(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】フィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒、その製造方法及びフィッシャー・トロプシュ合成方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/22 20060101AFI20220704BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20220704BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20220704BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220704BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20220704BHJP
C07C 1/04 20060101ALI20220704BHJP
C07C 9/00 20060101ALI20220704BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220704BHJP
【FI】
B01J27/22 Z
B01J37/16
B01J37/06
B01J37/08
B01J37/10
C07C1/04
C07C9/00
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020554393
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2018092189
(87)【国際公開番号】W WO2019192080
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】201810283708.0
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520335934
【氏名又は名称】国家能源投資集団有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】CHINA ENERGY INVESTMENT CORPORATION LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】520380978
【氏名又は名称】北京低▲タン▼清▲潔▼能源研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲鵬▼
(72)【発明者】
【氏名】▲呂▼ 毅▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 魁
(72)【発明者】
【氏名】▲蒋▼ ▲複▼国
(72)【発明者】
【氏名】▲門▼ 卓武
(72)【発明者】
【氏名】王 涛
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ ▲チ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲繆▼ 平
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/210089(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/103492(WO,A2)
【文献】特開2008-006406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 1/00
C07C 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ナノ鉄粉末又はインサイチュ還元によりナノ鉄粉末を得ることができるナノ粉体鉄化合物を、H
2とともに250~510℃の温度で表面浄化する工程と、
(2)工程(1)で得られた材料を、H
2とCOのモル比が1.2~2.8:1であるH
2、COとともに80~180℃の温度で前処理する工程と、
(3)工程(2)で得られた材料を、H
2とCOのモル比が1.0~3.0:1であるH
2、COとともに180~280℃の温度で炭化物を製造する工程と、を含むことを特徴とするフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ粉体鉄化合物は、ナノ酸化鉄粉末、ナノマグネタイト粉末、ナノゲーサイト粉末及びナノ鉄水和酸化物粉末のうちの少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ鉄粉末の平均結晶粒径が4~30n
mである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ鉄粉末の平均結晶粒径が10~27nmである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1)では、前記表面浄化は、圧力が0.1~15気圧
であり、時間が0.5~8
hである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(1)では、前記表面浄化は、圧力が0.2~2.5気圧であり、時間が1~7hである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(1)では、前記H
2
のガス速度は、500~20000mL/h/gである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(1)では、前記H
2
のガス速度は、2500~15000mL/h/gである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(2)では、前記前処理は、圧力が0.05~7気
圧であり、時間が15~90mi
nである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(2)では、前記前処理は、圧力が0.05~2.5気圧であり、時間が25~75minである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(2)では、前記H
2
とCOのガス速度は200~8000mL/h/gである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(2)では、前記H
2
とCOのガス速度は1000~6500mL/h/gである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(3)では、前記炭化物の製造は、圧力が0.09~10気
圧であり、時間が0.5~10
hである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(3)では、前記炭化物の製造は、圧力が0.15~3気圧であり、時間が1.5~8hである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(3)では、前記H
2
とCOのガス速度は200~20000mL/h/gである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(3)では、前記H
2
とCOのガス速度は4000~15000mL/h/gである、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記前処理後の系の温度を0.2~5℃/minの昇温速度で180~280℃に昇温
する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項18】
前記前処理後の系の温度を0.2~2.5℃/minの昇温速度で200~270℃に昇温する工程をさらに含む、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記表面浄化処理、前処理及び炭化物製造の過程は、フィッシャー・トロプシュ合成反応器で行われる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項20】
フィッシャー・トロプシュ合成反応の条件下で、合成原料ガスを触媒と接触させる工程を含むフィッシャー・トロプシュ合成方法であって、
前記触媒は、請求項
1~19のいずれか1項に記載の製造方法によって得られるフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒であ
る、ことを特徴とするフィッシャー・トロプシュ合成方法。
【請求項21】
前記フィッシャー・トロプシュ合成は、高温高圧連続反応器で行われる、請求項20に記載のフィッシャー・トロプシュ合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成反応用の触媒の分野に関し、具体的には、フィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒、その製造方法及びフィッシャー・トロプシュ合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中国の一次エネルギーの構成には、石炭が豊富であり、石油やガスが不足するという特徴があり、経済の発展に伴い、外国の石油への依存度は高まり、2015年に61%に達し、中国のエネルギー安全に深刻な影響を与えている。フィッシャー・トロプシュ合成は近年ますます重要になるエネルギー変換経路であり、一酸化炭素とH
2の合成ガスを液体燃料と化学品に変換することができる。近年、フィッシャー・トロプシュ合成による間接石炭液化技術は、石炭をクリーン化して利用することを可能にし、石油の海外依存の問題を部分的に解決することができるので、中国では、石油代替や石炭のクリーン化に使用される最適な技術となっている。長年の努力の結果、中国では、16万トン/年の鉄系石炭間接液化技術の産業実積を達遂げており、こう鉱集団では100万トン/年、神華寧煤集団では400万トン/年の鉄系石炭間接液化プラントは試験運転中である。
フィッシャー・トロプシュ合成の反応方程式は次のとおりである。
【化1】
【0003】
アルカンとアルケンに加えて、工業用フィッシャー・トロプシュ合成では、副生成物として二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)も生成される。フィッシャー・トロプシュ合成反応は、メカニズムが複雑であり、CO解離、炭素(C)水素化、CHx鎖延長、及び炭化水素産物の脱着と酸素(O)の除去を引き起こす水素化と脱水素化の反応など、多くの工程がある。実用化の観点から、フィッシャー・トロプシュ合成触媒を改良する主な目的は、対象産物の選択性を高め、副生成物の選択性を低下させ、触媒の安定性を高め、触媒の寿命を延ばすことである。
【0004】
鉄は、フィッシャー・トロプシュ合成触媒を製造するための最も安価な遷移金属である。鉄系フィッシャー・トロプシュ合成触媒の活性相は、一般に炭化鉄であると考えられている。従来の鉄系触媒は、水性ガス変換(CO+H2O→CO2+H2)活性が高いため、通常、副生成物であるCO2に対する選択性が高く、通常、転化原料となる一酸化炭素の25%~45%を占める。これは、フィッシャー・トロプシュ合成反応用の鉄系触媒の主な欠点である。
【0005】
鉄系フィッシャー・トロプシュ合成触媒の活性相である純相の炭化鉄を合成することは非常に困難である。鉄系触媒の活性相の変化は非常に複雑であるので、活性相の性質と鉄系触媒のフィッシャー・トロプシュ合成反応メカニズムについてはかなりの論争がある。フィッシャー・トロプシュ合成反応の条件下で観察されるさまざまな炭化物には、ε-Fe
2C、ε’-Fe
2.2C、Fe
7C
3、χ-Fe
5C
2及びθ-Fe
3Cがある。2010年にトップジャーナルJournal of the American Chemical Society(JACS)に発表された文献「Stability and reactivity of ε-χ-θ iron carbide catalyst phases in Fischer-Tropsch synthesis: Controlling μ
C」では、さまざまな炭化鉄の生成条件を徹底的に計算して実験したところ、
図1に示すように、炭化鉄相転移(ε-χ-θ相転移)の発生が温度とH
2/CO比に依存する。具体的には、温度が高く炭素化学ポテンシャル(μ
C)が低い、つまりH
2/CO比が高いと、通常、θ-Fe
3Cが優先的に形成され、逆には、μ
Cが高く(H
2/CO比が低い)、温度が中等(~250℃)であると、χ-Fe
5C
2が形成される傾向になり、ε-炭化物は、より低い温度とより高い炭素化学ポテンシャルμ
Cでは、優先的に形成される。
【0006】
本文献の主な観点を
図1に示し、この文献では、Fe
2O
3を出発前駆体として、フィッシャー・トロプシュ合成反応の雰囲気で一連の実験を行い、その相転移をXRD及びシンクロトロン放射インサイチュXASでテストした。より高い炭素化学ポテンシャルμ
Cでは、ε/ε’炭化鉄は、穏やかな条件~200℃で生成されて安定的に存在し、250℃に近づくと、熱力学的に安定したχ-Fe
5C
2に変換される。工業用フィッシャー・トロプシュ合成による生産では、副生する蒸気の飽和蒸気圧を高め、高品質の蒸気を得て、経済的利益を向上させるために、鉄系フィッシャー・トロプシュ合成の温度は235~265℃とされる。言い換えれば、この権威のある文献から、200℃以上ではε/ε’炭化鉄が不安定になるので、現代のフィッシャー・トロプシュ合成産業に適した触媒として使用できないことを示している。
【0007】
2015年に、「Nature」のサブジャーナル「Nature communication」に発表された文献「Metal organic framework-mediated synthesis of highly active and stable Fischer-Tropsch catalysts」は、炭化物の合成を試みたところ、χ-Fe5C2を合成している。これは、現代のフィッシャー・トロプシュ合成工業で使用される温度に適した触媒であるが、そのCO2選択性は46%と高く、このため、CO利用効率の理論最大値がわずか54%であり、低効率が低い。
【0008】
CN104399501Aは、低温フィッシャートロプシュ合成反応に適したε-Fe2Cナノ粒子の製造方法を提供し、その出発前駆体が鉄骨格であり、反応系がポリエチレングリコール溶媒の間欠的な非連続反応である。この触媒は、CO2選択性が18.9%、CH4選択性が17.3%である。その欠点は、200℃以下の低温でしか使用できず、反応を継続的に実施できないことである。このことから、この触媒が現代のフィッシャー・トロプシュ合成産業の条件下での連続生産には適していないことが示されている。
【0009】
上記技術のいずれでも、製造プロセスが複雑であり、原料が高価であり、触媒の安定性が不十分であり、CO2又はCH4副生成物の選択性が高すぎるという問題を抱えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術に存在する上記技術的問題を解決するために、フィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒、その製造方法及びフィッシャー・トロプシュ合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成させるために、本発明の第1態様は、
(1)ナノ鉄粉末又はインサイチュ還元によりナノ鉄粉末を得ることができるナノ粉体鉄化合物を、H2とともに250~510℃の温度で表面浄化する工程と、
(2)工程(1)で得られた材料を、H2とCOのモル比が1.2~2.8:1であるH2、COとともに80~180℃の温度で前処理する工程と、
(3)工程(2)で得られた材料を、H2とCOのモル比が1.0~3.0:1であるH2、COとともに180~280℃の温度で炭化物を製造する工程と、を含むフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第2態様は、本発明の製造方法によって得られるフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒を提供する。
【0013】
本発明の第3態様は、フィッシャー・トロプシュ合成反応の条件下で、合成原料ガスを触媒と接触させる工程を含むフィッシャー・トロプシュ合成方法であって、前記触媒は本発明の前記フィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒であるフィッシャー・トロプシュ合成方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の技術的効果を有する。
(1)使用される原料は、入手しやすく低価であり、主要な原料である鉄源は、通常の市販のナノ鉄粉末であるか、又はフィッシャー・トロプシュ合成反応器でナノ鉄に還元できる通常の市販のナノ酸化鉄(Fe2O3)粉末、ナノマグネタイト(Fe3O4)粉末、ナノゲーサイト粉末、ナノ鉄水和物粉末及びその他のナノ粉体鉄化合物であり、活性相である炭化物を合成するときに、反応系に固有の反応ガス(CO及びH2)のみが使用され、ほかの無機又は有機反応原材料が必要とされないので、既存の文献に記載の技術と比較して大幅に簡素化されている。
(2)操作工程はシンプルであり、好ましい実施形態では、触媒の製造とフィッシャー・トロプシュ合成は同じ反応器で行われるため、追加の活性相炭化物の製造のための反応装置は必要ではなく、製造過程に亘って、前駆体の表面浄化、前処理及び炭化物製造の3つの工程だけで十分であり、同じ反応器において活性相の製造と合成反応をインサイチュで実現できる。
(3)本発明は、純度100%の活性相ε/ε’炭化鉄を製造することができ、この純度100%の活性相ε/ε’炭化鉄は、高温高圧(例えば、235~250℃の温度、2.3~2.5MPaの圧力、H2/CO=1.5~2.0の高い炭素化学ポテンシャルμC))連続反応器に適しており、反応の安定性が非常に高く、従来の文献の理論である「高い炭素化学ポテンシャルμCでは、ε/ε’炭化鉄は200℃未満の穏やかな条件のみで安定して存在するのが可能である。」という理論的な技術的障壁を破り、その安定的に存在できる温度が250℃と高く、そしてCO2選択性が非常に低く、工業用フィッシャー・トロプシュ合成反応の条件では、高圧連続反応器を用いて、400時間を超えて連続的且つ安定的に反応することができ、そのCO2選択性が8%以下(好ましい場合、5%以下)であり、また、副生成物のCH4の選択性も14%以下(好ましい場合、11%以下)に維持され、有効な産物の選択性が78%以上(好ましい場合、84%以上)に達し、このため、現代の石炭化学におけるフィッシャー・トロプシュ合成によりオイル・ワックス製品を大規模で効率よく生産する場合に非常に適している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来技術における炭化鉄の変換の関係図である。
【
図2】実施例1における前駆体1の走査型透過電子顕微鏡STEM像である。
【
図3】実施例1における前駆体1の高解像度透過型電子顕微鏡HRTEM像である。
【
図4】実施例1のε/ε’炭化鉄触媒の製造過程のインサイチュXRDパターンである。
【
図5】実施例1で得たε/ε’炭化鉄触媒のインサイチュXRDパターンである。
【
図6】実施例1のε/ε’炭化鉄触媒の製造過程のインサイチュメスバウアースペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に開示されている範囲の端点及び任意の値は、この正確な範囲又は値に限定されず、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近い値を含むと理解されるべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と個々の点値の間、及び個々の点値の間を組み合わせて、1つ以上の新しい数値範囲を得ることができ、これらの値の範囲は、本明細書で具体的に開示されているものとして見なされるべきである。
【0017】
本発明の第1態様は、
(1)ナノ鉄粉末又はインサイチュ還元によりナノ鉄粉末を得ることができるナノ粉体鉄化合物を、H2とともに250~510℃の温度で表面浄化する工程と、
(2)工程(1)で得られた材料を、H2とCOのモル比が1.2~2.8:1であるH2、COとともに80~180℃の温度で前処理する工程と、
(3)工程(2)で得られた材料を、H2とCOのモル比が1.0~3.0:1であるH2、COとともに180~280℃の温度で炭化物を製造する工程と、を含むフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の製造方法では、使用される原料は、入手しやすく低価であり、その中でも、前記ナノ鉄粉末は、本分野でよく使用されるものであり、そして一般的な市販製品であってもよく、前記ナノ鉄粉末の平均結晶粒径は、好ましくは4~30nm、より好ましくは10~27nmであり、前記ナノ粉体鉄化合物は、本分野でよく使用されるものであり、一般的な市販製品であってもよく、例えば、前記ナノ粉体鉄化合物は、ナノ酸化鉄粉末、ナノマグネタイト粉末、ナノゲーサイト粉末及びナノ鉄水和酸化物粉末のうちの少なくとも1種である。
【0019】
本発明において、工程(1)の原料がナノ鉄粉末である場合、工程(1)はナノ鉄粉末を表面浄化する役割を果たし、工程(1)の原料がインサイチュ還元によりナノ鉄粉末を得ることができるナノ粉体鉄化合物である場合、工程(1)は、ナノ粉体鉄化合物からナノ鉄粉末をインサイチュで生成する役割と、生成したナノ鉄粉末を表面浄化する役割を同時に果たす。
【0020】
本発明において、工程(1)のH2は、H2流れの形で反応系に導入することができ、また、表面浄化の圧力は、H2流れの圧力を制御することにより制御され、好ましくは、工程(1)では、前記表面浄化は、圧力が0.1~15気圧、好ましくは0.2~2.5気圧であり、時間が0.5~8h、好ましくは1~7hである。
【0021】
本発明において、前記H2の使用量は、処理対象原料の量に応じて決定することができるが、好ましくは、工程(1)では、前記H2のガス速度は、500~20000mL/h/g、より好ましくは2500~15000mL/h/gである。
【0022】
本発明において、工程(2)のH2及びCOは、(H2+CO)混合ガス流れの形で反応系に導入することができ、また、前処理過程の圧力は、(H2+CO)混合ガス流れの圧力を制御することにより制御され、好ましくは、工程(2)では、前記前処理は、圧力が0.05~7気圧、より好ましくは0.05~2.5気圧であり、時間が15~90min、より好ましくは25~75minである。
【0023】
本発明において、好ましくは、工程(2)では、前記H2とCOの総ガス速度は、200~8000mL/h/g、より好ましくは1000~6500mL/h/gである。
【0024】
本発明において、工程(3)のH2及びCOは、(H2+CO)混合ガス流れの形で反応系に導入することができ、また、炭化物製造過程の圧力は、(H2+CO)混合ガス流れの圧力を制御することにより制御され、好ましくは、工程(3)では、前記炭化物の製造は、圧力が0.09~10気圧、好ましくは0.15~3気圧であり、時間が0.5~10h、好ましくは1.5~8hである。
【0025】
本発明において、好ましくは、前記工程(3)では、H2とCOの総ガス速度は、200~20000mL/h/g、より好ましくは4000~15000mL/h/gである。
【0026】
本発明において、好ましくは、前記工程(2)のH2とCOのモル比は、工程(3)のH2とCOのモル比よりも大きい。
【0027】
本発明において、特に断らない限り、「mL/h/g」は、原料1gに対する1時間当たりのガス供給体積を指す。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記製造方法は、前記前処理後の系の温度を0.2~5℃/minの昇温速度で180~280℃に昇温する工程をさらに含む。この好ましい実施形態では、得られた純相ε/ε’炭化鉄触媒は、フィッシャー・トロプシュ合成反応において、より良い効果的な産物の選択性を有する。さらに好ましくは、前記前処理後の系の温度を、0.2~2.5℃/minの昇温速度で200~270℃に昇温する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記表面浄化処理、前処理及び炭化物製造の過程は、フィッシャー・トロプシュ合成反応器で行われる。この好ましい実施形態では、触媒製造とフィッシャー・トロプシュ合成は同じ反応器で行われるので、触媒製造過程における原料H2とCOは、フィッシャー・トロプシュ合成反応系の固有の原料であってもよく、追加の活性相炭化物製造のための反応装置は必要がなく、製造過程に亘って、同じ反応器内で活性相の製造と合成反応をインサイチュで実現することができ、このため、操作工程はより簡便になる。
【0030】
本発明の第2態様は、本発明の製造方法によって得られるフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒を提供する。前記純相ε/ε’炭化鉄触媒は、100%純相の活性相ε/ε’炭化鉄である。
【0031】
本発明の第3態様は、フィッシャー・トロプシュ合成反応の条件下で、合成用の原料ガスを触媒と接触させる工程を含む、前記触媒は、本発明の第2態様に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用の純相ε/ε’炭化鉄触媒であるフィッシャー・トロプシュ合成方法を提供する。
【0032】
本発明の純相ε/ε’炭化鉄触媒は、高温高圧でフィッシャー・トロプシュ合成反応を行うことができるフィッシャー・トロプシュ合成触媒として用いられ、例えば、前記フィッシャー・トロプシュ合成反応の条件は、温度235~250℃、圧力2.3~2.5MPaを含む。
【0033】
本発明において、特に断らない限り、前記圧力とは絶対圧力をいう。
【0034】
本発明において、好ましくは、前記フィッシャー・トロプシュ合成反応は、高温高圧連続反応器で行われる。本発明の純相ε/ε’炭化鉄触媒は、フィッシャー・トロプシュ合成反応が、高温高圧連続反応器で400h以上連続的かつ安定的に行えるようにすることができる。
【0035】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【0036】
以下の実施例及び比較例では、比較の便宜上、すべて原料は同じ会社からのものであるが、実際の操作には、この会社製の原料に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
当該実施例は、本発明の純相ε/ε’炭化鉄触媒、及びその製造方法を説明する。
(1)平均結晶粒径の範囲が21±6nmのナノ鉄粉末(Alfa試薬社から購入、CAS No. 7439-89-6)1.00gを秤量し、このナノ鉄粉末を前駆体1と命名した。
2)上記前駆体1を管状フィッシャー・トロプシュ合成反応器に投入して、250℃の温度で、ガス速度2500mL/h/g、圧力2.5気圧のH2流れを導入して、7時間反応させた。
(3)反応器内の温度を180℃に下げながら、H2流れを、モル比H2/CO=1.2、ガス速度6500mL/h/g、全圧0.05気圧の(H2+CO)ガス流れに変更して、前処理反応を75min行った。
(4)反応器内のガス流れを、モル比H2/CO=1.0、ガス速度4000mL/h/g、全圧3気圧の(H2+CO)ガス流に変更しながら、0.2℃/minの昇温速度で200℃まで安定的に昇温し、1.5時間保温した。純相ε/ε’炭化鉄触媒を得て、A1とした。
【0038】
当該実施例について、以下のテストを行った。
1)前駆体1に対して、走査型透過電子顕微鏡(STEM)及び高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)によるテストを行った。この結果をそれぞれ
図2及び
図3に示す。
2)インサイチュXRD検出技術を用い、つまり、上記触媒の製造過程において、X線回折装置(Rigaku社から購入、D/max-2600/PC型)を使用して、材料の結晶相転移をモニタリングした。この結果を
図4、5に示す。
図4から、ナノ鉄粉末から対象炭化物への変化過程が明確に見られ、
図5から明らかなように、得られた対象産物であるε/ε’炭化鉄は、結晶性が良好であり、ε/ε’炭化鉄のすべての特徴的なピークに対応し、純度が極めて高く、他の不純物が一切なかった。
3)インサイチュメスバウアー分光検出技術を用い、つまり、上記触媒の製造過程においてインサイチュメスバウアー分光法(Transmission
57Fe、
57Co(Rh)源正弦スペクトロメーター、下同)を使用して材料の組成変化をモニタリングし、250℃の飽和蒸気圧の水蒸気を反応ガスに追加した処理(高温水蒸気処理)を、対象産物の活性相ε/ε’の炭化鉄に付し、これにより、工業化条件下で長期間運転後の状況をシミュレーションした。インサイチュメスバウアー分光法によりモニタリングしたところ、ナノ鉄粉末から対象炭化物への変化過程、及び高温水蒸気処理によりシミュレーションした工業条件下での長期運転後の状況が明らかになった。具体的な結果を
図6及び表1に示す。
図6から、ナノ鉄粉末から対象炭化物への変化過程及び高温水蒸気処理の過程が明らかになった。
表1は、相転移の具体的なデータを統計したものであり、表1からわかるように、実施例1で製造した対象産物中、活性相ε/ε’炭化物の純度は100%であり、シミュレートされた工業化条件下で長期間運転後でも、その純度はまだ100%であった。このことから、本発明の方法は純度100%の対象産物である活性相ε/ε’炭化鉄を製造することができ、そして、本発明の製造方法に従って得られたε/ε’炭化鉄は250℃の高温で安定的に存在でき、さらに、シミュレーションした工業用の高温高圧水蒸気で浸食した後でも、このε/ε’炭化鉄触媒は100%の純度を維持することを示している。
【0039】
【0040】
実施例2
当該実施例は、本発明の純相ε/ε’炭化鉄触媒、及びその製造方法を説明する。
(1)平均結晶粒径の範囲が17±7nmのナノマグネタイト(Fe3O4)粉末(alfa試薬社から購入、CAS No. 1317-61-9)1.00gを秤量し、このナノマグネタイトを前駆体2と命名した。
(2)上記前駆体2を管状フィッシャー・トロプシュ合成反応器に投入して、510℃の温度で、ガス速度15000mL/h/g、圧力0.2気圧のH2流れを導入し、1h反応させた。
(3)反応器内の温度を80℃に下げながら、H2流れを、モル比H2/CO=2.8、ガス速度1000mL/h/g、全圧2.5気圧の(H2+CO)ガス流れに変更して、前処理反応を25min行った。
(4)反応器内のガス流れを、モル比H2/CO=3.0、ガス速度15000mL/h/g、全圧0.15気圧の(H2+CO)ガス流れに変更しながら、2.5℃/minの昇温速度で270℃まで安定的に昇温し、8時間保温した。純相ε/ε’炭化鉄触媒を得て、A2とした。
【0041】
実施例3
当該実施例は、本発明の純相ε/ε’炭化鉄触媒、及びその製造方法を説明する。
(1)平均結晶粒径の範囲が19±7nmのナノゲーサイト(α-FeO(OH))粉末(alfa試薬社から購入、CAS No. 20344-49-4)1.00gを秤量し、このナノゲーサイトを前駆体3と命名した。
(2)上記前駆体3を管状フィッシャー・トロプシュ合成反応器に投入して、470℃の温度で、ガス速度5000mL/h/g、圧力1.3気圧のH2流れを導入し、5h反応させた。
(3)反応器内の温度を137℃に下げながら、H2流れを、モル比H2/CO=2.4、ガス速度5000mL/h/g、全圧0.1気圧の(H2+CO)ガス流れに変更して、前処理反応を50min行った。
(4)反応器内のガス流れを、モル比H2/CO=2.5、ガス速度10000mL/h/g、全圧2気圧の(H2+CO)ガス流れに変更しながら、1℃/minの昇温速度で240℃まで安定的に昇温し、4h保温した。純相ε/ε’炭化鉄触媒を得て、A3とした。
【0042】
実施例4
工程(2)では、H2流れの圧力が15気圧であった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA4とした。
【0043】
実施例5
工程(2)では、H2流れのガス速度が500mL/h/gであった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA5とした。
【0044】
実施例6
工程(3)では、(H2+CO)流れの圧力が7気圧であった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA6とした。
【0045】
実施例7
工程(3)では、(H2+CO)流れのガス速度が200mL/h/gであった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA7とした。
【0046】
実施例8
工程(4)では、(H2+CO)流れの圧力が0.09気圧であった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA8とした。
【0047】
実施例9
工程(4)では、(H2+CO)流れのガス速度が200mL/h/gであった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA9とした。
【0048】
実施例10
工程(4)では、昇温速度が5℃/minであった以外、実施例1の方法に従って純相ε/ε’炭化鉄触媒を製造した。得られたε/ε’炭化鉄触媒をA10とした。
【0049】
比較例1
工程(3)を行わず、工程(2)で得られた材料を工程(4)に従って直接処理した以外、実施例1の方法に従って炭化鉄触媒を製造した。得られた炭化鉄触媒をD1とした。
【0050】
比較例2
工程(3)では、H2とCOのモル比が1.1であった以外、実施例1の方法に従って炭化鉄触媒を製造した。得られた炭化鉄触媒をD2とした。
【0051】
比較例3
工程(4)では、H2とCOのモル比が0.9であった以外、実施例1の方法に従って炭化鉄触媒を製造した。得られた炭化鉄触媒をD3とした。
【0052】
比較例4
工程(3)では、前処理の温度が200℃であり、工程(4)では、炭化物の製造の温度が290℃であった以外、実施例1の方法に従って炭化鉄触媒を製造した。得られた炭化鉄触媒をD4とした。
【0053】
比較例5
当該比較例は、従来技術(N.Lohitham et al./Journal of Catalysis 255(2008)104~113)における炭化鉄触媒の製造方法を説明する。
(1)100Fe/5Cu/17Siのモル比で、原料として0.6mol/LのFe(NO3)3・9H2OとCuN2O6・3H2Oとを混合し、60mLのH2Oを加えて溶解し、さらにSi(OC2H5)4を取り、40mLのプロパノールに加えて溶解させた。上記で得られた2つの溶液を混合し、83±3℃に加熱した。
(2)2.7mol/LのNH4OH溶液を83±3℃に予熱した。
(3)工程(2)で得られたNH4OH溶液を工程(1)で得られた混合溶液に連続的に加え、沈殿が生じるまで激しく撹拌し、沈殿の終点でpH=8~9に維持した。常温で17時間老化させ、1.3~1.5Lの脱イオン水で十分に洗浄してNH3を除去し、pH=7~8にした。洗浄した沈殿物を110℃で18~24時間乾燥させ、空気中300℃で5時間か焼し、2時間で室温まで冷却した。
(4)粒子径<90μmの材料をスクリーニングして、典型的な工業的触媒の活性化条件として、H2/COモル比1.0、総ガス速度5000mL/h/g、260℃で、12h活性化させ、窒化鉄触媒を得て、D5とした。
【0054】
試験例
(1)メスバウアー分光法を使用して、産物A2~A10及びD1~D5中のε’-Fe2.2C/ε-Fe2C相のモル含有量を測定した。結果を表2に示す。
(2)反応ガスのモル比H2/CO=1.5、圧力2.5MPa、温度240℃、(H2+CO)総ガス速度20000mL/h/gの条件下で、産物としての触媒A1~A10、D1~D5のそれぞれを、反応ガスH2及びCOと接触させて、フィッシャー・トロプシュ合成反応を行った。10hと400hでの触媒活性と産物の選択性をモニタリングした。
CO2選択性%=[排出材料中のCO2のモル数/(供給材料中のCOのモル数-排出材料中のCOのモル数)]×100%;
CO転化率%=[(供給材料中のCOのモル数-排出材料中のCOのモル数)/供給材料中のCOのモル数]×100%;
CH4選択性%=[排出材料中のCH4のモル数/(供給材料中のCOのモル数×CO転化率%(1-CO2の選択性%))]×100%;
有効な産物の選択性%=100%-CO2選択性%-CH4選択性%。
結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
表2の結果から明らかなように、本発明の製造方法は純相ε/ε’炭化鉄を製造することができた。
【0057】
【0058】
表3の結果から明らかなように、本発明の方法で製造した純相ε/ε’炭化鉄触媒は、工業条件下で、極低CO2選択性を示し、好ましい場合は、CO2の選択性は5%未満であり、一方、同じ工業条件下では、従来技術により製造された炭化鉄触媒D5のCO2選択性は、29.2%~34.1%と高かった。
【0059】
また、本発明の方法で製造した純相ε/ε’炭化鉄触媒は、CH4選択性が14%より低く(好ましい場合は、11%以下)、有効な産物の選択性が78%以上(好ましい場合は、84%以上)であり、一方、従来技術により製造された炭化鉄触媒D5は、CH4選択性が高く、有効な産物の選択性がわずか51.7%であり、COの利用効率が低下した。
【0060】
最後に、10時間目と400時間目の実験データを比較したところ、本発明の方法で製造した純相ε/ε’炭化鉄触媒は、400h反応後、CO転化率も産物の選択性も安定しており、明らかな変化がなく、一方、従来技術により製造された炭化鉄触媒D5は、各パラメータが大幅に低下しており、このことから、本発明の方法で製造した純相ε/ε’炭化鉄触媒は、従来技術の炭化鉄触媒よりもはるかに優れていることを示している。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の技術的構想を逸脱することなく、他の適切な方式での様々な技術的特徴を組み合わせることを含む、本発明の技術案に対して多くの簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形及び組み合わせは、本発明で開示された内容と見なされるべきであり、すべて本発明の特許範囲に属する。