(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】電気的活性化及び心筋ひずみの統合評価
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20220704BHJP
A61B 5/367 20210101ALI20220704BHJP
【FI】
A61B5/0245 Z
A61B5/367
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018106712
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2021-03-22
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ・マフェサンティ
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ・アウリッキオ
(72)【発明者】
【氏名】ハンスピーター・フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ・ダブリュ・プリンツェン
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-502556(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0144510(US,A1)
【文献】特表2001-502189(JP,A)
【文献】特表2010-517644(JP,A)
【文献】特表2002-505172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拍動心臓の腔内に挿入されるように構成された遠位端を有し、かつ、位置センサを含む、カテーテルと、
前記心臓の複数の周期にわたって前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算し、そして、前記拡張期の間の前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて前記心臓の病的状態を特定するように構成されている、プロセッサと、
を含
み、
前記プロセッサが、前記拡張期の間の前記左心室の最大容積時を検出し、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室の最大局所ひずみ時と前記最大容積時との差を見つけ出すように構成されている、解剖学的診断のためのシステム。
【請求項2】
拍動心臓の腔内に挿入されるように構成された遠位端を有し、かつ、位置センサを含む、カテーテルと、
前記心臓の複数の周期にわたって前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算し、そして、前記拡張期の間の前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて前記心臓の病的状態を特定するように構成されている、プロセッサと、
を含
み、
前記プロセッサは、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室が弛緩している期間である、前記拡張期の割合を計算するように構成されている、解剖学的診断のためのシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記位置センサからの前記信号を使用して前記カテーテルの遠位端を前記位置のそれぞれで前記心臓壁に接触した状態に保持しながら、前記位置の軌跡を測定し、前記軌跡に基づいて、前記心臓の前記周期にわたる隣接位置間の距離の変化を計算することにより前記機械的ひずみの
大きさを計算するように構成されている、請求項
1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記心臓の拡張期の間に測定された第1の座標と、前記心臓の収縮期の間に測定された第2の座標との間の距離の差を見出すように構成されている、請求項
3に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記距離の前記変化に基づいて、周方向ひずみ、長手方向ひずみ、及び面積ひずみからなる測定値の群から選択される前記機械的ひずみの測定値を計算するように構成されている、請求項
3に記載のシステム。
【請求項6】
前記カテーテルが電極を含み、前記プロセッサが、前記カテーテルを使用して前記複数の位置において前記機械的運動と併せて電気的活動を測定し、前記機械的ひずみと併せて、前記測定された電気的活動に基づいて前記病的状態を特定するように構成されている、請求項
1または2に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記測定された電気的活動に基づいて前記左心室の前記心臓壁の活性化時を検出し、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記活性化時の前記左心室の最大弛緩と、前記機械的ひずみとを局所的に比較するように構成されている、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
プログラム命令
を含むコンピュータソフトウェアであって、前記
プログラム命令がコンピュータにより読み込まれると、これにより前記コンピュータは、拍動心臓の腔内に挿入された遠位端を有しかつ位置センサを含むカテーテルによって出力された信号を受信し、
前記心臓の複数の周期にわたって前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算し、そして、前記拡張期の間の前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて前記心臓の病的状態を特定
し、前記拡張期の間の前記左心室の最大容積時を検出し、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室の最大局所ひずみ時と前記最大容積時との差を見つけ出す、コンピュータソフトウェア。
【請求項9】
プログラム命令
を含むコンピュータソフトウェアであって、前記
プログラム命令がコンピュータにより読み込まれると、これにより前記コンピュータは、拍動心臓の腔内に挿入された遠位端を有しかつ位置センサを含むカテーテルによって出力された信号を受信し、
前記心臓の複数の周期にわたって前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算し、そして、前記拡張期の間の前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて前記心臓の病的状態を特定
し、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室が弛緩している期間である、前記拡張期の割合を計算する、コンピュータソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、心臓の病的状態の診断及び治療を行う方法及びシステムのための方法及び器具に関するものであり、詳細には、マッピングカテーテルを使用して心臓の統合された電気的及び機械的評価に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心臓の正常な機能では、収縮期と拡張期の周期における心腔の相当な変形を伴う。この変形は、機械的ひずみに関して定量化することができ、この機械的ひずみは、剛体運動を含む物体内の粒子の相対的な変位に関する変形記述子である(例えば、心周期の中で選択された注釈時の、心筋の点の参照位置に対する点間の変位を測定する)。虚血性心筋症の領域(一般に「瘢痕組織」と呼ばれる)及び鬱血性心不全などの心臓の数多くの病変は、異常な(通常は異常に低い)ひずみレベル、又はひずみの異常なタイミング分布として現れる。そのような病変は、最も一般的には、例えば心臓の磁気共鳴撮像(MRI)又は超音波を用いた画像診断によって評価される。
【0003】
心臓の機械的機能は、心臓に挿入されたマッピングカテーテルを使用して侵襲的に測定することもできる。例えば、米国特許第5,738,096号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)は、心臓マップを構築する方法について記述しており、この方法は、侵襲的プローブを心臓壁のある位置に接触させることと、心周期の2つ以上の位相において、この侵襲的プローブの位置を測定することと、この位置での局所的な非電気的生理学的値を測定することと、を含む。この方法は、心臓の複数の位置で繰り返される。これらの位置を組み合わせて、心臓の少なくとも一部分の時間依存性マップを形成し、侵襲的プローブの位置変化と、測定された局所的非電気的生理学的値との間の局所的相関関係が決定される。好ましくは、複数の位置での局所的電気的活動も取得される。Biosense Webster Inc.(Diamond Bar、California)から販売されているNOGA(登録商標)システムは、これらの種類の測定を実施するよう構成されている。
【0004】
別の一例として、米国特許出願公開第2015/0228254号は、解剖学的マップを生成する方法について記述しており、この方法は、ある解剖学的領域での幾何学的情報及び生物学的情報を取得することを含む。例えば、測定された生物学的属性と、生物学的属性が測定された解剖学的位置とを関連付けることによって、幾何学的情報と生物学的情報とは互いに関連付けられる。次に、少なくとも2つの生物学的属性のマップを含んだ解剖学的領域のグラフィック表現を、その解剖学的領域の幾何学的モデルの上に重ね合わせることができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
下記に記載する本発明の実施形態は、心臓診断のための改良された方法及びシステムを提供する。
【0006】
したがって、本発明の一実施形態により、解剖学的診断のための方法が提供され、この方法は、位置センサ及び電極を備えたカテーテルを用いて、拍動心臓の複数の心周期にわたって、心臓の腔内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置での電気的活動及び機械的運動を測定することを含む。この測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期にわたる機械的ひずみの大きさが計算される。機械的ひずみの大きさが既定のひずみ閾値を下回り、かつ電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る位置の群が、瘢痕組織部位として特定され、また、機械的ひずみが既定のひずみ閾値を上回るか又は電位が既定の電位閾値を上回る1つ以上の部位が、潜在的に生存可能として特定される。
【0007】
開示の一実施形態において、この電気的活動の測定には、単極電位の測定が含まれる。
【0008】
いくつかの実施形態において、この機械的運動の測定には、位置センサを使用して、カテーテルの遠位端をそれぞれの位置で心臓壁に接触した状態に保持しながら、位置の軌跡を測定することが含まれ、またこの機械的ひずみの大きさの計算には、この軌跡に基づいて、心臓の周期にわたった隣接位置間の距離の変化を計算することが含まれる。開示の一実施形態において、この距離の変化の計算には、心臓の拡張期の間に測定された第1の座標と、心臓の収縮期の間に測定された第2の座標との間の距離における差を見出すことが含まれる。付加的に又は代替的に、この機械的ひずみの大きさの計算には、この距離の変化に基づいて、周方向ひずみ、長手方向ひずみ、及び面積ひずみからなる測定値の群から選択される機械的ひずみの測定値を計算することが含まれる。
【0009】
いくつかの実施形態において、この方法は、心臓の腔内の1つ以上の潜在的に生存可能な部位に、1つ以上のペーシング電極を配置すること、あるいは、その心臓の腔内の心臓壁の潜在的に生存可能な部位の1つ以上に治療用物質を注入することを含む。
【0010】
更に、本発明の一実施形態により、解剖学的診断のための方法が提供され、この方法は、位置センサを備えたカテーテルを用いて、拍動心臓の複数の周期にわたって、心臓の左心室内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置で機械的運動を測定することを含む。この測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期の拡張期での機械的ひずみが計算される。心臓の病的状態は、拡張期の間の左心室にわたって計算された機械的ひずみの特性に基づいて特定される。
【0011】
一実施形態において、この病的状態の特定は、拡張期の間の左心室の最大容積時間を検出することと、計算された機械的ひずみに基づいて、左心室の最大局所ひずみ時間と最大全体容積時間との差を見出すこととを含む。
【0012】
付加的に又は代替的に、この病的状態の特定は、計算された機械的ひずみに基づいて、左心室が弛緩している期間である、拡張期の割合を計算することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、このカテーテルは電極を含み、この方法は、このカテーテルを使用して複数の位置において機械的運動と併せて電気的活動を測定することを含み、病的状態は、機械的ひずみと併せて測定された電気的活動に基づいて特定される。開示の一実施形態において、この電気的活動の測定は、左心室の心臓壁の活性化時間を検出することを含み、またこの病的状態の特定は、計算された機械的ひずみに基づいて、左心室の最大弛緩と、活性化時の機械的ひずみとを局所的に比較することを含む。
【0014】
更に、本発明の一実施形態により、解剖学的診断のための方法が提供され、この方法は、位置センサを備えたカテーテルを用いて、拍動心臓の複数の周期にわたって、心臓の左心室内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定することを含む。この測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期の拡張期での機械的ひずみが計算される。この位置の群は、機械的ひずみのピークタイミングが同期していない場所で特定される。
【0015】
開示の一実施形態において、この方法は左心室内の心内圧を測定することと、その測定された心内圧を、機械的ひずみと併せて、心臓の病的状態の診断に適用することとを含む。
【0016】
更に、本発明の一実施形態により、解剖学的診断のためのシステムが提供され、このシステムは、拍動心臓の腔内に挿入されるように構成された遠位端を有し、かつ、位置センサ及び電極を含む、カテーテルを含む。プロセッサは、拍動心臓の複数の周期にわたって電極及び位置センサから受信する信号に応じて、心臓の腔内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置での電気的活動及び機械的運動を測定し、そして、測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期にわたる機械的ひずみの大きさを計算し、そして、機械的ひずみの大きさが既定のひずみ閾値を下回りかつ電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る位置の群を瘢痕組織部位として特定し、同時に、機械的ひずみが既定のひずみ閾値を上回るか又は電位が既定の電位閾値を上回る1つ以上の部位を、潜在的に生存可能であるとして特定するよう構成される。
【0017】
更に、本発明の一実施形態により、解剖学的診断のためのシステムが提供され、このシステムは、拍動心臓の腔内に挿入されるように構成された遠位端を有するカテーテルを含み、かつ、位置センサを含む。プロセッサは、拍動心臓の複数の周期にわたって位置センサから受信する信号に応じて、心臓の左心室内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、この測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期の拡張期での機械的ひずみを計算し、そして、拡張期の間の左心室にわたって計算された機械的ひずみの特性に基づいて心臓の病的状態を特定するように構成される。
【0018】
更に、本発明の一実施形態により、コンピュータソフトウェア製品が提供され、このコンピュータソフトウェア製品は、プログラム命令が保存されている非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、この命令がコンピュータにより読み込まれると、これによりコンピュータは、拍動心臓の腔内に挿入された遠位端を有しかつ位置センサ及び電極を含むカテーテルによって出力された信号を受信し、拍動心臓の複数の周期にわたって電極及び位置センサから受信した信号に応じて、心臓の腔内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置での電気的活動及び機械的運動を測定し、そして、測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期にわたる機械的ひずみの大きさを計算し、そして、機械的ひずみの大きさが既定のひずみ閾値を下回りかつ電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る位置の群を瘢痕組織部位として特定し、同時に、機械的ひずみが既定のひずみ閾値を上回るか又は電位が既定の電位閾値を上回る1つ以上の部位を、潜在的に生存可能であるとして特定する。
【0019】
更に、本発明の一実施形態により、コンピュータソフトウェア製品が提供され、このコンピュータソフトウェア製品は、プログラム命令が保存されている非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、この命令がコンピュータにより読み込まれると、これによりコンピュータは、拍動心臓の心腔内に挿入された遠位端を有しかつ位置センサを含むカテーテルによって出力された信号を受信し、拍動心臓の複数の周期にわたって位置センサから受信した信号に応じて、心臓の左心室内の心臓壁上のカテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、この測定された機械的運動に基づいて、その位置での周期の拡張期での機械的ひずみを計算し、そして、拡張期の間の左心室にわたって計算された機械的ひずみの特性に基づいて心臓の病的状態を特定する。
【0020】
本発明は、以下の発明を実施するための形態を図面と併せて考慮すると、一層完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態による、心臓の電気解剖学的及び電気機械的診断のためのシステムの概略描写図である。
【
図2A】本発明の一実施形態による、心周期の間の異なる時の心筋における位置間で測定された変位の変化を模式的に示すグラフである。
【
図2B】本発明の一実施形態による、心周期の間の異なる時の心筋における位置間で測定された変位の変化を模式的に示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態による、心臓内のある位置で測定された電気的活性化波形を模式的に示すプロットである。
【
図4】本発明の一実施形態による、1つの心周期にわたる左心室容積、ひずみ、及び電気的活性化の測定値を模式的に示すプロットである。
【
図5】本発明の一実施形態により測定された、心臓内の瘢痕割合に対する面積ひずみの依存性を模式的に示すプロットである。
【
図6A】本発明の一実施形態による、心臓内の健康な組織と瘢痕組織において測定された、単極電位間の差及び面積ひずみ間の差をそれぞれ示すプロットである。
【
図6B】本発明の一実施形態による、心臓内の健康な組織と瘢痕組織において測定された、単極電位間の差及び面積ひずみ間の差をそれぞれ示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
タギングシーケンスによる心臓MRIは、心臓の機械的機能を評価するための「ゴールドスタンダード」として広く認識されている。例えば、心周期にわたる連続的なタグ付けされたMR画像で測定された心臓壁の変位を使用して、心筋の局所的ひずみを計算することができる。収縮期に低ひずみである領域は、局所的に低下した収縮能の結果として、心筋の機能低下に続発して起こり、これは瘢痕組織の存在を伴う可能性が高い。逆に、拡張期の間の異常なひずみパターンは、心筋弛緩障害の結果として起こり、生存可能な心筋の生理学的拡張期潅流を妨げる。別の一例として、収縮期ひずみの局所的ピークのばらつきは、非同期的収縮を示している可能性があり、これは、電気的伝導障害に伴うものである。
【0023】
しかしながら心臓MRIは、時間分解能が限定的であるという問題があり、高信頼度でひずみが測定できるのは収縮期の間に限られる(ひずみ測定を誘導するのに使用される超磁力グリッドのフェーディングによる)。おそらく(少なくとも部分的に)この理由のため、心筋ひずみ及び心臓の他の機械的機能の側面に関する研究は、これまで収縮期に重点が置かれており、拡張期のひずみ測定の診断値は見過ごされてきた。
【0024】
本明細書に記述される本発明の実施形態は、心筋ひずみの侵襲的測定のための改善された方法及びシステムを提供し、これらは、MRI及びその他の既存の様式の欠点の一部を克服する。これらの実施形態は、例えば上述のNOGAシステム(又は同じくBiosense Webster Inc.から販売されているCARTO(登録商標)システム)などのシステムを中心に構成され、位置センサと、電極及び/又は心内圧測定用の圧力センサとを含む、カテーテルを使用する。代替的に又は追加的に、このカテーテルは、心臓壁に対する接触力を評価するためのセンサを含む。
【0025】
カテーテルの遠位端は、拍動心臓の心腔内に挿入され、例えば右心室若しくは左心室、又は例えば心房若しくは冠状静脈洞などの心臓の他の部分に挿入される。拍動心臓の複数の心周期にわたって位置センサから受信した信号に基づいて、プロセッサは、心腔内の心臓壁上にカテーテルが接触している位置での位置の変化(すなわち機械的運動)を測定し、この測定された機械的運動に基づいて、心周期の異なる位相での心臓壁内の機械的ひずみを計算する。いくつかの実施形態において、後述するように、プロセッサは、位置信号と併せて、カテーテルの電極(複数可)からの電気信号を受信して、処理する。
【0026】
心周期にわたるひずみの変化と、おそらくは心筋組織の局所的な機械的活性化と電気的活性化の相互作用とに基づいて、このプロセッサは、疑われる病変の心臓内での位置を特定することができる。これらの診断結果を治療介入のガイドとして使用することができ、例えば、ペーシング電極を配置するため、あるいは、心臓の腔内に生物学的活性物質(例えば細胞又は薬剤)を注入するための、生存可能な位置の選択に使用することができる。本技法の強化された心筋組織特徴付けと診断の正確さにより、治療を適用する位置を最適化し、これによって、鬱血性心不全及びその他の心臓疾患状態に対する心臓再同期治療並びにその他の治療を改善することが可能になる。
【0027】
いくつかの実施形態において、カテーテルを使用して、心臓壁上にカテーテルが接触している位置での、電気的活動並びに機械的運動が測定される。カテーテルを用いた電気的活動の測定は数多くの研究で用いられて分析されており、診断手順に広く使用されており。また心臓画像の機械的分析も一般的であるが、これら2つの別個のモダリティの組み合わせは、臨床実務においてほとんど知られていない。一方、本実施形態では、機械的特性と電気的特性が1回のカテーテル挿入で同時に測定され、よって、本質的に完全な精度で、内在的に互いに対して整合されている。
【0028】
このことに基づいて、機械的ひずみの大きさが既定のひずみ閾値を下回りかつ電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る位置の群が、瘢痕組織部位として特定され得る。本発明者らは、機械的基準と電気的基準のこのような複合的な適用は、機械的測定又は電気的測定いずれか単独の場合よりも、瘢痕組織のより正確な診断及び描写を達成することを見出した。同様に、機械的ひずみが既定のひずみ閾値を上回るか又は電位が既定の電位閾値を上回る領域は、潜在的に生存可能な組織の部位として特定することができる。この特定は、最も効果的である可能性が高い位置に、例えばペーシング電極又は治療用物質の注入などの治療手段の標的を定めるのに有用である。
【0029】
他の実施形態において、プロセッサは、測定された機械的運動に基づいて、拡張期の間の心臓壁内の機械的ひずみを計算し、心臓の病的状態を特定する際にこれらの拡張期測定値を使用する。これらの拡張期測定値は、心筋の弛緩時の欠陥を診断するのに特に有用であり得、この心筋の弛緩時の欠陥は、ポンプ機能効率低下と心筋の潅流不良の原因となり得る。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態による、電気解剖学的及び電気機械的診断のためのシステム20の概略描写図である。操作者24(通常は心臓専門医)は、患者28の血管系を通して患者の心臓26内にカテーテル22を挿入する。図の実施形態において、カテーテルの遠位端30は大動脈を通って左心室内に挿入されている。ただし、別法として、本明細書に記述される技法は、他のアプローチ経路を用いてもよく、また任意の心臓の腔内に適用してもよい。
【0031】
本実施形態において、カテーテル22の遠位端30は、位置センサ36と、少なくとも1つの電極38とを含む。本実施例の位置センサ36は、1つ以上の小型検出コイルを含み、これは、患者の体外にある1つ以上の磁場発生コイル34により生成される磁場を検出する。この種の磁気位置検出スキームは、上述のNOGAシステムに使用されている。あるいは、システム20は、例えば電気的又は超音波による位置検出などの、当該技術分野において既知の、他の任意の好適な種類の位置検出を用いてもよい。任意追加的に、遠位端30は、当該技術分野において既知である他の種類の検出エレメントを含んでよく、例えば、心臓壁32に対してカテーテルの遠位先端により作用する力を検出するための圧力センサ、又は、血行力学的評価のための心内圧センサを含み得る。
【0032】
操作者24は、機能診断を行う心腔の心臓壁32上の複数の位置に、遠位端30を接触させる。各位置において、制御装置40は位置センサ36が出力した信号を受信して処理し、これにより、カテーテル22の遠位端、ひいては心臓壁32の接触位置の、3次元(3D)位置座標を計算する。制御装置40は更に、電極38から心臓壁内の局所電位を示す電気信号を受信する。典型的に、操作者24は1つ以上の心周期にわたって各位置に遠位端30を接触させた状態で保持し、これにより制御装置40は、拍動心臓26の複数の周期にわたって、電気信号の変動と3D位置座標の動きの両方に関するデータを収集することができる。
【0033】
制御装置40により提供されたデータに基づき、プロセッサ42は、心臓壁32上にカテーテル22が接触している位置のそれぞれにおける電気的活動と機械的運動の両方を測定する。プロセッサ42は、これらのデータを、対象とする心腔の動的3Dマップにまとめ、このマップは、心周期(収縮期と拡張期の両方を含む)にわたる、心腔の内側表面の、機械的形状の変化と電気的活動の変化の両方を示す。測定された機械的運動に基づき、プロセッサ42は心腔の異なる位置での機械的ひずみを計算する。プロセッサ42は、例えばディスプレイ44上に、この3Dマップをグラフィカルに表示することができる。このマップは、診断対象(例えば瘢痕46)、又は欠陥若しくは非同期の収縮若しくは弛緩の領域、又は不適切な電気的及び機械的インパルス伝搬の領域、又は異常な電気機械カップリングの領域の、パラメータ及び特徴を示すよう注釈付けが行われる。ひずみの計算技法と、このひずみに基づくパラメータ及び特徴の抽出は、下記に詳しく記述される。
【0034】
システム20は、例えば上述のNOGAシステムなど、当該技術分野において既知のカテーテル及び制御装置を中心に構築することができる。プロセッサ42は典型的に、汎用コンピュータプロセッサを含み、これはデータ入力の受信と診断情報の出力に好適なインタフェースを有し、かつ、本明細書に記述される機能を実行するためのソフトウェアがプログラムされている。このソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形態でシステム20にダウンロードすることができる。付加的に又は代替的に、このソフトウェアは、光学的、磁気的、又は電子的記憶媒体などの、非一時的コンピュータ可読媒体に記憶されていてもよい。
【0035】
図2A及び2Bは、本発明の一実施形態による、心周期の間の異なる時間における心筋の位置間で、カテーテル22により測定された変位の変化を模式的に示すグラフである。これらの変化は、位置センサ36を使用して、カテーテル22の遠位端30を各位置で心臓壁に接触した状態に保持しながら、心臓壁32上の位置の軌跡を測定することと、この軌跡に基づき、心臓の1つ以上の周期にわたる、隣接位置間の距離の変化を計算することと、により見出される。具体的には、この技法は、心臓のピーク弛緩及び/又は拡張終期に測定された座標間の距離と、心周期の別の時間(収縮期の心臓収縮ピーク時を含む)における距離の、差を見出すために使用される。拡張終期とは、左心室がその最大容積に達する、心周期の間の時間として定義され、例えば、プロセッサ42により計算された左心室の動的3Dマップに含まれている容積を積分することにより測定される。
【0036】
図示の例における変位は、点P(これは、カテーテル22が接触する心臓壁上の位置に対応する)と隣接位置の点P
1、P
2、...、P
mとの間の距離l
1、l
2、...、l
mの局所線形短縮(LLS)について測定される。この距離は、システム20により生成される動的3Dマップ中のカテーテル座標から決定される。LLSの変化は、
図2Aに示す拡張終期(ED)の参照時間と、
図2Bに示す心周期の間のある時間tとの間で測定される。
【0037】
各点Pについて、プロセッサ42は、隣接点からの距離の重み付き合計に関して、ひずみを計算する:
【0038】
【0039】
【数2】
は、注釈時(拡張終期)に評価される、現在の点pと一般点mとの間の距離の関数である。この重み関数は、例えば、三次関数又はガウス関数であり得る。重みを計算するのに使用される点間の距離は、反対側の心臓壁に属する近接点の影響を避けるために、心臓の表面上で測定される。遠すぎる(すなわち、Pからの距離がD
maxよりも大きい)点、又は近すぎる(すなわち、距離がD
minよりも小さい)点は、ひずみ計算において重み付けされない。D
min及びD
maxはユーザ定義パラメータである。
【0040】
上記の式に使用されるガウス重み関数は、下記のように計算することができる:
【0041】
【0042】
【0043】
【数5】
と仮定すると、正規化された重みが得られる:
【0044】
【数6】
すると、時間tにおける点Pでのひずみは、次の式で与えられる:
【0045】
【0046】
このようにして測定されたひずみは、よって、心周期の大半又は全体にわたって負となる。ひずみの大きさ(すなわち、LLSの絶対値)は典型的に、同期心臓の心室収縮期に対応して、局所収縮のピーク時にその最大に達する。
【0047】
本発明者らは、例えば長手方向ひずみ(すなわち、心尖-僧帽弁面方向に沿った変形)、及び周方向ひずみ(長手方向に対して垂直のひずみ)など、診断評価の目的に使用可能な心臓壁ひずみの数多くの測定の評価を行った。これらの2つの方向のひずみ要素は、参照時間(拡張終期)に対してCauchy-Green変形勾配テンソルを計算し次に対角化することにより得ることができる。心筋中の瘢痕などの病理学的特徴を特定する際の診断感度及び特異性に関して、長手方向ひずみと周方向ひずみの積の平方根として定義される局所面積ひずみ(LAS)が、最良の結果をもたらすことが見出された。
【0048】
図3は、本発明の一実施形態による、心臓26内のある位置でカテーテル22の遠位端の電極38により測定された、電気的活性化波形を模式的に示すプロットである。電極38は、カテーテル22の遠位端30が接触する位置のそれぞれで、単極電位図を生成する。(代替的に又は追加的に、双極電位図を使用することができる。)
図3の縦線は、問題になっている位置での活性化の時間を示す。電位図の振幅は、その位置での心筋組織の電気的活動の強さの指標を与える。前述のように、健康な組織は、瘢痕組織で測定された低い値と比較すると、大きなひずみと強い電位図信号の両方を有することで特徴付けられ、一方、生存可能ではあるが虚血状態の組織は、組織の健康状態のこれらの尺度の一方又は両方の値の低下を示し得る。
【0049】
図4は、本発明の一実施形態による、1回の心周期にわたる、システム20により測定された、左心室容積、ひずみ、及び電気的活性化の測定値を模式的に示すプロットである。ひずみ曲線50は、左心室の特定の位置での、上記で定義されたように計算された面積ひずみを示す。このひずみは、最小値S
min(ひずみの大きさ又は絶対値が最大のとき)から最大値S
max(心室が最も弛緩した形状に達するとき)まで変化する。容積曲線52は、最小の収縮終期値(ESV)から最大の拡張終期値(EDV)への左心室容積の変化を示す。
図4で、拡張期は心室容積が増加している期間として示されており、すなわち、ESV~EDVの時間である。
図4のブロック54は、ひずみ曲線50の傾きが正である拡張期の部分を示し、これは、ひずみの大きさが減少し、ゆえにこの期間中に心筋が弛緩しつつあることを示す。活性化微分曲線56は、心周期にわたる単極電位図(UEG)電位の変化を示し、これは、活性化時間ATを導くのに使用される。
【0050】
健康な心臓において、最適な効率で動作するために、EDV、AT、及びSmaxのタイミングは、よく同期することが期待される(ESVとSminも同様)。換言すれば、心臓は、最大心室容積時間で最も弛緩し、この時点で電気的活性化により次の収縮期が開始される。良好な同期はまた、心腔の拡張期充満と心筋の冠状血管潅流(拡張期に起こる)とを最大化することにおいても重要である。一方、心臓の病的状態の一部(例えば鬱血性心不全(CHF)及び左脚ブロック(LBBB)など)は、EDV、AT及びひずみの間の同期の喪失により識別することができる。ただし前述のように、既存の診断方法(例えば心臓MRI)は、拡張期の間に精度が損われるため、この種の拡張期欠陥を診断できないことがある。
【0051】
本発明者らは、上述の容積、ひずみ、及び電気的活性化の値に基づいて、拡張期機能の欠陥の性質及び程度を評価するのに使用可能な数多くの定量的方法を開発した。これらの方法は、
図4に示されており、次のものを含む:
1.ピーク弛緩時(TPR):これは、拡張期(EDV)中の左心室の最大容積時で測定されたひずみを、左心室の最大弛緩時(S
max)でのひずみと比較する。具体的には、TPRは、最大局所ひずみ時間(S
max)と左心室(EDV)の最大全体容積時間との差を見つけ出す。TPRが負のとき、
図4に示すように、心筋は弛緩のピークに到達してから、左心室が全体弛緩点となるべきところに到達する。TPRの値が大きい場合は、ポンプ機能が不十分であり、心筋特性に異常があることを示す(特に、組織の弾力性と硬直に関連する)。
2.効果的潅流時(EPT):これは、左心室が弛緩し潅流されている時である、拡張期の割合を示す。
図4では、この割合は、拡張期の合計持続時間に対するブロック54の累積時間により表わされる。局所的な差がありEPT値が低い場合、これは、主に拡張期の間に起こる、心筋の局所的潅流に問題があることを示し得る。
3.活性化時の弛緩(RAT):これは、計算された機械的ひずみに基づいて、局所的電気的活性化時間S
ATにおける左心室の局所的弛緩(S
max)及び機械的ひずみを比較する。RATは例えば下記のように定義することができる:
【0052】
【0053】
パラメータβは、S
maxがATより前に起こる場合は(
図4に示す例のように)-1の値を有し、そうでない場合は+1の値を有する。RAT値が負である場合は、弛緩がピークに達する前に心筋の脱分極が始まっていることを示す。
【0054】
例えば、左心室における局所的ペーシングの必要の適応として、低いEPTを使用することもでき、これにより、「機能性」(「構造性」ではなく)虚血のある領域と同様に、適切な潅流を確保することができる。具体的には、心臓の局所的虚血は、おそらくは同期不良の局所ひずみにより、これらの領域における拡張期血流の期間が短くなることにより生じ得ることが、研究により示唆されている。EPT値の変動は、拡張期における異常な壁の動きにより機能的に低潅流となるリスクのある、心臓内の領域を特定することに役立ち得る。いったんこれらの領域が特定されたら、その局所的病状を、壁の動きの同期を修正するためのペーシング電極及び/又はその他の治療を適切に適用することによって治療することができる。
【0055】
別の一実施形態において、心筋繊維収縮の効率は、電気的活性化時間における伸長度合に依存する。最大に効果的な収縮力には、左心室の各領域が、最適な予備伸長時間(すなわち、伸長がその最大値に達する時Smax)で電気的に活性化されることが必要であり、RATはゼロに近づく。RATの値が大きいほど、かつ特に負の値である場合は、心臓壁の運動効率が最適状態ではないことを示す。局所的なペーシング及びその他の治療を適用して、局所的RATを低減し、これにより心臓効率を高めることができる。
【0056】
図5は、本発明の一実施形態により測定された、心臓内の瘢痕割合に対するひずみの依存性を模式的に示すプロットである。この例におけるひずみは、上述に従いシステム20を使用して測定された面積ひずみにより表わされる。「瘢痕パーセンテージ」とは、試験対象の領域内での瘢痕組織の大きさを指す。測定されたひずみは、組織の中の瘢痕領域と生存可能領域との間で明白に区別することはできないけれども、瘢痕の大きさの増大に伴い、ひずみの大きさが有意に減少することが、図より明らかにわかる。発明者らは特に、非貫壁性の瘢痕組織の領域を特定する際に、ひずみ値だけでは特異性を欠いていることを見出した。
【0057】
図6A及び6Bは、本発明の一実施形態による、心臓26内の健康な組織と瘢痕組織において、システム20により測定された、単極電位間の差及び面積ひずみ間の差をそれぞれ示すプロットである。本発明者らは、任意の位置での面積ひずみの大きさが、特定のひずみ閾値を下回り、かつ電気的活動の電位も、既定の電位閾値を下回った場合、この位置は、精度83%で瘢痕組織として特定できることを見出した。この精度は、ひずみ測定だけ又は電気的測定だけで得られる精度よりも有意に高い。
【0058】
特定の測定技法及び診断パラメータが、特定の病理診断においてシステム20の有用性を示す例として上記で記述されているが、当業者には、上記の記述を読んだ後で、他の種類の方法及びパラメータが明らかとなり、またそのような他の種類の方法及びパラメータは、本発明の範囲内であると見なされる。したがって、上記の実施形態は、説明のために引用されたものであること、及び本発明は、特に、本明細書の上に示されて記載されているものに限定されないことが認識されよう。むしろ、本発明の範囲は、本明細書の上に記載されているさまざまな特徴の組合せと部分組合せの両方、及び前述の説明を一読すると、当業者が想起すると思われる、先行技術に開示されていないそれらの変形及び改変を含む。
【0059】
〔実施の態様〕
(1) 位置センサ及び電極を備えたカテーテルを用いて、拍動心臓の複数の周期にわたって、前記心臓の腔内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での電気的活動及び機械的運動を測定することと、
前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期にわたる機械的ひずみの大きさを計算することと、
前記機械的ひずみの前記大きさが既定のひずみ閾値を下回り、かつ前記電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る前記位置の群を、瘢痕組織部位として特定し、同時に、前記機械的ひずみが前記既定のひずみ閾値を上回るか又は前記電位が前記既定の電位閾値を上回る1つ以上の部位を、潜在的に生存可能であるとして特定することと、
を含む、解剖学的診断のための方法。
(2) 前記電気的活動を測定することが、単極電位を測定することを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記機械的運動を測定することが、前記位置センサを使用して、前記カテーテルの遠位端を前記位置のそれぞれにおいて前記心臓壁に接触した状態に保持しながら、前記位置の軌跡を測定することを含み、
前記機械的ひずみの前記大きさを計算することが、前記軌跡に基づいて、前記心臓の前記周期にわたった隣接位置間の距離の変化を計算することを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記距離の変化を計算することが、前記心臓の拡張期の間に測定された第1の座標と、前記心臓の収縮期の間に測定された第2の座標との間の距離の差を見出すことを含む、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記機械的ひずみの前記大きさを計算することが、前記距離の前記変化に基づいて、周方向ひずみ、長手方向ひずみ、及び面積ひずみからなる測定値の群から選択される前記機械的ひずみの測定値を計算することを含む、実施態様3に記載の方法。
【0060】
(6) 前記心臓の前記腔内の、前記潜在的に生存可能な部位の1つ以上に、1つ以上のペーシング電極を配置することを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記心臓の前記腔内の前記心臓壁の前記潜在的に生存可能な部位の1つ以上に、治療用物質を注入することを含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 位置センサを備えたカテーテルを用いて、拍動心臓の複数の周期にわたって、前記心臓の左心室内の心臓壁の前記カテーテルが接触している複数の位置で機械的運動を測定することと、
前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算することと、
前記拡張期の間に前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて、前記心臓の病的状態を特定することと、
を含む、解剖学的診断のための方法。
(9) 前記機械的運動を測定することが、前記位置センサを使用して、前記カテーテルの遠位端を前記位置のそれぞれにおいて前記心臓壁に接触した状態に保持しながら、前記位置の軌跡を測定することを含み、
前記機械的ひずみを計算することが、前記軌跡に基づいて、前記心臓の前記周期にわたった隣接位置間の距離の変化を計算することを含む、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記距離の変化を計算することが、前記心臓の拡張期の間に測定された第1の座標と、前記心臓の収縮期の間に測定された第2の座標との間の前記距離の差を見出すことを含む、実施態様9に記載の方法。
【0061】
(11) 前記機械的ひずみを計算することが、前記距離の前記変化に基づいて、周方向ひずみ、長手方向ひずみ、及び面積ひずみからなる測定値の群から選択される前記機械的ひずみの測定値を計算することを含む、実施態様9に記載の方法。
(12) 前記病的状態を特定することが、前記拡張期の間の前記左心室の最大容積時を検出することと、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室の最大局所ひずみ時と前記最大全体容積時との差を見つけ出すこととを含む、実施態様8に記載の方法。
(13) 前記病的状態を特定することは、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室が弛緩している期間である、前記拡張期の割合を計算することを含む、実施態様8に記載の方法。
(14) 前記カテーテルが電極を含み、前記方法が、前記カテーテルを使用して前記複数の位置において前記機械的運動と併せて電気的活動を測定することを含み、前記病的状態が、前記機械的ひずみと併せて、前記測定された電気的活動に基づいて特定される、実施態様8に記載の方法。
(15) 前記電気的活動を測定することが、前記左心室の前記心臓壁の活性化時を検出することを含み、前記病的状態を特定することが、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記活性化時の前記左心室の最大弛緩と、前記機械的ひずみとを局所的に比較することを含む、実施態様14に記載の方法。
【0062】
(16) 前記機械的ひずみの前記計算された特性に応じて選択された電極位置で、前記左心室内に1つ以上のペーシング電極を配置することを含む、実施態様8に記載の方法。
(17) 位置センサを備えたカテーテルを用いて、拍動心臓の複数の周期にわたって、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定することと、
前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算することと、
前記機械的ひずみのピークタイミングが同期していない前記位置の群を特定することと、
を含む、解剖学的診断のための方法。
(18) 前記左心室内の心内圧を測定することと、前記測定された心内圧を、前記機械的ひずみと併せて、前記心臓の病的状態の診断に適用することとを含む、実施態様17に記載の方法。
(19) 拍動心臓の腔内に挿入されるように構成された遠位端を有し、かつ、位置センサ及び電極を含む、カテーテルと、
前記拍動心臓の複数の周期にわたって前記電極及び前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の前記腔内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での電気的活動及び機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期にわたる機械的ひずみの大きさを計算し、そして、前記機械的ひずみの前記大きさが既定のひずみ閾値を下回りかつ前記電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る前記位置の群を瘢痕組織部位として特定し、同時に、前記機械的ひずみが前記既定のひずみ閾値を上回るか又は前記電位が前記既定の電位閾値を上回る1つ以上の部位を、潜在的に生存可能であるとして特定するように構成されている、プロセッサと、
を含む、解剖学的診断のためのシステム。
(20) 前記測定された電気的活動が単極電位を含む、実施態様19に記載のシステム。
【0063】
(21) 前記プロセッサが、前記位置センサからの前記信号を使用して前記カテーテルの遠位端を前記位置のそれぞれで前記心臓壁に接触した状態に保持しながら、前記位置の軌跡を測定し、前記軌跡に基づいて、前記心臓の前記周期にわたる隣接位置間の距離の変化を計算することにより前記機械的ひずみの前記大きさを計算するように構成されている、実施態様19に記載のシステム。
(22) 前記プロセッサが、前記心臓の拡張期の間に測定された第1の座標と、前記心臓の収縮期の間に測定された第2の座標との間の距離の差を見出すように構成されている、実施態様21に記載のシステム。
(23) 前記プロセッサが、前記距離の前記変化に基づいて、周方向ひずみ、長手方向ひずみ、及び面積ひずみからなる測定値の群から選択される前記機械的ひずみの測定値を計算するように構成されている、実施態様21に記載のシステム。
(24) 拍動心臓の腔内に挿入されるように構成された遠位端を有し、かつ、位置センサを含む、カテーテルと、
前記拍動心臓の複数の周期にわたって前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算し、そして、前記拡張期の間の前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて前記心臓の病的状態を特定するように構成されている、プロセッサと、
を含む、解剖学的診断のためのシステム。
(25) 前記プロセッサが、前記位置センサからの前記信号を使用して前記カテーテルの遠位端を前記位置のそれぞれで前記心臓壁に接触した状態に保持しながら、前記位置の軌跡を測定し、前記軌跡に基づいて、前記心臓の前記周期にわたる隣接位置間の距離の変化を計算することにより前記機械的ひずみの前記大きさを計算するように構成されている、実施態様24に記載のシステム。
【0064】
(26) 前記プロセッサが、前記心臓の拡張期の間に測定された第1の座標と、前記心臓の収縮期の間に測定された第2の座標との間の距離の差を見出すように構成されている、実施態様25に記載のシステム。
(27) 前記プロセッサが、前記距離の前記変化に基づいて、周方向ひずみ、長手方向ひずみ、及び面積ひずみからなる測定値の群から選択される前記機械的ひずみの測定値を計算するように構成されている、実施態様25に記載のシステム。
(28) 前記プロセッサが、前記拡張期の間の前記左心室の最大容積時を検出し、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室の最大局所ひずみ時と前記最大全体容積時との差を見つけ出すように構成されている、実施態様24に記載のシステム。
(29) 前記プロセッサは、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記左心室が弛緩している期間である、前記拡張期の割合を計算するように構成されている、実施態様24に記載のシステム。
(30) 前記カテーテルが電極を含み、前記プロセッサが、前記カテーテルを使用して前記複数の位置において前記機械的運動と併せて電気的活動を測定し、前記機械的ひずみと併せて、前記測定された電気的活動に基づいて前記病的状態を特定するように構成されている、実施態様24に記載のシステム。
【0065】
(31) 前記プロセッサが、前記測定された電気的活動に基づいて前記左心室の前記心臓壁の活性化時を検出し、前記計算された機械的ひずみに基づいて、前記活性化時の前記左心室の最大弛緩と、前記機械的ひずみとを局所的に比較するように構成されている、実施態様30に記載のシステム。
(32) プログラム命令が保存されている非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、前記命令がコンピュータにより読み込まれると、これにより前記コンピュータは、拍動心臓の腔内に挿入された遠位端を有しかつ位置センサ及び電極を含むカテーテルによって出力された信号を受信し、前記拍動心臓の複数の周期にわたって前記電極及び前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の前記腔内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での電気的活動及び機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期にわたる機械的ひずみの大きさを計算し、そして、前記機械的ひずみの前記大きさが既定のひずみ閾値を下回りかつ前記電気的活動の電位が既定の電位閾値を下回る前記位置の群を瘢痕組織部位として特定し、同時に、前記機械的ひずみが前記既定のひずみ閾値を上回るか又は前記電位が前記既定の電位閾値を上回る1つ以上の部位を、潜在的に生存可能であるとして特定する、コンピュータソフトウェア製品。
(33) プログラム命令が保存されている非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、前記命令がコンピュータにより読み込まれると、これにより前記コンピュータは、拍動心臓の腔内に挿入された遠位端を有しかつ位置センサを含むカテーテルによって出力された信号を受信し、前記拍動心臓の複数の周期にわたって前記位置センサから受信した信号に応じて、前記心臓の左心室内の心臓壁上の前記カテーテルが接触している複数の位置での機械的運動を測定し、そして、前記測定された機械的運動に基づいて、前記位置での前記周期の拡張期における機械的ひずみを計算し、そして、前記拡張期の間の前記左心室にわたって計算された前記機械的ひずみの特性に基づいて前記心臓の病的状態を特定する、コンピュータソフトウェア製品。