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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】容器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 8/12 20060101AFI20220704BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
B65D8/12
B32B15/08 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017194376
(22)【出願日】2017-10-04
(65)【公開番号】P2019064725
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 秀智
(72)【発明者】
【氏名】荒木 英司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 信行
(72)【発明者】
【氏名】田中 瑛士
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-140136(JP,A)
【文献】特開2000-084636(JP,A)
【文献】特開平04-059356(JP,A)
【文献】実開平04-109134(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 8/12
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物を収容するとともに、外表面が押圧されて窪んだ線状の凹部を有する胴部を備えた容器において、
前記胴部は、粘弾性体で形成された内層と、粘弾性体で形成された透明の外層とにより、金属箔で形成された中間層を挟んだ三層構造を少なくとも一部に有し、
前記凹部には、前記外表面から前記外層が押圧されることにより、前記外表面のうちの前記外層が押圧されていない箇所との色差ΔE* ab が5以上となる乱反射部が形成されている
ことを特徴とする容器。
【請求項2】
請求項1に記載の容器において、
前記凹部の板厚は、前記凹部を挟んだ両側の部分の板厚の75%以上、96%以下に形成されている
ことを特徴とする容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の容器において、
前記凹部の深さは、0.07mm以上、0.42mm以下である
ことを特徴とする容器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の容器において、
前記内層を形成する粘弾性体および前記外層を形成する粘弾性体は、ポリエチレン樹脂材料により構成され、前記中間層を形成する金属箔は、アルミニウム箔である
ことを特徴とする容器。
【請求項5】
粘弾性体で形成された内層と、金属箔で形成された中間層と、粘弾性体で形成された透明の外層とを積層して一体化させることにより基材を形成し、
前記基材における前記外層側の外表面を外型で押圧することにより、前記外層を形成する粘弾性体の一部を前記外型で押圧された箇所から移動させるとともに、前記中間層を塑性変形させて線状の凹部を形成し、
前記外型による押圧力を低下させることにより、前記移動した粘弾性体が前記押圧された位置に向けて移動し、
前記粘弾性体の移動に伴う荷重が前記中間層における塑性変形した箇所を挟みつけるように作用することにより、前記中間層に乱反射部を形成し、
前記乱反射部が形成された基材を用いて容器を形成する
ことを特徴とする容器の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の容器の製造方法において、
前記外型と保持器との間に前記基材を挟み込むことにより前記凹部を形成する
ことを特徴とする容器の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の容器の製造方法において、
前記保持器は、前記外型による押圧力を受ける台座部と、前記基材と接触するように前記基材と前記台座部との間に配置されるクッション部とにより構成されている
ことを特徴とする容器の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の容器の製造方法において、
前記クッション部のショア硬度は、A70以上、A90以下である
ことを特徴とする容器の製造方法。
【請求項9】
請求項5なし8のいずれか一項に記載の容器の製造方法において、
前記外型は、前記基材に接触する突条部を有し、
前記突条部の先端の曲率半径が、0.5mm以上、2.0mm以下である
ことを特徴とする容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器およびその製造方法に関し、特に視覚および触覚により認識することができる線模様が胴部に形成された容器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、商品の購買意欲を刺激するなどのために、凹凸形状を胴部に形成した容器が知られている。このような容器は、利用者が胴部を押圧して内容物を容器から取り出すものが多く、剛性の低い材料で形成することが好ましい。また、そのような要求や低コスト化または軽量化するためなどにより、主に樹脂材料を用いて容器を形成している。そのような樹脂材料を用いた容器に上記の凹凸形状を形成する場合には、凹凸形状が加工後においても胴部に残留するように、融点近傍まで容器を加熱した状態で胴部に押圧力を作用させることが一般的に行われている。特許文献1には、そのような加工方法が記載されている。具体的には、樹脂チューブを150~300℃まで加熱して軟らかくし、その軟らかくなった樹脂チューブに、外周面にウレタンゴムなどの弾性部材が取り付けられた弾性支持体を挿入し、その後に、樹脂チューブの外周側から成形体を当接または押圧させている。なお、特許文献2には、チューブ状の容器の内面をピンが押圧することにより、容器の外表面に凸ビードを形成する容器の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-84636号公報
【文献】特許第5368902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2に記載された容器の製造方法では、容器の外表面に凹凸形状を形成することができる。一方、凹凸形状のみでは、視認性が必ずしも充分でないため、購買者に与える印象を強くするためには改善の余地があった。そこで、凹凸形状に合わせて印刷を施すことや、印刷された容器に凹凸形状を形成することが考えられる。しかしながら、凹凸形状に合わせて印刷を施す場合には、凹凸形状の位置と印刷位置との位置決めをするための工程が増加する可能性があるとともに、凹凸形状の位置と印刷位置とのズレにより歩留まりが低下する可能性がある。また、印刷された容器に凹凸形状を形成する場合には、容器の基材の伸びにより、凹凸形状の位置と印刷位置とにズレが生じる可能性や、凹凸形状の位置と印刷位置との位置決めをするための工程が増加する可能性がある。
【0005】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、加工工数などを増加させることなく、視覚や触覚により認識することができる線模様が形成された容器およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、内容物を収容するとともに、外表面が押圧されて窪んだ線状の凹部を有する胴部を備えた容器において、前記胴部は、粘弾性体で形成された内層と、粘弾性体で形成された透明の外層とにより、金属箔で形成された中間層を挟んだ三層構造を少なくとも一部に有し、前記凹部には、前記外表面から前記外層が押圧されることにより、前記外表面のうちの前記外層が押圧されていない箇所との色差ΔE* ab が5以上となる乱反射部が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、前記凹部の板厚は、前記凹部を挟んだ両側の部分の板厚の75%以上、96%以下に形成されていてよい。
【0009】
本発明においては、前記凹部の深さは、0.07mm以上、0.42mm以下であってよい。
【0010】
本発明においては、前記内層を形成する粘弾性体および前記外層を形成する粘弾性体は、ポリエチレン樹脂材料により構成され、前記中間層を形成する金属箔は、アルミニウム箔であってよい。
【0011】
また、本発明は、粘弾性体で形成された内層と、金属箔で形成された中間層と、粘弾性体で形成された透明の外層とを積層して一体化させることにより基材を形成し、前記基材における前記外層側の外表面を外型で押圧することにより、前記外層を形成する粘弾性体の一部を前記外型で押圧された箇所から移動させるとともに、前記中間層を塑性変形させて線状の凹部を形成し、前記外型による押圧力を低下させることにより、前記移動した粘弾性体が前記押圧された位置に向けて移動し、前記粘弾性体の移動に伴う荷重が前記中間層における塑性変形した箇所を挟みつけるように作用することにより、前記中間層に乱反射部を形成し、前記乱反射部が形成された基材を用いて容器を形成することを特徴とする製造方法である。
【0012】
本発明の製造方法においては、前記外型と保持器との間に前記基材を挟み込むことにより前記凹部を形成してよい。
【0013】
本発明の製造方法においては、前記保持器は、前記外型による押圧力を受ける台座部と、前記基材と接触するように前記基材と前記台座部との間に配置されるクッション部とにより構成してよい。
【0014】
本発明の製造方法においては、前記クッション部のショア硬度は、A70以上、A90以下であってよい。
【0015】
本発明の製造方法においては、前記外型は、前記基材に接触する突条部を有し、前記突条部の先端の曲率半径が、0.5mm以上、2.0mm以下であってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、胴部は、粘弾性体で形成された内層と、粘弾性体で形成された外装とにより、金属箔で形成された中間層を挟んだ三層構造を少なくとも一部に有しているため、外層側からの光が外層を透過して中間層に到り、その入射光が中間層により反射される。また、凹部には、外表面から外層が押圧されることにより、外表面のうちの外層が押圧されていない箇所との色差ΔE* abが所定値以上となる乱反射部が形成されている。したがって、凹部を形成するために、外表面から外層を押圧することにより、乱反射部も同時に形成することができるため、加工工数を増大させることなく、視覚や触覚により認識することができる線模様を胴部に形成することができる。
【0017】
また、中間層に形成された乱反射部は、外層によって保護されているので、乱反射を生じるための形状を、長期間、維持することができる。
【0018】
さらに、凹部の板厚を、凹部を挟んだ両側の部分の板厚の75%以上、96%以下に形成し、または凹部の深さを0.07mm以上、0.42mm以下の深さに形成することにより、凹部以外の箇所との色差ΔE* abを適切な色差ΔE* abとすることができる。
【0019】
また、本発明の製造方法では、粘弾性体で形成された内層と、金属箔で形成された中間層と、粘弾性体で形成された透明の外層とを積層して一体化させて基材を形成し、その基材における外層側の外表面を外型で押圧することにより、線状の凹部を形成するとともに、中間層に乱反射部を形成する。したがって、外表面に凹部を形成する工程で、同時に乱反射部を形成することができるため、加工工数を増大させることなく、視覚や触覚により認識することができる線模様を胴部に形成することができる。
【0020】
また、外型と保持器との間に基材を挟み込んで凹部を形成する場合においては、その保持器にクッション部を設けることにより、胴部を押圧する押し込み量が制限されることを抑制できる。
【0021】
さらに、クッション部のショア硬度をA70以上、A90以下とすることにより、凹部の底面の曲率半径が大きくなりすぎることを抑制でき、各層を適度に塑性変形させて凹部を形成すること、また乱反射部を形成することができる。
【0022】
また、外型における突条部の先端の曲率半径を、0.5mm以上、2.0mm以下とすることにより、胴部を破損させることなく、適切な深さまたは幅の凹部を胴部に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る容器の一例を説明するための正面図である。
図2】胴部を形成するシートの構成例を説明するための斜視図である。
図3】乱反射部の構成を説明するための拡大断面図である。
図4】本発明に係る容器の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5】胴部に凹部を形成する工程を説明するための斜視図である。
図6】胴部に外型を押圧した場合における胴部の変形の仕方を説明するための模式図である。
図7】ウレタンゴムの硬度と、胴部に形成される凹部の深さとの関係についての実験結果を示す図表である。
図8】凹部の厚み、および凹部の深さを計測する方法を説明するための模式図である。
図9】押し込み量と、完成品の凹部7の深さ、凹部7と凹部7以外の箇所との色差ΔE* ab、外観の評価、総合評価との関係を調査した実験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に本発明の実施形態の一例の容器を示してある。ここに示す容器1は、化粧品などの液体あるいはクリームなどの流動性のある物質を収容する容器である。この容器1の胴部2は、図2に示すシート3を円筒状にして形成されている。具体的には、樹脂材料、より具体的にはポリエチレン樹脂材料で形成された内層4と、アルミニウム箔で形成された中間層5と、透明の樹脂材料、より具体的にはポリエチレン樹脂材料で形成された外層6とを積層して、各層の界面を接着剤などにより一体化させ、そのシート3における一辺3a側の内層4(または外層6)と、その一辺3aに対向する対向辺3b側の外層6(または内面層4)とを重ね合わせ、その重ね合わされた合わせ面を、熱溶着や接着などにより固定されている。なお、中間層5は、外部から内容物に光が透過することを抑制するとともに酸素の透過を防止しており、また容器1のベースとなる色彩を形成している。この中間層5は最も薄く形成されている。なおまた、内層4は、中間層5と内容物とが直接接触することを抑制することを主な目的としたものであって、比較的薄く形成され、外層6は、中間層5を保護することを主な目的としたものであって、最も厚く形成されている。ここに示す例では、上記の内層4と中間層5と外層6とを合わせた厚みが、0.46mmとなるシート3を用いている。
【0025】
さらに、外層6の外表面の一部には、星形の印刷が施されている。この印刷は、上記のように円筒状の胴部2を形成した後に、印字されたものであってもよく、シート3の状態で印字されたものであってもよい。
【0026】
また、胴部2には、螺旋状の凹部7が形成されている。その凹部7は、外層6側から胴部2を押圧して厚みを減少させるとともに、内層4側に撓ませて形成されている。また、凹部7における中間層5には、皺などの、凹部7以外の部分における中間層5の表面よりも表面が乱れた部分が形成されている。これは、後述する加工方法により形成される。
【0027】
図3には凹部7の形状の一例を示すための、図1におけるIII-III線に沿う断面図を示してある。図3に示すように凹部7は、内層4、中間層5、外層6の全てが胴部2の内側に撓んで形成されている。また、内層4のうちの胴部2内側に向いた面、および外層6のうちの胴部2外側に向いた面は、滑らかに形成されている。一方、中間層5の表裏両面は、凹部7を挟んで両側から圧縮されて形成されるような微細な凹凸(皺)が形成されている。したがって、外層6を透過した入射光は、微細な凹凸によって乱反射される。以下、中間層5における微細な凹凸が形成された部分を、乱反射部8と記す。
【0028】
そして、上記のように形成された胴部2の一方の開口部2aには、樹脂材料で形成された注出部9が一体化されており、その注出部9に内容物を注出するための孔10が形成されている。また、胴部2の他方の開口部2bは、内容物が外部に漏洩することを抑制できればよく、そのため、その開口部2bを閉じる蓋部を胴部2に一体化してもよく、または開口部2bを熱溶着して閉じてもよい。
【0029】
上記の容器1は、胴部2に凹部7が形成されているため、触覚により認識できる。また、中間層5に乱反射部8が形成されるとともに、外層6が透明の材料で形成されていることにより、乱反射部8により乱反射した光(反射光)は、乱反射部8(または凹部7)が形成されていない箇所における反射光よりも白く見える。そのため、凹部7と凹部7以外の箇所との色差(国際照明委員会で定義された色差)ΔE* abが大きくなる。すなわち、上記のような乱反射部8が形成されることにより、他の部分に対して色差ΔE* abがある線模様が胴部2に生じる。つまり、他の部分に対して色差ΔE* abがある線模様を凹部7と同一位置に形成することができる。その結果、視覚により認識することができる線模様を凹部7に形成することができる。ひいては、購買者に与える印象を強くすることができる。また、乱反射部8は、ポリエチレン樹脂材料で形成された外層6に覆われて保護されているため、乱反射を生じるための形状を、長期間、維持することができる。
【0030】
さらに、印刷を施した胴部2の場合には、その印刷が施された箇所の内側に乱反射部8が形成されるものの、乱反射部8に向けた入射光や、乱反射部8から外部に向けた反射光は、印刷により阻害されるため、印刷を施した部分のうちの他の部分との色差ΔE* abが生じにくい。したがって、印刷を施した部分を含んで一律に凹部7を形成したとしても、印刷の見え方に影響を来すことを抑制できるとともに、印刷を挟んで継続性のある線模様を胴部2に形成することができる。
【0031】
なお、本発明における内層、中間層、外層は、上述した材料により構成されたものに限らず、外層は光を透過することができる透明の粘弾性体で構成されていればよく、また中間層は、外層を透過した光を反射することができる金属箔であればよい。
【0032】
つぎに、この発明の実施形態における容器の製造方法の一例について説明する。図4は、容器1が製造される過程の形状を説明するための模式図である。図4に示す例では、ロール状にまとめられた上記三層構造のシート3を引き出し、その先端部を円筒状に形成する。シート3を円筒状に形成する方法は、前述の手段による。ついで、胴部2の軸線方向の長さに応じて、円筒状に形成されたシート3を図4(a)に示すように切断する。これにより胴部2の外形が形成される。そのように形成された胴部2を図4(b)に示している。
【0033】
ついで、図4(c)に示すように胴部2に適宜、印刷する。すなわち、外層6の外表面に印刷を施す。図4(c)に示す例では、星形の印刷が胴部2に施されている。印刷を乾燥させた後に、胴部2に凹部7を形成する。その凹部7は、常温の環境下で、外型と保持器とにより胴部7の壁面を挟み込んで形成される。図5には、凹部7を形成する工程の一例を説明するための図を示している。図5に示す例では、まず、胴部2に保持器11を挿入している。この保持器11は、図5に示すように円柱状の台座部12と、その台座部12に嵌合されたウレタンゴムなどの弾性部材で形成された円筒状のクッション部13とにより構成されている。なお、この保持器11は、嵌合された胴部2が外力によってクッション部13と相対回転しないように胴部2を保持するものであって、クッション部13と胴部2との摩擦力で胴部2の相対回転を抑制するように構成してもよく、胴部2の回り止めを保持器11に形成してもよい。
【0034】
そのように胴部2に保持器11を挿入した後に、外型14により胴部2の外層6を押圧しながら、保持器11および胴部2を転がして、胴部2の外層6に螺旋状の凹部7を形成する。図5に示す外型14には、断面形状が山形となる突条部15が土台16に形成されている。この突条部15の稜線は、胴部2を外型14に押圧しながら転がしたときに、胴部2と稜線との接触部の軌跡が、胴部2に螺旋状の線模様として現れるように形成されている。すなわち、保持器11の軸線方向、または胴部2の進行方向に対して湾曲して稜線が形成されている。
【0035】
そのように胴部2に外型14を押圧した場合における胴部2の変形の仕方を図6に示している。図6(a)に示すように、外型14を胴部2に押し当てていない状態では、胴部2の厚みは一定である。そして、胴部2および保持器11を転がすことにより、図6に示す位置における胴部2と外型14の突条部15とが接触するとともに、突条部15により胴部2が押圧される。そのように胴部2が押圧されたときには、図6(b)に示すように保持器11を構成するクッション部13も胴部2と一体に弾性変形する。すなわち、胴部2のうちの内層4と、中間層5と、外層6とのそれぞれが撓み変形する。一方、内層4と外層6とは、粘弾性体であるポリエチレン樹脂材料により構成されているため、押圧された部分(以下、押圧部と記す)の材料が押圧されていない部分に流れるように変形する。すなわち、押圧部の厚みが薄くなるとともに、その押圧部の近傍の部分の厚みがやや厚くなる。また、押圧部のうちの突条部15の先端に該当する位置は、外型14とクッション部13との間の挟圧力が比較的大きくなり、図6(b)に矢印で示すように胴部2における押圧部のうちの内表面側に大きな引っ張り力が作用する。そのため、内層4と外層6は、僅かに塑性変形する。他方、中間層5であるアルミニウム箔は、比較的塑性変形しやすいものであるから、押圧されることにより内層4側に窪んだ形状に塑性変形する。
【0036】
胴部2を更に転がすことにより押圧部の押圧力が解消される。その際には、内層4と外層6とのうち、上記のように押圧されていない部分に流れた材料の一部が押圧部に戻るとともに、弾性力により押圧される以前の形状に向けて変形する。すなわち、押圧されて窪んだ位置の窪み量が低減するように変形する。一方、中間層5は、塑性変形していることにより、その窪み量を低減するような力が生じない。
【0037】
そのような条件下では、内層4と中間層5との界面、および外層6と中間層5との界面では、中間層5の窪んだ位置を両側から挟み付けるように荷重が作用する。これは、上記のように内層4と外層6とが押圧される以前の形状に向けて変形すること、および内層4と中間層5とが一体化され、中間層5と外層6とが一体化されていることに起因する。したがって、塑性変形した中間層5には、皺が生じる。すなわち、中間層5のうちの押圧部(凹部)の表裏両面に微細な凹凸形状が形成される。つまり、上記の乱反射部8が形成される。
【0038】
また、上記のように内層4と外層6とが押圧される以前の形状に向けて変形するとしても僅かに塑性変形していること、および中間層5が塑性変形していることにより、胴部2の外表面には線状の凹部7が形成され、内面には線状の凸部が形成される。
【0039】
上述したように中間層5に乱反射部8が形成されることにより、凹部7とそれ以外の箇所とに色差ΔE* abが生じる。一方、外層6に印刷が施されている位置では、凹部7の中間層5に光が透過することがないことにより、印刷が施された部分のうちの凹部7の位置とそれ以外の箇所とに色差ΔE* abが生じない。その結果、図4(d)に示すように、印刷が施されている箇所の乱反射部8は、視認しにくく、印刷した箇所を避けて乱反射部8を形成したように見える。すなわち、印刷を挟んで継続性のある線模様が胴部2に形成されているように見える。そして、上記のように形成された胴部2に、図4(e)で示すように注出部9を取り付けるとともに、下端部を閉じるなどして容器1が形成される。
【0040】
上述したようにアルミニウム箔で形成された中間層5を透明のポリエチレン樹脂材料で形成された層4,6で挟んだ三層構造の胴部2を、外型14で押圧することにより、押圧された箇所に凹部7を形成することに加えて、凹部7と他の部分との色差ΔE* abを生じさせることができる。その結果、触覚で認識し得る形状と、視認し得る色差ΔE* abとを一工程で、かつ同一位置に形成することができ、製造工数を低減することができる。
【0041】
なお、上記のように押圧されることにより移動した粘弾性体が元の状態に戻る際の荷重を利用して、中間層5に乱反射部8を形成するものであって、したがって、胴部2を形成する以前、すなわちシート3の状態で凹部7を形成してもよい。
【0042】
つぎに、上記の容器1(または胴部2)を形成する上で、保持器11におけるクッション部13の硬度と、胴部2に形成された凹部7の深さとの関係についての調査するための実験を行った。その実験結果を説明するための図表を図7に示してある。この実験では、ショア硬度がA50、A70、A90のウレタンゴムをクッション部13としてそれぞれ用意し、板厚0.46mmの胴部2を外型14で押圧した。また、ショア硬度がA50のウレタンゴムを用いた実験では、押し込み量を2.25mmとし、ショア硬度がA70のウレタンゴムを用いた実験では、押し込み量を2.00mmとし、ショア硬度がA90のウレタンゴムを用いた実験では、押し込み量を1.80mmとした。すなわち、硬度が高いウレタンゴムほど、押し込み量を少なくして実験を行った。
【0043】
そして、外型14を取り外した後における凹部7の厚みと、凹部7の深さとを測定した。その凹部7の厚みや深さは、図8に示す方法により計測した。具体的には、まず、胴部2の中心軸線が水平になるように胴部2を保持し、その状態で、コントレーサー17により凹部7が形成されていない箇所の高さを測定し、同様に凹部7の外表面までの高さを測定した。それらの測定された高さ差から凹部7の深さを求めた。また、ダイヤルメータゲージによる測定で凹部7の厚みを求めた。なお、胴部2を切断してシート状に展開した後に、凹部7の厚みや凹部7の深さを測定してもよい。
【0044】
その結果、図7に示すように、ショア硬度がA50のウレタンゴムを用いた場合には、押し込み量を多くしたにも関わらず、外型14による押圧力を解消した後、すなわち完成品の凹部7の厚みおよび凹部7の深さが最も少なくなることが分かった。すなわち、ウレタンゴムの硬度を高くするほど、少ない押圧量で深い凹部7を形成することができることが分かった。
【0045】
一方、ウレタンゴムの硬度を高くすると、外型14により胴部2を押圧した際に、押し込み量が制限され、また胴部2を挟持する圧力が高くなりすぎて、胴部2が破断し、または胴部2にクラックなどの痕跡が残る可能性がある。そのため、ウレタンゴムの硬度がある程度低いものを使用することが好ましい。他方、ウレタンゴムの硬度を低くし過ぎると、凹部7の底面の曲率半径が大きくなりすぎることにより、凹部7の塑性変形が生じにくく、また乱反射部8が形成されにくくなることが想定される。そのため、ウレタンゴムの硬度は、ショア硬度A70以上、A90以下とすることが好ましい。言い換えると、クッション部13としてショア硬度A70以上、A90以下のウレタンゴムを使用することにより、適切な深さの凹部7を形成するとともに、凹部7における中間層5に乱反射部8を形成することができる。
【0046】
つぎに、ショア硬度がA70のウレタンゴムをクッション部13として用いて、押し込み量を1.7mm~3.5mmまで0.3mmずつ変更して、完成品の凹部7の深さ、凹部7と凹部7以外の箇所との色差ΔE* abを計測するとともに、外観の評価を含めて総合評価を行った。なお、その際における容器1は、上記と同様に0.46mmの板厚のものを用いた。その実験結果を、図9に示してある。なお、色差ΔE* abは、日本電色工業株式会社製のMSP-Σ80を使用して測定した。
【0047】
図9に示すように、押し込み量が1.7mmでは、製品凹部7の深さが浅く、また凹部7と凹部7以外の箇所との色差ΔE* abが小さかった。色差ΔE* abは、通常、「5」程度の大きさ以上により、線(特徴部分)として感じ取られる。したがって、押し込み量が1.7mmとすると、線の認識は可能だが装飾として劣るため、総合的には、不可である。
【0048】
また、押し込み量が3.5mmでは、製品凹部7の深さが、0.46mmであり、かつ凹部7以外の箇所との色差ΔE* abが「11」あるため、視覚および触覚の判断としては良好となるものの、中間層5であるアルミニウム箔の一部に亀裂が確認された。したがって、容器1としての機能を考慮して、総合的に、不可である。
【0049】
以上の実験結果から、凹部7の板厚が他の部分の板厚、または元の板厚に対して75%以上、96%以下となるように形成すること、または凹部7の深さが0.07mm以上、0.42mm以下の深さに形成することにより、凹部7以外の箇所との色差ΔE* abを適切な色差ΔE* abとすることができることが分かった。また、上記のような凹部7の板厚や、凹部7の深さとするために、押込み量を、2.0mm以上、3.2mm以下とすることが好ましいことが分かった。
【0050】
さらに、外型14における突条部15の先端は、鋭利であるほど凹部7を形成することができるものの、凹部7の幅が狭くなり、また押圧時に外層6や中間層5などを破断させる可能性が高く、さらに製造工程において不具合等が生じて他の装置や部品と接触した場合に先端が欠けるなどの懸念事項がある。そのため、突条部15の先端の曲率半径は、0.5mm以上とすることが好ましい。一方、突条部15の先端の曲率半径が大きすぎると、胴部2を押圧した際の応力が低下し(すなわち、集中荷重とならず)、胴部2を挟持する荷重が低下して、凹部7以外の箇所と識別できる程度、あるいは際立たせる程度の幅とすることができない可能性がある。そのため、突条部15の先端の曲率半径は、2.0mm以下とすることが好ましい。
【0051】
以上、本発明を具体的に説明したが、本発明は上記の実施形態あるいは実施例に限定されないのであって、実施形態あるいは実施例で挙げられている構成のうち、本発明の特許請求の範囲で限定していない構成は任意に変更してよく、それら変更した構成を含む容器も本発明の技術的範囲に属する。なお、上述した凹部を形成する技術は、容器を対象としたものに限らず、包装や外壁などに色差のある凹部を形成する際にも用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…容器、 2…胴部、 4…内層、 5…中間層、 6…外層、 7…凹部、 8…乱反射部、 11…保持器、 12…台座部、 13…クッション部、 14…外型、 15…突条部。
図1
図2
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図4
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図8
図9