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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】ロボットの位置情報復元方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018052120
(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2019162692
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 淳
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-141098(JP,A)
【文献】特開2016-043424(JP,A)
【文献】特開昭61-274886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の処理室を有する処理装置において使用され、教示データに基づき、対象物を支持して前記複数の処理室の間で搬送するロボットの位置情報復元方法であって、
前記ロボットは、前記処理装置に設置される基台と、前記対象物を支持する複数のハンドと、前記基台と前記複数のハンドとの間に介在する少なくとも1つのアームとを備えており、
前記複数のハンドは、前記基台からみて末端となる前記アームに対して取り付け部を介して取り付けられており、
前記ロボットの一部の交換、前記ロボットの一部または全部の再組み立て、もしくは前記ロボットの移設をロボット交換として、前記ロボット交換の実行前に、前記ロボットの前記ハンドごとの原点オフセットと、前記アームを伸ばして前記ハンドを所定位置に移動したときの前記ロボットの位置と姿勢を示す前記ハンドごとの所定位置座標とを記憶する工程と、
前記ロボット交換ののち、前記ロボットの原点オフセットを前記ハンドごとに取得し、前記ロボット交換前の前記原点オフセットと前記ロボット交換ののちの前記原点オフセットとの差である原点ずれ量を前記ハンドごとに記憶する工程と、
前記ロボット交換ののち、前記アームを伸ばして前記ハンドを前記所定位置に移動させて前記ハンドごとに前記所定位置座標を取得し、前記ハンドごとの前記ロボット交換前の前記所定位置座標と前記ロボット交換ののちの前記所定位置座標との差に基づいて前記ハンドごとに座標ずれ量を算出して記憶する工程と、
を有し、
前記ハンドごとに前記原点ずれ量と前記座標ずれ量とを別個に管理する、位置情報復元方法。
【請求項2】
前記処理装置に1つの基準マーカーを備え、前記ハンドに搭載された物体の少なくとも一部と前記基準マーカーとを視覚センサによって撮像して前記物体の位置を取得することにより、前記ロボットとは別個の座標系での前記所定位置座標を取得する、請求項1に記載の位置情報復元方法。
【請求項3】
前記処理装置に2つの基準マーカーを備え、前記ハンドに搭載された物体の少なくとも一部と前記基準マーカーとを視覚センサによって撮像して前記物体の位置を取得することにより、前記ロボットとは別個の座標系での前記所定位置座標を取得する、請求項1に記載の位置情報復元方法。
【請求項4】
前記基準マーカーは、前記複数の処理室のうちのいずれか1つの処理室に設けられる、請求項2または3記載の位置情報復元方法。
【請求項5】
前記複数のハンドのうち前記教示データにおいて使用されるハンドを検知し、前記検知されたハンドに対する前記原点ずれ量と前記座標ずれ量とを使用して前記教示データを修正する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位置情報復元方法。
【請求項6】
前記ロボット交換の前後での前記所定位置座標のずれが許容範囲以内となるまで、前記原点ずれ量と前記座標ずれ量とを用いて前記教示データを修正し修正後の前記教示データに基づいて前記ロボットを原点位置から前記所定位置に移動させて前記座標ずれ量を再計算することを繰り返す、請求項5に記載の位置情報復元方法。
【請求項7】
前記ハンドの個数は2個であり、前記2個のハンドが相互に180°の位置関係をなすように前記取り付け部に取り付けられている、請求項5または6に記載の位置情報復元方法。
【請求項8】
前記教示データにおいて、前記2個のハンドのうちの一方のハンドが延びる方向を正方向とする変換座標系が使用され、
前記教示データにおける前記処理室へのハンドの移動方向が前記変換座標系の正方向と一致するときは前記一方のハンドが前記使用されるハンドであると検知し、
前記教示データにおける前記処理室へのハンドの移動方向が前記変換座標系の負方向と一致するときは他方のハンドが前記使用されるハンドであると検知する、請求項7に記載の位置情報復元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットにおける機器の交換、ロボットの再組み立てや移設などに際し、従前の教示データをそのロボットで利用できるようにする位置情報復元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
教示(ティーチング)データに基づいて動作するロボットでは、必要に応じ、ロボットを構成するモータやアーム、ハンド等の機器の交換、ロボット自体の再組み立てや移設などが行なわれることがある。機器の交換、再組み立て、移設などを行った場合、ロボットの組み立てや据え付けに関する誤差量が変化するから、再びそのロボットによって作業を行なう前に、ロボットに対する再教示を行なう必要がある。しかしながらロボットの教示には多大な時間と労力を要するから、機器の交換、ロボットの再組み立てや移設などを行なった場合であっても従前の教示データを利用できることが望まれている。特許文献1は、保持装置に保持されたワークに対して加工を行なうロボットに関し、ロボットの移設を行なう前後に、保持装置または保持装置に保持されたワークの3箇所の位置をロボットのアームに取り付けた視覚センサによって計測し、ロボットの移設前後での計測結果の変化に基づきロボットと保持装置との相対位置の変化が補償されるように教示データを修正することを開示している。
【0003】
ロボットではその各軸の位置(特に回転位置)をセンサ(例えばエンコーダ)によって求めているが、モータや減速機、アーム、ハンドを交換した場合には各軸の位置を決定するために用いられる基準位置がずれてしまう。このことも機器の交換後に従前の教示データを利用できないことの原因であるが、特許文献2は、ロボットの関節軸を構成する一対の構造体(例えはアームなど)にそれぞれピン孔を設け、各ピン孔に貫通するピンを挿入して基準位置を規定する方法や、関節軸を構成する一方の構造体にV字形の溝を設けて他方の構造体にはV字溝に対応する近接センサを設け、近接センサからの信号によって基準位置を特定する方法を開示している。
【0004】
機器の交換、ロボット自体の再組み立てや移設を行なった場合、さらには経時変化などに対応するために、ロボットにおいてはキャリブレーションが行われる。キャリブレーションを行なった場合にはロボットを運動学的に記述するために用いられる機構パラメータが変わってしまい、キャリブレーション前に用いていた教示データをそのままでは使用できなくなる。特許文献3は、キャリブレーション前の機構パラメータとキャリブレーション後の機構パラメータとに基づいて教示データを修正して使用することを開示している。キャリブレーションに関連するものとして、特許文献4は、1台のカメラの撮像面に設定された仮想基準点とロボットの先端に取り付けたマーカのイメージとが重なるようにロボットを位置決めし、そのときのロボット各軸の動作量と仮想基準点のイメージ座標系での位置とに基づいてロボットの機械パラメータの誤差を校正することを開示している。
【0005】
ところで、各種のロボットのうち水平多関節ロボットは、例えば、半導体ウエハやガラス基板などの搬送に用いられている。ガラス基板などの大型の物品を対象とする搬送用の水平多関節ロボットの例が特許文献5に示されている。特許文献5に示すロボットでは、ガラス基板などを保持するためのハンドを2つ備えることによって搬送効率を向上させている。これらのハンドは相互に反対方向に延びている。水平多関節ロボットの搬送対象物の大型化や搬送対象物に対して行なわれる工程の複雑化に伴って、水平多関節ロボット自体も大型化し、かつ、搬送対象物の搬送距離も長くなっている。水平多関節ロボットが大型化すると、ロボットを出荷して需要先に据え付けるために、ロボットを完成させて調整した後、ロボットをいったん分解して輸送し、据え付け先において再組み立てを行なう必要も生じてきている。特に、ガラス基板の搬送に用いられる水平多関節ロボットの場合には、ハンドが長大なものとなるので、ロボット自体の輸送や移設のためにはハンドを取り外す必要が生じることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3733364号公報
【文献】特許第4819957号公報
【文献】特開2017-213668号公報
【文献】特開2006-110705号公報
【文献】特開2015-139854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1-3は、ロボットにおける機器の交換、ロボット自体の再組み立てや移設、さらにはロボットの再キャリブレーションを行なった場合にも再教示を行なうことなく従前の教示データを利用できるようにする方法を開示している。特許文献1-3の方法は、いずれも1組の補正データ(特許文献1であれば移設前後での特定の保持装置に関する位置のずれに関するデータ、特許文献2であれば基準位置を補正するデータ、特許文献3であればキャリブレーション前後での機構パラメータのずれに関するデータ)に依拠するものである。しかしながら、搬送用の水平多関節ロボットのようにロボットが大型化し、かつ、その移動範囲も大きくなった場合には、特許文献1-3のやり方では、教示データの修正を十分には行なうことができず、その結果、再教示を余儀なくされることがある。特に、特許文献5に示されるように複数のハンドを備えるロボットの場合には、いずれか1つのハンドに関して行なった教示データの修正が、他のハンドにも影響を及ぼし、その結果、当該他のハンドを適切に移動させることができなくなることがある。特許文献4に記載されるようなキャリブレーション方法を実施したとしても、1つのハンドに対して行なったキャリブレーションの影響が他のハンドに及ぼされることを防ぐことはできない。
【0008】
本発明の目的は、複数のハンドを備える搬送用の大型の水平多関節ロボットなどのロボットにおいて、ロボットを構成する機器の交換、ロボットの再組み立てや移設に際して再教示が不要であり、ハンドごとのキャリブレーション結果が他のハンドに影響を及ぼすことを防止できる、位置情報復元方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位置情報復元方法は、複数の処理室を有する処理装置において使用され、教示データに基づき、対象物を支持して複数の処理室の間で搬送するロボットの位置情報復元方法であって、ロボットは、処理装置に設置される基台と、対象物を支持する複数のハンドと、基台と複数のハンドとの間に介在する少なくとも1つのアームとを備えており、複数のハンドは、基台からみて末端となるアームに対して取り付け部を介して取り付けられており、ロボットの一部の交換、ロボットの一部または全部の再組み立て、もしくはロボットの移設をロボット交換として、ロボット交換の実行前に、ロボットのハンドごとの原点オフセットと、アームを伸ばしてハンドを所定位置に移動したときのロボットの位置と姿勢を示すハンドごとの所定位置座標とを記憶する工程と、ロボット交換ののち、ロボットの原点オフセットをハンドごとに取得し、ロボット交換前の原点オフセットとロボット交換ののちの原点オフセットとの差である原点ずれ量をハンドごとに記憶する工程と、ロボット交換ののち、アームを伸ばしてハンドを所定位置に移動させてハンドごとに所定位置座標を取得し、ハンドごとのロボット交換前の所定位置座標とロボット交換ののちの所定位置座標との差に基づいてハンドごとに座標ずれ量を算出して記憶する工程と、を有し、ハンドごとに原点ずれ量と座標ずれ量とを別個に管理する。
【0010】
本発明では、教示データの修正に用いる補正量を原点オフセットに基づく原点ずれ量と所定位置座標に基づく座標ずれ量の2つに分け、これらのずれ量をハンドごとに取得するとともに別個に管理するので、あるハンドに対するキャリブレーションの結果が他のハンドに影響を及ぼすことを防ぐことができ、これによって、ロボット交換後にも教示データを使用できるように、ロボットにおいて使用するハンドに応じて適切に教示データを修正することが可能になる。また、いずれかのずれ量において異常がある場合に、異常があることと、その異常がどのずれ量にあるのかを容易に判別することができるようにある。ずれ量の算出の過程でデータ損失などが発生しても、原点ずれ量の算出が完了していれば原点ずれ量はそのまま使用して座標ずれ量の算出を行なえばよいので、補正量算出のための時間を短縮できる。
【0011】
本発明の位置情報復元方法では、処理装置に1つの基準マーカーを備え、ハンドに搭載された物体の少なくとも一部と基準マーカーとを視覚センサによって撮像して物体の位置を取得することにより、ロボットとは別個の座標系、例えば処理装置の座標系での所定位置座標を取得することが好ましい。ロボット交換後に所定位置に移動したときに所定位置座標に生ずるずれは、主として、ロボットを設置した平面内での位置のずれとロボットの向きのずれ(角度のずれ)によって生ずるが、大型のロボットでは位置のずれよりも向きのずれの影響の方が大きいので、向きのずれに着目して座標ずれ量を算出するのであれば、1つの基準マーカーのみの使用で十分であり、座標ずれ量の算出のための演算を簡潔なものとすることができる。
【0012】
本発明では、処理装置に2つの基準マーカーを備え、ハンドに搭載された物体の少なくとも一部と基準マーカーとを視覚センサによって撮像して物体の位置を取得することにより、ロボットとは別個の座標系での所定位置座標を取得してもよい。2つの基準マーカーを設ける場合には、座標ずれ量に含まれる位置のずれと角度のずれとを分離できるので、原点オフセットに多少の誤差があったとしても、原点ずれ量と座標ずれ量とに基づいて修正した教示データによって、ロボットを所望の位置に正確に移動させることができるようになる。
【0013】
本発明では、複数の処理室のうちのいずれか1つの処理室に基準マーカーを設けることが好ましい。処理装置において、実際に使用される処理室に設けられた基準マーカーを使用することで、実際に使用される処理室でのずれに基づいて教示データの修正を行なうことができるようになる。
【0014】
本発明では、複数のハンドのうち教示データにおいて使用されるハンドを検知し、検知されたハンドに対する原点ずれ量座標ずれ量とを使用してその教示データを修正することが好ましい。このように教示データを修正することにより、その教示データにおいて実際に使用するハンドに関するずれ量に基づいて教示データが修正されることとなるので、より適切に教示データを修正することができるようになる。このとき、ロボット交換の前後での所定位置座標のずれが許容範囲以内となるまで、原点ずれ量と座標ずれ量とを用いて教示データを修正し修正後の教示データに基づいてロボットを原点位置から所定位置に移動させて座標ずれ量を再計算することを繰り返すことができる。このような繰り返しの計算によって、教示データを修正する精度を高めることができる。


【0015】
本発明では、ハンドの個数は例えば2個であり、この2個のハンドは相互に180°の位置関係をなすように取り付け部に取り付けられている。2個のハンドを180°の位置関係となるように設けた場合には、対向する2つの処理室のうちの一方の処理室に対して一方のハンドによってワークを出し入れし、その後、ハンドを回転させることなくハンドを移動させることにより、他方の処理室に対して別のワークの出し入れを行うことができるようになり、搬送効率が向上する。2個のハンドを設けてそれらを相互に180°の角度をなすように設ける場合、教示データにおいて、2個のハンドのうちの一方のハンドが延びる方向を正方向とする変換座標系を使用するようにし、教示データにおける処理室へのハンドの移動方向が変換座標系の正方向と一致するときは一方のハンドが使用されるものと検知し、教示データにおける処理室へのハンドの移動方向が変換座標系の負方向と一致するときは他方のハンドが使用されるものと検知することができる。この構成では、教示データにおけるハンド自体の動きからどのハンドが使用されるかを判別できるので、ハンドを識別するためのセンサなどが不要となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ハンドごとのキャリブレーション結果が他のハンドに影響を及ぼすことを防止しつつ、ロボットを構成する機器の交換、ロボットの再組み立てや移設に際して再教示を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ロボットの一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は原点位置にあるロボットの正面図である。
図2】ロボット及びロボットコントローラの回路構成を示すブロック図である。
図3図1に示すロボットが設けられる処理装置を示す図であり、(b)は処理室の断面を模式的に示す図である。
図4】本発明に基づく位置情報復元方法の動作を示すフローチャートである。
図5】(a),(b)は変換座標系を説明する図である。
図6】別の例の処理室を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明に基づく位置情報復元方法を説明する前に、まず、位置情報復元方法の適用対象となるロボットの一例について説明する。
【0019】
図1は、本発明に基づく位置情報復元方法が適用されるロボットの一例を示している。図1(a),(b)は、アームやハンドを伸ばした状態でのロボットを示す平面図及び正面図である。図1に示されるロボットは、特許文献5に記載された搬送用の水平多関節ロボットと同様のものであって、基台11と、基台11に取り付けられた第1アーム12と、第1アーム12の先端に取り付けられた第2アーム13と、第2アーム13の先端に取り付け部16を介して取り付けられた複数のハンド(図示したものではハンド14とハンド15)とを備えている。ハンド14,15は搬送対象物であるガラス基板などを保持するものであって、いずれもフォーク(fork)状に形成されている。ハンド14,15はいずれもその根元側が取り付け部16に差し込まれて固定されることにより、取り付け部16に取り外し可能に取り付けられている。ハンド14,15は取り付け部16から見て相互に反対方向に延びている。基台11に対して第1アーム12は軸Aの周りで回転可能であり、第1アーム12に対して第2アーム13は軸Bの周りを回転可能であり、第2アーム13に対して取り付け部16は軸Sの周りで回転可能である。ハンド14,15の延びる方向がなす角度は軸Sを中心にして180°になるように設定されているが、実際には、取り付け誤差などの影響により正確には180°とはなっていない可能性がある。
【0020】
ロボットの関節軸である軸A,B,Sの周りでの回転を可能にするために、ロボットには軸ごとにモータが備えられている。さらにロボットは、基台11に設けられて第1アーム12を図示Z方向で昇降する機構が設けられ、この昇降機構も昇降用のモータによって駆動される。軸A,B,Sは、いずれもZ方向に平行である。基台11、アーム12,13、及び取り付け部16を含むハンド14,15の各々は、ロボットに含まれる構造体である。以下の説明において、ハンド14,15をそれぞれ、第1ハンド14及び第2ハンド15と呼ぶ。
【0021】
図1に示すロボットには、ロボットの動作の基準となる原点位置が定められており、原点位置ではロボットはアームやハンドが所定の折り畳まれた姿勢となる。図1(c)は原点位置でのロボットの姿勢を示しており、第1アーム12上に第2アーム13及び第1ハンド14が重なるように、第2アーム13及び第1ハンド14が折り畳まれている。原点位置では、第2ハンド15についてはその延びる方向が第2アーム13の長手方向と正確に一致するものとされるが、上述したように、取り付け部16への取り付け誤差などによって、取り付け部16から第1ハンド14と第2ハンド15がそれぞれ延びる方向がなす角が正確に180°であるとは限らないので、第1ハンド14について原点位置の姿勢をとっているときに第2ハンド15が原点位置にあるとは限らない。本来ならば原点位置は1つであるべきであるが、本実施形態では、第1アーム12上に第2アーム13及び第1ハンド14が重なっている姿勢を第1原点位置の姿勢とし、第1アーム12上に第2アーム13が重なり、第2アームの長手方向と第2ハンド15の延びる方向とが一致している姿勢を第2原点位置の姿勢とする。
【0022】
図1に示すロボットを制御するためにロボットコントローラが設けられている。図2は、ロボットとロボットコントローラ40の電気的な回路構成を示している。ロボットには、上述したように軸A,B,Sと昇降機構のためにあわせて4個のモータ18が設けられているが、これらのモータ18には、モータ18の回転角を計測するエンコーダ19がそれぞれ取り付けられている。
【0023】
ロボットコントローラ40は、各種の信号やデータを伝送するために用いられるバス41と、モータ18ごとに設けられてそのモータ18を駆動するサーボ回路42と、ロボットの動作や制御に必要な演算を行い各サーボ回路42に指令を出力するCPU(中央処理装置)43と、CPU43による演算や制御に必要なデータを格納する記憶部44とを備えている。記憶部44には、記憶領域あるいはファイルとして、教示データを格納する教示データ格納部51と、原点オフセットを格納する原点オフセット格納部52と、所定位置座標を格納する所定位置座標格納部53とが設定されている。原点オフセット及び所定位置座標については後述する。サーボ回路42、CPU43及び記憶部44はバス41に接続している。エンコーダ19からの出力は、対応するモータ18を駆動するサーボ回路42に供給されるとともに、バス41を介してCPU43にも送られるようになっている。ロボットコントローラ40には、視覚センサであるカメラ23とロボットの教示に用いるティーチングペンダント60とが接続しており、これらは、不図示のインタフェース回路を介してバス41に接続している。
【0024】
次に、ここで説明するロボットの利用形態について、図3を用いて説明する。ここでは、略長方形のガラス基板であるワーク31に対して成膜やエッチングなどの処理を行なうことによって液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイを製造するために用いられる処理装置内でロボットが使用されるものとする。図3(a)に示すように処理装置は、搬送室(トランスファーチャンバー)21と、搬送室21を取り囲むように配置された複数の処理室(プロセスチャンバー)22とを備えている。処理室22には、製造システム自体へのワーク31の搬入や搬出を行なうために設けられるものと、ワーク31に対して成膜やエッチング、その他の処理を行なうために設けられるものとがある。ロボットは、搬送室21に基台11が設置されることによって搬送室11内に設けられ、処理室22の間での搬送室21を介するワーク31の搬送を行なう。そのため、ロボットは搬送室21のほぼ中央に設けられており、ワーク31の受け渡し時には、第1ハンド14か第2ハンド15のいずれか(図示したものでは第1ハンド14)が処理室22内に入り込むように、アーム12,13を伸ばす。本実施形態におけるロボットでは、第1ハンド14と第2ハンド15とが相互にほぼ180°の角度をなすように設けられているので、例えば、第1ハンド14によって搬送室21の一方の壁面にある処理室22に対してワーク31を出し入れし、その後、ハンド14,15を回転させることなくハンド14,15を移動させることにより、搬送室21の他方の壁面にある別の処理室22に対して別のワーク31の出し入れを行うことができるようになり、搬送効率が向上する。
【0025】
複数の処理室22のうち、例えば製造システムの外部とのワーク31の搬入搬出に用いられる処理室22の天井面には、図3(b)に示すように、基準マーカー24が取り付けられており、基準マーカー24を撮影するようにその処理室22の床面にはカメラ23が設けられている。カメラ23は図3(a)にも描かれている。カメラ23及び基準マーカー24は、ロボットのハンド14上に載置されたワーク31が、ハンド14あるいはハンド15での正しい位置に載置されているかどうかを判断するために用いられている。カメラ23及び基準マーカー24を備える処理室22に対して教示データに基づいてロボットを移動させ、そのときにカメラ23によってワーク31のエッジ(縁部)が写り込むように基準マーカー24を撮影することにより、ワーク31がハンド14またはハンド15に正しく載置されているかどうか、本来の位置からずれて載置して場合にはどの方向にどれだけずれているのかを知ることができる。ワーク31の載置位置が本来の位置からずれているときは、不図示の位置修正装置により、ワーク31の載置位置の修正を行なうことができるようになっている。
【0026】
次に、本発明の実施形態における位置情報復元方法について説明する。本実施形態の位置情報復元方法は、ロボットを構成するモータやアームなどの機器の交換があったときや、ロボット自体の再組み立てや移設があったときにおいて、それらの交換や再組み立て、移設の前にそのロボットにおいて使用していた教示データを、再教示を行なうことなく、交換や再組み立て、移設ののちにも使用できるようにするものである。以下では、ロボットにおける機器の交換、ロボット自体の再組み立てや移設を総称してロボット交換と呼ぶことにする。
【0027】
上述したように原点位置はロボットを移動させるときの位置及び姿勢の基準となるものであり、原点位置にあるロボットでは、そのロボットの各モータ18の回転位置がいずれもゼロであるとみなされる。モータ18の回転位置はそのモータ18に接続するエンコーダ19によって計測されてロボットコントローラ40に出力される。しかしながら、アーム12,13やハンド14に対するモータ18の組み付け状態、モータ18とエンコーダ19との間の組み付け状態に応じ、ロボットが原点位置にあるとしてもエンコーダ19から出力される回転位置の値はゼロになるとは限らない。特に本実施形態の場合、ハンド14,15の取り付け誤差などのために第1原点位置と第2原点位置の2つの原点位置が定義されるから、少なくとも一方の原点位置では少なくとも軸Sに対応するエンコーダ19から出力される値は非ゼロの値である。ロボットが原点位置にあるときにエンコーダ19で計測される回転位置を原点オフセットと呼ぶ。原点位置が2つ定義されることに伴って原点オフセットも2通りの値となる。
【0028】
教示データに基づいてロボットを移動するときは、教示データにおいては原点位置での回転位置がゼロであるとした上で原点オフセットによる補償を行なうか、あるいは、原点位置での回転位置は原点オフセットで示す値であるものとして教示データが記述されている必要がある。本実施形態におけるロボットは、搬送室21の周囲に配置された複数の処理室22の間でワーク31の受け渡しを行うものであり、第1ハンド14及び第2ハンド15が同時に搬送室21内に位置することはあっても、第1ハンド14及び第2ハンド15が同時にそれぞれの処理室22内に移動することはない。第1ハンド14がいずれかの処理室22内にあるときは第2ハンド15は搬送室21内に位置し、逆に、第2ハンド15がいずれかの処理室22内にあるときは第1ハンド14は搬送室21内に位置する。そこで、教示データに基づいて第1ハンド14をいずれかの処理室22に移動させるときと、その状態からアーム12,13を折り畳んで第1ハンド14を搬送室22内に戻すときは第1原点位置とそれに対応する原点オフセットとを使用し、同様に教示データに基づいて第2ハンド15をいずれかの処理室22に移動させるときと、その状態からアーム12,13を折り畳んで第2ハンド15を搬送室22内に戻すときは第2原点位置とそれに対応する原点オフセットとを使用する。ロボット交換があったとき、例えばモータ18やアーム12,13、ハンド14,15の交換を行なった場合には、その交換の前後では一般に原点オフセットの値が異なることになる。したがって、再教示を行なうことなくロボット交換の前後で同一の教示データを使用するためには、ロボット交換による原点オフセットの変化に基づいて教示データを修正する必要がある。
【0029】
ロボット交換後の原点オフセットを求める場合には、ロボットを原点位置に移動させる必要がある。このとき、ロボット交換後の原点オフセットがまだ分かっていないので、ロボットに対する原点復帰コマンドなどによりロボットを原点位置に移動させることはできない。そこで、ロボットを目視しながらティーチングペンダントを用いてロボットを原点位置に移動させてもよい。より正確にロボットを原点位置に移動させるためには、例えば特許文献2に記載されるように、ロボットの姿勢を原点位置での姿勢に規制するためのピン孔をアーム12,13やハンド14,15、取り付け部16などに設け、ピン孔に治具ピンを差し込むことによってロボットを原点位置に固定すればよい。治具ピンを用いる場合、エンコーダ19とは別個に、関節軸を共有する2つの構造体(アーム12,13やハンド14,15)の一方に原点センサを設け、他方に原点センサが感知できる溝や突起を設け、原点センサの出力に基づいて粗調整を行い、その後、治具ピンがピン孔にはまる位置までロボットをゆっくり移動させる微調整を行なってロボットを機械的に原点位置に移動させることができる。治具ピンとピン孔は、ロボットに含まれる構造体(ここでは基台11、アーム12,13及びハンド14,15)の相互間の位置を規制する機能を有する。本実施形態では、第1原点位置に対応する原点オフセットと第2原点位置に対応する原点オフセットの両方を求める。これら2つの原点オフセットは、軸A及び軸Bのそれぞれについては同じ値を有するが、軸Sについては一般に異なる値を有している。
【0030】
ところで原点位置はロボットのアーム12,13や第1ハンド14が折り畳まれ、第2ハンド15は第2アーム13の延長方向に延びている状態であり、搬送用のロボットのようにアームやハンドが長いロボットの場合、原点オフセットの変化を補償しただけでは、アーム12,13を伸ばし、さらには軸Sの周りで取り付け部16を回転させることによりハンド14,15を回転させて移動しようとした場合に、所望の位置に正確に移動できるとは限らない。これは、ロボット交換によりロボットの設置位置や向きがずれ、また、ハンド14,15の取り付け状態が変わることがあるからである。そこで本実施形態では、教示データに基づいてロボットのアーム12,13及びハンド14,15を伸ばして所定位置に移動することをロボット交換の前と後とに実行する。そして、ロボット自体の座標系とは別個の外部座標系(例えば、処理室22において定義された座標系)において、ロボットの位置と姿勢を示す座標を求める。この座標を所定位置座標と呼ぶ。所定位置座標は、原点オフセットでは補償しきれないずれを補償するためのものであるから、アーム12,13やハンド14,15をできるだけ伸ばした状態で、かつロボットの基台11からできるだけ離れた位置で計測することが好ましい。そこで、本実施形態では、処理室22に設けられたカメラ23及び基準マーカー24を用いて所定位置座標の計測を行う。カメラ23及び基準マーカー24は、処理室22内において搬送室21から遠い側に設けられることが好ましい。取り付け部16に対するハンド14,15の取り付け誤差などを考慮する必要があるから、第1ハンド14と第2ハンド15の各々に関して所定位置座標を求める。単一の処理室22にカメラ23及び基準マーカ24を設け、第1ハンド14及び第2ハンド15の所定位置座標を順次求めるようにしてもよいし、あるいは、搬送室21を挟んで例えば対向する位置にある2つの処理室22の各々にカメラ23及び基準マーカ24を設け、そのうちの一方の処理室22において第1ハンド14に関する所定位置座標を求め、他方の処理室において第2ハンド15に関する所定位置座標を求めるようにしてもよい。
【0031】
ハンド14に関する所定位置座標の計測では、ワーク31として測定用の治具をハンド14の正しい位置に載置し、測定用の治具を載せたまま、教示データに基づいてハンド14を処理室22に移動させ、測定用の治具が写り込むようにしてカメラ24により撮影する。同様にハンド15に関する所定位置座標の計測では、ワーク31として測定用の治具をハンド15の正しい位置に載置し、ハンド15を処理室22に移動させ、治具が移りこむようにして撮影を行なう。本実施形態においては、測定用の治具としては例えば四角形状のものを使用し、カメラ24によって撮影された画像から治具のエッジを抽出し、基準マーカー24の像と治具のエッジの像との位置関係から治具のエッジの座標を求め、これをロボットの所定位置座標とする。このとき、四角形である測定用の治具の頂点の位置の座標を求めてもよいし、頂点の座標に加え、ロボットの姿勢を示すものとして、頂点につながる2つの辺の向きを取得してもよい。基準マーカー24は処理室22に固定されているので、ここで求められる治具のエッジの座標すなわち所定位置座標は、外部座標系でのロボットの位置を示すものとなる。所定位置座標の計測において教示データに基づいてロボットを移動させるのは、バックラッシの影響を排除するためである。
【0032】
本実施形態の位置情報復元方法では、ロボット交換の前後での原点オフセットの変化量を原点ずれ量とし、ロボット交換の前後での所定位置座標の変化量を座標ずれ量とする。特許文献1,3に記載された方法は、結局は、原点ずれ量と座標ずれ量との和に相当するものを計測して教示データの修正に用いる方法であり、特許文献2に記載された方法は、原点ずれ量の計測に関するものである。これに対して本実施形態では、ロボット交換後に教示データを再使用する際には、原点ずれ量と座標ずれ量の両方を用いて教示データの修正を行なうものの、ハンドごとに、原点ずれ量と座標ずれ量とを別々に管理する。記憶部44において、ロボット交換前後の原点オフセットとそれから算出されるハンドごとの原点ずれ量は原点オフセット格納部52に記憶され、ロボット交換前後の所定位置座標とそれから算出されるハンドごとの座標ずれ量は所定位置座標記憶部53に記憶される。
【0033】
本実施形態において原点ずれ量と座標ずれ量とを別々に管理するのは、両者を1つのものとして管理した場合には、これらのずれ量に異常があったとしてもその異常を発見することが難しくなり、検出したずれ量の妥当性の検証も難しくなり、また、どちらのずれ量に異常が生じたかを判別することが難しくなって、結局、ロボットの再稼動のために大きな労力を要することがあるからである。原点ずれ量は、外部環境とは無関係なロボット自体の内部座標に関するずれ量であり、ロボットを構成する構造体の相互間の関係がロボット交換によってどのように変化したかを示すものである。これに対し、座標ずれ量は、交換前後でのアーム12,13やハンド14,15の長さの差などが影響する可能性はあるが、大型の搬送用水平多関節ロボットの場合、基本的には、ロボットの設置位置や向きの違いによるずれを示すものである。したがって原点ずれ量と座標ずれ量を別々に管理することに不都合は生じない。さらに、原点ずれ量及び座標ずれ量を取得する途中の過程で、例えば電圧異常などによりデータの欠落が発生したとしても、原点ずれ量の算出までが終わっているのであれば、再度最初からやり直す必要はなく、既に算出した原点ずれ量をそのまま利用して、座標ずれ量の算出から再開することができる。
【0034】
ここで座標ずれ量について検討する。座標ずれ量には、基本的には、ロボットが設置される平面におけるロボットの設置位置のずれと、ロボットの向きのずれとによって生ずる成分がある。本実施形態の目標は、ロボット交換後に再教示を行なうことなく教示データを再利用することであり、教示データを再利用したときに各処理室22におけるハンド14,15の位置の誤差を所定値以内とすることである。第1ハンド14に注目すると、ロボットの設置位置における例えば1mmのずれは、第1ハンド14の位置における1mmのずれになるのに過ぎないが、ロボットのアーム12,13及び第1ハンド14の長さの和が3mにもなるような大型の搬送ロボットを考えると、ロボットの向きでの0.1°のずれは、伸ばした第1ハンド14の位置での約5mmのずれに相当する。設置位置の誤差(ロボットの中心位置のずれ)を1mm以下とすることは容易であるが、向きの誤差を0.1°以下とすることは難しい。したがって、座標ずれ量はロボット交換後のロボットの向きのずれを補正するものであると考えることができ、そうであれば、1個の基準マーカー24を用いて簡潔な演算により座標ずれ量を求めることができることになる。そして正確に求めた原点ずれ量と、1個の基準マーカー24を用いて算出した座標ずれ量とを用いて、ロボット交換より前に使用していた教示データを修正することにより、その教示データを再利用することができる。
【0035】
本実施形態では、いずれかの処理室22に設けられたカメラ23及び基準マーカー24を用いてハンドごとに座標ずれ量を決定しているが、カメラ23及び基準マーカー24を設ける処理室22は、教示データに基づいてロボットを移動させるときにそのハンドが実際に使用する処理室22であることが好ましい。また、ハンドごとに所定位置座標から座標ずれ量を求めたら原点ずれ量と座標ずれ量とを用いてそのハンドを使用する教示データを修正し、いったん原点位置に戻ってから再度、上記の所定位置に移動して所定位置座標を求め、前回求めた所定位置座標と今回求めた所定位置座標との差が許容値以内であればそのハンドに関する座標ずれ量を確定し、そうでなければ今回求めた所定位置座標によって座標ずれ量を更新することを繰り返すことにより、教示データを再利用するときの補正精度を高めることができる。
【0036】
図4は、本実施形態の位置情報復元方法による処理の一例を示している。図4において、ステップ101~103は、ロボット交換を行なう前の準備段階の処理を示しており、ステップ105~116は、ロボット交換後に行なう処理を示している。ロボット交換前に行なう処理ではまず、ステップ101において、ロボット交換を行なう前のハンドごとの原点オフセットを原点オフセット格納部52内に記憶する。ロボットを設置したときには、通常、そのロボットの原点合わせを行なってハンドごとの原点オフセットを求めているはずであるから、その値を利用すればよい。次にステップ102において、第1ハンド14にワーク31として測定用の治具を取り付け、第1ハンド14によって処理室22にアクセスするときの教示データである教示データAに基づいて上述した所定位置にロボットを移動させ、カメラ23及び基準マーカー24を用いて治具のエッジを検出して所定位置座標を求める。ここで求めた所定位置座標を第1ハンド14についての位置P1とし、所定位置座標格納部53内に記憶する。同様にステップ103において、第2ハンド15にワーク31として測定用の治具を取り付け、第2ハンド15によって処理室22にアクセスするときの教示データである教示データBに基づいて上述した所定位置にロボットを移動させ、カメラ23及び基準マーカー24を用いて治具のエッジを検出して所定位置座標を求める。ここで求めた所定位置座標を第2ハンド15についての位置P2とし、所定位置座標格納部53内に記憶する。
【0037】
ステップ103の実行後、ステップ104において、ロボット交換、すなわちロボットにおけるモータやアーム、ハンドなどの機器の交換、ロボット自体の再組み立てや移設を行なう。
【0038】
ロボット交換の終了後、ステップ105において、ロボットを第1ハンド14に対応する第1原点位置と第2ハンド15に対応する第2原点位置とに機械的に移動させ、それぞれの場合についてロボット交換後の原点オフセットを求めて原点オフセット格納部52内に記憶する。ステップ106において、原点オフセット格納部52内に記憶されているハンドごとのロボット交換前後での原点オフセットの差を原点ずれ量D1,D2として求めて原点オフセット格納部52内に記憶する。第1ハンド14に関する原点オフセットの差が原点ずれ量D1であり、第2ハンド15に関する原点オフセットの差が原点ずれ量D2である。続いてステップ107において、ステップ102で用いたものと同じ測定用の治具を第1ハンド14に搭載し、原点ずれ量D1を考慮して、すなわち原点ずれ量D1に基づいて修正した教示データAを用いてロボットを所定位置に移動させる。そして、上述と同様にして所定位置座標を求め、このときの所定位置座標を位置Q1として所定位置座標格納部53内に記憶する。次にステップ108において、位置P1と位置Q1との差から第1ハンド14に関する座標ずれ量E1を求めて所定位置座標格納部53内に記憶する。
【0039】
次に、ステップ109においてロボットコントローラ40に対するコマンド入力によってロボットを第1原点位置に移動させ、その後、第1ハンド14に関する原点ずれ量D1及び座標ずれ量E1とに基づいて修正した教示データAを用いてロボットを第1原点位置から所定位置に移動させ、上述と同様にして所定位置座標を求め、このときの所定位置座標を位置R1として所定位置座標格納部53内に記憶する。そしてステップ110において、ロボット交換前に求めた位置P1と今回求めた位置R1との差が許容値を超えるか否かを判定する。許容値を超えるときは、第1ハンド14に関する座標ずれ量E1が精度よく求められていないときであるから、ステップ111において、位置P1と位置R1との差に基づいて座標ずれ量E1を再計算し、所定位置座標格納部53内に記憶する。座標ずれ量E1の再計算では、再計算前の座標ずれ量E1では位置P1と位置R1との間に許容値を超えるずれが生じていたのであるから、このずれを解消するように座標ずれ量E1を修正する値を求める演算を行なう。ステップ111の実行後は、ステップ109に戻り、位置P1と位置R1との差が許容値以内となるまでステップ109からステップ111の処理を繰り返す。ステップ110において位置P1と位置R1との差が許容値以内であれば、第1ハンド14についての座標ずれ量E1が確定したことになり、ステップ112に移行する。
【0040】
第1ハンド14についての座標ずれ量E1が確定したら、続いて、同様の手順により第2ハンド15についての座標ずれ量E2を決定する。ステップ112では、ステップ103で用いたものと同じ測定用の治具を第2ハンド15に搭載し、原点ずれ量D2に基づいて修正した教示データBを用いてロボットを所定位置に移動させ、所定位置座標を求め、このときの所定位置座標を位置Q2として所定位置座標格納部53内に記憶する。ステップ113において、位置P2と位置Q2との差から第2ハンド15に関する座標ずれ量E2を求めて所定位置座標格納部53内に記憶する。次にステップ114において、コマンド入力によってロボットを第2原点位置に移動させ、その後、第2ハンド15に関する原点ずれ量D2及び座標ずれ量E2とに基づいて修正した教示データBを用いてロボットを第2原点位置から所定位置に移動させて所定位置座標を求め、このときの所定位置座標を位置R2として所定位置座標格納部53内に記憶する。そしてステップ115において、ロボット交換前に求めた位置P2と今回求めた位置R2との差が許容値を超えるか否かを判定する。許容値を超えるときは、ステップ116において、位置P2と位置R2との差に基づいて、この差を解消するように座標ずれ量E2を修正する値を求める演算を行なう。ステップ116の実行後は、ステップ114に戻り、位置P2と位置R2との差が許容値以内となるまでステップ114からステップ116の処理を繰り返す。ステップ115において位置P2と位置R2との差が許容値以内であれば、第2ハンド15についての座標ずれ量E2も確定したことになり、位置情報復元の処理を終了する。
【0041】
上述のようにハンドごとに原点ずれ量及び座標ずれ量が決定し、原点オフセット格納部52及び所定位置座標格納部53にそれぞれ記憶された後は、ロボット交換前に使用していた教示データに対して原点ずれ量及び座標ずれ量に基づく修正を施すことにより、ロボット交換後もその教示データを利用し続けることができることになる。教示データの修正では、その教示データが第1ハンド14及び第2ハンド15のどちらを使用として処理室22にアクセスするものかに応じ、使用するハンドに対応する原点ずれ量及び座標ずれ量を用いてその教示データを修正する。したがって、どちらのハンドを使用しているのかを判別する必要がある。以下、使用しているハンドの検知方法について説明する。
【0042】
本実施形態において示すような搬送用のロボットは、処理室22に対してワーク31を出し入れするために用いられるが、ハンド14,15やそれに保持されたワーク31が搬送室21の壁面と衝突することを避けるために、ハンド14,15の軸Sの周りでの回転は、軸Sが搬送室21の中央部にあるときに、言い換えればロボットが原点位置かその近傍にあるときに行なわれる。軸Sの周りの回転によりハンド14,15の方向が定まれば、その後は、搬送室21の座標系に対してハンド14,15が平行移動するようにロボットは移動し、特に処理室22に対してワーク31を出し入れするときは、ハンド14,15は、その処理室22の正面方向から処理室22に対して直線的に移動する。そこで、本実施形態では、ロボットにおいて、基台11に固定された直交座標系であるXY座標系とは別に、ハンド14,15の延びる方向をY’軸とする変換座標系(X’Y’座標系)を定義する。図5は変換座標系を説明する図であって、変換座標系と基台11に固定された直交座標系(XY座標系)との関係を示している。図では基台11は示されず、また、アーム12,13及びハンド14,15を太線で示している。図における点Cは、取り付け部16が軸Sに接続する位置であって、ハンド14,15が回転するときの回転中心となり、かつ、ロボットのアーム12,13を移動させるときの制御対象となる点となる点である。XY座標系の原点Oは、基台11と第1アーム12との関節軸である軸A(図1参照)の位置にある。基台11は搬送室21に固定されているから、ロボットの据え付け位置の誤差などの寄与を除けば、XY座標系も搬送室21に固定されているといえる。一方、変換座標系は、その原点がXY座標系の原点Oと一致し、Y’軸の方向がハンド14,15の一方の延びる方向と一致する直交座標系である。第1ハンド14の延びる方向をY’軸方向とするか、第2ハンド15の延びる方向をY’方向とするかによって、変換座標系には2通りの定め方がある。図5(a)は第1ハンド14の延びる方向をY’軸方向とした場合を示し、図5(b)は第2ハンド15の延びる方向をY’軸方向とした場合を示している。
【0043】
本実施形態では、原点位置かその近傍にあるロボットにおいてハンド14,15を軸Sの周りで回転させたのちは、搬送室21の座標系に対してハンド14,15は平行移動するのみである。そこで教示データでは、原点位置から処理室22に向かう移動、処理室22から原点位置に戻る移動は、点Cを制御対象の点としてこの点に対する移動指令を変換座標系(X’Y’座標系)で表わすものとする。変換座標系を用いることにより、ハンド14,15を処理室22内に移動させあるいは処理室22から外に出すときの動きは、点Cの座標のY’座標値に対する加算または減算で表わされる。図5(a)に示すように第1ハンド14の延びる方向をY’軸方向として定めたときは、いずれかの処理室22への第1ハンド14の移動方向は、Y’軸正方向となり、第1ハンド14が原点位置からその処理室22に移動する間と、その処理室22から原点位置に戻る間は、点Cの座標のY’座標値は正である。また、図5(a)の場合、いずれかの処理室22への第2ハンド15の移動方向は、Y’軸負方向となり、第2ハンド15が原点位置からいずれかの処理室22に移動する間と、処理室22から原点位置に戻る間は、点Cの座標のY’座標値は負である。同様に、図5(b)に示すように第2ハンド15の延びる方向をY’軸方向として定めたときは、第1ハンド14によりいずれかの処理室22にアクセスする動きでは点Cの座標のY’座標値は負であり、第2ハンド15によりいずれかの処理室22にアクセスする動きでは点Cの座標のY’座標値は正となる。そこで、教示データにおいて制御対象となる点Cの座標のY’座標値が正であるか負であるかを判別することにより、ロボットにセンサなどを設けることなく、ハンド14,15のうちのどちらのハンドで処理室22にアクセスしようとしているかを判断することができる。
【0044】
[実施形態の効果]
以上説明した実施形態によれば、複数のハンドを備えるロボットにおいて、ハンドごとに、原点オフセットに基づく原点ずれ量と所定位置座標に基づく座標ずれ量とを別個に算出して記憶し、管理することにより、各ずれ量における異常値の検出を確実に行なえるようになるとともに、ハンドごとの原点ずれ量と座標ずれ量とを用いて教示データを修正することによって、再教示を行なうことなく、また、ハンドごとのキャリブレーション結果が他のハンドに影響を及ぼすことなく、ロボット交換前に使用していた教示データをロボット交換後にも使用できるようになる。また、図2に示すロボットコントローラ40は、原点オフセットと所定位置座標とを別個に管理できるようにしたものであるが、ハードウェア構成としては一般的なロボットコントローラと異なることはないので、本実施形態の位置情報復元方法は、一般的なロボットコントローラを用いて実現することができる。
【0045】
[他の実施形態]
以上説明した位置情報復元方法では、処理室22に設けられた1つの基準マーカー24を用いて所定位置座標を求めているが、処理室22に設けられた2つの基準マーカー24を用いることにより、設置位置のずれと向きのずれとを分離して取得することができるようになり、座標ずれ量を短時間で精度よく求めることができるようになる。図6は処理室22に2つの基準マーカー24を設けるとして、2つの基準マーカー24のそれぞれに対応してカメラ23を配置した例を示している。2つの基準マーカー24を用いて所定位置座標を求める場合には、設置位置のずれと向きのずれとを分離して得られるので、原点ずれ量については原点センサによる粗調整だけを行なって取得した値を用いても、教示データを再利用したときに十分な精度でロボットを移動させることができる。十分な広い視野を有するカメラ23を使用できるのであれば、単一のカメラ23を用いて測定用の治具が写り込むように2つの基準マーカー24を撮影することができ、その撮影画像から、設置位置のずれと向きのずれとを分離して取得することができる。四角形の測定用の治具を用いるのであれば、2つの基準マーカー24を用いるときは、治具の1つの対角線の両側の頂点の各々に対応して基準マーカー24を配置すればよい。このようにすることにより、治具のエッジを検出する2つの位置の間を距離を長くすることができるので、向きのずれを精度よく検出できるようになる。
【0046】
図1に示すロボットは、基台11に対してアーム12,13とハンド14とがこの順で連結した水平多関節ロボットであるが、本発明の位置情報復元方法が適用可能なロボットはこれに限られるものではない。例えば、基台と、基台に接続する基台側リンクと、基台側リンクの先端に接続するアーム側リンクと、アーム側リンクの先端に接続するアームと、アームの先端に接続するハンドと、基台に設けられて基台側リンクを昇降する機構と、を備え、リンク機構によってアーム側リンクの先端の動きが規制された水平多関節ロボットに対しても本発明は適用可能である。さらには、垂直多関節ロボットなどにも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
11…基台;12,13…アーム;14,15…ハンド;16…取り付け部;18…モータ;19…エンコーダ;21…搬送室;22…処理室;23…カメラ;24…基準マーカー;31…ワーク;40…ロボットコントローラ;41…バス;42…サーボ回路;43…CPU;44…記憶部;51…教示データ格納部;52…原点オフセット格納部;53…所定位置座標格納部;60…ティーチングペンダント。
図1
図2
図3
図4
図5
図6