(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1058 20160101AFI20220704BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1027 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/103 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1032 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1034 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1041 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20220704BHJP
H01M 8/1081 20160101ALI20220704BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220704BHJP
B32B 37/14 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
H01M8/1058
H01M8/10 101
H01M8/1023
H01M8/1025
H01M8/1027
H01M8/103
H01M8/1032
H01M8/1034
H01M8/1039
H01M8/1041
H01M8/106
H01M8/1081
B32B5/28 Z
B32B37/14 Z
(21)【出願番号】P 2018127081
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0039278
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン、ミン
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/028426(WO,A1)
【文献】特開2015-076201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
B32B 5/28
B32B 37/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を準備する段階と、
上記基材上に第1アイオノマー(ionomer)溶液を塗布する段階と、
上記第1アイオノマー溶液上に多孔性支持体を投入して上記第1アイオノマー溶液を上記多孔性支持体に含浸させる
ために放置する段階と、
上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布する段階と、
第2アイオノマー溶液を塗布した多孔性支持体および基材を乾燥させる段階と、
を含む、燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法
であって、
上記第1アイオノマー溶液上に上記多孔性支持体を投入した後、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布する前に、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を5分~10分間放置する、方法。
【請求項2】
上記基材がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)及びポリプロピレン(PP)から選ばれるいずれか一つである離型紙であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
第1アイオノマー溶液がスルホン化ポリイミド(sulfonated polyimide:S-PI)、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン(sulfonated
polyarylethersulfone:S-PAES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone:S-PEEK)、ペルフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid:PFSA)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S-PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S-PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S-PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)及びそれらの混合物からなる群から選ばれるアイオノマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項4】
第2アイオノマー溶液がスルホン化ポリイミド(sulfonated polyimide:S-PI)、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン(sulfonated
polyarylethersulfone:S-PAES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone:S-PEEK)、ペルフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid:PFSA)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S-PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S-PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S-PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)及びそれらの混合物からなる群から選ばれるアイオノマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項5】
上記多孔性支持体が、膨脹したポリテトラフルオロエチレン(e-PTFE)支持体であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項6】
上記第1アイオノマー溶液がバーコーティング、グラビアコーティング又はスロットダイコーティング方法によって塗布されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項7】
上記第2アイオノマー溶液がバーコーティング、グラビアコーティング又はスロットダイコーティング方法によって塗布されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項8】
上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を18℃~30℃で放置することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項9】
上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を0.1気圧(atm)~1気圧(atm)で放置することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項10】
上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置した後、別の乾燥工程無しで上記多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項11】
上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置するが、上記第1アイオノマー溶液の溶媒が完全に乾燥する前に、上記多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項12】
上記乾燥させる段階を60℃~80℃で5分~30分間行うことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【請求項13】
上記
の多孔性支持体および基材を乾燥させる段階後に140℃~160℃で5分~30分間熱処理する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐久性に優れた燃料電池用の高分子電解質膜の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell;以下、“PEMFC”という。)において電解質膜は、水素イオンを伝導する役割を担うものであり、水素イオンを伝達させるためにアイオノマーを用いて製造する。アイオノマーは水を含湿し、アノードから生成された水素イオンを選択的にカソードに移動させる。
【0003】
電解質膜はアイオノマーからなっているため、水分の含湿性質によって大きく収縮膨脹する。これを補完するために、多孔性ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene;以下、“PTFE”という。)を支持体とし、アイオノマーを含浸させて電解質膜を製造する。多孔性PTFEは、通常、PTFEを延伸して作ったExpanded PTFEを使用し、略してe-PTFEともいう。
【0004】
水素イオンが移動できるチャネルを形成するためには、e-PTFEの気孔をアイオノマーで完全に含浸させる必要がある。しかし、e-PTFEの小さい気孔は、内部圧力が非常に高いため埋め難い。埋め切れなった気孔はチャネルを形成できず、燃料電池の性能及び耐久性に否定的な影響を及ぼす。
【0005】
韓国登録特許第10-1808283号の“燃料電池用の複合電解質膜及びその製造方法”によれば、多孔性支持体に第1電解質溶液を含浸させた後、乾燥段階を経て乾燥した多孔性支持体上に第2電解質溶液を含浸させる製造方法が開示されているが、この場合、多孔性支持体の内部に含浸させて乾いた第1電解質溶液及び第2電解質溶液の間に空間ができて気泡が発生し、そのため、ホットスポットの発生、耐久寿命の短縮、及び性能の低下という問題があった。
【0006】
そこで、気泡の発生がないため、耐久性に優れ、性能が低下しない電解質膜を製造できる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
[特許文献1]韓国登録特許第10-1808283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電解質製膜の従来技術では、e-PTFE多孔性支持体にアイオノマー溶液が含浸した状態で常温以上の温度で乾かすと表面張力が低くなって毛細管の高さが低くなり、その状態でアイオノマーが固まる。多孔を完全に埋めない状態で1次乾燥が完了し、次にアイオノマー2次塗布をすると、埋め切れなかったe-PTFE微細気孔によって気泡が発生してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、乾燥温度と毛細管現象との関係を利用して、従来の発明で提供できなかったe-PTFE微細気孔による気泡の発生を抑制できる製造方法を提示しようとする。
【0010】
本発明の目的は、上述した目的に制限されず、以下の説明からより明らかになり、特許請求の範囲に記載する手段及びその組合せから実現されるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、燃料電池用の高分子電解質膜の製造方法において、基材を準備する段階と、上記基材上に第1アイオノマー(ionomer)溶液を塗布する段階と、上記第1アイオノマー溶液上に多孔性支持体を投入して上記第1アイオノマー溶液を上記多孔性支持体に含浸させる段階と、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置する段階と、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布する段階と、乾燥させる段階と、を含む燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の他の好適な実施例によれば、上記基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)及びポリプロピレン(PP)の中から選ばれるいずれか一つの離型紙であってもよい。
【0013】
本発明の他の好適な実施例によれば、第1アイオノマー溶液及び第2アイオノマー溶液がそれぞれ、スルホン化ポリイミド(sulfonated polyimide:S-PI)、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン(sulfonated polyarylethersulfone:S-PAES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone:S-PEEK)、ペルフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid:PFSA)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S-PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S-PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S-PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)及びそれらの混合物からなる群から選ばれるアイオノマーを含むことを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記多孔性支持体が膨脹したポリテトラフルオロエチレン(e-PTFE)支持体であることを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0015】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記第1及び第2アイオノマー溶液をバーコーティング、グラビアコーティング又はスロットダイコーティング方法によって塗布することを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0016】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を18℃~30℃で放置することを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を0.1気圧(atm)~1気圧(atm)で放置することを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を5分~10分間放置することを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置した後、別の乾燥工程無しで上記多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布することを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置するが、上記第1アイオノマー溶液の溶媒が完全に乾燥する前に、上記多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布することを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記乾燥させる段階を60℃~80℃で5分~30分間行うことを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の更に他の好適な実施例によれば、上記乾燥させる段階後に140℃~160℃で5分~30分間熱処理する段階をさらに含むことを特徴とする燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、気泡の発生を抑えた電解質膜を提供することによって、電池の性能及び耐久性を改善した他、MEA製造時に不良率を低減した。また、工程を簡素化して工程速度を改善し、生産性を向上させることができた。
【0024】
本発明の効果は以上に言及した効果に限定されない。本発明の効果は以下の説明から推論可能な全ての効果を含むものと理解されるべきであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本願発明の電解質膜を製造する工程段階を示す図である。
【
図2】本願発明の電解質膜をロール・ツー・ロール(roll-to-roll)に基づいて連続製造する工程を示す図である。
【
図3】従来の技術を適用した比較例の電解質膜の製造方法によって製造された電解質膜の表面状態を示す図である。
【
図4】比較例の電解質膜の製造方法によって製造された電解質膜の断面を撮影したSEMイメージである。
【
図5】本願発明の技術を適用した実施例の電解質膜の製造方法によって製造された電解質膜の表面状態を示す図である。
【
図6】実施例の電解質膜の製造方法によって製造された電解質膜の断面を撮影したSEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以上の本発明の目的、別の目的、特徴及び利点は、添付の図面に関連した以下の好適な実施例から容易に理解されるはずである。しかし、本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態として具体化することもできる。むしろ、ここで紹介される実施例は、開示された内容が徹底且つ完全になり得るように、そして通常の技術者に本発明の思想を十分に伝達するために提供するものである。
【0027】
本明細書において、“含む”又は“有する”などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はそれらを組み合わせたものが存在することを表すためのもので、一つ又はそれ以上の別の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品又はそれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性をあらかじめ排除するためのものではないと理解すべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が別の部分の“上に”あるとする場合、それは、他の部分の“上に直接”ある場合だけでなく、それらの間に介在部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が別の部分の“下に”あるとする場合、それは、別の部分の“下に直接”ある場合だけでなく、それらの間に介在部分がある場合も含む。
【0028】
本発明は、燃料電池用の電解質膜の製造方法に関し、基材を準備する段階と、基材上に第1アイオノマー溶液を塗布する段階と、上記第1アイオノマー溶液上に多孔性支持体を投入して上記第1アイオノマー溶液を上記多孔性支持体に含浸させる段階と、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置する段階と、上記第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布する段階と、乾燥させる段階とを含む燃料電池用の高耐久性電解質膜の製造方法を提供する。
【0029】
以下、上述したような本発明の燃料電池用の電解質膜を製造するための各段階の工程を、
図1を参照して詳しく説明する。
【0030】
1)基材準備段階(S1):
【0031】
基材は、アイオノマー溶液の塗布が可能な基盤構造の役目ができるものであれば特別な制限無しでいかなる素材も使用可能である。
【0032】
本発明の一実施例として、基材として離型紙を使用することができる。上記離型紙は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)及びポリプロピレン(PP)の中から選ばれるいずれか一つであってもよい。
【0033】
2)第1アイオノマー溶液塗布段階(S2):
【0034】
供給された基材上にアイオノマー溶液を塗布する段階であり、
第1アイオノマー溶液は、スルホン化ポリイミド(sulfonated polyimide:S-PI)、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン(sulfonated polyarylethersulfone:S-PAES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone:S-PEEK)、ペルフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid:PFSA)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S-PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S-PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S-PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)及びそれらの混合物であってよい。本発明のアイオノマーは、互いに架橋結合して伝導性膜を形成した状態であってもよい。
【0035】
3)多孔性支持体を第1アイオノマーに投入する段階(S3):
【0036】
アイオノマー溶液が塗布された基材に多孔性支持体を投入する段階であり、この段階で第1アイオノマー溶液が毛細管現象によって多孔性支持体の含浸路(気孔)に含浸し始まる。
【0037】
ここで、上記多孔性支持体は膨脹したポリテトラフルオロエチレンが好ましいか、気孔によって同一の毛細管現象を起こし得るものであればそれに限定されない。
【0038】
本発明の多孔性支持体は、気孔度が50%~90%、好ましくは70%~90%であり、内部気孔の大きさが10μm以下である。上記気孔度が50%未満であれば、溶液が含浸し難いだけでなく、溶液の絶対的な含有量が低いため水素イオン伝導度が低下することがあり、90%を超えると、膜の機械的安定性が低下するという問題点がある。
【0039】
4)第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体を放置する段階(S4):
【0040】
多孔性支持体にアイオノマー溶液が十分に含浸するように放置する段階であり、乾燥のための別の措置や熱処理を行わない。
【0041】
この段階で重要な点は、第1アイオノマー溶液の温度が上昇して多孔性支持体の含浸路(気孔)に対する表面張力が低下したり、乾燥が進行して結晶化が起きたりしてはいけないことである。表面張力が低下すると毛細管現象が十分に進行せず、結晶化が起きると、後に塗布される第2アイオノマー溶液との接触力が低下し、結局としては多孔性支持体の含浸路内に気泡が発生し得る空間ができる。
【0042】
この段階で毛細管現象効果が加速化するように真空条件下で行うことが好ましい。好ましくは、0.1~1気圧(atm)条件とする。より好ましくは、0.1~0.5気圧とする。このとき、0.1気圧未満であれば、含浸率は上がるが、工程速度が低下して高コストになり、生産性が低下する。1気圧を超えると、含浸がきちんと行われなくなる。
【0043】
上記真空条件を作ることは、好ましくは、多孔性支持体の含浸路(気孔)を真空状態にして、気孔に存在する気泡を除去し、気孔中にアイオノマーを侵入/吸着させるためである。
【0044】
上記放置は、第1アイオノマー溶液の表面張力が減少して多孔性支持体に対して十分の含浸性を発揮できない状況を抑制するために、常温である18℃~30℃の温度範囲で行う。好ましくは、21℃~25℃の温度にする。ここで、30℃以上であれば、表面張力が減少して十分の含浸がなされず、乾燥が進行して第1アイオノマー溶液が結晶化し、製造された電解質膜に気泡が発生することになる。18℃以下ではアイオノマー溶液の運動性が低下し、生産性及び工程速度が低下する。
【0045】
5)第1アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体上に第2アイオノマー溶液を塗布する段階(S5):
【0046】
アイオノマーが含浸した多孔性支持体の表面(基材に向かい合っていない面)に、二次的にアイオノマー溶液を本発明のコーティング装置で塗布する段階であり、上記の第1アイオノマー塗布段階におけるアイオノマー溶液と同じ溶液を使用することができ、必要によって、添加剤を含めたり、他のイオン当量(Equivalent weight;EW)のアイオノマー溶液を使用することもできる。
【0047】
6)乾燥段階(S6):
【0048】
最終的に、基材及び多孔性支持体にコーティングされたアイオノマー溶液の残留溶媒を除去する段階であり、本発明では、熱風循環方式で乾燥を行う熱風乾燥又は赤外線乾燥(infra-red drying;IR)技法などを用いる。
このとき、乾燥は、60℃~90℃の温度で5分~30分間行う。好ましくは、60℃~80℃の温度で乾燥を行うことが良い。乾燥の温度が60℃未満であれば、多孔性支持体の内部/外部から残留溶媒が十分に除去されず、乾燥に長い時間がかかるため不経済的になり得る。また、90℃を超えると、溶媒及びアイオノマーが蒸発する過程で不純物が生成されることがある。
【0049】
乾燥後に、さらに上記基材及び多孔性支持体に熱処理段階を行うことができる。この熱処理は、140℃~160℃の温度で5分~30分間行う。
【0050】
この熱処理は、乾燥段階後にも残留する溶媒を除去するために行うことができる。
【0051】
燃料電池用の電解質膜の製造装置に関連して
図2を参照すると、本発明の電解質膜はロール・ツー・ロール(roll-to-roll)方式に基づく連続した工程によって製造されることが分かる。
【0052】
ロール・ツー・ロール方式とは、ロール1,3の形態で巻かれた基材10及び多孔性支持体12が解かれながら、設定された搬送経路(同図において矢印で表示)に沿って複数個の搬送ローラー2,4を介して送られ、搬送ローラー2の区間で合わせられて電解質膜14を形成し、リワインダーローラー5によって巻かれる方式をいう。
【0053】
ロール・ツー・ロール工程の流れは、多孔性支持体アンワインダー(unwinder)ローラー1、基材アンワインダー(unwinder)ローラー3、電解質膜リワインダー(rewinder)ローラー5によって進む。
【0054】
基材アンワインダーローラー3は、ロール状に巻かれた基材10を、所定の進行経路に沿って解いて供給するものであり、自らの駆動によって基材を解いて供給することができ、最終的に、第1及び第2アイオノマー溶液が含浸した多孔性支持体が合わせられてなる電解質膜14を巻く電解質膜リワインダーローラー5の駆動力によってその基材10を解いて供給することができる。
【0055】
多孔性支持体アンワインダーローラー1は、ロール状に巻かれた多孔性支持体12を、基材と合わせ得る進行経路に沿って解いて供給することができ、最終的に基材と合わせられて電解質膜リワインダーローラー5によって巻かれる。
【0056】
電解質膜リワインダーローラー5は、基材アンワインダーローラー3と多孔性支持体アンワインダーローラー1によって供給された高分子電解質膜を自らの駆動力によって巻いて回収する。
【0057】
上記供給された基材及び多孔性支持体はコーティング装置6,8によってアイオノマー溶液が塗布されるが、本発明で用いられるコーティング装置は、バーコータ(bar coater)、スロットダイコータ(slot-die coater)及びグラビアコータ(gravure coater)のうちの一つの方法、又は2つ以上の方法を併せて用いる。
【0058】
本発明の電解質膜が製造される全体的な工程段階を整理すると、基材のアンワインダーローラー3では基材10が、多孔性支持体のアンワインダーローラー1では多孔性支持体12が供給されて運搬し始まる。運搬される基材は、第1アイオノマーコーティング装置6によって基材の上部に第1アイオノマー溶液が塗布され、搬送ローラー2,4が位置する区間13で上記多孔性支持体と合わせられて一つの流れとして搬送される。ここで、多孔性支持体は12は、第1アイオノマー溶液が塗布された基材の面と向かい合って接する。多孔性支持体と合わせられた基材は放置区間7を経由し、この区間で第1アイオノマー溶液による毛細管現象が加速化して多孔性支持体の含浸路(気孔)への含浸が進む。第1アイオノマー溶液を十分に含浸した多孔性支持体と基材は放置区間を通過し、第2アイオノマーコーティング装置8によって多孔性支持体の上部に第2アイオノマー溶液が塗布される。正確にいうと、基材に接する多孔性支持体の他面に第2アイオノマー溶液が塗布されて本発明の電解質膜14が形成される。電解質膜14は乾燥装置9に搬送されて乾燥過程を経るが、この区域で、多孔性支持体の内部に含浸した第1アイオノマー溶液と多孔性支持体の表面に塗布された第2アイオノマー溶液の溶媒が除去され、固体状の電解質膜として完成される。最終的に乾燥装置9を通過した電解質膜は、電解質膜のリワインダーローラー5によって巻かれる。
【0059】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明に係る実施例は様々な別の形態に変形されてもよく、本発明の範囲が以下に詳述する実施例に限定されると解釈してはならない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
(実施例)
【0060】
アイオノマー溶液の製造
【0061】
過フッ素化スルホン酸(Perfluorinated Sulfonic Acid)系アイオノマーを、ノルマルプロピルアルコール(nPA:normal propyl Alcohol)及び水を主な成分とする溶媒混合体に混合してアイオノマー分散液20wt%を作り、常温条件下に攪拌器内で約1日間攪拌してアイオノマー溶液を製造した。
【0062】
電解質膜の製造
【0063】
上記のアイオノマー溶液を、バーコータ(bar-coater)を用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に1次コーティングし、10μm以下の気孔サイズを有するe-PTFE多孔性支持体と基材とがアイオノマー溶液を介在するように多孔性支持体を投入した。
【0064】
アイオノマー溶液を含浸したe-PTFE多孔性支持体及びこれを含む基材を5分間常温乾燥させた。
【0065】
上記常温乾燥後、基材と向かい合っていない多孔性支持体の他面に、上記製造されたアイオノマー溶液をバーコータを用いて2次コーティングした。
【0066】
2次コーティング処理を終えた多孔性支持体及びこれを含む基材を、電気オーブンで熱風循環方式で80℃で10分間乾燥させて高分子電解質膜を製造した。
【0067】
製造された電解質膜を160℃で30分間熱処理した。
(比較例)
【0068】
アイオノマー溶液の製造
【0069】
上記実施例で製造されたアイオノマー溶液と同じコーティング溶液を製造した。
【0070】
電解質膜の製造
【0071】
上記のアイオノマー溶液をバーコータ(bar-coater)を用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に1次コーティングし、10μm以下の気孔サイズを有するe-PTFE多孔性支持体と基材とがアイオノマー溶液を介在するように多孔性支持体を投入した。
【0072】
アイオノマー溶液を含浸したe-PTFE多孔性支持体及びこれを含む基材を電気オーブンで熱風循環方式で80℃で5分間乾燥させた。
【0073】
上記乾燥後に、基材と向かい合っていない多孔性支持体の他面に、上記製造されたアイオノマー溶液を、バーコータを用いて2次コーティングした。
【0074】
2次コーティング処理を終えた多孔性支持体及びこれを含む基材を、電気オーブンで熱風循環方式で80℃で10分間乾燥させて高分子電解質膜を製造した。
【0075】
製造された電解質膜を160℃で30分間熱処理した。
【0076】
SEM(Scanning electron microscope)分析
【0077】
実施例及び比較例で製造した電解質膜に対するSEM分析を行った。その結果は、
図3~
図6のとおりである。
【0078】
【0079】
図3は比較例によって製造された電解質膜の表面を観察したものであり、気泡が多く発生したことが分かる。
【0080】
図4は、
図3の電解質膜の断面を撮影したSEM写真であり、電解質膜の内部に空間が発生したことが分かる。
【0081】
【0082】
図5は実施例によって製造された電解質膜の表面を観察したものであり、気泡が確認されなかった。
【0083】
図6は、
図5の電解質膜の断面を撮影したSEM写真であり、電解質膜の内部に空間が発生していないことが分かる。
【符号の説明】
【0084】
1 多孔性支持体のアンワインダー(unwinder)ローラー
2 搬送ローラー1
3 基材のアンワインダー(unwinder)ローラー
4 搬送ローラー2
5 電解質膜のリワインダー(rewinder)ローラー
6 第1アイオノマー溶液コーティング装置
7 放置区間
8 第2アイオノマー溶液コーティング装置
9 乾燥装置
10 基材
11 第1アイオノマー溶液が塗布された基材
12 多孔性支持体
13 多孔性支持体と基材とが合わせられる地点
14 第2アイオノマー溶液が塗布された多孔性支持体