(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/12 20060101AFI20220704BHJP
C08J 11/16 20060101ALI20220704BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20220704BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220704BHJP
B09B 101/75 20220101ALN20220704BHJP
【FI】
C08J11/12 ZAB
C08J11/16
B29B17/04
B09B3/40
B09B101:75
(21)【出願番号】P 2019542440
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 US2018025389
(87)【国際公開番号】W WO2018183838
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】201710213479.0
(32)【優先日】2017-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】スイ・ガン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・シャオピン
(72)【発明者】
【氏名】ジン・シン
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ジャンドン
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-033904(JP,A)
【文献】特表2016-521295(JP,A)
【文献】特開2013-237716(JP,A)
【文献】特開2013-146649(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147021(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101928406(CN,A)
【文献】特開2005-255835(JP,A)
【文献】特開2004-231695(JP,A)
【文献】特開2001-262158(JP,A)
【文献】特開2000-043045(JP,A)
【文献】特開2010-013657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
B29B 17/00-17/04
B09B 1/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法であって、
炭素繊維及び樹脂マトリックスを有する複合材料廃棄物の表面に固体
超酸粉末をコーティングするステップと、
前記コーティングされた複合材料廃棄物の前記樹脂マトリックスを不活性環境中で熱分解するステップと
前記複合材料廃棄物の前記熱分解された樹脂を空気環境中で酸化するステップと
を含
み、
前記熱分解するステップが、前記コーティングされた複合材料廃棄物を前記不活性環境中で500~700℃の温度に10~30分間加熱することを含み、
前記酸化するステップが350~450℃の温度を10~60分間維持することを含む
、方法。
【請求項2】
前記コーティングするステップが、固体超酸SO
4
2-/TiO
2粉末の層を前記複合材料廃棄物の表面にスプレーすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱分解するステップが、前記複合材料廃棄物を熱分解装置に入れることと、不活性環境を形成するために、窒素を連結して前記装置から空気を排出することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱分解するステップの後に、500~700℃の温度での前記加熱を停止し、350~450℃に自然冷却するステップをさらに含む、請求項
1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化するステップの後に、350~450℃の温度での前記加熱を停止し、室温に自然冷却するステップをさらに含む、請求項
1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複合材料廃棄物中の前記樹脂マトリックスが熱硬化性樹脂を含む、請求項1から
5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル及びフェノール樹脂の少なくとも1つを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記複合材料廃棄物中の前記樹脂マトリックスが熱可塑性樹脂を含む、請求項1から
7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ナイロン及びポリエステルの少なくとも1つを含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記複合材料廃棄物中の前記炭素繊維が、ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びアスファルト系炭素繊維の少なくとも1つを含む、請求項1から
9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記複合材料廃棄物中の前記炭素繊維が、連続繊維、長繊維、短繊維、粉末繊維及び炭素繊維布地の少なくとも1つを含む、請求項1から
10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱分解ステップの前に前記複合材料廃棄物を粉砕するステップをさらに含む、請求項1から
11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化ステップの後に前記複合材料廃棄物から回収された前記炭素繊維を加工するステップをさらに含む、請求項1から
12の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、炭素繊維リサイクルの分野に属し、特に複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化ポリマーは、高い比強度、高い比弾性率、耐熱性及び耐食性などの多くの優れた特性を有し、航空宇宙分野、ゴルフクラブ及びテニスラケットなどのスポーツ及びレジャー分野並びに自動車、風力発電装置、電子機器及び医療機器などの産業分野で広く使用されている。
【0003】
生産、製造中に発生した材料の残り、耐用寿命終了時の製品スクラップ及び他の廃炭素繊維複合材において、処分の問題が存在する。現在、廃炭素繊維強化ポリマー複合材は、充填剤若しくは舗装材料などとして作用するように切断及び粉砕して粉末若しくは粒子とすることによって処分されるか、又は焼却及び埋立によって処分される。炭素繊維強化樹脂複合資源は高価値の炭素繊維を含有しているため、そのような処分は炭素繊維資源の多大な無駄を生じる。
【0004】
関連技術としては、廃炭素繊維強化樹脂複合材中の樹脂を、複合材中の炭素繊維が分離され、それにより炭素繊維が回収されるように分解する、多くの方法が挙げられる。
【0005】
関連技術に開示されている樹脂の分解方法としては、有機溶媒分解、無機強酸分解、亜/超臨界流体分解及び熱分解が挙げられる。
【0006】
有機溶媒分解によって純粋な炭素繊維を得ることができるが、回収工程中に大量の有機溶媒が使用されることで、環境が汚染され得る。また、使用済み溶媒を分離する操作工程(分液、抽出、蒸留など)が複雑であり、結果として回収コストが高くなる。さらに、この方法はマトリックス樹脂の種類及び硬化剤の種類に対して選択的であり、すべてのマトリックス樹脂には好適なわけではない。
【0007】
エポキシ樹脂は耐酸性がより低いため、硝酸などの強腐食酸によって分解され得て、表面が清浄な炭素繊維が回収され得る。しかし、硝酸などの強酸は強い腐食性を有するため、反応装置に対する要求が高く、操作の安全率に対する要求が非常に高く、反応のための後処理が困難である。
【0008】
超臨界水処理法は、清浄で無公害であるという特徴を有するが、高温高圧の条件下で実施する必要があるので、反応装置に対する要求が高い。
【0009】
最も工業的に実現可能な方法は、熱分解法によるものである。熱分解法は、流動床法及び熱分解法を含む。
【0010】
流動床法は、分解するために廃炭素繊維強化樹脂複合材を熱風中に配置することを含むが、重大な酸化反応並びに反応装置及び分離装置などによる影響のために、回収された炭素繊維の表面は、大量の溝を有し、繊維長さが短くなり、繊維性能が著しく低下する。さらに、この方法は操作が複雑である。
【0011】
在来の熱分解法は、熱分解を行うために、廃炭素繊維強化樹脂複合材を窒素、ヘリウムなどの不活性雰囲気中に配置する方法である。その方法は操作が容易であるが、回収された炭素繊維の表面に大量の炭素残留物を発生させる傾向がある。そのような炭素残留物の存在は、回収された炭素繊維の後続の加工及び性能に有害な影響を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、当業者は、炭素繊維のリサイクルの分野における研究開発を続けている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一実施形態において、複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法は、炭素繊維及び樹脂マトリックスを有する複合材料廃棄物の表面に固体酸粉末をコーティングすることと、コーティングされた複合材料廃棄物の樹脂マトリックスを不活性環境中で熱分解することと、複合材料廃棄物の熱分解された樹脂を空気環境中で酸化することと、を含む。
【0014】
開示された複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法の他の実施形態は、以下の詳細な説明、添付の図面及び添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態による複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法を示すフローチャートである。
【
図2】複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法の前の、炭素繊維複合材料の例である。
【
図3】熱分解ステップ後の炭素繊維複合材の例である。
【
図4】酸化ステップ後の炭素繊維複合材の例である。
【
図5】航空機の製造及び保守点検方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法が開示されている。
図1を参照すると、全体として10で示される開示された方法の一実施形態は、ブロック12において、炭素繊維及び樹脂マトリックスを有する複合材料廃棄物の表面を固体酸粉末でコーティングするステップで開始する。ブロック14において、方法10は、コーティングされた複合材料廃棄物の樹脂マトリックスを不活性環境中で熱分解するステップを含む。ブロック16において、方法10は、空気環境中で複合材料廃棄物の熱分解された樹脂を酸化することを含む。
【0017】
一態様において、コーティングするステップは、固体超酸SO4
2-/TiO2粉末などの固体超酸粉末の層を複合材料廃棄物の表面にスプレーすることを含む。
【0018】
一態様において、熱分解するステップは、複合材料廃棄物を熱分解装置に入れることと、不活性環境を形成するために、窒素を連結して装置から空気を排出することを含む。
【0019】
一態様において、熱分解するステップは、コーティングされた複合材料廃棄物を不活性環境中で500~700℃の温度に10~30分間加熱することを含む。別の態様において、方法は、加熱を停止すること及び350~450℃に自然冷却することをさらに含み得る。
【0020】
一態様において、酸化するステップは、350~450℃の温度を10~60分間維持することを含む。別の態様において、方法は、加熱を停止すること及び室温まで自然冷却することを含み得る。
【0021】
一態様において、複合材料廃棄物中の樹脂マトリックスは、熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル及びフェノール樹脂の少なくとも1つを含み得る。
【0022】
一態様において、複合材料廃棄物中の樹脂マトリックスは、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ナイロン及びポリエステルの少なくとも1つを含み得る。
【0023】
一態様において、複合材料廃棄物中の炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びアスファルト系炭素繊維の少なくとも1つを含む。
【0024】
一態様において、複合材料廃棄物中の炭素繊維は、連続繊維、長繊維、短繊維、粉末繊維及び炭素繊維布地の少なくとも1つを含む。
【0025】
一態様において、方法は、熱分解ステップの前に複合材料廃棄物を粉砕することをさらに含み得る。
【0026】
一態様において、方法は、酸化ステップの後に複合材料廃棄物から回収された炭素繊維を加工することをさらに含み得る。
【0027】
例示的な実施形態により、2ステップ熱分解によって複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法がある。この方法は以下の2つのステップを含む。
【0028】
第1のステップは、固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を複合材料廃棄物の表面にスプレーすること、次いで複合体を熱分解装置に入れ、酸素を含まない不活性環境を形成するために、2、3分間窒素に連結して装置から空気を排出すること、装置内の材料を500~700℃の温度に10~30分間加熱すること、次いで加熱を停止し、装置内の材料を350~450℃に自然冷却することを含み、複合体中の樹脂マトリックスはこの第1のステップの間に熱分解される。
【0029】
第2のステップは、空気を連結して温度を350~450℃にて10~60分間維持すること、続いて加熱を停止して室温に自然冷却すること、次いで装置を開いて回収した炭素繊維を取り出すことを含む。
【0030】
上記の反応条件下で、複合材料廃棄物中の樹脂マトリックスは完全に分解されて、清浄な表面及び構造的完全性を有する炭素繊維を得ることができる。
【0031】
例示的実施形態において、複合材料廃棄物中のマトリックス樹脂はエポキシ樹脂である。しかし、エポキシ樹脂を、不飽和ポリエステル、フェノール性樹脂などの熱硬化性樹脂又はポリオレフィン、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂に代えてもよい。
【0032】
例示的実施形態において、複合材料廃棄物中の炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維である。しかし、ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、例えばアスファルト系炭素繊維に代えてもよい。
【0033】
例示的実施形態において、複合材料廃棄物中の炭素繊維の形態は、連続繊維である。しかし、連続繊維を例えば長繊維、短繊維、粉末繊維又は炭素繊維織物に代えてもよい。
【0034】
第1のステップの結果として形成された生成物は、塊状の凝集炭素繊維であり、樹脂の熱分解及び蒸発の後に、繊維表面に大量の炭素残留物が残存している。この状態で残存する炭素繊維は、後続の加工には不適切であり、後続の加工中に分散させて単繊維とすることは容易ではない。
【0035】
本明細書は、廃炭素繊維強化樹脂複合材中の樹脂マトリックスを分解し、分解工程で生成した炭素繊維の表面の炭素残留物を除去することを目的とする。廃炭素繊維強化ポリマー複合材は、繊維表面の大量の炭素残留物のために、樹脂マトリックスが熱分解されて塊状の凝集炭素繊維を生成するように、第1のステップによって熱分解される。第2のステップにより、炭素繊維の表面の炭素残留物が酸化されて清浄な表面及び構造的完全性を有する炭素繊維が生成され、そのような状態の炭素繊維は、後続の加工に好適であり、後続の加工操作において、きわめて容易に分散されて単繊維となる。また、炭素繊維の諸特性の保持率は90%に達し得る。
【0036】
熱分解装置の相対的なサイズに基づいて、複合材料廃棄物を事前に粉砕する必要があるか否かが判断され得る。原則として、熱分解装置の寸法が十分な大きさである場合、廃炭素繊維強化樹脂複合材は粉砕する必要はなく、熱分解するために装置に直接投入される。廃炭素繊維強化ポリマー複合材は、小塊に粉砕した後に均一に加熱することが容易であり、それによって熱分解反応が促進されるため、小塊に粉砕した後に熱分解することが好ましい。
【0037】
好ましくは、樹脂マトリックスは耐酸性が乏しいので、高温にて安定である反応工程中の樹脂マトリックスの分解を促進するために、超強酸SO4
2-/TiO2粉末などの固体超酸粉末を使用することができる。
【0038】
好ましくは、窒素雰囲気下での熱分解温度は、500~700℃の範囲内である。温度が500℃を下回ると、マトリックス樹脂の熱分解反応速度が低下するため、加工時間の延長及び加工コストの上昇がもたらされる。温度が700℃を超えると、過度に高い熱分解温度によって、炭素繊維の表面の炭素残留物の量が増加して、次の酸化工程の時間が延長される。
【0039】
好ましくは、上記熱分解温度における反応時間は10~30分である。熱分解時間が10分未満の場合、樹脂の熱分解工程は不完全である。熱分解時間が30分を超えると、炭素繊維表面の炭素残留物の含有量が増大し、運転サイクルが長くなりすぎて、加熱に要する時間及びエネルギーが浪費され、結果として、処理コストが上昇する。
【0040】
好ましくは、空気中での酸化ステップは350~450℃の温度にて10~60分間維持される。窒素雰囲気下での熱分解条件では炭素繊維の加工や使用に直接影響する大量の炭素残留物が発生するため、空気雰囲気を使用して、炭素の表面の炭素残留物に対して350~450℃にて酸化処理を行う。熱重量分析試験によって、炭素繊維は450℃を下回る温度の空気雰囲気中でほとんど酸化できないため、炭素繊維の諸特性は著しく影響され得ない。
【0041】
関連技術と比較して、本明細書の方法は以下の利点を有する。第1に、使用される装置は単純であり得て、工程は容易であり、処分費用は低く、方法は工業的に実施可能である。第2に、本明細書に記載の熱分解法は、廃炭素繊維強化ポリマー複合材中の樹脂を十分に分解することができ、表面の炭素残留物及び各種の不純物を除去することができ、回収された炭素繊維を元の配列に維持することができる。このようにして、サイジングなどの後続の加工が有利になり、加工中に炭素繊維も容易に分散されて単繊維となる。さらに、短繊維並びに切断及び粉砕により得られる粉末繊維生成物は、寸法均一性に優れる。このことにより、回収された炭素繊維の再利用の利便性が大きく向上する。
【0042】
さらに、本明細書に記載の熱分解法に関して、不活性雰囲気中での処理温度は500~700℃であり、このような温度は炭素繊維にとって非常に安全である。炭素繊維は炭化によって1000℃を超える温度にて不活性真空雰囲気中で製造されるため、この熱分解ステップは炭素繊維の酸化を引き起こすはずがなく、炭素繊維の特性に著しい影響を生じない。炭素繊維複合材(
図2に示す)を不活性ガス環境中で熱分解した後、炭素繊維の表面に炭素残留物が形成され、炭素残留物の存在によって炭素繊維が凝集されて塊とされ得て、炭素繊維から分離することができず、このことは
図3に示すように、後続の加工にとって好ましくない。したがって、不活性ガス中で処理した後、繊維表面の炭素残留物は、空気を連結して350~450℃で10~60分間維持することによって酸化的に除去され、好適な酸化処理の後、
図4に示すように、清浄な表面及び構造的完全性を有する炭素繊維を得ることができる。
【0043】
関連技術の炭素繊維回収技術と比較して、本明細書は以下の問題を解決した。(1)不活性ガス中での複合材の分解は、炭素残留物により凝集炭素繊維を生じる。(2)空気雰囲気中での複合材の分解は、繊維の酸化による諸特性の劇的な低下につながる。さらに、本発明の方法に従って回収された炭素繊維は、分散させて単繊維とすることが容易であり、それにより後続の加工及び再使用が容易となる。本明細書によって得られる炭素繊維は、99%の回収率を有し、単繊維引張強度の保持率は最大90%であり、操作工程は単純であり、方法は工業化に非常に好適である。
【0044】
本発明による複合材料廃棄物から炭素繊維を回収する方法は、廃炭素繊維強化樹脂複合材からの炭素繊維の有効な分離及び回収を達成し、これにより炭素繊維の回収率を向上させ、炭素繊維の諸特性の劣化を抑制し、処分費用を削減し、資源を節約し、環境を保護する。
【0045】
以下の具体的な実施例を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0046】
実施例1
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を500℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で30分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、400℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を400℃に60分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.55グラムであり、表面残留炭素率は(9.55-9.0)/9.0=6.1%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.32GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.32/4.90=88.2%であった。
【0047】
実施例2
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を600℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で30分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、400℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を400℃に60分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.53グラムであり、表面残留炭素率は(9.53-9.0)/9.0=5.9%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.55 GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.55/4.90=92.9%であった。
【0048】
実施例3
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を650℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で20分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、400℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を400℃に30分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.65グラムであり、表面残留炭素率は(9.65-9.0)/9.0=7.2%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.35 GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.35/4.90=88.8%であった。
【0049】
実施例4
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を700℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で10分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、450℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を450℃に10分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.37gであり、表面残留炭素率は(9.37-9.0)/9.0=4.1%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.59 GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.59/4.90=93.7%であった。
【0050】
実施例5
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を700℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で10分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、450℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を450℃に30分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.12gであり、表面残留炭素率は(9.12-9.0)/9.0=1.3%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.65 GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.65/4.90=94.9%であった。
【0051】
実施例6
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を700℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で10分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、400℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を400℃に30分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.52gであり、表面残留炭素率は(9.52-9.0)/9.0=5.8%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.45 GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.45/4.90=90.8%であった。
【0052】
実施例7
選択された複合材料廃棄物において、炭素繊維は東レT700であり、樹脂マトリックスは4,4’-ジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂であり、硬化剤はジアミノジフェニルスルホンであり、炭素繊維の含有量は60重量%であった。厚さ2 mmの炭素繊維板を約25 cm2に切断し、その秤量質量は15グラムであり、炭素繊維の含有量は15×0.6=9.0グラムであった。得られた板を、その表面に固体超酸SO4
2-/TiO2粉末の層を均一にスプレーした後に、熱分解炉に配置し、次いで炉室を窒素で満たして、酸素を含まない不活性環境を形成した。熱分解炉を700℃に加熱して、炭素繊維樹脂複合材中の樹脂がこの温度で10分間熱分解されるようにした。加熱を停止し、350℃に自然冷却して、窒素の連結を停止し、炉室を空気で満たし、炉室の温度を350℃に60分間維持した後、続いてブローアウトを行った。温度が室温に低下した後に分解生成物を取り出すと、重量は9.62グラムであり、表面残留炭素率は(9.62-9.0)/9.0=6.9%であった。ASTM-D3379規格に従って、炭素繊維をモノフィラメント引張試験に供すると、得られたモノフィラメントの引張強度は4.21 GPaであった。市販のT700炭素繊維のモノフィラメントの引張強度の試験値は4.90 GPaであり、回収した炭素繊維モノフィラメントの強度保持率は4.21/4.90=85.9%であった。
【0053】
本説明の実施例は、
図5に示すように航空機の製造及び保守点検方法100並びに
図6に示すように航空機102に関連して説明され得る。製造前に、航空機の製造及び保守点検方法100は、航空機102の仕様及び設計104並びに材料調達106を含み得る。製造中、航空機102の構成要素/部分組立品の製造108及びシステム統合110が行われる。その後、航空機102は、就航中114とするために認証及び搬送112に供され得る。顧客による就航中に、航空機102は、定期的な整備及び保守点検116が予定され、これは変更、再構成、改修なども含み得る。
【0054】
方法100の各工程は、システムインテグレータ、サードパーティ及び/又はオペレータ(例えば顧客)によって実施又は実行され得る。この説明の目的のために、システムインテグレータは、限定なく、任意の数の航空機製造者及び主要システムの下請業者を含み得る。サードパーティは、任意の数のベンダ、下請業者及び供給者を含み得る。並びにオペレータは、航空会社、リース会社、軍事組織、サービス組織などであり得る。
【0055】
開示された方法は、航空機の製造及び保守点検方法100の任意の1つ以上の段階の間、特に材料調達106、構成要素/部分組立品の製造108、システム統合110並びに定期的な整備及び保守点検116の間に採用され得る。
【0056】
図6に示すように、例示的方法100によって製造された航空機102は、複数のシステム120及び内部122を有する機体118を含み得る。複数のシステム120の例として、推進システム124、電気システム126、油圧システム128及び環境システム130の1つ以上が挙げられ得る。任意の数の他のシステムが含まれてもよい。開示された方法は、特に炭素繊維含有材料が使用されるシステムのいずれか含む、航空機902のシステムのいずれかに採用され得る。さらに、開示された方法は、航空機102が就航から退いた後に採用され得る。
【0057】
開示された方法は航空機に関連して説明されている。しかし、当業者は、開示された方法が様々なビークル及び非ビークルに利用され得ることを容易に認識するであろう。例えば、本明細書に記載の実施形態の実施は、例えばヘリコプター、客船及び自動車を含む任意の種類のビークル、又は例えばスポーツ用品、建設用品及び通信製品などの任意の種類の非ビークルに実施され得る。
【0058】
開示された方法の各種の実施形態が提示及び説明されてきたが、本明細書を読めば当業者は変更に想到し得る。本出願は、そのような変更を含み、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0059】
100 航空機の製造及び保守点検方法
102 航空機
104 設計
106 材料調達
108 製造
110 システム統合
112 搬送
114 就航中
116 保守点検
118 機体
120 システム
122 内部
124 推進システム
126 電気システム
128 油圧システム
130 環境システム
902 航空機