(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】弦楽器励振装置および弦楽器励振システム
(51)【国際特許分類】
G10D 1/02 20060101AFI20220704BHJP
G10D 3/00 20200101ALI20220704BHJP
【FI】
G10D1/02
G10D3/00
(21)【出願番号】P 2021171797
(22)【出願日】2021-10-20
【審査請求日】2021-11-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594109211
【氏名又は名称】大島 英男
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 英男
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-505137(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199613(WO,A1)
【文献】特開2019-174500(JP,A)
【文献】特開2019-29703(JP,A)
【文献】特開2020-98306(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 1/00-3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動装置からの振動を弦楽器に伝えて当該弦楽器を響鳴させる弦楽器励振装置であって、
前記弦楽器の弦への取付面を有する本体基板と、
前記取付面に設けられ、前記弦に係合する係合部と、
前記取付面とは異なる面に設けられ、前記振動装置を接続する振動装置接続面と、を備え
、
前記係合部は、前記弦の撓み力を用いて前記弦に係合する
弦楽器励振装置。
【請求項2】
振動装置からの振動を弦楽器に伝えて当該弦楽器を響鳴させる弦楽器励振装置であって、
前記弦楽器の弦への取付面を有する本体基板と、
前記取付面に設けられ、前記弦に係合する係合部と、
前記取付面とは異なる面に設けられ、前記振動装置を接続する振動装置接続面と、を備え
、
前記係合部は、溝底から溝開口に向かって溝幅が広がる溝を有し、前記弦を溝底側の溝幅で係合する
弦楽器励振装置。
【請求項3】
振動装置からの振動を弦楽器に伝えて当該弦楽器を響鳴させる弦楽器励振装置であって、
前記弦楽器の弦への取付面を有する本体基板と、
前記取付面に設けられ、前記弦に係合する係合部と、
前記取付面とは異なる面に設けられ、前記振動装置を接続する振動装置接続面と、を備え
、
前記係合部は、前記取付面から深さ方向に形成された緩やかな曲線状の溝である
弦楽器励振装置。
【請求項4】
振動装置からの振動を弦楽器に伝えて当該弦楽器を響鳴させる弦楽器励振装置であって、
前記弦楽器の弦への取付面を有する本体基板と、
前記取付面に設けられ、前記弦の撓み力を用いて第1の弦に係合する第1係合部と、
前記取付面に設けられ、前記弦の撓み力を用いて第2の弦に係合する第2係合部と、
前記取付面とは異なる面に設けられ、前記振動装置を接続する振動装置接続面と、を備える
弦楽器励振装置。
【請求項5】
前記取付面は、第1取付面と、前記第1取付面と対向配置された第2取付面とを有し、
前記第1係合部は、前記第1取付面に設けられ、前記第2係合部は、前記第2取付面に設けられる
請求項
4に記載の弦楽器励振装置。
【請求項6】
前記本体基板および前記振動装置は、前記第1の弦と前記第2の弦の間に配置され、前記第1の弦と前記第2の弦との張力を用いて、係合される
請求項
4に記載の弦楽器励振装置。
【請求項7】
前記係合部は、前記取付面から深さ方向に形成された緩やかな曲線状の溝である
請求項1に記載の弦楽器励振装置。
【請求項8】
前記溝は、複数の前記弦に対向する位置に、前記取付面に隣り合って複数形成されている請求項
2または請求項
3に記載の弦楽器励振装置。
【請求項9】
前記曲線状の溝は、S字形状の溝である
請求項7に記載の弦楽器励振装置。
【請求項10】
前記係合部が係合する前記弦の位置は、前記弦楽器の表板に設置される駒の近傍である
請求項1
ないし請求項3のいずれか一項に記載の弦楽器励振装置。
【請求項11】
前記振動装置を接続する接続部を除く前記振動装置接続面の周囲を覆って不要振動を抑制する制振部材を備える
請求項1
ないし請求項4のいずれか一項に記載の弦楽器励振装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の弦楽器励振装置を備え、
前記弦楽器励振装置は、音階演奏例から見た各弦の特徴周波数で、各弦を独立して励振させる
弦楽器励振システム。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の弦楽器励振装置と、
前記弦楽器励振装置の前記振動装置接続面に取り付けられる振動装置と、備える
弦楽器励振システム。
【請求項14】
音源装置と、
前記音源装置からの音信号を、各弦が受け持つ音階に合わせて弦ごとにイコライズする、および/または、音源装置からの音信号を、反転出力するプロセス回路と、を備える
請求項12または請求項13に記載の弦楽器励振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器励振装置および弦楽器励振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、弦楽器は、表板(胴板)と裏板および側板とによって構成された響鳴胴を有し、表板には響穴(サウンドホール)が形成されている。また、弦楽器は、表板に板状のブリッジベース部材が接着剤によって固定されており、ブリッジベース部材上には弦を支持するために弦の長手方向と直交する方向に延在する駒(ブリッジ)が取り付けられている。
そして、各弦は、ブリッジの上部を超えて一端部をブリッジベース部材に取り付けられたブリッジピンに係止されている。この弦のそれぞれは、他端部をヘッド側(テール側)に設けられている張力調整機構によって張力を与えられることにより、ブリッジの上面に押し付けられ、ブリッジによって有効な位置に規定される。
このような弦楽器を用いて、弦楽器のブリッジを外部から、例えば圧電振動子やスピーカのような振動手段により響鳴させるシステムが提案されている。
【0003】
特許文献1には、自動バイオリン用増幅器の出力によって振動する圧電振動子と圧電振動子の固定治具と振動伝達体とを備えた圧電振動・伝達ユニットと、駒の振動により発音する自動バイオリンと、スピーカ・ラインに接続したスピーカ用増幅器と、スピーカ用増幅器に接続したダイナミックスピーカとを備えるバイオリンとスピーカによる重畳再生装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、ブリッジを備えた弦楽器を加振するための装置であって、前記ブリッジに当接するべき作用点部を備えたベース部材と、前記ベース部材に取り付けられた、電気信号を機械振動に変換する振動発生器とを含み、前記ベース部材が、前記弦楽器の少なくとも1本の弦の上面に係合する支点部と、前記作用点部と前記支点部との中間位置で前記少なくとも1本の弦の下面に係合する力点部と、前記支点部および前記力点部の少なくとも一方を、前記作用点部を前記ブリッジに向けて付勢する向きに変位させるための手段とを有することを特徴とする装置が記載されている。
【0005】
非特許文献1には、球状マイクロホンアレイを使用し、ストラディバリウスの音響的特徴の解明を行った研究結果が報告されている。例えば、周波数の関数として表した放射指向性の強さのパターンは、ストラディバリウス間で類似していることが明らかになったとされる。ここで、放射指向性の強さとは、音がある特定の一方位に集中するほど高い値を示す空間放射特性の一指標である。また、放射指向性の強さのパターンに関して、中域(1kHz前後)と高域(3kHz前後)に現れるピークの周波数は、ストラディバリウスと他のバイオリン(オールド、モダン、およびコンテンポラリ)とで異なっていたとされる。
【0006】
非特許文献2には、各種バイオリンの音階演奏時の放射指向性の強さを算出した放射指向性のパターンが報告されている。放射指向性のパターンのピークとディップ周波数、およびその周波数比に音響的特徴が現れることが考察されたとする記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-35851号公報
【文献】WO2014199613A1号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「オールドバイオリンの音響的特徴の解明」2016 Fiscal Year Research-status Report,牧勝弘等,[online],[令和3年5月1日検索],インターネット 〈 URL : https://kaken.nii.ac.jp/en/report/KAKENHI-PROJECT-16K00255/16K002552016hokoku/〉
【文献】「バイオリン「ストラディバリウス」の放射指向性」日本音響学会秋季研究発表会講演論文集(2017.9.25-27),牧勝弘等,[online],[令和3年5月1日検索],インターネット 〈 URL : http://www.asj.gr.jp/annualmeeting/pdf/2017autumn_timeschedule.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、バイオリンの胴体の内部に加振機を組み込むもので、バイオリンの製造時に行う必要があり、通常のバイオリンとして扱うことはできない。また、既存のバイオリンを改造して、加振機を組み込むことも考えられるが、高価なバイオリンにこのような改造を行うことは多くの場合、受け入れられない。
【0010】
また、特許文献2に記載の加振装置では、支点部および力点部が弦に係合し、作用点部においてブリッジに係合するので、作用点部をブリッジに対して十分に強い力で押し付けることが可能になる。しかしながら、弦楽器から再生される楽音については、一般的なHiFiスピーカの音質には達していない。
【0011】
非特許文献1,2の記載のように、ストラディバリウスを含むオールドバイオリンの音響的特徴が研究されているものの、弦楽器を高音質で鳴らすことができる装置は実現されていない。
【0012】
このような観点から、本発明は、弦楽器を高音質で鳴らすことができる弦楽器励振装置および弦楽器励振システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の弦楽器励振装置は、振動装置からの振動を弦楽器に伝えて当該弦楽器を響鳴させる弦楽器励振装置であって、前記弦楽器の弦への取付面を有する本体基板と、前記取付面に設けられ、前記弦に係合する係合部と、前記取付面とは異なる面に設けられ、前記振動装置を接続する振動装置接続面と、を備え、前記係合部は、前記弦の撓み力を用いて前記弦に係合する構成とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弦楽器を高音質で鳴らすことができる弦楽器励振装置および弦楽器励振システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】上記第1の実施形態に係る弦楽器励振装置の弦に取り付けられた構成を示す斜視図である。
【
図3】上記第1の実施形態に係る弦楽器励振装置をテール側の弦に取り付けた例を示す斜視図である。
【
図4】上記第1の実施形態に係る弦楽器励振装置の構成を示す図であり、(a)は下方から見た斜視図、(b)は(a)の弦楽器励振装置を弦に取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図5】上記第1の実施形態に係る弦楽器励振装置の弦への取り付けを説明する図であり、(a)は、バイオリンのテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図、(b)は、バイオリンの胴体の側面側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図、(c)は、バイオリンの胴体側から見た取り付け状態を示す図である。
【
図6】変形例1の弦楽器励振装置の構成を示す図であり、(a)は下方から見た斜視図、(b)は(a)の弦楽器励振装置を弦に取り付けた状態を示す斜視図、(c)はバイオリン1のテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図である。
【
図7】変形例2の弦楽器励振装置の構成を示す図であり、(a)は下方から見た斜視図、(b)は(a)の弦楽器励振装置を弦に取り付けた状態を示す斜視図、(c)はバイオリン1のテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図である。
【
図8】変形例3の弦楽器励振装置の構成を示す図であり、(a)は下方から見た斜視図、(b)は(a)の弦楽器励振装置を弦に取り付けた状態を示す斜視図、(c)はバイオリン1のテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図である。
【
図9】変形例4の弦楽器励振装置の構成を示す分解斜視図である。
【
図10】変形例4の取り付け状態を示す図であり、(a)はバイオリン1のテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図、(b)はバイオリン1の胴体5の側面側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図、(c)は、バイオリン1の胴体5側から見た取り付け状態を示す図である。
【
図11】変形例5の弦に取り付けられた弦楽器励振装置の構成を示す斜視図である。
【
図12】本実施形態に係る弦楽器励振装置を説明するための参考資料としての一般的なバイオリンのパワースペクトルを示す図である。
【
図13】本実施形態に係る弦楽器励振装置を説明するための参考資料としてのオールドバイオリンのパワースペクトルを示す図である。
【
図14】変形例6の弦に取り付けられた弦楽器励振装置の構成を示す斜視図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態に係る弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の構成を示す斜視図である。
【
図16】上記第2の実施形態に係る弦楽器励振装置の弦への取り付けを説明する図であり、(a)は、バイオリンのテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図、(b)は、バイオリンの胴体側から見た取り付け状態を示す図である。
【
図17】本発明の第3の実施形態に係る弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の構成を示す斜視図である。
【
図18】上記第3の実施形態に係る弦楽器励振装置の弦への取り付けを説明する図であり、(a)は、バイオリン1のテール側から見た弦楽器励振装置の取り付け状態を示す図、(b)は、バイオリン1の胴体5側から見た取り付け状態を示す図である。
【
図19】本発明の第4の実施形態に係る弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の構成を示す斜視図である。
【
図20】上記第4の実施形態に係る弦楽器励振装置の弦への取り付けを説明する図であり、(a)は、
図19の弦楽器励振装置の斜視図、(b)は、
図19の弦楽器励振装置の分解斜視図である。
【
図21】変形例7の弦楽器励振装置の弦楽器励振装置の構成を示す図であり、(a)は弦楽器励振装置の斜視図、(b)は、(a)の弦楽器励振装置の分解斜視図である。
【
図22】変形例8の弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の構成を示す斜視図である。
【
図23】変形例8の弦楽器励振装置の斜視図であり、(a)は変形例7の弦楽器励振装置の斜視図、(b)は変形例7の弦楽器励振装置の分解斜視図である。
【
図24】本発明の第5の実施形態に係る弦楽器励振装置を取り付けた弦楽器の構成を示す斜視図である。
【
図25】上記第5の実施形態に係る弦楽器励振装置の分解斜視図である。
【
図26】変形例8の弦楽器励振装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
(第1の実施形態)
本実施形態は、弦楽器として例えばチェロやヴィオラなどに適用することができるが、ここではバイオリンに適用した例として説明する。
[全体構成]
弦楽器励振装置100と弦楽器励振装置100-1とは、弦の取り付け位置が異なり、同一構成である。以下、
図2に示すネック側の弦に取り付けた弦楽器励振装置100を例に取る。なお、
図2および
図3の要部拡大図は、G弦(音の低い弦15g)取り付けられた弦楽器励振装置100の構成を示している。
【0017】
図1および
図2に示すように、弦楽器励振システムSは、振動装置30からの振動をバイオリン1(弦楽器)に伝えてバイオリン1(弦楽器)を高音質で鳴らす弦楽器励振装置100と、弦楽器励振装置100を励振する振動装置30と、を備える。振動装置30は、音源装置50から出力される音信号により振動する。音源装置50は、音信号を再生する音源であり、出力された音信号は、振動装置30に入力される。
弦楽器励振装置100は、振動装置30の音響振動を、バイオリン1に伝えて当該バイオリン1を響鳴させる。
【0018】
バイオリン1は、一般的なものである。また、バイオリン以外の弦楽器(例えばチェロやヴィオラ)にも適用可能である。
バイオリン1は、表板2、裏板3および側板4からなる胴体5と、表板2上からヘッド側(テール側)に延びる指板6と、胴体5のヘッド側頂部および指板6の背面に固定されたネック7と、を備える。ネック7のヘッド8は、渦巻き9を形成し、糸巻き(ペグ)10を備える。表板2のテール側には、テールピース11が固定されテールピース11にはアジャスタ12が取り付けられる。表板2には、胴体5内部に開口する一対のf字孔13が形成される。そして、胴体5は、ヘルムホルツ共鳴器を構成している。
【0019】
表板2の裏面にあるバスバー(図示省略)は、表板2を補強するとともに低音の響きを強め安定させる役割を有する。胴体5内には、魂柱(図示省略)と呼ばれる円柱が立てられており、駒(ブリッジ)20を通って表板2に達した振動を裏板3に伝える。
弦15は、正面から見て左が低音、右が高音の弦であり、高音の弦から順にE弦,A弦,D弦,G弦である。4本の弦15e,15a,15d,15g(
図2参照)は、胴体5に固定されたテールピース11から駒20の上を通り、指板6の先にある上駒(ナット)16に引っ掛けてその先の糸巻き10に巻き取られる。
【0020】
<駒20>
バイオリン1の表板2(
図1参照)に設置される駒20について述べる。
図2に示すように、駒20は、弦15を支持する上面部20aと、上面部20a上に所定間隔で形成された弦溝20bと、を有する。上面部20aは、上に凸となる緩やかな曲面で形成されている。駒20は、4本の弦15e,15a,15d,15gを弦溝20bによって所定の位置に支え、弦15e,15a,15d,15gの振動を表板2(
図2参照)に伝える。駒20は、指板6とテールピース11(
図1参照)の間の表板2上に、表板2に対してほぼ垂直となるように設置され、取り外し可能である。
【0021】
駒20は、左右対称ではなく、G弦(音の低い弦15g)側とE弦(音の高い弦15e)側で高さを変えている。高さを左右非対称にすることで、ボウイング(弓遣い)と構えで4本の弦15e,15a,15d,15gが扱いやすい位置になるようにしている。
【0022】
駒20は、その中央部で厚み方向に渦巻き形状の開口部20fが開口し、さらに開口部20f下方には側端面に渦巻き形状の一端が連通する開口部20g(駒左右の円形の切れ込み)が左右2箇所に形成される。駒20は、2つの足部20hと、足部20hと開口部20gの側端面との間に形成された円形窪み部20iと、足部20hと足部20hとの間の平坦底部20jと、を有する。
【0023】
また、駒20は、上面部20aの厚みよりも足部20hの厚みが大きくなるように、駒20の厚さが徐々に変化している。さらに、駒20は、一方の面が平面であり、対向する他方の面が凸状に形成されている。
駒20は、一例として楓材が用いられる。楓材は、有効に音を伝達できるよう密度が高く、木の繊維も規則正しく詰まっている。
【0024】
<音源装置50>
音源装置50は、音信号を再生する音源である。音源装置50は、振動装置30に音信号を出力するものであればどのような電子機器でもよい。音源装置50は、バイオリンなどの弦楽器の音を音源として出力している。弦楽器の音を音源として出力した場合、実演奏に近く、リアリティ度の高い楽音を再生することができる。
【0025】
音源装置50は、CPU51、メモリ52、入力回路53、および、出力回路54を備える。
CPU51は、ROMまたは電気的に書換可能な不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)に記憶された弦加振音プログラム52aを読み出してRAMに展開し、弦加振制御を行う。CPU51は、入力回路53を介して入力される入力信号に基づいて、各部を制御するための制御信号を、出力回路54を介して出力する。
【0026】
メモリ52は、各種処理のプログラムを収めたROM、RAM、EEPROM等から構成される。メモリ52は、ハードディスクドライブ(HDD)等の外部記憶装置を含む。メモリ52には、弦加振音プログラム52aを含む制御プログラムが記憶されている。
【0027】
入力回路53には、キーボードやマウス等の入力装置55からの入力信号が入力される。
出力回路54は、音信号出力結果等を出力するための信号(例えば表示部56に表示するための表示信号)を出力する。また、出力回路54は、振動装置30を駆動するためのドライバを有していてもよく、この場合は、音源装置50の音信号を直接振動装置30に出力することも可能である。
【0028】
<位相反転回路60>
・増幅機能
位相反転回路60は、音源装置50から出力された音信号を、スピーカ20を駆動する音信号に増幅する。
・位相反転機能
位相反転回路60は、上記音源装置50から出力された音信号のうち一方の極性の信号を反転させて、振動装置30Aまたは振動装置30B(後記
図19等参照)に出力する。
・プロセス回路機能
本発明者の実験によれば、音響測定では各弦加振の特性に大きな差はない知見を得ている。しかし、実際の演奏では、各弦が受け持つ音階がある。そこで、位相反転回路60は、プロセス回路機能を備える。プロセス回路機能は、各弦が受け持つ音階に合わせて弦ごとに音信号をイコライズする。プロセス回路機能は、2弦以上の同時加振ではどのような特性にするかを調整する。また、プロセス回路機能では、イコライズに加えて左右の極性を反転する処理も行う。
【0029】
<振動装置30>
振動装置30は、音源装置50から出力され、位相反転回路60により増幅された音信号により振動する。
振動装置30は、小型スピーカを使用する(
図1~
図23参照)。振動装置30は、超磁歪スピーカを利用する(
図24~
図26参照)。
・小型スピーカ(
図1~
図23参照)
一般に、スピーカは、電気信号を前後方向に振動するボイスコイルと、ボイスコイルに直結された振動板(いずれも図示省略)と、を備え、この振動板が振動することで音信号と等しい波形の音が空気中に放射される。振動装置30の振動板である円形のコーン紙に、本体基板110の振動装置接続面130(
図2参照)を接着剤により直付する。これにより、振動装置30の振動板(コーン紙)の振動は、接続部210を介して本体基板110に直接伝わる。
【0030】
最近、IC技術でピエゾ素子を薄膜上に数百~1千素子並べたピエゾ薄膜スピーカが実用化されている。ピエゾ薄膜スピーカは、バルクでは困難だった低域の再生が可能になるなど性能向上が図られている。ピエゾ薄膜スピーカは、例えば20mm×30mmのフィルム状であるため、本体基板110の振動装置接続面130に直接接着することができる。
【0031】
・超磁歪スピーカ(
図25および
図26参照)
超磁歪スピーカは、超磁歪材料の振動子を用いたフラットパネルスピーカである。超磁歪材料の振動子は、円柱状の超磁歪素子にコイルを巻いた構造であり、コイルに音電流が流れると、超磁歪素子が伸縮し、その力によって厚いアクリル板を振動させて音を再生する。超磁歪スピーカの適用例は、両サイド加振スピーカ45を用いて後記する(
図24~
図26参照)。
【0032】
なお、本実施形態では、振動装置30は、接続部31を介して本体基板110の振動装置接続面130(
図2参照)に取り付けられているが、振動装置30を振動装置接続面130に直接取り付けてもよい。
また、振動装置30本体は、軽量であるため振動装置30本体を支持する支持部材(図示省略)は特に設置しなくてもよい。
【0033】
以上、弦楽器励振装置100をネック側の弦に取り付けた例について説明したが、
図3に示すように、弦楽器励振装置100-1をテール側の弦に取り付けてもよい。なお、後述する各実施形態および変形例は、ネック側の弦に取り付けた例について説明する。
【0034】
[弦楽器励振装置構成]
図2に示すように、弦楽器励振装置100は、駒20に近い弦15(ここでは、G弦15g)に取り付けられる。なお、後記するように、弦楽器励振装置100は、バイオリン1の4本の弦15e,15a,15d,15gのうち、どの弦15に取り付けてもよい。ただし、G弦(弦15g)またはE弦(15e)への取り付けは、弦15に対して外方からの取り付けとなるため装着が容易である利点がある。また、各弦15e,15a,15d,15gに取り付けた場合の音響的効果の差異については、後記する。
【0035】
図4に示すように、弦楽器励振装置100は、弦15への取付面110aを有する本体基板110と、本体基板110の取付面110aに設けられ、弦15の撓み力を用いて弦15に係合する係合部120と、取付面110aとは異なる面(取付面110aに直交する面)に設けられ、振動装置30を接続する振動装置接続面130と、を備える。
【0036】
本実施形態では、振動装置接続面130(接続部)に、更に接続部31を取り付けている。接続部31は、弦楽器励振装置100の必須の構成要素ではなく、省略は可能である。なお、接続部31は、本体基板110ではなく、振動装置30側に取り付けられるものでもよい。また、接続部31は、円柱形状としたが角柱形状であっても構わない。
【0037】
<本体基板110>
本体基板110は、本実施形態では弦15が延びる方向に辺が長い長方体状部材である。本体基板110は、例えば、断面が10mm×10mmで、長さが15mmの角棒である。
本体基板110の形状を直方体形状にすると加工が容易で、材料に無駄が生じない。また、直方体形状を採ると、直方体面に取付面110aと振動装置接続面130を形成しやすい。すなわち、振動装置接続面130は、弦15に対して横方向から、音の振動を伝えようとする。一方で、取付面110aに形成された係合部120は、弦15の脱落を抑制するため、弦15の振動方向ではないことが好ましい。したがって、取付面110aと振動装置接続面130とを直交配置することで、音の振動を最もよく伝達しつつ、本体基板110を弦15に恒久的に安定して取り付けることができる。
【0038】
本体基板110は、振動を伝えやすい材料、例えば駒20の材料と同じ材料(例えば楓材)が好適である。本体基板110は、振動を伝えやすい材料(軽量かつ適度な密度と剛性がある材料)であれば、他の木材や樹脂等でもよい。
【0039】
<係合部120>
係合部120は、弦15に係合し、係合部120に伝えられた振動を正確に効率よく弦15に伝える機能を有する。
係合部120は、弦15の撓み力を利用して弦15に係合する。ここで、弦15の撓み力とは、弦15を局所的に曲げたり変形させたりした場合に元に戻ろうとする復元力をいう。
【0040】
係合部120は、取付面110aから深さ方向に溝堀された緩やかな曲線状の溝である。本実施形態では、緩やかな曲線状の溝として、取付面110aから深さ方向に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝である。
【0041】
上記したように、本体基板110が、例えば、断面が10mm×10mmで、長さが15mmの角棒である場合、この本体基板110の上面(取付面110a)に、弦直径の幅を持ち深さ5mm、長さ15mmの溝を、緩やかな曲線状に蛇行しながら掘る(本実施形態では、S字形状の弦取り付け溝を溝堀する)。
【0042】
係合部120は、弦15への取り付け、取り外しが容易でかつ弦15に安定に保持される機能が求められる。
本発明者が実験に用いたバイオリン1の弦の太さは、G弦:0.79mm、D弦:0.72mm、A弦:0.66mm、E弦:0.29mmである。本実施形態では、係合部120は、S字形状の弦取り付け溝である。溝を有する係合部120の場合、溝幅がわずかに狭ければ弦15を挿入できず、溝幅が広ければ当たりが緩くなったりビリツキが生じたりする。
【0043】
係合部(S字形状の弦取り付け溝)120は、S字形状の振幅の幅(PP値)は2mm程度で、S字溝の溝幅は弦の太さに比べてわずかに広くして弦の太さのバラツキに対応できるようにしている。係合部120を弦15に押し込むと、弦15がS字に沿って曲がる結果、弦15は撓み力で、溝両内面に圧着され、弦15と係合部120とは、安定に結合される。
【0044】
「弦の撓み力」について述べる。弦15は、ガット(羊腸)、ナイロン、スチール等を素材とする。弦15を張る(両端から引っ張る)ことで、弦15には張力が生じ、外力に対して撓むことで力を押し返すように働く。係合部120は、弦15の撓み力に抗して、溝に挿入されることで、弦15から溝の側面に対し強い押圧力が働き、係合部120を弦15に強く係合させることができる。
【0045】
以下、具体的に係合部(S字形状の弦取り付け溝)120について説明する。
・溝の深さ
係合部120は、取付面110aから深さ方向(本体基板110の内側方向)に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝である。この溝の深さは、弦15に対して真横となるような深さまで溝堀される。本実施形態では、係合部120は、本体基板110の高さの略半分まで溝堀される。
図2に示すように、弦楽器励振装置100を弦15に装着したとき、弦15が係合部120の底部に嵌まり込む。装着完了時には、弦楽器励振装置100は、振動装置接続面130の中央部分が、弦15に対し真横に位置する。
【0046】
振動装置30からの加振を、係合部(S字形状の弦取り付け溝)120の溝両端に直交する方向に加える。この場合、振動装置30からの加振を、弦15に対し真横に位置することが好ましい。
【0047】
・溝の長さ
係合部(S字形状の弦取り付け溝)120は、長方体状の本体基板110の長尺方向の全長に亘って形成される。
図2および
図4(b)に示すように、係合部120を適度な長さとすることで、弦楽器励振装置100は、弦15に対して、弦15の軸方向および周方向でずれることなく、確実に安定して取り付けることができる。また、溝の形状をS字形状とすることで、より短い長さでも十分に弦楽器励振装置100を弦15に安定して取り付けることができる。
【0048】
また、本発明者は、S字曲線の振幅幅、すなわちS字形状の弦取り付け溝の差し渡しの長さを選ぶことにより、弦15の撓み力が変化し、係合力(圧着力)を変化させることができることを見出した。例えば、係合部(S字形状の弦取り付け溝)120は、S字形状の溝の全長が15mmである場合、S字形状の溝の振幅の幅を約2mmとすると、高品質再生に適した圧着力が得られることが確かめられた。
【0049】
・溝の幅
係合部(S字形状の弦取り付け溝)120は、弦直径の幅に対応する溝が掘られる。
係合部120は、溝の両端の壁で弦15を左右方向から挟み込んで係合する。このため、弦15の太さに対応する溝幅とする。例えば、G弦(弦15g)に取り付ける場合には、係合部120の溝幅は、太いG弦(弦15g)に対応した広い溝幅とする。また、装着した弦楽器励振装置100がずれないようにするため、係合部120の溝幅は、弦15の太さと同等程度とし、取り付け時には、弦15を係合部120に押し込んで取り付ける。
本体基板110の材質が、楓材等の木材であれば、溝幅を弦15の太さと同等程度とすることで、係合部120をわずかに変形させながら底部まで押し込むことができる。その後、わずかに変形した溝が元に戻ることで、底部に装着された弦15がその位置で係合される。
【0050】
一方、本体基板110の材質が、変形し難い樹脂であれば、溝幅を弦15の太さよりわずかに大きくすることで、弦15を係合部120に押し込むことができる。ただし、係合部120の側壁と弦15は、剛性部材同士が当接するため、弦15が係合部120内で滑って、弦楽器励振装置100が弦15の軸方向および周方向でずれてしまう可能性がある。対策として、(1)溝の形状を工夫し弦15の側面を両面から一点または二点に当接するようなS字形状や楔形形状とする、(2)係合部120内部に滑り止め部材を設置または塗布する、(3)本体基板110の材質を少なくとも係合部120側で変形しやすい軟樹脂とする、が挙げられる。上記(2)(3)は、構造が複雑となり、コスト上昇が懸念される。また、音の伝達に対して悪影響を与える可能性がある。また、上記(3)について、本体基板110の全体の材質を、軟樹脂とすると構造は単純化されるものの、音の伝達が抑制される可能性がある。
【0051】
・溝の形状
S字形状の弦取り付け溝は、凸部と凹部とがあり、弦15と溝両側面との密着状態が対称となるようS字曲線が形成される。溝の曲線が凸部のみ凹部のみの場合は、弦15が凸壁面に強く当たるため、溝両端の密着が不均衡となる。S字形状の弦取り付け溝とすることで弦15と溝両側面との密着状態が対称にすることができる。
【0052】
係合部120は、
図4(a)(b)に示すように、取付面110aからみてS字形状の溝である。溝の形状をS字形状とすることで、
図4(b)に示すように、弦15は、係合部120の一方の凸部の壁と、他方の凸部の壁との2点において、2つの凸部間で撓み力を付与されながら、強く当接し固定される。これにより、弦楽器励振装置100を弦15に安定して取り付けることができる。また、溝の幅を弦15の太さより広くしても弦15が係合部120から外れないので、溝の幅を弦15の太さに一致させるような高い加工精度が不要であり、コスト低減を図ることができる。溝の幅を弦15の太さより広くできるので、弦15への弦楽器励振装置100の取り付け/取り外しが容易な装置を実現できる。さらに、弦15が係合部120から外れないので、本体基板110の材質を変形し難い樹脂を用いて簡素に構成することができる。また、本体基板110の材質に、木材等の軟らかい部材を用いても、溝が大きくなるなどの経年使用による劣化を防ぐことができる。
【0053】
本実施形態では、係合部120の溝の形状を平面視においてS字形状としているが、他の凹凸形状(例えば、凸部が一つの釣り鐘形状や波目形状、V字形などの楔形形状)でもよい。ただし、本実施形態で用いるS字形状の係合部120は、構造がシンプルで角部がなく、前後方向で対称性を有することから、取り付けが容易で取り付ける弦15に依存しない利点がある。
【0054】
<振動装置接続面130>
振動装置接続面130は、本体基板110の側面に形成された、振動装置30を取り付ける平らな面である。振動装置接続面130は、
図2および
図4(b)に示すように、弦15に対して横方向(バイオリン1の表板2に張られた弦15に対して直交する方向)の本体基板110の側面に形成される。本体基板110は、長方体状部材であるため、弦15に対して横方向となる側面は、裏と表の二面あるが、そのどちら側でもよい。
振動装置接続面130は、振動装置30を接続し、振動装置30の振動板の振動(音振動)を本体基板110を介して、係合部120に挟まれた弦15に伝える。
【0055】
本実施形態では、振動装置接続面130(接続部)に、更に接続部31を取り付け、接続部31を介して振動装置30を取り付ける。なお、接続部31を設置せず、振動装置30を振動装置接続面130に直付けする構成でもよい。また、接続部31は、本体基板110の振動装置接続面130ではなく、振動装置30側に取り付けられるものでもよい。また、接続部31は、円柱形状としたが角柱形状であっても構わない。
【0056】
弦楽器励振装置100が取り付けられたバイオリン1(弦楽器)は、
図1に示すような水平面に置かれる場合のほか、壁等に立て懸ける、手に持つ、車両等の移動手段に搭載する使用方法がある。このような使用方法の場合であっても、弦楽器励振装置100の係合部120に、バイオリン1の弦15を係合させることで、本体基板110の脱落やズレを確実に防止することができる。また、弦楽器励振装置100を長時間使用、あるいは長期間取り付けている場合にも、係合部120は、本体基板110のズレを有効に防止することができる。
【0057】
以下、上述のように構成された弦楽器励振装置100の作用効果について説明する。
<取り付け時>
図1に示す弦楽器励振装置100は、バイオリン1に張られた弦15に対し、本体基板110の取付面110aに設けられた係合部120の一方の溝端部を当て、そのまま本体基板110を上方から押し込んで、係合部120の全長に亘って弦15に押し込む。係合部120は、装着する弦15の太さより幅広に形成されているため、取り付けは容易である。
【0058】
本体基板110を斜めにしてS字形状の溝の片側から弦15を差し込んで弦15を曲げながらS字形状の溝に差し込む操作となる。係合部120がS字形状の溝であることで、弦15に対しS字形状の曲面の溝に沿って一方の側から徐々に押し込みながら、弦15をS字形状の溝に沿うように撓み力(弦を曲げるときに元に戻ろうとする力)を用いて弦15を変形させることで取り付けられる。最終的には、
図5に示す位置まで、本体基板110を押し込むことができ、取り付けが完了する。
【0059】
取り付け後には、弦15はS字形状の溝(係合部120内の溝)の2つの凸部に強く当接するので、弦楽器励振装置100は、弦15の撓み力を利用して弦15に係合・固定される。また、弦15は係合部120の底部の全長に亘って当接しているので、弦楽器励振装置100は、弦15に安定して設置される。
【0060】
図5(b)に示すように、弦15に弦楽器励振装置100が装着されると、振動装置接続面130は、弦15に対して真横の位置となり、弦15に対して横方向から、音の振動を伝えることができる。
【0061】
<取り付け後>
図2および
図3に示すように、弦楽器励振装置100は、駒20に近いG弦(弦15g)に取り付けられる。弦楽器励振装置100は、振動装置接続面130に、接続部31を介して振動装置30が取り付けられている。
図1に示すように、振動装置30には、音源装置50からの音信号が位相反転回路60で増幅されて供給される。位相反転回路60は、第1の実施形態では、信号の位相反転はせずに増幅のみを行う。
【0062】
弦楽器励振装置100は、振動装置30の振動板の振動(音振動)を本体基板110を介して、係合部120に挟まれた弦15に伝える。
【0063】
弦楽器励振装置100は、駒20の近傍の一つの弦に取り付け、1弦励振する。弦楽器励振装置100は、各弦を独立して励振させるものである。弦楽器励振装置100では、1本の弦15に取り付けて振動させることで、弦15の振動が駒20を介して、バイオリン1の表板2、さらにバイオリン1の本体を響鳴させる。なお、4弦のうち、いずれか一つの弦15への弦楽器励振装置100の装着であってもバイオリン1の本体を良好に響鳴させることができる。なお、1本の弦15への加振が駒20を介して他の3本の弦15を振動させるが、他の3本の弦15への振動伝達はわずかである。
【0064】
また、弦楽器励振装置100は、S字溝係合部120の優れた構造によって、弦15に取り付けられたれた後は安定に保持される。バイオリン1を立てたり横にしたり弦15を下にしたりさらに持ち運びなどで振動が加わっても弦楽器励振装置100がずれたり外れたりすることはなかった。
【0065】
[変形例]
<変形例1>
図6(a)~(c)に示すように、変形例1の弦楽器励振装置100Aは、係合部120Aの開口部にテーパ125を設けている。
【0066】
弦楽器励振装置100Aは、S字形状の係合部120Aであっても、テーパ125によって直線に張られた弦15に対して装着が容易である利点がある。また、一旦、弦15に弦楽器励振装置100Aが装着されると、
図2~
図5に示す弦楽器励振装置100と同様に、弦15に安定して設置される。
【0067】
ここで、S字形状の溝幅(PP値)が大きいと、弦15を曲げるときに元に戻ろうとする力も大きくなり本体基板110は弦15に安定に保持されるものの、溝へのスムーズな差し込みは、困難となる。
弦楽器励振装置100Aは、テーパ125を設けることで、本体基板110を弦15と平行に合わせて上から押し込めば自然と弦15はS字溝に規制され押し込まれる。このため、弦楽器励振装置100Aは、弦楽器励振装置100に比べてS字形状の振幅を大きくすることができる。その結果、押し込んだ本体基板110を弦15と平行にスライドさせるときの抵抗も大きく、本体基板110を弦15から抜き取る抵抗も大きくなる。弦挿入後の本体基板110は、弦15に安定に保持され、励振による振動でもずれたり弦15から外れたりすることはない。
【0068】
<変形例2>
図7(a)~(c)に示すように、変形例2の弦楽器励振装置100Bは、溝と直交する方向の断面形状が溝底から溝開口に向かって溝幅が拡がるように溝を形成する係合部120Bを備える。また、係合部120Bの開口部にテーパ125を設けている。また、本体基板110の振動装置接続面130に対向する面には、ばね板126を貼り付けている。ばね板126は、溝開口の溝幅を狭める方向にばね撓み力を加える。
【0069】
弦楽器励振装置100Bは、弦15への取付け時に、テーパ125によって溝開口まで容易に案内される。その後、本体基板110を弦15に対して深さ方向に押し込むことで、所定位置に取り付けることができる。
ここで、本体基板110の振動装置接続面130に対向する面には、ばね板126が貼り付けられているので、弦15はばね板126の撓み力によって常に軽く押されながら挿入されることになる。このため、S字形状の係合部120Bで抜き差しを繰り返すことで、溝に摩耗が生じても、より安定な係合を確保することができる。
【0070】
これにより、使用者は特に力加減を考慮することなく、弦楽器励振装置100Bを装着することができ、利便性を向上させることができる。また、一旦、弦15に弦楽器励振装置100Bが装着されると、
図2~
図5に示す弦楽器励振装置100および
図6に示す弦楽器励振装置100Aと同様に、弦15に安定して設置される。また、ばね板126の撓み力によって、溝に摩耗が生じても、より安定な係合を長く確保することができる。
【0071】
<変形例3>
図8(a)~(c)に示すように、変形例3の弦楽器励振装置100Cは、直線の溝で、かつ溝と直交する方向の断面形状が溝底から溝開口に向かって溝幅が広がる溝を有する係合部120Cを備える。また、係合部120Cの開口部にテーパ125を設けている。ここでの溝底側の溝幅は、弦15の直径よりも若干小さくなるように形成され、弦15を溝底側の溝幅で係合できるように形成されている。また、ばね板126の撓み力によって、溝に摩耗が生じても、より安定な係合を長く確保することができる。
【0072】
弦楽器励振装置100Cは、弦15への取付け時に、係合部120Cによって、深さ方向に所定位置まで案内される。また、係合部120Cは、溝幅が溝底に向かうに従って内方向に狭まっているため、弦15が所定位置まで達したときには、S字形状を採らない形状であっても、強い力で装着することができる。これにより、使用者は特に力加減を考慮することなく、弦楽器励振装置100Cを装着することができ、利便性を向上させることができる。また、係合部120Cの開口部は、直線形状であるため、弦15への装着が容易である利点がある。
【0073】
<変形例4>
図9および
図10(a)~(c)に示すように、変形例4の弦楽器励振装置100Dは、本体基板110の振動装置接続面130側の外周および接続部31の振動装置30を接続する位置を除き接続部31の外周を覆う制振部材190を備える。制振部材190は、シリコンゴム等のゴム製弾性部材である。
図9(b)に示すように、制振部材190は、本体基板110と振動装置30との組立・接合時に、本体基板110の外周および接続部31の外周を覆うように装着される。なお、制振部材190は、振動装置接続面130に対面して接続部31を除く接続面に当接するように、平面視が矩形で中央に丸穴の貫通した状態の接続係合面を形成している。
【0074】
変形例4の弦楽器励振装置100Dによれば、理由はあきらかではないが、音感を向上させることができた。制振部材190を装着することで、不要振動を制振し、有効な音成分のみす伝達されるのではないかと推察される。
【0075】
<変形例5>
図11に示すように、弦楽器励振装置100をネック側の弦に、また、弦楽器励振装置100-1をテール側の弦に取り付ける。弦楽器励振装置100と弦楽器励振装置100-1とは、同一構成である。
【0076】
1弦のなかでも、特に強い(太い)G弦を2つの弦楽器励振装置100,100-1で加振することで、より十分な加振を与えることができ、低音(200Hz~)の特性を向上させることができる。
【0077】
図12および
図13は、本実施形態に係る弦楽器励振装置を説明するための参考資料としてのバイオリンのパワースペクトルを示す図である。
図12は、一般的なバイオリンのD(15d)解放弦演奏弦のダイレクト出力を示し、
図13は、オールドバイオリンのD(15d)解放弦演奏弦のダイレクト出力を示す。駒20の下に検出器を設置し、周波数帯域[Hz]における音圧レベル[dB]を測定し解析した。一般的なバイオリンのパワースペクトルの幅(
図12の符号a参照)とオールドバイオリンの幅(
図13の符号b参照)とを比較すると、オールドバイオリンの幅がより狭い。ただし両者の比較は、このようなパワースペクトルで表現しきれるものではなく、一応の目安に過ぎない。本実施形態の弦楽器励振装置100~100Dは、
図12に示すバイオリンに適用した例である。むしろ、汎用のバイオリンに適用して下記効果を得ることができることが特徴である。
【0078】
なお、上記<変形例1>~<変形例4>のいずれにおいても、弦楽器励振装置100A~100Dをネック側またはテール側の弦に取り付けてもよく、さらに、上記<変形例5>のように、ネック側およびテール側の双方の弦に取り付けてもよい。
【0079】
[効果]
以上説明したように、本実施形態の弦楽器励振装置100~100Dは、バイオリン1の弦15への取付面110aを有する本体基板110と、取付面110aに設けられ、弦15の撓み力を用いて弦15に係合する係合部120と、取付面110aとは異なる面に設けられ、振動装置30を接続する振動装置接続面130と、を備える。
【0080】
この構成により、弦15が係合部(120A~120C)120の溝両側面に均等に密着し、かつ、振動装置30から溝両側面直交方向に加振されることにより、弦15と係合部120とが滑ることなく一体となって振動する。振動装置30からの音響振動を、バイオリン1の弦15の近傍の駒20に良好に伝達することができ、バイオリン1を高音質で鳴らすことができる。弦楽器励振装置100~100Dの再生特性は、周波数特性、歪特性ともに優れ、高品質で安定した再生音を聴くことができた。
【0081】
また、本実施形態の弦楽器励振装置100~100Dは、1弦用の係合部120を備えるので、装置全体がコンパクトな形状のため、振動装置30による加振ポイントの振動装置接続面130から弦15までの距離を短く(約2mm)することができ、音質向上に寄与することができる。
【0082】
特に、弦楽器励振装置100~100Dは、振動装置30からの音響振動を、弦15と係合部120とが滑ることなく一体となって振動する。弦15そのものを音響振動させているので、演奏者によるボウイング(弓遣い)と振動装置30からの音響振動とは、物理的には同一の現象となる。すなわち、弦15は、演奏者のボウイングによって加振されるか弦楽器励振装置100~100Dによって加振されるかの違いだけであり、加振源が異なるだけで、弦15そのものが振動することは同じである。弦15が振動した後の挙動に、演奏者のボウイングまたは弦楽器励振装置100~100Dの加振の区別はなく、駒20に振動が伝達される。このため、弦楽器励振装置100~100Dによる弦15の加振は、バイオリン1の本来の響鳴となり、自然な音響を得ることができる。
【0083】
弦楽器励振装置100は、音の入口である弦15を振動させるといういままでにない特徴を有する。そのため、弦楽器励振装置100は、バイオリン1の生演奏と同じように臨場感あふれる高音質の楽音を再生することができる。
【0084】
ここで、弦楽器励振装置100~100Dでは、1本の弦15に取り付けて振動させることで、弦15の振動が駒20を介して、バイオリン1の表板2、さらにバイオリン1の本体を響鳴させる。弦楽器励振装置100~100Dによって、ボウイングを行うことなく、高音質で弦楽器を鳴らすことができる。
【0085】
弦楽器励振装置100~100Dは、弦15そのものを直接振動させ、他に介在する音響要素(例えば、振動を減衰させるような材質のゴム材)がないため、原音通りの澄みきった音色を奏することができる。また、弱音器効果も大幅に減らすことができ、音の振動伝達の追従性(振動の各成分の周波数特性)を高め、音の振動を安定、かつ、十分に伝えることができる。
【0086】
バイオリン再生音の試聴実験結果によると、低音域から中音域、中音域から高音域までバランスの取れた音響が得られ、バイオリン固有の豊かで美しい響きを再生することができ、バイオリン生演奏と遜色ない、優れた臨場感を実現することができた。
【0087】
また、弦楽器励振装置100~100Dは、角棒形状の簡素な構成であるため、低コストで実施することができる。また、樹脂部材を用いて一体形成することも容易であり、この場合は、材料費を大幅に低減することができる。同様の理由で、組立工数を大幅に削減(事実上、組立不要に)でき、また各部の調整の手間をなくすことができる。また、大量生産が可能であり、この点からも低コスト化を図ることができる。
【0088】
[弦加振用前置イコライザ補足説明]
弦加振用前置イコライザについて説明する。
弦加振用前置イコライザは、本実施形態では、
図1の位相反転回路60に設置される。
弦楽器励振装置100~100Dにおける弦加振では、バイオリンの4弦ごと個別に加振できるようになっている。各弦を個別に周波数特性用のスイープ信号で加振し再生音を測定した結果は、G,D,A,E弦による差は少なくほぼ200Hzから20kHzをカバーしている。4弦を個別に加振し再生音を測定した結果、各弦の伝達特性がよく似ており200Hzから20KHzをカバーしていることが分かる。
【0089】
一方、楽器として使用される各弦の周波数範囲は、G,D,A,E弦で演奏される音階(解放弦から始まるScale)の範囲と想定される。音階演奏例から見た各弦の周波数(特徴周波数)判定は次のようになる。
G弦;200Hzから6kHz
D弦;300Hzから12kHz
A弦;400Hzから15kHz
E弦;650Hzから18kHz
以上により、本実施形態の弦楽器励振装置100~100Dにより、バイオリンの生演奏に近い再生音楽を楽しむ目的に照らせば、各弦を加振する信号は、演奏時に各弦を加振する周波数範囲に制限することが好ましい。
まとめると、弦加振用前置イコライザが各弦を加振する組合せは下記である。
【0090】
<1弦加振>(
図1~
図11参照)
G弦;200Hz~6kHz
D弦;300Hz~12kHz
A弦;400Hz~15kHz
E弦;650Hz~18kHz
【0091】
<2弦同時加振>(
図15、
図16、
図19~
図26参照)
2弦の音階再生の最低音から最高音
G+D弦;200Hz~12kHz
A+E弦;400Hz~18kHz
D+A弦;300Hz~15kHz
G+A、G+E、D+E弦は、設定しない。
【0092】
<4弦同時加振>(
図17および
図18参照)
4弦の音階再生の最低音から最高音;200Hz~18kHz
【0093】
<変形例6>
図14に示すように、弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3をG,D,A,E弦にそれぞれ取り付ける。弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3は、1弦励振である。隣り合った弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3が、互いに接触しないように配置し4弦独立に励振する。弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3は、同一構成である。なお、弦楽器励振装置100に代えて、
図6に示す弦楽器励振装置100A、
図7に示す弦楽器励振装置100B、
図8に示す弦楽器励振装置100C、
図9に示す弦楽器励振装置100Dであってもよい。また、弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3の一部または全部をテール側に取り付ける態様でもよい。
【0094】
弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3は、1弦加振で、4弦独立に励振する。
弦15の振動は、駒20を介してバイオリン1の本体を響鳴させる。4弦のうち、いずれか一つの弦15への弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3の装着であってもバイオリン1を良好に響鳴させることができる。本発明者は、さらに各弦に対し励振のための最もよい周波数を見出した。例えば、G弦に取り付けた弦楽器励振装置100には、弦加振用前置イコライザから200Hz~6kHzで励振し、D弦に取り付けた弦楽器励振装置100-1には、弦加振用前置イコライザから400Hz~12kHzで励振する。A弦に取り付けた弦楽器励振装置100-2には、弦加振用前置イコライザから400Hz~15kHzで励振し、E弦に取り付けた弦楽器励振装置100-3には、弦加振用前置イコライザから650Hz~18kHzで励振する。
【0095】
変形例6の弦楽器励振装置100,100-1,100-2,100-3は、各弦独立駆動でありパラメータを多く設定することができる。一例を挙げれば、CDやレコードの楽音信号からどの弦で弾いているかを判定することができる場合、その各弦の情報をもとに加振弦を振り分けることが可能になる。これにより、より一層音質改善を図ることができる。
【0096】
[各弦の特徴と本弦楽器励振装置の補足説明]
各弦の特徴と本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3について補足して説明する。
弦加振(励振)の対象となるバイオリン弦は、楽器バイオリンの重要な構成部品である。一般の弦あるいは紐と異なり、本弦楽器励振装置を適用するにあたっては、下記バイオリン弦の特徴に留意する。
現在使われているバイオリン弦の素材は、大きく分けてスチール、ナイロンがある。さらに、スチール、ナイロンを芯としてシルバー、アルミニウム、チタニウムの細線を巻き付けたものなど、演奏時のボウイングの感触や再生音質の好みに合わせて選択されるよう多くの種類がある。
【0097】
代表的なバイオリン弦の太さと調弦時の張力は、概略次のようになる。
G弦:0.8mmφ 4~5Kg重、D弦;0.7~0.8mmφ 4~6Kg重
A弦:0.7mmφ 5~6Kg重、E弦:0.25mmφ 7~9Kg重
上記データで分かるように一言でバイオリン弦といっても素材も異なるし、太さではE弦はG弦の3分の1、張力ではE弦はG弦の2倍もあるなど物理条件が大きく異なる。
【0098】
本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3は、素材や物理条件の違いのある4弦を1本のバイオリン弓で演奏するかのように、同じ基本構造の装置で4弦を励振し生演奏の感動を再現しようとするものである。
上記特有の効果に加え、本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3は、下記の特徴を有する。
【0099】
(1)本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3は、外観、形状、サイズが同一であり、係合部の溝幅のみを弦に合わせて4弦に対応している。
【0100】
(2)本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3は、励振振動元と励振先の弦までの距離が数mmと非常に近い構造である。このため、伝達能率が高く高音質な励振が可能となる。
【0101】
(3)本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3は、バイオリン各弦の間隔約10mmの間に収まる小型、薄型化が可能である。このため、4弦独立して、同時励振が可能となる。
【0102】
(4)各弦独立に本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3を取り付けてスケール信号による伝達特性を測定した結果、レベル特性、周波数特性ともに良く揃った結果が得られた(
図12参照)。
【0103】
(5)本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3は、基本構造が同一のため、製作がコストダウンできる。また、各弦への本弦楽器励振装置の取付け、取外しが同じ操作でできる。このため、直感的に装着でき、使用者にとって使い勝手がよい。
【0104】
(6)外観、形状、サイズが同一のため、複数弦励振時のデザインが統一される。
【0105】
(7)本弦楽器励振装置100~100D,100-1,100-2,100-3の振動装置30には、信号用ケーブルが配線される(
図1参照)。この際、信号用ケーブルの配線を短くするなどによって、信号用ケーブルが基板本体110を規制することを用いて、基板本体110の、弦の周方向の回転(回り込み)を抑えることができる。
【0106】
(第2の実施形態)
図2と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
本実施形態は、G弦(弦15g)およびD弦(弦15d)に取り付けられた弦楽器励振装置200Aと、E弦(弦15e)およびA弦(弦15a)に取り付けた弦楽器励振装置200Bとの、2つの弦楽器励振装置200を備える例を示す。
【0107】
上述したように、<2弦同時加振>において、弦楽器励振装置200Aは、G+D弦に取り付け、楽器励振装置200Bは、A+E弦に取り付ける。
【0108】
弦楽器励振装置200Aと弦楽器励振装置200Bとは、同一構成を採る。弦楽器励振装置200Aと弦楽器励振装置200Bを総称する場合は、弦楽器励振装置200と称する。
【0109】
弦楽器励振装置200は、2つの弦15に取り付ける2弦用の弦楽器励振装置である。
図15に示すように、弦楽器励振装置200は、弦15への第1取付面210aおよび第2取付面210bを有する本体基板210と、本体基板210に設けられ、弦15の撓み力を用いて第1の弦15に係合する第1係合部221と、本体基板210の取付面210aに設けられ、弦15の撓み力を用いて第2の弦15に係合する第2係合部222と、第1取付面210aおよび第2取付面210bとは異なる面(第1取付面210aおよび第2取付面210bにそれぞれ直交する面)に設けられ、振動装置30の振動板(スピーカ振動板;ボイスコイル)を接続する振動装置接続面230と、を備える。
【0110】
第1係合部221は、第1取付面210aから深さ方向に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝である。第2係合部222は、第2取付面210bから深さ方向に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝である。
【0111】
本実施形態では、振動装置接続面230(接続部)に、更に接続部31を取り付けている。接続部31は、弦楽器励振装置100の必須の構成要素ではなく、省略は可能である。
【0112】
<本体基板210>
図15および
図16(a)に示すように、本体基板210は、第1取付面210aと、第1取付面210aに対向(対面)配置された第2取付面210bと、第1取付面210aおよび第2取付面210bに共に直交する面に設けられた振動装置接続面230と、を備える。
【0113】
第1取付面210aと第2取付面210bとは、対向配置されているので、第1取付面210aに形成された第1係合部221と、第2取付面210bに形成された第2係合部222も対向する方向から溝堀される。
本実施形態では、弦楽器励振装置200の弦15への取り付け時には、第1取付面210aがバイオリン1の表板2に対向し、第2取付面210bがバイオリン1の表板2と反対方向に位置する。
【0114】
本体基板210は、
図2の本体基板110と同様に、振動を伝えやすい材料、例えば駒20の材料と同じ材料(例えば楓材)が好適である。
本体基板210は、本実施形態では2つの弦に係止するよう内側に延びる長方体状部材である。
図2の本体基板110と同様に、本体基板210の形状を直方体形状にすると加工が容易で、材料に無駄が生じない。また、直方体形状を採ると、直方体面に第1取付面210aおよび第2取付面210bと振動装置接続面230を形成しやすい。すなわち、
図2の本体基板110と同様に、振動装置接続面230は、弦15に対して横方向から、音の振動を伝えようとする。一方で、取付面210aに形成された第1係合部221,222は、弦15の脱落を抑制するため、弦15の振動方向ではないことが好ましい。したがって、第1取付面210aおよび第2取付面210bと振動装置接続面230とをそれぞれ直交配置することで、音の振動を最もよく伝達しつつ、本体基板210を弦15に恒久的に安定して取り付けることができる。
【0115】
<第1係合部221,第2係合部222>
・溝の溝堀方向
図15および
図16(a)(b)に示すように、第1係合部221は、第1取付面210aの一方の端部近傍から深さ方向(本体基板210の内側方向)に溝堀され、第2係合部222は、第2取付面210bの他方の端部近傍から深さ方向(本体基板210の内側方向)に溝堀される。第1係合部221と第2係合部222との間隔は、本体基板210の長さ方向で弦15の間隔分離隔している。
第1係合部221と第2係合部222とは、対向する方向(180°異なる方向)から溝堀される。また、第1係合部221と第2係合部222とは、本体基板210の長さ方向で弦15の間隔分離隔し、かつ平行に溝堀される。
【0116】
したがって、弦楽器励振装置200Aの本体基板210は、2つの弦15(弦15g,弦15d)のうち、一方の弦15(ここでは、弦15g)(第1の弦)に第1係合部221が取り付けられ、他方の弦15(ここでは、弦15d)(第2の弦)に第2係合部222が取り付けられる。また、弦楽器励振装置200Bの本体基板210は、2つの弦15(弦15e,弦15a)のうち、一方の弦15(ここでは、弦15e)(第1の弦)に第1係合部221が取り付けられ、他方の弦15(ここでは、弦15a)(第2の弦)に第2係合部222が取り付けられる。
【0117】
このように、弦楽器励振装置200は、2つの弦15に対し、上下の2方向から弦15と弦15との間の間隔分離隔して、第1係合部221,222が取り付けられる。弦楽器励振装置200は、2つの弦15に取り付けるため、本体基板210が、弦15の周囲を旋回して取り付け位置がずれたり、弦15の長さ方向にずれたりすることがなく、
図2に示す弦楽器励振装置100本体基板110に比べて、本体基板210の取り付け状態がより安定する。
【0118】
第1係合部221,第2係合部222は、G弦、E弦側に装着する振動装置30A振動装置30Bの重みで、G弦、A弦側が浮き上がるのを防ぐため、D弦、A弦の開口部が上になる構造とした。この結果、G弦、E弦の溝上辺部を支点としてD弦、A弦側の持ち上がりを防止し、両溝下辺部で弦を保持することができる。
【0119】
・溝の深さ
図15および
図16(a)に示すように、第1係合部221は、第1取付面210aから深さ方向(本体基板210の内側方向)に溝堀されたS字形状の溝である。第2係合部222は、第2取付面210bから深さ方向(本体基板210の内側方向)に溝堀されたS字形状の溝である。
この溝の深さは、2つの弦15に対して真横となるような深さまで溝堀される。本実施形態では、第1係合部221,第2係合部222は、本体基板210の高さの略半分まで溝堀される。
図15に示すように、弦楽器励振装置200を2つの弦15に装着したとき、これら弦15が第1係合部221,第2係合部222の底部に嵌まり込む。装着完了時には、弦楽器励振装置200は、振動装置接続面230の中央部分が、2つの弦15に対し真横に位置する。
【0120】
・溝の長さ
図15および
図16(b)に示すように、第1係合部221,222は、長方体状の本体基板210の短尺方向の全長に亘って形成される。本実施形態では、弦楽器励振装置200は、2つの弦15に対し、第1係合部221,第2係合部222に上下の2方向から取り付けられる。
図2に示す本体基板110に比べて、本体基板210の取り付け状態がより安定する構成であるため、第1係合部221,222は、本体基板210の短尺方向で係止する程度の長さでよい。
【0121】
また、2つの弦15に対し、第1係合部221,第2係合部222に上下の2方向から取り付けられるので、弦楽器励振装置200は、2つの弦15に取り付けられたことによる相乗効果(捩じり応力抑止や振動によるずれ抑止効果)がある。このため、弦15の軸方向および周方向でずれることなく、確実に安定して取り付けることができる。また、第1係合部221,第2係合部222は、溝の形状をS字形状とすることで、より短い長さでも十分に弦楽器励振装置200を2つの弦15に安定して取り付けることができる。
【0122】
・溝の幅
図15および
図16(a)(b)に示すように、第1係合部221,第2係合部222は、溝の両端の壁で弦15を左右方向から挟み込んで係合する。このため、弦15の太さに対応する溝幅とする。例えば、G弦(弦15g)に取り付ける場合には、第1係合部221,222の溝幅は、太いG弦(弦15g)に対応した広い溝幅とする。また、装着した弦楽器励振装置200がずれないようにするため、第1係合部221,第2係合部222の溝幅は、弦15の太さと同等程度とし、取り付け時には、弦15を第1係合部221,第2係合部222に押し込んで取り付ける。
本体基板210の材質が、楓材等の木材であれば、溝幅を弦15の太さと同等程度とすることで、第1係合部221,第2係合部222をわずかに変形させながら底部まで押し込むことができる。その後、わずかに変形した溝が元に戻ることで、底部に装着された弦15がその位置で係合される。
【0123】
一方、本体基板210の材質が、変形し難い樹脂であれば、溝幅を弦15の太さよりわずかに大きくすることで、弦15を第1係合部221,第2係合部222に押し込むことができる。
【0124】
・溝の形状
図15および
図16(b)に示すように、第1係合部221,第2係合部222は、第1取付面210aおよび第2取付面210bからみてS字形状の溝である。溝の形状をS字形状とすることで、
図4(b)に示すように、弦15は、第1係合部221,第2係合部222の一方の凸部の壁と、他方の凸部の壁との2点において、2つの凸部間で捩じり応力を付与されながら、強く当接し固定される。これにより、弦楽器励振装置200を弦15に安定して取り付けることができる。
【0125】
また、溝の幅を弦15の太さより広くしても弦15が第1係合部221,222から外れないので、溝の幅を弦15の太さに一致させるような高い加工精度が不要であり、コスト低減を図ることができる。溝の幅を弦15の太さより広くできるので、弦15への弦楽器励振装置200の取り付け/取外しが容易な装置を実現できる。さらに、弦15が第1係合部221,222から外れないので、本体基板210の材質を変形し難い樹脂を用いて簡素に構成することができる。また、本体基板210の材質に、木材等の軟らかい部材を用いても、溝が大きくなるなどの経年使用による劣化を防ぐことができる。
【0126】
本実施形態では、第1係合部221,222の溝の形状をS字形状としているが、釣り鐘型や波目形状、V字形などの楔形でもよい。本実施形態で用いるS字形状の第1係合部221,222は、構造がシンプルで角部がなく、前後方向で対称性を有することから、取り付けが容易で取り付ける弦15に依存しない利点がある。
【0127】
また、本実施形態では、第1係合部221,第2係合部222の溝の形状を2つともS字形状としているが、一方のみをS字形状(例えば、第1係合部221のみをS字形状)とし、他方を直線形状の溝としてもよい。他方を直線形状の溝とすることで取り付け/取り外しが容易である利点がある。
【0128】
<振動装置接続面230>
振動装置接続面230は、本体基板210の側面に形成された、振動装置30を取り付ける平らな面である。振動装置接続面230は、
図15および
図16(a)に示すように、弦15に対して横方向(バイオリン1の表板2に張られた弦15に対して直交する方向)の本体基板210の側面に形成される。
【0129】
振動装置接続面230は、振動装置30を接続し、振動装置30の振動(音振動)を本体基板210を介して、第1係合部221,第2係合部222に挟まれた弦15に伝える。
本実施形態では、弦楽器励振装置200Aの振動装置接続面230には、振動装置30Aを接続し、弦楽器励振装置200Bの振動装置接続面230には、振動装置30Bを接続する。
【0130】
このように、弦楽器励振装置200は、振動装置30の音響振動を、バイオリン1の弦15に直接伝えて、弦15そのものを振動することができ、第1の実施形態と同様に、バイオリン1を高音質で鳴らすことができる。弦楽器励振装置200の再生特性についても、弦楽器励振装置100の場合と同様に、周波数特性、歪特性ともに優れ、高品質で安定した再生音を聴くことができた。
【0131】
弦楽器励振装置200は、<2弦同時加振>である。このため、弦楽器励振装置200Aは、G+D弦に取り付け、弦加振用前置イコライザ(
図1の位相反転回路60に設置)がG+D弦の音階再生の最低音から最高音を、200Hz~12kHzとする。また、楽器励振装置200Bは、A+E弦に取り付け、弦加振用前置イコライザがA+E弦の音階再生の最低音から最高音を、400Hz~18kHzとすることで、より一層、バイオリン1を高音質で鳴らすことができる。
【0132】
また、弦楽器励振装置200は、2つの弦15に取り付けるため、本体基板210が、弦15の周囲を旋回して取り付け位置がずれたり、弦15の長さ方向にずれたりすることがなく、
図2に示す弦楽器励振装置100本体基板110に比べて、本体基板210の取り付け状態がより安定する特有の効果がある。
【0133】
なお、本実施形態では、弦楽器励振装置200Aと弦楽器励振装置200Bとの2つの弦楽器励振装置200を備える例を示したが、第1の実施形態の弦楽器励振装置100のように、バイオリン1に対して1つの弦楽器励振装置200を備える構成でもよい。
【0134】
(第3の実施形態)
図2と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0135】
弦楽器励振装置300は、4つの弦15に取り付ける4弦用弦楽器励振装置である。
上述したように、<4弦同時加振>において、弦楽器励振装置300は、G,D,A,E弦の、4弦に取り付ける。また、弦加振用前置イコライザ(
図1の位相反転回路60に設置)は、4弦の音階再生の最低音から最高音を、200Hz~18kHzとすることが好ましい。
【0136】
図17および
図18(a)(b)に示すように、弦楽器励振装置300は、各弦15への取付面310aを有する本体基板310と、取付面310aから深さ方向に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝321~324と、取付面310aとは異なる面(取付面310aに直交する面)に設けられ、振動装置30を接続する振動装置接続面331,332と、を備える。
本実施形態では、振動装置接続面331,332(接続部)に、更に接続部31を取り付けている。
接続部31は、弦楽器励振装置100の必須の構成要素ではなく、省略は可能である。
なお、接続部31は、本体基板310ではなく、振動装置30側に取り付けられるものでもよい。また、接続部31は、円柱形状としたが角柱形状であっても構わない。
【0137】
<本体基板310>
本体基板310は、
図2の本体基板110と同様に、振動を伝えやすい材料、例えば駒20の材料と同じ材料(例えば楓材)が好適である。
【0138】
図17および
図18(a)(b)に示すように、本体基板310は、駒20近傍の各弦15に取り付けるための弓なりの角柱形状部材である。本体基板310は、駒20近傍の各弦15に取り付けるため、湾曲の形状は、駒20の湾曲構造に近似している。すなわち、
図18(a)に示すように、本体基板310は、湾曲構造が駒20の湾曲形状に近似しており、上面部が上に凸となる緩やかな曲面で形成されると共に、G弦(音の低い弦15g)側がE弦(音の高い弦15e)側よりも高くなるよう、高さは左右非対称である。
【0139】
<弦取り付け溝321~324>
・溝の溝堀方向
図17および
図18(a)(b)に示すように、弦取り付け溝321~324は、湾曲状の取付面310aに、各弦15の間隔分で離隔しで溝堀される。弦取り付け溝321~324は、各弦15の間隔分離隔し、かつ平行に溝堀される。
【0140】
このように、弦楽器励振装置300は、4つの弦15に対し、湾曲状の取付面310aに、弦15と弦15との間の間隔分離隔して取り付けられる。弦楽器励振装置300は、4つの弦15に取り付けられるため、
図2に示す弦楽器励振装置100本体基板110に比べて、本体基板210の取り付け状態がより安定する。
【0141】
・溝の深さ
図17および
図18(a)に示すように、弦取り付け溝321~324は、取付面310aから深さ方向(本体基板310の内側方向)に溝堀されたS字形状の溝である。
この溝の深さは、4つの弦15に対して真横となるような深さまで溝堀される。本実施形態では、弦取り付け溝321~324は、本体基板210の高さの略半分まで溝堀される。
図17および
図18(a)に示すように、弦楽器励振装置300を4つの弦15に装着したとき、これら弦15が弦取り付け溝321~324の底部に嵌まり込む。装着完了時には、弦楽器励振装置300は、振動装置接続面330の中央部分が、4つの弦15に対し真横に位置する。
【0142】
・溝の長さ
図17および
図18(b)に示すように、弦取り付け溝321~324は、長方体状の本体基板310の短尺方向の全長に亘って形成される。弦楽器励振装置300は、4つの弦15に対し取り付けられる。
図2に示す本体基板110に比べて、本体基板210の取り付け状態がより安定する構成である。
【0143】
・溝の幅
図17および
図18(a)(b)に示すように、弦取り付け溝321~324は、溝の両端の壁で弦15を左右方向から挟み込んで係合する。このため、弦15の太さに対応する溝幅とする。例えば、G弦(弦15g)に取り付ける場合には、弦取り付け溝321の溝幅は、太いG弦(弦15g)に対応した広い溝幅とする。D弦(弦15d)、E弦(弦15e)およびA弦(弦15a)についても同様に、弦15の太さに対応する溝幅とする。
【0144】
・溝の形状
図17および
図18(b)に示すように、弦取り付け溝321~324は、S字形状の溝である。溝の形状をS字形状とすることで、弦楽器励振装置300を各弦15に安定して取り付けることができる。また、弦取り付け溝321~324の4つの溝の形状すべてをS字形状に揃えることで、取り付け時の方向性を揃えることができ、取り付けが容易である利点がある。
【0145】
<振動装置接続面331,332>
振動装置接続面331,332は、本体基板310の側面に形成された、振動装置30A,30Bを取り付ける平らな面である。本実施形態では、振動装置接続面331には、振動装置30Aを接続し、振動装置接続面332には、振動装置30Bを接続する。
振動装置接続面331,332は、
図17および
図18(a)に示すように、弦15に対して横方向(バイオリン1の表板2に張られた弦15に対して直交する方向)の本体基板310の側面に形成される。
振動装置接続面331,332は、振動装置30A,30Bの振動板の振動(音振動)を本体基板310を介して、弦取り付け溝321~324に挟まれた4つの弦15に伝える。
【0146】
振動装置30Aおよび振動装置30Bは、音源装置50(
図2参照)から出力される音信号により振動する。音源装置50は、音信号を再生する音源であり、出力された音信号は、位相反転回路60を介して振動装置30Aおよび振動装置30Bに入力される。位相反転回路60(
図2参照)は、上記音信号のうち一方の極性の信号を反転させて、振動装置30Aおよび振動装置30Bの一方に出力する。振動装置30Aおよび振動装置30Bは、音源装置50から位相反転回路60を介して入力された音信号を再生する。振動装置30Aおよび振動装置30Bは、弦楽器励振装置400の側面をプッシュプル(push-pull)で駆動するので、駆動能力が高く、応答性およびダイナミックレンジが広い効果がある。再生音のより一層の向上が期待できる。
弦楽器励振装置300は、振動装置30Aおよび振動装置30Bの音響振動を、バイオリン1に伝えて当該バイオリン1を響鳴させる。
【0147】
このように、弦楽器励振装置300は、振動装置30の音響振動を、バイオリン1の弦15に直接伝えて、各弦15そのものを振動することができ、各実施形態と同様に、バイオリン1を高音質で鳴らすことができる。
【0148】
また、弦楽器励振装置300は、4つの弦15に取り付けるため、
図2に示す弦楽器励振装置100の本体基板110に比べて、本体基板310の取り付け状態がより安定する特有の効果がある。
【0149】
(第4の実施形態)
図2と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0150】
弦楽器励振装置400は、2つの弦15に取り付ける2弦用弦楽器励振装置である。
図19および
図20(a)(b)に示すように、弦楽器励振装置400は、
図2の弦楽器励振装置100を2つ組合わせた構成を採る。
弦楽器励振装置400は、本体基板110(
図20(b)の右側)に接続された振動装置30Aの背面と、本体基板110(
図20(b)の左側)に接続された振動装置30Bの背面とを貼り合わせて、
図19および
図20(a)に示すような一体構成とする。
図19および
図20(a)に示すように、一方の本体基板110の係合部120から他方の本体基板110の係合部120までの距離は、弦15と弦15の間隔と同じに構成される。
図19では、弦楽器励振装置400は、2つの弦15(弦15g,弦15d)に取り付けられる。
【0151】
振動装置30Aおよび振動装置30Bは、弦楽器励振装置400の側面をプッシュプルで駆動するので、駆動能力が高く、応答性およびダイナミックレンジが広い効果がある。再生音のより一層の向上が期待できる。
弦楽器励振装置400は、振動装置30Aおよび振動装置30Bの音響振動を、バイオリン1に伝えて当該バイオリン1を響鳴させる。
【0152】
<変形例7>
図20と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
図21に示すように、弦楽器励振装置400Aは、振動装置30Aの背面と振動装置30Bの背面とがスペーサ35を介して貼り合わされる。スペーサ35は、振動装置30A、振動装置30B間の振動の干渉を軽減する。スペーサ35は、2弦加振において、2弦の独立性を実用的に確保するのが目的である。
【0153】
<変形例8>
図19および
図20(a)(b)と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
図22および
図23(a)(b)に示すように、弦楽器励振装置400Bは、
図19および
図20(a)(b)に示す振動装置30A,30Bに代えて、両サイド加振スピーカ40(振動装置)を備える。
両サイド加振スピーカ40は、スピーカの中心を前面から背面に貫く振動伝達棒を備え、その両端面(
図23の接続部41,42)が振動面となるスピーカである。
弦楽器励振装置400Bの2つの本体基板110は、接続部41,42を介して両サイド加振スピーカ40に接続される。
【0154】
図22および
図23(a)に示すように、弦楽器励振装置400Bは、一方の本体基板110の係合部120から他方の本体基板110の係合部120までの距離は、弦15と弦15の間隔と同じに構成される。
図22では、弦楽器励振装置400Bは、隣り合う任意の2弦、例えば2つの弦15(弦15g,弦15d)に取り付けられる。接続部41,42は、両サイド加振スピーカ40の厚みに合わせて、係合部120と係合部120との距離が、弦15と弦15の間隔と同じになるように調整される。
【0155】
(第5の実施形態)
図2と同一構成部分には同一番号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0156】
図24に示すように、弦楽器励振装置600は、2つの弦15の間に取り付ける2弦用弦楽器励振装置である。
弦楽器励振装置600は、
図23に示す両サイド加振スピーカ40に代えて、超磁歪素材を用いた振動体を利用した両サイド加振スピーカ45(振動装置)を備える。
【0157】
図25に示すように、弦楽器励振装置600は、弦15に側面から取り付ける取付面610aを有する本体基板610と、本体基板610の取付面610aに設けられ、弦15の撓み力を用いて弦15に係合する係合部620と、取付面610aとは異なる面(取付面610aの背面)に設けられ、両サイド加振スピーカ45の振動板を接続する振動装置接続面630と、を備える。
係合部620は、取付面610aから水平方向に溝堀されたS字形状の弦取り付け溝である。
左右の係合部620の間隔は、2弦の間隔に比べて1~1.5mm広くする。弦15の撓み力と2弦の復元力で、弦15と係合部620は安定に結合される。
【0158】
第1~第4の実施形態では、本体基板の取付面は、弦15に対して上下方向に形成されていた。これに対し、本実施形態の弦楽器励振装置600は、本体基板610の取付面610aが、両サイド加振スピーカ45の振動板を接続する振動装置接続面630と対向する面(振動装置接続面630の背面)に形成される。このため、本体基板610のS字形状の弦取り付け溝620は、バイオリン1の表板2上の弦15を横方向で取り付ける構成となっている。
【0159】
バイオリン1の表板2上の弦15は、横方向に振動する振動成分も多いが、(1)弦取り付け溝620は、S字形状であり、弦15を強く係止していること、また、(2)弦楽器励振装置600および両サイド加振スピーカ45は、弦15と弦15との間に隙間なく、2弦の間隔に比べて1~1.5mm広く設置されていることから、弦楽器励振装置600は、2つの弦15の間に安定して取り付けられ、外れたり、ずれたりすることはない。
【0160】
弦楽器励振装置600の2つの本体基板610は、接続部46,47を介して両サイド加振スピーカ45に接続される。
図24および
図25に示すように、弦楽器励振装置600は、一方の本体基板610の弦取り付け溝620から他方の本体基板610の弦取り付け溝620までの距離は、弦15と弦15の間隔に比べて所定幅(例えば1~1.5mm広く)に構成される。
図24では、弦楽器励振装置600は、2つの弦15(弦15g,弦15d)に取り付けられる。接続部46,47は、両サイド加振スピーカ45の厚みに合わせて、弦取り付け溝620と弦取り付け溝620との距離が、弦15と弦15の間隔に比べて所定幅広くなるように調整される。
本実施形態では、振動装置接続面630(接続部)に、更に接続部46,47を取り付けている。接続部46,47は、弦楽器励振装置600の必須の構成要素ではなく、省略は可能である。
【0161】
本実施形態によれば、弦楽器励振装置600は、取付面610aから水平方向に溝堀された係合部(S字形状の弦取り付け溝)620を備え、左右の係合部620の間隔は、2弦の間隔に比べて1~1.5mm広くする。弦15の撓み力と2弦の復元力で、弦15と係合部620はより安定に結合させることができる。
【0162】
<変形例9>
図26に示すように、変形例9の弦楽器励振装置600Aは、弦取り付け溝620の開口部にテーパ625を設けている。
【0163】
S字形状の弦取り付け溝620であっても、テーパ625によって直線に張られた弦15に対して装着が容易である利点がある。
【0164】
本発明は、上記各実施形態や変形例に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜その構成を変更することができる。
【0165】
上記した各実施形態および変形例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0166】
また、本実施の形態では弦楽器励振装置および弦楽器励振システムという名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、弦楽器振動装置、弦楽器再生システム等であってもよい。
【符号の説明】
【0167】
1 バイオリン(弦楽器)
2 表板
15,15e,15a,15d,15g 弦
20 駒
30,30A,30B 振動装置
40,45 両サイド加振スピーカ(振動装置)
50 音源装置
60 位相反転回路(弦加振用前置イコライザ)
100,100-1~100-3,100A~100D,200,200A,200B,300,400,400A,400B,600,600A 弦楽器励振装置
110,210,310,410,610 本体基板
110a,310a,610a 取付面
120,120A~120C,220,321~324,420,620 係合部(弦取り付け溝;係合部)
125,265 テーパ
126 ばね板
130,331,332,630 振動装置接続面
210a 第1取付面
210b 第2取付面
221 第1係合部
222 第2係合部
S 弦楽器励振システム
【要約】
【課題】弦楽器を高音質で鳴らすことができる弦楽器励振装置および弦楽器励振システムを提供する。
【解決手段】弦楽器励振装置100は、バイオリン1の弦15への取付面110aを有する本体基板110と、取付面110aに設けられ、弦15の撓み力を用いて弦15に係合する係合部120と、取付面110aとは異なる面に設けられ、振動装置30を接続する振動装置接続面130と、を備える。
【選択図】
図2