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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】有機酸含有食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3526 20060101AFI20220704BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20220704BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220704BHJP
【FI】
A23L3/3526 501
A23L3/3508
A23L29/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018084859
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019187326
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小磯 博昭
(72)【発明者】
【氏名】矢木 一弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 啓治
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017485(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/139946(WO,A1)
【文献】特開平10-215793(JP,A)
【文献】特開平10-229847(JP,A)
【文献】特開平10-243776(JP,A)
【文献】GNPD - 65% Calorie-Reduced Mayonnaise, ID# 4294313, [online], 2016, [検索日:2021.12.09]
【文献】果実の有機酸組成に関する研究, 日本食品工業会誌, 1967, vol.14, no.5, p.187-192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びにグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩を含有する、食品添加用組成物
但し、下記の組成物を除く:
(1)グルタミルバリルグリシン、植物油、卵、食塩、醸造酢、砂糖、レモン果汁、加水分解タンパク(大豆)、グリシン、アミノ酸、乳化剤、増粘多糖類、カロテン色素、及びスパイスエキスを含有するマヨネーズ;
(2)グルタミルバリルグリシンまたはその塩と果汁を含有する飲食品;
(3)グルタミルバリルグリシンを含有する高甘味度甘味料含有ドリンクヨーグルト
【請求項2】
有機酸が、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載する食品添加用組成物。
【請求項3】
有機酸および/またはその塩の総量100質量部に対するグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩の割合が総量で0.0025~50質量部である請求項1または2に記載する食品添加用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載する食品添加用組成物を含有する食品組成物
但し、下記の組成物を除く:
(1)グルタミルバリルグリシン、植物油、卵、食塩、醸造酢、砂糖、レモン果汁、加水分解タンパク(大豆)、グリシン、アミノ酸、乳化剤、増粘多糖類、カロテン色素、及びスパイスエキスを含有するマヨネーズ;
(2)グルタミルバリルグリシンまたはその塩と果汁を含有する飲食品;
(3)グルタミルバリルグリシンを含有する高甘味度甘味料含有ドリンクヨーグルト
【請求項5】
有機酸および/またはその塩を総量で0.01~50質量%、並びにグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩を総量で0.000025~0.1質量%の割合で含有する請求項4に記載する食品組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載する食品添加用組成物を配合し、食品組成物中に有機酸および/またはその塩とグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩との共存状態を形成する工程を有する、請求項4又は5に記載する有機酸含有食品組成物の製造方法。
【請求項7】
さらに加熱工程を有する請求項6に記載する製造方法。
【請求項8】
有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種とグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩を併用することを特徴とする、有機酸またはその塩の酸味および/または酸臭を抑制する方法
但し、果汁を含有する飲食品における、有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種とグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩との併用、及び
高甘味度甘味料含有ドリンクヨーグルトにおける、有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種とグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩との併用を除く
【請求項9】
前記併用が、果汁を含有する飲食品及び高甘味度甘味料含有ドリンクヨーグルトを除く食品組成物中に有機酸および/またはその塩とグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩との共存状態を形成するものである、請求項8に記載する方法。
【請求項10】
前記共存状態は、有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する食品組成物にグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩を配合するか、グルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩を含有する食品組成物に有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合するか、または食品組成物に有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びにグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩を配合することによって形成されるものである、請求項に記載する方法。
【請求項11】
前記有機酸またはその塩の酸味または/および酸臭が、有機酸またはその塩を加熱することによって生じる酸味または/および酸臭である、請求項8~10のいずれかに記載する方法。
【請求項12】
前記食品組成物中に、有機酸および/またはその塩の総量100質量部に対するグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩の割合が総量で0.0025~50質量部となるように、有機酸および/またはその塩とグルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩とを併用する、請求項8~11のいずれかに記載する方法。
【請求項13】
前記食品組成物中に、有機酸および/またはその塩が総量で0.01~50質量%、グルタミルバリルグリシンおよび/またはその塩が総量で0.000025~0.1質量%となるように両者を併用する、請求項8~12のいずれかに記載する方法。
【請求項14】
有機酸が、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8~13のいずれかに記載する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸またはその塩に特有の酸味または酸臭を抑制するための方法に関する。また本発明は有機酸またはその塩の酸味または酸臭が抑制されてなる食品添加用組成物または食品組成物、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、従来より有機酸は、酸味料、調味料、保存料、日持向上剤、およびpH調整剤等として広く使用されている食品成分である。特に酢酸は、穀物酢、果実酢、醸造酢および合成酢などの食酢の主成分であり、その防腐・抗菌作用により食べ物をいたみにくくする効果があるほか、最近では、疲労回復効果および食欲増進効果に加えて、高血圧抑制効果、血中脂質低下、または内臓脂肪低減効果などを有し、健康によいことが知られている。しかし、酢酸は、鋭い酸味とともに強い刺激臭(酸臭)を有するため、消費者のなかには、これを敬遠する者がいるのは確かである。また、酢酸のほか、酸味料、調味料、保存料、日持向上剤またはpH調整剤等の食品添加剤として使用される乳酸やクエン酸などの有機酸には、酢酸と同様、有機酸特有の酸味や酸臭を有するものが多い。このため、食品添加剤としての効果を発揮する割合を配合することで、食品の風味が損なわれることがある。
【0003】
こうした有機酸特有の酸味や酸臭を抑制する方法として、従来、高甘味度甘味料であるスクラロースやアスパルテームを用いる方法(特許文献1~3)、3-ヒドロキシ4,5-ジメチル-2(5H)-フラノンを用いる方法(特許文献4)、酢酸カルシウムを用いる方法(特許文献5)、並びにグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムを併用する方法(特許文献6)などが提案されている。
【0004】
一方、グルタミルバリルグリシン等のグルタミルペプチドについて、コク味付与作用や香辛料の風味増強作用は知られているものの(特許文献7および8)、有機酸の酸味や酸臭を抑制する作用については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-215793号公報
【文献】特開平10-229847号公報
【文献】特開平10-243776号公報
【文献】特開2001-69940号公報
【文献】特開2015-6170号公報
【文献】特開平10-248385号公報
【文献】特開2010-154862号公報
【文献】WO2014/123175号国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、有機酸またはその塩に特有の酸味または酸臭を抑制するための方法を提供することを目的とする。また本発明は有機酸またはその塩の酸味または酸臭が抑制されてなる食品添加用組成物または食品組成物、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、グルタミルバリルグリシン(γGlu-Val-Gly)(以下、単に「EVG」とも称する)を有機酸またはその塩と併用することで、有機酸またはその塩に特有の酸味や酸臭が抑制できることを見出した。かかる知見に基づいて、本発明者らは、EVGを使用することで有機酸またはその塩の酸味または酸臭が抑制でき、その結果、これらをより広範囲にわたり食品に利用することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有する。
(I)食品添加用組成物
(I-1)有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びにEVGおよび/またはその塩を含有する、食品添加用組成物。
(I-2)有機酸が、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)に記載する食品添加用組成物。
(I-3)有機酸および/またはその塩100質量部に対するEVGおよび/またはその塩の割合が総量で0.0025~50質量部である(I-1)または(I-2)に記載する食品添加用組成物。
【0009】
(II)有機酸含有食品組成物
(II-1)(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する食品添加用組成物を含有する食品組成物。
(II-2)有機酸および/またはその塩を総量で0.01~50質量%、並びにEVGおよび/またはその塩を総量で0.000025~0.1質量%の割合で含有する(II-1)に記載する食品組成物。
【0010】
(III)有機酸含有食品組成物の製造方法
(III-1)(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する食品添加用組成物を配合し、食品組成物中に有機酸および/またはその塩とEVGおよび/またはその塩との共存状態を形成する工程を有する、有機酸含有食品組成物の製造方法。
(III-2)さらに加熱工程を有する(III-1)に記載する製造方法。
(III-3)前記食品組成物に、有機酸および/またはその塩を総量で0.01~50質量%、EVGおよび/またはその塩を総量で0.000025~0.1質量%となるように配合する、(III-1)または(III-2)に記載する製造方法。
【0011】
(IV)有機酸またはその塩の酸味および/または酸臭を抑制する方法
(IV-1)有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種とEVGおよび/またはその塩を併用することを特徴とする、有機酸またはその塩の酸味または/および酸臭を抑制する方法。
(IV-2)前記併用が、食品組成物中に有機酸および/またはその塩とEVGおよび/またはその塩との共存状態を形成するものである、(IV-1)に記載する方法。
(IV-3)前記共存状態は、有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する食品組成物にEVGおよび/またはその塩を配合するか、EVGおよび/またはその塩を含有する食品組成物に有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合するか、または食品組成物に有機酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、およびEVGおよび/またはその塩を配合することによって形成されるものである、(IV-2)に記載する方法。
(IV-4)前記有機酸またはその塩の酸味および/または酸臭が、有機酸またはその塩を加熱することによって生じる酸味および/または酸臭である、(IV-1)~(IV-3)のいずれかに記載する方法。
(IV-5)前記食品組成物中に、有機酸および/またはその塩の総量100質量部に対するEVGおよび/またはその塩の割合が総量で0.0025~50質量部となるように、有機酸および/またはその塩とEVGおよび/またはその塩とを併用する、(IV-1)~(IV-4)のいずれかに記載する方法。
(IV-6)前記食品組成物中に、有機酸および/またはその塩の総量が0.01~50質量%、EVGおよび/またはその塩の総量が0.000025~0.1質量%となるように両者を併用する、(IV-1)~(IV-5)のいずれかに記載する方法。
(IV-7)有機酸が、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、(IV-1)~(IV-6)のいずれかに記載する方法。
【0012】
ここで本発明において「酸味」とは、口腔内で「酸っぱい」と感じる味覚を意味する。また「酸臭」とは、「酸っぱいような刺激臭」を意味する。なお、「臭い」には鼻から直接嗅ぐ臭い(オルソネーザルアロマ)と、口に入れて飲み込むときに喉から鼻腔に抜ける時に感じる臭い(レトロネーザルアロマ)とがある。本発明でいう酸臭には、これらの両方の意味が含まれる。つまり、本発明のEVGおよび/またはその塩による酸臭抑制作用・効果は、鼻から直接嗅ぐ臭い(オルソネーザルアロマ)、および口に入れて飲み込むときに喉から鼻腔にかけて感じる臭い(レトロネーザルアロマ)のいずれか一方、好ましくは両方の臭いを抑制する効果を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の食品添加用組成物は、有機酸またはその塩に由来する酸味および/または酸臭が抑制されており、食品に適用した場合に食品組成物本来の風味が損なわれることがなく、風味のよい食品組成物を提供することができる。また本発明の食品組成物は、有機酸またはその塩を含有する食品添加用組成物の配合によっても食品本来の風味が損なわれないことを特徴とする。また本発明の方法によれば、有機酸またはその塩に特有の酸味および/または酸臭を抑制することができ、このため有機酸またはその塩の食品への適用範囲を広げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)食品添加用組成物
本発明の食品添加用組成物は、有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びにEVGおよび/またはその塩を含有することを特徴とする。
【0015】
(1)有機酸またはその塩
本発明が対象とする有機酸およびその塩は、可食性の有機酸およびその塩、つまり食用の有機酸およびその塩であって、酸味または酸臭を有するものである。有機酸として、制限はされないが、好ましくは酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸を挙げることができる。本発明において、これらの有機酸は1種単独で使用されてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。これらの有機酸の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩を挙げることができる。好ましくはナトリウム塩である。
【0016】
これらの食用有機酸およびその塩は、例えば下記に分類されるように、食品添加物として広く食品に用いられている。
(1)酸味料(食品に酸味を付与するかまたは食品の酸味を調整する)
氷酢酸(酢酸)、酢酸ナトリウム、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フィチン酸、クエン酸ナトリウム、およびフマル酸一ナトリウム
(2)調味料(食品に旨味等を付与し増強するか、食品の味覚を向上または改善する)
クエン酸三ナトリウム、コハク酸、酢酸ナトリウム、およびコハク酸二ナトリウム
(3)pH調整剤(食品の変質や変色を防止する)
クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびリンゴ酸ナトリウム
(4)保存料(加工食品の微生物による腐敗や変敗を防止する)
安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、デヒドロ酢酸ナトリウム
(5)日持向上剤(短期間の食品の腐敗や変敗を抑える)およびその副剤
氷酢酸(酢酸)、酢酸ナトリウム(以上、日持向上剤)、乳酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、酒石酸、グルコノデルタラクトンなどの有機酸、またはそれらの塩(以上、日持向上剤と併用される副剤)。
【0017】
本発明の食品添加用組成物において、有機酸は、市場で入手可能な食用酢として含まれていてもよい。食用酢には米酢、玄米酢、粕酢、麦芽酢、黒酢およびハトムギ酢などの穀物酢;リンゴ酢、ワイン酢、シェリー酢、バルサミコ酢、ポン酢、レモン酢、かぼす酢、および梅酢等の果実酢;醸造酢;合成酢が含まれる。
【0018】
(2)グルタミルバリルグリシン(EVG)またはその塩
EVGは、γグルタミル構造を有するトリペプチドの調味料(食品添加物)である。魚醤や醤油中の食品中に微量含まれており、コク味付与作用を有する成分とされている。
【0019】
本発明においてEVGは、遊離の形態、塩の形態、またはそれらの混合物のいずれの形態で用いることができる。本発明において、「グルタミルバリルグリシン(EVG)および/またはその塩」とは、特記しない限り、遊離の形態のEVG、塩の形態のEVG、またはそれらの混合物を意味する。以下、当該「EVGおよび/またはその塩」を、単に「EVG類」と称する。
【0020】
EVGの塩としては、可食性の塩または薬理学的に許容される塩であれば特に限定されない。例えば、カルボキシル基などの酸性基に対する塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アルミニウム塩;亜鉛塩;トリエチルアミン、エタノールアミン、ピペラジン、ピペリジン、ジシクロヘキシルアミンなど有機アミンとの塩;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。また、アミノ基など塩基性基に対する塩としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸との塩;酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、デカン酸、デオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩;メタンスルホン酸、ベンジルスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
EVGは、本発明の効果を奏することを限度として、所望の程度に精製されていればよく、精製品であっても、また非精製品であってもよい。例えば、EVGとして、純度が30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上のものを用いることもできる。
【0022】
(3)食品添加用組成物
本発明において食品添加用組成物は、食品に添加して使用されるものを意味する。具体的には、食品の製造または調理の過程において、食品に添加、混和、湿潤またはその他の方法によって使用されるものである。ここで対象とする食品は、スーパーやコンビニエンスストアなどの店頭で販売される加工食品のほか、レストランや食堂等の飲食店および家庭で調理される食品(調理食)のいずれもが含まれる。なお、加工食品には、缶・瓶詰果汁、味噌、醤油、および漬け物等の一次加工食品;製パン、製麺、マヨネーズやソースなどの調味料等の二次加工食品;インスタント食品、冷凍食品、レトルト食品、缶詰、瓶詰、練り製品、包装食品、調理済み食品・半調理済み食品、コピー食品、総菜類等の三次加工食品(調理加工済み食品)が含まれる。またその形態も問わず、固形物(固体、粉末状、顆粒状)、半固形物(ペースト状、ゲル状)、および液状物(溶液状、乳液状、分散液状)のいずれでもよい。つまり、本発明において食品という用語は、飲料を含む飲食品と同意義で使用される。
【0023】
本発明の食品添加用組成物は、前記食品に添加して使用する目的(役割)によって特に制限されるものではない。例えば、(1)pH調整剤などのように、食品の製造や加工に必要であるとして添加されるものであってもよいし、(2)保存料や日持向上剤などのように、食品の保存性を高め、食中毒を予防するものであってもよいし、(3)酸味料や調味料等のように、食品の嗜好性や品質を向上させて、より魅力ある食品にするためのものであってもよいし、さらに(4)食品の栄養成分を補充し、強化するものであってもよい。
【0024】
本発明の食品添加用組成物における有機酸またはその塩に対するEVG類の割合は、EVG類を配合することで有機酸またはその塩の酸味や酸臭が抑制できる限りにおいて特に制限されない。好ましくは食品添加用組成物における有機酸および/またはその塩(以下、「有機酸類」と総称する)の総量100質量部に対するEVG類の割合(総量)として、0.0025~50質量部を挙げることができる。好ましくは0.0025~10質量部であり、より好ましくは0.005~5質量部である。
【0025】
なお、本発明の食品添加用組成物における有機酸類、並びにEVG類の配合割合は、上記の限りにおいて特に制限されず、食品添加用組成物の種類や用途、および配合する有機酸の種類に応じて、適宜設定することができる。例えば有機酸類の配合割合(総量)としては、通常、0.1~100質量%未満の範囲、好ましくは0.5~90質量%の範囲から適宜選択することができる。また、EVG類の配合割合(総量)としては、上記の通り、有機酸類の総量100質量部に対して0.0025~50質量部の割合の範囲になるように、通常、0より多く50質量%以下の範囲、好ましくは0.005~5質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0026】
より具体的には、本発明の食品添加用組成物が、例えば食品のpH調整に使用されるpH調整用製剤である場合、有機酸類の含有量(総量)として1~100質量%未満の範囲、好ましくは10~100質量%未満、より好ましくは20~100質量%未満を挙げることができる。EVG類の含有量(総量)は、前述の通り、有機酸類の総量100質量部に対して0.0025~50質量部の範囲である限り制限されないが、好ましくは0.005~50質量%の範囲、より好ましくは0.01~30質量%の範囲から選択することができる。なお、ここで有機酸類として、好ましくはクエン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムを挙げることができる。当該pH調整用製剤は、最終食品における有機酸類の濃度(添加濃度)が、0.05~50質量%(または500~500000ppm)、好ましくは0.1~20質量%(または1000~200000ppm)となるように適宜調整することができる。当該本発明のpH調整用製剤の形態は特に限定されない。本発明のpH調整用製剤は、例えば、液体、ペースト、乳化状液体、粉末、顆粒、錠剤等のいかなる形態であってもよい。
【0027】
また、本発明の食品添加用組成物が、例えば食品の微生物による腐敗や変敗を防止し、食中毒の発生を予防するために使用される保存料製剤である場合、有機酸類の含有量(総量)として1~100質量%未満の範囲、好ましくは5~100質量%未満、より好ましくは10~100質量%未満を挙げることができる。EVG類の含有量(総量)は、前述の通り、有機酸類の総量100質量部に対して0.0025~50質量部の範囲である限り制限されないが、好ましくは0.005~50質量%の範囲、より好ましくは0.01~30質量%の範囲から選択することができる。なお、ここで有機酸類として、好ましくは安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウムなどを挙げることができる。当該保存料製剤は、最終食品における上記有機酸類の濃度(添加濃度)が、厚生労働省が定める使用基準内に収まるように適宜調整することができる。本発明の保存料製剤は、例えば、液体、ペースト、乳化状液体、粉末、顆粒、錠剤等のいかなる形態であってもよい。
【0028】
また、本発明の食品添加用組成物が、例えば食品の短期間の腐敗や変敗を抑制するために使用される日持向上用製剤である場合、有機酸類の含有量(総量)として1~100質量%未満の範囲、好ましくは10~100質量%未満、より好ましくは20~100質量%未満を挙げることができる。EVG類の含有量(総量)は、前述の通り、有機酸類の総量100質量部に対して0.0025~50質量部の範囲である限り制限されないが、好ましくは0.05~50質量%の範囲、より好ましくは0.1~20質量%の範囲から選択することができる。なお、ここで有機酸類として、好ましくは酢酸、酢酸ナトリウムなどを挙げることができる。当該日持向上用製剤は、最終食品における上記有機酸類の濃度(添加濃度)が、総量で0.05~3質量%(または500~30000ppm)、好ましくは0.1~2.0質量%(または1000~20000ppm)となるように適宜調整することができる。本発明の日持向上用製剤は、例えば、液体、ペースト、乳化状液体、粉末、顆粒、錠剤等のいかなる形態であってもよい。
【0029】
また、本発明の食品添加用組成物が、例えば食品に酸味の付与、または酸味の調整や味の調和のために使用される酸味料製剤である場合、有機酸類の含有量(総量)として1~100質量%未満の範囲、好ましくは10~100質量%未満、より好ましくは20~100質量%未満を挙げることができる。EVG類の含有量(総量)は、前述の通り、有機酸類の総量100質量部に対して0.0025~50質量部の範囲である限り制限されないが、好ましくは0.005~50質量%の範囲、より好ましくは0.01~50質量%の範囲から選択することができる。なお、ここで有機酸類として、好ましくはクエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、フィチン酸などを挙げることができる。当該酸味料製剤は、最終食品における上記有機酸類の濃度(添加濃度)が、0.05~50質量%(または500~500000ppm)、好ましくは0.1~20質量%(または1000~200000ppm)となるように適宜調整することができる。本発明の酸味料製剤は、例えば、液体、ペースト、乳化状液体、粉末、顆粒、錠剤等のいかなる形態であってもよい。
【0030】
また、本発明の食品添加用組成物が、例えば食品に旨味などを付与もしくは増強し、また味の調和や調整をして味覚を向上や改善するために使用される調味料製剤である場合、有機酸類の含有量(総量)として0.05~100質量%の範囲、好ましくは0.05~50質量%、より好ましくは0.1~50質量%を挙げることができる。EVG類の含有量(総量)は、前述の通り、有機酸類の総量100質量部に対して0.0025~50質量部の範囲である限り制限されないが、好ましくは0.005~50質量%の範囲、より好ましくは0.01~30質量%の範囲から選択することができる。なお、ここで有機酸類として、好ましくはクエン酸三ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸二ナトリウムなどを挙げることができる。当該調味料製剤は、最終食品における上記有機酸類の濃度(添加濃度)が、0.05~50質量%(または500~500000ppm)、好ましくは0.1~20質量%(または1000~200000ppm)となるように適宜調整することができる。本発明の調味料製剤は、例えば、液体、ペースト、乳化状液体、粉末、顆粒、錠剤等のいかなる形態であってもよい。
【0031】
当該調味料製剤は、必要に応じて、他の成分をさらに含有することができる。「他成分」は、調味料に使用できる成分であれば特に限定されない。「他の成分」は、EVG類による有機酸類の酸味または酸臭抑制効果を妨げない範囲で使用することができる。「他の成分」としては、例えば、アミノ酸系うま味調味料(例:グルタミン酸ナトリウム等)、核酸系うま味調味料(例:イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等)、無機塩類(例:リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等)、アミノ酸(例:グリシン、アラニン、アルギニン、リジン等)、タンパク質加水分解物、家畜家禽肉、魚介、野菜、酵母由来のエキス(例:チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、酵母エキス等)、アミノ酸と糖の加熱褐変反応(アミノカルボニル反応またはメイラード反応)を利用した加工食品、等張化剤(例:ソルビトール等)、緩衝剤(例:酢酸ナトリウム等)、防腐剤(例:亜硝酸ナトリウム等)、抗酸化剤(例:L-アスコルビン酸等)、着色剤(例:ベニバナ色素)、矯味剤(例:ハッカ油等)、pH調整剤(例:酢酸ナトリウム等)、賦形剤(例:デキストリン、乳糖等)等が挙げられる。これらの「他の成分」は、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(II)有機酸含有食品組成物およびその製造方法
本発明が対象とする食品組成物は、その製造または調理の過程において、前述する食品添加用組成物を添加、混和、湿潤またはその他の方法によって使用して製造されるものである。つまり、本発明の食品組成物は、前述する有機酸類より選択される少なくとも1種、並びにEVG類を含有するものである。EVG類の配合割合は制限されないものの、有機酸類の総量100質量部に対して、EVG類総量で0.0025~50質量部であることが好ましい。EVG類の割合として、より好ましくは0.0025~10質量部であり、特に好ましくは0.005~5質量部である。
【0033】
本発明の食品組成物における有機酸類、並びにEVG類の配合割合は、上記の限りにおいて特に制限されず、食品組成物の種類や用途、および配合する有機酸類の種類に応じて、適宜設定することができる。例えば有機酸類の配合割合(総量)としては、通常0.01~50質量%の範囲、好ましくは0.01~30質量%の範囲から適宜選択することができる。また、EVG類の配合割合(総量)としては、通常0.000025~0.1質量%の範囲、好ましくは0.0001~0.1質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0034】
本発明が対象とする食品組成物は、前述する通り、各種の加工食品(一次加工食品、二次加工食品、三次加工食品)のほか、レストランや食堂等の飲食店および家庭で調理される食品(調理食)のいずれもが含まれる。またその形態も問わず、固形物(固体、錠剤状、粉末状、顆粒状)、半固形物(ペースト状、ゲル状)、および液状物(溶液状、乳液状、分散液状)のいずれでもよい。つまり、本発明において食品組成物という用語は、飲料を含む飲食品と同意義で使用される。
【0035】
本発明の食品組成物は、食品組成物中に有機酸類とEVG類との共存状態を形成する工程を有する以外は、対象とする食品の種類に応じて定法に従って製造することができる。前記共存状態は、有機酸類を含有する食品組成物にEVG類を配合するか、EVG類を含有する食品組成物に有機酸類を配合するか、または食品組成物に有機酸類およびEVG類を配合することによって形成される。当該製造工程は、さらに加熱工程を有していてもよく、かかる加熱工程を経ても、本発明の食品組成物は、EVG類の配合により有機酸類に由来する酸味および/または酸臭の発生が抑制されていることを特徴とする。
【0036】
(III)有機酸またはその塩の酸味および/または酸臭を抑制する方法
本発明は、有機酸類より選択される少なくとも1種とEVG類を併用することを特徴とし、こうすることで食品組成物中における有機酸類に由来する酸味および/または酸臭を抑制することができる。ここで併用とは、食品組成物中に有機酸類とEVG類との共存状態を形成することをいう。当該共存状態は、有機酸類を含有する食品組成物にEVG類を配合するか、EVG類を含有する食品組成物に有機酸類を配合するか、または食品組成物に有機酸類およびEVG類を配合することによって形成される。有機酸類およびEVG類を添加配合する時期は特に制限されないが、有機酸類に由来する酸味および/または酸臭を抑制するという目的を達成する意味で、EVG類の配合は、有機酸類の配合と同時またはそれより前であることが好ましい。有機酸類の配合よりも後である場合であっても、加熱処理の前にEVG類を添加配合することが好ましい。
【0037】
ここで有機酸類の種類やその使用割合については、前述する(I)にて説明した通りであり、当該記載はここに援用される。またEVGの塩の種類やEVG類の使用割合についても、前述する(I)にて説明した通りであり、当該記載はここに援用される。具体的には、本発明は前記食品組成物中に、有機酸類の総量100質量部に対するEVG類の割合が総量で0.0025~50質量部となるように、有機酸類とEVG類とを併用することで実施することができる。好ましくは、有機酸類の割合が総量で0.005~50質量%、EVG類の割合が総量0.000000125~5質量%となるように両者を併用することで実施することができる。
【0038】
斯くして、有機酸類を加熱することによって生じる酸味および/または酸臭をも抑制することが可能になる。
【実施例
【0039】
以下、本発明の理解を容易にするために、実施例および実験例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例等によって何ら制限されるものではない。また下記の実施例等は、特に言及しない限り、常温(25±5℃)および常圧条件で実施した。なお、以下の実施例等において、特に言及しない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0040】
実験例1 グルタミルバリルグリシンの酢酸に対する酸味および酸臭抑制効果
高酸度醸造酢(タマノイ酢製 酢酸15%含有)を蒸留水で希釈して0.2%濃度の酢酸水溶液を調製し、これにグルタミルバリルグリシン(EVG)(和光純薬工業製)を、表1に記載するように0.05~1000ppm濃度になるように添加し溶解して、EVG添加酢酸含有水溶液(25℃+5℃)(被験試料1~9)を作製した。
【0041】
味と臭いの官能評価についてよく訓練された専門のパネル3名に、被験試料1~9の酸味と酸臭を、EVGを添加しない0.2%濃度の酢酸水溶液を対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で、下記の基準に従って4段階で評価した。なお、酸臭は被験試料(25℃+5℃)を広口ビーカーにいれて、液面を揺らして鼻で臭いを嗅ぐことによって評価した(オルソネーザルアロマの評価)。また酸味は被験試料を口に含み、口腔内で感じる味から評価した
【0042】
[酸味・酸臭の判断基準]
◎:対照試料と比較して、酸味または酸臭が顕著に抑制されている。
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0043】
結果を表1に示す。下記表には、パネル3名のうち、2名以上が示した評価結果を示す。3名の評価結果がすべて相違する場合は、再び時間をおいて再評価を行い、その結果を採用した。その場合でも3名が全て異なる評価結果を示した場合は、中間の評価結果を採用した。
【表1】
【0044】
上記の結果からわかるように、EVGの添加により、酢酸特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。EVGの添加により、酢酸特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。具体的には、酢酸100質量部に対してEVGを0.0025質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上の割合で併用することで、酢酸特有の酸味および酸臭を有意に抑制することができる。またEVGは酢酸100質量部に対して50質量部の割合で配合しても酸味および酸臭マスキング効果に変わりはなく、これらを有意に抑制できることが確認された。
【0045】
実験例2 EVGの各種の有機酸に対する酸味および酸臭抑制効果
食用酢酸に代えて、複数の食用有機酸(クエン酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、フィチン酸)を用いて、実験例1と同様にして、EVGの酸味および酸臭抑制効果を評価した。
【0046】
具体的には、上記各種の食用有機酸を蒸留水で希釈して各々0.2%濃度の有機酸水溶液を調製し、これにEVGを、表2に記載するように5ppmまたは50ppm濃度になるように添加し溶解して、各種のEVG添加有機酸含有水溶液(25℃+5℃)(被験試料10~16)を作製した。これらの被験試料について、実験例1と同様に、EVGを添加しない0.2%濃度の各有機酸水溶液を対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で、よく訓練された専門パネル3名に、各有機酸の酸味と酸臭を評価してもらった。
【0047】
結果を表2に示す。酸味・酸臭の判断は、実験例1と同じ基準に従って行った。
【表2】
【0048】
上記の結果からわかるように、EVGの添加により、クエン酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。なかでもEVGは、クエン酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、およびアジピン酸の酸味抑制、並びにクエン酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、およびフィチン酸特有の酸臭の抑制に有効であった。
【0049】
実験例3 米酢添加米飯に対するEVGの効果
米酢とともにEVGを添加して米飯を炊き、米酢の酸味および酸臭に対するEVGの抑制効果を評価した。
(1)試験方法
水洗し、水に浸漬した米180部に対して、水271部および米酢(市販品:ミツカン社製、酸度4.5%)9部を添加し、これに表3に記載する濃度になるようにEVGを添加して、通常の炊飯器にて炊飯した。炊飯後、5分間蒸らした後に茶碗に装い、よく訓練された専門パネル3名に、茶碗に装ったときの米飯のにおいと、それを食べたときに口腔内で感じる酸味を評価してもらった。評価は、EVGを添加せずに米酢のみを上記の割合で添加して炊飯した米飯を対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で4段階の評価を行った。
【0050】
(2)試験結果
結果を表3に示す。
【表3】
◎:対照試料と比較して、酸味または酸臭が顕著に抑制されている。
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0051】
上記の結果からわかるように、米酢に加えてEVGを添加して米飯を炊くことにより、米酢に由来する酢酸特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。また上記の結果からわかるように、EVGを50ppmを大きく超えて100ppmよりも多く添加しても酸味および酸臭抑制効果に差はなかった。このことから、経済的観点から、EVGは所定量以下の添加で十分であると考えられる。
【0052】
実験例4 乳酸添加うどんに対するEVGの効果
乳酸に加えてEVGを添加した水溶液に、茹でたうどんを浸漬処理し、乳酸の酸味および酸臭に対するEVGの抑制効果を評価した。
【0053】
(1)試験方法
下記方法によりうどん(被験試料)を調製し、よく訓練された専門パネル3名に食べてもらい、口腔内で感じる酸味、および食べる際に鼻から直接嗅いで感じる酸臭(オルソネーザルアロマ)を評価してもらった。評価は、浸漬水として、EVGを添加せずに乳酸を0.5%添加して調製した水溶液を用いて浸漬処理したうどんを対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で3段階の評価を行った。
【0054】
[うどん(被験試料)の調製方法]
1.市販の冷凍うどんを沸騰水で1分間ゆで上げ、水気をきる。
2.上記で水気をきったうどん麺を4倍量の0.5%乳酸水溶液に1分間浸漬する。
3.再度水気をきり、真空パックした後、90℃で5分間、二次加熱する。
4.加熱後、流水で冷却して、冷蔵保存する。
5.食べるときに、600Wレンジで60秒再加熱し、酸臭および酸味の評価を実施する。
【0055】
(2)試験結果
結果を表4に示す。
【表4】
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0056】
上記の結果からわかるように、乳酸に加えてEVGを添加することで、乳酸に由来する有機酸特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。
【0057】
実験例5 乳酸添加パスタに対するEVGの効果
乳酸に加えてEVGを添加した水溶液に、茹でたパスタを浸漬処理し、乳酸の酸味および酸臭に対するEVGの抑制効果を評価した。
【0058】
(1)試験方法
下記方法によりパスタ(被験試料)を調製し、よく訓練された専門パネル3名に食べてもらい、口腔内で感じる酸味、および食べる際に鼻から直接嗅いで感じる酸臭(オルソネーザルアロマ)を評価してもらった。評価は、浸漬溶液として、EVGを添加せずに乳酸を1%添加して調製した水溶液を用いて浸漬処理したパスタを対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で3段階の評価を行った。
【0059】
[パスタ(被験試料)の調製方法]
1.乾燥麺のパスタを設定された茹で時間よりも1分早くゆで上げ、水気をきる。
2.上記で水気をきったパスタ麺を4倍量の浸漬溶液(1%乳酸およびEVG含有水溶液)に1分間浸漬する。
3.再度水気をきり、真空パックした後、90℃で5分間、二次加熱する。
4.加熱後、流水で冷却して、冷蔵保存する。
5.食べるときに、600Wレンジで15~30秒再加熱し、酸臭および酸味の評価を実施する。
【0060】
(2)試験結果
結果を表5に示す。
【表5】
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0061】
上記の結果からわかるように、実験例4と同様に、乳酸に加えてEVGを添加することで、乳酸に由来する有機酸特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。
【0062】
実験例6 酢酸ナトリウム添加食パンに対するEVGの効果
酢酸ナトリウムに加えてEVGを添加して食パンを製造し、酢酸ナトリウムの酸味および酸臭に対するEVGの抑制効果を評価した。
【0063】
下記処方からなるドウに、酢酸ナトリウムを0.35%、EVGを10ppm(いずれも最終濃度)となるように添加して、自動ホームベーカリー(National SD-BT6)に投入して、食パンを製造した。なお、食パンは製造工程で、味やにおいに影響を与えない微量のフィチン酸を用いて最終製品のpHが5.1になるよう調整した。製造した食パンを、よく訓練された専門パネル3名に食べてもらい、口腔内で感じる酸味、および食べる際に鼻から直接嗅いで感じる酸臭(オルソネーザルアロマ)を評価してもらった。評価は、EVGを添加せずに酢酸ナトリウムを0.35%添加して製造した食パンを対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で3段階の評価を行った。
【0064】
[食パンの処方]
1.強力粉 280 (g)
2.バター 16.8
3.砂糖 19.6
4.脱脂粉乳 6.72
5.塩 5.6
6.ドライイースト 3.36
7.水 201.6
【0065】
結果を表6に示す。
【表6】
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0066】
上記の結果からわかるように、酢酸Naに加えてEVGを添加することで、酢酸Naに由来する有機酸塩特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。
【0067】
実験例7 酢酸Na製剤添加ポテトコロッケに対するEVGの効果
酢酸ナトリウムを含有する酢酸ナトリウム製剤(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)、およびEVGを添加してポテトコロッケを作製し、酢酸ナトリウム製剤(酢酸Na製剤)の酸味および酸臭に対するEVGの抑制効果を評価した。なお、酢酸ナトリウム製剤には、酢酸ナトリウム76.6%に加えて、氷酢酸4.4%、グリシン17.3%、その他1.7%等の有機酸およびアミノ酸が含まれている。
【0068】
(1)ポテトコロッケの製造
下記処方からなるポテトコロッケの生地に、酢酸Na製剤を1.5%、EVGを10ppm(いずれも最終濃度)となるように添加して成型した後、下記の手順に従って、バッター液とパン粉を付け、冷凍後油ちょうして、ポテトコロッケ(pH5.9)を製造した。
【0069】
[生地処方]
ジャガイモ 74.6(%)
玉葱 23
合い挽き肉 1
食塩 0.7
砂糖 0.6
胡椒 0.1
合 計 100
【0070】
[バッター処方]
市販バッターミックス(千葉製粉製) 20 (%)
水 80
合計 100
【0071】
[試作手順]
1.ジャガイモを茹でてからつぶしておく。玉葱、合挽き肉を炒め、全ての原料を混合し、コロッケの具とした。
2.コロッケの具に対し、酢酸Na製剤及びEVGを添加した。
3.バッター液に成形したコロッケをつけ、さらにパン粉をまぶす。急速冷凍(-40℃、2時間)した後、冷凍保存を行った。
4.冷凍していたコロッケを油ちょうした。(175℃、2分30秒)
5.コロッケを個々に包装し、30℃にて保存した。
【0072】
(2)試験方法
上記で製造したポテトコロッケを、よく訓練された専門パネル3名に食べてもらい、口腔内で感じる酸味、および食べる際に鼻から直接嗅いで感じる酸臭(オルソネーザルアロマ)を評価してもらった。評価は、EVGを添加せずに酢酸Na製剤を1.5%(酢酸Naに換算すると1.14%)添加して製造したポテトコロッケを対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で3段階の評価を行った。
【0073】
(3)試験結果
結果を表7に示す。
【表7】
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0074】
上記の結果からわかるように、酢酸Na製剤に加えてEVGを添加することで、酢酸Na製剤に由来する有機酸または有機酸塩特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。
【0075】
実験例8 ボイルブロッコリーに対するEVGの効果
酢酸Na製剤(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)に加えてEVGを添加した水溶液に茹でたブロッコリーを浸漬し、酢酸Na製剤の酸味および酸臭に対するEVGの抑制効果を評価した。なお、酢酸Na製剤は、前記実験例7で用いたものと同じものである。
【0076】
(1)試験方法
ブロッコリーの10倍量の沸騰水に冷凍ブロッコリーを投入し、再沸騰後30秒間ボイルした。これをザルに上げた後、これを3%濃度の酢酸Na製剤(酢酸Naに換算すると2.28%)を溶解した水溶液に投入し、30分間浸漬した後、ザルに上げて水切りをした。これをよく訓練された専門パネル3名に食べてもらい、口腔内で感じる酸味、および食べる際に鼻で感じる酸臭を評価してもらった。評価は、上記浸漬水として、EVGを添加せずに酢酸Na製剤を3%添加して調製した水溶液を用いて浸漬処理したブロッコリーを対照試料(陰性コントロール)として、これとの比較で3段階の評価を行った。
【0077】
(2)試験結果
結果を表8に示す。
【表8】
○:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されている。
△:対照試料と比較して、酸味または酸臭がやや抑制されている。
×:対照試料と比較して、酸味または酸臭が抑制されていない。
【0078】
上記の結果からわかるように、酢酸Na製剤に加えてEVGを添加することで、酢酸Na製剤に由来する有機酸または有機酸塩特有の酸味および酸臭が有意に抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、食品組成物における有機酸またはその塩に由来する酸味および/または酸臭を抑制することができる。このため、有機酸またはその塩の配合によって食品組成物本来の風味が損なわれることなく、風味のよい食品組成物を提供することができる。