(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】多能性幹細胞及びその分化したT細胞と使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220704BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220704BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220704BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20220704BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220704BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0735
C12N5/0783
C12N15/85 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020535615
(86)(22)【出願日】2018-01-11
(86)【国際出願番号】 CN2018072254
(87)【国際公開番号】W WO2019127664
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】201711490483.8
(32)【優先日】2017-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514321264
【氏名又は名称】中国科学院広州生物医薬与健康研究院
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU INSTITUTES OF BIOMEDICINE AND HEALTH,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】190 Kai Yuan Avenue,Science Park Guangzhou,Guangdong 510530(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】王 金勇
(72)【発明者】
【氏名】郭 栄群
(72)【発明者】
【氏名】張 梦雲
(72)【発明者】
【氏名】劉 麗娟
(72)【発明者】
【氏名】劉 暁飛
(72)【発明者】
【氏名】呂 ▲スイ▼
(72)【発明者】
【氏名】杜 ▲ケン▼
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513974(JP,A)
【文献】国際公開第2017/070333(WO,A1)
【文献】Cell Research,Vol.30,2020年,p.21-33
【文献】Nature,Vol.545,2017年05月,p.432-438, Supplementary Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)Runx1とHoxa9とのタンデム発現ベクターを多能性幹細胞に組込み、耐性スクリーニングを行うステップと、
(2)D0培地、D2.5培地、D3培地、D4培地、D5培地、D6培地、およびD7培地を順に用いてステップ(1)に記載の多能性幹細胞を培養し、造血幹細胞前駆細胞へ指向性分化するステップと、
(3)ステップ(2)に記載の造血幹細胞前駆細胞とOP9-DL1細胞と共培養し、T系列のプロジェニターを取得するステップと、
(4)ステップ(3)に記載のT系列のプロジェニターをT細胞に分化するように誘導するステップと、
を含み、
前記D0培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4を含む基礎分化培地であり、
前記D2.5培地は、3~8ng/mLのアクチビンAおよび3~8ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D3培地は、3~8ng/mLのアクチビンA、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4、および3~8ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D4培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4および3~8ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D5培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4、3~8ng/mLの血管内皮増殖因子、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、10~30ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、10~30ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、および10~30ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンドを含む基礎分化培地であり、
前記D6培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4、3~8ng/mLの血管内皮増殖因子、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、10~30ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、10~30ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、10~30ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド、および1~2μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地であり、
前記D7培地は、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、10~30ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、10~30ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、10~30ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド、および1~2μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地であり、且つ、
前記基礎分化培地は、10~20%のウシ胎仔血清、180~220μg/mLの鉄飽和トランスフェリン、4.5×10
-4Mのチオグリセロール、1~3mMの
L-アラニル-L-グルタミンジペプチド、0.4~0.6mMのアスコルビン酸を含むIMDM培地である、ことを特徴とする多能性幹細胞を用いてT細胞を指向性分化する方法。
【請求項2】
ステップ(1)に記載のRunx1とHoxa9とのタンデム発現ベクターを多能性幹細胞のRosa26部位に組込む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(1)に記載の多能性幹細胞は、遺伝子編集後の誘導性多能性幹細胞および/または胚性多能性幹細胞株である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(1)に記載の組込みの方法は、相同組換え、CRISPR/Cas9、TALEN、トランスフェクション、またはウイルス感染のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップ(1)に記載の耐性スクリーニングはハイグロマイシンBを採用する、ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記D0培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4を含む基礎分化培地であり、
前記D2.5培地は、5ng/mLのアクチビンAおよび5ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D3培地は、5ng/mLのアクチビンA、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、および5ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D4培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4および5ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D5培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、5ng/mLの血管内皮増殖因子、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、および20ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンドを含む基礎分化培地であり、
前記D6培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、5ng/mLの血管内皮増殖因子、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、20ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド、および1μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地であり、
前記D7培地は、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、20ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド、および1μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地であり、
前記基礎分化培地は、15%のウシ胎仔血清、200μg/mLの鉄飽和トランスフェリン、4.5×10
-4Mのチオグリセロール、2mMの
L-アラニル-L-グルタミンジペプチド、0.5mMのアスコルビン酸を含むIMDM培地である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップ(3)に記載の共培養過程において、ドキシサイクリンを用いて誘導する、ことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップ(4)に記載のT細胞は、CD3
+T細胞である、ことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞は、TCRβ細胞および/またはTCRγ/δ細胞である、ことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記多能性幹細胞を用いてT細胞を指向性分化する方法は、
(1)Runx1とHoxa9とのタンデム発現ベクターを遺伝子組換えにより多能性幹細胞のRosa26部位に組込み、ハイグロマイシンBを用いて耐性スクリーニングを行うステップと、
(2)D0培地、D2.5培地、D3培地、D4培地、D5培地、D6培地、およびD7培地を順に用いてステップ(1)に記載の多能性幹細胞を培養し、11日目に造血幹細胞前駆細胞に指向性分化させるステップと、
(3)ステップ(2)に記載の造血幹細胞前駆細胞とOP9-DL1細胞とを共培養し、ドキシサイクリンを用いて誘導し、T系列のプロジェニターを取得するステップと、
(4)ステップ(3)に記載のT系列のプロジェニターを、TCRβ細胞および/またはTCRγ/δ細胞であるT細胞に分化するように誘導するステップと、
を含み、
前記D0培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4を含む基礎分化培地であり、
前記D2.5培地は、5ng/mLのアクチビンAおよび5ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D3培地は、5ng/mLのアクチビンA、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、および5ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D4培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4および5ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地であり、
前記D5培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、5ng/mLの血管内皮増殖因子、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、および20ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンドを含む基礎分化培地であり、
前記D6培地は、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、5ng/mLの血管内皮増殖因子、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、20ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド、および1μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地であり、
前記D7培地は、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、20ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド、および1μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地であり、
前記基礎分化培地は、15%のウシ胎仔血清、200μg/mLの鉄飽和トランスフェリン、4.5×10
-4Mのチオグリセロール、2mMの
L-アラニル-L-グルタミンジペプチド、0.5mMのアスコルビン酸を含むIMDM培地である、ことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬生物工程の技術分野に関し、多能性幹細胞及びその分化したT細胞と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞(pluripotent stem cells、PSCs)は、無限増殖能を有し、分化して異なる系の細胞組織を形成し、遺伝子修飾しやすい細胞であり、現在の幹細胞研究のホットスポットである。患者自体に由来する多能性幹細胞を分化させて異なる組織を形成するように誘導することは、倫理的論議を回避することができるだけでなく、更に免疫拒絶のリスクを低減し、再生医学分野の適用のホットスポットである。CAR-Tは、新興の免疫細胞療法として、特異性が強く、癌細胞の除去効率が高いという特徴を有することで、広く注目されている。現在、CAR-T療法の免疫細胞は、主に患者自体のT細胞に由来するが、一部の患者(例えば、乳児、腫瘍後期免疫不全患者、および重度化学療法患者)は有効量のT細胞を提供することができず、且つ費用が高く、該療法の適用を大きく制限する。多能性幹細胞により機能性T細胞を取得することで、上記問題を解決することができる。
【0003】
ヒト多能性幹細胞に由来する生血内皮で転写因子ERG、HOXA5、HOXA9、HOXA10、LCOR、RUNX1、およびSPI1を発現することにより、多系列の造血再構成能力を有する造血幹細胞・プロジェニター(hematopoietic stem and progenitor cells、HSPCs)を取得し、移植後に複数の造血系列細胞(T細胞を含む)を生じることができるという基礎研究が既にある(R.Sugimura et al.Haematopoietic stem and progenitor cells from human pluripotent stem cells.Nature、545、432~438(2017))が、上記研究は、7つまでの転写因子を用いて幹細胞誘導を行う必要があり、操作が複雑で、安定性が悪く、効率が低い。
【0004】
更に、内皮細胞で転写因子FOSB、GFI1、RUNX1、およびSPI1を発現することで、一部の系列の造血再構成能力(T細胞系列造血再構成能力がない)を有するヒト造血多能性プロジェニター(hematopoietic multipotent progenitors)および全系列造血再構成能力を有するマウス造血幹細胞(hematopoietic stem cell)を取得することができるという研究報告がある(V.M.Sandler et al.Reprogramming human endothelial cells to haematopoietic cells requires vascular induction.Nature 511、213~318(2014)、R.Lis et al.Conversion of adult endothelium to immunocompetent haematopoietic stem cells.Nature 545、439~445(2017))が、上記研究には、内皮細胞を入手しにくく、遺伝子編集が困難で、技術的方法が煩雑であり、T系列の発生効率が低い等の問題が存在する。そのため、多能性幹細胞を誘導して単一のT系列細胞を取得する簡単な方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の不足に対し、本発明は、多能性幹細胞及びその分化したT細胞と使用を提供し、得られた多能性幹細胞に由来するT細胞は、機能が正常であるだけでなく、更に腫瘍形成のリスクがない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、Runx1とHoxa9とのタンデム共発現を含むベクターを提供する。
【0007】
本発明において、Runx1およびHoxa9のcDNA配列を同一のベクターにタンデム発現させ、宿主細胞を感染するために用い、安定して発現するRunx1およびHoxa9の宿主細胞を取得することができ、操作が簡単で効率が高く、得られた宿主細胞はT細胞へ分化する能力を有する。
【0008】
第2の態様では、本発明は、第1の態様に記載のベクターを発現する核酸を提供する。
【0009】
第3の態様では、本発明は、
第1の態様に記載のベクターを含み、
好ましくは、前記宿主細胞は多能性幹細胞である宿主細胞を提供する。
【0010】
第4の態様では、本発明は、
(1)Runx1とHoxa9とのタンデム発現ベクターを多能性幹細胞に組込み、耐性スクリーニングを行うステップと、
(2)ステップ(1)に記載の多能性幹細胞を造血幹細胞前駆細胞へ指向性分化するステップと、
(3)ステップ(2)に記載の造血幹細胞前駆細胞とマウス骨髄間質細胞と共培養し、T系列のプロジェニターを取得するステップと、
(4)ステップ(3)に記載のT系列のプロジェニターをT細胞に分化するように誘導するステップと、
を含む多能性幹細胞を用いてT細胞を指向性分化する方法を提供する。
【0011】
本発明において、Runx1とHoxa9とを共発現する多能性幹細胞系を指向性分化することにより得られた造血幹細胞前駆細胞を、OP9-DL1細胞系と共培養してT系列のプロジェニターを取得し、分化後に機能が正常であるT細胞を取得し、腫瘍形成のリスクがない。
【0012】
好ましくは、ステップ(1)に記載のRunx1とHoxa9とのタンデム発現ベクターを多能性幹細胞のRosa26部位に組込む。
【0013】
好ましくは、ステップ(1)に記載の多能性幹細胞は、遺伝子編集後の誘導性多能性幹細胞および/または胚性多能性幹細胞株である。
【0014】
好ましくは、ステップ(1)に記載の組込みの方法は、相同組換え、CRISPR/Cas9、TALEN、トランスフェクション、またはウイルス感染のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、相同組換えであることが好ましい。
【0015】
好ましくは、ステップ(1)に記載の耐性スクリーニングはハイグロマイシンBを採用する。
【0016】
好ましくは、ステップ(2)に記載の指向性分化の方法は、D0培地、D2.5培地、D3培地、D4培地、D5培地、D6培地、およびD7培地を順に用いて多能性幹細胞を培養して前記造血幹細胞前駆細胞を取得することである。
【0017】
好ましくは、前記D0培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4(BMP4)を含む基礎分化培地であり、前記骨形態形成タンパク質4の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましい。
【0018】
好ましくは、前記D2.5培地は、3~8ng/mLのアクチビンA(Activin A)および3~8ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む基礎分化培地であり、前記アクチビンAの濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mLまたは8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記塩基性線維芽細胞増殖因子の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましい。
【0019】
好ましくは、前記D3培地は、3~8ng/mLのアクチビンA(Activin A)、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4(BMP4)および3~8ng/mLの血管内皮増殖因子(VEGF)を含む基礎分化培地であり、前記アクチビンAの濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記骨形態形成タンパク質4の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記血管内皮増殖因子の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましい。
【0020】
好ましくは、前記D4培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4(BMP4)および3~8ng/mLの血管内皮増殖因子(VEGF)を含む基礎分化培地であり、前記骨形態形成タンパク質4の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記血管内皮増殖因子の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましい。
【0021】
好ましくは、前記D5培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4(BMP4)、3~8ng/mLの血管内皮増殖因子(VEGF)、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン3(mIL3)、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン6(mIL6)、10~30ng/mLの組換えマウス幹細胞因子(mSCF)、10~30ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン(hTPO)、および10~30ng/mLのヒトFms関連チロシンキナーゼ3リガンド(hFlt3L)を含む基礎分化培地であり、前記骨形態形成タンパク質4の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記血管内皮増殖因子の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウスインターロイキン3の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウスインターロイキン6の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウス幹細胞因子の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えヒトトロンボポエチンの濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記hFlt3Lの濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましい。
【0022】
好ましくは、前記D6培地は、3~8ng/mLの骨形態形成タンパク質4(BMP4)、3~8ng/mLの血管内皮増殖因子(VEGF)、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン3(mIL3)、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン6(mIL6)、10~30ng/mLの組換えマウス幹細胞因子(mSCF)、10~30ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン(hTPO)、10~30ng/mLのhFlt3L、および1~2μg/mLのドキシサイクリン(Dox)を含む基礎分化培地であり、前記骨形態形成タンパク質4の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記血管内皮増殖因子の濃度は、例えば、3ng/mL、5ng/mL、または8ng/mLであってもよく、5ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウスインターロイキン3の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウスインターロイキン6の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウス幹細胞因子の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えヒトトロンボポエチンの濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記hFlt3Lの濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記ドキシサイクリンの濃度は、例えば、1μg/mLまたは2μg/mLであってもよく、1μg/mLであることが好ましい。
【0023】
好ましくは、前記D7培地は、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン3(mIL3)、10~30ng/mLの組換えマウスインターロイキン6(mIL6)、10~30ng/mLの組換えマウス幹細胞因子(mSCF)、10~30ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン(hTPO)、10~30ng/mLのhFlt3L、および1~2μg/mLのドキシサイクリン(Dox)を含む基礎分化培地であり、前記組換えマウスインターロイキン3の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウスインターロイキン6の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えマウス幹細胞因子の濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記組換えヒトトロンボポエチンの濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記hFlt3Lの濃度は、例えば、10ng/mL、20ng/mL、または30ng/mLであってもよく、20ng/mLであることが好ましく、前記ドキシサイクリンの濃度は、例えば、1μg/mLまたは2μg/mLであってもよく、1μg/mLであることが好ましい。
【0024】
好ましくは、前記基礎分化培地は、10~20%のウシ胎仔血清、180~220μg/mLの鉄飽和トランスフェリン(iron-saturated transferrin)、4.5×10-4Mのチオグリセロール、1~3mMのGlutaMAXTM-Iの添加剤、および0.4~0.6mMのアスコルビン酸を含むIMDM培地であり、前記ウシ胎仔血清の濃度は、例えば、10%、15%、または20%であってもよく、15%であることが好ましく、前記鉄飽和トランスフェリンの濃度は、例えば、180μg/mL、200μg/mL、または220μg/mLであってもよく、200μg/mLであることが好ましく、前記チオグリセロールの濃度は、例えば、4×10-4M、4.5×10-4M、または5×10-4Mであってもよく、4.5×10-4Mであることが好ましく、前記GlutaMAXTM-Iの添加剤の濃度は、例えば、1mM、2mM、または3mMであってもよく、2mMであることが好ましく、前記アスコルビン酸の濃度は、例えば、0.4mM、0.5mM、または0.6mMであってもよく、0.5mMであることが好ましい。
【0025】
本発明において、発明者は、培地における添加物質を変えることにより、指向性造血分化系を設計して最適化させ、多能性幹細胞を造血させて造血幹細胞前駆細胞へ分化するように誘導し、前記造血幹細胞前駆細胞は、更にマウス骨髄間質細胞と共培養することにより、T系列のプロジェニターを取得する。
【0026】
好ましくは、ステップ(3)に記載の間質細胞はOP9-DL1細胞である。
【0027】
好ましくは、ステップ(3)に記載の共培養過程において、ドキシサイクリンを用いて誘導する。
【0028】
好ましくは、ステップ(4)に記載のT細胞は、主にCD3+T細胞である。
【0029】
好ましくは、前記T細胞は、TCRβ細胞および/またはTCRγ/δ細胞である。
【0030】
好ましい技術案として、本発明は、
(1)Runx1とHoxa9とのタンデム発現ベクターを遺伝子組換えにより多能性幹細胞のRosa26部位に組込み、ハイグロマイシンBを用いて耐性スクリーニングを行うステップと、
(2)D0培地、D2.5培地、D3培地、D4培地、D5培地、D6培地、およびD7培地を順に用いてステップ(1)に記載の多能性幹細胞を培養し、11日目に造血幹細胞前駆細胞に指向性分化させるステップと、
(3)ステップ(2)に記載の造血幹細胞前駆細胞とOP9-DL1細胞とを共培養し、ドキシサイクリンを用いて誘導し、T系列のプロジェニターを取得するステップと、
(4)ステップ(3)に記載のT系列のプロジェニターを、TCRβ細胞および/またはTCRγ/δ細胞であるT細胞に分化するように誘導するステップと、
を含む多能性幹細胞を用いてT細胞を指向性分化する方法を提供する。
【0031】
第5の態様では、本発明は、第1の態様に記載の方法で製造されたT系列のプロジェニターおよび/またはT細胞を提供する。
【0032】
第6の態様では、本発明は、第1の態様に記載のベクター、第3の態様に記載の宿主細胞、第5の態様に記載のT系列のプロジェニターまたはT細胞のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む医薬組成物を提供する。
【0033】
好ましくは、前記医薬組成物は、医薬的に許容されるベクター、賦形剤、または希釈剤のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを更に含む。
【0034】
第7の態様では、本発明は、第4の態様に記載の医薬組成物の、免疫応答を強化する医薬の製造における使用であって、T細胞の免疫応答を強化する医薬の製造における使用であることが好ましい使用を提供する。
【0035】
本発明において、前記医薬組成物は、免疫応答を強化するために使用でき、特に、T細胞の免疫応答を強化するために使用できる。
【0036】
第8の態様では、本発明は、第4の態様に記載の医薬組成物の、免疫不全を予防および/または治療する医薬の製造における使用、T細胞免疫不全を予防および/または治療する医薬の製造における使用を提供する。
【0037】
本発明において、前記医薬組成物は、免疫不全を予防および/または治療するために使用でき、特に、T細胞免疫不全を予防および/または治療するために使用できる。
【0038】
第9の態様では、本発明は、第4の態様に記載の医薬組成物の、T細胞免疫療法で腫瘍を治療する医薬の製造における使用を提供する。
【0039】
本発明において、前記医薬組成物はT細胞免疫療法に使用できる。
【発明の効果】
【0040】
従来技術と比べ、本発明は以下のような有益な効果を有する。
(1)本発明は、外因性Runx1とHoxa9との共発現ベクターを多能性幹細胞に導入し、誘導性共発現外因性Runx1とHoxa9の多能性幹細胞の構築が成功し、前記多能性幹細胞は、T細胞へ分化する能力を有し、且つ、免疫効果を強化し、免疫不全を予防および/または治療するおよび腫瘍を治療する医薬の製造に使用できる。
(2)本発明は、指向性分化系および共培養方法を採用し、前記多能性幹細胞をT系列のプロジェニターへ指向性分化し、前記T系列のプロジェニターは、T細胞へ分化するように誘導され得、且つ、免疫効果を強化し、免疫不全を予防および/または治療するおよび腫瘍を治療する医薬の製造に使用できる。
(3)本発明の方法で得られた多能性幹細胞に由来するT細胞は、機能が正常であり、腫瘍形成のリスクがなく、免疫効果を強化し、免疫不全を予防および/または治療するおよび腫瘍を治療する医薬の製造に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1(A)は多能性幹細胞のRosa26部位に部位特異的ノックインした誘導可能な発現システムの模式図であり、前記発現システムはp2a配列を用いてRunx1とHoxa9とのcDNA配列を直列連結し、ドキシサイクリンで遺伝子発現を誘導する。
図1(B)は、ハイグロマイシンによる耐性スクリーニングにより得られたiRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞のライトフィールドチャートである。
図1(C)は、ドキシサイクリンで処理してから24時間後のRunx1およびHoxa9の相対発現レベルである。
【
図2】
図2(A)は、iRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞を、造血前駆体、造血幹細胞前駆細胞および血液細胞へ指向性分化するように誘導する胚様体-単層培養系の模式図であり、
図2(B)は、iRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞を誘導して指向性分化させて11日目の細胞形態図であり、
図2(C)は、フローサイトメトリーで分析した指向性分化の11日目の造血関連細胞の構成および割合である。
【
図3】
図3(A)は、造血幹細胞前駆細胞のフロー選別策略であり、
図3(B)は、選別された造血幹細胞前駆細胞集団(CD31
+CD41
lowCD45
-c-Kit
+CD201
high)とOP9-DL1細胞系とを共培養する模式図であり、
図3(C)は、造血幹細胞前駆細胞集団とOP9-DL1細胞系とを10日間共培養した後、顕微鏡で観察した玉石状形成領域の数であり、
図3(D)は、造血幹細胞前駆細胞集団とOP9-DL1細胞系とを10日間共培養した後、顕微鏡で観察した玉石状形成領域のライトフィールドチャートである。
【
図4】
図4(A)は、造血幹細胞前駆細胞とOP9-DL1細胞系とを共培養した後に得られたT系列のプロジェニターをCD45.1
+NOD/SCID免疫不全のマウスに移植する図であり、
図4(B)は、移植してから4週間後に、多能性幹細胞に由来する血液細胞をフローサイトメトリーで同定する図であり、iRunx1-p2a-Hoxa9グループでは造血キメラが検出でき、
図4(C)は、5週間後の犠牲したレシピエントマウスの末梢血、骨髄、脾臓および胸腺における多能性幹細胞に由来する造血細胞の系列分布およびCD3
+Tリンパ球の表現型であり、
図4(D)は、多能性幹細胞に由来する血液細胞ゲノムのPCRおよび配列決定である。
【
図5】
図5(A)は、4週間後の犠牲したレシピエントマウスの胸腺における多能性幹細胞に由来するDN細胞集団(DN1/DN2/DN3/DN4)分析であり、
図5(B)は、4週間後の犠牲したレシピエントマウスの末梢血、脾臓およびリンパ節における多能性幹細胞に由来するCD3
+T細胞内のTCR-βおよびTCR-γ/δ集団の分析であり、
図5(C)は、4週間後の犠牲したレシピエントマウスの混合リンパ球反応実験(MLR)であり、PSC-Tは、Runx1-p2a-Hoxa9が多能性幹細胞系を誘導して分化させてT系列のプロジェニターを取得してNOD-SCIDレシピエントマウスに埋め込んでから6週間後に、脾臓内の磁気ビーズが富化したCD3
+T細胞である。
【
図6】ELISA法で検出したインビトロ刺激によるT細胞が分泌した代表的な細胞因子であり、ここで、IL10はインターロイキン10であり、IFN-γはγインターフェロンであり、IL-2はインターロイキン2であり、TNF-αは腫瘍壊死因子αである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明で採用する技術的手段およびその効果を更に説明するために、以下、実施例および図面を参照しながら本発明について更に説明する。なお、ここで説明する具体的な実施形態は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0043】
実施例に具体的な技術または条件が明記されていないものは、本分野内の文献に記載の技術または条件、あるいは製品仕様書に従って行う。使用される試薬または機器にメーカーが明記されていないものは、いずれも公式チャネルにより入手可能な通常の製品である。
【実施例1】
【0044】
本実施例は、電気的形質転換法(electrotransformation)と遺伝子組換えとの組み合わせにより、誘導可能な発現配列を多能性幹細胞のRosa26部位に部位特異的ノックインし、
図1(A)に示すように、ノックインされた配列はRunx1-p2a-Hoxa9タンデム配列および耐性スクリーニングに用いられるハイグロマイシンB耐性の遺伝子配列を含む。相同組換えの多能性幹細胞の取得に成功するために、電気的形質転換してから20時間後にハイグロマイシンB(150μg/mL)を含む多能性幹細胞培地を加え、毎日液体を置き換えた。ハイグロマイシンBを用いて10日間を選別した後、顕微鏡で個別のクローンをMEF細胞が予め播種された12ウェルプレートに採取し、ウェルごとに1つの多能性幹細胞クローンを入れ、ハイグロマイシン無しの培地で培養した。
【0045】
クローン集団がMEF細胞層に付着すると、毎日液体を置き換え、3日間後に0.25%のトリプシンでクローン集団を消化し、12ウェルプレートに継代し、細胞形態は
図1(B)に示すように、クローン集団が対数増殖期にあり、縁部が整然で明らかであり、MEF細胞層と明らかな境界があり、分化しなかった。細胞状態および成長密度に基づいて継代、増殖および凍結保存を行った。
【0046】
Doxで処理してから24時間後のiRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞の総mRNA(Doxが加えられていないグループを対照グループとする)を抽出し、Q-PCRによりRunx1およびHoxa9のmRNAの発現レベルを取得し、
図1(C)は、Doxを加えることにより、Runx1およびHoxa9の発現を誘導することができることを示す。
【実施例2】
【0047】
多能性幹細胞の造血分化を誘導するために、
図2(A)に示すような指向性造血分化系を用いた。指向性造血分化系における各培地の処方は以下のとおりである。
【0048】
基礎分化培地BDM:15%のウシ胎仔血清、200μg/mLの鉄飽和トランスフェリン、4.5×10-4Mのチオグリセロール、2mMのGlutaMAXTM-Iの添加剤、0.5mMのアスコルビン酸を含むIMDM培地。
D0培地:5ng/mLの骨形態形成タンパク質4を含む基礎分化培地。
D2.5培地:5ng/mLのアクチビンAおよび5ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子を含む基礎分化培地。
D3培地:5ng/mLのアクチビンA、5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、および5ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地。
D4培地:5ng/mLの骨形態形成タンパク質4および5ng/mLの血管内皮増殖因子を含む基礎分化培地。
D5培地:5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、5ng/mLの血管内皮増殖因子、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、および20ng/mLのhFlt3Lを含む基礎分化培地。
D6培地:5ng/mLの骨形態形成タンパク質4、5ng/mLの血管内皮増殖因子、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、20ng/mLのhFlt3L、および1μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地。
D7培地:20ng/mLの組換えマウスインターロイキン3、20ng/mLの組換えマウスインターロイキン6、20ng/mLの組換えマウス幹細胞因子、20ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン、20ng/mLのhFlt3Lおよび1μg/mLのドキシサイクリンを含む基礎分化培地。
【0049】
具体的なステップは以下のとおりである。
【0050】
40min前もって6ウェルプレートに濃度が0.1%である1mLのゼラチン(gelatin)を播種し、スタンバイした。0.05%のトリプシンで多能性幹細胞を単細胞に消化し、遠心後に多能性幹細胞を再懸濁した。0.1%のgelatinを吸い取り、多能性幹細胞懸濁液をgelatinが被覆されたウェルに移し、インキュベーターに40min置くことにより、MEF細胞を除去した。
【0051】
懸濁細胞を集め、250gで5min遠心させ、DPBSで1回洗浄した。D0培地で細胞を再懸濁させて計数し、細胞濃度を1×105個/mLに調整した。5~10mLの細胞懸濁液を傾斜した10cmのディッシュに加入し、20μLの細胞懸濁液を吸い取り、15cmのシャーレに入れて胚様体(EB)を懸濁させ、単一のEBは20μL(約2000個の細胞)である。その後、シャーレを逆さにし、シャーレの底部に1つの10cmのシャーレの蓋を置き、蓋に5~6mLの細胞培養用水を加えた。37℃のインキュベーターで2.5日間培養した。
【0052】
パスツールピペットでEBを遠心管に収集し、DPBSでシャーレの底部を洗浄し、EBが自然沈降した後、注意深く上清を吸い取り、90gの低速で5min遠心して上清を除去し、DPBSを加え一回濯ぎ、再び沈降させ、または遠心して上清を除去した。D2.5培地でEBを再懸濁した後、低密着性の24ウェルプレートに移し、12時間培養してEBに汚染があるか否かを観察した。
【0053】
EBを15mLの遠心管に収集し、自然沈降した後、注意深く上清を吸い取り、DPBSを加えて一回濯ぎ、400μLの0.05%のトリプシンを加え、24ウェルの低密着性シャーレに移し、37℃で3min消化した後、EBを繰り返して穏やかに叩き、EBが単細胞状態になると、D3培地を加えて消化を終了させ、350gで5min遠心した。D3培地で生存細胞を再懸濁して計数し、0.1%のgelatinが予め被覆された12ウェルプレートに接種し、密度を2×105個/ウェルとした。
【0054】
DPBSを用いて一回濯ぎ、D4培地に置き換えて一日間培養した。
【0055】
DPBSを用いて一回濯ぎ、D5培地に置き換えて一日間培養した。
【0056】
DPBSを用いて一回濯ぎ、D6培地に置き換えて一日間培養した。
【0057】
DPBSを用いて一回濯ぎ、D7培地に置き換えて一日間培養した。
【0058】
その後、1日おきに液体を置き換え、用いられる培地はD7培地であった。
図2(B)に示すように、11日目に、iRunx1-p2a-Hoxa9分化グループは明らかな造血クラスターが見られた。
図2(C)に示すフローサイトメトリー分析結果により、指向性分化の11日目の造血関連細胞集団はCD41
+造血前駆細胞およびCD45
+血液細胞であることが明らかになった。
【実施例3】
【0059】
多能性幹細胞から分化した造血前駆細胞が、胚胎造血幹細胞前駆細胞集団の増殖能力、すなわち、間質細胞において高増殖潜在能力の玉石状形成領域を形成できる能力を有することを検証するために、発明者は、造血幹細胞前駆細胞とマウス骨髄間質細胞とを共培養した。共培養培地は、15%のDFBS、200μg/mLの鉄飽和トランスフェリン、4.5×10-4Mのチオグリセロール、2mMのGlutaMAXTM-Iの添加剤、0.5mMのアスコルビン酸、2%のAFT024-mSCF条件性培地、2%のAFT024-mIL3条件性培地、2%のAFT024-hFlt3L条件性培地、および1μg/mLのDoxを含むα-MEM培地であった。
【0060】
胚様体-単層培養の11日目に、
図3(A)のような選別策略を用いてフローサイトメーターによる造血幹細胞前駆細胞(CD31
+CD41
lowCD45
-c-Kit
+CD201
high)の選別を行った。その後、玉石状領域形成実験(CAFC)で、多能性幹細胞から分化した造血幹細胞前駆細胞が胚胎に由来する造血幹細胞前駆細胞と同じ増殖能力を有するか否かを検出した。
図3(B)に示すように、選別された造血幹細胞前駆細胞集団をOP9-DL1間質細胞に再播種し、10日間後に、100個あたりの造血幹細胞前駆細胞が形成した玉石状形成領域の数を計数した。
図3(C)および
図3(D)の結果により、iRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞に由来する造血幹細胞前駆細胞は、強い玉石状領域形成能力を有し、多能性幹細胞に由来する造血幹細胞前駆細胞は、間質細胞OP9-DL1において高さが均一で小さくて丸くて明るい血液細胞を形成することが明らかになった。
【実施例4】
【0061】
インビボ微小環境を用いてT細胞を取得するために、発明者は更に共培養後に移植する策略を設計し、
図4(A)に示すように、造血幹細胞前駆細胞をOP9-DL1間質細胞においてDoxを加えて10日間誘導した後、T系列のプロジェニターを取得した。4日間前もってOP9-DL1細胞系を蘇生し、細胞成長状態に基づいてタイムリーに継代し、細胞が過剰成長により劣化することを回避した。使用する前の日に継代し、ウェルごとに5万の細胞(12ウェルプレート)を再播種し、翌日に使用した。多能性幹細胞に由来する造血幹細胞前駆細胞を共培養した後に得られたT系列のプロジェニターを、目の静脈を介して6~8週齢のCD45.1NOD/SCIDマウスに移植し、4週間後に、フローサイトメトリーを介して末梢血の造血キメラ状況を検出した。
【0062】
図4(B)により、iRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞に由来する造血幹細胞前駆細胞集団を共培養した後に得られたT系列のプロジェニターは、レシピエントNOD/SCIDマウスの末梢血に造血キメラを形成することができ、且つCD3
+T細胞を主(97.7%)とし、Tリンパ系を効果的に再構成する効果を実現することが明らかになった。
【0063】
iRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞に由来する血液細胞の他の造血、リンパ組織における分布を更に明確にするために、5週間後にマウスを犠牲させた後、フローサイトメトリーによりその末梢血、骨髄、脾臓および胸腺の血液細胞系列を分析した。フローサイトメトリー分析により、
図4(C)に示すように、骨髄、胸腺および脾臓において、多能性幹細胞に由来する血液細胞は同様にTリンパ系造血を主とすることが分かった。これらのCD3
+T細胞は、CD4
+単独陽性細胞を含むとともに、CD8
+単独陽性細胞も含み、それと同時に、脾臓、骨髄および胸腺にはいずれも少量のCD4
+CD8
+二重陽性細胞およびCD4
-CD8
-二重陰性細胞を含む。
【0064】
ゲノムレベルからレシピエントマウスにおけるCD45.2
+造血細胞(主にT細胞)がiRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞に由来することを確認するために、プライマーを設定してPCR増殖および配列決定を行った。まず、フローソートにより骨髄および脾臓に由来するCD45.2
+細胞を選別し、ゲノムを抽出し、遺伝子配列がノックインされた特異性プライマーを用いてPCR同定を行った。
図4(D)は、これらの細胞ゲノム内にiRunx1-p2a-Hoxa9プラスミドに由来する配列があることを示し、CD45.2
+血液細胞(主にT細胞)がiRunx1-p2a-Hoxa9多能性幹細胞に由来することが証明された。
【実施例5】
【0065】
マウス体内の多能性幹細胞に由来する免疫細胞のタイプを更に同定するために、胸腺DN細胞集団を分析し、
図5(A)から見られるように、レシピエントマウス体内のT細胞が正常に発達し、DN1、DN2、DN3およびDN4細胞集団が検出できた。末梢血、脾臓およびリンパ管における多能性幹細胞に由来するT細胞のTCRレシピエントを検出し、
図5(B)に示すように、T細胞に一定の割合のTCRγ/δ細胞(0.37-1.71%)が存在し、ほとんどがTCRβ細胞であった。Balb/Cマウス脾臓細胞を用い、CD3の磁気ビーズの富化によりレシピエントマウスの脾臓から得られたT細胞と混合リンパ球反応させ、それぞれ3日目および6日目に検出を行い、
図5(C)に示すように、多能性幹細胞に由来するT細胞は活性化されると増殖することができ、これらのT細胞は刺激されると増殖する能力を有することが証明された。
【0066】
ELISA技術で培養上清を分析し、
図6に示すように、刺激されて増殖した再生T細胞は大量のインターロイキン10(IL10)、γインターフェロン(IFN-γ)、インターロイキン2(IL-2)、および腫瘍壊死因子α(TNF-α)を分泌することができる。
【0067】
上記をまとめると、本発明は、外因性Runx1とHoxa9との共発現ベクターを多能性幹細胞に導入し、誘導性共発現外因性Runx1とHoxa9の多能性幹細胞の構築が成功し、前記多能性幹細胞はT系列のプロジェニターへ指向性分化し、且つT細胞に発達する。本発明の方法で得られた多能性幹細胞に由来するT細胞は、機能が正常であるだけでなく、更に腫瘍形成のリスクがなく、免疫効果を強化し、免疫不全を予防および/または治療するおよび腫瘍を治療する医薬の製造に使用できる。
【0068】
本発明は上記実施例により本発明の詳細な方法を説明したが、本発明は上記詳細な方法に限定するものではなく、すなわち、本発明は上記詳細な方法に依存して実施しなければならないことを意味するものではないことを、出願人より声明する。当業者であれば、本発明に対するいかなる改良、本発明に使用される原料に対する等価的な置換および補助成分の追加、具体的な形態の選択等は、全て本発明の保護範囲および開示範囲内に含まれることを理解すべきである。