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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】電気泳動デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019542754
(86)(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 AU2017051136
(87)【国際公開番号】W WO2018071977
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】2016904260
(32)【優先日】2016-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519146710
【氏名又は名称】メンファシス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,シンフォン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-514829(JP,A)
【文献】特表2015-512629(JP,A)
【文献】特表2003-500645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の細胞を分離するための電気泳動装置であって、
サイズ排除膜(分離膜)によって分離された試料チャンバーおよび回収チャンバー、
各々の試料チャンバーおよび回収チャンバーのそれぞれに隣接する循環しない緩衝液チャンバーであり、各緩衝液チャンバーが、イオン透過膜(制限膜)によって各々の試料チャンバーおよび回収チャンバーのそれぞれから分離されている、前記緩衝液チャンバー、および
各緩衝液チャンバー中に配置された電極
を含む、前記装置。
【請求項2】
前記緩衝液チャンバーが、密閉されており、かつ緩衝溶液を含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記緩衝液が、スクロース緩衝液である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
各試料チャンバーおよび回収チャンバーが、溶液を追加または除去するためのアパーチャを含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記アパーチャが、密閉可能である、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記電極を電源に接続するための手段をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記装置が、電圧を前記電極に印加できるように、電源を含む受入れデバイスに挿入可能なカートリッジである、請求項1~のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記カートリッジが、滅菌されている、請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記カートリッジが、使い捨て可能である、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
細胞の分離における、請求項1~のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項11】
精子の分離における、請求項1~のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項12】
血小板の分離における、請求項1~のいずれか1項に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、オーストラリア仮特許出願第2016904260号(出願日:2016年10月20日)の優先権を主張し、該仮出願の内容は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、高分子および/または細胞の電気泳動分離に関する。特に、本発明は、高分子および/または細胞の電気泳動分離において使用するための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書の全体を通じての先行技術のいかなる議論も、そのような先行技術が広く公知であること、またはその分野における技術常識の一部を形成することを認めるものと決して考えてはならない。
【0004】
電気泳動は、空間的に均一な電場の影響下での液体に対する分散粒子の運動である。分散粒子の運動は、粒子上の電荷および印加場勾配の関数である。特定の大きさの荷電した高分子または細胞の通過を許容する多孔性膜との電気泳動の組合せは、高分子または細胞の分離および精製を可能とする。
【0005】
高分子または細胞の電気泳動分離のために好適な装置がWO2000/013776およびWO2002/024314に記載されている。簡潔に述べれば、サイズ排除多孔性膜(以下、分離膜と称する)は、試料ストリームおよび回収ストリームと称される、高分子または細胞を運ぶ液体の2つのストリームを分離するように作用する。これらのストリームは、荷電電極の間で分離膜の両側を通る。分離膜の孔より小さい荷電した高分子または細胞は、電場の影響下で試料ストリームから回収ストリームへと膜を越えて泳動する。装置はまた、緩衝液ストリーム、および、電極と分離膜との間に配されたイオンの通過を許容するが高分子または細胞の通過を許容しない水不透過膜(以下、制限膜と称する)も含む。試料ストリーム、回収ストリームおよび緩衝液ストリームは、ポンプおよびリザーバーによって循環する。循環する緩衝液(ならびに関連するチューブ、ポンプおよびリザーバー)は、電気分解中の電極での気体の蓄積ならびに温度およびpHの増加を回避するために必要とされる。しかしながら、循環する緩衝液の使用の結果として、WO2000/013776およびWO2002/024314に記載される装置は、複雑かつ高価であり、かつ汚染を除去することが難しい。さらに、装置は、ポリアクリルアミド(PAm)制限膜を用い、これは、膜に毒性のアクリルアミド単量体が存在する可能性があることから高分子または細胞を汚染することがある。
【0006】
したがって、高分子および/または細胞の電気泳動分離において使用するための改良された装置の必要性が存在する。
【0007】
先行技術の欠点の少なくとも1つを克服しもしくは改善すること、または有用な代替を提供することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0008】
溶液中の高分子および/または細胞を分離するための従来の電気泳動装置は、
(a)電気分解中の電極での気体の増加、
(b)電極へのイオン泳動によるカートリッジにわたるpH勾配の増加、および
(c)電流の加熱効果による試料チャンバーおよび回収チャンバーにおける温度の上昇
を防止するために、循環する緩衝液ストリームの使用を必要としていた。
【0009】
本発明は、循環する緩衝液ストリームは、高分子および/または細胞の電気泳動分離のために必要ではないという(本明細書に初めて開示される)本発明の知見に基づく。
【0010】
一態様では、本発明は、溶液中の高分子および/または細胞を分離するための電気泳動装置に関し、該装置は、
サイズ排除膜(分離膜)によって分離された試料チャンバーおよび回収チャンバー、
各々の試料チャンバーおよび回収チャンバーのそれぞれに隣接する緩衝液チャンバーであり、各緩衝液チャンバーが、イオン透過膜(制限膜)によって各々の試料チャンバーおよび回収チャンバーのそれぞれから分離されている、緩衝液チャンバー、および
各緩衝液チャンバー中に配置された電極
を含む。
【0011】
一実施形態では、緩衝液チャンバーは、循環しない緩衝液のチャンバーである。
【0012】
一実施形態では、緩衝液チャンバーは、密閉されており、かつ緩衝溶液を含有する。
【0013】
一実施形態では、緩衝溶液は、低い電解質含有量を有する。
【0014】
一実施形態では、緩衝溶液は、塩を含有しない。
【0015】
一実施形態では、緩衝溶液は、スクロースを含む。
【0016】
一実施形態では、緩衝溶液は、約7.5~約8.5のpHを有する。
【0017】
一実施形態では、緩衝液は、HEPES緩衝液である。
【0018】
一実施形態では、緩衝液は、HEPES緩衝液であり、かつスクロースを含む。
【0019】
一実施形態では、緩衝液は、HEPES緩衝液であり、スクロースを含み、かつ約7.5~約8.5のpHを有する。
【0020】
一実施形態では、緩衝溶液は、30mMのHEPESおよび250mMのスクロースを含有し、かつTrizma塩基を用いて8.2のpHに調整される。
【0021】
別の態様では、本発明は、溶液中の高分子および/または細胞を分離するための電気泳動装置に関し、該装置は、
第1の回収チャンバーおよび第2の回収チャンバーによって隣接された試料チャンバーであり、各回収チャンバーが、サイズ排除膜(分離膜)によって試料チャンバーから分離されている、試料チャンバー、
各回収チャンバーに隣接する緩衝液チャンバーであり、各緩衝液チャンバーが、イオン透過膜(制限膜)によって各々の回収チャンバーのそれぞれから分離されている、緩衝液チャンバー、および
各緩衝液チャンバー中に配置された電極
を含む。
【0022】
一実施形態では、各回収チャンバーは、1つまたは複数の分離膜を含み、1つまたは複数の分離膜は、制限膜と実質的に平行である。
【0023】
一実施形態では、各回収チャンバーは、1つまたは複数の分離膜を含み、1つまたは複
数の分離膜は、制限膜と実質的に平行であり、かつ、1つまたは複数の分離膜のそれぞれの孔径は、それと試料チャンバーとの間に配置されたあらゆる分離膜の孔径より小さい。
【0024】
一実施形態では、各試料チャンバーおよび回収チャンバーは、溶液を追加または除去するための1つまたは複数のアパーチャを含有する。
【0025】
一実施形態では、アパーチャは、密閉可能であってよい。
【0026】
一実施形態では、各試料チャンバーおよび回収チャンバーは、各試料チャンバーおよび回収チャンバーを通るように溶液を循環させるための入口および出口を含有する。
【0027】
入口および出口は、密閉可能であってよい。
【0028】
一実施形態では、装置は、電極を電源に接続するための手段をさらに含む。
【0029】
一実施形態では、装置は、電圧を電極に印加できるように、電源を含む受入れデバイスに挿入可能なカートリッジである。
【0030】
一実施形態では、装置は、電圧を電極に印加できるように、かつ、ポンプおよびリザーバーが各試料チャンバーおよび回収チャンバーと流体連通(fluid communication)して、各試料チャンバーおよび回収チャンバーを通るように溶液を循環させるように、電源、ポンプおよびリザーバーを含む受入れデバイスに挿入可能なカートリッジである。
【0031】
一実施形態では、カートリッジは、滅菌されている。
【0032】
一実施形態では、カートリッジは、使い捨て可能である。
【0033】
一実施形態では、制限膜は、PVAを含む。
【0034】
一実施形態では、試料チャンバーおよび回収チャンバーは、温度制御が可能である。
【0035】
一実施形態では、制限膜は、PAmを含有しない。
【0036】
一実施形態では、制限膜は、15kDa未満の分画分子量(MWCO)を有する。
【0037】
一実施形態では、制限膜は、5kDa未満のMWCOを有する。
【0038】
一実施形態では、制限膜は、電場の通過を許容するが、高分子または細胞の通過を許容しない。
【0039】
一実施形態では、分離膜は、PVAを含む。
【0040】
一実施形態では、分離膜は、ポリカーボネートを含む。
【0041】
一実施形態では、分離膜は、PAmを含有しない。
【0042】
一実施形態では、分離膜の孔径は、約0.1μm~約100μmであってよい。
【0043】
一実施形態では、分離膜の孔径は、約0.5μm~約30μmであってよい。
【0044】
一実施形態では、分離膜の孔径は、約1μm~約8μmであってよい。
【0045】
一実施形態では、分離膜の孔径は、約1μm~約5μmであってよい。
【0046】
一実施形態では、分離膜の孔径は、約3μm~約5μmであってよい。
【0047】
一実施形態では、分離膜の孔径は、100μm未満であってよい。
【0048】
一実施形態では、分離膜の孔径は、30μm未満であってよい。
【0049】
一実施形態では、分離膜の孔径は、10μm未満であってよい。
【0050】
一実施形態では、分離膜の孔径は、8μm未満であってよい。
【0051】
一実施形態では、分離膜の孔径は、5μm未満であってよい。
【0052】
一実施形態では、分離膜の孔径は、1μm未満であってよい。
【0053】
一実施形態では、分離膜の孔径は、約100μm、約90μm、約80μm、約70μm、約60μm、約50μm、約40μm、約30μm、約20μm、約10μm、約9μm、約8μm、約7μm、約6μm、約5μm、約4μm、約3μm、約2μm、約1μm、約0.9μm、約0.8μm、約0.7、約0.6μm、約0.5μm、約0.4μm、約0.3μm、約0.2μmまたは約0.1μmであってよい。
【0054】
さらなる態様では、本発明は、精子を分離するための本発明の装置の使用に関する。
【0055】
さらなる態様では、本発明は、細胞を分離するための本発明の装置の使用に関する。
【0056】
さらなる態様では、本発明は、高分子を分離するための本発明の装置の使用に関する。
【0057】
さらなる態様では、本発明は、精子を分離するための本発明の装置の使用に関する。
【0058】
さらなる態様では、本発明は、血小板を分離するための本発明の装置の使用に関する。
【0059】
さらなる態様では、本発明は、溶液中の高分子および/または細胞を分離する方法に関し、該方法は、高分子および/または細胞を含有する試料を本発明の装置の試料チャンバーに加えること、電極に電圧を印加すること、ならびに分離された高分子および/または細胞を回収チャンバーから回収することを含む。
【0060】
本発明の文脈では、「含む」(comprise)、「含むこと」(comprising)などの語は、排他的な意味ではなく、包括的な意味、すなわち、「含むがそれに限定されない」という意味として解釈されるべきである。
【0061】
本明細書で使用される場合、「制限膜」という用語は、電場の通過を許容するが、高分子または細胞の通過を許容しない膜を意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「分離膜」という用語は、多孔性のサイズ排除膜を意味する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「PAm」という用語は、ポリアクリルアミドを意味する
【0064】
本明細書で使用される場合、「PVA」という用語は、ポリ(ビニルアルコール)を意味する。
【0065】
本明細書で使用される場合、膜に関する「MWO」または「分画分子量」という用語は、少なくとも90%の溶質が膜によって保持される溶質の最小分子量(ダルトン)、または膜によって90%保持される分子のおおよその分子量を指す。
【0066】
本明細書で使用される場合、膜に関する「孔径」という用語は、膜によって保持される高分子または細胞の直径を指す。
【0067】
本明細書で使用される場合、「高分子」という用語は、一般により小さいサブユニット(単量体)の重合によって作られる、非常に多数の原子を含有する分子を意味する。高分子の例としては、タンパク質、ペプチド、核酸および合成ポリマーが挙げられる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「カートリッジ」という用語は、デバイスまたは装置を保持し、かつ容易に交換または置換されるケースまたは容器を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】本発明の装置の一般的機能を示す図式的な描写である。
図2】本発明の装置の一実施形態の図式的な描写である。
図3】使用時の図2の装置の図式的な描写である。
図4】本発明の装置の代替的な実施形態の図式的な描写である。
図5】本発明の装置の代替的な実施形態の図式的な描写である。
図6】使用時の図4の装置の図式的な描写である。
図7】本発明の電気泳動装置の実施例である。
図8】ヘマトキシリン・エオシン染色剤で染色された元々の試料である(HE染色)。
図9】電気泳動後の試料チャンバーからの残留試料である(HE染色)。
図10】電気泳動後の回収チャンバーからの試料である(HE染色)。
図11】電気泳動後に分離膜に捕捉された細胞である(HE染色)。
図12
【発明を実施するための形態】
【0070】
本明細書に詳述するある特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、他の実施形態により同じまたは類似の結果を達成することができる。本発明の変形および改良は当業者に自明であり、本発明は、全てのそのような改良および均等物をカバーすることが意図される。
【0071】
本発明は、溶液中の高分子または細胞を電気泳動分離するための装置に関する。
【0072】
溶液中の高分子および/または細胞を分離するための従来の電気泳動装置は、電極での気体の蓄積ならびに電気分解の結果としてもたらされる温度およびpHの増加を防止するために、循環する緩衝液ストリームの使用を必要としていた。
【0073】
本発明は、低い電解質含有量の緩衝液が使用される場合、循環する緩衝液ストリームは、高分子および/または細胞の電気泳動分離のために必要ではないという(本明細書に初めて開示される)本発明の知見に基づく。そのような緩衝液は、電流を90%低減させ、結果として、電気泳動プロセス中の装置にわたる温度およびpHの増加(およびばらつき
)を実質的に低減させる。これにより、密閉された緩衝液チャンバーを装置内で使用すること、ならびに緩衝液用の外的なチューブ、ポンプおよびリザーバーを除去することが可能となる。
【0074】
高分子および/または細胞の電気泳動分離では、溶液に印加される電場により、溶液内に含有された正荷電の高分子または細胞は負極(アノード)に向かって移動し、負荷電の高分子または細胞は正極(カソード)に向かって移動する。
【0075】
本発明の装置では、分離膜が電場中に配置され、分離膜の孔径より小さい高分子および/または細胞は、分離膜を通過して試料溶液から回収溶液へと移動する。分離膜の孔径は、分離すべき高分子または細胞の大きさに応じて変化する。
【0076】
試料溶液および回収溶液は、イオンの通過を許容するが高分子または細胞の通過を許容しない制限膜によって電極から分離される。電極は緩衝溶液中にあり、緩衝溶液は電圧勾配を提供し、電圧勾配は、カートリッジにわたって確立され、イオンを流れさせて、電極間に流れる電流を生成させる。
【0077】
緩衝溶液中のスクロースの使用は、循環する緩衝液ストリームを使用する必要性を除去する。
【0078】
試料チャンバー中および回収チャンバー中の溶液は、細胞生存を促進するように改変されてもよい。
【0079】
装置の作動の原理の一部を概説したので、これより装置自体を説明する。
【0080】
本発明の装置の一般的機能を示す図式的な描写である図1を参照すると、装置は、分離膜によって分離された試料チャンバーおよび回収チャンバーを含有する。試料チャンバーおよび回収チャンバーは緩衝液チャンバーによって隣接され、緩衝液チャンバーは、制限膜によって試料チャンバーおよび回収チャンバーから分離されている。緩衝液チャンバー中に配置された電極に印加される電圧は、分離膜にわたる電場を誘導し、分離膜の孔径より小さい試料チャンバー中の負荷電の高分子または細胞が試料チャンバーから回収チャンバーに移動することを結果としてもたらす。
【0081】
本発明の装置の一実施形態の図式的な描写である図2を参照すると、装置は、分離膜によって分離された試料チャンバーおよび回収チャンバーを含有する。電極を含有する緩衝液チャンバーが、試料チャンバーおよび回収チャンバーに隣接する。緩衝液チャンバーは、制限膜によって試料チャンバーおよび回収チャンバーから分離されている。緩衝液チャンバーは、密閉されており、かつ低い電解質含有量の緩衝溶液を含有する。試料チャンバーおよび回収チャンバーは、溶液を追加または除去するためのアパーチャを含有する。
【0082】
使用時の図2の装置の図式的な描写である図3を参照すると、試料チャンバーには高分子または細胞を含有する溶液が各々のアパーチャを介して入れられ、回収チャンバーには受入れ溶液が各々のアパーチャを介して入れられている。電極が電源に接続され、電圧勾配が印加される。試料チャンバー中の負荷電の高分子または細胞はアノードに向かって泳動し、分離膜の孔径より小さい高分子または細胞は、分離膜を通過して回収チャンバーに移動する。分離された高分子または細胞を含有する溶液は、アパーチャを介して回収チャンバーから抽出される。正荷電の高分子または細胞を分離することが望まれる場合、電源への接続を反転させて、正荷電の高分子または細胞が試料チャンバーから回収チャンバーに通過するようにすればよい。あるいは、第2の分離膜によって試料チャンバーから分離された第2の回収チャンバーを試料チャンバーとカソードを収容する緩衝液チャンバーと
の間に配置してもよい(図4)。
【0083】
本発明の装置の代替的な実施形態の図式的な描写である図5を参照すると、装置は、分離膜によって分離された試料チャンバーおよび回収チャンバーを含有する。電極を含有する2つの緩衝液チャンバーが試料チャンバーおよび回収チャンバーに隣接する。緩衝液チャンバーは、制限膜によって試料チャンバーおよび回収チャンバーから分離されている。緩衝液チャンバーは、密閉されており、かつ低い電解質含有量の緩衝溶液を含有する。試料チャンバーおよび回収チャンバーは、試料チャンバーおよび回収チャンバーを通るように溶液を循環させるための入口および出口を含有する。
【0084】
使用時の図4の装置の図式的な描写である図6を参照すると、試料チャンバーおよび回収チャンバーは、それらの各々の入口および出口を介して試料ループおよび回収ループに接続されており、これらのループは、リザーバーおよび循環ポンプを含有して、試料チャンバー中および回収チャンバー中で試料ストリームおよび回収ストリームを生成する。試料ループ中のリザーバーには、高分子または細胞を含有する溶液が入れられ、回収ループ中のリザーバーには、受入れ溶液が入れられる。電極が電源に接続され、電圧勾配が印加される。試料ストリーム中の負荷電の高分子または細胞はアノードに向かって泳動し、分離膜の孔径より小さい高分子または細胞は、分離膜を通過して回収ストリームに移動する。分離された高分子または細胞は回収ループ中のリザーバーから抽出される。正荷電の高分子または細胞を分離することが望まれる場合、電源への接続を反転させて、正荷電の高分子または細胞が試料ストリームから回収ストリームに通過するようにしてもよいし、または、第2の分離膜によって試料ストリームから分離された第2の回収ストリームを試料ストリームとカソードを収容する緩衝液チャンバーとの間に配置してもよい。
【0085】
低い電解質含有量を有する緩衝液の使用は、低電流を結果としてもたらし、循環する緩衝液の使用を回避させる。これにより、緩衝液循環ポンプによって引き起こされる脈動環境と比較して、カートリッジ中での分離プロセスのための静止環境が作られる。
【0086】
密閉された緩衝液チャンバーの使用により、電極などの装置は、滅菌されかつ/または使い捨て可能となることができる。
【実施例
【0087】
実施例1-精子の分離
ヒト精子(温度およびpHの小さい変化への感度が特に高い)の分離における本発明の密閉式非循環性緩衝液カートリッジ(SNC)の性能を既存の電気泳動デバイス(CS10)と比較した。
【0088】
CS10およびSNCの両方において5kDAのMWCOを有するPVA制限膜および5μmの孔径を有するポリカーボネート分離膜を用いた。
【0089】
CS10は、30mMの塩化ナトリウムを含有する循環する電極緩衝液を使用し、14ボルトの電位差は60~90mAmpの電流を結果としてもたらす。
【0090】
SNCは、低い電解質含有量を有する緩衝液(30mMのHEPESおよび250mMのスクロース、Trizma塩基でpHを7.8に調整;CSM-15緩衝液と称する)を含有する密閉された電極チャンバーを使用し、35ボルトの電位差は10mAmpの電流を結果としてもたらす。
【0091】
精子数を血球計算機によって測定し、生存能力をエオシン-ニグロシン染色によって評価した。
【0092】
CS10に関する電圧および電流の結果を表1に示す。
【表1】
【0093】
SNCに関する電圧および電流の結果を表2に示す。
【表2】
【0094】
CS10において分離された精子の結果を表3に示す(14ボルト、5分)。
【表3】
【0095】
「残留」は、電気泳動後に試料チャンバー中に残っている精子を指し、「選択」は、回収チャンバー中の精子を指す。
【0096】
SNCにおいて分離された精子の結果を表4に示す(35ボルト、5分)。簡潔に述べれば、CSM-15緩衝液を試料チャンバーおよび回収チャンバーに入れ、平衡化させた。試料チャンバー中の緩衝液を除去し、精液試料と置換し、電極に電圧を印加した。
【表4】
【0097】
CS10およびSNCについて得られた結果の比較を表5に示す。
【表5】
【0098】
表5から分かるように、SNCは、回収率の増加、生存能力の増加および運動性の増加を結果としてもたらす。観察された1つの重要な結果は、CS10は(循環する緩衝液を用いてさえも)1.7℃の温度上昇を有するが、SNCは0.9℃のみの上昇を有する。この差異は、より高い電流(88mA)を結果としてもたらすCS10緩衝液中のより高い塩化ナトリウム濃度による。SNCは、低い電解質含有量を有する緩衝液を使用し、したがって、電流はわずか8mA(CS10の電流のわずか10分の1)である。上記で論じたように、精子は温度変化への感度が特に高く、より低い電流は、運動性、先体保全性(acrosome integrity)などの精子の生物学的活性を保護する。
【0099】
SNCは、精子生存能力を損なうことなく、生存可能なヒト精子の分離をより容易かつ迅速にする。SNCは、業界標準であるCS10を凌ぐ。
【0100】
実施例2-血小板の分離
本発明の密閉式非循環性緩衝液カートリッジ(SNC)の性能をヒト血小板の分離について評価した。
【0101】
血小板は約2~3μmの平均サイズを有し、これは、赤血球(4~6μm)、リンパ球(5~8μm)、白血球(10~12μm)、マクロファージ(15~20μm)などのほとんどの血液細胞より小さい。
【0102】
5kDAのMWCOを有するPVA制限膜および5μmの孔径を有するポリカーボネート分離膜をSNC(図7)において用い、以下の方法を使用した:
a)凝固していない血液試料を300g×20分で遠心分離した。
b)遠心分離後、試料は、主に赤血球を含有する下層(赤層)、血小板および白血球に富む中間層(バフィコート層)、および血小板に富む血漿を含む上部層(血漿層)という3つの層に分離した。
c)バフィコート層および血漿層を新たなチューブに取り出した(「元々の試料」と称する)。
d)8mlのCSM-15緩衝液をSNCの緩衝液リザーバーに加えた。
e)1200μlの血小板添加溶液(PAS)を試料チャンバーおよび回収チャンバーに同時に加え、5分間平衡化させた。
f)試料チャンバーを空にし、1200μlの元々の試料を加えた。
g)SNCを25Vの電圧、75mAの最大電流および8分の時間で稼働させた。
h)元々の試料、試料チャンバーおよび回収チャンバーの顕微鏡評価を実行した。
【0103】
元々の試料は、大量の白血球、リンパ球および単球を有し、暗青色の細胞はリンパ球を表し、わずかにより大きいピンク色の細胞は、好酸球、好塩基球、好中球などの異なる種類の白血球である(図8)。
【0104】
試料チャンバー中の残留試料は元々の試料に類似していたが、血小板/白血球の比は、ほとんどの血小板が回収チャンバー中に移動したので有意に低減した(図9)。8分の稼働後に細胞溶解なく、残留試料中に赤血球、血小板およびマクロファージが観察された(図9)。
【0105】
回収チャンバーは、多数の血小板およびごくわずかのリンパ球を含有し、ほぼ全ての白血球および単球は除去されていた(図10)。
【0106】
多量の白血球、リンパ球、単球およびマクロファージが分離膜に捕捉された(図11)。
【0107】
手順の全体を通じて電流をモニターし、これは50mAを超えなかった(表1):
【表6】
【0108】
結果は、SNCを使用する分離手順が細胞に非常にやさしく、溶解、活性化または酸化的損傷なしで特定の細胞種の分離を許容することを示す。
図1
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図12