(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】スーパー二相ステンレスクラッド鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220704BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20220704BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220704BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220704BHJP
B23K 20/04 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/00 301A
C22C38/44
C22C38/58
C21D8/02 Z
B23K20/04 C
B23K20/04 H
(21)【出願番号】P 2021524415
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 CN2019118517
(87)【国際公開番号】W WO2020108317
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】201811444072.X
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512171021
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BAOSHAN IRON & STEEL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.885,Fujin Road,Baoshan District Shanghai,201900,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】リィァン,シァォヂィン
(72)【発明者】
【氏名】ヂィアォ,スゥハァィ
(72)【発明者】
【氏名】ディン,ヂィェンフゥア
(72)【発明者】
【氏名】ユァン,シィァンチィェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヂィーユー
(72)【発明者】
【氏名】ハァォ,インミィン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-114466(JP,A)
【文献】特開平4-263016(JP,A)
【文献】特開平4-75791(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105772507(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108246825(CN,A)
【文献】米国特許第4736884(US,A)
【文献】特開2010-194562(JP,A)
【文献】特開平6-116684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/02
B23K 20/04
B21B 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スーパー二相ステンレスクラッド鋼板において、一層が二相ステンレスであり、もう一層が炭素鋼である2層構造であり、
前記二相ステンレスの成分の重量百分率は、C≦0.03%、Mn≦1.20%、Si≦0.80%、Cr:24.0~26.0%、Ni:6.0~8.0%、Mo:3.0~5.0%、N:0.24~0.32%、P≦0.03%、S≦0.02%、残部がFe及び不可避的不純物であり、
前記炭素鋼の成分の重量百分率は、C:0.03~0.12%、Si:0.10~0.45%、Mn:0.70~1.60%、P:0~0.020%、S:0~0.025%、Cu:0~0.35%、Cr:0~0.40%、Ni:0~0.40%、Nb:0~0.05%、Mo:0~0.40%、Ti:0~0.018%、Al:0.015~0.045%、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とするスーパー二相ステンレスクラッド鋼板。
【請求項2】
前記クラッド鋼板の前記二相ステンレスと前記炭素鋼との間の界面のせん断強さが290MPa以上に達し、降伏強度が300~650MPaであり、引張強度が400~900MPaであることを特徴とする請求項1に記載のスーパー二相ステンレスクラッド鋼板。
【請求項3】
前記クラッド鋼板中の前記炭素鋼の降伏強度が235~550MPaであり、前記二相ステンレスの降伏強度が550MPa以上であり、引張強度が795MPaよりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載のスーパー二相ステンレスクラッド鋼板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のスーパー二相ステンレスクラッド鋼板の製造方法において、
1)クラッド鋼板の被覆層とベース層との厚さ比率の要求に基づいて組立スラブ素材の二相ステンレスと炭素鋼との厚さの選択を行い、炭素鋼には連鋳スラブが用いられ、要求される寸法まで加熱分塊され、前記二相ステンレスと複合する必要のある炭素鋼の表面を、金属表面が完全に露出するまでクリーニングし、前記二相ステンレス表面の酸化皮膜と汚染物をクリーニングするステップと、
2)クリーニングした後の炭素鋼面とクリーニングした後の二相ステンレス面を直接重ね合わせ、その後、真空封止溶接を行い、真空度を0.001Pa以下に制御し、第一の真空制御として、上下2つの独立した炭素鋼と二相ステンレスで形成された真空スラブを形成し、第一の真空障壁を形成し、その後、二相ステンレス面と二相ステンレス面とを対向に積んで、厚さ方向で対称に積み、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に分離するための分離剤を塗り、重ね合わせた後、四周を封止溶接してから、真空引き処理を行い、真空度を0.01Pa以下に制御し、第二の真空障壁を形成して、四層構造のクラッドスラブを形成するステップと、
3)クラッドスラブを加熱し、加熱温度を1100~1250℃に制御するステップと、
4)クラッドスラブを、圧延開始温度が1070~1220℃、圧延終了温度が900~1020℃で圧延するステップと、
5)圧延後に圧縮空気又は水冷方式で重ね合わせたクラッド鋼板を直接冷却し、冷却開始温度を880~1000℃、冷却速度を2℃/s~40℃/s、冷却終了温度を250~680℃に制御するステップと、
6)プラズマを用いて圧延後の重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とエッジ部とを切断し、重ね合わせたクラッド鋼板を上下対称の2セットの完成品のクラッド鋼板に分離させるステップと、
を含むことを特徴とするスーパー二相ステンレスクラッド鋼板の製造方法。
【請求項5】
焼戻し熱処理を用い、焼戻し温度が500~600℃で、焼戻した後、空冷処理を行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のスーパー二相ステンレスクラッド鋼板の製造方法。
【請求項6】
ステップ4)では、1パス当たりの圧下率を10~25%に制御することを特徴とする請求項4に記載のスーパー二相ステンレスクラッド鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食クラッド鋼板生産技術分野に関し、特に、スーパー二相ステンレスクラッド鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の腐食による損失は巨大であり、各分野に係わっている。特に、社会の発展と進歩につれて、工業分野や民用分野に係る化学物質の品種がますます多くなり、用途がますます広くなり、冶金、化学工業、建築、医療、食品等の各分野に係わっている。したがって、これらの原料の貯蔵、輸送、使用のいずれにも各種の腐食防止処置を取る必要がある。
【0003】
スーパー二相ステンレスは、クロム、モリブデンの含有量が高く、その耐孔食指数が高いため、りん酸、硫酸、硝酸等の酸洗条件での生産と貯蔵、及び塩素イオン、フッ素イオン等の腐食性媒体を含む場合での使用に適し、しかも、その高い降伏強度、高い引張強度の特性によって、特に耐食性が要求されるだけでなく、耐摩耗性も要求される条件での使用にも適する。
【0004】
しかしながら、該スーパー二相ステンレスは生産の難易度が高く、コストが高いため、使用及び普及が大きく制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な構造強度と耐食性能を得ることができるスーパー二相ステンレスクラッド鋼板及びその生産方法を提供することにある。該クラッド鋼板は圧延クラッド鋼板であり、被覆層とベース層材料との冶金結合が実現可能であることによって、良好の結合力を得る。該クラッド鋼板は腐食性に対する要求が厳しい海水等の塩素イオン濃度が比較的高い環境での使用に適用する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の技術案は次の通りである。
スーパー二相ステンレスクラッド鋼板において、一層が二相ステンレスであり、もう一層が炭素鋼である2層構造であり、
前記二相ステンレスの成分の重量百分率は、C≦0.03%、Mn≦1.20%、Si≦0.80%、Cr:24.0~26.0%、Ni:6.0~8.0%、Mo:3.0~5.0%、N:0.24~0.32%、P≦0.03%、S≦0.02%、残部がFe及び不可避的不純物であり、
前記炭素鋼の成分の重量百分率は、C:0.03~0.12%、Si:0.10~0.45%、Mn:0.70~1.60%、P:0~0.020%、S:0~0.025%、Cu:0~0.35%、Cr:0~0.40%、Ni:0~0.40%、Nb:0~0.05%、Mo:0~0.40%、Ti:0~0.018%、Al:0.015~0.045%、残部がFe及び不可避的不純物である。
【0007】
本発明の前記クラッド鋼板の二相ステンレスと炭素鋼との間の界面のせん断強さが290MPa以上に達し、降伏強度が300~650MPaであり、引張強度が400~900MPaである。
【0008】
本発明の前記クラッド鋼板中の炭素鋼の降伏強度が235~550MPaであり、二相ステンレスの降伏強度が550MPa以上であり、引張強度が795MPaよりも高い。
【0009】
本発明の前記スーパー二相ステンレスクラッド鋼板の成分設計において、
C:Cはオーステナイト安定化元素であり、鋼において固溶強化の役割を果たし、鋼の強度を著しく向上させることができるが、C含有量が高すぎると、溶接性能及び靭性に不利であり、本発明では、冷却を制御する方式でベース層材料の性能と被覆層材料の性能のバランスが取れている。前記炭素鋼層中のC含有量を0.03~0.12%に制御した。
【0010】
Si:Siは脱酸元素であり、また、Siはフェライトに溶けることができ、固溶強化の役割を果たし、それは炭素、窒素、リンのみに次いで、その他の合金元素を超えており、したがって、Siは鋼の強度と硬度を著しく向上することができる。前記炭素鋼層におけるSi含有量を0.10~0.45%に制御した。
【0011】
Mn:Mnはパーライトの転換を遅らせ、臨界冷却速度を低減し、鋼の焼入れ性を高めることができるとともに、鋼に対して固溶強化の作用を有し、鋼での主な固溶強化の元素である。しかし、Mn含有量が高すぎると、偏析帯及びマルテンサイト組織が現れ易く、鋼の靭性に悪影響を与える。前記炭素鋼層におけるMn含有量を0.70~1.60%に制御した。
【0012】
Nb:Nbはマイクロアロイ鋼で重要な添加元素である。Nbと窒素、炭素が窒化ニオブ、炭窒化ニオブ及び炭化ニオブ等の析出物を形成し易い。鋼スラブを加熱する過程の中で、Nbは鋼でオーステナイト結晶粒子を微細化する役割を果たすことができる。Nbは非再結晶領域の温度を大幅に高めることができ、圧延の制御、結晶粒子の微細化、及び強度靭性の制御にとって明らかな作用を有する。また、Nbはナノオーダーの析出物を形成することができ、強度の向上に役立つ。しかし、Nbの添加は混晶を引き起こし易くなり、Nbが多すぎると、靭性に悪影響を与える。したがって、本発明ではNbの添加量を0~0.05%に制御した。
【0013】
Ti:Tiと鋼でのC、Nが炭化チタン、窒化チタン又は炭窒化チタンを形成し、鋼スラブを加熱圧延する段階で、オーステナイト結晶粒子を微細化する役割を果たすことによって、鋼の強度と靭性を高める。しかし、Tiが多すぎると、太い窒化チタンを多く形成することになり、鋼の強度と靭性に悪影響を与える。したがって、炭素鋼層におけるTi含有量の上限を0.018%に制御した。
【0014】
Ni:Niは鋼において基体相のフェライトとオーステナイトのみに溶け、炭化物を形成せず、オーステナイトの安定化作用が非常に強い。また、Ni元素は鋼の低温靭性を高めることもできるので、本発明では、炭素鋼層におけるNiの添加量を0.40%内に制御した。
【0015】
Cu:Cuは鋼で主に固溶状態及び単体相沈殿析出の状態で存在し、固溶したCuは固溶強化の役割を果たす。Cuのフェライトにおける固溶度は温度の低下につれて急速に小さくなるため、比較的低い温度で、過飽和固溶したCuが単体の形式で沈殿析出されて、析出強化の役割を果たす。また、炭素鋼層中に少量のCuを加えると、クラッド鋼板の耐大気腐食の能力をさらに著しく高めることができる。したがって、実際の使用環境に応じてCu元素を適切に添加することを考慮できる。
【0016】
Cr:Crはオーステナイト相領域を縮小する元素であり、中等強炭化物元素でもあり、フェライトに溶けることもできる。Crはオーステナイトの安定性を高めることができ、C曲線を右方にシフトさせることになる。したがって、臨界冷却速度を下げ、鋼の焼入れ性を高めることができる。Crはオーステナイトの転換温度も下げ、形成された(Fe,Cr)3Cや(Fe,Cr)7C3、(Fe,Cr)23C7などの多種の炭化物が比較的低い温度で析出されることになり、組織と炭化物を微細化させ、鋼の強度と硬度を著しく高めることができるが、Crは鋼の靭性に悪影響を与える。上記の要素をまとめて、本発明では、炭素鋼層におけるCr含有量を0.40%内に制御した。
【0017】
Mo:Moはオーステナイト相領域を縮小する元素である。鋼の焼入れ性と熱間強度を高めることができる。C元素と炭化物を形成可能である元素である。良い焼戻しの安定性を有する。Moはフェライトに固溶強化の作用を有するとともに、炭化物の安定性を高めることもできるので、鋼の強度を高めることができる。Moは良好の耐食性能をさらに有する。ステンレスにおいて、Mo元素の増加はステンレスの耐塩素イオン孔食能力を明らかに高めることができる。
【0018】
Al:Al元素は脱酸元素である。溶鋼中の酸素含有量を下げることができる。しかも、Alは鋼での窒素と結合した後、オーステナイト結晶粒子が成長することを阻止する役割を果たすことができる。
【0019】
クラッド鋼板を圧延する方法は、材料の設計により、ベース層の炭素鋼をメインとして構造の強度と靭性を保証し、異なる強度と靭性のニーズを実現することができる。ステンレス被覆層は主に材料の耐食性と耐摩耗性能を実現する。したがって、クラッド鋼板は層状分布される方式で長所を伸ばし短所を避けることができ、2種の材料の優位性をよりよく実現することができる。また、該二相ステンレスはクロム、モリブデン、窒素の含有量が高いため、650~1000℃間の付近にσ相等の金属間化合物を形成し易く、特に、温度900℃の付近で、クロムモリブデンの含有量が高いため、σ相の形成速度がとても速いことによって、材料の靭性の低下、耐食性能の低下を引き起こしてしまう。圧延工程において、温度の制御が均一でないため、エッジ部、表面の温度が比較的低く、エッジ割れが発生し易くなる。圧延複合プロセスにより、該スーパー二相ステンレスを被覆層材料として使用し、クラッドスラブの組立プロセスの設計により、被覆層材料の温度の均一性を保証でき、σ相の形成を避けることができる。
【0020】
クラッドスラブは四層構造を用いて構成され、最上面と最下面の2層がベース層の炭素鋼材料、中間の2層がスーパー二相ステンレスであり、二相ステンレスの間に分離剤を用いて仕切るように構成される。その中、上層の炭素鋼が汚染物及び表面酸化物を除去した後の二相ステンレス表面に直接接触し、真空スラブを構成する。同様に、下層の炭素鋼と二相ステンレスで1セットの真空スラブも構成する。2セットの真空スラブを対称に重ね合わせて、2セットの真空スラブの二相ステンレス素材の間に分離剤を充填し、それから、2セットの真空スラブを1セットの圧延対象となる真空スラブ素材に作り上げる。該技術案の利点は、四層で組立てたスラブが2つの相対的に独立した複合系であり、2つの真空組立スラブがさらに1つの真空系を構成し、こうして、真空系には2つの保護障壁も存在しており、たとえ1つの複合系には真空度の低下が偶然に発生した場合でも、もう1つの複合系が依然としてクラッド鋼板の結合に必要な高真空度を保証できることによって、クラッドを圧延する過程の中で発生する可能性のある真空破壊のリスクを効果的に低減する。単一の真空系による方法は、溶接の継ぎ目の失効や真空破壊が発生した場合に、クラッド圧延が失効し易い。単一の真空系による方法に比べて、本発明の方法を用いることにより、溶接の継ぎ目の失効や真空破壊が発生した場合に、圧延の成功率を0%から75%に引き上げることができる。圧延工程において、二相ステンレス表面と二相ステンレス表面に添加された分離剤は仕切る役割を果たし、圧延完了後、切断して単独の2層構造の完成品のクラッド鋼板に分離する。
【0021】
本発明の前記スーパー二相ステンレスクラッド鋼板の製造方法は、
1)クラッド鋼板の被覆層とベース層との厚さ比率の要求に基づいて組立スラブ素材の二相ステンレスと炭素鋼との厚さの選択を行い、炭素鋼には連鋳スラブが用いられ、要求される寸法まで加熱分塊され、二相ステンレスと複合する必要のある炭素鋼の表面を金属表面が完全に露出するまでクリーニングし、二相ステンレス表面の酸化皮膜と汚染物をクリーニングするステップと、
2)クリーニングした後の炭素鋼面とクリーニングした後の二相ステンレス面を直接重ね合わせて、その後、真空封止溶接を行い、真空度を0.001Pa以下に制御し、第一の真空制御として、上下2つの独立した炭素鋼と二相ステンレスで形成された真空スラブを形成し、第一の真空障壁を形成し、その後、二相ステンレス面と二相ステンレス面を対向に積んで、厚さ方向で対称に積み、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に分離するための分離剤を塗り、重ね合わせた後、四周を封止溶接した後、真空引き処理を行い、真空度を0.01Pa以下に制御し、第二の真空障壁を形成して、四層構造のクラッドスラブを形成するステップと、
3)クラッドスラブを加熱し、加熱温度を1100~1250℃に制御するステップと、
4)クラッドスラブを、圧延開始温度が1070~1220℃、圧延終了温度が900~1020℃で圧延するステップと、
5)圧延後に圧縮空気又は水冷方式で重ね合わせたクラッド鋼板を直接冷却し、冷却開始温度を880~1000℃、冷却速度を2℃/s~40℃/s、冷却終了温度を250~680℃に制御するステップと、
6)プラズマを用いて圧延後の重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とエッジ部とを切断し、重ね合わせたクラッド鋼板を上下対称の2セットの完成品のクラッド鋼板に分離させるステップと、を含む。
【0022】
さらに、製造方法は、焼戻し熱処理を用い、焼戻し温度が500~600℃で、焼戻した後、空冷処理を行うステップをさらに含む。
好ましくは、ステップ4)では、1パス当たりの圧下率を10~25%に制御する。
【0023】
本発明のクラッド鋼板の製造方法において、クラッド鋼板の生産方法は、次の通りである。
クラッド鋼板の被覆層とベース層との厚さ比率の要求に基づいて組立スラブ素材の二相ステンレスと炭素鋼との厚さの選択を行い、炭素鋼には連鋳スラブが用いられ、要求される寸法まで加熱分塊され、二相ステンレスと複合する必要のある炭素鋼の表面を金属表面が完全に露出するまでクリーニングし、二相ステンレス表面の酸化皮膜と汚染物をクリーニングする。金属表面が完全に露出するまでクリーニングした後の炭素鋼面と二相ステンレス面を直接重ね合わせ、その後、真空封止溶接を行い、真空度を0.001Pa以下に制御し、第一の真空制御とする。上下2つの炭素鋼と二相ステンレスからなる真空スラブを形成し、その後、二相ステンレス面と二相ステンレス面を対向に積んで、厚さ方向で対称に積み、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に分離剤を用いて分離させ、重ね合わせた後、四周を封止溶接した後、真空引き処理を行い、真空度を0.01Pa以下に制御する。
【0024】
真空クラッドスラブの加熱温度を1100℃~1250℃に制御する。本発明では、加熱温度を選択する際に、二相ステンレスと炭素鋼スラブの物理特性を総合的に考慮した。該加熱温度の範囲は、炭素鋼が生産後に良好な力学性能を有することを保証した一方、二相ステンレスに存在し得る炭化物、金属中間相が高温かつ十分な時間で再溶融再拡散することを保証したとともに、高温での相転換により、二相ステンレスの高温段階の相の割合を40~60%の範囲内に制御できることをさらに保証した。
【0025】
クラッドスラブの圧延は、圧延開始温度を1070~1220℃、圧延終了温度を900~1020℃とする。圧延工程において、材料の塑性変形を保証するように、クラッド材料界面の金属原子が十分な圧縮応力を受け、原子が拡散によって相互浸透を形成することで、界面に原子間の結合及び十分な変形を達成させることができ、界面に数回再結晶させる。好ましくは、1パス当たりの圧下率を10~25%に制御することで、再結晶又は相変を行うための十分な変形貯蔵エネルギーを提供する。
【0026】
圧延後、圧縮空気又は水冷方式でクラッドスラブに対して直接冷却を行う。冷却開始温度を880℃~1000℃に制御する。冷却速度は2℃/s~40℃/sであり、冷却終了温度は250~680℃である。
【0027】
プラズマを用いて圧延後の重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とエッジ部を切断することで、重ね合わせたクラッド鋼板を上下対称の2セットの完成品クラッド鋼板に分離させる。
ここで、重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とは、重ね合わせたクラッド鋼板の長さ方向の両端を指し、エッジ部とは、重ね合わせたクラッド鋼板の幅方向の両辺部分を指す。
【0028】
強度ランクへの要求が高いクラッド鋼板について、ユーザーの納品状態への要求に応じて、低い冷却終了温度(≦300℃)のクラッドスラブを用い、焼戻し熱処理を適切に合わせて用いることもできる。焼戻し温度は500~600℃を選んで用いることができ、ベース層材料の急速な冷却で生じた応力を釈放させ、より良い塑性と靭性を得るとともに、該温度での短時間の処理により、被覆層のステンレスの耐食性に影響をほとんど及ぼさないことを保証できる。焼戻し後、空冷処理を行う。
【0029】
本発明の前記スーパー二相ステンレスクラッド鋼板のベース層材料は、降伏強度が235~550MPa級の炭素鋼を用いる。本技術案の圧延プロセスにより製造されたクラッド鋼板は良好な結合能力を有し、せん断強さは290MPa以上に達することができる。
【0030】
クラッド鋼板中の二相ステンレス被覆層の降伏強度は550MPa以上に達することができ、引張強度は795MPaよりも高い。炭素鋼の性能は、成分の設計により異なる降伏強度の要求、例えば、235、345、460、550MPa以上の降伏強度を満たすことができる。
【0031】
本発明で生産されたクラッド鋼板の性能は良好な力学性能を有するとともに、該クラッド鋼板の被覆層材料は優れた耐食性能を有する。
【0032】
本発明のクラッド鋼板のクラッドスラブは四層対称の組立圧延を採用する。通常のスラブ組立手段は、二層のスラブを組み立て、又は四層を重ね合わせた後、最上面と最下面の材料を封止溶接することで、真空系を形成することである。通常のスラブ組立手段は結合強度への要求が高く、コストの高い合金クラッド鋼板にとって、生産過程の中で真空破壊が上下層のクラッド鋼板の失効を引き起こし、大きな経済的効果と利益の損失をもたらすことになり、生産リスクが大きい。
【0033】
本発明は二重真空系法によって生産を行い、生産過程の中で、たとえ一つの真空が破壊されたとしても、第二の系でクラッド鋼板内の真空系を保持することを依然として確保できる。本発明の方法で生産されたクラッド鋼板は優れた結合強度及び良好の生産安定性を有する。特に、被覆層材料が高価で、結合性能への要求が高い圧延クラッド鋼板材料に適する。
【発明の効果】
【0034】
したがって、従来技術に比べて、本発明は2つの有益な効果を奏することができる。
第1に、2つの真空障壁による圧延方法を用いることで、より高い真空度を効果的に向上させて維持することができ、保存中の真空破壊のリスクを効果的に低減することができる。
【0035】
第2に、従来の単一の真空系によるスラブ組立て方法では、一旦スラブ組立又は圧延の工程において真空破壊が発生すると、クラッドスラブ全体が失効してしまう。本発明では2つの真空障壁による圧延方法を用いることで、たとえスラブ組立工程又は圧延工程において、その中のいずれかの真空障壁に真空破壊が発生したとしても、もう1つの真空障壁は相変わらず良好な真空系を保持可能であり、クラッドスラブを圧延する歩留まりを効果的に引き上げることができる。クラッド鋼板を圧延する高い成功率は、合金含有量が高く、高価な耐腐食合金クラッド鋼板の生産にとって、生産性能の安定性を確保して、良好な経済的利益を得ることができる。
【0036】
本発明のスーパー二相ステンレスクラッド鋼板は、強度が高く、耐食性に優れ、低温衝撃靭性が良い等の複数のメリットを兼ね備えており、特に、各種の耐腐食への要求が高く、塩素イオンによる孔食に対する要求が比較的高くて、摩損に対しても一定の要求がある環境、例えば、エネルギー、化学工業、海洋、輸送、発電、製紙、食品等の業界に適用する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係るスーパー二相ステンレスクラッド鋼板のクラッドスラブの構造断面図である。
【
図2】本発明の実施例によるスーパー二相ステンレスクラッド鋼板の炭素鋼層と二相ステンレス層の結合箇所における金属組織の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、実施例と図面を合わせて本発明についてさらに説明する。
図1に示すように、本発明による高耐食の二相ステンレスクラッド鋼板のクラッドスラブは、四層構造であり、その中で、中間の二層1、2が二相ステンレスであり、上下の二層3、4が炭素鋼である。符号5は分離剤であり、符号6は封止溶接の継ぎ目である。分離剤が二層のステンレスを分離させ、二層のステンレスの接着への防止に用いられる。
【実施例1】
【0039】
ベース層としての炭素鋼の降伏強度は、235MPa以上であり、その化学成分(wt%)は、C:0.032、Si:0.20、Mn:1.45、P:0.015、S:0.002、Al:0.02、Cu:0.01、Cr:0.01、Ni:0.01、Nb:0.003、Mo:0.01、Ti:0.003である。二相ステンレスの成分(wt%)は、C:0.014、Si:0.43、Mn:0.85、Cr:25.34、Ni:7.32、Mo:4.11、N:0.30である。
【0040】
図1に示すような四層対称分離法によってスラブを組み立てると、上から下へと順に炭素鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ及び炭素鋼スラブが設けられ、その中で、上層炭素鋼スラブとそれに対応する二相ステンレス鋼スラブを真空シールし、下層炭素鋼とそれに対応する二相ステンレス鋼スラブを真空シールすることで、2セットの互いに独立した第一の真空系を形成する。第二の真空系は、
図1に示すような層1と層2(即ち本実施例の炭素鋼スラブ及び炭素鋼スラブ)の間を真空シールして、共同で二重真空系のクラッドスラブを構成する。2セットの真空スラブの二相ステンレス面と二相ステンレス面との間に分離剤が充填され、その後、真空引きしたクラッドスラブを加熱圧延によって、完成品のクラッド鋼板に切断する。
図2に示すように、カールツァイス光学顕微鏡Axio Imager.M2mを用いて20倍の対物レンズで撮影した写真において、上層はスーパー二相ステンレスの微細構造であり、下層は炭素鋼の微細構造である。中間は二相ステンレスと炭素鋼との間の界面であり、良好な冶金的接合が形成されている。
【0041】
クラッド圧延:加熱温度は1190℃、圧延開始温度は1170℃、圧延終了温度は950℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度が920℃、冷却速度が40℃/s、冷却終了温度が600℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延後、プラズマで切断し分離した後のクラッド鋼板の厚さは(5+30)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは5mm、ベース層の炭素鋼の厚さは30mmである。
【0042】
クラッド鋼板の力学性能は表1に示される。表1中でRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表1に示すように、該クラッド鋼板の衝撃性能が良好であった。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さの値はいずれも290MPaより高い。
【0043】
【0044】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、40℃の6%のFeCl3溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表2に示される。
【0045】
【実施例2】
【0046】
ベース層炭素鋼は降伏強度345MPa級炭素鋼を用い、その化学成分は、(wt%)で、C:0.12、Si:0.24、Mn:0.70、P:0.015、S:0.003、Nb:0.01、Ti:0.01、Al:0.025を含有し、Cu、Cr、Ni、Moを意図的に添加しておらず、二相ステンレスの成分は、(wt%)で、C:0.018、Si:0.75、Mn:0.88、Cr:24.1、Ni:6.05、Mo:3.1、N:0.24を含有している。
【0047】
本実施例は上記成分系に基いて実施例1と同一の四層対称分離方法によってスラブを組み立てる。
クラッド圧延:加熱温度は1250℃、圧延開始温度は1220℃、圧延終了温度は1020℃である。圧延後に水冷方式によってクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度が1000℃、冷却速度が2℃/s、冷却終了温度が680℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延後、プラズマで切断し分離した後のクラッド鋼板の厚さは(3+10)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは3mm、ベース層の炭素鋼の厚さは10mmである。
【0048】
クラッド鋼板の力学性能は表3に示される。表3中でRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。ベース層炭素鋼の最初の厚さが10mmであって、厚さが10mmの試料を加工できないため、厚さが7.5mmのベース層炭素鋼を衝撃試料とした。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さの値はいずれも290MPaより高い。
【0049】
【0050】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、40℃の6%のFeCl3溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表4に示される。
【0051】
【実施例3】
【0052】
ベース層炭素鋼は降伏強度460MPa級炭素鋼を用い、その化学成分は、(wt%)で、C:0.09、Si:0.22、Mn:0.9、P:0.013、S:0.002、Nb:0.045、Ti:0.018、Cu:0.01、Cr:0.22、Ni:0.23を含有し、二相ステンレスの成分は、(wt%)で、C:0.016、Si:0.40、Mn:0.92、Cr:25.97、Ni:7.96、Mo:4.98、N:0.32を含有している。
【0053】
本実施例は上記成分系に基いて実施例1と同一の四層対称分離方法によってスラブを組み立てる。
クラッド圧延:加熱温度は1100℃、圧延開始温度は1070℃、圧延終了温度は900℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度は880℃、冷却速度は20℃/s、冷却終了温度は550℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延後、プラズマで切断し分離した後のクラッド鋼板の厚さは(2+8)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは2mm、ベース層の炭素鋼の厚さは8mmである。
【0054】
クラッド鋼板の力学性能は表5に示される。表5中でRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般に、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。ベース層炭素鋼の最初の厚さが10mmであって、厚さが10mmの試料を加工できないため、厚さが7.5mmのベース層炭素鋼を衝撃試料とした。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さの値はいずれも290MPaより高い。
【0055】
【0056】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、40℃の6%のFeCl3溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表6に示される。
【0057】
【実施例4】
【0058】
ベース層炭素鋼は降伏強度550MPa級炭素鋼を用い、その化学成分は、(wt%)で、C:0.07、Si:0.32、Mn:1.55、P:0.012、S:0.002、Cu:0.35、Cr:0.39、Ni:0.40、Nb:0.05、Ti:0.018を含有し、二相ステンレスの成分は、(wt%)で、C:0.016、Si:0.72、Mn:0.89、Cr:25.69、Ni:7.11、Mo:3.93、N:0.29を含有している。
【0059】
本実施例は上記成分系に基いて実施例1と同一の四層対称分離方法によってスラブを組み立てる。
クラッド圧延:加熱温度は1150℃、圧延開始温度は1110℃、圧延終了温度は990℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度は970℃、冷却速度は40℃/s、冷却終了温度は250℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却してから、焼戻し処理を行った。焼戻し温度が550℃、焼戻し時間が1時間で、その後、出炉して室温まで空冷した。圧延後、プラズマで切断し分離した後のクラッド鋼板の厚さは(3+12)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは3mm、ベース層の炭素鋼の厚さは12mmである。クラッド鋼板の力学性能は表7に示される。
【0060】
クラッド鋼板の力学性能は表7に示される。表7中でRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表7に示されるように、該クラッド鋼板の衝撃性能が良好であった。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さの値はいずれも290MPaより高い。
【0061】
【0062】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、40℃の6%のFeCl3溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表8に示される。
【0063】
【0064】
[比較例]
実施例2と同一の材料を用いて同一の生産工程によって1セットを圧延した。性能の比較を行った。
【0065】
ベース層炭素鋼は降伏強度345MPa級炭素鋼を用い、その化学成分は、(wt%)で、C:0.12、Si:0.24、Mn:0.70、P:0.015、S:0.003、Nb:0.01、Ti:0.01、Al:0.025を含有し、Cu、Cr、Ni、Moを意図的に添加しておらず、二相ステンレスの成分は、(wt%)で、C:0.018、Si:0.75、Mn:0.88、Cr:24.1、Ni:6.05、Mo:3.1、N:0.24を含有している。
【0066】
本比較例は上記成分系に基いて普通の四層対称分離方法によってスラブを組立て、即ち、単一の真空系を用いる。上から下へと順に炭素鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ及び炭素鋼スラブが設けられ、二相ステンレス面と二相ステンレス面との間に分離剤を塗る。その後、四層のスラブ素材を一度に1つの単独の真空系に封止溶接する。該方法によれば、スラブ組立ての効率がより高いが、溶接の継ぎ目により1つの真空系しか保証できない。
【0067】
クラッド圧延設定工程:加熱温度は1250℃、圧延開始温度は1220℃、圧延終了温度は1020℃であった。圧延後に圧縮空気によってクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度は1000℃、冷却速度は20℃/s、冷却終了温度は680℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延して切断された後のクラッド鋼板の厚さは(3+10)mm、即ち被覆層二相ステンレスの厚さは3mm、ベース層炭素鋼の厚さは10mmである。
【0068】
クラッド鋼板の力学性能は表9に示される。表9中でRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。ベース層炭素鋼の最初の厚さが10mmであって、厚さが10mmの試料を加工できないため、厚さが7.5mmのベース層炭素鋼を衝撃試料とした。比較例に用いられた圧延プロセスが実施例2と同一であるため、比較例が提供したクラッド鋼板の引っ張り及び衝撃性能がほぼ近いが、通常のクラッドスラブ組立プロセスと本発明のスラブ組立プロセスに差異があるため、クラッド鋼板の被覆層とベース層との結合能力を表すせん断強さの数値が比較的低く、且つばらつきがより大きい。
【0069】
【0070】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、40℃の6%のFeCl3溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表10に示される。
【0071】
比較例の腐食試験と実施例2の腐食結果を比較すると、用いられた圧延プロセスが同一であるため、被覆層材料の耐食性能にほとんど影響を与えないことが分かる。両者の主な違いは被覆層とベース層材料との結合制御能力によるものである。
【0072】
【0073】
【0074】
表11は通常のクラッドスラブ組立プロセスと本発明のクラッドスラブ組立プロセスによる組立圧延状況の比較を示しており、二相ステンレス等の比較的高価な耐腐食合金クラッド鋼板に対して2つの真空障壁による圧延方法を用い、試験用組立スラブ数は9セット、圧延成功数は9セット、その圧延成功率が100%に達した。組立圧延成功率から見ると、本発明が提供したクラッドスラブ組立プロセスを用いた場合は、通常のクラッド圧延スラブ組立プロセスの場合より、圧延成功率が著しく向上されたことが分かる。その中、通常のクラッドスラブ組立プロセスは単一真空系を1度に全体的に封止溶接するスラブ組立方式であり、該スラブ組立プロセスは真空制御プロセスに対する要求が高く、圧延失敗の状況が現れ易く、歩留まりが低い。本発明のスラブ組立方式は四層対称分離方法によるスラブ組立、即ち二重真空系であって、圧延の信頼性が大幅に向上される。表11中における本発明の実施例と比較例とのスラブ組立圧延の状況を比較すると、本発明のスラブ組立方式で提供されたクラッド鋼板の結合性能がより高く、より安定である。