(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】歯科処置用の補助装置
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20220701BHJP
A61C 17/06 20060101ALI20220701BHJP
A61C 17/022 20060101ALI20220701BHJP
A61B 1/24 20060101ALN20220701BHJP
【FI】
A61C19/00 A
A61C17/06 Z
A61C17/022
A61B1/24
(21)【出願番号】P 2019565078
(86)(22)【出願日】2018-02-12
(86)【国際出願番号】 IB2018050835
(87)【国際公開番号】W WO2018146640
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-10
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519292671
【氏名又は名称】アストラデンティウム ヘルス テクノロジーズ、エセ.エレ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リョーロ ボアダ、ビクトール アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】リョーロ ボアダ、イバン
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-033474(JP,A)
【文献】特表平03-503851(JP,A)
【文献】国際公開第2010/040980(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10130721(DE,A1)
【文献】米国特許第3027643(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 17/00 - 19/10
A61B 1/24 - 1/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口周囲部位に配置される支持体(11)
と、
前記支持体(11)の前で前記患者の前記口周囲部位の外側に配置され、前記患者の前記口の内部部位と前記口の外側との間にバリア効果を及ぼす、ガス状流体流の発生部材(10)とを備える、歯科処置用の補助装置(1)であって、
前記ガス状流体流の発生部材(10)が、
一端にアパーチャ(12)を備え
、他端に管状セクション(15)を備える少なくとも1つの管により形成され、前記アパーチャ(12)が、前記支持体(11)の前で前記口周囲部位の外側に配置され、
前記支持体(11)は、中央部分と、2つの同一の弧状部分(16A、16B)とを含み、前記弧状部分(16A、16B)は、それぞれ前記患者の前記口の唇側領域に係合し、前記中央部分から前記支持体の遠位部分まで延在しており、
前記発生部材(10)が前記支持体(11)に
前記中央部
分で取り付けられることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記発生部材(10)が、前記発生部材(10)の前記一端の前記アパーチャ(12)と前記発生部材(10)の前記他端の前記管状セクション(15)との間に屈曲部を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記アパーチャ(12)が細長で中央部の幅が大きい、請求項1
又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記管の
前記管状セクション(15)が、空気又は他の中性ガスから選択されるガス状流体の吸引又は圧力送気ポンプに接続可能である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記支持体(11)が頬伸張要素を備え、前記頬伸張要素が、前記歯科処置中の頬の分離のために前記患者の口の遠心部位において支柱となる部分を少なくとも備える、請求項1
~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記ガス状流体流が層流である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記支持体(11)が、唾液吸引カニューレ又は排出器用の少なくとも1つの支持
部材(13)をさらに備える、請求項
5に記載の装置。
【請求項8】
前記吸引又は圧力送気ポンプが流量制御手段に関連付けられる、請求
項4に記載の装置。
【請求項9】
前記吸引又は圧力送気ポンプが、抗病原体剤を提供する回路に関連付けられる、請求項
4又は8に記載の装置。
【請求項10】
前記歯科処置中に前記患者の口の口腔内部を照明するための照明ユニットをさらに備える、請求項1
~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記照明ユニットがLED型の照明要素又は光導波路を備える、請求項
10に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、歯科装置の分野に関する。特に、本発明は、患者の頬開口部(buccal orifice)を塞ぐことがなく、それにより、医療従事者が歯科処置中に普通に作業することができ、患者の口を通してアクセス可能な空間又は組織を治療することのできる、歯科処置用の補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第7300401号明細書は、口の開創(retraction)及び唾液の放出のために歯科処置中に患者の口内に配置される歯科用装置を開示している。該装置は、正面吸込部分、右頬開創部分、左頬開創部分、及び吸引部を備える。さらに、装置は、円筒形又は別の横断面形状を有する弾性管状材料の硬い一体部品から構成される。
【0003】
米国特許第7785105号明細書は、歯科処置中に術野を乾燥して維持するための装置を開示している。この装置は、歯科処置中に患者の舌を固定するためのU字形部材を備える。加えて、装置は、頬の周りにアーチ状に配置されて延びる口唇開創器を備える。一部の実施例において、装置は唾液排出器も備える。
【0004】
中国実用新案第201115660号明細書によれば、歯科処置中に患者の口を開くための側方開創器(lateral retractor)を有する装置が知られている。この装置は、唾液の濾過/排出のための2つの管状機構による唾液吸引機能を備え、処置中に患者の口の奥に位置決めされる。この吸引機能を用いると、室内にある空気又は吸入器による汚染を低減させることができる。
【0005】
また、欧州特許第1131015号明細書は、歯科処置中に患者の口腔内部を照明し、それにより、照明の問題を避けることのできる口内照明歯科装置を開示している。照明装置は、患者の歯列に適合するように設計された閉塞装置を備え、歯科処置中に患者が顎を載せることができ、装置を口内に定着させるようになっている。さらに、歯科装置は、医療処置中に舌及び組織を患者の頬から隔離し保護することのできる舌及び頬用の開創器を有する。装置は、歯科処置中に患者の口腔内部にある流体を抜き出すための流体抜出導管を備えることもできる。
【0006】
米国特許出願公開第3396468号明細書は、歯科処置のために口腔内で使用可能な装置を開示しており、該装置は流体を除去し、患者の口に容易且つ迅速に挿入することができる。
【0007】
米国特許出願公開第4053984号明細書は、乾燥した広い術野を維持しながら、歯科作業のために患者の口を開くことのできる、取外し可能な歯科装置を開示している。
【0008】
米国特許出願公開第4967320号明細書は、歯科治療用の空気放射照明及び遮蔽装置(air emitting light and shielding apparatus)を開示している。装置は、調節可能に位置決めできる空気放射照明に接続された加圧空気源から構成される。空気放射照明は、歯科用椅子又は他の手術台の選択された位置にいる患者の顔及び口腔又は他の身体部分を略囲む空気膜(air envelope)を作るように形成される。選択された位置には、穴あけ、空気-水注入などの際に患者の口腔から押し出される蒸気、血液、唾液のはね、歯の小片(dental particle)、又は他の異物を空気膜の内側境界により偏向させ、患者の口腔の下流へ移動させて、患者用の使い捨てドレープ上で集めることにより、それらが患者を手術している歯科チームのメンバーの顔や気道に到達することを防ぐように、患者を傾かせることのできる位置が含まれる。
【0009】
また、米国特許出願公開第3537447号明細書、特開2004-033474号公報、及び特開平10-28696号公報は、歯科医と患者との間に保護シールドを形成する歯科処置用の装置を開示している。
【0010】
米国特許出願公開第5127411号明細書は、患者に見つかる感染性物質から医師を隔離するのに役立つ装置を開示している。この装置は、患者の口の周りに真空バリアを設けて歯科処置中に患者から出るエアロゾルなどを閉じ込めるためのコレクタを備える。コレクタは、真空に引くための真空源に接続された流れであり、真空源により引き込まれたガスがフィルタを通過する。コレクタはリング状で、口を囲み、医師が処置の箇所を見ることができるようになっており、それぞれの手術後に処分できる。
【0011】
公知の装置のうちのいくつかは、複雑でかさばる構造を備えているため、製造及び/又は操作性が困難になる。さらに、現在、歯科処置中に患者の口周囲部位/領域に配置され、患者の口の内側と外側との間に発生部材(generating member)によりバリア機構を発生させる支持体を備える歯科処置用の公知の装置はない。このような発生部材は、支持体に中央部で取り付けられ、端部の一方に開口を備える1つ又は複数の管によって形成され、ガス状流体流又はエア・カーテンを発生させることにより、歯科処置中に病原体の濾過を可能にしてより優れた保護をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第7300401号明細書
【文献】米国特許第7785105号明細書
【文献】中国実用新案第201115660号明細書
【文献】欧州特許第1131015号明細書
【文献】米国特許出願公開第3396468号明細書
【文献】米国特許出願公開第4053984号明細書
【文献】米国特許出願公開第4967320号明細書
【文献】米国特許出願公開第3537447号明細書
【文献】特開2004-033474号公報
【文献】特開平10-28696号公報
【文献】米国特許出願公開第5127411号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様によれば、本発明は、患者の口周囲部位/領域、すなわち唇交連を含む口唇の赤唇(lip vermilion)の全長周りの3cmの大きさの空間に配置される支持体を備える、歯科処置用の補助装置を提供する。提案された補助装置は、頬開口部を塞ぐことがないため、医療従事者は、患者の口(口腔、鼻腔、喉頭、咽頭、食道、又は上顎洞など)を通してアクセス可能な空間又は組織を治療することにより普通に作業することができる。
【0014】
提案された補助装置は、患者の口の内部部位と口の外側との間にバリア効果を及ぼすガス状流体流発生部材又はエア・カーテンを備えることを特徴とする。発生部材は、端部の一方に開口又はアパーチャを備える少なくとも1つの管により形成され、開口又はアパーチャは、支持体の前で口周囲部位の外側に配置/配設される。
【0015】
支持体は中央部を備え、2つの湾曲した枝部がその中央部を通って上方へ延びる。発生部材は、支持体に中央部で任意の位置において取り付けられる。
【0016】
したがって、簡単な構造を有する提案された補助装置により、しぶき、微小滴、滴、若しくは他の粒子、及び病原体(ウイルス、菌類、バクテリア、プリオンなど)が口腔内部から外部へ、且つ口腔外部から内部へ通過することを防ぎ、又は最小限にして、患者と医療従事者との直接の相互汚染、及び間接的な汚染(すなわち、患者又は医療従事者の感染が前の患者によって生じるおそれがあるような、歯科医院若しくは医療従事者の作業場又は道具(tooling)などの環境汚染を通じた)を避ける。同様に、提案された補助装置により、医療従事者は、口腔全体にわたって遮られることなく普通に作業することができ、提案された補助装置を独立して、又はラバー・ダムと併せて使用することができる。
【0017】
また、提案された補助装置により、有害な可能性のある歯科修復材(例えば、歯科用アマルガム)の除去によって生じる粒子が患者の口に残ることを防ぐ。これは、今まで、吸込フード、ラバー・ダム、及び専用マスクの組合せに基づく込み入った方法を使用して解決していた。
【0018】
ガス状流は層流であることが好ましい。
【0019】
アパーチャは、中央部の幅が大きい細長形状を有することが好ましい。
【0020】
例示的な一実施例において、管の別の端部は、空気又は他の中性ガスから選択されるガス状流体の吸引又は圧力送気ポンプ(aspiration or pressure-blowing pump)に接続可能である。場合により、吸引又は圧力送気ポンプを、抗病原体剤(anti-pathogen agent)を提供する回路に関連付けることもできる。
【0021】
例示的な一実施例において、発生部材は2つの管を備え、各管は、端部の一方にアパーチャを備え、他端部で、空気又は他の中性ガスから選択されるガス状流体の吸引又は圧力送気ポンプに接続可能な単一の管状セクションに接続される。本実施例によれば、場合により、吸引又は圧力送気ポンプを、抗病原体剤を提供する回路に関連付けることもできる。
【0022】
例示的な一実施例において、支持体は、カニューレ又は唾液吸引排出器のための1つ又は複数の支持体をさらに備える。
【0023】
例示的な一実施例において、支持体は頬伸張要素(buccal expansion element)を備え、頬伸張要素は、歯科処置中の頬の分離(頬粘膜伸張)のために口の遠心部位において支柱(prop)となる部分を少なくとも備える。或いは、別の実施例において、支持体は頬伸張部材を備え、頬伸張部材は、歯科処置中の口唇開創のために口唇状の支柱となる部分を少なくとも備える。
【0024】
口伸張要素は、患者の口の遠心側方部位又は唇側若しくは側方部位で係合する2つの同一の弧状部又は部分から形成することができる。
【0025】
さらに、吸引又は圧力送気ポンプを流量制御手段に関連付けることができる。
【0026】
さらに別の実施例において、装置は、歯科処置中に患者の口の口腔内部を照明するための照明ユニット、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は光ファイバなどの光導波路用の支持部分を備える又は有する。
【0027】
提案された補助装置は、フリュッゲ微小滴(Flugge micro-droplet)若しくは冷却スプレーにより生じる微小滴を含む直接伝染、又は歯科ボックス(dental box)の表面、衣服、若しくは器具の汚染を通じた間接伝染による生物学的タイプの相互汚染を理由とする、患者と医療従事者との間の保護のために使用することができる。
【0028】
同様に、補助装置は、樹脂、アマルガム、複合材、若しくはガッタパーチャの焼却(incineration)により生じるガスなどの歯科用粉末又は歯科用整復材の懸濁粒子を含む直接の接触又は中毒、或いは歯科ボックスの表面、衣類、若しくは器具の間接伝染による化学タイプの相互汚染を理由とする、患者と医療従事者との間の保護のために使用することもできる。
【0029】
補助装置を使用して、材料、表面、組織、及び器具を含む、患者の口腔へ入れた歯科用器具が水浸しになる若しくは濡れることを防ぎ、又は、医療従事者を患者の口臭から保護することもできる。
【0030】
本発明の上記及びその他の特徴並びに利点が、添付図面を参照する例示的な実施例の以下の詳細な説明からより明らかになろう。これらの実施例は例示的なものに過ぎず、限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の好ましい実施例による、提案された歯科処置用の補助装置を示す図である。
【
図2】本発明の好ましい実施例による、提案された歯科処置用の補助装置を示す図である。
【
図3】支持体が唾液吸引カニューレ又は排出器用の支持体を備える、歯科処置用の補助装置の代替例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の実施例を参照しながら、本発明についてより詳細に説明する。実施例は例示の目的で提示するものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0033】
本発明は、図に参照符号1で示す歯科処置用の補助装置を提供する。この補助装置は、歯科処置中に補助装置が患者の口内に位置決めされると、ガス状流体流、例えば層流を発生させ、それにより、患者の口の内側と外側との間にバリア効果を及ぼすことによって、病原体又は他の粒子の濾過を可能する。
【0034】
図1及び
図2は、本発明により構成された、提案された補助装置1の第1の例示的な実施例を示す。見て取れるように、補助装置1は、ガス状流体流の発生部材10と、口周囲部位に配置される、発生部材10を保持するための支持体11とを備える。この第1の実施例によれば、発生部材10は支持体11に中央部で取り付けられる。また、この例示的な実施例によれば、発生部材10は、端部の一方にアパーチャ12を備える管により形成され、アパーチャ12は、支持体の前で口周囲部位の外側に配置される。アパーチャ12は異なる寸法であってもよいが、図示したような、中央部の幅が大きい細長であることが好ましい。
【0035】
支持体11は、2つの同一又は弧状部若しくは部分16A、16Bにより形成される頬伸張要素を備え、これらの部分16A、16Bは、患者の口の遠心部位において支持体となって、歯科処置中に頬及び口唇の分離(口唇開創)を可能にする。また、補助装置1は、歯科用椅子(図示せず)で使用可能な1つ又は複数の吸引又は吹出空気取入口(aspiration or blow-off air intake)、或いは、ガス状流体(図示せず)、例えば空気又は別の中性ガスの吸引又は圧力送気ポンプに接続可能な管状セクション15を備える。
【0036】
ガス状流体の吸引又は圧力送気ポンプを流量制御手段に関連付けることが好ましい。場合により、吸引又は圧力送気ポンプを、抗病原体剤を提供する回路(図示せず)に関連付けることもできる。
【0037】
図3を参照すると、提案された補助装置1の第2の例示的な実施例が示される。この例示的な実施例の補助装置1は、前述したものと同じであるが、支持体11が、唾液吸引カニューレ若しくは排出器を支持するための2つの支持体又は支柱13を備えるという特殊性を有する。或いは、2つの支柱13を備える代わりに、単一の支持体13を備えてもよい。
【0038】
別の例示的な実施例(この場合、図示せず)によれば、発生部材10が2つの管を備え、各管が端部の一方にアパーチャ12を備え、端部の他方により管状セクション15に接続されて「Y字」を形成する。
【0039】
ガス状流体の吸引又は圧力送気ポンプを、流量制御手段、及び抗病原体薬を供給するための回路に関連付けることが好ましい。
【0040】
提案された補助装置1のさらに他の代替実施例(図を簡単にすることにより図示せず)において、装置1は、歯科処置中に患者の口の口腔内部を照明するための照明ユニットをさらに備える。例示的な一実施例において、照明ユニットは、例えばLED型の照明要素を備え、補助装置自体が備える電気エネルギー源(バッテリ若しくは発電機など)により、又は外部から供給を受ける。或いは、照明ユニットは、光ファイバなどの光導波路を備える。
【0041】
提案された補助装置1は、異なる大きさであってもよく、異なる形状及び大きさの口に対応することができる。
【0042】
本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲において定義される。