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特許7098380チーズ類製品の製造方法及びチーズ類製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】チーズ類製品の製造方法及びチーズ類製品
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/09 20060101AFI20220704BHJP
   A23C 19/06 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A23C19/09
A23C19/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018064725
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019170319
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】石川 明子
(72)【発明者】
【氏名】水野 礼
(72)【発明者】
【氏名】阿部 忠博
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-090575(JP,A)
【文献】特開2016-146765(JP,A)
【文献】特開2013-106620(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181830(WO,A1)
【文献】チーズをオリーブオイルに漬けるだけで超濃厚に!ひと手間で絶品な「オイル漬けモッツァレラ」の簡単レシピ- dressing(ドレッシング)[online],2017年07月02日,[検索日:2021年11月4日],https://www.gnavi.co.jp/dressing/article/20929/
【文献】まとめ買い保存。チーズのオイル漬け byくみんちゅキッチン [クックパッド] 簡単おいしいみんなのレシピが266万品,Internet Archive Wayback Machine[online],2017年05月11日,[検索日:2021年11月4日],https://web.archive.org/web/20170511101240/https://cookpad.com/recipe/1923644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味を有する植物素材の分散液に、チーズ類の塊体を浸漬する浸漬工程を有し、
前記分散液は塩化ナトリウム及びカルシウム塩を含有し、
前記分散液中の塩化ナトリウムの含有量は前記分散液100質量%に対し1.0~1.4質量%であり、
前記分散液中のカルシウム塩の含有量は前記分散液100質量%に対し0.26~0.75質量%である、チーズ類製品の製造方法。
【請求項2】
前記浸漬工程は、前記分散液に前記チーズ類の塊体を1日間以上浸漬する、請求項1に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項3】
前記浸漬工程は、前記チーズ類の塊体と前記分散液とを容器包装に充填する操作を含む、請求項1又は2に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項4】
前記香味を有する植物素材は、香草である、請求項1~3のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項5】
前記香草は、バジル、パクチー、ミント、オレガノ、レモングラス及びローズマリーからなる群から選択される1種以上の香草である、請求項4に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項6】
前記チーズ類は、ナチュラルチーズ又はプロセスチーズである、請求項1~5のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項7】
前記チーズ類は、モッツァレラチーズである、請求項1~5のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項8】
前記カルシウム塩は、塩化カルシウムである、請求項1~6のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
【請求項9】
香味を有する植物素材の分散液とチーズ類の塊体とが共に容器包装に収容されてなり、
前記チーズ類の塊体には、前記植物素材に由来する香味が付与されており、
前記分散液は塩化ナトリウム及びカルシウム塩を含有し、
前記分散液中の塩化ナトリウムの含有量は前記分散液100質量%に対し1.0~1.4質量%であり、
前記分散液中のカルシウム塩の含有量は前記分散液100質量%に対し0.26~0.75質量%である、チーズ類製品。
【請求項10】
前記カルシウム塩は、塩化カルシウムである、請求項9に記載のチーズ類製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ類製品の製造方法及びチーズ類製品に関する。
【背景技術】
【0002】
胡椒等の香辛料、ハムの細片等の固形食品等の食材を有するチーズ類が知られている。
例えば、特許文献1には、溶融塩、塩、風味物質を含有するパスタフィラータ様チーズ及びその製造方法の発明が開示されている。特許文献1に記載された発明は、溶融塩、塩、風味物質をカードに添加して加熱混練することで、パスタフィラータチーズのような物性のチーズ類に食材の香味を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-187937号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、植物由来の食材を用いてチーズ類に香味を付与しても、香味を充分に発揮できなかった。
そこで、本発明は、植物由来の食材の香味をより良好に発揮できるチーズ類製品の製造方法及びチーズ類製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]香味を有する植物素材の分散液に、チーズ類の塊体を浸漬する浸漬工程を有する、チーズ類製品の製造方法。
[2]前記浸漬工程は、前記分散液に前記チーズ類の塊体を1日間以上浸漬する、[1]に記載のチーズ類製品の製造方法。
[3]前記浸漬工程は、前記チーズ類の塊体と前記分散液とを容器包装に充填する操作を含む、[1]又は[2]に記載のチーズ類製品の製造方法。
[4]前記香味を有する植物素材は、香草である、[1]~[3]のいずれかに記載のチーズ類製品の製造方法。
[5]前記香草は、バジル、パクチー、ミント、オレガノ、レモングラス及びローズマリーからなる群から選択される1種以上の香草である、[4]に記載のチーズ類製品の製造方法。
[6]前記チーズ類は、ナチュラルチーズ又はプロセスチーズである、[1]~[5]のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
[7]前記チーズ類は、モッツァレラチーズである、[1]~[5]のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
[8]前記分散液は塩化ナトリウム及び塩化カルシウムを含有し、
前記分散液中の塩化ナトリウムの含有量は前記分散液100質量%に対し0.6~1.7質量%であり、前記分散液中の塩化カルシウムの含有量は前記分散液100質量%に対し0.06~0.75質量%である、[1]~[7]のいずれか一項に記載のチーズ類製品の製造方法。
【0006】
[9]香味を有する植物素材の分散液とチーズ類の塊体とが共に容器包装に収容されてなり、
前記チーズ類の塊体には、前記植物素材に由来する香味が付与されている、チーズ類製品。
[10]前記分散液は塩化ナトリウム及び塩化カルシウムを含有し、
前記分散液中の塩化ナトリウムの含有量は前記分散液100質量%に対し0.6~1.7質量%であり、
前記分散液中の塩化カルシウムの含有量は前記分散液100質量%に対し0.06~0.75質量%である、[9]に記載のチーズ類製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物由来の食材の香味をより良好に発揮できるチーズ類製品の製造方法及びチーズ類製品の提供ができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のチーズ類製品の製造方法は、香味を有する植物素材の分散液(以下、「香味液」ということがある)に、チーズ類の塊体(以下、「チーズ塊」ということがある)を浸漬する工程(浸漬工程)を有する。
以下、本発明のチーズ類製品の製造方法について、実施形態を示して説明する。
【0009】
本実施形態のチーズ類製品の製造方法は、香味液にチーズ塊を浸漬してチーズ類製品を得る浸漬工程と、チーズ類製品を容器包装で包装する包装工程とを含む。
【0010】
浸漬工程は、1以上のチーズ塊を香味液に浸漬する工程である。浸漬工程を経ることで、チーズ塊は、植物素材に由来する香味が付与されて、チーズ類製品となる。
本明細書において、チーズ塊に「植物素材に由来する香味が付与」されるとは、香味液から取り出したチーズ類製品を喫食した際に、口腔内に植物素材の香味を感じる程度に、香味が付着し又は浸透することをいう。
【0011】
チーズ塊は、例えば、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、チーズフード等のチーズ類の塊体である。本発明では、これらのチーズ類を特に限定なく用いることが可能である。中でも、チーズ類としては、ナチュラルチーズ、プロセスチーズが好ましく、モッツァレラチーズ又はモッツァレラチーズを含有するプロセスチーズがより好ましく、ナチュラルチーズのモッツァレラチーズがさらに好ましい。これらのチーズ塊であれば、植物素材の香味をさらに発揮しやすい。
【0012】
本明細書において「チーズ類」は、チーズ(ナチュラルチーズ及びプロセスチーズ)、チーズフード等、乳等省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、公正競争規約の成分規格等において規定されたものの他、当該技術分野における通常の意味を有する範囲のものを全て包含する。加えて、「チーズ類」には、一成分としてチ-ズを含有して加工された食品、例えば、プロセスチーズ、チーズフード等を主原料として、チーズの風味又は食感を付与した各種食品等も包含される。
【0013】
チーズ塊の形状は、特に限定されず、球状、平板状、円柱状、角柱状等が挙げられる。
チーズ塊の質量は、特に限定されず、チーズ類製品の設計等を勘案して適宜決定される。例えば、チーズ塊は、1~300g/個が好ましく、3~120g/個がより好ましい。チーズ塊の質量が上記範囲内であれば、植物素材に由来する香味のさらなる向上を図れる。
【0014】
チーズ塊の塩化ナトリウム含量は、チーズ塊100質量%に対して、2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。塩化ナトリウム含量が上記上限値以下であれば、チーズ本来の風味のさらなる向上を図れる。
チーズ塊の水分含量は、チーズ塊100質量%に対して、40~70質量%が好ましく、50~65質量%がより好ましい。水分含量が上記下限値以上であれば物性のさらなる向上を図れる。
なお、チーズ塊は、植物素材を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0015】
チーズ塊の製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法が挙げられる。
例えば、ナチュラルチーズのチーズ塊の製造方法は、以下のとおりである。牛乳等の原料乳を任意の温度で加熱して、殺菌する。殺菌した原料乳にスターターを加えて酸性にする。酸性にした原料乳に凝乳酵素を加えて、カードを得る。
カードからホエイを排出してチーズを得る。カードからホエイを絞り出す方法は、カードの細切(カッティング)、撹拌(ステアリング)、加熱(クッキング)及び温度保持(ホールディング)、ホエイ排出、堆積、切断(ミリング)、加塩、撹拌及び堆積(メローイング)、型詰め及び圧搾(プレス)等である。得られたチーズを所望の大きさに分割し、ナチュラルチーズのチーズ塊とする。
【0016】
例えば、プロセスチーズのチーズ塊の製造方法は、以下のとおりである。ナチュラルチーズと、溶融塩と、任意に用いられる添加剤又は副材料とを含む全原料を加熱して、乳化する(加熱乳化処理)。溶融塩は、例えば、モノリン酸塩(オルトリン酸ナトリウム等)、ジリン酸塩(ピロリン酸ナトリウム等)、ポリリン酸塩(ポリリン酸ナトリウム等)等のリン酸塩;クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等)である。
加熱乳化処理における撹拌条件は、例えば、回転数100~1500rpmとされる。
加熱乳化処理における加熱温度は、例えば、70℃以上が好ましく、80~90℃がより好ましい。
加熱乳化工程で得られた乳化物を任意の大きさに成形し、冷却してプロセスチーズのチーズ塊とする。また、あるいは、乳化物をブロック又は平板状に成形し、冷却し、次いで、任意の大きさに切断して、プロセスチーズのチーズ塊とする。
【0017】
本明細書において「香味」は、喫食した際に口内に感じる香りと味わいであり、植物素材に由来するものである。
香味液は、香味を有する植物素材の分散液である。香味液は、植物素材と植物素材を分散させる液体(以下、「分散媒」と記載する。)とを少なくとも含む。分散液は、植物素材が分散している液体、植物素材の一部又は全部が溶解している液体のいずれでもよい。
分散媒は、チーズ類製品の香味を損なわないものであればよい。分散媒は、例えば、水、エタノール、植物油又はこれらの混合物を用いることが可能である。特に、分散媒として、水を用いることが好ましい。
分散媒として水を用いる場合、香味液中の水の含有量は、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0018】
本明細書において、「植物素材」は、固形の植物体(根、茎、葉、果実、花等)そのもの、固形の植物体の切断物、粉砕物等の全部又は一部、固形の植物体の全部又は一部の抽出物等、固形の植物体の全部又は一部及び固形の植物体由来の加工物である。固形の植物体は、生鮮物でもよいし、加熱加工品でもよいし、乾燥物でもよい。
植物素材としては、固形の植物体そのもの及び固形の植物体の切断物、粉砕物等の全部又は一部が好ましい。このような植物素材は、植物の色調や外観を良好に保ちながらチーズ塊に香味を付与しやすい。
【0019】
植物素材の原料としては、香草、香辛料、果物、野菜等が挙げられる。
香草としては、例えば、バジル、パクチー、ミント、オレガノ、レモングラス、ローズマリー等が挙げられる。
香辛料としては、コショウ、ガーリック、唐辛子等が挙げられる。
果物としては、オレンジ、レモン等の柑橘類、ブルーベリー、クランベリー等が挙げられる。
野菜としては、イチゴ、トマト等が挙げられる。
【0020】
植物素材としては、生鮮物又は乾燥物の細断品、生鮮物又は乾燥物のオイル漬け品、生鮮物のペースト品、燻液、発酵食品(味噌、醤油等)等が挙げられる。中でも、香草由来の植物素材としては、生鮮物が好ましく、生鮮物の細断品又はオイル漬け品がより好ましく、生鮮物のオイル漬け品がさらに好ましい。生鮮物のオイル漬け品としては、例えば、香草のオイル漬けが挙げられる。オイル漬け品のオイルは、オリーブ油、菜種油、大豆油等の植物油等である。
生鮮物を植物素材として用いると、チーズ類製品にさらに良好な香味を付与できる。
ナチュラルチーズの製造過程で、ナチュラルチーズ内に植物素材を混在させるには、例えば、カードに植物素材を加え、これを加熱しつつ混練する方法がある。植物素材を加熱すると、植物素材の香味や色調が損なわれやすい。本発明は、植物素材を加熱することなく、チーズ塊に植物素材の香味を付与できる。このため、チーズ塊には、植物素材の香味が良好に付与される。加えて、植物素材の生鮮物を用いた場合でも、植物素材の色調は損なわれにくい。
【0021】
香味液中の植物素材の含有量は、植物素材の種類や、チーズ類製品に求める香味の強さ等を勘案して適宜決定される。例えば、香味液100質量%に対する植物素材の量は、1~10質量%が好ましく、2~7質量%がより好ましく、3.5~5質量%がさらに好ましい。植物素材の含有量が上記下限値以上であれば、チーズ類製品における植物素材の香味のさらなる向上を図れる。植物素材の含有量が上記上限値以下であれば、チーズ類の本来の風味をより発揮しやすい。
なお、オイル漬け品を配合した場合、香味液中の植物素材の含有量は、オイルを除いた量で換算する。
【0022】
香味液は、分散媒、植物素材以外の任意成分を含有してもよい。任意成分としては、塩化ナトリウム、カルシウム塩、増粘剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0023】
香味液は、塩化ナトリウムを含有することが好ましい。香味液が塩化ナトリウムを含有することで、チーズ塊に塩味を付与できる。香味液に塩化ナトリウムを含有させる場合には、チーズ塊は塩化ナトリウムを含有しないものが好ましい。
香味液中の塩化ナトリウムの含有量は、香味液100質量%に対して0.6~1.7質量%が好ましく、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.0~1.2質量%がさらに好ましい。塩化ナトリウムの含有量が上記下限値以上であれば、チーズ塊の塩味を高めやすい。塩化ナトリウムの含有量が上記上限値以下であれば、塩味が強くなりすぎない。
【0024】
香味液は、カルシウム塩を含有することが好ましい。香味液がカルシウム塩を含有することで、浸漬工程において、チーズ塊の表面にぬめりが生じることを防ぎ、変形しにくくできる。
カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム等が挙げられる。中でも、カルシウム塩としては、塩化カルシウムが好ましい。
香味液中のカルシウム塩の含有量は、香味液100質量%に対して0.06~0.75質量%が好ましく、0.26~0.75質量%がより好ましく、0.40~0.50質量%がさらに好ましい。カルシウム塩の含有量が上記下限値以上であれば、浸漬工程において、チーズ塊の表面にぬめりが生じることをより良好に防止できる。カルシウム塩の含有量が上記上限値以下であれば、カルシウム塩由来の異味(えぐみ)を感じにくくできる。本発明においては、香味液が植物素材を含有するため、香味液中のカルシウム塩の含有量を高めても、異味を感じにくい。このため、香味液中のカルシウム塩の含有量を高めて、チーズ塊の変形をより良好に防止できる。
なお、カルシウム塩が塩化カルシウムの場合、香味液中の塩化カルシウムの含有量は、塩化カルシウム二水和物での換算量である。
【0025】
香味液は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、例えば、デンプン、ローカストビーンガム、ウェランガム、ジェランガム、キサンタンガム、カラギナン等の増粘多糖類、ゼラチン等が挙げられる。
香味液中の増粘剤の含有量は、香味液に求める粘度や増粘剤の種類等を勘案して決定される。香味液中の増粘剤の含有量は、香味液100質量%に対して、0.01~3.0質量%が好ましく、0.05~1.0質量%がより好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、香味液を所望する粘度に調整しやすい。
【0026】
香味液の粘度は、特に限定されず、例えば、5~500mPa・sが好ましく、10~300mPa・sがより好ましく、15~100mPa・sがさらに好ましい。香味液の粘度が上記下限値以上であれば、植物素材が香味液中に分散した状態を維持しやすい。加えて、香味液の粘度が上記下限値以上であれば、オイル漬け品を香味液に加えた場合に、香味液を乳化しなくても、植物素材及び油分が香味液内で良好に分散する。さらに、香味液の粘度が上記下限値以上であれば、チーズ塊を香味液から取り出した後に、香味液がチーズ塊の表面に滞留しやすい。香味液の粘度が上記上限値以下であれば、分散媒に植物素材を容易に分散できる。
香味液の粘度は、下記測定条件で測定される値である。
<測定条件>
・測定機器:B型粘度計。
・ローター:No.3。
・回転数:62.5rpm。
・測定温度:10℃。
・読み取り:ローターの回転が安定した時点。
【0027】
pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等が挙げられる。
香味液のpHは、4.5~9.0が好ましく、5.0~7.0がより好ましい。pHが上記範囲内であれば物性がより良好である。
【0028】
香味液に対するチーズ塊の質量比(チーズ塊/香味液比)は、特に限定されず、チーズ塊の全体が香味液に浸かる条件であればよい。チーズ塊/香味液比は、例えば、0.5~50が好ましく、0.5~20がより好ましい。
【0029】
香味液にチーズ塊を浸漬する時間(浸漬時間)は、植物素材の種類やチーズ類製品に求める品質等を勘案して決定される。浸漬時間は、1日間以上が好ましく、3日間以上がより好ましく、1週間以上がさらに好ましい。浸漬時間が上記下限値以上であれば、チーズ塊に植物素材の香味をさらに良好に付与できる。
浸漬時間の上限は、特に限定されないが、通常、2カ月以内である。
【0030】
香味液にチーズ塊を浸漬する温度(浸漬温度)は、例えば、0~20℃が好ましく、5~15℃がより好ましい。浸漬温度が上記下限値以上であれば、浸漬時間の短縮化を図れる。浸漬温度が上記上限値以下であれば、衛生面を担保しやすい。
【0031】
包装工程は、浸漬工程で得られたチーズ類製品を容器包装で包装する工程である。即ち、包装工程は、香味液に浸漬されたチーズ塊を流通単位に包装する工程である。容器包装と容器包装内に収容されたチーズ類製品とを合わせて、特に容器入りチーズ製品ということがある。
【0032】
容器包装としては、例えば、可撓性を有する袋体、カップ容器、瓶、缶等、内容物を密封できる容器包装であればよい。また、遮光性の容器包装を用いると、容器包装に収容された植物素材の色調がさらに良好に保持される。酸素バリア性を有する容器包装を用いると、容器包装に収容されたチーズ類製品の保存性がより良好に保持される。
【0033】
袋体としては、スタンディングパウチ、四方シール袋、三方シール袋等が挙げられる。袋体の材質としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム等の単層フィルム又はこれらの内の2以上の積層フィルム、樹脂フィルムと金属箔との積層フィルム等、従来公知のフィルムが挙げられる。
【0034】
カップ容器としては、紙又はプラスチック製のカップと、このカップの開口部を塞ぐ蓋体とを備えるものが挙げられる。カップの材質としては、特に限定されず、コートボール紙等の紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂が挙げられる。蓋体の材質としては、上述の袋体と同様の材質が挙げられる。
【0035】
容器包装にチーズ塊を充填する方法は、従来公知の充填方法が挙げられる。
容器包装には、浸漬工程を経たチーズ塊のみを充填してもよいし、チーズ塊と香味液とを充填してもよい。
【0036】
チーズ塊のみを取り出し、容器包装に充填することで、喫食者に植物素材を見せることなく、植物素材の香味が付与されたチーズ類製品を喫食者に提供できる。
チーズ塊のみを取り出し、容器包装に充填する場合には、香味液から取り出したチーズ塊を水等で洗浄してもよいし、洗浄しなくてもよいが、洗浄しないことが好ましい。チーズ塊を水等で洗浄しなければ、植物素材に由来する香味が損なわれにくい。
【0037】
チーズ塊と香味液とを共に容器包装に充填することで、香味液とチーズ塊とが共に容器包装に収容され、チーズ塊に植物素材に由来する香味が付与されている容器入りチーズ類製品を得られる。香味液とチーズ塊とが共に容器包装に収容されていることで、香味液中の植物素材の香味をより濃厚にチーズ塊に付与できる。加えて、容器包装から内容物を取り出した後に、チーズ塊と植物素材とを喫食できる。
チーズ塊と香味液とを共に容器包装に充填する場合には、容器包装内で、チーズ塊全体が香味液に浸かるように、チーズ塊の充填量と香味液の充填量とを調整することが好ましい。容器入りチーズ類製品におけるチーズ塊/香味液比は、例えば、0.5~50が好ましく、0.5~20がより好ましい。
【0038】
なお、本実施形態では、浸漬工程の後に、包装工程を行っている。しかしながら、浸漬工程が包装工程を兼ねてもよい。即ち、浸漬工程は、容器包装に1以上のチーズ塊と香味液とを充填する操作を含む。その後、チーズ塊と香味液とが充填された容器包装を封止し、任意の時間、保存してもよい。この製造方法により、容器入りチーズ類製品を容易に製造できる。容器包装にチーズ塊と香味液とを充填する場合、充填する順序は限定されず、チーズ塊を先に充填してもよいし、香味液を先に充填してもよい。
【0039】
上述の通り、本実施形態のチーズ類製品の製造方法によれば、香味液にチーズ塊を浸漬することで、植物素材の香味をより良好に付与できる。
本実施形態のチーズ類製品は、植物素材の香味が付与されているため、喫食時に植物素材の香味をより良好に発揮できる。
本実施形態のチーズ類製品は、そのまま喫食できるが、他にも、トースト、サラダ、パスタ、肉料理、魚料理等に好ましく用いられる。
【実施例
【0040】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0041】
(使用原料)
<チーズ塊>
・モッツァレラチーズ:下記の製造方法で製造したもの。
<チーズ塊の製造方法>
原料乳として100Lの全乳を用い、これをプレート式熱交換機にて、HTST法で75℃15秒の加熱処理条件で殺菌した。殺菌した原料乳を40℃に冷却した。冷却した原料乳に、バルクスターター(クリスチャンハンセン社製)を所定量(原料乳100質量%に対して2質量%)添加し、混合し、1時間発酵させた。
発酵後、発酵液にレンネット(クリスチャンハンセン社製、カーフレンネットStandard Plus)を10g添加し、混合し、30分間静置してカードを形成した。
得られたカードを2.0cm四方の立方体にカッティングした。その後、ホエイ排出を行った。
レンネット添加からホエイの全量排出までを4時間で行った。カッティングしたカードを1時間撹拌し、その後静置した。
ホエイ排出後、カードを40℃に保温しながら堆積し、pHを5.3にした。
得られたカードを、1cm四方の立方体にカットしてから、85℃のお湯30Lを加え、延伸を行った。延伸はカードの温度が60℃に達するまで行った。
モールドを用いて、延伸工程の後のカードを5g/1個の球形に成形し、これを15℃の冷水に投入して冷却し、チーズ塊を得た。
【0042】
<香味液原料>
・バジルオイル:菜種油100質量部に対して、生鮮バジル(1~3mm角に細断されたもの)100質量部が浸漬されたもの。キューピー株式会社製、バジルペースト。
・ウェランガム:三栄源エフ・エフ・アイ社製。
・塩化ナトリウム
・塩化カルシウム
【0043】
(試験例1-1)
バジルオイル7g(バジル葉換算で3.5g含有)、塩化ナトリウム1.1g、塩化カルシウム0.45g及びウェランガム0.1gを水91.35gに分散して、香味液(植物素材の含有量:バジル葉換算で3.5質量%)を調製した。香味液の粘度は20mPa・sであった。45gの香味液と8個のチーズ塊とをプラスチック製袋体(内容量200mL)に充填した。袋体を封止し、5℃にて12日間保存して、容器入りチーズ類製品を得た(以上、浸漬工程及び包装工程)。得られた容器入りチーズ類製品を開封し、内容物(チーズ類製品)を取り出した。取り出したチーズ類製品について、香味と色調とを評価し、その結果を表1に示す。
【0044】
(試験例1-2)
原料乳として100Lの全乳を用い、これをプレート式熱交換機にて、HTST法で75℃15秒の加熱処理条件で殺菌した。殺菌した原料乳を40℃に冷却してから、バルクスターター(クリスチャンハンセン社製)を所定量(原料乳100質量%に対して2質量%)添加し、混合し、1時間発酵させた。
発酵後、発酵液にレンネット(クリスチャンハンセン社製、カーフレンネットStandard Plus)を10g添加し、混合し、30分間静置してカードを形成した。
得られたカードを2.0cm四方の立方体にカッティングした。その後、ホエイ排出を行った。
レンネット添加からホエイの全量排出までを4時間で行った。カッティングしたカードを1時間撹拌し、その後静置した。
ホエイ排出後、カードを40℃に保温しながら堆積し、pHを5.3にした。
得られたカードを、1cm四方の立方体にカットしてから、85℃のお湯30Lとバジルオイル2.1kg(バジル葉換算で1.05kg含有、キューピー株式会社製、バジルペースト)を加え、延伸を行った。延伸はカードの温度が60℃に達するまで行った。
延伸工程の後のカードを、モールドを用いて5g/1個の球形に成形し、これを15℃の冷水に投入して冷却し、チーズ類製品を得た。
得られたチーズ類製品について、香味と色調とを評価し、その結果を表1に示す。
【0045】
(評価方法)
<香味>
選任パネラー8名が各例のチーズ類製品を喫食し、下記の評価スコアに従って数値化した。数値が大きい方がバジルの香味が強く、好ましい香味であることを意味する。パネラー8名の評価スコアの平均値を表1中に記載した。
[評価スコア]
好ましくない 1・2・3・4・5 好ましい
【0046】
<色調>
選任パネラー8名が各例のチーズ類製品を目視で観察し、下記の評価スコアに従って数値化した。数値が大きい方がバジルの葉の存在感があり、バジルの葉の色調が鮮やかで好ましい色調であることを意味する。パネラー8名の評価スコアの平均値を表1中に記載した。
[評価スコア]
好ましくない 1・2・3・4・5 好ましい
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、試験例1-1の香味及び色調の評価は、いずれも5.0であった。試験例1-1は、チーズ塊の表面に鮮やかな緑色のバジルの葉が付着しており、フレッシュなバジルの香味と好ましい色調を有するものであった。
一方、試験例1-2は、チーズ類の内部、表面の全体に細かくバジルの葉が練り込まれており、バジルの香味が弱かった。加えて、バジルの葉は茶色に変色していた。試験例1-2の香味の評価は、1.8であった。試験例1-2の色調の評価は、1.3であった。
このように、チーズ塊を香味液に浸漬した試験例1-1は、延伸工程にて植物素材を添加した試験例1-2と比して、香味及び色調に優れていた。
【0049】
(試験例2-1~2-5)
浸漬時間を表2に示す期間とした以外は、試験例1-1と同様にしてチーズ類製品を得た。
各例チーズ類製品について、試験例1-1と同様にして、香味及び色調を評価した。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示す通り、浸漬時間が1日間以上である試験例2-2~2-5は、香味の評価が4.3~5.0であり、色調の評価が4.4~5.0であった。
浸漬時間が30分間である試験例1-1は、香味の評価が3.0、色調の評価が4.3であった。
これらの結果から、浸漬時間を1日間以上、特に3日間以上にすることで、植物素材に由来する香味及び色調のさらなる向上を図れることが分かった。また、得られたチーズ類製品は、30日間の間、常に優れた香味及び色調を安定して保っていた。
【0052】
(試験例3)
表3の列に示す塩化カルシウム含有量(二水和物換算)と、表3の行に示す塩化ナトリウム含有量との組み合わせの香味液(植物素材の含有量:バジル葉換算で3.5質量%)を用いた以外は、試験例1-1と同様にして、各例のチーズ類製品を得た。
得られたチーズ類製品について、風味及び物性を評価し、その結果を表3に示す。
【0053】
(評価方法)
<風味>
選任パネラーが各例のチーズ類製品を喫食し、下記評価基準に従って評価した。
[評価基準]
塩化カルシウム由来の異味が感じられず、チーズの風味が良好である。・・・○
塩化カルシウム由来の異味がやや感じられるが、チーズの風味を許容できる。・・・△
塩化カルシウム由来の異味が感じられ、チーズの風味が不良である。・・・×
【0054】
<物性>
選任パネラーが各例のチーズ類製品を目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。
[評価基準]
変形がなく、表面がしっかりしている。・・・○
表面がややふやけている。・・・△
変形が認められ、表面がふやけている。軟弱である。ぬめりがある。・・・×
【0055】
【表3】
【0056】
表3は、列で塩化カルシウムの含有量を変化させ、行で塩化ナトリウム含有量を変化させたマトリックス表である。この表において、例えば、塩化カルシウム含有量が0.40質量%の列と塩化ナトリウム含有量が1.1質量%の行との重なるセルは、塩化カルシウム含有量0.40質量%かつ塩化ナトリウム含有量1.1質量%の香味液で浸漬工程を行ったチーズ類製品の評価結果である。
【0057】
表3に示すように、塩化カルシウム含有量が0.26~0.75質量%であり、かつ、塩化ナトリウム含有量が1.0~1.4質量%の香味液を用いたチーズ類製品は、風味及び物性に優れていた。特に、塩化カルシウム含有量が0.40~0.50質量%であり、かつ、塩化ナトリウム含有量が1.0~1.2質量%である香味液を用いたチーズ類製品は、風味及び物性がさらに良好であった。
このように、香味液中の塩化カルシウム及び塩化ナトリウムの含有量が上記範囲内であれば、チーズ塊の風味と物性を保ちながら、植物素材の香味をチーズ類製品に付与できることが判った。
【0058】
(実施例4-1~4-3)
香味液中のバジルオイルの含有量(バジル葉換算)を表4に示す含有量とした以外は、試験例1-1と同様にして、チーズ類製品を得た。なお、試験例4-2は、試験例1-1と同じである。
各例のチーズ類製品について、下記評価基準に従い、香味及び外観を評価した。その結果を表4に示す。
【0059】
<香味の評価基準>
バジルの香味が強く、好ましい香味である。・・・○
バジルの香味がやや弱いが、許容できる香味である。・・・△
バジルの香味が弱く、好ましくない香味である。・・・×
【0060】
<外観の評価基準>
バジル葉の存在感があり、バジルの葉の色調が鮮やかで好ましい外観である。・・・○
バジル葉の存在感とバジルの葉の色調がやや弱いが、許容できる外観である。・・・△
バジル葉の存在感がなく、あまり好ましくない外観である。・・・×
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示す通り、バジル葉の含有量が3.5~5.0質量%の香味液を用いた試験例4-2及び4-3は、香味及び外観がいずれも「〇」であった。
バジル葉の含有量が2.5質量%の香味液を用いた試験例4-1は、香味が「○」であったものの、バジル葉の含有量が少ないためバジル葉の存在感があまりなく、外観の評価は「×」であった。
以上より、バジル葉換算で3.5~5.0質量%のバジルを含む香味液を用いることで、香味及び外観がさらに良好なチーズ製品を得られることが判った。