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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】空隙判定方法及び空隙判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20220701BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20220701BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20220701BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20220701BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
G01N29/11
G01N29/48
E01D19/12
E01D22/00 A
G01N29/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018072581
(22)【出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2019184313
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松下 裕明
(72)【発明者】
【氏名】畑中 章秀
(72)【発明者】
【氏名】服部 洋
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-083258(JP,A)
【文献】特開2010-266378(JP,A)
【文献】特開2003-043021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0143912(US,A1)
【文献】竹内正一、外4名,現場条件を考慮したUリブ内部のモルタル充填方法および充填確認方法の開発,土木学会第71回年次学術講演会,2016年09月,第71回 I-521,第1041頁-第1042頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
E01D 1/00 - E01D 24/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定方法であって、
前記内側部材に弾性波を入力する入力工程と、
前記内側部材を伝播する弾性波を受信する受信工程と、
前記受信工程によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出工程と、
前記算出工程によって算出された前記評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、
前記算出工程では、所定の第1振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第1評価パラメータと、前記第1振動方向とは異なる第2振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第2評価パラメータとを算出し、
前記判定工程では、位置又は大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記第1評価パラメータ及び前記第2評価パラメータである参照用第1評価パラメータ及び参照用第2評価パラメータを参照することによって、前記算出工程で算出された前記第1評価パラメータ及び前記第2評価パラメータから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定することを特徴とする空隙判定方法。
【請求項2】
請求項に記載の空隙判定方法において、
前記第1振動方向は、前記入力工程において入力した弾性波の振動方向に対応していることを特徴とする空隙判定方法。
【請求項3】
内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定方法であって、
前記内側部材に弾性波を入力する入力工程と、
前記内側部材を伝播する弾性波を受信する受信工程と、
前記受信工程によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出工程と、
前記算出工程によって算出された前記評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、
前記構造体は、前記外側部材を貫通して、一端部が前記外側部材の外側に露出し、他端部が前記内側部材に突き刺さった第1貫通部材及び第2貫通部材をさらに有し、
前記入力工程では、前記第1貫通部材を介して前記外側部材の外側から前記内側部材に弾性波を入力し、
前記受信工程では、前記内側部材を伝播する弾性波を、前記第2貫通部材を介して前記外側部材の外側から受信し、
前記算出工程では、所定の第1振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第1評価パラメータを算出し、
前記判定工程では、位置又は大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記第1評価パラメータである参照用第1評価パラメータを参照することによって、前記算出工程で算出された前記第1評価パラメータから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定することを特徴とする空隙判定方法。
【請求項4】
請求項に記載の空隙判定方法において、
前記外側部材は、少なくとも第1部材と第2部材とを含む分割構造となっており、
前記構造体は、前記第1部材と前記第2部材とを連結する連結部材をさらに有し、
前記第1貫通部材及び前記第2貫通部材は、前記連結部材を前記第2部材に締結する部材であることを特徴とする空隙判定方法。
【請求項5】
内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定方法であって、
前記構造体に弾性波を入力する入力工程と、
前記構造体を伝播する弾性波を受信する受信工程と、
前記受信工程によって受信された弾性波に基づいて前記構造体の振動の固有モードを算出する算出工程と、
前記算出工程によって算出された前記固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、
前記構造体は、前記外側部材を貫通して、一端部が前記外側部材の外側に露出し、他端部が前記内側部材に突き刺さった貫通部材をさらに有し、
前記入力工程では、前記貫通部材を介して前記外側部材の外側から前記内側部材に弾性波を入力し、
前記判定工程では、位置又は大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記固有モードである参照用固有モードを参照することによって、前記算出工程で算出された前記固有モードから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定することを特徴とする空隙判定方法。
【請求項6】
請求項に記載の空隙判定方法において、
前記受信工程では、前記構造体の複数の箇所において弾性波を受信し、
前記算出工程では、前記受信工程によって複数の箇所で受信された弾性波に基づいて前記固有モードを算出することを特徴とする空隙判定方法。
【請求項7】
請求項に記載の空隙判定方法において、
前記外側部材は、少なくとも第1部材と第2部材とを含む分割構造となっており、
前記構造体は、前記第1部材と前記第2部材とを連結する連結部材をさらに有し、
前記貫通部材は、前記連結部材を前記第2部材に締結する部材であることを特徴とする空隙判定方法。
【請求項8】
請求項1乃至の何れか1つに記載の空隙判定方法において、
前記構造体は、デッキプレートと、前記デッキプレートの下面に接合され、前記デッキプレートと共に閉断面を形成する中空状のリブと、前記デッキプレート及び前記リブで区画される空間に充填されたモルタル又はコンクリートとを有する、橋梁の床版であって、
前記外側部材は、前記デッキプレート及び前記リブであり、
前記内側部材は、前記モルタル又は前記コンクリートであることを特徴とする空隙判定方法。
【請求項9】
内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定システムであって、
前記内側部材に弾性波を入力する入力部と、
前記内側部材を伝播する弾性波を受信する受信部と、
前記受信部によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出部と、
前記算出部によって算出された前記評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部とを備え、
前記算出部は、所定の第1振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第1評価パラメータと、前記第1振動方向とは異なる第2振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第2評価パラメータとを算出し、
前記判定部は、位置又は大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記第1評価パラメータ及び前記第2評価パラメータである参照用第1評価パラメータ及び参照用第2評価パラメータを参照することによって、前記算出部によって算出された前記第1評価パラメータ及び前記第2評価パラメータから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定することを特徴とする空隙判定システム。
【請求項10】
内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定システムであって、
前記内側部材に弾性波を入力する入力部と、
前記内側部材を伝播する弾性波を受信する受信部と、
前記受信部によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出部と、
前記算出部によって算出された前記評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部とを備え、
前記構造体は、前記外側部材を貫通して、一端部が前記外側部材の外側に露出し、他端部が前記内側部材に突き刺さった第1貫通部材及び第2貫通部材をさらに有し、
前記入力部は、前記第1貫通部材を介して前記外側部材の外側から前記内側部材に弾性波を入力し、
前記受信部は、前記内側部材を伝播する弾性波を、前記第2貫通部材を介して前記外側部材の外側から受信し、
前記算出部は、所定の第1振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第1評価パラメータを算出し、
前記判定部は、位置又は大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記第1評価パラメータである参照用第1評価パラメータを参照することによって、前記算出部によって算出された前記第1評価パラメータから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定することを特徴とする空隙判定システム。
【請求項11】
内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定システムであって、
前記構造体に弾性波を入力する入力部と、
前記構造体を伝播する弾性波を受信する受信部と、
前記受信部によって受信された弾性波に基づいて前記構造体の振動の固有モードを算出する算出部と、
前記算出部によって算出された前記固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部とを備え、
前記構造体は、前記外側部材を貫通して、一端部が前記外側部材の外側に露出し、他端部が前記内側部材に突き刺さった貫通部材をさらに有し、
前記入力部は、前記貫通部材を介して前記外側部材の外側から前記内側部材に弾性波を入力し、
前記判定部は、位置又は大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記固有モードである参照用固有モードを参照することによって、前記算出部によって算出された前記固有モードから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定することを特徴とする空隙判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、空隙判定方法及び空隙判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、2つの部材の界面に形成された空隙を判定する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1部材と第2部材との界面に形成された空隙を超音波探触子を用いて検出する方法が開示されている。この方法では、第1部材のうち界面と反対側の面に超音波探触子を設置し、該反対側の面から第1部材の厚み方向に超音波を送信し、界面からの反射波を受信している。そして、受信した反射波の強度に基づいて界面の空隙の有無が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-88304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の方法では、界面からの反射波を適切に受信する必要があり、そのためには、第1部材のうち界面と反対側の面に超音波探触子を設置し、第1部材の厚み方向に超音波を送信しなければならない。該反対側の面の上に他の部材が存在する場合には、前述の方法を実施することが困難となるか、あるいは、該反対側の面を露出させる等の前処理が必要となる。つまり、前述の方法を実施するためには制約が大きい。
【0006】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、制約の少ない方法で界面の空隙を判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示された空隙判定方法は、内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定方法であって、前記内側部材に弾性波を入力する入力工程と、前記内側部材を伝播する弾性波を受信する受信工程と、前記受信工程によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出工程と、前記算出工程によって算出された前記評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、前記算出工程では、所定の第1振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第1評価パラメータを算出し、前記判定工程では、位置及び大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記第1評価パラメータである参照用第1評価パラメータを参照することによって、前記算出工程で算出された前記第1評価パラメータから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0008】
ここに開示された別の空隙判定方法は、内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定方法であって、前記構造体に弾性波を入力する入力工程と、前記構造体を伝播する弾性波を受信する受信工程と、前記受信工程によって受信された弾性波に基づいて前記構造体の振動の固有モードを算出する算出工程と、前記算出工程によって算出された前記固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、前記判定工程では、位置及び大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記固有モードである参照用固有モードを参照することによって、前記算出工程で算出された前記固有モードから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0009】
また、ここに開示された空隙判定システムは、内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定システムであって、前記内側部材に弾性波を入力する入力部と、前記内側部材を伝播する弾性波を受信する受信部と、前記受信部によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出部と、前記算出部によって算出された前記評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部とを備え、前記算出部は、所定の第1振動方向に振動する弾性波の前記評価パラメータである第1評価パラメータを算出し、前記判定部は、位置及び大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記第1評価パラメータである参照用第1評価パラメータを参照することによって、前記算出部によって算出された前記第1評価パラメータから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0010】
ここに開示された別の空隙判定システムは、内側部材と前記内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体における前記界面に形成された空隙を判定する空隙判定システムであって、前記構造体に弾性波を入力する入力部と、前記構造体を伝播する弾性波を受信する受信部と、前記受信部によって受信された弾性波に基づいて前記構造体の振動の固有モードを算出する算出部と、前記算出部によって算出された前記固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部とを備え、前記判定部は、位置及び大きさが異なる空隙を有する複数のサンプルから予め取得された前記固有モードである参照用固有モードを参照することによって、前記算出部によって算出された前記固有モードから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【発明の効果】
【0011】
前記空隙判定方法によれば、少ない制約で界面の空隙を判定することができる。
【0012】
前記空隙判定システムによれば、少ない制約で界面の空隙を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、橋梁の上部工の斜視図である。
図2図2は、中空リブを中心とする拡大断面図である。
図3図3は、実施形態1に係る空隙判定システムのブロック図である。
図4図4は、演算装置の機能ブロック図である。
図5図5は、第1サンプルの断面図である。
図6図6は、第2サンプルの断面図である。
図7図7は、第3サンプルの断面図である。
図8図8は、第4サンプルの断面図である。
図9図9は、第5サンプルの断面図である。
図10図10(A)は、第1サンプルにおける第1振動センサの受信波形である。図10(B)は、第1サンプルにおける第2振動センサの受信波形である。
図11図11(A)は、第2サンプルにおける第1振動センサの受信波形である。図11(B)は、第2サンプルにおける第2振動センサの受信波形である。
図12図12(A)は、第3サンプルにおける第1振動センサの受信波形である。図12(B)は、第3サンプルにおける第2振動センサの受信波形である。
図13図13(A)は、第4サンプルにおける第1振動センサの受信波形である。図13(B)は、第4サンプルにおける第2振動センサの受信波形である。
図14図14(A)は、第5サンプルにおける第1振動センサの受信波形である。図14(B)は、第5サンプルにおける第2振動センサの受信波形である。
図15図15は、それぞれの受信波形から算出された評価パラメータIをプロットしたグラフである。
図16図16は、判定マップである。
図17図17は、評価パラメータを用いた空隙判定方法のフローチャートである。
図18図18は、空隙判定システムのブロック図である。
図19図19は、振動センサを設置した状態の中空リブを中心とする拡大断面図である。
図20図20は、演算装置の機能ブロック図である。
図21図21(A)は、第1サンプルにおける第3振動センサの受信波形である。図21(B)は、第1サンプルにおける第4振動センサの受信波形である。
図22図22(A)は、第2サンプルにおける第3振動センサの受信波形である。図22(B)は、第2サンプルにおける第4振動センサの受信波形である。
図23図23(A)は、第3サンプルにおける第3振動センサの受信波形である。図23(B)は、第3サンプルにおける第4振動センサの受信波形である。
図24図24(A)は、第4サンプルにおける第3振動センサの受信波形である。図24(B)は、第4サンプルにおける第4振動センサの受信波形である。
図25図25(A)は、第5サンプルにおける第3振動センサの受信波形である。図25(B)は、第5サンプルにおける第4振動センサの受信波形である。
図26図26は、第1サンプルの固有モードであって、(A)図は1次モードであり、(B)図は2次モードであり、(C)図は3次モードであり、(D)図は4次モードであり、(E)図は5次モードであり、(F)図は6次モードである。
図27図27は、第2サンプルの固有モードであって、(A)図は1次モードであり、(B)図は2次モードであり、(C)図は3次モードであり、(D)図は4次モードであり、(E)図は5次モードであり、(F)図は6次モードである。
図28図28は、第3サンプルの固有モードであって、(A)図は1次モードであり、(B)図は2次モードであり、(C)図は3次モードであり、(D)図は4次モードであり、(E)図は5次モードであり、(F)図は6次モードである。
図29図29は、第4サンプルの固有モードであって、(A)図は1次モードであり、(B)図は2次モードであり、(C)図は3次モードであり、(D)図は4次モードであり、(E)図は5次モードであり、(F)図は6次モードである。
図30図30は、第5サンプルの固有モードであって、(A)図は1次モードであり、(B)図は2次モードであり、(C)図は3次モードであり、(D)図は4次モードであり、(E)図は5次モードであり、(F)図は6次モードである。
図31図31は、ニューラルネットワークのモデルである。
図32図32は、固有モードを用いた空隙判定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
《実施形態1》
実施形態1に係る空隙判定システム100は、例えば、モルタル又はコンクリートの充填状態を判定するために用いられる。ここでは、橋梁の床版に充填されたモルタルの充填状態を判定する場合を例に、空隙判定システム100及びその空隙判定方法を説明する。
【0016】
図1は、橋梁の上部工10の斜視図である。上部工10は、橋軸方向に延びる複数の床版11と、橋軸方向に延びる複数の主桁12と、橋軸方向と直交する方向、即ち、床版11の幅方向に延びる複数の横桁13とを有している。尚、図では、床版11、主桁12及び横桁13はそれぞれ、1つのみ図示している。複数の床版11は、橋軸方向に並び、互いに接合されている。複数の主桁12は、床版11の下面に設けられ、床版11の幅方向に間隔を開けて配列されている。複数の横桁13は、床版11の下面に設けられ、隣り合う各2つの主桁12の間において橋軸方向に間隔を開けて配列されている。主桁12及び横桁13は、床版11に接合されており、床版11を支持している。このように構成された上部工10は、橋脚(図示省略)によって支持される。
【0017】
床版11は、平板状のデッキプレート2と、橋軸方向に延びる複数の中空リブ3と、デッキプレート2と中空リブ3との接合強度を補強する補強板4と、中空リブ3内に充填されたモルタルMとを有している。床版11は構造体の一例である。デッキプレート2の上面には、舗装14が敷設されている。舗装14上を車輌が通行する。複数の中空リブ3は、デッキプレート2の下面に設けられ、床版11の幅方向に間隔を開けて配列されている。中空リブ3の配列間隔は、主桁1の配列間隔よりも小さい。すなわち、隣り合う各2つの主桁12の間に、複数の中空リブ3が配列されている。尚、床版11は、複数の中空リブ3に跨って床版11の幅方向に延びる複数の横リブをさらに有していてもよい。複数の横リブは、デッキプレート2の下面に設けられ、隣り合う各2つの横桁13の間において橋軸方向に間隔を開けて配列されていてもよい。
【0018】
主桁12、横桁13、中空リブ3は、鋼で形成され、デッキプレート2に溶接で接合されている。
【0019】
中空リブ3は、デッキプレート2と共に閉断面を形成する。図2は、中空リブ3を中心とする拡大断面図である。詳しくは、中空リブ3は、対向する一対の第1縦壁31A及び第2縦壁31Bと、底壁33とを有している。底壁33は、デッキプレート2と略平行に延びている。第1縦壁31A及び第2縦壁31Bは、底壁33の両方の端縁から上方へ延びている。第1縦壁31A及び第2縦壁31Bは、互いの間隔が上方へ向かって拡がるように、鉛直方向に対して傾斜している。第1縦壁31A及び第2縦壁31Bの上端は、デッキプレート2に溶接されている。こうして、中空リブ3及びデッキプレート2の間には、橋軸方向に延びる閉空間が形成される。中空リブ3内の空間は、仕切板(図示省略)によって橋軸方向に分割された複数の空間に区切られている。尚、第1縦壁31Aと第2縦壁31Bとを区別しない場合には、単に「縦壁31」と称する。デッキプレート2及び中空リブ3は、外側部材の一例である。つまり、外側部材は、デッキプレート2と中空リブ3との分割構造となっている。デッキプレート2は、第1部材の一例であり、中空リブ3は、第2部材の一例である。
【0020】
中空リブ3内の空間には、モルタルMが充填されている。底壁33には、中空リブ3内の空間にモルタルMを充填するための注入口及び排出口(図示省略)が形成されている。注入口及び排出口は、仕切板で区切られた中空リブ3内の各空間に1つずつ設けられている。中空リブ3がデッキプレート2に接合された後、注入口から中空リブ3内にモルタルMが注入されると共に、余分なモルタルMが排出口から排出される。こうして、中空リブ3内の空間にモルタルMが充填される。最終的に、注入口及び排出口は、塞がれる。モルタルMは、内側部材の一例である。
【0021】
補強板4は、橋軸方向に延びる鋼板で形成されている。1つの中空リブ3に対して2つの補強板4が設けられている。補強板4は、デッキプレート2及び中空リブ3の縦壁31に沿うように屈曲している。補強板4は、デッキプレート2及び縦壁31にボルト締結されている。つまり、中空リブ3は、溶接と補強板4によってデッキプレート2に連結されている。補強板4は、連結部材の一例である。
【0022】
詳しくは、デッキプレート2には、複数のネジ付きスタッド41が橋軸方向に等間隔で配列されている。補強板4は、図1に示すように、橋軸方向における複数個所においてネジ付きスタッド41及びナット42でデッキプレート2に取り付けられている。
【0023】
一方、補強板4は、縦壁31に対して中空リブ3の外側からワンサイドボルト43で取り付けられている。ワンサイドボルト43は、中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さっている。ワンサイドボルト43の他端部(以下、「先端部」という)は、中空リブ3内に突出している。補強板4の取付は、モルタルMの充填前に行われる。つまり、ワンサイドボルト43の先端部が中空リブ3内に突出した状態でモルタルMが充填されるので、ワンサイドボルト43の先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となる。補強板4は、図1に示すように、橋軸方向における等間隔の複数個所においてワンサイドボルト43で縦壁31に取り付けられている。
【0024】
以下、説明の便宜上、第1縦壁31Aに取り付けられたワンサイドボルト43を「第1ワンサイドボルト43A」と称し、第2縦壁31Bに取り付けられたワンサイドボルト43を「第2ワンサイドボルト43B」と称する。第1ワンサイドボルト43Aは、第1貫通部材の一例であり、第2ワンサイドボルト43Bは、第2貫通部材の一例である。
【0025】
尚、第1ワンサイドボルト43Aが位置する、橋軸方向に直交する断面上に第2ワンサイドボルト43Bも位置している。さらに、この断面上には、一方の補強板4のネジ付きスタッド41及びナット42、並びに、他方の補強板4のネジ付きスタッド41及びナット42も位置している。
【0026】
このように構成された上部工10においては、車輌の通行等によって床版11が撓み得る。上部工10は、デッキプレート2に中空リブ3を設けると共に、中空リブ3にモルタルMを充填することによって床版11の撓みを低減している。仮にモルタルMを充填せずに中空リブ3だけ設ける場合には、床版11の撓みをある程度は低減することができるが、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部に応力が集中して、亀裂が生じ得る。それに対し、中空リブ3内にモルタルMを充填することによって、デッキプレート2のうち第1縦壁31Aと第2縦壁31Bとの間の部分の撓みを低減することができる。これにより、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部への応力集中を緩和することができる。
【0027】
尚、床版11は、始めから前述の構成で製造されるとは限らない。例えば、デッキプレート2を有する既存の床版に、補強のために、中空リブ3、補強板4及びモルタルMが後から設置される場合もある。あるいは、デッキプレート2及び中空リブ3を有する既存の床版に、補強のために、補強板4及びモルタルMが後から設置される場合もある。
【0028】
しかしながら、デッキプレート2とモルタルMとの界面に空隙Gが存在すると、空隙Gの部分においてデッキプレート2の撓みが大きくなり、応力集中の緩和効果が低減してしまう。中空リブ3内にモルタルMが充填される際に空気が混入する場合があり、その場合、空気とモルタルMとの比重の差によって、空隙Gは主にデッキプレート2とモルタルMとの界面に生じ得る。
【0029】
そこで、空隙判定システム100は、この空隙Gの位置及び大きさを判定する。図3は、空隙判定システム100のブロック図である。空隙判定システム100は、デッキプレート2とモルタルMとの界面に形成された空隙Gを判定する。
【0030】
空隙判定システム100は、モルタルMに弾性波を入力する一方、モルタルMを伝播する弾性波を受信し、受信した弾性波に基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する。空隙判定システム100は、インパルスハンマ51と、振動センサ53と、増幅部54と、データロガー61と、演算装置62とを有している。
【0031】
インパルスハンマ51は、中空リブ3、厳密には、モルタルMに打撃を与える加振器である。インパルスハンマ51は、加振力を検出するセンサが内蔵されており、打撃時の加振力を検出して出力する。
【0032】
振動センサ53は、加速度ピックアップであり、対象物の加速度を検出する。2つの振動センサ53が、図2に示すように、第2ワンサイドボルト43Bの、中空リブ3の外側に露出している端部に取り付けられている。2つの振動センサ53を区別する場合には、一方を第1振動センサ53Aと称し、他方を第2振動センサ53Bと称する。第1振動センサ53Aは、第2ワンサイドボルト43Bの軸方向(以下、「第1振動方向」ともいう)の加速度を検出する。第2振動センサ53Bは、第2ワンサイドボルト43Bの軸方向及び橋軸方向の両方に直交する方向(以下、「第2振動方向」ともいう)の加速度を検出する。すなわち、振動センサ53は、モルタルMを伝播する弾性波を第2ワンサイドボルト43Bを介して受信する。
【0033】
振動センサ53の出力は、増幅部54に入力される。増幅部54は、振動センサ53の検出信号を増幅し、データロガー61に出力する。
【0034】
データロガー61は、インパルスハンマ51の出力と振動センサ53の出力とが入力される。例えば、データロガー61は、インパルスハンマ51の加振力に基づいてトリガを設定し、所定のサンプリング周波数で所定のサンプリング期間だけ振動センサ53からの出力を記録する。このとき、データロガー61は、プレトリガを設定してもよい。
【0035】
演算装置62は、演算部63と、メモリ64と、記憶装置65とを有している。
【0036】
演算部63は、プロセッサを有しており、プログラムを実行する等して、各種処理を行う。例えば、演算部63は、データロガー61のデータを解析して、空隙Gの位置及び大きさの判定を行う。メモリ64は、演算部63がプログラムを実行する際にデータを一時的に保存するために用いられる。記憶装置65は、各種プログラムやデータを保存している。
【0037】
続いて、演算装置62の機能ブロックについて説明する。図4は、演算装置62の機能ブロック図である。演算装置62は、評価パラメータを算出する算出部66と、算出された評価パラメータに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する判定部67とを有している。
【0038】
算出部66は、振動センサ53によって受信された弾性波の強さに関連するパラメータである評価パラメータIを算出する。評価パラメータIは、式(1)によって表される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、aは、加速度波形における各振幅[mm/s2]であり、nは、振幅の個数である。
【0041】
より詳しくは、算出部66は、データロガー61に記録された、第1振動センサ53Aによって受信された加速度信号に所定の周波数帯域以外の成分を除去するフィルタ処理を施すと共に、インパルスハンマ51の加振力に基づいて加速度信号を基準化する。
【0042】
モルタルMの物性値は既知であるので、モルタルMを伝播する弾性波のおおよその伝播速度は求めることができる。また、床版11、詳しくは、中空リブ3等の寸法は既知であるので、中空リブ3内で多重反射する弾性波の周波数帯域もおおよそ求めることができる。フィルタ処理では、こうして求められた周波数帯域が用いられる。つまり、フィルタ処理は、モルタルM内での多重反射に関連する弾性波の成分を抽出する処理である。また、インパルスハンマ51による打撃は人手によって行われるため、インパルスハンマ51の加振力にはバラツキが生じ得る。前述の基準化を行うことによって、インパルスハンマ51の加振力のバラツキに起因する加速度信号の振幅のバラツキを解消することができる。
【0043】
算出部66は、処理後の信号の評価パラメータIを式(1)を用いて算出する。算出部66は、データロガー61に記録された、第2振動センサ53Bによって受信された加速度信号についても同様の演算を行って評価パラメータIを求める。2つの評価パラメータIを区別する場合には、第1振動方向の加速度信号、即ち、第1振動センサ53Aの加速度信号から求めた評価パラメータIを第1評価パラメータIaと称し、第2振動方向の加速度信号、即ち、第2振動センサ53Bの加速度信号から求めた評価パラメータIを第2評価パラメータIbと称する。
【0044】
判定部67は、評価パラメータIに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する。判定部67は、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された評価パラメータIである参照用評価パラメータを参照することによって、算出部66によって算出された評価パラメータIから空隙Gの位置及び大きさを判定する。
【0045】
詳しくは、位置及び大きさが既知の空隙Gを有するサンプルSから評価パラメータIが予め取得される。サンプルSは、実際のデッキプレート2、中空リブ3、補強板4、ワンサイドボルト43及びモルタルM等と同じ構成をしており、モルタルMとデッキプレート2との界面に空隙Gが形成されている。空隙Gの位置及び大きさが異なる複数のサンプルSが作成されている。
【0046】
図5~9は、第1~第5サンプルS1~S5の断面図である。第1~第5サンプルS1~S5は、空隙Gの位置及び大きさが異なる。ここでは、中空リブ3の幅方向における空隙Gの位置が異なる。以下では、特段の断りがない限り、「端部」は、中空リブ3の幅方向における端部を意味し、「中央」は、中空リブ3の幅方向における中央を意味する。また、「空隙Gの大きさ」は、空隙Gの大きさがゼロ、即ち、空隙Gが無い場合も含む概念である。
【0047】
詳しくは、第1サンプルS1には、図5に示すように、空隙Gが形成されていない。すなわち、第1サンプルS1では、中空リブ3内にモルタルMが完全に充填されており、デッキプレート2とモルタルMとの界面の全域に亘ってデッキプレート2とモルタルMとが密着している。第2サンプルS2は、図6に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第1縦壁31A寄りの端部に形成された空隙Gを有している。第3サンプルS3は、図7に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第2縦壁31B寄りの端部に形成された空隙Gを有している。第4サンプルS4は、図8に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち中央に形成された空隙Gを有している。第5サンプルS5は、図9に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち中央に形成された比較的大きな空隙Gを有している。
【0048】
第2サンプルS2、第3サンプルS3及び第4サンプルS4の空隙Gの寸法(幅、高さ、長さ。以下、同様)は、同じである。第5サンプルS5の空隙Gの幅は、第2サンプルS2、第3サンプルS3及び第4サンプルS4の空隙Gの幅に比べて大きい。尚、第5サンプルS5の空隙Gの高さ及び長さは、第2サンプルS2、第3サンプルS3及び第4サンプルS4の空隙Gの高さ及び長さと同じである。
【0049】
図10図14は、第1~第5サンプルS1~S5に衝撃弾性波を入力した際の受信波形である。各図において、(A)図は、第1振動センサ53Aによる受信波形であり、(B)図は、第2振動センサ53Bによる受信波形である。受信波形は、前述の基準化がなされた波形である。グラフの横軸が時間で、縦軸が加速度である。
【0050】
各図からわかるように、モルタルMに入力された弾性波は、中空リブ3内で多重反射する。これらの受信波形は、空隙Gの位置及び大きさに応じて変化する。詳しくは、2つの部材の界面における弾性波の反射率は、2つの部材の音響インピーダンスの差に依存する。空隙Gが形成されていない部分の界面は、モルタルMとデッキプレート2とで形成される。この界面での反射率は、モルタルMの音響インピーダンスとデッキプレート2の音響インピーダンスとの差に依存する。一方、空隙Gが形成されている部分の界面は、モルタルMと空気とで形成される。この界面での反射率は、モルタルMの音響インピーダンスと空気の音響インピーダンスとの差に依存する。モルタルMの音響インピーダンスと空気の音響インピーダンスとの差は、モルタルMの音響インピーダンスとデッキプレート2の音響インピーダンスとの差に比べて大きいので、モルタルMと空気との界面での反射率はより大きくなる。このように、空隙Gの有無によってモルタルM内を伝播する弾性波の反射状況が変化する。
【0051】
また、モルタルMのうち空隙Gが形成されている部分は、空隙Gが無い部分に比べて拘束が小さく、境界条件が異なる。このことも、空隙Gの有無に応じてモルタルM内を伝播する弾性波の状況を変化させる要因となり得る。
【0052】
これらの結果、受信波形が空隙Gの位置及び大きさに応じて変化すると考えられる。
【0053】
しかしながら、受信波形の差異は判別しづらく、受信波形そのものに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判別することは困難である。
【0054】
それに対し、図15は、それぞれの受信波形から算出された評価パラメータIをプロットしたグラフである。前述の如く、第1振動センサ53Aの受信波形から第1評価パラメータIaが算出され、第2振動センサ53Bの受信波形から第2評価パラメータIbを算出される。各サンプルの第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbが、横軸に第1評価パラメータIaを、縦軸に第2評価パラメータIbを取ったグラフ上にプロットされている。これら第1サンプルS1~第5サンプルS5から得られた第1評価パラメータIaが参照用第1評価パラメータの例であり、第1サンプルS1~第5サンプルS5から得られた第2評価パラメータIbが参照用第2評価パラメータの例である。
【0055】
図からわかるように、各サンプルのグラフ上の位置(即ち、座標)が空隙Gの位置及び大きさに応じて異なっている。その差異は、空隙Gの位置及び大きさに応じた受信波形の差異に比べて顕著である。このように、評価パラメータIには、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が現れている。つまり、受信波形では明確に現れていなかった空隙Gの位置及び大きさに関する情報を、評価パラメータIにより顕在化させることができる。
【0056】
こうしてサンプルSから取得された第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbに基づいて判定マップが予め作成されている。判定マップは、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定するためのマップである。図16は、判定マップを示す。横軸は第1評価パラメータIaであり、縦軸は第2評価パラメータIbである。この判定マップは、参照用評価パラメータをマップの形で表したものである。判定マップは、記憶装置65に記憶されている。
【0057】
領域Aは、第1サンプルS1及び第4サンプルS4の評価パラメータが含まれる領域であって、空隙Gを有さないか又は重要度がそれほど高くない空隙Gを有する領域である。デッキプレート2とモルタルMとの界面に空隙Gが存在すると、空隙Gの部分においてデッキプレート2の撓みが大きくなる。空隙Gが中央に位置する場合には、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部への悪影響は小さい。一方、空隙Gが端部に位置する場合には、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部の近傍部分が撓みやすくなる。そのため、モルタルMによる応力集中の緩和効果が小さくなってしまう。つまり、中央に存在する空隙Gは、端部に存在する空隙Gに比べて重要度が低い。第4サンプルSの空隙Gは、中央に位置し且つその大きさがそれほど大きくないので、重要度が高くない空隙に分類される。
【0058】
一方、領域B,Cは、重要度が比較的高い空隙Gを有する領域である。領域Bは、第2サンプルS2及び第3サンプルS3の評価パラメータが含まれる領域であって、端部に空隙Gが存在する領域である。領域Cは、第5サンプルS5の評価パラメータが含まれる領域であって、中央に大きな空隙Gが存在する領域である。第2サンプルS2及び第3サンプルS3の空隙Gの大きさは、第4サンプルS4の空隙Gの大きさと略同じであるが、端部に存在する空隙Gは中央の空隙Gに比べて重要度が高くなるので、第2サンプルS2及び第3サンプルS3の空隙Gは、重要度が高い空隙に分類される。第5サンプルS5の空隙Gは、第4サンプルS4の空隙Gと同様に中央に位置しているが、第4サンプルS4に比べて大きいので、その分だけ重要度が高くなる。そのため、第5サンプルS5の空隙Gは、重要度が高い空隙に分類される。
【0059】
要するに、領域Aは、空隙Gを有さないか空隙Gの重要度が高くない領域であり、領域Bは、端部に重要度が高い空隙Gが存在する領域であり、領域Cは、中央に重要度が高い空隙Gが存在する領域である。
【0060】
尚、空隙Gの位置及び大きさに応じて評価パラメータが変化するとしても、評価パラメータが適切に取得される限りにおいては、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbの範囲はある程度限られる。例えば、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbの両方が非常に小さい場合には、弾性波の入力及び/又は受信が適切に行われなかった可能性が高い。そのため、図の一点鎖線よりも原点0に近い領域は、評価パラメータを適切に取得できなかった領域として設定しておいてもよい。
【0061】
判定部67は、判定マップを参照することによって、算出部66により算出された評価パラメータIから空隙Gの位置及び大きさを判定する。つまり、判定部67は、算出部66により算出された第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbを判定マップに照らし合わせる。判定部67は、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbが判定マップのどの領域に含まれるかによって、空隙Gの位置及び大きさを判定する。この判定マップは、複数のサンプルの第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbに基づいて作成されているので、判定マップを用いることは、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された参照用評価パラメータを間接的に参照することに等しい。
【0062】
次に、空隙判定システム100を用いた空隙判定方法について説明する。図17は、評価パラメータを用いた空隙判定方法のフローチャートである。
【0063】
まず、ステップSa1において、作業者は、インパルスハンマ51を用いてモルタルMに衝撃弾性波を入力する。具体的には、作業者は、第2ワンサイドボルト43Bに第1振動センサ53A及び第2振動センサ53Bを設置し、橋軸方向の位置が該第2ワンサイドボルト43Bと同じ第1ワンサイドボルト43Aの端縁にインパルスハンマ51で打撃を加える。作業者は、図2において矢印で示すように、主として第1ワンサイドボルト43Aの軸方向に打撃を加える。第1ワンサイドボルト43Aの先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となっており、第1ワンサイドボルト43Aに加えられたインパルスハンマ51による衝撃は、モルタルMに伝わる。
【0064】
こうして、インパルスハンマ51の打撃により、モルタルMにはインパルス状の弾性波(即ち、衝撃弾性波)が入力される。ステップSa1は、内側部材に弾性波を入力する入力工程に相当する。
【0065】
このとき、インパルスハンマ51から第1ワンサイドボルト43Aに加えられた加振力は、インパルスハンマ51に内蔵されたセンサに検出され、検出された加振力信号がデータロガー61に入力される。
【0066】
次に、ステップSa2において、第1振動センサ53A及び第2振動センサ53Bは、モルタルMを伝播する弾性波を受信する。第1振動センサ53A及び第2振動センサ53Bは、前述の如く、第2ワンサイドボルト43Bに取り付けられている。第2ワンサイドボルト43Bの先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となっている。そのため、モルタルMを伝播する弾性波は、第2ワンサイドボルト43Bを介して第1振動センサ53A及び第2振動センサ53Bに伝わる。第1振動センサ53A及び第2振動センサ53Bの出力信号は、データロガー61に入力される。データロガー61は、インパルスハンマ51によって入力された弾性波に対応する応答として、第1振動センサ53A及び第2振動センサ53Bの出力信号を記録する。ステップSa2は、内側部材を伝播する弾性波を受信する受信工程に相当する。
【0067】
算出部66は、ステップSa3において、データロガー61に記録された、第1振動センサ53Aによって受信された加速度信号から第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbを算出する。ステップSa3は、受信工程によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータを算出する算出工程に相当する。
【0068】
その後、判定部67は、ステップSa4において、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbを判定マップに照らし合わせることによって空隙Gの位置及び大きさを判定する。ステップSa4は、算出工程によって算出された評価パラメータに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程に相当する。
【0069】
こうして、判定部67は、評価パラメータIから空隙Gの位置及び大きさを判定する。ただし、この空隙判定は、一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを含む断面に関して行われたものである。モルタルM内の弾性波は橋軸方向にも拡散するので、一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを含み、且つ、橋軸方向に或る程度の長さを有する領域内の空隙Gの位置及び大きさが判定される。
【0070】
作業者は、弾性波の入力及び受信を行う一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを変更して、前述のステップSa1~Sa4を繰り返す。こうして、橋軸方向の全域に亘って空隙Gの位置及び大きさが判定される。
【0071】
この空隙判定方法によれば、特許文献1の方法のように、デッキプレート2の上面(舗装14が敷設された面)から弾性波を入力する必要がないので、デッキプレート2の上面を露出させる等の前処理が不要となる。つまり、制約の少ない方法で界面の空隙を判定することができる。特に、橋梁の上部工10においてはデッキプレート2の上面には舗装14が敷設されるため、デッキプレート2の上面からデッキプレート2とモルタルMとの界面に向かって弾性波を入力することは困難であるか、できるとしても前処理が非常に煩雑となる。しかしながら、この空隙判定方法によれば、デッキプレート2の上面以外の部分から弾性波を入力し、且つ、デッキプレート2の上面以外の部分において弾性波を受信することによって、空隙を判定することができる。例えば、床版11の下方から空隙を判定することができる。
【0072】
また、床版11の下方から空隙を判定することができるので、空隙の判定に際し、舗装14上を車輌が通行する状態を維持することができる。つまり、舗装14は道路として機能しているので、通常は、舗装14の上を車輌が通行している。特許文献1のようにデッキプレート2の上面から弾性波を入力する場合には、通行規制等を行う必要がある。それに対し、この空隙判定方法によれば、舗装14上を車輌が通行している状態のまま、床版11の下方から空隙を判定することができる。この点においても、この空隙判定方法は、制約が少ない。
【0073】
ただし、この空隙判定方法によれば、特許文献1のように界面からの単純な反射波だけを受信することは難しい。そのため、界面からの反射波の受信強度に基づいて空隙の有無を判定することはできない。しかしながら、モルタルMを伝播する弾性波の受信信号の評価パラメータIを算出することによって、受信信号に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。そして、空隙Gの位置及び大きさが既知のサンプルS1~S5から予め取得された参照用評価パラメータを参照することによって、受信信号から得られた評価パラメータIから空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
【0074】
以上のように、空隙判定システム100は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定システムであって、モルタルMに弾性波を入力するインパルスハンマ51(入力部)と、モルタルMを伝播する弾性波を受信する振動センサ53(受信部)と、振動センサ53によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータIを算出する算出部66と、算出部66によって算出された評価パラメータIに基づいて空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部67とを備え、算出部66は、所定の第1振動方向に振動する弾性波の評価パラメータIである第1評価パラメータIaを算出し、判定部67は、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する第1~第5サンプルS1~S5(複数のサンプル)から予め取得された第1評価パラメータIaである参照用第1評価パラメータを参照することによって、算出部66によって算出された第1評価パラメータIaから空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0075】
換言すると、空隙判定システム100を用いた空隙判定方法は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定方法であって、モルタルMに弾性波を入力する入力工程と、モルタルMを伝播する弾性波を受信する受信工程と、受信工程によって受信された弾性波の強さに関連する評価パラメータIを算出する算出工程と、算出工程によって算出された評価パラメータIに基づいて空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、算出工程では、所定の第1振動方向に振動する弾性波の評価パラメータIである第1評価パラメータIaを算出し、判定工程では、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルS1~S5から予め取得された第1評価パラメータIaである参照用第1評価パラメータを参照することによって、算出工程で算出された第1評価パラメータIaから空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0076】
これらの構成によれば、モルタルMに弾性波を入力し且つモルタルMを伝播する弾性波を受信できれば、空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。つまり、特許文献1に記載の方法のように、第1部材の表面から界面に向かって超音波を送信しなければならないというような厳しい制約がないので、空隙Gの位置及び大きさの判定を簡易に実現することができる。具体的な空隙判定については、モルタルMを伝播する弾性波の強さに関連する第1評価パラメータIaを算出することによって、弾性波に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。さらに、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルS1~S5から参照用第1評価パラメータを予め取得しておき、これらを参照することによって、前述の第1評価用パラメータIaから空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
【0077】
また、算出工程では、第1振動方向とは異なる第2振動方向に振動する弾性波の評価パラメータIである第2評価パラメータIbをさらに算出し、判定工程では、第1評価パラメータIa、並びに、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルS1~S5から予め取得された第2評価パラメータIbである参照用第2評価パラメータを参照することによって、算出工程で算出された第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbから空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0078】
この構成によれば、振動方向が異なる複数の弾性波から求めた評価パラメータI、詳しくは、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbを用いて空隙Gの位置及び大きさが判定される。そのため、空隙の判定精度を向上させることができる。
【0079】
さらに、第1振動方向は、入力工程で入力した弾性波(以下、「入力弾性波」ともいう)の振動方向に対応している。
【0080】
この構成によれば、床版11内を伝播する弾性波のうち主要な伝播方向の弾性波の評価パラメータIを用いて空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。つまり、床版11内では弾性波が多重反射するので、弾性波は様々な方向に伝播している。そのような中でも、入力弾性波の振動方向に伝播する弾性波が多い。第1振動方向が入力弾性波の振動方向に対応している、即ち、入力弾性波の振動方向と概ね一致しているので、第1評価パラメータIaは、床版11内を伝播するより多くの弾性波の情報を反映している。そのような第1評価パラメータIaを用いることによって、空隙Gの判定精度を向上させることができる。
【0081】
また、床版11は、中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さった第1ワンサイドボルト43A(第1貫通部材)及び第2ワンサイドボルト43B(第2貫通部材)をさらに有し、入力工程では、第1ワンサイドボルト43Aを介して中空リブ3の外側からモルタルMに弾性波を入力し、受信工程では、モルタルMを伝播する弾性波を、第2ワンサイドボルト43Bを介して中空リブ3の外側から受信する。
【0082】
この構成によれば、モルタルMに突き刺さった第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bが中空リブ3を貫通して中空リブ3の外側に露出している。そこで、第1ワンサイドボルト43Aを介してモルタルMに弾性波を入力することによって、中空リブ3の外側からモルタルMに弾性波を適切に入力することができる。また、モルタルMを伝播する弾性波を第2ワンサイドボルト43Bを介して受信することによって、モルタルMを伝播する弾性波を中空リブ3の外側から適切に受信することができる。
【0083】
さらに、外側部材は、少なくともデッキプレート2(第1部材)と中空リブ3(第2部材)とを含む分割構造となっており、床版11は、デッキプレート2と中空リブ3とを連結する補強板4(連結部材)をさらに有し、第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bは、補強板4を中空リブ3に締結する部材である。
【0084】
この構成によれば、補強板4を中空リブ3に締結するための第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを利用して、弾性波の入力及び受信を行うことができる。
【0085】
さらに、床版11は、デッキプレート2と、デッキプレート2の下面に接合され、デッキプレート2と共に閉断面を形成する中空状の中空リブ3(リブ)と、デッキプレート2及び中空リブ3で区画される空間に充填されたモルタルMとを有する、橋梁の床版であって、外側部材は、デッキプレート2及び中空リブ3であり、内側部材は、モルタルMである。
【0086】
この構成によれば、橋梁の床版11は、デッキプレート2及び中空リブ3によって区画される空間にモルタルMが充填されている。そして、デッキプレート2及び中空リブ3とモルタルMとの界面に形成された空隙Gの位置及び大きさが判定される。
【0087】
《実施形態2》
続いて、実施形態2に係る空隙判定システム200について説明する。図18は、空隙判定システム200のブロック図である。
【0088】
空隙判定システム200は、床版11(特に、モルタルM及び中空リブ3を含む部分)に弾性波を入力する一方、床版11を伝播する弾性波を受信し、受信した弾性波に基づいて床版11内の空隙の位置及び大きさを判定する。モルタルM及びそれを覆う中空リブ3等に弾性波を入力すると、モルタルM内を弾性波が伝播して多重反射が発生する。空隙判定システム200は、このモルタルM及びそれを覆う部材の内部で多重反射する弾性波をモルタルM及びそれを覆う部材の振動として捉え、その振動の固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさを判定する。空隙判定システム200は、評価パラメータIではなく、床版11の振動の固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさを判定する点で、空隙判定システム100と異なる。そこで、空隙判定システム200のうち、空隙判定システム100と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0089】
空隙判定システム200は、インパルスハンマ51と、6個の振動センサ53と、増幅部54と、データロガー61と、演算装置262とを有している。
【0090】
図19は、振動センサ53を設置した状態の中空リブ3を中心とする拡大断面図である。個々の振動センサ53の構成は、空隙判定システム100の振動センサ53と同様である。6個の振動センサ53は、中空リブ3及び補強板4の外表面に取り付けられている。6個の振動センサ53は、橋軸方向に直交する同一断面内に配置されている。各振動センサ53を区別する場合には、それぞれを第1振動センサ53A、第2振動センサ53B、…、第6振動センサ53Fと称する。
【0091】
詳しくは、第1振動センサ53Aは、補強板4のうち第1縦壁31Aと重なっている部分の外表面であって第1ワンサイドボルト43Aの近傍に配置されている。第2振動センサ53Bは、第1縦壁31Aのうち底壁33の近傍部分の外表面に配置されている。第3振動センサ53Cは、底壁33のうち第1縦壁31Aの近傍部分の外表面に配置されている。第4振動センサ53Dは、底壁33のうち第2縦壁31Bの近傍部分の外表面に配置されている。第5振動センサ53Eは、第2縦壁31Bのうち底壁33の近傍部分の外表面に配置されている。第6振動センサ53Fは、補強板4のうち第2縦壁31Bと重なっている部分の外表面であって第2ワンサイドボルト43Bの近傍に配置されている。各振動センサ53は、取り付けられている外表面の法線方向の加速度を検出する。
【0092】
演算装置262は、演算部263と、メモリ264と、記憶装置265とを有している。
【0093】
演算部263は、プロセッサを有しており、プログラムを実行する等して、各種処理を行う。例えば、演算部263は、データロガー61のデータを解析して、空隙Gの位置及び大きさの判定を行う。メモリ264は、演算部263がプログラムを実行する際にデータを一時的に保存するために用いられる。記憶装置265は、各種プログラムやデータを保存している。
【0094】
続いて、演算装置262の機能ブロックについて説明する。図20は、演算装置262の機能ブロック図である。演算装置262は、床版11の振動の固有モードを算出する算出部266と、算出された固有モードに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する判定部267とを有している。
【0095】
算出部266は、6個の振動センサ53が含まれる断面における床版11の振動の固有モードを算出する。
【0096】
より詳しくは、算出部266は、データロガー61に記録された、6個の振動センサ53によって受信された加速度信号のそれぞれに所定の周波数帯域以外の成分を除去するフィルタ処理を施すと共に、インパルスハンマ51の加振力に基づいて加速度信号を基準化する。フィルタ処理及び基準化は、空隙判定システム100の算出部66と同様の目的で行われる。
【0097】
算出部266は、処理後の6個の信号に対し、固有直交関数展開(Proper Orthogonal Decomposition、以下、「POD」という)を用いることによって固有モードを求める。PODは、日本風工学会誌 第65号 平成7年10月 「固有直交関数展開のランダム変動場への応用のすすめ」に記載されているように、公知の解析手法である。PODは、ランダムな変動場を表現するのにふさわしい座標系である規準座標系を探し、変動場のデータを規準座標系に座標変換する。規準座標軸は、データの分散を最大にする座標軸を1次の規準座標軸とし、次にこれに直交する座標軸の中で分散を最大にする軸を2次の規準座標軸とし、さらにこれらに直交する座標軸の中で分散を最大にする軸を3次の規準座標軸とし、・・・という手順で決められていく。n個の測定点がある場合、n個の規準座標軸が設定される。各規準座標軸の方向を表すベクトルが固有ベクトルである。各固有ベクトルは、各固有モードを表す。
【0098】
この例では、6個の測定点において加速度(加速度の時系列データ)が測定されているので、6個(1次~6次)の新たな基準座標軸が設定され、6個(1次~6次)の固有ベクトル(固有モード)が求められる。
【0099】
判定部267は、固有ベクトル、即ち、固有モードに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する。判定部267は、算出部266によって算出された固有モードから、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された固有モードを参照することによって空隙Gの位置及び大きさを判定する。
【0100】
詳しくは、位置及び大きさが既知の空隙Gを有するサンプルSから固有モードが予め取得される。サンプルSは、実施形態1のサンプルと同じである。
【0101】
図21図25は、第1~第5サンプルS1~S5に衝撃弾性波を入力した際の受信波形である。各図においては、参考のため、第3振動センサ53C及び第4振動センサ53Dの受信波形を示す。(A)図は、第3振動センサ53Cによる受信波形であり、(B)図は、第4振動センサ53Dによる受信波形である。受信波形は、前述の基準化がなされた波形である。グラフの横軸が時間で、縦軸が加速度である。
【0102】
モルタルMに入力された弾性波は、中空リブ3内で多重反射する。各図からわかるように、これらの受信波形は、空隙Gの位置及び大きさに応じて変化する。尚、図示を省略しているが、第3振動センサ53C及び第4振動センサ53D以外の振動センサ53による受信波形も、空隙Gの位置及び大きさに応じて変化する。しかしながら、受信波形そのものが複雑なので受信波形の差異がわかりづらく、受信波形そのものに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判別することは困難である。
【0103】
それに対し、図26~30は、それぞれの受信波形から算出された固有モードである。各図において、(A)図は1次モードであり、(B)図は2次モードであり、(C)図は3次モードであり、(D)図は4次モードであり、(E)図は5次モードであり、(F)図は6次モードである。各固有モードの形状は、固有ベクトルを基にスプライン曲線で表されている。各図においては、参考のために空隙も図示している。尚、表1は、第1サンプルS1の固有ベクトルであり、表2は、第2サンプルS2の固有ベクトルであり、表3は、第3サンプルS3の固有ベクトルであり、表4は、第4サンプルS4の固有ベクトルであり、表5は、第5サンプルの固有ベクトルである。これら第1サンプルS1~第5サンプルS5から得られた固有モード又は固有ベクトルが参照用固有モードの例である。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
図からわかるように、各サンプルの固有モードが空隙Gの位置及び大きさに応じて異なっている。固有モードは、受信波形に比べて単純な形状をしているので、その差異は、空隙Gの位置及び大きさに応じた受信波形の差異に比べて判別しやすい。
【0110】
このように固有モードには、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が現れている。つまり、受信波形では明確に現れていなかった空隙Gの位置及び大きさに関する情報を、固有モードを求めることによって顕在化させることができる。
【0111】
記憶装置265には、空隙Gの位置及び大きさが異なる複数のサンプル(例えば、前述の第1~第5サンプルS1~S5)から予め取得された固有モードをもとに構築されたニューラルネットワークのモデル(又は識別器)が記憶されている。図31は、ニューラルネットワークのモデルを示す。図31のモデルは、入力層と中間層と出力層とを有している。
【0112】
入力層には、36個のユニットが含まれている。この例では、1次~6次の固有ベクトルが求められているので、1つのサンプルにつき36個の入力データが存在する。36個の入力データが入力層のユニットにそれぞれ入力される。中間層のユニットの個数は任意の個数に設定されている。出力層のユニットは1個である。出力層は、重要度の高い空隙Gが存在するか否かを出力する。空隙Gの重要度は、前述の如く空隙Gの位置及び大きさに依存する。第4サンプルS4のように空隙Gが存在しても、その位置が中央であって且つ大きさがそれほど大きくない場合には、重要度が高くない空隙と判定される。一方、第2サンプルS2及び第3サンプルS3のように、第4サンプルS4と略同じ大きさの空隙Gであってもその位置が端部である場合には、重要度が高い空隙であると判定される。つまり、このモデルは、空隙Gの位置及び大きさを判定している。
【0113】
各サンプルから得られた固有ベクトルを教師データとして入力し、第1及び第4サンプルS1,S4の出力が、重要度の高い空隙無しとなる一方、第2,第3及び第5サンプルS2,S3,S5の出力が、重要度の高い空隙有りとなるように、ユニット間の結合荷重(重み)が調整される。こうして、モデルが予め構築されている。尚、サンプルごとに複数回の打撃試験を行って複数の固有ベクトルを取得し、サンプルごとの複数の教師データを用いてモデルを構築してもよい。このニューラルネットワークのモデルは、参照用固有モードをモデルの形で表したものである。
【0114】
そして、判定部267は、算出部266が算出した1次~6次の固有ベクトルを記憶装置265に記憶されたニューラルネットワークのモデルに入力し、重要度の高い空隙Gの有無を判定する。このモデルは、複数のサンプルの固有モードに基づいて構築されているので、モデルを用いることは、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された固有モードを間接的に参照することに等しい。
【0115】
尚、予め取得された固有モードの参照は、ニューラルネットワークのモデルを用いることに限定されない。位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された固有モードを直接的又は間接的に参照する処理であれば、任意の処理が採用され得る。例えば、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された参照用固有モードによって構築された深層学習のモデルを用いてもよい。
【0116】
次に、空隙判定システム200を用いた空隙判定方法について説明する。図32は、固有モードを用いた空隙判定方法のフローチャートである。
【0117】
まず、ステップSb1において、作業者は、インパルスハンマ51を用いてモルタルMに衝撃弾性波を入力する。具体的には、作業者は、インパルスハンマ51で打撃を加える第1ワンサイドボルト43Aが含まれる、橋軸方向に直交する断面において6個の振動センサ53を前述の位置に設置する。その後、作業者は、第1ワンサイドボルト43Aの端縁に、図19において矢印で示す方向(即ち、第1ワンサイドボルト43Aの軸方向)にインパルスハンマ51で打撃を加える。第1ワンサイドボルト43Aの先端部は、床版11に突き刺さった状態となっており、第1ワンサイドボルト43Aに加えられたインパルスハンマ51による衝撃は、床版11、具体的には、モルタルMに伝わる。
【0118】
こうして、インパルスハンマ51の打撃により、モルタルMにはインパルス状の弾性波(即ち、衝撃弾性波)が入力される。ステップSb1は、構造体に弾性波を入力する入力工程に相当する。
【0119】
このとき、インパルスハンマ51から第1ワンサイドボルト43Aに加えられた加振力は、インパルスハンマ51に内蔵されたセンサに検出され、検出された加振力信号がデータロガー61に入力される。
【0120】
次に、ステップSb2において、第1振動センサ53A~第6振動センサ53Fは、床版11を伝播する弾性波を受信する。第1振動センサ53A~第6振動センサ53Fの出力信号は、データロガー61に入力される。データロガー61は、インパルスハンマ51によって入力された弾性波に対応する応答として、第1振動センサ53A~第6振動センサ53Fの出力信号を記録する。ステップSb2は、構造体を伝播する弾性波を受信する受信工程に相当する。
【0121】
算出部266は、ステップSb3において、データロガー61に記録された、第1振動センサ53A~第6振動センサ53Fによって受信された加速度信号から固有モード、即ち、固有ベクトルを算出する。ステップSb3は、受信工程によって受信された弾性波に基づいて構造体の振動の固有モードを算出する算出工程に相当する。
【0122】
その後、判定部267は、ステップSb4において、固有ベクトルをニューラルネットワークのモデルに入力することによって重要度の高い空隙Gの有無を判定する。ステップSb4は、算出工程によって算出された固有モードに基づいて空隙の位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程に相当する。
【0123】
こうして、判定部267は、固有モードから空隙Gを判定する。尚、床版11内の弾性波は、6個の振動センサ53が配置された断面だけでなく橋軸方向にも拡散するので、橋軸方向に或る程度の長さを有する領域内の空隙Gが判定される。
【0124】
作業者は、弾性波の入力及び受信を行う、床版11の断面を変更して、前述のステップSb1~Sb4を繰り返す。こうして、橋軸方向の全域に亘って空隙Gが判定される。
【0125】
この空隙判定方法によれば、空隙判定システム100の方法と同様に、制約の少ない方法で界面の空隙を判定することができる。特に、この空隙判定方法によれば、デッキプレート2の上面以外の部分から弾性波を入力し、且つ、デッキプレート2の上面以外の部分において弾性波を受信することによって、空隙を判定することができる。例えば、床版11の下方から空隙を判定することができる。
【0126】
そして、この空隙判定方法によれば、床版11の固有モードを求めることによって、受信信号に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。そして、空隙Gの位置及び大きさが既知のサンプルS1~S5から予め取得された参照用固有モードを参照することによって、受信信号から得られた固有モードから空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
【0127】
以上のように、空隙判定システム200は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定システムであって、床版11に弾性波を入力するインパルスハンマ51(入力部)と、床版11を伝播する弾性波を受信する振動センサ53(受信部)と、振動センサ53によって受信された弾性波に基づいて床版11の振動の固有モードを算出する算出部266と、算出部266によって算出された固有モードに基づいて空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定部267とを備え、判定部267は、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する第1~第5サンプルS1~S5から予め取得された固有モードである参照用固有モードを参照することによって、算出部266によって算出された固有モードから空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0128】
換言すると、空隙判定システム200を用いた空隙判定方法は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定方法であって、床版11に弾性波を入力する入力工程と、床版11を伝播する弾性波を受信する受信工程と、受信工程によって受信された弾性波に基づいて床版11の振動の固有モードを算出する算出工程と、算出工程によって算出された固有モードに基づいて空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する判定工程とを含み、判定工程では、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する第1~第5サンプルS1~S5から予め取得された固有モードである参照用固有モードを参照することによって、算出工程で算出された固有モードから空隙Gの位置及び大きさの少なくとも一方を判定する。
【0129】
これらの構成によれば、床版11に弾性波を入力し且つ床版11を伝播する弾性波を受信できれば、空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。つまり、特許文献1に記載の方法のように、第1部材の表面から界面に向かって超音波を送信しなければならないというような厳しい制約がないので、空隙Gの位置及び大きさの判定を簡易に実現することができる。具体的な空隙判定については、床版11を伝播する弾性波の固有モードを算出することによって、弾性波に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。さらに、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルS1~S5から参照用固有モードを予め取得しておき、これらを参照することによって、前述の算出した固有モードから空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
【0130】
また、受信工程では、床版11の複数の箇所において弾性波を受信し、算出工程では、受信工程によって複数の箇所で受信された弾性波に基づいて固有モードを算出する。
【0131】
この構成によれば、床版11の複数の箇所において弾性波を受信するので、固有モードをより詳細に取得することができる。その結果、空隙Gの判定精度を向上させることができる。
【0132】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0133】
例えば、空隙判定を実施する対象は、橋梁の床版11に限定されない。内側部材と内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体であれば、任意の構造体における界面の空隙を判定することができる。
【0134】
また、床版11の構成は、一例に過ぎず、前述の構成以外の構成であってもよい。例えば、補強板4が省略されていてもよい。さらに、中空リブ3の形状も前述の形状に限定されない。中空リブ3は、断面U字状や断面V字状のように閉断面を形成する任意の形状に形成され得る。中空リブ3がそのような形状の場合は、同様の形状をしたサンプルから参照用第1及び/若しくは第2評価パラメータ又は参照用固有モードが予め取得される。さらにまた、中空リブ3の注入口及び排出口の個数も前述の個数に限定されない。また、モルタルMの代わりにコンクリートが充填されていてもよい。
【0135】
また、モルタルM又は床版11への弾性波の入力は、第1ワンサイドボルト43Aを利用しなくてもよい。中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さった貫通部材(例えば、空隙判定専用のボルト)を弾性波の入力のためだけに設けてもよい。あるいは、中空リブ3又は補強板4に直接打撃を加えることによってモルタルMへ弾性波を入力してもよい。
【0136】
受信部としての振動センサは、加速度ピックアップに限られるものではない。例えば、AEセンサや超音波探傷用の受信センサ等を振動センサとして採用してもよい。
【0137】
また、振動センサ53の受信信号は、加速度信号であるが、速度信号に変換されてもよい。つまり、内側部材(モルタルM)又は構造体(床版11)を伝播する弾性波を表わす物理量である限り、任意の物理量を採用することができる。
【0138】
空隙判定システム100,200及びそれらの空隙判定方法においては、空隙Gの位置及び大きさの両方を判定しているが、位置又は大きさを判定するものであってもよい。
【0139】
また、サンプルSの個数は、5個に限られず、任意の個数とすることができる。当然ながら、サンプルSの個数が増加するほど、空隙の判定精度が向上する。
【0140】
また、空隙判定システム100の空隙判定方法と空隙判定システム200の空隙判定方法とを組み合わせてもよい。空隙判定システム100と空隙判定システム200のハードウェア構成の差異は、基本的には振動センサ53の設置位置及び個数だけである。そのため、空隙判定システム100及び空隙判定システム200の両方をカバーできる個数の振動センサ53を所定の位置に配置すれば、1つのシステムで、空隙判定システム100及び空隙判定システム200の両方の空隙判定方法を実施することができる。それぞれの方法に、判定しやすい空隙Gの位置及び大きさがあるので、両方の方法を組み合わせることによって、空隙Gの位置及び大きさの判定精度を向上させることができる。例えば、空隙判定システム100の空隙判定方法によって空隙Gの位置及び大きさを大まかに判定し、空隙判定システム200の空隙判定方法によって空隙Gの位置及び大きさを詳細に判定してもよい。
【0141】
空隙判定システム100においては、第2ワンサイドボルト43B以外の場所においてモルタルMを伝播する弾性波を受信してもよい。つまり、モルタルMは、デッキプレート2及び中空リブ3と接触しているため、モルタルMを伝播する弾性波は、デッキプレート2及び中空リブ3へ透過する。そのため、デッキプレート2又は中空リブ3の振動を検出することによっても、モルタルMを伝播する弾性波を受信することができる。例えば、ネジ付きスタッド41又はナット42に振動センサ53を取り付けてもよい。この位置で検出された受信信号から求められた評価パラメータであっても、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が表わされている。あるいは、中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さった貫通部材(例えば、空隙判定専用のボルト)を弾性波の受信のためだけに設けてもよい。
【0142】
さらに、評価パラメータIに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する方法は、前述の方法に限られるものではない。例えば、第1振動方向は、第2ワンサイドボルト43Bの軸方向以外の方向であってもよく、第2振動方向は、第2ワンサイドボルト43Bの軸方向及び橋軸方向の両方に直交する方向以外の方向であってもよい。例えば、中空リブ3の底壁33に2つの振動センサ53を設置し、一方の振動センサ53で底壁33の法線方向に振動する弾性波を第1振動方向に振動する弾性波として受信し、他方の振動センサ53で橋軸方向に直交し且つ底壁33と平行な方向に振動する弾性波を第2振動方向に振動する弾性波として受信してもよい。また、振動センサ53は、2つではなく、直交2軸の加速度を検出できる1つのセンサであってもよい。
【0143】
さらには、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbの両方に基づいて空隙Gを判定するのではなく、何れか一方の評価パラメータに基づいて空隙Gを判定してもよい。図15からわかるように、第1評価パラメータIa及び第2評価パラメータIbのそれぞれが空隙Gの位置及び大きさに応じて変化している。つまり、何れか一方の評価パラメータだけでも空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
【0144】
また、判定マップは、図16のマップに限定されない。判定マップは、さらに詳細に領域が分けられていてもよいし、さらに単純な領域に分けられていてもよい。
【0145】
弾性波の強さに関連するパラメータは、式(1)で表される評価パラメータIに限られるものではない。弾性波の強さ、ひいては、エネルギを表すパラメータであれば、任意のパラメータを採用することができる。
【0146】
空隙判定システム200においては、固有モードを求める方法は、固有直交関数展開に限らず、任意の方法を採用することができる。また、空隙判定システム200の振動センサ53の個数は、6個に限られない。2個以上の任意の個数の振動センサ53を採用することができる。また、振動センサ53を設置する位置も、図19に示す位置に限られない。例えば、振動センサ53が4個の場合には、1次~4次の固有モードが求められることになる。その場合、予め構築されるニューラルネットワークのモデルもサンプルごとの4つの固有モードに基づいて構築される。実際に空隙Gを判定する際にも、打撃によって得られた4つの固有モードをモデルに入力することによって空隙Gが判定される。
【0147】
また、固有モードから空隙Gを判定する方法は、前述の方法に限定されない。例えば、得られた固有モードを全て用いなくてもよい。例えば、次数が高い固有モードの寄与率が低い場合には、それ以外の次数の固有モードでニューラルネットワークのモデルを構築し、実際の判定時もそれ以外の次数の固有モードを入力して空隙Gを判定してもよい。また、固有直交関数展開によれば、各固有モードの寄与率も求めることができる。そのため、固有モードに加えて、各固有モードの寄与率も入力に用いて、モデルの構築及び空隙Gの判定を行ってもよい。また、出力は、重要度が高い空隙Gの有無に限られない。空隙Gの位置及び大きさをさらに詳細に判別した結果を出力するようにモデルを構築してもよい。
【0148】
さらに、固有ベクトルの数値ではなく、固有モードの形状を用いて空隙Gを判定してもよい。例えば、固有モードの対称・非対称の度合いを数値化して、空隙Gの判定を行ってもよい。
【0149】
また、空隙Gの判定は、ニューラルネットワークを用いた方法に限られない。例えば、固有モードの形状から、画像認識処理によって空隙Gを判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0150】
以上説明したように、ここに開示された技術は、空隙判定方法及び空隙判定システムについて有用である。
【符号の説明】
【0151】
100,200 空隙判定システム
11 床版(構造体)
2 デッキプレート(外側部材、第1部材)
3 中空リブ(外側部材、第2部材)
4 補強板(連結部材)
43A 第1ワンサイドボルト(第1貫通部材、貫通部材)
43B 第2ワンサイドボルト(第2貫通部材、貫通部材)
51 インパルスハンマ(入力部)
53 振動センサ(受信部)
66,266 算出部
67,267 判定部
M モルタル(内側部材)
S サンプル

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