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特許7098201資産価値評価システム及び資産価値評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】資産価値評価システム及び資産価値評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/16 20120101AFI20220704BHJP
   G06Q 10/00 20120101ALI20220704BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
G06Q50/16
G06Q10/00
G01M7/02 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021193657
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2021-12-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517337688
【氏名又は名称】松本設計ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100224926
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 雄久
(72)【発明者】
【氏名】平間 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅英
【審査官】大野 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-323239(JP,A)
【文献】特開2012-238300(JP,A)
【文献】特開2014-141873(JP,A)
【文献】特開2019-138661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G01M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の資産価値を評価する資産価値評価システムであって、
構造物の基準資産価値と前記構造物の剛性と、を取得する取得部と、
前記基準資産価値と前記剛性とに基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価部と、
前記構造物の基準剛性及び初期剛性の少なくとも何れかと前記構造物の剛性と前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係が保存される保存部と、を備え
前記取得部は、
前記資産価値を評価する際の前記剛性と、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、
前記評価部は、
前記保存部に保存される前記関係と、前記取得部により取得した前記資産価値を評価する際の前記剛性と、に基づいて、前記補正係数を設定し、
以下の数式(19)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価すること
を特徴とする資産価値評価システム。
【数19】
【請求項2】
複数の階層を有する前記構造物に作用する振動を計測する計測部を更に備え、
前記計測部は、前記構造物の特定の階層に取り付けられる第1計測部と、前記第1計測部が取り付けられる階層よりも高い階層に取り付けられる第2計測部と、を有し、
前記取得部は、前記第1計測部と前記第2計測部とにより計測された振動に基づいて、前記剛性を演算すること
を特徴とする請求項1記載の資産価値評価システム。
【請求項3】
前記取得部は、前記構造物の降伏耐力に基づいて設定された第1基準剛性を取得し、
前記評価部は、前記第1基準剛性と前記剛性とに基づいて、前記資産価値を評価すること
を特徴とする請求項2記載の資産価値評価システム。
【請求項4】
前記取得部は、
前記構造物の降伏耐力に基づいて設定された第1基準剛性と、
前記構造物の最大耐力に基づいて設定された第2基準剛性と、
前記第2基準剛性よりも小さい第3基準剛性と、を取得し、
前記評価部は、前記第1基準剛性と、前記第2基準剛性と、前記第3基準剛性と、の少なくとも何れかと前記剛性とに基づいて、前記資産価値を評価すること
を特徴とする請求項2記載の資産価値評価システム。
【請求項5】
前記取得部は、前記構造物の新築したときの初期剛性と、前記構造物の資産価値を評価する際の前記剛性と、を取得し、
前記評価部は、前記初期剛性と前記剛性とに基づいて、前記資産価値を評価すること
を特徴とする請求項2記載の資産価値評価システム。
【請求項6】
前記取得部は、前記構造物の不同沈下に関する不同沈下情報を取得し、
前記評価部は、前記不同沈下情報に基づいて、前記資産価値を評価すること
を特徴とする請求項1~5の何れか1項記載の資産価値評価システム。
【請求項7】
前記取得部は、前記構造物の外観の劣化に関する外観劣化情報を取得し、
前記評価部は、前記外観劣化情報に基づいて、前記資産価値を評価すること
を特徴とする請求項1~6の何れか1項資産価値評価システム。
【請求項8】
構造物の資産価値を評価する資産価値評価プログラムであって、
構造物の基準資産価値と前記構造物の剛性とを取得する取得ステップと、
前記基準資産価値と前記剛性とに基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価ステップと、をコンピュータに実行させ
前記取得ステップは、
前記資産価値を評価する際の前記剛性と、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、
前記評価ステップは、
保存部に保存される前記構造物の基準剛性及び初期剛性の少なくとも何れかと前記構造物の剛性と前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係と、前記取得ステップにより取得した前記資産価値を評価する際の前記剛性と、に基づいて、前記補正係数を設定し、
以下の数式(20)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価すること
を特徴とする資産価値評価プログラム。
【数20】
【請求項9】
構造物の資産価値を評価する資産価値評価システムであって、
構造物の基準資産価値と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて予め設定されたエネルギー吸収能力と、計測された前記構造物の振動に基づいて演算されるとともに前記構造物へ入力される入力エネルギーと、を取得する取得部と、
前記基準資産価値と前記エネルギー吸収能力と前記入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価部と、
前記エネルギー吸収能力と前記構造物の入力エネルギーと前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係が保存される保存部と、を備え
前記取得部は、
前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、
前記評価部は、
前記保存部に保存される前記関係と、前記取得部により取得した前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、に基づいて、前記補正係数を設定し、
以下の数式(21)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価すること
を特徴とする資産価値評価システム。
【数21】
【請求項10】
前記取得部は、
前記構造物の質量を取得し、
計測された振動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、
前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、
前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、
前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、
前記評価部は、
前記基準資産価値と前記エネルギー吸収能力と前記有効入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価すること
を特徴とする請求項9記載の資産価値評価システム。
【請求項11】
前記取得部は、
前記構造物の降伏耐力と前記降伏耐力に対応する変位とに基づいて設定される第1エネルギー吸収能力と、
前記構造物の最大耐力と前記最大耐力に対応する変位とに基づいて設定されるとともに前記第1エネルギー吸収能力より大きい第2エネルギー吸収能力と、
前記第2エネルギー吸収能力より大きい第3エネルギー吸収能力と、
前記第1エネルギー吸収能力を超える過去の前記入力エネルギーを累積した累積入力エネルギーと、を取得し、
前記評価部は、
前記基準資産価値と、前記第1エネルギー吸収能力と前記第2エネルギー吸収能力と前記第3エネルギー吸収能力との少なくとも何れかと、前記累積入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価すること
を特徴とする請求項9又は10記載の資産価値評価システム。
【請求項12】
前記評価部は、
前記基準資産価値と前記第3エネルギー吸収能力と前記累積入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価すること
を特徴とする請求項11記載の資産価値評価システム。
【請求項13】
構造物の資産価値を評価する資産価値評価プログラムであって、
構造物の基準資産価値と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて予め設定されたエネルギー吸収能力と、計測された前記構造物の振動に基づいて演算されるとともに前記構造物へ入力される入力エネルギーと、を取得する取得ステップと、
前記基準資産価値と、前記エネルギー吸収能力と、前記入力エネルギーと、に基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価ステップと、をコンピュータに実行させ、
前記取得ステップは、
前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、
前記評価ステップは、
保存部に保存される前記エネルギー吸収能力と前記構造物の入力エネルギーと前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係と、前記取得ステップにより取得した前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、に基づいて、前記補正係数を設定し、
以下の数式(22)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価すること
を特徴とする資産価値評価プログラム。
【数22】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、資産価値評価システム及び資産価値評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の資産価値は、購入時や売却時に評価される。従来、構造物の資産価値を手法として、構造物の再調達原価を経過年数に応じて一律に減じる定額法や定率法が用いられる。
【0003】
従来、建造物の価値を評価する技術については、特許文献1が開示されている。特許文献1の建造物価値算定装置は、外形寸法を有する内装部材のデータベースと、建造物躯体情報を予め定められた寸法の直方体で表現すると共に、該内装部材の外形寸法を該直方体の寸法で表現するキューブ表現部と、該直方体で表現された建造物躯体の各直方体毎の便益を算定する手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-215714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、定額法等による評価方法では、所定の期間経過後に躯体の資産価値がなくなってしまう。また、定額法等や特許文献1の開示技術等の従来の評価方法では、過去に起きた地震等により構造物に損傷があった場合や、構造物に耐震補強工事を行った場合であっても、その損傷の影響や耐震補強工事の影響を資産価値に反映することができず、適正な資産価値の評価ができない。このように、従来の評価方法では、構造物の資産価値を精度よく評価することが難しい、という事情がある。したがって、構造物の資産価値を精度よく評価する技術が求められている。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、構造物の資産価値を精度よく評価する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る資産価値評価システムは、構造物の資産価値を評価する資産価値評価システムであって、構造物の基準資産価値と前記構造物の剛性とを取得する取得部と、前記基準資産価値と前記剛性とに基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価部と、前記構造物の基準剛性及び初期剛性の少なくとも何れかと前記構造物の剛性と前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係が保存される保存部と、を備え、前記取得部は、前記資産価値を評価する際の前記剛性と、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、前記評価部は、前記保存部に保存される前記関係と、前記取得部により取得した前記資産価値を評価する際の前記剛性と、に基づいて、前記補正係数を設定し、以下の数式(19)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価することを特徴とする。
【数23】
【0008】
第2発明に係る資産価値評価システムは、第1発明において、複数の階層を有する前記構造物に作用する振動を計測する計測部を更に備え、前記計測部は、前記構造物の特定の階層に取り付けられる第1計測部と、前記第1計測部が取り付けられる階層よりも高い階層に取り付けられる第2計測部と、を有し、前記取得部は、前記第1計測部と前記第2計測部とにより計測された振動に基づいて、前記剛性を演算することを特徴とする。
【0009】
第3発明に係る資産価値評価システムは、第2発明において、前記取得部は、前記構造物の降伏耐力に基づいて設定された第1基準剛性を取得し、前記評価部は、前記第1基準剛性と、前記剛性と、に基づいて、前記資産価値を評価することを特徴とする。
【0010】
第4発明に係る資産価値評価システムは、第2発明において、前記取得部は、前記構造物の降伏耐力に基づいて設定された第1基準剛性と、前記構造物の最大耐力に基づいて設定された第2基準剛性と、前記第2基準剛性よりも小さい第3基準剛性と、を取得し、前記評価部は、前記第1基準剛性と、前記第2基準剛性と、前記第3基準剛性と、の少なくとも何れかと、前記剛性と、に基づいて、前記資産価値を評価することを特徴とする。
【0011】
第5発明に係る資産価値評価システムは、第2発明において、前記取得部は、前記構造物の新築したときの初期剛性と、前記構造物の資産価値を評価する際の前記剛性と、を取得し、前記評価部は、前記初期剛性と、前記剛性と、に基づいて、前記資産価値を評価することを特徴とする。
【0012】
第6発明に係る資産価値評価システムは、第1発明~第5発明の何れかにおいて、前記取得部は、前記構造物の不同沈下に関する不同沈下情報を取得し、前記評価部は、前記不同沈下情報に基づいて、前記資産価値を評価することを特徴とする。
【0013】
第7発明に係る資産価値評価システムは、第1発明~第6発明の何れかにおいて、前記取得部は、前記構造物の外観の劣化に関する外観劣化情報を取得し、前記評価部は、前記外観劣化情報に基づいて、前記資産価値を評価することを特徴とする。
【0014】
第8発明に係る資産価値評価プログラムは、構造物の資産価値を評価する資産価値評価プログラムであって、構造物の基準資産価値と前記構造物の剛性とを取得する取得ステップと、前記基準資産価値と前記剛性とに基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価ステップと、をコンピュータに実行させ、前記取得ステップは、前記資産価値を評価する際の前記剛性と、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、前記評価ステップは、保存部に保存される前記構造物の基準剛性及び初期剛性の少なくとも何れかと前記構造物の剛性と前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係と、前記取得ステップにより取得した前記資産価値を評価する際の前記剛性と、に基づいて、前記補正係数を設定し、以下の数式(20)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価することを特徴とする。
【数24】
【0016】
第9発明に係る資産価値評価システムは、構造物の資産価値を評価する資産価値評価システムであって、構造物の基準資産価値と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて予め設定されたエネルギー吸収能力と、計測された前記構造物の振動に基づいて演算されるとともに前記構造物へ入力される入力エネルギーと、を取得する取得部と、前記基準資産価値と前記エネルギー吸収能力と前記入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価部と、前記エネルギー吸収能力と前記構造物の入力エネルギーと前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係が保存される保存部と、を備え、前記取得部は、前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、前記評価部は、前記保存部に保存される前記関係と、前記取得部により取得した前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、に基づいて、前記補正係数を設定し、以下の数式(21)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価することを特徴とする。
【数25】
【0017】
10発明に係る資産価値評価システムは、第発明において、前記取得部は、前記構造物の質量を取得し、計測された振動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、前記評価部は、前記基準資産価値と前記エネルギー吸収能力と前記有効入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価することを特徴とする。
【0018】
11発明に係る資産価値評価システムは、第発明又は第10発明において、前記取得部は、前記構造物の降伏耐力と前記降伏耐力に対応する変位とに基づいて設定される第1エネルギー吸収能力と、前記構造物の最大耐力と前記最大耐力に対応する変位とに基づいて設定されるとともに前記第1エネルギー吸収能力より大きい第2エネルギー吸収能力と、前記第2エネルギー吸収能力より大きい第3エネルギー吸収能力と、を取得し、前記評価部は、前記基準資産価値と、前記第1エネルギー吸収能力と前記第2エネルギー吸収能力と前記第3エネルギー吸収能力との少なくとも何れかと、前記入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価することを特徴とする。
【0019】
12発明に係る資産価値評価システムは、第11発明において、前記評価部は、前記基準資産価値と前記第3エネルギー吸収能力と前記累積入力エネルギーとに基づいて、前記構造物の資産価値を評価することを特徴とする。
【0020】
第13発明に係る資産価値評価プログラムは、構造物の資産価値を評価する資産価値評価プログラムであって、構造物の基準資産価値と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて予め設定されたエネルギー吸収能力と、計測された前記構造物の振動に基づいて演算されるとともに前記構造物へ入力される入力エネルギーと、を取得する取得ステップと、前記基準資産価値と、前記エネルギー吸収能力と、前記入力エネルギーと、に基づいて、前記構造物の資産価値を評価する評価ステップと、をコンピュータに実行させ、前記取得ステップは、前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、前記基準資産価値における前記構造物の躯体部分の構成比と、観察原価率と、前記構造物を新築してからの経過年数と、を取得し、前記評価ステップは、保存部に保存される前記エネルギー吸収能力と前記構造物の入力エネルギーと前記構造物の資産価値を評価する際に用いられる補正係数との関係と、前記取得ステップにより取得した前記資産価値を評価する際の前記入力エネルギーと、に基づいて、前記補正係数を設定し、以下の数式(22)に基づいて、前記構造物の躯体部分の資産価値を評価することを特徴とする。
【数26】
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、構造物の資産価値を精度よく評価することが可能となる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本実施形態に係る資産価値評価システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、評価装置の構成の一例を示す模式図である。
図3図3は、評価装置の機能の一例を示す模式図である。
図4図4は、固有振動数の演算方法の一例を説明するための図である。
図5図5は、構造物の一例を示す平面図である。
図6図6は、構造物の一例を示す正面図である。
図7図7は、剛性Kと補正係数α(K)との関係を示す参照テーブルの一例を示す図である。
図8図8は、第1基準剛性K1の一例を説明するための図である。
図9図9は、第2基準剛性K2の一例を説明するための図である。
図10図10は、第3基準剛性K3の一例を説明するための図である。
図11図11は、初期剛性K0に対する剛性Kの比と、層間変形角との関係の一例を示す図である。
図12図12は、第1エネルギー吸収能力を超える入力エネルギーの概念図である。
図13図13は、エネルギー吸収残存比と、層間変形角との関係の一例を示す図である。
図14図14は、累積入力エネルギーと補正係数α(Es)との関係を示す参照テーブルの一例を示す図である。
図15図15は、本実施形態に係る資産価値評価システムの動作の第1例を示すフローチャートである。
図16図16は、構造物の資産価値と経過年数との関係の一例を示す図である。
図17図17は、本実施形態に係る資産価値評価システムの動作の第2例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態のいくつかを、図面を参照しながら説明する。各図において、共通する部分については、共通する参照符号を付し、重複する説明は省略する。なお、以下の説明では、高さ方向を第3方向Zとし、第3方向Zと交差、例えば直交する1つの平面方向を第1方向Xとし、第3方向Z及び第1方向Xのそれぞれと交差、例えば直交する別の平面方向を第2方向Yとする。
【0025】
(第1実施形態)
資産価値評価システム100は、構造物9の資産価値を評価する。構造物9は、例えば図1に示すように、例えば複数の階層を有する木造の構造物である。構造物としては、鉄筋造、鉄骨造の構造物であってもよい。
【0026】
資産価値評価システム100は、評価装置1と、計測部3と、を備える。評価装置1は、構造物9の基準資産価値と構造物9の剛性とに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。また、評価装置1は、構造物9の基準資産価値と構造物9のエネルギー吸収能力と構造物9の入力エネルギーとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。構造物の剛性、構造物のエネルギー吸収能力、及び入力エネルギーは、過去の地震等により構造物がどこまで変形したのかを評価する指標となり得る。このため、資産価値評価システム100によれば、構造物9の資産価値を精度よく評価することが可能となる。
【0027】
<計測部3>
計測部3は、構造物9に作用する地震動等の振動を計測する。計測部3は、評価装置1とインターネット等の公衆通信網を介して接続されてもよい。計測部3は、第1計測部31と、第2計測部32と、を有する。第1計測部31は、構造物9の特定の階層に取り付けられ、当該階層の振動を計測する。第1計測部31は、例えば構造物9の最も低い階層に取り付けられる。第2計測部32は、第1計測部31が取り付けられる階層よりも高い階層に取り付けられ、当該階層の振動を計測する。第2計測部32は、例えば構造物9の最も高い階層に取り付けられる。
【0028】
<評価装置1>
図2は、評価装置1の構成の一例を示す模式図である。評価装置1として、例えばパーソナルコンピュータ(PC)等のような公知の電子機器が用いられるほか、Raspberry Pi(登録商標)等のシングルボードコンピュータが用いられてもよい。評価装置1は、例えば筐体10と、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、保存部104と、I/F105~108とを備える。各構成101~107は、内部バス110により接続される。
【0029】
CPU101は、評価装置1全体を制御する。ROM102は、CPU101の動作コードを格納する。RAM103は、CPU101の動作時に使用される作業領域である。保存部104は、文字列データベース等の各種情報が保存される。保存部104として、例えばSDメモリーカードのほか、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のような公知のデータ保存媒体が用いられる。
【0030】
I/F105は、入力装置111との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。入力装置111として、例えばキーボード等の公知の入力装置が用いられてもよい。資産価値評価システム100の管理等を行う管理者等は、入力装置111を介して、各種情報や、評価装置1の制御コマンド等を入力又は選択できる。入力装置111は、省略されてもよい。
【0031】
I/F106は、表示装置113との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。表示装置113は、資産価値を評価した評価結果を表示する。表示装置113として、例えばディスプレイ等が用いられる。
【0032】
I/F107は、公衆通信網を介して各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。I/F107は、例えば複数設けられ、インターネット等の通信網を介した各種情報の送受信を行うために用いられてもよい。
【0033】
なお、I/F105~I/F107として、例えば同一のものが用いられてもよく、各I/F105~I/F107として、例えばそれぞれ複数のものが用いられてもよい。
【0034】
図3は、評価装置1の機能の一例を示す模式図である。評価装置1は、取得部11と、評価部12と、記憶部13と、表示部14と、を備える。なお、図4に示した各機能は、CPU101が、RAM103を作業領域として、保存部104等に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0035】
<取得部11>
取得部11は、入力装置111から入力される各種情報を取得する。取得部11は、記憶部13に記憶された各種情報を取得する。取得部11は、例えば構造物9の基準資産価値と構造物9の剛性Kとを取得する。基準資産価値は、例えば再調達原価である。再調達原価は、対象となる構造物9を新たに再調達することを想定した場合において必要とされる原価のことをいう。再調達原価は、単位面積当たりの価格に床面積を乗じて演算される。
【0036】
取得部11は、例えば第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動に基づいて、構造物9の剛性Kを演算してもよい。取得部11は、例えば第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動に基づいて、構造物9の固有振動数fを演算し、固有振動数fから剛性Kを演算してもよい。剛性Kは、構造物9の資産価値を評価する際の構造物9の剛性である。また、取得部11は、構造物9の新築したときの初期剛性K0を取得する。
【0037】
図4は、固有振動数fの演算方法の一例を説明するための図である。取得部11は、第1計測部31により計測された振動をフーリエ変換した関数F(ω)を演算する。取得部11は、第2計測部32により計測された振動をフーリエ変換した関数G(ω)を演算する。そして、取得部11は、G(ω)/F(ω)を伝達関数とし、伝達関数の卓越周波数を演算する。伝達関数の卓越周波数を、構造物9の固有振動数fとする。そして、取得部11は、固有振動数fを演算する。固有振動数fと、構造物9の固有周期Tとは、以下の数式(1)を満たす。
【0038】
【数1】
【0039】
また、構造物9の固有周期Tは、以下の数式(2)を満たす。
【0040】
【数2】
【0041】
構造物9の剛性Kは、上記の数式(1)と数式(2)により、以下の数式(3)を満たす。剛性Kは、第1方向Xと第2方向Yのそれぞれについて、構造物9の各階層毎に求める。
【0042】
【数3】
【0043】
取得部11は、上記の数式(3)により、構造物9の剛性Kを演算する。これにより、構造物9の剛性Kを実測値として取得することができる。このため、剛性Kに基づいて、資産価値をより精度よく評価することが可能となる。
【0044】
なお、取得部11は、構造物9の剛性Kを、例えば以下の数式(4)により演算してもよい。なお、構造物9の剛性Kは、他の周知の演算方法により演算されてもよい。
【0045】
【数4】
:構造物の固有周期
M:構造物の地上部分の全質量
:第1階層(1階)の剛性
χ:構造物の頂部と基部の剛性の比率(=0.48+0.52N)
N:地上部分の層数
【0046】
取得部11は、構造物9の不同沈下に関する不同沈下情報を取得する。取得部11は、例えば構造物9について、新築したときの位置情報と、所定の期間経過後の位置情報とを取得する。取得部11は、新築したときの位置情報と所定の期間経過後の位置情報と基づいて、不同沈下情報を生成する。構造物9の位置情報は、図5に示すように、例えばドローン99に搭載されたレーザー、赤外線等の位置情報手段装置97により取得できる。ドローン99に搭載された位置情報取得装置97は、構造物9の上空から位置情報を取得できる。位置情報は、例えば構造物9の上下移動、水平移動、残留変位等である。
【0047】
取得部11は、構造物9の外観の劣化に関する外観劣化情報を取得する。取得部11は、例えば新築したときの構造物9の外観について、新築したときの画像と、所定の期間経過後の画像とを取得する。取得部11は、新築したときの画像と所定の期間経過後の外観と基づいて、外観劣化下情報を生成する。構造物9の画像は、図6に示すように、例えばドローン99に搭載された撮像装置98により取得できる。ドローン99に搭載された撮像装置98は、構造物9の上空から画像を取得できる。画像は、例えば構造物9のひび割れ、欠け、汚れ、色あせ、腐食、塗装劣化等の画像である。
【0048】
ドローン99には、位置情報取得装置97と、撮像装置98とが、搭載されてもよい。これにより、構造物9の位置情報と、構造物9の画像と、を一括で取得できる。このため、取得部11は、構造物9の不同沈下情報や外観劣化情報の生成に必要な情報を短時間で取得できる。
【0049】
取得部11は、構造物9のエネルギー吸収能力と入力エネルギーとを取得する。取得部11は、第1エネルギー吸収能力E1を超える過去の入力エネルギーEsを累積した累積入力エネルギーを取得する。
【0050】
<評価部12>
評価部12は、例えば参照テーブルを参照し、剛性Kに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。
【0051】
図7は、剛性Kと補正係数α(K)との関係を示す参照テーブルの一例を示す図である。図7に示すように、参照テーブルには、剛性Kに応じて、構造物9の資産価値を評価する際に用いられる補正係数α(K)が割り当てられる。補正係数α(K)は、構造物9の躯体部分の資産価値を評価する際に用いられる。評価部12は、第1基準剛性K1と、第2基準剛性K2と、第3基準剛性K3との少なくとも何れかと、剛性Kとに基づいて、補正係数α(K)を設定する。また、参照テーブルには、剛性Kに対応する層間変形も割り当てられる。第1基準剛性K1と、第2基準剛性K2と、第3基準剛性K3とは、剛性Kと同様に、第1方向Xと第2方向Yのそれぞれについて、構造物9の各階層毎に求める。
【0052】
図8は、第1基準剛性K1の一例を説明するための図である。第1基準剛性K1は、例えば構造物9の降伏耐力Qyと降伏耐力Qyに対応する層間変位dyとに基づいて、設定される。第1基準剛性K1は、例えばQy/dyで表される。層間変位dyは、例えば、特定の階層における階高Hと、降伏耐力Qyに対応する層間変形角1/120と、を乗じたH/120と設定できる。よって、第1基準剛性K1=Qy/dy=Qy/(H/120)=120Qy/Hとして設定できる。
【0053】
図9は、第2基準剛性K2の一例を説明するための図である。第2基準剛性K2は、例えば構造物9の最大耐力Quと最大耐力Quに対応する層間変位duとに基づいて、設定される。第2基準剛性K2は、例えばQu/duで表される。最大耐力Quは、例えば降伏耐力Qy×1.8で表される。層間変位duは、例えば、特定の階層における階高Hと、降伏耐力Qyに対応する層間変形角1/30と、を乗じたH/30と設定できる。よって、第2基準剛性K2=Qu/du=(Qy×1.8)/(H/30)=54Qy/Hとして設定できる。
【0054】
図10は、第3基準剛性K3の一例を説明するための図である。第3基準剛性K3は、例えば構造物9の耐力Qeと耐力Qeに対応する層間変位deとに基づいて、設定される。第3基準剛性K3は、第2基準剛性K2よりも小さく、例えばQe/deで表される。層間変位deは、層間変位duよりも大きく、例えば特定の階層における階高Hと、耐力Qeに対応する層間変形角1/20と、を乗じたH/20と設定できる。耐力Qeは、例えば0.8×Quで表される。よって、第3基準剛性K3=Qe/de=(Qy×1.8×0.8)/(H/20)=28.8Qy/Hとして設定できる。
【0055】
したがって、K1を100として正規化するとK1:K2:K3=100:45:24と設定することができる。
【0056】
評価部12は、剛性Kが第1基準剛性K1以上の場合の補正係数α(K)を補正係数α1としたとき、参照テーブルを参照し、補正係数α1を例えば1.0と設定する。評価部12は、剛性Kが第1基準剛性K1未満であり第2基準剛性K2以上の場合の補正係数α(K)を補正係数α2としたとき、参照テーブルを参照し、補正係数α2を例えば0.45以上1.0未満の値に設定する。評価部12は、剛性Kが第2基準剛性K2未満であり第3基準剛性K3以上の場合の補正係数α(K)を補正係数α3としたとき、参照テーブルを参照し、補正係数α3を例えば0.0を超え0.45未満の値に設定する。評価部12は、剛性Kが第3基準剛性K3未満である場合の補正係数α(K)を補正係数α4としたとき、参照テーブルを参照し、補正係数α4(K)を例えば0.0と設定する。
【0057】
補正係数α(K)は、構造物9の新築したときの初期剛性K0としたとき、以下の数式(5)のように設定されてもよい。初期剛性K0は、新築の構造物9に例えば公知の振動機を用いて振動を発生させ、第1計測部31と第2計測部32とにより計測される振動に基づいて、固有振動数f0を演算することにより得られる。振動機は、例えば第2計測部32が取り付けられる階層に設置される。これにより、初期剛性K0の実測値を取得することができる。
【0058】
【数5】
【0059】
評価部12は、例えば上記の数式(5)を参照し、剛性Kに基づいて、構造物9の資産価値を評価してもよい。上記の数式(5)による補正係数α(K)は、任意の値を取り得る。
【0060】
評価部12は、例えばK<K0の場合に参照テーブルを参照し、K≧K0の場合に上記の数式(5)を参照し、資産価値を評価してもよい。このとき、参照テーブルで割り当てられる補正係数α(K)は、1未満であることが好ましい。また、評価部12は、例えばK<K0の場合の補正係数α(K)を1.0に設定してもよい。
【0061】
図11は、初期剛性K0に対する剛性Kの比と、層間変形角との関係の一例を示す図である。図11に示すように、初期剛性K0に対する剛性Kの比(剛性残存比)は、層間変位と相関がある。
【0062】
層間変形角が1/120以下の場合、構造物9の剛性Kが第1初期剛性K1以下であるといえる。このとき、構造物9の状態としては、弾性変形の範囲内であり、構造物9は、特段補修、補強工事の必要はないと考えられる。
【0063】
層間変形角が1/120を超え、1/30以下の場合、構造物9の剛性Kが第2初期剛性K2以上第1初期剛性K1未満であるといえる。このとき、構造物9の状態としては、耐力の向上を伴わない補修工事は必要であり、耐力の向上を伴う補強工事は不要であると考えられる。したがって、補正係数α(K)を設定する際、第2初期剛性K2を閾値とすることで、資産価値をより適切に評価できる。
【0064】
層間変形角が1/30を超え、1/20以下の場合、構造物9の剛性Kが第3初期剛性K3以上第2初期剛性K2未満であるといえる。このとき、構造物9の状態としては、耐力の向上を伴う補強工事は必要である。したがって、補正係数α(K)を設定する際、第3初期剛性K3を閾値とすることで、資産価値をより適切に評価できる。
【0065】
層間変形角が1/20を超える場合、構造物9の剛性Kが第3初期剛性K3未満であるといえる。このとき、構造物9の状態としては、危険な状態であるといえる。したがって、構造物9の剛性Kが第3初期剛性K3未満の場合、補正係数α(K)を0.0としてもよい。
【0066】
このように、補正係数α(K)を設定する際、第1基準剛性K1と、第2基準剛性K2と、第3基準剛性K3と、の少なくとも何れかを閾値とすることで、資産価値をより適切に評価できる。すなわち、評価部12は、第1基準剛性K1と、第2基準剛性K2と、第3基準剛性K3と、の少なくとも何れかと、剛性Kと、に基づいて、構造物9の資産価値を評価することにより、資産価値をより適切に評価できる。
【0067】
構造物9の資産価値は、基準資産価値とエネルギー吸収能力と入力エネルギーとに基づいて、評価されてもよい。
【0068】
先ず、構造物9が有するエネルギー吸収能力について説明する。
【0069】
構造物9のエネルギー吸収能力は、構造物9の耐力と変位に基づいて設定される。構造物9のエネルギー吸収能力は、第1方向Xと第2方向Yについて、構造物9の各階層でそれぞれ演算される。構造物9の耐力は、例えば構造物9の壁量に基づいて、設定される。構造物9の耐力は、例えば設計図書に基づいて、設定してもよい。
【0070】
木造の構造物9では、地震動に対して耐力壁で抵抗するものとなる。耐力壁は、筋交いに応じた壁倍率が定められる。例えば片筋交の壁の場合には、壁倍率が2であり、両筋交の壁の場合には、壁倍率が4である。そして、壁量は、壁倍率と壁の長さの積として、水平方向に沿う第1方向Xと第2方向Yについて、構造物9の各階層でそれぞれ演算される。
【0071】
構造物9のエネルギー吸収能力は、例えば耐力と層間変位との関係における面積として評価することができる。構造物9のエネルギー吸収能力は、例えば第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、を有する。
【0072】
第1エネルギー吸収能力E1は、地震動を受けた構造物9がほとんど損傷しないレベルのエネルギーである。第1エネルギー吸収能力E1は、地震動を受けた構造物9が弾性の範囲内で変形できるエネルギーである。第1エネルギー吸収能力E1は、構造物9の降伏耐力Qyと層間変位に基づいて設定される。例えば壁倍率が1の場合には、降伏耐力Qyは、例えば各方向の壁量×1.96(kN)として設定される。そして、構造物9の降伏耐力Qyに対応する層間変位は、例えば、特定の階層における階高Hと、降伏耐力Qyに対応する層間変形角1/120と、を乗じたH/120と設定できる。第1エネルギー吸収能力E1は、図8に示すOABによって囲まれる部分の面積として評価できる。降伏耐力Qyに対応する層間変形角は、任意に設定することができる。
【0073】
第2エネルギー吸収能力E2は、第1エネルギー吸収能力E1よりも大きく、地震動を受けた構造物9の耐震安全性に影響ないレベルのエネルギーである。第2エネルギー吸収能力E2は、構造物9の最大耐力Quと層間変位に基づいて設定される。木造の構造物では、最大耐力Quは、降伏耐力Qyよりも大きくなる。そして、構造物9の最大耐力Quに対応する層間変位は、例えば、特定の階層における階高Hと、降伏耐力Qyに対応する層間変形角1/30と、を乗じたH/30と設定できる。最大耐力Quに対応する層間変形角は、任意に設定することができる。
【0074】
第2エネルギー吸収能力E2は、図9に示すOABCによって囲まれる部分の面積と、図9に示すODEFによって囲まれる部分の面積と、の和として評価できる。ここで、図9に示すエネルギー吸収能力の正側であるOABCについては、点Bをエネルギー吸収能力の評価点としている。このため、図9に示すOABCの面積を評価する際、図9に示すBC線は、垂線としてよい。図9に示すエネルギー吸収能力の負側であるODEFについては、点Eが通過点であり、点F、点Oを経て正側へと進む。なお、図9に示すODEFの面積を評価する際、図9に示すEF線は、OD線と平行としてよい。
【0075】
第3エネルギー吸収能力E3は、第2エネルギー吸収能力E2よりも大きく、地震動を受けた構造物9が倒壊しないレベルのエネルギーである。第3エネルギー吸収能力E3は、構造物9の最大耐力Quより小さい耐力Qeと層間変位に基づいて設定される。耐力Qeは、例えば最大耐力Qu×0.8で表される。そして、構造物9の耐力Qeに対応する層間変位は、例えば特定の階層における階高Hと、耐力Qeに対応する層間変形角1/20と、を乗じたH/20と設定できる。耐力Qeに対応する層間変形角は、任意に設定することができる。
【0076】
第3エネルギー吸収能力E3は、図10に示すOABCDによって囲まれる部分の面積と、図9に示すOEFGIによって囲まれる部分の面積と、の和として評価できる。ここで、図9に示すエネルギー吸収能力の正側であるOABCDについては、点Cをエネルギー吸収能力の評価点としている。このため、図10に示すOABCDの面積を評価する際、図10に示すCD線は、垂線としてよい。図10に示すエネルギー吸収能力の負側であるOEFGHについては、点Gは通過点であり、点I、点Oを経て正側へと進む。なお、図10に示すOEFGIの面積を評価する際、図10に示すGI線は、OE線と平行としてよい。
【0077】
次に、構造物9へ入力される入力エネルギーについて説明する。入力エネルギーは、計測部3により計測された地震動と構造物9の質量Mとに基づいて演算される。入力エネルギーの演算は、例えば取得部11により行われるが、評価部12により行われてもよい。
【0078】
構造物9に地震動が作用したときの一時刻における力の釣り合いは、以下の数式(6)を満たす。なお、以下の数式(6)は、秋山宏「エネルギーの釣合に基づく建築物の耐震設計」技報堂出版(1999年11月26日発行)に記載の1質点振動系の一方向水平地動下の力の釣合式に基づく。
【0079】
【数6】
M:構造物の地上部分の全質量
Cy(ドット):減衰力
F(y):復元力
-MZ(ツードット):地震力
C:減衰係数
:水平地動
y:構造物の地面に対する相対変位
【0080】
上記の(6)の両辺に相対変位増分である以下の数式(7)を乗じて、以下の数式(8)が得られる。
【数7】
【0081】
【数8】
ここで、数式(8)の積分範囲の「0」は、地震開始時間を示し、数式(8)の積分範囲の「l」は、地震継続時間を示す。
【0082】
上記数式(8)の左辺は、構造物9の発揮するエネルギー吸収である。上記数式(8)の右辺は、地震終了時の構造物9の総入力エネルギーEである。すなわち、構造物9の総入力エネルギーEは、以下の数式(9)を満たす。評価部12は、計測部3により計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9へ入力される総入力エネルギーEを演算する。計測部3としては、例えば公知の加速度計が用いられ、計測部3により上記の数式(8)のZ(ツードット)が計測できる。
【0083】
【数9】
【0084】
取得部11は、構造物9の総入力エネルギーEと質量Mに基づいて、総入力エネルギー等価速度Vを演算する。構造物9の総入力エネルギーEに対応する総入力エネルギー等価速度Vは、以下の数式(10)で表わされる。
【0085】
【数10】
【0086】
取得部11は、計測した地震動と固有周期Tと質量Mとに基づいて、総入力エネルギー等価速度Vと構造物9の固有周期Tとの関係を示すエネルギースペクトルを作成してもよい。なお、エネルギースペクトルの作成は、任意であり、省略されてもよい。
【0087】
構造物に入力される地震の総入力エネルギーEは、以下の数式(11)に示すように、構造物の運動エネルギーWkと、弾性ひずみエネルギーWeと、塑性ひずみエネルギーWpと、減衰によるエネルギー吸収量Whと、の総和である。
【0088】
【数11】
【0089】
構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEは、構造物9の総入力エネルギーEから減衰によるエネルギー吸収量Whを減算したものである。したがって、上記数式(11)により、構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEは、以下の数式(12)を満たす。
【0090】
【数12】
【0091】
取得部11は、総入力エネルギー等価速度Vと構造物9の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度Vを演算する。構造物9の総入力エネルギーEに対応する総入力エネルギー等価速度Vと、損傷に寄与する有効入力エネルギーEに対応する有効入力エネルギー等価速度Vとは、以下の数式(13)を満たす。hは、構造物9の減衰定数である。構造物9が木造の場合、例えば減衰定数hは、0.05である。
【0092】
【数13】
【0093】
そして、取得部11は、有効入力エネルギー等価速度Vと質量Mとに基づいて、構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEを演算する。構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEは、以下の数式(14)を満たす。
【0094】
【数14】
【0095】
取得部11は、構造物9が複数の階層を有する場合、損傷に寄与する有効入力エネルギーEとエネルギー分配率βとに基づいて、構造物9の各階層に入力される入力エネルギーEsを演算する。各階層の入力エネルギーEsは、以下の数式(16)、数式(17)を参照し、以下の数式(15)で表される。ここで、βは、各階層のエネルギー分配率であり、sは、1階に対する各階層の入力エネルギー量の比を表す基準値であり、αは、各階層の降伏せん断力係数であり、Aは、各階層の降伏せん断力係数分布であり、pは、降伏せん断力係数の比α/αの降伏せん断力係数分布Aに対するずれである。
【0096】
【数15】
【0097】
【数16】
【0098】
【数17】
【0099】
また、取得部11は、構造物9が単一の階層(1階建て)の場合、エネルギー分配率βを1とし、上記の数式(15)により損傷に寄与する有効入力エネルギーEに基づいて、入力エネルギーEsを演算する。
【0100】
なお、取得部11は、構造物9に入力される総入力エネルギーEに基づいて、構造物9の各階層に入力される入力エネルギーEsを演算してもよい。このとき、入力エネルギーEsは、上記数式(15)の損傷に寄与する有効入力エネルギーEを、総入力エネルギーEに置き換えて演算すればよい。
【0101】
評価部12は、基準資産価値とエネルギー吸収能力と入力エネルギーとに基づいて、資産価値を評価する。評価部12は、第3エネルギー吸収能力E3と総入力エネルギーEとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。評価部12は、第3エネルギー吸収能力E3と、有効入力エネルギーEとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。評価部12は、第3エネルギー吸収能力E3と、累積入力エネルギーと、に基づいて、構造物9の資産価値を評価する。
【0102】
評価部12は、基準資産価値と累積入力エネルギーと第3エネルギー吸収能力E3とに基づいて、補正係数α(Es)を例えば以下の数式(18)により設定する。
【0103】
【数18】
【0104】
入力エネルギーEsが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、構造物9が弾性範囲内での変形であると考えられる。この場合、第1エネルギー吸収能力E1以下の入力エネルギーEsは、構造物9に蓄積されない。このため、当該地震動の前後において構造物9の剛性Kは、ほとんど変化しないと考えられる。
【0105】
対して、入力エネルギーEsが第1エネルギー吸収能力E1を超える場合、構造物9に降伏耐力Qyを超える耐力が作用するため、第1エネルギー吸収能力E1を超える入力エネルギーEsが構造物9に蓄積される。このため、当該地震動の後において構造物9の剛性Kは、低下すると考えられる。
【0106】
ここで、エネルギー吸収残存比を、数式(18)の右辺である(1-累積入力エネルギー/第3エネルギー吸収能力E3)とする。
【0107】
例えば図12に示すように、1回目の入力エネルギーEsが第1エネルギー吸収能力E1を超える場合、入力エネルギー履歴としては点O、点A、点K1、点K2、点O、点E、点K3、点K4、点Oという履歴を辿り、1回目の地震動の入力エネルギーEsが構造物9に蓄積される。
【0108】
例えば図12に示すように、2回目の地震動の入力エネルギーEsが第1エネルギー吸収能力E1を超える場合、エネルギー履歴としては点O、点K2、点K1、点K5、点K6、点O、点K4、点K3、点K7、点K8、点Oという履歴を辿り、2回目の地震動の入力エネルギーEsも構造物9に蓄積される。
【0109】
上記の1回目の地震動と2回目の地震動を受けた場合、構造物9は、図12の斜線部分で示す面積の分だけ入力エネルギーの余力を有しているといえる。つまり、エネルギー吸収残存比は、対象とする構造物9に対して、今後想定される地震動に対してどの程度の余裕を有しているかを示す。したがって、エネルギー吸収残存比に基づいて、補正係数α(Es)を設定し、設定した補正係数α(Es)に基づいて、資産価値を評価することができる。
【0110】
図13は、エネルギー吸収残存比と、層間変形角との関係の一例を示す図である。図13に示すように、エネルギー吸収残存比は、層間変位と相関がある。エネルギー吸収残存比は、数式(18)の右辺である(1-累積入力エネルギー/第3エネルギー吸収能力E3)である。
【0111】
層間変形角が1/120以下の場合、累積入力エネルギーが第1エネルギー吸収能力E1以下である。このとき、構造物9の状態としては、弾性変形の範囲内であり、構造物9は、特段補修、補強工事の必要はないと考えられる。
【0112】
層間変形角が1/120より大きく、1/30以下の場合、累積入力エネルギーが第1エネルギー吸収能力E1より大きく第2エネルギー吸収能力E2以下であるといえる。このとき、構造物9の状態としては、耐力の向上を伴わない補修工事は必要であり、耐力の向上を伴う補強工事は不要であると考えられる。
【0113】
層間変形角が1/30より大きく、1/20以下の場合、累積入力エネルギーが第2エネルギー吸収能力E2より大きく第3エネルギー吸収能力E3以下であるといえる。このとき、構造物9の状態としては、耐力の向上を伴う補強工事は必要である。
【0114】
層間変形角が1/20より大きい場合、累積入力エネルギーが第3エネルギー吸収能力E3より大きいといえる。このとき、構造物9の状態としては、危険な状態であるといえる。
【0115】
したがって、補正係数α(Es)を設定する際、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、の少なくとも何れかを閾値とすることで、資産価値をより適切に評価できる。すなわち、評価部12は、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、の少なくとも何れかと、累積入力エネルギーと、に基づいて、構造物9の資産価値を評価することにより、資産価値をより適切に評価できる。
【0116】
図14は、累積入力エネルギーと補正係数α(Es)との関係を示す参照テーブルの一例を示す図である。図14に示すように、参照テーブルには、累積入力エネルギーに応じて、構造物9の資産価値を評価する際に用いられる補正係数α(Es)が割り当てられる。補正係数α(Es)は、構造物9の躯体部分の資産価値を評価する際に用いられる。評価部12は、参照テーブルを参照し、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、の少なくとも何れかと、累積入力エネルギーと、に基づいて、補正係数α(Es )を設定する。これにより、累積入力エネルギーに応じた補正係数α(Es)を設定できる。また、参照テーブルには、累積入力エネルギーに対応する層間変形も割り当てられる。
【0117】
評価部12は、構造物9の資産価値を評価する際、例えば構造物9の躯体部分と、仕上部分と、設備部分と、の資産価値の和として評価する。評価部12は、基準資産価値を予め設定された躯体部分と、仕上部分と、設備部分との構成比に割り当て、躯体部分と、仕上部分と、設備部分と、のそれぞれの資産価値を評価する。
【0118】
評価部12は、構造物9の基準資産価値と剛性Kと不同沈下情報とに基づいて、資産価値と評価してもよい。評価部12は、例えば不同沈下情報に応じて基準資産価値を補正する係数が割り当てられ、この係数を基準資産価値に乗じて資産価値を評価する。これにより、構造物9の不同沈下の影響を資産価値に反映させることができる。
【0119】
評価部12は、構造物9の基準資産価値と剛性Kと外観劣化情報とに基づいて、資産価値と評価してもよい。評価部12は、例えば外観劣化情報に応じて基準資産価値を補正する係数が割り当てられ、この係数を基準資産価値に乗じて資産価値を評価する。これにより、構造物9の外観劣化の影響を資産価値に反映させることができる。
【0120】
<記憶部13>
記憶部13は、各種情報を保存部104に記憶させ、又は各種情報を保存部104から取出す。記憶部13は、取得部11と、評価部12と、表示部14との処理内容に応じて、各種情報の記憶又は取出しを行う。記憶部13は、取得部11により取得した各種情報を記憶する。記憶部13は、評価部12により取得した各種情報を記憶する。記憶部13は、例えば構造物9の基準資産価値、剛性K、不同沈下情報、外観劣化情報等が記憶される。
【0121】
記憶部13は、構造物9の新築時の設計図書、施工監理記録、建築確認書類等が記憶される。記憶部13は、構造物9の維持管理計画、点検結果報告書、改修報告書等が記憶される。
【0122】
記憶部13は、ドローン等に搭載されたカメラにより撮影された構造物9の画像が記憶される。画像は、可視光画像であってもよいし、赤外線画像であってもよい。画像は、新築時、新築後所定の期間経過後等に適宜撮影される。記憶部13は、構造物9の画像を時系列で比較することにより取得される構造物9の残留変形計測結果が記憶される。記憶部13は、構造物9の画像を時系列で比較することにより取得されるタイルの浮き、外壁の損傷、外壁の断熱性、屋根の劣化等の外観劣化情報が記憶される。記憶部13は、構造物9と、所定の基準点とを含む画像であってもよい。記憶部13は、構造物9の基準点を含む画像を時系列で比較することにより取得される構造物9の不同沈下情報が記憶される。
【0123】
構造物9の資産価値を評価する際、評価部12は、外観劣化情報、不同沈下情報に基づいてもよい。構造物9の資産価値を評価する際、評価部12は、記憶部13に記憶された構造物9の新築時の設計図書、施工監理記録、建築確認書類、維持管理計画、点検結果報告書、改修報告書、残留変形計測結果等に基づいてもよい。
【0124】
<表示部14>
表示部14は、各種情報を表示する。表示部14は、例えば構造物9の資産価値を表示する。
【0125】
(資産価値評価システム100の動作の第1例)
次に、資産価値評価システム100の動作の第1例について説明する。図15は、資産価値評価システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0126】
<計測ステップS11>
計測部3は、複数の階層を有する構造物9に作用する地振動を計測する(計測ステップS11)。第1計測部31は、構造物9の1階に取り付けられ、地振動を計測する。第2計測部32は、第1計測部31が取り付けられる階層よりも高い階層である構造物9の2階に取り付けられ、地振動を計測する。
【0127】
<取得ステップS12>
取得部11は、第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動を取得する。取得部11は、第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動を参照し、構造物9の固有振動数fを演算する。この振動は、例えば過去に構造物9に作用した地震動である。取得部11は、固有振動数fから剛性Kを取得する(取得ステップS12)。これにより、構造物9の剛性Kの実測値を取得できる。また、取得部11は、構造物9の基準資産価値として再調達原価を取得する。
【0128】
<評価ステップS13>
評価部12は、構造物9の基準資産価値と剛性Kとに基づいて、構造物9の資産価値の評価する(評価ステップS13)。
【0129】
評価部12は、例えば図7に示す参照テーブルを参照し、剛性Kに応じて補正係数α(K)を設定する。
【0130】
そして、評価部12は、構造物9の躯体部分と、仕上部分と、設備部分と、のそれぞれの資産価値を評価する。
【0131】
以下、新築してから24年後の構造物9の資産価値を評価した。評価に当たり、構造物9は、長期優良住宅であるとした。単位面積当たりの価格を20(万円/m)とし、構造物9の床面積を100(m)とし、構造物9の再調達原価を2000(万円)とした。以下、表1に概要を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
構造物9の構成比は、躯体部分40%、仕上部分40%、設備部分20%とした。
【0134】
躯体部分については、耐用年数を100年とした。躯体部分については、剛性Kに基づいて、資産価値を評価した。また、剛性Kに基づく原価比として、補正係数α(K)を用いる。本例では、剛性KがK2≦K<K1であったとし、補正係数αを0.8と設定した。観察原価率は、0(%/年)とした。
【0135】
仕上部分と設備部分については、耐用年数を15年とした。仕上部分と設備部分とについては、15年ごとにメンテナンスを行うものとした。新築24年後では、メンテナンス後9年が経過していることから、仕上部分と設備部分との経済的残存耐用年数は、耐用年数15年からメンテナンス後9年を減じて、6年とした。また、仕上部分と設備部分については、定額法による原価率と、観察原価率を考慮した。定額法による原価率は、(経済的残存耐用年数)/(耐用年数)として、40%とした。観察原価率は、1(%/年)減少するものとした。
【0136】
評価部12は、躯体部分の資産価値を(単位面積当たりの価格)×(床面積)×(構成比)×(剛性Kに基づく原価比)×(1-観察原価率)として評価した。その結果、躯体部分の資産価値は、20(万円/m)×100(m)×40(%)×0.8×(1-0.0)=6,400,000円であった。
【0137】
評価部12は、仕上部分の資産価値を(単位面積当たりの価格)×(床面積)×(構成比)×(定額法による原価比)×(1-観察原価率)として評価した。その結果、仕上部分の資産価値は、20(万円/m)×100(m)×40(%)×0.40×(1-0.24)=2,432,000円であった。
【0138】
評価部12は、設備部分の資産価値を(単位面積当たりの価格)×(床面積)×(構成比)×(定額法による原価比)×(1-観察原価率)として評価した。その結果、設備部分の資産価値は、20(万円/m)×100(m)×20(%)×0.40×(1-0.24)=1,216,000円であった。
【0139】
よって、評価部12は、構造物9の資産価値を、躯体部分と、仕上部分と、設備部分と、のそれぞれの資産価値の和である10,048,000円であった。
【0140】
<表示ステップS14>
表示部14は、評価部12により評価した構造物9の資産価値を表示する(表示ステップS14)。
【0141】
以上により、資産価値評価システム100の動作の一例が完了する。
【0142】
一方、新築してから24年後の構造物9の資産価値を、従来の定額法により評価した。評価に当たり、構造物9は、長期優良住宅であるとした。単位面積当たりの価格を20(万円/m)とし、構造物9の床面積を100(m)とし、構造物9の再調達原価を2000(万円)とした。以下、表2に概要を示す。
【0143】
【表2】
【0144】
躯体部分については、経済的残存耐用年数は、耐用年数100年から24年を減じて、76年とした。また、躯体部分については、定額法による原価率と、観察原価率を考慮した。定額法による原価率は、(経済的残存耐用年数)/(耐用年数)として、76%とした。観察原価率は、1(%/年)減少するものとした。なお、仕上部分と設備部分については、表1と同様とした。
【0145】
評価部12は、躯体部分の資産価値を(単位面積当たりの価格)×(床面積)×(構成比)×(定額法による原価比)×(1-観察原価率)として評価した。その結果、躯体部分の資産価値は、20(万円/m)×100(m)×40(%)×0.76×(1-0.24)=4,620,800円であった。
【0146】
評価部12は、仕上部分の資産価値を(単位面積当たりの価格)×(床面積)×(構成比)×(定額法による原価比)×(1-観察原価率)として評価した。その結果、仕上部分の資産価値は、20(万円/m)×100(m)×40(%)×0.40×(1-0.24)=2,432,000円であった。
【0147】
評価部12は、設備部分の資産価値を(単位面積当たりの価格)×(床面積)×(構成比)×(定額法による原価比)×(1-観察原価率)として評価した。その結果、設備部分の資産価値は、20(万円/m)×100(m)×20(%)×0.40×(1-0.24)=1,216,000円であった。
【0148】
よって、従来の定額法による構造物9の資産価値は、躯体部分と、仕上部分と、設備部分と、のそれぞれの資産価値の和である8,268,800円であった。
【0149】
以上、資産価値評価システム100により評価した構造物9の資産価値を本発明例とし、従来の定額法により評価した構造物9の資産価値を比較例とし、以下の表3に示す。表3に示すように、資産価値評価システム100により評価した構造物9の資産価値(10,048,000円)は、従来の定額法により評価した構造物9の資産価値(8,268,800円)よりも高くなった。
【0150】
【表3】
【0151】
図16は、構造物9の資産価値と経過年数との関係の一例を示す図である。上記したように、資産価値評価システム100では、剛性Kに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。このため、例えば地震の発生に伴い、構造物9の剛性Kが低下することが考えられる。その結果、地震の発生に伴い、構造物9の資産価値が低下する。また、耐震補強工事に伴い、構造物9の剛性Kが増加することが考えられる。その結果、耐震補強工事に伴い、構造物9の資産価値が向上する。すなわち、資産価値評価システム100では、構造物9の現状、特に躯体部分の現状を考慮して、資産価値を評価することができる。したがって、構造物9の資産価値を精度よく評価することが可能となる。
【0152】
次に、資産価値評価システム100の作用効果について説明する。
【0153】
本実施形態によれば、構造物9の基準資産価値と構造物9の剛性Kとを取得する取得部11と、基準資産価値と剛性Kとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する評価部12と、を備える。これにより、例えば構造物9の躯体部分の資産価値を適正に評価することができる。このため、構造物9の資産価値を精度よく評価することが可能となる。
【0154】
本実施形態によれば、複数の階層を有する構造物9に作用する振動を計測する計測部3を更に備え、計測部3は、構造物9の特定の階層に取り付けられる第1計測部31と、第1計測部31が取り付けられる階層よりも高い階層に取り付けられる第2計測部32と、を有し、取得部11は、第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動に基づいて、剛性Kを演算する。これにより、構造物9の剛性Kを実測値として取得することができる。このため、例えば構造物9の躯体部分の資産価値を更に適正に評価することができる。その結果、構造物9の資産価値を更に精度よく評価することが可能となる。
【0155】
本実施形態によれば、取得部11は、構造物9の降伏耐力Qyに基づいて設定された第1基準剛性K1を取得し、評価部12は、第1基準剛性K1を参照し、剛性Kに基づいて、資産価値を評価する。これにより、構造物9が過去に受けた地震の影響を、例えば構造物9の躯体部分の資産価値に反映させることができる。その結果、構造物9の資産価値を更に精度よく評価することが可能となる。
【0156】
本実施形態によれば、取得部11は、構造物9の降伏耐力Qyに基づいて演算された第1基準剛性K1と、構造物9の最大耐力Quに基づいて演算された第2基準剛性K2と、第2基準剛性K2よりも小さい第3基準剛性K3と、を取得し、評価部12は、第1基準剛性K1と、第2基準剛性K2と、第3基準剛性K3と、を参照し、剛性Kに基づいて、資産価値を評価する。これにより、構造物9が過去に受けた地震の影響を、より詳細に構造物9の躯体部分の資産価値に反映させることができる。このため、躯体部分の資産価値を更に適正に評価することができる。その結果、構造物9の資産価値を更に精度よく評価することが可能となる。
【0157】
本実施形態によれば、取得部11は、構造物9の新築時の初期剛性K0を取得し、評価部12は、初期剛性K0を参照し、剛性Kに基づいて、資産価値を評価する。これにより、構造物9が過去に受けた地震の影響を、構造物9の躯体部分の資産価値に反映させることができる。また、構造物9に耐震補強工事の影響を、構造物9の躯体部分の資産価値に反映させることができる。このため、躯体部分の資産価値を一層適正に評価することができる。その結果、構造物9の資産価値を一層精度よく評価することが可能となる。
【0158】
本実施形態によれば、評価部12は、構造物9の基準資産価値と剛性Kと不同沈下情報とに基づいて、資産価値を評価する。これにより、構造物9の不同沈下の影響を資産価値に反映させることができる。その結果、構造物9の資産価値を更に精度よく評価することが可能となる。
【0159】
本実施形態によれば、評価部12は、構造物9の基準資産価値と剛性Kと外観劣化情報とに基づいて、資産価値を評価する。これにより、構造物9の外観劣化の影響を資産価値に反映させることができる。その結果、構造物9の資産価値を更に精度よく評価することが可能となる。
【0160】
(資産価値評価システム100の動作の第2例)
次に、資産価値評価システム100の動作の第2例について説明する。図17は、資産価値評価システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0161】
資産価値評価システム100は、評価装置1と、計測部3と、を備える。評価装置1は、基準資産価値とエネルギー吸収能力と入力エネルギーとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。入力エネルギーは、過去の地震等により構造物がどこまで変形したのかを評価する指標となり得る。このため、資産価値評価システム100によれば、構造物9の資産価値を精度よく評価することが可能となる。
【0162】
<計測ステップS21>
計測部3は、複数の階層を有する構造物9に作用する地振動を計測する(計測ステップS21)。第1計測部31は、構造物9の1階に取り付けられ、地振動を計測する。第2計測部32は、第1計測部31が取り付けられる階層よりも高い階層である構造物9の2階に取り付けられ、地振動を計測する。
【0163】
<取得ステップS22>
取得部11は、第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動を取得する。取得部11は、第1計測部31と第2計測部32とにより計測された振動を参照し、入力エネルギーEsを取得する。また、取得部11は、構造物9の第1エネルギー吸収能力E1と、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、を取得する。取得部11は、第1エネルギー吸収能力E1を超える入力エネルギーEsを累積した累積入力エネルギーを取得する。また、取得部11は、構造物9の基準資産価値として再調達原価を取得する。なお、取得部11は、計測ステップS21の前に、構造物9の第1エネルギー吸収能力E1と、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、を取得してもよい。
【0164】
<評価ステップS23>
評価部12は、構造物9の基準資産価値と第3エネルギー吸収能力E3と累積入力エネルギーとに基づいて、構造物9の資産価値の評価する(評価ステップS23)。
【0165】
評価部12は、例えば上記の数式(18)を参照し、累積入力エネルギーに応じて補正係数α(Es)を設定する。なお、評価部12は、例えば図14に示す参照テーブルを参照し、基準資産価値と、第1エネルギー吸収能力E1と第2エネルギー吸収能力E2と第3エネルギー吸収能力E3との少なくとも何れかと、入力エネルギーEsとに基づいて、累積入力エネルギーに応じて補正係数α(Es)を設定してもよい。
【0166】
そして、評価部12は、構造物9の躯体部分と、仕上部分と、設備部分と、のそれぞれの資産価値を評価する。評価部12は、躯体部分について、補正係数α(Es)に基づいて、資産価値を評価する。
【0167】
<表示ステップS24>
表示部14は、評価部12により評価した構造物9の資産価値を表示する(表示ステップS24)。
【0168】
以上により、資産価値評価システム100の動作の一例が完了する。次に、資産価値評価システム100の作用効果について説明する。
【0169】
本実施形態によれば、構造物9の基準資産価値と、構造物9の耐力と変位とに基づいて予め設定されたエネルギー吸収能力と、計測された構造物9の振動に基づいて演算されるとともに構造物9へ入力される入力エネルギーと、を取得する取得部11と、基準資産価値とエネルギー吸収能力と入力エネルギーとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する評価部12と、を備える。これにより、例えば構造物9の躯体部分の資産価値を適正に評価することができる。このため、構造物9の資産価値を精度よく評価することが可能となる。
【0170】
本実施形態によれば、取得部11は、構造物9の減衰を考慮しない総入力エネルギーEを入力エネルギーとして取得する。これにより、構造物9の資産価値を安全側で評価することができる。
【0171】
本実施形態によれば、取得部11は、構造物9の減衰を考慮した有効入力エネルギーEを入力エネルギーとして取得する。これにより、構造物9の減衰を考慮した有効入力エネルギーEを演算できる。このため、構造物9の資産価値をより精度よく診断できる。
【0172】
本実施形態によれば、取得部11は、構造物9の降伏耐力と降伏耐力に対応する変位とに基づいて設定される第1エネルギー吸収能力E1と、構造物9の最大耐力と最大耐力に対応する変位とに基づいて設定されるとともに第1エネルギー吸収能力E1より大きい第2エネルギー吸収能力E2と、第2エネルギー吸収能力E2より大きい第3エネルギー吸収能力E3と、を取得し、評価部12は、基準資産価値と、第1エネルギー吸収能力E1と第2エネルギー吸収能力E2と第3エネルギー吸収能力E3の少なくとも何れかと、入力エネルギーEsと、に基づいて、構造物9の資産価値を評価する。これにより、累積入力エネルギーに応じた補正係数α(Es)を設定できる。また、過去に構造物9が受けた、耐力の低下を伴う地震動の影響を考慮して資産価値を評価できる。このため、構造物9の資産価値をより精度よく評価できる。
【0173】
本実施形態によれば、評価部12は、基準資産価値と第3エネルギー吸収能力E3と累積入力エネルギーとに基づいて、構造物9の資産価値を評価する。これにより、第3エネルギー吸収能力E3を閾値とした補正係数α(Es)を設定できる。このため、構造物9の資産価値をより精度よく評価できる。
【0174】
本実施形態では、資産価値評価システム100として説明したが、資産価値評価システム100の動作をコンピュータに実行させる資産価値評価プログラムとして具現化されてもよい。また、本実施形態では、資産価値評価システム100として説明したが、資産価値評価システム100の動作を行うような資産価値評価方法として具現化されてもよい。
【0175】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0176】
100 :資産価値評価システム
1 :評価装置
10 :筐体
11 :取得部
12 :評価部
13 :記憶部
14 :表示部
101 :CPU
102 :ROM
103 :RAM
104 :保存部
105 :I/F
106 :I/F
107 :I/F
110 :内部バス
111 :入力装置
113 :表示装置
3 :計測部
31 :第1計測部
32 :第2計測部
S11 :計測ステップ
S12 :取得ステップ
S13 :評価ステップ
S14 :表示ステップ
X :第1方向
Y :第2方向
Z :第3方向
【要約】      (修正有)
【課題】構造物の資産価値を精度よく評価することが可能となる資産価値評価システム及び資産価値評価プログラムを提供する。
【解決手段】構造物9の資産価値を評価する資産価値評価システムであって、構造物の基準資産価値と、構造物の剛性と、を取得する取得部と、基準資産価値と剛性とに基づいて、構造物の資産価値を評価する評価部と、複数の階層を有する構造物に作用する振動を計測する計測部とを、を備える。計測部は、構造物の特定の階層に取り付けられる第1計測部121と、第1計測部が取り付けられる階層よりも高い階層に取り付けられる第2計測部122と、を有し、取得部は、第1計測部と第2計測部とにより計測された振動に基づいて、剛性を演算する。
【選択図】図15
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17