IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ Dolphin株式会社の特許一覧

特許7097648光走査装置、物体検出装置、光走査装置の調整方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】光走査装置、物体検出装置、光走査装置の調整方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20220701BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20220701BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S7/497
G02B26/10 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021204626
(22)【出願日】2021-12-16
(62)【分割の表示】P 2021204369の分割
【原出願日】2021-12-16
【審査請求日】2021-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518237336
【氏名又は名称】Dolphin株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123881
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100080931
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 敬
(72)【発明者】
【氏名】段 志輝
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-177012(JP,A)
【文献】特開2013-072982(JP,A)
【文献】特開2002-107452(JP,A)
【文献】特開2014-109686(JP,A)
【文献】特開2016-14607(JP,A)
【文献】特開2018-5183(JP,A)
【文献】特開2018-165810(JP,A)
【文献】特開2020-34386(JP,A)
【文献】特開2020-64059(JP,A)
【文献】特開2021-132416(JP,A)
【文献】国際公開第2021/245809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
G02B 26/08-26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を、アクチュエータにより周期的に往復回転駆動される反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記レーザ光で第1方向に往復走査する光走査部と、
所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、
投光される前記レーザ光と逆向きの光路で前記反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、
前記レーザ光の投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、
前記レーザ光の各回の投光について前記測定部が測定した時間差に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出部と、
投光される前記レーザ光の光路上の前記第1方向の一部分であって予め定められた位置に設けられ、前記レーザ光を正反射する第1反射部と、
前記第1反射部を通る走査の一走査期間内において前記光検出部が前記第1反射部からの反射光を検出する期間の長さ又は検出しない期間の長さが所定の目標値になるように前記アクチュエータに印加する駆動信号の振幅を調整する第1調整部とを備え
前記第1反射部は、投光されるレーザ光を、前記導光部により前記光検出部に導かれる向きに正反射させ、
前記第1反射部から前記第1方向に広がるように、前記第1反射部と滑らかに連続し、投光されるレーザ光を、実質的に、前記導光部により前記光検出部に導かれる向き以外の向きのみに正反射させる第2反射部をさらに備え
ることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
請求項に記載の光走査装置であって、
前記光走査部は、前記所定の視野範囲を前記レーザ光で、主走査方向である前記第1方向と、該主走査方向と異なる副走査方向とにそれぞれ走査し、
前記第1反射部を、少なくとも1本の主走査線が前記第1反射部上を通過するように、前記レーザ光の光路上の副走査方向の一部分にのみ設けたことを特徴とする光走査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光走査装置であって、
前記第1反射部を通る前記往復走査において、主走査中における前記光検出部による前記第1反射部からの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミングと、前記主走査が特定の端部に達するタイミングに基づき定められる第2参照タイミングとの間の時間差が、往路の走査と復路の走査とで一致するように、前記アクチュエータに印加する駆動信号の周波数を調整する第2調整部を備え、
前記第1調整部は、前記時間差が、往路の走査と復路の走査とで一致している状態で、前記駆動信号の振幅の調整を行うことを特徴とする光走査装置。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光走査装置であって、
前記測定部が測定した時間差が所定閾値以下である場合に投光された前記レーザ光が前記第1反射部により反射されたと判定する判定部を備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項5】
レーザ光を、アクチュエータにより周期的に往復回転駆動される反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記レーザ光で第1方向に往復走査する光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される前記レーザ光と逆向きの光路で前記反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、前記レーザ光の投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、前記レーザ光の各回の投光について前記測定部が測定した時間差に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出部と、投光される前記レーザ光の光路上の前記第1方向の一部分であって予め定められた位置に設けられ、前記レーザ光を正反射する第1反射部とを備え、前記第1反射部は、投光されるレーザ光を、前記導光部により前記光検出部に導かれる向きに正反射させ、前記第1反射部から前記第1方向に広がるように、前記第1反射部と滑らかに連続し、投光されるレーザ光を、実質的に、前記導光部により前記光検出部に導かれる向き以外の向きのみに正反射させる第2反射部をさらに備える光走査装置を用意する手順と、
前記第1反射部を通る走査の一走査期間内において前記光検出部が前記第1反射部からの反射光を検出する期間の長さ又は検出しない期間の長さが所定の目標値になるように前記アクチュエータに印加する駆動信号の振幅を調整する第1調整手順とを備えることを特徴とする光走査装置の調整方法。
【請求項6】
レーザ光を、アクチュエータにより周期的に往復回転駆動される反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記レーザ光で第1方向に往復走査する光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される前記レーザ光と逆向きの光路で前記反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、前記レーザ光の投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、前記レーザ光の各回の投光について前記測定部が測定した時間差に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出部と、投光される前記レーザ光の光路上の前記第1方向の一部分であって予め定められた位置に設けられ、前記レーザ光を正反射する第1反射部とを備え、前記第1反射部は、投光されるレーザ光を、前記導光部により前記光検出部に導かれる向きに正反射させ、前記第1反射部から前記第1方向に広がるように、前記第1反射部と滑らかに連続し、投光されるレーザ光を、実質的に、前記導光部により前記光検出部に導かれる向き以外の向きのみに正反射させる第2反射部をさらに備える光走査装置を制御するプロセッサに、
前記第1反射部を通る走査の一走査期間内において前記光検出部が前記第1反射部からの反射光を検出する期間の長さ又は検出しない期間の長さが所定の目標値になるように前記アクチュエータに印加する駆動信号の振幅を調整する第1調整手順を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ光による走査を行う光走査装置、投光するレーザ光の光路上の物体を検出する物体検出装置、上記の光走査装置の調整方法、およびコンピュータに光走査装置の調整を実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザ光のパルスを外部へ照射し、物体により反射されて戻ってきたレーザ光を検出することにより、レーザ光の光路上にある物体及びその物体までの距離を検出する物体検出装置が知られている。このような物体検出装置は、ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)と呼ばれる。
このようなライダーは近年、自動車の自動運転をはじめとする様々な分野で活用されるようになっている。
【0003】
ライダーにおいて重要な構成要素の1つは、レーザ光で所定の視野範囲内を走査するための光走査部である。この光走査部としては、アクチュエータを用いてミラーを往復回転駆動し、レーザ光をそのミラーで反射して投光するものが知られており、例えば特許文献1乃至特許文献3に記載されている。
また、バネと磁石とコイルを用い、コイルに駆動信号を印加することにより往復回転駆動を実現したアクチュエータが、特許文献4及び特許文献5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6518959号公報
【文献】特許第6651111号公報
【文献】特許第6830698号公報
【文献】米国特許第5280163号明細書
【文献】米国特許第6547145号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、可動部に中立位置への復元力を持たせると共に、コイルに加える駆動信号により可動部に力を加えて可動部を復元力に抗して中立位置から移動させ、その駆動信号を周期的に反転させて上記力の向きを周期的に反転させることで、可動部を周期的に往復回転運動させるアクチュエータが記載されている。上記復元力は例えば、金属のねじりばねや、磁石と磁性体との間の磁力により実現することができる。
特許文献4及び特許文献5に記載のアクチュエータも、基本的な仕組みはこれと同じである。
【0006】
このように中立位置への復元力に抗して可動部を往復回転運動させるアクチュエータにおいては、可動部が当該回転運動について固有の共振周波数(共振点)を持つことが知られている。そして、可動部に加える力の向きを反転させる周期の逆数である駆動周波数を、その共振周波数に近い値とすることにより、少ない消費電力での駆動が可能であることも知られている。
【0009】
この発明は、可動部を往復回転運動させるアクチュエータを用いて所定の視野範囲を光により走査する光走査装置において、走査角度範囲を所望の値に容易に設定できるようにすることを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つは、レーザ光を、アクチュエータにより周期的に往復回転駆動される反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を上記レーザ光で第1方向に往復走査する光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される上記レーザ光と逆向きの光路で上記反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、投光される上記レーザ光の光路上の上記第1方向の一部分であって予め定められた位置に設けられ、上記レーザ光を正反射する第1反射部とを設けた光走査装置に関する。
このような光走査装置に、上記第1反射部を通る上記往復走査において、主走査中における上記光検出部による上記第1反射部からの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミングと、上記主走査が特定の端部に達するタイミングに基づき定められる第2参照タイミングとの間の時間差が、往路の走査と復路の走査とで一致するように、上記アクチュエータに印加する駆動信号の周波数を調整する調整部を設けるとよい。
【0011】
さらに、上記第1反射部の上記第1方向両側に、上記第1反射部と滑らかに連続し、投光される上記レーザ光を、該レーザ光の入射方向と異なる方向に向けて反射させる第2反射部を備えるとよい。
また、上記の各光走査装置において、上記調整部が、上記往路の走査期間内における上記第1反射部からの反射光の検出タイミングの始端と上記復路の走査期間内における上記第1反射部からの反射光の検出タイミングの終端、又は上記往路の走査期間内における上記第1反射部からの反射光の検出タイミングの終端と上記復路の走査期間内における上記第1反射部からの反射光の検出タイミングの始端を上記第1参照タイミングとして用いるとよい。
【0012】
さらに、上記光走査部が、上記所定の視野範囲を上記レーザ光で、主走査方向である上記第1方向と、該主走査方向と異なる副走査方向とにそれぞれ走査し、上記第1反射部を、少なくとも1往復の主走査方向走査の走査線が上記第1反射部上を通過するように、上記レーザ光の光路上の副走査方向の一部分にのみ設けるとよい。
さらに、上記レーザ光の投光と上記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、上記測定部が測定した時間差が所定閾値以下である場合に投光された上記レーザ光が上記第1反射部により反射されたと判定する判定部とを設けてもよい。
【0013】
また、本発明は、可動部を往復回転運動させるアクチュエータを用いて所定の視野範囲を光により走査する光走査装置において、走査角度範囲を所望の値に容易に設定できるようにすることを目的とする、別の光走査装置も提供する。
この光走査装置は、上述した各光走査装置の調整部に代えて、上記往復走査中に上記光検出部が上記第1反射部からの反射光を検出するタイミングが所定の目標条件を満たすように上記アクチュエータに印加する駆動信号の振幅を調整する第1調整部を設けたものである。
【0014】
上記所定の目標条件が、一走査期間内において上記光検出部が上記第1反射部からの反射光を検出する期間の長さ又は検出しない期間の長さが所定の目標値になること、であるとよい
あるいは、上記所定の目標条件が、ある主走査中における上記光検出部による上記第1反射部からの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミングと、次の主走査中における上記光検出部による上記第1反射部からの反射光の検出タイミングに基づき定められる第2参照タイミングとの間の時間差が所定の目標値になること、であってもよい。
あるいはまた、上記所定の目標条件は、主走査中における上記光検出部による上記第1反射部からの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミングと、上記主走査が端部に達するタイミングに基づき定められる第2参照タイミングとの間の時間差が所定の目標値になること、であってもよい。
【0015】
また、これらの光走査装置において、上記光走査部が、上記所定の視野範囲を上記レーザ光で、主走査方向である上記第1方向と、該主走査方向と異なる副走査方向とにそれぞれ走査し、上記第1反射部を、少なくとも1本の主走査線が上記第1反射部上を通過するように、上記レーザ光の光路上の副走査方向の一部分にのみ設けるとよい。
【0016】
さらに、上記第1反射部を通る1往復の走査において、主走査中における上記光検出部による上記第1反射部からの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミングと、上記主走査が特定の端部に達するタイミングに基づき定められる第2参照タイミングとの間の時間差が、往路の走査と復路の走査とで一致するように、上記アクチュエータに印加する駆動信号の周波数を調整する第2調整部を設け、上記第1調整部が、上記時間差が往路の走査と復路の走査とで一致している状態で、上記駆動信号の振幅の調整を行うとよい。
以上の別の光走査装置によれば、可動部を往復回転運動させるアクチュエータを用いて所定の視野範囲を光により走査する光走査装置において、走査角度範囲を所望の値に容易に設定することができ、所望の角度範囲の光走査を容易に行うことができる。
【0017】
また、この発明の物体検出装置は、以上の各光走査装置に加え、上記レーザ光の投光と上記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、上記レーザ光の各回の投光について上記測定部が測定した時間差に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出部とを備える物体検出装置である。
光走査装置が上記測定部及び上記判定部を備えている場合には、これに上記レーザ光の各回の投光について上記測定部が測定した時間差に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出部を追加することによって物体検出装置を構成することができる。
このような物体検出装置では、以上説明してきた光走査装置を、ライダー等の物体検出装置において低コストで利用し、その機能を発揮させることができる。
【0018】
また、以上説明した各発明は、その説明した態様のみならず、装置、システム、方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体等、任意の態様で実施することができる。もちろん、物体検出以外の目的で光による走査を行う光走査装置、光走査方法及びこれらのためのプログラム等として実施することもできる。この場合、物体が存在する方向及び物体までの距離を検出することは必須でない。
【発明の効果】
【0019】
以上のような本発明によれば、可動部を往復回転運動させるアクチュエータを用いて所定の視野範囲を光により走査する光走査装置において、走査角度範囲を所望の値に容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一実施形態である物体検出装置10の主な構成要素をその機能に注目して区分して示すブロック図である。
図2】物体検出装置10における物体検出の原理について説明するための図である。
図3】物体検出装置10の主な構成要素の構造を示す分解斜視図である。
図4】物体検出装置10の外観を示す斜視図である。
図5】アクチュエータ300,380の概略の外観及び配置を示す図である。
図6】アクチュエータ300を構成する部品の構造と、その組み立て工程の概略を示す分解斜視図である。
図7】アクチュエータ300の可動子320を構成する部品の構造を示す分解斜視図である。
図8図6の(d)に示したアクチュエータ300の一点鎖線で示す面における断面を、矢印M方向から見た断面図である。
図9】アクチュエータ400,380の概略の外観及び配置を示す図である。
図10】アクチュエータ400の構成を示す斜視図である。
図11】アクチュエータ400の分解斜視図である。
図12】アクチュエータ400の、図11よりも細かく分解した状態の分解斜視図である。
図13】アクチュエータ400が行う往復回転運動の原理について説明するための図である。
図14】アクチュエータ400が行う往復回転運動の原理について説明するための別の図である。
図15】アクチュエータ400の駆動コイル420に印加する駆動信号の波形の例を示す図である。
図16】アクチュエータ400におけるミラー401の走査角と角速度の絶対値との関係の一例を示す図である。
図17図16と別の例を示す、図16と対応する図である。
図18図16とさらに別の例を示す、図16と対応する図である。
図19】走査部30から投光されるレーザビーム及び受光部43で検出される反射光の光路を、図1よりも詳細に示す模式図である。
図20】出射光L2の走査範囲と反射部66を設ける位置及び有効反射領域66aの位置との関係を示す模式図である。
図21】出射光L2が反射部66により反射されるタイミングの検出法について説明するための図である。
図22】ミラー401の走査角と角速度が図16の関係にある場合の、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を示す図である。
図23】ミラー401の走査角と角速度が図17の関係にある場合に関する、図22と対応する図である。
図24】ミラー401の走査角と角速度が図18の関係にある場合に関する、図22と対応する図である。
図25】プロセッサ53が実行する駆動周波数の調整処理のフローチャートである。
図26】アクチュエータ400におけるミラー401の走査角と角速度の絶対値との関係の別の例を示す、図16と対応する図である。
図27】出射光L2の走査範囲と反射部66を設ける位置及び有効反射領域66aの位置との関係の別の例を示す、図20と対応する模式図である。
図28図26に示した各条件における、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を示す、図22と対応する図である。
図29】プロセッサ53が実行する駆動振幅の調整処理のフローチャートである。
図30】駆動振幅調整の基準とする時間の別の例を示す図である。
図31】駆動振幅調整の基準とする時間のさらに別の例を示す図である。
図32】この発明の比較例の構成を示す、図19と対応する模式図である。
図33】LDモジュール21の駆動信号の例を示す図である。
図34】LDモジュール21を連続点灯させる場合の、レーザ光が有効反射領域66aで反射される期間を検出する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔1.物体検出装置の全体構成(図1乃至図4)〕
まず、この発明の一実施形態である物体検出装置の全体構成について、図1及び図2を用い、主な構成要素をその機能に注目して区分して説明する。図1は、物体検出装置の主な構成要素をその機能に注目して区分して示すブロック図である。図2は、物体検出装置における物体検出の原理について説明するための図である。
【0022】
この発明の一実施形態である物体検出装置10は、レーザビームを外部へ投光すると共に、外部の物体で反射されて戻ってくるレーザビームを検出し、その投光タイミングと反射光の検出タイミングとの差に基づき、レーザビームの光路上にある物体までの距離及びその物体がある方向を検出する装置である。この物体検出装置10は、図1に示すように、投光部20、走査部30、受光部40、フロントエンド回路51、TDC(時間-デジタル変換器:Time-to-Digital Converter)52、プロセッサ53、入出力部54を備える。
【0023】
これらのうち投光部20は、レーザビームを外部へ投光するためのモジュールであり、LD(レーザダイオード)モジュール21、レーザ駆動回路22、投光光学系23を備える。
LDモジュール21は、レーザ駆動回路22から印加される駆動信号に応じてレーザ光を出力するレーザ光源である。ここでは、複数の発光点を備えるものを用い、出力の強度を高めているが、発光点は1つであってもよい。レーザ光の波長に特に制約はないが、たとえば近赤外光のレーザ光を用いることが考えられる。レーザ光は、光ビームの一例である。
レーザ駆動回路22は、プロセッサ53から供給されるパラメータに従ったタイミングでLDモジュール21を点灯させるための駆動信号を生成し、LDモジュール21に印加するための回路である。LDモジュール21の点灯は、パルス波により間欠的に行う。
【0024】
投光光学系23は、LDモジュール21が出力するレーザ光を平行光のビームにするための光学系であり、この実施形態では、LDモジュール21が備える複数の発光点の中心に焦点が位置する凸レンズによるコリメートレンズを用いている。
なお、投光光学系23により形成されたレーザビームL1は、受光部のミラー41の透孔41aを通過し、走査部30のミラー31により反射されて、出射光L2として物体検出装置10の外部へ出力される。
【0025】
次に、走査部30は、投光部20により出力されるレーザビームを偏向して、所定の視野(FOV:Field of View)70内を走査させるためのモジュールであり、反射材であるミラー31を有するアクチュエータ32を備える。アクチュエータ32は、レーザビームの光路上に設けたミラー31の向きを周期的に変動させることにより、レーザビームの投光方向を周期的に変動させる。
【0026】
また、図1ではアクチュエータ32を1つしか示していないが、実際にはアクチュエータ32は図5に示すようにそれぞれ異なる軸を中心にミラーを揺動させる2つのアクチュエータ300,380で構成される。そして、アクチュエータ300は往復駆動され、主走査方向の走査を担当して主走査方向(Horizontal)走査線71,72を形成し、アクチュエータ380は、主走査方向の走査の端部においてミラーの向きを変化させ、副走査方向の走査位置を調整する。なお、走査線71は図で左から右へ、走査線72は図で右から左へ向けて走査する。ここでは前者を往路走査、後者を復路走査と呼ぶが、これは単に両者を区別するためのもので、往路と復路が逆であってもよい。
【0027】
なお、LDモジュール21は間欠的に点灯するので、実際には走査線71,72は連続した線ではなくビームスポットの集合となる。
また、投光される出射光L2の光路上には反射部66を備えている。この反射部66は、主走査方向の一部分であって予め定められた位置において、出射光L2の少なくとも一部を、出射光L2の入射光路に向けて反射する部材である。反射部66については後に詳述する。
以上の投光部20及び走査部30が、光走査装置を構成する。
【0028】
次に、受光部40は、物体検出装置10の外部から入射する光を検出するためのモジュールであり、ミラー41、集光レンズ42、受光素子43、アパーチャー44を備える。この受光部40により検出したい光は、物体検出装置10から投光され外部の物体により反射されて戻ってくるレーザビーム及び、反射部66で反射されて戻ってくるレーザビームである。外部の物体で反射されるレーザビームは、物体面において乱反射されるが、そのうち投光時の光路と逆向きに反射された成分のみが、戻り光L3として物体検出装置10に戻る。この戻り光L3は、出射光L2とほぼ同じ経路を逆向きに進み、戻り光L4としてミラー41に到達する。
【0029】
反射部66で反射されて戻ってくるレーザビームも、同様に投光時の光路と逆向きに反射された成分が、戻り光L4としてミラー41に到達する。外部の物体で反射された場合との違いは、本質的にはレーザビームの走行距離の違いのみである。ただし、反射部66は外部の物体と比べて近い距離にあるので、反射部66により出射光L2の入射光路と異なる向きに反射された反射光も、一部はミラー41まで到達する。しかし、出射光L2と異なる向きに反射された反射光はアパーチャー44により遮光され、受光素子43へは、実質的に、出射光L2の入射光路に向けて反射された成分のみが到達する。
【0030】
ミラー41は、投光部20から出力されるレーザビームを通過させるための透孔41aを備えると共に、戻り光L4を受光素子43へ導くための固定のミラーである。ここで、LDモジュール21が出力するレーザ光は一般に、コリメートレンズを通しても完全な平行光にはならず、小さな発散角を持つ。従って、ミラー41の位置において、戻り光L4はレーザビームL1に比べると広がりが大きいため、透孔41aよりも広い範囲でミラー41に当たり、透孔41a以外の位置に当たる成分が、受光素子43へ向けて反射される。
【0031】
集光レンズ42は、ミラー41で反射された戻り光L4を集光して所定の焦点面上に結像させるレンズである。
受光素子43は、所定の受光面上に当たった光の強度に応じた検出信号を出力する光検出素子である。この実施形態では、受光素子としてシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)を用いている。この点については後に詳述する。
【0032】
アパーチャー44は、集光レンズ42の焦点面上に配置され、開口部以外の光を遮光することにより、外乱光が受光素子43に入射することを防止する。より具体的には、アパーチャー44は、投光時の光路と逆向きにミラー41に入射してミラー41により反射された戻り光L4の成分を所定の径で通過させ、それ以外の光を遮光する。このため、反射部66により出射光L2の入射光路と異なる向きに反射されたレーザビームは、ミラー41まで到達しても、アパーチャー44により遮光され、受光素子43には到達しない。
以上のうちミラー41、集光レンズ42及びアパーチャー44が、受光光学系を構成する。また、これら受光光学系に加えてミラー31が、導光部に該当する。
【0033】
次に、フロントエンド回路51は、受光素子43が出力する検出信号を、TDC52でのタイミング検出に適した波形に整形する回路である。
TDC52は、レーザ駆動回路22から供給される駆動信号と、フロントエンド回路51から供給される整形後の検出信号とに基づき、出射光となるレーザビームL1の点灯パルスのタイミングt0と、これと対応する戻り光L4のパルスのタイミングt1との時間差を示すデジタル出力を形成する回路である。このTDC52は、レーザ光の投光と受光素子43による受光との時間差を測定する測定部として機能する。
【0034】
出射光のパルスと、戻り光のパルスでは、光が光路上の物体に到達して戻ってくるのに要する時間だけの時間差があるので、その時間差Δtに基づき、図2に示すように物体検出装置10から物体までの距離sを、s=c(Δt)/2として求めることができる。cは光速である。
なお、上記sは、正確には物体から受光素子43までの光路長である。レーザビームが反射部66により反射されて戻ってくる場合には、sは基本的には反射部66から受光素子43までの光路長である。しかし、LDモジュール21からミラー41までの距離とミラー41から受光素子43までの距離とが大きく異なる場合、この距離差による誤差を適宜に補正することが好ましい。
【0035】
プロセッサ53は、図1に示した各部の動作を制御する制御部である。CPU、ROM、RAM等を備え、ソフトウエアを実行する汎用のコンピュータにより構成してもよいし、専用のハードウエアにより構成してもよいし、それらの組み合わせであってもよい。プロセッサ53は例えば、TDC52からの出力信号に基づく物体までの距離の算出、戻り光の検出時点での走査部30による走査のタイミング(出射光L2の投光方向)に基づく物体のある方向の算出を行う。また、後に詳述するが、TDC52からの出力信号に基づくアクチュエータ300,380の駆動信号の制御も行う。
【0036】
入出力部54は、外部との間の情報の入出力を行うモジュールである。ここでいう情報の入出力には、外部の装置との間での有線あるいは無線による通信、ボタンやタッチパネル等を用いたユーザからの操作の受け付け、ディスプレイ、ランプ、スピーカ、バイブレータ等を用いたユーザへの情報の提示を含む。入出力部54が外部へ出力すべき情報としては、例えば、検出した物体に関する情報(距離や方向の生データでも、それらに基づき所定のサイズ、位置、移動速度等の物体を検出したことを示す情報でもよい)、物体検出装置10の動作状態や設定状態に関する情報が考えられる。入出力部54が外部から入力を受け付けるべき情報としては、例えば、物体検出装置10の動作の設定に関する情報が考えられる。
【0037】
入出力部54による通信の相手としては、例えば自動運転システムを備えた自動車やドローンなどの移動体、拡張現実(Augmented Reality:AR)分野等で用いるウェアラブルデバイスが考えられる。物体検出装置10が検出した物体の情報を自動運転システムに供給すれば、自動運転システムは、その情報を参照し、検出した物体を回避するような走行ルートを計画することができる。物体検出装置10が検出した物体の情報をウェアラブルデバイスに供給すれば、カメラで取り込んだ画像情報から周囲の物体を推定する場合と比べ、より高精度に周囲の物体の位置を検出して、物体画像に対し人工的に加工した情報を融合させることができる。
【0038】
なお、この発明を、物体検出装置10と、その通信相手の自動車やドローン、航空機、ウェアラブルデバイス等の装置とを含むシステムとして実施することも考えられる。なお、ここで説明する実施形態は、小型化や低消費電力化の要求が大きいウェアラブルデバイスに物体検出装置10を搭載する場合に、特に有用である。
【0039】
次に、物体検出装置10の概略の構造について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、物体検出装置の主な構成要素の構造を示す分解斜視図、図4は、物体検出装置の外観を示す斜視図である。
物体検出装置10は、図3及び図4に示すように、トップカバー61とリアカバー62を、2つのカバークリップ63,63により結合した外装を備える。また、トップカバー61は、出射光L2を通過させるための窓を備え、その窓には塵の侵入を防ぐための、出射光L2の波長において透明な保護材64が嵌められている。反射部66は、この保護材64の内側表面上に設けている。
【0040】
これらの筐体の内側に、図1に示した各構成要素が格納されている。なお、図1に示したアクチュエータ32は、主走査方向の走査を担当するアクチュエータ300と、副走査方向の走査を担当するアクチュエータ380との、2つのアクチュエータとして示している。ミラーユニット301は、アクチュエータ300が備えるミラーである。
また、ミラー48は、図1には示していないが、ミラー41と集光レンズ42の間にあって戻り光L4の向きを変えるための光学素子である。破線65は、物体検出装置10の視野(出射光L2による走査範囲)を示し、図1の視野70と対応する。レーザ駆動回路22、プロセッサ53等の回路やモジュール間の配線は、図を見やすくするため図3では図示を省略している。
以上で全体構成の説明を終え、以下、物体検出装置10のいくつかの構成要素について個別に説明する。
【0041】
〔2.走査部30及びアクチュエータ300の構成(図5乃至図8)〕
走査部30が、アクチュエータ300と380を備えることは既に述べたが、これらのうちアクチュエータ300についてまず説明する。
図5に、アクチュエータ300,380の概略の外観及び配置を、図3よりも拡大して示す。
【0042】
図5に示すように、アクチュエータ300とアクチュエータ380は、その構成が大きく異なる。
アクチュエータ380は、出射光L2の副走査方向の偏向のために用いるので、さほど高速な運動は要求されないことから、物理的な軸を中心にミラーを回転運動させるタイプのアクチュエータを用いている。このアクチュエータ380は、ミラー381を軸382に固定し、軸382をホルダ383に差し込んで回転可能に取り付けて構成されている。そして、ミラー381の裏側に配置された永久磁石及びコイルの作用により、コイルに印加された電圧に応じて、ミラー381が軸382の中心を回転軸384として回転し、所定の角度範囲を往復運動する。電圧の強度を調整することにより、ミラーを運動範囲内の所望の角度で停止させることも可能である。
【0043】
このようなアクチュエータは、ガルバノミラーと呼ばれる。一般には、軸の一端に力を加えることにより軸の他端に取り付けられたミラーを回転させる構成が広く用いられているが、アクチュエータ380のように、軸に力を加える位置とミラーの取り付け位置が、軸の長手方向について同じ位置であっても、同様な原理での駆動が可能である。
【0044】
一方、アクチュエータ300は、出射光L2の主走査方向の偏向のために用いるので、高速な運動が要求され、またその高速な運動を長時間継続できる耐久性も求められる。そこで、アクチュエータ300としては、このような目的に合ったアクチュエータを用いている。
【0045】
その具体的な構成は図6乃至図8を用いて詳述するが、概略としては、アクチュエータ300は、ミラーユニット301を、直線状の突起部を有するねじりばね302の一方の面に、突起部を跨ぐように固定し、ねじりばね302の端部を支持部材としてのトップヨーク314に固定して構成されている。そして、ねじりばね302の他方の面側に配置された永久磁石及びコイルの作用により、コイルに印加された電圧に応じて、ねじりばね302及びミラーユニット301が、ねじりばね302の突起部の略中心に位置する回転軸304を中心に回転し、所定の角度範囲を往復運動する。
【0046】
走査部30は、以上のアクチュエータ300,380によりそれぞれ駆動されるミラーユニット301及びミラー381によりレーザビームL1を反射し、偏向することにより、図1に示した走査線71,72上を走査する出射光L2を、外部へ投光することができる。
なお、副走査方向の偏向走査を行うアクチュエータとして、アクチュエータ300と同じ構造のものを用いることも、もちろん妨げられない。
【0047】
次に、図6乃至図8を用いて、アクチュエータ300の構造と動作原理についてより詳細に説明する。
図6は、アクチュエータ300を構成する部品の構造と、その組み立て工程の概略を示す分解斜視図であり、その最終工程において完成したアクチュエータ300の斜視図も含む。図7は、アクチュエータ300の可動子320を構成する部品の構造を示す分解斜視図である。図8は、図6の(d)に示したアクチュエータ300の一点鎖線で示す面における断面(平面部302bの中央付近を通り、突起部302cの長手方向に垂直な平面での断面)を、矢印M方向から見た断面図である。ただし、図を見やすくするため、図8においてコイルアッセンブリ313の図示は省略し、コイルの巻き方を模式的に示している。
【0048】
アクチュエータ300は、図6の(a)に示すように、コアヨーク311、枠ヨーク312、コイルアッセンブリ313、トップヨーク314、可動子320を備える。
これらのうち枠ヨーク312とトップヨーク314は、コイルを囲む磁性体による外装を形成する。枠ヨーク312とトップヨーク314は、4組のねじ孔312b,314bを貫通する4本のねじ315により、内部にコイルアッセンブリ313を保持するように固定される。
【0049】
コイルアッセンブリ313は、非磁性体によるボビン313aに、図8に示す駆動コイル316及びセンシングコイル317の2本のコイルを巻き、その外側を保護カバー313cで覆ったものである。ボビン313aの内部には、コア部311aを通すための挿通孔313bが設けられている。また、保護カバー313cは、外装に覆われない位置に、駆動コイル316へ駆動信号を印加するための端子と、センシングコイル317に発生する信号を出力するための端子とを備える。
コアヨーク311は、駆動コイル316及びセンシングコイル317のコアとなる、強磁性体によるコア部311aを備える。
【0050】
これらの各部品は、図6の(b)に示すようにコアヨーク311のコア部311aを枠ヨーク312の挿通孔312aに挿入し、その後(c)に示すようにコイルアッセンブリ313の挿通孔313bにコア部311aを挿入してコイルアッセンブリ313の位置決めを行い、その後(d)に示すようにトップヨーク314と枠ヨーク312とをねじ315により固定して、一体化される。
【0051】
このとき、(a)から(b)の工程で、コア部311aを枠ヨーク312に固定し、(b)から(c)の工程で、コイルアッセンブリ313をコア部311a(及び枠ヨーク312)に固定する。この固定は、不図示のねじや溶接、または接着を用いて行ったり、挿入側の部材を受け入れ側のスペースよりも若干大きくして受け入れ位置へ圧入することにより行ったり、これらの組み合わせで行ったりすることが考えられる。
なお、図6の(b)及び(c)では、スペースの都合上、可動子320の図示は省略している。
【0052】
また、可動子320は、図7に示すように、ミラーユニット301及びねじりばね302の他、永久磁石321を備える。
これらのうちねじりばね302は、金属板をプレス加工又は折り加工等により折り曲げて形成したばねであり、その折れ目によって、V字型の断面を有する直線状の突起部302cを備える。また、突起部302cの中央付近には、突起部302cを跨ぐように両側に突出する平面部302bを備え、突起部302cの両端にはそれぞれ、突起部302cを跨ぐように両側に突出する平面部302aを備える。これらの突起部302cと平面部302a,302bは、全て一体であり、一枚の板状部材を折り曲げてこれらの各部を形成することにより、十分な強度を持ったねじりばね302を、低コストで形成することができる。
【0053】
また、両端の平面部302aと平面部302bとは、自然状態では全て同一平面上に位置する。しかし、両端の平面部302aを同一平面上に固定した状態で平面部302bに対して突起部302cを中心に回転する力を加えると、突起部302cがねじれ、平面部302bは突起部302cを中心に回転移動する。力をかけるのをやめると、ばねの復元力により突起部302cのねじれが解消し、平面部302bは平面部302aと同一平面上に戻る。
また、永久磁石321は、平面部302bの、突起部302cと反対側の面に、突起部を跨いた一方側にN極321nが、他方側にS極321sが位置するように固定される。N極321nとS極321sの位置は、図と逆でも問題ない。永久磁石321と平面部302bとの間の固定は、接着や溶接など、任意の方法で行うことができる。
【0054】
ミラーユニット301は、1枚の第1ミラー301aと2枚の第2ミラー301bとを、図7に示すように一部重ねて接着することにより構成したものであり、2枚の第2ミラー301bを、突起部302cの両側の平面部302bの、突起部302c側の面に接着することにより、ねじりばね302に固定されている。これらの接着に用いる接着剤は任意のものでよいが、硬化収縮の少ないものが望ましい。
【0055】
なお、図8に示すように、第1ミラー301aと突起部302cの先端とは接しておらず、若干の隙間がある。すなわち、第1ミラー301aは第2ミラー301bにのみ固定され、第2ミラー301bがスペーサとなっている。このようにしているのは、突起部302cは、ねじりばね302がねじれる際に若干変形するため、変形が起こっても周辺の部材と干渉しないよう、突起部302cの周りにはある程度の空間を確保することが好ましいためである。
【0056】
以上の可動子320は、図7に示した各部材を予め組み立てた後で、図6の(c)と(d)の間の工程で、トップヨーク314の可動子保持部314aに対して固定する。この固定は、可動子保持部314aに対して平面部302aを不図示のねじによりねじ止めして行ったり、平面部302aと可動子保持部314aとを接着あるいは溶接することにより行ったり、平面部302aを可動子保持部314aに設けたスリットに挿入して行ったり等、任意の方法で行うことができる。
【0057】
可動子320がトップヨーク314に固定された状態では、ねじりばね302の平面部302b及び永久磁石321は、トップヨーク314の開口部314cを通してコイルアッセンブリ313と対向する。より具体的には、図8に示すように、コイルアッセンブリ313内に設けられた駆動コイル316の軸の一端が、永久磁石321のN極321nとS極321sの中間点と対向する。永久磁石321から見ると、ねじりばね302と反対側に駆動コイル316が配置されていることになる。
【0058】
この状態で駆動コイル316に通電し、例えば永久磁石321と対向する側の端部がN極となると、永久磁石321のS極321sは駆動コイル316に引き寄せられ、N極321nは駆動コイル316と反発し、永久磁石321には、図8で見て時計回りに回転しようとする力が働く。その力はねじりばね302の平面部302bに伝わり、ねじりばね302は、突起部302cの断面の中心付近にある仮想的な回転軸304を中心に時計回りに回転してねじれる。これにつれて、平面部302bに固定されたミラーユニット301も、回転軸304を中心に時計回りに回転する。
そして、駆動コイル316と永久磁石321の間に生じる磁力と、ねじりばね302の復元力とが釣り合う位置で回転が止まる。駆動コイル316に流す電流の強さを変えることにより、この回転の速さと停止位置を調整可能である。
【0059】
次に、永久磁石321及びミラーユニット301が適当な位置まで時計回りに回転した状態で、駆動コイル316への通電方向を逆向きにすると、永久磁石321と対向する側の端部がS極となり、今度は永久磁石321のN極321nが駆動コイル316に引き寄せられ、S極321sが駆動コイル316と反発し、永久磁石321には、図8で見て反時計回りに回転しようとする力が働く。その力は時計回りの場合と同様にねじりばね302の平面部302bに伝わり、ねじりばね302は回転軸304を中心に反時計回りに回転して先ほどと逆向きにねじれる。これにつれて、平面部302bに固定されたミラーユニット301も、回転軸304を中心に反時計回りに回転する。
【0060】
駆動コイル316に印加する駆動信号の電圧又は電流の向きを定期的に反転させることにより、図8に矢印Vで示すようにミラーユニット301に上記の時計回り及び反時計回りの回転を交互に行わせ、回転軸304の廻りを所定の角度範囲で回転する往復運動をさせることができる。すなわち、ミラーユニット301を、所定の移動経路上で揺動させることができる。そして、このことにより、図1を用いて説明した、主走査方向の走査に必要なレーザビームL1の周期的な偏向を実現することができる。
【0061】
なお、ねじりばね302の寿命を考えると、揺動の範囲は自然状態に対して対称であることが望ましい。しかしこれは必須ではない。例えば、駆動コイル316に印加する電圧のオンオフを周期的に切り換えることにより、自然状態付近の位置を一端とする所定範囲での揺動を行うこともできる。駆動コイル316に印加する電圧又は電流を、適宜な範囲で周期的に変化させることにより、ねじりばね302の可動範囲内の任意の揺動範囲で、ミラーユニット301を揺動させることができる。
【0062】
このようなアクチュエータ300を、可動子320の共振周波数またはその近い周波数で駆動することにより、低消費電力で高速な走査を行うことができる。
アクチュエータ300では、可動子320はその端部がトップヨーク314に固定されているが、実際に移動する平面部302b付近の部分は空中に浮いているため、揺動時に部品間の摩擦が発生せず、長時間連続で使用しても、発熱や摩耗が生じにくい。従って、高い耐久性を得ることができる。
また、コイルアッセンブリ313を磁性体のトップヨーク314及び枠ヨーク312で囲んでいるため、駆動コイル316に生じる磁力の漏れを防止し、高い駆動効率を得ることができる。ただし、このような磁性体の囲みを設けることは、必須ではない。
【0063】
また、ねじりばね302の材質は、例えばステンレスや、りん青銅とすることが考えられるが、その他、弾性ばねを形成可能な任意の材質を採用することができる。また、突起部302cの断面をV字型にしているのは、発明者らのシミュレーションにより、大きなばね定数が得られ、このことによりねじりばね302の共振周波数を高められることが見出されたためである。
しかし、断面の形状はV字型に限られることはなく、ねじりばねとして機能し得るのであれば、断面が角張ったn字型やU字型、またはM字型、W字型、開口部のない空芯薄壁閉断面など、他の形状であってもよい。
【0064】
なお、こうした直線状の突起部302cを有する構造は、平面構造のねじりばねに比べ、回転軸に直交する方向の剛性を高くすることができる。この剛性は、自動車内のような、常時振動する環境で安定した走査を行い、また揺動部の耐久性を確保する上で非常に有用である。
また、突起部302cを有するねじりばねは、立体形状であり、全体としての厚みが大きい。このため、板材を折り曲げて形成することは容易であるが、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を利用したウエーハープロセスで、十分な高さの突起部302cを有するねじりばねを形成することは、困難である。
【0065】
また、駆動コイル316は、図8の例では自然状態で平面部302bに対して垂直な向きに配置しているが、軸の一端が、永久磁石321のN極321nとS極321sの中間点と対向していれば、向きは図8に示したものに限られない。例えば、軸を突起部302cと平行に配置しても、図8の構成の場合と同様なミラーユニット301の揺動が可能である。
【0066】
また、駆動コイル316を、コイルアッセンブリ313に収納したり、ボビンに巻いたりすることも必須ではなく、コア部311aに直接巻くことも妨げられない。
また、センシングコイル317は、特許文献2に記載のような走査部30におけるミラー31の向きに応じたLDモジュール21の点灯間隔の制御を行うために設けたものであり、この調整を行わないのであれば、不要である。
【0067】
また、以上の他、永久磁石321に代えて、ミラーの駆動時に通電される電磁石を用いることも妨げられない。ただし、永久磁石321の方が、構造が単純で組み付け誤差が発生しにくく、余計なノイズを発生しない点で好ましい。
【0068】
〔3.アクチュエータの別の構成例(図9乃至図14)〕
走査部30に設けるアクチュエータとしては、以上説明してきたアクチュエータ300に代え、全く動作原理の異なるアクチュエータを採用することもできる。次に、このような別のアクチュエータの例として、アクチュエータ400について説明する。
まず図9に、アクチュエータ300に代えてアクチュエータ400を設けた場合の、アクチュエータ400,380の概略の外観及び配置を、図5と同様に示す。
【0069】
概略としては、アクチュエータ400は、ミラー401を、永久磁石410に固定し、永久磁石410をベアリング403,405により保持して構成されている。そして、永久磁石410の磁力と、永久磁石410の周りに配置されたヨーク430と、永久磁石410とヨーク430との間に配置された駆動コイル420(図10参照)を流れる電流との相互作用により、コイルに印加された電圧に応じて、永久磁石410とミラー401とが一体として、永久磁石410の中心を通る回転軸404を中心に回転し、所定の角度範囲を往復運動する。
【0070】
走査部30は、以上のアクチュエータ400により駆動されるミラー401と、図5に示したものと同じアクチュエータ380により駆動されるミラー381とによりレーザビームL1を反射し、偏向することにより、図1に示した走査線71,72上を走査する出射光L2を、外部へ投光することができる。
なお、副走査方向の偏向走査を行うアクチュエータとして、アクチュエータ300を用いたり、アクチュエータ400と同じ構造のものを用いたりすることも、もちろん妨げられない。
【0071】
次に、図10乃至図12を用いて、アクチュエータ400の構造についてより詳細に説明する。
図10は、アクチュエータ400の構成を示す斜視図である。図11及び図12はそれぞれアクチュエータの400の分解斜視図である。図12は、図11に比べ、永久磁石410周りの部品も分解した状態を示している。
アクチュエータ400は、図10乃至図12に示すように、ミラー401、ミラーホルダ402、ベアリング403、ベアリング405、磁石ホルダ406、永久磁石410、駆動コイル420、ヨーク430を備える。
【0072】
これらのうちミラー401は、レーザビームL1及び戻り光L3を反射するための反射面を有する平面状のミラーである。
ミラーホルダ402は、ベアリング403に対し、ミラー401を、その重心が永久磁石410の中心軸(回転中心)上に来るように、かつ永久磁石410の回転に伴って回転するように固定する。
【0073】
図11の例では、永久磁石410が嵌まるように薄肉に形成した薄肉部402b内に、円柱状の永久磁石410の上端を押し込むことにより、ミラーホルダ402を永久磁石410に対して固定する。その後、ミラー保持部402aを図で下側から上側へベアリング403の内輪403aに通して、そのままミラーホルダ402を、内輪403aに押し込むことにより、ミラーホルダ402を内輪403aに嵌め込んで固定する。ミラー401は、ミラー保持部402aに対して接着する。
【0074】
ベアリング403及びベアリング405はそれぞれ、永久磁石410を、その中心軸を中心として回転可能なように保持する。
永久磁石410のベアリング403への固定は、上記のようにミラーホルダ402を介して行う。永久磁石410のベアリング405への固定は、永久磁石410が嵌まるように形成された磁石ホルダ406の磁石保持部406aに対して端部を押し込んで永久磁石410と磁石ホルダ406とを一体化した上で、磁石ホルダ406のベアリング接続部406bを、ベアリング405の内輪405aに対して嵌め込んで行う。
以上により、永久磁石410とミラー401とが一体として、内輪403a及び内輪405aと共に回転可能なように、ベアリング403,405によって保持される。
【0075】
また、駆動コイル420は、ヨーク430の内側に接着や溶接などで固定され、ヨーク430は、ベアリング403及びベアリング405に対して、内輪403a,405aの回転を妨げないように、接着や溶接などで固定されている。
以上に挙げた、嵌め込み、接着、溶接などの固定方法は一例であり、他の方法を用いることももちろん可能である。
【0076】
アクチュエータ400において、永久磁石410は円柱状であり、その中心軸を含む断面で2つに区分した領域の一方側がN極410n、他方側がS極410sとなっている(図13図14参照)。長手方向の両端部がそれぞれN極とS極となっている構成ではない。
【0077】
また、駆動コイル420には、永久磁石410(の中心)に平行な導線の束を含む第1部分421と、永久磁石410に平行な導線の束を含み通電時に第1部分421と逆向きに電流が流れる第2部分422とが、永久磁石410を挟んで向かい合うように配置されている。第1部分421と第2部分422とは、それぞれ永久磁石410の端部付近に永久磁石410の表面に沿って回り込むように配置される第1接続部423及び第2接続部424により接続される。
【0078】
駆動コイル420の一巻きは、例えば、第1部分421を永久磁石410に沿って図10で下から上に上がり、永久磁石410の上端部付近で第1接続部423に入って、永久磁石410の表面に沿って図10で上側から見て時計回りに回り込み、その後第2部分422に入って、永久磁石410に沿って図10で上から下に下がり、永久磁石410の下端部付近で第2接続部424に入って、永久磁石410の表面に沿って図10で上側から見て反時計回りに回り込み、次の周回の第1部分421に繋がる、というものである。永久磁石410の長手方向端面と対向する位置には、導線は配置されていない。
【0079】
この構成の駆動コイル420を用いることにより、ひとつのコイルだけで、後述するように、N極410n側とS極410s側とに異なる向きの電流を流し、N極410n側とS極410s側とに、トルクを同時に発生させることができる。また、第1接続部423と第2接続部424には、電流を流しても、永久磁石410に対してトルクを発生させることはないが、長さが短いため、導線の抵抗によるエネルギー損失は少なくて済む。これらの理由により、駆動コイル420によれば、高いエネルギー効率で、永久磁石410に対するトルクを発生させることができる。
また、上記構成の駆動コイル420は、平面シングル空芯コイルをU字型に折り曲げるだけで形成できるため、製造が容易である。
【0080】
なお、図示は省略したが、アクチュエータ400は、駆動コイル420に駆動信号を印加するための端子および配線を備えており、駆動コイル420は永久磁石410には接触しないように設ける。
ヨーク430は、駆動コイル420の外側に配置される磁性体であり、それぞれ平板の、連続した第1部分431、第2部分432及び第3部分433からなり、長手方向に垂直な面での断面は概ね、一辺が欠けた正方形の残り3辺の形状である。
【0081】
以上のような構成のアクチュエータ400においては、永久磁石410の中心に垂直な平面上における、永久磁石410の中心からヨーク430までの距離が、永久磁石410の中心から見た方向によって異なるように、ヨーク430が設けられている。すなわち、永久磁石410から見た方向によって、永久磁石410からヨーク430までが近い箇所と、遠い箇所とがある。ヨーク430がない、正方形の欠けた一辺の方角は、永久磁石410からヨーク430までの距離が無限であると考えることができる。
【0082】
ヨーク430をこのように設けると、駆動コイル420に電圧を印加していない状態では、永久磁石410のN極410nとS極410sが、磁力によりそれぞれヨーク430までの距離が最も近い向きを向いて止まる。両極が共に「最も近い向き」を向けない場合には、適宜なつり合い位置を向いて止まる。
【0083】
図10の例では、N極410nとS極410sの一方が第1部分431の中心付近を、他方が第2部分432の中心付近を向いて止まる。このような位置を、「中立位置」と呼ぶことにする。そして、駆動コイル420への電圧印加により永久磁石410がこの位置から多少回転しても、電圧の印加をやめれば、永久磁石410は中立位置に戻る。この意味で、アクチュエータ400には、永久磁石410を中立位置に戻す復元力が働いている、ということができる。すなわち、ヨーク430との組み合わせにより、永久磁石410は、中立位置が自然状態であるばねのように振る舞う、ということができる。
【0084】
アクチュエータ400は、この復元力を利用して永久磁石410及びミラー401に往復回転運動をさせることにより、復元力の発生しない構成の、通常のガルバノミラーと比べ、特定の駆動周波数で駆動すれば、例えば、アクチュエータの可動部の共振周波数またはその近い周波数で駆動すれば、低消費電力で高速な走査を行うことができる。
なお、永久磁石410から第3部分433までの距離は、第1部分431あるいは第2部分432までの距離より遠いことが好ましい。永久磁石410から第3部分433までの距離が近くても、一方の極が第3部分433側を向くと、他方の極に対向するヨークがないため、この向きは中立位置とはならないが、局所的に、永久磁石410の向きと復元力の強さとの関係に大きな乱れが発生し得るためである。
【0085】
次に、図13及び図14の説明図を用いて、アクチュエータ400が行う往復回転運動の原理について説明する。
図13及び図14は、永久磁石410に垂直な平面での、永久磁石410、駆動コイル420及びヨーク430の断面をミラー401側から見た状態を、模式的に示している。ただし、断面のハッチングは省略し、ヨーク430は、中立位置の形成に関与する第1部分431及び第2部分432のみを示している。また、符号B及びB′の矢印は、各状態で永久磁石410が発生させる磁力線の向きの代表を示す。符号F及びF′の矢印は、各状態で永久磁石410に与えられる力の向きを示す。いずれも、矢印の長さは必ずしも力の大きさとは対応しない。
【0086】
アクチュエータ400において、駆動コイル420に電圧を印加していない状態でしばらくおくと、永久磁石410は、図13(a)及び図14(a)に示す中立位置まで回転して停止する。なお、N極410nとS極410sの位置が図13(a)及び図14(a)の状態と反対の、N極410nが第1部分431と対向する位置も中立位置であり、こちらの場合でも同様な往復回転運動が可能であるが、ここでは、図13(a)の位置が中立位置であるとして説明を進める。
【0087】
図13(a)の状態から駆動コイル420に電圧を印加し、図13(b)に示すように、第1部分421に、紙面の手前から奥に向かう電流iを、第2部分422に、これと反対の奥から手前に向かう電流-iを、それぞれ流した状態を考える。
この状態では、第1部分421の周囲には時計回りの、第2部分422の周囲には反時計回りの磁界が形成され、永久磁石410の付近には、磁力線が図で下から上へ向かう磁界が形成される。永久磁石410は、この磁界からN極410nが上を向く方向への力を受け、時計回りに回転する。この力は、永久磁石410が発生させる磁界内で駆動コイル420に電流を流したことにより生じるローレンツ力の反作用であると考えることができる。
そして、ある程度回転した図13(c)の状態で駆動コイル420への電圧印加を停止すると、永久磁石410は、各極とヨーク430との間に発生する磁力により、図13(a)の自然状態に戻る。
【0088】
また、図14(b)のように、駆動コイル420に対し、図13(b)の場合と反対向きの電圧を印加し、反対向きに電流を流すと、永久磁石410の付近には、磁力線が図で上から下へ向かう磁界が形成される。永久磁石410は、この磁界からN極410nが下を向く方向への力を受け、反時計回りに回転する。
ある程度回転した図14(c)の状態で駆動コイル420への電圧印加を停止すると、永久磁石410は、各極とヨーク430との間に発生する磁力により、図14(a)の自然状態(図13(a)と同じ状態)に戻る。
【0089】
駆動コイル420に対して周期的に電圧又は電流が変化する駆動信号を印加して、以上の過程を繰り返すことにより、アクチュエータ400は、永久磁石410及びミラー401に往復回転運動(揺動)をさせることができる。
回転運動の範囲は自然状態に対して対称であってもよいし、対称でなくてもよい。例えば、駆動コイル420に印加する電圧のオンオフを周期的に切り換えることにより、中立位置付近の位置を一端とする所定範囲での揺動を行うこともできる。駆動コイル420に印加する電圧又は電流を、適宜な範囲で周期的に変化させることにより、任意の揺動範囲で、ミラー401を揺動させることができる。
【0090】
この場合において、揺動範囲の端部で永久磁石410を停止させる際には、エネルギーを投じてブレーキをかける必要がなく、単に駆動コイル420への電圧印加を止めるだけでよい。また、そこから永久磁石410を揺動範囲の端部から中立位置へ戻す際にも、電圧を印加する必要がない(もちろん、印加してもよい)。その分、永久磁石410を中立位置から揺動範囲の端部まで回転させる際には、中立位置への復元力に抗するだけの電圧を駆動コイル420に印加する必要があるが、この点を加味しても、アクチュエータ400は、復元力がないガルバノミラーに比べ、少ない消費電力で永久磁石410及びミラー401を揺動させることができる。
【0091】
なお、揺動に際して永久磁石410の回転角が大きくなりすぎると、電圧印加を停止した際に、永久磁石410が元の中立位置に戻らず、N極410nとS極410sが入れ替わった中立位置に移行してしまう可能性がある。従って、揺動範囲はあまり大きくしないことが好ましい。図13及び図14の例では、初めの中立位置から±90°以上回転させるべきではない。
【0092】
また、自然状態からの変位が大きくなると、それにつれてエネルギー効率が低下するという問題もある。これは、変位が大きくなると、各極が、自然状態で対向していた導線だけでなく、反対側の導線からの影響も受けるようになるためである。反対側の導線には、自然状態で対向していた導線とは逆向きの電流が流れているため、この影響は回転に対するブレーキになる。
これらの観点から、回転運動の範囲が自然状態に対して対称であると、揺動範囲を広く取りつつ、高いエネルギー効率が得られ、好ましい。
【0093】
以上説明してきたアクチュエータ400において、永久磁石410を円柱状としていたが、永久磁石の形状はこれに限られない。円柱状であると、対称性が高いため、回転の安定性を高めることができるが、ベアリングやホルダ等を適切な形状として回転可能に保持できるのであれば、円柱状である必要はない。例えば、角柱状であってもよい。また、円柱や角柱といった場合にも、底面のサイズに比べて高さが大きい棒状だけでなく、例えば高さよりも底面の直径が大きい、円盤状の形状も取り得る。また、高さ方向の位置によって断面積が異なる、例えば中央部付近の断面積が大きい樽状の形状や、逆に端部付近の断面積が大きい形状であることも、妨げられない。
【0094】
〔4.アクチュエータの駆動周波数の調整(図15乃至図25)〕
次に、上述した物体検出装置10が実行する、アクチュエータの駆動周波数の制御に関する動作について説明する。この動作は、レーザビームL1を主走査方向に偏向させるためのアクチュエータとして、上述のアクチュエータ300を用いる場合でも、アクチュエータ400を用いる場合でも、同様に適用可能である。もちろん、その他のアクチュエータを用いる場合でも、自然状態への復元力を持つ可動子をその復元力に抗して往復回転駆動するタイプをはじめ、共振周波数を持つアクチュエータであれば、任意の形態のものに適用可能である。他の例としては、例えば特許文献3に記載のものが挙げられる。
ここでは、アクチュエータ400を用いる構成を例として説明する。
【0095】
図15に、アクチュエータ400を駆動するために駆動コイル420に印加する駆動信号drv_pの波形の例を示す。
ここで用いる駆動信号drv_pは、図15に示すように、一定周期で+vと-vの電圧が繰り返す矩形波である。この周期の逆数(本明細書において、これを「駆動周波数」と呼ぶ)が、可動子であるミラー401(及びミラー401が固定された永久磁石410)の共振周波数と一致する場合に、アクチュエータ400のミラー401を効率よく、すなわち低消費電力で駆動することができる。
【0096】
ここで、図16乃至図18に、ミラー401の走査角と角速度の絶対値との関係を、いくつかの場合について示す。図16は、駆動周波数がミラー401の共振周波数と一致している場合の例、図17及び図18は、駆動周波数がミラー401の共振周波数からずれている場合の例である。図16乃至図18では、ミラー401の揺動経路上の位置(適宜な位置を基準とした回転角により表現し、これを「走査角」と呼んでいる)を横軸に、その位置での角速度の絶対値を縦軸に取って速度の変化を図示している。往路走査時の関係を実線501で、復路走査時の関係を破線502で示している。
なお、以後の説明について、特に断らずに「速度」あるいは「角速度」といった場合には、速度あるいは角速度の絶対値を指す。
【0097】
ここで、アクチュエータ400により揺動されるミラー401の移動速度は一定ではないことがわかっている。ミラー401は揺動経路の端部では停止し他の部分では動いているので、移動速度に変動があるのは明らかだが、発明者らの実験によれば、その速度は、図16乃至図18に示すように、概ね揺動経路の端部に行くほど遅く、中央部に行くほど速くなっている。
【0098】
また、発明者らの実験により、駆動周波数がミラー401の共振周波数と(ほぼ)一致している図16の場合には、時計回りと反時計回りのどちらに回転する場合でも、すなわち往路走査と復路走査のどちらの場合でも、移動の向きが異なるのみで、同じ位置であれば角速度はほぼ等しいこともわかってる。また、主走査の中央位置が角速度のピークとなる。このため、図16では実線501と破線502は重なっており、図には実線501のみが表れている。
【0099】
一方、発明者らの実験により、駆動周波数がミラー401の共振周波数とずれている場合には、図17又は図18に示すように、往路走査と復路走査とで、走査角と角速度との関係が異なることもわかっている。このとき、各走査における角速度のピークも、主走査の中央位置からずれる。
図17の例では往路走査、復路走査ともに角速度のピークが中央位置よりも後方にずれている。図18の例では逆にピークが中央位置よりも前方にずれている。
【0100】
発明者らの実験により、駆動周波数とミラー401の共振周波数とが比較的近い場合には、駆動周波数を共振周波数(と想定される周波数)に徐々に近づけ、共振周波数を通り越して変化させると、往復走査における走査角と角速度との関係は次のように変化することがわかった。
すなわち、初めは図17図18の一方の関係をとり、駆動周波数が共振周波数に近づくにつれて往路走査と復路走査の差が小さくなり、ある値となったとき図16に示す関係となる。この値が共振周波数であると考えられる。その後、駆動周波数が共振周波数を通り過ぎると、図17図18のうち他方の関係となり、駆動周波数が共振周波数から離れるにつれて往路走査と復路走査の差が大きくなっていく。
この実施形態におけるアクチュエータ400の駆動周波数の制御は、ミラー401の走査角と角速度との間のこれらの関係を利用し、アクチュエータ400の駆動周波数をミラー401の共振周波数と一致させるために行うものである。
【0101】
次に、この駆動周波数制御の原理について図19乃至図24も用いて説明する。
図19の模式図に、走査部30から投光されるレーザビーム及び走査部30へ入射する反射光の光路を、図1よりも詳細に示す。なお、図19においては、光路の向きは、主走査方向についてのみ考慮している。
ここで説明する走査部30では、アクチュエータ400が主走査方向の走査を担当し、レーザビームL1を反射するミラー401の揺動により、出射光L2の出射方向を変化させて主走査線を形成する。そして、この出射光L2は、外部の物体200や、保護材64上の反射部66で反射されると、戻り光L3としてミラー401に戻る。このとき、物体200や反射部66で反射された光のうち、出射光L2と同方向に反射され出射光L2と逆向きの光路でミラー401に戻った光のみが、ミラー401及びミラー381で反射されて、戻り光L4として受光部40に導かれ、受光素子43により検出される。
【0102】
ここで、反射部66のうち出射光L2が入射する側の反射面が入射光を正反射させる性質を持っていると、出射光L2がその反射面に対してほぼ垂直に入射する場合にのみ、出射光L2が、その入射光路と同じ向きへ反射される。図19の例では、反射部66の反射面は平面状であり、矢印で示す有効反射領域66aの範囲に出射光L2が入射した場合のみ、これが成り立つ。なお、出射光L2のビームスポットはわずかではあるが広がりを有するので、最終的に受光素子43で反射光が検出されるか否かを基準に考えると、有効反射領域66aもこれと対応する広がりを有し、1点のみではない。ただし、図16乃至図24では分かりやすさを考慮して有効反射領域66aを広く示している。実際には、有効反射領域66aの幅はもっと狭くてよい。以後の図でも同様である。
【0103】
有効反射領域66a以外の範囲に出射光L2が入射した場合には、多くは図19の反射光Lxのようにミラー401と異なる向きに反射されるので、その反射光Lxは受光部40に到達せず、受光素子43により検出されない。有効反射領域66a近傍で反射された場合には反射光Lxがミラー401に到達することはあり得るが、当該反射光Lxは図1の説明で述べたようにアパーチャー44により遮光され、受光素子43には到達しない。
【0104】
従って、受光素子43が反射部66からの反射光を検出する期間は、走査が有効反射領域66aを通過する期間と一致する。
反射部66のうちこの有効反射領域66aの部分が第1反射部に、有効反射領域66a以外の部分が第2反射部に該当する。
副走査方向についても同様なことは成り立つが、この点については後述する。
【0105】
図20に、出射光L2の走査範囲と反射部66を設ける位置及び有効反射領域66aの位置との関係を示す。
図20に示すように、破線65で示す出射光L2の走査範囲は、出射光L2が透過可能な保護材64内に長方形状に形成される。図で横方向が主走査方向であり、縦方向が副走査方向である。71と72は、それぞれ往路と復路の主走査線の例を示す。
【0106】
反射部66は、出射光L2の走査範囲内の主走査方向の一部分の領域であって、少なくとも1往復分の主走査線が通過するだけの副走査方向の広がりを持つ、予め定めた領域に設けている。反射部66は、入射する出射光L2を正反射するように形成する。この結果、主走査方向で見た場合には、上述のように有効反射領域66aに入射する出射光L2が出射光L2と同じ光路に向けて反射される。
【0107】
反射部66は、このような有効反射領域66aを包含する主走査方向範囲に形成する。反射部66の端部が有効反射領域66aの端部と一致している構成も排除されないが、反射部66の端部が有効反射領域66aの端部と一致している必要はなく、主走査方向に関しては、むしろ反射部66は有効反射領域66aよりも広い範囲に形成することが好ましい。
【0108】
反射部66の端部が有効反射領域66aの端部と(ほぼ)一致していると、有効反射領域66aの端部に段差があったり、端部にて反射率の急激な変化が生じたりすることになる。そうすると、出射光L2のビームスポットにはある程度の径があることから、走査がこの部分を通過する際に、乱反射が生じたり、受光素子43が検出する反射光量になだらかな変動が生じたりする。そしてこのため、受光素子43による反射光の検出に基づく有効反射領域66aの端部の検出精度が低下する。有効反射領域66aの外側に、出射光L2を散乱させるような部材が配置されている場合に、この点の影響が大きい。
【0109】
一方、反射部66が、有効反射領域66aの主走査方向両側に、有効反射領域66aとの間に段差や反射率の急激な変化がないように、滑らかに連続して形成されていると、有効反射領域66aの端部で乱反射は生じないし、正反射光が受光素子43に到達するか否かにより、受光素子43が検出する光量が急峻に変化する。従って、有効反射領域66aの端部を精度よく検出することができる。
【0110】
また、有効反射領域66aは、反射部66自体の位置とは直接関係なく、出射光L2が反射面に対してほぼ垂直に入射する位置に形成される。このため、反射部66の位置が主走査方向に多少ずれても、有効反射領域66aとなるべき位置が反射部66内に収まっていれば、有効反射領域66aからの反射光の検出に影響はない。反射部66を有効反射領域66aよりも広い領域に形成することにより、この意味で、反射部66の組付け誤差を許容できる。
【0111】
以上のような反射部66は、物体検出装置10の一部として、例えば金属薄膜を保護材64上に配置して形成することができるが、材質や形成方法はこれに限られない。なお、出射光L2の走査範囲内であれば、反射部66を保護材64と離れた位置に形成することも妨げられない。反射部66が保護材64の外側にあってもよい。
【0112】
なお、副走査方向に関しては、反射部66の全域が有効反射領域となるように、反射部66の配置位置や反射面の角度を調整するとよい。主走査方向の駆動周波数調整に際しては、有効反射領域66aの、副走査方向側の端部の位置を検出する必要がないので、副走査方向では端部の検出精度を気にする必要がないためである。また、副走査方向には、最低限で主走査線2本分(1往復分)の幅に反射部66を設ければ、副走査方向の走査に関して駆動周波数調整のための特別な制御を行うことなく調整が可能である。この程度の幅であれば反射面が平面であっても全域を有効反射領域とすることができる。
なお、反射部66を通過する1往復の主走査方向走査を行う間、副走査方向の走査を反射部66と対応する位置で停止させる制御を行うのであれば、反射部66は、副走査方向に主走査線1本分の幅を有していれば足りる。
【0113】
また、図19及び図20では、後の説明を分かりやすくするために反射部66を主走査線の中央からやや離れた位置に配置しているが、これに限らず主走査線の中央付近や端部付近に設けてもよい。ただし、後述する走査範囲の調整を行うことを考慮すると、主走査線の端部に近すぎる配置は好ましくない。走査範囲が調整可能範囲内のどの広さである場合でも、主走査線が有効反射領域66aを通過するような配置とすることが好ましい。
【0114】
図21は、出射光L2が反射部66により反射されるタイミングの検出法についての説明図である。
物体検出装置10が物体検出を行う場合、LDモジュール21を間欠的に点灯させ走査線71,72をビームスポット82の集合として形成することは図1の説明で述べた通りである。そして、ビームスポット82が有効反射領域66aに入射し有効反射領域66aで反射されると、TDC52が、点灯パルスのタイミングt0と、これと対応する戻り光L4のパルスのタイミングt1との時間差として、有効反射領域66aから受光素子43までの距離と対応する時間差の信号を出力する。プロセッサ53は、あるビームスポットについてこの時間差の信号を検出した場合に、そのビームスポットの出射光L2が有効反射領域66aにより反射されたと判定すればよい。
【0115】
また、保護材64より手前にある物体を検出することはないと考えられるため、保護材64までの距離より誤差程度遠い距離と対応する閾値を設け、その閾値よりも時間差が小さい場合には出射光L2が有効反射領域66aにより反射されたと判定してもよい。この判定を行う手順が判定手順であり、この判定を行う際、プロセッサ53は判定部として機能する。
TDC52が出力する時間差の信号は、外部の物体200から反射された反射光を検出した場合と全く同じフォーマットでよい。単に、t0とt1の時間差が小さい旨の信号を出力すれば足りる。
【0116】
有効反射領域66aは主走査方向に一定の幅を持つため、主走査線が有効反射領域66aを通る場合、その主走査線を構成するビームスポットのうち一定数は有効反射領域66aにより反射される。図21ではこれらのスポットにハッチングを付している。プロセッサ53は、有効反射領域66aにより反射される各スポットの点灯タイミングから、一主走査中で出射光L2が有効反射領域66aに入射する時間範囲を特定できる。図21乃至図24では、この時間範囲にハッチングを付し、有効反射領域66aのうち図20で左側の端部と対応するタイミングをRa、同じく右側の端部と対応するタイミングをRbで示している。RaとRbは、受光素子43による反射光の検出有無が入れ替わる光学的端部のタイミングであるということができる。
【0117】
またプロセッサ53は、アクチュエータ400の駆動信号drv_pの電圧反転のタイミングを、各主走査の始点及び終点のタイミングとして参照することができる。図21乃至図24では、往路の主走査の始点をTs、終点をTeで示し、復路の主走査の始点をTs′、終点をTe′で示している。
【0118】
以上の通り、プロセッサ53は、物体検出に用いるハードウエア及びアルゴリズムをほぼそのまま使って、各主走査を行った時間のうちどの時間範囲でレーザビームが反射部66により反射されたかの情報を得ることができる。
なお、主走査線の端部が見切られている等して、主走査線を基準に見ると往路走査の期間と復路走査の期間とが連続していないこともあり得る。しかしここでは、往復回転運動するミラー401が揺動経路の一方側の端部で回転を開始してから他方側の端部まで回転して静止し回転方向を変えるまでを一主走査とカウントし、往路走査と復路走査とは連続して行われるものとする。すなわち、往路のTeと次の復路のTs′は一致し、復路のTe′と次の往路のTsとは一致すると考えて以降の説明をする。
【0119】
図22乃至図24に示すのはそれぞれ、ミラー401の走査角と角速度とが図16乃至図18の関係にある場合の、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲である。なお、往路走査と復路走査との間では駆動周波数を変更せず、往路走査と復路走査で一主走査に要する時間(Te-Ts又はTe′-Ts′)は共通であるとする。
【0120】
図22に示す、駆動周波数がミラー401の共振周波数と(ほぼ)一致している状態では、往路走査において、グラフ201に示すように走査期間の中央よりやや早い時点で出射光L2が有効反射領域66aにより反射されその反射光が受光素子43により検出される。これは、反射部66が、往路走査の経路の前半に配置されていることと対応する。逆に復路走査では、グラフ202に示すように走査期間の中央よりやや遅い時点で反射光が受光素子43により検出される。
また、この状態では図16に示すように往路と復路でミラー401の走査角と角速度との関係が同じであることから、復路走査の各ビームスポットについてのTDC52の出力を逆順に並べると、グラフ203に示すように往路走査における出力と(ほぼ)一致すると考えられる。
【0121】
すなわち、往路走査と復路走査で、出射光L2が有効反射領域66aの特定の位置により反射されるタイミングと、走査が走査線の端部に達するタイミング(ミラー401が揺動経路の端部で回転方向を変えるタイミング)との時間差は一致する。ただし、ここでいう「端部」は、視野範囲の同じ側に位置する端部(特定の端部)である。すなわち、例えば往路走査におけるRa-Tsは復路走査におけるTe′-Raと等しい。また、往路走査におけるTe-Rbは復路走査におけるTs′-Rbと等しい。
【0122】
これらの例では、有効反射領域66aの端部と対応する、往路走査における反射光の検出タイミングの始端と復路走査における反射光の検出タイミングの終端(Ra)、又は往路走査における反射光の検出タイミングの終端と復路走査における反射光の検出タイミングの始端(Rb)を基準(第1参照タイミング)として往路と復路の比較を行っている。しかし、これらの両者ともを基準としてもよい。また、有効反射領域66aの端部以外の任意の位置を基準として比較しても、同じことが成り立つ。いずれにせよ、第1参照タイミングは、主走査中における有効反射領域66aからの反射光の検出タイミングに基づき定められるタイミングであるということができる。
【0123】
他方、もう1つの基準であるTs,Te,Ts′,Te′は、主走査が特定の端部に達するタイミングに基づき定められる第2参照タイミングに該当する。ここでは、第2参照タイミングとして、主走査が特定の端部に達するタイミングそのものを用いる例について説明するが、図22に示すようにそこから任意の時間ΔTだけずれたタイミング(Te1,Ts1′を例として示す)としてもよい。後述のように往路と復路の比較結果に注目するので、往路復路ともにΔTだけ変動しても比較結果に影響はなく、実質的には、主走査が特定の端部に達するタイミングそのものを用いている場合と同じである。
【0124】
図16の例に対し、図17のように走査の後半側で角速度が大きくなる条件では、図23に示すように、往路走査復路走査ともに、図22の場合と比べ有効反射領域66からの反射光が検出されるタイミングが走査の後半側にずれる。
逆に、図18のように走査の前半側で角速度が大きくなる条件では、図24に示すように、往路走査復路走査ともに、図22の場合と比べ有効反射領域66からの反射光が検出されるタイミングが走査の前半側にずれる。図23及び図24において、仮想線で示す位置が図22における検出タイミングの位置である。
【0125】
従って、駆動周波数がミラー401の共振周波数と一致していない状態では、往路走査と復路走査で、第1参照タイミング(例えば往路復路共にRa)と第2参照タイミング(例えば往路のTsと復路のTe′)との時間差が異なることになる。
また、駆動周波数と共振周波数とのずれが小さくなれば、上記時間差の違いも小さくなる。
以上から、往路走査と復路走査で、第1参照タイミングと第2参照タイミングとの時間差が一致するようにアクチュエータ400の駆動周波数を調整すれば、駆動周波数をミラー401の共振周波数と一致させ、エネルギー効率のよい駆動が可能となる。
【0126】
次に、図25を用いて、プロセッサ53が行う、以上の考え方に基づく駆動周波数の調整処理について説明する。図25はその処理のフローチャートである。この処理は、ソフトウエアによって実現可能である他、専用のハードウエアによっても実現可能である。この処理は、第2調整手順の処理であり、この処理を実行するプロセッサ53は第2調整部として機能する。
プロセッサ53は、一往復の主走査が完了したことを検出すると、図25の処理を開始する。
【0127】
この処理において、プロセッサ53はまず、今回の往路走査と復路走査においてそれぞれ有効反射領域66aまでの距離D1と対応するタイミングの反射光を検出したか否か判断する(S11)。この判断は、TDC52からの出力信号に基づき行うことができる。また、特定の距離D1でなく、所定閾値以下の距離を判断基準としてもよい。
ステップS11でNoの場合、今回の一往復の主走査に基づき駆動周波数の調整を行うことができないため、現在の駆動周波数を維持して(S14)処理を終了する。
【0128】
ステップS11でYesの場合、プロセッサ53は、往路と復路についてそれぞれ、走査の折り返しタイミング(主走査が特定の端部に達するタイミング:第2参照タイミングの一例)と上記反射光の検出タイミング(第1参照タイミングの一例)との時間差を求め(S12)、往路と復路でその時間差が所定の許容誤差範囲内で一致したか否か判断する(S13)。
【0129】
ステップS13でYesであれば、現在の駆動周波数はミラー401の共振周波数と一致していると判断できるので、駆動周波数を維持して(S14)処理を終了する。ステップS14の後、図29のステップS32以下の処理を行ってもよいが、この点については後述する。
ステップS13でNoであれば、プロセッサ53は、前回の図25の処理で駆動周波数を変更したか否か判断する(S15)。これがNoであれば、プロセッサ53は、駆動周波数を任意の方向に適当な量だけ変更して(S16)、処理を終了する。
【0130】
ステップS15でYesであれば、プロセッサ53は、往路と復路についてステップS12で求めた時間差の差が、前回の図25の処理時よりも縮小しているか否か判断する(S17)。これがYesであれば、前回処理時の駆動周波数の変更は、共振周波数に近づく方向であったことがわかるので、駆動周波数を前回処理時と同方向へ適当な量だけ変更して(S18)、処理を終了する。
【0131】
ステップS17でNoであれば、前回処理時の駆動周波数の変更方向が共振周波数から遠ざかる方向であったことがわかるので、駆動周波数を前回処理時と逆方向へ適当な量だけ変更して(S19)、処理を終了する。
ステップS18とS19のいずれの場合も、ステップS12で求めた差の値に応じて、駆動周波数の変更量を変えてもよい。
【0132】
なお、ステップS12で時間差を数値として求めることは必須ではない。例えば、主走査線内の各スポットのうち、距離D1からの反射光が検出されたスポットを「1」、それ以外のスポットを「0」としてビット列を作成し、復路のビット列を逆順に並び替えた上で、往路と復路のビット列を比較し、双方がどの程度一致するかを求めることも考えられる。
【0133】
また、図25の処理を一往復の主走査が完了する度に行うのではなく、複数往復の主走査が完了した後で、複数回の走査の結果からステップS12の時間差を求めて行ってもよい。また、駆動周波数の変更は、視野範囲内の1フレームの走査が完了した後で行うようにしてもよい。
【0134】
以上説明してきた方式では、反射部66を追加する点以外は、ハードウエアとしては物体検出に用いるものをそのまま用いて、主走査方向の走査を担当するアクチュエータ400の駆動周波数を、ミラー401の共振周波数と一致するように調整することができる。また、背景技術の項で説明したような逆起電力によりゼロクロス点を検出する方式と比べ、ノイズや温度変化の影響を受けにくい。従って、非常に小さな追加コストで、駆動周波数の調整機能を設けることができる。
【0135】
〔5.アクチュエータの駆動振幅の調整(図26乃至図31)〕
次に、上述した物体検出装置10が実行する、アクチュエータの駆動振幅の制御に関する動作について説明する。この動作も、上述の駆動周波数制御の場合と同様、共振周波数を持つアクチュエータであれば、任意の形態のものに適用可能である。ここでは、アクチュエータ400を用いる構成を例として説明する。
なお、ここでいう駆動振幅とは、アクチュエータ400の駆動コイル420に印加する駆動信号の時間当たりのエネルギーの大きさであり、典型的には図15に示した駆動信号drv_pの振幅である。しかし、デューティー制御等により、駆動信号の振幅を変えずにエネルギーの大きさを変化させることも考えられる。
【0136】
まず図26に、ミラー401の走査角と、角速度との関係を、いくつかの場合について示す。各軸の意味は、図16乃至図18と同様である。
図26において、グラフ511~513はそれぞれ、アクチュエータ400の駆動周波数がミラー401の共振周波数と一致している状態で、駆動振幅が異なる条件での、走査角と角速度との関係を示す。グラフ511が最も駆動振幅が大きく、512、513の順で小さくなる。
【0137】
発明者らの実験により、駆動周波数が共振周波数と一致している状態で駆動振幅を変化させると、走査角と角速度との関係を示すグラフは、図26に示すように概ね相似形で変化することがわかっている。すなわち、同じ走査角で比べた場合には、全ての位置で、駆動振幅が大きいほど角速度が大きくなる。また、走査範囲は、グラフ511~513とそれぞれ対応する矢印521~523で示すように、駆動振幅が大きいほど広くなる。また、共振周波数は、駆動振幅によらずほぼ一定であることもわかっている(厳密にはわずかに変動するが、ここで説明する駆動振幅の調整に実質的な影響を与えるほどではない)。
この実施形態におけるアクチュエータの400の駆動振幅の制御は、このような特性を利用し、主走査方向の走査範囲を任意に調整するために行うものである。
【0138】
次に、この駆動振幅制御の原理について図27及び図28も用いて説明する。特に断らない点は、上述した駆動周波数制御の場合と同様である。
まず図27に、図20の場合と同様に、出射光L2の走査範囲と反射部66を設ける位置との関係を示す。
ここでは、図27に示すように反射部66を主走査線の中央に設け、有効反射領域66aも主走査線の中央に位置する例について説明するが、これは本項の説明を分かりやすくするためであり、図20の場合と同様、反射部66を中央からやや離れた位置に設け、有効反射領域66aもその位置に来るようにしてもよい。ただし、駆動振幅が変動しても有効反射領域66aが走査範囲から外れないような位置に設けることが好ましい。また、駆動振幅制御のみを考慮するのであれば、副走査方向には主走査線1本分の広がりを持つように反射部66及び有効反射領域66aを形成すれば足りる。
【0139】
次に図28に、図26に示した各条件における、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を、図22の場合と同様に示す。図28に示すグラフ531~533が、それぞれ図26のグラフ511~513と対応する。
ここで説明する例では、有効反射領域66aを主走査線の中央に設けており、かつ駆動周波数がミラー401の共振周波数と一致しているため、図28に示すように、有効反射領域66aからの反射光が検出される期間(RaからRb)は主走査期間の中央に位置する。これは、駆動振幅によらず一定である。また、往路走査でも復路走査でも、RaとRbは同じ位置に来る(正確には、復路走査ではRbが先、Raが後であり、往路走査の場合と順番が逆である)。
【0140】
一方、有効反射領域66aからの反射光が検出される期間の長さ(Rb-Ra)は、走査角度範囲によって異なる。
この理由は次の通りである。まず、有効反射領域66aが存在する範囲は、走査角で見れば駆動振幅によって変化することはない。そして、図26に示したように、同じ走査角であれば駆動振幅が大きいほど角速度は大きくなる。従って、走査が有効反射領域66aを通過するのに要する時間、すなわち、有効反射領域66aからの反射光が検出される期間は、駆動振幅が大きいほど短くなる。また、駆動振幅が大きいほど走査角度範囲も大きくなる。従って、有効反射領域66aからの反射光が検出される期間は、走査角度範囲が大きいほど短くなる
【0141】
以上から、受光素子43が有効反射領域66aからの反射光を検出する期間の長さ(反射期間)と走査角度範囲との関係を予め測定してデータとして用意して任意の記憶装置に記憶させておき、物体検出装置10が適宜にこれを参照して反射期間が所望の走査角度範囲と対応する目標値となるように駆動振幅を調整すれば、容易に所望の走査角度範囲の走査を行うことができる。記憶装置は、物体検出装置10の外部にあってもよい。
なお、反射期間が所望の走査角度範囲と対応する目標値となることは、往復走査中に前有効反射領域66aからの反射光を検出するタイミングが満たすべき目標条件(駆動振幅の調整基準)の一例にすぎず、調整基準の他の例については図30及び図31も用いて後述する。
【0142】
次に、図29を用いて、プロセッサ53が行う、以上の考え方に基づく駆動振幅の調整処理について説明する。図29はその処理のフローチャートである。この処理も、ソフトウエアによって実現可能である他、専用のハードウエアによっても実現可能である。この処理は、第1調整手順の処理であり、この処理を実行するプロセッサ53は第1調整部として機能する。
プロセッサ53は、一主走査が完了したことを検出すると、図29の処理を開始する。
【0143】
この処理において、プロセッサ53はまず、今回の主走査において有効反射領域66aまでの距離D1と対応するタイミングの反射光を検出したか否か判断する(S31)。この判断は、図25のステップS11と同様に行うことができる。
ステップS31でNoの場合、今回の主走査に基づき駆動振幅の調整を行うことができないため、現在の駆動振幅を維持して(S34)処理を終了する。
ステップS31でYesの場合、プロセッサ53は、今回の主走査における反射期間を求め(S32)、これが所定の目標値と一致するか否か判断する(S33)。この目標値は、例えば所望の走査角度範囲と対応付けて予め用意され、適宜な記憶装置に記憶されるテーブル540に格納された値であるが、これには限られない。
【0144】
ステップS33でYesであれば、現在の駆動振幅は適切な値であると判断できるので、駆動振幅を維持して(S34)処理を終了する。
ステップS33でNoであれば、プロセッサ53は、ステップS32で求めた反射期間比率と目標値との大小関係に応じて、目標値へ近づける方向へ駆動振幅を調整し(S35~S37)、処理を終了する。
【0145】
以上の処理は、一主走査が完了する度に行うのではなく、複数往復の主走査が完了した後で、複数回の走査の結果からステップS32の反射期間を求めて行ってもよい。また、駆動振幅の変更は、視野範囲内の1フレームの走査が完了した後で行うようにしてもよい。
【0146】
以上説明してきた方式では、反射部66を追加する点以外は、ハードウエアとしては物体検出に用いるものをそのまま用いて、主走査方向の走査を担当するアクチュエータ400の駆動振幅を、所望の走査角度範囲が得られるように調整することができる。
このことにより、物体検出装置10が物体を検出できる視野角を容易に調整することができる。このことにより、プロセッサ53の処理速度等を考慮して一主走査線内のビームスポットの数を一定とする場合でも、広範囲で解像度の比較的低い検出と、狭い範囲だが解像度の高い検出とを、容易に切り替えて行うことができる。
【0147】
これは、光学カメラの望遠とズームに対応する機能である。すなわち、LDモジュール21の点灯間隔を変えずに走査範囲を狭くすれば、角度当たりの検出点数を増やすことができ、視野は狭くなるが、より分解能の高い物体検出が可能となる。
一方、例えばポリゴンミラーを用いた走査であると、走査振幅はポリコンの面数で決まるので、物体検出の分解能を上げるにはレーザ光源の点灯間隔を短く(光源駆動の周波数を大きく)する必要がある。そうすると、レーザ光源の寿命が大幅に低下してしまうか、光源の消費電力が大きく増加してしまう。以上説明してきた物体検出装置10では、レーザ光源の寿命や消費電力に悪影響を与えることなく、分解能の高い物体検出が可能となる。
【0148】
なお、図29の処理は、アクチュエータ400の駆動周波数とミラー401の共振周波数とが一致している状態で行うことが好ましい。この観点では、図25のステップS14の後で、図29のステップS32以降の処理を行うことが好ましい。しかし、アクチュエータ400の駆動周波数とミラー401の共振周波数とが一致していなくても、ある程度の精度では駆動振幅の調整を行うことが可能であり、図29の処理を単独で行うことも、もちろん可能である。
また、反射期間を求めるために、時間を計測することは必須ではない。例えば、主走査線内のビームスポットが等時間間隔である場合、有効反射領域66aに反射され受光素子43で検出されたビームスポットの数から、反射期間を求めることも考えられる。
【0149】
次に、図30及び図31を参照して、駆動振幅の調整基準の他の例について説明する。
まず、駆動振幅を、主走査中における有効反射領域66aからの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミングと、主走査が端部に達するタイミングに基づき定められる第2参照タイミングとの間の時間差が所定の目標値になるように調整することが考えられる。
【0150】
図30には、図28のグラフ532と同じものを示している。図28を用いて説明したように、駆動周波数が一定である場合、Te-Tsは一定である一方、有効反射領域66aからの反射光が検出される期間の長さ(Rb-Ra)は、走査角度範囲によって異なる。そして、Rb-Raの期間の長さが変動する場合、図28に示したように、一主走査の中で反射光が検出される時間範囲は、両側に向けて広がっていく。
従って、駆動振幅が小さく一主走査の中で反射光が検出される時間範囲が長いほど、有効反射領域66aからの反射光が検出されるタイミング(例えば図30のRb)と、主走査が端部に達するタイミング(例えば図30のTe)との間の時間差(図30のΔT1)は、小さくなる。
【0151】
このΔT1の値と走査角度範囲との関係を予め測定しておき、所望の走査角度範囲と対応する目標値となるように駆動振幅を調整すれば、図28及び図29を用いて説明したものと同様な駆動振幅調整が可能である。この場合、ステップS32ではΔT1の値を求め、ステップS35~S37では、ΔT1の値が目標値より小さい場合に駆動振幅を増加させ、目標値より大きい場合に駆動振幅を減少させる。
【0152】
なお、第1参照タイミングとしてRaを用いたり、有効反射領域66aの端部以外の任意の位置を基準としたりしてもよいことや、第2参照タイミングとして反対側の端部を基準としたTsを用いたり、端部から任意の時間ΔTだけずれたタイミング(例えばTe1)を用いたりしてもよいことは、上述した駆動周波数調整の場合と同様である。第2参照タイミングとしてTeに代えてTe1を用いると、図30に示すΔT2の値を求めてその目標値と比較することになる。
【0153】
また、同様な考え方に基づき、図31に示すΔT3のように、ある主走査中における有効反射領域66aからの反射光の検出タイミングに基づき定められる第1参照タイミング(例えば図31のグラフ532中のRb)と、次の主走査中における有効反射領域66aからの反射光の検出タイミングに基づき定められる第2参照タイミング(例えば図31のグラフ532′中のRa)との間の時間差Δ3が所定の目標値になるように、駆動振幅を調整することも考えられる。ΔT3=ΔT1×2であり、駆動振幅が小さいほどΔT3も小さくなる。
【0154】
これらはいずれも実質的に、図28を用いて説明した考え方に基づき、走査期間中で出射光L2が有効反射領域66aに入射する期間の長さが、走査角度範囲の目標値と対応した適切な値になるように駆動振幅を調整するものであり、計測の基準をどこに置くか、という点が異なるのみである。このような調整を他の目標条件を用いて行うことも、当然考えられる。
【0155】
〔6.比較例(図32)〕
次に、以上説明してきた実施形態の比較例について説明する。この比較例は、反射部66が入射光を乱反射する場合の例である。図32に、この場合の走査部30から投光されるレーザビーム及び受光部43で検出される反射光の光路を、図19と対応する模式図として示す。
図33の例では、反射部66を、拡散板など入射光を乱反射する部材を用いて構成している。この場合には、反射部66上の各点からの反射光には、入射方向と同じ向き以外の向きの成分も含まれるが、入射方向と同じ向きの成分(図33に符号L3で示す)も含まれる。従って、反射部66のどこに入射した光の反射光でも受光素子43により検出される。従って、反射部66の反射面の全域が有効反射領域66aとなる。
【0156】
この場合、有効反射領域66aの端部と反射部66の端部とが一致することとなり、図20を用いて説明したように、有効反射領域66aの端部の検出精度が低下する。従って、実施形態において説明した駆動信号の周波数や振幅の調整の精度も低下することになる。
上述した実施形態は、反射部66がレーザ光を正反射する構成であり、また反射部66を有効反射領域66aよりも広い範囲に設けていることにより、有効反射領域66aの端部の検出精度を高めることができ、駆動信号の周波数や振幅の調整の精度も高めることができる。
【0157】
〔7.変形例(図33図34)〕
次に、以上説明してきた実施形態の変形例について説明する。ここで説明する変形例は、特に断らない限り、駆動周波数の調整の項で述べた内容と、駆動振幅の調整の項で述べた内容とに、共通して適用可能である。また、変形例の説明において、上述した実施形態と共通する又は対応する部分には、上述した実施形態と同じ符号を用いる。
【0158】
まず、上述した実施形態では、反射部66の反射面が平面状である例について説明した。しかし、主走査方向と副走査方向ともに、反射部66の反射面を、出射光L2がミラー401により反射される反射点を中心とし、当該反射点から反射部66までの距離を半径とする凹面(主走査方向と副走査方向の一方のみこの条件を満たす場合円筒の側面となり、双方この条件を満たす場合球面となる)としてもよい。この場合、反射部66の全体が有効反射領域66aとなる。
【0159】
また、これよりも半径の大きい凹面(半径が一定である必要はない)とすれば、反射部66の一部であって図19に示した平面の場合よりも広い範囲を有効反射領域66aとしつつ、有効反射領域66aの主走査方向両側に反射部66を滑らかに連続して形成することができる。この場合においては、反射部66は、出射光L2をある程度広い入射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向に選択的に反射光が戻るように反射するので、出射光L2を再帰反射させるといえる。
【0160】
また、別の観点として、上述の実施形態では、反射部66からの反射光が受光素子43により検出される期間をカウントする例について説明した。しかし逆に主走査期間のうち反射部66からの反射光が受光素子43により検出されない期間をカウントしても、実質的には検出される期間をカウントすることと同義であり、同様な調整は可能である。
【0161】
また、反射部66の全域を有効反射領域66aとする場合、出射光L2が有効反射領域66a(反射部66)内を走査しているタイミングとそれ以外のタイミングとの識別を、受光素子43による反射光の受光有無を基準として行う必要はない。例えば、反射部66の反射率を、同じ主走査線上の他の部分の反射率と異なるものとして、検出した反射光の強度に基づき反射部66からの反射か否かを区別し、その結果により、主走査期間内の各時点で出射光L2が反射部66内を走査しているかどうかを判定できるようにすることも考えられる。
【0162】
この場合において、主走査線上の反射部66に相当する領域でレーザビームが透過し、その他の領域でレーザビームが反射される構成など、反射部66の反射率が、他の部分の反射率よりも低い構成とすることも妨げられない。いずれにせよ、各主走査期間のうち出射光L2が有効反射領域66aに当たる領域に入射している期間と、それ以外の期間とを、反射光の検出結果に基づき区別できればよい。
【0163】
また、さらに別の観点として、ここまでは、説明を簡単にするため、主走査線内においてLDモジュール21を等時間間隔で点灯させる例について説明してきた。しかし実際には、視野範囲内に等角度間隔でビームスポットを形成するために、角速度が小さい走査端部付近では長い時間間隔で、角速度が大きい中央付近では短い時間間隔でLDモジュール21を点灯させることも考えらえる(例えば特許文献3参照)。この場合、LDモジュール21を駆動する駆動信号drv_LDは、例えば図33に示すものとなる。
このように、LDモジュール21の点灯が等時間間隔でない場合にも、上述の実施形態は適用可能である。駆動信号drv_LDに基づきプロセッサ53に各点灯時刻の情報を供給すれば、プロセッサ53は、受光素子43で反射光を検出したビームスポットの点灯時刻に基づき、RaとRbを求められるためである。
【0164】
また、主走査中にLDモジュール21を連続点灯させる場合であっても、上述の実施形態は適用可能である。この場合、図34にグラフ81で示すように、レーザ光が有効反射領域66aで反射される期間はその反射光のためそれ以外の期間と比べて受光素子43が検出する光の強度が大きくなる。プロセッサ53は、各時点で受光素子43が検出する光の強度に基づき、強度変化のエッジが生じるタイミングをRaとRbとして求めることができる。
【0165】
また、上述した実施形態では、主走査方向についてのみ駆動周波数調整や駆動振幅調整を行う例について説明した。しかし、副走査方向についてもアクチュエータ300やアクチュエータ400のように共振周波数を持つアクチュエータを用いる場合、同様な考え方での駆動周波数調整や駆動振幅調整を、副走査方向についても行うことは可能である。
【0166】
この場合、副走査方向への走査を直線的に行う走査線はないため、主走査方向の位置が共通するビームスポットを副走査方向に繋げた仮想的な副走査線を考え、走査範囲内の副走査方向の一部分の領域であって、少なくとも1往復分(駆動振幅制御のみ考慮するなら1本分)の副走査線が通過するだけの主走査方向の広がりを持つ、予め定めた領域に反射部66を設ければよい。この場合には、副走査方向においても、図19図20等を用いて説明したように、反射部66の幅の一部分が有効反射領域66aとなるように反射部66を設けるとよい。
【0167】
そして、副走査方向のアクチュエータの駆動信号の電圧反転のタイミングから各副走査の開始と終了のタイミング(Ts及びTe)を把握でき、どの時間に投光されたビームスポットの反射光を受光素子43が検出できたかに基づき、出射光L2が有効反射領域66aにより反射される時間範囲(Ra及びRb)も把握できる。したがって、これらの値に基づき、図25及び図29と同様な処理を行うことができる。
【0168】
また、以上説明したもの以外の点でも、この発明において、装置の具体的な構成、具体的な動作の手順、部品の具体的な形状等は、実施形態で説明したものに限るものではない。
また、以上の各項目において説明した特徴は、それぞれ独立して装置やシステムに適用し得るものである。特に、以上説明した駆動周波数調整や駆動振幅調整、および有効反射領域66aからの反射の検出は、物体検出を目的としない光走査装置においても適用可能である。
【0169】
また、この発明のプログラムの実施形態は、1のコンピュータに、あるいは複数のコンピュータを協働させて、所要のハードウエアを制御させ、以上説明してきた駆動周波数調整や駆動振幅調整、および有効反射領域66aからの反射の検出の全部又は一部を含む機能を実現させ、あるいは上述した実施形態にて説明した処理を実行させるためのプログラムである。
【0170】
このようなプログラムは、はじめからコンピュータに備えるROMや他の不揮発性記憶媒体(フラッシュメモリ,EEPROM等)などに格納しておいてもよい。メモリカード、CD、DVD、ブルーレイディスク等の任意の不揮発性記録媒体に記録して提供することもできる。さらに、ネットワークに接続された外部装置からダウンロードし、コンピュータにインストールして実行させることも可能である。
【0171】
また、以上説明してきた実施形態及び変形例の構成が、相互に矛盾しない限り任意に組み合わせて実施可能であり、また、一部のみを取り出して実施することができることは、勿論である。
【符号の説明】
【0172】
10…物体検出装置、20…投光部、21…LDモジュール、22…レーザ駆動回路、23…投光光学系、30…走査部、31…ミラー、32…アクチュエータ、40…受光部、41,48…ミラー、42…集光レンズ、43…受光素子、44…アパーチャー、51…フロントエンド回路、52…TDC、53…プロセッサ、54…入出力部、61…トップカバー、62…リアカバー、63…カバークリップ、64…保護材、65…視野範囲、66…反射部、66a…有効反射領域、70…視野、71,72…走査線、82…ビームスポット、200…物体、300,380,400…アクチュエータ、301…ミラーユニット、301a…第1ミラー、301b…第2ミラー、302…ねじりばね、304,384,404…回転軸、311…コアヨーク、312…枠ヨーク、313…コイルアッセンブリ、314…トップヨーク、315…ねじ、316…駆動コイル、317…センシングコイル、320…可動子、321…永久磁石、321s…S極、321n…N極、381,401…ミラー、382…軸、383…ホルダ、402…ミラーホルダ、403,405…ベアリング、406…磁石ホルダ、410…永久磁石、410s…S極、410n…N極、420…駆動コイル、421,422…駆動コイルの第1,第2部分、423,424…駆動コイルの第1,第2接続部、430…ヨーク、431~433…ヨーク430の第1~第3部分、L1…レーザビーム、L2…出射光、L3,L4…戻り光、Lx,Ly…反射光
【要約】
【課題】走査角度範囲を所望の値に容易に設定できるようにする。
【解決手段】レーザビームL1を、アクチュエータ32により周期的に往復回転駆動されるミラー31により反射して出射光L2として投光することにより、視野70内を第1方向に往復走査する走査部30と、受光素子43と、投光と逆向きの光路でミラー31に入射する光を受光素子43に導く導光部と、投光される出射光L2を正反射する反射部66とを設け、上記往復走査中に受光素子43が反射部66からの反射光を検出するタイミングが所定の目標条件を満たすようにアクチュエータ32に印加する駆動信号の振幅を調整する。上記所定の目標条件は例えば、一走査期間内において受光素子43が反射部66からの反射光を検出する期間の長さ又は検出しない期間の長さが所定の目標値になること、とするとよい。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34