(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】薬剤溶解装置、および薬剤溶解方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20220701BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220701BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220701BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/26
(21)【出願番号】P 2017204370
(22)【出願日】2017-10-23
【審査請求日】2020-06-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 健人
(72)【発明者】
【氏名】常本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小松 大介
(72)【発明者】
【氏名】春田 富久
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0211718(US,A1)
【文献】特開2010-253042(JP,A)
【文献】特開2000-167378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/08
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解装置であって、
前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給するための循環配管を有する循環溶解手段を備え、
前記薬剤容器は、有底の本体部と、開口部を備え、前記本体部から前記開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部を備える口部と、を有し、
前記口部が下方を向く倒立状態であって、前記薬剤容器を傾けたときに前記口部の前記テーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならず、前記口部の前記開口部の開口面が水平面に対して10度~60度傾いた状態であり、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記テーパー部と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口と、に向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が
重力作用によって流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給が開始され、
前記供給口および前記排出口は、前記薬剤容器内と液密状態で連通可能となっており、前記薬剤が前記テーパー部に沿い前記排出口の方に向かって順次に供給され、前記薬剤と前記溶媒との前記混合液が前記排出口から排出され、
前記薬剤が流動可能な状態は、前記溶媒の供給口と前記混合液の排出口と前記テーパー部とに対して溶質である前記薬剤が集中する状態であることを特徴とする薬剤溶解装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤溶解装置であって、
前記薬剤容器の口部には、前記供給口と前記排出口とを有する循環配管接続口が接続され、前記供給口と前記排出口とに向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が流動可能な状態で前記薬剤容器への前記溶媒の供給が開始されることを特徴とする薬剤溶解装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の薬剤溶解装置であって、
前記薬剤容器の姿勢を前記口部が上方を向く正立状態と前記口部が下方を向く
前記倒立状態とを変えるように動作する姿勢変更機構を備え、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する前に、前記薬剤容器の姿勢を前記正立状態から前記倒立状態に変えることを特徴とする薬剤溶解装置。
【請求項4】
固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解方法であって、
循環配管を通して、前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給して循環溶解する循環溶解工程を含み、
前記薬剤容器は、有底の本体部と、開口部を備え、前記本体部から前記開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部を備える口部と、を有し、
前記口部が下方を向く倒立状態であって、前記薬剤容器を傾けたときに前記口部の前記テーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならず、前記口部の前記開口部の開口面が水平面に対して10度~60度傾いた状態であり、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記テーパー部と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口と、に向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が
重力作用によって流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始し、
前記供給口および前記排出口は、前記薬剤容器内と液密状態で連通可能となっており、前記薬剤を前記テーパー部に沿い前記排出口の方に向かって順次に供給し、前記薬剤と前記溶媒との前記混合液を前記排出口から排出し、
前記薬剤が流動可能な状態は、前記溶媒の供給口と前記混合液の排出口と前記テーパー部とに対して溶質である前記薬剤が集中する状態であることを特徴とする薬剤溶解方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の薬剤溶解方法であって、
前記薬剤容器の口部には、前記供給口と前記排出口とを有する循環配管接続口が接続され、前記供給口と前記排出口とに向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が流動可能な状態で前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始することを特徴とする薬剤溶解方法。
【請求項6】
請求項
4または5に記載の薬剤溶解方法であって、
前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する前に、前記薬剤容器の姿勢を前記口部が上方を向く正立状態から前記口部が下方を向く倒立状態に変える姿勢変更工程を含むことを特徴とする薬剤溶解方法。
【請求項7】
固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解装置制御プログラムであって、
薬剤溶解装置に、
循環配管を通して、前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給して循環溶解する循環溶解工程を含み、
前記薬剤容器は、有底の本体部と、開口部を備え、前記本体部から前記開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部を備える口部と、を有し、
前記口部が下方を向く倒立状態であって、前記薬剤容器を傾けたときに前記口部の前記テーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならず、前記口部の前記開口部の開口面が水平面に対して10度~60度傾いた状態であり、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記テーパー部と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口と、に向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が
重力作用によって流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始し、
前記供給口および前記排出口は、前記薬剤容器内と液密状態で連通可能となっており、前記薬剤を前記テーパー部に沿い前記排出口の方に向かって順次に供給し、前記薬剤と前記溶媒との前記混合液を前記排出口から排出し、
前記薬剤が流動可能な状態は、前記溶媒の供給口と前記混合液の排出口と前記テーパー部とに対して溶質である前記薬剤が集中する状態である方法を実行させることを特徴とする薬剤溶解装置制御プログラム。
【請求項8】
請求項
7に記載の薬剤溶解装置制御プログラムであって、
前記方法は、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する前に、前記薬剤容器の姿勢を前記口部が上方を向く正立状態から前記口部が下方を向く倒立状態に変える姿勢変更工程を含むことを特徴とする薬剤溶解装置制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として人工透析に用いる透析液の調製に使用され、粉末状または顆粒状とした固体透析用剤等の薬剤を所定の濃度に溶解および調整するための薬剤溶解装置、ならびに薬剤溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析用剤は、透析液を作製するための薬剤である。透析液は、血液透析、血液濾過、腹膜透析等により、本来腎臓が行う機能に代わって体液の老廃物を取り去り、場合によっては血液中に必要な成分を補うために用いられるもので、体液に近い電解質組成を有する水溶液である。
【0003】
現在の透析用剤は、一般的には、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン等を含む電解質成分である塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムと、ブドウ糖と、pH調整剤(例えば、酢酸と酢酸ナトリウムまたはその混合物、もしくはクエン酸とクエン酸ナトリウム等)とを含む「透析用剤A剤」と、炭酸水素ナトリウムを含む「透析用剤B剤」との2剤構成となっている。
【0004】
透析用剤には、液体型と固体型の2種類の型がある。液体型の透析用剤は、その大部分が水で占められており、重量と容量が大きくなるため、透析医療従事者への運搬作業の負荷が大きく、保管スペースも大きくなってしまう。そのため、近年、透析液を使用する際に、自動の薬剤溶解装置に投入して、水に溶解させて透析液を調製する固体型の透析用剤が急速に普及している。
【0005】
特許文献1では、複数の容器をターンテーブル上に配置して移送し、所定位置において薬剤容器に循環配管を接続し、薬剤容器内に溶媒を通して薬剤と溶媒とを溶解タンクへ供給する薬剤溶解装置が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、薬剤収納袋体の袋開口に設けられたスパウトに循環配管の下流端および排出管の上流端を液密状態で連通可能とし、溶媒ポンプを駆動し始めてから薬剤収納袋体が薬剤と溶媒とで満たされるまでの時間が経過した後に、袋体ホルダを反転させ、溶媒を薬剤収納袋体内へ供給し続けながら、薬剤収納袋体を上向き姿勢から下向き姿勢へ変換することで、溶媒を流入して薬剤および溶媒を排出しながら薬剤収納袋体をしぼませる薬剤溶解装置が提案されている。
【0007】
従来の薬剤溶解装置は、薬剤の入った容器内を溶媒で満たしながら、容器内で薬剤の溶解を行う溶解方法の薬剤溶解装置であり、薬剤が凝集性の高い物質である場合には、溶媒に浸った薬剤が凝集し、凝集物が発生することで、溶解速度を低下させかねない。したがって従来の薬剤溶解装置は、溶媒への溶解速度向上という改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-146487号公報
【文献】特許第5448550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、固体型の薬剤の溶媒への溶解速度を向上して所定の濃度の溶解液を調製することができる薬剤溶解装置、および薬剤溶解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解装置であって、前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給するための循環配管を有する循環溶解手段を備え、前記薬剤容器は、有底の本体部と、開口部を備え、前記本体部から前記開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部を備える口部と、を有し、前記口部が下方を向く倒立状態であって、前記薬剤容器を傾けたときに前記口部の前記テーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならず、前記口部の前記開口部の開口面が水平面に対して10度~60度傾いた状態であり、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記テーパー部と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口と、に向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が重力作用によって流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給が開始され、前記供給口および前記排出口は、前記薬剤容器内と液密状態で連通可能となっており、前記薬剤が前記テーパー部に沿い前記排出口の方に向かって順次に供給され、前記薬剤と前記溶媒との前記混合液が前記排出口から排出され、前記薬剤が流動可能な状態は、前記溶媒の供給口と前記混合液の排出口と前記テーパー部とに対して溶質である前記薬剤が集中する状態である、薬剤溶解装置である。
【0011】
前記薬剤溶解装置において、前記薬剤容器の口部には、前記供給口と前記排出口とを有する循環配管接続口が接続され、前記供給口と前記排出口とに向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が流動可能な状態で前記薬剤容器への前記溶媒の供給が開始されることが好ましい。
【0012】
前記薬剤溶解装置において、前記薬剤容器の姿勢を前記口部が上方を向く正立状態と前記口部が下方を向く倒立状態とを変えるように動作する姿勢変更機構を備え、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する前に、前記薬剤容器の姿勢を前記正立状態から前記倒立状態に変えることが好ましい。
【0013】
前記薬剤溶解装置は、前記薬剤が擬似結晶多形を持つ成分を含む場合に好適に適用することができる。
【0014】
本発明は、固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解方法であって、循環配管を通して、前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給して循環溶解する循環溶解工程を含み、前記薬剤容器は、有底の本体部と、開口部を備え、前記本体部から前記開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部を備える口部と、を有し、前記口部が下方を向く倒立状態であって、前記薬剤容器を傾けたときに前記口部の前記テーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならず、前記口部の前記開口部の開口面が水平面に対して10度~60度傾いた状態であり、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記テーパー部と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口と、に向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が重力作用によって流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始し、前記供給口および前記排出口は、前記薬剤容器内と液密状態で連通可能となっており、前記薬剤を前記テーパー部に沿い前記排出口の方に向かって順次に供給し、前記薬剤と前記溶媒との前記混合液を前記排出口から排出し、前記薬剤が流動可能な状態は、前記溶媒の供給口と前記混合液の排出口と前記テーパー部とに対して溶質である前記薬剤が集中する状態である、薬剤溶解方法である。
【0015】
前記薬剤溶解方法において、前記薬剤容器の口部には、前記供給口と前記排出口とを有する循環配管接続口が接続され、前記供給口と前記排出口とに向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が流動可能な状態で前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始することが好ましい。
【0016】
前記薬剤溶解方法において、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する前に、前記薬剤容器の姿勢を前記口部が上方を向く正立状態から前記口部が下方を向く倒立状態に変える姿勢変更工程を含むことが好ましい。
【0017】
前記薬剤溶解方法は、前記薬剤が擬似結晶多形を持つ成分を含む場合に好適に適用することができる。
【0018】
また、本発明は、固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解装置制御プログラムであって、薬剤溶解装置に、循環配管を通して、前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給して循環溶解する循環溶解工程を含み、前記薬剤容器は、有底の本体部と、開口部を備え、前記本体部から前記開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部を備える口部と、を有し、前記口部が下方を向く倒立状態であって、前記薬剤容器を傾けたときに前記口部の前記テーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならず、前記口部の前記開口部の開口面が水平面に対して10度~60度傾いた状態であり、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記テーパー部と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口と、に向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が重力作用によって流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始し、前記供給口および前記排出口は、前記薬剤容器内と液密状態で連通可能となっており、前記薬剤を前記テーパー部に沿い前記排出口の方に向かって順次に供給し、前記薬剤と前記溶媒との前記混合液を前記排出口から排出し、前記薬剤が流動可能な状態は、前記溶媒の供給口と前記混合液の排出口と前記テーパー部とに対して溶質である前記薬剤が集中する状態である方法を実行させる、薬剤溶解装置制御プログラムである。
【0019】
前記薬剤溶解装置制御プログラムにおいて、前記方法は、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する前に、前記薬剤容器の姿勢を前記口部が上方を向く正立状態から前記口部が下方を向く倒立状態に変える姿勢変更工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、固体型の薬剤の溶媒への溶解速度を向上して所定の濃度の溶解液を調製することができる薬剤溶解装置、および薬剤溶解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置による溶解方法の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置による溶解方法の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置による溶解方法の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施形態における薬剤容器および循環配管接続口の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。
図1に示す薬剤溶解装置1は、薬剤34を溶媒32により溶解して溶解液を調製するための装置であり、薬剤34が収納された薬剤容器14に溶媒32を供給し、薬剤容器14から排出された薬剤34と溶媒32との混合液をさらに薬剤容器14に循環供給して循環溶解するための循環配管30(配管16、配管18、配管20)を有する循環溶解手段を備える。薬剤溶解装置1は、循環溶解手段としてさらに、例えば、所定量の溶媒32、または循環された薬剤34と溶媒32との混合液を収容可能な溶解槽10と、循環配管30を通して溶媒32、または薬剤34と溶媒32との混合液を循環させるための循環ポンプ12とを備えてもよい。
【0024】
薬剤溶解装置1において、溶媒32に溶解する溶質となる薬剤34(例えば、透析用剤)が収納された薬剤容器14が、薬剤溶解装置1に取り付けられている。溶解槽10の循環排出口と循環ポンプ12の吸入口との間は配管20により接続され、循環ポンプ12の吐出口と薬剤容器14との間は配管16により接続され、溶解槽10内の溶媒32が循環ポンプ12により配管20、配管16へ送出されて、薬剤容器14内に供給可能とされている。薬剤容器14と溶解槽10の投入口との間は配管18により接続され、薬剤容器14内の薬剤34および溶媒32を含む混合液が配管18を通して溶解槽10内へ排出可能とされている。このようにして、薬剤34および溶媒32を含む混合液が薬剤容器14、配管18、溶解槽10、配管20、循環ポンプ12、配管16、薬剤容器14の順に循環されるように構成されている。
【0025】
薬剤容器14の口部には、循環配管接続口22が接続されている。循環配管接続口22には、薬剤容器14の口部と接続するように動作する接続機構、および薬剤容器14の口部と接続された後に薬剤容器14を支持しながら、薬剤容器14の姿勢を例えば薬剤容器14の口部が上方を向く状態(正立状態)から薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)に変えるように動作する姿勢変更機構が備えられている。循環配管接続口22は、例えば、配管16の一端と接続され、溶媒32または混合液を薬剤容器14内へ供給するための供給口と、配管18の一端と接続され、混合液を薬剤容器14内から排出するための排出口とを有し、供給口および排出口は、薬剤容器14内と液密状態で連通可能となっている。
【0026】
溶解槽10の排出口には分岐配管36が接続され、この分岐配管36は、排出バルブ26を介して多人数用透析液供給装置(図示せず)等の透析液供給装置等に接続されていてもよい。また、配管16には、薬液濃度測定手段として電導度計等からなる濃度計28を備え、循環配管30内に流れる薬液(混合液)の濃度が所定値に到達したか否かを濃度計28により測定して、薬剤34が十分に溶媒32により溶解したか否か、言い換えると薬液の調製が完了したか否かを判断できるように構成されていてもよい。分岐配管36の接続位置は、必ずしも溶解槽10の排出口でなくてもよく、循環配管30の途中部分であってもよく、特に制限はない。濃度計28の設置位置は、循環配管30の途中部分であればよく、特に制限はないが、溶解槽10であってもよい。
【0027】
薬剤溶解装置1は、制御手段として制御装置24を備えてもよい。制御装置24は、循環配管接続口22および循環ポンプ12に電気的接続等により接続され、制御装置24からの信号に基づいて循環配管接続口22および循環ポンプ12が駆動制御可能とされている。また、制御装置24は、濃度計28に電気的接続等により接続され、濃度計28の測定値に基づく制御装置24からの信号に基づいて循環配管接続口22および循環ポンプ12が駆動制御可能とされてもよい。なお、循環配管接続口22による薬剤容器14の接続および支持、薬剤容器14の姿勢を変える動作、ならびに循環ポンプ12の駆動については、後述する。
【0028】
次に、薬剤容器14について説明する。
【0029】
薬剤容器14は、例えばポリエチレン等の合成樹脂等で構成されており、ボトル型の形状を有している。薬剤容器14は、例えば、本体部および口部を有し、本体部は、有底の例えば円筒状に形成され、口部は、例えば、開口部と、テーパー状に形成されたテーパー部(傾斜部)とを備えており、薬剤容器14の口部と循環配管接続口22とが接続された場合に、テーパー状の口部が循環配管接続口22を取り囲むように形成されている。薬剤容器14の口部のテーパー部の角度は、薬剤容器14の開口部が水平状態であるときに、水平面とテーパー部のなす角が、薬剤容器14に収容される薬剤34の崩潰角よりも大きい角度の形状に設定されていることが好ましい。
【0030】
薬剤容器14内に収納される薬剤34は、例えば、糖質成分(例えば、ブドウ糖)、電解質成分(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム)、pH調整剤(例えば、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸)、アルカリ化成分(例えば、炭酸水素ナトリウム)等が粉末状または顆粒状等にされた透析用剤であり、薬剤容器14の内部に所定量が収納される。薬剤34を薬剤容器14内に収納するには、例えば、薬剤容器14の口部から薬剤34を投入し、薬剤容器14の口部にポリエチレン等の合成樹脂で成形された蓋材を溶着する等の方法により封止すればよい。これにより、この薬剤容器14内に薬剤34を収納すると、内部の薬剤34が変質することがほとんどないので保管や搬送等が容易である。
【0031】
透析用剤の原料となる成分の中には、水和物と無水物のような擬似結晶多形を持つ成分(例えば、ブドウ糖、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム)がある。このような、擬似結晶多形を持つ物質の集合体に水等の溶媒を接触させ、ある時間静止させると、擬似結晶多形を持つ物質同士が付着し凝集物を形成することがある。凝集物は溶媒(例えば、水)との接触面積が小さくなるために、薬剤の溶解作業中にこの凝集物が発生すると、薬剤を完全に溶解するためには多くの時間を要することがある。
【0032】
次に、薬剤溶解装置1における薬剤34の溶解方法について説明する。まず、
図2に示すように、溶解槽10には、薬剤34を溶解する溶媒(例えば、水)32を所定量(具体的には、例えば、薬剤容器14内に収納された薬剤34の量を溶媒32に溶解した場合に、薬液として適した溶液成分濃度が得られるように設定された量)を予め貯留しておき、排出バルブ26を閉状態として、溶解槽10内の溶媒32が循環ポンプ12の吸入口へ流入するようにしておく。
【0033】
例えば制御装置24により循環配管接続口22の接続機構が駆動制御され、口部が上方を向く状態(正立状態)の薬剤容器14の口部と循環配管接続口22とが接続するように動作させる。薬剤容器14の口部と循環配管接続口22とが接続された後に、例えば制御装置24により循環配管接続口22の姿勢変更機構が駆動制御され、
図3に示すように、薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)になるように循環配管接続口22の薬剤容器14を支持しながら動作させる。
【0034】
次に、
図4に示すように、薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)で、すなわち、循環配管30と連通した、薬剤容器14への溶媒32の供給口と薬剤容器14からの混合液の排出口とを有する循環配管接続口22に向かって、薬剤容器14内の薬剤34が流動可能な状態(循環配管接続口22に対して薬剤34が集中する状態)で、薬剤容器14への溶媒32の供給(溶解動作)が開始される(循環溶解工程)。例えば、薬剤容器14の口部が下方を向いた後に、例えば制御装置24により循環ポンプ12が駆動制御され、溶解槽10内の溶媒32が循環ポンプ12により配管20、配管16を通して薬剤容器14内へ供給される。このとき、循環ポンプ12は、例えば、薬剤容器14が破裂せずに耐え得る圧力(例えば、100kPa以下の圧力)で溶媒32が送出されるように設定される。
【0035】
溶媒32が薬剤容器14内へ供給されると、薬剤容器14内の薬剤34のうちの口部付近にある薬剤から、配管18を通して溶媒32とともに溶解槽10に移動される。そして、薬剤容器14内の口部付近の薬剤34が移動されたならば、薬剤容器14内の口部から離れた中部、上部の薬剤が、薬剤容器14の本体部の内壁面およびテーパー部の内壁面に沿うように、溶媒32を供給している循環配管接続口22に付近に流動して移動され、配管18を通して溶媒32とともに溶解槽10に移動される。
【0036】
循環配管接続口22の供給口と排出口に向かって、薬剤容器14内の薬剤34が流動可能な状態(循環配管接続口22に対して溶質である薬剤34が集中する状態)で溶解動作が開始されることにより、薬剤34は溶媒32と接触してすぐに配管18に供給されるため、凝集物の発生または凝集物の量と凝集物の大きさとが抑制されて、溶媒への溶解速度が向上する。薬剤容器14内の薬剤34が流動可能な状態(循環配管接続口22に対して溶質である薬剤34が集中する状態)で溶解動作を開始することにより、薬剤34の濃度が高い状態で配管18に供給され、溶解槽10および循環配管30内を循環されながら溶解されるので、溶媒への溶解速度が向上する。
【0037】
そして、薬剤溶解装置1では、循環ポンプ12が駆動され続けることにより、薬剤34および溶媒32の混合液が薬剤溶解装置1の溶解槽10および循環配管30内を循環されて、薬剤34が溶媒32へ十分に溶解されて所定の濃度の薬液が調製される。
【0038】
このように、本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置および薬剤溶解方法では、薬剤34および溶媒32の混合液が高濃度スラリ状態で密閉された循環回路を通じて溶解槽10に供給されるので、薬剤34は溶媒32と多くの接触の機会を得ることができる。このため、固体型の薬剤の溶媒への溶解速度を向上することができ、短時間で固体型の薬剤を溶媒へ溶解して所定の濃度に調整することができる。
【0039】
また、薬剤容器14内の薬剤34は溶媒32と接触してすぐに、配管18を通して溶媒32とともに溶解槽10に移動されるため、薬剤34が擬似結晶多形を持つ成分を含有する場合であっても、擬似結晶多形を持つ物質の集合体に水が接触されてから、ある時間静止させる機会を減らすことができ、凝集物の発生と、凝集物が発生した場合でもその凝集物の量と凝集物の大きさとを抑制することができ、溶媒への溶解速度が向上する。
【0040】
循環配管30と連通した、薬剤容器14への溶媒32の供給口と、薬剤容器14からの混合液の排出口とに向かって薬剤容器14内の薬剤34が流動可能な状態としては、外力が与えられなくてもよいことから、薬剤容器14内の薬剤34が重力作用によって流動可能な状態であることが好ましい。供給口と排出口とに向かって薬剤容器14内の薬剤34が流動可能な状態としては、重力作用によって流動可能な状態の他に、溶媒によって流動可能な状態、圧縮空気によって流動可能な状態、振動によって流動可能な状態、衝撃によって流動可能な状態、回転運動によって流動可能な状態等が挙げられる。供給口と排出口とに向かって薬剤容器14内の薬剤34が重力作用によって流動可能な状態として、循環配管接続口22が接続された薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)を例として挙げたが、これに限られるものではない。例えば、本体部から底部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー形状を有する薬剤容器14のテーパー部側面に薬剤容器14への溶媒32の供給口と、薬剤容器14からの混合液の排出口とを設けて、薬剤容器14の口部が上方を向く状態(正立状態)で溶解動作を開始する方法、本体部から底部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー形状を有する薬剤容器14の底部に薬剤容器14への溶媒32の供給口と、薬剤容器14からの混合液の排出口とを設けて、薬剤容器14の口部が上方を向く状態(正立状態)で溶解動作を開始する方法等が挙げられる。
【0041】
薬剤容器14の口部が下方を向く状態とは、薬剤容器14を傾けたとき、口部のテーパー部の傾斜が水平面より下の位置にならない状態であればよく、薬剤容器14の口部の開口面が水平状態となる以外に、薬剤容器14の口部の開口面が水平面に対して例えば10度~60度傾く場合をも含む。
【0042】
薬剤容器14の形状は、薬剤34を収納可能であり、薬剤容器14内へ溶媒32の供給が開始されたときに内部に収納された薬剤34が溶媒32の供給口と排出口とに向かって流動可能な形状であればよく、特に制限はない。薬剤容器14の形状は、薬剤34を収納可能であり、薬剤容器14内へ溶媒32の供給が開始されたときに内部に収納された薬剤34が重力作用によって溶媒32の供給口と排出口とに向かって流動可能な形状であることが好ましい。薬剤容器14は、例えば、有底の例えば円筒状に形成された本体部と、開口部を備える口部と、有する容器である。薬剤容器14は、好ましくは、有底の例えば円筒状に形成された本体部と、開口部を備え、本体部から開口部に向かって狭くなるように傾斜したテーパー部(傾斜部)を備える口部とを有する容器である。テーパー部(傾斜部)は、平面状に傾斜していても、曲面状に傾斜していてもよい。薬剤容器14の内壁面には、凹凸部(例えば、高さ100μm以上の凹凸部)を有さないことが好ましい。
【0043】
薬剤容器14の口部のテーパー部の角度は、薬剤容器14の開口部が水平状態であるときに、水平面とテーパー部のなす角が、薬剤容器14に収容される薬剤34の崩潰角よりも大きい角度の形状に設定されていることが好ましく、薬剤34の安息角以上に設定されていることがさらに好ましい。これにより、薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)で溶媒32が薬剤容器14へ供給されたとき、薬剤34がテーパー部に沿い排出口の方に向かって崩れるようにして順次に供給され、薬剤34および溶媒32の混合液がほとんど途切れることなく溶解槽10へ移動される。
【0044】
本明細書における「安息角」および「崩潰角」とは、粉体を一定の高さから、一点に向けて静かに落下させたとき、互いに積み重なって山を形成する。この山の斜面と水平面がなす角度を「安息角」と言い、これに一定の衝撃を与えて崩れた山の斜面と水平面がなす角度を「崩潰角」という。
【0045】
具体的には、薬剤容器14の口部のテーパー部の角度は、薬剤容器14の開口部が水平状態であるときに、水平面とテーパー部のなす角が、好ましくは、10度~60度の範囲、より好ましくは、15度~55度の範囲、さらに好ましくは、20度~50度の範囲で設定するのが好適である。この角が60度を超えると、薬剤容器14の高さが長くなる場合があり、10度未満であると、重力作用で薬剤34が流動しにくくなる場合がある。
【0046】
循環配管接続口22は、例えば、配管16の一端と接続され、溶媒32または混合液を薬剤容器14内へ供給するための供給口と、配管18の一端と接続され、混合液を薬剤容器14内から排出するための排出口とを有し、供給口および排出口は、薬剤容器14内と液密状態で連通可能となっている。供給口と排出口は、薬剤34が流動して集中する位置に配置すればよく、例えば、
図1~4に示すように循環配管接続口22において平面上に隣接していてもよいし、
図5に示すように対向していてもよい。
図5の例では、循環配管接続口22は、例えば、配管18の一端と接続され、混合液を薬剤容器14内から排出するための排出口を有する。配管16の一端は、薬剤容器14の例えば底部から挿入され、溶媒32または混合液を薬剤容器14内へ供給するための供給口を有する供給管38と接続され、供給管38は供給口が循環配管接続口22の排出口に対向するように近傍まで延伸している。この場合、供給管38の先端の供給口と、循環配管接続口22の排出口とに向かって薬剤34が流動可能な状態で、薬剤容器14への溶媒の供給が開始されればよい。
【0047】
薬剤容器14の口部が下方を向く状態で循環ポンプ12が稼働され、薬剤容器14内の口部付近にある薬剤34がある程度溶解槽10に移動された後に、薬剤容器14内に溶媒32が満たされた状態で薬剤容器14の口部が下方(倒立状態)と上方(正立状態)とを交互に向くように振り子動作させたり、薬剤容器14を振動させたりしながら循環溶解してもよい。
【0048】
電導度計等の濃度計28により薬液が所定の濃度に達することで適切に溶解作業が完了されたことが確認された後に、例えば制御装置24により循環ポンプ12が停止される。濃度計28の測定値に基づく制御装置24からの信号に基づいて循環ポンプ12が停止されてもよい。薬剤容器14内の薬液は溶解槽10内へ移送され、排出バルブ26が開状態とされて、分岐配管36を通して多人数用透析液供給装置等の透析液供給装置等に薬液が供給される。
【0049】
本実施形態に係る薬剤溶解装置および薬剤溶解方法は、主として人工透析に用いる透析液の調製に使用され、粉末状または顆粒状とした固体透析用剤等の薬剤を所定の濃度に溶解および調整するためのものである。
【0050】
本実施形態に係る薬剤溶解装置および薬剤溶解方法は、特に、水和物と無水物のような擬似結晶多形を持つ成分(例えば、ブドウ糖、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム)を含む薬剤の溶解に好適に適用することができる。
【0051】
溶解槽10は、密閉可能であり、所定量の溶媒32、または薬剤34と溶媒32との混合液を収容可能であり、薬剤34を溶媒32により溶解して薬液を調製可能な槽であればよく、特に制限はない。溶解槽10は、溶解槽10内の溶媒32、または薬剤34と溶媒32との混合液を撹拌するための撹拌羽根等を有する撹拌装置を備えてもよい。循環配管30が、所定量の溶媒32、または薬剤34と溶媒32との混合液を収容可能であり、薬剤34を溶媒32により溶解して薬液を調製可能なものであれば、溶解槽10は省略可能である。
【0052】
循環配管30としては、溶媒32、または薬剤34および溶媒32の混合液が流動することができるものであればよく、特に制限はないが、例えば、内径Φ5mm~Φ25mmの樹脂製、金属性等の配管が用いられる。
【0053】
薬液濃度測定手段である濃度計28としては、薬剤34と溶媒32との混合液中の薬剤34の濃度を測定することができるものであればよく、特に制限はないが、例えば、電導度計、超音波式濃度計、屈折計、分光光度計等が挙げられる。
【0054】
循環配管接続口22は、例えば剛性を有する樹脂素材、金属素材等で構成された円筒形状等の筒形状を有している。
【0055】
循環配管接続口22に備えられている接続機構は、循環配管接続口22を薬剤容器14の口部と接続するように動作する機構であればよく、特に制限はない。接続機構は、例えば、循環配管接続口22に駆動部が接続され、この駆動部が例えば制御装置24からの駆動信号に基づいて駆動されて、設置された薬剤容器14の口部に対して循環配管接続口22を嵌合させて接続するように構成されている。薬剤容器14の口部と循環配管接続口22の嵌合部との間は、例えばシール部材等により密閉される。
【0056】
循環配管接続口22に備えられている姿勢変更機構は、薬剤容器14の姿勢を薬剤容器14の口部が上方を向く状態(正立状態)から薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)に変えるように動作する機構であればよく、特に制限はない。姿勢変更機構は、例えば、循環配管接続口22にモータ等の回転駆動部が接続され、この回転駆動部が例えば制御装置24からの駆動信号に基づいて駆動されて、薬剤容器14の姿勢が変更できるように構成されている。なお、薬剤容器14の口部が下方を向く状態(倒立状態)で薬剤容器14を薬剤溶解装置1に取り付けてもよい。この場合は、薬剤溶解装置1は姿勢変更機構を備えなくてもよい。薬剤容器14のテーパー部は口部に備える必要はなく、例えば、薬剤容器14の本体部の底部(開口部(薬剤の充填口)と反対側)にあってもよい。
【0057】
制御装置24は、CPU等の制御素子を含んで構成され、循環ポンプ12、濃度計28や、循環配管接続口22の接続機構、姿勢変更機構等を制御する機能を有する。
【0058】
薬剤溶解装置1は、その他、記憶部、ユーザインターフェース、入力部等のうち少なくとも1つをさらに備えてもよい。記憶部は、例えば、半導体メモリ、ハードディスク、光ディスク装置等の記憶装置を含んで構成され、制御装置24で処理されるプログラム、データ等の電子情報を格納および保持することができる。ユーザインターフェースは、モニタやタッチパネル等を含んで構成され、ユーザからの制御装置24に対する指示等を受け付けたり、ユーザに対する情報を提示したりするために用いられる。入力部は、キーボード、マウス、タッチパネル等を含んで構成され、ユーザから処理に用いられる各種情報を取得するために用いられる。ユーザインターフェースがタッチパネル等の入力部を含む場合には入力部を備えなくてもよい。
【0059】
薬剤34は、固体型の薬剤であり、例えば、粉末状または顆粒状等にされたものである。薬剤34は、例えば、電解質成分、pH調整剤、糖質成分、アルカリ化成分のうち少なくとも1つを含む透析用剤である。
【0060】
電解質成分としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0061】
pH調整剤としては、クエン酸無水物、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、マロン酸等の有機固体酸や、クエン酸ナトリウム等のクエン酸塩、酢酸ナトリウム、二酢酸ナトリウム等の酢酸塩、乳酸ナトリウム等の乳酸塩、リンゴ酸ナトリウム等のリンゴ酸塩、フマル酸ナトリウム等のフマル酸塩、コハク酸ナトリウム等のコハク酸塩、マロン酸ナトリウム等のマロン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。これらのうち、好ましいpH調整剤としては、クエン酸無水物の他に、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム無水物、クエン酸ナトリウム二水和物、酢酸、二酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム無水物である。
【0062】
糖質成分としては、無水結晶ブドウ糖等のブドウ糖等が挙げられる。
【0063】
アルカリ化成分としては、例えば、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0064】
溶媒32としては、例えば、水である。
【0065】
用いる溶媒32の量、すなわち溶解槽10に予め貯留して溶媒32の量は、例えば、薬剤容器14内に収納された薬剤34の量を溶媒32に溶解した場合に、薬液として適した溶液成分濃度が得られるように設定された量とすればよい。
【0066】
溶媒の温度は、例えば、10℃~50℃の範囲であればよい。
【0067】
薬剤溶解装置1の動作開始時、すなわち循環ポンプ12の動作開始時に薬剤容器14内に供給される溶媒32の流量は、薬剤容器14内の薬剤34のうちの口部付近にある薬剤が配管18を通して溶媒32とともに溶解槽10に移動可能な流量であればよく、特に制限はないが、例えば、5リットル/分~40リットル/分の範囲とすればよい。
【0068】
本実施形態に係る薬剤溶解方法の各工程は、コンピュータで処理可能な薬剤溶解装置制御プログラムに変換されて、記憶部等に格納および保持される。薬剤溶解装置1の制御装置24は、記憶部等に保持されている薬剤溶解装置制御プログラムを読み出し、薬剤溶解装置1により本実施形態に係る薬剤溶解方法の各工程を実行する。
【0069】
本発明の実施形態に係る薬剤溶解装置制御プログラムは、固体型の薬剤を溶媒により溶解して溶解液を調製するための薬剤溶解装置制御プログラムであって、薬剤溶解装置に、循環配管を通して、前記薬剤が収納された薬剤容器に溶媒を供給し、前記薬剤容器から排出された前記薬剤と前記溶媒との混合液をさらに前記薬剤容器に循環供給して循環溶解する循環溶解工程を含み、前記循環配管と連通した、前記薬剤容器への前記溶媒の供給口と、前記薬剤容器からの前記混合液の排出口とに向かって前記薬剤容器内の前記薬剤が流動可能な状態で、前記薬剤容器への前記溶媒の供給を開始する方法を実行させるプログラムである。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
[試料]
薬剤として無水結晶ブドウ糖2.4kg(薬剤が容器の内容積の80%となる分量)を薬剤容器(内容積4L)に封入した試料を用いた。薬剤容器としては、有底の円筒状の本体部と、テーパー部と開口部とを備える口部とを有する容器を用いた。薬剤容器のテーパー部は平面状に傾斜し、薬剤容器の開口部が水平状態であるときに、水平面とテーパー部のなす角が36度である薬剤容器を用いた。無水結晶ブドウ糖の安息角は、33度、崩潰角は、31度である。なお、粉体を160mmの高さから、一点に向けて静かに落下させ、互いに積み重ならせて山を形成し、この山の斜面と水平面がなす角度を安息角とし、これに強度0.17Nの衝撃を3回与えて崩れた山の斜面と水平面がなす角度を崩潰角とした。
【0072】
[実験装置]
図2に示すように、循環ポンプ(流量:29L/min)、薬剤容器、溶解槽(溶媒として、25℃の純水(逆浸透膜処理水)10.3Lを収容)を循環配管によって接続し、溶解槽から逆浸透膜処理水を薬剤容器内に供給し、薬剤容器内から薬剤と溶媒の混合液を溶解槽に供給(循環溶解)する溶解方法の実験装置を用いた。薬剤容器と循環配管との接続には循環配管接続口を用い、供給口と排出口は、循環配管接続口において平面上に隣接させて、薬剤容器の口部が下方を向く状態(倒立状態)で薬剤が重力作用によって流動して集中する位置に配置した。循環配管としては、内径が15mmのシリコン樹脂製配管を用いた。
【0073】
[実験方法]
上記試料(薬剤容器)を上記実験装置に接続し、以下の溶解動作(1)(実施例1)、溶解動作(2)(比較例1)または溶解動作(3)(比較例2)でそれぞれ動作し、薬剤が溶解する時間、および、循環ポンプを稼働してから240秒以内に溶解しなかった場合には、装置を停止し、溶け残った薬剤の重量を測定した。それぞれの溶解動作について、3回実験を行った。結果を表1に示す。
溶解動作(1):薬剤容器の口部が下方を向く状態(倒立状態)で循環ポンプを稼働させ、循環溶解
溶解動作(2):薬剤容器の口部が上方を向く状態(正立状態)で循環ポンプを稼働させ、循環ポンプを稼働してから10秒後に薬剤容器内に水が満たされた状態で口部が下方(倒立状態)で20秒間、上方(正立状態)で13秒間と交互に口部の方向が変わるように振り子動作させながら循環溶解
溶解動作(3):薬剤容器の口部が上方を向く状態(正立状態)で循環ポンプを稼働させ、その状態で循環溶解
【0074】
【0075】
実施例1の溶解動作(1)では、3回の実験共に薬剤(無水結晶ブドウ糖)は循環ポンプを稼働してから30秒以内に溶解し、目視で凝集物の発生、溶け残りは見られなかった。比較例1の溶解動作(2)および比較例2の溶解動作(3)では、いずれも3回の実験共に薬剤は循環ポンプを稼働してから240秒でも溶解せず、凝集物の発生、溶け残りが見られた。薬剤の溶解に最も不利な動作であると考えられる比較例2の溶解動作(3)では、比較例1の溶解動作(2)に比べて、溶け残りの量が多かった。
【0076】
比較例1の溶解動作(2)では、薬剤容器の口部が上方を向く状態で循環ポンプを稼働させ、薬剤容器内に溶媒が満たされた後に振り子動作させるため、薬剤容器内の薬剤に溶媒を接触させてある時間静止する状態になり、溶媒に浸った薬剤が凝集し、溶媒への溶解速度が低下したと考えられる。
【0077】
このように、実施例1の溶解動作(1)により、固体型の薬剤の溶媒への溶解速度を向上して所定の濃度の溶解液を調製することができた。
【符号の説明】
【0078】
1 薬剤溶解装置、10 溶解槽、12 循環ポンプ、14 薬剤容器、16,18,20 配管、22 循環配管接続口、24 制御装置、26 排出バルブ、28 濃度計、30 循環配管、32 溶媒、34 薬剤、36 分岐配管、38 供給管。