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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4709 20060101AFI20220704BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220704BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61P31/04
A61P11/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020036036
(22)【出願日】2020-03-03
(62)【分割の表示】P 2019200166の分割
【原出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2020079330
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】62/520,961
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2018068159
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】小田島 正明
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 幸代子
(72)【発明者】
【氏名】須之内 孝明
(72)【発明者】
【氏名】田渕 亜沙子
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148066(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/195014(WO,A1)
【文献】Clin. Microbiol. Infect.,Vol.10,2004年,pp.163-170
【文献】Am. J. Respir. Crit. Care. Med.,Vol.167,2003年,pp.1650-1654
【文献】The American Journal of Medicine,Vol.56,1974年,pp.202-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有するバクテロイデス属に属する菌、プレボテラ属に属する菌、ポルフィロモナス属に属する菌、フソバクテリウム属に属する菌、レプトトリキア属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ベイヨネラ属に属する菌、及びアクチノマイセス属に属する菌からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌を起因菌とする肺炎の治療剤であって、
前記治療剤が点滴静脈内投与用注射剤であり、
7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量が、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸に換算して、投与開始日が300mgであり、投与2日目以降は150mgである、前記治療剤。
【請求項2】
前記肺炎が、バクテロイデス属に属する菌、ポルフィロモナス属に属する菌、フソバクテリウム属に属する菌、及びベイヨネラ属に属する菌からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌を起因菌とする肺炎である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する誤嚥性肺炎の治療剤であって、
前記治療剤が点滴静脈内投与用注射剤であり、
7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量が、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸に換算して、投与開始日が300mgであり、投与2日目以降は150mgである、前記治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルフロキサシンの開発以来、ニューキノロンと呼ばれるキノロンカルボン酸系抗菌剤の開発が全世界で行われ、現在では、多くのニューキノロン系抗菌剤が感染症治療薬として汎用されている。
【0003】
一方、出願人により、一般式(1)で表されるキノロンカルボン酸誘導体が開示されている(特許文献1)。
【0004】
【化1】
【0005】
式(1)中、Rはハロゲン原子で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子で1または2以上置換されていてもよい炭素数3から6のシクロアルキル基、またはハロゲン原子およびアミノ基から選択される同一または異なる置換基で1または2以上置換されていてもよいアリール基もしくはヘテロアリール基を、Rは水素原子、炭素数1から3のアルキル基、医薬的に許容される陽イオンを、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基または炭素数1から3のアルキル基を、Rは水素原子またはハロゲン原子を、Rはフッ素原子を、Rは水素原子またはフッ素原子を、Aは窒素原子または=C-X(Xは水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ハロゲン原子で1または2以上置換されていてもよい炭素数1から3のアルキル基または炭素数1から3のアルコキシ基を示す)を示す。
【0006】
また、特許文献1には、上述のキノロンカルボン酸誘導体の1つとして、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸が開示されている。また、その塩酸塩が特許文献2に開示されている。
【0007】
また、呼吸器感染症の一つに、誤嚥性肺炎が挙げられる。誤嚥性肺炎は高齢者の肺炎の大部分を占める疾患であり難治性かつ再発性で致死率も高い重篤な疾患である(非特許文献1)。誤嚥性肺炎の起因菌として、嫌気性菌、黄色ブドウ球菌、腸内細菌が挙げられるが(非特許文献1)、現在までに誤嚥性肺炎を有効に治療するような方法は確立されていない。現在上市されているキノロン製剤には、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシン及びガレノキサシン等がある。重症度の高い疾患である誤嚥性肺炎に対しては、初期治療では多くは注射用製剤が使用されるが、上述したキノロン製剤のうち、注射用製剤が存在するレボフロキサシン、シプロフロキサシン及びパズフロキサシンは嫌気性菌に対する抗菌力が不十分であり、誤嚥性肺炎を疑う患者への使用は推奨されていない(非特許文献2)。経口剤では、シタフロキサシン、モキシフロキサシン及びガレノキサシンについては、嫌気性菌感染症に対して効果を発揮する可能性があるものの(非特許文献3乃至5)、誤嚥性肺炎を対象とした高いエビデンスを持つ論文の報告はなく、現在までに有効な治療方法として確立されていない。
【0008】
誤嚥性肺炎と同様に主に嫌気性菌を起因菌とする呼吸器感染症の例として肺膿瘍が挙げられる(非特許文献6)。モキシフロキサシンやパズフロキサシンについて治療効果が認められている報告もあるものの(非特許文献3乃至4及び非特許文献7)、現在までに有効な治療方法として確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】日本内科学会雑誌 第99号 第11号・平成22年11月10日、2746~2751頁.
【文献】一般社団法人 日本呼吸器学会 『医療・介護関連肺炎診療ガイドライン』、23頁.
【文献】Infection (Munich, Germany) (2008), 36(1), 23-30.
【文献】Expert Review of Respiratory Medicine (2007), 1(1), 111-119.
【文献】一般社団法人 日本呼吸器学会 『成人肺炎診療ガイドライン2017ン』、24頁.
【文献】日本呼吸器学会雑誌 49(9): 623-628, 2011.
【文献】Nippon Kagaku Ryoho Gakkai Zasshi (1999), 47(Suppl. 1), 196-203.
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2005/026147号パンフレット
【文献】国際公開第2013/069297号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は新規な呼吸器感染症治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、有効性及び安全性の高い呼吸器感染症治療剤について研究を行った。本発明者らは、上記の課題について鋭意検討を行い、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸が誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤として極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤。
〔2〕7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する誤嚥性肺炎の治療剤。
〔3〕7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤。
〔4〕前記誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、プレボテラ属に属する菌、ペプトストレプトコッカス属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ペプトニフィラス属に属する菌、ファインゴルディア属に属する菌及び、フソバクテリウム属に属する菌、からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌である、〔1〕に記載の治療剤。
〔5〕前記誤嚥性肺炎の起因菌が、プレボテラ属に属する菌、ペプトストレプトコッカス属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ペプトニフィラス属に属する菌、ファインゴルディア属に属する菌及び、フソバクテリウム属に属する菌、からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌である、〔2〕に記載の治療剤。
〔6〕前記肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、プレボテラ属に属する菌、ペプトストレプトコッカス属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ペプトニフィラス属に属する菌、ファインゴルディア属に属する菌及び、フソバクテリウム属に属する菌、からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌である、〔3〕に記載の治療剤。
〔7〕前記誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、バクテロイデス属に属する菌、プレボテラ属に属する菌、ポルフィロモナス属に属する菌、フソバクテリウム属に属する菌、レプトトリキア属に属する菌、ペプトストレプトコッカス属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ベイヨネラ属に属する菌、ティシエレラ属に属する菌、ストレプトコッカス・アンギノーサスグループ、及びアクチノマイセス属に属する菌からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌である、〔1〕に記載の治療剤。
〔8〕前記誤嚥性肺炎の起因菌が、バクテロイデス属に属する菌、プレボテラ属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ベイヨネラ属に属する菌及びアクチノマイセス属からなる群から選ばれる1種または2種以上の菌である、〔2〕に記載の治療剤。
〔9〕前記肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、バクテロイデス属に属する菌、プレボテラ属に属する菌、ポルフィロモナス属に属する菌、フソバクテリウム属に属する菌、レプトトリキア属に属する菌、ペプトストレプトコッカス属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ベイヨネラ属に属する菌、ティシエレラ属に属する菌、及びストレプトコッカス・アンギノーサスグループからなる群から選ばれる1種または2種以上の菌である、〔3〕に記載の治療剤。
〔10〕7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量が、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸に換算して、投与開始日が300mgであり、投与2日目以降は150mgである、〔1〕に記載の治療剤。
〔11〕7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量が、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸に換算して、投与開始日が300mgであり、投与2日目以降は150mgである、〔2〕に記載の治療剤。
〔12〕7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量が、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸に換算して、投与開始日が300mgであり、投与2日目以降は150mgである、〔3〕に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を患者に投与することを含む、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳細に説明する。
本実施形態の治療剤は、呼吸器疾患の治療剤に関するが、特に呼吸器感染症の治療剤に関する。より具体的には、本実施形態の治療剤は、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩を、ヒトを含む患者に投与することを含む、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤に関する。
【0016】
呼吸器感染症とは呼吸器におけるいずれかの部位において起こる感染症をいう。また、呼吸器とは、呼吸に関する器官の総称であり、鼻前庭から、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支を経た肺胞までの器官をいう。
本明細書における、「誤嚥性肺炎」とは、肺や大気道の腫れや感染を含む呼吸状態であり、有害物質を吸い込むことで引き起こされると考えられている。誤嚥性肺炎に罹患した患者には、咳や呼吸困難といった症状が出ることがある。
本明細書において、誤嚥性肺炎の患者とは、下記の基準を満たす者を意味する。
・胸部X線またはCT画像上に急性に出現した明らかな浸潤影を認める。
・明らかな誤嚥が確認されている、むせの反復が確認されている、嚥下機能評価試験での機能障害が確認されている、または、嚥下機能障害の可能性をもつ疾患の合併もしくは既往歴を有する。
・誤嚥性肺炎に特徴的な症状、炎症所見を示す。
なお、誤嚥性肺炎に特徴的な症状、炎症所見とは、咳嗽、膿性痰、湿性ラ音、呼吸困難、発熱、CRP陽性、白血球増加、低酸素血症等である。
【0017】
本明細書における、「肺化膿症」とは、肺膿瘍とも呼ばれ、口腔や喉の細菌が肺に吸い込まれることで引き起こされると考えられている、壊死性の肺感染症である。肺化膿症に罹患した患者には、疲労、食欲不振、寝汗、発熱、体重減少、痰を伴う咳といった症状が出ることがある。
本明細書において、肺化膿症の患者とは、下記の基準を満たす者を意味する。
・胸部X線またはCT画像上、塊状影または内部に空洞を伴う陰影(結節影、腫瘤影)を認める。(膿の貯留による鏡面像の有無は問わない。)
・肺化膿症・肺膿瘍に特徴的な症状、炎症所見を示す。
なお、肺化膿症又は肺膿瘍に特徴的な症状、炎症所見とは、咳嗽、膿性痰、湿性ラ音、呼吸困難、発熱、CRP陽性、白血球増加、低酸素血症等である。
【0018】
嫌気性の病原菌に対して安全で有効な化合物を見つけることは、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍のような疾患を効果的に治療するために重要である。出願人は7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸および薬学的に許容されるその塩が、その他のキノロン化合物とは異なり、嫌気性の病原菌に対して効果的であることを見出した。例えば、レボフロキサシン、シプロフロキサシン又はパズフロキサシンなどのキノロン化合物の注射剤は、誤嚥性肺炎の治療剤として適切でないと考えられている(非特許文献2)。
しかし、出願人は7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸および薬学的に許容されるその塩が、嫌気性の病原菌に対し有効であり、誤嚥性肺炎の治療に対して効果的であることを見出した。
【0019】
なお、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩は、例えば特許文献1または2に記載の方法に従って製造することができる。
誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌となる偏性嫌気性菌として、バクテロイデス属(Bacteroides属)に属する菌、プレボテラ属(Prevotella属)に属する菌、ポルフィロモナス属(Porphyromonas属)に属する菌、フソバクテリウム属(Fusobacterium属)に属する菌、レプトトリキア属(Leptotrichia属)に属する菌、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus属)に属する菌、パルビモナス属(Parvimonas属)に属する菌等、ベイヨネラ属(Veillonella属)に属する菌、ティシエレラ属(Tissierella属)に属する菌、ペプトニフィラス属(Peptonitphilus属)に属する菌、及びファインゴルディア属(Finegoldia属)に属する菌、通性嫌気性菌としてストレプトコッカス属に含まれるストレプトコッカス・アンギノーサスグループ(Streptococcus Anginosus group)、アクチノマイセス属(Actinomyces属)に属する菌等が挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸は、前述の嫌気性菌に対して高い抗菌力を発揮し、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍に対し、高い治療効果を示す。
【0020】
誤嚥性肺炎の起因菌として、例えば、プレボテラ属(Prevotella属 )に属する菌、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus属)に属する菌、パルビモナス属(Parvimonas属)に属する菌、ペプトニフィラス属(Peptonitphilus属)に属する菌、ファインゴルディア属(Finegoldia属)に属する菌、フソバクテリウム属(Fusobacterium属)に属する菌、バクテロイデス属(Bacteroides属)に属する菌、ストレプトコッカス属に含まれる菌等が挙げられる。
誤嚥性肺炎の治療に関しては、特に、誤嚥性肺炎の起因菌が、バクテロイデス属に属する菌、プレボテラ属に属する菌、パルビモナス属に属する菌、ベイヨネラ属に属する菌、又はアクチノマイセス属に属する菌である場合、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の高い治療効果が発揮される。
【0021】
肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌として、例えば、プレボテラ属(Prevotella属 )に属する菌、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus属)に属する菌、パルビモナス属(Parvimonas属)に属する菌、ペプトニフィラス属(Peptonitphilus属)に属する菌、ファインゴルディア属(Finegoldia属)に属する菌、フソバクテリウム属(Fusobacterium属)に属する菌、バクテロイデス属(Bacteroides属)に属する菌、ストレプトコッカス属に含まれる菌等が挙げられる。
【0022】
肺化膿症又は肺膿瘍の治療に関しては、特に、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、プレボテラ属に属する菌、ポルフィノモナス属に属する菌、フソバクテリウム属に属する菌、レプトトリキア属に属する菌、ペプトストレプトコッカス属に属する菌、パルビモナス属に属する、ベイヨネラ属に属する菌、ティシエレラ属に属する菌又はストレプトコッカス・アンギノーサスグループである場合、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の高い治療効果が発揮される。
【0023】
プレボテラ属に属する菌として、例えば、P. denticola、P. loescheii、P. melaninogenica、P. intermedia、P. nigrescens、P. pallens、P. buccae、P. oris、P. buccalis、P. oralis、P. bivia、P. disiens、P. pleuritidis、P. bergensis、P. timonensis、又はP. nanceiencis属が挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、誤嚥性肺炎の起因菌が、P. melaninogenica、P. intermedia、又はP. buccaeである場合、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、P. melaninogenica、P. intermedia、又はP. oralisである場合が挙げられる。
ペプトストレプトコッカス属に属する菌として、例えば、P. anaerobius、又はP. stomatisが挙げられる。
【0024】
パルビモナス属に属する菌として、例えば、P. micraが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、P. micraである場合が挙げられる。
ペプトニフィラス属に属する菌として、例えば、Peptoniphilus asaccharolyticus、Peptoniphilus ivorii、Peptoniphilus lacrimalis又はPeptoniphilus hareiが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、Peptoniphilus asaccharolyticusである場合が挙げられる。
【0025】
フィネゴルディア属に属する菌として、例えば、Finegoldia magnaが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、Finegoldia magnaである場合が挙げられる。
【0026】
フソバクテリウム属に属する菌として、例えば、F. necrophorum、F. nucleatum、F. mortiferum、又はF. variumが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、F. nucleatum、又はF. necrophorumである場合が挙げられる。
バクテロイデス属に属する菌として、例えば、B. fragilis、B. thetaiotaomicron、B. vulgatus、B. ovatus、B. uniformis、B. eggerthii、B. nordii、B. salyersae、又はB. massiliensisが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌がB. fragilisである場合が挙げられる。
【0027】
ポルフィロモナス属に属する菌として、例えば、P. gingivalis、P. endodontalis、P. asaccharolytica、P. levii、又はP. uenonisが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、P. gingivalis、又はP. endodontalisである場合が挙げられる。
【0028】
レプトトリキア属に属する菌として、例えば、L. buccalis、L. hofstadii、L. hongkongensis、L. shahii、L. goodfellowii、L. trevisanii、又はL. wadeiが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、L. buccalisである場合が挙げられる。
ベイヨネラ属に属する菌として、例えば、V. parvula、V. atypica、又はV. montpelliensisが挙げられる。
【0029】
ティシエレラ属に属する菌として、例えば、T. creatinini、T. creatinophila、又はT. praeacutaが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、T. creatininiである場合が挙げられる。
【0030】
ストレプトコッカス・アンギノーサスグループに属する菌として、例えば、S. intermedius、又はS. constellatusが挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌が、S. intermedius、又はS. constellatusである場合が挙げられる。
【0031】
アクチノマイセス属に属する菌として、例えば、A. europaeus、A. georgiae、A. gerencseriae、A. graevenitzii、A. israelii、A. meyeri、A. naeslundii、A. neuii、A. odontolyticus、A. radicidentis、A. radingae、A. turicensis、A. urogenitalis、A. viscocus、又はActinomyces sp. が挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の治療効果という観点から、より好ましくは、誤嚥性肺炎の起因菌が、A. odontolyticusである場合が挙げられる。
【0032】
本明細書における、起因菌とは、薬剤耐性を獲得した菌も含まれる概念である。薬剤耐性とは、生物が薬剤に対して抵抗性を持ち、薬剤が効かないまたは効きにくくなる現象を意味する。薬剤耐性の例として、ペニシリン耐性、セファロスポリン耐性、カルバペネム耐性、アミノグリコシド耐性、マクロライド耐性、リンコマイシン耐性、トリメトプリム-スルファメトキサゾール耐性、テトラサイクリン耐性、メトロニダゾール耐性、グリコペプチド耐性、オキサゾリジノン耐性、ダプトマイシン耐性又はキノロン耐性が挙げられる。
【0033】
上述の医薬組成物において7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸とともに含有される薬学的に許容される添加剤としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤が挙げられる。これらの添加剤としては、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典「日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)」に記載されているものを適宜使用できる。
【0034】
本実施形態の治療剤は、従来薬学的によく知られた形態及び投与経路を適用してヒトなどの対象に投与することができ、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤、眼科用液剤、水性点鼻剤、水性点耳剤、吸入液剤等の製剤として経口的または非経口的に投与することができる。すなわち本実施形態の治療剤は、有効成分を生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合し、例えば以上に例示したような剤形で製造することができる。
【0035】
本実施形態の治療剤においては、副作用の低減、服用容易な小型の製剤化、耐性菌出現の阻止という点で、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量の最小量として、好ましくは10mg以上、20mg以上、50mg以上、100mg以上、125mg以上、又は150mg以上が挙げられる。また、1日あたりの投与量の最大量として、好ましくは300mg以下、250mg以下、200mg以下、又は175mg以下が挙げられる。7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量として、例えば、10mg以上300mg以下が挙げられ、より好ましくは20mg以上250mg以下、さらに好ましくは50mg以上200mg以下、さらにより好ましくは100mg以上200mg以下、さらにより好ましくは125mg以上175mg以下、特に好ましくは150mgが挙げられる。なお、上記の1日あたりの投与量は、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の薬学的に許容される塩を用いる場合は、フリー体に換算した値を用いる。1日分の投与量は、1回で投与しても、2~3回に分けて投与してもよいが、1日1回投与が好ましい。また、効果が不十分な場合は1日あたりの投与量の2倍量を用いてもよい。
【0036】
さらに、早急に目的とする血中濃度に到達させるために、負荷投与を行うことが好ましい。負荷投与とは、投与初期において1日投与量の増量や1日投与回数を増やすことにより、早期に目的とする血中濃度に到達させるための投与設計を意味する。投与初期とは投与開始1日目~3日目を意味し、好ましくは投与開始1日目~2日目、さらに好ましくは投与開始1日目を意味する。また、1日投与量の増量として、好ましくは1日あたりの投与量の2倍量を用いる。
【0037】
負荷投与を行う場合は、投与開始1日目に1日あたりの投与量の2倍量を用いることが好ましい。より好ましい、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩の1日あたりの投与量は、フリー体に換算して、投与開始日は300mgであり、投与2日目以降は150mgである。
【0038】
7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸塩酸塩の投与量として、好ましくは、投与開始日は300mgであり、投与2日目以降は150mgである。ここで、当該投与量は、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸塩酸塩を、フリー体に換算した値を意味する。
【0039】
7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の薬学的に許容される塩とは、薬学上許容される塩を使用できる。薬学上許容される塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸等の有機酸との塩、またはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、セシウム、クロム、コバルト、銅、鉄、亜鉛、白金、銀等の金属との塩が挙げられる。このうち、特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。
【0040】
なお、「フリー体」とは、塩、共結晶及び水和物のいずれの形態でもない、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸を意味し、分子式はC2124、分子量は439.44の化合物である。
【0041】
本実施形態の治療剤は、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩が有効成分として単独で構成されるようにしてもよい。または、本実施形態の治療剤は、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩と、有効成分として作用する他の化合物および/または薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物として構成されるようにしてもよい。
【0042】
当該医薬組成物は、有効成分として作用する他の化合物および/または薬学的に許容される添加剤として、1種または複数の化合物を含有することができる。当該医薬組成物は、例えば、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸または薬学的に許容されるその塩と、有効成分として作用する他の化合物および添加剤のうち1種以上とを混和することにより調製される。
【0043】
以上、本実施形態によれば、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍に対して、高い治療効果と安全性を有する治療剤に関する技術を提供することができる。本件明細書に記載の適切な組成物を用いることで、少ない投与量を用いた場合でも、副作用を低減し、耐性菌の出現頻度を減弱しながらも、十分な治療効果を得ることができる。
(実施例)
【0044】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例によって本発明の範囲が限定されるものではない。
国際公開第2016/195014号に開示されている方法に準じて、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸の150mg注射剤(以下、治験薬Aとも記載する)を製造した。
【0045】
なお、150mg注射剤の「150mg」とは7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸塩酸塩をフリー体換算した場合の重量を示している。注射剤の製造の際には7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸塩酸塩162.5mg(フリー体換算:150mg)を使用している。
(試験例1)誤嚥性肺炎
治験薬Aを、下記の基準を満たす誤嚥性肺炎を疑われる被験者13例に対し、7日間~14日間点滴静脈内投与した。
・16歳以上で投与開始前48時間以内に撮影された胸部X線またはCT画像上に急性に出現した明らかな浸潤影を認める。
・明らかな誤嚥が確認、むせや嚥下機能障害、嚥下機能障害の可能性をもつ疾患を有しているまたは既往歴を有する。
・誤嚥性肺炎に特徴的な症状、炎症所見を示す。
投与開始1日目は治験薬Aを2本(300mg/日)、投与2日目は治験薬Aを1本(150mg/日)用い、その後同投与量(150mg/日)を維持した。注射剤の投与は1本あたり約1時間かけて点滴静脈内投与を行った。
(試験例2)肺化膿症又は肺膿瘍
治験薬Aを、下記の基準を満たす肺化膿症又は肺膿瘍を疑われる披験者11例に対し、7日間~14日間点滴静脈内投与した。
・16歳以上で、投与開始前48時間以内に撮影された胸部X線またはCT画像上、塊状影または内部に空洞を伴う陰影(結節影、腫瘤影)を認める。なお、膿の貯留による鏡面像の有無は問わない。
・肺化膿症・肺膿瘍に特徴的な症状、炎症所見を示す。
投与開始1日目は治験薬Aを2本(300mg/日)、投与2日目は治験薬Aを1本(150mg/日)用い、その後同投与量(150mg/日)を維持した。注射剤の投与は1本あたり約1時間かけて点滴静脈内投与を行った。
試験例1、2の臨床効果は、呼吸器感染症における新規抗菌薬の臨床評価法(第二版)、日化療会誌. 2012; 60(1): 30-45. 9 )の肺炎の臨床効果判定基準を基に、下記の基準を設定し、判定を行なった。なお、主要評価項目は、治験薬Aの投与終了時又は中止時の有効率とした。
【0046】
本明細書において、投与終了時とは、治験薬Aの投与が完了した日の翌日の評価日を意味する。また、中止時とは、治験薬Aの最終投与日又は中止判断日から3日以内に実施した評価日を意味する。さらに、「投与終了時又は中止時」を治療終了時(EOT、End of Treatment)と表現する。また、CRPとは、C-reactive proteinの略称であり、各種炎症に反応して短時間に産生される急性相反応物質のひとつである。肺炎などの細菌感染症では数時間で上昇し、炎症の沈静化に伴い速やかに減少するので、治療効果の観察に役立つ指標である。
・早期薬効評価及び治療終了時(EOT)
早期薬効評価は、投与3日後に表1に従い、「早期治療効果あり」「早期治療効果なし」「判定不能」の3段階で判定した。
「早期治療効果あり」の定義は、投与3日後に著しい改善を認めた症例(4日後以降の投与終了・継続とは無関係)とした。また、投与開始前に比べて、投与3日後のCRP値や胸部X線が改善していない症例については、CRPや胸部X線所見が不変又は悪化にもかかわらず、臨床症状及び体温の改善がある場合は「早期治療効果あり」と判断した。
CRPや胸部X線所見が不変又は悪化し、臨床症状及び体温が不変又は改善がない場合は、「早期治療効果なし」と判定し、被験者の安全を十分に考慮し、治験を中止し他の抗菌薬投与に切り替えるなど治験責任医師等が適切に判断した。なお、適切な代替の抗菌薬治療を開始する前に、微生物学的評価のための検体を採取した。
【0047】
また、中止日が投与開始日(0日)又は投与2日目(1日)の場合、早期薬効評価の判定は不要とした。投与3日目(2日)以降の場合は、中止時の検査結果を用いて判定した。
治療終了時(EOT)は、投与終了時又は中止時の臨床効果について、表1に従い、「有効」「無効」「判定不能」の3段階で判定した。投与終了時翌日以降に中止した場合は、投与終了時の臨床効果について判定し、中止時の臨床効果は判定不要とした。
また、中止した場合又は治験薬投与終了後に代替の抗菌薬治療に変更した場合は「無効」と判断した。ただし、治療終了時(EOT)に表1の判定基準に従い「有効」と判断された場合は、代替の抗菌薬治療に変更した場合であっても、この限りではない。なお、代替の抗菌薬治療に変更する場合は、原則変更前に規定の検査、診察及び治療終了時の判定を実施した。
【0048】
【表1】
【0049】
試験例1及び2の、早期薬効評価及び治療終了時の結果を表2及び表3に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
なお、有効率とは以下の式で求めた値である。
有効率=(「有効」と判定された被験者数÷「有効」又は「無効」と判定された被験者数)×100 (%)
【0053】
表2及び表3から、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸がまたは薬学的に許容されるその塩が誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍に対し、高い治療効果を発揮することが分かる。特に治療終了時の有効率は、誤嚥性肺炎については100%、肺化膿症又は肺膿瘍に対しては91%と著しく高い。
【0054】
試験例1及び2の、起因菌別の微生物学的効果を表4及び表5に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
表4及び表5から、7-[(3S,4S)-3-{(シクロプロピルアミノ)メチル}-4-フルオロピロリジン-1-イル]-6-フルオロ-1-(2-フルオロエチル)-8-メトキシ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸がまたは薬学的に許容されるその塩が誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の起因菌に対し、高い抗菌効果を発揮することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本実施形態によれば、誤嚥性肺炎、肺化膿症又は肺膿瘍の治療剤を提供することが可能であり、産業上有用である。