(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】防汚組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20220701BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220701BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220701BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/16
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2018501270
(86)(22)【出願日】2016-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2016066451
(87)【国際公開番号】W WO2017009297
(87)【国際公開日】2017-01-19
【審査請求日】2019-07-11
(32)【優先日】2015-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515168776
【氏名又は名称】ヨトゥン アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘド, キム エーバリ
(72)【発明者】
【氏名】セイム, マリト
(72)【発明者】
【氏名】フィーデル, ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】アレフ, ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】シック, ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】アイサ, プラサド ヴィシュワ
(72)【発明者】
【氏名】スロート, ティム-フレデリック
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-104831(JP,A)
【文献】特開2002-265611(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157682(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/052229(WO,A1)
【文献】特開平08-165340(JP,A)
【文献】米国特許第05180843(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C09D1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合剤と、
硬化剤とを含む汚染物剥離性コーティング組成物であって、
前記結合剤は、モノマーA'とモノマーB'との反応生成物を含み、
前記モノマーA'は、以下の一般式の少なくとも1つのモノマーであって、
【化1】
または
【化2】
ここで、R
1は同じかまたは異なり、C
1-6アルキル基を表し、
XおよびYは、同じであり、(CR"
2)
x'-OH,(CR"
2)
x'COOH,(CR"
2)
x'COORまたは-(CR"
2)
x'-(OR
11)
a-(OR
11)
b-OHを表し、
R"は、独立して、C
1-6アルキルまたはHであり得、
x’は1~10であり、
RはC
1-20アルキル、C
2-20アルケニル、C
3-20シクロアルキル、C
6-20アリールまたはC
7-20アリールアルキル基であり、
R
11は各々独立してC
2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500であり、
またはn'+mが1~500になる、少なくとも1つのモノマーであり;
前記モノマーB'は、以下の式の少なくとも1つのモノマーB'であって、
W-Q-Z
ここで、WおよびZは同じで、RcOOC-,RcOCOO-,RcCOOCO,-COOHまたはOHのいずれかであり、
Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニル、アミンエーテルもしくは芳香族基であり、または、Qは-O-もしくは共有結合であり、
Rcは、H、C
1-20アルキル、C
2-20アルケニル、C
6-20アリール、C
3-20シクロアルキルまたはC
7-20アリールアルキル基を表し、
但し、前記モノマーB'中の前記W基およびZ基は、前記モノマーA'中の前記X基およびY基と反応してエステル基を形成するように選択されることを条件とする、少なくとも1つのモノマーであり;
前記モノマーA'および前記モノマーB'は、重合反応を起こして[A'B'A'B']構造を形成する、
汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項2】
前記モノマーA'が以下の式のものであり、
【化3】
x’は1~10であり、
RはC
1-6アルキルであり、
各R
10およびR
11は独立してC
2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500であり
またはn'+mが1~500になる、請求項1に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項3】
前記モノマーA'は、式(A")のものであり、
【化4】
式中、各R
1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH
2)
x'-OH,-(CH
2)
x'-COOHまたは-(CH
2)
x'-COORを表し、
x’は1~10であり、
RはC
1-20アルキル基であり、
nは10-300である、請求項1または2に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項4】
前記モノマーA'は、式(A2)のものであり、
【化5】
式中、各R
1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH
2)
x'-OHまたは-(CH
2)
x'-COORを表し、
x’は1~5であり、
RはC
1-6アルキルであり、
nは10~300である、請求項1~3のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項5】
前記モノマーA'は、式(A3)のものであり、
【化6】
式中、各R
1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH
2)
x'-OHを表し、
x’は1~5であり、
nは15~300である、請求項1~4のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項6】
前記モノマーB'はRcOOC-Q-COORcであり、
式中、Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニルまたは芳香族基または共有結合であり、
各Rcは同じであり、H、C
1-20アルキル、C
2-20アルケニル、C
6-20アリール、C
3-20シクロアルキル基またはC
7-20アリールアルキル基を表す、請求項1~5のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項7】
前記モノマーB'は
RcOOC-Q-COORc
であり、式中、QはC
1-6-アルキレン基であるか、またはQは共有結合であり、
Rcは、HまたはC
1-20アルキルを表す、請求項1~6のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項8】
前記モノマーB'がシュウ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチルまたはアジピン酸ジエチルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項9】
前記モノマーB'が以下の式のものであり、
【化7】
式中、Rdは
、飽和、不飽和または芳香族のC
3-C
8環である、請求項
1に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項10】
前記モノマーB'が以下の式のものであり、
【化8】
式中、Rdは
、飽和、不飽和または芳香族のC
3-C
8環であり、式(B3)中のR
3およびR
4は同じであり、直鎖または分岐鎖のC
1-20アルキル基;直鎖または分岐鎖のC
2-10アルケニル基;C
6-20アリール基、C
7-20アリールアルキル基;またはC
3-20シクロアルキル基を表す、請求項
1に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項11】
前記モノマーB'がHO-Q-OHジオールであり、式中、Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニルまたは芳香族基または共有結合である、請求項
1に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項12】
モノマーA'がポリジメチルシロキサンである、請求項1~11のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項13】
XおよびYは同じであり、(CH
2)
x'-OH,(CH
2)
x'COOH,(CH
2)
x'COORまたは-(CH
2)
x'-(OR
11)
a-(OR
11)
b-OHを表し、Rは、C
1-6アルキルである、請求項1~12のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項14】
XおよびYがカルビノール、すなわち(CH
2)x'OHであるか、またはXおよびYが(CH
2)x'COOHまたは(CH
2)x'COORであり、RはC
1-6アルキルである、請求項1~13のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項15】
前記結合剤は以下の反応によって形成され、
【化9】
式中、Qは共有結合、エチレンまたはn-ブチレン基である、請求項
1に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項16】
充填剤、顔料、溶媒、添加剤および触媒のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項17】
少なくとも1つの親水性変性添加油をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物。
【請求項18】
汚染から金属製物体を保護するための方法であって、
汚染を被った前記金属製物体の少なくとも一部を請求項1~17のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物でコーティングする工程を含む、
方法。
【請求項19】
汚染から金属製物体を保護するための方法であって、
汚染を被った前記金属製物体の少なくとも一部を請求項1~17のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物と硬化剤とでコーティングする工程を含む、
方法。
【請求項20】
硬化した請求項1~17のいずれか一項に記載の汚染物剥離性コーティング組成物でコーティングされた金属製物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋防汚コーティング組成物に関し、より詳細には、特定の結合剤を含む海洋防汚コーティング組成物、および結合剤自体に関する。本発明はさらに、防汚コーティング組成物の調製に適したキット、および防汚コーティング組成物でコーティングされた表面に関する。
【背景技術】
【0002】
海水に浸されている表面は、緑藻類、褐藻類、フジツボ、イガイ、チューブワームなどの海洋生物による汚染を受ける。船舶、石油プラットフォーム、ブイなどの海洋構造物では、このような汚染は望ましくなく、経済的な結果をもたらす。汚染は、表面の生物学的分解、負荷の増大、および腐食の加速をもたらす可能性がある。船舶では、汚染が摩擦抵抗を増加させ、これによって速度の低下および/または燃料消費の増加を引き起こす。また、機動性が低下する可能性もある。
【0003】
河川、湖沼、水路および水泳プールのような水環境に曝される、例えば、淡水貯蔵用の工業プラント、パイプおよびタンクなどの水中構造物も、生物の付着および成長によって引き起こされる類似の問題を有する。これは、可能な動作時間の減少のために深刻な経済的損失を引き起こす。
【0004】
海洋生物の定着および成長を防ぐために、防汚塗料が使用される。これらの塗料は、一般に、顔料、充填剤、溶媒および生物活性物質などの異なる成分と共に、フィルム形成結合剤を含む。
【0005】
2003年まで市場で最も成功した防汚コーティングシステムは、トリブチルスズ(TBT)自己研磨性コポリマー系であった。これらの防汚コーティングの結合剤系は、トリブチルスズペンダント基を有する線状アクリルコポリマーであった。海水中でポリマーは、徐々に加水分解してトリブチルスズを放出する。これは有効な殺生物剤である。ここでカルボン酸基を含有する残りのアクリルコポリマーは、コーティング表面から洗い流されまたは摩滅するのに、海水中に十分に可溶性または分散性になる。この自己研磨効果は、コーティング中の生物活性化合物を制御しながら放出することを可能にし、優れた防汚効率および滑らかな表面をもたらし、したがって摩擦抵抗を減少させる。
【0006】
2001年のIMO条約「船舶についての有害な防汚方法の管理に関する国際条約」は、2003年から防汚塗料を含む新規のTBTの施与を禁止しており、防汚塗料を含むTBTは2008年から船殻に対して禁止されている。
【0007】
近年、TBT禁止の結果として新たな防汚コーティングシステムが開発され、導入されている。今日市販されている広範な一群の殺生物防汚コーティングは、TBT自己研磨コポリマーコーティングを模倣する自己研磨防汚コーティングである。それらの防汚コーティングは、殺生物性のないペンダント加水分解性基を有する(メタ)アクリルコポリマーをベースとする。加水分解メカニズムはTBT含有コポリマーと同じである。これによって、同じくポリマーを制御しながら溶解することが可能になり、それによってコーティングフィルムからの防汚化合物の制御放出がもたらされ、TBT含有防汚コーティングシステムと同様の性能がもたらされる。今日最も成功している自己研磨防汚システムは、シリルエステル官能性(メタ)アクリルコポリマーをベースにしている。これらのコーティング組成物は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7および特許文献8に記載されている。加水分解性結合剤は、コーティングフィルムの連続的な更新、および、コーティング表面における殺生物剤の効率的な放出を可能にし、それにより、表面に生物が存在しないようにする。
【0008】
上述の防汚コーティングシステムは、ポリマー骨格上のペンダント基の加水分解によって分解し、これによって水浸食性ポリマーがもたらされる。ポリマー骨格上のペンダント基の加水分解によって、ポリマーを親水性にし、それにより浸食可能にするカルボン酸塩が形成される。加水分解後に十分な親水性および浸食性ポリマーを得るためには、一定量の加水分解性基が必要である。
【0009】
水浸食性ポリマーを得る別の方法は、ポリマー骨格中に加水分解性基を導入することであり、結果としてポリマー構造が分解されて、これによってポリマーフィルムまたはコーティングフィルムが浸食されることになる。ポリ無水物は、骨格加水分解によって分解する一群のポリマーである。ポリ無水物は、それらの表面分解特性に関して十分に実証されている。表面分解は、成功した防汚コーティングを得るための最も重要な因子の1つである。防汚コーティング組成物中の結合剤として特定の芳香族ポリ無水物を使用することが、例えば特許文献9に記載されている。
【0010】
しかし、無水物基は水分の存在下で極めて不安定であり、したがって、防汚コーティングに使用するための低速の制御しながらの加水分解を示すポリ無水物に基づくコーティングシステムを設計することは困難である。したがって、防汚コーティング組成物に使用されるポリ無水物は、一般に、加水分解を制御するために芳香族単位の含有量が高い。
【0011】
近年、ポリオキサレートが、防汚コーティング中の結合剤としての使用によく適した一クラスのポリマーとして浮上してきた。これらの化合物における骨格加水分解は、ポリ無水物よりも制御される。
【0012】
ポリマー骨格が海水中で加水分解する自己研磨結合剤の使用は、侵食性架橋ポリマーおよび高分子量ポリマーを得ることを可能にする。
【0013】
防汚コーティング(必然的に殺生物剤を含む)の代替手段は、いわゆる汚染物剥離性コーティングである。これらのコーティングは、表面張力が低く、弾性率が低く、海洋生物が付着することができないか、または付着することができる場合は表面に対する水の動きによって洗い流される「非粘着性」表面を提供することによって機能する。コーティングは、一般に非常に低い毒性を有するポリシロキサン/シリコーン/ポリジメチルシロキサン(PDMS)をベースとすることが多い。汚染剥離系には欠点がある。例えば、船殻に施与する場合、海洋生物の蓄積は減少するが、すべての汚染種を除去するためには比較的高い船速が必要である。したがって、場合によっては、このようなポリマーで処理された船体からの効果的な放出のためには、少なくとも14ノットの速度で航行する必要があることが示されている。
【0014】
しかし、このような「非粘着性」コーティングは、経時的な粘液および藻類などの軟質汚染物に対する良好な耐性を示していない。特許文献10において、このようなPDMSコーティングに親水性修飾PDMS油と組み合わせて殺生物剤を添加することが、この問題を克服することが示唆されている。特許文献11は、殺生物剤を添加する同じ原理に依拠しているが、ここでは親水性修飾ポリシロキサン部分がポリシロキサン結合剤に共有結合している。
【0015】
しかし、これらの混合材料は、コーティング寿命の開始時における表面への殺生物剤の拡散が速過ぎ、その後、コーティングが経時変化すると拡散が停止するため、商業的成功が限定的であることが分かっている。より最近では、Azemarは、非特許文献1において、ポリカプロラクトンとPDMSとのトリブロックコポリマーをベースとするハイブリッドコーティングについて論じている。PDMSブロックをカプロラクトンと共重合させて、PDMSブロックの各末端にポリカプロラクトンポリマーブロックを得る。したがって、ポリマーは、カプロラクトンから形成された2つのポリエステルブロックを有する1つのPDMSブロックのみを含み、これは、加水分解が、分子の末端でのみ起こり、いかなる鎖の中心でも起こらないことを意味する。ポリ(カプロラクトン単位)は、2つの同一の官能基を含まないため、本発明者らが特許請求するものとしてのコポリマーの生成に使用することはできない。
【0016】
特許文献12には、ジカルボン酸とアシルオキシシリル化合物との反応によって形成されるポリシリルエステルが開示されている。得られるポリマーは、防汚コーティングにおける結合剤として使用することができることが示唆されている。しかし、特許請求されているポリマーは、骨格内に特徴的なシリルエステルSi-O-CO-結合を常に含む。シリルエステルは、水分に対して非常に反応性であることが知られており、数日または数週間以内に完全分解が起こる。特許文献12の化合物は、あまりにも不安定で、長期間使用する必要がある長期間の防汚コーティング組成物において首尾よく使用することができない。本発明者らはまた、これらのシリルエステルポリマーの製造方法が複雑であるとも考える。本発明のソリューションは、はるかにより簡単な方法を使用し、例えば、酸の蒸留に関連する問題を回避する。
【0017】
特許文献13には、ポリシロキサンとラクトンとの反応から形成される結合剤を含むコーティング組成物が教示されている。これにより、-CO-アルキレン-O-基を含むポリマー鎖が生じる。これは、ラクトンの開環によって達成される。さらに、この重合は、開環されたラクトンが他のラクトンと反応して重合を延長することができるため、ブロックコポリマーをもたらす。したがって、ポリマーは構造AAABBBAAAのトリブロックポリマーである。硬化性ポリマーを得るためには、比較的高い有機-シロキサン比が必要である。この方法は、従来のポリシロキサンと比較してはるかに高いガラス転移を有するポリマーをもたらす。これは、ポリマーの非粘着性、柔軟性および溶出ポテンシャルを制限する。
【0018】
特に、経時的な汚染物剥離性コーティング性能に関して解決すべき問題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】欧州特許出願公開第0646630号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0802243号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1342756号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1479737号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1641862号明細書
【文献】国際公開第00/77102号パンフレット
【文献】国際公開第03/070832号パンフレット
【文献】国際公開第03/080747号パンフレット
【文献】国際公開第2004/096927号パンフレット
【文献】国際公開第2011/076856号パンフレット
【文献】国際公開第2013/00479号パンフレット
【文献】国際公開第2004/085560号パンフレット
【文献】国際公開第2015/082397号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【文献】Fabrice Azemar, Fabienne Fay, Karine Rehel, Isabelle Linossier, Progress in Organic coatings 87, 2015, 10~19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者らは、再生可能な汚染物剥離性コーティング表面を有することが有益であると認識した。再生可能な表面の使用とは、粘液/藻類および他の軟質汚染物が、殺生物剤の必要性を伴ってまたは伴わずに物理的に除去されることを意味する。したがって、汚染物剥離性コーティング組成物が、防汚コーティング組成物のもののような再生可能な表面を提供することができるなら、有用であろう。これは、殺生物剤の添加の有無にかかわらず達成することができる。殺生物剤は、例えば、船殻などの基材が低速または重大な汚染状態に曝される場合に利用されてもよい。
【0022】
本発明の目的は、船殻などの水中構造物の表面に付着する、フジツボのような動物および藻/粘液の両方の海洋生物を防止することができるコーティング組成物用の新規の結合剤を提供することである。本発明の着想は、とりわけ、基材上に再生可能な非粘着性表面を提供するために、汚染物剥離型コーティングおよび自己研磨性防汚コーティングの利点を組み合わせることである。結合剤は、場合によってコーティングの防汚効果を延長するために、殺生物剤を与えられてもよく、または与えられなくてもよい。
【0023】
したがって、本発明は、場合により殺生物剤を用いて低表面張力の再生可能なコーティングを提供するために、2つの技術の利点を組み合わせる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、骨格に加水分解可能なエステル単位を含むポリマーを提供するために、ポリシロキサン単位と、ポリシロキサンではないより短いコモノマー分子とを重合させることによって生成されるコポリマーを使用してこの目的を達成する。代替的に、本発明は、それらの間に加水分解可能なエステル結合を生成するためにともに結合する2つの(異なる)ポリシロキサン反応物の組み合わせを想定する。
【0025】
本発明者らは、驚くべきことに、本明細書において設計されるポリマーが海水中で加水分解して表面を再生し、必要に応じてコーティング内に殺生物剤を浸出させることができることを見出した。また、本発明の結合剤は、低いVOC、低い表面エネルギーおよび低い弾性率を有するコーティング組成物を提供する。
【0026】
したがって、一観点から見ると、本発明は、海洋コーティング組成物用の結合剤を提供し、上記結合剤は、以下の式の複数の単位を含むABAB型ポリシロキサンコポリマーであって、
【0027】
【0028】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表し、
R"は、独立して、C1-6アルキルまたはH、特にHであり得、
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100であり、Q1は、20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニルまたは芳香族基または共有結合であり、
Q2は、20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニル、ポリオキシアルキレンまたは芳香族基である。
【0029】
別の観点から見ると、本発明は、以下の一般式(A’)の少なくとも1つのポリシロキサンであって、
【0030】
【0031】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表し、
XおよびYは、同じであってもよく、または異なってもよく、(CR"2)x'-OH,(CR"2)x'COOH,(CR"2)x'COORまたは-(CR"2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表し、
R"は、独立して、C1-6アルキルまたはH、特にHであり得、
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
RはC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基であり、
R11は各々独立してC2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100であり、
または、n'+mが1~500、より好ましくは10~300、特に15~100になる、少なくとも1つのポリシロキサンと、
以下の式の少なくとも1つの第2のモノマーB’であって、
【0032】
【0033】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表し、
XおよびYは、同じであってもよく、または異なってもよく、(CR"2)x'-OH,(CR"2)x'COOH,(CR"2)x'COOR,または-(CR"2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表し、
R"は、独立して、C1-6アルキルまたはH、特にHであり得、
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
RはC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基であり、
R11は各々独立してC2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100であり、
またはn'+mが1~500、より好ましくは10~300、特に15~100になる、少なくとも1つの第2のモノマーB’との反応生成物を含む海洋コーティング組成物のための結合剤を提供し、
但し、モノマーB'中のX基およびY基は、モノマーA'中のX基およびY基と反応してエステル基を形成するように選択されることを条件とする。
【0034】
これらのモノマーは、重合反応を経て、構造-[ABAB]-のコポリマーを形成する。
【0035】
XおよびYは同じであっても、または異なっていてもよく、(CH2)x'-OH,(CH2)x'COOH,(CH2)x'COORまたは-(CH2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表すことが好ましい。XとYは理想的には同じである。
【0036】
別の観点から見ると、本発明は、以下の一般式(A’)の少なくとも1つのポリシロキサンであって、
【0037】
【0038】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表し、
XおよびYは、同じであってもよく、または異なってもよく、(CR"2)x'-OH,(CR"2)x'COOH,(CR"2)x'COORまたは-(CR"2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表し、
R"は、独立して、C1-6アルキルまたはH、特にHであり得、
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
RはC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基であり、
R11は各々独立してC2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100であり、
またはn'+mが1~500、より好ましくは10~300、特に15~100になる、少なくとも1つのポリシロキサンと、
(i)以下の式の少なくとも1つの第2のモノマーB’であって、
W-Q-Z
WおよびZは各々独立してRcOOC,RcOCOO-,RcCOOCO-,-COOH,Hal-COまたはOHであり、
Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニル、ポリオキシアルキレン、アミンエーテルもしくは芳香族基であり、または、QはOもしくは共有結合であり、
各Rcは同じかまたは異なり、ハロ、H、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C6-20アリール、C3-20シクロアルキルまたはC7-20アリールアルキル基を表し、
但し、モノマーB'中のWおよびZ基はモノマーA'中のX基およびY基と反応してエステル基を形成するように選択されることを条件とする、少なくとも1つの第2のモノマーB’、
あるいは(ii)モノマーA'のX基およびY基と反応してエステルを形成する環状無水物である少なくとも1つの第2のモノマーB'との反応生成物を含む海洋コーティング組成物のための結合剤を提供することを含む。
【0039】
両方のRc基は好ましくは同じである。
【0040】
別の観点から見ると、本発明は、以下の一般式(A’)の少なくとも1つのポリシロキサンであって、
【0041】
【0042】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表し、
XおよびYは、同じであってもよく、または異なってもよく、(CR"2)x'-OH,(CR"2)x'COOH,(CR"2)x'COOR,または-(CR"2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表し、
R"は、独立して、C1-6アルキルまたはH、特にHであり得、
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
RはC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基であり、
R11は各々独立してC2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100であり、
またはn'+mが1~500、より好ましくは10~300、特に15~100になる、少なくとも1つのポリシロキサンと、
ジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体(エステル、環式無水物もしくは酸ハライドなど)、またはジオールである少なくとも1つの第2のモノマーB’との反応生成物を含む海洋コーティング組成物のための結合剤であって、得られるポリマーの構造が-[ABAB]-であり、但し、モノマーA’中のX基およびY基はモノマーB’と反応してポリマー骨格中のエステル基を形成することを条件とする、結合剤を提供する。
【0043】
別の観点から見ると、本発明は、上記で定義した結合剤と、好ましくは殺生物剤の非存在下で充填剤、顔料、溶媒、添加剤、硬化剤および触媒のうちの少なくとも1つとを含む汚染物剥離性コーティング組成物を提供する。
【0044】
別の観点から見ると、本発明は、上記で定義した結合剤と、少なくとも1つの防汚剤とを含む防汚コーティング組成物を提供する。
【0045】
別の観点から見ると、本発明は、汚染から物体を保護するための方法であって、汚染を被った上記物体の少なくとも一部を上記のコーティング組成物でコーティングするステップと、好ましくは組成物を硬化させるステップとを含む、方法を提供する。
【0046】
別の観点から見ると、本発明は、上記で定義したコーティング組成物、好ましくは硬化組成物でコーティングした物体を提供する。
【0047】
別の観点から見ると、本発明は、海洋コーティング組成物のための結合剤を調製する方法であって、ポリシロキサン単位A’と少なくとも1つの第2のモノマーB’とを共重合させて、-ABAB-コポリマーを形成するステップを含み、加水分解可能なエステル官能基がコポリマーの骨格に存在する、方法を提供する。
【0048】
別の観点から見ると、本発明は、汚染物剥離性コーティングまたは海洋防汚コーティング組成物において使用するための、上記で定義した結合剤の使用を提供する。
【0049】
定義
殺生物剤および防汚剤という用語は、本明細書では互換的に使用され、以下に定義される。
【0050】
第2のモノマーB'はポリシロキサン単位A'とは必然的に異なるものであることは理解されよう。たとえモノマーB'自体がポリシロキサンであっても、共重合反応を起こさせるためには、ポリシロキサン単位A'と異なっていなければならない。
【0051】
本発明の結合剤は、分子の骨格に複数のエステル加水分解性基を含む。エステル加水分解性官能基は、海水中で加水分解を受ける基である。ポリマーは、好ましくは、ポリマーの骨格に3個以上のような複数の加水分解性エステル基を含むべきである。他の加水分解性基も存在し得る。
【0052】
エステル加水分解性基は理想的には式-[Si-(CH2)x'-O-CO-]-または-[Si-(CH2)x'-CO-O]-のものである。
【0053】
加水分解反応は、その速度が化合物/結合剤の化学構造/組成および周囲の環境条件(塩分、pH、温度、含水量など)の両方に非常に依存する反応であることが理解されよう。加水分解性基は、0~35℃の温度、および天然海水を反映するpHおよび塩分において加水分解する基であるべきである。
【0054】
エステル「加水分解性基」は、コーティング表面が海水を移動しているとき、すなわち0~35°の温度範囲、ならびに、天然海水を反映したpHおよび塩分濃度で海水中で加水分解を受けるときに、コーティング表面研磨効果を引き起こすのに十分な速度で加水分解反応を受けるものでなければならない。
【0055】
エステル加水分解性基と同様に、存在し得る他の基としては、アセタール、ヘミアセタール、ケタール、カルバメート、およびカーボネートならびにシリルエーテルなどの基が挙げられる。
【0056】
疑念を避けるために、エーテル、チオエーテル、アミドおよびアミンは、この点で十分に加水分解可能であるとは考えられていない。シロキサン基は十分に加水分解可能であるとは考えられていない。
【0057】
加水分解性基は、ポリマーの骨格中に存在する必要があり、すなわち、主ポリマー鎖から離れた側鎖に存在するのではない。加水分解性基は、骨格中で繰り返される。ポリマーの側鎖に加水分解性基が存在してもよいが、加水分解性基はポリマーの骨格中には存在しなければならない。
【0058】
効果的であるためには、加水分解性基は、例えば分子の末端にのみ配置されるのではなく、ポリマー分子全体に分散するべきである。本発明のコポリマーは、好ましくは、シロキサンのブロックおよびポリエステルなどの別の材料の末端ブロックが存在するブロックコポリマー、すなわち構造AAAABBBBBBAAAAのポリマーではない。むしろ、本発明のコポリマーは、モノマーA’の少なくとも2つの反復単位およびモノマーB'の少なくとも2つの反復単位を有する構造-[ABAB]-のものである。多くの反復単位があり得、式-[ABAB]-は、任意の数のAB反復単位を有するコポリマーを包含することが意図されることが理解される。以下に分子量を定義する。
【0059】
モノマーA’およびB'はともに反応してポリマー反復単位AおよびBを形成する。
【0060】
アミンエーテルという用語は、C1-6-アルキレン-NH-C 1-6アルキレンのようなアルキレン-NR20-アルキレン構造を意味する。R20は、C1-6アルキルまたはHであってもよい。
【0061】
本発明の任意の実施形態において、アルキル基またはアルキレン基は、好ましくは直鎖状である。
【0062】
n'およびmの両方は、n'+mが1~500、より好ましくは10~300、特に15~100になるような、0~500の値を有することができる。
【0063】
任意の実施形態において、添え字a、bまたはa+bの合計は、好ましくは1~10である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明は、汚染物剥離性コーティング組成物または防汚コーティング組成物に使用することができる新規の結合剤に関する。汚染物剥離性組成物は、好ましくは、防汚剤を含まず、理想的にはその組成物の架橋を介して、本発明の結合剤を含むコーティング組成物から形成される。防汚コーティング組成物という用語は、本発明の結合剤および少なくとも1つの海洋防汚剤を含む組成物を指す。結合剤が加水分解性基を含有するという事実は、いずれのタイプのコーティングにおいても結合剤を理想的なものにする。遅い加水分解はまた、コーティング表面の再生を可能にする。この再生は、汚染物剥離性コーティング組成物上の藻類/粘液の形成の問題に効果的に対処する。加水分解反応は、防汚コーティングにおける防汚剤を制御しながら放出することを可能にする。
【0065】
以下のコーティング組成物という用語は、防汚コーティング組成物または汚染物剥離性コーティング組成物のいずれかを指すために使用される。
【0066】
結合剤という用語は、当該技術用語である。結合剤は、コーティング組成物の実際のフィルム形成成分である。コーティング組成物は、以下に詳細に議論されるように、結合剤および他の成分を含む。結合剤は接着性を付与し、コーティング組成物の成分をともに結合する。
【0067】
ポリシロキサン成分A’
本発明のポリマー結合剤は、例えば、少なくとも2つのモノマーなどの複数のモノマーから構成されている。少なくとも1つのポリシロキサン単位A’(ポリシロキサンモノマーと考えることができる)と、ポリシロキサン単位A’と反応して、ポリマー骨格中の複数のエステル加水分解性結合によってコポリマーを形成する少なくとも1つの他のモノマー単位(本明細書においては第2のモノマーと呼ばれる)B’とが存在する。理想的には、ポリマー骨格はリンカー-[Si-(CH2)x’-O-CO-]-または-[Si-(CH2)x’-CO-O]-を含み、x’は以下のように定義される。
【0068】
このポリマーは、縮合重合によって形成されるため、タイプ-ABABA-であり、AAABBBBBBAAA型のブロックコポリマーではない。海水中で経時的に加水分解し、汚染物剥離性コーティングの表面の再生を可能にし、本発明の防汚組成物中に存在する殺生物剤の再生および浸出を可能にするのは、エステル加水分解性結合である。国際公開第2015082397号パンフレットにおいて、ポリシロキサン結合剤が、ラクトンの開環によって調製されている。エステル結合がラクトンの開環によって生成される場合、ラクトンは開環してそれ自体がさらにラクトンモノマーを開環することができるOHを与える。したがって、得られるポリマーは、シロキサンモノマーを含有するが、一連のラクトン生成反復単位が隣接し得る。したがって、このようなポリマーはABABポリマーではない。
【0069】
骨格は、好ましくは、加水分解性結合-[Si-(CH2)x’-O-CO-]-または-[Si-(CH2)x’-CO-O]-を含む。他の加水分解性結合も存在し得る。加水分解性結合は、実際の重合反応の間に形成されてもよく、または、重合前に重合単位の骨格内に存在し、したがって、重合中にコポリマー骨格の一部となってもよい。共重合の間に形成される加水分解性基、および、モノマー骨格、したがってポリマー骨格中に存在する加水分解性基が存在することも可能である。したがって、好ましい実施態様では、モノマーB’は、ポリシロキサンとの共重合においてポリマー骨格の一部となるモノマーの骨格内に少なくとも1つの加水分解性基を含む。
【0070】
したがって、一実施形態では、これらの加水分解性基の導入は、ポリシロキサン単位A’と第2のモノマーB'との間の反応に依存して、エステル加水分解性結合を生成する。この反応は、ポリシロキサン上の末端基および第2のモノマー上の末端基に応じて、多くの方法で行うことができる。したがって、2つの反応物を結合してエステルを形成することに関わる化学は、広く定義されるが、化学的に極めて単純である。当業者は、例えばエステル結合を開発する多くの方法を知っている。存在する官能基に依存して、ポリシロキサン単位が求核剤として作用し得るか、または求電子剤として作用し得ることが理解されるであろう。ポリシロキサン単位を求核剤として使用する方が容易であり得るが、本発明は、ポリシロキサン単位の末端に求電子基を配置し、第2のモノマーによるポリシロキサン単位の攻撃を可能にするように容易に適合させることができる。重合は、好ましくは縮合重合または付加重合であるが、当業者によく知られている他のタイプの重合もまた使用することができる。
【0071】
第2の実施形態では、第2のモノマーは、その骨格内に、ポリシロキサンとの共重合の際にポリマー骨格の一部となる、1つまたは複数の加水分解性基を含み得る。ここでも、本発明は、このような加水分解性基を有するポリマーを提供する。同時に、加水分解性結合が、共重合の際にA’モノマーとB'モノマーとの間に生じる。
【0072】
本発明の要点は、-[Si-(CH2)x’-O-CO-]-のような加水分解性結合をポリシロキサンポリマーの骨格に導入することによって有益な海洋結合剤を調製することができるという見解であり、当業者は加水分解可能な単位を導入する多くの方法があることを認識している。
【0073】
本発明の結合剤を生成するために共重合されるポリシロキサン単位は、好ましくは以下の一般式(A’)のものである。
【0074】
【0075】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表す。
【0076】
XおよびYは同じであってもよく、または異なってもよく、(CR"2)x'-OH,(CR"2)x'COOH,(CR"2)x'COORまたは-(CR"2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表し、
【0077】
R"は、独立して、C1-6アルキルまたはH、特にHであり得る。
【0078】
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
RはC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基であり、
R11は各々独立にC2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100である。
【0079】
XおよびYは同じであっても、または異なっていてもよく、(CH2)x'-OH,(CH2)x'COOH,(CH2)x'COORまたは-(CH2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表すことが好ましい。XおよびYが同じであることが好ましい。
【0080】
アリールアルキル基という用語は、本明細書では、Siへの結合がアルキル部分を介するベンジル型リンカー(CH2-Ph)、または、ケイ素への結合がアリール基を介するメチルフェニルタイプの基の両方を包含するものとして使用される。
【0081】
すべてのR1基が同じであることが好ましい。R1がC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキルであることが好ましい。R1が非置換であることが好ましい。R1がC1-6アルキル基、例えばエチルまたは特にメチルであることが好ましい。したがって、PDMSの使用が特に好ましい。しかしながら、少なくとも1つのR1基がポリオキシアルキレン鎖であることも可能である。この分子は、ポリシロキサン骨格にわたって分布した複数のこれらの基を含む可能性が高い。そのような鎖の存在は、分子の親水性を高める。適切なポリオキシアルキレン鎖は、以下の式のものである。
【0082】
【0083】
式中、R10およびR11は各々独立してC2-6アルキレンであり、R12はH、CH3CO-、CH3CH2CO-、HCO-またはC1-6アルキルであり、a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50である。側鎖のいかなる反応をも避けるためにR12がHでないことが好ましい。R12は、好ましくはCH3CO-、CH3CH2CO-、HCO-またはC1-6アルキル、特にCH3CO-またはCH3CH2CO-である。
【0084】
したがって、適切な材料には、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンおよびポリ(オキシエチレン-コ-オキシプロピレン)から選択されるものが含まれる。好ましいポリシロキサンモノマーはポリジメチルシロキサン(PDMS)である。反復単位-Si-O-Si-は加水分解可能であるとは考えられないことが理解されよう。
【0085】
末端基XおよびYは、好ましくは同じである。すべてのR基が同じであることが好ましい。RがC1-6アルキル基、例えばエチルまたはメチルであることが好ましい。
【0086】
すべてのR"基が同じであることが好ましい。R"がHであることが好ましい。
【0087】
Xおよび/またはYがカルビノール、すなわち(CH2)x'OH鎖であるか、またはXおよび/またはYが(CH2)x'COOHまたは(CH2)x'COORであることが好ましい。これに関して、Rは好ましくはC1-6アルキルである。下付き文字x’は、好ましくは1~10、例えば2~5または3~5である。
【0088】
PDMSカルビノールの使用が好ましい選択肢である。
【0089】
好ましい選択肢では、ポリシロキサンモノマーA’の数平均分子量(Mn)は少なくとも700、例えば少なくとも1200、例えば少なくとも2000であってもよい。上限は40,000、例えば17,000などの20,000などが適切であり、例えば最大15,000である。
【0090】
理論的には、分岐ポリシロキサンモノマーを使用することができ、したがって、上記式(A’)に認められるXおよびYのみよりも多くの末端基が存在する。分岐構造の使用は、第2のモノマーとの分岐コポリマーの生成を可能にする。しかし、本質的に2つの反応性末端基を含む2官能性ポリシロキサンの使用が好ましいと考えられる。これは、そのようなモノマーが、本質的に直鎖状のポリマーの生成を可能にするためである。本発明の任意のポリマーは、ポリシロキサン単位に由来する少なくとも2つの残基を含む。
【0091】
したがって、好ましいポリシロキサンは、式(A")のものである。
【0092】
【0093】
式中、各R1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH2)x'-OH,-(CH2)x'-COOHまたは-(CH2)x'-COOR、好ましくは(CH2)x'-OHまたは-(CH2)x'-COORを表し、
x’は1~10、特に2~5、例えば3~5であり、
RはC1~20アルキルであり、
nは10~300、特に15~100である。
【0094】
したがって、好ましいポリシロキサンは、式(A3)のものである。
【0095】
【0096】
式中、各R1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH2)x'-OHを表し、
x’は1~5であり、
nは15~300である。
【0097】
したがって、好ましいポリシロキサンは、式(A2)のものである。
【0098】
【0099】
式中、各R1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH2)x'-OHまたは-(CH2)x'-COORを表し、
x’は1~5、特に2~5、例えば3~5であり、
RはC1-6アルキルであり、
nは10~300、特に15~100である。
【0100】
使用することができる潜在的なシロキサン単位には、以下が挙げられる。
【0101】
【0102】
変数は本明細書で定義されている通りである。最初の2つの選択肢が最も優先される。
本発明の結合剤を製造するために、ポリシロキサンを少なくとも1つのさらなるモノマーB'と反応させる。これが第2のモノマーである。加水分解性エステル基が、重合反応中に生成される。特に、本発明のポリシロキサンポリマー中に存在する加水分解性基は、式-Si-(CH2)x'-CO-O-またはSi-(CH2)x'-O-CO-のものである。好ましくは、本発明のポリマーは、式Si
-(CH2)x'-CO-O-またはSi-(CH2)x'-O-CO-の複数の基を含む。
【0103】
本発明のポリシロキサン中のポリシロキサン骨格が式-Si-O-CO-のいずれの基も含まないことが好ましい。また、本発明のポリシロキサン中のポリシロキサン骨格がラクチド結合、すなわち-CO-C1-3-アルキル-O-のような-CO-アルキル-O-基を含まないことが好ましい。
【0104】
ポリシロキサン単位との縮合共重合反応において、多官能性の第2のモノマーを使用することが好ましい。このような縮合重合反応では、2つの「モノマー」が反応して、エステル加水分解性結合が各AおよびB残基の間に存在する構造-[ABAB]-を有するコポリマーを生成する。したがって、本質的に、ポリシロキサンモノマーの末端基は、第2のモノマーの末端基と反応して、2つの単位を結合するとともに、海水中で加水分解するエステル官能基を生成し、したがって、本発明の結合剤が自己研磨するものであることを保証する。
【0105】
したがって、第2のモノマーは、好ましくは、ジエステル、二塩基酸もしくはその誘導体、またはモノマーA’と反応するのに適した末端基官能性を有する第2のシロキサンモノマーである。3官能性または4官能性の第2のモノマー(およびその他)を使用して、必要に応じて分岐構造を生成することが可能である。しかし、第2のモノマーが2官能性であり、したがって本質的に直鎖状のポリマーを生成するのが好ましい。したがって、最も好ましい実施形態では、ポリシロキサン単位および第2のモノマーの両方が2官能性であり、したがって共重合を受ける2つの基のみを有する。
【0106】
例えば一方は酸、他方はエステルの、異なる反応基を有するモノマーを有することが可能である。異なる基が存在する場合、両方が求核剤であるか、または両方が求電子剤であることが好ましい。ここでの化学の変形は、当業者には明らかであろう。
【0107】
一実施形態では、第2のモノマーB'自体は、ポリシロキサン単位と共重合してポリシロキサン単位がエステル加水分解性基を介して結合されるコポリマーを形成するポリシロキサンに基づくことができる。したがって、2つのモノマー単位は、共重合が起こることを可能にするために本質的に異なっていなければならないことが理解されるであろう。したがって、一態様において、モノマーB’は以下の式のものである。
【0108】
【0109】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C3-20シクロアルキル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基、またはポリオキシアルキレン鎖を表す。
【0110】
XおよびYは同じであってもよく、または異なってもよく、(CH2)x'-OH,(CH2)x'COOH,(CH2)x'COORまたは(CH2)x'-(OR11)a-(OR11)b-OHを表し、
x’は1~10、例えば1~5、特に2~5、特に3~5であり、
RはC1-20アルキル、C2-20アルケニル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基であり、
R11は各々独立にC2-6アルキレンであり、
a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であり、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100であり、
ただし、モノマーB’中のX基およびY基は、モノマーA中のX基およびY基と反応してエステル基を生成するように選択されることを条件とする。
【0111】
好ましい選択肢では、モノマーB'中のX基およびY基がモノマーA中のX基およびY基と反応してエステル基を形成することを条件として、モノマーB'は、A"またはA2に関して定義された通りのものである。
【0112】
しかし、モノマー単位は異なるが、最終ポリマーにおいては、反復単位は同じであるように見え得る。例えば、-(CH2)x'-COOH末端PDMSが(CH2)x'OH末端PDMSと共重合される場合、得られるポリマーは、PDMS単位をともに結合するエステル結合を有するPDMSである。
【0113】
第2のモノマーがポリシロキサンでない場合、第2のモノマーはポリシロキサン単位よりも低い分子量であることが好ましく、その結果、結合剤ポリマーの重量の大部分がポリシロキサン残基から形成される。したがって、ポリシロキサン以外の場合の第2のモノマーの数平均Mnが2,000未満、例えば1,000未満、特に500未満、例えば400未満であることが好ましい。
【0114】
特に、第2のモノマーがポリシロキサンを含む他の実施形態において、ポリシロキサンモノマーB'の数平均分子量(Mn)は少なくとも700、例えば少なくとも1,200、例えば少なくとも2,000であってもよい。上限は40,000、例えば17,000などの20,000などが適切であり、例えば最大15,000である。
【0115】
第2のモノマーは、以下の一般式(B')を有することができる。
【0116】
【0117】
WおよびZは同じかまたは異なり、ポリシロキサンモノマーA’上の末端基XおよびYと反応してエステル加水分解性基を形成することができる官能基であり、
Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニル、ポリオキシアルキレン、アミンエーテルもしくは芳香族基であるか、またはQは-O-または共有結合である。有機化学者は、Qリンカーの性質がW基およびZ基の選択に依存することを理解するであろう。WおよびZがヒドロキシル基である場合、Qは共有結合でもOでもないことは明らかである。
【0118】
WおよびZは、好ましくはOHであるか、またはカルボキシル基、例えばカルボン酸またはエステルまたは酸ハライドを含む。
【0119】
W-Q-Z分子のMnは、好ましくは2000未満、例えば1000未満、特に500未満、例えば300未満である。
【0120】
Qが-O-である場合、モノマーB'は好ましくは無水物である。Q基が共有結合である場合、W-Z基は直接結合してシュウ酸塩などの化合物を形成する。Qがアルキレンまたはフェニルまたはポリオキシアルキレンであることが好ましい。ポリオキシアルキレンの使用は、WおよびZがヒドロキシルである場合に特に好ましい。
【0121】
Qがポリオキシアルキレンである場合、これは以下の構造を有することができる。
【0122】
【0123】
式中、R10およびR11は各々独立してC2-6アルキレンであり、a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50である。
【0124】
理論的には、分岐モノマーB’を使用することができ、したがって、上記式(B’)に認められるWおよびZのみよりも多くの末端基が存在する。分岐構造の使用は、第1のモノマーとの分岐コポリマーの生成を可能にする。しかし、本質的に2つの反応性末端基を含む2官能性ポリシロキサンの使用が好ましいと考えられる。これは、そのようなモノマーが、本質的に直鎖状のポリマーの生成を可能にするためである。
【0125】
分岐モノマーBは、例えば、Qリンカーが3つの利用可能なOH基を有するモノマーなどの、3個以上のヒドロキシル基を含むポリオール構造であってもよい。
【0126】
【0127】
WおよびZは、エステルRc-OOC-,RcCOOCO-もしくは-COOHのような-COO基Hal-CO基を含む末端基を表すことができ、式中、Rcは、H、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C6-20アリール,C3-20シクロアルキル基またはC7-20アリールアルキル基を表す。したがって、酸ハライドまたは無水物のような偽装された酸がカバーされる。エステル結合は、例えば、エステル交換または直接エステル化方法を介して酸/エステルとアルコールとの反応によって得られる。したがって、利用することができる多くの多官能性エステルモノマーが存在する。
【0128】
したがって、適切な第2のモノマーには、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸ジメチル、スベリン酸ジメチルエステル、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジエチル、スベリン酸ジエチル、アゼライン酸またはセバシン酸ジエチルエステルのような脂肪族二塩基酸エステルが含まれる。
【0129】
したがって、適切なエステル/酸は、以下の式であってもよい。
RcOOC-Q-COORc (B2)
式中、Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニルまたは芳香族基または共有結合であり、
各Rcは同じかまたは異なり、H、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C6-20アリール、C3-20シクロアルキル基またはC7-20アリールアルキル基を表す。
両方のRc基は好ましくは同じである。Rcは、好ましくは、H、C1-6アルキルであり、メチルまたはエチルであり得る。
【0130】
したがって、好ましくは、モノマーB'は
RcOOC-Q-COORc (B")
であり、式中、QはC1-6-アルキレン基(例えば直鎖C1-6アルキレン基)であるか、またはQは共有結合であり、
各Rcは同じかまたは異なり、HまたはC1-20アルキル、例えばMeまたはEtを表す。
このようなモノマー単位は、100~2000、好ましくは100~1000、特に100~500のMnを有することができる。一般に、Rc=H、MeまたはEtの使用が好ましい。
【0131】
好ましい選択肢は、シュウ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチルおよびアジピン酸ジエチルから選択されるジカルボン酸ジエステル、上記カルボン酸のC1~C6-アルコールを伴うモノおよびジアルキルエステル、例えば、シュウ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、ジエチルエステル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸モノメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジ-n-ブチル、フマル酸モノエチルおよびマレイン酸ジメチルである。
【0132】
適切なジカルボン酸が無水物を形成することができる場合、結合剤を調製するための成分(a)として少なくともジカルボン酸の無水物、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸または無水コハク酸を使用することも可能である。第2のモノマーとしての使用が特に好ましいのは、テレフタル酸、フタル酸、ならびに、テレフタル酸、o-フタル酸およびm-フタル酸のジメチル、ジエチル、ジプロピルおよびジブチルエステルである。無論、異なるカルボン酸またはエステルの混合物を使用することも可能である。同様に、縮合重合において、例えばカルボン酸とエステルとの混合物またはカルボン酸と無水物との混合物を使用することも可能である。
【0133】
ジアルケニルジエステルが、さらに好ましい選択肢である。適切なジケニルジエステルには、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、マロン酸ジアリル、シュウ酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、アゼライン酸ジアリル、ジグリコン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、リンゴ酸ジアリル、セバシン酸ジアリル、スベリン酸ジアリルが含まれる。
環状ジカルボン酸の例には、以下に示す式B3のものが含まれる。
【0134】
【0135】
式中、Rdは、N、OおよびSからなる群から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を任意選択的に含む、飽和、不飽和または芳香族C3~C8環、好ましくはC5~C6環である。複素環の例には、フラン(例えば、化合物フラン-2,5-ジカルボン酸を与える)が含まれる。ヘテロ原子が環内に存在する場合、2つのカルボキシル基が環内の炭素原子に結合することが理解されるであろう。
【0136】
Rdはフェニル基であってもよい。2つのカルボン酸基は、環上の任意の位置を占めることができる。例えば、RがC6環である場合、2つのカルボン酸基は互いに対してオルト、メタまたはパラであり、好ましくはメタである。
【0137】
環状ジカルボン酸の例には、以下に示す式B4のものが含まれる。
【0138】
【0139】
式中、Rdは、N、OおよびSからなる群から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を任意選択的に含む、飽和、不飽和または芳香族C3~C8環、好ましくはC5~C6環である。ヘテロ原子が環内に存在する場合、2つのエステル基が環内の炭素原子に結合することが理解されるであろう。2つのエステル基は、環上の任意の位置を占めることができる。例えば、RdがC6環である場合、2つのエステル基は互いに対してオルト、メタまたはパラであり、好ましくはメタである。式(III)中のR3およびR4は、各々独立に、直鎖または分岐鎖のC1-20アルキル基、好ましくはC1-10アルキル基、より好ましくはC1-6アルキル基、より好ましくはC1-4アルキル基;直鎖または分岐鎖のC2-10アルケニル基、好ましくはC2-6アルケニル基、C6-20アリール基、C7-20アリールアルキル基、好ましくはC7-12アリールアルキル基、好ましくはC6-10アリール基、およびC3-20シクロアルキル基、好ましくはC4-15シクロアルキル基、特にC5-10シクロアルキル基である。R3およびR4は同じであってもよく、または異なっていてもよく、好ましくは同じである。
【0140】
上記の議論は、第2のモノマー上のポリシロキサンの求核攻撃を前提としている。シロキサンがカルボキシル末端基を備えている場合、第2のモノマーは同様にジオールまたはトリオールであり得る。
【0141】
Qが、10個までの炭素原子を有するアルキレン鎖のような20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニル、ポリオキシアルキレンまたは芳香族基である場合、任意のHO-Q-OHジオールを使用することができる。以下のようなポリオキシアルキレンが使用される。
【0142】
【0143】
式中、R10およびR11は各々独立してC2-6アルキレンであり、a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50であることが好ましい。
【0144】
したがって、好ましいジオールとしては、
HO-Qz-OHが含まれ、式中、Qzは、ポリオキシアルキレン-R10-(OR11)a-(OR11)b-またはC1-10アルキレン基であり、
式中、R10およびR11は各々独立してC2-6アルキレンであり、a=0~50、b=0~50かつa+b=1~50である。
【0145】
本発明の結合剤の調製に1つ以上の第2のモノマーを使用することも本発明の範囲内である。しかしながら、理想的には、ただ1つの第2のモノマーが使用される。
【0146】
第2のモノマーがポリシロキサンとほぼ化学量論的モル比で、または、場合によってはモノマーのうちの1つがわずかに余分になって、一般的には求核剤が余分になって混合されていることが好ましい。
【0147】
さらなる実施形態では、第2のモノマーは、無水メチルなどの単純無水物であってもよい。無水物は、スキーム1に示すように、カルボキシル官能化ポリシロキサンと反応する。
【0148】
ポリ無水物-シロキサンコポリマー
【0149】
【0150】
rは反復単位を意味する。
【0151】
スキーム1
スキーム1では、酸塩化物モノマーBを利用する:
【0152】
【0153】
rは反復単位を意味する。
【0154】
スキーム2
無水物リンカーは、急速に加水分解され、表面研磨フィルムを生じる傾向がある。対象の無水物は、以下の式のものであり得る。
【0155】
【0156】
式中、RfはC1-6アルキルまたは一緒になってC1-6アルキル環のような環を形成する2個のRfである。
【0157】
前述のように、ポリシロキサン単位を使用した、ポリオキシアルキレン側鎖の使用が、1つの可能性である。
【0158】
【0159】
mおよびnは独立して1~100、例えば1~50であり、aは1~10であり、RはCH3CO-、CH3CH2CO-、HCO-またはC1-6アルキルである。
【0160】
ポリエーテルの導入
好ましい実施形態では、第2のモノマーは、分子の骨格に、例えばPEGまたはPPG基などのポリエーテル基を導入するように設計される。PEG、PPGのような組み込まれるポリ(オキシアルキレン)は、50~5000、例えば50~2000、より好ましくは1000未満のMnを有し得る。好ましくはPEGは、1~100、より好ましくは1~50、特に2~30の反復単位を有する。
例えば、ポリエステル-シロキサンポリマー骨格にPEGを組み込むことは、スキーム3によって達成することができる。
【0161】
【0162】
スキーム3
ポリエーテルの存在は、結合剤を用いて形成されるポリマーフィルムの吸水率を調節するのに役立ち、PEGによるヒドロゲル様特性を加えて、タンパク質吸着に対して不活性にすることができる。
【0163】
したがって、好ましい選択肢では、モノマーB'は、エチレングリコールまたはプロピレングリコール反復単位を含む。
【0164】
したがって、モノマーB'は、PEGまたはPPGを含むリンカーによって結合された末端基WおよびZ(通常はヒドロキシル)を含み得る。
【0165】
上記の説明により、当業者は、特許請求の範囲内の機能的定義の要件を満たす様々な結合剤を設計することができる。
【0166】
したがって、一実施形態では、本発明は、以下のモノマーA’の少なくとも1つのポリシロキサンであって、
【0167】
【0168】
各R1はメチルであり、
XおよびYは同じであり、(CH2)x'-OH or -(CH2)x'-COOHまたは-(CH2)x'-COORを表し、
x’は1~5、特に2~5、例えば3~5であり、
RはC1-6アルキルであり、
nは10~300、特に15~100である、ポリシロキサンと、
以下の式の少なくとも1つの第2のモノマーB’であって、
RcOOC-Q-COORc(式B’’)
または
Rc'O-Q-ORc'...(式B’’’)
Qは20個までの炭素原子を有する脂肪族、シクロアルキル、シクロアルケニル、ポリオキシアルキレンまたは芳香族基、または共有結合または直鎖ポリシロキサンであり、各RcおよびRc'は同じかまたは異なり、H、C1-20アルキル、C2~20アルケニル、C6-20アリール、C3-20シクロアルキル基またはC7-20アリールアルキル基であり、
(式B'')または(式B’’’)のRc基またはRc'基は、モノマーA’中のX基およびY基と反応してエステル基を形成するように選択されることを条件とする、第2のモノマーB’との反応生成物を含む加水分解性結合剤に関する。
【0169】
結合剤
すべての可能な選択肢をカバーする一般式を考案することは困難であることは理解されよう。好ましい実施形態では、本発明で使用される結合剤は、式(C)の単位を含み、
【0170】
【0171】
各R1は同じかまたは異なり、非置換または置換C1-20アルキル、C2-20アルケニル、C6-20アリール、C7-20アリールアルキル基またはポリオキシアルキレン基を表し、
x’は前記と同様に定義され、
nは1~500、より好ましくは10~300、特に15~100である。
【0172】
本発明の結合剤は、数平均分子量Mnが2,000~100,000、例えば5,000~80,000、特に10,000~50,000であることが好ましい。
【0173】
本発明の結合剤は、0℃以下、好ましくは-50℃以下、特に-100℃以下のような非常に低いガラス転移温度を有する。
【0174】
末端封止
ポリマーは、FおよびGで表される末端基を有していてもよい。基FおよびGは、XおよびY(またはWおよびZ)について上記で定義したとおりであるか、または基FおよびGは、コポリマーの重合後末端封止または末端修飾によって導出することができる。末端封止/末端修飾とは、本明細書においては、例えば、硬化性末端基または架橋剤と反応し得る末端基を含有する共重合の間に天然に形成される末端基の重合後官能化を意味する。架橋は、R1側鎖の官能基化によっても促進され得る。
【0175】
FおよびGは同じであってもよく、または異なっていてもよく、重合において使用されるものと同じであり、モノマーの1つがわずかに余分である。好ましくは、FおよびGは、アルコキシ、ヒドロキシル基、またはアルコキシシランまたはまたはアミンもしくはエポキシなどの他の官能基などの加水分解性基(複数可)である。
【0176】
理想的には、基FおよびGは架橋基であり、すなわち、それらは架橋剤の添加の有無にかかわらず硬化可能である。ポリマーを末端封止する選択肢については、以下で詳しく説明する。
【0177】
結合剤が異なるポリシロキサンモノマーならびに第2のモノマーおよび第3のモノマーを含んでもよいことも理解されよう。したがって、ターポリマー等を形成する可能性は本発明の範囲内である。
【0178】
コポリマー結合剤は、重合前にすべての出発物質を混合するか、または反応中にモノマーの1つを投入することによって得ることができる。当業者には、利用されるモノマーに依存して重合を行う方法が分かることが理解されよう。単位AおよびBは、それ自体とではなく相互にしか反応することができないため、形成される結合剤は、典型的には、使用される単位が交互になったABABABポリマーである。いずれかのタイプの単位が1つ以上存在する場合、パターンは変化することができるが、ポリシロキサン単位はそれ自体で重合すべきではなく、第2のモノマーはそれ自体と重合すべきではないことが理解される。重合を引き起こすためには第2のモノマーの存在が必要となる。ポリマーは好ましくはブロックコポリマーではない。2つの第2のモノマーBおよびCが存在する場合、パターンはAXAXAXであり、XはBまたはCからランダムに選択される。存在するBおよびCの量は、重合の化学量論に依存する。
【0179】
重合条件は、典型的には20~250℃、例えば40~220℃の温度が用いられるが、広範囲に変化させることができる。懸案の重合が縮合重合である場合、縮合物(通常は水またはアルコール)が形成される。これは、好ましくは重合が継続するにつれて蒸留によって除去される。これは、減圧下で達成することができる。重合は、例えば、窒素などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。懸案の重合が付加重合である場合、発熱反応の制御に起因してモノマーの1つの供給が好ましい。
【0180】
本発明の結合剤は、少なくとも5000g/mol、好ましくは少なくとも10000g/mol、より好ましくは少なくとも15000g/mol、特に20000g/mol超の数平均分子量(Mn)を有する。特に好ましい実施形態では、10,000g/molを超える値が好ましい。数平均分子量は、好ましくは100,000g/molまで、例えば80,000g/molまでである。
【0181】
しかしながらMnの増加は粘度をあまりにも高くするため、ここにはトレードオフがあり、これは、コーティング組成物が施与されることを確実にするためにはより多くの溶媒が必要であることを意味する。より多くの溶媒は、望ましくない揮発性有機成分を増加させる。当然のことながら、結合剤は全体として、異なるMnおよび/または異なる加水分解特性/速度、すなわち異なる加水分解基および(加水分解基の含量)を有する2つ以上の結合剤の混合物から生成することができることが理解されよう。結合剤成分の性質を変えることによって、加水分解速度を変えることができる。
【0182】
結合剤がコーティング組成物の少なくとも30重量%、例えば少なくとも40重量%、例えば少なくとも50重量%を形成することが好ましい。結合剤は、コーティング組成物の最大70重量%以下、例えば60重量%以下を形成することができる。
【0183】
架橋および硬化剤
本発明のいくつかの実施形態では、使用時に結合剤ポリマーを架橋することが好ましい。本発明の結合剤ポリマーは、結合剤ポリマーを形成するために使用される基の性質または末端封止に起因して硬化性末端基を有することができる。このような基には、シラノール、カルビノール、カルボキシル、エステル、ヒドリド、アルケニル、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルコキシシランおよびアルコキシ基が含まれる。代替的に、ポリマーの末端基を反応基で末端封止して架橋反応を起こさせることができる。
【0184】
本発明の結合剤は、硬化剤の非存在下または存在下で架橋することができる。
当該技術分野で周知の硬化剤の例としては、例えば、モノマーイソシアネート、ポリマーイソシアネートおよびイソシアネートプレポリマーが挙げられる。ポリイソシアネートは、より低い毒性のためにモノマーイソシアネートよりも好ましい。ポリイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)の化学をベースにすることができる。これらは、例えばBayer Material Scienceによって商品名Desmodurで、および、Vencorexによって商品名Tolonateで販売されている。ポリイソシアネートの例は、Bayer Material Scienceによって販売されているDesmodur N3400、Desmodur N3300、Desmodur N3600、Desmodur N75、Desmodur XP2580、Desmodur Z4470、Desmodur XP2565およびDesmodur VLである。
【0185】
ポリイソシアネートは、異なるNCO官能性で生成することができる。NCO官能性は、ポリイソシアネート分子またはイソシアネートプレポリマー分子当たりのNCO基の量である。異なるNCO官能性を有するポリイソシアネート硬化剤を使用することができる。
硬化剤は、好ましくは、ヒドロキシル基の量に対して0.8~1.5当量、好ましくは0.9~1.4当量、より好ましくは0.95~1.3当量、さらにより好ましくは1~1.2当量のNCO基において存在する。
【0186】
結合剤の末端基の官能性は、出発モノマーに依存する。末端基は、広範囲の硬化反応に適した他の官能基に容易に改変することができる。他の硬化性末端基の例にはエポキシ基が含まれる。
【0187】
例えば、結合剤中のヒドロキシル基を、アクリル酸またはメタクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸と反応させることによって、(メタ)アクリレート基などのエチレン性不飽和基を導入することができる。
【0188】
したがって、結合剤が本質的に硬化性末端基を含有するか、または硬化性末端基を含有するように修飾されていることが好ましい。硬化性末端基を含有するように修飾された化合物は、特に末端基修飾結合剤(または末端封止修飾結合剤)と称され得る。
【0189】
別の末端基修飾剤は、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシランまたはトリアルコキシシランなどのアルコキシシランを含むものである。現在市販されている汚染物剥離性コーティングは、一般に、(m)エトキシ-シラン化合物の加水分解を含む縮合硬化機構によって硬化される。これには、導入される極性物質の量を最小限にする(これは、汚染種との極性の相互作用を増加させる可能性がある)ため、例えば、イソシアネートベースの架橋と比較して有利である。本発明の結合剤のための類似の縮合硬化機構を容易にするために、末端官能基の末端封止反応を行うことができる。
【0190】
例えば、3-イソシアナートプロペニルトリメトキシシランのようなアルコキシシランを用いて末端ヒドロキシル基を変性することができる。
【0191】
したがって、さらなる実施態様では、結合剤は、-SiR"d(OR')3-d基を含む化合物で末端封止され、式中、d=0-2であり、R"およびR'は、独立してC1-6アルキルから選択される。例は、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、メチルジエトキシシリル、メチルジメトキシシリル、ジメチルメトキシシリルおよびジメチルエトキシシリルである。化合物は、全体として、このシロキシ基と、形成されたコポリマー結合剤上の末端基と反応することができるさらなる官能基とを含む。末端封止単位は、理想的には400までのMnを有する低分子量化合物である。
【0192】
使用される化合物の例としては、3-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシランおよびビニルトリメトキシシランが挙げられる。水分の存在下において、結合剤の末端に存在するシロキシ末端基は架橋し始める。場合によっては、末端基はモノ(m)エトキシシランであってもよく、その場合、別個の架橋剤を使用してコーティング(例えばアルコキシシラン、例えばメチルトリメトキシシランまたはその縮合生成物(例えばWACKER(登録商標)TES 40 WN))を硬化させることができる。
【0193】
架橋剤は、好ましくは、コーティング組成物の乾燥重量で0~10%を構成し、例えば、下記に示す一般式(2)で表される有機ケイ素化合物、その部分加水分解縮合物、またはこれらの2つの混合物である。
Ra-Si-X4-d(2)
式中、各Rは、独立して、1~6個の炭素原子を有する非置換または置換の一価炭化水素基を表し、各Xは独立して加水分解性基を表し、dは0~2の整数、例えば0~1を表す。
【0194】
結合剤ポリマーと硬化剤との混合は、被膜を対象物に施与する直前、例えば、コーティングもしくは結合剤が硬化可能な形態で、但し早すぎる硬化を防ぐために乾燥状態に保持されて供給され得る1時間未満前に行うことができる。いくつかの実施形態では、硬化剤/末端封止剤は、コーティングが物体に施与される前の硬化を防止するために、コーティング組成物の残りの部分に別々に供給される。末端がモノ(m)エトキシシランである場合、(m)エトキシシラン架橋剤、例えば、TES 40 WNを、結合剤と組み合わせて使用することができる。したがって、本発明のコーティング組成物は、マルチパック(好ましくは2パック)製剤として供給することができる。
【0195】
したがって、別の観点から見ると、本発明は、(I)本明細書に記載の結合剤ポリマーおよび(II)硬化または末端封止剤を含むキットを提供する。好ましくは、施与の直前に成分を混合する旨の使用説明書が供給される。1つまたは他の成分に触媒を供給して、架橋プロセスを促進することもできる。
【0196】
コーティング組成物
本発明のコーティング組成物は、結合剤または結合剤の混合物を含有する。組成物はまた、汚染物剥離性組成物の他の従来の成分を含有してもよい。
【0197】
ポリシロキサンベースの結合剤系は、典型的には、コーティング組成物の乾燥重量で20~90%、乾燥重量で少なくとも40%、特に乾燥重量で50~90%を構成する。
【0198】
本発明の結合剤は海水中で分解する。結合剤が受ける分解反応は、ポリマー骨格中で起こる加水分解反応であり、すなわち加水分解性結合がポリマー骨格中に存在することが理解されよう。
【0199】
結合剤に加えて、本発明のコーティング組成物は、添加油、触媒、殺生物剤、酵素および共結合剤のような他の成分を含むことができる。他の従来の成分には、溶媒、添加剤、顔料および充填剤が含まれる。
【0200】
添加油
コーティング組成物は、例えば、国際公開第2011/076856号パンフレットに記載されているような周知の親水性変性添加剤オイルを含み得る。組成物は、親水性変性ポリシロキサン油、すなわちポリシロキサンベースの結合剤マトリックスに共有結合を形成しない成分をさらに含んでもよい。親水性変性ポリシロキサン油は、同じ分子中に親水性基と親油性基の両方を含有することに起因して、界面活性剤および乳化剤として広く使用されている。上記のポリシロキサン成分とは対照的に、親水性変性ポリシロキサン油は、結合剤(または結合剤成分)または架橋剤(存在する場合)と反応し得る基を含まないように選択され、したがって親水性変性ポリシロキサン油は、特に結合剤成分に関して非反応性であることが意図されている。特に、ポリシロキサンベースの結合剤系の成分との反応を避けるために、親水性変性ポリシロキサン油には、Si-OH基などのケイ素反応性基、Si-OR基などの加水分解性基(アルコキシ、オキシム、アセトキシなど)が存在しない。
【0201】
非反応性親水性変性ポリシロキサン油は、一般的に、極性および/または水素結合が可能であり、極性溶媒との、特に水、または、他の極性オリゴマーもしくはポリマー基との相互作用を増強することができる非イオン性オリゴマーまたはポリマー基の添加によって変性される。これらの基の例には、上記のコポリマーを含む、アミド(例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド])、ポリ(N、N-ジメタクリルアミド)、酸(例えばポリ(アクリル酸))、アルコール(例えば、ポリ(グリセロール)、ポリHEMA、ポリサッカライド、ポリ(ビニルアルコール))、ケトン(ポリケトン)、アルデヒド(例えば、ポリ(グルロン酸アルデヒド)、アミン(例えばポリビニルアミン)、エステル(例えば、ポリカプロラクトン、ポリ(酢酸ビニル))、エーテル(例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)のようなポリオキシアルキレン)、イミド(例えばポリ(2-メチル-2-オキサゾリン))などが挙げられる。
【0202】
親水性は、ポリオキシアルキレン基による修飾によって得られることが好ましい。好ましい実施形態では、親水性変性ポリシロキサン油(存在する場合)は、100~100,000g/molの範囲、例えば250~75,000g/molの範囲、特に500~50,000g/モルの範囲の数平均分子量(Mn)を有する。
【0203】
1つまたは複数の親水性変性ポリシロキサン油は、コーティング組成物中に、乾燥重量で0.01~30%、例えば、乾燥重量で0.05~10%で含まれる。特定の実施形態では、1つまたは複数の親水性変性ポリシロキサン油は、コーティング組成物の、乾燥重量で0.05~7%、例えば、乾燥重量で0.1~5%、特に乾燥重量で0.5~3%を構成する。
【0204】
対象の他の添加油は、国際公開第2008132196号パンフレットに記載されている。好適な非反応性流体は、メチルフェニルシリコーン油、ポリジメチルシロキサン、国際公開第2008/132195号パンフレットに開示されているカルボキシル官能性オルガノシロキサンなどのシリコーン油、石油、ポリオレフィン油、多環芳香族油、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂、または、流体フッ素化アルキルもしくはアルコキシ含有ポリマー、またはラノリンおよびラノリン誘導体、ならびに国際出願第PCT/EP2012/065920号パンフレットに開示されているような他のステロール(複数可)および/またはステロール誘導体(複数可)、またはそれらの組み合わせである。好ましい非反応性流体はメチルフェニルシリコーン油である。国際公開第2014131695号パンフレットに記載されているフッ素化両親媒性ポリマー/オリゴマーも興味深い。非反応性流体の割合は、コーティング組成物の固形分を基準として、好ましくは5~25重量%、より好ましくは5~10重量%である。
【0205】
殺生物剤/防汚剤
一実施形態では、殺生物剤を本発明の結合剤に使用することができる。好適な殺生物剤は周知であり、国際公開第2013/000479号パンフレットに見出すことができる。
【0206】
本文脈において、「殺生物剤」という用語は、化学的または生物学的手段により、有害生物を破壊し、抑制し、無害化し、その活動を防止し、または他の様態で有害生物に対する制御効果を発揮することを意図した活性物質を意味する。殺生物剤の実例は、ビス(ジメチルジチオカルバメート)亜鉛、エチレン-ビス(ジチオカルバメート)亜鉛、エチレン-ビス(ジチオ-カルバマート)マンガンのような金属ジチオカルバメートおよびこれらの間の錯体;ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジン-チオナート-0、S)-銅、アクリル酸銅、ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオネート-0、S)-亜鉛;フェニル(ビスピリジル)-ビスマスジクロライド;酸化銅(I)、酸化第一銅、金属銅、銅-ニッケル合金のような銅金属合金のような金属殺生物剤;チオシアン酸第一銅、塩基性炭酸銅、水酸化銅、メタホウ酸バリウム、および硫化銅などの金属塩;3a,4,7,7a-テトラヒドロ-2-((トリクロロ-メチル)-チオ)-1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン、ピリジン-トリフェニルボラン、1-(2,4,6-トリクロロ-フェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)-ピリジン、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミン-s-トリアジン、およびキノリン誘導体などの複素環式窒素化合物;2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-オクチル-3(2H)-イソチアゾリン(Sea-Nine(登録商標)-211N)、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、および2-(チオシアナトメチルチオ)-ベンゾチアゾールなどの複素環式硫黄化合物;N-(1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-2,5-ジオキソ-4-イミダゾリジニル)-N,N'-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、N-(3,4-ジクロロフェニル)-N,N-ジメチル尿素、N,N-ジメチルクロロフェニル尿素などの尿素誘導体;カルボン酸のアミドまたはイミド;スルホン酸および2,4,6-トリクロロフェニルマレイミド、1,1-ジクロロ-N-((ジメチルアミノ)スルホニル)-1-フルオロ-N-(4-メチルフェニル)-メタンスルフェンアミド、2.2-ジブロモ-3-ニトリロ-プロピオンアミド、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、N,N-ジメチル-N'-フェニル-N'-(フルオロジクロロメチルチオ)-スルファミド、およびN-メチロールホルムアミドなどのスルホン酸の;2-((3-ヨード-2-プロピニル)オキシ)-エタノールフェニルカルバメートおよびN,N-ジデシル-N-メチル-ポリ(オキシエチル)アンモニウムプロピオネートなどのカルボン酸の塩またはエステル;デヒドロアビエチルアミンおよびココジメチルアミンのようなアミン;ジ(2-ヒドロキシエトキシ)メタン、5,5'-ジクロロ-2,2'-ジヒドロキシジフェニルメタン、およびメチレン-ビスチオシアネートなどの置換メタン;2,4,5,6-テトラクロロ-1,3-ベンゼンジカルボニトリル、1,1-ジクロロ-N-((ジメチルアミノ)-スルホニル)-1-フルオロ-N-フェニルメタンスルフェンアミド、および1-((ジヨードメチル)スルホニル)-4-メチル-ベンゼンなどの置換ベンゼン;トリ-n-ブチルテトラデシルホスホニウムクロライドなどのテトラアルキルホスホニウムハロゲン化物;n-ドデシルグアニジン塩酸塩などのグアニジン誘導体;ビス-(ジメチルチオカルバモイル)-ジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド;フェニルカプサイシン;
メデトミジンのようなイミダゾール含有化合物;2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロールおよびそれらの混合物から選択されるものである。現在、殺生物剤はスズを含まないことが好ましい。
【0207】
現在好ましい殺生物剤は、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル(クロロタロニル)、チオシアン酸銅(第一銅スルホシアネート)、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミド(ジクロフルアニド)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(ジウロン)、N2-tert-ブチル-N4-シクロプロピル-6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(シブトリン)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、(2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール、トラロピリル)、シブトリン、(RS)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-3H-イミダゾール(メデトミジン)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT、Sea-Nine(登録商標)211N)、ジクロロ-N-((ジメチルアミノ)スルホニル)フルオロ-N-(p-トリル)メタンスルフェンアミド(トリルフルアニド)、2-(チオシアノメチルチオ)-1,3-ベンゾチアゾール((2-ベンゾチアゾリルチオ)メチルチオシアネート;TCMTB)、トリフェニルボランピリジン(TPBP);ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオネート-0,S)-(T-4)亜鉛(亜鉛ピリジンチオン;亜鉛ピリチオン)、ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオネート-0,S)-(T-4)銅(銅ピリジンチオン;銅ピリチオン;銅オマジン)、亜鉛エチレン-1,2-ビス-ジチオカルバメート(亜鉛-エチレン-N-N'-ジチオカルバメート;ジネブ);酸化銅(I)、金属銅、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(ジウロン)およびジヨードメチル-p-トリルスルホン;Amical 48、フェニルカプサイシンからなる群から選択されるものである。好ましくは、少なくとも1つの殺生物剤が上記のリストから選択される。
【0208】
特に好ましい実施形態では、殺生物剤は、好ましくは、粘液および藻類などの軟質汚染物に対して有効な殺生物剤の中から選択される。そのような殺生物剤の例は、N2-tert-ブチル-N4-シクロプロピル-6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(シブトリン)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT,Sea-Nine(登録商標)211N)、ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンエチオナート-0、S)-(T-4)亜鉛(亜鉛ピリジンチオン;亜鉛ピリチオン)、ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンエチオナート-0、S)-(T-4)銅(銅ピリジンチオン;銅ピリチオン)および亜鉛エチレン-1,2-ビス-ジチオカルバメート(亜鉛-エチレン-N-N’-ジチオカルバメート;ジネブ)、酸化銅(I)、金属銅、チオシアン酸銅、(第一銅スルホシアネート)、ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナート-O、S)-T-4)銅(銅ピリジンチオン;銅ピリチオン;銅オマジン)である。
【0209】
さらに特に好ましい実施形態では、殺生物剤は、ピリチオン錯体、亜鉛ピリチオンまたは銅ピリチオンなどの有機殺生物剤である。有機殺生物剤は、完全にまたは部分的に有機起源のものである。必要に応じて、海洋防汚剤は、不活性担体上に封入または吸着されてもよく、または、制御放出のために他の材料に結合されてもよい。
【0210】
本発明の防汚組成物中の有機殺生物剤の総量は、0.1~40重量%、例えば0.1~20重量%、例えば0.5~10重量%(コーティング組成物の乾燥重量)の範囲内であってもよく、例えば1~8重量%である。本発明の防汚組成物中の酸化第一銅、酸化銅(I)、金属銅などの無機殺生物剤の総量は、乾燥重量で0.5~80%の範囲内、例えば1~70であり得る。この成分の量は、最終用途および使用される海洋防汚剤に依存して変化することが理解されよう。
【0211】
触媒
硬化プロセスを補助するために、本発明のコーティング組成物は触媒を含有してもよい。国際公開第2014/131695号パンフレットは、可能性のある触媒の広範なリストを提供する。使用することができる触媒の例は、遷移金属化合物、スズ、鉄、鉛、バリウム、コバルト、亜鉛、アンチモン、カドミウム、マンガン、クロム、ニッケル、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウムおよびジルコニウムなどの様々な金属の金属塩および有機金属錯体を含む。塩は、好ましくは、長鎖カルボン酸および/もしくはキレートの塩または有機金属塩である。適切な触媒の例としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズ2-エチルヘキサノエート、ジブチルスズジネオデカノエート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジベンゾエート、ジブチルスズアセトアセトネート、ジブチルスズアセチルアセトネート、ジブチルスズアルキルアセトアセトネート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズ2-エチルヘキサノエート、ジオクチルスズジネオデカノエート、ジオクチルスズジメトキシド、ジオクチルスズジベンゾエート、ジオクチルスズアセトアセトネート、ジオクチルスズアセチルアセトネート、ジオクチルスズアルキルアセトアセトネート、ジメチルスズジブチレート、ジメチルスズビスネオデカノエート、ジメチルスズジネオデカノエート、ナフテン酸スズ、酪酸スズ、オレイン酸スズ、カプリル酸スズ、オクタン酸スズ、ステアリン酸スズ、オクト酸スズ、ステアリン酸鉄、2-エチルヘキサン酸鉄、オクト酸鉛、2-エチルオクト酸鉛、2-エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、2-エチルヘキサン酸マンガン、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、金属トリフレート、酒石酸トリエチルスズ、オクト酸第一スズ、カルボキシメトキシフェニルスズトリスベレート、イソブチルスズトリセロエートが挙げられる。
【0212】
適切な触媒のさらなる例としては、有機ビスマス化合物、例えばビスマス2-エチルヘキサノエート、ビスマスオクタノエートおよびビスマスネオデカノエートが挙げられる。適切な触媒のさらなる例としては、ナフテン酸チタン、ナフテン酸ジルコニウム、チタン酸テトラブチル、テトラキス(2-エチルヘキシル)チタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)-チタネート、チタンテトラブタノレート、チタンテトラプロパノラート、チタンテトライソプロパノラート、テトラブチルジルコネート、テトラキス(2-エチルヘキシル)ジルコネート、トリエタノールアミンジルコネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)-ジルコネート、ジルコニウムテトラブタノレート、ジルコニウムテトラプロパノラート、ジルコニウムテトライソプロパノラート、および、キレート化チタネート、例えばジイソプロピルビス(アセチルアセトニル)チタネート、ジイソプロピルビス(エチルアセトアセトニル)チタネートおよびジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)などの有機チタン、有機ジルコニウムおよび有機ハフニウム化合物ならびにチタン酸塩およびジルコン酸エステルが挙げられる。
好ましくは、触媒は、コーティング組成物の総重量に基づいて0.01~5重量%、特に0.05~4重量%の量で存在する。
【0213】
溶媒、顔料、充填剤および添加剤
コーティングは溶媒を含んでもよい。適切な溶媒には、脂肪族、脂環式および芳香族炭化水素、アルコール、ケトン、エステルおよび上記の混合物が含まれる。適切な溶媒の例は、ホワイトスピリット、シクロヘキサン、トルエン、キシレンおよびナフサ溶媒、エステル、例えばメトキシプロピルアセテート、n-ブチルアセテートおよび2-エトキシエチルアセテート;オクタメチルトリシロキサン、およびそれらの混合物である。溶媒は、存在する場合には、典型的には、コーティング組成物の総重量に基づいて5~50重量%を構成する。固形分は、ASTM法D2697に従って決定することができる。
【0214】
本発明のコーティング組成物はまた、顔料を含んでもよい。含量の例としては、黒色酸化鉄、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、赤色モリブデン酸塩、黄色モリブデン酸塩、硫化亜鉛、酸化アンチモン、スルホケイ酸ナトリウムアルミニウム、キナクリドン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、インダントロンブルー、酸化コバルトアルミニウム、カルバゾールジオキサジン、酸化クロム、イソインドリンオレンジ、ビス-アセトアセト-トリジオール、ベンズイミダゾロン、キナフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、テトラクロロイソインドリノン、およびキノフタロンイエロー、金属フレーク材料(例えばアルミニウムフレーク)、または、亜鉛粉または亜鉛合金などの他のいわゆるバリヤ顔料もしくは防食顔料、または、グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステンもしくは窒化ホウ素のような他のいわゆる潤滑顔料が挙げられる。好ましい顔料は、黒色酸化鉄、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、スルホケイ酸ナトリウムアルミニウムおよび二酸化チタンである。
【0215】
顔料の割合は、コーティング組成物の総重量を基準にして0~25重量%、好ましくは0~15重量%の範囲内であってもよい。
【0216】
本発明のコーティング組成物はまた、充填剤を含んでもよい。本発明によるコーティング組成物に使用することができる充填剤の例としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、焼成シリカ、ベントナイトおよび他の粘土を含むシリカまたはケイ酸塩(タルク、長石および陶土など)、および一般に縮合された分岐ポリシロキサンである固体シリコーン樹脂が挙げられる。ヒュームドシリカのようないくつかの充填剤は、コーティング組成物に対してチキソトロピー効果を有し得る。充填剤の割合は、コーティング組成物の総重量を基準にして0~25重量%の範囲内、好ましくは0~10重量%の範囲内、より好ましくは0~5重量%の範囲内であり得る。
【0217】
本発明によるコーティング組成物は、任意選択的に、他の界面活性剤、湿潤剤、増粘剤、沈降防止剤、および染料の中から選択される1つまたは複数の成分を含む。
【0218】
コーティングフィルムの自己研磨特性および機械的特性を調整するために、追加の結合剤を使用することができる。本発明によるコーティング組成物中の本発明の結合剤に加えて使用することができる結合剤の例には、他のポリシロキサンが含まれる。
【0219】
コーティング組成物の施与
本発明のコーティング組成物は、汚染の影響を受けやすい任意の物体表面の全体または一部に施与することができる。表面は、永続的または断続的に(例えば、潮汐運動、種々の貨物の積載または増減によって)水中に存在し得る。物体表面は、典型的には、船舶の船殻、または、石油プラットフォームもしくはブイなどの固定海洋物体の表面である。コーティング組成物の施与は、任意の便利な手段、例えば、コーティングを物体に塗装(例えば、ブラシまたはローラによる)または噴霧することによって行うことができる。典型的には、コーティングを可能にするために海水から表面を分離する必要がある。コーティングの施与は、当該技術分野において従来から知られているように達成することができる。
【0220】
コーティング組成物は、ブラッシング、ローラコーティング、または噴霧(無気および空気補助)のような通常の技法によって施与することができる。基材への適切な接着を達成するために、下塗りされた基材にコーティング組成物を施与することが好ましい。プライマは、PDMSコーティングに適した任意の従来のプライマ/シーラコーティングシステムであり得る。本発明によるコーティング組成物を、老化した防汚コーティング層または汚染物剥離層を含む基材上に施与することも可能である。このような老化層に本発明のコーティング組成物を施与する前に、この古い層が高圧水洗によって清浄化されて汚染物が除去される。国際公開第99/33927号パンフレットに開示されているプライマを、老化したコーティング層と本発明によるコーティング組成物との間のタイコートとして使用することができる。
【0221】
任意選択的に、プライマは、国際公開第2010/018164号パンフレットに開示されているような接着促進剤を含んでもよい。
【0222】
任意選択的に、プライマは殺生物剤を含んでいてもよい。コーティングを硬化させた後、これは直ちに浸漬することができ、即時の防汚または汚染物剥離性保護を与える。上記のように、本発明によるコーティング組成物は、非常に良好な防汚性および汚染物剥離性を有する。これにより、これらのコーティング組成物は、海洋用途のための防汚または汚染物剥離性コーティングとしての使用に非常に適したものになる。このコーティングは、船殻、ブイ、掘削プラットフォーム、乾ドック設備、油および/またはガス生産リグ、浮遊油およびガス処理、貯蔵および積載船、水耕設備、網およびケージ、海上風力タービンならびに潮汐および波エネルギー装置などのエネルギー発生装置、パワープラントおよび発電所の冷却水取水口、ならびに、水に浸漬されたパイプ、ならびに、水の貯蔵および輸送に使用されるタンク、パイプおよび導管などの動的構造および静的構造の両方に使用することができる。コーティングは、金属、コンクリート、木材、プラスチックまたは繊維強化プラスチックのようなこれらの構造に使用される任意の基材上に施与することができる。
【0223】
本発明は、ここで、以下の非限定的な実施例を参照して定義される。
SiH含有量の測定
使用される水素シロキサンのSiH値、および、それだけでなく反応母材のSiH値の決定は、各事例において、ガスビュレット中のサンプル量のブチル化ナトリウム誘導分別法によってガス容積測定によって行われる。一般的なガスの式で使用すると、測定された水素容積は、出発材料中の活性SiH官能基の含有量を決定することを可能にするが、反応混合物中でも可能であり、したがって変換制御を可能にする。
【0224】
ポリマーモル質量分布の測定
ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定によって特性化される。Polymer Laboratories製の2つのPLgel 5 μm Mixed-Dカラム(300×7.5mm)を直列にしたPolymer Laboratories PL-GPC 50機器を使用し、大気温度および1mL/分の一定流速のテトラヒドロフランを溶離液として使用して、屈折率(RI)検出器を用いて分子量分布(MWD)を測定した。カラムは、Polymer Laboratories製のポリスチレン標準Easivials PS-Mを用いて較正した。データはPolymer Labs製のCirrusソフトウェアを使用して処理された。
【0225】
5mgの乾燥ポリマーに相当する量のポリマー溶液を5mLのテトラヒドロフランに溶解することによって試料を調製した。GPC測定のためのサンプリングの前に、試料を室温で最低4時間維持した。
【0226】
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)およびMw/Mnに相当する分散度(uM)を表に報告する。
【0227】
赤外分光法(IR)
Specac Ltd.製の単一反射減衰全反射(ATR)アクセサリを備えたPerkin-Elmer Spectrum 100FTIRでIRスペクトルを記録した。
【0228】
吸水率およびフィルムの損失
重量法により吸水率を測定した。コーティングは、300μmのギャップサイズを有するフィルムアプリケータを使用して、事前に計量し番号を付したガラスパネル上に施与された。フィルムを周囲条件下で少なくとも1日間、50℃で一晩乾燥させ、次いで真空下でデシケータ中に24時間乾燥させた。乾燥後、被覆したガラスパネルを計量し、人工海水を入れた容器に入れた。人工海水は、NaClを脱イオン水(33.3g/L)に溶解し、必要に応じて2M HCl(水)溶液またはNaOH(水)溶液を用いてpHを8.1~8.4に調整して調製した。
【0229】
読み取り時に、パネルおよびコーティング表面を圧縮空気を用いて迅速に乾燥させた。パネルを計量し、その後50℃で2日間乾燥させた後、再びデシケータに入れて24時間真空にした後、再び計量した。暴露後のコーティングフィルムの乾燥重量に対する乾燥前後の重量差が、吸水率としてパーセンテージで表される。暴露前の初期乾燥フィルム重量に対する読み取り値における乾燥フィルムの重量の差が、フィルム損失としてパーセンテージで表される。結果は、3つの対比の平均として提示される。
【0230】
海水中のコーティングフィルムの研磨速度の決定
研磨速度は、経時的なコーティングフィルムのフィルム厚さの低減を測定することにより求めた。この試験のために、PVCディスクを使用した。PVCディスクは、コーティング組成物のための適切なプライマ/タイコートで予めコーティングされた。コーティング組成物は、フィルムアプリケータを使用してディスク上に放射状ストライプとして施与した。乾燥コーティングフィルムの厚さは、レーザ表面プロファイラを用いて測定した。PVCディスクをシャフトに取り付け、海水が流れる容器内で回転させた。濾過し、25℃±2℃に温度調節した天然海水を使用した。フィルムの厚さを測定するためにPVCディスクを定期的に取り出した。ディスクをすすぎ、室温で一晩乾燥させた後、フィルムの厚さを測定した。
【0231】
示差走査熱量測定(DSC)
Mettler Toledo DCS 1装置を用いて測定を行った。10mgのサンプルを、密閉されたアルミニウム坩堝に入れ、-150℃~50℃の温度範囲および10℃/分の加熱速度で走査した。
【0232】
化学薬品:
α,ω-カルビノールシロキサン、例えば、Tegomer H-Si 2115(n=10)またはTegomer H-Si 2315(n=30)、Evonik。
α,ω-水素シロキサン(a、w-n=30)、SiH=0.9molH/kg
α,ω-水素シロキサン(a、w-n=10)、SiH=3.24molH/kg
メチル5-ヘキセノエート、TCI Europe GmbHから入手可能
Sigma-Aldrichから入手可能なジエチルエステルモノマー(シュウ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル)。
3-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、Wackerから入手可能
Ti(IV)ブトキシド、ジブチルスズジラウレート、Sigma-Aldrichから入手可能。
【0233】
使用されるKarstedt触媒溶液は、白金が0.1重量%の濃度の白金(0)-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体である(Gelest/ABCR AB153234から入手可能、CAS 68478-92-2、2.1~2.4重量%の白金、デカメチルシクロペンタシロキサンを用いて希釈することによって0.1重量%の白金に調整されている)。以下の実施例で与えられる触媒の投与量は、ヒドロシリル化の反応成分の初期重量の質量の合計を参照し、添加された溶媒はこの計算では考慮されていない。
【0234】
実施例
実施例1~3:カルビノール末端ポリジメチルシロキサンおよびジエチルエステルモノマーのエステル交換によるエステル-シロキサン結合剤
【0235】
【0236】
【0237】
重合手順:カルビノール末端PDMS(n=30)およびジエチルエステルモノマー(DEO、DES、DEA)を化学量論比1.1:1で0.05%(w/w)のチタン(IV)ブトキシド触媒を用いて重合させた。典型的な縮合反応装置を使用した。2つの反応物および触媒を室温で10分間撹拌した後、還流温度が78.4℃を超えないことを確実にするように温度を徐々に200℃まで上昇させた。液体縮合物がそれ以上形成されなくなると、真空を10mbarまで徐々に適用した。ポリ縮合反応を10mbarで5~6時間継続させた後、真空を解除することにより反応を停止させ、反応混合物を室温まで冷却した。
【0238】
出発カルビノール末端PDMS(n=30)のGPC分析は、2300g/molのMnおよび3330g/molのMwを示した。実施例1-3で得られた著しく高い分子量(GPC:Mn/Mw、表1)は、重合が3つの結合剤のすべてで成功したことを示している。実施例1(DEOによる重合)は、化学量論的にPDMS-カルビノールモノマーが余分であるにもかかわらず、DEO末端基を有する結合剤を生じた。これは、第1のエチルエステルがPDMS-カルビノールと反応すると、DEOの第2のエチルエステルの反応性が変化することに起因する。DEO末端基の存在は、約3200~3550cm-1での特徴的なアルコール伸長の欠如および得られた結合剤(実施例1)についての1735~1750cm-1付近の2つの異なるエステル伸長の存在によりFT-IRで確認された。実施例1の結合剤はまた、イソシアネート架橋剤(Desmodur(登録商標)N3600、Bayer)とのさらなる架橋反応を受けなかった。DESおよびDEAのエチルエステル基がそれぞれC2/C4-アルキル結合によって分離されている実施例2および3では、エチルエステル基の反応性は同じ反応性の変化を経験しない。したがって、実施例2および3の重合は、PDMS-カルビノールモノマーがわずかに余分であることに起因して、カルビノール末端結合剤を生じた。これは、約3200~3550cm-1付近の特徴的なアルコール伸長、約1735~1750付近の単一のエステル伸長(FT-IR)および結合剤がイソシアネート架橋剤(Desmodur(登録商標)N3600、Bayer)によって架橋する能力の存在によって確認された。
【0239】
実施例4:カルビノール末端ポリジメチルシロキサンおよびメチルエステル末端ポリジメチルシロキサンのエステル交換によるエステル-シロキサン結合剤
メチルエステル末端シロキサン(前駆体シロキサン-1)の調製
α,ω-メチルエステル官能性シロキサン(前駆体シロキサン-1)を形成する、メチル5-ヘキセノエートによるα,ω-SiHシロキサン(n=10)のヒドロシリル化:窒素ライン、攪拌装置および内部温度計を備えた多口フラスコ中で、175.30g(1,37mol)のメチル5-ヘキセノエート(30mol%過剰)および324.71g(1.05mol SiH)のα,ω-水素シロキサン(3.24当量SiH/kg)を導入し、90℃に加熱した。30重量ppmのKarstedt触媒を添加することによってヒドロシリル化反応を開始した。7時間後には、SiHは容積測定でガスとして検出されなかった。生成物を140℃で1mbar未満で4時間蒸留して、すべての揮発性化合物を除去し、濾過して460gの透明でわずかに黄色の生成物を得た。
【0240】
α、ω-メチルエステル官能性シロキサン(前駆体シロキサン-1)(n=10,0.807mol-COOMe/kg、486.18g/mol、-COOMe Mw約873.60g/mol(理論値))
α、ω-ヒドロキシアルキル官能性シロキサンTegomer H-Si2115(n=10)による前駆体シロキサン-1(n=10)のエステル交換:
【0241】
【0242】
窒素ライン、撹拌装置および内部温度計を備えた多口フラスコ内に、218.41 gのα、ω-メチルエステル官能性シロキサン「前駆体シロキサン-1」(250 mmol = 500 mmol - COOMe)および206.43 gのα,ω-ヒドロキシアルキル官能性シロキサン(250 mmol = 500 mmol -(CH2)3OH)を導入し、90℃まで加熱した。さらに、0.32 gのブチルチタネート(0.075重量%)を添加し、反応混合物を攪拌しながら8時間にわたって200℃まで加熱した。遅い窒素ストリッピングにより、メタノールの沸騰が促進された。反応を終了させるために、10mbarの真空をさらに6時間かけた。
【0243】
室温でわずかに黄色の粘稠なポリマーが得られた。
実施例4のGPC分析Mw=62.003g/mol、Mn=16.898、M=3.67
【0244】
実施例5:人工海水中の吸水率およびフィルム損失
実施例2,3および4からのポリ(エステル-シロキサン)結合剤の透明コートフィルムを、イソシアネートベースの架橋剤、3-イソシアナートプロピルトリメトキシシランおよびジブチルスズジラウレート触媒をキシレン中で用いて硬化させた。0.1%(w/w)触媒および30%(w/w)キシレンを含む1:1.5(OH:NCO)のイソシアネート(架橋剤)に対する末端ヒドロキシル基(結合剤)の比を用いてコーティングフィルムを形成した。300μmの空間を有するフィルムアプリケータを使用して、ガラス試験パネル上にフィルムを施与した。人工海水中の吸水率およびフィルム損失を30日間にわたって調べた。30%(w/w)キシレン中で1%(w/w)のジブチルスズジラウレート触媒を用いて、シラノール末端PDMS 66%(w/w)(DMS-S33、Gelest)をエチルシリケート架橋剤3%(w/w)(TES 40 WN、Wacker)で硬化させることにより非研磨基準(「PDMS基準」)を調製した。非研磨PDMS基準は、古典的な市販の汚染物剥離性コーティングに使用されている結合剤系に似ていることに起因して選択された。
【0245】
【0246】
結果は、ポリ(エステル-シロキサン)結合剤を有するコーティングが、PDMS基準と同様の吸水率を有することを示している。特に、実施例2~4のコーティングはすべて、非研磨PDMS基準と比較して30日後により高いフィルム損失を有する。
【0247】
実施例6:コーティング組成物
表3に示す成分を混合することにより、6つの異なるコーティング組成物を調製した。第1の組成物「FRC基準」は、典型的な汚染物剥離性コーティング組成物を表す。コーティング2~4は、シラノール末端ポリジメチルシロキサン結合剤(非加水分解)を実施例2~4のポリ(エステル-シロキサン)で置き換えた同様の組成物である。コーティング5~6は、銅ピリチオン殺生物剤を添加した、コーティング2および4の変形である。
【0248】
【0249】
(1)DMS-S33(Gelest)
(2)Aerosil R972(Evonik)(商標)
(3)Wacker(登録商標)TES 40 WN
【0250】
実施例7:研磨
表3の最初の4つのコーティング組成物(FRC基準、コーティング2~4)を、300μmの隙間のフィルムアプリケータを使用してPVCディスク上に放射状ストライプとして施与した。PVCディスクには、Jotun Safeguard Universal ESプライマの1つのコートおよびJotun SeaLionタイコートの1つのコートを無気スプレーを用いて所定の条件で予めコーティングした。試験ストライプを、試験が開始される前に周囲条件下で少なくとも24時間の期間にわたって硬化させた。表4には、4つの組成物の研磨が示されている。各読み取り値は、3つの平行なストライプの平均を表す。
【0251】
【0252】
この結果は、本発明の3つの配合物(コーティング2~4)すべてが、連続的な表面研磨および経時的なフィルム厚減少を経験することを示している。FRC基準は、初期のフィルム厚のわずかな損失を有し、その後、連続研磨の兆候を示さずに安定する。
【0253】
実施例8:比較例
2つの比較例の結合剤、比較例EG2および比較例EG4を、国際公開第2015/082397号パンフレット(実施例EG2およびEG4、表1、27頁)のラクトン-シロキサン-ラクトンABA-トリブロックコポリマーに基づいて合成した。
【0254】
比較例EG2
窒素ライン、攪拌装置および内部温度計を備えた多口フラスコ中で、130gのTegomer H-Si 2315(n(OH)=0.1182mol)および240.5gのD,L-ラクチド(3,6-N-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン)(n=1.6686mol)を導入し、130~140℃に加熱した。さらに、0.34 gのBorchiKat 28(0.05mol%のn(D,L-ラクチド))を添加し、反応混合物を撹拌しながら6時間にわたって190℃まで加熱した。ポリマー溶融物をアルミニウムプレートに移すことによって、100%バルクポリマーをわずかに黄色の固体として受けた。NMR分光分析により、所望のポリマー形成、特にシロキサン骨格の完全性が確認された。
GPCデータ:Mw=10520g/mol、Mn=2496g/mol、uM=4.12
【0255】
比較例EG4
窒素ライン、攪拌装置および内部温度計を備えた多口フラスコ中で、38.16 gのTegomer H-Si 2315(n(OH)=0.0347mol)および350.0 gのD,L-ラクチド(3,6-N-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン)(n=2.428mol)を導入し、130~140℃に加熱した。さらに、0.49 gのBorchiKat 28(0.05mol%のn(D,L-ラクチド))を添加し、反応混合物を撹拌しながら6時間にわたって190℃まで加熱した。ポリマー溶融物をアルミニウムプレートに移すことによって、100%バルクポリマーをわずかに褐色の固体として受けた。NMR分光分析により、所望のポリマー形成、特にシロキサン骨格の完全性が確認された。
GPCデータ:Mw=26164g/mol、Mn=2677g/mol、uM=8.54
【0256】
さらに、比較コーティング組成物EG5(’EG2結合剤)および比較コーティングEG7(’EG4結合剤)の2つの比較コーティング組成物を、国際公開第2015/082397号パンフレットの実施例5および実施例7(表2、29頁)に詳述されている配合に従って混合することにより調製した。
【0257】
実施例9:DSC測定
本発明の[ABAB]型結合剤と国際公開第2015/082397号パンフレットのABA-トリブロック比較例との違いを強調するために、DSC測定を行った。表5は、2つの比較例の結合剤とともに、本発明の典型的な結合剤(実施例2)に対するガラス転移温度(Tg)および理論的PDMS含量(対有機含量)を示す。
【0258】
【0259】
結果は、約92%のPDMS含量を有する実施例2の結合剤が約-120℃のTgを有することを示している。これは、従来のFRCで使用される従来のPDMS結合剤と同じ範囲にある。相対的にはるかに低いPDMS含量(高い有機含量)を有する比較例EG2およびEG4は、約30~40℃のTgを有する。これは、従来の殺生物防汚剤に用いられる典型的なアクリル結合剤と同じ範囲にある。
【0260】
実施例10:防汚試験
実施例6のコーティング組成物(コーティング2~6およびFRC基準)を、PVC海洋試験パネル上に300μmの隙間を有するフィルムアプリケータを用いて施与した。パネルには、Jotun Safeguard Universal ESプライマの1つのコートおよびJotun SeaLionタイコートの1つのコートを無気スプレーを用いて所定の条件で予めコーティングした。比較コーティングEG5およびEG7は、Jotun Safeguard Universal ESプライマの1つのコートで予めコーティングされたパネルに対して300μmの隙間を有するフィルムアプリケータを用いて施与された。’ESプライマのみでコーティングされたパネルをネガティブコントロールとして使用した。
【0261】
防汚試験(1)
試験場所:サンデフィヨルド、ノルウェー。20×40cmの寸法を有するパネルを、フレームに取り付けられ、水面の0.5~1.5m下に垂直に懸架されたラフト上での静的試験に使用した。汚染物被覆率は、以下の4つの生態学的に導出された汚染物カテゴリに従って評価された:粘液(微小汚染物)、雑草、軟体動物、および体の硬い動物。パネルは、8週間後に汚染被覆率およびコーティング完全性について目視検査によって分析した。スポンジ洗浄が、洗浄スポンジを使用して実施され、以下に従って1~4の格付けが与えられた。
【0262】
1. 汚染は、スポンジで一回の穏やかなストロークで完全に除去された
2. 汚染は、スポンジで繰り返し穏やかなストロークで完全に除去された
3. 汚染は、スポンジで繰り返し強いストロークで除去された
4. 汚染は、スポンジで繰り返し強いストロークで除去することができなかった
結果を以下の表に示す。
【0263】
【0264】
この表は、8週間の静的浸漬後に、本発明のコーティング(コーティング2,4~6)が、FRC基準よりも良好で、比較例のコーティングよりはるかに優れている耐汚染性を示していることを示す。本発明のコーティングの完全性および清浄能力も、比較コーティングよりも優れていた。結果は、添加油と殺生物剤の両方を含有するエステルシロキサンコーティング(コーティング5および6)の特に優れた耐汚染性を示す。
【0265】
防汚試験(2)
試験場所:フロリダ州Batelle(米国)。コーティングしたパネルを回転式ドラムに塗装パネルを取り付けることによって、7.5×17cmの寸法を有するパネルを動的ロータ試験に使用した。回転ドラムは完全に水没し、水を通じて7ノット(3.6m/s)の速度で回転した。汚染物被覆率は、以下の4つの生態学的に導出された汚染物カテゴリに従って評価された:粘液(微小汚染物)、雑草、軟体動物、および体の硬い動物。パネルは、13週間後に汚染被覆率およびコーティング完全性について目視検査によって分析した。結果を以下の表に示す。
【0266】
【0267】
この表は、13週間の動的試験後に、本発明のコーティング(コーティング2~5)が、FRC基準よりもはるかに良好で、比較例のコーティングより優れている耐汚染性を示していることを示す。本発明のコーティングの完全性も、比較コーティングEG7よりも優れていた。結果は、添加油と殺生物剤の両方を含有するエステル-シロキサンコーティング(コーティング5)の特に優れた耐汚染性を示す。