(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】乳入りの加熱殺菌済飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/38 20210101AFI20220701BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20220701BHJP
A23C 9/156 20060101ALI20220701BHJP
A23F 5/40 20060101ALI20220701BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220701BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
A23L2/38 P
A23C9/152
A23C9/156
A23F5/40
A23L2/00 A
A23L2/60
(21)【出願番号】P 2022069151
(22)【出願日】2022-04-20
(62)【分割の表示】P 2020178370の分割
【原出願日】2020-10-23
【審査請求日】2022-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】結城 沙織
(72)【発明者】
【氏名】谷 鷹明
(72)【発明者】
【氏名】神崎 範之
(72)【発明者】
【氏名】片山 透
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-146254(JP,A)
【文献】特開平3-251144(JP,A)
【文献】特開2017-184697(JP,A)
【文献】特開2020-43825(JP,A)
【文献】特開2008-253167(JP,A)
【文献】国際公開第2010/114022(WO,A1)
【文献】Cafe Au Lait Calorie Half with Collagen,MINTEL GNPD, 2007. 10,2022年06月14日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/38
A23C 9/152
A23C 9/156
A23L 2/00
A23L 2/60
A23F 5/40
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳成分及び甘味成分を含み、以下成分(A)~(C);
(A)たんぱく質含量 0.5~8.0g/100g、
(B)糖類含量 5.0g/100g以下、及び
(C)γ-アミノ酪酸含量 11~70mg/100g、
を満たす、加熱殺菌済
コーヒー飲料。
【請求項2】
甘味成分が、スクラロース、アセスルファムカリウム、及びステビア抽出物より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の
加熱殺菌済コーヒー飲料。
【請求項3】
(D)脂肪含量 0.05~2.0g/100g
をさらに満たす、請求項1又は2に記載の
加熱殺菌済コーヒー飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類が低減されながらも十分な濃厚感が付与された、乳入りの加熱殺菌済飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
乳の風味には、殺菌方法が大きく影響する。加熱殺菌により乳劣化臭が生成されることから、乳劣化臭を抑制する方法が種々提案されている。例えば、乳又は乳製品にα-グリコシルトレハロースを含有させることにより乳加熱臭の生成を抑制する方法(特許文献1)、乳及び乳製品に糖アルコールを0.1~10.0%添加し、乳たんぱく質の遊離スルフヒドルをブロックしてたんぱく質の熱変性を防止する方法(特許文献2)、乳成分と香味成分を含む飲料において、0.0005~0.004質量%のシスチン類を含有させることにより、高温殺菌や加熱保存によって生じる乳成分の劣化臭発生を抑制する方法(特許文献3)等がある。
【0003】
また、乳入り飲料のコク味や濃厚感を増強する方法も種々提案されている。例えば、フタライド類を有効成分とする飲食品の呈味改善剤を乳飲料を含む様々な飲料に添加する方法(特許文献4)、濃縮牛乳状組成物に甘味料(ブドウ糖とガラクトース)と特定の乳清ミネラルとを含有させる方法(特許文献5)、牛乳と、乳製品と、原料水とを主成分とする乳飲料において、原料水の一部を海洋深層水とする方法(特許文献6)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-94856号公報
【文献】特開平11-46683号公報
【文献】特開2009-55802号公報
【文献】特開2011-103774号公報
【文献】特開2011-217645号公報
【文献】特開2008-67641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱殺菌工程では、乳の濃厚感が低減することが知られている。具体的には、殺菌乳の乳様香の強度及び濃厚感の強度は、高温短時間殺菌(UHT;120℃、3秒)、高温保持殺菌(HTST;75℃、15秒)、低温保持殺菌(LTLT;63℃、30分)の順で低減する傾向があり、UHTなどの100℃以上の高温加熱を経て製造される乳飲料では、乳のコク味が有意に低減する(「牛乳のおいしさと、その決め手」、雪印メグミルク酪農総合研究所、広報「酪総研」、No.17-4;http://rakusouken.net/topic/017_4_2.html)。特に、糖類が低減された乳入りの飲料では、濃厚感の不足が問題となることが多い。
【0006】
本発明は、糖類が低減された加熱殺菌済みの乳入り飲料において、濃厚感が十分に付与された乳入り飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定量のγ-アミノ酪酸を含有させることにより、加熱殺菌済み乳入り飲料の濃厚感を増強でき、その目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1]乳成分及び甘味成分を含み、以下成分(A)~(C);
(A)たんぱく質含量 0.5~8.0g/100g、
(B)糖類含量 5.0g/100g以下、及び
(C)γ-アミノ酪酸含量 11~70mg/100g、
を満たす、加熱殺菌済飲料。
[2]甘味成分が、スクラロース、アセスルファムカリウム、及びステビア抽出物より選択される1種以上を含む、[1]に記載の飲料。
[3](D)脂肪含量 0.05~2.0g/100g
をさらに満たす、[1]又は[2]に記載の飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、糖類含量が5.0g/100g以下に低減されているにも関わらず、十分な濃厚感が付与された加熱殺菌済みの乳入り飲料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の飲料は、十分な濃厚感が付与された加熱殺菌済みの乳入り飲料である。ここで、本明細書でいう濃厚感とは、飲料の呈味が濃厚に感じる感覚であり、飲料を味わった時の全体的な印象が濃厚であると感じるような感覚であり、飲料の良い面、美味しい面での味わいが濃厚になることを意味する。特に、甘味、コク味、旨味など、美味しさに関わっている呈味全体に対して、これらが濃厚になるような感覚である。本発明の十分な濃厚感が付与された乳入り飲料とは、好ましくは、加熱殺菌前の乳入り飲料や、糖類が5.0g/100gより高い飲料と同程度もしくはそれ以上に十分な濃厚感が感じられる飲料であり、飲料を飲み込んだ後もその感覚(特に、乳風味や濃厚感)を楽しむことができる飲料である。
【0011】
(加熱殺菌済飲料)
本発明でいう「加熱殺菌済飲料」とは、通常の乳入り飲料では濃厚感が低減するような加熱殺菌工程、すなわち100℃以上の高温加熱を経て製造される飲料をいう。そのような高温加熱を用いた加熱殺菌方法としては、特に制限されないが、例えば、高温短時間殺菌(UHT;120~150℃、1~120秒)、レトルト殺菌(110℃~130℃、10~30分)などを挙げることができる。
【0012】
(乳入り飲料)
本発明の乳入り飲料は、乳成分及び甘味成分を含む。ここで、本明細書でいう「乳成分」とは、飲料に乳風味や乳感を付与するために添加される牛乳由来の成分を指す。具体的には、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、加工乳、クリーム、濃縮乳、無糖れん乳、全粉乳、クリームパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳、脱脂乳、濃縮ホエイ、脱脂濃縮乳、加糖脱脂れん乳、脱脂粉乳、ホエイパウダーなどが挙げられる。複数の乳成分を任意に組み合わせて添加してもよい。中でも、牛乳を含む飲料は本発明の好ましい態様の一つである。
【0013】
本発明の乳入り飲料における乳成分の含有量は、たんぱく質(本明細書中、成分(A)とも表記する)を指標として0.5g/100g以上であり、好ましくは0.6g/100g以上であり、より好ましくは0.7g/100g以上である。また、たんぱく質の上限は、8.0g/100g程度である。乳成分の含有量が少ないと通常は加熱殺菌により乳風味が失われる結果、濃厚感が感じられにくくなるが、本発明はそのような乳入り飲料に対しても濃厚感を増強できるという効果がある。すなわち、乳成分の含有量が少ない方が本発明の効果を享受しやすいことから、乳入り飲料中のたんぱく質は5.0g/100
g以下がより好ましく、4.0g/100g以下がさらに好ましく、3.0g/100g以下が特に好ましい。たんぱく質含量の測定は、ケルダール法に従って測定を行うことができる。
【0014】
また、本明細書でいう「甘味成分」とは、飲料に甘味を付与するために添加される成分を指す。具体的には、黒砂糖、白下糖、カソナード(赤砂糖)、和三盆、ソルガム糖、メープルシュガーなどの含蜜糖、ザラメ糖(白双糖、中双糖、グラニュー糖など)、車糖(上白糖、三温糖など)、加工糖(角砂糖、氷砂糖、粉砂糖、顆粒糖など)、液糖などの精製糖、単糖類(ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖など)、二糖類(蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノースなど)、オリゴ糖類(フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガーなど)、糖アルコール類(エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール、オリゴ糖アルコール、粉末還元麦芽糖水飴)などのような糖質甘味料の他、天然非糖質甘味料(ステビア抽出物、カンゾウ抽出物等)や合成非糖質甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK等)のような高甘味度甘味料などの甘味料が挙げられる。
【0015】
飲料中における糖類は、甘味の付与に加え固形分として飲料に飲み応えを付与する役割を担っているため、飲料中の糖類含量の低減に伴い、飲料の濃厚感は大きく減少する傾向がある。乳成分及び甘味成分を含む一般的な乳入り飲料の糖類含量(本明細書中、成分(B)とも表記する)は7.0~11.0g/100g程度であるのに対し、本発明の乳入り飲料における糖類含量は、5.0g/100g以下と糖類含量を大きく低減しているため、通常であれば水っぽく薄い味となりやすい。さらに、100℃以上の加熱殺菌を施すことにより、乳入り飲料に求められる乳風味や濃厚感も通常であれば顕著に不足すると考えられる。しかし、本発明では、糖類含量を低減しながらも後述する特定量の成分(C)γ-アミノ酪酸を用いることにより、糖類含量が高い飲料と同程度もしくはそれ以上の濃厚感を備えた飲料を提供することができる。
【0016】
本発明の効果を享受しやすいという観点から、飲料中の糖類含量(B)は、4.0g/100g以下であることが好ましく、3.0g/100g以下であることがより好ましく、2.5g/100g以下であることがさらに好ましく、2.0g/100g以下であることが特に好ましい。
【0017】
本明細書において、「糖類含量(B)」は、単糖類及び二糖類の合計量をいうものとする。単糖類には、ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖などが含まれるが、これらに限定されない。好ましい単糖類は、ぶどう糖、果糖である。また、二糖類とは、2分子の単糖がグリコシド結合した糖類であり、蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノースなどが含まれるが、これらに限定されない。好ましい二糖類は、蔗糖、乳糖である。糖類含量、すなわち単糖類及び二糖類の含有量の測定はHPLCを用いて測定することができる。
【0018】
飲料の糖類含量を5.0g/100g以下に低減させながら飲料に甘味を与えるためには、糖類(単糖類及び二糖類)に代えて、オリゴ糖類、糖アルコール類、天然非糖質甘味料、高甘味度甘味料を使用する方法が挙げられる。中でも、本発明の効果の顕著さから、スクラロース、アセスルファムカリウム、及びステビア抽出物から選択される1種以上の甘味料を使用するのが好ましい。
【0019】
本明細書でいうスクラロースは、4,1’,6’-トリクロロガラクトスクロースを指し、蔗糖の約600倍の甘味を有する高甘味度甘味料である。本発明の飲料におけるスク
ラロースの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.0008~0.04g/100g、より好ましくは0.001~0.025g/100gである。
【0020】
本明細書でいうアセスルファムカリウムは、6-メチル-1,2,3-オキサチアジン-4(3H)-オン-2,2-ジオキシドのカリウム塩を指し、蔗糖の約200倍の甘味を有する高甘味度甘味料である。本発明の飲料におけるアセスルファムカリウムの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.0001~1g/100g、より好ましくは0.001~0.1g/100gである。なお、スクラロースやアセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料の濃度は、目的の物質に応じた高速液体クロマトグラフィーを用いた方法で定量できる。例えばアセスルファムカリウムであれば、「高甘味度甘味料 アセスル
ファムK」(太田静行ら、2002年発行、幸書房)に記載の方法で行うことが可能である。
【0021】
本明細書でいうステビア抽出物は、キク科植物ステビアレバウディアナベルトニー(Stevia rebaudiana BERTOI)(ステビアと略称する)の葉部から抽出されるものであり、蔗糖の約50~500倍の甘味を有する天然甘味料である。ステビア抽出物は、ステビオサイド(Stevioside)、ズルコシドA(Dulcoside-A)、レバウディオサイド(Rebaudioside、以下「Reb」とする。)A、RebB、RebC、RebD、RebF、RebMなどのステビオール配糖体やステビオール等の成分が含まれている。本発明の飲料にステビア抽出物を用いる場合、ステビオール配糖体を80質量%以上含有するものを用いる。本発明の飲料におけるステビア抽出物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.001~0.5g/100g、より好ましくは0.001~0.25g/100gである。飲料中のステビア抽出物の濃度は、ステビオール配糖体およびα―グルコシルステビオール配糖体の総量を第8版食品添加物公定書(日本食品添加物協会)に記載の方法で定量し、以下の式により算出できる。
【0022】
ステビア抽出物の濃度=(ステビオール配糖体及びα―グルコシルステビオール配糖体の総量)×1.25
(γ-アミノ酪酸)
本発明は、γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid, 以下「GABA」と略記する)(本明細書中、成分(C)とも表記する)を添加することにより加熱殺菌済みの乳入り飲料の濃厚感、特に糖類含量が低減された加熱殺菌済みの乳入り飲料の濃厚感を増強する。
【0023】
GABAは、野菜類、果物類、穀類、発酵食品等に幅広く含まれるアミノ酸の一種である。本発明に用いられるGABAとしては、特に限定されるものではなく、例えば野菜類、果物類、穀類などから抽出されたGABA、醗酵によって生産されたGABA、有機合成により得られたGABA等を用いることができる。飲料自体の香味への影響を最小限にして本発明の効果を享受するために、本発明の飲料に用いるGABAとしては、GABAを80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上含有するGABAの精製品を使用することが好ましい。精製品の形態としては、固体、水溶液、スラリー状など種々のものを用いることができる。市販されているGABAの精製品としては、GABA100%ピュアパウダー(NOW FOODS社)、オリザギャバエキスHC-90(オリザ油化社)などがある。
【0024】
本発明においては、飲料中のGABAの濃度が11mg/100g以上、好ましくは15mg/100g以上、さらに好ましくは20mg/100g以上、特に好ましくは25mg/100g以上となるように添加する。GABAの含有量が11mg/100gに満たない場合は、本発明の効果が十分に得られないことがある。また、GABAの含有量は70mg/100g以下が好ましく、65mg/100g以下がより好ましく、60mg/100g以下がさらに好ましい。GABAの含有量は、アミノ酸分析装置を用いて測定
することができる。
【0025】
GABAの添加方法は、特に制限されない。上述の加熱殺菌済飲料に対して所定量のGABAを添加してもよいし、加熱殺菌工程前の飲料調合液に予め所定量のGABAを添加しておいてもよい。
【0026】
(その他成分)
本発明の乳入り飲料は、脂肪(本明細書中、成分(D)とも表記する)を含有することが好ましい。脂肪は、乳成分由来の動物性脂肪、又はコーン油、オリーブ油などの植物性脂肪のいずれも使用することができる。飲料中の脂肪含量は、0.05~2.0g/100gが好ましく、0.1~1.0g/100gがより好ましい。脂肪含量の測定は、レーゼ・ゴットリーブ法に従って測定を行うことができる。
【0027】
常温で長期保存可能な加熱殺菌を行う乳入り飲料では、加熱殺菌時及び保存時の脂肪分離を抑制するために、脂肪球を微細化する均質化処理を行う。生乳の脂肪球の粒子径は約1~10μmであるが、加熱殺菌済飲料では、均質化処理によって、脂肪球の粒子径が約1μm以下程度にまで小さくなる。均質圧が高く、脂肪球の粒子径が小さくなるほど、乳の濃厚感は低減する。したがって、(D)脂肪を含み、均質化処理され、加熱殺菌処理された乳入り飲料は、通常であれば乳の濃厚感が非常に失われやすい飲料である。本発明により、このような飲料に対しても、乳の濃厚感を付与することができるという効果が得られる。均質化処理は、高圧ホモジナイザーなどの均質機を用いて行うことができる。均質化する際の圧力は、特に制限されないが、通常10~50MPa、好ましくは10~40MPa、さらに好ましくは10~30MPa程度である。均質化処理を行う際の温度としては、脂肪(油脂)の凝固点以上の温度を採用することができる。かかる均質化処理温度としては、30~70℃、好ましくは40~70℃の温度を挙げることができる。
【0028】
その他、本発明の飲料には、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲であれば、上記成分に加え、飲料に一般的に配合される成分、例えば、pH調整剤(重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなど)、酸化防止剤(エリソルビン酸ナトリウムなど)、酸味料、エキス類、香料、着色料、ビタミン、乳化剤、増粘安定剤等を適宜添加することができる。
【0029】
本発明の加熱殺菌済飲料は、通常容器詰めされている。容器の種類は特に限定されない。例えば、PETボトル、缶、瓶、紙容器等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0031】
実施例の飲料におけるたんぱく質含量の測定はケルダール法に、脂肪含量の測定はレーゼ・ゴットリーブ法に従って、それぞれ測定した。GABA含有量は、測定サンプルを採取して遠心分離した後、その上清を0.02Nの塩酸で処理したものを、0.45μmのフィルターをつけたシリンダを用いてろ過し、これを全自動アミノ酸分析装置(日本電子(株)社製、JLC-500/V)によって定量することにより測定した。また、糖類含量はH
PLC糖分析装置(Dionex社製)を用い、検量線法により単糖、二糖をそれぞれ定量して測定し、その合計量を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
・HPLC装置 : Agilent 1290series
・検出器 : ESA Corona Ultra
・移動相 : A液 水/メタノール=2.5/97.5
B液 アセトニトリル
・グラジェント条件: 0~4min B液 60%、10~11.5min B液 0%
・流速 : 1.2ml/min
・平衡化時間 : 5min
・カラム : 以下のカラムを2本直列で使用。
【0032】
上流側 Imtakt Unison UK-Amino HT 3μm 250×3mm
下流側 Imtakt Unison UK-Amino 3μm 250×3mm
・カラム温度 : 65℃
・注入量 : 2μL
実験例1 ミルク入りコーヒー飲料の調製(1)
焙煎度L値20のアラビカ種コーヒー豆を細挽きに粉砕した後、攪拌を行いながら、コーヒー豆の重量の約10倍の重量の90℃の熱水で、15分間抽出を行った。抽出終了後、市販の紙製の濾過フィルターで抽出液を濾過し、濾液を速やかに25℃以下程度まで冷却した。得られた焙煎コーヒー豆抽出液のBrixは2.3であった。このコーヒー豆抽出液と、適量の水と、表1に示す処方の甘味成分(蔗糖、アセスルファムカリウム)及びpH調整剤とを加えて完全に溶解させた後、乳成分(牛乳)、乳化剤、香料を加えて調合液とした(「調合液(未殺菌)」)。この調合液をホモゲナイズ処理(1次圧150kg/cm2、2次圧50kg/cm2)して均質化した(「調合液のホモゲナイズ処理液(未殺菌)」)。このホモゲナイズ処理液を、90℃に昇温後、190mL缶に充填し、レトルト殺菌(124℃、20分)を行い、容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み、pH6.3)を製造した。容器詰ミルク入りコーヒー飲料のたんぱく質含量は0.5g/100g、脂肪含量は0.6g/100g、糖類含量は2.6g/100gであった。
【0033】
【0034】
上記の調合液(未殺菌)、調合液のホモゲナイズ処理液(未殺菌)、及び容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済)について、専門パネル5名による官能評価を行った。パネルは、提示されたペアのうちどちらの飲料が濃厚感をより強く感じるか、2点識別試験により評価した。結果を表2に示す。濃厚感は、調合液>ホモゲナイズ処理液>容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済)の順に低下した。これより、容器詰ミルク入りコーヒー飲料の製造における均質化処理工程、加熱殺菌工程の各工程により濃厚感が低減することが示唆された。
【0035】
【0036】
実験例2 ミルク入りコーヒー飲料の調製(2)
GABAを配合すること以外は、実験例1と同様にして容器詰ミルク入りコーヒー飲料を製造した。具体的には、焙煎度L値20のアラビカ種コーヒー豆を細挽きに粉砕した後、攪拌を行いながら、コーヒー豆の重量の約10倍の重量の90℃の熱水で、15分間抽出を行った。抽出終了後、市販の紙製の濾過フィルターで抽出液を濾過し、濾液を速やかに25℃以下程度まで冷却した。このコーヒー抽出液(Brixは2.3)に表3に示すGABA(純度99%以上)を含む各種成分を加えて調合液とした。この調合液をホモゲナイズ処理(1次圧150kg/cm2、2次圧50kg/cm2)して均質化し、90℃に昇温後、190mL缶に充填し、レトルト殺菌(124℃、20分)を行い、容器詰ミルク入りコーヒー飲料(pH6.3)を製造した。容器詰ミルク入りコーヒー飲料のたんぱく質含量は0.5~0.6g/100g、脂肪含量は0.6g/100g、糖類含量は2.7g/100gであった。
【0037】
【0038】
得られた容器詰ミルク入りコーヒー飲料について、専門パネル5名による官能評価を行った。評価は、GABA無添加の実験例1の容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)を対照として、対照と濃厚感の強さに差がないものを「N」(no difference)、対
照よりも若干濃厚感が付与された飲料を「A」(a difference)、対照よりも大きく濃厚感が付与され、実験例1の調合液(未殺菌)の濃厚感に近い濃厚感を有するものを「B」(big difference)として、評価したパネルの人数をカウントした。
【0039】
結果を表4に示す。容器詰ミルク入りコーヒー飲料の場合も、GABA含有量が11~80mg/100gとなるようにGABAを添加することにより、濃厚感が付与されることが示された。特に、飲料中のGABA含有量が25mg/100g以上となるGABAを添加した場合には、パネルの半数以上が「B」(big difference)を選択し、明らかに濃厚感が強くなったと評価し、飲料を飲み込んだ後も乳風味や濃厚感を楽しむことができ
る飲料であるとコメントした。GABA0~80mg/100gの容器詰ミルク入りコーヒー飲料のうち、最も濃厚感が強いと感じるサンプルをブラインドテストしたところ、GABA含有量:70mg/100gが1人、GABA含有量:80mg/100gが4人であった。一方で、70mg/100gと80mg/100gとでは、パネル全員が濃厚感の強さに大差がないとも評価したことから、経済的観点も加味してGABAの上限は70mg/100g程度が好ましいことがわかった。
【0040】
【0041】
実験例3 ミルク入りコーヒー飲料の調製(3)
コーヒー豆として、焙煎度L値18のアラビカ種とロブスタ種を半量ずつ混合したブレンド豆を用いた。コーヒー豆を中挽きに粉砕した後、コーヒー豆の重量の約8倍の重量の95℃の熱水でドリップ抽出を行った。抽出終了後、市販の紙製の濾過フィルターで抽出液を濾過し、濾液を速やかに25℃以下程度まで冷却した。得られた焙煎コーヒー豆抽出液のBrixは3.8であった。このコーヒー豆抽出液に、表5に示す処方の各種甘味成分(蔗糖、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物;各調合液において甘味度が同等となるように甘味成分の種類に応じて濃度を変更した。)と、乳成分(牛乳)、pH調整剤、乳化剤、香料、及び水を加えて全量1000gとし、よく攪拌して完全に溶解させた。試料3-2、3-4、3-6には、それぞれ試料3-1、3-3、3-5の溶解液に50mg/100gの濃度となるようにγ-アミノ酪酸(GABA)(純度99%以上)を添加して溶解させた。これらの調合液(試料3-1~3-6)を65~70℃に昇温させ、高圧ホモジナイザーにて150kg/cm2の圧力で均質化した。このホモゲナイズ処理液を、90℃に昇温後、190mL缶に充填し、レトルト殺菌(122℃、30分)を行い、容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)を製造した。殺菌後のpHは6.4であった。なお、ステビア抽出物には、蔗糖の約200倍の甘味を有するステビア抽出物(ベルトロン90、ツルヤ化成工業社製)を用いた。
【0042】
【0043】
得られた容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)について、たんぱく質、脂肪、及び糖類含量を分析した。また、専門パネル5名による官能評価を行った。評価は、GABA無添加の容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)(試料3-1、3-3、3-5)を対照として、試料3-2、3-4、3-6のそれぞれについて対照と濃厚感の強さに差がないものを「N」(no difference)、対照よりも若干濃厚感が付与された飲
料を「A」(a difference)、対照よりも大きく濃厚感が付与された飲料を「B」(big difference)として、評価したパネルの人数をカウントした。
【0044】
表6に成分分析の結果を、表7に官能評価結果を示す。糖類含量が7.7g/100gである飲料ではGABA添加による濃厚感付与の効果がほとんど感じられないが、糖類含量が0.7g/100gである飲料ではGABA添加による濃厚感が顕著に付与され、試料3-4や試料3-6の濃厚感は、試料3-2と同程度の濃厚感であると評価された。
【0045】
【0046】
【0047】
実験例4 ミルク入りコーヒー飲料の調製(4)
実験例3のスクラロースとアセスルファムカリウムを配合した飲料(試料3-3)について、乳成分の牛乳を表8に示す全粉乳及び脱脂粉乳に変える以外は、実験例3と同様にして、容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)を製造した。試料4-2、4-4、4-6、4-8、4-10、4-12には、50mg/100gの濃度となるようにγ-アミノ酪酸(GABA)(純度99%以上)を添加して溶解させた。各飲料について、成分分析を行った。また、実験例3と同様にして専門パネル5名による官能評価を行った。
【0048】
表9に成分分析の結果を、表10に官能評価結果を示す。糖類含量が低い飲料では、GABA添加により乳風味や濃厚感が付与された。特に、試料4-1~4-4の結果から、飲料中の脂肪含量が0.05g/100g以上であると、より一層本発明の効果を確認しやすいことが示された。また、飲料中のたんぱく質含量が0.4g/100gの試料4-7及び4-8では、GABA添加による濃厚感付与の効果が顕著ではなかったことから、本発明の効果を享受するためには、たんぱく質含量は0.5g/100g以上であること
が示された。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
実験例5 ミルク入りコーヒー飲料の調製(5)
実験例3のスクラロースとアセスルファムカリウムを配合した飲料(試料3-3)、アセスルファムカリウムとステビア抽出物を配合した飲料(試料3-5)について、GABAの配合量を表11の処方に変える以外は、同様の方法で調合液を得、ホモジナイズ処理液を調製した。このホモゲナイズ処理液を、141℃、30秒にてプレート殺菌を行い、PET容器に充填し、容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)を製造した。殺菌後のpHは6.4であった。
【0053】
得られた容器詰ミルク入りコーヒー飲料(加熱殺菌済み)について、実験例3と同様にして専門パネル5名による官能評価を行った。結果を表11に示す。PET入りの容器詰ミルク入りコーヒー飲料においても、11~70mg/100gとなるようにGABAを添加することにより、濃厚感が付与されることが示された。
【0054】
【0055】
実験例6 ミルク入り紅茶飲料の調製
紅茶葉20gを600gの熱水(90℃)で、5分間抽出を行った。抽出終了後、メッシュで固液分離し、濾液を速やかに25℃以下まで冷却した後、遠心分離処理して紅茶抽出液を得た。この紅茶抽出液に表12に示す甘味成分(蔗糖、アセスルファムカリウム)、乳成分(牛乳、全粉乳、脱脂粉乳)、その他各種成分を加えて全量を1000gとし、高圧ホモジナイザーにて150kg/cm2の圧力で均質化した。このホモゲナイズ処理液を、141℃、30秒にてプレート殺菌を行い、PET容器に充填し、容器詰ミルク入り紅茶飲料(加熱殺菌済み)を製造した。殺菌後のpHは6.4であった。容器詰ミルク入り紅茶飲料のたんぱく質含量は0.9~1.0g/100g、脂肪含量は0.5g/100g、糖類含量は3.3g/100gであった。
【0056】
得られた容器詰ミルク入り紅茶飲料(加熱殺菌済み)について、実験例3と同様にして専門パネル5名による官能評価を行った。結果を表13に示す。容器詰ミルク入り紅茶飲料においても、11~70mg/100gとなるようにGABAを添加することにより、乳の濃厚感が付与されることが示された。
【0057】
【0058】
【0059】
実験例7 ミルク飲料の調製
表14に示す甘味成分(アセスルファムカリウム、スクラロース)、乳成分(全粉乳、脱脂粉乳、乳清たんぱく)、その他各種成分を加えて全量を1000gとし、よく攪拌して完全に溶解させ調合液とした。この調合液を65~70℃に昇温させ、高圧ホモジナイザーにて150kg/cm2の圧力で均質化した。このホモゲナイズ処理液を、90℃に昇温後、190mL缶に充填し、レトルト殺菌(122℃、30分)を行い、容器詰ミルク飲料(加熱殺菌済み)を製造した。殺菌後のpHは6.5であった。なお、乳清たんぱくには、ホエイたんぱく濃縮物(WPC/80、Nutra Food Ingredients, LLC)を用い
た。容器詰ミルク飲料のたんぱく質含量は7.5g/100g、脂肪含量は0.06g/100g、糖類含量は1.4g/100gであった。
【0060】
得られた容器詰ミルク飲料(加熱殺菌済み)について、実験例3と同様にして専門パネル5名による官能評価を行った。結果を表15に示す。容器詰ミルク飲料においても、11~70mg/100gとなるようにGABAを添加することにより、乳の濃厚感が付与
されることが示された。
【0061】
【0062】