IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローム アンド ハース カンパニーの特許一覧 ▶ ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシーの特許一覧

特許7097948不均一触媒を使用した酸化的エステル化によるメタクリル酸メチルの生成方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】不均一触媒を使用した酸化的エステル化によるメタクリル酸メチルの生成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/52 20060101AFI20220701BHJP
   C07C 67/39 20060101ALI20220701BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20220701BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220701BHJP
【FI】
B01J23/52 Z
C07C67/39
C07C69/54 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020504342
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 US2018039231
(87)【国際公開番号】W WO2019022886
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】62/538,232
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラプチェトフ、ドミトリー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】リンバッハ、カーク ダブリュー..
(72)【発明者】
【氏名】ヒックマン、ダニエル エー.
(72)【発明者】
【氏名】ヘロン、ジェフェリー
(72)【発明者】
【氏名】オルソン、カート ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ブレイロック、ディー.ウェイン
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504607(JP,A)
【文献】特表2017-507903(JP,A)
【文献】特開平8-337554(JP,A)
【文献】特開昭58-185540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインおよびメタノールからメタクリル酸メチルを調製する方法であって、前記方法が、少なくとも4つのゾーンを有する管状反応器内で、メタクロレイン、メタノール、酸素、および塩基を含む混合物を、担体および貴金属を含む不均一触媒の触媒床と接触させることを含み、触媒床を含む反応ゾーンが、触媒床を含まない混合ゾーンと交互になる、方法。
【請求項2】
各反応ゾーンが、200ミクロン~10mmの平均直径を有する触媒粒子を含む触媒床を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応器を通る液体の空塔速度が、2~30mm/秒である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各混合ゾーンが、熱交換装置と、(i)静的混合装置、(ii)ジェット混合装置、および(iii)0.1~10m/秒の先端速度を有する少なくとも1つのインペラのうちの少なくとも1つと、を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒床が、40~120℃の温度である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒床のpHが、4~8である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器が、4~10のゾーンを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が、水酸化ナトリウムまたはナトリウムメトキシドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒粒子が、400ミクロン~7mmの平均直径を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記貴金属が、金およびパラジウムからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、不均一触媒を使用してメタクロレインおよびメタノールからメタクリル酸メチルを調製するための方法に関する。
【0002】
メタクリル酸メチルは、反応混合物のpHの低下が有害であることが知られている酸化的エステル化反応によって生成されている。先行技術は、pHを上げるための反応器への塩基の添加が、触媒寿命を延ばすために行われることを報告している。この問題の解決策は、別個の容器で反応混合物または反応物の一部分に塩基を混合することであり、例えば、米国出願第2016/0251301号を参照されたい。しかしながら、改善された選択性を提供できるより効率的なプロセスに対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、メタクロレインおよびメタノールからメタクリル酸メチルを調製する方法を対象とし、当該方法は、少なくとも4つのゾーンを含む管状反応器内で、メタクロレイン、メタノール、酸素、および塩基を含む混合物を、担体および貴金属を含む不均一触媒の触媒床と接触させることを含み、触媒床を含む反応ゾーンは、触媒床を含まない混合ゾーンと交互になる。
【発明を実施するための形態】
【0004】
別途記載のない限り、全ての百分率組成物は重量百分率(重量%)であり、全ての温度は℃である。別途記載のない限り、平均は、算術平均である。貴金属は、金、プラチナ、イリジウム、オスミウム、銀、パラジウム、ロジウム、およびルテニウムのうちのいずれかである。2つ以上の貴金属が触媒に存在し得、その場合、制限が全ての貴金属の合計に適用される。「触媒中心」は、触媒粒子の重心、つまり、全ての座標方向の全ての点の平均位置である。直径は、触媒の中心を通過する任意の直線寸法であり、平均直径は、全ての可能な直径の算術平均である。アスペクト比は、最長の直径と最短の直径との比率である。「ゾーン」は、管状反応器、すなわち、反応混合物が断面に垂直な反応器の長さ(中心軸)に沿って流れる実質的に円形の断面を有する反応器の長さの一部である。ゾーンの長さは、反応器の中心軸に沿ったその寸法である。管状反応器は、連続反応器として操作される。
【0005】
好ましくは、第1のゾーンは、新鮮な反応物が供給される混合ゾーンである。好ましくは、塩基はまた、反応物とともに、または別々に、第1の混合ゾーンに供給される。本発明の好ましい実施形態では、塩基、酸素、または両方が、少なくとも1つの後続の混合ゾーンならびに第1の混合ゾーンに供給される。好ましくは、反応混合物の一部分は、後続の混合ゾーンから第1の混合ゾーンに再循環される。好ましくは、反応器は、少なくとも4つ、好ましくは少なくとも3つ、好ましくは少なくとも2つ、好ましくは10以下、好ましくは5つ以下の混合ゾーンを有する。好ましくは、反応ゾーンの平均長さの混合ゾーンの平均長さとの比は、1000:1~1:5、好ましくは500:1~1:2、好ましくは100:1~1:1である。好ましくは、すべてのゾーンの平均長さの反応器直径との比は、1000:1~1:10、好ましくは500:1~1:5、好ましくは100:1~1:2である。ゾーンは同じ長さである必要はない。好ましくは、反応器は、実質的に垂直であり、反応混合物およびガスが上向きに流れる。
【0006】
好ましくは、反応器は、ゾーンを通る反応混合物から熱が除去される少なくとも1つの冷却ゾーンを含む。混合ゾーンは、冷却ゾーンでもあり得る。好ましくは、冷却は、反応混合物を、コイル、フィン、または他の典型的な熱交換表面を含み得る熱交換器と接触させることにより達成される。
【0007】
好ましい塩基には、アルカリ金属水酸化物およびC~Cアルコキシド、好ましくはナトリウムおよび水酸化カリウムならびにナトリウムまたはカリウムメトキシドもしくはエトキシド、好ましくは水酸化ナトリウムまたはナトリウムメトキシドが挙げられる。好ましくは、塩基は、好ましくはメタノール、エタノール、または水、好ましくはメタノールまたは水中に溶液として添加される。好ましくは、アルコキシドは、メタノールまたはエタノール中に添加される。好ましくは、溶液中の塩基の濃度は、50~1重量%、好ましくは45~2重量%、好ましくは40~5重量%である。
【0008】
好ましくは、混合ゾーン内の反応混合物は、静的混合装置、機械的撹拌、またはジェット混合を使用して混合される。好ましくは、機械的撹拌は、1つ以上のインペラを使用して達成される。インペラは、0.1~10m/秒、好ましくは1~5m/秒の先端速度を有する。好ましくは、混合ゾーンは、冷却または加熱の目的のために熱交換装置を含む。
【0009】
好ましくは、触媒床を通る液体の空塔速度は、1~100mm/秒、好ましくは少なくとも2mm/秒、好ましくは少なくとも3mm/秒、好ましくは少なくとも5mm/秒、好ましくは30mm/秒以下、好ましくは25mm/秒以下、好ましくは20mm/秒以下である。好ましくは、混合ゾーンは、反応器の直径ごとに少なくとも1つのインペラを有する。好ましくは、インペラの線形先端速度は、0.1~10m/秒、好ましくは少なくとも0.2m/秒、好ましくは少なくとも0.5m/秒、好ましくは少なくとも1m/秒、好ましくは少なくとも2m/秒、好ましくは8m/秒以下、好ましくは6m/秒以下である。好ましくは、比エネルギー散逸εは、0~5W/kg、好ましくは少なくとも0.5W/kg、好ましくは少なくとも1.0W/kg、好ましくは4W/kg以下、好ましくは3.5W/kg以下である。好ましくは、反応器のH/Tは、少なくとも1.2、好ましくは少なくとも1.3、好ましくは少なくとも1.4、好ましくは5以下、好ましくは4以下、好ましくは3以下である。
【0010】
好ましくは、反応器出口における酸素濃度は、0.5~7.5mol%、好ましくは少なくとも1mol%、好ましくは6mol%以下である。
【0011】
好ましくは、担体は、酸化物材料の粒子であり、好ましくは、γ-、δ-、もしくはθ-アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ハフニア、バナジア、酸化ニオブ、酸化タンタル、セリア、イットリア、酸化ランタン、またはこれらの組み合わせである。好ましくは、貴金属を含む触媒の部分に、担体は、10m/g超、好ましくは30m/g超、好ましくは50m/g超、好ましくは100m/g超、好ましくは120m/g超の表面積を有する。貴金属をほとんどまたはまったく含まない触媒の部分において、担体は、50m/g未満、好ましくは20m/g未満の表面積を有し得る。
【0012】
好ましくは、触媒粒子のアスペクト比は、10:1以下、好ましくは5:1以下、好ましくは3:1以下、好ましくは2:1以下、好ましくは1.5:1以下、好ましくは1.1:1以下である。触媒粒子の好ましい形状としては、球、円柱、直方体、輪、多葉形状(例えば、クローバー断面)、複数の穴および「ワゴンホイール」を有する形状、好ましくは球が挙げられる。不規則な形状もまた使用され得る。
【0013】
好ましくは、貴金属(複数可)の少なくとも90重量%は、触媒体積(すなわち、平均触媒粒子の体積)の外側70%、好ましくは触媒体積の外側60%、好ましくは外側50%、好ましくは外側40%、好ましくは外側35%、好ましくは外側30%、好ましくは外側25%である。好ましくは、任意の粒子形状の外部体積は、外部表面に垂直な線に沿って測定された、その内部表面から外部表面(粒子の表面)まで一定の距離を有する体積に対して計算される。例えば、球形粒子の場合、体積の外側x%は球形シェルであり、その外部表面は粒子の表面であり、その体積は球全体の体積のx%である。好ましくは、貴金属の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、好ましくは少なくとも99重量%は、触媒の外部体積にある。好ましくは、貴金属(複数可)の少なくとも90重量%(好ましくは少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、好ましくは少なくとも99重量%)は、触媒直径の30%以下、好ましくは25%以下、好ましくは20%以下、好ましくは15%以下、好ましくは10%以下、好ましくは8%以下の表面からの距離内にある。表面からの距離は、表面に垂直な線に沿って測定される。
【0014】
好ましくは、貴金属は、金またはパラジウム、好ましくは金である。
【0015】
好ましくは、触媒粒子の平均直径は、少なくとも200ミクロン、好ましくは少なくとも300ミクロン、好ましくは少なくとも400ミクロン、好ましくは少なくとも500ミクロン、好ましくは少なくとも600ミクロン、好ましくは少なくとも700ミクロン、好ましくは少なくとも800ミクロン、好ましくは30mm以下、好ましくは20mm以下、好ましくは10mm以下、好ましくは5mm以下、好ましくは4mm以下、好ましくは3mm以下である。担体の平均直径および最終触媒粒子の平均直径は、有意に異なっていない。
【0016】
好ましくは、触媒は、担体の存在下で金属塩の水溶液から貴金属を沈殿させることにより生成される。好ましい貴金属塩としては、テトラクロロ金酸、金チオ硫酸ナトリウム、金チオリンゴ酸ナトリウム、水酸化金、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、および酢酸パラジウムが挙げられる。好ましい一実施形態では、触媒は、好適な貴金属前駆体塩の水溶液を多孔性無機酸化物に添加して細孔を溶液で充填し、次いで水を乾燥により除去する初期湿潤技法によって生成される。次いで、得られた材料は、貴金属塩を金属または金属酸化物に分解するため、焼成、還元、または当業者に知られている他の処理によって完成触媒に変換される。好ましくは、少なくとも1個のヒドロキシルまたはカルボン酸置換基を含むC~C18チオールが、溶液中に存在する。好ましくは、少なくとも1個のヒドロキシルまたはカルボン酸置換基を含むC~C18チオールは、2~12個、好ましくは2~8個、好ましくは3~6個の炭素原子を有する。好ましくは、チオール化合物は、合計で4個以下、好ましくは3個以下、好ましくは2個以下のヒドロキシル基およびカルボン酸基を含む。好ましくは、チオール化合物は、2個以下、好ましくは1個以下のチオール基を有する。チオール化合物がカルボン酸置換基を含む場合、それらは酸形態、共役塩基形態、またはこれらの混合物で存在し得る。チオール成分はまた、そのチオール(酸)形態またはその共役塩基(チオレート)形態のいずれかで存在し得る。特に好ましいチオール化合物としては、チオリンゴ酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、および1-チオグリセロール(それらの共役塩基も含まれる)が挙げられる。
【0017】
本発明の一実施形態では、触媒は、好適な貴金属前駆体塩を含有する水溶液に多孔性無機酸化物を浸漬し、次いで、溶液のpHを調整することにより、塩を無機酸化物の表面と相互作用させる析出沈殿により生成される。次いで、得られた処理済み固体を(例えば濾過により)回収し、次いで、貴金属塩を金属または金属酸化物に分解するため、焼成、還元、または当業者に知られている他の事前処理によって完成触媒に変換される。
【0018】
この発明は、触媒床を含む酸化的エステル化反応器(OER)内でメタクロレインをメタノールで処理することを含むメタクリル酸メチル(MMA)を生成するためのプロセスに有用である。触媒床は触媒粒子を含む。OERは、メタクロレイン、メタノール、およびMMAを含む液相と、酸素を含む気相と、をさらに含む。液相は、副生成物、例えば、メタクロレインジメチルアセタール(MDA)およびイソ酪酸メチル(MIB)をさらに含み得る。好ましくは、液相は、40~120℃、好ましくは少なくとも50℃、好ましくは少なくとも60℃、好ましくは110℃以下、好ましくは100℃以下の温度である。好ましくは、触媒床は、0~2000psig(101kPa~14MPa)、好ましくは2000kPa以下、好ましくは1500kPa以下の圧力である。好ましくは、触媒床のpHは、4~10、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも5.5、好ましくは9以下、好ましくは8以下、好ましくは7.5以下である。好ましくは、触媒床は、管状連続反応器内にある。
【0019】
OERは、典型的には、メタクリル酸および未反応のメタノールとともにMMAを生成する。好ましくは、メタノールおよびメタクロレインは、1:10~100:1、好ましくは1:2~20:1、好ましくは1:1~10:1のメタノール:メタクロレインモル比で反応器に供給される。好ましくは、触媒床は、不活性物質をさらに含む。好ましい不活性材料としては、例えば、アルミナ、粘土、ガラス、炭化ケイ素、および石英が挙げられる。好ましくは、触媒床の前および/または後に配置される不活性材料は、触媒の直径以上、好ましくは1~30mm、好ましくは少なくとも2mm、好ましくは30mm以下、好ましくは10mm以下、好ましくは7mm以下の平均直径を有する。好ましくは、反応生成物は、メタノールおよびメタクロレインに富む塔頂流を提供するメタノール回収蒸留塔に供給され、好ましくは、この流れは、OERに戻されて再循環される。メタノール回収蒸留塔からの底流は、MMA、MDA、メタクリル酸、塩、および水を含む。本発明の一実施形態では、MDAは、MMA、MDA、メタクリル酸、塩、および水を含む媒体中で加水分解される。MDAは、メタノール回収蒸留塔からの底流中で加水分解され得、この流れは、MMA、MDA、メタクリル酸、塩、および水を含む。別の実施形態では、MDAは、メタノール回収塔底流から分離された有機相中で加水分解される。MDAの加水分解に十分な水が存在することを確実にするために、有機相に水を添加する必要があり得、これらの量は、有機相の組成から容易に測定され得る。MDA加水分解反応器の生成物は、相分離され、有機相は、1つ以上の蒸留塔を通過して、MMA生成物ならびに軽質および/または重質の副生成物を生成する。別の実施形態では、加水分解は、蒸留塔自体の中で実施することができる。
【0020】
好ましくは、反応器出口における酸素濃度は、少なくとも1mol%、好ましくは少なくとも2mol%、好ましくは少なくとも3mol%、好ましくは7mol%以下、好ましくは6.5mol%以下、好ましくは6mol%以下である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、反応器出口におけるpHは、3~7.5、好ましくは少なくとも3.5、好ましくは少なくとも4、好ましくは少なくとも4.5、好ましくは少なくとも4.8、好ましくは少なくとも5、好ましくは7.3以下、好ましくは7.0以下、好ましくは6.7以下、好ましくは6.4以下である。好ましくは、塩基は、反応器、または反応器に入る液体流に添加されない。好ましくは、反応器は、塩基が導入される外部混合槽に接続されていない。反応器内のpHは、より高くなる可能性が高く、おそらく入口近くで7を超え、出口において6を下回る可能性がある。
【0022】
酸化的エステル化のための固定床反応器の好ましい一実施形態は、トリクル床反応器であり、これは触媒の固定床を含有し、気体および液体供給物の両方を下向き方向に反応器に通す。トリクルフロー中では、気相は連続流体相である。したがって、固定床の上方の反応器の上部にあるゾーンは、それらのそれぞれの蒸気圧で窒素、二酸化炭素、酸素、および揮発性液体成分の蒸気相混合物で充填されることになる。典型的な動作温度および圧力(50~90℃および60~300psig(510~2200kPa)では、ガス供給が空気である場合、この蒸気混合物は、可燃性エンベロープ内部にある。したがって、点火源のみが爆燃を開始するのに必要とされ、それにより、一次格納容器の損失、ならびに近傍の物理的なインフラストラクチャおよび人員に損害を与える可能性がある。プロセスの安全性の考慮に対処するために、可燃性ヘッドスペース雰囲気を避けながらトリクル床反応器を動作する手段は、蒸気ヘッドスペース内の酸素濃度が、限界酸素濃度(LOC)未満であることを確実にするのに十分に低い酸素モル分率を含有するガス供給物での動作である。
【0023】
LOCの知識は、問題の燃料混合物、温度、および圧力に必要とされる。LOCが温度および圧力の増加とともに減少するので、メタノールが他の2つの重要な燃料(メタクロレインおよびメタクリル酸メチル)よりも低いLOCを与えることを考えると、保守的な設計は、最高の期待動作温度および圧力でLOC未満の組成を確実にする供給酸素と不活性ガスとの比率を選択する。例えば、最大100℃および275psig(1990kPa)で動作する反応器の場合、窒素および/または二酸化炭素中の供給酸素濃度は7.4mol%を超えてはならない。反応器内のより低い酸素濃度を得る1つの方法は、反応器のオフガスを再循環し、そのオフガスに新鮮な空気を添加して酸素含有量を所望の量にすることである。
【実施例
【0024】
実施例1:マルチゾーン反応器
20重量%のメタクロレイン、200ppmの阻害剤、および残りのメタノールを混合し、炭化ケイ素の短い前部区分および10gの触媒を含む3/8インチ(9.5mm)のステンレス鋼管状反応器からなる触媒ゾーン、それに続くピッチドブレードタービンを備えた150mlの液量撹拌容器からなる混合ゾーン、それに続く炭化ケイ素の短い前部区分および10gの触媒を含む3/8インチのステンレス鋼管状反応器からなる第2の触媒ゾーンに供給する一連の作業を実施した。触媒は、Norproの直径1mmの高表面積アルミナ球状担体上の1.5重量%のAuからなっていた。出口ガスに約5%の酸素を有するのに十分な空気を第1の触媒ゾーンに供給し、出口ガスが4%~5%の酸素を有するのに十分な窒素中8%の酸素を含むガスを第2のゾーンに供給した。反応器を、60℃および160psig(1200kPa)で操作した。触媒ゾーン1の出口におけるpHは約6.3であった。反応器の生成物を、気液分離器に送り、蒸気を、液戻りを有する凝縮器に送った。結果を以下の表に記載する。いくつかの場合では、メタノール中のナトリウムメトキシドからなる塩基を混合ゾーンに添加した。いくつかの場合では、混合ゾーンを600RPMで撹拌し、他の場合には撹拌しなかった。MMAの生成物分布は、メタクロレイン反応物として生じる生成物中のMMAパーセントである。マイケル付加体の生成物分布は、メタクロレイン反応物として生じる生成物中の付加体パーセントである。空時収量(STY)は、Kg触媒時間あたりのMMA molである。
【表1】
【0025】
比較例2:再循環反応器
20重量%のメタクロレイン、200ppmの抑制剤、および残りのメタノールを、炭化ケイ素の短い前部区分およびそれに続く10gの触媒を含有する3/8インチのステンレス鋼管状反応器に供給する作業を実施した。触媒は、Norproの直径1mmの高表面積アルミナ球状担体上の1.5重量%のAuからなっていた。窒素中に8mol%の酸素を含むガスを、300sccmで反応器に供給し、ベントガスの酸素濃度は、4mol%~5mol%であった。反応器を、60℃および160psigで操作した。反応器の生成物を、気液分離器に送り、蒸気を、液戻りを有する凝縮器に送った。この分離器からの生成物流の一部分は、反応器の入口にリサイクルされ、反応器に入る供給物と混ぜ合わされた。結果を以下の表に記載する。生成物分布は、メタクロレイン反応物として生じる生成物中のMMAパーセントである。メタノール中の0.15重量%ナトリウムメトキシドからなる塩基を、混合目的のためにピッチドブレードインペラを含んだ気液分離器に添加した。
【表2】
【0026】
結論
マルチゾーン反応器で得られたデータは、反応器への塩基の添加において、混合ゾーン(複数可)での混合が、本明細書でMMAへの生成物分布により測定されるように、マイケル付加体の形成を減少させ、一般的な選択性を増加させる重要なパラメータであることを示す。混合ゾーンでの不適切な混合を利用した場合、600RPMでのより典型的で適切な混合と比較して、マイケル付加体の形成は約2倍になった。
【0027】
マルチゾーン反応器と90%再循環の再循環反応器との比較は、非常に希薄な塩基添加の場合でも、マルチゾーン性能がMMA(選択性)、変換、および空時収量に優れた生成物分布を有する再循環反応器の性能と同等または優れていることを示す。