(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】ローラチェーン
(51)【国際特許分類】
F16G 13/06 20060101AFI20220704BHJP
F16G 13/02 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
F16G13/06 B
F16G13/06 C
F16G13/02 D
(21)【出願番号】P 2017078713
(22)【出願日】2017-04-12
【審査請求日】2020-04-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000143260
【氏名又は名称】株式会社江沼チヱン製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090712
【氏名又は名称】松田 忠秋
(72)【発明者】
【氏名】西野 俊明
(72)【発明者】
【氏名】南 日出臣
(72)【発明者】
【氏名】野崎 克人
【合議体】
【審判長】平瀬 知明
【審判官】間中 耕治
【審判官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-101248(JP,U)
【文献】特開2014-25526(JP,A)
【文献】特開2009-210017(JP,A)
【文献】特開2010-78067(JP,A)
【文献】特開2009-36274(JP,A)
【文献】特開2010-270774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/02
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン、ブシュを介して屈曲自在に連結する内プレート、外プレートと、前記ブシュを介して前記内プレートの間に装着するローラと、前記内プレートの外面側に突出する前記ブシュの先端部を介して前記内プレート、外プレートの間に介装するシールリングとを備えてなり、前記外プレートは、両端部の各ピン孔と同心円状の内面側の凹部、外面側の凸部を形成し、前記凹部の内部形状、前記凸部の外部形状を同形同大の円錐台形に揃えるとともに前記凹部の底面、前記凸部の上面を前記ピン孔より大きく形成し、前記凹部には、前記ブシュの先端部とともに前記シールリングを収納することを特徴とするローラチェーン。
【請求項2】
前記凹部の底面から前記凸部の上面までの厚さを前記外プレートの板厚に合わせることを特徴とする請求項1記載のローラチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外プレートの重量を増加させることなく剛性を高め、性能の向上を図ることができるローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
ローラチェーンは、外プレートと内プレートとの間にシールリングを介装し、ピンとブシュとの摺動面に付与する潤滑油をシールしてシールチェーンとすることにより耐久性を向上させることができる。なお、シールリングは、内プレートの外面側に突出するブシュの先端部を介して内プレート、外プレートの間に介装するのが普通である(特許文献1、2、
図8(A))。
【0003】
なお、
図8(A)において、内プレート11、11、外プレート12、12は、ピン13、ブシュ14を介して交互に屈曲自在に連結されている。また、ローラ15は、ブシュ14を介して内プレート11、11の間に回転自在に装着されており、シールリング16は、内プレート11の外面側に突出するブシュ14の先端部を介して内プレート11、外プレート12の間に介装されている。ただし、シールリング16は、図示のOリング状のものの他、断面X形などの各種のリップシール状のものが知られている(たとえば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-240062号公報
【文献】特開2004-183695号公報
【文献】特開2012-247014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、ブシュ14の先端部が内プレート11、11の外面側に突出しているため、ピン13を長くする必要があり、チェーンの張力によりピン13に負荷される曲げモーメントが大きくなってピン13が弾性的に曲り易く(
図8(B))、ピン13の曲げ変形に伴って外プレート12が外向きに撓み、ブシュ14が内プレート11、11の外面側に突出しない通常のノンシール形のローラチェーン(
図8(C))に比してチェーンの弾性伸びが増大しがちである上、シールリング16の潰し代が不安定となって耐久性を損うおそれがあるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、外プレートの両端部のピン孔と同心円状の凹部、凸部を形成することによって、チェーンの弾性伸びを効果的に抑制して性能向上を図ることができるローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1の発明の構成は、ピン、ブシュを介して屈曲自在に連結する内プレート、外プレートと、ブシュを介して内プレートの間に装着するローラと、内プレートの外面側に突出するブシュの先端部を介して内プレート、外プレートの間に介装するシールリングとを備えてなり、外プレートは、両端部の各ピン孔と同心円状の内面側の凹部、外面側の凸部を形成し、凹部の内部形状、凸部の外部形状を同形同大の円錐台形に揃えるとともに凹部の底面、凸部の上面をピン孔より大きく形成し、凹部には、ブシュの先端部とともにシールリングを収納することをその要旨とする。
【0008】
なお、凹部の底面から凸部の上面までの厚さを外プレートの板厚に合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
かかる請求項1の発明の構成によるときは、外プレートは、各ピン孔と同心円状の内面側の凹部、外面側の凸部を形成することにより、重量を増加させることなく剛性を増大させることができ、ブシュの先端部を内プレートの外面側に突出させてピンが長くなっても、ピンの弾性的な曲りや、それに伴う外プレートの撓みを小さく抑え、チェーンの弾性伸びを効果的に抑制するとともに、シールリングの耐久性が損われるおそれを最少にすることができる。なお、凹部の内部形状、凸部の外部形状を揃えて両者の体積を同一にすると、たとえばプレスによる塑性加工により、凹部、凸部を一挙に効率よく形成することができる。また、凹部の底面から凸部の上面までの厚さを凹部以外の部分の板厚に合わせることにより、外プレートの全体強度を損うおそれがない。
【0013】
凹部は、シールリングを所定の潰し代に潰して収納することにより、良好なシール性を実現することができる。なお、外プレートは、所定の摺動用の最少間隙を介して凹部以外の部分の内面側を内プレートの外面側に対面させることにより、凹部内のシールリングを適切に潰すことができる。ただし、凹部の深さは、内リンクの外面側に突出するブシュの先端部や、所定の潰し代に潰してシールリングを収納し得る限り、板厚の1/5ないし1/2に設定することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図5】他の実施の形態を示す
図1の横断面相当説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0019】
ローラチェーンは、外プレート12の両端部の各ピン孔12aのまわりに、ピン孔12aと同心円状の内面側の凹部12b、外面側の凸部12cを形成してなる(
図1、
図2)。ただし、
図2(A)~(C)は、それぞれ外プレート12の外面側の斜視図、正面図、ピン孔12aの中心を通る横断面図である。
【0020】
ローラチェーンは、ピン13、ブシュ14を介して内プレート11、11、外プレート12、12を交互に屈曲自在に連結するとともに、ブシュ14を介して内プレート11、11の間にローラ15を回転自在に装着して構成されている。ブシュ14の先端部は、それぞれ内プレート11の外面側に突出しており、内プレート11、外プレート12の間には、内プレート11の外面側に突出するブシュ14の先端部を介して弾性材のシールリング16が介装されている。ただし、ブシュ14の先端部のまわりのシールリング16は、ブシュ14の先端部とともに外プレート12の内面側の凹部12bに収納されており、凹部12b内において、内プレート11の外面、凹部12bの底面に挟まれて所定の潰し代となるように弾発的に潰されている。なお、シールリング16は、図示のOリング状に代えて、各種のリップシール状としてもよい。
【0021】
外プレート12の凹部12bの内部形状、凸部12cの外部形状は、前者の内周、後者の外周をそれぞれ斜めに面取りして実質的に同形同大の低い円錐台形に揃えられている(
図2(C))。また、凹部12bの底面から凸部12cの上面までの厚さta は、外プレート12の板厚tに合わせてta ≒tに設定され、凹部12bの深さdは、ブシュ14の先端部、シールリング16を適切に収納し得る限り、d=t/5~t/2に設定されている。
【0022】
かかるローラチェーンの弾性伸び試験結果の一例を
図3に示す。
【0023】
図3の縦軸、横軸は、それぞれチェーンの張力T(kN)、弾性伸びδ(%)である。また、
図3の曲線(1)は、
図1のローラチェーンに対応し、曲線(2)、(3)は、それぞれ
図8(A)の従来のシールチェーン、
図8(C)の通常のノンシール形のローラチェーンに対応する。
図8(A)の従来のシールチェーンの曲線(2)は、
図8(C)の通常のローラチェーンの曲線(3)を下まわるが、
図1のローラチェーンの曲線(1)は、通常のローラチェーンの曲線(3)を上まわり、弾性伸びが効果的に抑制されていることが分かる。
【0024】
また、外プレート12の撓み試験結果の一例を
図4に示す。ただし、
図4(A)は、外プレート12の撓みβの測定箇所を示す
図8(B)の要部拡大説明図であり、ピン13の曲り、外プレート12の撓みを実線、二点鎖線で示す。また、
図4(B)の縦軸、横軸は、それぞれ外プレート12の撓みβ(mm)、チェーンの張力T(kN)であり、
図4(B)の曲線(1)~(3)は、それぞれ
図3の曲線(1)~(3)に対応している。
【0025】
図4(B)によれば、
図8(C)の通常のローラチェーンでは、外プレート12の撓みが最も小さく(曲線(3))、
図8(A)の従来のシールチェーンでは、外プレート12の撓みが最も大きい(曲線(2))。一方、
図1のローラチェーンでは、これらの中間の撓みである(曲線(1))。
図1、
図2のように、外プレート12の各ピン孔12aのまわりに凹部12b、凸部12cを形成すると、外プレート12の剛性が増大するため、ピン13の曲りが抑制されて外プレート12の撓みが少なくなる上、外プレート12自体の弾性伸びも小さく抑えられ、チェーン全体としての弾性伸びを最も小さく抑えることができる(
図3)。ただし、
図3、
図4は、出願人会社の標準ローラチェーンEK50相当のチェーンを使用して
図1、
図8(A)、(C)の各形態の供試チェーンを試験し、それぞれについて実測データをプロットした。
【0026】
なお、外プレート12の凹部12bに収納するシールリング16は、万一破断しても外部に落下するおそれが少なく、たとえば無給油のステンレスチェーンとして食品製造ラインなどに使用する用途に殊に好適に適用することができる。
【他の実施の形態】
【0027】
図1のローラチェーンは、たとえば各外プレート12の上縁にアタッチメント17を付設するアタッチメントチェーンとしてもよい(
図5(A))。
【0028】
アタッチメントチェーンは、通常のノンシール形のローラチェーンにより普通に構成されているが(
図5(B))、これを従来のシールチェーンに適用すると(
図5(C))、アタッチメント17、17の取付穴位置a、aがそれぞれ内プレート11の外面側へのブシュ14の先端部の突出量c相当だけ変化してしまい、アタッチメント17、17に取り付ける搬送用のキャリヤなどの部材について、通常のローラチェーンとの互換性が失われてしまう。これに対し、
図1のローラチェーンは、
図5(A)に示すように、アタッチメント17、17の取付穴位置a、aが
図5(B)の通常のローラチェーンのそれと変わることがなく、互換性を維持することができる。ただし、
図5において、符号bは、内プレート11、外プレート12の摺動用の最少間隙である。
【0029】
ローラチェーンは、シールリング16、16を省略してノンシール形に構成することができる(
図6)。ただし、
図6において、内プレート11、11の外面側に突出するブシュ14の先端部は、かしめて抜止めされ、外プレート12の内面側の凹部12bに収納されている。各ピン孔12aのまわりの凹部12b、凸部12cにより外プレート12の剛性を高めることができ、モトクロス用チェーンなどとして一層苛酷な用途に好適に適応させることができる。
【0030】
ローラチェーンは、外プレート12の各ピン孔12aのまわりの凸部12cを内面側にし、凹部12bを外面側にして構成することができる(
図7)。なお、内面側の凸部12cは、ブシュ14の外径に合わせてほぼ同径に形成され、内プレート11の外面側に突出するブシュ14の先端に摺接している。また、シールリング16は、凸部12cと、ブシュ14の先端部とを介して内プレート11、外プレート12の間に介装されている。外プレート12の内面側の凸部12c、外面側の凹部12bは、前述と同様にして外プレート12の剛性を増大させ、前述と同様の効果を奏することができる。
【0031】
なお、
図6に倣って、
図7においても、シールリング16を省略してノンシール形のローラチェーンを構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明は、外プレートの各ピン孔のまわりに凹部、凸部を形成するだけでチェーンの性能の向上を図ることができ、伝動用、搬送用などのあらゆる用途に広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
11…内プレート
12…外プレート
12a…ピン孔
12b…凹部
12c…凸部
13…ピン
14…ブシュ
15…ローラ
16…シールリング
特許出願人 株式会社 江沼チヱン製作所