(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】第八リン酸カルシウム成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20220704BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C01B25/32 B
A61L27/12
(21)【出願番号】P 2019525536
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022823
(87)【国際公開番号】W WO2018230675
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2019-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2017118406
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 邦夫
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-067966(JP,A)
【文献】特表2010-523232(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03130342(EP,A1)
【文献】特開2001-333974(JP,A)
【文献】特開平08-261474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32
A61L 27/12
A61L 27/42
A61L 27/56
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca及びPO
4の少なくとも1つを組成に含み、H
2Oへの溶解度が第八リン酸カルシウムより高く、体積が2.0mm
3超の前駆体セラミックス組成物を、第八リン酸カルシウムの組成であるCa、PO
4、H
2Oの組成のうち前記前駆体セラミックス組成物に含まれない組成を含むpHが7超~14の溶液に浸漬し、前記前駆体セラミックス組成物を反応させて、前記前駆体セラミックス組成物の少なくとも一部を第八リン酸カルシウムへ変換することを特徴とする、体積が2.0mm
3以上の70質量%以上の第八リン酸カルシウムを含む成形体の製造方法。
【請求項2】
前駆体セラミックス組成物がその概形を保ったまま第八リン酸カルシウムを含む成形体へと変換されることを特徴とする、請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
製造される第八リン酸カルシウムを含む成形体が、第八リン酸カルシウムを90質量%以上含有する成形体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前駆体セラミック組成物が安定相の物質に組成変換される反応完了時点より前に、成形体を溶液から取り出すことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
反応完了時点の溶液のpHが4以上であり、反応完了時点のpHより高いpH条件において反応を終了させることを特徴とする、請求項4に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
反応完了時点におけるリン酸カルシウム成分がアパタイトであることを特徴とする、請求項5に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
反応完了時点の成形体のCa/PO
4の比率より、成形体のCa/PO
4の比率が低い時点で、反応を終了させることを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
反応完了時点の溶液のCa/PO
4の比率より、溶液のCa/PO
4の比率が高い時点で、反応を終了させることを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
Ca及びPO
4の少なくとも1つを組成に含み、H
2Oへの溶解度が第八リン酸カルシウムより高く、体積が2.0mm
3超の前駆体セラミックス組成物を、第八リン酸カルシウムの組成であるCa、PO
4、H
2Oの組成のうち前記前駆体セラミックス組成物に含まれない組成を含む溶液に浸漬し、前記前駆体セラミックス組成物を反応させて、前記前駆体セラミック
ス組成物が安定相の物質に組成変換される反応完了時点より前
に溶液から取り出し、前記前駆体セラミックス組成物の少なくとも一部を第八リン酸カルシウムへ変換する、体積が2.0mm
3以上の第八リン酸カルシウムを含む成形体の製造方法であって、
反応完了時点のpHが4未満であり、反応完了時点のpHより低いpH条件において反応を終了させることを特徴とする、成形体の製造方法。
【請求項10】
反応完了時点におけるリン酸カルシウム成分が、リン酸水素カルシウム無水和物又はリン酸水素カルシウム二水和物であることを特徴とする、請求項9に記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
反応完了時点の成形体のCa/PO
4の比率より、成形体のCa/PO
4の比率が高い時点で、反応を終了させることを特徴とする、請求項4、9又は10に記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
反応完了時点の溶液のCa/PO
4の比率より、溶液のCa/PO
4の比率が低い時点で、反応を終了させることを特徴とする、請求項4、9、10又は11に記載の成形体の製造方法。
【請求項13】
前駆体セラミックス組成物、及び溶液の少なくとも1つに、カルシウムと化学結合する官能基を組成中に含む物質を含有させることにより、カルシウムと化学結合する官能基を組成中に含む物質を第八リン酸カルシウム結晶に担持させることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
第八リン酸カルシウム結晶中に他の物質を担持させることを特徴とする、請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
体積が2.0mm
3超の前駆体セラミックス組成物が、自己硬化反応、乾燥による塩の析出反応、又は加圧により成形されたものであることを特徴とする請求項1~14に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生材料、有害分子吸着材料、触媒担持材料、薬剤担持材料等に用いることができる第八リン酸カルシウム成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第八リン酸カルシウム(OCP)は、溶液のpHが4~7の条件下にて、優先的に晶出するリン酸カルシウムの準安定相かつアパタイトの前駆体である。このOCPは、これまでの研究により、骨再生材料、有機分子吸着材料、及び触媒担持材料として有用であることが知られている(非特許文献1~3参照)。また、この材料に多孔構造を付与することで、材料の表面を介して起きる反応である、骨再生反応、有機分子吸着反応、触媒効果を促進させることが期待される。
【0003】
OCPは焼結が不可能であり、焼結過程における成形体の硬化プロセスを利用して、複雑な形状の成形体を製造することはできない。公知の方法である、LeGerosの滴下法や、鈴木らの三流管法では、OCP粉末や顆粒を製造することは可能であるが、形成できるOCPのサイズは、最大1.0mm3以下である(特許文献1、非特許文献4及び5参照)。
【0004】
この従来のOCPの成形体は、結晶成長プロセスによって製造しているため、顆粒サイズが限界であり、骨再生材料として用いる場合、多数の顆粒を骨欠損部に埋入する必要がある(非特許文献6参照)。また、このとき形成される、顆粒間の空隙のサイズや形状は、必ずしも用途における最適の形状を示すとは限らない。さらに、血流、気流などの要因によって、流出してしまうといったリスクも存在する。
【0005】
このような問題を解決するためには、成形体のサイズを2.0mm3以上にする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】J Biomed Mater Res 59: 29-34, 2002
【文献】J Ceram Soc Jpn 115: 425-428, 2007
【文献】Cell Mater 5: 45-54, 1995
【文献】Calcif Tissue Int 37: 194-197, 1983
【文献】Acta Biomater 6: 3379-3387, 2010
【文献】J Dent Res 78: 1682-1687, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、骨再生材料、有害分子吸着材料、触媒担持材料、薬剤担持材料などに適用可能な大型のOCP成形体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これまでに、硫酸カルシウム二水和物(CSD)など、溶解度が炭酸含有アパタイトより高く、Ca、PO4、CO3のうち、少なくとも1つを含むセラミックス成形体を前駆体として用い、Ca、PO4、CO3のうちセラミックが含まないイオンを全て含む溶液に浸漬することで、液相媒介溶解析出反応を引き起こし、熱力学的最安定相である、炭酸含有アパタイトが形成することを示した。この液相媒介溶解析出反応を経て形成した炭酸含有アパタイト(炭酸アパタイト、CO3Ap)成形体は、前駆体のセラミックス成形体の形状をほぼ維持することが知られている。
【0010】
しかしながら、OCPは熱力学的最安定相ではなく、液相への接触により、アパタイト等へと組成変換される。
本発明者は、組成変換反応により、熱力学的最安定相ではないOCPも、特異的条件では製造できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、準安定相であっても、溶液に浸漬したセラミックスより、溶解度が小さければ、組成変換反応を経て形成することが可能であることを見いだした。また、準安定相の結晶が絡み合うなどして、化学的に成形体の構造が保持されれば、準安定相からなる成形体を得ることができる。この場合、安定相は準安定相に遅れて形成するため、安定相が形成し、準安定相を置換する前に、反応を終了させる必要がある。
【0011】
ここでいう安定相とは、ある温度、圧力、化学組成、pH条件において、十分な時間反応を継続させた場合に形成し、それ以上別の相に組成変換しない相のことをいう。熱力学的に最もエネルギー準位の低い相である。安定相のみになった場合、当然ながらこれ以上の反応は起こらなくなり、溶液中での反応の場合、溶液のpH変化は起こらない。
【0012】
具体的に、本発明者らは、種々の検討を重ねた結果、Ca、PO4の少なくとも1つを含み、かつH2Oへの溶解度がOCPの溶解度(0.090g/L)より高い体積が2.0mm3超の前駆体セラミックス組成物を、前駆体セラミックス組成物の組成に含まれないCa、PO4、又はH2Oを全て含む溶液に浸漬し、反応完了時点より前に反応を終了させることにより、前駆体セラミックス組成物の概形を維持し、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している体積が2.0mm3以上のOCPを10質量%以上含む成形体を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1] Ca及びPO4の少なくとも1つを組成に含み、H2Oへの溶解度が第八リン酸カルシウムより高く、体積が2.0mm3超の前駆体セラミックス組成物を、第八リン酸カルシウムの組成であるCa、PO4、H2Oの組成のうち前記前駆体セラミックス組成物に含まれない組成を含む溶液に浸漬し、前記前駆体セラミックス組成物を反応させて、前記前駆体セラミックス組成物の少なくとも一部を第八リン酸カルシウムへ変換することを特徴とする、体積が2.0mm3以上の第八リン酸カルシウムを含む成形体の製造方法。
[2] 前駆体セラミックス組成物がその概形を保ったまま第八リン酸カルシウムを含む成形体へと変換されることを特徴とする、[1]に記載の成形体の製造方法。
[3] 製造される第八リン酸カルシウムを含む成形体が、第八リン酸カルシウムを10質量%以上含有する成形体であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の成形体の製造方法。
[4] 前駆体セラミック組成物が安定相の物質に組成変換される反応完了時点より前に、成形体を溶液から取り出すことを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
[5] 反応完了時点の溶液のpHが4以上であり、反応完了時点のpHより高いpH条件において反応を終了させることを特徴とする、[4]に記載の成形体の製造方法。
[6] 反応完了時点におけるリン酸カルシウム成分がアパタイトであることを特徴とする、[5]に記載の成形体の製造方法。
[7] 反応完了時点の成形体のCa/PO4の比率より、成形体のCa/PO4の比率が低い時点で、反応を終了させることを特徴とする、[4]~[6]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
[8] 反応完了時点の溶液のCa/PO4の比率より、溶液のCa/PO4の比率が高い時点で、反応を終了させることを特徴とする、[4]~[7]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
[9] 反応完了時点のpHが4未満であり、反応完了時点のpHより低いpH条件において反応を終了させることを特徴とする、[4]に記載の成形体の製造方法。
[10] 反応完了時点におけるリン酸カルシウム成分が、リン酸水素カルシウム無水和物又はリン酸水素カルシウム二水和物であることを特徴とする、[9]に記載の成形体の製造方法。
[11] 反応完了時点の成形体のCa/PO4の比率より、成形体のCa/PO4の比率が高い時点で、反応を終了させることを特徴とする、[4]、[9]又は[10]に記載の成形体の製造方法。
[12] 反応完了時点の溶液のCa/PO4の比率より、溶液のCa/PO4の比率が低い時点で、反応を終了させることを特徴とする、[4]、[9]、[10]又は[11]に記載の成形体の製造方法。
[13] 前駆体セラミックス組成物、及び溶液の少なくとも1つに、カルシウムと化学結合する官能基を含む物質を組成中に含む物質を含有させることにより、カルシウムと化学結合する官能基を含む物質を組成中に含む物質を第八リン酸カルシウム結晶に担持させることを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
[14] 第八リン酸カルシウム結晶中に他の物質を担持させることを特徴とする、[13]に記載の成形体の製造方法。
[15] 無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している成形体であり、第八リン酸カルシウムを10質量%以上含有し、かつ体積が2.0mm3以上であることを特徴とする、成形体。
[16] 97.5質量%以上が無機成分で構成されていることを特徴とする、[15]に記載の成形体。
[17] その内部に気孔径が0~2000μmの範囲で任意の形状を持つ多孔構造を有し、気孔率が0~99%であることを特徴とする、[15]又は[16]に記載の成形体。
[18] 第八リン酸カルシウム結晶にカルシウムと化学結合する官能基を含む物質を組成中に持つ物質が担持されていることを特徴とする、[15]~[17]のいずれか1つに記載の成形体。
[19] 第八リン酸カルシウム結晶中に、さらに他の物質が担持されていることを特徴とする、[18]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、骨再生材料、有害分子吸着材料、触媒担持材料、薬剤担持材料などに好適に用いることができる大型のOCP成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1-1】(A)は、実施例1で製造した前駆体セラミックス組成物である半水石膏(CSH)―リン酸二水素ナトリウム二水和物(NaDP)組成物の写真であり、(B)は、XRDパターンである。
【
図1-2】実施例1で製造した成形体の写真であり、(A)は37℃にて10日間、(B)は60℃にて1日間、(C)は80℃にて1日間、浸漬させたものである。
【
図1-3】実施例1で製造した成形体のXRDパターンである。
【
図1-4】実施例1で製造した成形体(80℃、1日間)のダイアメトラル引張強さ(DTS)である。
【
図1-5】(A)~(D)は、実施例1で製造した成形体(80℃、1日間)のSEM写真であり、(A)及び(B)は表面を表し、(C)及び(D)は断面を表す。(E)~(H)は、前駆体セラミックス組成物であるCSH-NaDP組成物のSEM写真であり、(E)及び(F)は表面を表し、(G)及び(H)は断面を表す。
【
図2-1】(A)は、実施例2で製造した前駆体セラミックス組成物であるCSH-NaDP連通多孔構造組成物の写真であり、(B)は、マイクロCT像である。
【
図2-2】(A)は、実施例2で製造した成形体(80℃、1日間)の写真であり、(B)は、マイクロCT像である。
【
図2-3】実施例2で製造した成形体(80℃、1日間)のXRDパターンである。
【
図2-4】(A)及び(B)は、実施例2で製造したOCP連通多孔構造成形体のSEM写真であり、(C)及び(D)は、前駆体セラミックス組成物であるCSH-NaDP連通多孔構造組成物のSEM写真である。
【
図2-5】ウサギ大腿骨頭埋入後2週経過後のHE染色組織像であり、(A)は、実施例1で製造されたOCP成形体であり、(B)は、実施例2で製造されたOCP連通多孔構造成形体であり、(C)は、コントロールである水酸アパタイト焼結体である。
【
図2-6】ウサギ大腿骨頭埋入後4週経過後のHE染色組織像であり、(A)は、実施例1で製造されたOCP成形体であり、(B)は、実施例2で製造されたOCP連通多孔構造成形体であり、(C)は、コントロールである水酸アパタイト(HAp)焼結体である。
【
図3-1】(A)は、実施例3で製造したリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)組成物の写真であり、(B)は、XRDパターンである。
【
図3-2】実施例3で製造したOCP成形体の写真であり、(A)~(E)は、4℃~80℃にて1日間浸漬したものであり、(F)~(J)は、4℃~80℃にて2日間浸漬したものであり、(K)~(N)は、4℃~80℃にて3日間浸漬したものであり、(O)~(R)は、4℃~80℃にて7日間浸漬したものである。
【
図3-3】実施例3で製造したOCP成形体(4℃~80℃にて1日間)のXRDパターンである。
【
図3-4】実施例3で製造したOCP成形体(4℃、室温にて7日間)のXRDパターンである。
【
図3-5】実施例3で製造したOCP成形体(37℃にて3日間、7日間)のXRDパターンである。
【
図3-6】実施例3で製造したOCP成形体(70℃にて2日間、3日間、7日間)のXRDパターンである。
【
図3-7】実施例3で製造したOCP成形体(80℃にて2日間)のXRDパターンである。
【
図3-8】実施例3で製造したOCP成形体(70℃にて1日間~7日間)のDTS強度である。
【
図4-1】実施例4で製造したOCP成形体の写真を示し、(A)は、クエン酸を含有するリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したものであり、(B)は、コハク酸を含有するリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したものであり、(C)は、酒石酸を含有するリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したものである。
【
図4-2】実施例4で製造したOCP成形体のXRDパターンである。
【
図4-3】実施例4で製造したOCP成形体(クエン酸、コハク酸)のFT-IRスペクトルを示す。
【
図4-4】実施例4(7)で製造したクエン酸を含有する成形体のDTS強度である。
【
図4-5】実施例4(7)で製造したコハク酸を含有する成形体のDTS強度である。
【
図5-1】実施例5で製造したOCP成形体の写真である。
【
図5-2】実施例5で製造したOCP成形体のXRDパターンである。
【
図5-3】実施例5で製造したOCP成形体の写真である。
【
図5-4】実施例5で製造したOCP成形体のXRDパターンである。
【
図6-1】実施例6で製造したOCP成形体の写真である。
【
図6-2】実施例6で製造したOCP成形体のXRDパターンである。
【
図7-1】実施例7で製造したOCP成形体の写真であり、(A)は、ポリエチレングリコールに浸漬したOCP成形体であり、(B)は、ポリアクリル酸ナトリウムに浸漬したOCP成形体である。
【
図7-2】実施例7で製造したOCP成形体のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の体積が2.0mm3以上の第八リン酸カルシウムを含む成形体(以下、単に成形体ということがある)の製造方法は、Ca及びPO4の少なくとも1つを組成に含み、H2Oへの溶解度が第八リン酸カルシウムより高く、体積が2.0mm3超の前駆体セラミックス組成物を、第八リン酸カルシウムの組成であるCa、PO4、H2Oの組成のうち前記前駆体セラミックス組成物に含まれない組成を含む溶液に浸漬し、前記前駆体セラミックス組成物を反応させて、前記前駆体セラミックス組成物の少なくとも一部を第八リン酸カルシウムへ変換することを特徴とする。
【0017】
<前駆体セラミックス組成物>
本発明における前駆体セラミックス組成物は、上記のように、Ca及びPO4の少なくとも1つを組成に含み、H2Oへの溶解度が第八リン酸カルシウムより高く、体積が2.0mm3超の大きさである。なお、PO4とは、H3PO4、H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-の形態をとる分子、或いはイオンの総称であり、溶液の状態によって当然ながら混在している場合がある。また、PO4の濃度とは、これらの分子、イオンの総和である。
【0018】
この前駆体セラミックス組成物の成形方法は、特に限定されない。例えば、石膏などのように、自己硬化性を持つ前駆体セラミックスの硬化反応を利用して成形してもよいし、焼結、乾燥による塩の析出反応により成形してもよいし、加圧成形により圧粉体としてもよい。
【0019】
前駆体セラミックス組成物の体積は、2.0mm3以上のOCP成形体を製造する点から2.0mm3超である。前駆体セラミックス組成物の大きさが、ほぼOCP成形体に引き継がれることから、製造する目的に合わせて適宜大きさを調整すればよい。例えば、5.0mm3以上であってもよく、10.0mm3以上であってもよい。
【0020】
本発明における前駆体セラミックス組成物としては、例えば、半水石膏(CSH)、二水石膏(CSD)、無水石膏(CSA)、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸水素カルシウム無水和物(DCPA)、α型リン酸三カルシウム(α-TCP)、β型リン酸カルシウム(β-TCP)、炭酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸二水素カルシウム(MCPA)、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、水酸化カルシウムなどを用いることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2つ以上を同時に使用してもよい。
【0021】
前駆体セラミックス組成物のH2Oへの溶解度は、OCPのH2Oへの溶解度(0.090g/L)に比べて高ければよいが、2倍以上高いことが好ましい。溶解性が高いことにより、前駆体セラミックス組成物の組成変換をより促進することができる。
【0022】
<浸漬溶液>
ここでいう溶液とは、溶質成分と溶媒成分が巨視状態においては安定に単一、かつ均一に分散している液相を指す。微視的には、コロイド粒子、分子クラスター、溶媒和分子、会合クラスターなどが存在していても、全体として流動性を持ち、均一であるならば溶液に含まれる。
【0023】
溶液中に均一に分散していない物質が存在し、巨視的には懸濁状態となっていても、本発明の反応が進行する場合、これを溶液とみなしても差支えない。すなわち、ここでいう溶液とは、電解質溶液、非電解質溶液、電解質懸濁液、非電解質懸濁液の総称である。溶媒として用いる液体のうち、水が50質量%以上であるものを、特に水溶液という。
【0024】
浸漬溶液は、OCPの組成であるCa、PO4、H2Oの組成のうち、前記セラミックス組成物の組成に含まれない組成を全て含むものであれば、特に限定されない。例えば、PO4を含む溶液としては、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムなどの溶液を挙げることができ、Caを含む溶液としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウムなどの溶液を挙げることができる。
【0025】
前駆体セラミックス組成物が、OCPの構成成分のうちCa及びPO4を両方含み、溶液からCa及びPO4を得る必要がない場合は、他の溶液を用いても差し支えない。すなわち、蒸留水、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの溶液を用いることができる。また、溶液の溶媒における、H2Oの比率については特に限定されない。
【0026】
前駆体セラミックス組成物が、OCPの構成成分のうちCa及びPO4の少なくとも一方を含み、さらにH2Oを含んでおり、溶液からH2Oを得る必要がない場合は、Ca、PO4のうち前駆体セラミックス組成物が含有しない成分を含み、さらにH2Oを含有しない溶媒に、前駆体セラミックス組成物を浸漬してOCP成形体を製造してもよい。さらに、前駆体セラミックス組成物がOCPの構成成分である、Ca、PO4及びH2Oの全ての成分を含んでいる場合は、Ca、PO4及びH2Oの全てを含まない溶液に浸漬してOCP成形体を製造してもよい。なお、前駆体セラミックス組成物のH2Oの含有形態としては特に限定されない。例えば、結晶水、間隙水、付着水などを挙げることができる。
【0027】
浸漬する溶媒としては水以外に、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン-1-オール、オクタン-1-オール、ノナン-1-オール、デカン-1-オールなどの第一級アルコール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、ヘキサン-2-オール、シクロヘキサノールなどの第二級アルコール、tert-ブチルアルコール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール、2-メチルヘキサン-2-オール、3-メチルペンタン-3-オール、3-メチルオクタン-3-オールなどの第三級アルコールをはじめとする一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリンなどの三価アルコール、フェノールなどの芳香環アルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などのポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリカルバリン酸などのポリカルボン酸、酢酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸、ペンタン、ブタン、ヘキサン、セプタン、オクタンなどのアルカン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、ピクリン酸、TNTといった芳香族化合物、ナフタレン、アズレン、アントラセンなどの多環芳香族炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などの有機ハロゲン化合物、酢酸エチル、酪酸メチル、サリチル酸メチル、ギ酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸オクチル、フタル酸ジブチル、炭酸エチレン、エチレンスルフィドのようなエステル類、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどのシクロアルカン、ビシクロアルカン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、バニリンなどのアルデヒド、アミノメタン、アミノエタン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン化合物、グルコース、フルクトース、トレイトールなどの糖類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、チオフェノールなどのチオール類、ジメチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、アスパラガス酸、シスタミン、シスチンなどのジスルフィド化合物、などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0028】
<反応条件>
前駆体セラミックス組成物の溶液への浸漬時間は、OCPが形成し、安定相が形成される前に反応が終了するように調整する。通常、10分~30日であり、好ましくは、2時間~14日であり、さらに好ましくは、2時間~7日である。
【0029】
溶液中に、PO4及びCaイオンが含有されている場合、形成するリン酸カルシウムの安定相は溶液のpHに依存する。ここでいうリン酸カルシウムとは、無機化合物中の水を除く組成のうち、Ca及びPO4を組成中に50質量%以上含み、かつCaが組成中の陽イオンの比率において最大であり、かつPO4が組成中の陰イオンの比率において最大である無機化合物をいう。
【0030】
溶液のpHが4以上の場合、アパタイトが安定相となる。
ここでいう、アパタイトとは、リン酸カルシウムに分類される物質であり、以下の化学組成を持ち、かつpHが4以上の溶液中において、これに該当しないリン酸カルシウムと比較して、最も熱力学的に安定な相の総称である。すなわち、アパタイトとは、Ca10-xQy(PO4)6-zRwJvで表される物質である。ここで、Qは、Na、Mg、Fe、K、Sr、Rb、Zn、Ga、Al、Mn、Cu、Mo、Ag、Au、Se、Teなどのいずれかの陽イオン或いは空隙であり、Rは、HPO4、SO4、CO3、BO3、WO4、VO4、SiO4などのいずれかの陰イオン或いは空隙であり、Jは、OH、Cl、F、Br、Iなどのいずれかの陰イオンであり、X<5、Y<5、Z<3、W<3であり、かつCa及びPO4の総和が50原子%以上のものをいう。
【0031】
具体的には、水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2、HAp)、カルシウム欠損アパタイト(Ca9(HPO4)4(PO4)2(OH))、フッ素アパタイト(Ca10(PO4)6F2)、塩素アパタイト(Ca10(PO4)6Cl2)、CO3Apなどの物質があげられる。これらの物質のCa/PO4モル比率は通常1.50~2.50であり、量論HApの場合は1.67である。
【0032】
アパタイトが溶液中から形成する場合、準安定相を経て形成することがあることが知られている。溶液のpHが4以上の場合、安定相であるアパタイト以外の相は、アパタイトが形成すると、最終的にはアパタイトに組成変換して消滅する。
【0033】
OCPは、アパタイトの準安定相であるため、長時間溶液に浸漬し、反応を継続させると、pHが4以上の溶液中では、最終的にアパタイトとなる。しかし、前駆体からOCPが形成する反応経路を経て、アパタイトが形成する反応において、アパタイトが形成する前に反応を終了させることにより、OCPを得ることができる。
【0034】
すなわち、前駆体となるセラミックス成形体から、OCPが形成後、アパタイトへの組成変換が完了する前に反応を終了させることにより、OCPからなる成形体を得ることができる。
【0035】
反応を終了させるためには、成形体の場合、成形体を溶液から分離させる操作が必要である。すなわち、成形体を浸漬していた溶液から取り出し、成形体に付着している溶液を除去する操作を行うことにより、反応を終了させることができる。本発明においては、成形体を浸漬溶液から取り出した時点を反応の終了時とする。
【0036】
成形体に付着している溶液を除去する操作は、特に限定されない。通常は、成形体を蒸留水やエタノールなどの溶媒で複数回洗浄し、成形体に付着している溶液をこれらの溶媒と置換後、余剰な溶媒を濾紙等で除去し、乾燥させる。
【0037】
OCPがHApに組成変換する場合の化学反応式は以下のようになる。
5Ca8H2(PO4)6・5H2O(OCP)
→4Ca10(PO4)6(OH)2(HAp)+6H3PO4+17H2O・・・(1)
【0038】
上記式(1)の反応において生成したH3PO4は酸性を示すため、OCPからアパタイトが形成する場合には、周囲の溶液のpHが低下する。すなわち、OCPが形成し、残存している時点のpHと比較して、アパタイトへの組成変換が進行し、アパタイト単一相になった時点の溶液のpHは低くなる。これを利用することにより、OCPがアパタイトに組成変換する前に反応を終了させるための指標とすることができる。
【0039】
上記式(1)の反応において、溶液のpHは低下するが、その低下量は溶液と成形体の質量比、及び溶液に含有されているイオンによる緩衝作用に依存する。しかし、いずれの場合においても、OCPが消滅し、アパタイトのみとなった反応完了時点において、pHは変動しなくなる。
【0040】
本明細書においては、粉末X線回折法において、リン酸カルシウムが、アパタイト単一相となり、かつpHの変動が無くなった時点を以て、これ以上の反応が起こらなくなった時点、すなわち反応完了時点と定義し、この時点のpHを以て、反応完了時点のpHと定義する。
【0041】
反応完了時点のpHは特に限定されないが、好ましくは4以上であり、より好ましくは4~10であり、さらに好ましくは4~7である。
【0042】
反応終了時の溶液のpHについては、反応完了時点のpHが4以上の場合、それより高ければ、特に限定されない。反応完了時のpHより0.1以上高ければ好ましく、0.2以上高ければさらに好ましい。
【0043】
また、OCPの化学組成は、Ca8H2(PO4)6・5H2Oであるため、化学量論的なCa/PO4比率は、1.33である。このため、OCPからアパタイトが形成する場合、化学量論から鑑みるに、余剰のPO4を周囲の溶液中に放出、或いは不足分のCaを周囲の溶液中から吸収する必要がある。
【0044】
すなわち、OCPからアパタイトが形成する場合において、溶液及び成形体のCa/PO4比率が変動する。これを利用することにより、OCPがアパタイトに組成変換する前に反応を終了させるための指標とすることができる。また、このときの溶液及び成形体のCa/PO4比率の変動は、成形体と溶液の質量の比率、溶液が含有するCa、或いはPO4の濃度に依存する。しかし、いずれの場合においてもOCPがアパタイトに完全に組成変換し、安定相のみとなった反応完了時点において、成形体と溶液のCa/PO4は変動しなくなる。
【0045】
反応完了時点の成形体のCa/PO4比率については、特に限定されない。アパタイト単相である場合は、通常1.5~2.0である。
【0046】
反応終了時の成形体のCa/PO4比率については、反応完了時点の成形体をリン酸カルシウムがアパタイトで構成されている場合、そのCa/PO4比率より高ければ、特に限定されない。
【0047】
反応終了時の溶液のCa/PO4比率については、反応完了時点の成形体をリン酸カルシウムがアパタイトで構成されている場合、その反応完了時点の溶液の比率より低ければ、特に限定されない。
【0048】
ここで、アパタイトが安定相である系における1つの実施形態として、pHが4~14の溶液、好ましくはpHが7超~12の溶液に、酸性の前駆体セラミックス組成物を浸漬してpHが4~7となるまで保持してOCP成形体を製造することが好ましい。この形態においては、原料である前駆体セラミックス組成物から、ACPの生成を経て、OCPが生成されるところ、高いpH領域で生成が促進されるACPが、高いpH溶液中で効果的に生成されると共に、低いpH領域で生成が促進されるOCPが、前駆体セラミックス組成物自身の低いpHにより効果的に生成されることにより、前駆体からOCP成形体へと組成変換が効果的に行われると考えられる。
【0049】
一方、溶液のpHが4未満の場合、DCPA又はDCPDが安定相となる。DCPA及びDCPDのCa/PO4は、理論的には1.00である。DCPDは、200℃未満における安定相であり、DCPAは、200℃以上での安定相となる(Ame. Mine. 2011, 96, 368-373, 2011)。
【0050】
溶液のpHが4未満の場合、安定相であるDCPD又はDCPA以外の相は、DCPD又はDCPAが形成すると、最終的にはDCPD又はDCPAに組成変換して消滅する。
【0051】
OCPは、DCPD又はDCPAの準安定相であるため、長時間溶液に浸漬し、反応を継続させると、pHが4未満の溶液中では、最終的にDCPD又はDCPAとなる。しかし、前駆体からOCPが形成する反応経路を経て、DCPD又はDCPAが形成する反応において、DCPD又はDCPAが形成する前に反応を終了させることにより、OCPを得ることができる。
【0052】
OCPがDCPDに組成変換する場合の化学反応式は以下のようになる。
Ca8H2(PO4)6・5H2O(OCP)+11H2O
→6CaHPO4・2H2O(DCPD)+4OH-+2Ca2+・・・(2)
【0053】
また、OCPがDCPAに組成変換する場合の化学反応式は以下のようになる。
Ca8H2(PO4)6・5H2O(OCP)+4H2O
→6CaHPO4(DCPA)+4OH-+2Ca2+・・・(3)
【0054】
上記式(2)及び(3)の反応において、OCPからDCPD又はDCPAが形成する場合には、周囲の溶液のpHが上昇する。すなわち、OCPが形成し、残存している時点のpHと比較して、DCPD又はDCPAへの組成変換が進行し、DCPD又はDCPAの単一相になった時点の溶液のpHは高くなる。これを利用することにより、OCPがDCPD又はDCPAに組成変換する前に反応を終了させるための指標とすることができる。
【0055】
上記式(2)及び(3)の反応において、溶液のpHは上昇するが、その上昇量は溶液と成形体の質量比、及び溶液に含有されているイオンによる緩衝作用に依存する。しかし、いずれの場合においても、OCPが消滅し、DCPD及びDCPAのみとなった反応完了時点において、pHは変動しなくなる。
【0056】
本明細書においては、粉末X線回折法において、リン酸カルシウムが、DCPD又はDCPAのみとなり、かつpHの変動が無くなった時点を以て、これ以上の反応が起こらなくなった時点、すなわち反応完了時点と定義し、この時点のpHを以て、反応完了時点のpHと定義する。
【0057】
反応終了時の溶液のpHについては、反応完了時点のpHが4未満の場合、それより低ければ、特に限定されない。反応完了時のpHより0.1以下であれば好ましく、0.2以下であればさらに好ましい。
【0058】
また、OCPの化学組成は、Ca8H2(PO4)6・5H2Oであるため、化学量論的なCa/PO4比率は、1.33である。このため、OCPからDCPDが形成する場合、化学量論から鑑みるに、余剰のCaを周囲の溶液中に放出、或いは不足分のPO4を周囲の溶液中から吸収する必要がある。
【0059】
すなわち、OCPからDCPD及びDCPAが形成する場合において、溶液及び成形体のCa/PO4比率が変動する。これを利用することにより、OCPがアパタイトに組成変換する前に反応を終了させるための指標とすることができる。また、このときの溶液及び成形体のCa/PO4比率の変動は、成形体と溶液の質量の比率、溶液が含有するCa、或いはPO4の濃度に依存する。しかし、いずれの場合においてもOCPがDCPD及びDCPAに完全に組成変換し、安定相のみとなった反応完了時点において、成形体と溶液のCa/PO4は変動しなくなる。
【0060】
反応完了時点の成形体のCa/PO4比率については、特に限定されない。DCPD又はDCPA単相である場合は、通常0.8~1.2である。
【0061】
反応終了時の成形体のCa/PO4比率については、反応完了時点の成形体をリン酸カルシウムがDCPD又はDCPAで構成されている場合、そのCa/PO4比率より低ければ、特に限定されない。
【0062】
反応終了時の溶液のCa/PO4比率については、反応完了時点の成形体をリン酸カルシウムがDCPD又はDCPAで構成されている場合、そのCa/PO4比率より高ければ、特に限定されない。
【0063】
具体的に、本発明においては、予備的に、所望の製造条件における温度・圧力と同条件で、反応中のpHの変化やCa/PO4比率の変動を検知して安定相となるまでの時間を測定しておき、その予備的時間条件に基づいて、浸漬時間を決定することができる。
【0064】
前駆体セラミックス組成物を溶液に浸漬する温度については、特に限定されない。通常、-80℃~270℃、好ましくは0℃~99℃であり、より好ましくは4℃~99℃である。
【0065】
<OCP成形体>
本発明におけるOCP成形体は、OCPが組成中の10質量%以上であることが好ましく、OCPが組成中の50質量%以上であることがより好ましく、OCPが組成中の70質量%以上であることがさらに好ましく、OCPが組成中の90質量%以上であることが特に好ましい。特に、骨再生材料として用いる場合は、上記の条件に加え、成形体中のHApの割合が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、検出できないことが特に好ましい。
【0066】
ここでいう成形体とは、間にコラーゲンなどの介在する物質なく、無機成分の構成成分であるOCPをはじめとする無機物の結晶同士が、化学的な結合、又は結晶同士の絡み合い若しくは融合し合うことで硬化して形態を保っているものをいい、少なくとも99.5%エタノール或いは、水に24時間浸漬しても崩壊せずに形態を保つものをいう。したがって、OCP粉末を圧粉して成形した、OCP圧粉体はこれに含まれない。
【0067】
ここでいう化学的な結合とは、無機成分を構成する結晶間に、共有結合、イオン結合、水素結合、金属結合のいずれかに分類される化学結合が1つ以上あり、この結合により結晶同士が固定され、結晶同士の位置関係が定まり、成形体の概形を維持していることをいう。
【0068】
ここでいう結晶同士の絡み合いとは、微視的には成形体を構成している複数の結晶が、お互いの結晶面を介して接し合う構造をしており、かつ、複数の結晶がこの機構により固定され、成形体の概形が維持されていることをいう。
【0069】
ここでいう結晶同士の融合とは、成形体を構成している複数の結晶が、結晶面で、互いの結晶と隙間なく接している部分があり、この部分では粒界が観察できないものをいう。
【0070】
本発明にて製造した成形体の形状は、前駆体セラミックス組成物の形状を引き継ぐ。このため、精密な加工が可能な前駆体セラミックス組成物を使用することで、成形体に、連通多孔構造、ハニカム構造などの複雑な形状を付与可能である。
【0071】
本発明におけるOCP成形体の形状としては、特に限定されない。上記のように、OCP成形体は、前駆体セラミックスの形状をほぼ引き継ぐため、前駆体セラミックス組成物の形状によりその形状がほぼ決定される。具体的に、OCP成形体の形状としては、例えば、ディスク、ブロック、シートが挙げられる。
ディスクの大きさとしては特に限定されないが、直径は、例えば1~20mm、好ましくは5~10mmである。厚みは、例えば0.5~5mm、好ましく1~3mmである。
ブロックの大きさとしては特に限定されないが、例えば、長さ1~15mm、幅1~50mm、高さ0.5~100mm、好ましくは、長さ8~12mm、幅10~30mm、高さ10~50mmである。
シートの大きさとしては特に限定されないが、例えば、長さ1~20mm、幅1~20mm、厚さ0.01~0.5mm、好ましくは、長さ5~15mm、幅5~15mm、厚さ0.05~0.3mmである。
【0072】
本発明におけるOCP成形体の気孔径及び内部構造は特に限定されない。例えば、気孔径は、通常、0~2000μm、好ましくは50~300μmである。内部構造は、単孔構造でもよいし、任意の形状を持つ連通多孔構造でもよい。アスペクト比については、特に限定されない。気孔率(空隙率)については、0~99%、好ましくは40~80%である。
【0073】
多孔構造の製造法は、特に限定されない。前駆体セラミックス組成物の顆粒同士を結晶成長により結合させて形成させてもよいし、易溶性の塩を空隙形成剤として添加してもよいし、押出成形により多孔構造を製造してもよいし、焼結時に焼失する有機物からなる気孔形成剤を添加して製造してもよい。
【0074】
本発明におけるOCP成形体には、カルボキシル基、シラノール基、リン酸基、スルホ基、ヒドロキシル基、チオール基などのカルシウムと化学結合する官能基を組成中に持つ分子を担持させることができる。OCP成形体にカルシウムと化学結合する官能基を持つ分子を担持させたい場合、浸漬溶液又は前駆体セラミックス組成物に予めカルシウムと化学結合する官能基を組成中に含む分子を含有させておけばよい。なお、カルシウムと化学結合する官能基を組成中に含むOCPは、ここでは無機物であると定義する。
【0075】
ここで、カルボキシル基を持つ分子とは、組成中に-COOHで表される官能基を1つ以上持つ分子のことをいう。
【0076】
OCP成形体に担持させるカルボキシル基を持つ分子としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、カルボン酸チオール、ハロゲン化カルボン酸、アミノ酸、芳香族酸、ヒドロキシ酸、糖酸、ニトロカルボン酸、ポリカルボン酸などに分類される物質、これらの誘導体、及びこれらを重合させた物質が用いられる。すなわち、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、吉草酸、コハク酸、クエン酸、メルカプトウンデカン酸、チオグリコール酸、アスパラガス酸、α-リボ酸、β-リボ酸、ジヒドロリボ酸、クロロ酢酸、マロン酸、アコニット酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、α-ケトグルタル酸、オキサロコハク酸、ピルビン酸、イソクエン酸、α-アラニン、β-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ヒドロキシプロリン、o-ホスホセリン、デスモシン、ノバリン、オクトビン、マンノビン、サッカロピン、N-メチルグリシン、ジメチルグリシン、トリメチルグリシン、シトルリン、グルタチオン、クレアチン、γ-アミノ酪酸、テアニン、乳酸、フォリン酸、葉酸、パントテン酸、安息香酸、サリチル酸、o-フタル酸、m-フタル酸、p-フタル酸、ニコチン酸、ピコリン酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ジャスモン酸、ウンデシレン酸、レブリン酸、イズロン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グリセリン酸、グルコン酸、ムラミン酸、シアル酸、マンヌロン酸、グリコール酸、グリオキシル酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロ酢酸、ニトロヒドロケイ皮酸、ニトロ安息香酸、ポリアクリル酸、ポリクエン酸、ポリイタコン酸並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で担持させてもよいし、複合して使用してもよい。
【0077】
ここで、シラノール基を持つ分子とは、組成中に-SiO4R3で表される官能基を持つものをいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0078】
OCP成形体に担持させるシラノール基を持つ分子としては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ-MPTS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で担持させてもよいし、複合して使用してもよい。
【0079】
ここで、リン酸基を持つ分子とは、組成中に-PO4R2で表される官能基をいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0080】
OCP成形体に担持されるリン酸基を持つ分子としては、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、ヌクレオチド、グルコース-6-リン酸、フラビンモノヌクレオチド、ポリリン酸、10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸(MDP)、フィチン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で担持させてもよいし、複合して使用してもよい。
【0081】
ここで、スルホ基を持つ分子とは、組成中に-SO3Rで表される官能基をいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0082】
OCP成形体に担持されるスルホ基を持つ分子としては、ベンゼンスルホン酸、タウリン、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、キシレンシラノール、ブロモフェノールブルー、メチルオレンジ、4,4‘-ジイソチオシアノ-2,2’-スチルベンジスルホン酸(DIDS)、アゾルビン、アマランス、インジゴカルミン、ウォーターブルー、クレゾールレッド、クマシーブリリアントブルー、コンゴーレッド、スルファニル酸、タートラジン、チモールブルー、トシルアジド、ニューコクシン、ピラニン、メチレンブルー、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、サイクラミン酸ナトリウム、サッカリン、タウコロール酸、イセチオン酸、システイン酸、10-カンファースルホン酸、4-ヒドロキシ-5-アミノナフタレン-2,7-ジスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で担持させてもよいし、複合して使用してもよい。
【0083】
ここで、ヒドロキシ基を持つ分子とは、組成中に-OHで表される官能基をいう。
【0084】
OCP成形体に担持されるヒドロキシル基を持つ分子としては、アルコールに分類される化合物、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、ヒドロキシルアミン、ヒドロキサム酸、フェノール、アルドールに分類される化合物、糖に分類される化合物、グリコールに分類される化合物、イノシトール、糖アルコールに分類される化合物、パンテテイン、並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で担持させてもよいし、複合して使用してもよい。
【0085】
ここで、チオール基を持つ分子とは、組成中に-SHで表される官能基をいう。Rは、H又はアルキル基である。
【0086】
OCP成形体に担持されるチオール基を持つ分子としては、カプトプリル、メタンチオール、エタンチオール、システイン、グルタチオン、チオフェノール、アセチルシステイン、1,2-エタンジチオール、システアミン、ジチオエリトリトール、ジチオトレイトール、ジメルカプロール、チオグリコール酸、チオプロニン、2-ナフタレンチオール、ブシラミン、フラン-2-イルメタンチオール、D-ペニシラミン、マイコチオール、メスナ、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メルカプトピルビン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。これらは、単独で担持させてもよいし、複合して使用してもよい。
【0087】
その塩とは、化合物の塩、特に蒸留水などの溶媒に接触させた時に、良好に溶解し、上記の化合物と同様に機能する塩を意味する。その塩は、上記化合物の無水塩のみならず、含水塩も当然ながら含まれる。その塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩なとどのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩なとどのアルカリ土類金属塩からCa塩を除いたもの、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、ニッケル塩、コハバルト塩、銅塩なとどの遷移金属塩、アンモニウム塩なとどの無機塩、トリス(ヒドロキシメチル)、アミノメタン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、エチレンジアミン塩、グルコサミン塩、グアニシジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、N-メチルグルカミン塩、t-オクチルアミン塩、ジベンシジルアミン塩、モルホリン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-べンジル-N-フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、クロロプロカイン塩、テトラメチルアンモニウム塩などの有機アミン塩、フェノール塩などを挙げることができる。
【0088】
浸漬溶液が含有するカルシウムと化学結合する官能基を組成中に含む物質の濃度は、特に限定されない。通常は、0~2mol/L、好ましくは0.01~0.5mol/Lである。
【0089】
カルシウムと化学結合する官能基を組成中に含む物質に加え、その他の物質(化合物)を担持させたい場合は、予め前駆体セラミックス組成物及び浸漬溶液の少なくとも一方に化合物を添加しておく必要がある。なお、カルシウムと化学結合する官能基を組成中に含む物質に加え、その他の化合物を担持しているOCPも、ここでは無機物であると定義する。
【0090】
担持させる化合物の種類としては、公知の抗菌剤、抗生物質、抗癌剤、防腐剤、耐酸性向上剤などを挙げることができる。
【0091】
担持させる化合物としては、銀、セレン、白金、金、パラジウム、イリジウム、オスミニウム、レニウム、ガリウム、ゲルマニウム、テルル、チタン、ビスマスなどの元素並びにこれらのイオン、錯体、クラスター、ナノ粒子、ペニシリンG・プロカイン(ペニシリンG‐プロカイン塩)、ベンジルペニシリン・ベンザチン(ベンジルペニシリン‐ベンザチン塩)、フシジン酸、フサファンギン、フォスフォマイシン、ムピロシン、ロデモプリム、ジリスロマイシン、ベンジルペニシリン、フェノキシメチルペニシリン、メチシリン、アンピシリン、クロキサシリン、カルベニシリン、ピヴァンピシリン、アモキシシリン、タランピシリン、バカンピシリン、チカルシリン、アゾシリン、メズロシリン、ピブメシリナム、ピペラシリン、アモキシシリン-クラブラン酸、アパラシリン、テモシリン、チカルシリン-クラブラン酸、アンピシリン-スルバクタム、スルタミシリン、ペラシリン-タゾバクタムなどのペニシリン系抗生物質、ストレプトマイシンなどのストレプトマイシン系抗生物質、クロラムフェニコール、チアムフェニコールなどのクロラムフェニコール系抗菌剤、バンコマイシン、テイコプラニンなどのグリコペプチド系抗生物質、クロロテトラサイクリン、オーレオマイシン、クロラムフェニコールオキシテトラサイクリン、デメチルクロルテトラサイクリン、レダマイシン、ライムサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生物質、ゲンタマイシン、ネオマイシン、スペクチノマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ミクロノマイシン、イセパシン、アルベカシンなどのアミノグリコシド系抗生物質、セフロキシム、セファクロル、セフォタキシム、セフスロジン、セフペラゾン、セファゾリン、セフラジン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォチアム、セファレキシン、セフォニシド、セフピラミド、セフォペラゾン-スルバクタム、セフォジジム、セフェティブフェン、セフポドキシム、セフジニル、セフェタメト、セフェピロム、セフェプロジル、セフトリアキソン、セフメノキシム、セフタジジム、セフトロキシム、セフェピムなどのセファロスポリン系抗生物質、コリスチンなどのポリペプチド系抗生物質、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、ミデカマイシン、エリスロマイシン、スピラマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、バージニアマイシン、プリスチナマイシンなどのストレプトグラミン系抗生物質、ロラカルベフなどのカルバセフェム系抗生物質、スルファメチゾール、スルファセタミド、スルファメラジン、スルファジミジン、スルファジアジンなどのサルファ剤、レボフロキサシン、フレロキサシン、ナジフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、エンロフロキサシン、ロメフロキサシン、ルフロキサシン、スパフロキサシンなどのキノロン系抗菌剤、リスロマイシンなどのケトライド系抗生物質パニネム-ペタミプロンなどのカルバペネム系抗生物質、クリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗生物質、ラタモキセフ、フロモキセフなどのオキサセフェム系抗生物質、イミペネム-シラスタチンなどのカルバペネム系抗生物質、セフォキシチン、セフメタゾール、セフォテタンなどのセファマイシン系抗生物質、アズトレオナムなどのモノバクタム系抗生物質、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、エテンザミド、サリチルアミド、ジクロフェナク、フェニル酢酸、インドメタシン、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、ミソプロストール、メロキシカム、ロルノキシカムなどの非ステロイド性抗炎症薬などを挙げることができる。
【0092】
担持させる抗がん剤としては、シクロトリホスファゼン-白金錯体複合体、シスフプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンのような白金錯体、5-フルオロウラシル(5-FU)、テガフール、テガフール・ウラシル、メトトレキサートのような代謝拮抗剤、OK-432などの抗癌溶連菌製剤、クレスチン、レンチナン、シゾフィラン、ソニフィランなどの抗癌多糖体、塩酸ドキソルビシン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、塩酸ダウノルビシン、ネオカルチノスタチン、塩酸アクラルビシン、塩酸エビルビシンなどの抗癌抗生物質、アスパラギナーゼのような酵素、ビンブラスチンのような有糸分裂阻害剤、エトポシドのようなトポイソメラーゼ阻害剤、インターフェロンのような生物的反応修飾剤、シトシンアラビノシド、オキシ尿素、N-{5-[N-(3,4-ジヒドロ-2-メチル-4-オキソキナゾリン-6-イルメチル)-N-メチルアミノ]-2-テノイル}-L-グルタミン酸のような抗代謝剤、アドリアマイシンやブレオマイシンのような層間抗生物質、タモキシフェンのような抗エストロゲン剤、ビンクリスチンのような植物アルカロイド、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、ネオカルチノスタチン、塩酸アクラルビシン、アクラシノン、塩酸エピルビシンのような抗癌抗生物質などを挙げることができる。
【0093】
上記の抗菌剤、抗生物質、抗がん剤、耐酸剤の他に、用途に応じてこれらに該当しない化合物を担持してもよい。すなわち、フラビンモノヌクレオチド、リボフラビン、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシル、カフェイン、ニコチン、アトロピン、ナイトロジェンマスタード、プラリドキシムヨウ化メチル、デオキシリボース、アスコルビン酸、チアミン、ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミン、イドース、α-アセトラクトン、γ-ブチロラクトン、グリセリン、エチレングリコール、ヨードホルム、クロロホルム、ブロモホルム、フォリン酸などを挙げることができる。
【0094】
担持させる化合物の原子数は特に限定されない。好ましくは、200以下である。
【0095】
骨再生材料として好ましい一つの実施形態は、OCPと、すでに骨置換型再生材料として知られている材料からのみからなる複合体であり、他の成分を実質的に含まない形態である。
【0096】
骨置換型再生材料として知られている材料としては、β-TCP、α-TCP、CSD、CSH、CSA、DCPD、炭酸カルシウム、CO3Ap、ACPなどを挙げることができる。
【0097】
骨置換型再生材料として知られている材料とOCPとの比率は、OCPの割合が成形体全体の10質量%以上含まれるように構成されたものであれば特に限定されない。埋入部位及び全身状態を勘案し、用途に応じて組成、比率を変えることができる。
【0098】
また、本発明におけるOCP成形体は、97.5質量%以上が無機成分で構成されていることが好ましく、99.0質量%以上が無機成分で構成されることがより好ましい。
【0099】
以下、本発明の実施形態について具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0100】
[実施例1]
(焼きセッコウを主成分とする組成物からのOCP成形体の製造)
(1)前駆体セラミックス組成物の製造
いずれも和光純薬工業より購入したCSH(CaSO
4・1/2H
2O)3g、及びNaDP(NaH
2PO
4・2H
2O)2gを、蒸留水0.8mLとともに室温条件において、スパチュラにて120rpmの練和速度で乳鉢を用いて2分練和した。練和体は、φ6mm×3mmの割型に埋入、成形した。成形後は、室温下にて12時間静置し、十分に硬化、乾燥させ、前駆体セラミックス組成物の1つである、CSH-NaDP組成物とした。
このCSH-NaDP組成物は、H
2Oへの溶解度がOCPの溶解度より高いセラミックスの混合物であり、また、蒸留水に浸漬した際の周囲の溶液のpHは4.5である。CSHの蒸留水(H
2O)への溶解度は、2.60g/Lであり、NaDPの蒸留水(H
2O)への溶解度は、949.0g/Lである。
図1-1(A)に、製造した前駆体セラミックス組成物であるCSH-NaDP組成物の写真を示し、(B)に、XRDパターンを示す。
【0101】
(2)組成変換反応によるOCP成形体の製造
上記(1)にて製造したCSH-NaDP組成物を、37℃、60℃、80℃にて1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液15mLに浸漬させ、12時間から10日間反応させた。具体的には、37℃で12時間、1日間、10日間、60℃で12時間、1日間、10日間、80℃で12時間、1日間、10日間反応させた。反応後の成形体は、蒸留水で3回以上洗浄後、37℃の恒温槽内にて6時間静置し乾燥させた。反応前の1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液の室温でのpHは、9.5である。80℃において、1日間反応後の水溶液の、室温でのpHは、6.8であった。この系では、安定相はアパタイトである。
【0102】
ここで、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液とは、リン酸水素二ナトリウム無水和物141.96g、或いはリン酸水素二ナトリウム二水和物156.01gを、蒸留水に完全に溶解させ、形成した溶液の総量が1Lであるものをいう。リン酸水素二ナトリウム、或いはリン酸水素二ナトリウム二水和物と蒸留水の比率が同じであれば、使用するリン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、及び蒸留水の量は変化させて製造しても構わない。
【0103】
(3)OCP成形体の特徴付け
本実施例で製造されたOCP成形体は、粉末X線回折(XRD)とフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により特徴付けた。XRDパターンはX線回折装置(D08 ADVANCE、Bruker AXS株式会社)で線源をCuKα線、40kV、40mAとし、3.0°から70.0°まで0.02°の間隔でのステップ走査を用いて記録した。OCPのJCPDSカード番号、26-1056とHApのJCPDS数9-432を用いて結晶相を同定した。
【0104】
(4)OCP成形体の機械的特性の測定
本実施例で製造されたOCP成形体の形及び微細構造は、5kVの加速電圧で動作した日立ハイテクノロジー社製走査型電子顕微鏡(SEM)S-3400Nを用いて検討した。OCP成形体の空隙率は、67kV及び160μAの加速電圧で動作した東陽テクニカ社製マイクロCT撮影システム Skyscan1076を用いて内部構造を撮影後、パブリックフリーソフトImageJを用いて解析し、算出した。OCP成形体のダイアメトラル引張強さ(DTS)については、島津製作所製万能試験機AGS-Jを用いて、0.5mm/minのヘッド移動速度にて測定した。
【0105】
(5)OCP成形体の形成に対する温度依存性
図1-2に、CSH-NaDP組成物を異なる温度にて1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬して得られた成形体の写真を示す。各成形体の大きさはφ6mm×3mmである。
図1-3に、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬して得られた成形体のXRDパターンを示す。
図1-2及び
図1-3で示すように、37℃で、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したCSH-NaDP組成物は、10日浸漬させることにより、OCPを主成分とする成形体となった。60℃で、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したCSH-NaDP組成物は、1日浸漬させることにより、OCPを主成分とする成形体となった。80℃で、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したCSH-NaDP組成物は、1日浸漬させることにより、OCP単相からなる成形体になった。
【0106】
(6)OCP成形体の機械的特性
図1-4で示すように、80℃で1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液にCSH-NaDP組成物を1日浸漬して製造した成形体のDTS強度は、0.95±0.16MPaであった。
【0107】
(7)OCP成形体の微細構造
図1-5のSEM写真に示すように、80℃で1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液にCSH-NaDP組成物を1日浸漬して製造した成形体は、長さ2~5μm、幅0.2~1μm、厚さ0.01~0.2μmの板状結晶が緻密に絡み合っている構造をしている様子が観察された。この構造は、浸漬前のCSH-NaDP組成物では観察されなかったことから、OCP結晶であると考えられる。
【0108】
[実施例2]
(焼きセッコウを主成分とする連通多孔構造を有する組成物からのOCP連通多孔構造成形体の製造)
(1)前駆体セラミックス顆粒からの前駆体セラミックス連通多孔構造組成物の製造
実施例1と同じ手法にて製造したCSH-NaDP緻密成形体(CSH-NaDP組成物)を乳鉢と乳棒で粉砕し、顆粒化した。これを、分級ふるいを用いて粒径が200~300μmとなるように分級した。分級した顆粒をφ6mm×3mmの割型に詰めた。ここに、CSH及びNaDPを飽和させた70%エタノールを0.2mL滴下し、顆粒表面を部分的に溶解させた。その後、室温で12時間以上静置し乾燥させた。これにより、顆粒同士を結合させ、CSH-NaDP連通多孔構造組成物を製造した。
図2-1(A)に、製造した前駆体セラミックス組成物であるCSH-NaDP連通多孔構造組成物の写真を示し、(B)に、マイクロCT像を示す。
【0109】
(2)組成変換反応によるOCP連通多孔構造成形体の製造
上記(1)にて製造したCSH-NaDP連通多孔構造組成物を、80℃にて、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液15mLに浸漬させ、1日(24時間)反応させた。
【0110】
(3)OCP連通多孔構造成形体の特徴付け
実施例1(3)と同様の方法にて特徴付けた。
【0111】
(4)OCP連通多孔構造成形体の機械的特性の測定
実施例1(4)と同様の方法にて測定した。
【0112】
(5)OCP連通多孔構造成形体の特性
図2-2(A)に、80℃にて1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に1日(24時間)浸漬して製造した成形体の写真を示し、(B)に、マイクロCT像を示す。また、
図2-3に、XRDパターンを示す。さらに、
図2-4(A)及び(B)に、浸漬後のCSH-NaDP連通多孔構造組成物(OCP連通多孔構造成形体)のSEM写真を示し、(C)及び(D)に、浸漬前のCSH-NaDP連通多孔構造組成物のSEM写真を示す。
図2-2に示すように、浸漬後も概形及び多孔構造が維持されている様子が観察された。
図2-3に示すように、試料のXRDパターンは、浸漬後の連通多孔構造組成物がOCP単一相となっていることが分かった。
図2-4に示すように、試料のSEM観察により、顆粒同士が連結した形状が維持されながら、板状結晶が顆粒状に形成していた。
【0113】
[動物試験による本発明の成形体の有用性の確認]
実験に先立ち、九州大学動物実験委員会の承認を得て実験を行った。(承認番号A28-270-0)体重3.0~3.5kgの雄日本白色種家兎(日本エスエルシー株式会社)を使用した。ケタミン(30mg/kg)とキシラジン(50mg/kg)を臀部筋肉内注射し、鎮静後、耳静脈を確保しケタミン(10mg/kg)とキシラジン(3mg/kg)の静脈麻酔で維持した。膝部を消毒液で消毒後、皮膚及び骨膜を切開し、大腿骨頭遠位部を展開した。剥離子を用いて骨膜を剥離後、大腿骨内側にトレフィンバーを用いて、φ6.25mm×3mmの骨欠損を形成した。ここに、CSH-NaDP組成物から製造したOCP成形体(実施例1)、及びCSH-NaDP連通多孔構造組成物から製造したOCP連通多孔構造成形体(実施例2)を埋入した。また、コントロールとして水酸アパタイト焼結体を同様に埋入した。埋入試料の外径は、いずれもφ6mm×3mmである。埋入後、骨膜及び皮膚を縫合し、術野周辺部に2%リドカインを注射した。
【0114】
埋入後2週、4週経過後に、過麻酔により安楽死させ、心停止、瞳孔反応消失を確認後、埋入物を周囲組織ごと切除し、4%パラホルムアルデヒドにて固定した。固定後、試料を10%EDTA水溶液、或いは急速脱灰水溶液(KC-X)中で2週間程度脱灰処理を行った後、水洗、段階的な一連のエタノールで脱水し、パラフィン包埋した。大腿骨頭の骨欠損部の中心を取り出し、試料の矢状断にて、ミクロトームにて約5μmの切片を作製した。作製した切片をヘマトキシリン-エオジン(HE)染色し、Keyence社製の顕微鏡写真機(BZ-X710)にて通常光にて撮影した。
【0115】
HE染色による病理組織像による検討を行った。
図2-5に、ウサギ大腿骨頭埋入後2週経過後のHE染色組織像を示す。(A)は、実施例1で製造されたOCP成形体であり、(B)は、実施例2で製造されたOCP連通多孔構造成形体であり、(C)は、コントロールである水酸アパタイト焼結体を示す。
図2-5(A)及び(B)に示すように、ウサギ大腿骨頭の骨欠損部に埋入したOCP成形体及びOCP連通多孔構造成形体の周囲には新生骨形成が観察された。OCP連通多孔構造成形体では、多孔構造内部の一部に新生骨が侵入している様子も観察された。さらに、OCP成形体、OCP連通多孔構造成形体のいずれにおいても、埋入試料の一部を骨が置換している様子も観察された。OCP成形体においては、成形体周囲の一部が骨に置換されていたが、OCP連通多孔構造成形体では、内部まで骨が侵入し、OCP連通多孔構造成形体の一部を置換している様子が観察された。
【0116】
図2-6に、ウサギ大腿骨頭埋入後4週経過後のHE染色組織像を示す。(A)は、実施例1で製造されたOCP成形体であり、(B)は、実施例2で製造されたOCP連通多孔構造成形体であり、(C)は、コントロールである水酸アパタイト焼結体である。
図2-6に示すように、埋入4週間後の組織切片では、2週後と比較して、有意に骨がOCP成形体及びOCP連通多孔構造成形体を置換している様子が観察された。OCP成形体においては、成形体の3割程度が外側から新生骨に置換されていた。OCP連通多孔構造成形体では、上記の効果に加え、OCP連通多孔構造成形体の中心部まで骨が侵入し、内部でも骨置換が活発に起きている様子が観察された。
【0117】
[実施例3]
(DCPD組成物からのOCP成形体の製造)
(1)前駆体DCPD組成物の製造
太平化学産業より購入したα-TCP(Ca
3PO
4、α-TCP-B)0.1gを、φ6mm×3mmの割型に埋入した。ここに、2mol/Lリン酸水溶液(H
3PO
4)を、200μL滴下し、3分静置し、硬化させ、前駆体セラミックス組成物の1つであるα-TCP/H
3PO
4組成物(前駆体DCPD組成物)とした。
図3-1(A)に、製造した前駆体セラミックス組成物であるDCPD組成物の写真を示し、(B)に、XRDパターンを示す。硬化後の組成物は、DCPDに対応するピークが出現しており、これを前駆体セラミックス組成物であるDCPD組成物と定義した。
このDCPD組成物のH
2Oへの溶解度はOCPの溶解度より高いものであり、また、蒸留水に浸漬した際の周囲の溶液のpHは6.7である。DCPDのH
2Oへの溶解度は、0.32g/Lである。
【0118】
(2)組成変換反応によるOCP成形体の製造
上記(1)にて製造した前駆体DCPD組成物を、4℃、室温、37℃、70℃、80℃の恒温槽内にて、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液15mLに浸漬させ、1日間反応させて、OCP成形体を製造した。反応前の1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液のpHは、9.5である。反応後のpHは、それぞれ9.0、8.7、8.3、7.7、7.4である。この系では、安定相はアパタイトである。
【0119】
(3)OCP成形体の特徴付け
OCP成形体の特徴付け及び機械的特性の測定は実施例1の(3)、(4)と同様に行った。
【0120】
(4)OCP成形体の製造に対する温度依存性
図3-2に、浸漬後のDCPD成形体(OCP成形体)の写真を示す。
図3-3に、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に、4℃~80℃にて1日間浸漬した後のDCPD成形体(OCP成形体)のXRDパターンを示す。
図3-2に示すように、1日間1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬した場合、いずれの温度条件においても、崩壊している様子は見られなかった。
また、
図3-3に示すように、いずれの温度条件で浸漬した成形体においても、XRDパターンは4.7°付近に特徴的なピークを示し、OCPが形成している様子が観察された。4℃、室温、37℃の場合、成形体は、いずれもDCPDが残存しており、DCPDとOCPの二相性の成形体となっていた。70℃の場合、成形体は、OCPのみ検出され、OCP成形体となっていた。80℃の場合、成形体は、OCPの他に、HApが含有されていた。
【0121】
(5)前駆体セラミックス組成物から、OCP成形体の製造に対する浸漬時間の関係
同じ温度・溶液条件にて、浸漬時間を2日間、3日間、7日間とし、XRDにより特徴付けた。その結果を
図3-4~
図3-7に示す。
まず、
図3-2に示すように、全ての温度、時間条件において、前駆体DCPD成形体の概形は維持されていた。
図3-4に示すように、4℃及び室温の場合、7日間浸漬しても、前駆体セラミックス組成物中のDCPDが残存している様子が観察された。
図3-5に示すように、37℃の場合、3日間ではDCPDが残存していたが、7日間浸漬した場合、痕跡程度にしか残存しなかった。
図3-6に示すように、70℃の場合、2日間、3日間浸漬した場合、OCP単相からなる成形体が得られた。また、7日間浸漬すると、痕跡程度のHApを含有するOCP成形体が得られた。一方、
図3-7に示すように、80℃の場合、2日間浸漬すると、ほぼHApからなるHAp-OCPの二相性の成形体となることが分かったため、これ以上の検討は行わなかった。
【0122】
(6)浸漬時間と機械的強度の関係性
OCP成形体の機械的強度の指標として、ダイアメトラル引張強さ(DTS)を、実施例1(4)と同様の方法にて測定した。上記(5)における温度依存性に対する検討において、OCP単相からなる成形体が得られた条件である、浸漬温度70℃、浸漬時間1日、2日、3日、7日にて、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬した系にて検討した。
図3-8に示すように、1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に1日間浸漬した成形体のDTS強度は、約2.12±0.23MPaであった。2日間浸漬した成形体のDTS強度は、約5.88±1.71MPaであり、1日間浸漬した成形体のDTS強度と比較して有意に増大した。3日間浸漬した成形体のDTS強度は、約3.55±1.05MPa、7日間浸漬した成形体のDTS強度は、約3.71±1.47MPaであり、2日間浸漬した成形体のDTS強度と比較して有意に減少した。
【0123】
[実施例4]
(カルボキシル基を組成中に含む分子を担持したOCP成形体の製造)
(1)カルボキシル基を組成中に含む分子を担持したOCP成形体の製造
実施例3(1)と同様の手法にて製造した前駆体DCPD組成物を、クエン酸、コハク酸、又は酒石酸を0.2mol/L含有する1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液に70℃、2日間浸漬した。
図4-1に、浸漬後のDCPD組成物(OCP成形体)の写真を示す。図中、(A)はクエン酸を含有するリン酸水素二ナトリウム水溶液、(B)はコハク酸を含有するリン酸水素二ナトリウム水溶液、(C)は酒石酸を含有するリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬したものである。
図4-1に示すように、いずれの場合においても、成形体の概形は浸漬後も維持されていた。
【0124】
(2)カルボキシル基を組成中に含む分子を含む溶液中で処理した成形体の特徴付け
実施例1(3)と同様の手順にて測定して得られたXRDパターンにより特徴付けた。
図4-2に、得られたXRDパターンを示す。
図4-2に示すように、クエン酸又はコハク酸をそれぞれ0.2mol/L含有する水溶液中で処理して製造されたOCP成形体のXRDパターンは、いずれも成形体がOCP単相からなることを示した。酒石酸を0.2mol/L含有する水溶液中で処理して製造されたOCP成形体のXRDパターンは、成形体はOCPを主成分としており、これにDCPDが含有されていることを示していた。
【0125】
(3)カルボキシル基を組成中に含む分子の担持量と担持形態
上記OCP成形体に担持可能なカルボン酸種の検討において、良好な結果が得られたクエン酸、コハク酸について担持量及び担持形態について検討を行った。カルボン酸の濃度を測定するため、成形体中の炭素濃度を、Arガス気流中で成形体を加熱し、ヤナコー社製、元素分析機(MT-6)を用いて、炭素-水素-窒素分析(CHN分析)を行った。得られた成形体の炭素含有量と、担持を試みたカルボン酸の分子量から、OCP成形体へのカルボン酸担持量を測定した。カルボン酸の担持形態については、赤外分光法(FT-IR)も併用した。試料をATRプリズム上にマウントし、4,000-400cm
-1の範囲にわたり2cm
-1の分解能でFT-IR分光計(FT/IR-6300、日本分光株式会社)により得た。
図4-3に、得られたFT-IRスペクトルを示す。
【0126】
(4)OCPスペクトルとカルボキシル基を組成中に含む分子の担持形態の検討
OCPスペクトルデータのスタンダードとして、「Spectrochim Acta 23A:1781-1792,1967」の記載を用いた。
【0127】
(5)OCP結晶構造に与えるカルボキシル基を組成中に含む分子の影響
図4-3に示すように、0.2mol/Lのクエン酸を担持した水溶液中で製造したOCP成形体のIRスペクトルは、1635cm
-1付近のOCP結晶構造中のHPO
4-OH層構造に起因するバンドの形状が、顕著に変化している様子が観察された。また1300
-1~400cm
-1付近に担持を試みたクエン酸及びコハク酸に起因する吸収バンドが観察された。このことより、クエン酸及びコハク酸がHPO
4-OH層構造中に含有されていることが示された。
【0128】
(6)カルボキシル基を組成中に含む分子の担持量
元素分析の結果より、およそクエン酸は2.6%、コハク酸は1.1%OCP成形体に含有されていることが分かった。
【0129】
(7)カルボキシル基を組成中に含む分子を担持しているOCP成形体の機械的特性の測定
クエン酸及びコハク酸について濃度をそれぞれ0.01mol/L、0.05mol/L、0.1mol/L、0.15mol/L、0.2mol/L含有する1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液中にDCPD成形体を70℃で、2日間浸漬した。また、コントロールとして、クエン酸及びコハク酸を含有しない1mol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液中にも同様に浸漬した。浸漬後の成形体の機械的特性を見積もるべく、DTS強度を実施例1(4)と同様の手法にて測定した。
【0130】
図4-4に、クエン酸含有OCP成形体のDTS強度を示し、
図4-5に、コハク酸含有OCP成形体のDTS強度を示す。
【0131】
[実施例5]
(PO4不含有溶液中でのOCP成形体の製造)
実施例3(1)と同様の手法にて製造した前駆体DCPD組成物を、15mLの蒸留水に、密封状態で、70℃にて1日間浸漬させた。
【0132】
図5-1に、浸漬後のDCPD成形体(OCP成形体)の写真を示し、
図5-2に、XRDパターンを示す。
図5-1に示すように、浸漬後の成形体は、前駆体DCPD組成物の概形を維持していた。また、
図5-2に示すように、OCPを含有する成形体となっていた。
【0133】
また、実施例3(1)と同様の手法にて製造した前駆体DCPD組成物を、15mLの1mol/L硫酸ナトリウム水溶液に、密封状態で、70℃にて2日間浸漬させた。
【0134】
図5-3に、浸漬後のDCPD成形体(OCP成形体)の写真を示し、
図5-4に、XRDパターンを示す。
図5-3に示すように、浸漬後の成形体は、前駆体DCPD組成物の概形を維持していた。また、
図5-4に示すように、OCPを含有する成形体となっていた。
【0135】
[実施例6]
(非電解質非水溶性溶液中でのOCP成形体の製造)
実施例3(1)と同様の手法にて製造した前駆体DCPD組成物を、15mLのトルエン中に、密封状態で、70℃にて2日間浸漬させた。
【0136】
図6-1に、浸漬後のDCPD成形体(OCP成形体)の写真を示し、
図6-2に、XRDパターンを示す。
図6-1に示すように、浸漬後の成形体は、前駆体DCPD組成物の概形を維持していた。また、
図6-2に示すように、OCPを含有する成形体となっていた。
【0137】
[実施例7]
(非電解質水溶液溶液中でのOCP成形体の製造)
実施例3(1)と同様の手法にて製造した前駆体DCPD組成物を、15mLのポリエチレングリコール(PEG400、和光純薬工業)、又はポリアクリル酸ナトリウム(ポリアクリル酸ナトリウム2,700~7,500、和光純薬工業)に、密封状態で、70℃にて2日間浸漬させた。
【0138】
図7-1(A)に、ポリエチレングリコールに浸漬したDCPD成形体(OCP成形体)の写真を示し、(B)に、ポリアクリル酸ナトリウムに浸漬したDCPD成形体(OCP成形体)の写真を示す。また、
図7-2に、XRDパターンを示す。
図7-1に示すように、浸漬後のOCP成形体は、DCPD成形体の概形を維持していた。また、
図7-2に示すように、OCPを含有する成形体となっていた。