるアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBI提出物は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用される他の全ての公表された参考文献、文書、原稿、および科学論文は、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は例示であるに過ぎず、限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】アルギネートに基づく注射可能なハイドロゲルシステムを示す一連の顕微鏡写真である。様々なサイズおよび形状(円板、円筒、四角形等)を有するローダミン標識された1%メタクリル化(MA)-アルギネートゲルを、低温重合によって調製した。四角形状の注射可能なスキャフォールドを示す。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.2 mL中に懸濁した蛍光性の肉眼的ゲルを直径16ゲージの針を通して注射すると、注射の前後の顕微鏡画像において示されるように、完全に幾何学的に回復した。
図2】圧縮試験に供した従来のナノ多孔性ゲルおよびマクロ多孔性1%ローダミン標識MA-アルギネートゲルについて応力対ひずみ曲線を示す折れ線グラフである。従来のナノ多孔性ゲルの脆い特性とは対照的に、アルギネートクリオゲルは、その構造の完全性および形状記憶特性を維持しながら大きい変形に可逆的に耐える能力を有する。
図3図3Aは、マウスの背下部へのマクロ多孔性スキャフォールドの最小侵襲性皮下注射を示す蛍光写真である。図3Bは、3日後のマウスの皮下組織における予成形ローダミン標識1%MA-アルギネートゲル(4 mm×4 mm×1 mm)の皮下注射後のハイドロゲルの局在を示す写真である。図3Cは、配置後に幾何学的形態を回復した、皮下注射したローダミン標識マクロ多孔性アルギネートスキャフォールドの位相差顕微鏡写真および蛍光顕微鏡写真を合体させて示す写真である。図3Dは、幾何学的形態を回復した、皮下注射したローダミン標識マクロ多孔性アルギネートスキャフォールドの写真である。破線は、挿入された、形状画定されたスキャフォールドの四角形状の幾何学的形態の回復を示す。図3Eは、注射されたクリオゲルに架橋(化学的固定)または封入(物理的捕捉)されたローダミン標識ウシ血清アルブミン(BSA)の、インビボでの徐放性プロファイルを示す折れ線グラフである。注射後3日目に解剖すると、ローダミン標識ゲルは、その四角形状の特色を回復して、柔らかい軟度を有し、周辺組織に組み込まれていた。値は平均値および標準偏差を表す(n=4)。
図4】注射可能で予め細胞を播種したスキャフォールドが、生物発光B16細胞のインサイチューでの局在を促進することを示す一連の写真である。図4Aは、アルギネートクリオゲルスキャフォールド(白色)およびローダミン標識アルギネートスキャフォールド(ピンク色)を示す写真である。生物発光B16-F10細胞を1%RGD修飾MA-アルギネートクリオゲルに200×103細胞/スキャフォールドの濃度で播種した。ルシフェラーゼをトランスフェクトした黒色腫細胞をローダミン標識アルギネートクリオゲル中で6時間培養した後、マウスに注射した。図4Bは、マクロ多孔性アルギネートゲルが、生物発光B16細胞の均一な封入および分布にとって適していることを示す光学的ライブイメージングを示す写真である。図4Cは、マクロ多孔性アルギネートゲルが、生物発光B16細胞の均一な封入および分布にとって適していることを示す走査型電子顕微鏡(SEM)イメージングを示す写真である。図4Dは、ゲルの皮下注射のライブ蛍光イメージングを示す写真である。図4Eは、注射後2日目でのゲルの皮下注射のライブ蛍光イメージングを示す写真である。図4Fは、注射後9日目でのゲルの皮下注射のライブ蛍光イメージングを示す写真である。生物発光B16細胞をライブイメージングによって可視化した。Arg-Gly-Asp(RGD、細胞接着ペプチド)-アルギネートスキャフォールドは、非修飾ゲルと比較して細胞の標的への送達を有意に促進した。対照的に、遊離細胞の注射(ボーラス)は、細胞の局在化を促進しなかった(生物発光シグナルは存在しなかった)。
図5】マウスにおける皮膚がんの予防的および治療的処置のために、生きている弱毒化B16-F10黒色腫細胞を含むアルギネートに基づく自己由来の活性クリオゲルワクチンの調製を示すダイヤグラムである。CpG(アジュバント)およびGM-CSF(サイトカイン)を積載したRGD修飾アルギネートクリオゲルに、放射線照射したB16-F10細胞を播種して、6時間培養した後、皮下注射によって動物をワクチン接種した。
図6】異なるワクチン接種プロトコールによって誘導されたB16F10チャレンジに対する免疫を示す棒グラフである。アルギネートに基づく注射可能なクリオゲルによる感染模倣微小環境は、強力な抗腫瘍免疫を得た。クリオゲルによって処置したマウスにおける生存期間の比較:(C)抗原+GM-CSF+CpG-ODN(放射線照射したB16F10黒色腫細胞0.2×106個+GM 3μg、CpG 100μg)、抗原+GM-CSF(0.4×106個 -CSF+(D)6放射線照射したB16F10黒色腫細胞+GM 3μg)、(E)抗原+CpG-ODN(放射線照射したB16F10黒色腫細胞0.4×106個+CpG 100μg)。動物はまた、マウスGM-CSF遺伝子を形質導入したB16F10黒色腫細胞0.4×106個(A)および放射線照射したB16F10黒色腫細胞0.4×106個+GM-CSF 3μg+CpG-ODN 100μgのボーラス注射(B)を用いて免疫した。マウスに、B16-F10黒色腫瘍細胞105個をチャレンジして(6日目)、腫瘍発生の開始に関してモニターした。各群は、マウス10匹を含んだ。
図7図7Aおよび7Bは、クリオゲルワクチンの局所送達が、CD11c(+)DCの動員およびCD3(+)T細胞の増殖を促進することを示す折れ線グラフである。(A)クリオゲルワクチン接種およびチャレンジに反応した、注射部位および二次リンパ器官(LN、脾臓)での細胞動員および増殖。前記細胞のインビボでの増殖反応性を、細胞計数によって評価した。(B)GM-CSF、CpG-ODNを同時送達し、かつ弱毒化B16F10黒色腫細胞を提示するクリオゲルマトリクスは、二次リンパ器官(LNおよび脾臓)ならびにクリオゲルスキャフォールドにおいて、強力な局所的および全身性CD11c(+)DCおよびCD3(+)T細胞を刺激した。(A~B)の値は、平均値および標準偏差を表す(n=5)。
図8】DC動員およびプログラミングのためのGM-CSFの制御放出を示す折れ線グラフである。アルギネートに基づくクリオゲルマトリクスからの2週間の期間にわたるGM-CSFの累積的放出:(A)GM-CSF 3μg、(B)GM-CSF 3μg+CpG-ODN 100μg、(C)GM-CSF 3μgを含むPLGミクロスフェア。値は平均値および標準偏差を表す(n=5)。
図9】クリオゲルにより増強されるプラスミドDNAのトランスフェクションを示す折れ線グラフである。ルシフェラーゼ発現プラスミド(150μg/クリオゲル、動物あたり2カ所の注射)をトランスフェクトされた細胞に関する経時的な相対的生物発光。クリオゲルは、裸のポリエチレンイミン(PEI)/DNA(赤色)と比較してPEI/プラスミドDNA(青色)の効率的な送達および細胞のトランスフェクションを助ける。値は、平均値および標準偏差を表す(n=5)。挿入図は、PEI/DNA含有クリオゲルを接種したマウスにおける注射後29日目でのホタルルシフェリンの適用に反応した代表的な局所的光発光を示す写真である。
図10】MA-アルギネートの1H NMRをその特徴的なビニルピーク(~5.3-5.8 ppm)と共に示す折れ線グラフである。重水素クロロホルム(D2O)を溶媒として用いて、ポリマー濃度は1%wt/vであった。アルギネートのメタクリル化の効率を、メタクリレートのメチレンプロトンに対するアルギネートプロトンの整数比に基づいて計算した。MA-アルギネートマクロモノマーは、およそ49%のメタクリル化の程度(DM)を有することが見いだされた。
図11】D2O中での非架橋の(左側)および低温重合された(右側)1%wt/v MA-アルギネートの1H NMRを示す一連の折れ線グラフである。凍結ゲル化を、NMRチューブ中で直接誘導する。開始剤系を含むマクロモノマー溶液1 mLを、NMRチューブに移した後、-20℃で17時間の低温処置を行った。ビニルピーク(5.3~5.8 ppm)は、低温架橋後に消失した。非架橋および架橋メチレンプロトンの相対ピークを比較することによって、変換を評価した。
図12】遊離PLGAミクロスフェア(左上)およびアルギネート四角形状クリオゲル中に分散したPLGAミクロスフェア(右上および下)の走査型電子顕微鏡画像を示す一連の写真である。
図13】クリオゲルによって注射した細胞が低いアポトーシスおよび細胞死を有することを示す一連の写真である。この例において、アルギネートに基づく三次元構造スキャフォールドに対する細胞の接着を改善するために、RGD含有ペプチドをクリオゲルに化学的に結合させた。細胞の生存率、拡がり、およびアクチン細胞骨格構築プロセスを、共焦点顕微鏡によって評価した。細胞は、アルギネートに基づくクリオゲルの多孔性構造に生着して、孔内部で生育することが観察された。(左)D1間葉幹細胞(MSC、注射後1日間インキュベーション)の生細胞/死細胞生存率アッセイ、および(右)RGD-修飾MAアルギネートクリオゲル内の注射したD1 MSC(注射後6日間インキュベーション)を示す共焦点画像。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
三次元スキャフォールドの現行の外科的植え込みの主な欠点は、スキャフォールド/装置の投与の際に医師によってもたらされる外傷である。本明細書において記述される組成物および方法は、組織工学アプローチの費用および侵襲性を低減させる。本明細書において記述される本発明以前は、組織工学では、外科的植え込みを必要とする装置およびポリマースキャフォールドが用いられた。手術部位におけるポリマースキャフォールドの植え込みは、麻酔および切開を必要とし、その処置法の各々が望ましくない副次的な結果を有する。本明細書において、組織工学研究者および外科医が、より低侵襲的な様式で組織工学的適用に従事することができ、それによって外科的植え込みの必要性をなくす組成物および方法が記述される。以下に詳細に記述されるように、注射可能なスキャフォールドは、組織工学システムの侵襲性を低減させて、それによって該材料を植え込むために必要な、いかなる切開の必要性もなくすか、または切開のサイズを低減させるために開発された。システムが注射可能であるためには、システムは中空の小さい口径の針の中を流れることが可能でなければならない。予成形スキャフォールドを植え込む、またはインサイチューで重合させるために液体を注射する方法には、短い反応時間、適当なゲル化条件、適切な力学的強度および持続時間、生体適合性、ならびにいくつかの有害な環境においてタンパク質薬物または細胞を保護する可能性を含む、多くの難題が提示されていた。これらの制限を克服するために、容易に調製され、加工され、かつシリンジの針を通して注射される、変形可能な十分に架橋されかつ予成形される多孔性スキャフォールドを開発した。
【0029】
より初期の注射可能なハイドロゲル(たとえば、米国特許第6,129,761号)は、インサイチューでのスキャフォールドの形成を可能にしたが、いくつかの重大な欠点を有した。第一に、熱の発生と未反応の毒性化学物質とを含む問題が、インサイチューでの重合と共に生じる可能性がある。さらに、遅いゲル化速度およびインビボでの生物流体動態は、ゲル前溶液の分散を伴い、これはゲルの不良な細胞捕捉および不良な物理学的完全性につながる。最後に、スキャフォールドのナノサイズの孔構造は、効率的な酸素送達、栄養素の交換、細胞の移動、および組織細胞の長期生存性を妨害する。
【0030】
本明細書において記述される本発明は、細胞および/または治療物質を積載した予成形マクロ多孔性ハイドロゲルを注射する最小侵襲方法を提供する。対象への投与の前または後に、細胞をポリマーマトリクスに植え込んで培養する。細胞の付着および増殖を助け、分解性であり、インビボで制御された速度で薬物(たとえば、タンパク質)を放出することができる、FDAが承認した、ポリマーに基づくスキャフォールドは、任意の望ましいサイズおよび形状で設計されて、安全で、予成形され、十分に特徴を調べられ、かつ無菌の制御送達装置としてインサイチューで注射される。組織形成を増強するための細胞構築ブロックを提供しながら増殖因子を制御可能に送達する、体内で構造の完全性を有する、生理活性細胞を播種した注射可能なスキャフォールドを、以下に詳細に記述する。肉眼的な注射可能なマトリクスの投与前に細胞を播種および構築することは、インビボでの細胞生着を増強して、初回組織形成段階において細胞の支持および誘導を提供する。本発明は、組織工学のための人工細胞外マトリクス、美容外科における皮膚充填剤、薬物および細胞送達のための制御放出リザーバー、ならびにがんワクチンの免疫細胞リプログラミングを含む臨床適用にとって有用である。さらなる利点には、より少ない注射の痛み、より少ない出血/挫傷、およびより高いレベルの患者の満足度が挙げられる。
【0031】
本発明は、三次元スキャフォールドおよび薬物送達プラットフォームとして、サイズの大きいマクロ多孔性の生物分解性ハイドロゲルを投与するための非侵襲性戦略を記述する。低温重合を受ける任意の生体適合性のポリマーまたはモノマーが利用される。適したポリマーおよびモノマーには、天然由来のポリマー(アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン、ゼラチン、カロブガム、コラーゲン等)、および合成ポリマー(ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG化グルタミナーゼ(PEG-PGA)、PEG-ポリ(L-ラクチド;PLA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、PAAm、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)等)が挙げられる。このように種々の材料を用いることができることは、種々の適用において有用であり、本明細書において記述される組成物および方法にさらなる汎用度を与える。スポンジ様形態を有する非常に弾性的な肉眼的スキャフォールドは、凍結ゲル化によって調製されるが、これは、柔らかく力学的に安定で高い水分吸収能を有する、相互接続した大きい孔、高い体積分率の多孔率を有するポリマー材料を生成するために用いられる技術である。以下に記述されるように、クリオゲルは、侵襲性の植え込みの必要がない、予成形された大きなサイズのスキャフォールドの針を通しての注射を可能にする。流動可能な材料は、その網目構造のスポンジ性によりいかなる欠損部も塞ぐことができる。外力によるクリオゲルの弾性変形(力学的変形)により、急なゲルの縮小が起こるが完全な形状回復能を有し、このことは、組織工学および再生医学のために最小侵襲性のやり方で細胞を送達するための注射可能な予成形スキャフォールドの設計において有用である。
【0032】
細胞外マトリクスを模倣する大きなサイズの予成形スキャフォールド(>1 mm)を用いることについて評価した。本明細書において、注射可能な細胞搭載スキャフォールドクリオゲルとして利用される、様々な形状および2 mm~8 mmの範囲のサイズを有する大きい生物材料の設計を記述する。注射可能な肉眼的ハイドロゲルは、患者1人への使用のための、注射(植え込み)の準備ができている個々の処置シリンジに供給される。生理緩衝液中に懸濁させた架橋アルギネートからなるゲルは、無菌で、生物分解性で、非発熱性で、弾性で、透明で、無色で、均質化されたスキャフォールドインプラントである。前記注射可能なゲルは、ゲルのサイズに応じて、16-ゲージまたはより小さい直径の針を介して注射される、固有のルアーロックシリンジに収められる。
【0033】
本明細書において記述される戦略は、最小侵襲治療にとって適した予成形生物材料を送達するためのものである。注射可能な肉眼的生物材料は、手術用の組織接着剤、硬組織修復および軟組織修復、薬物送達、ならびに組織工学のための空間充填注射可能材料として有用である。本明細書において、それによって相互接続した超多孔性の網目構造(孔のサイズは10μm~600μmの範囲)が形成される、純粋なアルギネートスキャフォールドを製作するアプローチが記述される。これらのスポンジ様ゲルは、非常に柔軟かつ押しつぶし可能で、ゲルの微小構造を変化させることなく、その水分含有量の最大70%までを放出することが可能である。任意で、ゲルはさらに、ヒアルロン酸、ヘパリン、カロブガム、ゼラチン等などの広範囲の精製ポリマー、またはフィブロネクチンもしくはインテグリン結合ペプチドなどの細胞接着分子を含む。さらに、ハイドロゲルは、1つまたは複数の治療物質を制御送達するための薬物リザーバーとして用いられる。アルギネートに基づくゲルは、優れた力学的特性、伸長、および弾性による迅速な形状回復を有する。外力(たとえば、剪断応力)によって変形したゲルの形状は、非常に短時間(<1秒)での膨張により回復した。この回復は良好な持続性および繰り返し精度を有した。本明細書において記述される超多孔性(たとえば、75%よりも高い多孔率)スキャフォールドは、重合後の注射可能性および容易でかつ効率的な細胞封入などの重要な利点を提供する。たとえば、クリオゲルは、80~90%またはそれ以上の多孔率を特徴とする。スポンジ様ゲルの組織宿主への組み込みを調べるために行った動物試験は、アルギネートに基づくスキャフォールドが生体適合性であり、マウスに注射した場合に免疫応答または拒絶を誘発しないことを示している。
【0034】
メタクリル化-アルギネート(MA-アルギネート)および他の修飾ポリマーの合成
メタクリル化アルギネート(MA-アルギネート)を、高分子量アルギネートをメタクリル酸アミノエチル(AEMA)と反応させることによって調製した。ウロン酸のカルボキシレート基の理論上の100%メタクリル化によってメタクリル化アルギネートを合成するために、高分子量アルギン酸ナトリウム(1 g)を、0.5 M NaClを含む100 mM MESの緩衝溶液(0.6%w/v、pH ~6.5)に溶解した。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、1.3 g)およびN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC、2.8 g)を反応混合物に加えて、アルギネートのカルボン酸基を活性化した。5分後、AEMA(2.24 g、NHS:EDC:AEMAのモル比=1:1.3:1.1)を生成物に加えて、反応を室温で24時間維持した。過剰量のアセトンを添加して混合物を沈殿させて、濾過して、真空オーブン中で室温で終夜乾燥させた。1H NMRを用いて、アルギネートの化学修飾を確認して、MA-アルギネートの官能基化の程度の特徴を調べた(図10)。
【0035】
任意の生体適合性の水溶性ポリマーまたはモノマーを用いて注射可能なクリオゲルを作製することができる。本明細書において記述される注射可能なクリオゲル装置を作製するために、いくつかのモノマー/ポリマーまたはポリマーの組み合わせ、たとえばヒアルロン酸、ゼラチン、ヘパリン、デキストラン、カロブガム、PEG、PEG-co-PGAおよびPEG-ペプチドコンジュゲートを含むPEG誘導体が用いられている。たとえば、ポリマーは、分解性および非分解性の合成ポリマーおよび天然ポリマー(多糖類、ペプチド、タンパク質、DNA)の組み合わせでありうる。生体適合性の合成ポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリ(アクリル酸)(PAAc)、ポリエステル(たとえば、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン)、およびポリ無水物が挙げられる。天然に存在するポリマーには、炭水化物(たとえば、デンプン、セルロース、デキストロース、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン、デキストラン、ゲランガム等)、タンパク質(たとえば、ゼラチン、アルブミン、コラーゲン)、ペプチド、およびDNAが挙げられる。組成物は全て、ハイドロゲルを製作する前に精製される。
【0036】
ポリマーを架橋するため、および化学的に架橋した注射可能なクリオゲルを作製するためのフリーラジカル重合プロセスに加えて(重合時間は約17時間)、ゲルは任意で他のプロセスを用いて重合される。注射可能なクリオゲルは、その架橋メカニズム、すなわち化学的および物理的に架橋したゲルの性質に従って2つの主な群に分類することができる。共有結合架橋プロセスには、ラジカル重合(ビニル-ビニルカップリング)、マイケル型付加反応(ビニル-チオール架橋)、縮合(カルボン酸-アルコールおよびカルボン酸-アミン架橋)、酸化(チオール-チオール架橋)、クリックケミストリー(有機アジドおよびアルキンの1,3-双極子付加環化)、ディールス-アルダー反応(ジエンおよびジエノフィルの付加環化)、オキシム、イミン、およびヒドラゾンケミストリーが挙げられる。非共有結合架橋には、イオン架橋(たとえば、カルシウム架橋されたアルギネート)、自己集合(温度、pH、イオン濃度、疎水性相互作用、光、代謝産物、および電流などの外部刺激に反応した相転移)が挙げられる。
【0037】
クリオゲルの製作
クリオゲルマトリクスを、水中でのMA-アルギネートのレドックス誘導性フリーラジカル重合によって合成した。アルギネートクリオゲルは、脱イオン水中でMA-アルギネートマクロモノマー10 mg(1%wt/v)をTEMED(0.5%wt/v)およびAPS(0.25 wt/v)と混合することによって合成される。混合物を予め冷却したテフロン鋳型に直ちに注ぎ込み、-20℃で凍結した。低温架橋が終了した後、ゲルを室温まで加熱して氷の結晶を除去して、蒸留水によって洗浄する。細胞接着クリオゲルは、重合の際のコモノマー(0.8%wt/v)としてRGD含有ペプチド組成物、たとえばACRL-PEG-G4RGDASSKYを用いて合成した。(アクリロイルはACRLと省略される)。RGD含有ペプチド組成物(モノマー)をアルギネートと混合することによって、RGDはポリマー構造に化学的に結合する(共有結合する)ようになる。細胞-基質相互作用を促進するために、RGD-インテグリン結合モチーフを用いた。NMR分光法を用いて、低温重合後のMA-アルギネートマクロモノマーのビニル変換の特徴を調べた。図2に示されるように、開始剤系(APS/TEMED)の存在下での低温重合プロセス後に、MA-アルギネートマクロモノマー(1%wt/v)のメチレンプロトン(5.3~5.8 ppm)の完全な消失に至った。このことは、クリオゲルに関して、高いビニル変換を達成できることを示している(図11を参照されたい)。注射可能なクリオゲルは、ポリマー自身の分子量および化学修飾の程度に応じて種々の濃度で調製することができる(概念の証明として1%wt/vを選択した)。
【0038】
先に記述したように、RGDは、共有結合によりポリマー構造に結合したままである(共重合)。しかし、クリオゲルを対象に投与した後に放出されるべき生体分子もある。この場合、前記生体分子は、凍結ゲル化プロセスの前にポリマーと単純に混合される。
【0039】
凍結ゲル化
クリオゲルは、凍結向性の(cryotropic)ゲル化(すなわち、凍結ゲル化)技術を用いて生成される高度多孔性の相互接続した構造を有する材料の種類である。凍結ゲル化は、重合-架橋反応が準凍結(quasi-frozen)反応溶液中で行われる技術である。マクロモノマー(MA-アルギネート)溶液の凍結時に、氷から押し出されたマクロモノマーおよび開始剤系(APS/TEMED)は、氷の結晶のあいだの流路内で濃縮して、それによって反応がこれらの凍結していない液体流路においてのみ起こる。重合後および氷の融解後、その微小構造が形成された氷のネガティブ・レプリカである、多孔性材料が生成されている。氷の結晶は孔形成物質として作用する。孔のサイズは、凍結ゲル化プロセスの温度を変化させることによって調整される。たとえば、凍結ゲル化プロセスは典型的に、-20℃で溶液を急速に凍結することによって行われる。温度をたとえば-80℃まで低下させると、より多くの氷の結晶が生じ、より小さい孔が得られるであろう。
【0040】
相分離によって得られる従来のマクロ多孔性ハイドロゲルと比較してこれらのいわゆる「クリオゲル」の利点は、その高い力学的安定性である。これらは、非常に丈夫であり、伸長および歪みなどの高レベルの変形に耐えることができる。これらはまた、機械力によって押しつぶしてその溶媒内容物を排出させることができる。アルギネートクリオゲルの改善された力学的特性は、反応系の凍結していない液体流路の高い架橋密度(高度メタクリル化アルギネートは比較的高い架橋密度で架橋ポリマー構造へと重合する)に起因する。このように、重合後、高いポリマー含有量を有するゲルの流路は、孔壁を構築するための絶好の材料である。
【0041】
生体分子、たとえばGM-CSF、CpG核酸は、ポリマー構造内に捕捉されるが、それに化学的に連結はしない。したがって、これらの分子は、拡散またはゲルの分解によって時間と共にクリオゲルから放出される。たとえば、低分子量組成物(分子量10 kDa未満)、たとえばCpGオリゴヌクレオチドは、拡散によって放出される。より大きな捕捉された分子(分子量約10 kDa以上、たとえば10~50 kDa)、たとえばタンパク質、大きいDNA、たとえばプラスミドDNAは、主にクリオゲルの分解によって放出される。ヒト組み換え型GM-CSF(たとえば、PeproTechから入手可能、カタログ番号300-03)は、以下のポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)によってコードされる。
【0042】
注射可能なハイブリッドクリオゲル
治療タンパク質の注射可能な送達システム(たとえば、ハイドロゲルおよびミクロスフェア)は、広く注目を集めている。しかし、従来のハイドロゲルは典型的に、大きな初回バーストで非常に急速にその親水性内容物を放出し、投与後比較的短期間のうちに貪食細胞がミクロスフェアを一掃しうる。
【0043】
ミクロスフェア/クリオゲル複合システムは、注射可能な送達システムとしてタンパク質の制御された持続的放出を達成する。モデルタンパク質(GM-CSF)を含むPLGAミクロスフェア(サイズ~10-50μm)を調製して、次いでMA-アルギネートプレゲル溶液と混合した後、低温重合を行った。純粋なアルギネートクリオゲルの注射可能性および形状記憶特性を保持するために、成分の混合比を最適化した。図12に示されるように、PLGAミクロスフェアは、クリオゲルのクリオゲル網目構造(ポリマー壁)内に物理的に捕捉された。ハイブリッドクリオゲルもまた、疎水性および/または低分子量の薬物の制御送達の担体として作製されている。これらの結果は、徐放性薬物担体としての注射可能な三次元予成形マクロ多孔性スキャフォールドから薬物を送達するための戦略を提供するのみならず、注射可能なハイブリッドハイドロゲルを設計するための道筋を開く。
【0044】
ハイブリッドポリマーの組み合わせの他の例には、クリオフェロゲル(cryo-ferrogel)およびポリジアセチレンに基づくクリオゲルが挙げられる。オンデマンド式に薬物および細胞を送達するための注射可能な多孔性生物材料の1つの種類は、クリオフェロゲルを含む。三次元の相互接続したマクロ孔を有する、アルギネートに基づくマクロ多孔性の弾性クリオフェロゲルに基づく磁気感受性スキャフォールドを製作して、磁性粒子(Fe3O4ナノおよびマイクロ粒子)ならびに細胞結合部分に連結させた。磁場を適用すると、生体作用物質を積載したマクロ多孔性フェロゲルは、大きく急速に変形して、制御された様式での薬物および細胞の放出を誘発する。もう1つの例において、ポリジアセチレンに基づくクリオゲルなどの注射可能な変色する生物材料は、機械力などの外部刺激に反応して変化する。該材料は、一定量の力がそれに加えられると幾何学的歪みを受け、色の変移が起こるメカノフォア分子(たとえば、ポリジアセチレンリポソーム)を含む。材料に過度の圧力が加えられると変色するスマートポリマーは、細胞-基質相互作用を同定するため、および変形を正確に測定するために非常に有用である。
【0045】
注射可能なクリオゲルの投与
シリンジおよび針は、典型的にクリオゲルを身体に導入するために用いられる。「シリンジ」という用語は技術的に、リザーバー(液体を保持する)およびプランジャー(液体をリザーバーから押し出す)を意味する。「針」は、身体、たとえば静脈内に、皮膚の下に、または筋肉もしくは他の組織の下に入る部分である。「シリンジ」という用語はまた、時に、リザーバー/プランジャー/針の組み合わせ全体を意味するためにも用いられる。それらは多様なサイズであり、たとえば一般的なリザーバーのサイズは1 cc(1立方センチメートル(cc)=1ミリリットル)であり、25ゲージの針サイズまたはそれ以下を有する。
【0046】
針のゲージは、針の口径または穴のサイズを意味する。ゲージがより高ければ、針はより細くなる(かつ穴はより小さくなる)。それゆえ28ゲージ針(28Gとして省略される)は25ゲージ針よりも細く、さらには25ゲージ針は18ゲージ針よりも細い。インスリン針は典型的に長さが1/2インチであり、ツベルクリン針は典型的に長さが5/8インチである。包装に記入されているように、針の長さはゲージ番号の後に書かれる:「28G 1/2」は長さが1/2インチの28ゲージ針を意味する。
【0047】
ゲージがより大きく(しばしば23Gまたは21G)、より長い針は、しばしば筋肉内注射のために用いられる。筋注用シリンジは典型的に容量が1 ccであるが、より大きい容量も、たとえば2~5 ccシリンジも、適用に応じて時折存在する。より大きい容量およびより大きい口径は、より大規模な筋修復または再生のために、たとえば戦闘または自動車/飛行機事故の際に負う損傷などの組織の広範囲のまたは外傷性の裂傷後に、クリオゲルを送達するのに適切である。静脈内注射器または針は、微細なまたは精密な組織治療、たとえば美容的な皮膚充填剤の投与のために用いられる。そのような適用には典型的に大きくとも25Gのより短い針が用いられる。
【0048】
注射後の細胞の生存率
可逆的な圧密可能な挙動により、エクスビボで特徴が調べられているように、所望の物理学的特性を有する予成形クリオゲルは、シリンジを通しての注射の際に適度の非破壊的剪断応力が適用されることによりインビボで送達されうる。流体の速度、動圧、および注射に起因する剪断応力が、細胞の生存率に影響を及ぼすか否かを評価する試験を行った。
【0049】
データは、注射の際に、RGD修飾クリオゲルに組み入れられた細胞が、スキャフォールドによって力学的損傷から保護されることを示した。接着細胞は、注射の際に適用される剪断応力をいくらか受ける可能性があるが、クリオゲルは、スキャフォールドが圧縮されるとエネルギーのほとんどを吸収することができ、それによって図13に示されるように高い細胞生存率(92%)およびその増殖能を維持する。
【0050】
したがって、針またはカテーテルなどの他の送達装置の口径を通過する際にクリオゲル中の細胞に適用される剪断応力(または圧縮)は、クリオゲル内の細胞を測定可能な程度には傷つけず、または損傷を与えない。針または他の送達装置を通過した後、細胞の生存率は通常90%またはそれ以上であった。
【実施例
【0051】
実施例1:注射可能な生物分解性の予成形される肉眼的幾何学的ゲル
本明細書において記述される組成物および方法は、インビボでの適用のための形状記憶スキャフォールドの最小侵襲性送達のためのハイドロゲルを提供する。この方法は、注射可能で形状を画定されたマクロ多孔性スキャフォールドを非常に効率的にかつ再現可能に製作できることを証明している。共有結合によって架橋されたアルギネートに基づくゲルシステムの1つのタイプのみを本明細書において評価したが、材料の性能は、その組成、配合、および分解プロファイルを変化させることによって容易に操作される。特定の形状の成形および構造の安定性は、形状を画定される材料の望ましい特徴であり、最小侵襲治療のためにこれらのタイプの材料の最も重要な必要条件は、刺激に応答してスキャフォールドの構造を崩壊させてかつ忠実に再成形できることである。機械的圧縮および脱水の組み合わせは、本研究において開発されたスキャフォールドを圧縮するために十分であり、従来のゲージ針を通した最小侵襲性送達を可能にする。
【0052】
本明細書において記述されるこれらの結果は、形状画定されたマクロ多孔性のアルギネートに基づくスキャフォールドが、種々の幾何学的サイズおよび形状で調製され、機械的破損を伴うことなく外科用針の中をうまく通過することができ、かつ全てのスキャフォールドが、再水和後直ちに(<1秒)その三次元形状を回復することを証明した(図1)。本製作方法は、生体適合性で生物分解性の複雑なマクロ多孔性組織スキャフォールドを効率的にかつ経済的に製造することができる。本明細書において記述される適用に加えて、形状記憶スキャフォールドは、構造を画定された大きいインプラントを必要とする適用において特に有用である。
【0053】
実施例2:注射可能な肉眼的な形状画定されたゲルの構造的完全性
剪断力を伴う機械的圧縮下での、従来の(ナノ多孔性の)ゲルおよびマクロ多孔性1%MA-アルギネートゲルの変形を調べた。機械的圧縮に供されると、ゲルは大きい力を受けて、それによって形状の変化が起こる。スキャフォールドの剛性が、適用された剪断力の下での変形の程度を決めることから、ゲルの力学的特性に及ぼすマクロ孔の影響もまた評価した。従来のゲルは、圧縮試験において42±4 kPaのヤング率(すなわち、図2における応力対ひずみ曲線の最初の部分の勾配)を生じる。しかし、マクロ多孔性ゲルでは、ヤング率は4±2 kPaへと劇的に低減した。図2に示されるように、円柱形(直径4 mm×高さ8 mm)のナノ多孔性ゲルは、垂直方向の負荷に供した場合にその高さが~16%低減して機械的破断に至った。比較すると、円柱形のマクロ多孔性ゲルは、そのより低いヤング率により、より低い機械的応力下でかなり大きい変形を生じる。マクロ多孔性スキャフォールドは、機械的に破断することなく、90%またはそれ以上の圧縮ひずみに達し、圧縮、圧密、および最小侵襲性送達の後にその構造的完全性を維持できることを証明している。同様に、これらの結果により、前記スキャフォールドがインビトロで形状記憶能を示すことが確認された。
【0054】
本明細書において記述されるハイドロゲルにおいて、マクロ多孔性の形状画定されたゲルの大きな体積変化は、相互接続した孔の可逆的な潰れによって生じた。潰れる孔は、マクロ孔に含まれる水をゲルから流出させる。ゲルの変形および水の対流は、ゲルの内外への水の輸送を増強する。力学的負荷が除去されると、周辺の水がゲルへと再吸収されることから、弾性的に変形したゲルは、直ちに1秒未満で、その当初の変形していない形状画定された構造へと戻る。
【0055】
実施例3:薬物の制御送達担体としての注射可能な形状記憶スキャフォールド
形状記憶特性を有する、共有結合により架橋したアルギネートスキャフォールドを、インビボで薬物送達システムとして用いることに成功した。既定のサイズおよび構造を有するゲルは、マウスの皮下に最小侵襲的に挿入した後にその構造的特色を並外れて維持することが可能であった。PBS中に懸濁させたゲルは、マウスの背下部上での1部位あたり1回注射の後に、自発的に水和して完全な幾何学的回復を示した。注射された動物は、実験の時間枠のあいだ、摂食、毛繕い、もしくは行動に異常を示さず、苦痛の徴候もまた示さなかった。
【0056】
前記ハイドロゲルは、注射部位でそのハイドロゲル形状の完全性を維持した。宿主組織へのスポンジ様ゲルの組み込みを調べるために行った動物試験により、アルギネートに基づくスキャフォールドが生体適合性であり、マウスに注射した場合に免疫応答または拒絶を誘発しないことが示された。注射後3日目に、ローダミン標識されたスキャフォールドをマウスから外科的に取り出して分析した。図3Bに示されるように、スキャフォールド周囲にスキャフォールドによってインビボでの組織形成が誘導されたことは、スキャフォールドが組織の生育および組み込みを助け得ることを示している。さらに、ローダミン標識スキャフォールドを可視化するために用いた蛍光顕微鏡により、インビボでのゲルの当初の幾何学的形態、構造的完全性、四角形に画定された形状の保持が顕著に示された(図3C)。
【0057】
ローダミン標識BSAはまた、薬物送達モデルとしても用いられた。注射部位において薬物貯蔵所を提供することによって、そのような装置は、重大な全身投与を行うことなく高い局所的薬物濃度を達成する。BSAの持続的放出は、図3Dに示されるように、注射された、四角形に画定されたスキャフォールドにより達成された。マウスにおけるローダミン標識BSAの標的化されかつ制御された送達を、リアルタイム非侵襲性ライブイメージングにより定量した(図3A)。例示的な化合物であるBSAは、低温重合プロセスの際にスキャフォールドに物理的に捕捉されたかまたは化学的に結合した。図3Eに示されるように、BSAの持続的な制御放出は、4ヶ月間にわたって達成された。意外にも、両方のタイプのBSAの放出プロファイルは類似しており、このことは、この放出がタンパク質の拡散よりもマトリクスの分解によって主に媒介されることを示した。
【0058】
実施例4:クリオゲル組成物はインビボで注射した細胞の生存率を増強して遊走を制限する
本明細書において記述される組成物および方法の1つの適用は、細胞-スキャフォールドの組み込みに基づく非侵襲的な細胞注射の方法である。細胞の移植は、細胞死により局部のまたは全体的な機能が損なわれた患者にとって1つの治療の選択肢である。しかし、細胞移植法の数が限られていることは、細胞治療の効能を制限する主な要因であると考えられている。細胞および生理活性分子の担体として、注射可能な予成形スキャフォールドは、スキャフォールド全体に細胞および分子シグナルを均一に分配する可能性を提供する。その上、該スキャフォールドは、組織または腔に、たとえば、筋肉、骨、皮膚、脂肪、臓器、不規則な形状およびサイズのものにさえ、最小侵襲的に直接注射される。本明細書において記述される組成物および方法は、生体力学的負荷に耐えるのに十分な力学的強度を可能にして、細胞に対する一時的な支持を提供しながら、重合後の注射可能性および効率的な細胞封入などの重要な利点を提供する。
【0059】
四角形状のローダミン標識RGD含有アルギネートクリオゲル(4×4×1;単位:mm)を調製して、精製し、滅菌して、次いで生物発光B16細胞を播種して、細胞培養培地中で6時間培養して維持した後、細胞-スキャフォールドの組み込みを促進するために動物に皮下注射した(図4A、4B、および4C)。相互接続した大きな孔は、比較的高い播種効率(>50%)および生存率(>95%)を維持しながら、細胞の播種および分布を有意に増強した。播種されたB16黒色腫細胞の生物発光をインビトロで撮像するために、ルシフェリン0.15 mg/gをゲルの上部に添加し、これはゲルの網目構造の中を自由に拡散して、細胞を染色し、三次元構築物全体への細胞の均一な浸潤および深部生存率を示した(図4B)。これは、有効な栄養素のスキャフォールドの内部領域への送達および内部領域からの老廃物の除去による。SEM画像により、スキャフォールド内で細胞が均一に分布および生着していることが確認された(図4C)。
【0060】
これらの細胞/スキャフォールド構築物の独自の特徴は、適切な剪断応力が適用された場合に、変形可能なハイドロゲルが劇的にかつ可逆的に圧縮されて(その容積の90%まで)、それによって注射可能なマクロ多孔性予成形スキャフォールドが得られるという点である。この特性により、ゲル/細胞構築物を、シリンジによって標的部位へと高い精度で送達することができる。均一な細胞分布および細胞生存率は、ずれ揺変プロセスによっては影響を受けず、およびゲル/細胞構築物は導入時点に留まり、このことは、これらのゲルが組織再生作業において標的の生物学的部位への細胞の送達にとって有用であることを示唆している。
【0061】
次に、健康なC57BL/6マウスに、アルギネートマクロ多孔性スキャフォールドに組み入れた200×103個のB16をその背部に皮下注射した。得られた注射されたゲルは標的部位へと送達され、そこでゲルは、位置の永続性と共にその当初の力学的硬性を急速に回復した。図4Dに示されるように、細胞を積載したローダミン標識アルギネートスキャフォールドを、マウスの背部において高い精度でシリンジ(1 cc、16G)によって送達して、インビボでの光学的ライブイメージングによって可視化した。黒色腫B16細胞をRGD-修飾アルギネートクリオゲルスキャフォールドに組み入れて、健康なマウスに注射して調べると、腫瘍形成細胞のホーミング、生存、および生着の促進と同時に、シリンジ送達が成功したことおよび前培養した細胞の機能が示された。本明細書において提示した結果は、設計された組織工学的スキャフォールドが、細胞が通常存在する天然の環境を模倣し、その結果、健康なBALB/cマウスで腫瘍形成細胞を埋め込んだマトリクスの注射のたびに腫瘍が形成されることを証明している。黒色腫細胞の皮下接種は、リアルタイム非侵襲性ライブイメージングによりモニターした(図4D)。腫瘍形成の発生および腫瘍の生育を、9日間にわたって調べた。黒色腫B16腫瘍モデルが成功したことは、図4D~4Eにおいて示されるように明白であった。インビボモデルとして、細胞/スキャフォールド構築物は、いくつかの基準、すなわち標的部位に対する正確なシリンジ-送達の成功および腫瘍の形成に至るその当座の局所環境における細胞の生存を、満たしている。
【0062】
本明細書において記述されるように、細胞の移植およびホーミングにおける細胞生着の効果を調べるために、ローダミン標識した(1)およびローダミン標識してRGD-修飾した(2)細胞播種アルギネートクリオゲルをマウスに投与した。対照として、遊離細胞のボーラス(B)も同様に注射した。ローダミン標識スキャフォールドは、図4Dに示されるようにうまく皮下注射された。ボーラス注射部位を除き、赤色発光するローダミン色素は、マウスの背部の各々の側において強い蛍光赤色スポットを示し、細胞播種スキャフォールドのインビボでの局在を示している。注射後2日目に、細胞播種スキャフォールドの生物発光を、ルシフェリンの腹腔内注射の30分後に測定した。図4Eに示されるように、注射したRGD-修飾細胞播種ゲルの生物発光は、純粋なスキャフォールドと比較して特に明るく、このことは、細胞の生着、したがって効率的な細胞の移植を助けるためにポリマー網目構造にRGDを組み入れる必要性があることを示している。細胞をボーラス注射した場合に生物発光が存在しないことは、注射部位での細胞残留が少ないこと、急速な細胞遊走、および細胞移植片の生存がおそらく限定的であることを示唆している。同様に、注射後9日目では、細胞播種スキャフォールドの生物発光は主にRGD-修飾スキャフォールドについて明らかであったが、このことにより、細胞-スキャフォールドの組み込みに基づいて開発された非侵襲性の細胞注射法が、インビボで細胞の遊走を減少させる、ホーミングを促進する、生存率を増強する、および細胞の生着を増強するために非常に重要であることが確認された(図4F)。
【0063】
細胞移植片の移植後数日以内に起こる急速な細胞死を減少させることは、細胞移植治療の成功にとって非常に重要である。本明細書において示される結果により、細胞接着ペプチドの組み入れが、細胞とスキャフォールドとの相互作用および細胞の運命を調節するために重要な役割を果たすことが確認される。これらのゲルはまた、細胞の分化および成熟に関係するタンパク質(たとえば、増殖因子)を持続的に送達するための送達システムとして用いるためにも適している(図3E)。この技術はまた、インビボで幹細胞生存を増強するためのツールでもある。
【0064】
実施例5:免疫療法への適用のための注射可能な生物分解性クリオゲル
宿主病原体を含む最小侵襲スキャフォールドに基づく活性ワクチンを、がんの治療的処置のために開発した。がんの場合、免疫系は、がんと闘うのにより有効になることができるように、免疫療法による外部からの追加免疫を必要とする。本明細書において記述される能動免疫療法システムは、患者の身体の自身の免疫細胞を用いて抗原特異的な抗腫瘍効果を促進する目的で、患者の免疫系を刺激するように設計された。さらに、クリオゲル-ワクチンにより、腫瘍の再発から防御する持続性の抗腫瘍反応が得られる。樹状細胞(DC)は、免疫系の調節に重要に関係する抗原提示細胞である。ワクチンは、樹状細胞の動員、活性化、およびそのリンパ節への分散のインサイチューでの操作を媒介する。シトシン-グアノシンオリゴヌクレオチド(CpG-ODN)を、ワクチンに対する応答をさらに刺激するためのアジュバントとして用いた。
【0065】
図5に示されるように、両方の成分(アジュバントおよびサイトカイン)を、クリオゲルマトリクスに容易に組み入れることができ、これらは持続的な様式で放出されて宿主DCを動員して、その後放射線照射された細胞(または他の細胞関連抗原)由来のがん抗原および危険信号を提示して、内在するナイーブDCを活性化してリンパ節へのそのホーミングを促進するが、このことは堅牢な抗がん免疫応答にとって必要である。特異的で防御的な抗腫瘍免疫が、本発明者らの最小侵襲性のアルギネートに基づく活性ワクチンによって引き起こされ、80%の生存が動物において達成されたが、そうでない動物は2ヶ月以内にがんのために死亡する。黒色腫に対するクリオゲルに基づく予防的ワクチンを用いるデータにより、ワクチン接種後100日目に再チャレンジした動物において100%の生存が達成されたことから、非常に強い免疫学的記憶を誘導することが示された。
【0066】
種々の腫瘍細胞関連抗原を、細胞クリオゲルに基づくワクチンプラットフォームにおいて用いると、それによって多様ながんに対する処置または予防が可能となる。能動的な特異的免疫療法は、腫瘍関連抗原に対するT-細胞応答を引き起こすために免疫系のプライミングを伴う。能動的な特異的アプローチの1つの例は、特異的な標的がん抗原に対する活性が証明されたT細胞のエクスビボ培養を伴う養子T-細胞治療である。細胞を対象から得て、精製して、培養する。そのようなエクスビボ培養は、これらのT細胞の治療的レベルに達する頻度を増加させる。次に前記細胞を、注射可能なアルギネートに基づくクリオゲルにより患者に注入して戻す。
【0067】
外因性のサイトカイン(たとえば、GM-CSF)および危険シグナル(たとえば、CpG-ODN)を、がん抗原と共に適切に提示することによって感染模倣微小環境を作製することによって、インサイチューでDCの輸送および活性化の個数およびタイミングを正確に制御する手段が提供される。スキャフォールドに基づくワクチン(vax C)注射後の種々の時点で、細胞計数および蛍光活性化細胞選別(FACS)分析のために細胞をクリオゲルならびに周辺の組織、脾臓、およびリンパ節(LN)から単離して、DC(CD11c+細胞)およびT細胞(CD3+細胞)の総細胞数および百分率を決定した。ワクチン接種後にワクチン部位に浸潤する細胞ならびに脾臓およびLNの肥大は、がんに対する免疫学的応答が有意であることを明らかにした。がん抗原と闘う免疫系細胞の個数の増加により、前記2つの臓器は肥大して「腫脹」した。図3Aに示されるように、細胞の総数は、脾臓、LN、およびクリオゲルに関して対照群(C)と比較した場合に、ワクチン接種した(V)およびワクチン接種/チャレンジした(VC)マウスに関して劇的に増加した。細胞数の増加は、ワクチン接種後最初の2週間以内は比較的高いままであったが、免疫応答および炎症反応の低減により害された13日目から顕著に低下し始めた。
【0068】
宿主DCを動員して収容するようにGM-CSFを制御放出するために、および細胞の浸潤を可能にして、その後がん抗原(放射線照射したB16F10黒色腫細胞)および危険信号(CpG-ODN)を提示して、内在するDCを活性化して、リンパ節へのそのホーミングおよび増殖を劇的に増強することができる相互接続した多孔性構造を有する、マクロ多孔性クリオゲルマトリクスを製作した。マトリクスにGM-CSF 3 mgを積載して、C57BL/6Jマウスの皮下嚢に注射した。図3Bは、クリオゲルワクチンが、体内での免疫細胞の移動および活性化を制御するまたは治療的に変化させることを示している。ワクチン接種後最初の10日以内に、多数のDCがワクチン部位に動員される。これらの活性化DCは、鼠径部リンパ節および脾臓にホーミングしうる、抗原をナイーブT細胞に提示しうる、ならびに抗腫瘍応答を誘発する特異的T細胞集団を刺激および増殖させうることから、CD11c(+)DCの総数は、CD3(+)T細胞の総数と反比例する。ワクチン部位に浸潤する細胞のFACS分析は、13日目をピークとする有意なCD3(+)T細胞応答を明らかにした。局所的なCD3(+)T細胞数は、24日までに急激に低下して、30日目ではごくわずかであった。
【0069】
これらのクリオゲルマトリクスは、最初の5日以内にその生理活性GM-CSFの積載のおよそ20%を放出した後、続く10日間にわたり生理活性GM-CSFをゆっくり持続的に放出した(図8、クリオゲルA)。この放出プロファイルは、周辺組織への該因子の拡散が、内在するDCを効果的に動員するために選択した。第二の生体分子(CpG-ODN)を組み入れてもGM-CSFの経時的な放出プロファイルを変化させなかったことから(図8、クリオゲルB)、クリオゲルは、いくつかの薬物の特異的な空間時間的送達のためにうまく用いることができる。しかし、スキャフォールドに組み入れられたゆっくりと分解するPLGミクロスフェアは、純粋なクリオゲルよりもかなり遅くGM-CSFを放出するようである(14日目で5%対24%の放出)。ハイブリッドクリオゲルは、疎水性および/または低分子量の薬物の制御送達のための有望な担体として作製されている。本発明者らの結果は、徐放性薬物担体としての注射可能な三次元予成形マクロ多孔性スキャフォールドから薬物を送達する新規戦略を提供するだけでなく、注射可能な新規ハイブリッドハイドロゲルの設計に対する道筋を開く。
【0070】
実施例6:遺伝子送達システムとしての注射可能な生物分解性クリオゲル
ポリカチオン/プラスミドDNA複合体に基づく非ウイルス遺伝子送達システムは、ウイルスシステムに固有の免疫原性および毒性問題を回避するその有望性のために、ウイルス遺伝子ベクターに対する代替物として認識されつつある。注射後の周辺組織への遺伝子導入を達成するために、注射可能なクリオゲルに封入された濃縮プラスミドDNAに基づく制御放出システムを用いることが実現可能であるか否かを決定するために試験を行った。クリオゲルに基づく遺伝子送達システムの独自の特色は、ポリマーシステムの生物分解性であり、これはポリマー、架橋密度、質量分率、および凍結ゲル化プロセスの際にもたらされる多孔率に応じて、種々の速度でのDNAの持続的放出を提供することができる。7:1(PEI:DNA)の比率で調製された、有効な遺伝子担体であることが知られている非分解性のカチオンポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)と複合体を形成した封入されたDNA、および裸のPEI/DNA複合体を、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼを用いてナイーブマウスの背下部の皮下に注射した(図9)。注射後1日目に、封入されたPEI/DNAは、強い生物発光を示し、裸のPEI/DNAによって産生されるよりも約2桁高い約10光子/秒で最も高いトランスジーンの発現を提供した。10日後、裸のPEI/DNAの発現レベルは、1日目とほぼ同じであったが、クリオゲルから制御可能な様式で放出されたことから1桁増加した。29日目までに、封入されたPEI/DNAは依然として、これまでの時点で観察されたレベルと類似の約107光子/秒のトランスジーンの発現レベルを提供した。このレベルは、裸のPEI/DNAによって提供されるレベルよりも有意に高かった。
【0071】
本試験において、皮下の遺伝子送達は、ナイーブマウスの背下部において遺伝子発現を可能にしたが、分布パターンおよび強度は媒体依存的であった。裸のPEI/DNA複合体は、おそらくDNアーゼに対するその易損性により、限定的な生物発光(かろうじてバックグラウンドを超えるシグナル)を産生した。しかし、本試験において用いられるクリオゲルに封入されたPEI/DNA複合体は、注射部位周囲で標的化された持続的な高レベルの遺伝子発現を少なくとも3週間提供した。これらの知見は、三次元マクロ多孔性スキャフォールドが、ポリマー/DNA複合体の持続的な放出および効率的な細胞のトランスフェクションを促進しうることを示している。
【0072】
要約すると、本発明のアプローチは、クリオゲルがマウスの皮下の周辺細胞に対する遺伝子トランスフェクションを促進し、この効率は持続的な遺伝子発現に関して裸のDNAよりも優れていることを証明している。前記結果は、標的細胞をプログラムするまたは処置するために適用することができる有効な遺伝子担体としての注射可能な送達システムを確立する。
【0073】
他の態様
本発明を、その詳細な説明と共に記述してきたが、前述の説明は本発明を説明することを意図しており、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することは意図しない。他の局面、利点、および改変は添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【0074】
本明細書において言及された特許および科学論文により、当業者に入手可能な知識が確認される。本明細書において引用された全ての米国特許および公開または未公開米国特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された全ての公開された外国特許および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用されたアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBI提出物は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された全ての他の公表された参考文献、文書、原稿および科学論文は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0075】
本発明は、その好ましい態様を参照して詳しく示し、記述してきたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細に様々な変更をそれらに行ってもよいことは当業者によって理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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