(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】ガラス基材の互いに対向する両面にコーティングを有する熱処理可能なコーティング物品
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20220704BHJP
C03B 27/012 20060101ALI20220704BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
C03B27/012
B32B17/06
(21)【出願番号】P 2019541760
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 US2018016338
(87)【国際公開番号】W WO2018144666
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-20
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517413513
【氏名又は名称】ガーディアン・グラス・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】GUARDIAN GLASS, LLC
【住所又は居所原語表記】2300 Harmon Road, Auburn Hills, MI 48326-1714 United States of America
(73)【特許権者】
【識別番号】519142608
【氏名又は名称】ガーディアン・ヨーロッパ・エスエイアールエル
【氏名又は名称原語表記】GUARDIAN EUROPE S.A.R.L.
【住所又は居所原語表記】19 Rue du Puits Romain,L-8070 Bertrange, Luxembourg
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】ウェン・ジャン-ガン
(72)【発明者】
【氏名】バーグハート・アダム
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ティン
(72)【発明者】
【氏名】フ・シュエクン
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー・サイラス
(72)【発明者】
【氏名】デビセッティ・スレシュ
(72)【発明者】
【氏名】ビコー・ジョージ
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544741(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093322(WO,A1)
【文献】特表2007-501766(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02886205(EP,A1)
【文献】特表2013-542457(JP,A)
【文献】特開2008-187170(JP,A)
【文献】特表2005-527461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 -23/00
B32B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材によって支持された第1のコーティング及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品であって、
前記ガラス基材の第1の面上に設けられた前記第1のコーティングと、
前記ガラス基材が少なくとも前記第1のコーティングと前記第2のコーティングとの間に位置するように、前記ガラス基材の第2の面上に設けられた前記第2のコーティングと、を備え、
前記コーティングされた物品の観察者の視点から、前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが正のa*反射色を有し、前記ガラス基材上の前記第2のコーティングが負のa*反射色を有する、コーティングされた物品。
【請求項2】
前記コーティングされた物品の観察者の視点から、前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが負のb*反射色を有し、前記ガラス基材上の前記第2のコーティングが正のb*反射色を有する、請求項1に記載のコーティングされた物品。
【請求項3】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングが反射防止(AR)コーティングである、請求項1又は2に記載のコーティングされた物品。
【請求項4】
前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが15%以下の可視光反射率を有し、かつ、前記ガラス基材上の前記第2のコーティングが、15%以下の可視光反射率を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項5】
前記第1のコーティングも前記第2のコーティングも銀系の赤外線(IR)反射層を含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項6】
前記コーティングされた物品が、少なくとも70%の可視光透過率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項7】
前記第1のコーティングの全ての層が、透明誘電体層である、請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項8】
前記第2のコーティングの全ての層が、透明誘電体層である、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項9】
前記コーティングされた物品が熱処理されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項10】
前記コーティングされた物品は、熱焼戻しされている、請求項9に記載のコーティングされた物品。
【請求項11】
少なくとも580℃の温度で熱処理すると、前記熱処理により、前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが、前記観察者の視点から正方向に、反射a*色値をシフトするように構成され、
前記ガラス基材上の前記第2のコーティングは、前記熱処理により、前記観察者の視点から負方向に反射a*色値をシフトするように構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項12】
少なくとも580℃の温度で熱処理すると、前記熱処理により、前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが、前記観察者の視点から負方向に、反射b*色値をシフトするように構成され、
前記ガラス基材上の前記第2のコーティングは、前記熱処理により、前記観察者の視点から正方向に反射b*色値をシフトするように構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項13】
前記第1のコーティングが、前記ガラス基材の、前記観察者が前記コーティングされた物品を見ると意図されたのと同じ側に設けられる、請求項1~12のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項14】
前記ガラス基材上の前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングを含む前記コーティングされた物品が、少なくとも70%の可視光透過率、-5~+5の反射a*値、及び-6~+6の反射b*値を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項15】
前記第1のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第1の高屈折率透明誘電体層と、
1.8以下の屈折率を有する第1の低屈折率透明誘電体層と、
少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第2の高屈折率透明誘電体層と、
1.8以下の屈折率を有する第2の低屈折率透明誘電体層と、を備え、
前記第2のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第1の高屈折率透明誘電体層と、
1.8以下の屈折率を有する第1の低屈折率透明誘電体層と、
少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第2の高屈折率透明誘電体層と、
1.8以下の屈折率を有する第2の低屈折率透明誘電体層と、を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項16】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングの前記低屈折率
透明誘電体層が全て、酸化シリコンを含む、請求項15に記載のコーティングされた物品。
【請求項17】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングの前記高屈折率
透明誘電体層が全て、チタニウムの酸化物及び/又はニオビウムの酸化物を含む、請求項15又は16に記載のコーティングされた物品。
【請求項18】
前記第1のコーティングの前記第2の低屈折率
透明誘電体層が、前記第2のコーティングの前記第2の低屈折率
透明誘電体層よりも、少なくとも75Åだけ厚くなっている、請求項15~17のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項19】
前記第1のコーティング及び/又は前記第2のコーティングが、前記第2の高屈折率
透明誘電体層と前記第2の低屈折率
透明誘電体層との間に位置する、1.70~2.10の屈折率(n)を有する中屈折率透明誘電体層を更に含む、請求項15~18のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項20】
前記中屈折率
透明誘電体層が、ニオビウム(Nb)及びシリコン(Si)の酸化物を含む、請求項19に記載のコーティングされた物品。
【請求項21】
前記第1のコーティング及び/又は前記第2のコーティングが、前記第2の低屈折率
透明誘電体層の上方に位置する、1.70~2.10の屈折率(n)を有する、中屈折率透明誘電体層を更に含む、請求項15~18のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項22】
前記中屈折率
透明誘電体層がジルコニウム(Zr)及びシリコン(Si)の酸化物を含む、請求項21に記載のコーティングされた物品。
【請求項23】
前記第1のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含み、
前記第2のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項24】
前記第1のコーティングの、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層が、前記第2のコーティングの、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層よりも、少なくとも75Åだけ厚くなっている、請求項23に記載のコーティングされた物品。
【請求項25】
前記第1のコーティング及び/又は前記第2のコーティングが、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む前記第2の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層との間に、ニオビウム(Nb)及びシリコン(Si)の酸化物を含む層を更に含む、請求項23~24のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項26】
前記第1のコーティング及び/又は前記第2のコーティングが、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層の上方に位置する、ジルコニウム(Zr)及びシリコン(Si)の酸化物を含む層を更に含む、請求項23~25のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項27】
ガラス基材によって支持された第1のコーティング及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品であって、
前記ガラス基材の第1の面上に設けられた前記第1のコーティングであって、異なる屈折率を有する複数の誘電体層を含む、前記第1のコーティングと、
前記ガラス基材が少なくとも前記第1のコーティングと前記第2のコーティングとの間に位置するように、前記ガラス基材の第2の面上に設けられた前記第2のコーティングであって、異なる屈折率を有する複数の誘電体層を含む、前記第2のコーティングと、を含み、
少なくとも580℃の温度で熱処理されると、前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが、前記熱処理により、
観察者の視点から正方向に、反射a*色値をシフトするように構成され、前記熱処理されると、前記ガラス基材上の前記第2のコーティングは、前記熱処理により、前記観察者の視点から負方向に、反射a*色値をシフトするように構成されている、コーティングされた物品。
【請求項28】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングが反射防止(AR)コーティングである、請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項29】
前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが、5%以下の可視光反射率を有し、
前記ガラス基材上の前記第2のコーティングが、5%以下の可視光反射率を有する、請求項27又は28に記載のコーティングされた物品。
【請求項30】
前記コーティングされた物品が、少なくとも70%の可視光透過率を有する、請求項27~29のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項31】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングの全ての層が、透明誘電体層である、請求項27~30のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項32】
前記第1のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含み、
前記第2のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含む、請求項27~31のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項33】
前記第1のコーティングの、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層が、前記第2のコーティングの、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層よりも、少なくとも75Åだけ厚くなっている、請求項32に記載のコーティングされた物品。
【請求項34】
前記第1のコーティング及び/又は前記第2のコーティングが、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む前記第2の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層との間に、ニオビウム(Nb)及びシリコン(Si)の酸化物を含む層を更に含む、請求項32~33のいずれか一項に記載のコーティングされた物品。
【請求項35】
コーティングされた透明なガラス製品を製造する方法であって、
ガラス基材の第1の面上に設けられた第1のコーティングと、前記ガラス基材の第2の面上に設けられた第2のコーティングとを含むことにより、前記ガラス基材が少なくとも前記第1のコーティングと前記第2のコーティングとの間に位置する、コーティングされた物品を有することと、
少なくとも580℃の温度で前記コーティングされた物品を熱処理し、前記熱処理が、(i)前記ガラス基材上の前記第1のコーティングを、前記熱処理により、意図された観察者の視点から正方向に、反射a*色値シフトさせ、かつ(ii)前記ガラス基材上の前記第2のコーティングを、前記熱処理により、前記意図された観察者の視点から負方向に、反射a*色値シフトさせることと、を含む方法。
【請求項36】
前記熱処理が、(i)前記ガラス基材上の前記第1のコーティングを、前記熱処理により、意図された観察者の視点から正方向に、少なくとも1.0だけ反射a*色値シフトさせ、(ii)前記ガラス基材上の前記第2のコーティングを、熱処理により、前記意図された観察者の視点から負方向に、少なくとも1.0だけ反射a*色値シフトさせる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングが、反射防止(AR)コーティングである、請求項35~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記ガラス基材上の前記第1のコーティングが、5%以下の可視光反射率を有し、前記ガラス基材上の前記第2のコーティングが、5%以下の可視光反射率を有する、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングの全ての層が、透明誘電体層である、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記第1のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含み、
前記第2のコーティングが、前記ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、
チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、
酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含む、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記第1のコーティングの、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層が、前記第2のコーティングの、酸化シリコンを含む前記第2の透明誘電体層よりも、少なくとも75Åだけ厚くなっている、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記熱処理が熱焼戻しを含む、請求項35~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
熱処理後の前記ガラス基材上の前記コーティングを含む、前記コーティングされた透明なガラス製品が、少なくとも90%の可視光透過率を有する、請求項35~42のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材を含むコーティングされた物品に関する。ガラス基材の第1の面には第1のコーティングが設けられ、ガラス基材の第2の面には第2のコーティングが設けられる。その2つのコーティングは、全体をコーティングされた物品の色変化を、観察者の視点から、熱処理(例えば、熱焼戻し)の際に減少させ、かつ/又は互いに実質的に補償しあうそれぞれの反射呈色を有するように設計されており、これにより、全体をコーティングされた物品の外観を、意図された観察者にとって中立にするようにするように設計されている。コーティングは、特定の例示的実施形態において、反射防止(AR)コーティングであってもよい。例えば、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1及び第2のコーティングが熱処理(HT)時に、互いに実質的にオフセットされた互いに異なるそれぞれの可視的反射色変化をさせられて、コーティングされた物品が、観察者にとって、熱処理(HT)の前後で同様の色に見えるようにされ得る。したがって、観察者の視点からは、熱処理(HT)(例えば、熱焼戻し)による可視的色変化を低減又は最小化させて、観察者にとって、コーティングされた物品で、熱処理されていないものと熱処理されたものとを似たような外観にすることができる。このようなコーティングされた物品は、窓用単板ガラス、店頭窓用ガラス、博物館のショーケース用ガラス、絵画・写真フレーム用ガラス、小売店のディスプレイケース窓用ガラス、テーブルの天板用ガラス、窓ユニット用複層ガラス(IG)、窓用合わせガラス、及び/又は他の好適な用途において使用することができる。
【発明の概要】
【0002】
両面に反射防止(AR)コーティングを有するコーティングされた物品は、ガラス基材の互いに対向する両面に第1の反射防止(AR)コーティング及び第2の反射防止(AR)コーティングを備える。このようなコーティングされた物品は、多くの場合、熱焼戻しなどの熱処理を受ける。残念ながら、このようなコーティングされた物品は、熱処理の前後で、その見た目の色が実質的に異なってしまう(異なる高い反射色差(ΔE*)値を有する)。換言すれば、熱処理は、コーティングされた物品の反射呈色の有意な変化を引き起こす。これは、コーティングされた物品が、熱処理されていない場合と熱処理された場合とでは、観察者の視点から著しく異なる外観を有するため望ましくない。
【0003】
更に、低い反射色差(ΔE*)値を有するように所与の反射防止(AR)コーティングを設計することは、特に困難であることが判明している。換言すれば、熱焼戻しなどの熱処理の際に低い反射色シフトを有するように反射防止(AR)コーティングを設計することは、困難であるということが判明している。
【0004】
したがって、例えば両面反射防止(AR)コーティング物品などのコーティングされた物品には、そのコーティングされた物品が、ガラス基材の両面に、熱焼戻しなどの熱処理時の色シフトを低減したものであるような、反射防止(AR)コーティングを設けられることが望ましいであろう。
【0005】
本発明の例示的実施形態は、ガラス基材を含むコーティングされた物品に関し、第1のコーティングはガラス基材の第1の面上に設けられ、第2のコーティングがガラス基材の第2の面上に設けられる。コーティングは、ガラス基材上に直接、又は間接的に設けられ得る。その2つのコーティングは、全体をコーティングされた物品の色変化を、観察者の視点から、熱処理(例えば、熱焼戻し)の際に減少させ、かつ/又は互いに実質的に補償しあうそれぞれの反射呈色を有するように設計されており、これにより、全体をコーティングされた物品の外観を、意図された観察者にとって中立にするようにするように設計されている。特定の例示的実施形態において、コーティングは、反射防止(AR)コーティングであり得る。例えば、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1及び第2のコーティングが熱処理(HT)時に、互いに実質的にオフセットされた、あるいは互いに実質的に補償しあう、それぞれ異なるそれぞれの可視的反射色変化をさせられて、コーティングされた物品が、観察者にとって、熱処理(HT)の前後で同様の色に見えるようにされ得る。特定の例示的実施形態では、全体をコーティングされた製品内で互いを補償するために、熱処理(HT)の前及び/又は後で、第1のコーティングが正の反射a*値を有し、第2のコーティングが負の反射a*値を有し得る。特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティングは、熱処理(HT)によって、第1の方向に反射a*色値シフトし、第2のコーティングは、熱処理(HT)によって、第1の方向と実質的に反対の第2の方向(正又は負)に反射a*色値シフトし得る。例えば、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティングが、熱処理(HT)によって、正方向の反射a*色値シフトをし、他方で第2のコーティングが、熱処理(HT)によって、負方向の反射a*色値シフトを経験する。したがって、観察者の視点からは、熱処理(HT)(例えば、熱焼戻し)による可視的呈色変化を低減又は最小化させて、観察者にとって、コーティングされた物品で、熱処理されていないものと熱処理されたものとを、似たような外観にすることができる。特定の例示的実施形態では、第1のコーティング及び第2のコーティングは、コーティングされた物品が、熱処理(HT)の前と後との両方で、観察者の視点から実質的に中立的な色を実現するように設計される。
【0006】
本発明の例示的な実施形態では、コーティングされた透明なガラス製品を作製する方法が提供され、この方法は、コーティングされた物品に、ガラス基材の第1の面上に設けられた第1のコーティングと、ガラス基材の第2の面上に設けられた第2のコーティングとを備えさせ、ガラス基材が少なくとも第1のコーティングと第2のコーティングとの間に位置するようにすることと、コーティングされた物品を少なくとも580℃の温度で熱処理して、加熱処理が、(i)熱処理によって、ガラス基材上の第1のコーティングに、意図される観察者の視点から正方向に反射a*色値シフトを実現させ、かつ(ii)熱処理によって、ガラス基材上の第2のコーティングに、意図された観察者の視点から負方向に反射a*色値シフトを実現させることと、を含む。
【0007】
本発明の例示的な実施形態では、ガラス基材によって支持される第1のコーティング及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品が提供されるが、そのコーティングされた物品は、ガラス基材の第1の面上に設けられた第1のコーティングと、ガラス基材が少なくとも第1のコーティングと第2のコーティングとの間に位置するようにガラス基材の第2の面上に設けられた、第2のコーティングとを備え、コーティングされた物品の観察者の視点から、ガラス基材上の第1のコーティングが正のa*反射色を有し、ガラス基材上の第2のコーティングが負のa*反射色を有する。
【0008】
本発明の例示的な実施形態では、ガラス基材によって支持される第1のコーティング及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品が提供されるが、そのコーティングされた物品は、ガラス基材の第1の面上に設けられ、異なる屈折率を有する複数の誘電体層を含む第1のコーティングと、ガラス基材が少なくとも第1のコーティングと第2のコーティングとの間に配置されるようにガラス基材の第2の面上に設けられ、異なる屈折率を有する複数の誘電体層を含む第2のコーティングとを備え、ガラス基材上の第1のコーティングは、少なくとも580℃の温度で熱処理(例えば、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化)すると、その熱処理により、観察者の視点から正方向に反射a*色値シフトをするように構成され、ガラス基材上の第2のコーティングは、熱処理すると、その熱処理により、観察者の視点から負方向に反射a*色値シフトをするように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の例示的実施形態による、コーティングされた単板型の物品(熱処理されたもの又は熱処理されていないもの)の断面図である。
【0010】
【
図2】本発明の別の例示的実施形態による、コーティングされた単板型の物品(熱処理されたもの又は熱処理されていないもの)の断面図である。
【0011】
【
図3】熱処理によって、ガラス基材の互いに対向する両面上に設けられた第1のコーティング及び第2のコーティングが、コーティングされた物品の観察者の視点から、どのように互いに反対方向又は実質的に互いに反対方向に色シフトするかを示す色グラフである。
図3は、
図1及び/又は
図2の実施形態に関し得る。
【0012】
【
図4】観察者によって見られる2つのコーティングからの反射可視光を示す、
図1及び
図2の実施形態の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで添付の図面をより詳細に参照すると、同様の参照番号は、いくつかの図を通して同様の部分/要素を示す。
【0014】
本発明の例示的な実施形態は、ガラス基材1を含むコーティングされた物品に関し、そのガラス基材1においては、第1のコーティング10(又は20)がガラス基材1の第1の面に設けられ、第2のコーティング20(又は10)がガラス基材1の第2の面に設けられている。コーティング10及び20は、ガラス基材1上に直接、又は間接的に設けられ得る。コーティング10及び20は、熱処理(例えば、熱焼戻し)の際に、全体をコーティングされた物品の色変化を、観察者の視点から低減するように設計される。特定の例示的実施形態において、コーティング10及び20は、反射防止(AR)コーティングであり得る。例えば、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティング10及び第2のコーティング20が熱処理(HT)時に、互いに実質的にオフセットされた、あるいは互いに実質的に補償しあう、それぞれ異なるそれぞれの可視的反射色変化をさせられて、コーティングされた物品が、観察者にとって、熱処理(HT)の前後で同様の色に見えるようにされ得る。特定の例示的実施形態では、熱処理(HT)の前及び/又は後に、全体をコーティングされた製品内で互いを補償しあい、観察者にとって実質的にニュートラルな外観を可能にする(例えば、
図3を参照)ように、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティング10(又は20)は正の反射a
*色値を有してよく、第2のコーティング20(又は10)は、負の反射a
*色値を有してよい。特定の例示的実施形態では、熱処理(HT)の前及び/又は後に、全体をコーティングされた製品内で互いを補償しあい、観察者にとって実質的にニュートラルな外観を可能にする(例えば、
図3を参照)ように、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティング10(又は20)は正の反射b
*色値を有してよく、第2のコーティング20(又は10)は、負の反射b
*色値を有してよい。特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティング10(又は20)は、熱処理(HT)によって、第1の方向に反射a
*色値シフトし、第2のコーティング20(又は10)は、熱処理(HT)によって、第1の方向と実質的に反対の第2の方向(正又は負)に反射a
*色値シフトし得る。例えば、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティング10(又は20)が、熱処理(HT)によって、正方向の反射a
*色値シフトをし、他方で第2のコーティング20(又は10)が、熱処理(HT)によって、負方向の反射a
*色値シフトをする(例えば、
図3を参照)。したがって、観察者の視点からは、熱処理(HT)(例えば、熱焼戻し)による可視的色変化を低減又は最小化させて、観察者にとって、コーティングされた物品で、熱処理されていないものと熱処理されたものとを似たような外観にすることができる。特定の例示的実施形態では、第1及び第2のコーティング10及び20は、コーティングされた物品が、熱処理(HT)の前と後との両方で、観察者の視点から実質的に中立的な色を実現するように設計される。第1及び第2のコーティング10及び20は、本発明の異なる実施形態において、同じ又は異なる層積層体を有し得る。第1及び第2のコーティング10及び20が同じ又は実質的に同じ層積層体を有する実施形態では、驚くべきことに、特定の1つ以上の層の厚さを調整することにより、熱処理(HT)時に、コーティングに異なる反射色シフトをさせることができ、コーティングされた物品の観察者の視点から、熱処理(HT)によって、第1のコーティング10(又は20)が正の反射a
*色値シフトをし、熱処理(HT)によって、第2のコーティング20(又は10)が負の反射a
*色シフトをし得るということが判明した。このようなコーティングされた物品は、窓用単板ガラス、店頭窓用ガラス、博物館のショーケース用ガラス、絵画・写真フレーム用ガラス、小売店のディスプレイケース窓用ガラス、テーブルの天板用ガラス、窓ユニット用複層ガラス(IG)、窓用合わせガラス、及び/又は他の好適な用途において使用することができる。
【0015】
典型的な反射防止(AR)コーティング自体は、ほとんどが、青、紫、又はピンクの呈色などの非中立的な反射呈色を有し、したがって、それ自体が中立的な反射呈色を達成することができない。しかも、典型的な反射防止(AR)コーティングの非中立的な呈色は、熱焼戻しなどの熱処理(HT)後に悪化する。したがって、本発明の例示的な実施形態は、熱焼戻しなどの熱処理の前後両方で、中立的な、可視反射呈色を達成することができる反射防止コーティング物品に関するものであり、これは本明細書に記載される理由から有利である。本発明の例示的な実施形態では、上記のことは、ガラス基材1の両面に2つの反射防止(AR)コーティング10、20を、その2つの反射防止(AR)コーティングの反射呈色が、任意の熱処理(HT)の前後の両方で互いに補償されるように設けることによって達成される。
【0016】
図4は、
図1~
図3に適用可能な本発明の例示的な実施形態の断面図である。
図4では、ガラス基材1の第1の面に第1のコーティング10(又は20)が設けられ、ガラス基材1の第2の面に第2のコーティング20(又は10)が設けられる。コーティング10は、コーティングされた物品に入射する可視光の一部を、コーティングされた物品によって、光A’として観察者に向けて反射させ、コーティング20は、コーティングされた物品に入射し、コーティング10及びガラス基材1を通過する可視光の一部分を、光B’として観察者に向かって戻るように反射させる。本発明の例示的実施形態は、反射光A’と反射光B’とが組み合わされたときに、コーティングされた物品が実質的に中立的な反射色を実現するような、互いに相補的なコーティングとなる、しかも同じコーティングで、熱処理される用途と熱処理されない用途との両方で、そのようになるように、コーティング10及び20を設計する。コーティング10及び20は、一方のコーティング10の熱処理(HT)後の反射色シフトが、他方のコーティング20の熱処理(HT)後の反射色シフトを補償又は実質的に補償するように、熱処理時に、互いに反対方向の反射色シフト(例えば、互いに反対方向のa
*及び/又はb
*色シフト)をするように設計され得る。したがって、コーティングされた物品は、熱処理(HT)の前後で、可視反射呈色に関して、観察者には同様に見えるようになる。有利なことには、上記のことにより、所与のコーティングされた物品の熱処理(HT)されたものと熱処理(HT)されていないものとの両方を互いに隣り合わせにして用いても、観察者にとって異なる外観を呈させないことが可能となる。
【0017】
特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品の観察者の視点から、コーティング10は、熱処理(HT)によって、第1の方向に反射a*色値シフトし、第2のコーティング20(又は10)は、熱処理(HT)によって、第1の方向と実質的に反対の第2の方向(正又は負)に反射a*色シフトし得る。例えば、コーティングされた物品の観察者の視点から、第1のコーティング10(又は20)が、熱処理(HT)によって、正方向の反射a*色値シフトをし、他方で第2のコーティング20(又は10)が、熱処理(HT)によって、負方向の反射a*色シフトをする。したがって、観察者の視点からは、HT(例えば、熱焼戻し)による可視的呈色変化を低減又は最小化させて、観察者にとって、コーティングされた物品で、熱処理されていないものと熱処理されたものとを、似たような外観にすることができる。特定の例示的実施形態では、第1及び第2のコーティング10及び20は、コーティングされた物品が、熱処理(HT)の前と後との両方で、観察者の視点から実質的に中立的な色を実現するように設計される。第1及び第2のコーティング10及び20は、本発明の異なる実施形態において、同じ又は異なる層積層体を有し得る。第1及び第2のコーティング10及び20が同じ又は実質的に同じ層積層体を有する実施形態では、驚くべきことに、特定の1つ以上の層の厚さを調整することにより、熱処理(HT)時に、コーティングに異なる反射色シフトをさせることができ、かつ/又は熱処理(HT)の前及び/又はその後で、コーティングが互いに反対のa*値及び/又はb*値を持つようにさせることができ、コーティングされた物品の観察者の視点から、コーティングされた物品が、実質的に中立的な反射呈色を有し、かつ/又は熱処理(HT)によって、第1のコーティング10(又は20)が正の反射a*色値シフトをし、熱処理(HT)によって、第2のコーティング20(又は10)が負の反射a*色シフトをし得るということが判明した。
【0018】
本発明の特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品は、所望により、「熱処理」(HT)されてもよく、好ましくは、熱処理(HT)可能であるように設計される。本明細書で使用するとき、「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理する」といった表現は、物品を含むガラスの、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化を達成するのに十分な温度まで物品を加熱することを意味する。この定義は、例えば、コーティングされた物品を、オーブン又は炉内で、少なくとも約580℃、より好ましくは少なくとも約600℃の温度で、焼戻し、曲げ、及び/又は加熱強化を可能にするのに十分な時間にわたって加熱することを含む。特定の例では、熱処理(HT)は、少なくとも約4分間又は5分間にわたって行われるものであり得る。コーティングされた物品は、本発明の異なる実施形態において熱処理されていても、されていなくてもよい。
【0019】
図1は、本発明の例示的実施形態による、コーティングされた物品の断面図である。
図1の実施形態では、反射防止(AR)コーティング10がガラス基材1の一方の面に設けられ、別の反射防止(AR)コーティング20がガラス基材1の他方の面に設けられている。
図1の実施形態では、コーティング10及び20のそれぞれの層の材料は同じ材料であってもよいが、2つのコーティングの層厚は異なるものとしてもよく、かつ、本明細書で論じられるように、コーティングが異なる反射呈色値を有するように特に設計されている。特定の例示的実施形態では、コーティング10及び20は、銀又は金に基づいたいかなる赤外線(IR)反射層をも含まない。ガラス基材1(例えば、無色透明、緑色、青銅色、灰色、青色、又は青緑色ガラス)は、厚さが約1.0~12.0mmで、より好ましくは厚さが約4~8mmであり得るが、ガラス基材の厚さの一例は、約6mmである。
図1に示される全ての層は透明誘電体層であり、それら全ての層は、スパッタリング堆積法又は任意の他の好適な技術によって堆積され得る。多層反射防止(AR)コーティングは、スペクトル内に広い反射防止領域を提供し、例えば、1/4分-1/2-1/4の反射防止(AR)原理に基づくことができ、その場合、ガラス基材から外側に向かって、コーティングはそれぞれ、中屈折率の1/4波長層、高屈折率の1/2波長層、低屈折率の1/4波長層を含み、次いで空気となっていてもよい。また、例えば、
図1に示すように、中屈折率層を、高屈折率層及び低屈折率層の2つの薄層で置き換えてもよい。更に、特定の例示的事例では、薄い疎水性層が反射防止(AR)コーティングの上に設けられてもよく、かつ/又は特定の例示的実施形態では、高屈折率層と低屈折率層との間に、界面の接着を改善するための薄層を追加することができる。反射防止(AR)コーティング10は、層2、層3、層4、及び層5を含み、反射防止(AR)コーティング20は、層2’、層3’、層4’、及び層5’を含む。
【0020】
なおも
図1を参照すると、層2、層2’、層4、及び層4’は、少なくとも約2.15の屈折率(n)、より好ましくは少なくとも約2.20の屈折率(n)、最も好ましくは少なくとも約2.25の屈折率(n)を有する高屈折率層である。高屈折率層2、層2’、層4、及び層4’はそれぞれ、酸化チタン(例えば、TiO
x(式中、xは、1.5~2.0、より好ましくは1.8~2.0であり、例としてはTiO
2がある))又は酸化ニオビウム(例えば、NbO
x(式中、xは、1.4~2.1、より好ましくは1.5~2.0であり、例としてはNb
2O
5及びNbO
2がある)などの高屈折率透明誘電材料で作られていても、又はそれを含んでいてもよい。なお、本明細書に記載の全ての屈折率(n)値は、550nmの波長での値である。層3、層3’、層5、及び層5’は、約1.8未満、より好ましくは約1.7未満、最も好ましくは約1.6未満の屈折率(n)を有する低屈折率層である。低屈折率層3、層3’、層5、及び層5’は、それぞれ、酸化シリコン(例えば、SiO
2)又は任意の他の好適な低屈折率材料などの低屈折率透明誘電材料で作られていても、又はそれを含んでいてもよい。本発明の特定の例示的実施形態では、層3、層3’、層5、及び/又は層5’の任意の層の酸化シリコン(例えば、SiO
2)も、アルミニウム(Al)及び/又は窒素(N)などの他の材料をドープされていてもよい。例えば、層3、層3’、層5、及び/又は層5’のいずれも、酸化シリコン(例えば、SiO
2)で作られていてもよく、又はそれを含み、かつ、約0~8%(より好ましくは1~5%)のAl及び/又は約0~10%(より好ましくは約1~5%)のNを含んでいてもよいが、こうした例に限定されるものではない。同様に、高屈折率層の酸化チタン及び/又は酸化ニオビウムもまた、特定の例示的実施形態では他の材料をドープされていてもよい。上述したように、層2及び層3(又は層2’及び層3’)を組み合わせたものは、1.70~2.10、より好ましくは1.75~2.0、更により好ましくは1.75~1.95の屈折率(n)を有する中屈折率層で置き換えることが可能である。特定の例示的実施形態では、各層がドーパントなどの他の材料を含むことが可能である。当然のことながら、本発明の特定の代替的実施形態では、上述した層以外の層も提供されてもよく、又は上述した層のうち一部の層が省略されてもよく、異なる材料が使用されてもよいということが理解されるであろう。
【0021】
なお、本明細書で使用する場合には、用語「酸化物」及び「窒化物」は、様々な化学量論比を含むことに留意されたい。例えば、「酸化シリコン」という用語は、化学量論的SiO2をも、非化学量論的酸化シリコンとともに含む。別の例として、「酸化チタン」という用語は、化学量論的TiO2をも、非化学量論的酸化チタンとともに含む。
【0022】
一般に、上述以外の層もまた、コーティングのどこか他の場所に設けられていてもよい。したがって、コーティング10及び20、又はそれらの層が基材1の「上」に存在する、又は基材1によって(直接的又は間接的に)「支持されている」が、それ以外の層を、基材1とコーティング10及び20、又はそれらの層との間に設け得る。したがって、例えば、仮に、層又はコーティングと基材1との間に、他の1つ以上の層が設けられていたとしても、その層又はコーティングは、基材1の「上」にあると見なされる(すなわち、本明細書で使用する場合、「~の上に存在する」及び「~によって支持される」などという用語は、「直接接触」することには限定されない)。しかしながら、好ましい実施形態では、
図1及び
図2に示される直接接触が存在し得る。
【0023】
図1の実施形態に戻ると、様々な厚さが、本明細書で論じる必要性の1つ以上のものと矛盾することなく使用され得る。本発明の特定の例示的実施形態によれば、ガラス基材1上の
図1の実施形態のそれぞれの層のための例示的な厚さ(単位:オングストローム)及び材料は、所望の可視光透過性、可視光の低反射性、相当程度中立的な反射呈色、及び所望に応じて熱処理(HT)を実施した場合の所望の反射色シフトを実現するための特定の例示的実施形態では、以下のとおりである(なお、以下では、各層は、ガラス基材1に近い方から遠い方に向かう順序で挙げられている)。表1は、反射防止(AR)コーティング10の例示的な材料及び厚さを示し、かつ表2は、所望により実施する熱処理(HT)の前及び/又は後の、反射防止(AR)コーティング20の例示的な材料及び厚さを示す。
【表1】
【表2】
【0024】
上記表1及び2は、コーティング10と20との間の有意な差が、低屈折率層5’と比較した場合の低屈折率層5の厚さにあることを示す。本発明の特定の例示的実施形態では、コーティング10中の低屈折率層5は、コーティング20中の低屈折率層5’よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、最も好ましくは少なくとも130Åだけ物理的に厚くなっている。驚くべきことに、また予想外なことに、層5’と比較した場合の層5の上述した厚さの違いは、可視光反射色値に、以下のことを可能にする程度まで顕著に影響を及ぼすことが判明した:(i)ガラス上の第1及び第2のコーティング10及び20が、熱処理(HT)時に、互いに実質的にオフセット又は互いに実質的に補償するように異なるそれぞれの可視光反射色が変化し、その結果、コーティングされた物品は、そのような熱処理の前後の両方で、観察者に、色に関して同様に見えるようにする、(ii)コーティングされた物品の観察者の視点から、熱処理(HT)の前及び/又は後に、一方のコーティングは正の反射a*色値を有することができ、他方のコーティングは、負の反射a*色値を有することができ、その結果、全体をコーティングされた製品において互いに補償しあい、観察者に対して実質的に中立的な外観を呈するのを可能にする、(iii)コーティングされた物品の観察者の視点から、熱処理(HT)の前及び/又は後に、一方のコーティングは正の反射b*色値を有することができ、他方のコーティングは負の反射b*色値を有することができ、その結果、全体をコーティングされた製品において互いに補償しあい、観察者に対して実質的に中立的な外観を呈するのを可能にする、(iv)コーティングされた物品の観察者の視点から、一方のコーティングは、熱処理(HT)によって、正方向に反射a*色値シフトし、他方のコーティングは、熱処理(HT)によって、負方向に反射a*色値シフトしてよく、その結果、コーティングされた物品の熱処理されていないものと熱処理されたものとが観察者にとっては同様に見えるように、熱処理(HT)(例えば、熱焼戻し)による可視光反射色変化を低減又は最小化することができる。本明細書に記載される実施例は、これらの予想外でかつ驚くべき結果の裏付けを提供する。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化などの任意の熱処理(HT)の前及び/又は後に、
図1の実施形態によるコーティングされた物品は、標準イルミナントC及び2度視野の標準観測者という条件下では、以下の表3に示す色/光学特性を有する。なお、表3中、TY及びT
visは、
図1のコーティングされた物品を通した可視光透過率を表し、表3中、RYは、意図された観察者の視点からの、
図1のコーティングされた物品の可視光反射率を表し、RYの下方にあるa
*値及びb
*値は、意図された観察者の視点からの、
図1の全体をコーティングされた物品のそれぞれのCIE可視光反射率呈色を表し、
図1の実施形態における、全体をコーティングされた物品の中立的な反射呈色を示すものである。
【表3】
【0026】
上記の表3からわかるのは、
図1の実施形態の全体をコーティングされた物品は、高い可視光透過率、反射防止(AR)コーティング10及び20による低い可視光反射率、及び意図された観察者の視点からの中立的な外観を有することである。本明細書で論じられるa
*色値及びb
*色値は、コーティングされた物品の意図された観察者の視点からのものである。
【0027】
コーティング10及び20は両方とも、
図1に示されるコーティングされた物品の反射呈色に寄与するので、分析及び光学特性の目的のために、ガラス基材1上のそれぞれのコーティングを単独で分離させた。
図1の実施形態によるコーティングされた物品を分析する目的に対しては、上記の方法は適切な技術である。
【0028】
表4は、本発明の特定の例示的実施形態に係る、熱処理(HT)の前の、ガラス基材上のコーティング10のみ(つまり、コーティング20が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表4は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング10を含むコーティングされた物品の、
図1に図示された意図された観察者の視点から見た、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。なお、本発明の特定の例示的実施形態において、コーティング10及び20は、互いに交換され得るものである。
【表4】
【0029】
表5は、本発明の特定の例示的実施形態による、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化などの熱処理(HT)後の、ガラス基材上のコーティング10のみ(すなわちコーティング20が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表5は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング10を含むコーティングされた物品の、
図1に図示された意図された観察者の視点から見た、熱処理(HT)後の、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。
【表5】
【0030】
表4及び表5から、コーティング10をその上に有するガラス基材の熱処理(HT)は、反射a*色値をその熱処理(HT)後に、正方向にシフトさせることがわかる。例えば、+3から+6へのa*シフトは、a*値がより正になるため、正方向へのシフトである。別の例としては、-4から-1へのa*シフトは、a*値がより正になるため、正方向へのシフトである。更に別の例としては、-1から+3へのa*シフトは、a*値がより正になるため、正方向のシフトである。
【0031】
表6は、本発明の特定の例示的実施形態に係る、熱処理(HT)の前の、ガラス基材上のコーティング20のみ(つまり、コーティング10が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表6は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング20を含むコーティングされた物品の、
図1に図示された意図された観察者の視点から見た、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。なお、本発明の特定の例示的実施形態において、コーティング10及び20は、互いに交換され得るものである。
【表6】
【0032】
表7は、本発明の特定の例示的実施形態による、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化などの熱処理(HT)後の、ガラス基材上のコーティング20のみ(すなわちコーティング10が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表7は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング20を含むコーティングされた物品の、
図1に図示された意図された観察者の視点から見た、熱処理(HT)後の、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。
【表7】
【0033】
表4及び表5とは対照的に、表6及び表7から、その上にコーティング20を有するガラス基材の熱処理(HT)は、意図された観察者の視点から、反射a*色値を負方向にシフトさせる(コーティング10によって引き起こされるa*シフトの反対方向にシフトさせる)ことがわかる。例えば、-1から-5へのa*シフトは、a*値がより負になるため、負方向へのシフトである。別の例としては、+1から-3へのa*シフトは、a*値がより負になるため、負方向のシフトである。更に別の例としては、+5から+1へのa*シフトは、a*値がより負になるため、負方向へのシフトである。
【0034】
また、上記の表4~表7からわかることは、本発明の好ましい実施形態では、熱処理(HT)の前及び/又は後に、ガラス上のコーティング10は、正の反射a*色値を観察者に提供する一方で、ガラス上のコーティング20は、負の反射a*色値を観察者に提供し、これら2つのコーティングは互いに補償しあい、全体をコーティングされた物品は、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみがガラス上にコーティングされることによってもたらされる呈色よりも、より中立的な呈色を有するということである。また、上記の表4~表7からわかることは、本発明の好ましい実施形態では、熱処理(HT)の前及び/又は後に、ガラス上のコーティング10は、負の反射b*色値を観察者に提供する一方で、ガラス上のコーティング20は、正の反射b*色値を観察者に提供し、これら2つのコーティングは互いに補償しあい、全体をコーティングされた物品は、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみがガラス上にコーティングされることによって引き起こされる呈色よりも、より中立的な呈色を有するということである。
【0035】
同様に、
図3は、熱処理(HT)の前及び後で、
図3でコーティング「2」として識別された1つのコーティング(例えば、コーティング10)が、正の反射a
*色値を観察者に提供する一方で、
図3でコーティング「1」として識別された別のコーティング(例えば、コーティング20)は、負の反射a
*色値を観察者に提供し、これら2つのコーティングが互いに補償しあい、全体をコーティングされた物品は、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみによって引き起こされる呈色よりも、より中立的な呈色を有するということを示している。
図3では、AC2は、コーティングされたままの(つまり、熱処理(HT)前の)状態のコーティング2を表し、HT2は、熱処理されたコーティング2を表す。また、AC1は、コーティングされたままの(つまり、熱処理(HT)前の)状態のコーティング1を表し、HT1は、熱処理されたコーティング1を表す。また
図3では、本発明の好ましい実施形態では、熱処理(HT)の前と後で、
図3でコーティング「2」として識別された一方のコーティング(例えば、コーティング10)は、負の反射b
*色値を観察者に提供する一方で、ガラス基材の反対側の、
図3でコーティング「1」として識別された他方のコーティング(例えば、コーティング20)は、正の反射b
*色値を観察者に提供し、これら2つのコーティングが互いに補償しあい、全体をコーティングされた物品は、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみによってもたらされる呈色よりも、より中立的な呈色を有するということもわかる。
【0036】
図3はまた、2つのコーティング1及び2(例えば、20及び10)を、その互いに対向する面に有するガラス基材1の熱処理(HT)が、意図された観察者の視点から、
図3でコーティング「2」として識別された一方のコーティング(例えば、コーティング10)には、その反射a
*色値を正方向(
図3の右側)にシフトさせ、かつ
図3でコーティング「1」として識別された他方のコーティング(例えば、コーティング20)には、その反射a
*色値を負方向(
図3の左側へ)にシフトさせるということも示している。この場合もまた、これにより、有利には、熱処理(HT)時に2つのコーティングは互いに補償しあうことが可能になり、熱処理(HT)の後に、全体をコーティングされた物品が、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみによってもたらされる呈色よりも、より中立的な呈色を有することが可能になる。
【0037】
あくまで例として、以下の実施例は、本発明の異なる例示的実施形態を表す。
実施例
【0038】
比較例(CE)1は、反射防止(AR)コーティングCE1a及びCE1bを、それぞれその互いに対向する面に有するガラス基材1であり、実施例1も、
図1に示すように、反射防止(AR)コーティングEx.1a及びEx.1bを、それぞれその互いに対向する面に有するガラス基材1である。以下の層厚さは、オングストローム(Å)を単位としている。実施例(Ex.)1aは、
図1のコーティング20と同様であり、実施例(Ex.)1bは、
図1のコーティング10と同様である。以下の表で、「L」は「層」を表し、例えば、L2は層2を表し、L3は層3を表し、以降同様に表す。以下の層は、ガラス基材1から外側に向かって並んでいる。
【表8】
【0039】
同じガラス基材1上の比較例CE1(コーティングCE1a及びCE1bを有するもの)と比較した場合の実施例1(コーティングEx.1a及びEx.1bを有する)のキーとなる違いは、最も外側の酸化シリコン層5及び層5’の厚さである。具体的には、層2及び層2’、層3及び層3’並びに層4及び層4’の厚さは、全ての例において同様である。しかしながら、層5及び層5’は、比較例1のコーティングCE1a及びCE1bにおいて同様の厚さを有する一方で、実施例1の層5(Ex.1b、コーティング10、層5)は963Åであり、これは、同じく実施例1の層5’(Ex.1a、コーティング20、層5’)が796Åであるのと比べて、実質的に厚くなっている。
図1に関連して既に述べたたように、コーティング10中の低屈折率層5は、コーティング20中の低屈折率層5’よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、そして最も好ましくは少なくとも130Åだけ物理的に厚くなっており、例示的な範囲としては、約100~250Å、より厚く、又は約120~210Å、より厚くなっている)。驚くべきことに、また予想外なことに、層5と層5’との間の厚さの違いは、熱処理(HT)の前及び後で、a
*値及びb
*値の有意な変化をもたらし、熱処理(HT)の際に、異なる方向のa
*色シフトを提供することが判明した(以下の光学データを参照)。
【0040】
熱焼戻し(熱処理(HT))の前後両方で、Perkin Elmer社製の機器を用いて単板で測定したところ、各例のガラス基材上のコーティングは、
図1に示される意図された観察者の視点から、以下の可視光反射特性を有していた。なお、全てのコーティングは、熱処理(HT)の前及び後でともに、70%を超える可視光透過性を有していた。表9は、熱処理(HT)前のデータを記載し、表10は熱処理(HT)後のデータを記載している。
【表9】
【0041】
表9からは、熱処理(HT)の前に、ガラス基材上の比較例(CE)1のコーティングCE1a及びCE1bの両方が、意図された観察者の視点から、負の反射a
*値を有していたことがわかる。対照的に、実施例(EX.)1で上述した層5と層5’との間の厚さの変化によって、驚くべきことに、また予想外なことに、ガラス基材上のコーティングEx.1a(コーティング20)が、負の反射a
*値を有していたものの、ガラス基材上のコーティングEx.1b(コーティング10)は、正の反射a
*値を有していた。したがって、実施例(Ex.)1においては、コーティング10及び20によってそれぞれもたらされる正のa
*値及び負のa
*値は、互いに実質的に補償しあい、両方のコーティングをその上に備える全体をコーティングされた物品(
図1を参照)が、比較例(CE)1の場合と比較して、観察者にとってより中立的に見えるようにしている。換言すれば、比較例(CE)1は、観察者の視点から、実施例(Ex.)1のa
*値と比較して、負の反射a
*値を有し、しかも
図3の中心原点からはるかに遠い値を有している(したがって、中立性がより低くなっている)。
【0042】
また、上記の表9からは、熱処理(HT)の前に、ガラス基材上の比較例(CE)1のコーティングCE1a及びCE1bの両方が、意図された観察者の視点から正の反射b
*値を有していたこともわかる。対照的に、実施例(Ex.)1で上述した層5と層5’との間の厚さの変化によって、驚くべきことに、また予想外なことに、ガラス基材上のコーティングEx.1a(コーティング20)が、正の反射b
*値を有していたものの、ガラス基材上のコーティングEx.1b(コーティング10)は、負の反射b
*値を有していた。したがって、実施例(Ex.)1においては、コーティング20及び10によってそれぞれもたらされる正のb
*値及び負のb
*値は、互いに実質的に補償しあい、両方のコーティングをその上に備える全体をコーティングされた物品(
図1を参照)が、比較例(CE)1の場合と比較して、観察者にとってより中立的に見えるようにしていた。換言すれば、比較例(CE)1は、観察者の視点から、正の反射b
*値を有し(このことは、両方のコーティングが正のb
*反射色をもたらすことによって引き起こされる)、しかもこの正の反射b
*値は、コーティング10(Ex.1b)の負のb
*値がコーティング20(Ex.1a)の正のb
*値を補償しあう実施例(Ex.)1の反射b
*値と比較して、
図3の中心原点からはるかに遠い値を有している(したがって、中立性がより低くなっている)。
【0043】
熱焼戻し(熱処理(HT))の後で、各例のコーティングは、以下の特性を有していた。
【表10】
【0044】
ここでも、表10からは、熱処理(HT)の後で、ガラス基材上の比較例(CE)1のコーティングCE1a及びCE1bの両方が、意図された観察者の視点から、負の反射a
*値を有し、熱処理(HT)が、CE1a及びCE1bの両方に対して、その反射a
*値を更に負の方向にシフトさせたことがわかる。したがって、熱処理(HT)によって、比較例1は、中立から著しく離れるようにシフトした。比較例(CE)1は、熱処理(HT)の前には、反射a
*値が-1.13及び-1.71であり、中立に近かったが、熱処理(HT)後にはその反射a
*値は、中立からずっと離れてシフトして、-3.40及び-5.10の値となっており、両方とも負であるため、もはや中立に近くはなくなっている。対照的に、実施例(EX.)1で上述した層5と層5’との間の厚さの変化によって、驚くべきことに、また予想外なことに、ガラス基材上のコーティングEx.1a(コーティング20)が、負の反射a
*値を有していたものの、ガラス基材上のコーティングEx.1b(コーティング10)は、正の反射a
*値を有していた。更に、予想外なことに、
図3に示すように、厚さの変化は更に、ガラス基材上のコーティングEx.1a(コーティング20)には、負方向へのa
*色シフトをさせていたが、ガラス上のコーティングEx.1b(コーティング10)には、正方向にa
*色シフトをさせていた。したがって、実施例(Ex.)1においては、コーティング10及び20によってそれぞれもたらされる正のa
*値及び負のa
*値は、互いに実質的に補償しあい、両方のコーティングをその上に備える全体をコーティングされた物品(
図1を参照)が、比較例(CE)1の場合と比較して、観察者にとってより中立的に見えるようにしていた。換言すれば、熱処理(HT)後、比較例(CE)1が、観察者の視点から、-4程度の非常に負の反射a
*値を有し、しかもこの負の反射a
*値は-3.85という値と+2.30という値とが互いに実質的に補償しあう実施例(Ex.)1の、ほんのわずかに負であるa
*値と比較して、
図3の中央原点からはるかに遠い値を有している(したがって、中立性がより低くなっている)。
【0045】
また、上記の表10からは、熱処理(HT)の後で、ガラス基材上の比較例(CE)1のコーティングCE1a及びCE1bの両方が、意図された観察者の視点から正の反射b
*値を有していたこともわかる。対照的に、実施例(Ex.)1で上述した層5と層5’との間の厚さの変化によって、驚くべきことに、また予想外なことに、ガラス基材上のコーティングEx.1a(コーティング20)が、正の反射b
*値を有していたものの、ガラス基材上のコーティングEx.1b(コーティング10)は、負の反射b
*値を有していた。したがって、実施例(Ex.)1においては、コーティング20及び10によってそれぞれもたらされる正のb
*値及び負のb
*値は、互いに実質的に補償しあい、両方のコーティングをその上に備える全体をコーティングされた物品(
図1を参照)が、比較例(CE)1の場合と比較して、観察者にとってより中立的に見えるようにしていた。換言すれば、比較例(CE)1は、観察者の視点から、正の反射b
*値を有し(このことは、両方のコーティングが正のb
*反射色をもたらすことによって引き起こされる)、しかもこの正の反射b
*値は、コーティング10(Ex.1b)の負のb
*値がコーティング20(Ex.1a)の正のb
*値を実質的に補償し、観察者にとってより中立的に見えるようにされている実施例(Ex.)1の反射b
*値と比較して、
図3の中心原点からはるかに遠い値を有している(したがって、中立性がより低くなっている)。
【0046】
図2は、本発明の例示的実施形態による、コーティングされた物品の断面図である。
図2の実施形態におけるコーティング積層体は、層4a、層4a’、層6、及び層6’が
図2の実施形態で添加されていることを除いて、
図1の実施形態のものと同じであり、
図1の実施形態のものと同じ目標/目的を有する。したがって、
図2の実施形態では、反射防止(AR)コーティング10がガラス基材1の一方の面に設けられ、別の反射防止(AR)コーティング20がガラス基材1の他方の面に設けられている。
図2に示される全ての層は透明誘電体層であり、それら全ての層は、スパッタリング堆積法又は任意の他の好適な技術によって堆積され得る。
図1に関連して既に述べたように、
図1及び
図2の両方の図においては、層2、層2’、層4、及び層4’は、少なくとも約2.15、より好ましくは少なくとも約2.20、最も好ましくは少なくとも約2.25の屈折率(n)を有する高屈折率層である。高屈折率層2、層2’、層4、及び層4’はそれぞれ、酸化チタン又は酸化ニオビウムなどの高屈折率透明誘電材料で作られていてもよく、又はそれを含んでいてもよい。また、層3、層3’、層5、及び層5’は、約1.8未満、より好ましくは約1.7未満、最も好ましくは約1.6未満の屈折率(n)を有する低屈折率層である。低屈折率層3、低屈折率層3’、低屈折率層5、及び低屈折率層5’は、それぞれ、酸化シリコン(例えば、SiO
2)などの低屈折率透明誘電材料又は任意の他の好適な低屈折率材料で作られていても、あるいはそれを含んでいてもよい。
図2の実施形態では、中屈折率層4a及び中屈折率層6がコーティング10に追加され、中屈折率層4a’及び中屈折率層6’がコーティング20に追加されている(
図1の実施形態と比較した場合)。本発明の特定の例示的実施形態では、中屈折率層4a、中屈折率層4a’、中屈折率層6及び中屈折率層6’はそれぞれ、1.70~2.10、より好ましくは1.75~2.0、更により好ましくは1.75~1.95の屈折率(n)を有する。特定の例示的実施形態では、中屈折率層4a及び中屈折率層4a’は、
図2に示されるような酸化ニオビウムと酸化シリコンとの組み合わせ(シリコンニオビウム酸化物としても知られる)、又は酸化チタンと酸化シリコンとの組み合わせ(チタニウムニオビウム酸化物としても知られる)、又は任意の他の好適な中屈折率材料から作られていてもよい。特定の例示的実施形態では、中屈折率層6及び中屈折率層6’は、
図2に示される酸化ジルコニウムと酸化シリコンとの組み合わせ(シリコンジルコニウム酸化物としても知られる)などの中屈折率材料、又は任意の他の好適な中屈折率材料から作られていてもよい。層6及び層6’中のジルコニウムは、それぞれのコーティング10及び20の耐久性を改善するのに役立つ。なお、
図1又は
図2の実施形態のいずれかからの積層シーケンスが繰り返されてもよく、それにより、例えば、別の層2~層6のシーケンスが、
図2の各コーティングに示される層の上に設けられ得る。
【0047】
図2の実施形態では、様々な厚さが、本明細書で論じられる必要事項の1つ以上のものと矛盾することなく使用され得る。本発明の特定の例示的実施形態によれば、ガラス基材1上の
図2の実施形態のそれぞれの層のための例示的な厚さ(単位:オングストローム)及び材料は、所望の可視光透過性、可視光の低反射性、低い又は相当程度中立的な反射呈色、及び所望に応じて熱処理(HT)を実施した場合の所望の反射色シフトを実現するための特定の例示的実施形態では、以下のとおりである(なお、以下では、各層は、ガラス基材1に近い方から遠い方に向かう順序で挙げられている)。表11は、熱処理(HT)の前及び/又は後における、反射防止(AR)コーティング10の例示的な材料及び厚さを提供し、表12は、熱処理(HT)の前及び/又は後における、反射防止(AR)コーティング20の例示的な材料及び厚さを提供する。
【表11】
【表12】
【0048】
上記表11及び12は、コーティング10と20との間の有意な差が、低屈折率層5’の厚さと比較した場合の低屈折率層5の厚さにあることを示す。本発明の特定の例示的実施形態では、コーティング10中の低屈折率層5は、コーティング20中の低屈折率層5’よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、更により好ましくは少なくとも130Å、最も好ましくは少なくとも160Åだけ物理的に厚くなっている。驚くべきことに、また予想外なことに、層5’と比較した場合の層5の上述した厚さの違いは、可視光反射色値に、以下のことを可能にする程度まで顕著に影響を及ぼすことが判明した:(i)ガラス上の第1及び第2のコーティング10及び20が、熱処理(HT)時に、互いに実質的にオフセット又は互いに実質的に補償するように異なるそれぞれの可視光反射色が変化し、その結果、コーティングされた物品は、そのような熱処理の前後の両方で、観察者に、色に関して同様に見えるようにすること、(ii)コーティングされた物品の観察者の視点から、一方のコーティングは、熱処理(HT)によって、正方向に反射a*色値シフトし、他方のコーティングは、熱処理(HT)によって、負方向に反射a*色値シフトしてよく、その結果、コーティングされた物品の熱処理されていないものと熱処理されたものとが観察者にとっては同様に見えるように、熱処理(HT)(例えば、熱焼戻し)による可視光反射色変化を低減又は最小化することができるようにすること、また場合によっては、(iii)コーティングされた物品の観察者の視点から、一方のコーティングは、熱処理(HT)によって、正方向に反射b*色値シフトし、他方のコーティングは熱処理(HT)によって、反射b*色シフトしてよく、その結果、熱処理(HT)(例えば、熱焼戻し)による可視光反射色変化を低減することができるようにすること。本明細書に記載される実施例は、これらの予想外でかつ驚くべき結果の裏付けを提供する。
【0049】
本発明の特定の実施形態では、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化などの任意の熱処理(HT)の前及び/又は後に、
図2の実施形態によるコーティングされた物品は、標準イルミナントC及び2度視野の標準観測者という条件下では、以下の表13に示す色/光学特性を有する。なお、表13中、TY及びT
visは、
図2のコーティングされた物品を通した可視光透過率を表し、表13中、RYは、意図された観察者の視点からの、
図2のコーティングされた物品の可視光反射率を表し、RYの下方にあるa
*値及びb
*値は、意図された観察者の視点からの、両方のコーティングを含む
図2の全体をコーティングされた物品のそれぞれのCIE可視光反射率呈色を表し、
図2の実施形態における、全体をコーティングされた物品の中立的な反射呈色を示すものである。
【表13】
【0050】
上記の表13からわかるのは、
図2の実施形態の全体をコーティングされた物品は、高い可視光透過率、反射防止(AR)コーティング10及び20による低い可視光反射率、及び意図された観察者の視点からの概ね中立的な外観を有することである。本明細書で論じられるa
*及びb
*の色値は、反射色値であり、コーティングされた物品の意図される観察者の視点からのものである。
【0051】
なおも
図2の実施形態を参照して、表14は、本発明の特定の例示的実施形態に係る、熱処理(HT)の前の、ガラス基材上のコーティング10のみ(つまり、コーティング20が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表14は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング10を含むコーティングされた物品の、
図2に図示された意図された観察者の視点から見た、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。なお、本発明の特定の例示的実施形態において、コーティング10及び20は、互いに交換され得るものである。
【表14】
【0052】
表15は、本発明の特定の例示的実施形態による、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化などの熱処理(HT)後の、ガラス基材上のコーティング10のみ(すなわちコーティング20が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表15は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング10を含むコーティングされた物品の、
図2に図示された意図された観察者の視点から見た、熱処理(HT)後の、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。
【表15】
【0053】
表14及び表15から、コーティング10をその上に有するガラス基材の熱処理(HT)は、反射a*色値をその熱処理(HT)後に、正方向にシフトさせることがわかる。例えば、-2から+2へのa*シフトは、a*値がより正になるため、正方向へのシフトである。別の例として、+1から+3へのa*シフトは、a*値がより正になるため、正方向へのシフトである。
【0054】
なおも
図2の実施形態を参照して、表16は、本発明の特定の例示的実施形態に係る、熱処理(HT)の前の、ガラス基材上のコーティング20のみ(つまり、コーティング10が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表16は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング20を含むコーティングされた物品の、
図2に図示された意図された観察者の視点から見た、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。なお、本発明の特定の例示的実施形態において、コーティング10及び20は、互いに交換され得るものである。
【表16】
【0055】
表17は、本発明の特定の例示的実施形態による、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化などの熱処理(HT)後の、ガラス基材上のコーティング20のみ(すなわちコーティング10が存在しない場合)の光学データを示す。したがって、表17は、本発明の特定の例示的実施形態による、ガラス基材1及びコーティング20を含むコーティングされた物品の、
図2に図示された意図された観察者の視点から見た、熱処理(HT)後の、可視光透過率(TY)、可視光反射率(RY)、反射a
*色値、及び反射b
*色値を示す。
【表17】
【0056】
表14及び表15とは対照的に、表16及び表17から、その上にコーティング20を有するガラス基材の熱処理(HT)は、意図された観察者の視点から、反射a*色値を負方向にシフトさせる(コーティング10によって引き起こされるa*シフトの反対方向にシフトさせる)ことがわかる。例えば、-0.5から-9へのa*シフトは、a*値がより負になるため、負方向へのシフトである。別の例としては、+1から-8へのa*シフトは、a*値がより負になるため、負方向へのシフトである。
【0057】
また、上記の表15及び表17からわかることは、本発明の好ましい実施形態では、
図2の実施形態に対する熱処理(HT)の後に、ガラス上のコーティング10は、正の反射a
*色値を観察者に提供する一方で、ガラス上のコーティング20は、負の反射a
*色値を観察者に提供し、これら2つのコーティングは互いに補償しあい、全体をコーティングされた物品は、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみがガラス上にコーティングされることによってもたらされる呈色よりも、より中立的な呈色を有するということである。また、上記の表15及び表17からわかることは、本発明の好ましい実施形態では、熱処理(HT)の後に、ガラス上のコーティング10は、負の反射b
*色値を観察者に提供する一方で、ガラス上のコーティング20は、正の反射b
*色値を観察者に提供し、カラス上のこれら2つのコーティングは互いに補償しあい、全体をコーティングされた物品は、意図された観察者の視点から、コーティング10のみ又はコーティング20のみがガラス上にコーティングされることによって引き起こされる呈色よりも、より中立的な呈色を有するということである。
【0058】
あくまで例として、以下の実施例は、
図2の実施形態に関する本発明の異なる例示的実施形態を表す。
図2の実施形態の例
【0059】
比較例(CE)2は、反射防止(AR)コーティング比較例(CE)2a及び比較例(CE)2bを、それぞれその互いに対向する面に有するガラス基材1であり、実施例2も、
図1に示すように、反射防止(AR)コーティングEx.2a及びEx.2bを、それぞれその互いに対向する面に有するガラス基材1である。以下の層厚さは、オングストローム(Å)を単位としている。実施例(Ex.)2aは、
図2のコーティング20と同様であり、実施例(Ex.)2bは、
図2のコーティング10と同様である。以下の表で、「L」は「層」を表し、例えば、L2は層2を表し、L3は層3を表し、以降同様に表す。以下の層は、ガラス基材1から外側に向かって並んでいる。
【表18】
【0060】
比較例(CE)2は、ガラス基材1の両面に同じ反射防止(AR)コーティングを使用したが、実施例2は、異なる反射防止(AR)コーティングを使用した。同じガラス基材1上の比較例CE2(コーティングCE2a及びCE2bを有する)と比較した場合の、実施例2(コーティングEx.2a及びEx.2bを有する)のキーとなる違いは、酸化シリコン系層5及び層5’の厚さである。層5及び層5’は、比較例2のコーティングCE2a及びCE2bにおいて同じ439Åの厚さを有するが、実施例2の層5(Ex.2b、コーティング10、層5)は620Åであり、これは、同じく実施例2の層5’(Ex.2a、コーティング20、層5’)が439Åであるのと比べて、実質的に厚くなっている。既に述べたように、コーティング10中の低屈折率層5は、コーティング20中の低屈折率層5’よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、より好ましくは少なくとも130Å、そして最も好ましくは少なくとも160Åだけ物理的に厚くなっており、例示的な範囲としては、約100~250Å、より厚く、又は約120~210Å、より厚くなっている)。驚くべきことに、また予想外なことに、層5と層5’との間の厚さの差は、熱処理(HT)の前後(特に
図2の実施形態における熱処理(HT)後)のa
*値及びb
*値の有意な変化をもたらし、熱処理(HT)の際に、異なる方向のa
*色シフトを提供することが判明した(以下の光学データを参照)。
【0061】
熱焼戻し(熱処理(HT))の前後両方で、単板で測定したところ、各例のガラス基材上のコーティングは、
図2に示される意図された観察者の視点から、以下の可視光反射特性を有していた。なお、全てのコーティングは、熱処理(HT)の前及び後でともに、70%を超える可視光透過性を有していた。表19は、熱処理(HT)前のデータを記載し、表20は熱処理(HT)後のデータを記載している。
【表19】
【0062】
熱焼戻し(熱処理(HT))の後で、各例のコーティングは、以下の特性を有していた。
【表20】
【0063】
表20からは、熱処理(HT)の後で、ガラス基材上の比較例(CE)2のコーティングCE2a及びCE2bの両方が、意図された観察者の視点から非常に負の反射a
*値を有し、熱処理(HT)が、CE2a及びCE2bの両方に対して、その反射a
*値を著しく負の方向にシフトさせたことがわかる。対照的に、実施例(Ex.)2で上述した層5と層5’との間の厚さの変化が層3と層3’との間の厚さの小さな変化と合わせたことによって、驚くべきことに、また予想外なことに、ガラス基材上のコーティングEx.2a(コーティング20)が、負の反射a
*値を有していたものの、ガラス基材上のコーティングEx.2b(コーティング10)は、熱処理(HT)後には正の反射a
*値を有していた。更に、予想外なことに、厚さの変化は更に、ガラス基材上のコーティングEx.2a(コーティング20)には、負方向へのa
*色シフトをさせていたが、ガラス基材上のコーティングEx.2b(コーティング10)には、正方向にa
*色シフトをさせていた。したがって、実施例(Ex.)2においては、コーティング10及び20によってそれぞれもたらされる正のa
*値及び負のa
*値は、互いに実質的に補償しあい、両方のコーティングをその上に備える全体をコーティングされた物品(
図2を参照)が、熱処理(HT)後に、比較例(CE)1の場合と比較して、観察者にとってより中立的に見えるようにしていた。換言すれば、熱処理(HT)後、比較例(CE)2が、観察者の視点から、-9程度の非常に負の反射a
*値を有し、しかもこの負の反射a
*値は-9.14という反射a
*値と+2.11という反射a
*値とが互いに実質的に補償しあう実施例(Ex.)2の、ほんのわずかに負であるa
*値と比較して、
図3の中央原点からはるかに遠い値を有している(したがって、中立性がより低くなっている)。
【0064】
また、上記の表20からは、熱処理(HT)の後で、ガラス基材上の比較例(CE)2のコーティングCE2a及びCE2bの両方が、意図された観察者の視点から正の反射b
*値を有していたこともわかる。対照的に、実施例(Ex.)2で上述した層5と層5’との間の厚さの変化によって、驚くべきことに、また予想外なことに、ガラス基材上のコーティングEx.2a(コーティング20)が、正の反射b
*値を有していたものの、ガラス基材上のコーティングEx.2b(コーティング10)は、負の反射b
*値を有していた。したがって、実施例(Ex.)2においては、コーティング20及び10によってそれぞれもたらされる正のb
*値及び負のb
*値は、互いに実質的に補償しあい、両方のコーティングをその上に備える全体をコーティングされた物品(
図1を参照)が、比較例(CE)2の場合と比較して、観察者にとってより中立的に見えるようにしていた。換言すれば、比較例(CE)2は、観察者の視点から、正の反射b
*値を有し(このことは、両方のコーティングが正のb
*反射色をもたらすことによって引き起こされる)、しかもこの正の反射b
*値は、コーティング10(Ex.2b)の負のb
*値がコーティング20(Ex.2a)の正のb
*値を実質的に補償し、観察者にとってより中立的に見えるようにされている実施例(Ex.)2の反射b
*値と比較して、
図3の中心原点からはるかに遠い値を有している(したがって、中立性がより低くなっている)。
【0065】
本発明の例示的な実施形態では、コーティングされた透明なガラス製品を作製する方法が提供され、この方法は、コーティングされた物品に、ガラス基材の第1の面上に設けられた第1のコーティングと、ガラス基材の第2の面上に設けられた第2のコーティングとを備えさせ、ガラス基材が少なくとも第1のコーティングと第2のコーティングとの間に位置するようにすることと、コーティングされた物品を少なくとも580℃の温度で熱処理して、加熱処理が、(i)熱処理によって、ガラス基材上の第1のコーティングに、意図される観察者の視点から正方向に反射a*色値シフトを実現させ、かつ(ii)熱処理によって、ガラス基材上の第2のコーティングに、意図された観察者の視点から負方向に反射a*色値シフトを実現させることと、を含む。
【0066】
直前の段落に記載の方法では、熱処理(HT)は、(i)ガラス基材上の第1のコーティングを、その熱処理により、意図された観察者の視点から、少なくとも1.0(又は少なくとも2.0)だけ、正方向に反射a*色値シフトさせ、また、(ii)ガラス基材上の第2のコーティングを、その熱処理により、意図された観察者の視点から、少なくとも1.0(又は少なくとも2.0)だけ、負方向に反射a*色値シフトさせてよい。
【0067】
前述の2つの段落のいずれかに記載の方法では、第1及び第2のコーティングは、反射防止(AR)コーティングであってよい。
【0068】
前述の3つの段落のいずれかに記載の方法では、ガラス基材上の第1のコーティングは、5%以下(より好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下)の可視光反射率を有し、ガラス基材上の第2のコーティングは、5%以下(より好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下)の可視光反射率を有する。
【0069】
前述の4つの段落のいずれかに記載の方法では、第1及び/又は第2のコーティングの全ての層は、透明誘電体層であってよい。
【0070】
前述の5つの段落のいずれかに記載の方法では、第1のコーティングは、ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含み、第2のコーティングが、ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層と、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層と、を含んでいてよい。第1のコーティングの、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層は、第2のコーティングの、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、最も好ましくは少なくとも130Åだけ厚くなっていてよい。
【0071】
前述の6つの段落のいずれかに記載の方法では、熱処理(HT)は、熱焼戻し、加熱曲げ、及び/又は加熱強化を含み得る。
【0072】
本発明の例示的な実施形態では、ガラス基材によって支持される第1のコーティング及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品が提供されるが、そのコーティングされた物品は、ガラス基材の第1の面上に設けられた第1のコーティングと、ガラス基材が少なくとも第1のコーティングと第2のコーティングとの間に位置するようにガラス基材の第2の面上に設けられた、第2のコーティングとを備え、コーティングされた物品の観察者の視点から、ガラス基材上の第1のコーティングが正のa*反射色を有し、ガラス基材上の第2のコーティングが負のa*反射色を有する。
【0073】
直前の段落に記載されたコーティングされた物品では、コーティングされた物品の観察者の視点から、ガラス基材上の第1のコーティングが負のb*反射色を有してよく、ガラス基材上の第2のコーティングが正のb*反射色を有してよい。
【0074】
前述の2つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、第1及び第2のコーティングは、反射防止(AR)コーティングであってよい。
【0075】
前述の3つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、ガラス基材上の第1のコーティングは、15%以下(より好ましくは5%以下、更により好ましくは2%以下)の可視光反射率を有してよく、かつ/又は、ガラス基材上の第2のコーティングは、15%以下(より好ましくは5%以下、更により好ましくは2%以下)の可視光反射率を有してよい。
【0076】
前述の4つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、第1のコーティングと第2のコーティングのいずれもが、銀系の赤外線(IR)反射層を含まないということも可能である。
【0077】
前述の5つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、コーティングされた物品は、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%、及び可能であれば少なくとも95%の可視光透過率を有してよい。
【0078】
前述の6つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、第1のコーティング及び/又は第2のコーティングの全ての層は、透明誘電体層であってよい。
【0079】
前述の7つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、コーティングされた物品は、熱処理(例えば、熱焼戻し、加熱強化、及び/又は加熱曲げ)されてよい。
【0080】
前述の8つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、少なくとも580℃の温度での熱処理(例えば、熱焼戻し、加熱強化、及び/又は加熱曲げ)の後で、この熱処理により、ガラス基材上の第1のコーティングが、観察者の視点から正方向に、反射a*色値シフトするように構成されてもよく、かつ、この熱処理により、ガラス基材上の第2のコーティングが、観察者の視点から負方向に反射a*色値シフトするように構成されてもよい。
【0081】
前述の9つの段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、少なくとも580℃の温度での熱処理(例えば、熱焼戻し、加熱強化、及び/又は加熱曲げ)の後で、この熱処理により、ガラス基材上の第1のコーティングが、観察者の視点から負方向に、反射b*色値シフトするように構成されてもよく、かつ、この熱処理により、ガラス基材上の第2のコーティングが、観察者の視点から正方向に反射b*色値シフトするように構成されてもよい。
【0082】
前述の10個の段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、第1のコーティングは、ガラス基材の、観察者がコーティングされた物品を見ると意図されたのと同じ側に設けられてよい。
【0083】
前述の11個の段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、ガラス基材上の第1及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品は、少なくとも70%の可視光透過率、-5~+5の反射a*値、及び/又は-6~+6の反射b*値を有していてよい。
【0084】
前述の12個の段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、ガラス基材上の第1及び第2のコーティングを含むコーティングされた物品は、少なくとも70%の可視光透過率、-3~+3の反射a*値、及び/又は-4~+4の反射b*値を有していてよい。
【0085】
前述の13個の段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、第1のコーティングは、ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第1の高屈折率透明誘電体層と、1.8以下の屈折率を有する第1の低屈折率透明誘電体層と、少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第2の高屈折率透明誘電体層と、1.8以下の屈折率を有する第2の低屈折率透明誘電体層と、を含んでよく、第2のコーティングは、ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第1の高屈折率透明誘電体層と、1.8以下の屈折率を有する第1の低屈折率透明誘電体層と、少なくとも2.15の屈折率(n)を有する第2の高屈折率透明誘電体層と、1.8以下の屈折率を有する第2の低屈折率透明誘電体層と、を含んでよい。第1及び/又は第2のコーティングの低屈折率層は、酸化シリコン(例えば、SiO2)を含んでよい。第1及び/又は第2のコーティングの高屈折率層は、チタニウムの酸化物及び/又はニオビウムの酸化物を含んでよい。第1のコーティングの第2の低屈折率層は、第2のコーティングの第2の低屈折率層よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、更により好ましくは少なくとも130Å、そして特定の好ましい例では少なくとも160Åだけ厚くなっていてよい。第1のコーティングの第2の低屈折率層は、第2のコーティングの第2の低屈折率層よりも約100~250Åだけ厚くなっていてよい。更に、第1及び/又は第2のコーティングは、第2の高屈折率層と第2の低屈折率層との間に位置する、1.70~2.10の屈折率(n)を有する中屈折率透明誘電体層を更に含んでもよく、その中屈折率層はNb及びSiの酸化物を含んでよい。第1及び/又は第2のコーティングは、第2の低屈折率層の上方に位置する、1.70~2.10の屈折率(n)を有する中屈折率透明誘電体層を更に含んでもよく、この中屈折率層はジルコニウム(Zr)及びシリコン(Si)の酸化物を含んでよい。
【0086】
前述の14個の段落のいずれかに記載のコーティングされた物品では、第1のコーティングは、基材に近い方から遠い方に向かう順序で、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層、酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層、及び/又は、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層を含んでよく、第2のコーティングは、ガラス基材に近い方から遠い方に向かう順序で、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第1の透明誘電体層、酸化シリコンを含む第1の透明誘電体層、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層、及び/又は酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層を含んでよい。第1のコーティングの、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層は、第2のコーティングの、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層よりも、少なくとも75Å、より好ましくは少なくとも100Å、更により好ましくは少なくとも130Åだけ厚くなっていてよい。第1のコーティングの、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層は、第2のコーティングの、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層よりも約100~250Åだけ厚くなっていてよい。第1及び/又は第2のコーティングは、チタニウム(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の酸化物を含む第2の透明誘電体層と、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層との間に、ニオビウム(Nb)及びシリコン(Si)の酸化物を含む層を更に含んでよい。第1及び/又は第2のコーティングは、酸化シリコンを含む第2の透明誘電体層の上方に位置する、ジルコニウム(Zr)及びシリコン(Si)の酸化物を含む層を更に含んでよい。
【0087】
上記の開示を考慮すると、当業者には多くの他の特徴、修正、及び改善が明らかになるであろう。したがって、そのような他の特徴、修正、及び改善は、本発明の一部であると見なされ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定されるべきである。