(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】ワイヤーグリッパー及び物品吊り下げシステム
(51)【国際特許分類】
F16G 11/10 20060101AFI20220704BHJP
【FI】
F16G11/10 A
(21)【出願番号】P 2018106699
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2021-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月6日~9日、第47回店舗総合見本市「HOP 2018」にて、荒川均が発明した「ワイヤーグリッパー及び物品吊り下げシステム」を展示
(73)【特許権者】
【識別番号】502381195
【氏名又は名称】有限会社 エー・ジー・ケー
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】荒川 均
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】実公昭59-29168(JP,Y2)
【文献】実開平6-58260(JP,U)
【文献】特開平10-38034(JP,A)
【文献】仏国特許発明第2032201(FR,A)
【文献】特開2009-204082(JP,A)
【文献】実公平3-19128(JP,Y2)
【文献】特開2005-265117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤー(W)が挿通されるワイヤー通し孔(10m・110m)、並びに、該ワイヤー通し孔及びスリーブ外面(10g・110g)の双方に開口する複数のボールセット孔(10d・110d)、を有する内スリーブ(10・110)と、
前記ボールセット孔(10d・110d)に嵌合するとともに、前記ワイヤー通し孔(10m・110m)に一部突出して前記ワイヤー(W)の外周面に押し当てられて前記ワイヤーを挟持する複数のボール(30・130)と、
前記ボールを内方向に押すテーパ内周面(20p・120p)を有する外スリーブ(20・120
・220・320)と、
該外スリーブに対して前記内スリーブ(10・110)を前記テーパ内周面(20p・120p)のつぼまり方向に付勢するスプリング(40・140)と、 を具備
し、
前記ワイヤーの任意の位置に係止可能な、吊り下げ対象品を任意の位置(高さ)に吊り下げるワイヤーグリッパー(1・101
・201・301)であって、
前記外スリーブは、円筒状であって、内部に中空部(20q・120q)が形成されており、該中空部の下端は、内凸しているリング凸部(20w・120w)、及び、その内面の開口(20x・120x)となっており、
前記外スリーブは、前記吊り下げ対象品の荷重がかかる部位(20b・120b・220h・320z)を有しており、(0027)
前記外スリーブ(20・120
・220・320)が
、前記リング凸部及び前記吊り下げ対象品の荷重がかかる部位を含めて一体物であって、
前記スプリング(40・140)が、前記内スリーブ(10・110)に当接する径小部(40b・140b)、及び、前記外スリーブの前記リング凸部(20w・120w)の上面(20t)に当接する径大部(40j・140j)を有し、
前記外スリーブの前記中空部(20q・120q)の前記
リング凸部(20w・120w)の内面の開口(20x・120x)
を、前記ボール(30・130)と前記内スリーブ(10・110)の組立体が通
過可能であることを特徴とするワイヤーグリッパー(1・101
・201・301)。
【請求項2】
前記ワイヤーグリッパー(1)は、前記内スリーブ(10)を前記外スリーブ(20)から引き出す方向に移動させることにより、前記ワイヤー(W)への係止を解除するものであり、
前記内スリーブ(10)の端部に、該内スリーブ(10)を引くツマミ部(10v)が、一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤーグリッパー。
【請求項3】
前記スプリング(40・140)が
、前記径大部
(40j・140j)がつぼ
まると、前記外スリーブ(20・120)の前記開口(20x・120x)を通過して前記中空部(20q・120q)内に組み込
み可能であり、
前記スプリングが前記中空部内に組み込まれた状態で、前記径大
部が前記中空
部内において拡径していることを特徴とする請求項1又は2記載のワイヤーグリッパー。
【請求項4】
前記内スリーブ(10)と前記外スリーブ開口(20x)の間が開いていて、前記内スリーブ(10)が首振り可能であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のワイヤーグリッパー。
【請求項5】
前記外スリーブ(20・120)
の前記開口(20x・120x)の反対側の端面(20b・120b)
が、前記
吊り下げ対象品(80・180)の重量を受けることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載のワイヤーグリッパー。
【請求項6】
前記外スリーブ(20・120)が、
前記吊り下げ対象品(80・180)に埋没することを特徴とする請求項5記載のワイヤーグリッパー。
【請求項7】
ワイヤー(W)と、
該ワイヤーの任意の位置に係止可能な請求項1~6いずれか1項記載のワイヤーグリッパー(1・101・201・301)と、
該ワイヤーグリッパーに保持される
吊り下げ対象品(80・180・280・380)と、
を備えることを特徴とする物品吊り下げシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーの任意の位置に係止可能なワイヤーグリッパーに関する。特には、小型で目立たないことを極限まで追求したワイヤーグリッパーに関する。また、そのワイヤーグリッパーを使用してオブジェや棚などの吊り下げ対象品(ワーク)を任意の位置(高さ)に吊り下げる物品吊り下げシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、ワイヤーの任意の位置に係止可能なワイヤーグリッパーを使用して棚などを吊り下げるシステムを開発している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載のワイヤーグリッパーは優れたものであるが、さらに小型化が求められている。本発明は、小型化に適したワイヤーグリッパーを提供することを目的とする。さらには、グリッパー自体が見えにくい物品吊り下げシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この「課題を解決するための手段」の項、及び、「特許請求の範囲」においては、添付図各部の参照符号を括弧書きして示すが、これは単に参考のためであって、権利範囲を添付図のものに限定する意図はない。
【0006】
本発明のワイヤーグリッパー(1・101)は、 ワイヤー(W)が挿通されるワイヤー通し孔(10m・110m)、並びに、該ワイヤー通し孔及びスリーブ外面(10g・110g)の双方に開口する複数のボールセット孔(10d・110d)、を有する内スリーブ(10・110)と、 前記ボールセット孔(10d・110d)に嵌合するとともに、前記ワイヤー通し孔(10m・110m)に一部突出して前記ワイヤー(W)の外周面に押し当てられて前記ワイヤーを挟持する複数のボール(30・130)と、 前記ボールを内方向に押すテーパ内周面(20p・120p)を有する外スリーブ(20・120)と、 該外スリーブに対して前記内スリーブ(10・110)を前記テーパ内周面(20p・120p)のつぼまり方向に付勢するスプリング(40・140)と、 を具備し、 前記外スリーブ(20・120)が一体物であって、 前記外スリーブの中空部(20q・120q)の端部に、前記ボール(30・130)と前記内スリーブ(10・110)の組立体が通る開口(20x・120x)が形成されていることを特徴とする。
【0007】
特許文献1のワイヤーグリッパーでは、外スリーブが、外スリーブ本体と留め具とをネジで組立てたものである。また、内スリーブとそれを操作するツマミも、ネジで組立てたものである。そして、スプリングは、留め具と内スリーブとの間に架け渡されている。これらのネジ組立て部分は、加工や組立作業の制約があって、小型化は困難を伴う。本発明では、極力、部材を一体化し、小型化の障害を克服することに努めた。その結果、特許文献1の対応品では、径14mm×高さ20mmであった製品寸法が、本発明の実施形態対応品では、径7mm×高さ11mmと、ほぼ半分の寸法(体積では七分の一)とすることが可能になった。
【0008】
なお、「一体物」とは、もともと一体物の素材を、切削加工や塑性加工などにより最終形状品に成形した物の他に、溶接や接着などにより、付加的な部分を基本となる物に付加した物も含む意味である。
【0009】
本発明においては、後述する
図1~3のグリッパー(1)ように、内スリーブ(10)を外スリーブ(20)から引き出す方向に移動させることにより、グリッパー(1)のワイヤー(W)への係止を解除するものであってもよい。その逆に、
図4~7のグリッパー(101)ように、内スリーブ(110)を外スリーブ(120)に押し込むことにより、グリッパー(101)のワイヤー(W)への係止を解除するものであってもよい。なお、内スリーブ(10)を引き出して係止解除するタイプのものは、内スリーブ(10)が外スリーブ内(20)に押し込まれる方向の力がかかっても、グリップ力が解除されることはない。したがって、吊る対象物(ワーク80)を壁の前面に沿って吊るす場合など、ワイヤーを斜め方向に延ばす必要がある場合にも、グリッパーから直接ワイヤーを斜め方向に延ばすことができる。
【0010】
本発明のグリッパーにおいては、前記スプリング(40・140)が、前記内スリーブ(10・110)に当接する径小部(40b・140b)、及び、前記外スリーブ(20・120)に当接する径大部(40j・140j)を有し、 該径大部をつぼめて前記外スリーブ(20・120)の前記開口(20x・120x)を通過して前記中空部(20q・120q)内に組み込まれた後に、前記径大部(40j・140j)が前記中空部(20q・120q)内において拡径しているものとできる。
【0011】
本発明のグリッパーにおいては、内スリーブ(10)の端部に、該内スリーブ(10)を引くツマミ部(10v)が、一体に形成されているものとできる。この場合、さらに、小型化と部品数低減に有利である。
【0012】
本発明のグリッパーにおいては、前記内スリーブ(10)と前記外スリーブ開口(20x)の間が開いていて、前記内スリーブ(10)が首振り可能とすることができる。この場合、
図2(A)において想像線で示すように、外スリーブ(20)に対してワイヤーWが斜めになったときに、内スリーブ(10)が首を振ることにより、グリッパー(1)におけるワイヤーの曲がり(曲げ応力)を緩和できる。
【0013】
本発明のグリッパーにおいては、前記外スリーブ(20・120)が、吊る対象物であるワーク(80・180)に埋没し、前記開口(20x・120x)の反対側の端面(20b・120b)が前記ワーク(80・180)の重量を受けるものとすることができる。この場合、グリッパーのツマミを除くほとんど全ての部分はワークに挿入され、ワークから露出している部分は内スリーブの一部のみとなるので、さらに見栄えがよくなる。
【0014】
本発明の物品吊り下げシステムは、 ワイヤー(W)と、 該ワイヤーの任意の位置に係止可能な上記ワイヤーグリッパー(1・101・201・301)と、 該ワイヤーグリッパーに保持されるワーク(80・180・280・380)と、 を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、小型化に適したワイヤーグリッパーを提供することができる。さらには、グリッパー自体が見えにくい物品吊り下げシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第一の実施の形態に係るワイヤーグリッパーの正面断面図である。
【
図2】
図1のワイヤーグリッパーの作用を示す正面断面図であって、(A)はグリップ状態であり、(B)はグリップ解除状態である。
【
図3】
図1・2のワイヤーグリッパーを用いて展示物をワイヤーに吊り下げた状態を示す正面断面図である。
【
図4】本発明の第二の実施の形態に係るワイヤーグリッパーの正面断面図である。(A)はグリップ状態であり、(B)はグリップ解除状態である。
【
図5】
図4のワイヤーグリッパーを用いて展示物をワイヤーに吊り下げた状態を示す正面断面図である。
【
図6】第二の実施の形態に係るワイヤーグリッパーの変形例1の正面断面図である。
【
図7】第二の実施の形態に係るワイヤーグリッパーの変形例2の正面断面図である。
【符号の説明】
【0017】
W;ワイヤー、F1・F2;指、1;ワイヤーグリッパー10;内スリーブ、10c;上端面、10d;ボールセット孔、10g;上部(スリーブ外面)、
10j;段部下面、10m;ワイヤー通し孔、10p;中部、10r;湾曲絞り部、10v;ツマミ部
20;外スリーブ、20b;端面、20f;上中央開口、20g;リング凸部、20j;上部、
20p;テーパ内周面、20q;中空部、20r;下部、20t;上面、20w;リング凸部、20x;開口
30;ボール
40;スプリング、40b;上端部(径小部)、40j;下端部(径大部)
80;展示物(ワーク・オブジェ)、80b;ワイヤー挿通孔、80f;円錐面、80h;凹部(穴)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第一の実施の形態について、
図1や
図2を参照しながら説明する。
図1に示すワイヤーグリッパー1は、内スリーブ10と、内スリーブ10を収容する中空部20qを有する外スリーブ20と、外スリーブ20に対して内スリーブ10を付勢するスプリング40と、を有する。
【0019】
内スリーブ10の中心軸上には、ワイヤーW(
図2参照、ワイヤー径は例えば1mm)が通されるワイヤー通し孔10mが形成されている。内スリーブ10の外面は、上から順に、ボールセット孔10dが開口している上部10g、その下の円筒状の中部10p、その下の湾曲絞り部10r、下端のツマミ部10vとなっている。なお、本明細書における上・下・上下などの方向表現は、地球重力の方向に限定して解釈されるものではない。この実施形態の内スリーブ10は、上述の上部10gからツマミ部10vまで一体物である(この点が特徴の一つ)。内スリーブ10は、一例で、真鍮棒の機械加工品である。
【0020】
内スリーブ上部10gには、同部の外周面と、上記ワイヤー通し孔10mとに開口する、ボールセット孔10dが形成されている。同孔10dは、図上では、対向する二つの孔として描かれているが、実際は、120°間隔で、周上に3か所開いている。ボールセット孔10dは、ワイヤー通し孔10mの孔軸の直交方向(径方向)に延びている。各ボールセット孔10dには、ボール30が嵌合している。各孔10dの径は、各ボールの径にプラスαした寸法である。ボール30は各孔10d内で回転可能であり、孔軸方向に移動可能である。また、各孔10dの長さはボール30の径より短い。
【0021】
外スリーブ20は、円筒状であり、その中心軸を貫通する中空部20qが形成されている。中空部20qの内周面は、上から下に、ストレートな上部20j、下に行くほど径の広がるテーパ状の中部(テーパ内周面20p)、径大のストレートな下部20rとなっている。中空部20qの最下端は、少し内凸しているリング凸部20wとその内面の開口20xとなっている。中空部20qの上端部には、内側にリング凸部20gが張り出している。この実施形態の外スリーブ20は、上述の上端リング凸部20gから最下端のリング凸部20wまで一体物である(この点が特徴の一つ)。外スリーブ20は、一例で、真鍮棒の機械加工品である。
【0022】
本実施形態のワイヤーグリッパー1では、内スリーブ10の上端面10cは、外スリーブ20の上端のリング凸部20gの下面に当接している。内スリーブ10のツマミ部10v、及び、湾曲絞り部10rの下部は、外スリーブ20の下端から突き出している。この突き出している部分を指の爪で摘まんで操作できる(
図2(B)を参照しつつ後述)。
【0023】
スプリング40は、下ほど径大のスカート状(円錐台形)である。スプリング40は、外スリーブ20の中空部20qの内部において、スリーブ10の中部10p及び湾曲絞り部10rの外周域に配置されている。スプリング40の径小の上端部40bは、内スリーブ10の上部10gと中部10pとの境目である段部下面10jに当接している。一方、スプリング40の径大の下端部40jは、外スリーブ20の下端のリング凸部20wの上面20tに当接している。
【0024】
このスプリング40は、グリッパー1に組み込まれた状態で、圧縮状態(押し勝手)である。そして、内スリーブ10を外スリーブ20に対して上方(テーパ内周面20pの窄まる方向)に付勢している。なお、内スリーブ10の上端面10cは、外スリーブ20の上端のリング凸部20gに当たって、内スリーブ10の抜け止めとなっている。このとき、内スリーブ10の各ボールセット孔10d内に嵌合している各ボール30は、外側の面が、外スリーブ20のテーパ内周面20pの上部に接しうる状態である。
【0025】
この実施形態のワイヤーグリッパー1を組立てる際には、ボール30と内スリーブ10の組立体を、外スリーブ20の下端部の開口20xを通して、外スリーブ20の中空部20q内に入れる。その後、スプリング40を、その径大部40jをつぼめて、外スリーブ20の上記開口20xを通し、外スリーブ20の中空部20q内に入れて拡径させる。
【0026】
次に、このワイヤーグリッパー1の作用について、
図2(A)及び(B)を参照して説明する。
図2(A)はグリッパー1がワイヤーWに固定されている状態(グリップ状態)であり、
図2(B)は固定(グリップ)を解除されてグリッパー1が上下に動ける状態である。
【0027】
図2(A)では、ワイヤーWが、外スリーブ20の上中央開口20fと、内スリーブ10のワイヤー通し孔10mを通っている。内スリーブ10は上方向に付勢されており、ボール30は、その内側面がワイヤーWに当たり、外側面は外スリーブ20のテーパ内周面20pに当たっている。そして、展示物(
図3の符号80参照)の荷重は、図中に矢印で示すように、外スリーブ20の上面にかかっている。このとき、外スリーブ20及びそのテーパ内周面20pは下がろうとしている状態であり、同面20pはボール30を内側、すなわちワイヤーWに食い込む方向に強く押している。そのため、ワイヤーグリッパー1は、しっかりとワイヤーWの現状の位置に固定されている。
【0028】
図2(A)の状態に至る前の、ワイヤーグリッパー1をワイヤーWに取り付ける際(荷重はまだかかっていない)は、ワイヤーWを外スリーブ20の上中央開口20fから下に入れて、内スリーブ10のワイヤー通し孔10mに挿入する。ワイヤーWがワイヤー通し孔10m内をボールセット孔10dまで進むと、各ボール30がワイヤーWの先端で下方に押され、各ボール30とともに内スリーブ10がスプリング40の付勢力に抗して下方に押される。すると、内スリーブ10が下がって、ボール30が、外スリーブ20のテーパ内周面20pのテーパの広がっている部分にきて、ボール30の外面とテーパ内周面20pとの間にスキマができ(
図2(B)と同様)、各ボール30が外方向へ移動可能となってワイヤー通し孔10mが開き、ワイヤーWが同孔10mを貫通可能となる。
【0029】
さらにワイヤーWをグリッパー1に挿入すると、各ボール30はワイヤーWと噛み合って摩擦によって下方に押され、各ボール30とともに内スリーブ10も下方に押され続ける。これにより、ワイヤー通し孔10mが開き続けて、ワイヤーWはワイヤー通し孔10m内を挿通する。言い換えれば、グリッパー1がワイヤーWに沿って上方に移動する。こうしてグリッパー1をワイヤーWの所望の位置まで移動させた後に手を離した状態では、内スリーブ10がスプリング40で上方に付勢される。そして、内スリーブ10の各ボールセット孔10d内のボール30は、外スリーブ20のテーパ内周面20pによって内方向に押されてワイヤーに押し付けられ、ワイヤーが3個のボール30に挟まれてグリップされる(
図2(A)の状態)。
【0030】
グリップ力を解除するには、
図2(B)に示すように、内スリーブ10下端部のツマミブ部10vを指F1・F2の爪でつまみ、内スリーブ10を、スプリング40の付勢力に抗して下方に引く。すると、内スリーブ10のボールセット孔10dが、外スリーブ20のテーパ内周面20pの径が広い部分に動き、ボール30を内側に押す力が消失し、ボール30の内面とワイヤーWとの間にスキマが開き得る状態となる。この状態で、ワイヤーグリッパー1及び展示物(
図3の符号80参照)を上下に動かすことができる。
【0031】
ツマミブ部10vを引く力を解除すると、内スリーブ10はスプリング40で付勢されて、
図2(A)の状態になり、テーパ内周面20pで押し付けられたボール30によってワイヤーWがグリップされる。
【0032】
次に、
図3を参照しつつ、本実施形態のワイヤーグリッパー1を使用して、展示物をワイヤーに吊り下げた状態を説明する。この例では展示物は、球形のオブジェ80である。オブジェ80には、その下部に、グリッパー1の外スリーブ20を、そっくり収容する凹部(穴)80hが形成されている。この凹部80hの上方には、ワイヤー挿通孔80bが、オブジェ80の上面に抜けるように貫通している。凹部80hの上端部は、中央が高い円錐面80fとなっている。
【0033】
オブジェ80を吊り下げる手順を説明する。凹部80hの下方からグリッパー1を差し込み、その外スリーブ20の上面20bの端部が、凹部80hの上端の円錐面80fに当たる。そして、ワイヤーWをオブジェ80のワイヤー挿通孔80bからグリッパー1のワイヤー通し孔10mに通す。このグリッパー1をオブジェ80に取り付けた状態では、外スリーブ20はすっぽりと凹部80hに収容されて、ほとんど見えない。内スリーブ10のツマミ部10vは、オブジェ80の下面から下に出ている。しかし、ツマミ部10vは小さいので、ほとんど目立たない。
【0034】
こうしてワイヤーグリッパー1にオブジェ80が吊るされた状態では、オブジェ80が載っている外スリーブ20は自重によって下方向に引っ張られる。言い換えれば、内スリーブ10は、相対的に外スリーブ20に対して上方へ動く。つまり、内スリーブ10は、外スリーブ20のテーパ内周面20pが狭まる方向に動き、ボール30を内方向に押す力が強くなる。つまり、ワイヤーグリッパー1に物品が吊るされることによって、グリップ力はさらに強くなる。
【0035】
また、
図3に示すように、ワイヤーグリッパー1のほとんど全ての部分はオブジェ80の内に挿入されており、オブジェ80から露出している部分は、内スリーブ10の下部の一部及びツマミブ部10vの部分のみである。特にオブジェ80の上面にはどの部分も露出しておらず、ワイヤーWが延びているのみである。したがって、見栄えがよい。
【0036】
オブジェ80の高さを変える場合は、
図2(C)に示すように、ツマミブ部10vをつまんで下に引いてグリップ力を解除し、オブジェ80をグリッパー1とともに所望の高さにスライドさせた後、ツマミブ部10vを下に引く力を離す。
【0037】
次に第二実施形態のワイヤーグリッパー101について説明する。
図4は、本発明の第二の実施の形態に係るワイヤーグリッパーの正面断面図である。(A)はグリップ状態であり、(B)はグリップ解除状態である。
図5は、
図4のワイヤーグリッパーを用いて展示物をワイヤーに吊り下げた状態を示す正面断面図である。
図4・5において、
図1~3の符号に100を加えて示す符号は、同様の部品・部位を指す。
【0038】
この第二実施形態のワイヤーグリッパー101は、内スリーブ110を外スリーブ120の中に押し込んでグリップを解除するタイプである。内スリーブ110のボールセット孔110dの上方には、立ち上がり部110bが延び上がっており、その上端部が操作部110aとなっている。操作部110aを下に押して、
図4(B)のように、内スリーブ110を外スリーブ120内に押し下げると、ボール130が、テーパ内周面120pの広い部位に下がって、ボール130は外側に移動可能になる。すると、ボール130のワイヤーWへの食い込みがなくなって、グリップが解除される。
【0039】
図5に示す吊り下げ物(ワーク180)は、パイプ状のものである。ワーク180の上部には、孔180xが開いており、この孔180xに内スリーブ110の操作部110aの下の部分が入り込んでいる。ワーク180の孔180xの下縁部は、外スリーブ120の上端120bに載っており、これにより、ワーク180はグリッパー101に吊り下げられている。なお、グリッパー101をワーク(パイプ)180の中に入れるための孔180xが、ワーク180の下部に開いている。
【0040】
図5の例では、操作部110aが、あまりワーク180の上に出ていないため、同操作部110aを下に押し込みにくいともいえる。しかし、一度グリッパー101の位置を決めてしまうと、あまり位置を変えないような使用形態もある。その場合は、かえって、操作部110aを動かしにくいほうが、不意のグリッパー動作を避けられて好ましい。なお、操作部110aを押し込む棒などを使えば、操作部110aは押し込み操作可能である。
【0041】
図6は、変形例1のワイヤーグリッパー201で、ワーク(棚板)280を吊っている状態を示す図である。このグリッパー201は、外スリーブ220の外周面にオネジ220hが形成されている。ワーク280にはメネジ280vが切られており、これにグリッパーのオネジ220hをネジ込んで、ワーク280をグリッパー201に吊るす。外スリーブ220の上端のフランジ部220cは、この例では、ワーク280のメネジ280vや、外スリーブ220のオネジ220hを隠して、美観を保つ役割をしている。なお、外スリーブ220やオネジ220hを長くして、ワーク280の下面に出し、そこでオネジにナット(図示されず)をネジ込んで、ワーク220を挟持することもできる。
【0042】
図7は、変形例2のワイヤーグリッパー301で、ワーク(棚板)380を吊っている状態を示す図である。このグリッパー301は、外スリーブ320の下端部の外周に張り出すフランジ部320z(外スリーブ320と一体)を有している。このフランジ部320zの上にワーク380を載せて、ワーク380をグリッパー301で吊るす。
【0043】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形・追加を加えることができる。