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特許7098208銀/ゲルマニウム合金鍍金液及び電解メッキ法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】銀/ゲルマニウム合金鍍金液及び電解メッキ法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20220704BHJP
   C25D 3/64 20060101ALI20220704BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C25D3/56 E
C25D3/64
C25D7/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022021590
(22)【出願日】2022-02-15
【審査請求日】2022-02-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390021027
【氏名又は名称】株式会社ビクトリア
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土子 和之
(72)【発明者】
【氏名】中川 克己
(72)【発明者】
【氏名】新倉 厚
(72)【発明者】
【氏名】山田 政行
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-249514(JP,A)
【文献】特開2021-130867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/56
C25D 3/64
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~300g/Lの電導塩、可溶性銀化合物、及び可溶性ゲルマニウム化合物を含有し、pHが10以上であり、
前記導電塩はアルカリ金属シアン化物、無機酸アルカリ金属塩、及び有機酸アルカリ金属塩の少なくとも1つであり、
前記可溶性ゲルマニウム化合物はスルホン酸ゲルマニウム塩、リン酸ゲルマニウム塩、ピロリン酸ゲルマニウム塩、硫酸ゲルマニウム塩、硝酸ゲルマニウム塩、及び有機酸ゲルマニウム塩の少なくとも1つを含むことを特徴とする銀/ゲルマニウム合金鍍金液。
【請求項2】
請求項1に記載された銀/ゲルマニウム合金鍍金液において、前記可溶性銀化合物を銀として0.5~100g/L、前記可溶性ゲルマニウム化合物をゲルマニウムとして0.1~50g/Lの範囲の含有量で含有することを特徴とする銀/ゲルマニウム合金鍍金液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された銀/ゲルマニウム合金鍍金液において、前記電導塩をシアン化合物として0.5~150g/Lの範囲の含有量で含有することを特徴とする銀/ゲルマニウム合金鍍金液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された銀/ゲルマニウム合金鍍金液において、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属水酸化物の少なくとも1つをアルカリ金属として0.5~100g/Lの範囲の含有量で含有することを特徴とする銀/ゲルマニウム合金鍍金液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載された銀/ゲルマニウム合金鍍金液を使用して基材上にメッキ皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする電解メッキ法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載された銀/ゲルマニウム合金鍍金液において、前記可溶性ゲルマニウム化合物をゲルマニウムとして0.309~50g/Lの範囲の含有量で含有することを特徴とする銀/ゲルマニウム合金鍍金液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀/ゲルマニウム合金鍍金液、電解メッキ法、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
銀メッキが装身具、電子部品等の物品の基材上に施されており、銀メッキ法について数多く報告されている。例えば特許文献1には、特定範囲の算術平均粗さRaを備える銀メッキ層を有するLED発光素子用反射板が開示されている。
【0003】
従来の銀メッキ層よりも高い硬度及び耐熱性を有すると予想される銀/ゲルマニウム合金メッキ層の形成が希求されるようになっている。しかしながら、蒸着法及びスパッタ法による銀/ゲルマニウム合金メッキ層の形成は長い時間と高価な設備を要し、また銀とゲルマニウムを溶融して10μm以下の薄膜を安定して物品に安定して付着させられないと予想される。したがって、銀/ゲルマニウム合金メッキ層の形成は実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-117948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、銀/ゲルマニウム合金メッキ層の湿式法による形成が希求されていたが、銀/ゲルマニウム合金メッキ層を形成できる湿式法は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、銀/ゲルマニウム合金メッキ層を与える銀/ゲルマニウム合金鍍金液、当該鍍金液を使用する電解メッキ法、及び当該メッキ層が基材上に形成されている物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、電導塩、可溶性銀化合物、及び可溶性ゲルマニウム化合物を含有し、pHが10以上である銀/ゲルマニウム合金鍍金液が、本発明の上記技術課題を解決できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明は、1~300g/Lの電導塩、可溶性銀化合物、及び可溶性ゲルマニウム化合物を含有し、pHが10以上であり、前記導電塩はアルカリ金属シアン化物、無機酸アルカリ金属塩、及び有機酸アルカリ金属塩の少なくとも1つであり、前記可溶性ゲルマニウム化合物はスルホン酸ゲルマニウム塩、リン酸ゲルマニウム塩、ピロリン酸ゲルマニウム塩、硫酸ゲルマニウム塩、硝酸ゲルマニウム塩、及び有機酸ゲルマニウム塩の少なくとも1つを含むことを特徴とする銀/ゲルマニウム合金鍍金液である。
前記銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、好ましくは前記可溶性銀化合物を銀として0.5~100g/L、前記可溶性ゲルマニウム化合物をゲルマニウムとして0.1~50g/Lの範囲の含有量で含有する。
前記銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、好ましくは前記電導塩をシアン化合物として0.5~150g/Lの範囲の含有量で含有する。
前記銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属水酸化物の少なくとも1つをアルカリ金属として0.5~100g/Lの範囲の含有量で含有する
前記銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、好ましくは前記可溶性ゲルマニウム化合物をゲルマニウムとして0.431~50g/Lの範囲の含有量で含有する。
【0008】
さらに本発明は、前記銀/ゲルマニウム合金鍍金液を使用して基材上にメッキ皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする電解メッキ法である。
【0009】
また本発明は、銀及びゲルマニウムを含むメッキ層が基材上に形成されていることを特徴とする物品である。
前記メッキ層の厚みは、好ましくは0.1~100μmの範囲である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、銀/ゲルマニウム合金メッキ層を与える鍍金液を提供できる。本発明の電解メッキ法は、銀/ゲルマニウム合金メッキ層を湿式法により形成できる。本発明の物品は、銀メッキ層よりも高い硬度及び耐熱性を有する銀/ゲルマニウム合金メッキ層が形成されているものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について更に詳細に説明する。
<電導塩>
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、電導塩を含む。当該電導塩として、例えばアルカリ金属シアン化物、リン酸アルカリ金属塩、ピロリン酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ金属塩、硝酸アルカリ金属塩等の無機酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ金属塩等の有機酸アルカリ金属塩等が挙げられる。
前記電導塩は、好ましくは前記アルカリ金属シアン化物、無機酸アルカリ金属塩、及び有機酸アルカリ金属塩の少なくとも1つを含み、より好ましくは前記アルカリ金属シアン化物、無機酸アルカリ金属塩、及び有機酸アルカリ金属塩の少なくとも1つであり、更に好ましくはアルカリ金属シアン化物であり、特に好ましくはシアン化ナトリウム、及びシアン化カリウムの少なくとも1つである。
前記アルカリ金属はリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムの少なくとも1つであり、好ましくはナトリウム、及びカリウムの少なくとも1つである。
【0012】
前記電導塩の濃度は1~300g/Lである。前記電導塩の濃度が1g/L未満である場合、電導塩、特にアルカリ金属シアン化合物の分解により鍍金液寿命が極端に短くなる。前記電導塩の濃度が300g/Lより大きい場合、電導塩の飽和濃度に近くなり電導塩の結晶が生成される。
前記電導塩は、好ましくはシアン化合物として0.5~150g/Lの範囲の含有量で含有される。前記電導塩の濃度が当該範囲であると、銀/ゲルマニウム合金メッキ層の硬度及び耐熱性がより向上する。
【0013】
<可溶性銀化合物>
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液は可溶性銀化合物を含む。当該可溶性銀化合物として、例えばアルカリ金属と銀のシアン錯塩化合物、AgCN、リン酸銀塩、ピロリン酸銀塩、硫酸銀塩、硝酸銀塩等の無機酸銀塩、スルホン酸銀塩、クエン酸銀塩等の有機酸銀塩等が挙げられる。前記シアン錯塩化合物のアルカリ金属は、前記電導塩のアルカリ金属と同様である。
前記可溶性銀化合物は、好ましくはアルカリ金属と銀のシアン錯塩化合物、AgCN、無機酸銀塩、及び有機酸銀塩の少なくとも1つを含み、より好ましくはアルカリ金属と銀のシアン錯塩化合物、AgCN、無機酸銀塩、及び有機酸銀塩の少なくとも1つであり、更に好ましくはアルカリ金属と銀のシアン錯塩化合物及びAgCNの少なくとも1つであり、特に好ましくはNaAg(CN)2、及びKAg(CN)2の少なくとも1つである。
【0014】
前記電導塩がNaCN又はKCNを含み、前記可溶性銀化合物がAgCNを含む場合、同当量のNaCN又はKCNとAgCNが反応し、NaAg(CN)2又はKAg(CN)2が本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液に溶解している。
【0015】
前記可溶性銀化合物は、好ましくは銀として0.5~100g/Lの範囲の含有量で含まれる。前記可溶性銀化合物の含有量が前記範囲であると、銀/ゲルマニウム合金メッキ層の硬度及び耐熱性がより向上する。
【0016】
<可溶性ゲルマニウム化合物>
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液は可溶性ゲルマニウム化合物を含む。当該可溶性ゲルマニウム化合物として、例えばスルホン酸ゲルマニウム塩、リン酸ゲルマニウム塩、ピロリン酸ゲルマニウム塩、硫酸ゲルマニウム塩、硝酸ゲルマニウム塩等の無機酸ゲルマニウム塩、クエン酸ゲルマニウム塩等の有機酸ゲルマニウム塩等が挙げられる。
前記可溶性ゲルマニウム化合物は、好ましくは無機酸ゲルマニウム塩、及び有機酸ゲルマニウム塩の少なくとも1つを含み、より好ましくは無機酸ゲルマニウム塩、及び有機酸ゲルマニウム塩の少なくとも1つであり、更に好ましくはスルホン酸ゲルマニウム塩である。
【0017】
前記可溶性ゲルマニウム化合物は、好ましくはゲルマニウムとして0.5~100g/Lの範囲の含有量で含まれる。前記可溶性ゲルマニウム化合物の含有量が当該範囲であると、銀/ゲルマニウム合金メッキ層の硬度及び耐熱性がより向上する。
【0018】
<pH>
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液のpHは10以上である。本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液のpHが10未満であると、前記電導、可溶性銀化合物、及び可溶性ゲルマニウム化合物の少なくとも1つが析出するおそれがある。本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液のpHは、好ましくは11以上である。
【0019】
<副電導塩>
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液は副電導塩を含有してよい。当該副電導塩として、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属水酸化物が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属水酸化物のアルカリ金属は、前記電導塩のアルカリ金属と同様である。前記副電導塩は、好ましくはアルカリ金属炭酸塩を含み、より好ましくは炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムの少なくとも1つを含む。アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属水酸化物の少なくとも1つは、好ましくはアルカリ金属として0.5~100g/Lの範囲の含有量で含有される。
【0020】
<その他の成分>
本発明の銀/ゲルマニウム合金鍍金液はその他の成分を含有してよい。当該その他の成分として、例えばペルフルオロオクタンスルホン酸カリウム等の光沢剤、ナフタリンスルホン酸ナトリウム等の応力除去剤、平滑剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
<電解メッキ法>
本発明の電解メッキ法は、前記銀/ゲルマニウム合金鍍金液を使用して基材上にメッキ層を形成する工程を含む。当該メッキ皮膜を形成する工程における電流密度は好ましくは0.1~10.0A/dm2の範囲であり、メッキ時間は好ましくは1分~30分の範囲である。また銀/ゲルマニウム合金鍍金液の液温は好ましくは15~80℃の範囲である。本発明の電解メッキ法は、銀/ゲルマニウムの比率、メッキ層の厚み等を、メッキ条件を変更して容易に変更できる。さらに本発明の電解メッキ法は、当該メッキ皮膜を迅速に形成できる。
【0022】
本発明の電解メッキ法により形成される銀及びゲルマニウムを含むメッキ層の厚さは、好ましくは0.1~100μmである。当該メッキ層中のゲルマニウムの含有量は、好ましくは0.5~80質量%である。
【0023】
本発明の電解メッキ法が適用される基材は特定の基材に限定されない。当該基材には、一般のメッキ処理と同様にその表面にバフ、ブラスト、研磨等の前処理が施されていてもよい。当該基材が真鍮、チタン、ステンレス等の卑金属製である場合、光沢ニッケルメッキ、金メッキ等の下地メッキを施してもよい。さらに本発明の電解メッキ法により形成されたメッキ層の上に金メッキ等の貴金属メッキが施されてもよい。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<メッキ層中のゲルマニウムの含有量>
メッキ層中のゲルマニウムの含有量を蛍光X線分析装置(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製XAN150)で測定した。
【0026】
<メッキ層の硬度>
メッキ層の硬度を微小硬度計(AKASHI製MVK―H2)で測定した。
【0027】
<メッキ層の耐熱性>
メッキ層が形成された真鍮母材板を200℃で60分間加熱し、加熱後の当該真鍮母材板の外観を目視により観察し、下記基準に従って評価した。
-メッキ層の耐熱性の評価基準-
A:変色を確認できなかった。
B:変色を確認した。
【0028】
<メッキ層のメッキ直後の外観>
形成された各メッキ層のメッキ直後の外観を目視により観察し、下記基準に従って評価した。
-メッキ層のメッキ直後の外観の評価基準-
A:均一だった。
B:ざらつきがあり、剥離又は滑落が生じた。
【0029】
実施例1~13及び比較例1~3
真鍮母材板(25mm×20mm×0.1mm)を研磨し、表1に示す条件の各工程を実施し、メッキ層を形成した。結果を表2及び3に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
なお、表1に示されるシアン系Agストライクは、例えば日本プレイティング協会発行「実用めっき(1)」第452頁にも記載されている周知の鍍金液である。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
1)ナフタレントリスルホン酸ナトリウム
2)PEG#400
【0034】
可溶性ゲルマニウム化合物を含有しない鍍金液を使用して電解メッキ法により形成した比較例1~3のメッキ層の硬度及び耐熱性は低かった。一方、所定の銀/ゲルマニウム合金鍍金液を使用して電解メッキ法により迅速に形成した実施例1~13のメッキ層の硬度及び耐熱性は高かった。実施例1~13及び比較例1~3のメッキ層が形成された真鍮母材板を曲げても、各メッキ層の剥落は発生しなかった。
【要約】
【課題】銀/ゲルマニウム合金メッキ層を与える銀鍍金液、当該鍍金液を使用する電解メッキ法、及び銀及びゲルマニウムを含むメッキ層が基材上に形成されている物品を提供する。
【解決手段】銀/ゲルマニウム合金鍍金液が、1~300g/Lの電導塩、可溶性銀化合物、及び可溶性ゲルマニウム化合物を含有し、pHが10以上である。この銀/ゲルマニウム合金鍍金液は、副電導塩としてアルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属水酸化物の少なくとも1つを含有してもよい。電解メッキ法が、この銀/ゲルマニウム合金鍍金液を使用して基材上にメッキ皮膜を形成する工程を含む。銀及びゲルマニウムを含むメッキ層が基材上に形成されている物品。
【選択図】なし