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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】三次元カールを備えた中空糸膜
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20220704BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20220704BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220704BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220704BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220704BHJP
   B01D 61/24 20060101ALI20220704BHJP
   D01F 1/08 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A61M1/18 500
B01D63/02
B01D69/08
B01D69/00
B01D69/02
B01D61/24
A61M1/18 523
D01F1/08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018545815
(86)(22)【出願日】2017-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2017054768
(87)【国際公開番号】W WO2017149011
(87)【国際公開日】2017-09-08
【審査請求日】2020-02-28
(31)【優先権主張番号】102016002440.2
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【弁理士】
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】ラング アルミン
(72)【発明者】
【氏名】ベヒテル ディーター
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-155009(JP,A)
【文献】特開平11-247041(JP,A)
【文献】米国特許第03616928(US,A)
【文献】特表2006-518661(JP,A)
【文献】米国特許第05470659(US,A)
【文献】特開2005-246192(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2002-0094675(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
B01D 63/02
B01D 69/08
B01D 69/00
B01D 69/02
B01D 61/24
D01F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられた第1の波の形態の少なくとも1つの第1のカールと、第2の振動平面および第2の波長によって特徴付けられた第2の波の形態の少なくとも1つの第2のカールとを有する1つの中空糸膜において、
前記第1の振動平面と前記第2の振動平面とは、互いにゼロではない角度をなしており、
前記第1の波は、0.2mmから0.6mmまでの範囲内にある第1の振幅を有し、前記第2の波は、2.0mmから6.0mmまでの範囲内にある第2の振幅を有する、
ことを特徴とする中空糸膜。
【請求項2】
前記角度は、70°~110°である、
請求項1記載の中空糸膜。
【請求項3】
前記角度は、85°~95°である、
請求項1または2記載の中空糸膜。
【請求項4】
前記角度は、90°である、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項5】
前記第1の波長と前記第2の波長は、互いに異なっている、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項6】
前記第1の波の波長は、3~15mmである、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項7】
前記第2の波の波長は、20~50mmである、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項8】
前記第1の波および前記第2の波は、正弦形状である、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項9】
前記中空糸膜は、前記中空糸膜から作られていて16,896本のファイバを有する中空糸膜束が41.4mmの直径を有する円筒形シェルから脱型されるとき、前記中空糸膜束に加わる3.4~10.0Nの脱型力を有する、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項10】
前記脱型力は、3.4~7.0Nである、
請求項9に記載の中空糸膜。
【請求項11】
中空糸膜であって、前記中空糸膜は、前記中空糸膜から作られていて16,896本のファイバを有する中空糸膜束が41.4mmの直径を有する円筒形シェルから脱型されるとき、前記中空糸膜束に加わる3.4~10.0Nの脱型力を有する、
ことを特徴とする、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項12】
170~210μmのファイバ直径を有する、
請求項8記載の中空糸膜。
【請求項13】
請求項1ないし10のうちいずれか一に記載の中空糸膜を製造する方法であって、少なくとも、ステップ(a)および(b)を含み、すなわち、
(a)第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられた第1の波の形態をしている第1のカールを有する中空糸を用意するステップと、
(b)第2の振動平面および第2の波長によって特徴付けられた第2の波の形態をしている第2のカールを前記ステップ(a)で用意された前記中空糸膜に施すステップと、を含み、
前記ステップ(b)における前記施工は、該施工後に前記第1の振動平面と前記第2の振動平面がゼロとは異なる角度をなすように実施される、
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記第1の波長および前記第2の波長は、前記第1の波長が前記第2の波長よりも短いように選択される、
請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップ(a)の前記中空糸膜は、前記ステップ(b)において少なくとも2つの互いに逆回転するはめ歯歯車に通され、前記はめ歯歯車の回転軸線は、前記第1の振動平面に垂直に揃えられてはいない、
請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の中空糸を有する束。
【請求項17】
フィルタ器具、特に血液透析用の中空糸型透析器であって、ハウジングと、請求項16に記載されるとともに前記ハウジング内に配置された束とを有する、フィルタ器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜、ファイバ(以下、「ファイバ」と「糸」は、同義語として区別なく用いられる)を製造する方法、ファイバを含む束およびこの束を有するフィルタ器具に関する。フィルタ器具は、好ましくは、血液透析用の中空糸型透析器である。
【背景技術】
【0002】
中空糸型透析器は、典型的には、円筒形フィルタハウジング内に配置された中空糸束を有する。透析中、血液がファイバの内部を通って流れ、透析液は、ファイバとフィルタハウジングとの間の空間内で血液に対して逆の方向に流れる。透析器の目的は、中空糸の壁を通る物質の交換を生じさせることにある。
【0003】
血液透析のために用いられる中空糸内での物質交換の効率を高めるため、中空糸をカールされた中空糸の形態で提供することが知られている。
【0004】
国際公開第01/60477号パンフレットは、円筒形フィルタハウジングおよびカールされた(クリンプされた)中空糸の束から成る好ましくは血液透析用のフィルタ器具に関する。
【0005】
欧州特許第2119494号明細書は、中空糸膜および中空糸を収容したモジュールに関する。中空糸は、カールを有し、このカールの波長は、15~25mmである。
【0006】
欧州特許第1714692号明細書は、波状中空糸を有する透析フィルタに関する。
【0007】
独国特許第2851687号明細書は、流体分離に用いられる中空の半透ファイバに関し、ファイバは、多数の波を有する。本明細書において説明する製造の際、中空糸に及ぼされる力が、束内の中空糸の深さに応じて異なるので、中空糸には不規則な波が形成され、束の外側部分は、束の内部中央に配置された中空糸よりも低い、ゆったりとしたクリンプを有する。
【0008】
欧州特許第0116155号明細書は、フィラメント束を製造する方法および装置に関し、フィラメントは、カール(波即ちウェーブ)を有する。この場合、中空糸を丸形ロッド周りにジグザグ形状に案内し、これら丸形ロッドは、2つの平面内に配置されるとともに互いに間隔を置いて設けられ、これら丸形ロッドは、固定ゾーンを通って連続した仕方で中空糸と同じ速度で案内される。フィラメント束は、例えば血液透析のための物質移動および熱伝達のために使用できる。この特許文献もまた、中空フィラメントを2つの互いに噛み合っているが接触していないはめ歯歯車に通す方法がカールされた中空糸を製造するために技術的に不都合な場合があることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第01/60477号パンフレット
【文献】欧州特許第2119494号明細書
【文献】欧州特許第1714692号明細書
【文献】独国特許第2851687号明細書
【文献】欧州特許第0116155号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
血液透析に適した新型の中空糸膜に関する目下の要望を考慮して、本発明の目的は、改良した特性を備えた中空糸膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1、請求項11および請求項13のいずれかに記載された中空糸膜で達成される。好ましい実施形態がこれら請求項に従属した請求項に記載されている。同じく独立した形式の請求項は、中空糸を用いた本発明の別の観点を記載している。
【0012】
以下に用いる鉤括弧に入れた用語は、本発明との関連において定義されている。
【0013】
第1の観点において、本発明は、第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられた第1の波の形態をしている少なくとも1つの第1のカールと第2の振動平面および第2の波長によって特徴付けられた第2の波の形態をしている少なくとも1つの第2のカールとを有する中空糸膜において、第1の振動平面と第2の振動平面は、互いにゼロではない角度をなしていることを特徴とする中空糸膜を提供する。
【0014】
「中空糸膜」という用語は、有機物で構成された膜型の壁を有する中空糸を指している。かかる中空糸膜は、先行技術で知られており、これら中空糸膜を既知のプロセスに従って、例えば紡糸プロセスによって製造することができる。
【0015】
適当な中空糸膜の例示の実施形態は、90~99重量パーセントの疎水性の第1のポリマーと、10~1重量パーセントの親水性の第2のポリマーとから成る。この関係で、疎水性の第1のポリマーは、例えば、以下の群、すなわち、ポリアリールスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、改質アクリル酸、ポリエーテル、ポリウレタンまたはこれらのコポリマーの中から選択される。親水性の第2のポリマーは、例えば、以下の群、すなわちポリビニルピロリドン、ポリエチルグリコール、ポリグリコールモノエステル、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、セルロースまたはポリソルベートの水溶性誘導体の中から選択される。好ましい実施形態では、ファイバは、ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンという物質から成る。
【0016】
「カール」という用語は、ファイバがその長さに沿って、完全に真っ直ぐではなく、これとは異なり、直線からのずれを有することを意味している。「カール」という用語は、先行技術で用いられている用語、例えば「起伏」、「クリンプ」、「しわ」、「波(ウェーブ)」または「テキスチャ」に関する包括的な用語である。
【0017】
以下、用語「カール」は、用語「波」に基づいて定められている。したがって、用語「カール」は、1つの波または周期的な波を含み、または1つの波または周期的な波と同等であるということができ、すなわち、カールは、波の形態で存在する。
【0018】
物理的な意味において、周期的な波は、少なくとも振動平面および波長を有することを特徴とする場所および時間に依存する物理的変数の空間的に伝搬する振動である。
【0019】
本発明によれば、中空糸膜は、少なくとも2つの互いに異なるカールを有し、これらは波を含みまたは波から成っているので、これらカールの各々はいずれの場合においても振動平面および波長によって表現できる。
【0020】
したがって、第1の波の形態をした第1のカールは、第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられ、第2の波の形態をしている第2のカールは、第2の振動平面および第2の波長によって特徴付けられる。
【0021】
本発明によれば、第1の振動平面と第2の振動平面は、互いにゼロとは異なる角度をなしている。
【0022】
したがって、「第1の振動平面と第2の振動平面は、互いにゼロとは異なる角度をなしている」という表現はまた、第1および第2の振動平面が互いに平行にまたは一平面内に位置することができないことを意味している。
【0023】
一実施形態では、角度は、70°~110°である。
【0024】
別の実施形態では、角度は、85°~95°である。
【0025】
別の実施形態では、角度は、90°であり、すなわち、振動平面は、互いに垂直である。この実施形態は、かかる構成が特に良好な機械的安定性を示すことができるので好ましい。
【0026】
別の実施形態では、本発明の中空糸膜は、少なくとも2つの振動平面相互間に種々の角度を有することも可能である。
【0027】
本発明によれば、第1の波および第2の波の波長は、同一でありまたは互いに異なる。
【0028】
好ましくは、第1の波の波長は、一実施形態では3~15mmである。別の実施形態では、第1の波の波長は、4~10mmである。別の実施形態では、第1の波の波長は、6~8mmである。
【0029】
好ましくは、第2の波の波長は、20~50mmである。別の実施形態では、第2の波の波長は、25~40mmである。別の実施形態では、第2の波の波長は、25~35mmである。
【0030】
一実施形態では、第1の波の波長は、3~15mmであり、第2の波の波長は、20~50mmである。
【0031】
別の実施形態では、第1の波の波長は、4~10mmであり、第2の波の波長は、25~40mmである。
【0032】
別の実施形態では、第1の波の波長は、6~8mmであり、第2の波の波長は、25~35mmである。
【0033】
振動平面および波長とは別に、波は、振幅によっても特徴付け可能である。
【0034】
一実施形態では、第1の振幅は、0.2~0.6mmの値を有する。別の実施形態では、第1の振幅は、0.3~0.5mmである。
【0035】
一実施形態では、第2の振幅は、2.0~6.0mmの値を有する。別の実施形態では、第2の振幅は、2.5~4.5mmである。
【0036】
一実施形態では、第1の振幅は、0.2~0.6mmであり、第2の振幅は、2.0~6mmである。
【0037】
別の実施形態では、第1の振幅は、0.3~0.5mmであり、第2の振幅は、2.5~4.5mmである。
【0038】
ある特定の実施形態では、中空糸膜は、その第1の波長および振幅、その第2の波長および振幅、および互いに関連した第1および第2の波の振動平面の角度によって特徴付けられる。
【0039】
一実施形態では、第1の中空糸膜の波長は、3~15mmであり、その振幅は、0.2~0.6mmであり、第2の波は、20~50mmであり、その振幅は、2~6mmであり、波の振動平面相互のなす角度は、70°~110°である。
【0040】
別の実施形態では、中空糸膜の第1の波長は、6~8mmであり、その振幅は、0.2~0.6mmであり、第2の波の波長は、25~35mmであり、その振幅は、2~6mmであり、波の振動平面相互のなす角度は、80°~100°である。
【0041】
別の実施形態では、ファイバの第1の波長は、7mmであり、その振幅は、0.4mmである。第2の波長は、30mmであり、その振幅は、3.5mmである。第1の波と第2の波の振動平面は、90°の角度をなす。
【0042】
一実施形態では、第1のカールおよび第2のカールは、周期的な波形を含みまたは周期的な波形から成る。
【0043】
代表的な周期的波形は、三角形振動、のこ歯振動、長方形振動または正弦振動(正弦波)またはこれら振動のうちの2つまたは3つ以上のオーバーラップである。
【0044】
一実施形態では、第1の波と第2の波の両方は、正弦形状(正弦波)である。
【0045】
単に1つのカールを有する中空糸と比較して、本発明の中空糸は、例えば撚りに対して向上した機械的強度を示す。このことは、これら中空糸を容易に製造することができるということを意味している。例えば、これら中空糸は、切断時にきれいな切り口をもたらし、これにより不合格レベルが低くなる。
【0046】
本発明の第2の観点では、中空糸膜が提供され、この中空糸膜は、これから作られた中空糸膜束が透析のための中空糸膜型フィルタの円筒形ハウジング内に成形されたとき、3.4~10Nの考えられる限り最も大きな脱型力を有すよう設計されている。かかる中空糸膜は、請求項11~14の主題である。特に、この場合、本発明の主題と同様にカールされた中空糸膜に関心が向けられる。
【0047】
結果として得られる中空糸束は、中空糸膜は、中空糸膜から作られていて16,896本のファイバを有する中空糸膜束が41.4mmの直径を有する円筒形シェルから脱型されるとき、中空糸膜束に加わる3.4~10Nの脱型力を有する。本発明の第2の観点では、3.4~7Nの脱型力を有する中空糸膜が好ましく、更に、3.6~5Nの脱型力を有する中空糸膜が好ましい。一実施形態では、中空糸膜は、170~210μmのファイバ直径を有する。
【0048】
慣例上、中空糸膜束は、半径方向に圧縮可能であり、この束は、中空糸膜型フィルタの製造の際、半径方向圧縮状態で円筒形フィルタの円筒形ハウジング中に導入される。この関係で、中空糸膜束の復元力は、弛緩形態に移るための束による働きを表す。
【0049】
中空糸膜束の復元力が大きければ大きいほど、中空糸膜束を筒体から引き出すのに必要な脱型力が大きすぎるほどになる。
【0050】
最後に、中空糸膜束の復元能力は、ファイバのカールにより調節可能である。カールの波長および振幅に応じて、強さの大きいまたは小さい脱型力と相関して中空糸膜束の強さの大きいまたは小さい復元力をもたらすことが可能である。
【0051】
本発明の第2の観点では、脱型力がカールの性状によって大きくされる束が中空糸膜型フィルタの製造方法において一層容易に管理できることが判明した。というのは、これら束は、高い機械的安定性を示し、それにより製造中の不合格品が少なくなるからである。高い機械的安定性は、中空糸束中のファイバの強い相互支持作用に起因している。したがって、中空糸膜型フィルタの製造方法において、ファイバの破損が少ないことが観察された。
【0052】
第3の観点では、本発明は、本発明の中空糸膜を製造する方法であって、少なくとも、ステップ(a)および(b)を含み、すなわち、
(a)第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられた第1の波の形態をしている第1のカールを有する中空糸を用意するステップと、
(b)第2の振動平面および第2の波長によって特徴付けられた第2の波の形態をしている第2のカールをステップ(a)で用意された中空糸膜に施すステップと、を含み、
ステップ(b)における施工は、該施工後に第1の振動平面と第2の振動平面がゼロとは異なる角度をなすように実施されることを特徴とする方法を提供する。
【0053】
一実施形態では、これら波長は、第1の波長が第2の波長よりも短いように選択される。
【0054】
ステップ(a)では、先行技術から知られているカールされたファイバを提供することができる。カールされたファイバはまた、先行技術から知られている方法に従って製造できる。
【0055】
この関係で、一実施形態では、ステップ(a)で用意される中空糸膜のカールは、このカールが少なくとも2つの互いに逆回転しているはめ歯歯車に通されることなく、中空糸膜によって作られる。はめ歯歯車の歯の形状、隣り合う歯の相互離隔距離および更に歯の高さは、この場合、第1の波の所望の波形、所望の第1の波長および所望の第1の振幅が設定されるように選択される。
【0056】
ステップ(b)では、次に、別のカールをステップ(a)で用意されたカール状態のファイバに施す。
【0057】
好ましくは、この関係で、ステップ(a)の中空糸膜は、ステップ(b)において少なくとも2つの互いに逆回転しているはめ歯歯車を通って案内される。この場合、はめ歯歯車の回転軸線は、ステップ(a)で用意された中空糸膜の第1の振動平面に垂直に揃えられ、すなわち、カーラーはめ歯歯車は、好ましくは、互いに平行に配置される。
【0058】
驚くべきこととして、第1および第2のステップのカーラーはめ歯歯車の平行配置の場合、第1のウェーブスタンピング(wave-stamping :波形を型押しする)ステップ後におけるウェーブスタンピングされた中空糸膜の振動平面は、この膜が第2のステップのカーラー中に引き込まれたときに1回の撚りを生じる。かかる配置では、中空糸膜の振動平面は、第2のステップ中に引き込まれるようにするために第1のステップ後に90°の撚りを生じる。この作用効果は、第1のステップで得られた波長が短ければ短いほど、それだけ一層顕著である。
【0059】
はめ歯歯車の歯の形状、隣り合う歯の相互離隔距離、および歯の高さは、この場合、第2の波の所望の波形ならびに更に所望の第2の波長および所望の第2の振幅が設定されるように選択される。
【0060】
0°の角度とは異なる角度が形成されるような設定を選択することもまた可能であることは自明である。90°の角度を有する配置もまた可能である。
【0061】
さらに本発明によれば、第1の波および第2の波の波長は、好ましくは、第1の波長が第2の波長よりも短いように選択される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明に従って中空糸を製造する方法を概略的に示す図である。
図2】本発明の中空糸の製造方法を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1は、本発明に従って中空糸を製造する方法を概略的に示している。この場合、第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられた第1の波の形態をしている第1のカールを有する中空糸が少なくとも2つの互いに逆回転しているはめ歯歯車を通って(矢印の方向に)案内され、はめ歯歯車の回転軸線Dは、第1の振動平面に垂直に揃えられておらず、その代わりに平行である。この最中において、第2の振動平面および第2の波長によって特徴付けられた第2の波の形態をしている第2のカールが中空糸膜に施される。この関係で、ステップ(b)におけるこの施工は、施工後、第1の振動平面と第2の振動平面がゼロとは異なる角度をなすように行われる。図1では、この角度は、ほぼ90°である。波長は、第1の波長が第2の波長よりも短いように選択される。
【0064】
カールの施工のため、中空糸膜が先行技術において記載された形態、すなわち、例えば、溶剤によって可塑化された形態で用意されるのが良い。次に、溶剤を蒸発させることによって波を固定するのが良い。
【0065】
他方、カールを施すために用いられるはめ歯歯車を加熱することもまた可能であり、したがって、中空糸膜を熱により変形させる。
【0066】
図2は、ステップ(a)において用意された中空糸の製造の仕方を概略的に示しており、この場合、実質的に直線状の中空糸膜を2つの互いに逆回転しているはめ歯歯車に通す(矢印の方向に)ことによって中空糸のカールを作る。この場合、回転軸線は、第1の振動平面および第1の波長によって特徴付けられる第1の波の形態をした第1のカールを有する成形されたカール状態の中空糸の振動平面に垂直である。
【0067】
図1および図2に概略的に示されているように、第1のカールおよび第2のカールの波長(この場合、第2のカールの波長は、第1のカールの波長よりも大きくなければならない)は、はめ歯歯車の歯の形状によって設定でき、隣り合う歯の相互離隔距離および更に歯の高さによって設定できる。
【0068】
本発明の中空糸は、既知の方法に従って束を形成するよう処理可能である。かかる既知の方法は、例えば、ある特定の長さへの中空糸のトリミングを想定している。次に、中空糸を付形して束を形成するのが良く、ファイバの端部に固定のための適当な樹脂、例えばポリウレタンを流し込む。
【0069】
中空糸膜フィラメントの製造は、それ自体、転相を伴う既知の紡糸プロセスに従って実施されるのが良い。中空糸膜のための紡糸プロセスに関する代表的な範囲パラメータを以下に特定する。これら条件により、本発明の中空糸膜が得られるが、これら条件は、本発明を制限するものと理解されるべきではない。
【0070】
以下の「%」データの全ては、重量パーセントデータである。
【0071】
この目的のため、例えば16~18%ポリスルホンと、3~6%のポリビニルピロリドンと、76~81%のジメチルアセトアミドとから成る紡糸液を準備し、温度を30℃~60℃に調節する。紡糸液を25~40%水および60~75%ジメチルアセトアミドから成る沈殿剤と一緒に環状隙間から押し出す。紡糸液は、この場合、スピナレットダイの中央円形開口部を通って逃げ出た沈殿剤と一緒に環状隙間を通って押し出される。環状隙間は、30~50μmの代表的な隙間幅および150~300μmの内部直径を有するのが良い。
【0072】
このようにして得られた紡糸フィラメントを40~100%、好ましくは80~100%の相対湿度値および100~800mm、好ましくは200~600mmの長さを有する空隙に通して案内するのが良い。しかる後、紡糸フィラメントを例えば60℃~80℃の温度に調節された水沈殿浴中に導入して凝固させる。このようにして得られた中空糸膜を60℃~90℃の温度で水によりすすぎ洗いする。しかる後、中空糸膜を1~10分間、100℃~150℃の温度で乾燥させる。
【0073】
このようにして得られた中空糸膜の直径およびこの膜の壁厚を紡糸液および内部沈殿剤の押し出し速度により調節するのが良い。このようにして得られた中空糸膜の代表的なルーメン幅は、150~350μmである。かかる中空糸膜の代表的な壁厚は、30~50μmであるのが良い。
【0074】
上述の紡糸プロセスに続き、第1のカールおよび第2のカールを適当なカーラーによって中空糸膜に押し付ける。
【0075】
明らかなこととして、第1のウェーブスタンピングが波の振動平面内で波形中空糸膜を第2のカーラーステップへの移行中、波形中空糸膜の裏返しが起こる程度まで補剛することが重要である。
【0076】
2つの振動平面の向きが互いに関連した第1の波および第2の波の波長で決まるのが良いことが明らかになった。したがって、ある特定の実施形態では、70°~110°の角度の値を受け入れることができる振動平面の撚りもまた得られる。
【0077】
したがって、第4の観点では、本発明は、第1または第2の観点において提供される中空糸または第3の観点において提供される方法に従って製造された中空糸を有する束を提供する。
【0078】
本発明の中空糸を濾過目的に用いることができる。この目的のため、中空糸は、代表的には、好ましくは束の形態でハウジング内に配置される。
【0079】
特に、第1の観点において提供されるファイバで構成された中空糸束は、真っ直ぐなまたは1回のウェーブスタンピングされた中空糸から成る従来の中空糸膜束よりも強い予備張力を呈する。「予備張力」という用語は、束が圧縮されたときに束により示される復元力の尺度を意味している。第1の観点において提供されるファイバは、従来の真っ直ぐなまたは1回のウェーブスタンピングされたファイバよりも中空糸束内に広い空間を占めようとする。したがって、ファイバ本数が同じであるとともにハウジング寸法が同一である場合、フィルタモジュールの円筒形ハウジング内のファイバを脱型するためには、1回ウェーブスタンピングされたファイバの場合よりも大きな力が必要とされる。この場合、脱型は、中空糸束を中空糸束を包囲している円筒形エンクロージャ、例えば透析器ハウジングまたはカバーフィルムから滑り出しまたは引き出すことを意味しているものと理解される。
【0080】
かかる増大した予備張力を有するとともに現在慣例であるバンドリングプロセスに従って束セグメントに切断される中空糸膜束は、1回ウェーブスタンピングされた中空糸膜束の切り口の場合に観察される状態とは異なり切り口が均等に切断されるという利点を示す。これは、特にファイバ端部に流延材料を流し込んでいる間に作用効果を有する。中空糸束のファイバ端部を流延する代表的な方法は、例えば、独国特許出願公開第10 2006 021066(A1)号明細書に記載されている。この独国特許出願公開によれば、例えば液体ポリウレタンプレポリマーを中空糸膜束のファイバ端部の流延の際に用いる。かかるプロセスでは、流延材料は、ファイバ束の端部領域中に浸透し、プレポリマーの硬化後、ファイバ端部をこれらの位置に固定する。これにより、いわゆる「流延ウェッジ」が生じる。欠点は、ファイバの一部分がこれらの定位置からずれるということにある。これにより、製造の際にあとで使用できないフィルタモジュールが生じる。かかる流延ウェッジの生成は、中空糸膜束の切り口を均等に作ることができる場合に減少することが観察された。
【0081】
中空糸膜の本発明の二重のカールの別の積極的な作用効果は、ファイバ束内におけるファイバのファイバ分布が一層均等になるということにある。ファイバの均等な間隔により、中空糸束中のファイバは、いわゆるストランドを形成するように合体する恐れが低い。かかるストランドのゾーン内においては、個々のファイバは、濾過条件下において自由に水洗可能ではない。この場合、ストランドの形成は、フィルタモジュールの濾過効率の低下と関連している。この場合、本発明の二重カールおよびこれと関連したより均等なファイバ分布により濾過状態の向上を達成することが可能であった。
【0082】
したがって、第5の観点において、本発明は、ハウジングおよび第4の観点において提供されるとともにこのハウジング内において配置された束を有するフィルタ器具を提供する。
【0083】
好ましくは、フィルタ器具は、血液透析用の中空糸型透析器である。
【0084】
しかしながら、極めて一般的に言えば、第1の観点または第2の観点において提供される中空糸膜または第3の観点において提供される方法に従って製造された中空糸膜または第4の観点において提供される束または第5の観点において提供されるフィルタ器具が血液の透析のために用いられず、任意の流体分離のために用いることが可能である。
【0085】
したがって、第6の観点において、本発明はまた、流体分離のために第1の観点または第2の観点において提供されるとともに第3の観点に従って製造される中空糸膜の使用または第4の観点において提供される束の使用または第5の観点において提供されるフィルタ器具の使用を提供する。
【実施例
【0086】
実施例
用いられた透析器の濾過効率の尺度は、いわゆるクリアランス値であり、これは、以下において説明するように算定された。本発明の中空糸束のクリアランス値をDIN EN ISO 8637 規格の要件に従って測定した。これは、中空糸束から構成された透析器に対して実施された摸擬透析中、特定の案内物質の入力濃度と出力濃度の両方の測定および以下の公式に従うクリアランスの計算を伴った。
Cl(CLとも表記される) クリアランス [ml/min]
B 血液側の流量 [ml/min]
F 濾過液流量 [ml/min]
B,in 入力濃度、血液側
B,out 出力濃度、血液側
【0087】
全体として、クリアランス値10個のフィルタモジュールについて算定し、得られた値の平均を取った。
【0088】
クリアランス測定を以下のように実施した、すなわち、調べられるべき中空糸束の成形により、透析器のハウジング内のファイバ端部の端部側流延によって透析器を製作した。端部側流延は、透析器を2つの流れ空間、すなわち、ファイバの空所から成る血液側流れ空間およびファイバを包囲した空間から成る透析液側流れ空間に分離した。
【0089】
透析器は、液体をファイバ内部中に導入してこれをファイバの他端部のところで取り出すために血液側に設けられた入口ポートおよび出口ポートを有していた。さらに、透析器は、液体が透析液側でファイバに沿って流れることができるようにするために透析液側に設けられた入口ポートおよび出口ポートを有していた。
【0090】
クリアランス測定を実施するため、透析液側を37℃において500ml/minの流量で1%の塩化カリウム水溶液でフラッシングした。37℃に調節された試験液は、300ml/minの流量で血液側を通って流れた。
【0091】
ナトリウムクリアランスの測定のため、用いた試験液は、154mmol/l塩化ナトリウム溶液であった。ビタミンB12のクリアランス測定のため、36.07μmol/l試験溶液を用いた。それぞれの液体が10分間かけて両方の流れ側を通って流れたあと、血液側の出力のところおよび透析液側の出力のところにおける分析物の濃度を求めた。
【0092】
脱型力の測定のため、HDPEフィルム中に押し込めたファイバ束を試験体として用いる。この場合、フィルム中に挿入された中空糸膜束は、円筒形の形を取っている。
【0093】
次に、ファイバ束をフィルムカバーから滑り出し、その結果、中空糸束は、フィルムカバーの上方に2cmだけ自由に突き出た。接着剤ストリップの助けにより、自由束端部を巻いて引張り試験機の受け具ユニット上に固定した。このようにして包囲した束端部は、この場合、フィルム中に押し込められた束と同じ直径を有していた。このように準備したファイバ束を試験台上に水平に位置決めした。膜を適当な保持装置で固定した。
【0094】
引張り試験機の助けにより、ファイバ束をフィルムシェルから引き出した。引き出し速度は、1cm/sであった。ファイバ束の長さの50%をフィルムシェルから引き出したあと、脱型プロセスの力の値を引張り試験機に記録した。このようにして測定した値は、ファイバ束の脱型力を指示していた。
【0095】
(実施例1)
二重カールを備えた本発明のファイバ束をフレセニウス・メディカル・ケア(Fresenius Medical Care)製の市販のF60Sフィルタハウジング中に成形した。ファイバ本数、有効膜面積、ファイバ直径、中空糸膜の壁圧および透析器ハウジング内の中空糸膜の長さに関する仕様が表1に示されている。本発明の中空糸膜束のファイバは、3mmの波長を備えた第1のカールおよび30mmの波長を備えた第2のカールを有していた。2つのカールの振動平面は、互いに対して90°の角度をなしていた。
【0096】
ナトリウムおよびビタミンB12に関するクリアランス値を上述の方法に従って求めた。ナトリウムクリアランスは、253ml/minであった。ビタミンB12のクリアランスは、135ml/minであった。
【0097】
(比較例1)
比較例のファイバを例示の実施形態のファイバと同じ紡糸プロセスに従って得た。したがって、ファイバ寸法および細孔構造は、例示の実施形態のファイバの寸法および細孔構造と同一であった。次に、この比較例のファイバに30mmの波長を備えた単一のカールを設けた。ファイバを集めて束を形成し、そして成形して実施例1の場合と同じ方法に従ってフレセニウス・メディカル・ケア製の市販のF60Sフィルタハウジング中にこれらを成形・投入した。
【0098】
ナトリウムおよびビタミンB12のクリアランス値を上述の方法に従って求めた。ナトリウムのクリアランスは、238ml/minであった。ビタミンB12のクリアランスは、127ml/minであった。
【0099】
表 1
【0100】
(実施例2)
脱型力の測定のため、280mmの長さを有する16,896本のファイバから成るファイバ束を製作した。ファイバのファイバ内径は、183μmであり、ファイバの壁厚は、38μmであった。ファイバをHDPEフィルム中に挿入して41.4mmの直径を有する円筒形ファイバ束を形成した。脱型力を上述した方法に従って求めた。本発明の二重カールが7mmの第1の波長および0.4mmの振幅ならびに30mmの第2の波長および3.5mmの振幅を有する状態で30個のファイバ束の各々について脱型力を測定した。
【0101】
比較のため、カールの性状に関してのみ本発明のファイバ束とは異なる30個のファイバ束について脱型力を測定した。ファイバは、30mmの波長および3.5mmの振幅を備えた単一のカールを有していた。
【0102】
30回の測定から、本発明のファイバ束に関して4.2Nの平均脱型力を得た。ファイバ束に関して3.4Nの平均脱型力が1回カールされたファイバを有するファイバ束について得られた。
図1
図2