(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】460Mpa以上の降伏強度を有する熱間圧延される高靭性及び低温耐性のH字型鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220704BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20220704BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20220704BHJP
B21B 1/088 20060101ALI20220704BHJP
B21B 45/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/50
C21D8/00 B
B21B1/088 Z
B21B45/00 D
(21)【出願番号】P 2021514462
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 CN2018121100
(87)【国際公開番号】W WO2019218657
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】201810467000.0
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520449079
【氏名又は名称】山東鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG IRON AND STEEL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヂォンシュエ
(72)【発明者】
【氏名】ヂァォ,ペェィリィン
(72)【発明者】
【氏名】ハァン,ウェンシィー
(72)【発明者】
【氏名】リィー,チァォ
(72)【発明者】
【氏名】グゥオ,ウェイダァー
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ヂィンリィン
(72)【発明者】
【氏名】グゥオ,シウフゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ユーリィー
(72)【発明者】
【氏名】イァン,ドォン
(72)【発明者】
【氏名】ヂァォ,チゥァンドォン
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/142060(WO,A1)
【文献】特開2015-218360(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103667910(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103243272(CN,A)
【文献】特開2011-236496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00
B21B 1/088
B21B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
460Mpa
以上の
降伏強度を有する熱間圧延される高靭性及び低温耐性のH字型鋼であって、
その化学組成は、重量パーセントで、C:0.03%~0.07%、Si≦0.3%、Mn:1.20%~1.40%、Nb:0.015%~0.030%、V:0.10%~0.15%、Ti:0.015%~0.025%、Ni:0.25%~0.45%、Cr:0.30%~0.50%、A1s:0.010%~0.06% 、N:0.010%~0.023%、P≦0.015%、S≦0.010%、O≦0.004%であり、残りはFeと不可避的な不純物であ
り、
引張強度≧600MPa、伸び率≧18%、及び-40℃での縦方向衝撃エネルギー≧100Jを有する、
ことを特徴とするH字型鋼。
【請求項2】
前記V、Ti及びNbの元素は、0.10%≦V + Ti + Nb≦0.20%であることを満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載されたH字型鋼。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のH字型鋼を製造する方法であって、
溶融鉄の前処理、転炉精錬、精製、連続鋳造、圧延、冷却及び矯正の工程を順に行い、
前記圧延の工程において、加熱炉の平均温度は1230~1280℃であり、鋳造時間は120~200minであり、圧延の開始温度は1150~1180℃であり、
鋼材に対して精密圧延のスタンド間の水冷
を行い、終了の圧延温度は750~860℃である、
ことを特徴とするH字型鋼を製造する方法。
【請求項4】
連続鋳造タンディッシュにおける溶融鉄の過熱度が25℃以下である、
ことを特徴とする請求項
3に記載されたH字型鋼を製造する方法。
【請求項5】
前記精密圧延された鋼材は、精密圧延機から排出された後、断熱カバー付きのローラーテーブルに入って保温し、その後、冷却床に入って徐冷する、
ことを特徴とする請求項
3に記載されたH字型鋼を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金技術分野に属し、具体的には、460MPaグレードの収量強度を有する熱間圧延される高靭性、低温耐性のH字型鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年5月16日に出願した中国特許出願第201810467000.0号に基づく優先権を主張し、この中国特許出願の全ての内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
エネルギー採掘が極寒などの特別な区域へと発展するにつれ、総合性能がより高い熱間圧延H字型鋼は、現在の低グレードH字型鋼に取って代わって、重量を軽減すると共に、高い信頼性を確保することが必要である。また、極寒などの特別な地域の利用環境に適応するために、鋼材の低温衝撃靭性、溶接性能、耐層状裂け目性能などに対してより高い要求があり、より高い強度グレードの熱間圧延H字型鋼の需要が次第に増加している。
【0004】
現在、中国の熱間圧延H字型鋼の生産企業は、降伏強度が345MPa以上の異なるグレードのH字型鋼を開発し、微細合金の再構成と熱間圧延方法とを組み合わせて生産している。異なる企業は、設備グレードに応じて異なるグレードと異なる総合性能の製品を製造する。
【0005】
出願番号CN201310200230.8の中国特許出願において、降伏強度が450MPaグレードのバナジウムを含む耐候性熱間圧延H字型鋼の圧延技術を開示しており、そのバナジウムを含む耐候性熱間圧延H字型鋼の成分比率(wt%)は、C:0.09~0.11、Si:0.45~0.52、Mn:1.25~1.20、P:0.015~0.022、S:0.0017~0.014、Cu:0.27~0.33、Cr:0.35~0.42、Ni:0.073~0.073、A1:0.010,025、及びその他の残留鉄と微量不純物である。そのバナジウムを含む耐候熱間圧延H字型鋼は、圧延後に二段式の急速冷却処理を用いて収量強度450MPaの目標を実現し、圧延後の冷却設備に対しては特別な要求がある。
【0006】
また、出願番号CN201510044714.7の中国特許出願は、熱間圧延された低温耐性のH字型鋼及びその製造方法に関し、前述の熱間圧延されたH字型鋼の化学成分(wt%)は、C:0.07~0.10%、Si:0.2~0.4%、Mn:1.30~1.60%、P≦0.020%、S≦0.015%、V:0.015~0.070%、Ti:0.010~0.030%、残量はFeと不可避的な不純物である。生産方法は、転炉製錬、LF精錬、連続鋳造、圧延などを含む。本発明により製造されたH字型鋼の構造は、多角形フェライト及びパーライトであり、収量強度は350~450MPaである。本出願において、圧延の工程は通常の方法を採用しており、化学組成の設計により、その圧延後の収量強度が450MPaに近づくようになる。
【0007】
上記の2つの種類の高強度のHビーム鋼とその製造技術は、マイクロアロイと異なる冷却方法を採用しており、一定の低温衝撃靭性を確保しながら比較的に高い強度を有する。冷却設備に対する要求が高い一方で、圧延には通常の装置が使用されており、強度を更に向上させることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、極寒などの特別な環境における海洋工事のための高強度及び高靭性鋼のニーズを満たすために、460MPaグレードの収量強度を有する熱間圧延される高靭性及び低温耐性のH字型鋼を提供することを目的とする。このH字型鋼は、極低温条件(海洋工事)での強度と靭性の要求が高い支持構造の製造と使用に適する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の技術案は以下の通りである。
【0010】
本発明の460MPaグレードの収量強度を有する高靭性及び低温耐性を有するH字型鋼は、重量パーセントで以下の化学組成を有する。その化学組成は、C:0.03%~0.07%、Si≦0.3%、Mn:1.20%~1.40%、Nb:0.015%~0.030%、V:0.10%~0.15%、Ti:0.015%~0.025%、Ni:0.25%~0.45%、Cr:0.30%~0.50%、A1s:0.010%~0.06% 、N:0.010%~0.023%、P≦0.015%、S≦0.010%、O≦0.004%、残りはFeと不可避的な不純物である。好ましくは、本発明におけるV、Ti及びNbの元素は、0.10%≦V + Ti + Nb≦0.20%を満たす。この式の要件を満たすことによって製造されたH字型鋼は、沈殿強化及びマイクロアロイの要件を更に良く満たすことができ、鋼の強度を向上させることができる。
【0011】
本発明において、窒素は、特にチタン及びバナジウムでマイクロアロイドされた鋼において、マイクロアロイド炭窒化物の沈殿において重要な役割を果たす。窒素を含む鋼は、製鉄の工程での窒素の脱気と精製によるコストの増加をなくすだけでなく、鋼における窒素の増加がマイクロアロイエレメントの役割を十分に果たし、マイクロアロイエレメントの量を節約し、製造コストを更に削減する。
【0012】
バナジウムの炭窒化物は、低炭素鋼のフェライト中に沈殿し、鋼構造を微細化することができる。窒化バナジウムは、炭化バナジウムよりもフェライトへの固溶性が低いため、バナジウムマイクロアロイド鋼における窒素の含む量を増加させることによって、フェライトへのバナジウム窒化物の沈殿が容易となり、バナジウムマイクロ合金鋼の沈殿強化と結晶粒細分化強化の効果を高めることができる。
【0013】
バナジウムを含むマイクロアロイド鋼における窒素の含む量を増やすことは、VNの沈殿に有利であり、VNとフェライトとの不整合度が最小であるため、フェライトの優先的な核形成サイトとなり、フェライトの相転移を促進し、相転移の開始温度とフルべイナイト構造を形成する臨界冷却速度を高めることができる。
【0014】
また、本発明は、上記460MPaグレードの収量強度を有する高靭性、低温耐性H字型鋼を製造する方法を提供し、溶融鉄の前処理、転炉精錬、精製、連続鋳造、圧延、冷却及び矯正の工程を順次に行うことを含む。なお、本発明に記載されていない工程は、全て既存のテクノロジーを採用することができる。
【0015】
その中で、圧延の工程において、加熱炉の平均温度は1230~1280℃であり、鋳造時間は120~200minであり、圧延開始温度は1150~1180℃であり、精密圧延のスタンド間の水冷が全てオンとなり、最終の圧延温度は750~860℃である。
【0016】
さらに、本発明に係る製造方法によれば、鋳造スラブの品質を確保するために、連続鋳造タンディッシュにおける溶融鋼の過熱度は、25℃以下であることが好ましい。溶融鋼がより良い脱酸効果を達成し、鋼の清浄度を高め、鋼における不純物が性能への損傷を減らすことを確実にするために、鋼における特定の酸可溶性アルミニウムの含む量を確保する必要がある。
【0017】
精密圧延後の鋼材は、精密圧延機から排出された後、断熱カバー付きのローラーテーブルに入って保温し、その後、冷却床に入って徐冷する。
【0018】
本発明の実施形態によれば、本発明の460MPaグレードの収量強度を有する高靭性及び低温耐性のH字型鋼の製造方法は、具体的には、溶融鋼の前処理、転炉精錬、精製、完全保護する連続鋳造、スラブ保温ピットでの徐冷、パスローリング及びオフラインの徐冷の各工程を含む。
【0019】
コスト、製造工程及び品質を総合的に考慮する場合、本発明は、低炭素マイクロアロイプロセスを採用し、低い炭素の含む量で他の低い含む量のアロイエレメントと組み合わせて、窒素を価値のあるアロイエレメントとして可能な限り鋼内に保持され、鋼材グレードの組成と分配比を合理的に最適化することにより、断面鋼の圧延及び圧延後の冷却の圧延の工程と一致する。微細結晶の強化、沈殿の強化、相転移の強化メカニズムを利用して、少量のパールライトを含む適量のべイナイト+フェライトを主とする高靭性H字型鋼が製造され、その中で、構造の表層は単相下部べイナイト又はフェライト+単相下部べイナイトであり、内部はフェライト+パールライトの微細で複相構造である。べイナイトは、鋼の強度、可塑性及び靭性を高めるだけでなく、鋼の変形やひび割れを減らし、鋼の性能と表面品質を大幅に向上させる。
【0020】
上記H字型鋼は、強度が高く、鋼種の性能が良く、成材率が高く、工程管理の難易度が低いため、低温域や海洋工事で使用する大型・中型の高強度H字型鋼製品の工業化された大量生産に貢献する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の技術的な態様の利点は、以下の通りである。
【0022】
1.通常の圧延機の圧延を正常化するのに適した低炭素及び複合マイクロアロイ組成物の設計アイデアに適すると共に、圧延の工程での高温圧延力を下げる。さらに、窒素を含む複合マイクロアロイ組成物の設計を採用し、通常の熱間圧延H字型鋼圧延機で460MPa以上の強度を実現し、より高い強度と靭性を得る。
2.高い窒素含有量によるスラブ亀裂欠陥を避けるために、連続鋳造スラブが生産ラインから外れた後、緩めに冷却するために保持ピットに入り、表面品質と内部欠陥を確保する。
3.H字型鋼製品の構造は、少量のパーライト構造を含め、主に適量のべイナイト+フェライトを主としている。
4.本発明のH字型鋼製品は、機械的特性が良好であり、収量強度≧460MPaであり、引張強度≧600MPaであり、伸び率≧18%であり、及び40℃での縦方向衝撃エネルギー≧100Jであり、非常に低い温度条件の地域での使用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例2により製造された460MPaグレードの収量強度を有する高靭性、低温耐性H字型鋼の金属相組織図(×200)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面及び具体的な実施例を参照しながら本発明を詳しく説明する。
【0025】
以下にその具体例を挙げて本発明を説明するが、実施例は、本発明の保護範囲を制限することなく、本発明を更に詳細に説明することのみを目的としたものであり、当業者が本発明に基づいて行う変更や調整は、本発明の保護範囲に属するものである。
【0026】
以下の例における連続鋳造スラブは、全て、次のプロセスフローに従って準備される。設定された化学成分範囲(表1)に基づき、高炉鉄水を原料とし、転炉製錬、精錬により、C、Si、Mn、S、P等の含む量を調整し、マイクロアロイ化を行い、成分が目標値に達した後、連続鋳造が行われ、スラブは直接加熱又は均熱する。実施例1~4の製造手順は次のとおりである。
【0027】
この鋼は、溶融鉄の前処理、転炉精錬、レードルアルゴンブロー、精製、連続鋳造、プロファイル鋼線圧延、冷却床徐冷を順に行った。その中で、プロファイル鋼線圧延は、粗圧延と精密圧延の二つの圧延を含む。本発明に記載されていない工程は、いずれも従来の技術を用いることができる。熱間圧延の工程は主に温度制御に基づいており、最終的な圧延温度はフランジの外側で検出され、圧延された材料は圧延後に冷却床で自然に冷却される。実施例1~4の化学成分及び具体的な工程を次の表1に示す。
【0028】
【0029】
実施例1~4の熱間圧延技術の条件を表2に示す。実行するのは、標準BS EN ISO 377-1997「力学性能試験試料のサンプリング位置と製造」であり、降伏強度、引張強度、延伸率の試験方法は標準ISO 60092-1-2009「金属材料の室温引張試験法」を参照し、衝撃試験方法は標準ISO 147-1「金属材料のシャルピー振り子衝撃試験」を参照し、結果は表3に示される。
【0030】
【0031】
【0032】
上記の表から分かるように、本発明の実施例1~4は460MPaグレードの収量強度を維持し、良好な延伸性能を有し、その-40℃で高い衝撃エネルギーを有する。海洋工事部材の極めて低い環境下での使用条件を満足させることができ、海洋石油プラットホーム、海洋遠洋輸送船舶などの比較的高い低温靭性の要求を有する支持構造部品の製作に適用することができる。
【0033】
図1に示すように,本出願の構造は、粒状のべイナイト+フェライト構造であることが分かる。このタイプの構造に分散したべイナイトは鋼の強度を向上させ、微細なフェライトは、靭性と可塑性の向上に大いに役立つことができる。そのため、460MPaグレード強度のH字型鋼では、強度を満たしながら、靭性、特に低温靭性が向上する。
【0034】
もちろん、本発明は様々な実施形態を有することができる。本発明の主旨及びその本質から逸脱することなく、当業者が本発明の開示に基づいて種々な対応する変更及び変形を行うことができるが、これらの変更及び変形は本発明の特許請求の範囲の保護範囲に属するべきである。