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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】走査型表示装置及び走査型表示システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/48 20060101AFI20220704BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20220704BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20220704BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
G02B27/48
G02B26/10 104Z
G02B27/01
B60K35/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019192885
(22)【出願日】2019-10-23
(62)【分割の表示】P 2019103717の分割
【原出願日】2017-06-13
(65)【公開番号】P2020030417
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩科 進也
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-145962(JP,A)
【文献】特開2017-078830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0161191(US,A1)
【文献】特開2016-224287(JP,A)
【文献】特開2017-21131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/48
G02B 26/10
G02B 27/01
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影表示用のレーザ光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記レーザ光を集光する集光部と、
前記集光部を通過した前記レーザ光を走査する光走査部と、
二次元に配列された複数の光拡散チャネルを有し、前記光走査部によって走査された前記レーザ光を拡散させる光拡散部と、を備え、
前記集光部は、前記レーザ光を前記光拡散部に集光し、
前記レーザ光の波長をλとし、前記光走査部の有効開口径をMとし、前記光走査部から前記光拡散部までの距離をLとし、前記複数の光拡散チャネルの配列ピッチをPとすると、前記光拡散部は、前記配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)に基づいて設定された値となるように、構成されており、
前記光走査部から前記光拡散部までの距離は、前記集光部から前記光走査部までの距離よりも長い、走査型表示装置。
【請求項2】
前記光拡散部は、前記配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mに基づいて設定された値となるように、構成されている、請求項1に記載の走査型表示装置。
【請求項3】
前記光走査部は、MEMSミラーである、請求項1又は2に記載の走査型表示装置。
【請求項4】
前記MEMSミラーのミラー面の曲率半径をφとすると、前記光拡散部は、前記配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))に基づいて設定された値となるように、構成されている、請求項3に記載の走査型表示装置。
【請求項5】
前記光拡散部は、透過型のマイクロレンズアレイである、請求項1~4のいずれか一項に記載の走査型表示装置。
【請求項6】
投影表示用のレーザ光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記レーザ光を集光する集光部と、
前記集光部を通過した前記レーザ光を走査する光走査部と、
二次元に配列された複数の光拡散チャネルを有し、前記光走査部によって走査された前記レーザ光を拡散させる光拡散部と、を備え、
前記集光部は、前記レーザ光を前記光拡散部に集光し、
前記レーザ光の波長をλとし、前記光走査部の有効開口径をMとし、前記光走査部から前記光拡散部までの距離をLとし、前記複数の光拡散チャネルの配列ピッチをPとすると、前記光拡散部は、前記配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)に基づいて設定された値となるように、構成されており、
前記光走査部から前記光拡散部までの距離は、前記集光部から前記光走査部までの距離よりも長い、走査型表示システム。
【請求項7】
前記光拡散部の後段に配置された光学系を更に備える、請求項6に記載の走査型表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型表示装置及び走査型表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
投影表示用のレーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光を走査する光走査部と、光走査部によって走査されたレーザ光を拡散させる光拡散部と、を備える走査型表示装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。光拡散部としては、例えば、透過型のマイクロレンズアレイ等、二次元に配列された複数の光拡散チャネルを有する光学素子が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-133700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような走査型表示装置においては、レーザ光がコヒーレントな光であることに起因して、表示されたイメージに輝度むら(不規則な輝度むら(スペックル)、規則的な輝度むらを含む)が生じる場合があった。
【0005】
本発明は、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる走査型表示装置及び走査型表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の走査型表示装置は、投影表示用のレーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光を集光する集光部と、集光部を通過したレーザ光を走査する光走査部と、二次元に配列された複数の光拡散チャネルを有し、光走査部によって走査されたレーザ光を拡散させる光拡散部と、を備え、レーザ光の波長をλとし、光走査部の有効開口径をMとし、光走査部から光拡散部までの距離をLとし、複数の光拡散チャネルの配列ピッチをPとすると、光拡散部は、配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)に基づいて設定された値となるように、構成されている。
【0007】
この走査型表示装置によれば、光拡散部におけるレーザ光の集光サイズを光拡散チャネルの配列ピッチ以下とすることができる。したがって、この走査型表示装置によれば、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0008】
本発明の走査型表示装置では、光拡散部は、配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mに基づいて設定された値となるように、構成されていてもよい。これによれば、光走査部においてレーザ光に回折が起こったとしても、光拡散部におけるレーザ光の集光サイズを光拡散チャネルの配列ピッチ以下とすることができるので、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0009】
本発明の走査型表示装置では、光走査部は、MEMSミラーであってもよい。これによれば、光拡散部に対するレーザ光の走査を高速且つ高精度で実現することができる。
【0010】
本発明の走査型表示装置では、MEMSミラーのミラー面の曲率半径をφとすると、光拡散部は、配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))に基づいて設定された値となるように、構成されていてもよい。これによれば、MEMSミラーのミラー面に歪みが生じたとしても、光拡散部におけるレーザ光の集光サイズを光拡散チャネルの配列ピッチ以下とすることができるので、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0011】
本発明の走査型表示装置では、光拡散部は、透過型のマイクロレンズアレイであってもよい。これによれば、二次元に配列された複数の光拡散チャネルによるレーザ光の拡散を確実に且つ容易に実現することができる。
【0012】
本発明の走査型表示システムは、投影表示用のレーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光を集光する集光部と、集光部を通過したレーザ光を走査する光走査部と、二次元に配列された複数の光拡散チャネルを有し、光走査部によって走査されたレーザ光を拡散させる光拡散部と、を備え、レーザ光の波長をλとし、光走査部の有効開口径をMとし、光走査部から光拡散部までの距離をLとし、複数の光拡散チャネルの配列ピッチをPとすると、光拡散部は、配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)に基づいて設定された値となるように、構成されている。
【0013】
この走査型表示システムによれば、光拡散部におけるレーザ光の集光サイズを光拡散チャネルの配列ピッチ以下とすることができる。したがって、この走査型表示システムによれば、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0014】
本発明の走査型表示システムは、光拡散部の後段に配置された光学系を更に備えてもよい。この場合にも、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる走査型表示装置及び走査型表示システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態の走査型表示システムの構成図である。
図2図1に示される走査型表示システムが備える走査型表示装置の構成図である。
図3】光走査部から光拡散部を介して眼に至る光路を示す図である。
図4】光の集光状態を説明するための図である。
図5】光の回折現象を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1に示されるように、走査型表示システム10は、例えば自動車に搭載されるレーザ走査型プロジェクションディスプレイであり、自動車のフロントガラス100にイメージを表示(投影表示)する。走査型表示システム10は、走査型表示装置1と、光学系11と、を備えている。光学系11は、複数の平面ミラー11a,11bと、凹面ミラー11cと、フロントガラス100と、を有している。フロントガラス100は、光学系11において最後段の光学素子として機能する。走査型表示装置1から出射された投影表示用の光L2は、平面ミラー11a、平面ミラー11b、凹面ミラー11c及びフロントガラス100で順次に反射されて観察者の眼Eに入射する。
【0019】
図2に示されるように、走査型表示装置1は、光源2と、集光部6と、光走査部3と、光拡散部4と、を備えている。光源2は、投影表示用のレーザ光L1を出射する。より具体的には、光源2は、複数の光出射部を有している。例えば、複数の光出射部は、それぞれ、赤色レーザダイオード、緑色レーザダイオード、青色レーザダイオードである。各光出射部は、可視域の波長を有するレーザ光L1を出射する。各光出射部から出射されたレーザ光L1は、集光部6に入射する。集光部6は、各光出射部から出射されたレーザ光L1を集光する。集光部6は、例えば、集光レンズである。各光出射部から出射されたレーザ光L1は、集光部6から光走査部3に至る間に、例えばダイクロイックミラーによって合成される。
【0020】
光走査部3は、集光部6を通過したレーザ光L1(合成されたレーザ光L1)を走査する。より具体的には、光走査部3は、集光部6を通過したレーザ光L1を反射して走査するMEMSミラーである。MEMSミラーは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって製造された駆動ミラーであり、その駆動方式には、電磁駆動式、静電駆動式、圧電駆動式、熱駆動式等がある。光走査部3は、平坦なミラー3aを有している。ミラー3aは、互いに直交する二軸回りで揺動可能であり、一方の軸回りでは共振周波数レベルで高速に揺動される。MEMSミラーである光走査部3は、光拡散部4に対してレーザ光L1を走査する。
【0021】
光拡散部4は、二次元に配列された複数の光拡散チャネル4aを有しており、光走査部3によって走査されたレーザ光L1を拡散させる。より具体的には、光拡散部4は、透過型のマイクロレンズアレイである。すなわち、光拡散部4は、光走査部3によって走査されたレーザ光L1を透過させて拡散させる。光拡散チャネル4aは、例えばマトリックス状に配列された複数のマイクロレンズのそれぞれである。光拡散部4によって拡散されたレーザ光L1のうちイメージを構成する光が、投影表示用の光L2として、光拡散部4の後段に配置された光学系11に入射する(図1参照)。なお、光拡散部4の光入射面は、複数のマイクロレンズに対応した複数の凸面によって構成されている。一方、光拡散部4の光出射面は、平坦面である。
【0022】
以上のように構成された走査型表示装置1は、制御部(図示省略)によって、次のように動作させられる。まず、制御部は、投影表示開始の入力信号を受信すると、光源2の各光出射部の出力を開始させる。これにより、光源2からレーザ光L1が出射される。これと略同時に、制御部は、光走査部3の動作を開始させる。これにより、光走査部3では、ミラー3aの揺動が開始され、光源2から出射されて集光部6を通過したレーザ光L1が光拡散部4に対して走査される。このとき、制御部は、光源2の各光出射部から出射されるレーザ光L1の比率を、光拡散部4内におけるレーザ光L1の走査位置に応じて変化させる。これにより、投影表示用の光L2(すなわち、光拡散部4によって拡散されたレーザ光L1のうちイメージを構成する光)が、平面ミラー11a、平面ミラー11b、凹面ミラー11c及びフロントガラス100で順次に反射されて観察者の眼Eに入射する。
【0023】
ここで、表示されたイメージに輝度むら(不規則な輝度むら(スペックル)、規則的な輝度むらを含む)が生じる原理について説明する。図3は、光走査部3から光拡散部4を介して眼Eに至る光路を示す図である。説明の便宜上、図3では、光走査部3、光拡散部4及び眼Eを一直線上に示し、光学系11の図示を省略している。
【0024】
図3に示されるように、光走査部3で反射されたレーザ光L1が、複数の光拡散チャネル4aのうち互いに隣り合う(具体的には、レーザ光L1の水平走査方向、垂直走査方向において互いに隣り合う)任意の一対の光拡散チャネル4a,4aに入射すると、一方の光拡散チャネル4aで拡散された光L2の一部は光路Aを通って眼Eに入射し、他方の光拡散チャネル4aで拡散された光L2の一部は光路Bを通って眼Eに入射する。そして、眼Eに入射した光L2は、水晶体Cによって網膜R上に集光される。このとき、光路Aを通って眼Eに入射した光L2と光路Bを通って眼Eに入射した光L2とが網膜R上で重なると、干渉が起こり、表示されたイメージに輝度むらが生じ得る。したがって、光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズを複数の光拡散チャネル4aの配列ピッチ(複数の光拡散チャネル4aが二次元的に配列された平面に垂直な方向から見た場合における「互いに隣り合う(少なくとも、レーザ光L1の走査方向において互いに隣り合う)光拡散チャネル4aの中心間距離」)以下とすれば、表示されたイメージに輝度むらが生じない。
【0025】
以上の知見から、走査型表示システム10、延いては、走査型表示装置1では、レーザ光L1の波長(各光出射部から出射されたレーザ光L1の中心波長のうちの最長の波長)をλとし、光走査部3の有効開口径(ミラー3aの径)をMとし、光走査部3から光拡散部4までの距離(光走査部3から光拡散部4に至る光路の長さ)をLとし、複数の光拡散チャネル4aの配列ピッチをPとすると、P≧(4λL)/(πM)を満たすように、光拡散部4が構成されている。具体的には、P≧(4λL)/(πM)を満たすように、光拡散チャネル4aの配列ピッチが設定されている。これにより、光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズが光拡散チャネル4aの配列ピッチ以下となる。
【0026】
その理由は、次のとおりである。図4に示されるように、レーザ光が集光レンズによって集光される場合、レーザ光の波長をλとし、集光位置でのスポット径を2ωとし、集光レンズの焦点距離をFとし、集光レンズのアパーチャ径をDとすると、2ω=(4λF)/(πD)が成立する。この式は、集光位置でのスポット径が像側のNA(集光位置に対してレーザ光が集光する角度)に依存することを示している。NAが大きくなるほど、集光位置でのスポット径が小さくなる。NAは、集光レンズでのレーサ光の径及び集光レンズの焦点距離によって決定される。上記式におけるF/Dは、「集光位置に対してレーザ光が集光する角度」を表すから、相似の関係より、「光走査部3のミラー3aでのレーザ光L1のスポット径」=「光走査部3の有効開口径」と仮定すると、D=M、F=Lと捉えることができる。よって、P≧(4λL)/(πM)を満たすように、光拡散チャネル4aの配列ピッチを設定すれば、光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズが光拡散チャネル4aの配列ピッチ以下となることを見出した。
【0027】
光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズ(:(4λL)/(πM))が小さくなるほど、解像度が高くなり、干渉の発生を抑制することができる。その点のみを考慮すると、光走査部3から光拡散部4までの距離(:L)は小さいことが好ましく、光走査部3の有効開口径(:M)は大きいことが好ましい。しかし、光走査部3から光拡散部4までの距離(:L)を小さくすると、光拡散部4に対するレーザ光L1の走査範囲を確保するために、ミラー3aの揺動範囲を大きくしなければならない。また、光走査部3の有効開口径(:M)を大きくすると、ミラー3aが大型化することから、ミラー3aを高速で安定的に揺動させることが困難となる。光走査部3としてMEMSミラーを用いる場合には、このような制約が存在することから、光走査部3から光拡散部4までの距離(:L)及び光走査部3の有効開口径(:M)を考慮して、P≧(4λL)/(πM)を満たすように、光拡散チャネル4aの配列ピッチを設定することは、特に重要である。
【0028】
また、レーザ光L1の利用効率を確保するためには、「光走査部3のミラー3aでのレーザ光L1のスポット径」=「光走査部3の有効開口径」を狙うことが好ましい。しかし、実際には、ミラー3aがアパーチャとして機能する場合がある。この場合、ミラー3aによってレーザ光L1が反射される際にレーザ光L1に回折が起こる。図5に示されるように、アパーチャにおける回折の広がり幅Sは、レーザ光の波長をλとし、アパーチャの有効開口径をDとし、アパーチャから集光位置までの距離をLとすると、S=Lλ/Dと表わされる(ただし、1次回折光までが顕著に影響すると仮定する)。したがって、走査型表示システム10、延いては、走査型表示装置1では、光走査部3においてレーザ光L1に回折が起こると仮定し、P≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mを満たすように、光拡散部4が構成されている。具体的には、P≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mを満たすように、光拡散チャネル4aの配列ピッチが設定されている。なお、ミラー3aがアパーチャとして機能しない場合(すなわち、「光走査部3のミラー3aでのレーザ光L1のスポット径」<「光走査部3の有効開口径」である場合)には、P≧(4λL)/(πM)を満たすように、光拡散チャネル4aの配列ピッチが設定されていればよい。
【0029】
更に、光走査部3においては、ミラー3aのミラー面に歪みが生じる場合がある。このミラー面の歪みに起因するレーザ光L1の広がり半径(光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズの広がり半径)Eは、ミラー面の歪みを球形状に近似してその曲率半径をφとすると、E=Ltan(2tan-1(M/(2φ)))と表わされる。したがって、光走査部3においてミラー3aのミラー面に歪が生じている場合、走査型表示システム10、延いては、走査型表示装置1では、P≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))を満たすように、光拡散部4が構成されている。具体的には、P≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))を満たすように、光拡散チャネル4aの配列ピッチが設定されている。
【0030】
この式が成立する理由は、次のとおりである。まず、「ミラー面が平坦面である場合、幾何光学的には1次像面(光拡散部4)上の1点に集光する」、「ミラー面の歪みは曲率半径φで表現することができる球形状であり、ミラー面の全域において均一である」と仮定する(実際には、ミラー面の歪は、球形状ではなかったり、全域において均一ではなかったりする場合もある)。曲率半径φの中心及びミラー面の中心を含む断面において、レーザ光L1の光路を幾何光学的に考える。「ミラー面の外縁と曲率半径φの中心とを結ぶ直線」と「ミラー面の中心と曲率半径φの中心とを結ぶ直線」とが成す角をθとすると、M≪φならば、θ=tan-1(M/(2φ))となる。相似の関係より、ミラー最外縁点におけるミラー歪み円にミラー歪み曲率中心からおろした直線に垂直な直線と、ミラー最外縁点同士を結んだ直線の成す角はθである。ミラー面の外縁で反射したレーザ光L1は、ミラー面が平坦面である場合と比較して、ミラー面の歪みにより2θだけ反射角度がずれる。距離Lだけ離れた1次像面(光拡散部4)における理想の集光点からのすれ量Eは、E=Ltan(2θ)と表わされる。このずれ量Eが理想の集光状態からのレーザ光L1の広がり半径となるから、ミラー面の歪みに起因するレーザ光L1の広がり半径Eは、E=Ltan(2tan-1(M/(2φ)))と表わされる。
【0031】
以上説明したように、走査型表示装置1(及び走査型表示システム10)によれば、光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズを光拡散チャネル4aの配列ピッチ以下とすることができる。したがって、走査型表示装置1によれば、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0032】
また、走査型表示装置1では、P≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mを満たすように、光拡散部4が構成されている。これにより、光走査部3においてレーザ光L1に回折が起こったとしても、光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズを光拡散チャネル4aの配列ピッチ以下とすることができるので、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0033】
また、走査型表示装置1では、光走査部3がMEMSミラーである。これにより、光拡散部4に対するレーザ光L1の走査を高速且つ高精度で実現することができる。
【0034】
また、走査型表示装置1では、光走査部3においてミラー3aのミラー面に歪が生じている場合に、ミラー面の曲率半径をφとすると、P≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))を満たすように、光拡散部4が構成されている。これにより、光走査部3においてミラー3aのミラー面に歪が生じていたとしても、光拡散部4におけるレーザ光L1の集光サイズを光拡散チャネル4aの配列ピッチ以下とすることができるので、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0035】
また、走査型表示装置1では、光拡散部4が透過型のマイクロレンズアレイである。これにより、二次元に配列された複数の光拡散チャネル4aによるレーザ光L1の拡散を確実に且つ容易に実現することができる。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した一実施形態に限定されない。
【0037】
例えば、光源2は、コヒーレントな光(レーザ光)を出射することができるものであれば、レーザダイオード(半導体レーザ)に限定されず、面発光レーザ、SLD(スーパールミネッセントダイオード)等であってもよい。また、光走査部3は、レーザ光を走査することができるものであれば、MEMSミラーに限定されず、ガルバノミラー等であってもよい。また、光拡散部4は、レーザ光を透過させて拡散させるものに限定されず、レーザ光を反射して拡散させるものであってもよい。つまり、光拡散部4は、二次元に配列された複数の光拡散チャネル4aを有するものであれば、透過型のマイクロレンズアレイに限定されず、反射型のマイクロレンズアレイ、マイクロミラーアレイ、回折格子、ファイバオプティックプレート等であってもよい。なお、光拡散部4が透過型のマイクロレンズアレイである場合には、光拡散部4の光入射面が平坦面である一方で、複数のマイクロレンズに対応した複数の凸面によって光拡散部4の光出射面が構成されていてもよい。また、複数の凸面に替えて、複数の凹面が、複数のマイクロレンズに対応するように形成されていてもよい。
【0038】
また、光拡散部4は、光拡散チャネル4aの配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)に基づいて設定された値となるように、構成されていてもよい。例えば、光拡散部4は、光拡散チャネル4aの配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)±20μmを満たすように、構成されていてもよい。また、光拡散部4は、光拡散チャネル4aの配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mに基づいて設定された値となるように、構成されていてもよい。例えば、光拡散部4は、光拡散チャネル4aの配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+Lλ/M±20μmを満たすように、構成されていてもよい。また、光拡散部4は、光拡散チャネル4aの配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))に基づいて設定された値となるように、構成されていてもよい。例えば、光拡散部4は、光拡散チャネル4aの配列ピッチがP≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))±20μmを満たすように、構成されていてもよい。つまり、全ての光拡散チャネル4aにおいて、P≧(4λL)/(πM)という条件が満たされる必要はない。このことは、P≧(4λL)/(πM)+Lλ/Mという条件、及び、P≧(4λL)/(πM)+2Ltan(2tan-1(M/(2φ)))という条件についても、同様である。また、複数の光拡散チャネル4aの配列ピッチは、一定である必要はなく、例えばランダムであってもよい。
【0039】
また、走査型表示システム10は、光拡散部4の後段に配置された光学系11を備えていなくてもよい。この場合にも、表示されたイメージに輝度むらが生じるのを抑制することができる。
【0040】
また、上述した走査型表示装置1は、車載タイプに限定されず、ヘルメット内蔵タイプ、眼鏡タイプ等、様々な場面で用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1…走査型表示装置、2…光源、3…光走査部、4…光拡散部、4a…光拡散チャネル、6…集光部、10…走査型表示システム、11…光学系、L1…レーザ光。
図1
図2
図3
図4
図5