(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】化粧料保持体及びそれが収納された化粧料容器
(51)【国際特許分類】
A45D 34/04 20060101AFI20220704BHJP
A45D 34/00 20060101ALI20220704BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A45D34/04 535D
A45D34/00 510
D01F8/06
(21)【出願番号】P 2017028645
(22)【出願日】2017-02-20
【審査請求日】2019-10-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2016058047
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 純子
(72)【発明者】
【氏名】増山 圭司
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】関口 哲生
【審判官】田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152013(WO,A1)
【文献】特開平7-136017(JP,A)
【文献】特開2011-21300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D34/04
D04H1/4291
D04H1/544
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性を有する化粧料を含浸保持する化粧料保持体において、芯部がポリプロピレン、鞘部がポリエチレンまたはポリブテン-1である芯鞘構造の繊維の集合体
のみからなることを特徴とする化粧料保持体。
【請求項2】
請求項1に記載の化粧料保持体が収納された化粧料容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性を有する化粧料を含浸保持する化粧料保持体と、その化粧料保持体が収納された化粧料容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リキッドファンデーションなどの流動性を有する化粧料の保持体として、ウレタンフォームで構成されたものがある(特許文献1、2)。
【0003】
しかし、ウレタンフォームで構成された化粧料保持体は、化粧料を含浸させた場合の膨潤が大きく、特に紫外線吸収剤(日焼け止め)を含む乳液の化粧料に対して膨潤が著しかった。そのため、ウレタンフォーム製の化粧料保持体は、紫外線吸収剤を含む化粧料に対して適さないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-12457号公報
【文献】特表2013-530252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、流動性を有する化粧料を含浸させても膨潤を抑えることができる化粧料保持体と、それが収納された化粧料容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、流動性を有する化粧料を含浸保持する化粧料保持体において、芯鞘構造の繊維の集合体からなることを特徴とする。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、前記芯鞘構造の繊維は熱可塑性樹脂からなり、かつ芯部分が鞘部分よりも融点の高い熱可塑性樹脂で構成され、前記芯鞘構造の繊維の集合体は、前記芯鞘構造の繊維が前記鞘部分の一部で融着していることを特徴とする。
【0008】
第3の態様は、第1または第2の態様において、前記芯鞘構造の繊維は螺旋形状である偏心芯鞘型複合繊維が含まれていることを特徴とする。
【0009】
第4の態様は、第1から第3の態様の何れか一の態様において、前記芯鞘構造の繊維の芯部及び鞘部共にポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする。
【0010】
第5の態様は、第1から第4の態様の何れか一の態様において、前記芯鞘構造の繊維は太さが2.0~15dtexであることを特徴とする。なお、dtex(デシテックス)は、長さ10000mの糸の重量(グラム単位)を表す。
【0011】
第6の態様は、第1から第5の態様の何れか一の態様において、前記芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度(JIS K 6400‐1準拠)が0.03~0.10g/cm3であることを特徴とする。
【0012】
第7の態様は、第1から第6の態様の何れか一の態様の化粧料保持体が収納された化粧料容器を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の態様によれば、化粧料保持体を芯鞘構造の繊維の集合体で構成したことにより、化粧料保持体に含浸した化粧料と接触するのは繊維の外周を構成する鞘部分であり、鞘で包囲された内側の芯部分については化粧料と接触しないため、少なくとも芯部分については化粧料による影響を防ぐことができ、化粧料保持体全体の膨潤を抑えることができる。
【0014】
第2の態様によれば、芯鞘構造の繊維の集合体は、芯鞘構造の繊維が鞘部分の一部で融着しているため、繊維間に隙間を形成することができ、化粧料の含浸保持性を良好なものにできる。
【0015】
第3の態様によれば、芯鞘構造の繊維が螺旋形状である偏心芯鞘型複合繊維を含んでいるため、繊維集合体の弾力性および形状変形後の戻り性に優れ、継続使用が良好となる。
【0016】
第4の態様によれば、芯鞘構造の繊維の芯部及び鞘部共にポリオレフィン系樹脂からなるため、液状化粧品の組成物によって膨潤することがない。
【0017】
第5の態様によれば、芯鞘構造の繊維を太さが2.0~15dtexとすることにより、化粧料保持体に化粧料が含浸しやすく、必要とされる容量を保持することができる。
【0018】
第6の態様によれば、芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度が0.03~0.10g/cm3とすることにより、化粧料の塗布部材で化粧料を移し取るのに適度な弾力性を与えることができる。
【0019】
第7の態様によれば、化粧料容器は、芯鞘構造の繊維の集合体からなる化粧料保持体が収納されているため、化粧料保持体に化粧料を含浸させて携帯あるいは保管するのに便利であり、かつ含浸させた化粧料による化粧料保持体の膨潤を抑えて継続使用するのに都合がよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る化粧料保持体の斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に示す一実施形態の化粧料保持体10は、流動性を有する化粧料を含浸保持するものであり、芯鞘構造の繊維の集合体からなる。
前記芯鞘構造の繊維は、芯部分の周囲が鞘部分で包囲された繊維からなる。芯鞘構造の繊維は熱可塑性樹脂からなり、かつ芯部分が、鞘部分よりも融点の高い熱可塑性樹脂で構成されたものが好ましい。前記芯鞘構造の繊維における芯部分及び鞘部分の材質は、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂が、化粧品の成分による経時的な劣化がないことからより好ましい。
【0022】
さらにポリオレフィン系樹脂の中でも、前記芯部分がポリプロピレン(融点165℃)で構成され、かつ前記鞘部分がポリエチレン(融点130℃)で構成されたものもしくは、前記芯部分がポリプロピレン(融点165℃)で構成され、かつ前記鞘部分にポリブテン(融点127℃)で構成されたものが使用できる。なかでも、前記鞘部分にポリブテン-1を使用した繊維は、高分子量となるため熱がかかった時の嵩回復性に優れる。さらに、圧縮永久歪が小さく、芯部であるポリプロピレンとの相溶性が良いことから好ましい。また、前記芯鞘構造の繊維は、太さが2.0~15dtexのものが、化粧料の含浸保持の点からより好ましい。
【0023】
また、前記芯鞘構造の繊維は、立体捲縮を発現している顕在捲縮、又は加熱することにより立体捲縮を発現する潜在捲縮のいずれでも良く、捲縮は波形状もしくは螺旋形状のいずれでも良い。なかでも螺旋形状および波形形状が混合された繊維が、繊維集合体の弾力性および形状変形後の戻り性に優れており好ましい。
さらに、偏心芯鞘型複合繊維が、立体捲縮するうえで好ましい。偏心芯鞘型の芯部の形状は、円形以外に、楕円形、Y形、X形などの異形であってもよく、偏芯芯鞘型繊維の断形状も、円形以外に、楕円形、Y形、X形、井形、多角形、星形などの異形又は中空形であってもよい。
上記捲縮性複合繊維及びこれを用いた繊維集合物は、日本特許公報、特開2011-021300号を参照することもできる。
【0024】
前記芯鞘構造の繊維の集合体は、公知の方法で製造されたものを使用することができる。例えば、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等が挙げられる。特に前記芯鞘構造の繊維における鞘部分の一部で融着したものが前記芯鞘構造の繊維の集合体としてより好ましい。その製造方法は、限定されず、例えば、熱風コンベア炉式、型成形式、メッシュベルトを用いる方法(日本国特許第4195043号に記載の方法)等によって行うことができ、その後にプレス等の裁断処理により、化粧料保持体に適したサイズにする。なお、前記芯鞘構造の繊維における鞘部分の一部で融着した集合体の製造は、繊維の融着が前記鞘部分の融点以上でかつ前記芯部分の融点未満で行われる。
【0025】
また、前記芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度(JIS K 6400-1準拠)が0.03~0.10g/cm3のものが、化粧料の含浸保持性の点からより好ましい。また、前記芯鞘構造繊維の集合体のサイズは、特に限定されず、使用しやすさ、あるいは収納される容器等のサイズ等に応じて決定される。
【0026】
前記化粧料保持体10は、化粧料容器の中皿に収納された状態で携帯や保管等される。すなわち、前記化粧料容器は、容器本体内に前記化粧料保持体が収納された構成からなる。前記容器本体は、容器本体となる収納容器と、該収納容器に開閉可能に組み合わされた蓋体とからなる。前記収納容器には、上面が開口した収納凹部が設けられ、前記収納凹部に化粧料中皿が収納される。
一方、前記蓋体は、前記収納容器の上部にヒンジ等で連結され、あるいはねじ式で開閉可能にされており、前記収納容器に被せることによって、前記収納凹部及び前記化粧料中皿に蓋をすることができる。本実施例では、前記中皿に化粧料保持体を収納し、さらに液体化粧料を前記化粧料保持体に含浸保持させる。
【0027】
また、前記容器本体は、前記化粧料保持体と共に、パフなどの化粧道具を一緒に収納可能なものであってもよい。例えば、前記容器本体内に化粧料保持体収納部と化粧道具収納部を横に並んで設けたものや、化粧料保持体の上にパフなどを積層して収納できるようにしたものなどが挙げられる。
【0028】
前記化粧料保持体に含浸させる化粧料は、流動性を有するものであれば特に限定されるものではなく、紫外線吸収剤を含む化粧料は好適な化粧料の一つである。また、前記化粧料保持体に含浸させた化粧料の使用は、化粧用保持体の表面を指あるいはパフなどの化粧道具で擦って、化粧料保持体に含浸保持されている化粧料を指あるいは化粧道具に付着させて行われる。
【実施例】
【0029】
本発明の化粧料保持体における耐膨潤性を確認するため、以下の実施例及び比較例に対して耐膨潤性を調べた。
【0030】
実施例1:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPE(ポリエチレン)、太さ2.2dtexからなり、芯鞘構造の繊維の集合体は、品名:バフター、イノアックコーポレーション製、見掛け密度が0.04g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。なお、体積は寸法から計算した(以下同様である)。
実施例2:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPE(ポリエチレン)、太さ2.2dtexからなり、芯鞘構造の繊維の集合体は、品名:バフター、イノアックコーポレーション製、見掛け密度が0.06g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。
実施例3:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPE(ポリエチレン)、太さ2.2dtexからなり、芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度が0.08g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。
実施例4:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPE(ポリエチレン)、太さ6.7dtexからなり、芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度が0.04g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。
実施例5:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPE(ポリエチレン)、太さ6.7dtexからなり、芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度が0.06g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。
実施例6:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPE(ポリエチレン)、太さ6.7dtexからなり、芯鞘構造の繊維の集合体は、見掛け密度が0.08g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。
実施例7:芯鞘構造の繊維は、芯部分がPP(ポリプロピレン)、鞘部分がPB(ポリブテン-1)、太さ6.7dtexからなり、偏芯率25%、断面形状は、重心位置がずれた二重円、螺旋形状の捲縮繊維である。芯鞘構造の繊維の集合体は、品名:バフター、イノアックコーポレーション製、見掛け密度が0.04g/cm3であり、表1の浸漬前のサイズからなる。
【0031】
比較例1:ポリプロピレン樹脂からなる単一熱可塑性樹脂繊維、太さ5.6dtexと、ポリプロピレン/ポリエチレン樹脂からなる芯鞘構造の熱可塑性樹脂繊維、太さ2.2dtexとを、重量比7:3として、サーマルボンド法により製造された見掛け密度が0.05g/cm3の繊維集合体で、表1の浸漬前のサイズを用いた。
比較例2:ポリエーテル系ウレタンフォーム(セル膜が除去された網状型タイプ)、セル数40/25mm、見掛け密度0.03g/cm3、品名:CFH-40、株式会社イノアックコーポレーション製、表1の浸漬前のサイズのものを用いた。
比較例3:ポリエステル系ウレタンフォーム(セル膜が除去された網状型タイプ)、セル数30/25mm、見掛け密度0.03g/cm3、品名:MF-30、株式会社イノアックコーポレーション製、表1の浸漬前のサイズのものを用いた。
【0032】
【0033】
実施例及び比較例の化粧料保持体を、紫外線吸収剤(品名:ユビナール(登録商標)AプラスB、BASF ジャパン製)に、その全体が浸かるように24時間浸漬した後に取り出して寸法を測定し、得られた寸法から体積を計算し、さらに変化率を、{(浸漬後の試料片の体積)-(浸漬前の試料片の体積)}÷(浸漬前の試料片の体積)×100(%)の計算式により算出した。
紫外線吸収剤への浸漬後の寸法と体積及び変化率の値は、表1に示すとおりであり、得られた変化率によって、耐膨潤性を判断した。
【0034】
実施例1~実施例7は、変化率が6.17%(-6.17%)以下あったのに対し、比較例1~3は、変化率が12.54%~18.47%であり、実施例1~7は比較例1~3よりも変化率が小さく、耐膨潤性に優れていた。なお、一部の実施例で変化率が負の値となるのは、繊維の集合体が水分により収縮したからである。
【0035】
また、前記紫外線吸収剤に代えて、紫外線吸収剤が含有された市販の化粧料を用いて前記実施例及び比較例に対して耐膨潤性を調べた。
使用した化粧料は、品名:B.Aザクリーミィファンデーション(B3)、ポーラ(株)製、含有されている紫外線吸収剤は、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルである。
結果を示すと、実施例1~実施例6は、変化率が5.4%以下あったのに対し、比較例1~3は、変化率が12.6%~18.5%であり、実施例1~7は比較例1~3よりも変化率が小さく、耐膨潤性に優れていた。
【0036】
このように、本発明の化粧料保持体は、化粧料に対する膨潤が少なく、紫外線吸収剤を含む化粧料に対しても使用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 化粧料保持体