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特許7098416制御装置、電力変換器の制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】制御装置、電力変換器の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/36 20060101AFI20220704BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20220704BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20220704BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220704BHJP
【FI】
H02J3/36
H02J1/00 301B
H02M7/12 A
H02M7/48 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018100015
(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2019205303
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代洋上直流送電システム開発事業/システム開発/要素技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 恵佑
(72)【発明者】
【氏名】直井 伸也
(72)【発明者】
【氏名】茂木 里奈
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【審査官】原 嘉彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104022522(CN,A)
【文献】特開平10-271687(JP,A)
【文献】特開平9-74769(JP,A)
【文献】特開2017-212785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00-5/00
H02M 7/00-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流と直流とを互いに変換する複数の電力変換器の直流側を互いに接続して構成された多端子直流送電システムに含まれる前記複数の電力変換器のうち、制御対象の電力変換器に接続された交流系統の有効電力検出値と有効電力上限値との差分に比例演算および積分演算を行った結果を加算することで前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の上限値を導出すると共に、前記制御対象の電力変換器に接続された交流系統の有効電力検出値と有効電力下限値との差分に比例演算および積分演算を行った結果を加算することで前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の下限値を導出する導出部と、
前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力端子の電圧が、前記導出部によって導出された上限値および下限値の範囲内となるよう、前記電力変換器を制御する制御部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記導出部は、
記上限値を、あらかじめ設定された最大上限値と最小上限値の範囲に制限して前記制御部に出力する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記導出部は、
記下限値を、あらかじめ設定された最大下限値と最小下限値の範囲に制限して前記制御部に出力する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記導出部は、
前記有効電力検出値に代えて前記有効電力検出値をレートリミッタで制限した値に基づく演算を行って、前記上限値および前記下限値を導出する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
コンピュータが、
交流と直流とを互いに変換する複数の電力変換器の直流側を互いに接続して構成された多端子直流送電システムに含まれる前記複数の電力変換器のうち、制御対象の電力変換器に接続された交流系統の有効電力検出値と有効電力上限値との差分に比例演算および積分演算を行った結果を加算することで前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の上限値を導出すると共に、前記制御対象の電力変換器に接続された交流系統の有効電力検出値と有効電力下限値との差分に比例演算および積分演算を行った結果を加算することで前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の下限値を導出し
前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力端子の電圧が、前記上限値および下限値の範囲内となるよう、前記電力変換器を制御する、
電力変換器の制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、
交流と直流とを互いに変換する複数の電力変換器の直流側を互いに接続して構成された多端子直流送電システムに含まれる前記複数の電力変換器のうち、制御対象の電力変換器に接続された交流系統の有効電力検出値と有効電力上限値との差分に比例演算および積分演算を行った結果を加算することで前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の上限値を導出すると共に、前記制御対象の電力変換器に接続された交流系統の有効電力検出値と有効電力下限値との差分に比例演算および積分演算を行った結果を加算することで前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の下限値を導出させ
前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力端子の電圧が、前記上限値および下限値の範囲内となるよう、前記電力変換器を制御させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置、電力変換器の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、洋上風力発電所等が接続される多端子直流送電システムを、国際連系等に利用することが検討されている。多端子直流送電システムとは、発電施設(例えば、洋上ウインドファーム)が接続される変電機構が2以上存在し、それらの直流側が共通して送電設備に接続されて構成されるシステムである。多端子直流送電システムでは、その構成上、各発電所に対応する電力変換器の電力容量が今後ますます大きくなることが想定される。従来の電力変換器では、特に出力の大きさに制約が設けられていなかった。そのため、出力急変が発生した場合に、多端子直流送電システムの出力直流電圧が上昇もしくは下降し続けて安定運転ができなくなる可能性が十分考慮されていなかった。
【0003】
また、従来、多端子直流送電システムの潮流制御方法として、使用していない電流電圧維持の方法や他の端子(変電ユニット)との協調を取ることを目的とした制御方法は知られているが、電力変換器容量においては特に制限されることなく使用されることを前提としており、電力変換器の出力の上下限値を制御する制御方法については考慮されていなかった。
【0004】
また、電力変換器の出力電力を制限する場合、固定のリミッタで上下限値を設定することも可能であるが、この方法では他の変電ユニットが脱落(故障)した場合や風力の出力急変が発生した場合に、多端子直流送電システムの出力直流電圧が上昇もしくは下降し続けて安定運転ができないことに加え、発電出力が急増した際に直流電圧が上昇し続け、変電ユニットの故障の原因となる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-200957号公報
【文献】特開平9-200952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、多端子直流送電システムを構成する複数の電力変換器のうち制御対象の電力変換器の安定的な運転および保護を実現する制御装置、電力変換器の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の制御装置は、導出部と、制御部とを持つ。導出部は、交流と直流とを互いに変換する複数の電力変換器の直流側を互いに接続して構成された多端子直流送電システムに含まれる前記複数の電力変換器のうち、制御対象の電力変換器の直流端子側の出力電圧の上限値および下限値を導出する。制御部は、前記制御対象の電力変換器の直流端子側の出力端子の電圧が、前記導出部によって導出された上限値および下限値の範囲内となるよう、前記電力変換器を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る多端子直流送電システム1の利用環境を示す模式図。
図2】第1の実施形態に係る制御装置100を含む多端子直流送電システム1の全体構成例を示す図。
図3】制御装置100による電力容量の上下限値の設定がない場合の変電ユニットTUの直流電圧出力値の取り得る値の一例を示すグラフ。
図4】制御装置100による電力容量の上下限値の設定がある場合の変電ユニットTUの直流電圧出力値の取り得る値の一例を示すグラフ。
図5】従来の制御装置300の構成例を示すブロック図。
図6】第1の実施形態に係る制御装置100の構成例を示すブロック図。
図7】第1の実施形態に係る制御装置100による制御処理の流れの一例を示すフローチャート。
図8】第1の実施形態に係る上限値導出部170による出力上限値Vmax導出処理の流れの一例を示すフローチャート。
図9】第1の実施形態に係る下限値導出部180による出力下限値Vmin導出処理の流れの一例を示すフローチャート。
図10】第2の実施形態に係る制御装置100Aの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の制御装置、電力変換器の制御方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る多端子直流送電システム1の利用環境を示す模式図である。多端子直流送電システム1は、例えば、複数の洋上変電所Tと、1以上の陸上変電所Sとを備える。なお、図1では洋上変電所Tは3ヶ所、陸上変電所Sは2ヶ所である例を示す。洋上変電所Tは、発電装置WFと交流送電線で接続され、陸上変電所Sと直流送電線で接続される。また、洋上変電所Tは、他の洋上変電所Tと直流送電線で相互に接続される。発電装置WFは、例えば、風力発電システムを複数機配置した洋上ウインドファームである。洋上変電所Tは、発電装置WFによる発電電力を集電した後に交直変換し、陸上変電所Sに直流送電する。陸上変電所Sは、洋上変電所Tから集電した電力を需要家(不図示)に供給する。
【0011】
図2は、第1の実施形態に係る制御装置100を含む多端子直流送電システム1の全体構成例を示す図である。図2に示す変電ユニットTUは、図1に示す洋上変電所Tに設けられる。変電ユニットTUは、交流端子と直流端子とを備える。交流端子には交流系統AC-1~AC-3が、直流端子には直流送電線(直流送電線40~42または直流母線50-1~50-3)が接続される。変電ユニットTUは、例えば、変電ユニットTU-1~TU-3を含む。なお、図2の説明において、符号におけるハイフンおよびこれに続く数字およびアルファベットは、いずれの変電ユニットに対応付くかを示すものとする。また、適宜、ハイフンおよびこれに続く数字を省略して説明を行う。
【0012】
以下、多端子直流送電システム1の各変電ユニットTUを代表して変電ユニットTU-1の構成について説明する。変電ユニットTU-1は、例えば、電力変換器10-1と、制御装置100-1とを備える。電力変換器10-1は、直流母線50-1を介して、直流送電線40に電力を出力する。制御装置100-1は、少なくとも電力変換器10-1の交流端子の出力電圧値を制御する。制御装置100-1には、例えば、直流電圧検出器20-1と、直流電流検出器30-1とが接続される。制御装置100-1は、直流電圧検出器20-1によって検出された交流系統AC-1の電圧値Vと、直流電流検出器30-1によって検出された交流系統AC-1の電流値Iとを参照して、電力変換器10-1の出力電圧値を導出する。
【0013】
以下、図3および図4を用いて、従来方式の制御装置(以下、制御装置300と称する)の有効電力制御の内容の一例と、本実施形態の制御装置100による有効電力制御の内容の一例について説明する。図3は、従来方式の制御装置300の制御下における電力変換器10の直流電圧出力値のとり得る値の一例を示すグラフである。また、図4は、制御装置100の制御下における電力変換器10の直流電圧出力値のとり得る値の一例を示すグラフである。
【0014】
制御装置300では、電力容量の上下限値の設定がなされていない。この場合、図3に示すように、電力変換器10の出力する直流電圧においては、電力変換器10の出力できる最大容量に対応する値が実質的な上限値となり、電力変換器10の出力できる最低容量が実質的な下限値となる。この場合において、交流端子に接続された発電装置WFの発電量が急増した場合、直流送電線40の直流電圧が上昇し続け、他の電力変換器10や周辺機器が故障する可能性がある。また、制御装置300は、直流電圧が系統の規定である直流電圧上限値を超えて増加した場合や、直流電圧下限値を下回った場合であっても、特に出力制御することはない。
【0015】
一方、本実施形態の制御装置100では、図4に示すように、電力変換器10の出力する直流電圧に上限値および下限値を設けると共に、出力容量の上限値および下限値を設け、多様な系統運用に対応させる。
【0016】
以下、図5は、従来方式の制御装置300の構成例を示すブロック図である。制御装置300は、例えば、減算部310および340と、ドループ制御部320と、加算部330と、PI制御部350とを備える。
【0017】
減算部310は、有効電力指令値Pd*から有効電力検出値Pdを減算し、減算結果をドループ制御部320に出力する。有効電力指令値Pd*は、多端子直流送電システム1の管理者によって予め設定されてもよいし、多端子直流送電システム1の上位システムから入力されてもよい。有効電力検出値Pdは、直流電圧検出器20の検出した直流電圧検出値Vdと、直流電流検出器30の検出した電流値Iとを乗算して導出する。ドループ制御部320は、減算部310により出力された減算結果にドループ係数を乗算して、加算部330に出力する。ドループ係数とは、周波数の変化量ループの制御利得のことであり、発電装置に対する慣性制御を行うために用いる係数である。加算部330は、ドループ制御部320により出力された値と直流電圧指令値Vb*とを加算して、減算部340に出力する。直流電圧指令値Vb*は、多端子直流送電システム1の管理者によって予め設定されてもよいし、多端子直流送電システム1の上位システムから入力されてもよい。減算部340は、加算部330により出力された値(以下、値Xと称する)から直流電圧検出器20の検出下直流電圧検出値Vdを減算して、PI制御部350に出力する。
【0018】
PI制御部350は、減算部340により出力された値Xと直流電圧検出値Vdとの減算結果に、PI制御を行い、直流電圧制御指令値Vd*#を出力する。PI制御とは、比例(Proportional)項と積分(Integral)項とを含む演算に基づくフィードバック制御である。制御装置300は、直流電圧制御指令値Vd*#に基づいて、電力変換器10の出力する直流電圧を制御する。
【0019】
図6は、第1の実施形態に係る制御装置100の構成例を示すブロック図である。図6の制御装置100は、減算部110および140と、ドループ制御部120と、加算部130と、PI制御部150と、制限部160と、上限値導出部170および下限値導出部180とを備える。これらの構成要素のうち一部または全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。なお、図6に示す構成のうち、減算部110および140と、ドループ制御部120と、加算部130と、PI制御部150と、制限部160とを含む構成は「制御部」の一例である。また、上限値導出部170および下限値導出部180は「導出部」の一例である。
【0020】
減算部110は減算部310と、減算部140は減算部340と、ドループ制御部120はドループ制御部320と、加算部130は加算部330と、PI制御部150はPI制御部350と、それぞれ同様の機能を有する。従って、これらについての説明は省略する。
【0021】
制限部160は、加算部130により出力された値Xを、上限値導出部170により出力される出力上限値Vmax、および下限値導出部180により出力される出力下限値Vminで制限して出力する。具体的には、制限部160は、加算部130により出力された値Xが出力上限値Vmaxを上回る場合、出力上限値Vmax以下且つ出力下限値Vmin以上の値を減算部140に出力し、加算部130により出力された値Xが出力下限値Vmin未満である場合、出力上限値Vmax以下且つ出力下限値Vmin以上の値を減算部140に出力し、加算部130により出力された値Xが出力上限値Xmax以下、且つ出力下限値Vmin以上である場合、値Xをそのまま減算部140に出力する。
【0022】
以下、上限値導出部170による出力上限値Vmaxの導出方法について説明する。上限値導出部170は、例えば、減算部171と、演算部172と、積分部173と、加算部174と、制限部175とを備える。
【0023】
減算部171は、有効電力検出値Pdから有効電力上限値Pmaxを減算し、減算結果を演算部172および積分部173に出力する。有効電力上限値Pmaxは、多端子直流送電システム1の管理者によって予め設定されてもよいし、多端子直流送電システム1の上位システムから入力されてもよい。演算部172は、減算部171により出力された減算結果に任意の換算処理を行い、加算部174に出力する。積分部173は、減算部171により出力された減算結果を所定の期間について積分し、加算部174に出力する。加算部174は、演算部172により出力された値と積分部173により出力された値とを加算し、加算した値を制限部175に出力する。以下、加算部174により出力された値を値Yと称する。
【0024】
制限部175は、加算部174により出力された値Yを最大上限値Vb*maxおよび最小上限値Vb*minで制限して出力する。具体的には、制限部175は、加算部174により出力された値Yが最大上限値Vb*maxを上回る場合、最大上限値Vb*max以下且つ最小上限値Vb*minの値を制限部160に出力し、加算部174により出力された値Yが最小上限値Vb*min未満である場合、最大上限値Vb*max以下且つ最小上限値Vb*minの値を制限部160に出力し、加算部174により出力された値Yが最大上限値Vb*max以下、且つ最小上限値Vb*min以上である場合、値Xをそのまま制限部160に出力する。
【0025】
以下、下限値導出部180による出力下限値Vminの導出方法について説明する。下限値導出部180は、例えば、減算部181と、演算部182と、積分部183と、加算部184と、制限部185とを備える。
【0026】
減算部181は、有効電力検出値Pdから有効電力下限値Pminを減算し、減算結果を演算部182および積分部183に出力する。有効電力下限値Pminは、多端子直流送電システム1の管理者によって予め設定されてもよいし、多端子直流送電システム1の上位システムから入力されてもよい。演算部182は、減算部181により出力された減算結果に任意の換算処理を行い、加算部184に出力する。積分部183は、減算部181により出力された減算結果を所定の期間について積分し、加算部174に出力する。加算部184は、演算部182により出力された値と積分部183により出力された値とを加算し、加算した値を制限部185に出力する。以下、加算部184により出力された値をZと称する。
【0027】
制限部185は、加算部184により出力された値Zを最大下限値Vc*maxおよび最小下限値Vc*minで制限して出力する。具体的には、制限部185は、加算部184により出力された値Zが最大下限値Vc*maxを上回る場合、最大下限値Vc*max以下且つ最小下限値Vc*minの値を制限部160に出力し、加算部184により出力された値Zが最小下限値Vc*min未満である場合、最大下限値Vc*max以下且つ最小下限値Vc*minの値を制限部160に出力し、加算部184により出力された値Zが最大下限値Vc*max以下、且つ最小下限値Vc*min以上である場合、値Xをそのまま制限部160に出力する。なお、最大上限値Vb*maxと最大下限値Vc*maxとは同一の値であってもよいし、別の値であってもよい。同様に、最小上限値Vb*minと最小下限値Vc*minとは同一の値であってもよいし、別の値であってもよい。このように上限値Vmaxと下限値Vminが設定されると、制限部160は、前述したように加算部130により出力された値Xを、上限値導出部170により出力される出力上限値Vmax、および下限値導出部180により出力される出力下限値Vminで制限して減算部140に出力する。PI制御部150は、減算部140の出力する値に基づいてPI制御を行うためのVD*#を10に出力する。
【0028】
電力変換器10は、制御装置100により出力された直流電圧制御指令値Vd*#に基づいて、直流母線50に出力する電圧値を制御する。
【0029】
図7は、第1の実施形態の制御装置100による制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0030】
まず、制御装置100は、有効電力検出値Pdを検出する(ステップS100)。次に、減算部110、ドループ制御部120および加算部130は所定の演算によって出力値Xを導出する(ステップS102)。また、上限値導出部170は、有効電力検出値Pdおよび有効電力上限値Pmaxに基づいて、出力上限値Vmaxを導出する(ステップS104)。また、下限値導出部180は、有効電力検出値Pdおよび有効電力下限値Pminに基づいて、出力下限値Vminを導出する(ステップS106)。
【0031】
ステップS102、S104およびS106の処理の後、制限部160は、値Xが出力上限値Vmaxを上回るか否かを判定する(ステップS108)。値Xが出力上限値Vmaxを上回る場合、制限部160は、値Xを出力上限値Vmax以下の値に設定し、減算部140に出力する(ステップS110)。値Xが出力上限値Vmaxを上回らない場合、制限部160は、値Xが出力下限値Vmin未満であるか否かを判定する(ステップS112)。値Xが出力下限値Vmin未満である場合、制限部160は、値Xを出力下限値Vmin以上の値に設定し、減算部140に出力する(ステップS114)。値Xが出力下限値Vmin未満でない場合、ステップS116の処理に進む。
【0032】
減算部140およびPI制御部150は値Xに基づいて所定の演算を行い、直流電圧制御指令値Vd*#を、電力変換器10に出力する(ステップS116)。以上、本フローチャートの処理を終了する。
【0033】
図8は、上限値導出部170による出力上限値Vmax導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。図8のフローチャートは、図7のフローチャートのステップS104に該当する処理の詳細を説明する図である。
【0034】
まず、減算部171は、有効電力検出値Pdから有効電力上限値Pmaxを減算し、減算結果を演算部172および積分部173に出力する(ステップS200)。次に、演算部172は、減算部171により出力された減算結果に任意の換算処理を行い、加算部174に出力する(ステップS202)。また、積分部173は、減算部171により出力された減算結果を所定の期間について積分し、加算部174に出力する(ステップS204)。
【0035】
ステップS202およびS204の処理の後、加算部174は、演算部172により出力された値と積分部173により出力された値とを加算することで導出した値Yを、制限部175に出力する(ステップS206)。次に、制限部175は、加算部174により出力された値Yが最大上限値Vb*maxを上回るか否かを判定する(ステップS208)。加算部174により出力された値Yが最大上限値Vb*maxを上回る場合、出力上限値Vmaxを最大上限値Vb*max以下、且つ、最小上限値Vb*min以上の値に設定する(ステップS210)。加算部174により出力された値Yが最大上限値Vb*maxを上回らない場合、加算部174により出力された値Yが最大下限値Vb*min未満であるか否かを判定する(ステップS212)。加算部174により出力された値Yが最大下限値Vb*min未満である場合、出力上限値Vmaxを最大下限値Vb*min以上、且つ、最大上限値Vb*max以下の値に設定する(ステップS214)。加算部174により出力された値Yが最大下限値Vb*min未満でない場合、制限部175は後述するステップS216で出力上限値Vmaxとして値Yを出力する。
【0036】
制限部175は、ステップS212またはステップS214により導出された出力上限値Vmaxまたは、値Yを出力する。(ステップS216)。以上、本フローチャートの処理を終了する。
【0037】
図9は、下限値導出部180による出力下限値Vmin導出処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9のフローチャートは、図7のフローチャートのステップS106に該当する処理の詳細を説明する図である。図9のフローチャートは、図8のフローチャートの上限値導出部170の構成を下限値導出部180の構成と読み替え、さらに図8の有効電力上限値Pmax、出力上限値Vmax、最大上限値Vb*maxおよび最小上限値Vb*minを、有効電力下限値Pmin、出力下限値Vmin、最大下限値Vc*maxおよび最小下限値Vc*minに読み替えたフローチャートであるため、処理の流れの詳細な説明は割愛する。
【0038】
上述したように第1の実施形態の制御装置100によれば、有効電力検出値Pdおよび有効電力上限値Pmaxに基づいて出力上限値Vmaxを導出する上限値導出部170と、有効電力検出値Pdおよび有効電力下限値Pminに基づいて出力下限値Vminを導出する下限値導出部180と、有効電力指令値Pd*および有効電力検出値Pdとに基づいて電圧制御指令値V*を導出し、上限値導出部170の導出した出力上限値Vmax以下であって、かつ下限値導出部180の出力下限値Vmin以上となるように電圧制御指令値V*を補正する制限部160により、電力変換器10の直流電圧出力を制御することができ、変電ユニットTUの安定な運転および電力変換器の保護を実現することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る制御装置100Aについて説明する。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0040】
図10は、第2の実施形態に係る制御装置100Aの構成例を示すブロック図である。図10の制御装置100Aは、図6の制御装置100と比較して、レートリミッタ176および186を備える点が異なる。したがって、以下ではレートリミッタ176および186を中心に説明する。
【0041】
レートリミッタ176は、有効電力検出値Pdの入力(例えば、直流電圧検出器20により検出された直流電圧検出値Vdと直流電流検出器30により検出された電流検出値Iとを受信する受信部)と、減算部171の間に接続される。レートリミッタ176は、有効電力検出値Pdをそのまま減算部171に出力するのではなく、出力値を徐々に有効電力検出値Pdに近づける処理を行い、減算部171に出力する。レートリミッタ176は、例えば、有効電力検出値Pdが急増した場合には、急変した値をそのまま出力するのではなく、所定の時間あたりの平均値を出力する等の処理を行うことで、時間をかけて出力値を徐々に大きくする処理を行う。同様に、レートリミッタ186は、出力値を徐々に有効電力検出値Pdに近づける処理を行ってから、減算部181に出力する。
【0042】
図10に示す構成によって、上限値導出部170のレートリミッタ176によって出力上限値Vmaxの値が急変した場合であっても、減算部171に出力される有効電力検出値Pdの急変を防ぐことができる。同様に、下限値導出部180のレートリミッタ176によって出力下限値Vminの値が急変した場合であっても、減算部181に出力される有効電力検出値Pdの急変を防ぐことができる。
【0043】
上述したように第2の実施形態の制御装置100Aによれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、有効電力検出値Pdが急変した場合にも、安定的な出力となるよう出力電圧を制御することができる。
【0044】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、有効電力検出値Pdおよび有効電力上限値Pmaxに基づいて出力上限値Vmaxを導出する上限値導出部170と、有効電力検出値Pdおよび有効電力下限値Pminに基づいて出力下限値Vminを導出する下限値導出部180と、有効電力指令値Pd*および有効電力検出値Pdとに基づいて電圧制御指令値V*を導出し、上限値導出部170の導出した出力上限値Vmax以下であって、かつ下限値導出部180の出力下限値Vmin以上となるように電圧制御指令値V*を補正する制限部160を持つことにより、多端子直流送電システム1を構成する複数の電力変換器10のうち制御対象の電力変換器10の安定的な運転および保護を実現することができる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
10、10-1、10-2、10-3…電力変換器、20、20-1、20-2、20-3…直流電圧検出器、30、30-1、30-2、30-3…直流電流検出器、40、40、42…直流送電線、50、50-1、50-2、50-3…直流母線、100、100A…制御装置、170…上限値導出部、180…下限値導出部、176、186…レートリミッタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10