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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】固体触媒、及びアルデヒド類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20220704BHJP
   C07C 47/06 20060101ALI20220704BHJP
   C07C 45/41 20060101ALI20220704BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220704BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20220704BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220704BHJP
【FI】
B01J23/89 Z
C07C47/06 Z
C07C45/41
B01J35/10 301Z
B01J35/04 331Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018118941
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019217485
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】福田 瞳
(72)【発明者】
【氏名】中谷 哲
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-008198(JP,A)
【文献】特開平06-086938(JP,A)
【文献】特開2008-012419(JP,A)
【文献】特開2017-047377(JP,A)
【文献】特表2011-529494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 47/06
C07C 45/41
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸類を原料として、気相中で水素化することによりアルデヒド類を製造するための担体担持型固体触媒であって、触媒成分を担持する担体がスポンジ状の酸化された金属多孔性材質であり、バインダーとして、アルミナ、シリカ、チタニア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも1つの無機粒子を含む、固体触媒。
【請求項2】
前記触媒成分が、白金族金属及び鉄を含む請求項1に記載の固体触媒。
【請求項3】
前記白金族金属が、パラジウムである請求項2に記載の固体触媒。
【請求項4】
前記触媒成分がモリブデンを含み、モリブデンの含有量は鉄(Fe 2 3 換算)100重量部に対して1~30重量部である請求項2または3に記載の固体触媒。
【請求項5】
前記担体は金属多孔性材質の酸化物である請求項1~4のいずれか1項に記載の固体触媒。
【請求項6】
カルボン酸類を原料として、気相中で固体触媒を用いて水素化することによりアルデヒド類を製造する方法であって、前記固体触媒が、請求項1~のいずれか1項に記載の固体触媒であるアルデヒド類の製造方法。
【請求項7】
前記カルボン酸類が酢酸であり、前記アルデヒド類がアセトアルデヒドである請求項に記載のアルデヒド類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒、及びアルデヒド類を製造する方法に関する。詳細には、本発明は、カルボン酸類を原料として、アルデヒド類を製造するための固体触媒、及び該固体触媒を用いてカルボン酸類から水素化によりアルデヒド類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド類は、各種有機化学合成用の中間体等として、工業的に極めて重要な化合物であり、酢酸エチル、過酢酸、ピリジン誘導体、ペンタエリスリトール、クロトンアルデヒド、パラアルデヒドなどの原料として大量に使用されている。
【0003】
現在、アルデヒド類は、工業的には主にエチレンや末端オレフィンの酸化又はヒドロホルミル化により製造されている。しかし、これらの原料は、いずれも石油由来の化合物であり、近年の石油類の高騰や資源枯渇問題から、より安定的かつ安価に入手可能な化合物を原料とする製造方法が望まれている。ここで、アルデヒド類の中でも特に工業的に大量に製造されているアセトアルデヒドに着目すると、過去にはアセトアルデヒドは、その酸化により酢酸を製造するための原料として利用されており、必然的に酢酸は、アセトアルデヒドより高価な化合物であった。しかしながら、1970年代に酢酸の製造方法が、メタノールのカルボニル化法(所謂モンサント法)に転換すると、酢酸とアセトアルデヒドの価格順位は逆転し、酢酸の水素還元によるアセトアルデヒドの製造が経済的に十分成立する状況となった。さらに、現在アセトアルデヒドは、上述のようにエチレンを原料として製造されているのに対し、酢酸は、メタノールと一酸化炭素といういずれも非石油原料から合成可能な原料から製造されているため、原料の安定確保、資源保護、地球環境保護の面からも酢酸を原料とするアセトアルデヒドの製造は好ましいと言える。
【0004】
上述のような状況から、酢酸の水素還元によるアセトアルデヒドの合成が既にいくつかなされている。以下に列挙すると、ジェラルド・シー・タスティンらは、酸化鉄に2.5~90重量%のパラジウムを添加した触媒を開示した(特許文献1)。ヴィクター・ジェイ・ジョンストンらは、シリカ及び炭素からなる担体上にパラジウムと第2成分として、鉄、銅、金、及びカリウムからなる金属群を担持した触媒を開示した(特許文献2)。
【0005】
また、R.ペストマンらは、酢酸から水素化によりアセトアルデヒドを製造する方法として、白金担持酸化鉄触媒を用いることにより、高選択的にアセトアルデヒドが得られることを開示した(非特許文献1)。また、R.ペストマンらは、酢酸から水素化によりアセトアルデヒドを製造する方法として、酸化鉄触媒を用いることにより、高選択的にアセトアルデヒドが得られることを開示した(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-322658号公報
【文献】特表2011-529494号公報
【0007】
【文献】JOURNAL OF CATALYSIS vol.168, 255-264 (1997)
【文献】JOURNAL OF CATALYSIS vol.148, 261-269 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上述の先行技術文献に基づき、カルボン酸類を原料として、気相中で水素化し、アルデヒド類を工業的に製造するための検証を行ったところ、カルボン酸類の転化率やアルデヒド類の選択率が十分でないことが分かった。
【0009】
また、パラジウム担持酸化鉄触媒に関しては、良好な反応生成を得るために大量のパラジウムを要し、触媒が極めて高価なものとなるため工業的な利用には適さないという欠点があった。また、シリカなどに担持された触媒は、コスト面では問題はないものの、その細孔内への拡散で生成したアルデヒド類が逐次的に反応し、アルデヒド類の選択率が急激に低下することが分かっていた。スポンジ状の担体に担持することで選択率の急激な低下を防ぐことができることが分かってきているが、打錠触媒と比較して転化率が高くないことや反応による触媒劣化が欠点として挙げられる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、カルボン酸類を原料として、気相中で水素化してアルデヒド類を製造する際に、カルボン酸類の転化率及び/又はアルデヒド類の選択率が高く、反応時間経過に伴うアルデヒド類の収率の低下が抑制でき、比較的安価で工業的に有用な固体触媒を提供することにある。また、カルボン酸類を原料として、気相中で水素化してアルデヒド類を製造する際に、カルボン酸類の転化率及び/又はアルデヒド類の選択率が高く、反応時間経過に伴うアルデヒド類の収率の低下が抑制でき、工業的に有用なアルデヒド類の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、意外にも触媒の組成を変更せずとも、特定の担体を用いることで、カルボン酸類の水素化におけるカルボン酸類の転化率及び/又はアルデヒド類の選択率を向上でき、反応時間経過に伴うアルデヒド類の収率の低下が抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、カルボン酸類を原料として、気相中で水素化することによりアルデヒド類を製造するための担体担持型固体触媒であって、触媒成分を担持する担体がスポンジ状の酸化された金属多孔性材質である固体触媒を提供する。
【0013】
本発明の固体触媒は、前記触媒成分が、白金族金属及び鉄を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の固体触媒は、前記白金族金属が、パラジウムであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、カルボン酸類から気相中で固体触媒を用いて水素化することによりアルデヒド類を製造する方法であって、前記固体触媒であるアルデヒド類の製造方法を提供する。
【0016】
本発明のアルデヒド類の製造方法は、前記カルボン酸類が酢酸であり、前記アルデヒド類がアセトアルデヒドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固体触媒によれば、カルボン酸類の水素化において、カルボン酸類の転化率及び/又はアルデヒド類の選択率を高くすることができ、反応時間経過に伴うアルデヒド類の収率の低下が抑制することが可能である。また、上記固体触媒を用いた本発明のアルデヒド類の製造方法によれば、カルボン酸類の転化率及び/又はアルデヒド類の選択率を高くすることができ、反応時間経過に伴うアルデヒド類の収率の低下が抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のアルデヒド類の製造方法の一例を示す概略フロー図である。
図2】実施例において、反応開始から所定の時間経過した後におけるアセトアルデヒド収率を表すグラフである。
図3】実施例において、反応開始から所定の時間経過した後における酢酸転化率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[固体触媒]
本発明の固体触媒は、カルボン酸類を原料として、気相中での水素化によりアルデヒド類を製造するための固体触媒(アルデヒド類製造用固体触媒)であって、触媒成分を担持する担体がスポンジ状の酸化された金属多孔性材質である。なお、本発明の固体触媒は、カルボン酸類を水素化してアルデヒド類を製造する際に、水素化の化学反応の速度を速める働きをする物質である。
【0020】
(触媒成分)
本発明の固体触媒における前記触媒成分としては、白金族金属及び鉄を含むことが好ましい。なお、前記白金族金属は、白金族金属元素を含むものであればよく、白金族金属の酸化物等であってもよい。また、前記鉄は、鉄(Fe)元素を含むものであればよく、鉄の酸化物等であってもよい。
【0021】
白金族金属は、周期表において第5および第6周期、第8、9、10族に位置する元素を示す。白金族金属としては、具体的には、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金からなる元素群などが挙げられる。なかでも、触媒活性の点から、パラジウム及び白金が好ましいが、一般的にパラジウムの方が白金に比べ安価であるため、工業的には、特にパラジウムが好ましい。これらの白金族金属は、1種を単独で、2種以上を組合せて使用することができる。
【0022】
白金族金属としては、パラジウム触媒や白金触媒などの各種市販の触媒を用いることもできる。パラジウム触媒の調製原料としては、Pd(NO32水溶液、酢酸パラジウムなどが使用できる。また、白金触媒の調製原料としては、H2Pt(OH)6などが使用できる。
【0023】
白金族金属(金属単体元素換算)の含有量は、触媒成分全量(100重量%)に対して、例えば0.5~45重量%、好ましくは1~40重量%、より好ましくは2~38重量%、さらに好ましくは3~35重量%である。白金族金属の含有量が上記範囲であると、良好な触媒活性が得られやすい。白金族金属としてパラジウムを含む場合のパラジウムの含有量(Pd元素換算)は、触媒成分全量(100重量%)に対して、例えば0.5~45重量%、好ましくは1~40重量%、より好ましくは2~38重量%、さらに好ましくは3~35重量%である。なお、触媒成分全量とは、固体触媒全体の重量から担体の重量を引いた値のことである。
【0024】
鉄の原料としては、鉄(Fe)元素を含む酸化物、窒素化物、その他鉄化合物が挙げられる。鉄の原料としては、例えばFe(NO33・9H2O、FeSO4・7H2O、酸化鉄を用いることができる。鉄の原料としては、市販のものを用いることもでき、1種を単独で、又は2種以上を組合せて使用することができる。なお、鉄の原料として硫酸鉄等の非熱分解性の対イオンを有する化合物を使用する場合は、鉄塩溶液の蒸発乾固法は使えず、例えば、硫酸鉄を使用する場合、アンモニア等のアルカリ沈殿剤を添加して不溶性の鉄化合物として沈殿させた後、沈殿を十分水洗して硫酸イオンを除去する必要がある。なお、後述のように鉄は、焼成することにより酸化鉄として触媒中に存在することとなる。
【0025】
鉄の含有量(Fe23換算)は、触媒成分全量(100重量%)に対して、例えば30~99.5重量%、好ましくは50~99重量%、より好ましくは60~98重量%、さらに好ましくは70~97重量%である。鉄の含有量が上記範囲であると、十分な触媒活性を保ち、アルデヒド類等への高い選択率が得られやすい。鉄の含有量(Fe23換算)は、Fe23以外の酸化形態であっても、元素分析より鉄(Fe)の量を算出し、Fe23に換算することにより求めることができる。
【0026】
白金族金属と鉄の組成比としては、白金族金属(金属単体元素換算)が、鉄(Fe23換算)100重量部に対して、例えば1~80重量部、好ましくは5~60重量部、より好ましくは10~50重量部である。一般的に白金族元素の重量比が高いほど触媒活性(原料転化率)は向上する傾向を示すが、触媒の価格が上昇するため、組成比は経済的合理性に基づき決定される。
【0027】
また、白金族元素及び鉄以外の他の成分を共存させることもでき、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化バナジウム、酸化亜鉛等の金属酸化物を含有させたり、銅、金、カリウム、モリブデン、セリウムなどの第3金属成分を含有させたりすることもできる。白金族元素及び鉄以外の他の成分の合計重量は、触媒成分全体(100重量%)に対して、例えば25重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。
【0028】
白金族元素及び鉄以外の他の成分としては、カルボン酸類の転化率を向上させる点から、モリブデンを用いることが好ましく、白金族金属や鉄とともにモリブデンを用いることがより好ましい。モリブデンを用いるときのモリブデン(Mo元素換算)の含有量は、鉄(Fe23換算)100重量部に対して、例えば1~30重量部、好ましくは3~25重量部、より好ましくは5~20重量部である。
【0029】
白金族金属及び鉄の合計重量は、触媒成分全量(100重量%)に対して、例えば75重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上である。白金族金属及び鉄の割合が一定以上であると、良好な触媒活性が得られる。
【0030】
触媒成分の含有量は、担体100重量部に対して、例えば2~500重量部、好ましくは2.5~300重量部、より好ましくは3~200重量部、さらに好ましくは5~100重量部である。
【0031】
触媒成分の含有量は、固体触媒(100重量%)に対して、例えば5~80重量%、好ましくは8~60重量%、より好ましくは10~50重量%である。
【0032】
(担体)
本発明の固体触媒における担体は、スポンジ状の酸化された金属多孔性材質である。前記金属多孔性材質は、例えば触媒の調製過程で焼成などを経て酸化され、少なくとも一部が金属酸化物となったものである。このような酸化された金属多孔性材質を担体として用いることにより、触媒成分と担体の結びつきを高めることができ、結果として反応時間経過によるカルボン酸類の転化率およびアルデヒド類の収率の低下を抑制することができると考えられる。また、前記金属多孔性材質は、多くの連通する空孔(連続空孔)を有する三次元網目状骨格構造を有するものが好ましい。
【0033】
上記担体における金属多孔性材質としては、耐熱性や耐久性に優れる点で、重金属(例えば、比重が4以上の金属元素の単体又はその化合物)を多く含むことが好ましい。重金属としては、例えば、鉄(Fe)、鉛(Pb)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)、クロム(Cr)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、錫(Sn)及びこれらの合金が挙げられる。本発明においては、ニッケル、ニッケル-クロム合金が特に好ましい。
【0034】
上記酸化された金属多孔性材質は、その少なくとも一部が金属酸化物となったものである。金属酸化物としては、例えば上記重金属の酸化物が挙げられる。なかでも金属酸化物としては、酸化鉄(Fe23又はFeO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化コバルト(CoO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化クロム(Cr23又はCrO3)、酸化マンガン(MnO2)、酸化モリブデン(MoO3)、及びこれらの合金が好ましい。本発明においては、ニッケル、ニッケル-クロム合金の酸化物が特に好ましい。金属酸化物(特に、重金属の酸化物)の割合は、担体(100重量%)に対して、例えば10重量%以上、好ましくは20~99.5重量%、より好ましくは30~99重量%、さらに好ましくは40~99重量%である。
【0035】
金属多孔性材質の割合は、担体(100重量%)に対して、例えば60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0036】
担体は、成分として、上記金属多孔性材質とともにセラミックを含んでいてもよい。セラミックとしては、例えばアルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素が挙げられる。本発明においては、特に、アルミナ、マグネシア、シリカの3成分からなるセラミック(コージェライトとアルミナのブレンドタイプ)が好ましい。担体としては、本発明の効果を損なわない範囲で上記セラミックや重金属以外の成分を含んでいてもよい。
【0037】
担体の成分としてセラミックを含む場合のセラミックの割合は、担体(100重量%)に対して、例えば0.1~30重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは2~15重量%、さらに好ましくは2~10重量%である。
【0038】
また、セラミックを含む場合のセラミックと上記金属多孔性材質の合計割合は、担体(100重量%)に対して、例えば60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは100重量%である。
【0039】
担体の形状としては、例えば、球状、円柱状、円筒状が挙げられる。また、担体の大きさとしては、特に制限されず、球状のものである場合、直径が、例えば0.05~20mm程度、好ましくは0.1~15mm、より好ましくは0.5~10mm、さらに好ましくは1~5mmである。また、球状のものである場合、平均直径が、例えば0.1~10mm程度、好ましくは0.2~8mm、より好ましくは0.3~5mm、さらに好ましくは0.4~4mmである。担体が球状であっても上記直径の範囲でない場合や大きなサイズの板状やブロック状等のものである場合、適宜、担体として適切な大きさ(直径)になるように担体を破砕や整粒して用いてもよい。
【0040】
担体としては、市販のものを用いることができ、スポンジ状アルミナコージェライト(株式会社成田製陶所社製 セラミックフォーム 品番#30、#20、#13)、スポンジ状金属(住友電気工業株式会社製、セルメット 品番#4)などが使用できる。これらの市販品を適宜焼成などの工程を経て酸化させて用いてもよい。本発明において担体は、単位体積当たりに多くの空孔を有し、その表面積が大きいことが好ましい。また、アルデヒド類の選択率に優れる点から、多くの連通する空孔(連続空孔)を有することが好ましい。
【0041】
担体における空孔率(気孔率)は、例えば50~99%、好ましくは60~98%、より好ましくは70~98%、さらに好ましくは75~98%である。空孔率が上記範囲であると十分な量の触媒を付けられる担体の表面が確保でき、かつ、十分にガスが拡散され滞留を抑制できるので、アルデヒド類の選択性に優れる。
【0042】
担体の平均孔径は、例えば0.1~5mm、好ましくは0.2~3mm、より好ましくは0.3~2mm、さらに好ましくは0.5~1mmである。平均孔径が上記範囲であると十分な量の触媒を付けられる担体の表面が確保でき、かつ、十分にガスが拡散され滞留を抑制できるので、アルデヒド類の選択率を向上させることができると考えられる。
【0043】
担体の見掛比重は、例えば0.05~1.0、好ましくは0.1~0.98、より好ましくは0.15~0.97、さらに好ましくは0.2~0.95である。
【0044】
本発明の固体触媒における担体の割合は、触媒成分100重量部に対して、例えば50~2000重量部、好ましくは80~900重量部、より好ましくは100~800重量部、さらに好ましくは120~700重量部である。
【0045】
また、担体の含有量は、固体触媒(100重量%)に対して、例えば30~99重量%、好ましくは40~97重量%、より好ましくは50~95重量%である。
【0046】
(バインダー)
本発明の固体触媒では、必要に応じてバインダー(結合剤;結着剤)を用いてもよい。バインダーとしては、アルミナ、シリカ、チタニア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも1つの無機粒子が好ましい。これらのバインダーは、乾燥や焼成などにより、触媒成分どうし、または触媒成分と担体を結着する作用をする。この作用により、反応時間経過による触媒の劣化を抑制することができ、カルボン酸類の転化率を高くすることができ、アルデヒド類の収率の低下が抑制できる。
【0047】
バインダーとして上記無機粒子を用いる場合の無機粒子の含有量(複数含む場合はこれらの合計含有量)は、固体触媒(100重量%)に対して、例えば0.01~20重量%、好ましくは0.05~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.15~1重量%である。上記無機粒子の含有量が上記範囲であると、触媒成分と担体を強固に結びつけ、反応時間経過による触媒の劣化を抑制しやすい。
【0048】
バインダーとして上記無機粒子を用いる場合の無機粒子の含有量は、触媒成分全量100重量部に対して、例えば0.1~50重量部、好ましくは0.5~40重量部、より好ましくは1~30重量部、さらに好ましくは3~20重量部である。また、バインダーにおける上記無機粒子の含有量は、担体100重量部に対して、例えば0.1~50重量部、好ましくは0.3~40重量部、より好ましくは1~30重量部、さらに好ましくは2~20重量部である。
【0049】
バインダーにおける上記無機粒子の粒径(直径)は、例えば1~500nm、好ましくは3~300nm、より好ましくは5~100nmである。また、無機粒子の平均粒径(直径)は、例えば2~300nm、好ましくは3~200nm、より好ましくは5~100nmである。無機粒子の粒径が上記範囲であると、触媒成分と担体を結びつけ、反応時間経過による触媒の劣化を抑制しやすい。
【0050】
バインダーとしては無機粒子を含有する市販の分散液(ゾル)を用いることができる。無機粒子としてアルミナを含む分散液としては、品名「AS-200」、「AS-520-A」(以上、日産化学工業株式会社製)等を用いることができる。無機粒子としてシリカを含む分散液としては、スノーテックス(登録商標)、品名「ST-NXS」、「ST-NS」、「ST-N」、「ST-N-40」(以上、日産化学工業株式会社製)等を用いることができる。また、無機粒子としてジルコニアを含む分散液としては、ナノユース(登録商標)ZR、品名「ZR-30AL」、「ZR-20AS」、「ZR-30AH」(以上、日産化学工業株式会社製)等を用いることができる。また、無機粒子としてチタニアを含む分散液としては、品名「CSB」(堺化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0051】
バインダーにおける無機粒子としては、上記無機粒子(アルミナ、シリカ、チタニア、及びジルコニア粒子)以外に、その他の無機粒子を含有してもよい。その他の無機粒子としては、金粒子、銀粒子、銅粒子、ニッケル粒子、酸化ニッケル粒子、鉄粒子、酸化鉄粒子、タングステン粒子、マグネシウム粒子、酸化マグネシウム粒子、亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子、コバルト粒子、及びこれらの合金の粒子などが挙げられる。
【0052】
バインダーとして上記無機粒子を用いる場合の無機粒子の含有量(複数含む場合はこれらの合計含有量)は、バインダーとして含まれる全ての無機粒子(100重量%)に対して、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。また、その他の無機粒子の含有量(複数含む場合はこれらの合計含有量)は、バインダーとして含まれる全ての無機粒子(100重量%)に対して、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0053】
(触媒の製造方法)
本発明の固体触媒は、例えば、(1)触媒成分又はその前駆体と溶媒の溶液を調製する工程、(2)バインダーと溶媒のゾルを(1)で調製した溶液に加え、混合液を調製する工程、(3)(2)で調製した混合液を担体に含浸する工程、(4)(3)で含浸させた触媒を蒸発乾固、及び乾燥する工程、及び(5)(4)で乾燥させた触媒を焼成する工程を含む方法により製造することができる。必要に応じて、(3)で用いる担体を、焼成して酸化したり、破砕や整粒したりする工程を含んでもよい。
【0054】
(1)触媒成分又はその前駆体と溶媒の溶液を調製する工程では、例えば、白金族金属及び鉄等の触媒成分に溶媒を加えて、撹拌することにより溶液を調製する。白金族金属の配合量は、触媒成分全量(100重量%)に対して、例えば0.5~40重量%であり、好ましくは1~38重量%であり、より好ましくは2~35重量%であり、さらに好ましくは3~30重量%である。また、鉄の配合量は、触媒成分全量(100重量%)に対して、例えば、30~99.5重量%であり、好ましくは40~99重量%である。
【0055】
溶媒としては、例えば、水、アルコール、トルエンが挙げられるが、中でも水が好ましい。溶媒の使用量は、加えた触媒成分を分散又は溶解できる分量であれば特に制限されないが、使用する触媒成分全量100重量部に対して、例えば100~5000重量部、好ましくは300~1000重量部である。また、パラジウム等の白金族の塩は、鉄、その他の卑金属塩と比較して容易に析出し易いため、溶液にクエン酸、EDTA等のキレート剤を共存させることも、触媒活性向上に有効である。キレート剤の配合量は、溶媒100重量部に対し、例えば10~1000重量部である。
【0056】
(2)バインダーと溶媒のゾルを(1)で調製した溶液に加え、混合液を調製する工程では、アルミナ、シリカ、チタニア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも1つの無機粒子に溶媒を加えたゾルを、(1)で調製した溶液に加え、均一に混合することにより混合液を調製する。使用する溶媒および溶媒の使用量は、上記(1)と同様である。
【0057】
バインダーとして無機粒子を用いる場合の無機粒子の配合量は、加えた触媒成分全量100重量部に対して、例えば0.1~50重量部、好ましくは1~40重量部、より好ましくは3~30重量部、さらに好ましくは8~20重量部である。
【0058】
(3)(2)で調製した混合液を担体に含浸する工程は、例えば、担体に混合液を滴下したり、混合液に担体を加えることにより行う。担体に混合液が均一に含浸するように適宜撹拌等をしてもよい。担体に混合液を滴下する際、触媒成分又はその前駆体に含まれる溶媒を蒸発させるために適宜、担体を加熱してもよい。その際の加熱温度は、例えば50~100℃である。
【0059】
含浸させる担体は、焼成などにより酸化させておいてもよい。焼成の条件としては、例えば、空気など酸素を含む気体を流通させながら、300~800℃の温度で1~20時間行う。また、下記の破砕や整粒後に焼成を行ってもよい。
【0060】
含浸させる担体は、触媒として適切な大きさとするために予めを破砕や整粒をしておいてもよく、担体の破砕は、例えば、セラミックカッターでおおよそ所定の大きさになるように切ることができる。また、整粒は、例えば、篩(ふるい)を用いて行うことができる。整粒後の担体は、球状である場合、平均直径が、例えば0.1~10mm程度、好ましくは0.3~8mmである。担体の配合量は、使用する触媒成分全量100重量部に対して、例えば50~5000重量部、好ましくは200~2000重量部である。
【0061】
(4)における蒸発乾固は、例えば50~150℃の温度で3~48時間行う。(4)における乾燥は、例えば50~300℃の温度で1~48時間行う。また、(5)における焼成は、例えば200~600℃の温度で1~24時間行う。これらの蒸発乾固、乾燥及び焼成は、一般的な電気炉などを用いて空気雰囲気下で行うことができる。なお、(3)の蒸発乾固と乾燥は、分けずに一度に行ってもよい。また、乾燥は、減圧下で行ってもよい。
【0062】
[アルデヒド類の製造方法]
本発明のアルデヒド類の製造方法は、本発明の固体触媒の存在下、気相中でカルボン酸類を原料として、水素化によりアルデヒド類を製造する方法である。本発明のアルデヒド類の製造方法では、水素化は、水素(H2)ガスを用いることが好ましい。
【0063】
カルボン酸類とは、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基を有する有機酸である。カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、安息香酸が挙げられる。
【0064】
アルデヒド類とは、分子内に少なくとも1つのホルミル基を有する炭化水素化合物である。アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、アクロレイン、ベンズアルデヒドが挙げられる。なお、本発明のアルデヒド類の製造方法では、原料であるカルボン酸類に対応したアルデヒド類が得られる。
【0065】
本発明のアルデヒド類の製造方法では、カルボン酸類が酢酸であり、アルデヒド類がアセトアルデヒドであることが好ましい。
【0066】
図1は、本発明のアルデヒド類の製造方法の一例を示す概略フロー図である。図1に示す例では、水素ガスは水素設備Pからライン1により供給され、コンプレッサーI-1で加圧され、バッファータンクJ-1を経て、ライン2の循環ガスと合流して、ライン3により蒸発器A(カルボン酸類蒸発器)に仕込まれる。蒸発器Aには、カルボン酸類タンクK-1からポンプN-1を用いてライン4よりカルボン酸類が供給され、気化したカルボン酸類が水素ガスと共に熱交換器(加熱器)L-1、L-2で加熱され、ライン5より本発明の固体触媒を充填した反応器Bに仕込まれる。蒸発器Aには循環ポンプN-2が備えられている。反応器Bでカルボン酸類は水素化され、主生成物のアルデヒド類のほか、エタノール等のアルコール類、非凝縮性のメタン、エタン、エチレン、二酸化炭素、凝縮性のアセトン等のケトン類、水などが生成する。また、他にプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2以上の炭化水素が生成する。
【0067】
カルボン酸類の水素化は、公知の方法で行うことができる。例えば、カルボン酸類を本発明の固体触媒の存在下で水素と反応させる。本発明の固体触媒は、カルボン酸類の水素化に用いる前に、予め、水素と接触させることにより還元処理を施すことが好ましい。還元処理は、例えば50~500℃、0.1~5MPaの条件下、水素(H2)ガスを30~300ml/min流通させることにより行われる。
【0068】
実線速は、例えば10~20000mm/s、好ましくは50~10000mm/s、より好ましくは200~3000mm/sである。実線速が上記範囲であると、カルボン酸類の水素化においてアルデヒド類の選択率を向上させることができる。なお、実線速とは、実際の反応系における線速度のことであり、反応圧力と反応温度による体積補正を行った体積流量を反応管の断面積で割った値である。
【0069】
反応器での反応温度は、例えば250~400℃、好ましくは270~350℃である。反応温度が高すぎるとアセトン等のケトン類の副生が増大し、アルデヒド類等の選択率が低下しやすくなる。反応器での反応圧力は、常圧、減圧、加圧下のいずれであってもよいが、例えば0~10MPa、好ましくは0.1~3MPaの範囲である。反応器での接触時間は、例えば0.1~1sec、好ましくは0.1~0.5secである。
【0070】
反応器への水素とカルボン酸類の供給比(モル比)は、例えば、水素/カルボン酸類=0.5~50、好ましくは水素/カルボン酸類=2~25である。
【0071】
反応器におけるカルボン酸類の転化率は80%以下(例えば5~80%)であることが望ましい。カルボン酸類の転化率が80%を超えると、副生物(酢酸エチル等)が生成しやすくなり、アルデヒド類の選択率が低下する。したがって、反応器における滞留時間、水素の流通速度を、カルボン酸類の転化率が80%以下となるように調整することが望ましい。
【0072】
カルボン酸類と水素との反応により、前述したように、主に、未転化のカルボン酸類、未転化の水素、反応で生成したアルデヒド類、アルコール類、水、及びその他の生成物(酢酸エチル等のカルボン酸類、アセトン等のケトン類)からなるガス状反応生成物が得られる。
【0073】
ガス状反応生成物から非凝縮性ガスと凝縮性成分とを分離し、該凝縮性成分を反応液とすることができる。ガス状反応生成物から非凝縮性ガスと凝縮性成分とを分離する方法としては、例えば、カルボン酸類を水素化した反応流体を吸収塔に仕込み、該反応流体中の凝縮成分を吸収液で吸収することにより、凝縮性成分と非凝縮性のガスとを分離できる(吸収工程)。前記の副生する炭素数2以上の炭化水素の少なくとも一部は、吸収液で吸収される。本発明のアルデヒド類の製造方法においては、このような吸収液に吸収された凝縮性成分(凝縮性成分と吸収液の混合物)も「反応液」に含める。なお、吸収工程では、非凝縮性ガスの一部が吸収液に溶解するが、吸収塔の缶出液の圧力を減じることにより、吸収液に溶解した非凝縮性ガスを放散させ、該非凝縮性ガス放散後の液を吸収塔にリサイクルする工程(放散工程)を設けることにより、水素と他の非凝縮性ガス成分とを効率よく分離できる。
【0074】
吸収工程では、例えば、カルボン酸類を水素化した反応流体を吸収塔に仕込み、該反応流体中の凝縮成分を吸収液で吸収するとともに、非凝縮性ガスを吸収液に溶解する。この吸収工程は、通常、反応工程で得られた反応流体と吸収液とを吸収塔に供給し、吸収塔内で両者を接触させることにより行われる。吸収塔としては、特に限定されず、公知乃至周知のガス吸収装置、例えば、充填塔、棚段塔、スプレー塔、濡れ壁塔を使用できる。
【0075】
また、放散工程では、吸収塔の缶出液の圧力を減じて吸収液に溶解した非凝縮性ガスを放散し、該非凝縮性ガス放散後の液を吸収塔にリサイクルする。この放散工程は、通常、吸収工程で得られた吸収塔の缶出液(凝縮成分および非凝縮性ガスを吸収、溶解した後の吸収液)を圧力を減じた放散塔に供給し、非凝縮性ガスを放散することにより行われる。放散塔としては、特に限定されず、公知乃至周知のガス放散装置、例えば、充填塔、棚段塔、スプレー塔、濡れ壁塔、気液分離器を使用できる。
【0076】
図1に示す例では、反応器Bから流出した反応流体はライン6により熱交換器L-1を経た後、熱交換器(冷却器)M-1、M-2で冷却され、ライン7より吸収塔Cの下方部に仕込まれる。吸収塔Cには、吸収液として、ライン9より後述する放散塔Dの缶出液(以後、「循環液」と称する場合がある)が仕込まれる。循環液は主に非凝縮性ガスである水素、メタン、エタン、エチレン、二酸化炭素を吸収、溶解する。また、循環液以外の吸収液(以後、「吸収塔補給液」と称する場合がある)として、ライン11より共沸溶剤(水と共沸する溶剤)を多く含む留出上相液を吸収液として仕込んでもよい。吸収塔補給液は非凝縮性ガスとともに低沸点の凝縮性成分であるアルデヒド類を吸収する。なお、留出上相液は、ライン15を通り冷却器M-3を経てライン11に供給される。放散塔Dの缶出液(ライン9)(循環液)及び留出上相液(ライン11)(吸収塔補給液)の吸収塔Cへの仕込位置は、アルデヒド類および非凝縮性ガスの吸収効率等を考慮して適宜選択できるが、循環液は吸収塔Cの中段部へ、吸収塔補給液は吸収塔Cの上方部へ仕込むのが好ましい。
【0077】
吸収塔Cの缶出液は、反応液タンクK-2に供されるライン14と放散塔Dに仕込まれるライン8に分かれる。ライン14の缶出液は、反応液として反応液タンクK-2に貯留される。必要に応じてこの貯留された反応液を、精製工程に供してもよい。ライン8は放散塔Dで減圧され、ライン10より吸収液に溶解した非凝縮性ガスである水素、メタン、エタン、エチレン、二酸化炭素が放散され、該非凝縮性ガス放散後の液はライン9より吸収塔Cにリサイクルされる。Q-2はベントである。
【0078】
吸収塔Cに仕込まれる吸収液としては、吸収塔Cの缶出液(循環液)のみでもよいが、アルデヒド類が沸点20℃と低いアセトアルデヒドである場合は、アセトアルデヒドの回収率を向上させるため、アセトアルデヒドを含まない吸収液が好ましい。例えば、吸収液としては、未反応のカルボン酸類と副生した水とを共沸蒸留により分離する際に使用する共沸溶剤含有液のほか、吸収塔Cの缶出液からアルデヒド類を分離した後の液等の酢酸水溶液が好ましい。
【0079】
吸収液として前記共沸溶剤含有液を用いる場合、共沸溶剤含有液中の共沸溶剤含有量は、例えば10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上である。
【0080】
共沸溶剤は、水と共沸混合物を形成して沸点を下げ、かつ、水と分液することでカルボン酸類と水の分離を容易にする。共沸溶剤の例は、エステルとしては、ギ酸イソプロピル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソアミル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸イソプロピル、などが、ケトンとしては、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトンなどが、脂肪族炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどが、脂環式炭化水素としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどが、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0081】
これらの中でも、酢酸エチルは、カルボン酸類の水素化の副生成物として存在しやすいため、共沸溶剤の回収工程を省略することができるので、共沸溶剤として好ましい。
また、酢酸プロピル(沸点102℃)、酢酸イソブチル(沸点117℃)、酢酸sec-ブチル(沸点112℃)、プロピオン酸イソプロピル(沸点110℃)、酪酸メチル(沸点102℃)、イソ酪酸エチル(沸点110℃)など、常圧における沸点が100℃から118℃のエステルは、水との共沸混合物の水の比率が高く、かつ、酢酸より沸点が低いため、カルボン酸類と水の分離をより容易にする。また、これらのエステルは、エタノールとも共沸しないか、または、エタノールとの共沸混合物のエタノールの比率が低く、共沸溶剤の分離・回収が比較的容易である。したがって、常圧における沸点が100℃から118℃のエステルも共沸溶剤として好ましい。
【0082】
また、非凝縮性ガスとして存在しやすいメタンは、極性の高い酢酸水溶液よりも極性の低い共沸溶剤によく溶解するため、共沸溶剤は、非凝縮性ガスの吸収液に適している。
【0083】
吸収塔Cに供給される前記吸収塔補給液(ライン11)の供給量と反応流体(ライン7)の供給量との比(重量比)は、例えば前者/後者=0.1~10、好ましくは前者/後者=0.3~2である。また、吸収塔Cに供給される循環液(ライン9)の量と反応流体(ライン7)の供給量との比(重量比)は、例えば前者/後者=0.05~20、好ましくは前者/後者=0.1~10である。
【0084】
吸収塔Cの段数(理論段数)は、例えば1~20、好ましくは3~10である。また、吸収塔Cにおける温度は、例えば0~70℃であり、吸収塔Cにおける圧力は、例えば0.1~5MPa(絶対圧)である。
【0085】
放散塔Dにおける温度は、例えば0~70℃である。放散塔Dにおける圧力は、吸収塔Cの圧力より低ければよく、例えば0.05~4.9MPa(絶対圧)である。吸収塔Cの圧力と放散塔Dの圧力との差(前者-後者)は、非凝縮性ガスの放散効率やアルデヒド類のロス抑制の観点から適宜選択できるが、例えば0.05~4.9MPa、好ましくは0.5~2MPaである。
【0086】
本発明のアルデヒド類の製造方法におけるアルデヒド類の選択率は、反応条件によっても異なるが、例えば30~90%、好ましくは40~90%である。なお、アルデヒド類の選択率や収率は、反応液をガスクロマトグラフィー等で分析することにより求めることができる。
【0087】
本発明のアルデヒド類の製造方法により得られる、アルデヒド類の純度は、例えば90.0重量%以上、好ましくは95.0重量%以上、さらに好ましくは98.0重量%以上である。なお、得られたアルデヒド類は、必要に応じてさらに蒸留などにより精製し、さらに純度を高めることもできる。
【0088】
本発明のアルデヒド類の製造方法は、本発明の固体触媒を用いているため、形成される炭素数2以上の炭化水素の副生が抑制される効果を有する。炭素数2以上の炭化水素の選択率は、例えば15%以下、好ましくは10%以下である。また、反応条件を上記のように調整することで、アルデヒド類を選択的に生成できるため、別の副反応で生成するアセトン等のケトン類や二酸化炭素、一酸化炭素、メタンなどのガスの発生も抑制できる。アセトン等のケトン類の選択率は、例えば10%以下、好ましくは5%以下である。二酸化炭素、一酸化炭素、メタンなどのガスの選択率は、例えば10%以下、好ましくは5%以下である。
【実施例
【0089】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下の実施例1、2及び比較例1の方法で固体触媒を作製し、反応性の評価を行った。
【0090】
[実施例1]
まず、Pd(NO32水溶液(株式会社フルヤ金属社製、Pd換算4.5重量%)11.285gにFe(NO33・9H2O(関東化学株式会社製、製品No.16026-00)6.693g、及び無水クエン酸(和光純薬株式会社製、商品コード030-05525)4.813gを加え溶解液とした。そして、当該溶解液に、アルミナバインダー(日産化学工業株式会社製、品名「AS-200」、Al2310.3重量%含有)0.715gを水10mLに分散させた溶液(ゾル)を加え、均一な混合液とした。次に、担体であるスポンジ状金属(Ni-Cr合金)(住友電気工業株式会社製、平均細孔径0.8mm、外径2.5mm×2.5mm×2.2mm)3.666gをAir流通下、600℃で5時間焼成することでスポンジ状酸化金属を得た。得られたスポンジ状酸化金属をナスフラスコに移し、上記の混合液を加え、一定時間放置後、篩の上に取り出した。余分な溶液を取り除いた後、得られた触媒粒を120℃で12時間乾燥させた後、400℃で5時間焼成した。この操作を2回繰り返すことで担持触媒を得た。得られた担持触媒は、Pd換算、Fe23換算で触媒成分として、Pd/Fe23重量比=40/100であり、触媒成分(Pd/Fe23として)/担体=75/100(仕込量)、アルミナバインダー/触媒成分(Pd/Fe23として)重量比=2/100(仕込量)であった。
【0091】
[実施例2]
まず、Pd(NO32水溶液(株式会社フルヤ金属社製、Pd換算4.5重量%)11.285gにFe(NO33・9H2O(関東化学株式会社製、製品No.16026-00)6.693g、及び無水クエン酸(和光純薬株式会社製、商品コード030-05525)4.813gを加え溶解液とした。そして、当該溶解液に、アルミナバインダー(日産化学工業株式会社製、品名「AS-200」、Al2310.3重量%含有)0.715gを水10mLに分散させた溶液(ゾル)を加え、均一な混合液とした。次に、担体であるスポンジ状金属(Ni-Cr合金)(住友電気工業株式会社製、平均細孔径0.8mm、外径2.5mm×2.5mm×2.2mm)3.666gをAir流通下、600℃で5時間焼成することでスポンジ状酸化金属を得た。得られたスポンジ状酸化金属をナスフラスコに移し、上記の混合液を加え、一定時間放置後、篩の上に取り出した。余分な溶液を取り除いた後、得られた触媒粒を120℃で12時間乾燥させた後、400℃で5時間焼成した。この操作を2回繰り返すことで担持触媒を得た。さらに、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物(和光純薬株式会社製、商品コード018-06901)0.037gをナスフラスコに入れ、水10mLに溶解し、そこに上記の担持触媒を加え、温水バス30-80℃で温めながら、溶媒を減圧留去し、触媒粒を得た。得られた触媒粒を120℃で12時間乾燥させた後、300℃で5時間焼成し、モリブデン添加担持触媒を得た。得られたモリブデン添加担持触媒は、Pd換算、Mo換算、Fe23換算で触媒成分として、Pd/Fe23重量比=40/100であり、触媒成分(Pd/Fe23として)/担体=75/100(仕込量)、アルミナバインダー/触媒成分(Pd/Fe23として)重量比=2/100(仕込量)、Mo/Fe23重量比=14/100であった。
【0092】
[比較例1]
まず、Pd(NO32水溶液(株式会社フルヤ金属社製、Pd換算4.5重量%)11.285gにFe(NO33・9H2O(関東化学株式会社製、製品No.16026-00)6.693g、及び無水クエン酸(和光純薬株式会社製、商品コード030-05525)4.813gを加え溶解液とした。そして、当該溶解液に、アルミナバインダー(日産化学工業株式会社製、品名「AS-200」、Al2310.3重量%含有)0.715gを水10mLに分散させた溶液(ゾル)を加え、均一な混合液とした。次に、担体であるスポンジ状金属(Ni-Cr合金)(住友電気工業株式会社製、平均細孔径0.8mm、外径2.5mm×2.5mm×2.2mm)3.666gをナスフラスコに移し、上記の混合液を加え、一定時間放置後、篩の上に取り出した。余分な溶液を取り除いた後、得られた触媒粒を120℃で12時間乾燥させた後、400℃で5時間焼成した。この操作を2回繰り返すことで担持触媒を得た。得られた担持触媒は、Pd換算、Fe23換算で触媒成分として、Pd/Fe23重量比=40/100であり、触媒成分(Pd/Fe23として)/担体=75/100(仕込量)、アルミナ/触媒成分(Pd/Fe23として)重量比=2/100(仕込量)であった。
【0093】
(触媒の反応性の評価)
実施例1、2及び比較例1で得られた担持触媒を用い、下記アセトアルデヒドの製造方法で酢酸を原料とし、気相中で水素化することによりアセトアルデヒドを製造した。なお、触媒の反応性の評価は、酢酸を気化し、水素ガスとともに気体として反応器に供給可能であり、触媒を取り付けることができ、加熱可能な反応管を有する反応系を用いて行った。なお、表1においてC2とは、エタン、エチレンなどの炭素数2の化合物の選択率の合計である。表1においてC3とは、プロパン、プロピレンなどの炭素数3の化合物の選択率の合計である。表1においてEtcとは、その他の微量副生物の選択率の合計である。以下の表1は、反応開始から24時間経過した後の評価である。また、以下の表2は、実施例1、2及び比較例1について、反応開始から所定の時間経過した後の評価である。図2は、実施例1、2及び比較例1について、反応開始から所定の時間経過した後におけるアセトアルデヒド収率を表すグラフである(図2の縦軸はアセトアルデヒド収率、横軸は反応時間)。図3は、実施例1、2及び比較例1について、反応開始から所定の時間経過した後における酢酸転化率を表すグラフである(図3の縦軸は酢酸転化率、横軸は反応時間)。なお、図3における実施例1、2及び比較例1についての直線は、一次近似曲線を示すものである。
【0094】
(アセトアルデヒドの製造方法)
担持触媒を固定床式気相連続流通反応装置(反応器)に接続した12mmφのSUS製反応管に充填し、100mL/minの水素ガス流通下で電気炉により触媒層温度が300℃になるように1時間加熱して前処理を行った。
上記の前処理を行った後、接触時間が0.25sec、水素/酢酸仕込みモル比(H2/AC)が14.0となるように、水素ガス(672mL/min)と酢酸液(0.124cc/min)を反応器に流通させて反応させた。反応器出口ガスはクーラーにて冷却して気液分離し、凝縮液を捕集した。凝縮しないガス中のアセトアルデヒド等の低沸点成分は300ccの水中にバブリングすることで捕集し、さらに捕集されないガス成分は気体状態で捕集した。反応中は、触媒層温度が330℃、反応圧力が0.4MPaになるように電気炉、背圧弁を調整した。反応開始から所定の時間経過した後に、反応管を通過した気体を反応管の出口に設けたコンデンサーから凝縮液及び非凝縮成分からなるオフガスに分け、各々をガスクロマトグラフィーにて分析した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
表1に示す通り、実施例1、2では、カルボン酸類から気相中でアルデヒド類を製造する際のアルデヒド類への収率が比較例1と比較して、明らかに向上している。また、図2に示す通り、実施例1、2では反応時間に対するアセトアルデヒド収率の低下を抑制できていることが分かる。また、図3に示す通り実施例1、2では、比較例1と比較して酢酸転化率の低下も著しく抑制できていることが分かる。このことからスポンジ状酸化金属をAir(空気雰囲気下)で焼成することで、触媒の反応性低下を抑制することができることが分かった。また、モリブデンを添加することで反応性低下抑制効果がより向上することが分かった。
【符号の説明】
【0098】
A 蒸発器
B 反応器
C 吸収塔
D 放散塔
I-1~I-2 コンプレッサー
J-1~J-3 バッファータンク
K-1 カルボン酸類タンク
K-2 反応液タンク
L-1~L-2 加熱器
M-1~M-4 冷却器(クーラー)
N-1~N-3 ポンプ(送液ポンプ)
P 水素設備(水素ボンベ)
Q-1~Q-2 ベント
1~15 ライン
図1
図2
図3