(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】フィルムの製造方法および真空成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/52 20060101AFI20220701BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20220701BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C23C14/52
C23C14/56 E
C23C14/58 Z
(21)【出願番号】P 2016018042
(22)【出願日】2016-02-02
【審査請求日】2018-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(72)【発明者】
【氏名】濱田 明
(72)【発明者】
【氏名】萩原 陸宏
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】関根 崇
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-527734(JP,A)
【文献】特開2002-338111(JP,A)
【文献】特開平11-44659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/52
C23C14/56
C23C14/58
C23C16/00
B65H7/02
G01N21/892
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材上に薄膜を備えるフィルムの製造方法であって、
減圧環境で、
巻出しロールから長尺フィルム基材
を連続的に巻き出して長手方向に沿って搬送させながら、
成膜部でフィルム基材上に薄膜を形成する工程;
薄膜形成時または薄膜形成後に、
検査部で、フィルムに含まれる欠点を検出する工程;および
マーキング形成部で、検出された欠点を含む領域のフィルム表面に、マーキングを形成する工程、
が実施され、
前記検査部では、フィルムの幅方向の複数箇所で欠点の検出が行われ、
前記マーキング形成部は、フィルムの幅方向に沿って設けられた複数のエンボスロール、およびフィルムの幅方向全体に延在するバックアップロールを備え、
前記マーキング形成部では、
フィルムが前記バックアップロールに当接して走行することにより下流側に搬送され、
欠点非検出部位が前記バックアップロール上を走行している間は、前記複数のエンボスロールはフィルムから離間しており、
欠点検出部位が前記バックアップロール上を走行している間は、検出された欠点の位置情報に基づいて、幅方向の対応する位置に設けられたエンボスロールをフィルムにプレスしてエンボス加工を行うことにより、幅方向に位置選択的にマーキングが形成される、フィルムの製造方法。
【請求項2】
フィルム上の薄膜形成面側の表面に、前記マーキングが形成される、請求項
1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルム基材上への薄膜の形成がスパッタ法により行われる、請求項
1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
長尺フィルム基材を連続的に巻き出して下流側に供給する巻出しロール;フィルム基材上に薄膜を形成する成膜部;フィルムに含まれる欠点を検出する検査部;検出された欠点を含む領域のフィルム表面にマーキングを形成するマーキング形成部;および前記マーキング形成部を通過後のフィルムを巻取る巻取りロール、を備え、
前記検査部はフィルム幅方向の複数箇所の欠点を検出可能に構成されており、
前記マーキング形成部は、
フィルムの幅方向に沿って設けられた複数のエンボスロール
、およびフィルムの幅方向全体に延在するバックアップロールを備え、
前記
複数のエンボスロール
のそれぞれは、前記検査部における欠点の検出有無
および欠点の位置情報に基づいて、前記バックアップロール上を走行するフィルムと当接または離間するように移動可能に構成されている、真空成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧環境でフィルム基材上に薄膜を形成する工程と薄膜形成後のフィルムの表面にマーキングを形成する工程とを含むフィルムの製造方法、およびそれに用いる真空成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの製造工程では、長尺のフィルムを長手方向に搬送しながら、インライン検査装置により欠点を検出し、搬送方向の下流側で欠点検出部位のフィルム表面にマーキングを形成することが行われている。欠点検出部位にマーキングを形成しておくことにより、後工程でフィルムを所定サイズに裁断した後に、マーキングを目印として欠点を含む不良部分を製品から容易に除外できる。
【0003】
フィルムへのマーキングは、ペンやインクジェット方式のマーカーを用いて、フィルム表面にインキ層を付設する方法が一般的である。欠点部分に付設されたインキ層は、カメラ等による検出および人間の目視による検出のいずれも容易であるため、後工程での不良部分の除去を確実かつ容易に実施できる。
【0004】
一方、スパッタ、CVD、真空蒸着等の真空成膜プロセスでは、溶剤が瞬時に蒸発してしまうため、インクによるマーキングを適用できない。そのため、真空プロセスにおけるフィルムへのマーキング形成方法として、レーザー加工によるマーキングが提案されている(例えば特許文献1)。レーザー方式では、欠点検出部位またはその周辺にレーザーを照射することにより、フィルム表面に凹形状のマーキングが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザー方式によるマーキング装置は、装置の導入が高価である。また、減圧環境ではレーザー加工により生成した飛沫がフィルムに再付着しやすく、良品部分に新たな欠点を発生させる要因となる。特に、反射防止フィルムや透明電極フィルム等のディスプレイ用光学フィルムは、レーザー加工飛沫等に起因する微細な欠点も品質不良となる。そのため、減圧環境でもフィルム表面にマーキングを形成可能であり、かつマーキング形成時に加工飛沫等の異物等が発生しないマーキング形成方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマーキング形成方法では、長尺フィルム基材を長手方向に沿って搬送させながら、フィルムに含まれる欠点を検出し、マーキング形成部において、検出された欠点を含む領域のフィルム表面にマーキングを形成する。マーキング形成部では、フィルム表面にエンボスロールをプレスしてエンボス加工を行うことにより、マーキングが形成される。
【0008】
本発明のフィルムの製造方法では、減圧環境で長尺フィルム基材を長手方向に搬送させながら、フィルム基材上に金属、金属酸化物、半導体等の薄膜を形成する。このようなフィルムとしては、透明フィルム基材上に金属酸化物薄膜が形成された反射防止フィルムや、透明フィルム基材上に導電性薄膜が形成された透明電極フィルム等のディスプレイ用光学フィルム;フィルム太陽電池やフィルム有機EL素子等のフレキシブル半導体素子;ガスバリアフィルム等が挙げられる。フィルム基材上への薄膜の形成方法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、CVD法等の真空プロセスが挙げられる。
【0009】
本発明のフィルムの製造方法では、フィルム基材上への薄膜形成時または薄膜形成後に、欠点の検出が行われる。検出された欠点を含む領域のフィルム表面に、エンボスロールをプレスしてエンボス加工を行うことにより、マーキングが形成される。マーキングは、フィルム上の薄膜形成面側の表面に形成されることが好ましい。
【0010】
一実施形態において、マーキング形成部は、バックアップロールおよびエンボスロールを備え、フィルムがバックアップロールに当接して走行することにより下流側に搬送される。欠点非検出部位がバックアップロール上を走行している間は、エンボスロールはフィルムから離間している。欠点検出部位がバックアップロール上を走行している間は、エンボスロールをフィルムにプレスすることによりエンボス加工が行われ、マーキングが形成される。
【0011】
さらに、本発明はフィルム基材上に薄膜を備えるフィルムを製造するための真空成膜装置に関する。真空成膜装置は、上記のマーキング形成方法を適用して、フィルム表面にマーキングを形成するように構成されている。
【0012】
真空成膜装置は、長尺フィルム基材を連続的に巻き出して下流側に供給する巻出しロール、フィルム基材上に薄膜を形成する成膜部、フィルムに含まれる欠点を検出する検査部、検出された欠点を含む領域のフィルム表面にマーキングを形成するマーキング形成部、およびマーキング形成部を通過後のフィルムを巻取る巻取りロールを備える。マーキング形成部は、バックアップロールおよびエンボスロールを備える。エンボスロールは移動可能に構成されており、検査部における欠点の検出有無に基づいて、バックアップロール上を走行するフィルムと当接または離間するように移動する。すなわち、エンボスロールは、欠点非検出部位がバックアップロール上を走行している間はフィルムから離間し、欠点検出部位がバックアップロール上を走行している間はフィルムをプレスしてエンボスマーキングを実施するように、移動する。
【0013】
マーキング形成部は、フィルムの幅方向に沿って設けられた複数のエンボスロールを備えることが好ましい。検出された欠点の位置情報に基づいて、幅方向の対応する位置に設けられたエンボスロールをフィルムにプレスすることにより、幅方向に位置選択的にマーキングを形成できる。
【発明の効果】
【0014】
エンボス加工によるマーキングの形成は、真空成膜装置内等の減圧環境でも、常圧環境と同様に実施可能である。また、フィルムの所定領域の全域に凹形状のマーキングが形成されるため、目視によるマーキングの視認性が高い。さらに、マーキング形成時に異物等が発生しないため、光学フィルム等の欠点低減に対する要求の厳しいフィルムの製造工程にも好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ロールトゥロールスパッタ成膜装置の構成概念図である。
【
図2】マーキング形成部の構成例およびマーキングが形成されたフィルムを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、真空成膜装置の一形態であるロールトゥロールスパッタ成膜装置の構成概念図である。成膜装置100は、巻出し室10、成膜室30および巻取り室50を有する。真空成膜装置は、これらの室内を減圧環境とするための排気機構(不図示)を備える。この成膜装置を用いたフィルムの製造方法の一形態では、巻出し室10内の巻出しロール11に、長尺フィルム基材の巻回体61がセットされる。巻出しロール11が回転することにより、フィルム基材62が連続的に巻き出され、フィルム搬送経路の下流側に供給される。巻回体61から巻出されたフィルム基材62は、成膜室30内の成膜ロール31上に搬送される。
【0017】
成膜室30内にはスパッタ法により薄膜を形成するための成膜部が設けられている。成膜部では、成膜ロール31の周方向に沿ってカソード33が設けられており、カソード33上には成膜ロール31に対面するようにターゲット34が配置されている。カソード33は、電源41に接続されている。成膜室30内には、アルゴンや酸素等の成膜ガスを供給するためのガス供給ノズル37が設けられている。ガス供給ノズル37は、成膜室外に設けられたマスフローコントローラ47に接続されており、成膜室内へのガスの供給量が調整されている。
【0018】
成膜ロール31上で、フィルム基材62上に薄膜が形成される。フィルム基材上に薄膜が設けられされた積層フィルム63は、巻取り室50へ導かれる。巻取り室50内には、フィルム搬送経路の上流側から検査部70およびマーキング形成部80が設けられている。マーキング形成部80を通過後のフィルム64は、下流側に設けられた巻取りロール51で巻取られ、巻回体65が得られる。
【0019】
検査部70では、フィルムの欠点の有無が検出される。欠点とは、製品に含まれるべきではない部分であり、異物、気泡、汚れ等の外来物を包含する部分;打痕、キズ等の変形部分;薄膜の膜厚、光学特性、電気的特性等が規格外の部分等が含まれる。なお、検査部において検出対象となる欠点は、薄膜の形成過程で発生したものに限定されず、薄膜形成前からフィルム基材に含まれている欠点を含んでいてもよい。
【0020】
このような欠点は、光学的手法や電気的手法等を用いて検出される。例えば、外来物やフィルムの変形等は、カメラを用いてフィルムを撮影することにより検出される。薄膜の膜厚は反射光のスペクトル等に基づいて算出できる。電極の抵抗は、薄膜表面に抵抗測定ロールを接触させる方法や、非接触抵抗測定機等により測定できる。
【0021】
検査部70における欠点の検出は、複数の手法を用いて実施してもよい。例えば、
図1に示す形態では、検査部70は、フィルム表面からの反射光のスペクトルを検出する反射光検査機71、および透過光のスペクトルを検出する透過光検査機72を備えている。検査機71,72は、制御部90と連動しており、検出結果に基づいて制御部90で欠点の有無が判定される。複数の検査機を用いる場合、それぞれの検査機での検査結果に基づいて点の有無を判定してもよく、複数の検査結果を総合して欠点の有無を判定してもよい。
【0022】
検査部70では、フィルムの幅方向全体をモニタリングして、欠点の検出が行われることが好ましい。そのため、検査機71,72は、幅方向に複数設置されているか、あるいは幅方向に往復運動可能なように設置されていることが好ましい。
【0023】
マーキング形成部80は、フィルムの欠点検出部位にエンボスロールを押圧することにより、エンボス加工を行う。
図1に示す形態では、マーキング形成部80は、バックアップロール81およびエンボスロール83を含んでいる。エンボスロール83は、制御部90と連動したアクチュエータ85に連結されており、上下方向に移動可能に構成されている。
【0024】
成膜室30から巻取り室50に搬送されたフィルム63は、検査部70で欠点の検出が行われた後、バックアップロール81上を走行する。フィルムに欠点が検出されず、欠点非検出部位がバックアップロール81上を走行している間は、エンボスロール83はフィルム63から離間している。バックアップロール81は表面が平滑であるため、フィルム63はバックアップロール上で加工されることなく下流側に搬送され、バックアップロール81上を通過後のフィルム64は、巻取りロール51で巻き取られる。
【0025】
検査部70での検査結果に基づいて、「欠点あり」と判断されると、制御部90は、マーキング形成部80に欠点検出信号を送信する。欠点検出信号を受信すると、マーキング形成部80のアクチュエータ85の動作により、エンボスロール83がバックアップロール81側(
図1における上方)に移動し、バックアップロール81とエンボスロール83との間の押圧によりフィルムがプレスされる(
図1の点線)。エンボスロール83は、表面に凸部を有するため、フィルム表面にエンボスロール83が当接した状態でプレスされると、フィルム表面には凹形状のマーキングが形成される。
【0026】
マーキング形成部80は、欠点検出信号を受信している間、エンボスロール83をフィルム上にプレスした状態でのマーキングの形成を継続する。すなわち、欠点検出部位がバックアップロール81上を走行している間は、エンボスロールをフィルムにプレスした状態が維持される。欠点検出信号の受信が停止すると、アクチュエータ85の動作により、エンボスロール83はバックアップロール81から離間するように移動し、マーキングの形成が終了する。
【0027】
欠点検出から欠点検出信号の発信までの間、あるいは欠点検出信号の受信からマーキング形成開始までの間には、所定の遅延時間を設けることが好ましい。遅延時間は、検査部70からマーキング形成部80までのフィルム搬送経路の距離、およびフィルムの搬送速度に応じて設定すればよい。適切な遅延時間を設けることにより、欠点検出部位とマーキング形成領域との、長手方向の位置関係を正確に対応させることができる。
【0028】
欠点検出の有無に基づいて、マーキング形成部を制御する方法は、上記に限定されず、欠点の種類や検出情報等に応じて適切に設定すればよい。例えば、欠点検出時に制御部からの検出開始信号を受信した際に、エンボスロール83をフィルム上にプレスするように移動させ、欠点検出終了信号を受信した際に、エンボスロール83をフィルムから離間させるように移動させてもよい。このような制御方法は、膜厚、光学特性、電気的特性等の規格外部分のように、フィルムの長手方向に連続して発生する傾向がある欠点のマーキングに適している。
【0029】
エンボス加工はインキ等の外来物を必要としないため、減圧下においても常圧下と同様に容易にマーキングを形成できる。スクラッチ加工やレーザー加工はフィルムを削り取る加工であるため、加工飛沫等が新たな欠点(汚染箇所)の発生原因となり得る。これに対して、エンボス加工はフィルム由来の飛沫等を生じさせないため、マーキングに起因する新たな欠点発生のリスクを大幅に低減できる。また、エンボス加工では、エンボスロールでプレスされた加工面の全域に凹形状のマーキングが形成されるため、マーキングの視認性が高く、後工程における欠点検出部位の除去が容易である。巻取りロール51で巻き取られた巻回体65において、エンボス加工によるマーキングが形成された欠点検出部位は、外周または内周のフィルムとの接触面積が小さい。そのため、ブロッキングが生じ難く、汚れ等の欠点の転写に起因する新たな欠点の発生を抑制できる。
【0030】
エンボス加工によるマーキングは、フィルムの薄膜形成面および薄膜非形成面(成膜ロール接触面)のいずれに形成されてもよい。薄膜形成後のフィルムの品質検査や、不良品の除去等は、薄膜形成面側からの反射光の観察により行われることが多い。そのため、マーキングの視認性を高める観点から、薄膜形成面にマーキングが形成されることが好ましい。特に、透明フィルムの表面に薄膜が形成されている場合、薄膜形成面に形成されたエンボスマーキングは、目視での視認性に優れている。透明フィルムとしては、可視光透過率が80%以上のものが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。なお、透明フィルムの薄膜形成面と反対側の面には、偏光子等の光吸収性フィルムや、不透明のフィルムが貼り合わせられていてもよい。
【0031】
フィルム基材の薄膜非形成面側には、表面保護フィルム等の工程材が仮着されていてもよい。フィルム基材に工程材が仮着された状態で薄膜の形成が行われる場合、後工程において工程材を剥離後もマーキングを検出可能であることからも、薄膜形成面にマーキングが形成されることが好ましい。
【0032】
エンボスロールの凸部の形状は特に限定されない。プレス圧の調整等により、エンボス形成領域の面積比率を調整できることから、断面形状が凸部の先端に向けて細くなるテーパ状であるものが好ましい。凸部の先端部分の形状としては、丸型、正方形、ひし形、六角形、楔形等が例示できる。凸部の大きさや形状は一定でもよく、不均一でもよい。マーキング時のエンボスロールのプレス圧は、フィルムの厚みや硬さ(弾性率)に応じて調整すればよい。
【0033】
厚み約100μmの透明フィルムの表面にスパッタ成膜された反射防止層を備える反射防止フィルムの表面に、凸部の形状および高さの異なるエンボスロールをプレスして、フィルム表面に形成されたエンボスマーキングの凹部の面積比率および目視によるマーキングの視認性の良否を確認した。結果を表1に示す。各水準において、エンボスロールのプレス圧は、フィルムのマーキング形成面と反対側の面に凸形状が形成されないように調整した。目視によるマーキングの視認性は、10cm四方に切り出したフィルムを蛍光灯下に静置し、80cm離れた位置から目視観察した際に、マーキングの視認が容易であったものを◎、マーキングの存在が確認できたものを○とした。
【0034】
【0035】
表1の結果から、凸部の高さが大きいエンボスロールを、裏写りが生じない程度のプレス圧でプレスすることにより、マーキング形成領域(エンボス加工領域)における凹部の面積比率が小さくなり、目視によるマーキングの視認性が高められることが分かる。エンボス加工領域における凹部の面積比率は、1~50%が好ましく、2~30%がより好ましく、3~10%が特に好ましい。上記の様に、凹部の面積比率は、エンボスロールの凸部の形状および高さ、凸部の面積比率、エンボスロールのプレス圧等により所望の範囲に調整できる。エンボス加工されたフィルムの凹部の深さは、フィルムの厚みの80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。エンボス深さを上記範囲とすることにより、巻回体65において、エンボス加工面の裏面側に形成された凸形状の、外周または内周のフィルムへの転写を抑制できる。
【0036】
図1では、巻取り室50に設けられた検査機71,72により欠点の有無を検出する例が図示されているが、欠点の検出は、マーキング形成部80よりも上流側のいずれの段階で行われてもよく、成膜室30内に検査機が設けられていてもよい。薄膜形成時に欠点の検出が行われてもよい。
【0037】
薄膜形成時の欠点の検出方法としては、放電異常やプラズマ発光異常をモニタリングする方法が挙げられる。スパッタ成膜においてはターゲット表面へのパーティクルの付着等に起因して放電異常を生じる場合があり、放電異常が発生した部分では薄膜の膜質が低下する。このような放電異常は、スパッタ電源43のアークカウンター等によりモニタリング可能であり、異常放電を検出した場合に「欠点あり」と判断できる。酸素等の反応性ガスを供給しながらスパッタ成膜を行う場合、反応状態によって膜特性および成膜レートが大きく変化する。そのため、スパッタ成膜のプラズマ発光をモニタしながら、マスフローコントローラ47により、反応性ガスの供給量の制御が行われる(プラズマ発光モニタリング:PEM)。プラズマ発光量が制御範囲を外れた場合、膜質や膜厚の異常を生じている可能性が高いため「欠点有り」と判断できる。
【0038】
フィルムの製造工程においては、薄膜成膜時の欠点検出と薄膜形成後の欠点検出の両方が行われてもよい。薄膜形成後の検査部70での検査結果に基づいて、マーキングの要否を判定するとともに、検査部70での検査結果を成膜部における成膜条件にフィードバックしてもよい。例えば、反射スペクトルに基づく膜厚の測定結果に基づいて、電源43からの供給電力、マスフローコントローラ47におけるバルブ開度(成膜室内へのガス供給量)、成膜ロール31の回転速度(フィルムの搬送速度)等を調整することにより、長手方向の均一性に優れるフィルムを形成できる。
【0039】
図1では、成膜ロール31の周りに1つのカソード33およびターゲット34が配置されているが、1つの成膜ロールの周方向に沿って複数のカソードおよびターゲットが配置されていてもよい。また、真空成膜装置は複数の成膜室を備え、各成膜室に成膜ロールが設けられていてもよい。このような構成によれば、フィルム基材上に多層薄膜を形成できる。また、幅方向に複数のカソードおよびターゲットが設けられていてもよい。幅方向に複数のカソードおよびターゲットを設け、それぞれの成膜条件を独立に制御することにより、幅方向の品質の均一性の高い薄膜を形成できる。
【0040】
薄膜の形成方法は、スパッタ法に限定されず、本発明は、イオンプレーティング法、真空蒸着法、CVD法等の各種の真空プロセスに適用できる。また、本発明のマーキング形成方法は、減圧環境で薄膜を形成するプロセス以外にも適用可能である。本発明のマーキング形成方法は、長尺フィルム基材を長手方向に沿って搬送させながら、フィルムに含まれる欠点を検出する工程、および検出された欠点を含む領域のフィルム表面にエンボスロールをプレスしてエンボス加工を行う工程を有する。マーキングの形成に用いられるマーキング装置は、長尺フィルム基材を連続的に巻き出して下流側に供給する巻出しロール、フィルムに含まれる欠点を検出する検査部、検出された欠点を含む領域のフィルム表面にマーキングを形成するマーキング形成部、およびマーキング形成部を通過後のフィルムを巻取る巻取りロールを備える。
【0041】
幅方向の複数領域で、欠点の検出およびマーキングが行われてもよい。
図2は、フィルムを幅方向に3つの領域に分割してマーキングを行うためのマーキング形成部の構成例を示す斜視図である。
図2では、マーキング形成部80の構成を理解しやすいように、
図1と上下を入れ替えて図示しており、図の右側から左側に向けてフィルムが走行する様子が示されている。
【0042】
マーキング形成部80は、1本のバックアップロール81と3本のエンボスロール831,832,833を有する。バックアップロール81は、フィルムの幅方向全体に延在するように設けられている。3本のエンボスロール831,832,833は、フィルムの幅方向に沿って並んでおり、制御部と連動したアクチュエータ85に連結されている。それぞれのエンボスロールは独立に昇降可能に構成されている。
【0043】
検査部70では、幅方向の複数箇所で欠点の検出が行われる。検査部70での検出結果に基づいて、「欠点あり」と判断されると、制御部90は、マーキング形成部80に欠点検出信号を送信する。この欠点検出信号は、欠点発生位置の幅方向の位置情報を含んでいる。幅方向の位置情報は、典型的には欠点検出位置の幅方向の座標(
図2のx座標)である。座標に代えて、対応するエンボスロールの番号を位置情報としてもよい。例えば、フィルムを、エンボスロール831,832,833のそれぞれに対応する3つの領域A,B,Cに分割して、欠点がいずれの領域に含まれるかを特定することにより、対応するエンボスロールの番号を位置情報とすることができる。
【0044】
マーキング形成部80は、検出された欠点の位置情報に基づいて、幅方向の対応する位置に設けられたエンボスロールをフィルムにプレスする。
図2に示す形態では、領域Aに対応する第一エンボスロール831がフィルムにプレスされた状態で、フィルム表面にマーキング形成領域891が設けられている。一方、領域Bに対応する第二エンボスロール832および領域Cに対応する第三エンボスロール833はフィルムから離間しているため、領域BおよびCにはマーキングが形成されない。このように、検出された欠点の位置情報に基づいて、幅方向の対応する位置に設けられたエンボスロールをフィルムにプレスすることにより、幅方向に位置選択的にマーキングを形成できる。
【0045】
幅方向を複数の領域に分割して、欠点の検出およびマーキングの形成を、幅方向に位置選択的に実施することにより、製品の歩留まりを向上できる。
図2を参照して、位置選択的なマーキングによる製品の歩留まり向上について説明する。
図2において、長手方向の領域L
1では、幅方向の領域Cにのみマーキング形成領域893が設けられており、長手方向の領域L
2では、幅方向の領域Aおよび領域Cにマーキング形成領域891,893が設けられており、長手方向の領域L
3では、幅方向の領域Aにのみマーキング形成領域891が設けられている。
【0046】
ロールトゥーロールで形成された長尺フィルムは、後工程で所定サイズに裁断される。例えば、反射防止フィルムや透明電極フィルム等のディスプレイ用光学フィルムは、ディスプレイの画面サイズに対応するサイズに裁断される。長手方向の領域L
1では、領域AおよびBにはマーキングが形成されていないため、これらの領域のフィルムは、所定サイズに裁断後に良品として回収できる。同様に、長手方向の領域L
2では、領域Bのフィルムを良品として回収可能であり、長手方向の領域L
3では、領域BおよびCのフィルムを良品として回収可能である。幅方向の全体にマーキングが形成されると、マーキングの有無に基づく製品選別の際に、幅方向の全体が不良と判断されるのに対して、
図2に示すように位置選択的にマーキングを形成すれば、良品として回収可能な面積が増大するため、製品の歩留まりを向上できる。
【0047】
図2では、フィルムを幅方向に3つの領域A,B,Cに分割する例を示したが、幅方向の分割数は2以上であれば特に制限されない。フィルムの幅が大きくなるに伴って、成膜部の幅方向の両端付近での気流や放電密度が不均一となりやすい。幅方向の両端部と中央部の3つの領域に分割して位置選択的マーキングを実施する場合、幅方向の両端部に欠点が生じてマーキングが形成されていても、幅方向の中央部に欠点が発生していなければ、中央部のフィルムはマーキングが形成されず、後工程において良品として回収できる。したがって、幅方向両端部の成膜条件や品質の不安定性に左右されることなく、中央部のフィルムを良品として回収可能であり、フィルムの歩留まりを向上できる。そのため、幅方向の分割数は3以上が好ましい。幅方向の分割数が大きいほど、マーキングの位置選択性が高められ、これに伴って歩留まりが向上する傾向があるため、分割数の上限は特に制限されない。
【0048】
インクを付設する方式や、レーザー方式のマーキングでは、幅方向に位置選択的にマーキングを形成するためには、マーキングヘッドを移動させる必要がある。そのため、幅方向の複数の領域で同時に欠点が検出された場合に、全ての位置にマーキングを形成することが困難となったり、ヘッドの移動制御が複雑となる傾向がある。幅方向に複数のマーキングヘッドを設けることにより、マーキングヘッドを幅方向に移動させずに幅方向に位置選択的なマーキングの形成が可能であるが、後工程でフィルムが微小なチップに裁断される場合にも対応するためには、幅方向の分割数におうじて、多数のマーキングヘッドを設ける必要がある。
【0049】
これに対して、本発明では、幅方向に複数のエンボスロールを設けることにより、マーキング手段としてのエンボスロールを幅方向に移動させることなく、位置選択的なマーキングが可能となる。また、エンボスロールをフィルムにプレスすることにより、エンボスロール831の幅延在方向の全域に面としてのマーキング形成領域891が設けられるため、後工程でフィルムが微小なチップに裁断される場合への対応も容易である。さらに、マーキング形成領域が面状であるため、マーキングの視認性が高いとの利点を有する。
【符号の説明】
【0050】
100 真空成膜装置
10 巻出し室
11 巻出しロール
30 成膜室
31 成膜ロール
70 検査部
71,72 検査機
80 マーキング形成部
81 バックアップロール
83,831,832,833 エンボスロール
50 巻取り室
51 巻取りロール