(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】回転陽極X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/10 20060101AFI20220704BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
H01J35/10 N
F16C33/12 Z
(21)【出願番号】P 2018145208
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 光央
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-357806(JP,A)
【文献】特開2004-171868(JP,A)
【文献】特開2002-324508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0150212(US,A1)
【文献】特開2005-078918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00-35/32
F16C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空外囲器と、
前記真空外囲器内に収納された陰極及び回転陽極構体と、を備え、
前記回転陽極構体は、固定軸と、前記固定軸の外周側に設けた回転軸と、前記固定軸と前記回転軸との間に液体金属を充填したすべり軸受と、前記陰極から放出された電子が衝突してX線を放出する陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットを前記回転軸に接続する陽極ターゲット支持部材とを有し、
前記すべり軸受は、管軸線方向に沿って設けてあり、
前記陽極ターゲット支持部材と前記回転軸とは、前記管軸線方向において前記すべり軸受からずれた位置で
連結支持部材を介して接続してあり、
前記連結支持部材は、前記陽極ターゲット支持部材に連結した第1支持部と、前記回転軸に連結した第2支持部とを有し、前記第1支持部は、前記陽極ターゲット支持部材の端面を支持する端面支持部と外周面を支持する外周面支持部とを有する回転陽極X線管。
【請求項2】
前記陽極ターゲット支持部材は、前記陽極ターゲットとの接続部と前記回転軸との接続との間の寸法が管軸線方向におけるすべり軸受けの長さの半分以上である
請求項1に記載の回転陽極X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転陽極X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
すべり軸受を有する回転陽極X線管が公知である。かかる回転陽極X線管では、固定軸と回転体(回転軸)との間にわずかな隙間を保ちながら、液体金属を封止することで、すべり軸受を構成している。
例えば、特許文献1及び2には、固定軸と回転軸との間にすべり軸受を設けてあり、回転軸には陽極ターゲットを支持する支持部材を連結した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-078918号公報
【文献】特開2013-168319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、すべり軸受を備える回転陽極X線管では、陽極ターゲットが高速で回転している為に、陽極ターゲットを支持する支持部材及び、回転軸と支持部材との連結部に種々の外力や熱が作用し、撓みや歪みが生じることがある。
このような撓みや歪みが大きくなると、回転陽極X線管の信頼性が低下するおそれがあった。
【0005】
本実施形態の目的は、信頼性の高い回転陽極X線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態は、真空外囲器と、前記真空外囲器内に収納された陰極及び回転陽極構体と、を備え、前記回転陽極構体は、固定軸と、前記固定軸の外周側に設けた回転軸と、前記固定軸と前記回転軸との間に液体金属を充填したすべり軸受と、前記陰極から放出された電子が衝突してX線を放出する陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットを前記回転軸に接続する陽極ターゲット支持部材とを有し、前記すべり軸受は、管軸線方向に沿って設けてあり、前記陽極ターゲット支持部材と前記回転軸とは、前記管軸線方向において前記すべり軸受からずれた位置で接続されている回転陽極X線管である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る回転陽極X線管の断面図である。
【
図2A】
図2Aは、一実施形態に係る回転陽極X線管装置の作用を説明する図であって、
図1に示す回転陽極構体の回転停止状態の模式図である。
【
図2B】
図2Bは、一実施形態に係る回転陽極X線管装置の作用を説明する図であって、
図1に示す回転陽極構体の回転中の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態に係る回転陽極X線管について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
図1に示すように、回転陽極X線管1は、真空外囲器3と、真空外囲器3内に収納された回転陽極構体5及び陰極6とを備えている。真空外囲器3の外側にはステータコイル7が設けてある。
【0010】
回転陽極構体5は、固定軸9と、固定軸9の外周側に設けた回転軸11と、固定軸9と回転軸11との間に設けたすべり軸受13と、陰極6から放出された電子が衝突してX線を放出する陽極ターゲット15と、陽極ターゲット15を回転軸11に連結する陽極ターゲット支持部材17と、を備えている。
すべり軸受13には潤滑剤として液体金属LMが充填されている。
【0011】
固定軸9は、円柱状に形成され、側面にすべり軸受13を構成する内周側ラジアル軸受面19が形成されている。また、固定軸9は、管軸線Y方向に軸線を一致させて設けてある。
固定軸9は、Fe(鉄)合金やMo(モリブデン)合金等の金属で形成されている。
【0012】
回転軸11は、固定軸9の外周に固定軸9と同軸的に配置してある。回転軸11は、一端側が開口した有底円筒状を成し、底部11aと側部11bとを有している。
回転軸11は、Fe合金やMo合金等の金属で形成されている。側部11bの内周面にすべり軸受13を構成する外周側ラジアル受面21が形成されている。
即ち、回転軸11の内周面に形成された外周側ラジアル受面21と、固定軸9の側面に形成された内周側ラジアル軸受面19と、これらの間に充填された液体金属LMとですべり軸受13を構成している。液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金又はGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金等の材料を利用することができる。
【0013】
陽極ターゲット15は、円環状に形成され、固定軸9及び回転軸11と同軸的に設けられている。陽極ターゲット15は、その内周側に設けた陽極ターゲット支持部材17を介して回転軸11に固定されており、陽極ターゲット15は、回転軸11と共に回転可能としてある。陽極ターゲット15は、例えばモリブデン合金のような高耐熱・高強度材で構成されている。
【0014】
陽極ターゲット支持部材17は、円筒形状を成し、一端部17aは陽極ターゲット15の内周側端部に接続してあり、他端部17bは連結支持部材23を介して回転軸11に接続されている。陽極ターゲット支持部材17は、例えばモリブデン合金のような高耐熱・高強度材で構成されている。
陽極ターゲット支持部材17は、一端部17aと他端部17bとの間の長さについて十分な長さを持ち、一端部17aに接続された陽極ターゲット15からの熱を他端部17bとの間で十分断熱し、かつ、強固に陽極ターゲット15を支持する。
【0015】
連結支持部材23は、管軸線Y方向においてすべり軸受け13からずれた位置で、陽極ターゲット支持部材17と回転軸11とを連結している。連結支持部材23は、陽極ターゲット支持部材17に連結した第1支持部23aと、回転軸11に連結した第2支持部23bとを有している。
連結支持部材23は、たとえばニッケル合金のような熱伝導が低い部材で構成されている。
第1支持部23aと第2支持部23bとの間には腕部23cが設けてあり、腕部23cにより第1支持部23aと第2支持部23bとの間に距離を設けてある。
【0016】
連結支持部材23は略円筒形状を成し、第1支持部23aは、外周部に形成した段部であり、陽極ターゲット支持部材17の端面を支持する端面支持部25と、陽極ターゲット支持部材17の外周面を支持する外周面支持部27を有する。
端面支持部25は陽極ターゲット支持部材17の端面にろう付け等により固定されており、外周面支持部27は陽極ターゲット支持部材17の外周面にろう付け等により固定されている。
第2支持部23bは連結支持部材23の内周面であり、陽極ターゲット支持部材17の他端部17bの外周面を支持している。第2支持部23bは回転軸11の外周面にろう付け等により固定されている。
【0017】
連結支持部材23の外周面には駆動ローター29が固定されている。
駆動ローター29は、ステータコイル7に対向した位置に設けてある。この駆動ローター29は筒状であり、連結支持部材23を介して回転軸11に固定されている。
駆動ローター29は、例えばCu(銅)とFe(鉄)で形成されている。
【0018】
陰極6は、陽極ターゲット15のターゲット層15aに間隔を置いて対向配置されている。陰極6は、例えば真空外囲器3の内壁に電気的に絶縁されて取付けられている。陰極6は、ターゲット層15aに照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント31を有している。
【0019】
真空外囲器3は、略円筒状に形成されており、内部は真空状態に維持されている。真空外囲器3は、ガラス若しくはセラミック若しくは金属で形成されている。また、真空外囲器3において、陽極ターゲット15のターゲット層15aに対向した位置にはX線透過窓3aが形成されている。
【0020】
ステータコイル7は、駆動ローター29の側面に対向して真空外囲器3の外側を囲むように設けられている。ステータコイル7の形状は環状である。ステータコイル7は、駆動ローター29に与える磁界を発生して回転軸11及び陽極ターゲット15を回転させる。
【0021】
回転陽極X線管1の動作状態では、ステータコイル7は駆動ローター29に与える磁界を発生し、連結支持部材23を介して回転軸11を回転する。これにより、陽極ターゲット15は回転する。また、陰極6に相対的に負の電圧が印加され、陽極ターゲット15に相対的に正の電圧が印加される。
これにより、陰極6及び陽極ターゲット15間に電位差が生じる。このため、陰極6のフィラメント31は、電子を放出すると、この電子は、加速され、ターゲット層15aに衝突する。ターゲット層15aは、電子と衝突するときにX線を放出し、放出されたX線は真空外囲器3のX線透過窓3aを透過して外部に放出される。
【0022】
一方、
図2Aに示すように、回転陽極構体5は、極めて高い精度で組み立てられるが、部品や組立精度及び熱変形等によりわずかな傾きが発生する場合がある。尚、
図2A及び
図2Bは、回転陽極構体5を模式的に示しているが、説明の為に現実よりも過大に表している。
特に、直径の大きな陽極ターゲット15を使用した場合には、固定軸9を除く回転陽極構体5、即ち、回転軸11、陽極ターゲット支持部材17、連結支持部材23及び駆動ローター29からなる回転体の慣性モーメントが非常に大きくなる。このような回転体を高速で回転(矢印R)する場合、ジャイロ力(ジャイロモーメント)が発生し、回転体が回転軸線(管軸線Y)に沿うように変形しようとする。
【0023】
これに対して、本実施の形態によれば、
図2Bに示すように、ジャイロ力が回転軸11及び陽極ターゲット支持部材17に作用した場合、ジャイロ力により、陽極ターゲット15は、回転軸線(管軸線Y)に対して傾きが補正され、回転軸11を含む上記回転体11、17、23、29全体も回転軸線(管軸線Y)に沿うように変形する力(変形力)が作用する。
一方、回転軸11と陽極ターゲット支持部材17とを連結支持部材23で接続した部分は、管軸線Y方向において、すべり軸受け13からずれた位置にあるから、管軸線Y方向における回転軸11及び陽極ターゲット支持部材17の距離を大きくとることができるので、これらの傾き補正がし易く、陽極ターゲット15の傾きが補正できる。特に、陽極ターゲット15を連結している陽極ターゲット支持部材17の一端部17aと、回転軸11とを連結している陽極ターゲット支持部材17の他端部17bとの間の距離は、すべり軸受け13の管軸線Yに沿う寸法に対して大きくとることができるので、陽極ターゲット15の傾きが補正できる。
即ち、陽極ターゲット15を連結している陽極ターゲット支持部材17の一端部17aと、回転軸11と連結している陽極ターゲット支持部材17の他端部17bとの間の距離を大きくとることで、回転軸11と陽極ターゲット支持部材17とを連結支持部材23で接続した部分に作用する変形力を小さく抑えることができる。これにより、信頼性の高い回転陽極X線管を得ることができる。
【0024】
更に、
図2Bに示すように、連結支持部材23は、陽極ターゲット支持部材17を接続した第1支持部23aでは、陽極ターゲット支持部材17の端面を支持する端面支持部25と、外周面を支持する外周面支持部27で支持し、回転軸11は第2支持部23bで支持することで合計3点で、陽極ターゲット支持部材17と回転軸11とを支持しているので、連結支持部材23に作用する変形力は3点に分散されるから、各支持部25、27、23bに作用する変形力を低減でき、陽極ターゲット15及び回転軸11の回転を安定にできる。
また、連結支持部材23では、第1支持部23aと第2支持部23bとの間に所定の寸法を有する腕部23cを設けているので、この腕部23cでも第1支持部23aと第2支持部23bとにかかる変形力を吸収して、各支持部に作用する変形力を低減できるから、陽極ターゲット15及び回転軸11の回転を安定にできる。
更に、本実施の形態では、陽極ターゲット支持部材17は、陽極ターゲット15と接続している一端部17aと、回転軸11と接続している他端部17bとの間の寸法が管軸線Y方向におけるすべり軸受け13の長さの半分以上としてあるから、陽極ターゲット支持部材17の長さが十分に長いので、連結支持部材23で接続した部分に作用する変形力を確実に抑えることができ、信頼性の高い回転陽極X線管を得ることができる。
【0025】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0026】
例えば、実施の形態において、連結支持部材23は1つの部材に限らず、複数の部材を接続して構成しても良い。
回転軸11において、その側部11bは連結支持部材23に接続する部分の厚みを他の部分よりも厚くしても良いし、側部11bの外周面の直径をその外周面全体において同じにすることに限らないし、形状も限定されない。
【符号の説明】
【0027】
1…回転陽極X線管、3…真空外囲器、5…回転陽極構体、6…陰極、9…固定軸、11…回転軸、13…すべり軸受、15…陽極ターゲット、17…陽極ターゲット支持部材、23…連結支持部材、23a…第1支持部、23b…第2支持部、25…端面支持部、27…外周面支持部、Y…管軸線、LM…液体金属。