(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】細胞培養
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220701BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220701BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220701BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220701BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 Z
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020205752
(22)【出願日】2020-12-11
(62)【分割の表示】P 2018519751の分割
【原出願日】2017-08-17
【審査請求日】2020-12-15
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596060424
【氏名又は名称】フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ボヴァール ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】リュティヒ カルスタ
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-102737(JP,A)
【文献】特開2016-054734(JP,A)
【文献】国際公開第2012/123712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 3/00
C12Q 1/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離3次元肝スフェロイドであって、前記単離3次元肝スフェロイドが
(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物、のいずれかからなる、または本質的にそれらのいずれかからなる、細胞培養培地中で3次元肝スフェロイドを得るために充分な時間、培養するステップを含むプロセスにより取得され、
前記単離3次元肝スフェロイドが、
完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも1.5倍増加したATP含有量、
完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも1.0倍上昇したチトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、及び、
完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも1.9倍増加したアルブミン分泌を有し、
前記完全PneumaCult-ALI培地は、PneumaCult-ALI基礎培地(StemCell Technologies社、ref.05002)、PneumaCult-ALI 10Xサプリメント(StemCell Technologies社、ref.05003)、PneumaCult-ALI維持サプリメント(StemCell Technologies社、ref.05006)、ヒドロコルチゾンストック溶液(StemCell Technologies社、ref.07925)および0.2%ヘパリンナトリウム塩のPBS溶液の混合物であり、
前記完全B-ALI培地は、B-ALI増殖基礎培地、B-ALI分化基礎培地、およびB-ALI SingleQuotsキットを含むB-ALI BulletKit(Lonza社、カタログ番号193514)の内容物の組み合わせであり、
前記完全ウイリアムE培地は、HepaRG Maintenance&Metabolismサプリメント(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号HPRG720)およびGlutaMAX(商標)溶液(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号35050061)で補充されたウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号12551032)であり、
前記(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物は、30%~99.9%(v/v)のPneumaCult-ALI培地と0.1~70%(v/v)の完全ウイリアムE培地からなり、
前記(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物は、70~95%(v/v)の完全B-ALI培地と5~30%(v/v)の完全ウイリアムE培地からなる、
前記単離3次元肝スフェロイド。
【請求項2】
3次元多器官培養システムにおける使用のための請求項1に記載の単離3次元肝スフェロイド。
【請求項3】
前記スフェロイドが、ヒト肝前駆細胞株であるか、またはヒト肝前駆細胞から誘導される、請求項1または2に記載の単離3次元肝スフェロイド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイドを含む3次元器官培養システム
であるか、または請求項1~3のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイドと
少なくとも1つの他の3次元細胞種をさらに含む3次元多器官培養システムであって、
前記単離3次元肝スフェロイドが、前記培養システム上に含まれる培養培地中に浸され
ており、および/または、3次元肺上皮細胞をさらに含む、
前記3次元器官培養システムまたは前記3次元多器官培養システム。
【請求項5】
前記3次元肺上皮細胞が、前記3次元多器官培養システム上の気相液相界面にある、求項4に記載の3次元多器官培養システム。
【請求項6】
(a)培養培地中に第一の3次元細胞種が浸るよう適合された第一の器官腔を備えた第一の器官増殖セクションと、
(b)気相液相界面で第二の3次元細胞種が培養されるよう適合された第二の器官腔を備えた第二の器官増殖セクションであって、前記第二の3次元細胞種は、前記第一の3次元細胞種とは異なる細胞種である、第二の器官増殖セクションと、
(c)前記第一の器官腔と前記第二の器官腔を接続して、その間の培養培地の流れを可能とする培養培地容器と、を含む、3次元多器官培養システムであって
前記第一の器官腔と第二の器官腔は、同じ培養培地を含み、および/または、
前記システムは小型化され、および/または
前記システムは、マイクロ流体デバイスを備えるか、またはマイクロ流体デバイスであり、
前記培養培地は
(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物、のいずれかからなる、または本質的にそれらのいずれかからなる、細胞培養培地であって、
前記完全PneumaCult-ALI培地は、PneumaCult-ALI基礎培地(StemCell Technologies社、ref.05002)、PneumaCult-ALI 10Xサプリメント(StemCell Technologies社、ref.05003)、PneumaCult-ALI維持サプリメント(StemCell Technologies社、ref.05006)、ヒドロコルチゾンストック溶液(StemCell Technologies社、ref.07925)および0.2%ヘパリンナトリウム塩のPBS溶液の混合物であり、
前記完全B-ALI培地は、B-ALI増殖基礎培地、B-ALI分化基礎培地、およびB-ALI SingleQuotsキットを含むB-ALI BulletKit(Lonza社、カタログ番号193514)の内容物の組み合わせであり、
前記完全ウイリアムE培地は、HepaRG Maintenance&Metabolismサプリメント(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号HPRG720)およびGlutaMAX(商標)溶液(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号35050061)で補充されたウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号12551032)であり、
前記(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物は、30%~99.9%(v/v)のPneumaCult-ALI培地と0.1~70%(v/v)の完全ウイリアムE培地からなり、
前記(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物は、70~95%(v/v)の完全B-ALI培地と5~30%(v/v)の完全ウイリアムE培地からなり、
前記3次元多器官培養システムは請求項1~3のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイドを含む、
前記3次元多器官培養システム。
【請求項7】
剤に対する3次元肝スフェロイドの反応を評価するためのin vitro方法であって、前記方法が、
(i)請求項1~3のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイド、または請求項4に記載の3次元器官培養システム、または請求項
4~6のいずれか1項に記載の3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させることと、及び
(ii)前記少なくとも1つの剤との接触後、前記単離3次元肝スフェロイド、または前記3次元器官培養システム、または前記3次元多器官培養システムの1つ以上の反応を測定すること、とを含み、
前記少なくとも1つの剤との接触前後での1つ以上の反応における差異は、前記剤が、前記細胞の反応を調節することの指標である、方法。
【請求項8】
剤に対する3次元肝スフェロイドおよび3次元肺上皮細胞の反応を評価するためのin vitro方法であって、前記方法が、
(i)請求項4に記載の3次元器官培養システム、または請求項
4~6のいずれか1項に記載の3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させるステップと、
(ii)前記少なくとも1つの剤との接触後、前記3次元器官培養システム、または前記3次元多器官培養システムの1つ以上の反応を測定するステップ、とを含み、
前記少なくとも1つの剤との接触前後での1つ以上の反応における差異は、前記剤が、前記細胞の反応を調節することの指標であり、
ステップ(ii)は、前記少なくとも1つの剤の、前記3次元肺上皮細胞への浸透を測定することを含み、および/または、
(iii)3次元肝スフェロイドにおける前記少なくとも1つの剤の生体内活性化を測定するステップであって、ステップ(ii)および(iii)における前記測定は同時に行われるか、またはステップ(iii)の前記測定はステップ(ii)の前記測定の後に行われる、測定するステップをさらに含み、および/または、
前記剤はエアロゾルである、方法。
【請求項9】
毒性検査のための、または薬剤開発のための、または肺細胞への剤の浸透を決定するための、および/もしくは肝細胞における剤の生体内活性化を決定するための、請求項4に記載の3次元器官培養システム、または請求項
4~6のいずれか1項に記載の3次元多器官培養システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養分野に関するものであり、特に、3次元細胞の培養、3次元の共培養物、およびその方法と用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2次元細胞培養システムを使用した毒性試験を使用し、細胞生存率および酵素活性などに対する薬剤の作用が検証されている。プラスチック表面上の平面層で細胞を単純に増殖させることは可能であり、刺激に対する細胞生理および細胞反応のいくつかの態様に関する試験を行うことができるが、器官の実際の仕組みおよび構造は反映していない。2次元単層では、分化、増殖、および細胞機能にとって必須である、細胞外マトリクス、細胞-細胞相互作用、および細胞-マトリクス相互作用が失われている。
【0003】
3次元培養システムは、in vivoで観察される特性と類似した特性を有する機能的組織を形成することができる。2次元培養システムと比較し、3次元細胞培養は3方向すべての周囲環境と細胞の相互作用を可能とし、より生理的な関連性が高くなる。そのような細胞は生存能力、増殖、分化、形態、刺激応答、薬剤代謝、遺伝子発現、およびタンパク質合成などの改善を示すことができる。3次元細胞培養を行うことで固有の組織様構造を生じさせることができ、および従来的な2次元細胞単層よりも生理的に関連性の高い様式で実際の組織の機能と応答を模倣することができる。
【0004】
ヒトの器官を模したいくつかの3次元組織が市販されている。たとえば気相液相界面(ALI:air-liquid interface)で増殖した初代ヒト細胞を使用して肺の3次元器官型組織を調製することができる。ALIは、これら細胞が分化し、機能的組織を形成する場所である。これら3次元組織は、ヒトの気管支組織に近い形態類似性と代謝特性を担持している。これらは、多列構造に配置された基底細胞、ゴブレット細胞と線毛細胞から構成されている。肺に似て、活発に波打つ線毛が存在しており、それによりその機能と活性に関する研究が可能となる。ヒト肺と比較し、これら3次元ALI培養において、生体異物酵素をコードするmRNAは同等レベルであることが判明している。さらにこれら組織は、長期間in vitroで維持することができる。この3次元モデルの肺組織は、エアロゾルや薬剤などの作用探索に適したモデルであり、さらに反復暴露の作用観察にも適している。
【0005】
その他の3次元モデルも報告されており、3次元肝スフェロイドモデルが挙げられる。肝スフェロイドは数種の細胞から構成することができ、それら細胞は当初、肝細胞に対する薬剤処置の効果を決定するために2次元培養で使用されていた。しかしながら初代ヒト肝細胞は、ヒト肝組織と比較して同様の第1相代謝遺伝子発現を有しているにもかかわらず、5日以上は代謝酵素を発現しない。もう1つの制約は、生存期間が短いことであり、そのため反復投与は困難となっている。これらの欠点は、別の長期生存型の肝細胞株、たとえばHepaRG細胞(ThermoFisher Scientific社)などを使用することで克服することができる。HepaRG細胞は、初代ヒト肝細胞の多くの特徴を保有するヒト肝前駆細胞株である。それら細胞は、初代肝細胞と比較し、肝特異性が高く、第1相代謝遺伝子発現がある。加えて、それらの生存期間は大きく延長されている。3次元スフェロイド中でHepaRG細胞を形成させることにより、生存期間を延長させ、代謝能力を上昇させる。
【0006】
肝依存性毒性試験の目的は、この組織が生体異物代謝により数種の化合物を代謝する能力に関連する。多くの化合物が不活化され、可溶化される一方で、一部は生体内活性化されてしまい、毒性が生じる。結果として、肝臓で発生する生体内活性化のプロセスを考慮することなく、器官における化合物の毒性を試験することで、被験物質の毒性作用が過少評価されてしまう可能性が生じる。それゆえ、エアロゾル暴露の分野において、肺における物質浸透に関する試験方法の改善、および肝臓におけるそのさらなる生体内活性化に関する試験方法の改善に対するニーズが存在する。本発明は、当分野のこのニーズへの対処を探究するものである。
【発明の概要】
【0007】
本開示において、個々の肺培養および肝臓培養が確立され、形態的および機能的に評価される。両細胞種の共培養を促進するために、肺培養と肝培養の両方ともが生存能力、構造完全性、および機能性を維持するような細胞培養条件および固有細胞培養培地が特定された。有益なことに、これによって肺と肝臓の間の相互作用を、重要なことには各細胞の個々の特性を損なうことなく再現する多器官システムの開発が可能となった。本明細書において、肺上皮細胞培養培地を使用して肝スフェロイドを増殖および維持することができ、さらには肝スフェロイドの特性を大きく改善することができたという発見は全くの予想外であった。たとえばエアロゾルなどの肺吸収化合物の代謝に対する肝臓の役割の理解に対し、この多器官システムの使用は大きく役に立つであろう。本開示は、臨床的状況に近く、それゆえにより予測的であることが期待される3次元細胞培養システムにおいて、化合物の影響を試験するための有益なツールを提供するものであり、ならびにユニーク、シンプル、および安価な3次元肝細胞と肺細胞の共培養システムをもたらすものである。
【0008】
発明の態様および実施形態
第1の態様において、単離3次元肝スフェロイドが提供され、この場合において当該スフェロイドは、以下を有している:完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇している;およびウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アルブミン分泌が増加している。
【0009】
「完全ウイリアムE培地単独」という用語は、完全ウイリアムE培地のみからなる培養培地を意味し、すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地からなる培養培地である。
【0010】
別の態様において、以下を含むプロセスにより取得される、または取得可能な3次元多器官培養システムにおける使用のための単離3次元肝スフェロイドが提供される:以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、細胞培養培地中で3次元肝スフェロイドを、3次元肝スフェロイドを取得するために充分な期間、培養すること:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地:この場合において、当該3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇している;および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アルブミン分泌が増加している。
【0011】
適切には、スフェロイドはヒト肝前駆細胞株であり、またはヒト肝前駆細胞から誘導され、適切には、当該スフェロイドは、HepaRG細胞であり、またはHepaRG細胞から誘導される。
【0012】
適切には、スフェロイドは、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる細胞培養培地中で培養される:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地。
【0013】
さらなる態様において、前述の請求項のいずれかに従う3次元肝スフェロイドと、3次元肺上皮細胞を含有する共培養物が提供される。
【0014】
適切には、共培養物は、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる細胞培養培地中で維持される:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地。
【0015】
さらなる態様において、本明細書に記載される単離3次元肝スフェロイドを含有する3次元器官培養システムが提供される。
【0016】
さらなる態様において、本明細書に記載される単離3次元肝スフェロイドと、少なくとも1つの他の3次元細胞種をさらに含有するか、または本明細書に記載される共培養物を含有する3次元多器官培養システムが提供される。
【0017】
適切には、3次元肝スフェロイドは、培養システム上に含まれる培養培地中に浸される。
【0018】
適切には、3次元多器官培養システムはさらに、3次元肺上皮細胞を含有し、適切には当該3次元肺上皮細胞は、当該3次元多器官培養システム上の気相液相界面にある。
【0019】
さらなる態様において、以下を備えた3次元多器官培養システムが提供される。(a)培養培地中に第一の3次元細胞種を浸すよう適合された第一の臓器腔を備えた第一の器官増殖セクション;(b)気相液相界面で第二の3次元細胞種を培養するよう適合された第二の器官腔を備えた第二の器官増殖セクションであって、当該第二の3次元細胞種は、第一の3次元細胞種とは異なる細胞種である;および(c)第一の器官腔と第二の器官腔を接続して、その間の培養培地の流れを可能とする培養培地容器。
【0020】
適切には、第一の器官腔と第二の器官腔は、同じ培養培地を含有している。
【0021】
適切には、3次元多器官培養システムは、本明細書に記載される共培養物を含有している。
【0022】
適切には、3次元器官培養システムまたは3次元多器官培養システムは、小型化されている。
【0023】
適切には、3次元器官培養システムまたは3次元多器官培養システムは、マイクロ流体デバイスを備えており、またはマイクロ流体デバイスであり、適切には当該システムは、器官・オン・チップである。
【0024】
さらなる態様において、以下を含有する、または以下からなる、または本質的に以下からなる細胞培養培地が提供される:(a)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物;または(b)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物。
【0025】
適切には、細胞培養培地はさらに、本明細書に記載される3次元肝スフェロイドまたは共培養物を含有している。
【0026】
さらなる態様において、培養培地を含有する3次元多器官培養システムが提供され、当該培養培地は、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、培養培地からなる群から選択される:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地、またはそれらの2つ以上の組み合わせ。
【0027】
さらなる態様において、以下を含む3次元器官培養システムにおける使用のための3次元肝スフェロイドを調製する方法が提供される:(i)3次元肝スフェロイドを提供すること;(ii)以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、培養培地と当該3次元肝スフェロイドを接触させること:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地;および(iii)3次元器官培養システムにおける使用のための3次元肝スフェロイドを取得すること。
【0028】
さらなる態様において、以下を含む3次元多器官培養システムにおける使用のための、3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる、共培養物を調製する方法が提供される:(i)3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞を提供すること;(ii)以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、培養培地と、当該3次元肝スフェロイドと当該3次元肺上皮細胞を接触させること:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地;および(iii)3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞の共培養物を取得すること。
【0029】
さらなる態様において、剤に対する3次元肝スフェロイドの反応を評価するためのin vitro方法が提供され、当該方法は、以下を含む:(i)本明細書に記載される3次元肝スフェロイドまたは共培養物または3次元器官培養システム、または3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させること;および(ii)当該少なくとも1つの剤との接触後、当該3次元肝スフェロイドまたは当該共培養物または当該3次元器官培養システムまたは当該3次元多器官培養システムの1つ以上の反応を測定すること;この場合において当該少なくとも1つの剤との接触前後での1つ以上の反応における差異は、当該剤が当該細胞の反応を調節することの指標である。
【0030】
さらなる態様において、剤に対する3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞の反応を評価するためのin vitro方法が提供され、当該方法は、以下を含む:(i)共培養物または3次元器官培養システムまたは3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させること;および(ii)当該少なくとも1つの剤との接触後、当該共培養物または当該3次元器官培養システムまたは当該3次元多器官培養システムの1つ以上の反応を測定すること;この場合において当該少なくとも1つの剤との接触前後での1つ以上の反応における差異は、当該剤が当該細胞の反応を調節することの指標である。
【0031】
適切には、ステップ(ii)は、当該少なくとも1つの剤の、3次元肺上皮細胞への浸透を測定することを含む。
【0032】
適切には、当該in vitro方法は、以下のさらなるステップを含む:(iii)3次元肝スフェロイドにおける当該少なくとも1つの剤の生体内活性化を測定すること;この場合において、ステップ(ii)および(iii)における測定は同時に行われるか、またはステップ(iii)の測定はステップ(ii)の測定の後に行われる。
【0033】
適切には当該剤はエアロゾルであり、より適切には当該エアロゾルは、煙であるかまたは煙から誘導され、適切にはたばこの煙であるかまたはたばこの煙から誘導される。
【0034】
さらなる態様において、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる細胞培養培地の使用が提供される:3次元肝スフェロイドもしくは3次元肺上皮細胞を培養するための、または3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞を共培養するための、(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地。
【0035】
さらなる態様において、毒性検査のための、または薬剤開発のための、または肺細胞への剤の浸透を決定するための、および/もしくは肝細胞における剤の生体内活性化を決定するための、本明細書に記載される3次元器官培養システムまたは3次元多器官培養システムの使用が提供され、適切には、当該剤はエアロゾルである。
【0036】
さらなる態様は、実質的に本明細書に記載され、および添付の明細書および図面に関連する、肝スフェロイド、共培養物、3次元器官培養システム、3次元多器官培養システム、細胞培養培地、方法または使用に関する。
【0037】
さらなる特定の、および好ましい態様は、添付の独立請求項および従属請求項に提示されている。従属請求項の特性は、適切である場合には独立請求項の特性と組み合わされることができ、および請求項に明白に提示されるもの以外の組み合わせであってもよい。上記に提示される実施形態のうちの1つ以上の組み合わせもまた開示される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】3次元器官型肺組織の特徴解析のための実験デザインとエンドポイントの概略図(GEx:遺伝子発現)。
【
図2】肝スフェロイドの特徴解析のための実験デザインとエンドポイントの概略図(GEx:遺伝子発現)。
【
図3】成熟後1週、2週、3週、および4週での3次元器官型肺培養のヘマトキシリン&エオジン染色とアルシアンブルー染色。上皮の代表的な断面図が、20xの倍率で示されている。
【
図4】3次元器官型肺培養のATP含有量が、成熟後1週、2週、3週、および4週で計測される。3回の独立した測定結果が示される。Rep:反復;RLU:相対光単位
【
図5】3次元器官型肺培養の先端表面液へのATP分泌は、成熟後1週、2週、3週および4週で、低張食塩水を用いた刺激に対する反応で測定される。6回の独立した測定結果が示される。Rep:反復
【
図6】成熟後1週、2週、3週、および4週で、3次元器官型肺培養におけるチトクロームP450 1A1/B1活性が計測される。結果は、基準CYP活性、TCDDおよびリファンピシンを用いた48時間の処置後に誘導された活性、およびα-ナフトフラボンを用いた阻害後に誘導された活性を示している。結果は、3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。点線は、時点当たりの平均値に基づく傾向を示している。
【
図7】3次元器官型肺培養における第1相薬剤代謝酵素をコードする遺伝子発現の倍数制御が、1週、2週、3週、および4週で評価される。遺伝子発現は、48時間、TCDDおよびリファンピシンを用いて処置された肺培養物(n=3)と、未処置培養物(n=3)の間で比較され、倍数変化は、ΔΔCT法を使用して算出されている。ヒートマップは、20個の最もアップレギュレートされた遺伝子(左側、赤色)と、ダウンレギュレートされた遺伝子(右側、青色)を、倍数変化とともに記載している。遺伝子記号は、ヒートマップの左側に提示されている。
【
図8】肝スフェロイドは、成熟後1週、2週、3週、および4週でサイトケラチン19発現に対し染色された。10xの倍率、疑似色(CK19は赤色、核は青色)で代表的な画像を示している。
【
図9】肝スフェロイドおよびそれらの馴化培地の総ATP含有量は、成熟後1週、2週、3週、および4週で測定される。3回の独立した測定結果が示される。Rep.反復
【
図10-1】肝スフェロイドからのアルブミン分泌は、成熟後1週、2週、3週、および4週で定量される。8回の独立した測定結果が示される。点線は、時点当たりの平均値に基づく傾向を示している。Rep:反復;肝スフェロイドによるアルファ-GST産生は、成熟後1週、2週、3週、および4週で評価される。8回の独立した測定結果が示される。Rep:反復;チトクロームP450 1A1/B1活性は、成熟後1週、2週、3週、および4週で肝スフェロイドにおいて測定される。結果は、基準CYP活性、TCDDおよびリファンピシンを用いた48時間の処置後に誘導された活性、およびα-ナフトフラボンを用いた阻害後に誘導された活性を示している。結果は、3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている;チトクロームP450 1A2活性は、成熟後1週、2週、3週、および4週で肝スフェロイドにおいて測定される。結果は、基準CYP活性、TCDDおよびリファンピシンを用いた48時間の誘導後に誘導された活性、およびフラボキサミンマレイン酸塩を用いた阻害後に誘導された活性を示している。結果は、3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。
【
図11】肝スフェロイドとその馴化培地の総ATP含有量は、ウイリアムE培地と、完全B-ALI培地または完全PneumaCult-ALI培地(StemCell Technologies社、グルノーブル、フランス)の混合物における培養後に測定される。結果は5回の独立した測定に対する平均±SEMとして表されている;細胞毒性は、ウイリアムE培地と、完全B-ALI培地または完全PneumaCult-ALI培地の混合物における培養後に肝スフェロイドにおいて測定される。結果は、5回の独立した測定の平均±SEMとして表されている。RFU:相対蛍光単位
【
図12】アポトーシスは、ウイリアムE培地と、完全B-ALI培地または完全PneumaCult-ALI培地の混合物における培養後に肝スフェロイドにおいて測定される。結果は5回の独立した測定に対する平均±SEMとして表されている;CYP1A1/B1活性は、ウイリアムE培地と、完全B-ALI培地または完全PneumaCult-ALI培地の混合物における培養後に肝スフェロイドにおいて測定される。結果は、3回の独立した測定の平均±SEMとして表されている。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本開示内容の実施は、別段の示唆がない限り、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および生化学の標準的な技術を使用する。かかる技術はたとえば以下などの文献中に完全に解説されている。分子クローニング:A Laboratory Manual, second edition (Sambrook et al., 1989) Cold Spring Harbor Press; Oligonucleotide Synthesis (MJ. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press;細胞生物学:A Laboratory Notebook (J. E. CeIMs, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed., 1987); Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press; 細胞および組織の培養:Laboratory Procedures (A. Doyle, IB. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons; Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel et al., eds., 1987); PCR:The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994)。通常、市販のキットおよび試薬を使用する手順は別段の示唆がない限りメーカーが定めたプロトコールに従い使用される。
【0040】
本明細書で使用される技術的な用語および表現は概して、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および生化学の関連分野において当該用語に普遍的に適用される意味が与えられる。以下の用語の定義はどれも、本明細書の全内容に適用される。
【0041】
「含有する(comprising)」は、他の要素またはステップを除外しない。
【0042】
「本質的にからなる(consisting essentially of)」という用語は、所与の実施形態に対して必要とされるそれら要素を指す。当該用語は当該実施形態の基礎的で新規な、または機能的な特性に実質的に影響を与えない要素の存在を許容する。当該用語は、列挙される構成要素または成分に加えて、他の構成要素または成分の存在を許容する。ただし、組成物の必須の特性が、それらの存在により実質的に影響を受けないことを条件とする。細胞培養培地との関連で、当該用語は細胞培養培地の基礎的で新規な、または機能的な特性に実質的に影響を与えない要素または成分の存在を許容する。当該用語は、列挙される要素または成分に加えて、他の要素または成分の存在を許容する。ただし、細胞培養培地の必須の特性が、それらの存在により実質的に影響を受けないことを条件とする。たとえば当該用語は、列挙される要素または成分に加えて、他の要素または成分の存在を許容する。ただし、細胞培養培地中で培養される細胞の必須の特性が、当該他の要素または成分を含まない細胞培養培地中で培養された細胞と比較して、それらの存在により実質的に影響を受けないことを条件とする。
【0043】
不定冠詞の「a」または「an」は、複数を除外しない。
【0044】
細胞培養
細胞培養は概して、人工環境中での増殖の前に、組織から細胞を取り出すことを指す。培養される細胞は、培養される細胞を含有する組織から直接取り出されることができ、および任意で培養前に酵素的手段または機械的手段を用いて処置されることができる。代替として、培養される細胞は、従前に確立された細胞系統または細胞株から誘導されることもできる。細胞培養は、生理学;生化学;エアロゾルを含む薬剤または化合物の作用;薬剤または化合物のスクリーニングおよび開発または最適化;薬剤または化合物の有効性に関する試験;薬剤または化合物の吸収に関する試験;毒性スクリーニング;毒性学;標的探索;薬物動態;薬物力学;ならびに再生医療をはじめとする細胞の様々な態様の研究用のシステムを提供することができる。
【0045】
増殖因子、ホルモン、気体、およびたとえばビタミン、アミノ酸、炭水化物、ミネラルなどの必須栄養素を供給する細胞培養培地を含有する人工環境中で細胞は増殖し、その中で当該人工環境は、温度、pHおよび圧力に関し制御されている。一部の細胞は、固体または半固体の基質への固定を必要とし、一方で他の細胞は培養培地中に浮遊しながら増殖することができる。
【0046】
本開示は、マトリクスまたはスキャホールドの使用を伴う、または伴わない、3次元での細胞の培養を提供する任意の方法を含む、「3次元細胞培養」の使用を含む。スフェロイド培養および器官型培養をはじめとする、多くの様々な3次元細胞培養方法が開発されている。スフェロイドシステム、特に肝スフェロイドシステムは、本開示において特に対象となる。
【0047】
スフェロイド
「スフェロイド」という用語は、スフェロイド内での3次元細胞増殖をサポートするためのマトリクスまたはスキャホールドの使用を伴う、または伴わない、3次元の細胞の球へと分裂する単一細胞、または3次元の多細胞塊のいずれかである、当分野で通常に理解される意味とみなされる。3次元のスフェロイドは、付着性スフェロイドまたは懸濁液中で増殖したスフェロイドであってもよい。
【0048】
スフェロイドを培養するために数種の異なるシステムが利用可能であり、たとえばナノ培養プレート上で、懸濁培養中で、ゲル上で、またはポリ-HEMAでコートされたプラスチック上で凝集体として増殖したスフェロイド、細胞カプセル化を介して増殖したスフェロイド、または懸滴システムを介した凝集体として増殖したスフェロイドが挙げられる。他の方法としては、スピナーフラスコ、回転システム、凹面法、および液体オーバーレイの使用が挙げられる。バイオリアクターを3次元スフェロイド細胞培養における使用に適合させてもよい。1つの実施形態において、使用される方法は、懸滴システム-たとえばGravityPLUS Hanging Drop System(InSphero社)である。この方法は、スフェロイドの作製用に設計された非付着性コート済みマイクロタイタープレートであるGravityTRAP ULA Plateの使用を含む。スフェロイドの成熟は通常、細胞の種類および培養条件に応じて、播種から2~5日以内に発生する。適切には、スフェロイドは100μl以上、または200μl以上、または300μl以上の容積中で培養される。適切には、スフェロイドは、Corning(登録商標)スフェロイドマイクロプレート中で培養される。
【0049】
3次元細胞培養マトリクスまたはスキャホールドをスフェロイド培養に使用することができる。これらは多くの場合、3次元の細胞増殖と分化をサポートすることができる多孔性基質である。様々なマテリアルが開発され、外観、多孔性、透過性、機械的特性、およびナノスケールの表面形態に差異がある3次元スキャホールドが生成されている。かかるマテリアルの例としては、以下が挙げられる:コラーゲンゲル、スポンジ、またはバイオゲル;フィブリン;フィブロネクチン;ラミニン;アルギン酸塩、ヒドロゲル;架橋グリコサミノグリカ;ポリマー系スキャホールド、合成スキャホールド;ペプチドスキャホールド;およびキトサン複合スキャホールド。
【0050】
3次元スフェロイドは、その細胞情報伝達および細胞外マトリクスの発達という点で、in vivo組織により類似している。これらマトリクスは、生きた組織中で細胞が移動する方法に類似させて、スフェロイド内での細胞の移動を補助する。したがって、スフェロイドは、分化、生存、細胞移動、細胞極性化、遺伝子発現および増殖に関し、大きく改善されたモデルである。
【0051】
スフェロイドはプレートリーダーを用いて計測される比色分析、蛍光、および発光アッセイをはじめとする当分野に公知の様々な方法を使用して採取および研究することができ、または顕微鏡で容易に観察することができる。追加の技法としては、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、またはサザンブロット、組織学的技法(たとえば免疫組織化学法、in situハイブリダイゼーション、免疫蛍光法)などが挙げられる。たとえば倒立明視野顕微鏡、蛍光顕微鏡、単光子放出コンピューター断層撮影法(SPECT)、陽電子放出断層撮影法(PET)、磁気共鳴撮影法(MRI)、およびチェレンコフ発光撮影法(CLI)技術などの光学撮影法の使用も予期される。
【0052】
3次元スフェロイド使用の応用としては、in vivoで存在するものにより近い環境中で、in vitroで細胞および組織を増幅させる実験、化合物のスクリーニング、毒性アッセイ、細胞療法、細胞送達、薬物送達、生化学的代替、生体活性分子の産生、組織操作、バイオマテリアル、および臨床試験が挙げられる。
【0053】
3次元細胞培養でのスフェロイドの使用は、Expert Opin. Drug Discov. (2015) 10, 519-540に概説されている。
【0054】
1つの実施形態において、スフェロイドは、3次元肝スフェロイドを形成する肝臓細胞であるか、それらから誘導される。かる肝スフェロイドは、当分野に公知であり、たとえばALTEX(2014)31,441-477、およびToxicol.Sci.Off.J.Soc.Toxicol.(2013)133,67-78などに解説される様々な方法を使用して調製することができる。
【0055】
1つの態様は、単離3次元肝スフェロイドに関しており、当該スフェロイドは、以下を有している:完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇している;および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アルブミン分泌が増加している。
【0056】
別の態様は、以下を含むプロセスにより取得される、または取得可能な3次元多器官培養システムにおける使用のための単離3次元肝スフェロイドに関する:以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、細胞培養培地中で3次元肝スフェロイドを、3次元肝スフェロイドを取得するために充分な期間、培養すること:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地:この場合において 当該3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇している;および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アルブミン分泌が増加している。
【0057】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、肝細胞の培養に前もって最適化されている、たとえばウイリアムE培地などの細胞培養培地中で増殖した単離3次元肝スフェロイドと比較し、改善された特性を示し得る。
【0058】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇し、およびアルブミン分泌が増加し得る。
【0059】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも1.5倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも1.0倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも1.9倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0060】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.1倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも1.9倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも1.8倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0061】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.1倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも2.1倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも2.0倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0062】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.4倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも2.4倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも2.1倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0063】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.9倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも2.3倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも2.6倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0064】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.6倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも2.9倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも2.5倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0065】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.7倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも2.1倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも3.3倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0066】
単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも2.7倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、少なくとも2.6倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、少なくとも3.1倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0067】
ATP含有量、チトクロームP450 1A1、およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌の測定方法を本明細書に解説する。
【0068】
適切には、培養で増殖させたとき、単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、壊死細胞数が同じまたは増加している。
【0069】
適切には、培養で増殖させたとき、単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アポトーシス細胞が増加している。
【0070】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、グルタチオン(GSH)のレベルが調節されている(たとえば、上昇または減少)。
【0071】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、酸化グルタチオン(GSSG)のレベルが上昇している。
【0072】
適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0073】
共培養の使用もまた予期される。1つの態様において、少なくとも1つの他種の細胞、適切には3次元肺上皮細胞と、本明細書に記載される3次元肝スフェロイドを含有する共培養物が提供される。適切には、当該共培養物は、本明細書に記載される細胞培養培地中で維持される。
【0074】
1つの実施形態において、スフェロイドは、3次元肺スフェロイドを形成する肺細胞であるか、またはそれらから誘導される。かかる肺スフェロイドは、当分野に公知であり、たとえばALTEX (2014) 31, 441-477、およびToxicol. Sci. Off. J. Soc. Toxicol. (2013) 133,67-78などに解説される様々な方法を使用して調製することができる。
【0075】
細胞源
本開示は、肺細胞および肝細胞を含む様々な種類の細胞を利用する。本開示における使用のための細胞および細胞株は、当分野に公知の方法を使用して組織または液体から単離することができる。本開示における使用のための細胞および細胞株は、たとえば胚性幹細胞または人工多能性幹細胞などの幹細胞から分化させることができ、または体細胞から直接分化させることができる。細胞および細胞株は、ヒトもしくは動物対象、またはヒト細胞もしくは動物細胞由来であってもよく、またはそれらから誘導されてもよく、多くの哺乳類種のいずれか、適切にはヒトが挙げられるが、ラット、マウス、ブタ、ウサギおよび非ヒト霊長類なども含む。細胞および細胞株は、商業的供給源から取得することもできる。
【0076】
肺細胞-肺上皮細胞を含む-は、対象細胞の1種である。気管支および/または気道の上皮細胞は、本開示の特定の用途の対象である。ヒト気管支上皮細胞は、気管支鏡検査手順の間にドナーの肺をブラッシングすることにより採取することができる。1つの実施形態において、肺細胞は、正常なヒト気管支上皮(NHBE:Normal Human Bronchial Epithelial)細胞である。肺上皮細胞は、単層の未分化細胞として培養されることができ、または気相液相界面で器官型肺上皮様組織へとさらに発展させることもできる。細胞は、以下の技法を使用して気相液相界面で確立させることができる。簡潔にのべると、上皮細胞をフラスコ内で培養し、細胞数を増加させてもよい。インキュベーション期間後、細胞をフラスコからはがし、計数して、インサート上に播種する。これらインサート上で、先端側および底側で、培地とともに細胞をインキュベーションする。この段階により確実に細胞が分裂し、インサートを完全に覆って上皮を形成する。その後、先端部の培地を取り除き、底側の培地を保持して、より完全な培地と交換する。さらなる期間、このように培養物をインキュベートする。その間に、細胞は3種の細胞:基底細胞、ゴブレット細胞および線毛細胞へと分化する。成熟の最後で、培養物を使用することができる。ヒト鼻上皮細胞を培養するための気相液相界面の使用は、J Vis Exp. 2013; (80): 50646に記載されている。
【0077】
肺上皮細胞は、喫煙者または非喫煙者と分類される対象をはじめとする、異なる病的状態のヒト対象または動物対象から取得することができる。
【0078】
肝細胞は、もう1つの対象細胞種である。1つの実施形態において、使用される細胞は肝細胞である。肝細胞は肝臓の細胞であり、肝臓の細胞部分の70~85%を構成する。肝細胞の機能性は、極性表現型を形成するそれら能力に大きく依存しており、極性表現型は3次元培養でのみ確立される。肝臓細胞の1つの源は、初代肝細胞であり、肝臓の生理および病理の多くの態様を研究するために広く使用されているin vitroモデルである。ヒト肝細胞を単離するために使用される技術は、ドナー肝臓の2ステップコラゲナーゼかん流に基づいたものであってもよい。しかしながらこれらの細胞は、5日以上は代謝酵素を発現しない。もう1つの制約は、その短い生存期間である。これらの欠点は、別の長期生存型肝細胞株、たとえばヒトまたは動物の肝前駆細胞株などを使用することで克服することができる。ヒト肝前駆細胞株の1つのかかる例は、HepaRG細胞株(ThermoFisher Scientific社)である。HepaRG細胞は、初代ヒト肝細胞の多くの特徴を保有している。それらは、初代肝細胞と比較し、肝特異性が高く、代謝遺伝子発現があり、生存期間も長い。3次元スフェロイド中でのHepaRG細胞の再組織化により、生存期間と代謝能力の両方がさらに上昇する。このことからスフェロイドは毒性試験に関し、より優れた代替in vitro肝モデルを提供し得ることが示唆される。肝スフェロイドは、初代肝細胞と肝星細胞、または初代肝細胞と脂肪組織由来幹細胞の混合物を用いて生成することもできる。
【0079】
1つの実施形態において、肺細胞は、肺上皮細胞-たとえば気管支および/または気道の上皮細胞である。
【0080】
1つの実施形態において、肝細胞は、HepaRG細胞であり、適切にはスフェロイドHepaRG細胞である。
【0081】
肝細胞と肺細胞の組み合わせをはじめとする細胞の組み合わせもまた予期される。肺上皮細胞-たとえば気管支および/または気道の上皮細胞と、HepaRG細胞、適切にはスフェロイドHepaRG細胞の組み合わせが予期される。
【0082】
本開示の1つの態様は、3次元多器官培養システムに関する。この培養システムは様々な細胞-たとえば本明細書に記載される肝細胞と肺細胞などの使用を含み得る。他種の細胞の使用もまた予期され、限定されないが、内皮細胞、(肺)線維芽細胞、ならびに単球/マクロファージ、樹状細胞、好中球、および肥満細胞などの免疫細胞が挙げられる。
【0083】
1つの実施形態において、本開示方法は、対象から細胞サンプルを単離するステップまたは取得するステップを含まない。
【0084】
細胞培養培地
本開示の1つの態様は、3次元細胞を培養するために使用され得る細胞培養培地に関する。1つの実施形態において、細胞培養培地を使用して、各細胞の個々の特性を消失させることなく、肝細胞および肺細胞を培養することができる。本明細書に記載される培地中で培養される肝細胞は、たとえばウイリアムE培地などの肝細胞培養に前もって最適化されている細胞培養培地中で増殖した肝細胞と比較し、特性の改善さえ示し得る。適切には、肺細胞は、本明細書に記載されるその特性を保持している。本明細書に記載される培地は、肝細胞の培養または肺細胞の培養または肝細胞と肺細胞の共培養に使用することができる。
【0085】
適切には、当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇し、およびアルブミン分泌が増加し得る。
【0086】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された単離3次元肝スフェロイドよりも、少なくとも1.5倍高いATP含有量を有し、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較し、少なくとも1.0倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも1.9倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0087】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.1倍高いATP含有量を有し、少なくとも1.9倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも1.8倍高いアルブミン分泌の増加を有し得る。
【0088】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.1倍高いATP含有量を有し、少なくとも2.1倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも2.0倍高いアルブミン分泌を有し得る。
【0089】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.4倍高いATP含有量を有し、少なくとも2.4倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも2.1倍高いアルブミン分泌を有し得る。
【0090】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.9倍高いATP含有量を有し、少なくとも2.3倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも2.6倍高いアルブミン分泌を有し得る。
【0091】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.6倍高いATP含有量を有し、少なくとも2.9倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも2.5倍高いアルブミン分泌を有し得る。
【0092】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.7倍高いATP含有量を有し、少なくとも2.1倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも3.3倍高いアルブミン分泌を有し得る。
【0093】
当該細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、完全ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、少なくとも2.7倍高いATP含有量を有し、少なくとも2.6倍高いチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性を有し、および少なくとも3.1倍高いアルブミン分泌を有し得る。
【0094】
ATP含有量、チトクロームP450 1A1、およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌の測定方法を本明細書に解説する。
【0095】
適切には、細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、壊死細胞数が同じまたは増加している。
【0096】
適切には、細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、アポトーシス細胞数が増加している。
【0097】
適切には、細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、グルタチオン(GSH)のレベルが調節されている(たとえば上昇または減少)。
【0098】
適切には、細胞培養培地中で増殖した肝細胞は、ウイリアムE培地単独で培養された細胞と比較して、酸化グルタチオン(GSSG)のレベルが上昇している。
【0099】
適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0100】
ATP含有量、チトクロームP450 1A1、およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌の測定方法を実施例において詳細に記載する。ATP含有量は、CellTiterGlo(登録商標)アッセイ(Promega社、デューベンドルフ、スイス)を使用して決定することができる。CYP1A1/B1、CYP1A2、およびCYP2B6の活性は、P450-Glo Assays(Promega社、デューベンドルフ、スイス)を使用して決定することができる。アルブミン分泌は、Human Albumin ELISAキット(Abcam社)を使用して決定することができる。
【0101】
適切には、細胞培養培地中で増殖した肺細胞は、生存能力、構造完全性、および機能を維持している。適切には、細胞培養培地中で増殖した肺細胞は、完全PneumaCult-ALI培地または完全B-ALI培地中で培養された肺細胞と比較し、同等の生存能力、構造完全性、および機能を維持している。適切には、細胞培養培地中で増殖した肺細胞は、完全PneumaCult-ALI培地または完全B-ALI培地中で培養された肺細胞と同等である。
【0102】
培養培地は、何も加えず、または希釈されていない100%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地を含有する完全PneumaCult-ALI培地であってもよい。
【0103】
培養培地は、何も加えず、または希釈されていない100%(v/v)の完全B-ALI培地を含有する完全B-ALI培地であってもよい。
【0104】
培養培地は、完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物であってもよい。完全PneumaCult-ALI培地は、完全ウイリアムE培地で希釈される。1つの実施形態において、当該混合物は、30%~99.9%(v/v)、40%~99.9%(v/v)、50%~99.9%(v/v)、60%~99.9%(v/v)、70%~99.9%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地を含有し、またはそれからなり、残量は完全ウイリアムE培地で100%(v/v)に作製される。
【0105】
培養培地は、完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物を含有し、または混合物からなり、または本質的に混合物からなる混合物であっていてもよい。完全B-ALI培地は、完全ウイリアムE培地で希釈される。1つの実施形態において、当該混合物は、30%~99.9%(v/v)、40%~99.9%(v/v)、50%~99.9%(v/v)、60%~99.9%(v/v)、70%~99.9%(v/v)の完全B-ALI培地を含有し、またはからなり、残量は完全ウイリアムE培地で100%(v/v)に作製される。
【0106】
(i)完全B-ALI培地
1つの実施形態において、細胞培養培地は完全B-ALI培地からなる。言い換えると、細胞培養培地は、100%(v/v)の完全B-ALI培地を含有し、追加された培養培地の構成要素はない。{ut別の実施形態において、細胞培養培地は本質的に完全B-ALI培地からなる。
【0107】
完全B-ALI培地は、肺上皮細胞の分化を促進する。
【0108】
完全B-ALI培地は、B-ALI増殖基礎培地、B-ALI分化基礎培地、およびBALI SingleQuotsキットを含有する、B-ALI BulletKit(Lonza社、カタログ番号193514)の内容物を共に混合することにより調製される。B-ALI BulletKitは、増殖および分化培地SingleQuotsキット、増殖基礎培地、ならびに分化基礎培地から構成される。これにより、肺上皮細胞の完全な分化が促進される。
【0109】
本開示の本実施形態に従い、9日間完全B-ALI培地単独(すなわち、100%(v/v)完全B-ALI培地)で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が同等または上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0110】
適切には、9日間完全B-ALI培地単独(すなわち、100%(v/v)完全B-ALI培地)で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の1.9倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が同等;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の1.9倍の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0111】
別の実施形態において、細胞培養培地は、完全B-ALI培地を含有するが、ただし、9日後、完全B-ALI培地を含有する当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有しているものとする:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、同等の活性のチトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0112】
適切には、細胞培養培地は、完全B-ALI培地を含有するが、ただし、9日後、完全B-ALI培地を含有する当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有しているものとする:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の1.9倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が同等;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の1.9倍の増加(表1を参照)。
【0113】
適切には、培養で増殖させたとき、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アポトーシス細胞数が増加している。
【0114】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、グルタチオン(GSH)のレベルが調節されている(たとえば、上昇または減少)。
【0115】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、酸化グルタチオン(GSSG)のレベルが上昇している。
【0116】
適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0117】
(ii)完全B-ALI培地および完全ウイリアムE培地。
1つの実施形態において、培養培地は、完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物を含有する、または混合物からなる、または本質的に混合物からなる。完全ウイリアムE培地は、成獣ラットの肝上皮細胞の単離および長期維持のために開発された。
【0118】
完全B-ALI培地は、B-ALI増殖基礎培地、B-ALI分化基礎培地、およびBALI SingleQuotsキットを含有する、B-ALI BulletKit(Lonza社、カタログ番号193514)の内容物を共に混合することにより調製される。B-ALI BulletKitは、増殖および分化培地SingleQuotsキット、増殖基礎培地、ならびに分化基礎培地から構成される。これにより、気道上皮の完全な分化が促進される。
【0119】
完全ウイリアムE培地は、HepaRG Maintenance&Metabolism Supplement(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号HPRG720)およびGlutaMAX(商標)溶液(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号35050061)をウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号12551032)に補充することにより調製される。ウイリアムE培地は、Exp.CellRes.(1974)89:139に記載され、および表2に示されている。
【0120】
完全B-ALI培地は、完全ウイリアムE培地と混合される。共に混合される各培地の割合は、変化させることができる。1つの実施形態において、混合物は、少なくとも70%(v/v)の完全B-ALI培地を含有し、またはそれからなり、または本質的にそれからなり、残量は完全ウイリアムE培地で100%(v/v)に作製される。1つの実施形態において、混合物は、70%/30%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、75%/25%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、80%/20%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、85%/15%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、90%/10%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、95%/5%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。
【0121】
適切には、混合物が90%/10%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0122】
適切には、混合物が90%/10%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.1倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が1.9倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の1.8倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0123】
適切には、混合物が80%/20%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0124】
適切には、混合物が80%/20%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.4倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.4倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の2.1倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0125】
適切には、混合物が70%/30%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0126】
適切には、混合物が70%/30%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.1倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.1倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の2.0倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0127】
表1に要約される結果から分かるように、80%/20%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地の混合物は、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、ATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において6.9倍の総増加をもたらした。ゆえに、完全ウイリアムE培地中で完全B-ALI培地をさらに希釈することにより、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性に総合的な増加をもたらすことが充分に予想される。60%/40%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地、50%/50%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地、40%/60%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地、および30%/70%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地が開示される。
【0128】
適切には、培養で増殖させたとき、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アポトーシス細胞数が増加している。
【0129】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、グルタチオン(GSH)のレベルが調節されている(たとえば、上昇または減少)。
【0130】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、酸化グルタチオン(GSSG)のレベルが上昇している。
【0131】
適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0132】
(iii)完全PneumaCult-ALI培地
1つの実施形態において、細胞培養培地は完全PneumaCult-ALI培地からなる。言い換えると、細胞培養培地は、100%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地を含有し、追加された培養培地の構成要素はない。別の実施形態において、細胞培養培地は本質的に完全PneumaCult-ALI培地からなる。
【0133】
完全PneumaCult-ALI培地は、肺上皮細胞の分化を促進する。
【0134】
完全PneumaCult-ALI培地は、PneumaCult-ALI基礎培地(StemCell Technologies社、ref.05002)と、PneumaCult-ALI 10Xサプリメント(StemCell Technologies社、ref.05003)、PneumaCult-ALI維持サプリメント(StemCell Technologies社、ref.05006)、ヒドロコルチゾンストック溶液(StemCell Technologies社、ref.07925)および0.2%ヘパリンナトリウム塩のPBS溶液(StemCell Technologies社、ref.37250)を混合することにより調製される。
【0135】
本開示の本実施形態に従い、9日間完全PneumaCult-ALI培地単独(すなわち、100%(v/v)完全PneumaCult-ALI培地)で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0136】
適切には、9日間完全PneumaCult-ALI培地単独(すなわち、100%(v/v)完全PneumaCult-ALI培地)で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.7倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.1倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の3.3倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0137】
別の実施形態において、細胞培養培地は、完全PneumaCult-ALI培地を含有するが、ただし、9日後、完全PneumaCult-ALI培地を含有する当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有しているものとする:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0138】
適切には、細胞培養培地は、完全PneumaCult-ALI培地を含有するが、ただし、9日後、完全PneumaCult-ALI培地を含有する当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは、以下を有しているものとする:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.7倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.1倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の3.3倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0139】
適切には、培養で増殖させたとき、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アポトーシス細胞数が増加している。
【0140】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、グルタチオン(GSH)のレベルが調節されている(たとえば、上昇または減少)。
【0141】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、酸化グルタチオン(GSSG)のレベルが上昇している。
【0142】
適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0143】
(iv)完全PneumaCult-ALI培地および完全ウイリアムE培地。
1つの実施形態において、細胞培養培地は、完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物を含有する、または混合物からなる。
【0144】
完全PneumaCult-ALI培地は、PneumaCult-ALI基礎培地(StemCell Technologies社、カタログ番号05002)と、PneumaCult-ALI 10X サプリメント(StemCell Technologies社、カタログ番号05003)、PneumaCult-ALI 維持サプリメント(StemCell Technologies社、カタログ番号05006)、ヒドロコルチゾンストック溶液(StemCell Technologies社、カタログ番号07925)および0.2%ヘパリンナトリウム塩のPBS溶液(StemCell Technologies社、カタログ番号37250)を混合することにより調製される。
【0145】
完全ウイリアムE培地は、HepaRG Maintenance&Metabolismサプリメント(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号HPRG720)およびGlutaMAX溶液(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号35050061)をウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号12551032)に補充することにより調製される。
【0146】
完全PneumaCult-ALI培地は、完全ウイリアムE培地と混合される。共に混合される各培地の割合は、変化させることができる。1つの実施形態において、混合物は、少なくとも70%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地を含有し、またはそれからなり、または本質的にそれからなり、残量は完全ウイリアムE培地で100%(v/v)に作製される。
【0147】
1つの実施形態において、混合物は、70%/30%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、75%/25%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、80%/20%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、85%/15%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、90%/10%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。別の実施形態において、混合物は、95%/5%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる。
【0148】
適切には、混合物が90%/10%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0149】
適切には、混合物が90%/10%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.9倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.3倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の2.6倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0150】
適切には、混合物が80%/20%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0151】
適切には、混合物が80%/20%(v/v)の完全PneumaCult-ALI/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.7倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.5倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の3.1倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0152】
適切には、混合物が70%/30%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の増加;(B)完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性の上昇;および(C)ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の増加。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0153】
適切には、混合物が70%/30%(v/v)の完全PneumaCult-ALI/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる場合、当該細胞培養培地で培養された3次元肝スフェロイドは9日後、以下を有している:(A)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量の2.6倍の増加;(B)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性が2.9倍上昇;および(C)同じ期間、完全ウイリアムE培地単独(すなわち、100%(v/v)完全ウイリアムE培地)で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、アルブミン分泌の2.5倍の増加(表1を参照)。適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0154】
適切には、培養で増殖させたとき、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アポトーシス細胞数が増加している。
【0155】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、グルタチオン(GSH)のレベルが調節されている(たとえば、上昇または減少)。
【0156】
適切には、単離3次元肝スフェロイドは、ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、酸化グルタチオン(GSSG)のレベルが上昇している。
【0157】
適切には、本明細書に記載される変化は、培養の9日後に観察される。
【0158】
表1に要約される結果から分かるように、70%/30%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地の混合物は、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、ATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において8倍の総増加をもたらした。ゆえに、完全ウイリアムE培地中で完全PneumaCult-ALI培地をさらに希釈することにより、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性に総合的な増加をもたらすことが充分に予想される。60%/40%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地、50%/50%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地、40%/60%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地、および30%/70%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地が開示される。
【0159】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、80%/20%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地からなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において最も高い総倍数増加をもたらした。80%/20%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0160】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、100%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地からなる、または本質的にそれからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において2番目に高い総倍数増加をもたらした。100%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地からなる、または本質的にそれからなる細胞培養培地が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0161】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、70%/30%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において3番目に高い総倍数増加をもたらした。70%/30%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0162】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、90%/10%(v/v)の完全PneumaCult-ALI/完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において4番目に高い総倍数増加をもたらした。90%/10%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0163】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、80%/20%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において5番目に高い総倍数増加をもたらした。80%/20%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0164】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、70%/30%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において6番目に高い総倍数増加をもたらした。70%/30%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0165】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、90%/10%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において7番目に高い総倍数増加をもたらした。90%/10%(v/v)の完全B-ALI培地/完全ウイリアムE培地を含有し、またはそれらからなり、または本質的にそれらからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0166】
3次元肝スフェロイドの培養に関し、本開示で検証された様々な培地のうち、100%(v/v)の完全B-ALI培地を含有する、またはそれからなる、または本質的にそれからなる混合物が、3次元肝スフェロイドのATP含有量、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性、ならびにアルブミン分泌において8番目に高い総倍数増加をもたらした。100%(v/v)の完全B-ALI培地を含有し、またはそれからなり、または本質的にそれからなる細胞培養培地混合物が、本開示の特定の実施形態に対して好ましい。
【0167】
さらなる態様は、以下を含む、本明細書に記載される肺細胞と肝細胞の共培養に使用することができる共培養培地を特定する方法に関する。(a)完全PneumaCult-ALI培地または完全ウイリアムE培地を含有する培養培地を提供すること;(b)完全PneumaCult-ALI培地または完全ウイリアムE培地と、肝細胞培養に最適化された、または肝細胞培養に特化した培養培地を混合し、細胞培養培地混合物を提供すること;(c)肺細胞と肝細胞の共培養物を、当該細胞培養培地混合物に加えること;および(d)肝細胞が、以下を有する細胞培養培地混合物を特定すること:完全ウイリアムE培地単独で培養された肝細胞と比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された肝細胞と比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性の活性が同等または上昇している;およびウイリアムE培地単独で培養された肝細胞と比較し、アルブミン分泌が増加しており、ならびに肺細胞がその特性を保持していること。肝細胞の他の特性を本明細書に記載する。
【0168】
さらなる態様は、本プロセスにより取得された、または取得可能な肺細胞と肝細胞の共培養物に使用することができる共培養培地に関するものであり、この場合において共培養培地で培養された肝細胞は以下を有している:完全ウイリアムE培地単独で培養された肝細胞と比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された肝細胞と比較し、チトクロームP450 1A1およびチトクロームP450 1B1の活性の活性が同等または上昇している;およびウイリアムE培地単独で培養された肝細胞と比較し、アルブミン分泌が増加しており、ならびに肺細胞がその特性を保持していること。肝細胞の他の特性を本明細書に記載する。
【0169】
3次元器官培養システム
3次元器官培養システム、特にその小型化版は、器官がどのように機能するかの実験を可能とし、それゆえに本開示において使用される。ある刺激にたいする反応、1つ以上の化合物または組成物に対する反応、およびかかる化合物または組成物の薬物動態的振る舞いを、たとえば本明細書に記載されるスクリーニングアッセイにおいて研究することができる。小型化された3次元器官培養システムは、器官オン・チップ(organ on-a-chip)としても知られており、器官群の複合研究、すなわち、少なくとも3次元での肺組織と肝組織の研究を可能とし、特に対象となる。これにより、肺組織と肝組織の間の相互作用の複雑性が再現される。肺器官と肝器官を考慮し、これら複数の器官の動的な培養を可能にした本開示の3次元培養システムは、ゆえに非常に有益である。3次元器官培養システムの大部分は、器官型である。これは、器官または器官系の主要機能の再現を試みることを意味している。肺組織と肝組織を相互接続した小型化流体システムもまた記載される。
【0170】
適切には、器官・オン・チップは、たとえば肺または肝臓などの少なくとも1種の組織の少なくとも1つの生理的機能を有するマイクロ流体デバイスであり、より適切には、たとえば肺または肝臓などの少なくとも2種の異なる組織の少なくとも1つの生理的機能を有している。器官・オン・チップは、哺乳類、非哺乳類および動物を含む任意の生物体由来の任意の生きた組織または器官のものであってもよい。
【0171】
器官・オン・チップは概して、その中に配置されるマイクロ流体チャンネルを少なくとも1つ備えている。これらチャンネルの正確な寸法は、チップの機能および/または寸法に応じて異なる。少なくとも1つのマイクロ流体チャンネルは概して、チップ上の生物物質に栄養素をもたらし、および補充するよう機能する。
【0172】
1つの態様において、3次元多器官培養システムは以下を備えている:(a)培養培地中にたとえば肝臓などの第一の3次元細胞種を培養または浸すよう適合された第一の器官増殖セクション;(b)気相液相界面でたとえば肺などの第二の3次元細胞種を培養するよう適合された第二の器官増殖セクションであって、当該第二の3次元細胞種は、第一の3次元細胞種とは異なる細胞種である;および(c)第一の器官腔と第二の器官腔を接続して、その間の培養培地の流れを可能とする培養培地容器。
【0173】
第一の器官増殖セクションは、第一の器官腔、またはレセプタクル、または管、またはコンテナ、または格納手段を備えていてもよい。
【0174】
第二の器官増殖セクションは、第二の器官腔、またはレセプタクル、または管、またはコンテナ、または格納手段を備えていてもよい。
【0175】
容器は、マイクロ流体チャンネルにより提供されてもよい。適切には、第一の器官増殖セクション-たとえば第一の器官腔-と、第二の器官増殖セクション-たとえば第二の器官腔-は、同じ培養培地-たとえば以下を含有する、または以下からなる、または本質的に以下からなる培養培地を含有する:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地、または本明細書に記載されるそれらのバリエーション。
【0176】
本明細書に記載される細胞種に加え、チップは、多器官チップを形成するために追加の細胞種を含有してもよい。
【0177】
当分野の当業者であれば、特定のアプリケーションを行うために必要とされる最適な数および/または寸法のチャンネルを備えたチップを設計することができる。
【0178】
チップは、たとえばポンプまたはバルブマイクロチャンネルなどの流体の流れを調節するための流体制御要素を備え、チップ内の微小循環を制御してもよい。
【0179】
チップ上の細胞および組織は、たとえばガス交換膜などを使用して酸素供給されてもよい。チップはさらに、その周囲条件に対する細胞の変動および/または反応をモニタリングするためのセンサーを1つ以上備えていてもよい。
【0180】
チップは、当分野の当業者にとって使いやすい任意の適切な物質から組み立てられてもよい。かかる物質、適切には生体適合性物質の例は、シリコン、ポリウレタン、ガラス、プラスチック、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(TEFRON(商標))、ポリビニルクロリド(PVC)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)およびゴムである。
【0181】
チップはまた、必要である場合には、たとえば酸素供給器、ポンプ、バルブ、ガス交換機、およびバブルトラップなどの構成要素をさらに備えていてもよい。
【0182】
様々な種類の器官・オン・チップが当分野に報告されている。たとえば、Lab Chip(2015)15,2688-2699およびLab.Chip(2013)13,3538を参照のこと。
【0183】
チップ上の組織または器官の機能は、様々な方法を使用して評価することができ、それら方法の一部を本明細書に記載する。たとえば、組織または器官は、撮影技術を使用して形態的にモニタリングされてもよい。肺チップの機能性は、透過障壁機能の測定、サーファクタント産生の測定、およびたとえばサイトカインに対する反応を測定することによりモニタリングすることができる。肝チップの機能性は、様々な方法を使用してモニタリングすることができ、それら方法の少なくとも一部を本明細書に記載する。かかるアッセイとしては、トランスポーター機能、チトクロームP450発現、およびアルブミン分泌が挙げられる。
【0184】
肝臓系3次元培養
肝臓は解毒、炭水化物、脂質およびタンパク質の代謝、ならびに内因性物質および外因性物質の生体内変化において重要な役割を果たしている。肝臓の機能は、高度に専門化した細胞の組立と密接に連携しており、それら細胞の大部分は肝臓細胞であり、いわゆる小葉を構成する複雑な3次元構造中に組み込まれている。通常、化合物の生体内変化によって無毒でより可溶性の代謝物が生成されるが、稀に、肝毒性が生じるより毒性の高い代謝物が生成される。
【0185】
当分野において良く立証されている様々な方法とマイクロ流体デバイスを使用して3次元肝細胞を培養することは可能であり、その方法としては、コラーゲンサンドイッチ培養、膜バイオリアクター、攪拌バイオリアクター、懸滴、ポリスチレンスキャホールド培養の使用が挙げられる。
【0186】
肝細胞は、様々な方法を介して3次元へと変化することができる。その方法としては、サンドイッチ培養、固体スキャホールドマテリアル-たとえばポリスチレンスキャホールド、ヒドロゲル-たとえばI型コラーゲン、またはスフェロイドへの肝細胞の自己アセンブリの使用が挙げられる。
【0187】
単離されたばかりの初代ヒト肝細胞のみを使用することは、本開示の好ましい種類の肺細胞である一方で、その入手可能性は限定的である。ヒト肝細胞株の他の選択としては、HepG2およびHep2/C3Aが挙げられる。特に適切な細胞源は、HepaRG細胞株である。他のヒト肝細胞源は、ヒト胚性幹細胞(hESC)由来肝細胞、および人工多能性幹細胞(iPSC)由来の肝細胞である。
【0188】
3次元肝スフェロイドは、本開示において特に役立つものである。それらはマルチウェルプレートにおいて凝集体への肝細胞の自己アセンブリにより、または攪拌バイオリアクターにおいて、スキャホールドが無い系でも生成することができる。肝スフェロイドは、長期間、肝臓様構造を形成し、優れた機能を示しながら生存する。このため、肝スフェロイドはハイスループット応用、およびオン・チップでの使用によく適している。
【0189】
肺系3次元培養
気道の形態は、上部気道から下部気道へと変化するため、多くの異なる細胞培養モデルが初代細胞または細胞株を使用して確立されており、本開示における使用が予期される。どの細胞または細胞株を使用するかの正確な選択は、所与の研究に対する気道の対象領域に依存する。
【0190】
肺・オン・チップモデルは、生きた肺の構造と機能を再現することができる。そのようなモデルの一例で、膜により分離された2個の近接して置かれたマイクロチャンネルを含むマイクロ流体システムを組立ててもよい。その膜は細胞外マトリクスで覆われていてもよく、およびヒト肺胞上皮細胞とヒト肺微小血管内皮細胞は、膜の反対側で培養されてもよい。細胞がコンフルエンスまで増殖したら、上皮区画に空気を導入し、気相液相界面を形成させて、肺胞気腔の内層を模倣する。
【0191】
肺表面は空気に暴露されるため、この細胞モデルは気相液相界面で培養され、より現実の肺を模倣する。
【0192】
スクリーニング
本明細書に記載される方法を使用して3次元細胞、組織または器官に対する1つ以上の剤の作用を決定することができる。1つの態様において、剤に対する3次元細胞、組織または器官の反応を評価するためのin vitro方法が記載され、当該方法は、以下を含む:(i)3次元細胞または共培養物または3次元器官培養システムまたは3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させること;および(ii)当該少なくとも1つの剤との接触後、1つ以上の反応を測定すること;この場合において当該少なくとも1つの剤との接触前後での1つ以上の反応における差異は、当該剤が当該細胞、組織または器官の反応を調節することの指標である。
【0193】
また、剤に対する3次元肝細胞、組織または器官、および3次元肺細胞、組織または器官の反応を評価するためのin vitro方法が記載され、当該方法は、以下を含む:(i)共培養物または3次元器官培養システムまたは3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させること;および(ii)当該少なくとも1つの剤との接触後、1つ以上の反応を測定すること;この場合において当該少なくとも1つの剤との接触前後での1つ以上の反応における差異は、当該剤が当該細胞、組織、または器官の反応を調節することの指標である。
【0194】
適切には、3次元肺細胞、組織または器官への少なくとも1つの剤の浸透が測定され、または決定される。適切には、3次元肝細胞、組織または器官における少なくとも1つの剤の生体内活性化が測定され、または決定される。これらのステップは、同時に、または互いに続いて行われてもよい。
【0195】
本明細書に記載される方法を使用して3次元肺細胞、組織または器官に対する1つ以上の剤の作用を決定することができる。本明細書に記載される方法を使用して3次元肝細胞、組織または器官に対する1つ以上の剤の作用を決定することができる。本明細書に記載される方法を使用して3次元肺細胞、組織または器官、および3次元肝細胞、組織または器官に対する1つ以上の剤の作用を決定することができる。本明細書に記載される方法を使用して3次元肺細胞、組織または器官へのたとえばエアロゾルなどの剤の浸透、および肝細胞、組織または器官におけるそのさらなる生体内活性化に対する1つ以上の剤の作用を決定することができる。この剤としては、限定されないが、薬物、毒物、病原体、抗原、抗体、およびエアロゾルなどが挙げられる。この剤を、本明細書に記載される3次元培養システムに添加し、3次元培養された細胞、組織または器官に対するその作用をモニタリングまたは決定することができる。測定され得る作用の例としては、酸素消費、二酸化炭素の産生、細胞の生存能力、タンパク質の発現、酵素の活性、浸透、透過障壁機能、サーファクタント産生、サイトカインへの反応、トランスポーター機能、チトクロームP450発現、アルブミン分泌などが挙げられる。
【0196】
異なる濃度の剤を用いて複数のアッセイを並行して行い、様々な濃度に対する異なる反応を取得してもよい。当分野において知られているように、剤の有効濃度の決定プロセスは通常、1:10または他の対数尺度の希釈から得られる濃度範囲を使用する。もし必要であれば2回目の連続希釈を用いて濃度をさらに改善してもよい。通常、これら濃度のうちの1つは、陰性対照として使用される。
【0197】
剤(たとえば、被験化合物)は、対象の任意の化合物であってもよく、有機低分子化合物、ポリペプチド、ペプチド、高分子量炭水化物、ポリヌクレオチド、脂肪酸および脂質、エアロゾルまたはエアロゾルの1つ以上の構成要素などが挙げられる。被験化合物は個々にスクリーニングされてもよく、または化合物のセットまたはコンビナトリアルライブラリーでスクリーニングされてもよい。被験化合物は、合成化合物または天然化合物のライブラリーをはじめとする、広範で様々な源から取得することができる。細菌、真菌、植物および動物の抽出物の形態にある天然化合物ライブラリーを使用することができる。天然または合成で生成したライブラリー、および従来的な化学的手段、物理的手段、および生化学的手段を介して改変された化合物を使用して、コンビナトリアルライブラリーを作製してもよい。公知の薬理活性のある剤に、たとえばアシル化、アルキル化、エステル化、酸性化などの化学的改変を直接または無作為に行い、スクリーニング用の構造的アナログを生成してもよい。コンビナトリアルライブラリーを使用したスクリーニングを行う際、化学的に類似した、または化学的に多様な分子の大きなライブラリ-をスクリーニングしてもよい。コンビナトリアルスクリーニングにおいて、見いだされるヒット数は、検証された分子の数に比例する。1日当たりで検証される化合物が数千にもなりえる多量の化合物をスクリーニングしてもよく、その場合、検査の自動化およびロボット工学が応用されてもよい。分子ライブラリー合成方法の多くの例を、当分野で見出すことができる。低分子有機化合物としては、約5,000、通常は約2,500未満、通常は約2,000未満、より普遍的には約1,500未満、適切には約100~約1,000の分子量の化合物が挙げられる。低分子有機化合物は、生体有機化合物にまたは合成有機化合物のいずれかであってもよい。低分子有機化合物中に存在する原子は多くの場合、炭素、水素、酸素、および窒素を含有する基の中にあり、もし薬学的に許容可能な剤型であれば、ハロゲン、ホウ素、リン、セレニウムおよび硫黄を含有してもよい。概して、もし存在する場合、酸素、窒素、硫黄またはリンは、炭素に結合されているか、または互いに1つ以上で結合されているか、または水素と結合され、たとえばカルボン酸、アルコール、チオール、カルボキサミド、カルバミン酸塩、カルボン酸エステル、アミド、エーテル、チオエーテル、チオエステル、リン酸塩、ホスホン酸塩、オレフィン、ケトン、アミン、アルデヒドなどの様々な官能基を形成する。低分子有機化合物は、本明細書においてその用語が使用される場合、約5,000未満の分子量を有する小さなペプチド、小さなオリゴヌクレオチド、小さな多糖、脂肪酸、脂質なども含有する。
【0198】
薬学的な剤の例としては、The Pharmacological Basis of Therapeutics, Goodman and Gilman, McGraw-Hill, New York, N.Y., (1996), Ninth editionに記載されている。剤は、毒素であってもよい。
【0199】
溶液中の被験化合物、および適切な溶媒中に溶解することができる固体のサンプルを、分析することができる。サンプルを一定期間、気体に暴露することにより、気体状の被験化合物も分析することができる。対象のサンプルとしては、環境サンプル、生物サンプル、製造サンプル、化合物ライブラリー、ならびに合成化合物および天然化合物が挙げられる。
【0200】
少なくとも約5,000、より普遍的には少なくとも約10,000の分子量を有するポリペプチドもスクリーニングすることができる。被験ポリペプチドは通常、約5,000~約5,000,000以上の分子量、より普遍的には約20,000~約1,000,000の分子量である。様々なポリペプチド、たとえば類似した構造特性を有するポリペプチドファミリー、特定の生物機能を有するポリペプチド、特定の微生物、特に病原性微生物に関連したポリペプチドなどを検討してもよい。そのようなポリペプチドとしては、サイトカインまたはインターロイキン、酵素、プロタミン、ヒストン、アルブミン、イムノグロブリン、スクレロポリペプチド(scleropolypeptides)、ホスホポリペプチド(phosphopolypeptides)、ムコポリペプチド(mucopolypeptides)、クロモポリペプチド(chromopolypeptides)、リポポリペプチド(lipopolypeptides)、ヌクレオポリペプチド(nucleopolypeptides)、グリコポリペプチド(glycopolypeptides)、T細胞受容体、プロテオグリカン、ソマトトロピン、プロラクチン、インスリン、ペプシン、ヒトの血漿中に存在するポリペプチド、血液凝固因子、血液型因子、ポリペプチドホルモン、癌抗原、組織特異抗原、ペプチドホルモン、栄養マーカー、組織特異抗原、および合成ペプチドが挙げられ、それらは糖化されていても、糖化されていなくてもよい。
【0201】
ポリヌクレオチドをスクリーニングしてもよい。被験ポリヌクレオチドは、天然化合物または合成化合物であってもよい。ポリヌクレオチドとしては、オリゴヌクレオチドが挙げられ、たとえばリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドなどの天然ヌクレオチドならびにそれらの誘導体から構成されているが、たとえば2’-改変ヌクレオシド、ペプチド核酸、およびオリゴマーヌクレオシドホスホン酸塩などの非天然ヌクレオチド模倣体もまた予期される。高分子量のポリペプチドは、約20~約5,000,000個以上のヌクレオチドを有していてもよい。
【0202】
測定され得る1つ以上の変数としては、細胞の定量化可能な要素、細胞内物質、細胞内構成要素、または細胞産物、特にハイスループットアッセイ系で正確に測定され得る要素が挙げられる。アウトプットは、任意の細胞、細胞構成要素、細胞産物の特性、状態、段階または機能であってもよく、生存能力、呼吸、代謝、細胞表面決定基、受容体、タンパク質またはそれらの構造変化もしくは翻訳後変化、脂質、炭水化物、有機分子または無機分子、DNA、RNAなど、またはかかる細胞構成要素から誘導された部分が挙げられる。変数は、定量的なリードアウトを提供することができる一方で、一部の例では、半定量的または定性的な結果を得ることができる。リードアウト変数としては、単一値、または平均値、または中央値、またはたとえばそれらの分散を含んでもよい。
【0203】
様々な方法を使用して変数を測定し、剤/被験化合物に対する細胞、組織または器官の反応を決定することができる。存在している分子の量を測定するための1つの方法は、分子を検出可能な部分で標識することであり、その部分は、蛍光、発光、放射活性、酵素活性などであってもよい。蛍光部分および発光部分は、生体分子、構造、または細胞種の標識に利用可能である。免疫蛍光部分は、特定のタンパク質だけでなく特定の構造、切断産物、またはリン酸化のような部位改変への結合も指向させることができる。個々のペプチドおよびタンパク質を操作して、自家蛍光させることができる。免疫アッセイ技術-たとえば免疫組織化学法、放射免疫アッセイ(RIA)、または酵素結合免疫吸着法(ELISA)および関連する非酵素技術などを使用することができる。これらの技術は、レポーター分子として特異抗体を利用する。特異抗体は、1つの分子標的へ結合する高度な特異性を理由として、特に有用である。細胞系ELISAまたは関連する非酵素系もしくは蛍光系の方法は、細胞表面パラメーターの測定を可能とする。
【0204】
スクリーニングアッセイの結果は、基準化合物、濃度曲線、対照などから得られた結果と比較してもよい。剤は、エアロゾル-たとえば煙または煙由来のエアロゾルであってもよい。
【0205】
エアロゾル
1つの実施形態は、たとえばエアロゾルなどの剤の、本明細書に記載される3次元肺細胞、組織または器官への浸透の研究に関する。別の実施形態は、たとえばエアロゾルなどの剤の、本明細書に記載される3次元肺細胞、組織または器官への浸透の研究、および肝細胞、組織または器官におけるそのさらなる生体内活性化の研究に関する。特に、本明細書に記載される3次元器官培養システム上でこれを実行することができる。
【0206】
エアロゾルは、エアロゾル生成デバイスにより誘導、または生成されてもよい。喫煙物品および喫煙可能物品は、エアロゾル形成装置の種類である。喫煙物品または喫煙可能物品の例には、紙巻たばこ、シガリロ、および葉巻たばこが含まれるが、これに限定されない。ある一定のエアロゾル形成装置では、燃焼ではなく、一つ以上の電気発熱体要素によって、たばこ組成物または別のエアロゾル形成材料が加熱されてエアロゾルを生成する。別のタイプのエアロゾル形成装置では、エアロゾルは、可燃性燃料要素または熱源から、熱源の内部、周囲、または下流に位置しうる物理的に分離されたエアロゾル形成材料に熱を移動することにより生成される。典型的には、加熱される喫煙物品において、エアロゾルは、熱源の中、周りまたは下流に位置し得る、熱源から物理的に離れたエアロゾル形成基質または材料への熱伝達によって生成される。喫煙中、熱源からの熱伝達によってエアロゾル形成材料から揮発性化合物が放出され、喫煙物品を介して空気中に引き出される。放出された化合物が冷えるにつれて、これらは、凝縮してユーザーによって吸入されるエアロゾルを形成する。本明細書で使用される場合、「エアロゾル形成材料」という用語は、エアロゾルを形成することができる、加熱することで揮発性化合物を放出することができる材料を記載するために使用される。エアロゾル形成材料は植物系材料であってもよい。エアロゾル形成材料の例には、たばこ組成物、たばこ、たばこ抽出物、刻みたばこ、刻み充填剤、乾燥処理したたばこ、拡張したたばこ、均質化したたばこ、再構成たばこ、およびパイプたばこが含まれるが、これに限定されない。あるいはエアロゾル形成材料は非植物系含有材料を含んでもよい。
【0207】
エアロゾルは、煙の形態であってもよい。本明細書で使用されるとき、「煙」という用語は、紙巻たばこなどの喫煙物品によって、またはエアロゾル形成材料を燃焼することによって生成される種類のエアロゾルを描写するために使用される。煙は様々な剤を含み、それらはもし必要であれば研究用の個々の化合物として提供されることができる。かかる剤の例としては、ニコチンフリー乾燥粒子状物質、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド、メチルエチルケトン(methyl-ethly ketone)、ブチルアルデヒド、ベンゾ[a]ピレン、フェノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,3-ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、ベンゼン、トルエン、ピリジン、キノリン、スチレン、N’-ニトロソノルニコチン(NNN)、N’-ニトロソアナタビン(NAT)、N’-ニトロソアナバシン(NAB)、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(N
NK)、1-アミノナフタレン、2-アミノナフタレン、3-アミノビフェニル、4-アミノビフェニル、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NOx)、シアン化水素酸、アンモニア、ヒ素、カドミウム、クロム、鉛、ニッケル、セレンおよび水銀が挙げられる。
【0208】
本明細書に記載される3次元器官培養システムは、様々な期間、煙に暴露されてもよい。煙は、Am. J. Physiol. Lung Cell Mol Physiol 304: L489-L503(2013)に記載されるようなVitrocell発煙ロボットを使用して送達されてもよい。たばこ1個当たり、規定数の一息(パフ)、および暴露1分当たり、規定数の一息(パフ)を使用してもよく、たばこの数を変えて、暴露時間を調節してもよい。基準たばこ-たとえば基準たばこの3R4Fを煙の源として使用してもよく、およびInternational Organization for Standardizationの喫煙レジメン(ISO 2000)に基本的に準拠し、発煙ロボット上で発煙させてもよい。暴露後、3次元器官培養システムは任意で解析前に新たな培養培地でインキュベートされてもよい。
【0209】
キット
キットもまた予期される。本明細書に記載される培養培地は、1つ以上の適切な容器に充填されてもよい。適切な容器は、ふた-たとえば密封可能なふたもしくは再密封可能なふたを備えた、滅菌可能なフラスコまたは滅菌可能な瓶または滅菌可能なビーカーであってもよい。ゆえに、本開示は、本明細書に記載される培養培地を含む容器にも関する。本開示は、本明細書に記載される培養培地を含む複数の容器にも関する。さらに本開示は、培養培地を含む1つもしくは複数のフラスコまたは瓶と、任意で同培養培地を調製するための説明書を備えた、パッケージまたはキットに関する。任意で本明細書に記載される1つ以上の細胞種が、当該パッケージまたはキットに含まれてもよい。任意で1つ以上の基準たばこが当該パッケージまたはキットに含まれてもよい。使用説明書もまた含まれてもよい。
【0210】
さらなる態様
本開示のさらなる態様を、以下の番号付きパラグラフに提示する:
【0211】
1. 単離3次元肝スフェロイドであって、前記スフェロイドは、以下を有する:完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が同等か、または上昇している;およびウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アルブミン分泌が増加している。
【0212】
2.以下を含むプロセスにより取得される、または取得可能な3次元多器官培養システムにおける使用のための単離3次元肝スフェロイドであって、当該プロセスは、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、細胞培養培地中で3次元肝スフェロイドを、3次元肝スフェロイドを取得するために充分な期間、培養することを含む、当該プロセス:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地:この場合において、当該3次元肝スフェロイドは、完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、ATP含有量が増加している;完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較し、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 1B1の活性が上昇している;および完全ウイリアムE培地単独で培養された3次元肝スフェロイドと比較して、アルブミン分泌が増加している。
【0213】
3.前記スフェロイドが、ヒト肝前駆細胞株であり、またはヒト肝前駆細胞から誘導され、適切には、前記スフェロイドが、HepaRG細胞であり、またはHepaRG細胞から誘導される、パラグラフ1または2に記載の単離3次元肝スフェロイド。
【0214】
4.前記スフェロイドが、以下のいずれかを含む、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる細胞培養培地中で培養される、パラグラフ1またはパラグラフ3のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイド:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;(c)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地。
【0215】
5.パラグラフ1~4のいずれかに記載の3次元肝スフェロイド、および3次元肺上皮細胞を含有する共培養物。
【0216】
6.前記共培養物は、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる細胞培養培地中で維持される、パラグラフ5に記載の共培養物:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地。
【0217】
7.パラグラフ1~4のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイドを含有する3次元器官培養システム。
【0218】
8.パラグラフ1~4のいずれかに記載の単離3次元肝スフェロイドを含み、およびその他の3次元細胞種を少なくとも1つさらに含む、またはパラグラフ5もしくはパラグラフ6のいずれかに記載の共培養物を含む、3次元多器官培養システム。
【0219】
9.前記3次元肝スフェロイドが、前記培養システム上に含まれる培養培地中に浸される、パラグラフ7に記載の3次元器官培養システム、またはパラグラフ8に記載の3次元多器官培養システム。
【0220】
10.3次元肺上皮細胞をさらに含有し、適切には前記3次元肺上皮細胞が前記3次元多器官培養システム上の気相液相界面にある、パラグラフ8または9のいずれかに記載の3次元多器官培養システム。
【0221】
11.以下を備える、3次元多器官培養システム:(a)培養培地中に第一の3次元細胞種を浸すよう適合された第一の臓器腔を備えた第一の器官増殖セクション;(b)気相液相界面で第二の3次元細胞種を培養するよう適合された第二の器官腔を備えた第二の器官増殖セクションであって、前記第二の3次元細胞種は、前記第一の3次元細胞種とは異なる細胞種であり;および(c)前記第一の器官腔と前記第二の器官腔を接続して、その間の培養培地の流れを可能とする培養培地容器。
【0222】
12.前記第一の器官腔と第二の器官腔が、同じ培養培地を含有する、パラグラフ11に記載の3次元多器官培養システム。
【0223】
13.パラグラフ5またはパラグラフ6のいずれかに記載の共培養物を含有する、パラグラフ11またはパラグラフ12に記載の3次元多器官培養システム。
【0224】
14.前記システムが小型化されている、パラグラフ7に記載の3次元器官培養システム、またはパラグラフ8~13のいずれかに記載の3次元多器官培養システム。
【0225】
15.前記システムがマイクロ流体デバイスを備えるか、またはマイクロ流体デバイスであり、適切には前記システムが器官・オン・チップである、パラグラフ7もしくは14に記載の3次元器官培養システム、またはパラグラフ8~14のいずれかに記載の3次元多器官培養システム。
【0226】
16.以下を含有する、または以下からなる、または本質的に以下からなる細胞培養培地:(a)完全PneumaCult-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物;または(b)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物。
【0227】
17.パラグラフ1~4のいずれかに記載の3次元肝スフェロイド、またはパラグラフ5もしくはパラグラフ6のいずれかに記載の共培養物をさらに含有する、パラグラフ16に記載の細胞培養培地。
【0228】
18.培養培地を含有する3次元多器官培養システムであって、前記培養培地は、以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、培養培地からなる群から選択される、3次元多器官培養システム:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地またはそれらの2個以上の組み合わせ。
【0229】
19.以下を含む3次元器官培養システムにおける使用のための3次元肝スフェロイドを調製する方法:(i)3次元肝スフェロイドを提供すること;(ii)以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、培養培地と前記3次元肝スフェロイドを接触させること:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地;および(iii)3次元器官培養システムにおける使用のための3次元肝スフェロイドを取得すること。
【0230】
20.以下を含む3次元多器官培養システムにおける使用のための、3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞を含有する、またはそれらからなる、または本質的にそれらからなる、共培養物を調製する方法:(i)3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞を提供すること;(ii)以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる、培養培地と、当該3次元肝スフェロイドおよび当該3次元肺上皮細胞を接触させること:(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地;および(iii)3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞の共培養物を取得すること。
【0231】
21.剤に対する3次元肝スフェロイドの反応を評価するためのin vitro方法であって、以下を含む前記方法:(i)パラグラフ1~4のいずれかに記載の3次元肝スフェロイド、またはパラグラフ5もしくは6のいずれかに記載の共培養物、またはパラグラフ7、14、もしくは15のいずれかに記載の3次元器官培養システム、またはパラグラフ8~15のいずれかに記載の3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させること;および(ii)前記少なくとも1つの剤との接触後、前記3次元肝スフェロイドまたは前記共培養物または前記3次元器官培養システムまたは前記3次元多器官培養システムの1つ以上の反応を測定すること;この場合において前記少なくとも1つの剤との接触前後での前記1つ以上の反応における差異は、前記剤が前記細胞の反応を調節することの指標である。
【0232】
22.剤に対する3次元肝スフェロイドおよび3次元肺上皮細胞の反応を評価するためのin vitro方法であって、以下を含む前記方法:(i)パラグラフ5もしくは6のいずれかに記載の共培養物、またはパラグラフ7、14、もしくは15のいずれかに記載の3次元器官培養システム、またはパラグラフ8~15のいずれかに記載の3次元多器官培養システムと、少なくとも1つの剤を接触させること;および(ii)前記少なくとも1つの剤との接触後、前記共培養物または前記3次元器官培養システムまたは前記3次元多器官培養システムの1つ以上の反応を測定すること;この場合において前記少なくとも1つの剤との接触前後での前記1つ以上の反応における差異は、前記剤が前記細胞の反応を調節することの指標である。
【0233】
23.ステップ(ii)が、当該少なくとも1つの剤の、3次元肺上皮細胞への浸透を測定することを含む、パラグラフ22に記載のin vitro方法。
【0234】
24.以下のステップをさらに含む、パラグラフ23に記載のin vitro方法。
(iii)3次元肝スフェロイドにおける前記少なくとも1つの剤の生体内活性化を測定すること;この場合において、ステップ(ii)および(iii)における測定は同時に行われるか、またはステップ(iii)の測定はステップ(ii)の測定の後に行われる。
【0235】
25.前記剤が、エアロゾルであり、適切には前記エアロゾルは煙、適切にはたばこの煙であるか、またはそれから誘導される、パラグラフ22~24のいずれかに記載のin vitro方法。
【0236】
26.以下のいずれかを含有する、または以下のいずれかからなる、または本質的に以下のいずれかからなる細胞培養培地の使用:3次元肝スフェロイドもしくは3次元肺上皮細胞を培養するための、または3次元肝スフェロイドと3次元肺上皮細胞を共培養するための、(a)完全PneumaCult-ALI培地;または(b)完全B-ALI培地;または(c)完全PneumaCult-ALIと完全ウイリアムE培地、または(d)完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地。
【0237】
27.適切には前記剤がエアロゾルである、毒性検査のための、または薬剤開発のための、または肺細胞への剤の浸透を決定するための、および/もしくは肝細胞における剤の生体内活性化を決定するための、パラグラフ7、14もしくは15のいずれかに記載の3次元器官培養システムまたはパラグラフ8~15のいずれかに記載の3次元多器官培養システムの使用。
【0238】
本発明の解説的な実施形態が添付の図面を参照して本明細書において詳細に開示されるが、本発明は当該実施形態に限定されず、当分野の当業者による様々な変更または改変が、添付される請求の範囲により規定される本発明範囲およびその均等から逸脱することなく、それらに有効であり得ることを理解されたい。
本発明について、下記の例でさらに説明するが、これらの例では発明をさらに詳細に説明している。これらの例は、本発明を実施するために現時点で意図されている好ましい様式を規定したもので、本発明を例証するものであって、限定するものではない。
【実施例】
【0239】
実施例1
気管支器官型培養物の調製
これらはClonetics(商標)B-ALI(商標)気相液相界面培地の商標を有するLonza社(バーゼル、スイス)のプロトコールに従い調製される。簡潔に記載すると、正常なヒトの気管支上皮細胞(NHBEC)を完全B-ALI培地中、37℃、5%CO2(相対湿度90%)でおよそ80%コンフルエンシーまで増殖させる。細胞をトリプシン処理し、洗浄し、再懸濁する。35,000個の細胞をI型コラーゲン被覆Transwell(登録商標)インサート(Corning(登録商標)、Root Langenbold、スイス)上に播種し、完全B-ALI培地(Lonza社)を前もって満たしたマルチウェルプレートにインサートを置き、3日間インキュベートする。その後、先端部の培地を取り除き、底側の培地を完全B-ALI培地と交換する。エアリフトされたインサートをインキュベーターに戻し、培地を2~3日ごとに交換する。さらに成熟フェーズの間、先端部の洗浄を週に1回行う。典型的にはエアリフト後4週で、成熟したら培養物を使用する。形態評価、ATP含有量の測定、先端部ATP分泌の測定、およびCYP1A1/B1の活性の測定を、成熟後最大で4週間、毎週行う(
図1を参照)。組織評価およびATP含有量測定に使用したインサートを除き、すべてのインサートは時間経過中再利用される。
【0240】
実施例2
肝スフェロイドの調製
肝スフェロイドは、InSphero社のGravityTRAP(商標)ULA Plateマニュアルに記載される通りに調製される。簡潔に記載すると、最初にHepaRG細胞を37℃で2分間溶解させ、次いでThaw,Plate&General Purposeサプリメント(ThermoFisher Scientific社、ref. HPRG770)とGlutaMAX溶液(ThermoFisher Scientific社、ref. 35050061)が補充され前もって温められた9mlのウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、ref.12551032)と混合する。次いで細胞を2分間、400xgで遠心し、その後、上記と同じ補充が為された新しいウイリアムE培地と培地を交換する。次いでCorning(登録商標)スフェロイドマイクロプレート(ref.4520)の1ウェル当たり、約5,000個の細胞を分配する。5日後、HepaRG Maintenance&Metabolismサプリメント(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号HPRG720)およびGlutaMAX溶液(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号35050061)が補充された新しいウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号12551032)と培地を交換する。1週間後、スフェロイドは成熟し、実験に使用する準備が整う。
【0241】
実施例3
気管支器官型培養物および肝スフェロイドの形態の測定
気管支器官型培養物の形態は、Toxicol Sci.2015 Sep;147(1):207-21に従前に記載されているように、固定およびパラフィン包埋、切片作製、ならびにヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色とアルシアンブルー染色後に評価される。
【0242】
肝スフェロイドの形態は、免疫染色後に評価される。簡潔に記載すると、肝スフェロイドを一晩、4%の新鮮なパラホルムアルデヒド中で固定する。1% Triton X-100/0.2%魚革ゼラチン(FSG:fish skin gelatin)中でブロッキングした後、スフェロイドを24時間、0.1%FSGを含むPBSで希釈したマウス抗サイトケラチン19(1/500、Abcam社、ケンブリッジ、UK)で染色する。一次抗体は、FITC標識ヤギ抗マウス抗体(1/500、Abcam社)で可視化する。次いでスフェロイドを、ProLong Diamond antifade with DAPI(Thermo Fisher社)を使用して標本作製し、CellinsightTM CX7プラットフォーム(Thermo Fisher社)上でハイコンテントイメージングにより評価する。
【0243】
実施例4
気管支器官型培養物および肝スフェロイドのATP含有量の測定
これは、メーカーの推奨に従い、CellTiterGlo(登録商標)3D細胞生存アッセイ(Promega社、デューベンドルフ、スイス)を使用して測定される。
【0244】
気管支培養物の測定に対し、無希釈のCellTiterGlo(登録商標)試薬を直接培養物に加え、細胞内ATP含有量を現出させる。
【0245】
肝スフェロイドの分析に対しては、最初にCellTiterGlo(登録商標)試薬をウイリアムE培地で希釈し(1:1(v/v))、次いでスフェロイドプレートのウェルに加える。ゆえに、肝スフェロイドのATPの測定は、細胞内および細胞外のATP含有量の両方から構成されている(すなわち、総ATP)。発光は、CellTiterGlo(登録商標)試薬を加えた後、FLUOstar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech社、オルテンベルグ、ドイツ)を使用し30分間、記録された。
【0246】
実施例5
気管支器官型培養物および肝スフェロイドのATP分泌の測定
気管支器官型培養物の気道表面液(ASL:airway surface liquid)へのATP分泌は、低張性(5.2mM KCl、1.2mM CaCl2、1.2mM MgCl2、10mMグルコース、10mM TES、pH7.4)の生理食塩水溶液を加えた後に測定される。簡潔に記載すると、最初に培養物をPBSで洗浄し、次いで、等張性の生理食塩水で5分間処置する。次いで先端部の溶液を注意深く集める。60分後、培養物は低張性溶液を用いて5分間、先端部を処置され、その後、先端部の溶液が注意深く集められる。集められたASLサンプルのATP含有量は、ENLITEN(登録商標)ATPアッセイシステム(Promega社)を使用して測定される。発光は、FLUOstar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech社)を使用して記録される。ATP濃度は、標準曲線から外挿される。
【0247】
実施例6
遺伝子発現解析
RNAは、miRNeasy Miniキット(QIAGEN社、ヒルデン、ドイツ)を使用して肺組織と肝組織から調製される。cDNAは、RT2 First strandキットを使用して調製され、RT2 qPCRマスターミックスと混合され、その後、そのミックスをPhase I Enzymes RT2 Profiler PCR Array(QIAGEN社)に置く。qPCRは、ViiA(商標)7 Real-Time PCR システム(Thermo Fisher社)を使用して行われ、データは、QIAGEN社に提供された説明書に従い解析される。未補正p値<0.05(t検定)をともなう倍数変化は、統計的に有意とみなされる。
【0248】
実施例7
CYP1A1/B1酵素、CYP1A2酵素、およびCYP2B6酵素の誘導性および活性の測定
両培養システムの代謝能力を、メーカーの説明書に従いP450-Glo Assays(Promega社)を使用してCYP1A1/B1酵素、CYP1A2酵素、およびCYP2B6酵素の誘導性と活性を検証することによりさらに確認する。CYP活性は、測定の48時間前に10nM 2,3,7,8-テトラクロロジベンゾジオキシン(TCDD)および25μM リファンピシン(Sigma-Aldrich社、ブックス、スイス)の組み合わせを用いて誘導される。20μM α-ナフトフラボンおよび10μMマレイン酸フルボキサミン(Sigma社)を使用して、CYP1A1/B1とCYP2B6の活性をそれぞれ阻害する。測定が完了したら、組織をPBSで2度洗浄し、インキュベーターに戻す。
【0249】
実施例8
アルブミン分泌の測定
肝スフェロイドによるアルブミンの分泌は、最後に培地を交換した48時間後に、Human Albumin ELISAキット(Abcam社)を使用して定量される。Human α-GST ELISA キット(Wuhan EIAab社、LuBioScience社により流通、ルツェルン、スイス)を使用して、α-GSTの放出に関して同じ細胞培養上清を解析する。
【0250】
実施例9
細胞毒性およびアポトーシスの測定
ApoTox-Glo(商標)三重アッセイ(Promega社、デューベンドルフ、スイス)を使用して、損傷を受けた/壊死した細胞とアポトーシス細胞の数を測定する。
最初に細胞は、ビス-アラニル-アラニル-フェニルアラニル-ローダミン110(bis-AAF-R110)とともに30分間インキュベートされ、損傷を受けた細胞の数が定量される。次いで、同じスフェロイドを、特異的カスパーゼ3/7試薬とともにインキュベートし、アポトーシス細胞数を測定した。
【0251】
実施例10
PneumaCult-ALI培地とウイリアムE培地の混合物の調製
完全PneumaCult-ALI培地は、PneumaCult-ALI 基礎培地(StemCell Technologies社、ref.05002)と、PneumaCult-ALI 10Xサプリメント(StemCell Technologies社、ref. 05003)、PneumaCult-ALI維持サプリメント(StemCell Technologies社、ref.05006)、ヒドロコルチゾンストック溶液(StemCell Technologies社、ref.07925)および0.2%ヘパリンナトリウム塩のPBS溶液(StemCell Technologies社、ref.37250)を混合することにより調製される。
【0252】
ウイリアムE培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号12551032)に、HepaRG Maintenance&Metabolismサプリメント(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号HPRG720)およびGlutaMAX溶液(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号35050061)を補充し、完全ウイリアムE培地を得る。
【0253】
完全PneumaCult-ALI培地は、様々な割合で完全ウイリアムE培地と混合され、70/30~100/0%(v/v)の範囲の完全PneumaCult-ALI培地/完全ウイリアムE培地の混合物を得る。
【0254】
実施例11
完全B-ALI培地および完全ウイリアムE培地の混合物。
完全ウイリアムE培地は、実施例1に概要されるように調製される。
【0255】
完全B-ALI培地は、B-ALI BulletKit(商標)(Lonza社、ref.193514)の成分を混合することにより調製される。完全B-ALI培地は、B-ALI培地が70~100%の範囲の割合で、完全ウイリアムE培地と混合される。
完全B-ALI培地は、様々な割合で完全ウイリアムE培地と混合され、70/30~100/0%(v/v)の範囲の完全PB-ALI培地/完全ウイリアムE培地の混合物を得る。
【0256】
実施例12
異なる培養培地の効果の測定
異なる培地、およびその希釈の効果を、37℃、5%CO2および90%相対湿度で細胞を培養することにより9日間にわたり評価する。
【0257】
異なる培地、およびその希釈の効果を、9日間にわたり評価する。HepaRG細胞は最初に、Thaw,Plate,&General Purposeサプリメント(Thermo Fisher Scientific社、ref.HPRG770)およびGlutaMAX溶液が補充されたウイリアムE培地を使用し、Corning(登録商標)スフェロイドマイクロプレート上に播種される。1週間の成熟後、培地を、Maintenance&Metabolismサプリメントが補充されたウイリアムE培地と、PneumaCult-ALI培地またはB-ALI培地の混合物と交換する。完全ウイリアムE培地で希釈された完全PneumaCult-ALIまたはB-ALIの割合は、70%、80%、90%および100%であった。9日後、スフェロイドを実験に使用する。培地混合物を用いて得られたすべての結果は、完全ウイリアムE培地単独で維持されたスフェロイドと比較される。
【0258】
実施例13
総グルタチオン値の測定
GSH/GSSG-Gloアッセイ(Promega社、デューベンドルフ、スイス)を使用して、抗酸化能力のマーカーとして総グルタチオン値を測定する。このアッセイにおいて、総グルタチオン緩衝液(GSH+GSSG)または酸化グルタチオン緩衝液(GSH)のいずれかとともに30分間、スフェロイドをインキュベートする。ルシフェリン検出試薬の添加後、FLUOstar Omegaプレートリーダーを用いて発光を測定する。このアッセイは総GSH+GSSGとGSSGを測定することができるため、サンプル中のGSH量を推定することが可能である。
【0259】
実施例14
行われた実験のうちの一部の結果を表1に要約する。
【0260】
実施例15
肝スフェロイドのATP含有量
完全PneumaCult-ALI培地または完全B-ALI培地培地を使用した場合、すべての条件で有意(P<0.05)なATPの増加が見いだされる。100%完全PneumaCult-ALI培地中で維持されたときに最も高いATP含有量が見られ、70%、80%、および90%の完全PneumaCult-ALI培地を使用した場合にも同様のATP含有量が見られた。完全B-ALI培地中で維持されたスフェロイドのATP含有量は、完全PneumaCult-ALI培地で培養されたスフェロイドと比較して常に低く、100%の完全B-ALI培地で維持されたスフェロイドが最も低い値である。
【0261】
実施例16
肝スフェロイドのチトクロームP450 1A1活性とチトクロームP450 B1活性 チトクロームP450 1A1活性とチトクロームP450 B1活性は、完全ウイリアムE培地と完全B-ALI培地の混合物、または完全ウイリアムE培地と完全Pneumacult培地の混合物で培養された誘導スフェロイド中で有意(P<0.05)に高い。100%の完全B-ALI(商標)培地中で維持された誘導スフェロイドにおいて、チトクロームP450 1A1活性とチトクロームP450 B1活性は、完全ウイリアムE培地で培養されたスフェロイドと同等である。基準チトクロームP450 1A1活性と基準チトクロームP450 B1活性もまた、70%および80%の完全PneumaCult-ALI培地または完全B-ALI(商標)培地で維持されたサンプル中で有意(P<0.05)に高い。
【0262】
実施例17
損傷を受けた/壊死した肝スフェロイドの数の評価
70%完全PneumaCult-ALI条件は別として、完全ウイリアムE培地と、完全PneumaCult-ALI培地/完全B-ALI培地の混合物を用いた9日間のインキュベーションで、損傷を受けた/壊死した細胞の数はすべての条件において有意(P<0.005)に増加する。さらに、完全PneumaCult-ALI培地/完全B-ALI培地の量を増加させると、壊死細胞数が増加する。損傷を受けた/壊死した細胞の数は、完全PneumaCult-ALI混合物と比較し、完全B-ALI培地混合物を使用した場合(同様の混合物%を比較した場合)で、有意(P<0.05)に高い。標準条件は別として、壊死細胞数が最も低いのは、70%完全PneumaCult-ALIを含有する培地混合物であった。
【0263】
すべての培地混合物が、アポトーシス細胞数を有意(P<0.05)に増加させ、最も多い数は、完全ウイリアムE培地と完全PneumaCult-ALI培地の混合物中で培養されたスフェロイドでみられた。完全ウイリアムE培地と完全B-ALI培地の混合物中で維持されたスフェロイド中のアポトーシス細胞数は、完全ウイリアム培地と完全PneumaCult-ALI培地の混合物と、70%、80%および100%の混合物で比較し(同様の混合物%と比較して)、有意(P<0.05)に低い。最小のアポトーシス細胞数が可能であった条件は、100%B-ALI培地で取得される。
【0264】
実施例18
肝スフェロイドのグルタチオン(GSH)値および酸化グルタチオン(GSSG)値
完全ウイリアムE培地と完全PneumaCult-ALI培地/完全B-ALI培地の様々な混合物中で9日間、肝スフェロイドを培養したところ、完全ウイリアムE培地と比較して、70%および80%の完全PneumaCult-ALI培地を用いた培養において、有意(P<0.05)にGSH値が高い。完全PneumaCult-ALI培地の量を増やしても、さらにGSH含有量が増えることはなく、むしろ低下させる。同様に、完全ウイリアムE培地単独と比較し、70%完全B-ALI培地との混合物で維持されたスフェロイドにおいてGSH値は有意(P<0.05)に高い。完全PneumaCult-ALI培地と同様に、完全B-ALI培地の量を増加させるとGSH含有量は減少し、最終的(100%完全B-ALI培地)には、ウイリアムE培地で培養されたスフェロイドで確認された値を下回った。
【0265】
同じアッセイを用いて、GSSG含有量も測定する。GSSGは、100%完全ウイリアムE培地と比較し、完全PneumaCult-ALI培地/完全B-ALI培地と完全ウイリアムE培地の混合物中で維持された肝スフェロイドにおいて有意に高く、使用された完全PneumaCult-ALI培地/完全B-ALI培地の種類、またはその濃度に関係なかった。完全ウイリアムE培地と完全B-ALI培地の混合物で培養されたスフェロイドでは、GSSG含有量は、完全ウイリアムE培地のみで維持されたスフェロイドを上回りわずかに増加する一方で、完全ウイリアムE培地と完全PneumaCult-ALI培地の混合物で維持されたスフェロイドではGSSG含有量は非常に増加する。
【0266】
実施例19
肝スフェロイドのアルブミン分泌
完全ウイリアムE培地で維持されたスフェロイドのアルブミン分泌は、予測結果よりも少なかった(予測:15~30pg/日/細胞;実測:4pg/日/細胞(Gunness et al., 2013))が、検証したすべての培地混合物でアルブミン放出の有意(P<0.05)な増加が測定される。70%、80%、および90%の完全ウイリアムE培地と完全PneumaCult-ALI培地/完全B-ALI培地で維持されたスフェロイドの分泌アルブミンは、(同じ%で比較した場合)完全B-ALI培地(商標)培地よりも、完全PneumaCult-ALI培地で維持されたスフェロイドのほうが有意(P<0.05)に高い。
【0267】
実施例20
遺伝子発現
3次元器官型肺培養における第1相薬剤代謝酵素をコードする遺伝子発現の倍数制御が、1週、2週、3週、および4週で評価される。遺伝子発現は、48時間、TCDDおよびリファンピシンを用いて処置された肺培養物(n=3)と、未処置培養物(n=3)の間で比較され、倍数変化が算出される。
図7に示される遺伝子のすべてが、TCDDおよびリファンピシンの存在下、3週目でアップレギュレーションされる。
図7に示される遺伝子のすべてが、TCDDおよびリファンピシンの存在下、4週目でダウンレギュレーションされる。
【0268】
実施例21
肺スフェロイドを生成するために使用されるプレート
スフェロイドを生成するために使用されたプレートは、Corning(登録商標)スフェロイドマイクロプレート(Corning(登録商標)、ref.4520)と名付けられている。スフェロイドを調製するために使用された細胞(HepaRG)を溶解し、直ちにこれらプレートに播種する。ウェルは超低付着性表面で被覆されているため、細胞は付着せず、その代わりに凝集する。1週間後、細胞はスフェロイドを形成し、それをさらなる実験に使用することができる。CYP誘導(代謝マーカー)、アルブミン分泌(代謝および健康状態のマーカー)、およびATP含有量(健康状態のマーカー)はすべて増加しており、これは、スフェロイドが、InSpheroのウェルと比較し、これらウェルでより健常であることを意味する。学説に拘束されることはないが、これは、Corning(登録商標)スフェロイドマイクロプレート中に含有され得る培養培地の量が多いことが原因であろう。アルファGSTの分泌は、Corning(登録商標)プレートを使用するとInSpheroと比較して大きく減少する。
【0269】
CYP誘導性は、2週以上維持されている(InSpheroのCYP誘導性は、わずか2週のみ維持された一方で、Corning(登録商標)では4週間維持されている)。ATP含有量は、最初の3週は30%高く、4週目で40%高いことが判明した。アルブミン分泌も2週目(10%高い)および3週目(20%)で高いが、その後、InSpheroプレートの値と類似した値となった。アルファGST放出に関しては、4週目(50%低下)と5週目(63%低下)で大きな違いがみられた。
【0270】
実施例22
結果の要約
本実験において、4週間にわたる健常性、形態および代謝活性に関する肺および肝臓の3次元器官型培養が研究された。その結果は以下を示している:気相液相界面で維持された3次元気管支培養は3週目まで安定したATP含有量を有しており、実験期間中、形態の変化は示していない。4週間、刺激に対し反応したATPの産生能力は保持されている。さらに、3次元気管支培養は、2週目および3週目で高いCYP1A1/B1活性を示し、一方で数種(全部ではない)の代謝酵素コード遺伝子の発現は、実験期間を通し、誘導後に上昇した(
図7を参照)。HepaRGスフェロイドは、実験期間中、ATP含有量およびCYP1A1と1A2の誘導性は低下し、α-GSTの放出は最小の増加であったが、安定した形態を有している。予想外なことに、アルブミン分泌は培養の最初の週の後、急速に低下している。
【0271】
完全ウイリアムE培地と完全PneumaCult-ALI培地の混合物で9日間スフェロイドを維持することで、ATP含有量、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 B1の誘導性、および分泌アルブミンはすべて、完全ウイリアムE培地条件と比較し改善されている。同時に、ネクローシス細胞数またはアポトーシス細胞数、およびGSH/GSSG比は、この混合物により負の影響を受けており、これは酸化ストレスの結果である可能性がある。完全ウイリアムE培地と完全B-ALI培地の混合物で行われた試験も、完全ウイリアムE培地と比較して、ATP含有量、チトクロームP450 1A1とチトクロームP450 B1の誘導性、および分泌アルブミンの増加を示している。完全PneumaCult-ALI培地を共培養に使用することは、本開示の特定の実施形態に適している。本開示の1つの態様は、相互接続された肺組織と肝組織を備えたチップシステム上の2つの器官に関連しており、100%の完全PneumaCult-ALI培地を使用することで、さらなる最適化をいずれも行わずに肺培養の使用が可能となる。100%の完全PneumaCult-ALI培地で肝スフェロイドを維持可能であることが明白であり、多器官オン・チップシステムにおける共培養に適した条件である。
【0272】
本明細書で引用または記述されたあらゆる刊行物は、本出願の出願日以前に開示された関連情報を提供する。本明細書における記載は、発明者がこのような開示に先だって権利を与えられないことの承認としては解釈されない。上記の明細書で言及したすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の様々な修正および変形が、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、当業者に明らかになるであろう。本発明は特定の好ましい実施形態に関連して記述してきたが、当然のことながら、本発明は主張の通り、こうした特定の実施形態に不当に限定されるべきではない。実際に、本発明の実施のために記述された方法の様々な改変が、細胞生物学および分子生物学または関連分野の当業者には明らかであり、以下の特許請求の範囲の範囲内に収まるものであることが意図される。
【0273】
各培養培地で得られた結果の比較。倍数変化は、ウイリアムE培地単独と比較して表されている。
【表1】
【0274】
B=70%、80%、90%および100%(v/v)の完全B-ALI(商標)培地。
70%、80%、および90%(v/v)では、残量はウイリアムE培地で100%(v/v)に作製されている。
【0275】
P=70%、80%、90%および100%(v/v)の完全PneumaCult-ALI培地。70%、80%、および90%(v/v)では、残量はウイリアムE培地で100%(v/v)に作製されている。
【0276】