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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】表面検査装置および表面検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/89 20060101AFI20220704BHJP
【FI】
G01N21/89 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018111749
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019215206
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】598142014
【氏名又は名称】長野オートメーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦人
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 瑛久
(72)【発明者】
【氏名】山浦 研弥
(72)【発明者】
【氏名】山浦 孝
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-200632(JP,A)
【文献】特開平11-118731(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029980(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/008067(WO,A1)
【文献】特開2010-243263(JP,A)
【文献】特開2017-167047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
G06T 7/00-7/90
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査面の異常を検出する表面検査装置であって、
検査光を被検査面に照射する光源と、
検査光で照射されている被検査面を所定の時間間隔で撮像し、画像データを記録するカメラと、
撮像された複数の画像データに亘って、被検査面の少なくとも一部が重複して記録されるように、前記カメラに対して被検査面を相対移動させる移動手段と、
前記カメラが記録した画像データを入力して時系列で保存し、前記画像データに対する演算処理を行う画像処理手段と、
を備えており、
前記画像処理手段が、
画像データに含まれる画素ごとの輝度値と標準の輝度値との差を欠陥特徴量として算出し、全ての画像データから、同一座標の画素ごとに前記欠陥特徴量を抽出して、時系列で配列して欠陥特徴量の時系列データとする時系列欠陥特徴量抽出部と、
欠陥特徴量の時系列データの標準偏差を算出し、それぞれの欠陥特徴量を欠陥特徴量の全座標で得られた標準偏差の最小値で除する正規化処理を行う正規化処理部と、
正規化処理後の欠陥特徴量の時系列データに加算平均法を適用し、累積演算処理することにより、所定のしきい値よりも欠陥特徴量の大きな領域を欠陥領域として抽出する欠陥領域抽出部と、
を備えていることを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
前画像処理手段が、被検査面の凹凸を検出するためのフィルタ処理部をさらに備えており、前記フィルタ処理部が、前記欠陥特徴量の時系列データから、前記欠陥特徴量が高い領域と低い領域とが連続して出現する領域を抽出することを特徴とする請求項1記載の表面検査装置。
【請求項3】
被検査面の異常を検出する表面検査方法であって、
光源から検査光を被検査面に照射する工程と、
検査光で照射されている被検査品の表面を所定の時間間隔でカメラにより撮像し、画像データを記録する工程と、
撮像された複数の画像データに亘って、被検査面の少なくとも一部が重複して記録されるように、前記カメラに対して被検査面を相対移動させる工程と、
前記カメラが記録した画像データを入力して時系列で保存し、前記画像データに対する演算処理を行う画像処理工程と、
を備えており、
前記画像処理工程が、
前記画像データに含まれる画素ごとの輝度値と標準の輝度値との差を欠陥特徴量として算出し、全ての画像データから同一座標の画素ごとに前記欠陥特徴量を抽出し、抽出した欠陥特徴量を画素毎に時系列で配列して欠陥特徴量の時系列データを作成し、前記欠陥特徴量の時系列データの標準偏差を算出し、前記欠陥特徴量を前記欠陥特徴量の全座標について得られた標準偏差の最小値で除する正規化処理を行い、正規化処理後の欠陥特徴量の時系列データに加算平均法を適用し、累積演算処理することにより、所定のしきい値よりも欠陥特徴量の大きな領域を欠陥領域として抽出することを特徴とする表面検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面検査装置および表面検査方法に関する。特に、粗面である検査品の被検査面に生じている異常を高精度に検査して抽出する表面検査装置及び表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の外観を検査する方法として、作業者による目視検査が普及している。しかし、樹脂、木質、金属、ゴム、石材などの粗面を目視で検査する場合、鏡面を検査する場合と比較すると、疵、凹凸、付着物、色むら等の微小な欠陥を見落とす可能性が、潜在している。このため、カメラによって検査対象の面を撮像し、得られた画像データを演算処理することによって欠陥を検出する技術の検討が、種々なされている。
【0003】
特許文献1は、鋼材の表面検査装置及び表面検査方法を開示している。特許文献1の表面検査は、
カラーラインカメラと棒状照明で構成された光学系を用いてRGBカラー画像を撮像し、画像処理により鋼板の凹凸を顕在化して表面を検査する。特許文献1の技術は、疵、刻印、文字、マーキングの検出に適しているが、粗面の欠陥検出としては最適化されていない。
【0004】
発明者らは、被検体の凹凸を検出するための画像処理技術を用いた表面検査装置および表面検査方法を発明し、特許文献2に開示した。特許文献2の表面検査装置および表面検査方法は、カメラで撮像した画像データに基づいて測定点の面法線ベクトルを算出する。さらに、局所領域において対角位置にある算定点と基準点を定めて面法線ベクトルの内積値を算出し、指標値とする。測定領域の各座標に対応する指標値を特定した後、基準範囲から外れた指標値に対応する座標位置を被検出体の凹凸位置として検出している。特許文献2の技術は、面法線ベクトルの算出のために複数の照明を用いた撮像を行っており、リアルタイムの検査に適用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-161331号公報
【文献】特開2018-36175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被検査面が粗面であった場合であっても、そこに存在する疵、凹凸、付着物、色むら等の微小な欠陥を精度高く検出する技術が求められている。本発明は、この課題に鑑みてなされたものであって、物品表面の異常の有無を精度高く検査して、異常を抽出することのできる表面検査装置および表面検査方法の提供を、解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被検査面の異常を検出する表面検査装置に関する。本発明の表面検査装置は、検査光を被検査面に照射する光源と、検査光で照射されている被検査面を所定の時間間隔で撮像し、画像データを記録するカメラと、撮像された複数の画像データに亘って、被検査面の少なくとも一部が重複して記録されるように、カメラに対して被検査面を相対移動させる移動手段と、カメラが記録した画像データを入力して時系列で保存し、画像データに対する演算処理を行う画像処理手段と、を備えている。本発明の表面検査装置の画像処理手段は、画像データに含まれる画素ごとの輝度値と標準の輝度値との差を欠陥特徴量として算出し、全ての画像データから、同一座標の画素ごとに欠陥特徴量を抽出して、時系列で配列して欠陥特徴量の時系列データとする時系列欠陥特徴量抽出部と、欠陥特徴量の時系列データの標準偏差を算出し、それぞれの欠陥特徴量を欠陥特徴量の全座標で得られた標準偏差の最小値で除する正規化処理を行う正規化処理部と、正規化処理後の欠陥特徴量の時系列データに加算平均法を適用して演算処理することにより、所定のしきい値よりも欠陥特徴量の大きな領域を欠陥領域として抽出する欠陥領域抽出部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の表面検査装置の画像処理手段は、被検査面の凹凸を検出するためのフィルタ処理部をさらに備えており、フィルタ処理部が、欠陥特徴量の時系列データから、欠陥特徴量が高い領域と低い領域とが連続して出現する領域を抽出することが好ましい。
【0009】
本発明はまた、被検査面の異常を検出する表面検査方法を提供する。本発明の表面検査方法は、光源から検査光を被検査面に照射する工程と、検査光で照射されている被検査品の表面を所定の時間間隔でカメラにより撮像し、画像データを記録する工程と、撮像された複数の画像データに亘って、被検査面の少なくとも一部が重複して記録されるように、カメラに対して被検査面を相対移動させる工程と、カメラが記録した画像データを入力して時系列で保存し、画像データに対する演算処理を行う画像処理工程と、を備えている。本発明の表面検査方法は、画像処理工程が、画像データに含まれる画素ごとの輝度値と標準の輝度値との差を欠陥特徴量として算出し、全ての画像データから同一座標の画素ごとに欠陥特徴量を抽出し、抽出した欠陥特徴量を画素毎に時系列で配列して欠陥特徴量の時系列データを作成し、欠陥特徴量の時系列データの標準偏差を算出し、それぞれの欠陥特徴量を欠陥特徴量の全座標について得られた標準偏差の最小値で除する正規化処理を行い、正規化処理後の欠陥特徴量の時系列データに加算平均法を適用して所定のしきい値よりも欠陥特徴量の大きな領域を欠陥領域として抽出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面検査装置及び表面検査方法は、多種多様な材料で構成された物品の表面を検査して、微小な輝度変化を生じさせる欠陥や異常のある箇所を精度高く抽出することができる。
【0011】
本発明の表面検査装置及び表面検査方法は、従来は検出が困難であった微小な欠陥の検出が可能となる。このため、製品検査に適用した場合には、作業者の負担を増やすことなく異常のある製品を精度高く選別する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】表面検査装置の好適な実施形態を模式的に示す図である。
図2】表面検査装置の他の実施形態を模式的に示す図である。
図3】表面検査方法の概要を示すフローチャートである。
図4】カメラが撮像する画像データの構成を模式的に示す図である。
図5】画素ごとの輝度値の時系列データの一例である。
図6図6(a)及び図6(b)は、撮像時刻ごとの画像フレーム内の輝度値の変化を模式的に示す図である。
図7図7(a)は画素の輝度値の時系列データを示し、図7(b)は欠陥特徴量の時系列データを示す図である。
図8図8(a)は画素の欠陥特徴量の時系列データの重ね合わせを行ったグラフであり、図8(b)は、時系列データの平均値と1つの画素の時系列データを比較のために重ねた図である。
図9図9は、3点の画素の時系列データを積算した結果を示した図である。
図10図10は、光源に対して凹凸を有する欠陥領域が示す輝度値の変化を示す図である。
図11図11は、凸状欠陥を検出するためのリングフィルタのデータ内容を示す図である。
図12図12(a)は、凹凸を有する欠陥領域を撮像した輝度の時系列データを示す図であり、図12(b)は、凸状の欠陥領域を抽出した結果を示す図である。
図13図13は、空間フィルタリング処理の手順を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の表面検査装置1及びこの表面検査装置を用いた表面検査方法の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に述べる。
【0014】
本発明の表面検査装置1は、粗面の検査に、特に適している。本明細書における粗面とは、入射する検査光の波長の半分よりも表面の凹凸の高低差が大きく、一般に鏡面と言われる表面よりも拡散反射率が有意に大きな面のことをいう。
【0015】
図1に、表面検査装置1の好適な実施形態を示す。図1は、円筒形の物品10の内側の被検査面11の異常を検出する表面検査装置1を示している。表面検査装置1は、検査光を物品10の被検査面11に検査光を照射する光源2と、検査光で照射されている被検査面11を所定の時間間隔で撮像し、画像データを記録するカメラ3と、カメラ3に対して被検査面11を相対移動させる移動手段4と、カメラ3が記録した画像データを入力して時系列で保存し、画像データに対する演算処理を行う画像処理手段5と、を備えている。
【0016】
本実施形態において、光源2は、物品10の内側に固定されており、物品10の被検査面11を検査光で照射する。被検査面11の反射光の軌道上にビームスプリッタ6が配置されている。カメラ3が、物品10の中心軸の延長上に固定されており、カメラ3はビームスプリッタ6を通過した反射光を撮像する。
【0017】
非常に軽微な凹凸欠陥から生じる輝度変化を確実に検出するためには、従来の8bitカメラでは不充分な場合がある。そのような場合、カメラ3に、高階調カメラである18bitカメラを適用することが好ましい。粗面である被検査面11の凹凸欠陥は軽微になるほど輝度変化が小さくなるが、18bitカメラでは、輝度を262144階調で撮像して記録することができ、非常に軽微な凹凸欠陥から生じる微小な輝度変化を記録して、より高精度に異常を検出することができる。
【0018】
以下では、カメラ3が、縦方向にA個、横方向にR個の二次元配列された撮像素子を備えている場合について説明する。カメラ3は、1回の撮像によって1フレームあたりA行R列からなる画素値を取得し、解像度R×Aの画像データとして記録する。カメラ3は、所定の時間間隔tで撮像を継続し、それぞれの画素の輝度値のデータを記録する。
【0019】
移動手段4は、物品10の中心軸が鉛直方向となるように支持し、物品10を中心軸周りに回転させる。これにより、移動手段4は、中心軸の延長上に固定されているカメラ3に対して、物品10を相対移動させる。図4に、カメラが撮像する画像データの構成を模式的に示す。カメラ3が撮像する画像データの座標は、図中垂直方向と記載した縦軸(A)が、物品10の中心軸方向である鉛直方向と一致しており、横軸(R)が物品10の回転方向と一致している。ただし、本実施形態で示した画像の方向と被検査面11との位置関係は、特許請求の範囲を限定するものではない。カメラ3と物品10の相対的な位置関係を変更することによって、画像の方向を任意に定めることが可能である。
【0020】
物品10の回転速度は、カメラ3が撮像する複数の画像データに亘って、被検査面11の少なくとも一部が重複して記録されるように制御される。言い換えると、カメラ3による撮像間隔である時間tの間に物品10が移動する距離は、カメラ3の横方向の有効画面サイズよりも小さい。好ましくは、連続する3フレーム以上の画像データに、被検査面11の同一箇所が記録されるように、物品10の回転速度が制御される。
【0021】
本実施形態では、画像データを取得する時間間隔と移動距離との関係をより明確に示すために、移動手段4が物品10の回転速度を一定に制御している場合について説明を行う。回転速度が一定すなわち等速であると、画像データのフレーム数を撮像時刻の指標として用いることができ、撮像回数と画像に撮像されている被検査面11の位置の関係を容易に把握することができる。一方で、特に精度高く検査する部分について移動速度を遅くすれば、より多くの画像に同一の領域が撮像されるため、検査の精度を向上させることができる。
【0022】
カメラ3に、画像処理手段5として機能するコンピュータが接続されている。画像処理手段5は、カメラ3が記録した画像データを入力して時系列で保存し、画像データに対する演算処理を行う。
【0023】
表面検査装置1を用いた表面検査方法の一例をフローチャートとして図3に示す。表面検査装置1の移動手段4は、カメラ3に対して物品10の被検査面11を相対移動させる(ステップS1)。カメラ3は、所定の時間間隔で被検査面11を撮像して画像データを得る(ステップS2)。画像処理手段5は、カメラ3が記録した画像データを入力して、輝度値を画像中の座標とフレーム数に基づく時系列のボクセルデータとして保存する(ステップS3)。そして、画素ごとの輝度値と標準の輝度値との差を算出して欠陥特徴量とし、全ての画像データから、同一座標の画素ごとに欠陥特徴量を抽出し、時系列で配列して欠陥特徴量の時系列データとする(ステップS4)。欠陥特徴量を正規化するために、欠陥特徴量の時系列データの標準偏差を算出し、個々の欠陥特徴量を欠陥特徴量の全座標で得られた標準偏差の最小値で除す(ステップS5)。欠陥領域の抽出のために、正規化処理後の欠陥特徴量の時系列データに加算平均法を適用し、累積演算処理することにより、所定のしきい値よりも欠陥特徴量の大きな領域を欠陥領域として検出する(ステップS6)。
【0024】
以下、画像処理手段5が欠陥領域を検出するための画像処理方法について、詳細に説明する。被検査面11の欠陥領域の検出は、撮像された被検査面11の輝度値の変化を用いて、欠陥領域特有の欠陥特徴量を検出することによって高精度に行うことができる。
【0025】
画像処理手段5の時系列欠陥特徴量抽出部は、カメラ3から1回の撮像につき1枚の画像フレーム分の画像データを入力される。画像処理手段5は、画像データを構成している全ての画素の輝度値を、画素の座標値と撮像時刻の情報によって三次元配列し、ボクセルデータL(r,a,t)として記録する(ステップS3)。ここで、rは画像データの横軸の座標であり、aは画像データの縦軸の座標であり、tは撮像時刻に対応する撮像開始からのフレーム数である。図5に、画像処理手段5が保存している画像データの中の、任意の3画素(r,a)、(r,a)、(r,a)の輝度値を、時系列で抽出した結果を示す。以下においては、同一画素の輝度値を撮像時刻順に並べた配列を、輝度値の時系列データとも言う。
【0026】
画素(r,a)に記録される被検査面11の輝度は、カメラ3に対する被検査面11の面の向きによって変化する。本実施形態の物品10は円筒形であるので、疵、凹凸、等のない正常な被検査面11の法線方向は、常に物品10の中心を向くこととなる。一方、被検査面11上の異常箇所は、微細な領域であっても面の法線が異なる方向を向く。したがって、異常箇所である欠陥領域と正常箇所である良品領域とでは反射光の角度が異なり、測定される輝度に差が生じる。そこで、画素ごとの輝度値と標準の輝度値との差を、対応する被検査面11の欠陥特徴量として用いることができる。
【0027】
画像処理手段5の時系列欠陥特徴量抽出部は、ステップS4で、それぞれの画像フレームについて、全ての画素の欠陥特徴量D(r,a,t)を以下の式(1)によって算出する。
【数1】


ここで、L(r,a,t)はtフレーム目で撮像された画像フレームの座標(r,a)における輝度値であり、Q(r,a)は標準の輝度値である。
【0028】
標準の輝度値Q(r,a)としては、正常箇所である良品領域を撮像した画素の輝度値を用いることが最も正確である。しかし、通常の工業製品において、異常が生じる頻度は非常に低く、欠陥領域は正常領域よりも極めて少ない。この結果、画素値として記録される時系列の輝度値の中に、欠陥領域から生じる輝度値が含まれる頻度も非常に低い。また、実際の輝度値にはカメラノイズが含まれているが、カメラノイズは平均0のガウスノイズと仮定することができ、最も出現頻度の高いノイズ値は0である。そこで、全ての画像フレームから同一画素の輝度値を抽出して、その中央値(Median(L(r,a)))を標準の輝度値Q(r,a)として用いることも可能である。
【0029】
画像処理手段5の時系列欠陥特徴量抽出部は、全ての画像フレームの画素の欠陥特徴量D(r,a,t)を算出する。そして、全ての画像フレームから同一座標の画素ごとの欠陥特徴量D(r,a,t)を抽出し、時系列で配列して、欠陥特徴量の時系列データとして記憶する。
【0030】
画像処理手段5の正規化処理部は、ステップS4で抽出した欠陥特徴量から、照明強度の変化を除去するための正規化を行う。輝度値には、カメラノイズεが含まれており、欠陥特徴量D(r,a,t)と、カメラノイズを含んだ撮像結果に基づく欠陥特徴量D(r,a,t)の関係が、式(2)で表される。
【数2】
【0031】
ここで、画素(r,a)のtフレーム目が欠陥領域を撮像していない場合、D(r,a,t)の値は0である。この場合、式(2)のD(r,a,t)にはノイズ成分しか含まれない。すなわち、画素(r,a)の欠陥特徴量の時系列データの標準偏差は、フレームが欠陥領域を撮像していないときに最小となる。式(3)で示すように、検出結果に基づく欠陥特徴量D(r,a,t)を、欠陥特徴量の全座標で得られた標準偏差の最小値min(Σ)で除することにより、正規化処理を行った欠陥特徴量Dstd(r,a,t)が得られる。
【数3】
【0032】
画像処理手段5の欠陥特徴量抽出部は、正規化処理を行った欠陥特徴量DSTDに加算平均法を適用し、累積演算処理することにより、所定のしきい値よりも欠陥特徴量の大きな領域を欠陥領域として抽出する(ステップS7)。加算平均法を適用することで、正規化処理後のDstd(r,a,t)に含まれるカメラノイズを除去することができる。
【0033】
ここで、正規化処理を行った欠陥特徴量DSTD(r,a,t)には、式(4)に示されるように平均0,分散1のカメラノイズεstdが含まれている。
【数4】

式(4)について、両辺の期待値を計算すると、式(5)が得られる。
【数5】
【0034】
ここで、E(DSTD(r,a,t))は、正規化された平均輝度変化である。式(5)において、第2項のE(εstd)は、平均0のガウスノイズであるため、平均数が充分であるとき、値は0となる。つまり、複数回計測された輝度値の時系列データを用いることで、カメラノイズを充分に除去して、高精度に欠陥領域を抽出することが可能となる。
【0035】
加算平均法は複数回の計測で得られた系列データを平均することで、系列データに含まれる固定パターンを取り出す手法である。本実施形態では、物品10の回転方向に沿って複数の撮像素子が個別に撮像を行って輝度値を記録しているため、個々の撮像素子によって得られた輝度値の時系列データに加算平均法を適用することができる。本実施形態では、縦軸方向で同一の座標値を有しており且つ横軸方向で異なる座標値を有する複数の画素の時系列データは全て、被検査面11の同一の領域を移動速度に対応した時間差で撮像していると考えられるので、これらの画素から得られた時系列データに対して加算平均法を適用することができる。
【0036】
図6(a)は、欠陥領域を含む被検査面11を所定の時刻tで撮像した画像データと、この画像データから均等な時間間隔で2回連続して撮像を行った結果得られた画像データを示す図である。図中の白色部分は、欠陥で生じた輝度変化を模式的に示している。図のように、r方向に物品が回転してカメラ3に対して相対移動することで、欠陥領域である輝度変化も画像データ内でr方向に移動して撮像される。このとき、3点の画素の輝度値は、図6(b)に示すように、時間の経過と共に順次変化を示す。画素値ごとの輝度値の変化は、被検査面11の同一の欠陥領域を撮像しているものであり、それぞれの画素でほぼ同一の波形として観測される。
【0037】
画像の横軸方向(r方向)の画素で観測された輝度の時系列データのシフト幅が特定できれば、輝度の時系列データを時間軸に沿ってシフト(平行移動)させることで、同一パターンをもつ時系列輝度を得ることができる。そして、得られた複数の時系列輝度に対して加算平均法を適用することで、欠陥領域成分のみを抽出することができる。
【0038】
さらに、本発明の表面検査装置1は、凹凸形状を有する欠陥領域を検出するフィルタ処理部を備えることができる。フィルタ処理部は画像処理手段5に含まれており、画像処理手段5がステップS5で抽出した欠陥特徴量の時系列データから、欠陥特徴量が高い領域と低い領域とが連続して出願する領域を抽出する。
【0039】
被検査面11からの反射光の輝度は、光源2と被検査面11の面の法線方向によって一意に決定される。図10のように、光源2を設置した環境下で凹凸形状欠陥を撮像すると、光源2の光を直接照射されて輝度値の高い領域(Bright領域)と、陰になるために輝度が低い領域(Dark領域)とが連続して撮像される。この性質を利用し、図11で示すような、行列中心から円状に値が分布しており、上半分の行が正値(+1)、中央の行が0、下半分の行が負値(-1)である行列で定義されるリングフィルタでフィルタ処理を行うことで、凹凸形状を有する欠陥特徴を抽出することができる。
【0040】
本実施形態のリングフィルタは、空間フィルタリング処理を行うためのフィルタである。空間フィルタリング処理とは、図13に示したように、ある2次元データに対して2次元形状のフィルタを重ね合わせ、重なった要素同士で積算を行い、さらにそれらの積算結果を総和する演算を行うことである。本実施形態のリングフィルタは、平均加算法によってa方向の画素で得られた系列データ群を結合した2次元データに対して適用される。この2次元データにおいても、凹凸形状が存在する場合には、図10のような正値と負値のパターンが観測される。リングフィルタはフィルタ原点に対して上半分が正値、下半分が負値のとき、大きな値を出力する。そのため、図10における正値と負値の境界において大きな出力がされるため、凹凸形状を有する欠陥特徴を抽出することができる。
【0041】
本発明の表面検査装置は、円筒形の物品の内面を検査するだけでなく、任意の物品の粗面である表面の検査に適している。図2に、本発明の他の実施形態である、表面検査装置21を示す。本実施形態は、平板状の物品12の上面の被検査面13の異常を検出する。表面検査装置21は、検査光を物品12の被検査面13に検査光を照射する光源2と、検査光で照射されている被検査面13を所定の時間間隔で撮像し、画像データを記録する、好ましくは18bitカメラであるカメラ3と、カメラ3に対して被検査面11を相対移動させる移動手段22とを備えている。移動手段22は、物品12の底面を支持し、カメラ3が有している直交座標系のいずれかの軸と平行になる方向に物品12を相対移動させる。表面検査装置21の画像処理手段5は、表面検査装置1と同一の構成を有しており、重複説明を割愛する。
【実施例
【0042】
(実施例1)
表面検査装置1を用いた表面検査方法により、物品10の被検査面11の欠陥領域を抽出した結果を、図7図9に示す。図7(a)は、縦軸(A軸)方向で同一の座標値aを有しており且つ横軸(R軸)方向で異なる座標値r0,r1,r2を有する3点の画素(r0,a)、(r1,a)、(r2,a)が検出した輝度値の時系列データである。図7(b)は、図7(a)に示した3点の画素の欠陥特徴量の時系列データを示している。図7(b)で示したように、欠陥特徴量を算出することで、欠陥領域と推定される以外の領域、すなわち良品領域は、欠陥特徴量の値がほぼ0となる。だたし、図7(b)に示した欠陥特徴量には、照明の影響やカメラノイズが含まれている。
【0043】
図8(a)は、3点の画素(r0,a)、(r1,a)、(r2,a)の欠陥特徴量の時系列データの重ね合わせを行ったグラフである。ここでは、画素(r1,a)の撮像時刻を基準として、物品10の移動速度に基づいて、画素(r0,a)の時系列データと画素(r2,a)の時系列データを対象に、同一の欠陥領域が撮像されると推定される時間差分を移動させて重ね合わせを行っている。重ね合わせの結果、欠陥特徴量の値の分布は、3点ともほぼ同一となった。図8(a)の結果から、異なる画素で観測される欠陥特徴が重ねあわせて演算処理できることが確認された。重ねた3点の時系列データをサンプル方向にそれぞれ積算した結果を図9に示す。この結果より、欠陥による変化幅に比べてノイズによる振動が抑制されていることがわかる。さらに、この系列に対してサンプル数で除して求めた平均時系列データと画素(r1、a)で観測された時系列データを重ねた結果を図8(b)に示す。この比較から、平均加算法を適用することでノイズによる振動を抑制できることを確認した。
【0044】
図8および図9の結果から、欠陥特徴量に対して、正規化処理と加算平均法を適用することにより、ノイズによる振動が低減され、被検査面11の欠陥領域が精度高く抽出できたことが確認された。
【0045】
(実施例2)
画像処理手段5に含まれフィルタ処理部を用いて、被検査面の凹凸を精度高く検出する例について説明する。表面検査装置1のカメラ3は、被検査面の撮像を行って画像データを記録した。画像処理手段の時系列欠陥特徴量抽出部は、欠陥特徴量の時系列データを記録した。例として、横軸(R軸)方向の座標が一定で、且つ縦軸(A軸)方向の座標が0から150までの範囲の画素における輝度値と撮像時間との関係を図12(a)に示す。図12(a)では、良品領域と比較して輝度値の高いところを白色で示しており、輝度値の低い領域を暗色で示している。図に示すように、輝度及び欠陥特徴量の時系列データからは、a=74を中心とした領域で、時刻146前後の画像データから、輝度変化が確認された。
【0046】
欠陥特徴量の時系列データに対して、正規化を行い、さらに加算平均法を適用して、輝度の変化を確認した。さらに、図11に示したリングフィルタをを用いた空間フィルタリング処理を二次元欠陥特徴量全体に適用した。フィルタ処理後の欠陥特徴量を、図12(b)に示す。図12(b)に示したように、輝度の変化として、a=74,時刻146の明らかな輝度変化が認められた箇所以外にもa=74,時刻146に凹凸状の欠陥領域が検出された。検査後の確認により、時刻146の時a=74で撮像された箇所に、緩やかな勾配を有する欠陥が生じたことが確認された。このことから、リングフィルタを用いる手法によって、目視では確認が困難である凹凸欠陥の検出が可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の表面検査装置及び表面検査方法は、樹脂、木質、金属、ゴム、石材などの粗面に生じている、疵、凹凸、付着物、色むら等の微小な異常を欠陥領域として精度高く検出する場合に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1、21 表面検査装置
2 光源
3 カメラ
4、22 移動手段
5 画像処理装置
6 ビームスプリッタ
10 物品
11 検査面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13