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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】自律走行システム
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20220704BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20220704BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20220704BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20220704BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
A01B69/00 303U
A01C11/02 322B
A01C11/02 342Q
A01B63/10 E
G05D1/02 N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021023793
(22)【出願日】2021-02-17
(62)【分割の表示】P 2018061059の分割
【原出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2021097678
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康司
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔一
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123829(JP,A)
【文献】特開2016-21890(JP,A)
【文献】特開2015-213442(JP,A)
【文献】特開平4-365405(JP,A)
【文献】特開平4-365406(JP,A)
【文献】実開平5-15714(JP,U)
【文献】特開平6-113606(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107329424(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/02
A01B 63/10
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準経路を作成する基準経路作成部と、
植付部を備えた田植機の位置を取得する位置取得部と、
前記位置取得部が取得した前記田植機の位置を用いて、前記基準経路に平行であって開始点と終了点を結ぶ経路である直線経路に沿って少なくとも操舵を自律的に行って前記田植機を走行させる走行制御部と、
前記植付部を下降させて植付作業を行う下降状態と、前記植付部を上昇させて植付作業を行わない上昇状態と、の間で当該植付部の高さを変更させる昇降装置と、
前記植付部に取り付けられた接地体の高さを前記下降状態において検出する接地センサと、
前記田植機の旋回後に前記植付部が下降した後に前記接地体が圃場表面に接触した時の位置を前記開始点として登録する開始点登録部と、
前記開始点を前記基準経路に平行に延長した線と、一本前の前記直線経路の前記開始点を前記基準経路に垂直に延長した線と、の交点を前記終了点として登録する終了点登録部と、
を備えることを特徴とする自律走行システム。
【請求項2】
請求項1に記載の自律走行システムであって、
前記田植機から前記終了点までの距離が閾値以下であるか当該終了点を超えたと判定した場合に、当該終了点が近い又は当該終了点を超えた旨の報知、及び、前記田植機の減速の少なくとも何れかの処理を行うことを特徴とする自律走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、直線経路に沿って少なくとも操舵を自律的に行う自律走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、予め作成された走行経路に沿って作業車両を自律的に走行させるシステムが知られている。走行経路は、例えば、直線経路と、旋回経路と、に分けることができる。特許文献1では、この直線経路のみについて、作業車両に自律走行を行わせるシステムが開示されている。
【0003】
特許文献1の田植機は、オペレータが作業の開始時にAボタンを操作することで開始点を設定し、畦際領域の手前等で旋回する前にオペレータがBボタンを操作することで終了点を設定する。また、この田植機は、開始点と終了点を接続する直線経路を平行移動することで、次の終了点と開始点を推測して次に直線経路を作成する処理を行う。また、特許文献1には、開始点及び終了点をボタンで設定することに代えて、苗植付装置の上昇及び下降等の車両挙動に基づいて設定することも記載されている。
【0004】
特許文献2の田植機は、苗植付機構の近傍に配置されたフロートを備える。また、この田植機は、フロートが圃場に接地したか否かの検出結果を用いて、作業開始と作業終了とを検出する処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-123829号公報
【文献】特開2016-21890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようにオペレータがボタンで設定した開始点及び終了点は誤差が大きくなり易い。しかしながら、車両挙動に基づいて開始点及び終了点を設定する場合においても、例えば作業装置の下降には時間が掛かるため、開始点を的確に決定することは困難である。また、特許文献2に示すフロートには一般的に様々な部材が取り付けられていることで揺動範囲が制限されたり、また設定等によっても揺動範囲が変化することがあるため、作業開始等のタイミングを正確に検出できない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、直線経路に沿って走行する際の開始点及び終了点を自動的かつ正確に登録可能な自律走行システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成の自律走行システムが提供される。即ち、この自律走行システムは、基準経路作成部と、位置取得部と、走行制御部と、昇降装置と、フロートセンサと、接地センサと、昇降制御部と、開始点登録部と、終了点登録部と、を備える。前記基準経路作成部は、基準経路を作成する。前記位置取得部は、植付部を備えた田植機の位置を取得する。前記走行制御部は、前記位置取得部が取得した前記田植機の位置を用いて、前記基準経路に平行であって開始点と終了点を結ぶ経路である直線経路に沿って少なくとも操舵を自律的に行って前記田植機を走行させる。前記昇降装置は、前記植付部を下降させて植付作業を行う下降状態と、前記植付部を上昇させて植付作業を行わない上昇状態と、の間で当該植付部の高さを変更させる。前記フロートセンサは、前記植付部に取り付けられたフロートの位置を前記下降状態において検出する。前記接地センサは、前記植付部に取り付けられた接地体の高さを前記下降状態において検出する。前記昇降制御部は、前記接地センサの検出結果に基づいて前記フロートの沈下量を算出して前記フロートセンサの検出結果を補正し、補正後の前記フロートセンサの検出結果に基づいて、前記昇降装置を制御する。前記開始点登録部は、前記田植機の旋回後に前記植付部が下降した後に前記接地体が圃場表面に接触した時の位置を前記開始点として登録する。前記終了点登録部は、前記開始点を前記基準経路に平行に延長した線と、一本前の前記直線経路の前記開始点を前記基準経路に垂直に延長した線と、の交点を前記終了点として登録する。
【0010】
これにより、フロートではなく接地センサの検出結果を用いることで、植付部が下降した位置を正確に検出できる。そのため、開始点及び終了点を自動的かつ正確に登録することができる。また、昇降制御部の制御で用いるセンサを用いて開始点及び終了点を登録するため、別途センサを設ける構成と比較して、部品点数及びコストを低減できる。
【0011】
前記の自律走行システムにおいては、前記田植機から前記終了点までの距離が閾値以下であるか当該終了点を超えたと判定した場合に、当該終了点が近い又は当該終了点を超えた旨の報知、及び、田植機の減速の少なくとも何れかの処理を行うことが好ましい。
【0012】
これにより、正確な位置に登録された終了点に基づいて、終了点が近い(又は超えた)旨の報知を行ったり、田植機の減速を行ったりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る自律走行システムに備えられる田植機の側面図。
図2】田植機の平面図。
図3】植付部周辺の様子を示す側面図。
図4】接地体の揺動機構を示す斜視図。
図5】自律走行システムのブロック図。
図6】開始点及び終了点を推測する処理及び直線経路を作成する処理を示すフローチャート。
図7】開始点A1及び終了点B1に基づいて基準経路が作成される様子を示す図。
図8】開始点A1、開始点A2、及び基準経路に基づいて終了点B2が推測される様子を示す図。
図9】開始点A2、開始点A3、及び基準経路に基づいて終了点B3が推測される様子を示す図。
図10】終了点までの距離に基づいて行う処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本実施形態の自律走行システム100は、圃場内で田植え(苗の植付け)を行う田植機1に自律走行を行わせるためのシステムである。ここで、自律走行とは、少なくとも操舵を自律的に行って田植機1を走行させることを意味する。本実施形態では、無線通信端末7を用いてオペレータが自律走行に関する設定を行い、その設定に基づいて田植機1が自律走行を行う。また、本実施形態では、オペレータの乗車中において田植機1に自律走行を行わせる構成であるが、オペレータが乗車していない田植機1に自律走行を行わせることもできる。
【0015】
初めに、本実施形態の田植機1について、図1から図5を参照して説明する。図1は、田植機1の側面図である。図2は、田植機1の平面図である。図3は、植付部14周辺の様子を示す側面図である。図4は、接地体37の揺動機構90を示す斜視図である。図5は、自律走行システム100のブロック図である。図1及び図2に示すように、田植機1は、車体部11と、左右1対の前輪12と、左右一対の後輪13と、植付部14と、を備える。
【0016】
車体部11の前部に配置されたボンネット21の内部には、エンジン22が配置されている。エンジン22が発生させた動力はミッションケース23を介して前輪12及び後輪13に伝達される。ミッションケース23を介して伝達された動力は、車体部11の後部に配置されたPTO軸24を介して植付部14にも伝達される。車体部11の前後方向で前輪12と後輪13の間の位置には、オペレータが搭乗する運転座席25が設けられている。運転座席25の前方には、オペレータが田植機1を操舵するための操舵ハンドル26が配置されている。
【0017】
植付部14は、車体部11の後方に昇降リンク機構31を介して連結されている。昇降リンク機構31は、トップリンク31a及びロワーリンク31b等を含む平行リンク構造により構成されている。ロワーリンク31bには昇降シリンダ(昇降装置)32が連結されている。この構成で、昇降シリンダ32を伸縮させることにより、植付部14全体を上下に昇降させることができる。これにより、植付部14を下降させて植付作業を行う下降状態と、植付部14を上昇させて植付作業を行わない上昇状態と、の間で当該植付部の高さを変更させることができる。また、詳細は後述するが、圃場の高さ及び設定等に応じて、植付部14の高さを調整することもできる。なお、昇降シリンダ32は油圧シリンダであるが、電動シリンダを用いてもよい。また、シリンダ以外のアクチュエータにより植付部14を昇降させる構成であってもよい。
【0018】
植付部14は、植付入力ケース33と、複数の植付ユニット34と、苗載台35と、複数のフロート36と、接地体37と、予備苗台38と、を主として備えている。
【0019】
それぞれの植付ユニット34は、植付伝動ケース41と、回転ケース42と、を備える。植付伝動ケース41には、PTO軸24及び植付入力ケース33を介して動力が伝達される。それぞれの植付伝動ケース41には、車幅方向の両側に回転ケース42が取り付けられている。それぞれの回転ケース42には、田植機1の進行方向に並べて2つの植付爪43が取り付けられている。これらの2つの植付爪43により、1条分の植付が行われる。
【0020】
図1に示すように、苗載台35は、植付ユニット34の前上方に配置されており、苗マットを載置可能に構成されている。苗載台35は、往復で横送り移動可能(横方向にスライド可能)に構成されている。また、苗載台35は、当該苗載台35の往復移動端で苗マットを間欠的に下方に縦送り搬送可能に構成されている。この構成により、苗載台35は、苗マットの苗を各植付ユニット34に対して供給できるようになっている。こうして、田植機1では、各植付ユニット34に対して苗を順次供給し、連続的に苗の植付けを行うことができる。
【0021】
図1に示すフロート36は、植付部14の下部に揺動可能に取り付けられている。フロート36は、その下面が圃場表面に接触することができるように配置されている。フロート36が圃場表面に接触することにより、苗を植え付ける前の田面が整地される。また、フロート36の後端は昇降可能に取り付けられており、フロート36の前端は揺動可能に支持されている。また、フロート36の揺動角はフロートセンサ68によって検出される。フロートの揺動角は、基本的には、圃場表面と植付部14の距離に対応している。田植機1は、フロート36の揺動角が目標角に近づくように例えばフィードバック制御を用いて昇降シリンダ32を動作させて植付部14を上下に昇降させることにより、基本的には、植付部14の対地高さを一定に保つことができる。また、圃場の水分量が多く圃場が軟らかい場合、フロート36は圃場表面に沈み込み易くなる。一方で、圃場の水分量が少なく圃場が硬い場合は、フロート36は圃場表面に沈み込みにくくなる。
【0022】
接地体37は、フロート36の車幅方向の外側にそれぞれ揺動可能に取り付けられている。接地体37は側面視で略L字状(圃場表面に沿うように延びる部分と斜め上方に延びる部分がある形状)である。また、図4に示すように、接地体37は細長い棒状の部材を並べた形状(櫛歯状)である。接地体37は、自重により下方に垂れ下
がっており、圃場表面の凹凸形状に沿うように揺動する。接地体37は、フロート36と比較して、圃場表面の凹凸形状に敏感に反応する。言い換えれば、フロート36が圃場の軟らかさに応じて検出結果にバラツキが生じるのに対し、接地体37は圃場の軟らかさに関係なく、圃場表面に沿うように揺動する。
【0023】
接地体37は、図3及び図4に示す揺動機構90により揺動可能に支持されており、接地センサ69はこの揺動角度(図3の角度θ)を検出する。具体的に説明すると、左右一対の接地体37は、左右一対の平板状のステー91にそれぞれ固定されている。これらのステー91は、クランク状に折り曲げられた左右一対の連結部材92にそれぞれ固定されている。また、左右一対の連結部材92は揺動軸93によって連結されている。接地体37、ステー91、及び連結部材92は、揺動軸93を回転軸として一体的に回転する。
【0024】
また、揺動軸93には、図3に示すようにギアカバー94が取り付けられている。図4では、ギアカバー94を取り外した状態の揺動機構90が示されている。即ち、ギアカバー94の内部には、第1セクタギア95が取り付けられている。第1セクタギア95は揺動軸93と一体的に回転する。また、揺動機構90は、揺動軸93と平行に配置された従動軸97を備える。従動軸97には第2セクタギア96が取り付けられている。第1セクタギア95と第2セクタギア96は噛み合っている。
【0025】
この構成により、接地体37が揺動することで揺動軸93が回転する。また、揺動軸93の回転に応じて従動軸97が回転する。また、従動軸97には、センサ軸98が固定されている。そのため、接地センサ69は従動軸97の回転角度を検出することができる。この従動軸97の回転角度に基づいて、揺動軸93の回転角度(即ち、揺動角度)が検出される。また、本実施形態では接地センサ69が直接的に検出する角度は従動軸97の回転角度であるが、揺動軸93の回転角度であってもよい。なお、接地体37の揺動角度に基づいて行う制御は後述する。
【0026】
予備苗台38は、ボンネット21の車幅方向外側に配置されており、予備のマット苗を収容した苗箱を搭載可能である。左右一対の予備苗台38の上部同士は、上下方向及び車幅方向に延びる連結フレーム27によって互いに連結されている。連結フレーム27の車幅方向の中央には、筐体28が配置されている。筐体28の内部には、測位アンテナ61と、慣性計測装置62と、通信アンテナ63と、が配置されている。測位アンテナ61は、衛星測位システム(GNSS)を構成する測位衛星からの電波を受信することができる。この電波に基づいて公知の測位計算が行われることにより、田植機1の位置を取得することができる。慣性計測装置62は、3つのジャイロセンサ(角速度センサ)と3つの加速度センサを備える。この慣性計測装置62が検出する田植機1の角速度及び加速度が補助的に用いられることで、田植機1の測位結果の精度が高められている。通信アンテナ63は、無線通信端末7と無線通信を行うためのアンテナである。
【0027】
図5に示すように、田植機1は制御部50を備える。制御部50は公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力部等を備える。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。ROMには、各種のプログラムやデータが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部50を、記憶部51と、走行制御部52、昇降制御部53として動作させることができる。制御部50は、1つのハードウェアであってもよいし、互いに通信可能な複数のハードウェアであってもよい。また、制御部50には、上記の慣性計測装置62に加え、位置取得部64と、通信処理部65と、車速センサ66と、舵角センサ67と、が接続されている。
【0028】
位置取得部64は、測位アンテナ61に電気的に接続されている。位置取得部64は、測位アンテナ61で受信した電波に基づく測位信号から、田植機1の位置を例えば緯度及び経度の情報として取得する。位置取得部64は、図示しない基準局からの測位信号を適宜の方法で受信した上で、公知のGNSS-RTK法を利用して測位を行う。しかしながら、これに代えて、例えばディファレンシャルGNSSを用いた測位、又は単独測位等が行われてもよい。あるいは、無線LAN等の電波強度に基づく位置取得又は慣性航法による位置取得等が行われてもよい。
【0029】
通信処理部65は、通信アンテナ63に電気的に接続されている。この通信処理部65は、適宜の方式で変調処理又は復調処理を行って、無線通信端末7との間でデータの送受信を行うことができる。
【0030】
車速センサ66は、田植機1の適宜の位置、例えば前輪12の車軸に配置されている。車速センサ66は、例えば車軸の回転に応じたパルスを発生させるように構成されている。車速センサ66で得られた検出結果のデータは、制御部50へ出力される。
【0031】
舵角センサ67は、前輪12の舵角を検出するセンサである。舵角センサ67は例えば前輪12に設けられた図示しないキングピンに備えられている。舵角センサ67で得られた検出結果のデータは、制御部50へ出力される。なお、舵角センサ67を操舵ハンドル26に備える構成としてもよい。
【0032】
フロートセンサ68は、フロート36の後端を支持するリンク機構に設けられてリンク高さh0を検出するポテンショメータ等のセンサと、フロート36の前端を支持する揺動機構に設けられてフロート36の揺動角を検出するポテンショメータ等のセンサと、を含んで構成されている。リンク高さh0は、植付爪43の爪出量(植付爪43の先端部とフロート36の底面との距離)である。また、フロート36の揺動角からは、圃場表面から植付部14までの距離を検出できるが、この距離にはフロート36の沈下量dの影響が含まれている。
【0033】
接地センサ69は、接地体37を支持する揺動機構に設けられて接地体37の揺動角を検出するポテンショメータ等のセンサである。この揺動角に基づいて、圃場表面から植付部14までの距離を正確に検出できる。
【0034】
走行制御部52は、田植機1の車速制御及び操舵制御を行う。走行制御部52は、車速制御と操舵制御を同時に行うこともできるが、何れか一方のみを行うこともできる。例えば、走行制御部52が操舵制御のみを行う場合、車速はオペレータが手動で操作する。
【0035】
車速制御とは、予め定められた条件に基づいて田植機1の車速を調整する制御である。具体的には、走行制御部52は、車速センサ66の検出結果により得られた現在の車速が目標の車速に近づくように、ミッションケース23内の変速装置の変速比、及び、エンジン22の回転速度の少なくとも一方を変更する。なお、この車速制御には、車速をゼロにして田植機1を停止させる制御も含まれる。
【0036】
操舵制御とは、予め定められた条件に基づいて田植機1の舵角を調整する制御である。具体的には、走行制御部52は、舵角センサ67の検出結果により得られた現在の舵角が目標の舵角に近づくように、例えば操舵ハンドル26の回転軸(ステアリングシャフト)に設けられた操舵アクチュエータを駆動する。なお、走行制御部52は、操舵ハンドル26の回動角度ではなく、田植機1の前輪12の操舵角を直接調整する構成であってもよい。
【0037】
昇降制御部53は、予め定められた条件に基づいて昇降シリンダ32を制御することで、植付部14の高さを制御可能である。昇降制御部53には、フロートセンサ68及び接地センサ69の検出結果が入力されている。昇降制御部53は、フロートセンサ68の検出結果(揺動角に基づいて算出される距離)と、接地センサ69の検出結果(揺動角に基づいて算出される距離)と、を比較することで、フロート36の沈下量dを算出する。昇降制御部53は、更に、この沈下量dと上記のリンク高さh0とを加算することで、植付深さhを算出する。このように、接地センサ69の検出結果からフロートセンサ68の沈下量を算出し、この沈下量に基づいて植付深さhを算出できる。植付深さhを算出することで、苗の植付けが適切に行われているか否かを判定できる。昇降制御部53は、この判定結果に基づいて昇降シリンダ32を制御することで、植付部14の高さを調整する。
【0038】
無線通信端末7は、タブレット型のコンピュータである。無線通信端末7は、通信アンテナ71と、通信処理部72と、表示部73と、操作部74と、制御部80と、を備える。なお、無線通信端末7はタブレット型のコンピュータに限るものではなく、スマートフォン又はノートパソコンであってもよい。無線通信端末7は、後述のように田植機1の自律走行に関する様々な処理を行うが、この処理の少なくとも一部を田植機1の演算装置が行うこともできる。逆に、田植機1が行う自律走行に関する様々な処理の少なくとも一部を無線通信端末7が行うこともできる。
【0039】
通信アンテナ71は、田植機1と無線通信を行うための近距離通信用のアンテナと、携帯電話回線及びインターネットを利用した通信を行うための携帯通信用アンテナと、を含んで構成されている。通信処理部72は、通信アンテナ71に電気的に接続されている。通信処理部72は、適宜の方式で変調処理又は復調処理を行って、無線通信端末7又は他の機器との間でデータの送受信を行うことができる。
【0040】
表示部73は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等であり、画像を表示可能に構成されている。表示部73は、例えば、自律走行に関する情報、田植機1の設定に関する情報、各種センサの検出結果、及び警告情報等を表示することができる。操作部74は、タッチパネルと、ハードウェアキーと、を含んでいる。タッチパネルは、表示部73に重ねて配置されており、オペレータの指等による操作を検出可能である。ハードウェアキーは、無線通信端末7の筐体の側面又は表示部73の周囲等に配置されており、オペレータが押圧することで操作可能である。なお、無線通信端末7は、タッチパネルとハードウェアキーの何れか一方のみを備える構成であってもよい。
【0041】
制御部80は公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力部等を備える。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。ROMには、各種のプログラムやデータが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部80を、記憶部81、開始点登録部82、終了点登録部83、基準経路作成部84、直線経路作成部85、減速指示部86として動作させることができる。制御部80の各部が行う処理は後述する。
【0042】
次に、図6から図9を参照して、開始点及び終了点を登録しつつ直線経路に沿って田植機1に自律走行を行わせる処理について説明する。図6は、開始点及び終了点を推測する処理及び直線経路を作成する処理を示すフローチャートである。図7から図9は、このときの流れを示す模式図である。
【0043】
本実施形態では、開始点と終了点が次々と登録され、これらを結ぶ直線経路に沿って田植機1に自律走行を行わせる。走行制御部52は直線経路に沿うように自律的に操舵を行い、それ以外の処理(車速、旋回、植付部14の高さ等)オペレータが操作する。開始点は、直線経路に沿った走行を開始する位置であるとともに、植付作業を開始する位置でもある。また、終了点は、直線経路に沿った走行を終了して次の直線経路に移動するための旋回を行う位置であるとともに、植付作業を終了する位置でもある。
【0044】
また、以下の説明では、最初に登録される開始点を開始点A1とし、それ以降に登録される開始点を順に、開始点A2、開始点A3、・・・と称する。同様に、最初に登録される終了点を終了点B1とし、それ以降に登録される終了点を順に、終了点B2、終了点B3、・・・と称する。
【0045】
無線通信端末7は、オペレータから直線経路に沿った自律走行の指示を受けることで、開始点を登録す
るための画面を表示する。この画面には、開始点に到達したとオペレータが判断したときに、その旨を指示する開始点登録ボタンが表示されている。そして、オペレータがこの開始点登録ボタンを操作することで、無線通信端末7(開始点登録部82)は開始点A1の登録を行う(S101、図7)。詳細には、無線通信端末7(開始点登録部82)は、オペレータが開始点登録ボタンを操作した時点の田植機1の位置(位置取得部64の算出結果、又はそれを補正した値)を、田植機1(制御部50)から受信して、開始点A1の位置を登録する(記憶部81に記憶される、以下同様)。
【0046】
この時点では終了点は確定していないので、操舵についてもオペレータが操舵ハンドル26を用いて調整する。また、オペレータは、開始点A1から植付作業を開始する。そして、植付作業の終了点に到達したタイミングで、無線通信端末7に表示されている終了点登録ボタンを操作する。これにより、無線通信端末7(終了点登録部83)は終了点B1の登録を行う(S102、図7)。詳細には、無線通信端末7(終了点登録部83)は、オペレータが終了点登録ボタンを操作した時点の田植機1の位置を、田植機1(制御部50)から受信して、終了点B1の位置を登録する。
【0047】
これにより、開始点A1と終了点B1が登録される。無線通信端末7(基準経路作成部84)は、これらを結ぶことで基準経路を作成する(S103、図7)。基準経路とは、後に作成される直線経路の方向を定める経路である。言い換えれば、直線経路は、基準経路に平行となるように作成される。
【0048】
なお、無線通信端末7ではなく田植機1が備える操作部をオペレータが操作することで開始点A1及び終了点B1の登録が行われてもよい。
【0049】
その後、オペレータは、植付部14を上昇させるとともに田植機1を旋回させて田植機1の向きを反転させ、再び植付部14を下降させる。ここで、従来では田植機1の車両挙動に基づいて、次の開始点A2を自動的に登録することが行われているが、植付部14が植付作業を行う位置まで下降したタイミング又は位置を正確に特定することは容易ではない。また、フロートセンサ68の検出結果に基づいてこのタイミングを検出することも可能だが、フロート36は植付深さの設定又はフロート36に取り付けられた部材の影響等により揺動範囲が変わるため、このタイミングを正確に検出することは困難である。
【0050】
以上の点に鑑み、本実施形態では接地体37が圃場表面に接触したタイミングを次の開始点A2として登録する。具体的には、無線通信端末7(開始点登録部82)は、接地センサ69の検出結果が変化したタイミング(接地体37が圃場表面に接触して揺動が開始したタイミング)の田植機1の位置を開始点A2として登録する(S104、図8)。
【0051】
次に、無線通信端末7(終了点登録部83)は、次の終了点B2を推測する処理を行う。具体的には、終了点登録部83は、開始点A2を通り基準経路に平行な線L1と、開始点A1を通り平面視において基準経路に垂直な線L2と、の交点を終了点B2として登録する(S105、図8)。
【0052】
次に、無線通信端末7(直線経路作成部85)は、開始点A2と終了点B2とを結ぶ直線経路を作成し、田植機1に対して直線経路に沿って自律走行を行うように指示する(S106)。ここで作成される直線経路は、上記の線L1のうち、終了点B2までの部分の線分である。上述したように、走行制御部52は、この直線経路に沿って走行するように上記の操舵制御を行う。
【0053】
また、直線経路に沿って自律走行を行っている間、無線通信端末7(減速指示部86)は、図10に示す処理を行う。図10は、終了点までの距離に基づいて行う処理を示すフローチャートである。無線通信端末7は、田植機1から次の終了点(現在走行中の直線経路の終了点)までの距離を計測し、この距離が閾値以下であるか否かを判定する(S201)。減速指示部86は、この距離が閾値以下である場合、終了点が近いことをオペレータに報知するとともに、田植機1(走行制御部52)に減速を指示する。なお、無線通信端末7(終了点登録部83)は、終了点を推測した後に、当該終了点の位置を田植機1へ送信し、田植機1側で図10の制御を行ってもよい。報知としては、警告音を発生させたり、警告ランプを点灯させたり、タブレット等の表示部73への警告の表示等がある。また、減速には、田植機1の停止も含まれる。これにより、終了点を超えて田植機1が走行されることを防止できる。なお、上記の処理の前に、上記の閾値より大きい値の補助閾値を設定し、終了点までの距離が補助閾値以下となったタイミングで、オペレータに旋回を促すこともできる。
【0054】
次に、オペレータは、終了点B2の近傍で、植付部14を上昇させるとともに再び旋回を行って田植機1の向きを反転させる。そして、旋回後にオペレータは、再び植付部14を下降させる。ステップS104と同様に、無線通信端末7(開始点登録部82)は、接地体37が圃場表面に接触したタイミングを次の開始点A3として登録する(S107、図9)。
【0055】
次に、終了点登録部83は、ステップS105と同様に、開始点A3を通り基準経路に平行な線L3と、開始点A2を通り基準経路に垂直な線L4と、の交点を終了点B3として登録する(S108、図9)。そして、直線経路作成部85は、開始点A3と終了点B3とを結ぶ直線経路を作成し、田植機1に対して直線経路に沿って自律走行を行うように指示する(S109)。なお、各直線経路の間隔はオペレータが行った旋回に依存するため、間隔にバラツキが生じるが間隔を均等にするような自律走行が困難場合もあるため、本実施形態では間隔の調整は行わない。
【0056】
このように、接地センサ69の検出結果による開始点Anの登録、開始点Anと開始点An-1に基づいた終了点Bnの推測、開始点Anと終了点Bnを接続した直線経路の作成及び自律走行が繰り返し行われる。また、終了点は、接地センサ69の検出結果に基づく正確な開始点に基づいて推測される。そのため、この的確な位置を示す終了点に基づいて、オペレータに旋回を促したり、田植機1を減速させたりすることができる。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態の自律走行システム100は、基準経路作成部84と、位置取得部64と、走行制御部52と、昇降シリンダ32と、フロートセンサ68と、接地センサ69と、昇降制御部53と、開始点登録部82と、終了点登録部83と、を備える。基準経路作成部84は、基準経路を作成する。位置取得部64は、植付部14を備えた田植機1の位置を取得する。走行制御部52は、位置取得部64が取得した田植機1の位置を用いて、基準経路に平行であって開始点と終了点を結ぶ経路である直線経路に沿って少なくとも操舵を自律的に行って田植機1を走行させる。昇降シリンダ32は、植付部14を下降させて植付作業を行う下降状態と、植付部14を上昇させて植付作業を行わない上昇状態と、の間で当該植付部14の高さを変更させる。フロートセンサ68は、植付部14に取り付けられたフロート36の位置を下降状態において検出する。接地センサ69は、植付部14に取り付けられた接地体37の高さを下降状態において検出する。昇降制御部53は、接地センサ69の検出結果に基づいてフロート36の沈下量を算出してフロートセンサ68の検出結果を補正し、補正後のフロートセンサ68の検出結果に基づいて、昇降シリンダ32を制御する。開始点登録部82は、田植機1の旋回後に植付部14が下降した後に接地体37が圃場表面に接触した時の位置を開始点として登録する。終了点登録部は、開始点を基準経路に平行に延長した線(線L1、線L3)と、一本前の直線経路の開始点を基準経路に垂直に延長した線(線L2、線L4)と、の交点を終了点として登録する。
【0058】
これにより、フロート36ではなく接地センサ69の検出結果を用いることで、植付部14が下降した位置を正確に検出できる。そのため、開始点及び終了点を自動的かつ正確に登録することができる。また、昇降制御部53の制御で用いるセンサ(接地センサ69)を用いて開始点及び終了点を登録するため、別途センサを設ける構成と比較して、部品点数及びコストを低減できる。
【0059】
また、本実施形態の自律走行システム100は、田植機1から終了点までの距離が閾値以下であるか当該終了点を超えたと判定した場合に、当該終了点が近い又は当該終了点を超えた旨の報知、及び、田植機1の減速の少なくとも何れかの処理を行う。
【0060】
これにより、正確な位置に登録された終了点に基づいて、終了点が近い(又は超えた)旨の報知を行ったり、田植機1の減速を行ったりすることができる。
【0061】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0062】
上記実施形態では、接地体37はフロート36の車幅方向両側に合計2つ配置されるが、1つであってもよいし3つ以上であってもよい。また、接地体37がフロート36と前後方向に並ぶように配置されていてもよい。
【0063】
上記実施形態では、直線経路を走行する場合、走行制御部52は操舵のみを制御するが、車速制御が更に行われる構成であってもよい。
【0064】
上記実施形態では田植機1と無線通信端末7とが無線通信を行うが、有線通信を行う構成であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 田植機 7 無線通信端末 32 昇降シリンダ(昇降装置) 52 走行制御部 64 位置取得部 82 開始点登録部 83 終了点登録部 84 基準経路作成部 85 直線経路作成部 86 減速指示部 100 自律走行システム
図1
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図10