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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】亀裂検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20220704BHJP
【FI】
G01N25/72 Y
G01N25/72 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017203427
(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公開番号】P2019078550
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】594126159
【氏名又は名称】神鋼検査サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 昇
(72)【発明者】
【氏名】山根 佑之
(72)【発明者】
【氏名】奥野 良太
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 英樹
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-045314(JP,A)
【文献】特開2006-098283(JP,A)
【文献】特開2008-008705(JP,A)
【文献】特開2003-149188(JP,A)
【文献】特開2010-038570(JP,A)
【文献】特開2004-137416(JP,A)
【文献】特開2017-26422(JP,A)
【文献】特開昭60-151550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線画像から構造物の表面に生じた亀裂を検出する亀裂検出方法であって、
熱せられた天井、溶融材料、ボイラ又は加熱炉である赤外線源であって、前記構造物に赤外線を照射可能な場所に位置する前記赤外線源から出射され、且つ、前記構造物の前記表面によって反射された赤外線を受光するように赤外線カメラを設置する工程と、
前記赤外線カメラを用いて、前記表面を撮像し、前記赤外線画像を得る工程と、
前記赤外線画像内で現れる前記赤外線の強度変化に基づいて、前記亀裂の有無を判定する工程と、を備える
亀裂検出方法。
【請求項2】
前記亀裂の有無を判定する工程は、前記強度変化が現れる線状部位を前記亀裂として評価することを含む
請求項1に記載の亀裂検出方法。
【請求項3】
前記亀裂の有無を判定する工程は、前記構造物の設計上の表面形状と前記線状部位とを対比し、前記線状部位が前記設計上の前記表面形状に合致していないならば、前記線状部位を前記亀裂として検出することを含む
請求項2に記載の亀裂検出方法。
【請求項4】
他の赤外線源を設置する工程と、
他の赤外線源から赤外線を前記構造物の前記表面に出射し、前記構造物の前記表面で前記他の赤外線源からの前記赤外線を反射させる工程と、を更に備える
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項5】
記赤外線画像を得る工程では、前記赤外線カメラの温度分解能を超える温度上昇を前記構造物の前記表面に生じさせるエネルギを有する前記赤外線を前記構造物の前記表面に照射しつつ、前記構造物の前記表面を前記赤外線カメラで撮像する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項6】
前記構造物に荷重を負荷し、前記亀裂が前記表面に生じさせた不連続部位を大きくする工程を更に備え、
前記赤外線画像を得る前記工程は、前記荷重の負荷下の前記構造物の前記表面を撮像することを含む
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の亀裂検出方法。
【請求項7】
前記荷重は、前記構造物として亀裂検査されるクレーン設備に対して定められた定格荷重以下の値に設定される
請求項6に記載の亀裂検出方法。
【請求項8】
前記他の赤外線源は、ハロゲンランプである
請求項に記載の亀裂検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に生じた亀裂を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
亀裂が構造物に生じているか否かを検出するために、熱弾性効果が利用されることがある(特許文献1乃至3を参照)。これらの文献の検出技術は、赤外線カメラを用いて、亀裂の両端での特異的な温度変化を検出することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-98283号公報
【文献】特開2007-163390号公報
【文献】特開2008-8705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の検出技術によれば、熱弾性効果が顕著に現れる亀裂の両端の位置は、赤外線カメラから得られた赤外線画像から検出される。すなわち、赤外線画像内の温度分布に現れる2つの高温スポットは、亀裂の両端の位置を表す。検査者は、亀裂が2つの高温スポットを結ぶ直線に沿っていると推定することができる。
【0005】
しかしながら、亀裂は、2つの高温スポットに沿って直線的に進展しているとは限らない。たとえば、亀裂は、2つの高温スポットの間で、湾曲しながら進展していることもあるし、ジグザグの経路に沿って進展していることもある。この場合、亀裂の長さは、検査者の推定値よりも長くなる。
【0006】
複数の亀裂が、赤外線画像内に存在することもある。この場合、2を超える高温スポットが、赤外線画像中に現れる。2を超える高温スポットが、赤外線画像中に現れるならば、検査者は、亀裂の位置を特定するために、これらの高温スポットのうちどの2つを対応付けるべきかを決定することはできない。
【0007】
本発明は、検査者が亀裂の形状、長さや位置を精度よく評価することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る亀裂検出方法は、赤外線画像から構造物の表面に生じた亀裂を検出するために用いられる。亀裂検出方法は、熱せられた天井、溶融材料、ボイラ又は加熱炉である赤外線源であって、前記構造物に赤外線を照射可能な場所に位置する前記赤外線源から出射され、且つ、前記構造物の前記表面によって反射された赤外線を受光するように赤外線カメラを設置する工程と、前記赤外線カメラを用いて、前記表面を撮像し、前記赤外線画像を得る工程と、亀裂検出方法は、前記赤外線画像内で現れる前記赤外線の強度変化に基づいて、前記亀裂の有無を判定する工程と、を備える。
【0009】
上記の構成によれば、赤外線カメラは、熱せられた天井、溶融材料、ボイラ又は加熱炉である赤外線源であって、構造物に赤外線を照射可能な場所に位置する赤外線源から出射され、且つ、構造物の表面によって反射された赤外線を受光するように設置されるので、赤外線画像は、構造物の表面によって反射された赤外線の強度の分布を表すことができる。亀裂が生じている部位で反射され、赤外線カメラに到達する赤外線は、亀裂が生じていない部位で反射され、赤外線カメラに到達する赤外線よりも少なくなりやすい。したがって、亀裂は、構造物の表面によって反射された赤外線を受光するように設置された赤外線カメラによって撮像された構造物の表面を表す赤外線画像に鮮明に現れることになる。加えて、構造物の表面に生じた亀裂は、亀裂によって隔てられた2つの表面領域間において、赤外線の反射に関する光学的特性に差異を生じさせることもある。たとえば、亀裂の発生に起因して、2つの表面領域の傾斜に差が生ずるならば、これらの表面領域から反射され、赤外線カメラに受光される赤外線の強度に差異が生ずることもある。この場合、亀裂は、赤外線の強度において異なる2つの表面領域の境界として赤外線画像に現れることができる。検査者は、赤外線画像を観察し、構造物の表面に発生した亀裂の形状や位置を正確に把握することができる。亀裂の形状が赤外線画像に明瞭に現れるので、検査者は、赤外線画像から亀裂の長さを正確に測定することもできる。
【0010】
上記の構成に関して、前記亀裂の有無を判定する工程は、前記強度変化が現れる線状部位を前記亀裂として評価することを含んでもよい。
【0011】
亀裂は、構造物の表面形状の線状変化として現れる。したがって、亀裂は、赤外線画像中において、赤外線の強度変化が生じた線状部位として現れることになる。したがって、亀裂は、赤外線画像中において、赤外線の強度変化が現れる線状部位として評価されることができる。
【0012】
上記の構成に関して、前記亀裂の有無を判定する工程は、前記構造物の設計上の表面形状と前記線状部位とを対比し、前記線状部位が前記設計上の表面形状に合致していないならば、前記線状部位を前記亀裂として検出することを含んでもよい。
【0013】
構造物の設計上の表面形状の変化も、赤外線画像中において、赤外線の強度変化として現れる。赤外線画像中において赤外線の強度変化が生じた線状部位が、構造物の設計上の表面形状に合致しないならば、線状部位は、事後的に生じた表面形状の変化(すなわち、亀裂)を表しているということができる。したがって、亀裂は、構造物の設計上の表面形状の変化部位と混同されにくくなる。
【0014】
上記の構成に関して、亀裂検出方法は、他の赤外線源を設置する工程と、前他の赤外線源から赤外線を前記構造物の前記表面に出射し、前記反射された赤外線を作り出す工程と、を更に備えてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、構造物の表面に赤外線を出射する他の赤外線源が設置されるので、検査者は、赤外線源の設置位置を調整し、適切な撮像条件を作り出すことができる。他の赤外線源が、構造物の表面の近くに配置されば、太陽光に含まれる赤外線以外の高い強度を有する赤外線が、構造物の表面から反射される。この場合、赤外線の強度のコントラストが、亀裂が生じている部位と亀裂が生じていない部位との間や亀裂によって隔てられた2つの表面領域間で生じやすくなり、亀裂の鮮明な像が、赤外線画像に現れやすくなる。構造物の表面から反射された赤外線が過度に強ければ、亀裂の像は、亀裂の周囲において反射された強い赤外線によってぼやかされることもある。この場合、検査者は、赤外線源を構造物の表面から離し、亀裂の周囲で反射される赤外線を弱くすることができる。この結果、検査者は、亀裂の評価にとって適切な強度の赤外線の反射の下で、赤外線画像を得ることができる。
【0016】
上述の方法において、前記赤外線画像を得る工程では、前記赤外線カメラの温度分解能を超える温度上昇を前記構造物の前記表面に生じさせるエネルギを有する前記赤外線を前記構造物の前記表面に照射しつつ、前記構造物の前記表面を前記赤外線カメラで撮像する。
【0017】
赤外線源から出射された赤外線は、亀裂が生じていない部位に当たりやすい一方で、亀裂が生じている部位には当たりにくい。したがって、赤外線源から出射された赤外線に由来する温度上昇は、亀裂が生じている部位よりも亀裂が生じていない部位において顕著に現れやすい。上記の構成によれば、赤外線源から構造物の表面に出射される赤外線は、赤外線カメラの温度分解能を超える温度上昇を構造物の表面に生じさせるエネルギを有するので、赤外線源から出射された赤外線に由来する温度上昇の差異も、赤外線画像に現れることになる。したがって、赤外線画像は、構造物の表面に生じた亀裂を鮮明に表すことができる。
【0018】
上記の構成に関して、亀裂検出方法は、前記構造物に荷重を負荷し、前記亀裂が前記表面に生じさせた不連続部位を大きくする工程を更に備えてもよい。前記赤外線画像を得る前記工程は、前記荷重の負荷下の前記構造物の前記表面を撮像することを含んでもよい。
【0019】
上記の構成によれば、赤外線画像は、荷重の負荷下にある構造物の表面を表すので、大きな不連続部位が、亀裂として、赤外線画像に鮮明に現れることになる。したがって、検査者は、亀裂を、赤外線画像から容易に把握することができる。
【0020】
上記の構成に関して、前記荷重は、前記構造物として亀裂検査されるクレーン設備に対して定められた定格荷重以下の値に設定されてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、荷重は、構造物として亀裂検査されるクレーン設備に対して定められた定格荷重以下の値に設定されるので、亀裂がクレーン設備の表面に生じさせた不連続部位は、クレーン設備の損傷の低いリスクの下で、大きくなる。
【0022】
上記の構成に関して、前記他の赤外線源は、ハロゲンランプであってもよい。
【0023】
上記の構成によれば、ハロゲンランプが、他の赤外線源として用いられるので、検査者は、ハロゲンランプの設置位置を調整し、赤外線画像を得るために適切な赤外線照射環境を作り出すことができる。
【発明の効果】
【0024】
上述の技術は、検査者が亀裂の形状、位置や長さを精度よく評価することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】亀裂検出方法の概念図である。
図2】構造物の概略的な正面図である。
図3A図1に示される亀裂検出方法から得られた赤外線画像である。
図3B図1に示される亀裂検出方法から得られた赤外線画像である。
図3C図1に示される亀裂検出方法から得られた赤外線画像である。
図4】クレーン設備の概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
赤外線画像を用いた構造物の欠陥評価に関して、外部から照射された赤外線は、赤外線画像中のノイズになると考えられていた。しかしながら、本発明者等は、構造物の近くに人工的に配置された赤外線源から照射された赤外線は、構造物に生じた亀裂の検出に有用であることを見出した。以下に説明される亀裂検出技術は、従来技術とは異なり、亀裂の両端の位置だけでなく、亀裂の形状をも検出することを可能にする。亀裂の形状は、赤外線画像中に明瞭に現れるので、検査者は、赤外線画像を用いて、亀裂の長さをも精度よく測定することができる。
【0027】
図1は、亀裂検出方法の概念図である。図1を参照して、亀裂検出方法が説明される。
【0028】
図1の実線の矢印は、構造物の近くに人工的に配置された赤外線源から構造物STRに入射する赤外線(以下、入射波IDWと称される)を意味する。図1の鎖線の矢印は、構造物STRによって反射された赤外線(以下、反射波RFWと称される)を意味する。赤外線を表す実線及び鎖線の太さは、赤外線の強さを概念的に表す。
【0029】
図1は、赤外線カメラ100を示す。赤外線カメラ100は、反射波RFWを受光するように設置される。赤外線カメラ100は、赤外線の照射下で、構造物STRの表面SFCを撮像し、構造物STRの表面SFCを表す赤外線画像を作り出す。
【0030】
図1は、構造物STRの表面SFCに生じた亀裂CLVを示す。入射波IDWの一部は、亀裂CLVに入射する。亀裂CLVが生じていない部位は、平坦であるので、亀裂CLVが生じていない部位に入射した入射波IDWの多くは、反射波RFWとして赤外線カメラ100に入射することができる。一方、亀裂CLVに入射した入射波IDWは、亀裂CLVの深さを形成する亀裂面CVSの複雑な形状に応じて、様々な方向に反射する。したがって、亀裂CLVに入射した入射波IDWが、赤外線カメラ100に入射する反射波RFWになる割合は、亀裂CLVが生じていない部位に入射した入射波IDWが、赤外線カメラ100に入射する反射波RFWになる割合よりも小さくなる。たとえば、亀裂CLVに入射した入射波IDWの一部は、亀裂CLV内で反射を繰り返し、減衰することになる。したがって、亀裂CLVに対応する位置の赤外線画像は、弱い反射波RFWによって形成される一方で、亀裂CLVが生じていない部位に対応する位置の赤外線画像は、強い反射波RFWによって形成されることになる。亀裂CLVが生じている部位と亀裂CLVが生じていない部位との間での反射波RFWのコントラストは、亀裂CLVを表す亀裂像として赤外線画像中に現れることになる。
【0031】
図2は、構造物STRの概略的な正面図である。図1及び図2を参照して、亀裂CLVの周囲における赤外線の強度分布が説明される。
【0032】
図2は、亀裂CLVの周囲の3つの領域A,B,Cを、点線で描かれた円で示す。領域Aは、亀裂CLVが生じていない部位である。領域Bは、亀裂CLVが生じている部位である。領域Cは、亀裂CLVの端部(亀裂CLVの外側)に設定されている。
【0033】
領域Aから発せられる赤外線は、上述の反射波RFWの成分と、構造物STR自身が発する赤外線成分と、の和として考えられる。領域Bから発せられる赤外線は、領域Aと同様に、反射波RFWの成分と構造物STR自身が発する赤外線成分の和として考えられるけれども、図1を参照して説明された如く、領域Bの反射波RFWの成分は、領域Aの反射波RFWの成分よりも弱い。したがって、赤外線強度のコントラストが、領域A,B間で生ずる。上述の如く、赤外線強度のコントラストは、赤外線画像において、亀裂像として現れる。
【0034】
領域Cから発せられる赤外線は、上述の反射波RFWの成分と、構造物STR自身が発する赤外線成分と、熱弾性効果に起因した温度上昇によって生じた赤外線成分と、の和として考えられる。構造物STRが、鋼や他の金属から形成されているならば、構造物STR内の良好な熱伝導の結果、熱弾性効果の結果生じた高温スポットは短時間に消失する。したがって、熱弾性効果に起因した温度上昇によって生じた赤外線成分は、赤外線画像に現れないこともある。しかしながら、領域A,Bに関連して説明されたように、亀裂像は、領域A,B間の赤外線強度のコントラストによって形成されるので、亀裂の形状や長さは、熱弾性効果の結果生じた高温スポットの消失後に得られた赤外線画像からも評価されることができる。
【0035】
図1を参照して説明された入射波IDWは、太陽光によって熱せられた天井から発せられた赤外線であってもよい。代替的に、入射波IDWは、構造物STRの近くに配置された高温物(たとえば、溶融材料、ボイラや加熱炉)から発せられた赤外線であってもよい。更に代替的に、入射波IDWは、ハロゲンランプや、赤外線を照射することができる他の赤外線照射装置であってもよい。赤外線源として例示されたこれらの物は、人工的に配置されている。「人工的に配置されている」との用語は、ヒトの手を介して配置されていることを意味し、太陽自体といったヒトの手を介在することなく存在している有体物を除外することを意図している。しかしながら、「人工的に配置されている」との用語は、自然エネルギを受け、赤外線を照射する人工物や人工的に配置された物(たとえば、上述の天井)を除外するものではない。
【0036】
領域Aに入射する入射波IDWは、構造物STRの内部に入り込むことなく反射される一方で、領域Bに入射する入射波IDWの一部は、構造物STRの内部に入り込むこともある。したがって、領域Aに入射する入射波IDWに起因する構造物STRの表面SFCの温度上昇は、領域Bに入射する入射波IDWに起因する亀裂CLVの温度上昇よりも顕著に表れる。入射波IDWが、赤外線カメラ100の温度分解能を超える温度上昇を構造物STRの表面SFCに生じさせるのに十分なエネルギを有するならば、領域A,B間の温度上昇率の差も亀裂像として現れることになる。
【0037】
図3A乃至図3Cは、上述の亀裂検出方法から得られた赤外線画像である。図3A乃至図3Cを参照して赤外線画像が説明される。
【0038】
図3Aに示される構造物の表面は、塗膜によって覆われている。構造物に生じた亀裂の結果、塗膜は、亀裂に沿って盛り上がっている。亀裂に沿った塗膜の隆起の結果、亀裂の発生部位に入射した赤外線は、様々な方向に反射する。したがって、亀裂が発生した部位で反射した赤外線が、赤外線カメラによって捕捉される量は、亀裂が発生していない部位で反射した赤外線よりも少ない。すなわち、赤外線カメラによって捕捉される赤外線量の差異が、亀裂が発生した部位と亀裂が発生していない部位との間で生ずる。赤外線カメラによって捕捉される赤外線量の差異は、図3Aに示されるように、亀裂を表す亀裂像として現れる。
【0039】
図3Bに示される赤外線画像に関して、亀裂より上の領域と亀裂より下の領域との間で段差が生じている。外部から照射された赤外線は、段差といった亀裂が生じさせた不連続部位に入射しにくい。加えて、亀裂が生じさせた不連続部位から赤外線カメラへ伝播する赤外線は、亀裂が生じていない部位から赤外線カメラへ伝播する赤外線よりも少なくなりやすい。亀裂が生じさせた不連続部位と他の領域との間での赤外線の入射量及び/又は反射量の差異は、図3Bに示されるように、亀裂を表す亀裂像として現れる。
【0040】
図3A及び図3Bの赤外線画像中に現れる亀裂は、直線的に進展している一方で、図3Cに示される赤外線画像中の亀裂は、大きく湾曲している。従来技術とは異なり、上述の亀裂検出方法は、亀裂の端部の位置だけでなく、亀裂の形状をも赤外線画像中に映し出すことを可能にする。したがって、検査者は、赤外線画像から構造物に生じた亀裂の長さも精度よく測定することができる。
【0041】
図3Cの赤外線画像の右側に示される縦帯は、赤外線カメラが捕捉した赤外線量から換算された構造物の表面の温度を表す。検査者は、縦帯に示される温度区分を参照し、構造物の表面の温度分布を分析することができる。亀裂の発生の結果、構造物の表面形状の微小変形(たとえば、表面のうねり)が生ずることがある。亀裂は、亀裂によって仕切られた2つの領域を不連続にするので、表面形状の差異が、これらの領域間で生ずることもある。検査者が、図3Cの赤外線画像の温度分布を分析すると、亀裂より上側の領域と下側の領域との間での温度分布特性に差異を見出すことができる。検査者は、これらの領域間での温度分布特性の差異から、構造物の表面形状の変形の発生をも検出することができる。したがって、上述の亀裂検出方法は、従来技術よりも多くの種類の情報を検査者に与えることを可能にする。
【0042】
図3A乃至図3Cに示されるように、亀裂は、赤外線画像内に現れる赤外線の強度変化として現れる。したがって、検査者は、赤外線画像を参照し、赤外線の強度変化が現れた部位を亀裂として判定することができる。しかしながら、構造物の設計上の表面形状が平坦でないならば、設計上の表面形状の非線状の凹凸部位が、赤外線画像中の赤外線の強度変化を引き起こすこともある。亀裂は、構造物の表面の直線状又は曲線状の変化であるので、検査者は、赤外線画像中の非線状の強度変化部位を亀裂として評価しなくてもよい。加えて、検査者が、赤外線画像を構造物の設計上の表面形状と対比し、赤外線画像中に現れた強度変化部位が亀裂を表しているか否かを判断することもできる。設計上、構造物の表面に形状変化が現れない位置に、赤外線強度の線状変化が現れているならば、検査者は、線状変化が現れている部位を亀裂として判断することができる。
【0043】
図4は、クレーン設備CRFの概略的な斜視図である。図4を参照して、亀裂検出方法が更に説明される。
【0044】
クレーン設備CRFは、2つのランウェイガーダRWGと、2つのクレーン桁CRBと、2つのサドルSDLと、クラブトローリCTRと、を備える。2つのランウェイガーダRWGは、略平行に延びる。2つのサドルSDLは、2つのランウェイガーダRWGにそれぞれ載置され、これらのランウェイガーダRWGに沿って移動することができる。2つのクレーン桁CRBは、2つのサドルSDL間で、ランウェイガーダRWGに略直角に延びる。したがって、クレーン桁CRBは、サドルSDLとともに、ランウェイガーダRWGの延設方向に移動することができる。クラブトローリCTRは、2つのクレーン桁CRBによって支持される。したがって、クラブトローリCTRは、クレーン桁CRB及びサドルSDLとともに、ランウェイガーダRWGの延設方向に移動することができる。加えて、クラブトローリCTRは、2つのクレーン桁CRBに沿って、ランウェイガーダRWGの延設方向に対して直角の方向にも移動することができる。
【0045】
上述の亀裂検出方法は、ランウェイガーダRWGやクレーン桁CRBに生じた亀裂の検出に好適に利用可能である。図4は、クラブトローリCTRから吊り下げられたステージSTG上に設置された赤外線カメラ100を示す。ハロゲンランプ200は、赤外線を出射する赤外線源として、ステージSTG上で、赤外線カメラ100の隣に設置されている。赤外線カメラ100及びハロゲンランプ200は、2つのランウェイガーダRWGのうち一方に向けられている。したがって、赤外線カメラ100から得られた赤外線画像は、2つのランウェイガーダRWGのうち一方の表面に生じた亀裂の検査に利用されることができる。検査者は、赤外線カメラ100及びハロゲンランプ200の向きを変え、他方のランウェイガーダRWG及び2つのクレーン桁CRBの表面に生じた亀裂を検出することもできる。
【0046】
サドルSDLが、ランウェイガーダRWGに沿って移動されるならば、赤外線カメラ100の視野は、ランウェイガーダRWGの長手方向に移動する。この間、検査者は、赤外線カメラ100を用いて、ランウェイガーダRWGの表面を、ランウェイガーダRWGの長手方向に連続的に撮像することができる。したがって、検査者は、ランウェイガーダRWG全体を短時間に検査し、亀裂がランウェイガーダRWGに生じているか否かを判定することができる。
【0047】
2つのクレーン桁CRB、2つのサドルSDL、クラブトローリCTR、ステージSTG、赤外線カメラ100及びハロゲンランプ200の重量は、ランウェイガーダRWGに加わる荷重になる。ランウェイガーダRWGに亀裂が生じているならば、荷重は、亀裂によって生じた不連続部位(たとえば、段差や亀裂の幅)を大きくすることもある。したがって、亀裂によって生じた不連続部位は、2つのクレーン桁CRB、2つのサドルSDL、クラブトローリCTR、ステージSTG、赤外線カメラ100及びハロゲンランプ200の重量が負荷された条件下で得られた赤外線画像に鮮明に現れやすくなる。
【0048】
錘が、ステージSTGに乗せられてもよい。ステージSTG、赤外線カメラ100及び錘の重量の総和が、クレーン設備CRFに対して定められた定格荷重に達するならば、許容される最大荷重が、ランウェイガーダRWGに加わることになる。この結果、亀裂によって生じた不連続部位は、最大化されることもある。したがって、亀裂は、赤外線画像に鮮明に現れやすくなる。亀裂の鮮明化のためにクレーン設備CRFに加えられる荷重は、定格荷重でなくてもよい。作業者は、亀裂の鮮明化とクレーン設備CRFに対する安全性とを考慮して、クレーン設備CRFに加えられる荷重を定格荷重以下の値に設定してもよい。
【0049】
熱弾性効果に依存する従来の検査技術は、亀裂の端部に特異応力場を発生させる必要があるので、動荷重が必要とされる。一方、上述の亀裂検出方法は、亀裂によって生じた不連続部位を拡張するために、荷重を利用するので、荷重は、静荷重であってもよいし、動荷重であってもよい。
【0050】
赤外線カメラ100の視野が、大きな荷重が加わる領域を含むように、赤外線カメラ100は設置されてもよい。この場合、鮮明な亀裂像が、赤外線画像に現れやすくなる。
【0051】
検査者は、ハロゲンランプ200の位置を、亀裂検査の前に調整してもよい。検査者が、亀裂検査前に得られた赤外線画像を参照し、赤外線の強度が強すぎると判断するならば、検査者は、ハロゲンランプ200をランウェイガーダRWGから離してもよい。検査者が、赤外線の強度が弱すぎると判断するならば、検査者は、ハロゲンランプ200をランウェイガーダRWGに近づけてもよい。ハロゲンランプ200の出力が、調整可能であるならば、検査者は、ハロゲンランプ200を操作し、ハロゲンランプ200の出力を調整してもよい。この結果、赤外線の適切な照射環境が作り出される。
【0052】
亀裂が生じやすい部位が既知であるとき、或いは、検査されるべき部位が予め定まっている場合、検査者は、赤外線カメラ100を、対象部位に正対させてもよい。このとき、ハロゲンランプ200の光軸が赤外線カメラ100の光軸に交差するように、検査者は、ハロゲンランプ200をステージSTG上に設置してもよい。代替的に、ハロゲンランプ200の光軸が、赤外線カメラ100の光軸に平行になるように、検査者は、ハロゲンランプ200をステージSTG上に設置してもよい。本実施形態の原理は、ハロゲンランプ200の光軸と赤外線カメラ100の光軸との間の特定の関係に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
上述の実施形態の原理は、様々な検査対象の亀裂検査に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
100・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・赤外線カメラ
200・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハロゲンランプ(赤外線源)
CLV・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・亀裂
CRF・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クレーン設備
IDW・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・入射波(赤外線)
RFW・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・反射波(赤外線)
SFC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・表面
STR・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・構造物
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4