(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】癌免疫療法用のDNAワクチンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20220704BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220704BHJP
C12N 15/79 20060101ALI20220704BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220704BHJP
C12N 15/65 20060101ALI20220704BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20220704BHJP
C12N 15/68 20060101ALI20220704BHJP
C12N 15/74 20060101ALI20220704BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220704BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20220704BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220704BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20220704BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220704BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
C12N15/12
C12N15/79 Z
C12N15/85 Z
C12N15/65 Z
C12N15/87 Z
C12N15/68 Z
C12N15/74 Z
A61P35/00
A61K35/74 Z
A61K48/00
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019501917
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2017067590
(87)【国際公開番号】W WO2018011289
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-07-08
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522173262
【氏名又は名称】エンエーセー オンコイミュニティ アクスイェ セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ ルベナウ
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/090584(WO,A1)
【文献】特表2016-518835(JP,A)
【文献】特表2015-502162(JP,A)
【文献】日本内科学会雑誌, 1998, Vol.87, No.12, pp.2536-2544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00 - 39/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別化癌免疫療法用のDNAワクチンの製造方法であって、少なくとも以下のステップ:
(a)少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの真核生物の発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を用いて、サルモネラの弱毒化株を形質転換し;
(b)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンを特徴づけし;
(c)ステップ(b)で特徴づけした少なくとも1つの形質転換細胞クローンを選択し、そして、前述の少なくとも1つの選択された形質転換細胞クローンを更に特徴づけすること、
を含み;
前記ステップ(b)が、以下のサブステップ:
(bi)経時的に、ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細胞増殖を評価し;
(bii)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおける少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子の安定性を評価し;
(biii)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、そして、少なくとも1つの単離されたDNA分子を、制限分析および/または配列決定によって特徴づけし;
(biv)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、少なくとも1つの単離されたDNA分子を少なくとも1つの真核細胞にトランスフェクトし、そして、前記少なくとも1つの真核細胞において該少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現を評価すること;
のうちの少なくとも1つを含み;
前記ステップ(c)が、以下のサブステップ:
(ci)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細胞懸濁液1mlあたりの生細胞数を評価し;
(cii)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおける少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子の安定性を評価し;
(ciii)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、そして、少なくとも1つの単離されたDNA分子を、制限分析および/または配列決定によって特徴づけし;
(civ)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、少なくとも1つの単離されたDNA分子を少なくとも1つの真核細胞にトランスフェクトし、そして、前記少なくとも1つの真核細胞において少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現を評価し;
(cv)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおいて細菌、真菌および/またはウイルス混入物の存在を試験し;
(cvi)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細菌株の同一性を確認すること;
のうちの少なくとも1つを含み;かつ、
前記サルモネラの弱毒化株が、サルモネラ・チフィTy21aであ
り、
そして
前記少なくとも1つの抗原が腫瘍抗原であり、かつ、該腫瘍抗原が新生抗原である、
方法。
【請求項2】
前記腫瘍抗
原は、ある特定の患者の腫瘍細
胞によって発現されることが示された抗原である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
患者特異的腫瘍抗
原は、mRNAまたはタンパク質レベルでの患者の腫
瘍に関する発現プロファイル、あるいは、患者の腫瘍抗
原に対する既存のT細胞性免疫応答を評価することによって同定された抗原である、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのDNA分子が、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori、および前記抗原をコードする真核生物の発現カセットを、CMVプロモーターの制御下で含み、特にここで、前記DNA分子がDNAプラスミドであり、より特にはここで、該DNAプラスミドが、配列番号1に示される核酸配列を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)における前記サルモネラの弱毒化株が、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む前記少なくとも1つのDNA分子を用いたエレクトロポレーションによって形質転換される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)が、前記サブステップ(bi)、(bii)、(biii)および(biv)のうちの1つ、2つ、3つ、または4つすべてを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)が、前記サブステップ(ci)、(cii)、(ciii)、(civ)、(cv)および(cvi)のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つすべてを含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(cv)における細菌および/または真菌混入物の存在が、少なくとも1つの好適な選択培地の中またはその上で、ステップ(c)において選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンを培養することによって試験される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(cvi)における細菌株の同一性が、ブロモチモールブルーガラクトース寒天培地および/またはKligler鉄寒天培地で、ステップ(c)において選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンを培養することによって、および/またはサルモネラO5および/またはO9表面抗原の存在を評価することによって検証される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも以下のステップ:(a)少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を用いて、サルモネラの弱毒化株を形質転換し;(b)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンを特徴づけし;および(c)ステップ(b)で特徴づけした少なくとも1つの形質転換細胞クローンを選択し、そして、前述の少なくとも1つの選択された形質転換細胞クローンを更に特徴づけする、を含む癌免疫療法用のDNAワクチンの製造方法に関する。本発明は、更に、本発明による方法によって入手可能なDNAワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ・エンテリカの弱毒化誘導体は、哺乳動物の免疫系へ異種抗原を送達するための魅力的な媒体となる。というのは、S.エンテリカ株は、免疫の粘膜経路を介して、つまり、経口または経鼻的に、送達され得るからである。これにより、非経口投与に比べ簡便かつ安全という利点がもたらされる。さらに、サルモネラ株は、全身および粘膜の両方のレベルで強い体液性および細胞性の免疫応答を誘発する。バッチ製造コストは比較的低く、そして生細菌性ワクチンの製剤は非常に安定している。弱毒化は、病原性遺伝子、調節遺伝子、および代謝遺伝子を含む種々の遺伝子の欠失により達成できる。
【0003】
弱毒化サルモネラ・エンテリカ血清型チフス菌Ty21a株(略称:S.チフィTy21a)は、ヒトでの使用が許可されており、Vivotif(登録商標)(PaxVax Ltd, UK)の商品名で流通している。この良好な忍容性を有する、腸チフスに対する経口生ワクチンは、野性型病原性細菌単離株S.チフィTy2の化学的突然変異誘発により得られ、galE遺伝子における機能喪失型変異、ならびに他のあまり規定されていない変異を保有する。これは、フィールド試験で有効かつ安全であることが示された後、多くの国で腸チフスワクチンとして認可されている。
【0004】
WO2014/005683は、癌免疫療法、特に膵臓癌の治療に用いるVEGF受容体タンパク質をコードする組換えDNA分子を含む、弱毒化サルモネラ株を開示する。
【0005】
WO2013/091898は、ガラクトースエピメラーゼ活性を欠き、組換えDNA分子を保有する弱毒化変異サルモネラ・チフィ株を増殖させる方法を開示する。
【0006】
個別化腫瘍学には、癌患者が将来的に治療される方法を変革する可能性がある。患者特異的腫瘍抗原および腫瘍間質抗原を標的化する可能性は、高い注目を集めている。個別化癌免疫療法アプローチのための前提条件は、高い薬物療法安全基準を満たす患者特異的癌ワクチンの迅速かつ費用対効果に優れた製造方法である。
【0007】
よって、これまでに満たされていない癌ワクチン、特に患者特異的癌ワクチンの迅速かつロバストな製造方法の高い需要が存在する。
本発明の目的
【0008】
従来技術の観点から、新規の癌免疫療法用、特に個別化癌免疫療法用のDNAワクチンの製造方法を提供することが本発明の目的である。斯かる製造方法は、癌患者向けの治療選択肢を改善するための主要な利点を提供するであろう。
【発明の概要】
【0009】
第一の態様では、本発明は、少なくとも:(a)少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を用いてサルモネラの弱毒化株を形質転換し;(b)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンを特徴づけし;および(c)ステップ(b)で特徴づけした少なくとも1つの形質転換細胞クローンを選択し、そして、前述の少なくとも1つの選択された形質転換細胞クローンを更に特徴づけする、のステップを含む癌免疫療法用のDNAワクチンの製造方法に関する。
【0010】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、サルモネラ・エンテリカ種のもの、特にサルモネラ・チフィ、最も特にはサルモネラ・チフィTy21aのものである。
【0011】
特定の実施形態では、少なくとも1つの発現カセットとは、真核生物の発現カセットである。
【0012】
特定の実施形態では、前述の抗原は、腫瘍抗原および腫瘍間質抗原から成る群から選択され、特にヒト腫瘍抗原およびヒト腫瘍間質抗原から成る群から選択され、より特にはヒト野生型腫瘍抗原、ヒト野性型腫瘍抗原と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、ヒト野性型腫瘍間質抗原、およびヒト野性型腫瘍間質抗原と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群から選択される。好ましい実施形態では、その抗原は、腫瘍抗原、より好ましくは新生抗原である。
【0013】
特定の実施形態では、前述の少なくとも1つのDNA分子は、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori、および前述の抗原をコードする真核生物の発現カセットを、CMVプロモーターの制御下で含み、特にここで、前述のDNA分子がDNAプラスミドであり、より特にはここで、該DNAプラスミドが、配列番号1に示される核酸配列を含む。
【0014】
特定の実施形態では、前述のサルモネラの弱毒化株は、ステップ(a)において、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む前述の少なくとも1つのDNA分子を用いたエレクトロポレーションによって形質転換される。
【0015】
特定の実施形態では、ステップ(b)は、以下のサブステップ(bi)~(biv):(bi)経時的に、ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細胞増殖を評価し;(bii)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおける少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子の安定性を評価し;(biii)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、そして、少なくとも1つの単離されたDNA分子を、制限分析(restriction analysis)および/または配列決定(sequencing)によって特徴づけし;(biv)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、少なくとも1つの単離されたDNA分子を少なくとも1つの真核細胞にトランスフェクトし、そして、前述の少なくとも1つの真核細胞において少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現を評価する、のうちの少なくとも1つを含む。
【0016】
特定の実施形態では、ステップ(b)は、前述のサブステップ(bi)、(bii)、(biii)および(biv)のうちの1つ、2つ、3つ、または4つすべてを含む。
【0017】
特定の実施形態では、ステップ(c)は、以下のサブステップ(ci)~(civ):(ci)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細胞懸濁液1mlあたりの生細胞数を評価し;(cii)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおける少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子の安定性を評価し;(ciii)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、そして、少なくとも1つの単離されたDNA分子を、制限分析および/または配列決定によって特徴づけし;(civ)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、少なくとも1つの単離されたDNA分子を少なくとも1つの真核細胞にトランスフェクトし、そして、前述の少なくとも1つの真核細胞において少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現を評価し;(cv)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおいて細菌、真菌および/またはウイルス混入物の存在を試験し;(cvi)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細菌株の同一性を確認する、のうちの少なくとも1つを含む。
【0018】
特定の実施形態では、ステップ(c)は、前述のサブステップ(ci)、(cii)、(ciii)、(civ)、(cv)および(cvi)のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つすべてを含む。
【0019】
特定の実施形態では、細菌および/または真菌混入物の存在は、ステップ(cv)において、少なくとも1つの好適な選択培地の中またはその上で、ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンを培養することによって試験される。
【0020】
特定の実施形態では、細菌株の同一性は、ステップ(cvi)において、ブロモチモールブルーガラクトース寒天培地および/またはKligler鉄寒天培地で、ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンを培養することによって、および/またはサルモネラO5および/またはO9表面抗原の存在を評価することによって検証される。
【0021】
第二の態様では、本発明は、本発明による方法によって入手可能なDNAワクチンに関する。
【0022】
第三の態様では、本発明は、癌免疫療法における使用のための本発明によるDNAワクチンに関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図4】VXM04クローンの増殖キネティックス-OD
600。
【
図5】VXM04クローンの増殖キネティックス-CFU/ml。
【
図6】VXM04クローンの増殖キネティックス-培養培地のpH。
【
図7】VXM08クローンの増殖キネティックス-OD
600。
【
図8】VXM08クローンの増殖キネティックス-CFU/ml。
【
図9】VXM08クローンの増殖キネティックス-培養培地のpH。
【
図10】VXM01クローンの増殖キネティックス-OD
600。
【
図11】VXM01クローンの増殖キネティックス-CFU/ml。
【
図12】VXM01クローンの増殖キネティックス-培養培地のpH。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、以下の発明の詳細な説明およびそこに含まれる実施例を参照することによってより容易に理解し得る。
第一の態様では、本発明は、少なくとも(a)少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を用いて、サルモネラの弱毒化株を形質転換し;(b)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンを特徴づけし;および(c)ステップ(b)で特徴づけした少なくとも1つの形質転換細胞クローンを選択し、そして、前述の少なくとも1つの選択された形質転換細胞クローンを更に特徴づけする、のステップを含む癌免疫療法用のDNAワクチンの製造方法に関する。
本発明による方法は、サルモネラベースのDNAワクチンの迅速かつ費用対効果に優れた製造を可能にする。抗原をコードするDNA分子の作出、サルモネラ受容株への形質転換、候補クローンの特徴づけ、そして、患者に投与されるべき最終的なDNAワクチンの選択と更なる特徴づけを含めた全工程には、4週間未満、特に3週間未満、および典型的には最短16日かかる。患者特異的DNAワクチンは、小バッチ製造によって好都合なことに製造されてもよく、そしてそれが、並行したいくつかの形質転換サルモネラクローンの同時作出、培養、および特徴づけを可能にする。段階的な細胞クローン特徴づけは、製品品質を最大にし、かつ工程の継続時間を最短にする。製造工程は、高度にロバストであり、安全かつ十分に特徴づけされたDNAワクチンをもたらす。
【0025】
本発明の文脈において、用語「ワクチン」は、投与により対象における免疫応答を誘発可能な薬剤を指す。ワクチンは、好ましくは、疾患を予防、軽減、または治療できる。本発明によるワクチンは、サルモネラ、好ましくはS.チフィTy21aの弱毒化株を含む。本発明によるワクチンは、ヒト腫瘍抗原、ヒト腫瘍抗原の断片、ヒト腫瘍間質抗原、およびヒト腫瘍間質抗原の断片から好ましくは選択される、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセット、好ましくは真核生物発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1つのコピーを更に含む。
【0026】
本発明によると、弱毒化サルモネラ株は、標的細胞への前述のDNA分子の送達のために、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする発現カセットを含むDNA分子の細菌キャリアとして機能する。例えば腫瘍抗原、腫瘍間質抗原またはその断片などの異種抗原をコードするDNA分子を含む斯かる送達ベクターは、DNAワクチンと呼ばれる。
【0027】
遺伝子免疫は、従来のワクチン投与よりも有益であり得る。標的DNAは、かなりの期間にわたり検出可能なので、抗原のデポーとして作用する。いくつかのプラスミド中の配列モチーフは、GpC島のように、免疫刺激性であり、LPSおよび他の細菌成分による免疫刺激によってさらに強化されたアジュバントとして機能できる。
【0028】
生細菌ベクターは、リポ多糖(LPS)といった、独自の免疫調節因子をin situで産生するため、マイクロカプセル化などの他の形態での投与を上回る利点となり得る。また、サルモネラのような多くの細菌は、腸管内腔から、パイエル板のM細胞を経由し、最終的にリンパ節および脾臓に移行するので、免疫系の誘発部位にワクチンを標的化することが可能になるため、自然経路を入口として利用するのが有益だと証明されている。サルモネラ・チフィTy21aのワクチン株は、優れた安全性プロファイルを有することが最近実証された。腸管内腔からM細胞を経由する際に、細菌は、マクロファージや樹状細胞などの食細胞によって取り込まれる。これらの細胞は、病原体によって活性化され、分化し始め、そしておそらくリンパ節および脾臓に移行する。S.チフィTy21株の細菌は、弱毒化突然変異のため、これらの食細胞内で存続できず、この時点で死滅する。組換えDNA分子は、特定の輸送システムを介して、またはエンドソームの漏れのいずれかによって、放出され、続いて貪食免疫細胞のサイトゾルへ移動する。最終的に、組換えDNA分子は核に入り込む。核内で、それらの組換えDNA分子が転写され、食細胞のサイトゾル内で抗原が発現することになる。コードされている抗原に対する特異的細胞傷害性T細胞が、活性化した抗原提示細胞によって誘発される。
【0029】
S.チフィTy21aが全身の血流に侵入し得ることを示す今日利用可能なデータはない。よって、生弱毒化サルモネラ・チフィTy21aワクチン株は、優れた安全性プロファイルを示しながら、免疫系の特異的な標的化を可能にする。
【0030】
サルモネラ・エンテリカの弱毒化誘導体は、免疫の粘膜経路を介して、つまり経口または経鼻的に、送達できるため、哺乳動物の免疫系へ異種抗原を送達するための魅力的な媒体となる。これにより、非経口投与に比べ簡便かつ安全であるという利点がもたらされる。さらに、サルモネラ株は、全身および粘膜の両方のレベルで強い体液性および細胞性の免疫応答を誘発する。
【0031】
本発明の文脈において、用語「弱毒化」は、弱毒化変異を有することなく、親菌株と比較して病原性が減少した細菌株を指す。弱毒化細菌性株は、好ましくは、元の病原性を失ったが、防御免疫を誘発する能力は保持している。弱毒化は、病原性遺伝子、調節遺伝子、および代謝遺伝子を含む種々の遺伝子の欠失により達成できる。弱毒化細菌は、天然に見出され得る、あるいは例えば新しい培地又は細胞培養物に適用することによって実験室で人為的に作製され得る、あるいは組換えDNA技術によって作製され得る。約1011CFUの本発明によるサルモネラの弱毒化株の投与は、好ましくは、対象の5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは1‰にサルモネラ症を引き起こした。
【0032】
本発明の文脈において、用語「含む(comprises)」または「含む(comprising)」とは、「包含するがこれに限定されない(including, but not limited to)」という意味である。この用語は、言及する任意の特徴、要素、数、工程、または構成要素の存在を特定するのに、オープンエンドであることを意図するが、1つ以上の他の特徴、要素、数、工程、構成要素、またはそれらの存在または追加を排除しない。従って、用語「含む(comprising)」は、より制限的な用語「から成る(consisting of)」および「から本質的になる(essentially consisting of)」をも包含する。一実施形態では、本願、特に特許請求の範囲において使用される用語「含む(comprising)」は、用語「から成る(consisting of)」に置き換えられ得る。
【0033】
少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子は、好適には、異なる起源のDNAピースから好ましくは構成される組換えDNA分子、つまり、遺伝子操作されたDNA構築物である。前記DNA分子は、直鎖状核酸、または好ましくは、発現ベクタープラスミド内に少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードするオープンリーディングフレームを導入することによって作り出される環状DNAプラスミドである。
【0034】
本発明の文脈において、用語「発現カセット」は、その発現を制御する調節配列の制御下、少なくとも1つの抗原をコードする遺伝子または少なくとも1つのその断片を含む核酸単位を指す。サルモネラの弱毒化株に含まれる発現カセットは、好ましくは、標的細胞において少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードするオープンリーディングフレームの転写を媒介し得る。発現カセットは、典型的には、プロモーター、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム、および転写終結シグナルを含む。
【0035】
本発明の文脈において、「形質転換細胞クローン」という用語は、サルモネラ受容株の形質転換後に得られた単一コロニー由来の細胞集団を指す。その細胞は選択培地寒天平板から得られた単一コロニーに由来するので、その細胞のすべてが1つのシングル形質転換サルモネラ細胞に由来すると考えられる。しかしながら、形質転換後に得られた斯かる単一コロニー由来の細胞集団も、例えば他の細菌、真菌またはウイルスなどの混入物を含み得る。
【0036】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、サルモネラ・エンテリカ種、より特にはサルモネラ・チフィ、最も特にはサルモネラ・チフィTy21aの弱毒化株である。
【0037】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、サルモネラ・エンテリカ種である。特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、サルモネラ・チフィTy21aである。弱毒化S.チフィTy21a株は、Typhoral L(登録商標)(Vivotif(登録商標)としても知られるBerna Biotech Ltd., a Crucell Company, Switzerlandによって製造)の有効成分である。これは、腸チフスに対し現在認可されている唯一の経口生ワクチンである。このワクチンは広範に検査済みであり、患者に対する毒性並びに第三者への感染について安全であることが証明されている(Wahdan et al., J. Infectious Diseases 1982, 145:292-295)。このワクチンは、40カ国超で承認されている。Typhoral L(登録商標)の販売許可番号は、PL 15747/0001である(1996年12月16日付)。ワクチンの1回分の用量に、少なくとも2x109コロニー形成単位の生S.チフィTy21a、および少なくとも5x109個の非生存S.チフィTy21a細胞が含まれる。
【0038】
サルモネラ・チフィTy21a細菌株の生化学的特性の一つは、ガラクトースを代謝できないことである。また、この弱毒細菌株は、スルファートからスルフィドに還元できず、これにより野生型サルモネラ・チフィTy2株と区別される。その血清学的特性に関しては、サルモネラ・チフィTy21a株は、細菌の外膜の多糖類であるO9抗原を含み、一方サルモネラ・チフィリウムの特徴的な成分であるO5抗原を欠く。この血清学的特性は、バッチリリース用の同一性試験のパネルにおける各検査を含む理論的根拠の裏づけとなる。
【0039】
特定の実施形態では、S.チフィTy21a受容株、つまり、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を用いて形質転換すべきS.チフィTy21a細胞は、生化学的修飾なしに市販のTyphoral L(登録商標)カプセルに基づいて作出される。寒天平板上での一晩の培養後に、単一コロニーが単離され、100mlのTSB培地中で37℃にて一晩培養される。次に、培養物は、15%の無菌グリセロールと共に処方され、等分され(1ml)、ラベルされ、凍結され、そして、使用するまでマスター細胞バンクとして-75℃±5℃にて保存した。
【0040】
特定の実施形態では、これにより得られたS.チフィTy21a受容株の細菌株同一性は、ブロモチモールブルーガラクトース寒天培地および/またはKligler鉄寒天培地で該株を培養することによって確認され得る。マスター細胞バンクとして使用される斯かる寒天平板上のS.チフィTy21aコロニーの特徴は、表1に記載される。
【0041】
特定の実施形態では、バクテリオファージの検出は、適切な宿主と、試験されるサンプルまたはファージの対照懸濁液のいずれかを含む軟寒天重層中で平板培養することによって行われ得る。このアッセイの感度を改善するために、潜行する濃縮ステップが含まれてもよい。この任意選択のステップでは、サンプルが、適切な宿主細胞と共に4時間インキュベートされる。それに続いて、これらの濃縮培養物のそれぞれのうちの1つのサンプルが平板培養される。
【表1】
【0042】
特定の実施形態では、調製した受容株アリコートの生菌数は、107~1011、より特には108~1010、最も特には約109CFU/mlである。
【0043】
特定の実施形態では、発現カセットは、真核生物発現カセットである。本発明の文脈において、用語「真核生物発現カセット」とは、真核細胞におけるオープンリーディングフレームの発現を可能にする発現カセットを指す。異種抗原の量が十分な免疫応答を誘発するのに必要な量だと、細菌に対して毒性であり得るので、細胞死、異種抗原の過剰な弱毒化や発現の喪失を生じ得ることが示されている。細菌ベクター中では発現されず、標的細胞内でのみ発現される真核生物発現カセットを使用すると、この毒性についての問題を克服することができ、発現されたタンパク質は、真核生物のグリコシル化パターンを示し得る。
【0044】
真核生物発現カセットは、真核細胞内のオープンリーディングフレームの発現を制御可能な調節配列、好ましくはプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含む。本発明のサルモネラの弱毒化株に含まれる組換えDNA分子に包含されるプロモーターおよびポリアデニル化シグナルは、好ましくは、免疫化されるべき対象の細胞内で機能的であるように選択される。特にヒト用のDNAワクチンの製造に適切なプロモーターとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、例えば、強力なCMV即時初期プロモーター;サルウイルス40(SV40)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、例えば、HIVの長い末端反復(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)由来のプロモーター;並びに、ヒト遺伝子、例えば、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、及びヒトメタロチオネイン遺伝子由来のプロモーター。特定の実施形態において、真核生物発現カセットは、CMVプロモーターを含む。本発明の文脈において、用語「CMVプロモーター」は、強力な即時初期サイトメガロウイルスプロモーターを指す。
【0045】
特にヒト用のDNAワクチンの製造に適切なポリアデニル化シグナルとしては、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位、SV40ポリアデニル化シグナル、およびLTRポリアデニル化シグナルが挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、本発明のサルモネラの弱毒化株に含まれるDNA分子に包含される真核生物発現カセットは、BGHポリアデニル化部位を含む。
【0046】
プロモーターおよびポリアデニル化シグナルのような異種抗原をコードする遺伝子の発現に必要な調節因子に加えて、他の因子も組換えDNA分子に含めることができる。このような追加的な因子としてはエンハンサーが挙げられる。エンハンサーとしては、例えば、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチンのエンハンサー、およびCMV、RSV、およびEBV由来のウイルスエンハンサーなどが挙げられる。
【0047】
調節配列及びコドンは、一般的に種に依存するので、タンパク質の産生を最大にするように、調節配列及びコドンは、好ましくは、免疫対象の種において有効であるように選択される。当業者は、所定の対象種において機能的な組換えDNA分子を作成できる。
【0048】
特定の実施形態では、前述の抗原は、腫瘍抗原および腫瘍間質抗原から成る群から選択される。特に、前述の抗原は、ヒト腫瘍抗原およびヒト腫瘍間質抗原から成る群から選択され、より特にはヒト野生型腫瘍抗原、ヒト野性型腫瘍抗原と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、ヒト野性型腫瘍間質抗原、およびヒト野性型腫瘍間質抗原と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの発現カセットは、少なくとも1つの抗原の少なくとも1つの断片、より特には腫瘍抗原の少なくとも1つの断片および/または腫瘍間質抗原の少なくとも1つの断片、より特には、ヒト野性型腫瘍抗原またはヒト野性型腫瘍間質抗原と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質の断片を含めた、少なくとも1つのヒト腫瘍抗原および/または少なくとも1つのヒト腫瘍間質抗原の少なくとも1つの断片をコードする。特定の実施形態では、少なくとも1つの抗原の少なくとも1つの断片は、参照抗原の少なくとも5つの連続したアミノ酸、より特には少なくとも6、7、8、9、10、15、20、25の参照抗原のアミノ酸を含む。特定の実施形態では、少なくとも1つの抗原断片は、参照抗原の少なくとも1個のエピトープ、より特には少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、80または100個のエピトープを含む。特定の実施形態では、少なくとも1つの抗原断片は、1~100、1~75、1~50、または1~25個のエピトープ、特に1~10個のエピトープ、より特には1~5個のエピトープを含む。本発明の文脈において、「エピトープ」という用語は、抗原と、例えば抗体などの抗原結合性分子との間の特異的結合に参加する所定の抗原の一部を指す。エピトープは、連続していても、つまり、抗原内に存在する隣接している構造要素によって形成されていても、または非連続的であっても、つまり、抗原の一次配列、例えば抗原タンパク質のアミノ酸配列などの異なる位置に存在するにもかかわらず、例えば体液中などで抗原がとる三次元構造では極めて接近している構造要素によって形成されていてもよい。本発明に関する教示によると、抗原の少なくとも1つの断片は、抗原の断片が免疫原性である限り、参照抗原のアミノ酸をいくつ含んでもよい。好ましくは、少なくとも1つの抗原断片の免疫原性は、ELISAによって計測した場合またはELISpotによって計測した場合、参照抗原と比較して50%未満、40%未満に、30%未満に、20%未満に、10%未満、5%未満または1%未満低減される。
【0049】
本発明の文脈において、「腫瘍抗原」という用語は、腫瘍細胞で発現される抗原を指す。典型的には、斯かる腫瘍抗原は、腫瘍細胞によって優先的に発現される、つまり、それらは、非悪性細胞で発現されてもごく僅かであるか、または特定の非悪性組織でしか発現されない。対照的に、腫瘍間質抗原は、腫瘍間質によって、例えば、腫瘍血管系によって発現される。斯かる腫瘍間質抗原の一例がVEGFR-2であり、そしてそれは、腫瘍血管系によって高度に発現される。特定の実施形態では、コードされているVEGFR-2抗原は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するか、またはそれと少なくとも約80%の配列同一性を有する。腫瘍間質抗原の別の例は、ヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)である。腫瘍抗原は、所定のタイプの癌または一般的な癌の大部分で一般的に発現される既知の腫瘍抗原から選択され得る。また、「腫瘍抗原」という用語は、新生抗原、つまり、腫瘍特異的突然変異の結果として生じる腫瘍特異的抗原も含む。これらの新生抗原は、患者特異的であっても、または多くの癌患者に起こっていてもよい。特定の実施形態では、腫瘍抗原は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)およびそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するヒトメソテリン(MSLN)およびそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するヒトCEAおよびそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65およびそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65およびそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、ならびに配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65およびそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、から成る群から選択される。
【0050】
特定の実施形態では、ヒトVEGFR-2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、ヒトメソテリン(MSLN)は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、ヒトCEAは、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有し、CMV pp65は、配列番号6、配列番号7または配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する。
【0051】
また、腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原は、患者特異的腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原、つまり、ある特定の患者の腫瘍細胞または腫瘍間質によって発現されることが示された抗原であってもよい。患者特異的腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原は、mRNAまたはタンパク質レベルでの患者の腫瘍および/または腫瘍間質に関する発現プロファイルを評価することによって同定され得る。あるいは、患者の腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原に対する既存のT細胞性免疫応答が評価されてもよい。患者特異的腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原を同定した後に、本発明による方法は、癌免疫療法に好適な安全かつ十分に特徴づけされている患者特異的DNAワクチンの迅速な製造を可能にする。典型的には、抗原をコードする発現プラスミドの作出、サルモネラ受容株への形質転換、候補クローンの特徴づけおよび選択、そして、患者に投与されるべき最終的なDNAワクチンの更なる特徴づけを含めた全製造工程には、4週間未満、特に3週間未満、および典型的には最短16日かかる。
【0052】
本発明の文脈において、用語「所定の配列の腫瘍抗原または腫瘍間質抗原と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質」は、所定の参照タンパク質のアミノ酸配列および/または該アミノ酸をコードする核酸配列が異なるタンパク質を指す。このタンパク質は、天然由来、例えば、腫瘍抗原または腫瘍間質抗原のホモログであってもよく、あるいは改変タンパク質であってもよい。コドンの使用頻度は、種間で異なることが知られている。したがって、標的細胞において異種タンパク質を発現させる際に、核酸配列をその標的細胞のコドン使用頻度に適合させることが必要または少なくとも役立つことがあり得る。所定のタンパク質の誘導体を設計および構築する方法は当業者によく知られている。
【0053】
所定のアミノ酸配列の腫瘍抗原または腫瘍間質抗原と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質は、所定の参照アミノ酸配列と比較した場合に、1つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、および/または置換を含む1つまたは複数の変異を含み得る。本発明の教示によれば、上述の欠失、付加、および/または置換アミノ酸は、連続したアミノ酸であってもよく、あるいは、所定の腫瘍抗原または腫瘍間質抗原と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質のアミノ酸配列の全長にわたり散在していてもよい。本発明の教示によれば、参照腫瘍抗原または腫瘍間質抗原との配列同一性が少なくとも約80%であり、かつ、変異した腫瘍抗原または腫瘍間質抗原タンパク質が免疫原性である限り、任意の数のアミノ酸が、付加、欠失、および/または置換され得る。好ましくは、所定のアミノ酸配列の参照腫瘍抗原または腫瘍間質抗原と少なくとも約80%の配列同一性を有する腫瘍抗原または腫瘍間質抗原の免疫原性は、ELISAによって計測した場合、またはELISpotによって計測した場合、所定のアミノ酸配列の参照腫瘍抗原または腫瘍間質抗原と比較して、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満または1%未満低減される。タンパク質ホモログを設計および構築する方法、およびそれらの免疫原性に関して斯かるホモログを試験する方法は、当業者にとって周知である。特定の実施形態では、所定のアミノ酸配列の所定の腫瘍抗原または腫瘍間質抗原との配列同一性は、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または、最も特には少なくとも約95%である。親タンパク質と、親配列に対し欠失、付加、および/または置換を有するその誘導体との比較を含む配列同一性を決定するための方法およびアルゴリズムは、当技術分野の通常の技術の知識を有する者によく知られている。DNAレベルでは、所定のアミノ酸配列の腫瘍抗原または腫瘍間質抗原と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列は、遺伝子コードの縮重により、より大きな程度で異なっていてもよい。
【0054】
特定の実施形態では、前述の少なくとも1つのDNA分子は、選択マーカーとしてのカナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori、および前述の抗原をコードする真核生物の発現カセットを、CMVプロモーターの制御下で含み、特にここで、前述のDNA分子がDNAプラスミドであり、より特にはここで、該DNAプラスミドが、配列番号1に見られる核酸配列を含む。
【0055】
特定の実施形態では、DNA分子は、市販のpVAX1(商標)発現プラスミド(Invitrogen, San Diego, California)由来の組換えDNA分子である。pVAX1は、ベクターpcDNA3.1を修飾することによるDNAワクチンの開発に使用するために特別に設計された、真核細胞内でタンパク質を発現するためのプラスミドベクターである。哺乳動物細胞内での細菌の複製または組換えタンパク質の発現に必要でない配列を取り除いて、ヒトゲノムに対して相同性を有し得るDNA配列を制限することで、染色体組込みの可能性を最小限にした。さらに、アミノ配糖体抗生物質がヒトのアレルギー応答を誘発しにくいので、pcDNA3.1のアンピシリン耐性遺伝子はカナマイシン耐性遺伝子によって置換された。
【0056】
pVAX1(商標)ベクターは、以下の要素:哺乳動物細胞における高レベルでの発現のためのヒトサイトメガロウイルス前初期(CMV)プロモーター、mRNAの効率的な転写停止およびポリアデニル化のためのウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、ならびに選択マーカーとしてのカナマイシン耐性遺伝子を包含する。
【0057】
加えて、pVAX1(商標)は、クローン遺伝子の配列決定およびインビトロ翻訳を可能にするために、着目の遺伝子の挿入のための多重クローニング部位、ならびにT7プロモーター/プライミング部位上流および多重クローニング部位のBGHリバースプライミング部位下流を包含する。
【0058】
市販のpVAX1(商標)発現ベクターは、高コピー数のpUC複製開始点をpBR322の低コピー数のpMB1複製開始点で置換することによってさらに修飾された。代謝負担を低減し、かつ、構築物をより安定化するために、低コピー修飾がおこなわれた。作出された発現ベクター骨格は、pVAX10と命名された。重要なことに、293Tヒト細胞株を使用したトランスフェクション実験から得られたデータは、pVAX10にコードされたカナマイシン耐性遺伝子がヒト細胞内で翻訳されないことを実証した。これにより、その発現系は、規制上の要件に準拠している。
【0059】
特定の実施形態では、弱毒化サルモネラ受容株内に形質転換される少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子は、少なくとも1つの抗原cDNAまたは少なくとも1つのその断片をpVAX10ベクター骨格内にクローニングすることによって作出される。
ベクター骨格は、pVAX10ベクター骨格内にクローニングされたヒトVEFGR-2のcDNAを含有する、プラスミドpVAX10.VR2-1から単離され得る。VEGFR-2 cDNAは、pVAX10.VR2-1から切り出されることができ、次に、pVAX10ベクター骨格は、アガロースゲル電気泳動法によって単離され得る。
【0060】
特定の実施形態では、cDNA挿入物の合成が、二本鎖のインビトロ遺伝子合成によって行われる。合成工程のステップは、
図3に提示される。
【0061】
特定の実施形態では、前述のサルモネラの弱毒化株は、ステップ(a)において、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む前述の少なくとも1つのDNA分子を用いて、エレクトロポレーションによって形質転換される。
【0062】
特定の実施形態では、市販のTyphoral L(登録商標)カプセルに基づくS.チフィTy21a株マスター細胞バンク(MCB)が、バッチ製造クローンの調製のための出発株として使用される。エレクトロポレーション用のコンピテント細胞を得るために、S.チフィTy21a MCBが、500mlの氷冷H2O中に再懸濁され、そして、遠心分離される。氷冷水/10%のグリセロールによる2回の追加洗浄後に、ペレットは、2mlの10%のグリセロール(動物成分不含)中に再懸濁され、等分され(50μl)、そして、ドライアイス上で凍結させる。コンピテント細胞バッチは、新しいコンピテント細胞バッチが新たに作製されてから最長4週間、<-70℃にて保存される。形質転換のために、コンピテント細胞の1つのアリコートが、解凍され、3~5μlの所望の抗原をコードするプラスミドDNAの存在下でエレクトポレーション処理される。1mlのLB(ACF)培地中での37℃にて短時間の培養期間に続いて、細胞懸濁液は、カナマイシン(25および50μg/mL)を含有するLB(ACF)寒天平板上に画線接種される。その平板は、37℃にて一晩インキュベートされる。
【0063】
バッチ製造クローンの調製のための少なくとも1つの形質転換細胞クローンの選択を可能にするために、少なくとも1つの単一コロニー、典型的には1~10個のコロニー、より特には2~5個のコロニーが試験される。好都合なことに、3つの単一コロニーが、カナマイシン(50μg/ml)を含有する3mlのLB培地(ACF大豆ペプトン)に植菌するのに使用される。培養物は、37℃にて一晩インキュベートされる。プラスミドDNAが単離され、そして、選択されたクローンが50μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地中に広げる。培養物は、10%(v/v)のグリセロールと混合され、等分され(1ml)、そして、-70℃にて冷凍されて保存される。
【0064】
特定の実施形態では、以下の分析パラメータ:OD600、pHおよびCFUによって決定される選択培地中での培養するときの経時的な増殖キネティックス;凍結保存後のプラスミド安定性(%PS);プラスミド制限分析によるプラスミドDNA抽出および同一性の確認;ならびに真核細胞株へのプラスミドDNAの一過性トランスフェクション後の抗原発現効果の測定、のうちの少なくとも1つが、バッチ製造クローンの選択のために、ステップ(b)で評価される。特定の実施形態では、次に、バッチ製造クローンは薬剤原料(DS)を製造するために使用され、そしてそれは、次に、ステップ(c)において更に特徴づけされて、患者に投与される最終的な薬剤製品(DP)が確定される。
【0065】
よって、特定の実施形態では、ステップ(b)は、以下のサブステップ(bi)~(biv):(bi)経時的に、ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細胞増殖を評価し;(bii)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおける少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子の安定性を評価し;(biii)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、そして、制限分析および/またはシークエンシングによって、少なくとも1つの単離されたDNA分子を特徴づけし;(biv)ステップ(a)で得られた少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、該少なくとも1つの単離されたDNA分子を少なくとも1つの真核細胞にトランスフェクトし、そして、前述の少なくとも1つの真核細胞において該少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現を評価する、のうちの少なくとも1つを含む。
【0066】
特に、ステップ(bii)は、前述の少なくとも1つの形質転換細胞クローンの凍結とその後の解凍の後に実施され得る。
【0067】
特に、ステップ(biv)は、サルモネラ受容株の形質転換後に得られた単一コロニーから単離されるプラスミドDNAを用いてHEK293T細胞をトランスフェクトし、そして、コードされている抗原の適切な抗体を使用した、細胞抽出物のウエスタンブロット分析をおこなうことによって実施され得る。
【0068】
特定の実施形態では、ステップ(b)は、前述のサブステップ(bi)、(bii)、(biii)および(biv)のうちの1つ、2つ、3つ、または4つすべてを含む。
【0069】
特定の実施形態では、ステップ(b)は、サブステップ(bi)、(bii)および(biii)のみを含む。
【0070】
増殖特性、プラスミド安定性、プラスミド同一性および/またはタンパク質発現の試験から得られたデータを検討した後に、少なくとも1つの形質転換細胞クローンが、バッチ製造クローンとして選択される。特定の実施形態では、次に、バッチ製造クローンは、薬剤原料(DS)を調製するのに使用され、そしてそれは、次に、ステップ(c)において更に特徴づけされて、患者に投与するための最終的な薬剤製品(DP)が確定される。
【0071】
【0072】
薬剤原料(DS)の製造は、好都合なことに、以下に記載したとおり実施され得る:DSは、典型的には、GMP要件に従って製造される。少なくとも1つのバッチ製造クローンは、25μg/mlのカナマイシンを加えたTSB培地が入った3本の50mlフラスコに移される(前培養1)。コロニーは、30℃にて9時間±1時間にわたり<1.0の最大OD600まで培養される。それぞれのフラスコの撹拌は、120rpmに設定される。最も高いOD値を有するフラスコが、更なる培養のために選択される。50mlの体積の前培養1を、25μg/mlのカナマイシンを加えた1000mlのTSB培地が入ったフラスコに移す(本培養)。180rpmの撹拌セットを用いた、30℃にて9時間±1時間のインキュベーション後に、細菌は0.9~1.5の目標OD600まで培養される。発酵が完了した時点で、グリセロールが15%(w/w)の終濃度まで培養物に加えられる。懸濁液は、混合され、次に、2mlの凍結バイアル中に等分される(1ml)。そのバイアルは、ラベルが付され、そして、保管のため-75℃±5℃にてすぐに冷凍される。記載した工程ワークフローが薬剤原料を製造するのが可能な方法の一つを記載したにすぎないことは、理解すべきである。もちろん、工程パラメータ、例えば、培養液量は変更されてもよい。
【0073】
次に、薬剤原料は、更に試験されて、最終的な薬剤製品濃度までそれが希釈される。公開仕様書が、薬剤原料および薬剤製品の両方について規定された。表2および表3にまとめられた特性のうちの少なくとも1つが試験される。
【表2】
【表3】
【0074】
よって、特定の実施形態では、ステップ(c)は、以下のサブステップ(ci)~(civ):(ci)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細胞懸濁液1mlあたりの生細胞数を評価し;(cii)ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンにおける少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子の安定性を評価し;(ciii)ステップ(c)で選択された該少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、そして、制限分析および/またはシークエンシングによって、少なくとも1つの単離されたDNA分子を特徴づけし;(civ)ステップ(c)で選択された該少なくとも1つの形質転換細胞クローンから、少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片をコードする少なくとも1つの発現カセットを含む少なくとも1つのDNA分子を単離し、該少なくとも1つの単離されたDNA分子を少なくとも1つの真核細胞にトランスフェクトし、そして、前述の少なくとも1つの真核細胞において該少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現を評価し;(cv)ステップ(c)で選択された該少なくとも1つの形質転換細胞クローン中の細菌、真菌および/またはウイルス混入物の存在を試験し;(cvi)ステップ(c)で選択された該少なくとも1つの形質転換細胞クローンの細菌株の同一性を確認する、のうちの少なくとも1つを含む。
【0075】
特定の実施形態では、サブステップ(cii)は、前述の少なくとも1つの形質転換細胞クローンの凍結とその後の解凍の後に実施される。
【0076】
特定の実施形態では、ステップ(c)は、前述のサブステップ(ci)、(cii)、(ciii)、(civ)、(cv)および(cvi)のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つすべてを含む。
【0077】
特定の実施形態では、ステップ(c)は、サブステップ(ci)、(cii)、(ciii)、(cv)および(cvi)を含む。
【0078】
特に、生細胞数は、寒天平板上で段階希釈物を平板培養することによって測定されてもよい。好都合なことに、10-8の希釈係数に至るまでの細菌懸濁液の段階希釈物が調製され、そして、寒天平板上で平板培養される。適切なインキュベーション後に、コロニーがカウントされる。カウントは、コロニーがはっきり見えるが、それほど大きくないときに、開始すべきである。
【0079】
プラスミド安定性は、プラスミド含有サルモネラ細菌のカナマイシン耐性に基づいて測定され得る。カナマイシン含有TSB上での細菌細胞の増殖は、カナマイシン耐性遺伝子をコードするプラスミドの存在を示す。カナマイシン含有および不含のTSB上で平板培養された同じサンプルのCFUを比較することで、該プラスミドを担持する細菌の画分の決定が可能になる。特に、細菌懸濁液の段階希釈は、調製され、そして、任意選択で抗生物質のカナマイシンを含有するTSB上で平板培養される。適切なインキュベーション後に、コロニーがカウントされた。カウントは、コロニーがはっきり見えるが、それほど大きくないときに、開始すべきである。プラスミド安定性は、次のようにしてカナマイシン含有または不含TSB上のコロニー形成単位を比較することによって計算される:PST=(カナマイシンありのCFU/カナマイシンなしのCFU)×100。
【0080】
プラスミドの同一性は、サイズマーカーと、ワクチン株から単離された消化プラスミドのサイズパターンとの比較によって規定され得る。特に、組換えプラスミドは、担体から単離され、そして、適切な時間にわたり、別々の反応において、少なくとも1つ、典型的には少なくとも2つの別々の消化酵素/組み合わせ物で消化される。反応は、止められ、そして、アガロースゲルにより分析される。
【0081】
遺伝子構築物の同一性は、更に、プラスミドの古典的なDNA配列決定により決定され得る。プラスミド全体の配列は、配列決定によって決定され、そして、プラスミドの本来の配列に対してアラインされる。特に、プラスミドは、サルモネラから調製され、そして、定量化される。それは、次に、E.コリで再び形質転換され、単離され、定量化され、そして、配列決定反応に使用される。
【0082】
真核細胞における少なくとも1つの抗原または少なくとも1つのその断片の発現は、真核細胞株内へのプラスミドトランスフェクション後に発現解析とウエスタンブロット法によって確認され得る。特に、組換え構築物は、担持株から単離され、そして、好適な真核生物永久細胞株のトランスフェクションに使用される。真核生物プロモーターの存在により、コード配列が発現される。好適なインキュベーション、タンパク質単離とそれに続くウエスタンブロット法の後に、組換えタンパク質の存在が実証され、そして、準定量ベースで参照物質と比較される。
【0083】
特定の実施形態では、細菌および/または真菌混入物の存在は、少なくとも1つの好適な選択培地中またはその上での、ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンを培養することによって、ステップ(cv)において試験される。特に、全好気性細菌、カビ、および真菌のカウントを測定するために、および特定の病原性エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、サルモネラ亜種(Salmonella sp.)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)およびクロストリジウム亜種の不存在を確認するために、サンプルは、好適な選択培地を使用して、European Pharmacopoeia 04/2009:1055 <Thyphoid Vaccine (Live, oral, strain Ty 21a)>のモノグラフに従って試験され得る。特に、試験は、European Pharmacopoeia Ph. Eur. monographs 2.6.12および2.16.13に従っておこなわれる。
【0084】
特定の実施形態では、細菌株の同一性は、ステップ(cvi)において、ブロモチモールブルーガラクトース寒天培地(BTB-Gal)上および/またはKligler鉄寒天培地(KIA)で、ステップ(c)で選択された少なくとも1つの形質転換細胞クローンを培養することによって、および/またはサルモネラO5および/またはO9表面抗原の存在を評価することによって、確認される。
【0085】
生化学的同定テストは、微生物の生化学的性質(主にガラクトース発酵と硫化物産生)を検出する2つの選択培地に依存する。他のサルモネラ種とは対照的に、弱毒化ワクチン株Ty21aはガラクトースを代謝できない。BTB-Gal寒天培地での培養は、培地の色を変化させることなく、緑色~黄色がかったコロニーをもたらす。対照的に、BTB-Gal上での野性型サルモネラの培養は、ガラクトースの代謝中の酸産生とそれに続くpH指示薬(ブロムチモールブルー)の色変化により、培地の強い黄色の着色をもたらす。S.チフィTy21aは、BTB-Gal上で増殖するとき、形態学的に異なるサブクローンを構築する可能性がある。この更なるタイプは、特徴的なサルモネラコロニー上およびその間の小さくて、灰色のコロニーの遅い増殖を特徴とする。
【0086】
Kligler鉄寒天培地は、腸内細菌のメンバーを識別するのに使用される。この培地の性質は、デキストロースとラクトースを代謝して、硫化物を遊離させる腸内細菌の能力に基づいている。Ty21aワクチン株は、赤色から黄色にpH指示薬の色変化によって示されるデキストロースを代謝できる。しかしながら、菌株S.チフィTy21aは、スルファートをスルフィドに還元することができないが、一方、他のサルモネラは、硫化水素産生中に培地の色を黒くし、および寒天培地内部に気泡生成をもたらすガスを遊離する。S.チフィTy21aの増殖は、ガス産生をもたらし得るが、この株にとって典型的ではない。P.エルギノーサのようにどちらの糖も代謝できない生物体は、培地の色を変化させない。
【0087】
特に、細菌株の同一性は、以下に記載のように生化学的に確認され得る。ループの完全に解凍された懸濁液が、BTB-Gal寒天平板に移され、そして、単一コロニーを得るのに適切な画線接種方法が適用される。対照生物体P.エルギノーサ(ATCC9027)およびS.チフィムリウム(Moskau)の植菌が、microbank(登録商標)(培養微生物の貯蔵方式)のビーズを移し、それに続いて寒天平板上に画線接種することによって行われる。KIAの植菌のために、同じバイアルのループ(ビーズ)は、最初に、斜面培地の表面に画線接種され、次に、残片の中に送り込まれる。培地は、37℃にて48時間インキュベートされる。
【0088】
サルモネラ属の異なる血清型は、適切なポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を使用することで識別できる。弱毒化組換えS.チフィTy21a株は、外膜の多糖類であるO9抗原を含有する。S.チフィは、O9を担持するが、同様にしてS.チフィムリウムの特徴であるO5を欠いている。O5およびO9抗原に関する試験の組み合わせによって、S.チフィTy21a株は、他の細菌、特に、野性型サルモネラ種から十分に識別され得る。特に、血清型は、以下に記載のように行われ得る。1滴の抗血清(O5またはO9)がチャンバースライドに移される。原料を含有するコロニーのループは、KIAの下(濡れた)側から採取され、抗血清の横に配置される。溶液はそのループと混合される。得られた懸濁液は、わずかに濁っているはずである。懸濁液は、チャンバースライドの何回かの拭き取りによって広げられる。反応物は2分後に黒色の背景に対して評価される。
【0089】
第二の態様では、本発明は、本発明による方法によって入手可能なDNAワクチンに関する。
【0090】
第三の態様では、本発明は、癌免疫療法における使用のための本発明によるDNAワクチンに関する。
【0091】
特定の実施形態では、癌免疫療法は個別化癌免疫療法を含む。
【0092】
特定の実施形態では、癌免疫療法は、腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原をコードする発現カセットを含む少なくとも1コピーのDNA分子を含む1つまたは複数の更なるサルモネラの弱毒化株を投与することを更に含み、特に、ここで、前記1つまたは複数の更なるサルモネラの弱毒化株は、真核生物発現カセットを含むサルモネラ・チフィTy21aであり、より特には、ここで、前記1つまたは複数の更なるサルモネラの弱毒化株は、ヒトVEGFR-2および/またはヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)および/またはヒトメソテリン(MSLN)および/またはヒトCEAおよび/またはヒトCMVのpp65をコードするサルモネラの弱毒化株を含む。
【0093】
2の異なる腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原標的化DNAワクチンを組み合わせることで、相乗的な抗癌効果を有し得る。特に、異なる腫瘍抗原/腫瘍間質抗原の同時標的化は、腫瘍回避のリスクを最小限にし得る。腫瘍間質抗原標的化DNAワクチンと、腫瘍抗原標的化DNAワクチンとを組み合わせることは、腫瘍細胞および腫瘍間質が同時に攻撃されるので、特別な効果を示し得る。
【0094】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、前記1つまたは複数の更なるサルモネラの弱毒化株と共に同時投与される。
【0095】
本発明の文脈において、用語「同時投与(co-administration)」または「同時投与(co-administer)」は、連続した3日間以内、より特には連続した2日間日以内に、より特には同日に、より特には12時間以内に、2つの異なるサルモネラの弱毒化株を投与することを意味する。本発明の文脈において、特定の場合、用語「同時投与」は、2つの異なるサルモネラの弱毒化株を同時に投与することを意味する。
【0096】
特定の実施形態では、患者は最初に、患者が罹患している癌のタイプで一般的に過剰発現されている腫瘍抗原または腫瘍間質抗原を標的化するTy21aベースのDNAワクチンを投与されてもよい。この第一選択治療中に、患者特異的腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原が同定されてもよい。この目的のために、患者の腫瘍および/または間質抗原発現パターン、および/または、腫瘍および/または間質の抗原に対する患者の既存のT細胞性免疫応答は、例えば、患者の特異的腫瘍および/または間質抗原パターンを標的化するコンパニオン診断によって、第1ステップで評価されてもよい。次に、本発明による方法は、安全かつ十分に特徴づけされている患者特異的(個別化)DNAワクチンの迅速な確定を可能にし、そしてそれは、患者特異的腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原の識別のほんの数週間後に、第二選択治療または主たる治療として使用され得る。
【0097】
特定の実施形態では、癌免疫療法は、化学療法、放射線療法、または生物学的癌療法を伴う。癌の治療にとっては、癌幹細胞の完全な根絶が重要である。効力を最大にするために、異なる治療アプローチを組み合わせることが有益であり得る。
【0098】
本発明の文脈において、「生物学的癌療法」という用語は、生きた生物、生きた生物由来の物質、または斯かる物質の研究室で製造されたバージョンの使用を伴う癌療法を指す。癌向けの一部の生物療法は、癌細胞に対して作用するように身体の免疫系を刺激することを目指す(いわゆる、生物学的癌免疫療法)。生物学的癌治療のアプローチとしては、腫瘍抗原を送達すること、薬剤として治療抗体を送達すること、免疫刺激性サイトカインを投与すること、および免疫細胞を投与することが挙げられる。治療用抗体としては、腫瘍抗原または腫瘍間質抗原を標的化する抗体、ならびに例えば、これだけに限定されるものではないが、抗PD-1、抗PD-L1および抗CTLA4などのチェックポイント阻害剤として機能する抗体が挙げられる。
【0099】
本発明のサルモネラの弱毒化株と組み合わせて使用できる化学療法剤としては、例えば、以下が挙げられる:ゲムシタビン、アミフォスチン(エチオール)、カバジタキセル、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、メクロレタミン、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ニムスチン(ACNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ドキソルビシンリポ(ドキシル)、フォリン酸、ゲムシタビン(ジェムザール)、ダウノルビシン、ダウノルビシンリポ(ダウノキソーム)、プロカルバジン、ケトコナゾール、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキサート、5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT-11、10-ヒドロキシ-7-エチル-カンプトテシン(SN38)、ダカルバジン、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンα、インターフェロンβ、イリノテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、オキサリプラチン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパルガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、およびそれらの組み合わせ。
【0100】
起こる可能性のある副作用の発生により抗生物質や抗炎症薬を用いる治療を含むのが有利なことがある。
【0101】
ヒスタミン、ロイコトリエン、またはサイトカインが媒介する過敏反応に似た有害事象が発生した場合、発熱、アナフィラキシー、血圧不安定、気管支痙攣、および呼吸困難に対する治療という選択肢がある。不要なT細胞による自動攻撃の場合、治療の選択肢は、幹細胞の移植後に起こる急性および慢性の移植片対宿主病における標準的な治療スキームに基づく。シクロスポリンやグルココルチコイドが、治療の選択肢として提案されている。
【0102】
サルモネラ・チフィTy21a型の感染の可能性が低い場合、適切な抗生物質、例えば、シプロフロキサシンまたはオフロキサシンを含むフルオロキノロンを用いた治療が推奨される。胃腸管の細菌感染は、リファキシミンのような各種薬剤を用いて治療することになる。
【0103】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、化学療法または放射線療法の治療サイクルの前もしくはその間、または生物学的癌療法の前もしくはその間、あるいは、化学療法または放射線療法の治療サイクルの前もしくはその間、または生物学的癌療法の前もしくはその間に投与される。このアプローチは、化学療法又は放射線療法を、癌免疫を強めた条件下で行うことができるという利点を有し得る。
【0104】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、化学療法または放射線療法の治療サイクルの後、または生物学的癌療法の後に投与される。
【0105】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、経口的に投与される。経口投与は、非経口投与よりも簡単、安全、そして安楽である。対照的に、細菌生ワクチンの静脈内投与は、当初、敗血症タイプの安全性リスクに関連する菌血症を引き起こし、そのため、注意した観察及び臨床学的症状、例えばサイトカイン放出のモニタリングを必要とする。本発明の弱毒化株の経口投与は、記載されるリスクを少なくとも部分的に克服することができる。しかしながら、本発明のサルモネラの弱毒化株はまた、他の任意の適切な経路によっても投与され得ることは注目されるべきである。好ましくは、治療的有効量を対象に投与する。この量は、特定の用途、悪性腫瘍の種類、対象の体重、年齢、性別、健康状態、投与の方法、および処方等に依存する。投与は、必要に応じて、単回または複数回行ってもよい。
【0106】
本発明のサルモネラの弱毒化株は、溶液、懸濁液、凍結乾燥物、または他の適切な任意の形態で提供できる。これは、医薬的に許容される担体、希釈剤、および/または賦形剤と組み合わせて設けてもよい。pH調整剤、緩衝剤、毒性調整剤などを含めてもよい。本発明の文脈において、用語「医薬的に許容される」とは、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与したとき、生理学的に許容可能で、典型的には予期しない有害反応を生じない医薬組成物の分子的な実体物および他の成分を指す。また、用語「医薬的に許容される」は、哺乳動物、特にヒトにおける使用に関し、連邦政府の規制当局または州政府によって承認されること、あるいは米国薬局方その他の一般に認められた薬局方のリストに載っていることを意味することもある。
【0107】
本発明のワクチンは、比較的低用量でも驚くほど効果的である。特定の実施形態では、1回分の用量は、約105~約1011、特に約106~約1010、より特には約106~約109、更により特には約106~約108、最も特には、約106~約107コロニー形成単位(CFU)である。この細菌性生ワクチンは低用量で投与するので、排出のリスクが低減し、第三者への感染も最小限に抑える。
【0108】
この文脈において、「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、特定の値または範囲の3倍以内、あるいは、2倍以内(1.5倍以内を含む)を意味する。
【0109】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、例えば、患者の特異的腫瘍および/または間質抗原パターンを標的としたコンパニオン診断によって、患者の少なくとも1つの腫瘍抗原および/または少なくとも1つの腫瘍間質抗原の発現、および/または、少なくとも1つの腫瘍抗原および/または少なくとも1つの腫瘍間質抗原に対する免疫前応答を計測するステップを含む個別化した(individualized)癌免疫療法における使用のためのものである。
【実施例】
【0110】
実施例1:cDNAをコードする抗原/抗原断片の合成
cDNA挿入物の合成を、二本鎖のインビトロ遺伝子合成によっておこなった。5つの異なる腫瘍抗原および1つの腫瘍間質抗原をコードするcDNAを合成した。合成したcDNAを表4に列挙される。
【表4】
【0111】
合成されるべきcDNAの配列を、40~50塩基の別々のオリゴヌクレオチドに細分した。設計したオリゴヌクレオチドは、両方のDNA鎖とオーバーラップし、かつ、合致する。これらのオリゴヌクレオチドは、化学合成によって製造した。インビトロで合成したフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドを、エッペンドルフチューブ内で合わせ、T4ポリヌクレオチドキナーゼおよびATPを伴ったインキュベーションによって5’リン酸化した。リン酸化フォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドを、95℃にて変性させた。相補的オリゴヌクレオチドを、その混合物の段階的な冷却(1°/分)によってアニーリングさせた。アニーリング工程の後に、アラインしているオリゴヌクレオチドを、熱安定性Taq DNAリガーゼを使用して連結した。変性およびアニーリング工程を、サーモサイクラーで何回か繰り返して、ミスマッチ塩基対を解消し、断片の全長にわたる相補鎖の完全なマッチングを達成する。連結された断片の収率を高めるために、連結ステップ完了後に、断片の外向きの位置にアニーリングするプライマーを使用したPCRをおこなった。PCR増幅産物を、調製用アガロースゲル電気泳動法によって単離した。
実施例2:発現プラスミド内への抗原cDNAのクローニング
【0112】
実施例1で合成したcDNAを、NheI/XhoIを用いてプラスミドpVAX10内にクローニングした。
【0113】
こうして作り出した組換えプラスミドを、E.コリに形質転換し、単離し、そして配列決定した。合成プラスミドの完全配列を、決定し、そして、対応する参照配列にアラインした。配列検証の結果を表5にまとめる。
【表5】
【0114】
1つのミスマッチ変異が、cDNAの位置657に相当する、プラスミド位置1392(グアニンの代わりにアデニン)にてhMSLNのオープンリーディングフレーム内に検出された。このミュート変異(不安定位置)は、MSLNに変更されたコンセンサスアミノ酸をもたらさない。そのため、変異配列は、S.チフィTy21aの形質転換およびバッチ製造クローンの作出に受け入れられない。他のすべてのプラスミドに関して、クローン配列は、参照配列に対して100%の配列同一性を示した。
実施例3:抗原コードプラスミドを用いたS.チフィTy21aの形質転換
【0115】
サルモネラ・チフィTy21aを、実施例2で得た5種類の組換えプラスミドを用いて形質転換した。そのために、単独のS.チフィTy21aコロニーを、寒天平板から選出し、100mLのTSB培地中で37℃にて一晩培養した。次に、培養物を、15%の無菌グリセロールと共に処方し、ラベルし、凍結し、等分し(1ml)、そして、使用するまでマスター細胞バンクとして-75℃±5℃にて保存した。調製し、VAX.Ty21-1およびVAX.Ty21-2と命名した2つの単離株を、更なる使用のために選択した。
【0116】
調製した単離株の細菌株同一性を、ブロモチモールブルーガラクトース寒天培地および/またはKligler鉄寒天培地で該単離株を培養することによって検証した。マスター細胞バンクとして使用される、得られた細胞コロニーの特徴を、表6に記載する。
【表6】
【0117】
単離株VAX.Ty21-1を、実施例2で作出した組換えプラスミドを用いた形質転換の受容株として使用した。単離株VAX.Ty21-1の凍結グリセロールストックを、LB寒天平板(ACF大豆ペプトン)上に画線接種した。1つの単一コロニーを、釣菌し、3mlのLB培地(ACF大豆ペプトン)中で37℃にて一晩培養した。この培養物を、2×300mlのLB培地に植菌するのに使用し、そしてそれを、OD600が0.5に達するまで37℃にて更にインキュベートした。エレクトロポレーション用のコンピテント細胞を得るために、その培養物を4℃にて遠心分離することによって集菌した。そのペレットを、500mlの氷冷H2O中に再懸濁し、再び遠心分離した。氷冷水/10%のグリセロールによる2回の追加洗浄後に、ペレットを2mlの10%のグリセロール(動物質不含)中に再懸濁し、等分し(50μl)、そしてドライアイス上で凍結させた。
【0118】
形質転換のために、1つの組換えプラスミドにつきコンピテント細胞の1つのアリコートを解凍し、それぞれ3~5μlの組換えプラスミドDNAを用いてエレクトポレーション処理した。1mlのLB(ACF)培地中での37℃にて短時間の培養期間に続いて、細胞懸濁液を、カナマイシン(25および50μg/mL)を含有するLB(ACF)寒天平板上に画線接種した。その平板を、37℃にて一晩インキュベートした。
【0119】
3つの単一コロニーを、カナマイシン(50μg/ml)を含有する3mlのLB培地(ACF大豆ペプトン)に植菌するのに使用した。培養物を、37℃にて一晩インキュベートした。プラスミドDNAを単離し、そしてプラスミドの同一性を制限分析によって確認した。
【0120】
選択したクローンを、50μg/mlのカナマイシンを含有するLB培地中で増やした。培養物を、10%(v/v)のグリセロールと混合し、等分し(1ml)、そして-70℃にて冷凍状態で保存した。組換えTy21aクローンのプラスミドを単離し、そして完全配列決定をおこなった。1つのサイレント点突然変異が同定されたhMSLNクローンを除いて、参照配列と、選択したクローンそれぞれのプラスミドとの100%の配列同一性を確認した(表5を参照)。
【0121】
作出した形質転換クローンを表7で列挙する。
【表7】
実施例4:形質転換細胞クローンの特徴づけおよびバッチ製造クローンの選択
【0122】
以下の分析パラメータ:
-OD600、pHおよびCFUによって決定される選択培地中での培養するときの経時的な増殖キネティックス;
-凍結保存後のプラスミド安定性(%PS);
-プラスミド制限分析によるプラスミドDNA抽出および同一性の確認;
-真核細胞株へのプラスミドDNAの一過性トランスフェクション後の抗原発現効果の測定、
を、それぞれの薬剤原料の確定に使用するためのVXM01、VXM04、およびVXM08バッチ製造クローンの選択のために評価した。
【0123】
表7で列挙したVXM01、VXM04、およびVXM08形質転換クローンの増殖特性を測定した。増殖増加について試験した6個のVXM01クローン(VAX.11-01、VAX.11-02、VAX.21-01、VAX.21-02、VAX.21-03)のすべてが十分に増殖したが、クローンVAX.11-02のみが、その起源であるTy21a単離株と同じレベルで増殖した。VXM04クローンVXM04_K06424、VXM04_K06425、およびVXM04_K06426の増殖特性を、
図4、
図5および
図6に示す。3つのクローンすべてが、クローンVXM04_K06426に対してわずかな増殖上の利点を有する、培地中での匹敵する増殖速度を示した。VXM08候補(VXM08h_K08.1.1、VXM08h_K08.2.2、およびVXM08h_K08.4.4)に関して、すべてのクローンが、匹敵する増殖特性を示したが、しかしながら、クローンVXM08h_K08.1.1は他の2つのクローンより優れていた。
【0124】
6つのVXM01クローンの試験では、VAX.11-02のプラスミド安定性が最も高く、VAX.11-03およびVAX.21-02がそれに続くことが明らかになった。冷凍前後のプラスミド安定性に関して、3つのVXM04クローンの間に有意差がないことは明白であった。3つのVXM08クローンの試験では、VXM08h_K08.4.4のプラスミド安定性が最も高く、それにVXM08h_K08.1.1およびVXM08h_K08.2.2が続くことが明らかになった。
【0125】
6つのVXM01クローンそれぞれから単離したプラスミドDNAの制限分析では、制限断片の期待したパターンが明らかになった。同等の量のプラスミドDNAを、3つのクローンから単離できた。
【0126】
3つのVXM04クローンそれぞれから単離したプラスミドDNAの制限分析では、制限断片の期待したパターンが明らかになった。同等の量のプラスミドDNAを、3つのクローンから単離できた。
【0127】
3つのVXM08クローンそれぞれから単離したプラスミドDNAの制限分析では、制限断片の期待したパターンが明らかになった。同等の量のプラスミドDNAを、3つのクローンから単離できた。
【0128】
6つのVXM01クローンから単離したプラスミドDNAを用いたHEK293T細胞のトランスフェクションおよび細胞抽出物のウエスタンブロット分析後に、ウエスタンブロットゲルのバンドの目視検査によると、VAX.11-02、VAX.11-03およびVAX.21-02が最高レベルを示し、そしてVAX.11-02がより高い発現レベルに向かう傾向を示して、6つのクローンすべてがVEGFR-2タンパク質を発現した。
【0129】
3つのVXM04クローンから単離したプラスミドDNAを用いたHEK293T細胞のトランスフェクションおよび細胞抽出物のウエスタンブロット分析後に、約65kDa、40kDaおよび28kDaの見かけ上の分子量を有する3つのバンドを、抽出物のそれぞれで同定した。染色度に基づいて、発現は、クローン6316から単離したプラスミドDNAをトランスフェクトしたときに最も高かった。
【0130】
3つのVXM08クローンから単離したプラスミドDNAを用いたHEK293T細胞のトランスフェクションおよび細胞抽出物のウエスタンブロット分析後に、ウエスタンブロットゲルのバンドの目視検査によると、クローンVXM08h_K08.1.2が最高レベルを示して、3つのクローンすべてが、グリコシル化ヒトCEACAM5タンパク質を発現した。
【0131】
増殖特性、プラスミド安定性、およびタンパク質発現の研究から得られたデータに基づいて、VAX.11-02を、薬剤原料の製造のためのVXM01バッチ製造クローンとして選択した。
【0132】
増殖特性、プラスミド安定性、およびタンパク質発現の研究から得られたデータを検討した後に、クローンVXM04_K06426を、薬剤原料の製造のためのVXM04バッチ製造クローンとして選択した。
【0133】
増殖特性、プラスミド安定性の研究から得られたデータに基づいて、クローンVXM08h_K08.4.4を、薬剤原料の製造のためのVXM08バッチ製造クローンとして選択した。
実施例5:薬剤原料の製造および放出試験
【0134】
VXM01、VXM04、およびVXM08薬剤原料を、選択されたバッチ製造クローンそれぞれの単一コロニーから開始して、GMP要件に従って製造した。バッチ製造クローンごとにいくつかの細胞懸濁液希釈物を、25μg/mlのカナマイシンを含有したTSB寒天平板上で平板培養した(前培養1)。その平板を、37℃にて20~30時間インキュベートした。インキュベーション時間の完了時に、それぞれ3つの単一コロニーを選択し、そして25μg/mlのカナマイシンを加えたTSB培地が入った3本の50mlフラスコに移した(前培養2)。コロニーを、30℃にて9時間±1時間にわたり<1.0の最大OD600まで培養した。それぞれのフラスコの撹拌を120rpmに設定した。最も高いOD値を有するフラスコを、更なる培養のために選択した。50mlの体積の前培養2を、25μg/mlのカナマイシンを加えた1000mLのTSB培地が入ったフラスコに移した(本培養)。180rpmの撹拌セットを用いた、30℃にて9時間±1時間のインキュベーション後に、細菌を0.9~1.5の目標OD600まで培養した。発酵が完了した時点で、グリセロールを15%(w/w)の終濃度まで培養物に加えた。懸濁液を、混合し、次に、2mlの凍結バイアル中に等分した(1ml)。そのバイアルに、ラベルを付し、そして、保管のため-75℃±5℃にてすぐに冷凍した。
【0135】
こうして調製された薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08を、次に、それぞれの最終的な薬剤製品を確定するために更に試験した(放出の仕様)。薬剤原料の放出特徴は、表3で列挙した受入基準に基づいた。
5.1 生化学的プロフィール
【0136】
Ty21a、ならびに薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08のループの完全に解凍された懸濁液を、BTB-Gal寒天平板に移し、そして、単一コロニーを得るのに適切な画線接種方法を適用した。対照生物体P.エルギノーサ(ATCC9027)およびS.チフィムリウム(Moskau)の植菌を、microbank(登録商標)(培養微生物の貯蔵方式)のビーズを移し、それに続いて寒天平板上に画線接種することによって行った。KIAの植菌のために、同じバイアルのループ(ビーズ)を、最初に、斜面培地の表面に画線接種し、次に、残片の中に送り込んだ。培地を37℃にて48時間インキュベートした。
【0137】
得られたコロニーは、期待したコロニー形態を示した。3つ薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08のすべてが、ブロモチモールブルーガラクトース寒天培地で1.25%のガラクトースの存在下でコロニー増殖を示した。そのコロニーは、透明な水色および/または緑色~黄色がかっていて、培地の色変化をもたらさなかった。
5.2 血清型決定
【0138】
1滴の抗血清(O5またはO9)をチャンバースライドに移した。試験すべき薬剤原料それぞれの細胞原料のループを、KIAの下(濡れた)側から採取し、抗血清の横に配置した。溶液をそのループと混合した。得られた懸濁液は、わずかに濁っているはずであった。懸濁液を、チャンバースライドの何回かの拭き取りによって広げた。反応物を2分後に黒色の背景に対して評価した。
【0139】
3つの薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08すべてが、期待したO9陽性およびO5陰性抗原型に適合した。
5.3 制限分析
【0140】
組換えプラスミドを、薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08から単離し、適切な時間にわたる別々の反応において2つの異なる消化酵素/組み合わせで消化した。反応を停止させ、そしてアガロースゲルにより分析した。制限分析に使用したエンドヌクレアーゼを表8に示す。
【表8】
【0141】
薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08から単離した3つの組換えプラスミドのすべてが、期待した制限パターンを示した。
5.4 プラスミドの配列分析
【0142】
薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08から単離した組換えプラスミドを、定量化した。E.コリに再形質転換した後に、組換えプラスミドを、再び単離し、定量化し、そして配列決定した。
【0143】
3つの組換えプラスミドと、それらのそれぞれの参照配列との100%の配列同一性を確認した。
5.5 発現解析
【0144】
市販のDNA抽出と精製キットを使用して、組換えプラスミドを薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08から単離し、そしてDNA含量は測定した。トランスフェクションの1日前に、6ウェルプレートの1ウェルあたり7.5×105個の293T細胞を平板培養して、アッセイ時に90~95%コンフルエントを得た。トランスフェクションのために、単離したプラスミドDNAおよびLipofectamine 2000(商標)から成るトランスフェクション複合体を細胞に加え、約24時間インキュベートした。インキュベーション後に、その細胞を再懸濁し、PBSで1回洗浄し、そして溶菌した。細胞破片を、遠心分離によってペレット化した。上清を回収し、そしてタンパク質含有量を測定した。ウエスタンブロット分析が行われるまで、サンプルを-70℃にて保存した。組換えタンパク質の存在を実証し、準定量ベースで適切な基準物質と比較した。
【0145】
抗原VEGFR-2、MSLNおよびCEAの発現レベルは、選択された基準物質と同等であった。
5.6 生菌数の測定
【0146】
10-8の希釈係数に至るまでの薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08の細菌懸濁液の段階希釈を調製し、寒天平板上で平板培養した。適切なインキュベーション後に、コロニーをカウントした。カウントは、コロニーがはっきりと見えるが、それほど大きくないときに、開始した。
【0147】
測定した生菌数を表9に列挙する。
【表9】
5.7 プラスミド安定性
【0148】
薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08(生菌カウント試験に使用したのと同じバイアル)の細菌懸濁液の段階希釈を調製し、抗生物質カナマイシンを含有するTSB平板上で平板培養した。適切なインキュベーション後に、コロニーをカウントした。カウントを、コロニーがはっきり見えるが、それほど大きくないときに開始した。プラスミド安定性を、次のようにしてカナマイシン含有または不含TSB上のコロニー形成単位を比較することによって計算した:PST=(カナマイシンありのCFU/カナマイシンなしのCFU)×100。
【0149】
3つ薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08すべてが、表3に明記したあらかじめ設定されたプラスミド安定性の受入基準を満たした。3つの組換えプラスミドすべてについて決定されたプラスミド安定性は、少なくとも75%であった。
5.8 微生物不純物
【0150】
全好気性細菌、カビ、および真菌のカウントを測定するために、および特定の病原性エシェリキア・コリ、サルモネラ亜種、シュードモナス・エルギノーサ、スタフィロコッカス・アウレウスおよびクロストリジウム亜種の不存在を確認するために、薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08を、European Pharmacopoeia Ph. Eur. monographs 2.6.12および2.16.13に従って試験した。
【0151】
3つの薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08のすべてが、表3に明記したあらかじめ設定された微生物不純物の受入基準を満たした。
3つの薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08のすべてで、全好気性細菌カウント(TAMC)は102CFU/ml以下であり、全酵母およびカビカウント(TYMC)は2CFU/ml以下であり、かつ、P.エルギノーサ、S.アウレウス、E.コリ、クロストリジウム亜種、および他のサルモネラ株は、1mlの細胞懸濁液中で検出できなかった。
5.9 バクテリオファージ試験
【0152】
バクテリオファージの検出のための試験手順は、適切な宿主と、試験すべきサンプルまたは対照ファージ懸濁液のいずれかを含む軟寒天培地重層における平板培養を利用した。アッセイの感度を改善するために、事前の濃縮ステップを含んだ。このステップでは、サンプルを、適切な宿主細胞と共に4時間インキュベートした。それに続いて、これらの濃縮培養物のそれぞれの1つのサンプルを平板培養した。
【0153】
3つ薬剤原料VXM01、VXM04およびVXM08のすべてが、表3に明記したあらかじめ設定されたファージ受入基準を満たした。濃縮ステップ後の100μlの細胞懸濁液中では、ファージを検出できなかった。
【0154】
配列表の説明
配列番号1:発現プラスミド
配列番号2:アミノ酸配列VEGFR-2
配列番号3:アミノ酸配列WT1
配列番号4:アミノ酸配列MSLN
配列番号5:アミノ酸配列CEA
配列番号6:アミノ酸配列CMV pp65
配列番号7:アミノ酸配列CMV pp65
配列番号8:アミノ酸配列CMV pp65
配列番号9:cDNA VEGFR-2
配列番号10:cDNA WT1
配列番号11:cDNA MSLN
配列番号12:cDNA CEA
配列番号13:cDNA CMVpp65
配列番号14:cDNA CMVpp65
配列番号15:cDNA CMVpp65
【配列表】