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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】温度センサおよび温度センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20210101AFI20220704BHJP
   G01K 7/22 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
G01K1/08 C
G01K7/22 L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022518276
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2022001627
【審査請求日】2022-03-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145242
【氏名又は名称】株式会社芝浦電子
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜行
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-219173(JP,A)
【文献】特開2003-262551(JP,A)
【文献】特開2012-211792(JP,A)
【文献】特開2002-048655(JP,A)
【文献】特開2012-145527(JP,A)
【文献】中国実用新案第210036986(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感熱部と前記感熱部に電気的に接続される一対の電線とを備えるセンサ素子と、
樹脂材料から構成される前記センサ素子を保持する保持体と、を備え、
前記保持体は、
幅方向と、前記幅方向と直交する長さ方向と、前記幅方向よりも寸法の小さい厚さ方向とを有し、
前記感熱部および前記電線が収容される、前記厚さ方向の表裏に開口する貫通孔からなる収容スペースを備え、
前記収容スペースは、前記長さ方向に延びる、ことを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記保持体は、
前記収容スペースが形成される第1の層と、第2の層と、を備え、
前記第2の層は、
前記収容スペースの表裏における前記開口の一方または双方に対向する位置に設けられる、
請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記収容スペースは、
前記センサ素子の平面視した形状に倣った前記開口形状を有する、
請求項1または請求項2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記収容スペースは、
少なくとも前記センサ素子の前記感熱部の全体が収容可能な容積を有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記収容スペースは、
前記感熱部を収容する第1収容スペースと、
一対の前記電線のそれぞれを収容する一対の第2収容スペースと、を備え、
一対の前記第2収容スペースのそれぞれの一方端は前記第1収容スペースに連なる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の温度センサ。
【請求項6】
前記保持体は、
前記収容スペースが形成される第1の層と、第2の層と、を備え、
前記第2の層は、
前記収容スペースの表裏における前記開口の一方または双方に対向する位置に設けられ、
一対の前記第2収容スペースは、
前記第1収容スペースに連なる前記一方端を除いて前記第1の層に独立して設けられ、
前記一方端から離れるのにつれて相互の間隔が連続的に広くなる、
請求項5に記載の温度センサ。
【請求項7】
前記第1収容スペースの内部において、前記感熱部の周囲に接着体が介在し、
それぞれの前記第2収容スペースの内部において、前記電線の周囲に接着体が介在する、
請求項5または請求項6に記載の温度センサ。
【請求項8】
前記接着体は、
ゲル状のポリ塩化ビニルから構成される、
請求項7に記載の温度センサ。
【請求項9】
前記保持体は、
前記収容スペースが形成される第1の層と、第2の層と、を備え、
前記第2の層は、
前記収容スペースの表裏における前記開口の一方または双方に対向する位置に設けられ、
一対の前記第2の層および前記第1の層は、板状のポリ塩化ビニルから構成され、
前記第1の層は、一対の前記第2の層のそれぞれより厚さ寸法が大きい、
請求項から請求項8のいずれか一項に記載の温度センサ。
【請求項10】
感熱部と前記感熱部に電気的に接続される一対の電線とを備えるセンサ素子と、樹脂材料から構成される前記センサ素子を保持する保持体と、を備える温度センサの製造方法であって、
前記感熱部および前記電線が収容される、表裏に開口する貫通孔からなる収容スペースを備える前記保持体に対して、
前記収容スペースに前記感熱部および前記電線を収容する第1ステップと、
次いで、前記感熱部および前記電線を前記収容スペースに保持する第2ステップと、を備え、
前記保持体は、幅方向と、前記幅方向と直交する長さ方向と、前記幅方向よりも寸法の小さい厚さ方向とを有し、
前記貫通孔は、厚さ方向の表裏に開口し、
前記収容スペースは、前記長さ方向に延びることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項11】
前記第2ステップは、
前記収容スペースに接着剤を供給することで、前記収容スペースに収容される前記感熱部および前記電線を前記収容スペースに保持する、
請求項10に記載の温度センサの製造方法。
【請求項12】
前記保持体は、前記収容スペースが形成される第1の層と、第2の層と、を備え、
前記第2ステップにおいて、
前記第1の層の表裏における前記開口の一方または双方に対向する位置に前記第2の層を積層する、
請求項11に記載の温度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は厚さ方向の寸法が小さい薄型の温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサは、温度検出の主体を担うセンサ素子と、センサ素子の主要部を覆う保護体とを備える。センサ素子は、例えばサーミスタ(thermistor)からなる感熱体と、感熱体に接続される電線とを基本的な構成として備える。感熱体が微小であることもあり、温度センサはそもそも厚さ方向の寸法が小さい。しかし、温度を測定する部位が狭い場合には、厚さ方向の寸法がより小さい薄型の温度センサが求められる。ちなみに、薄型の温度センサとして、後述する特許文献2は厚さ寸法が1.5mmのものを開示する。
【0003】
例えば特許文献1は、感熱体と感熱体に接続される電線とを備えるセンサ素子とを、2層の絶縁フィルムからなるパッケージで被覆する薄型の温度センサを開示する。絶縁フィルムとしては、強度を有する可撓性の合成樹脂フィルム、たとえば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、フッ素樹脂、スチロール樹脂、塩化ビニル等の合成樹脂フィルムが使用される。2層の絶縁フィルムは、接着剤、例えばエポキシ樹脂系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル樹脂系のものでセンサ素子を間において接合される。
ところが、センサ素子を2層の絶縁フィルムで被覆する特許文献1の温度センサは、感熱体に接する絶縁フィルムの部分が外側に突き出てしまい、パッケージの全体を平坦にできないことがある。
【0004】
この平坦に関する課題を解決できる温度センサを特許文献2が開示する。特許文献2の温度センサは、一対のシート状で樹脂材料の内層材を加熱硬化又は溶融凝固させた内層と、一対のシート状で樹脂材料の両面が平坦である外層材によって形成された外層と、を備える。特許文献2の温度センサは、感熱体と、感熱体に接続される引出し線と、引出し線とリード線との接続部位は、内層に被覆されるとともに、一対の外層の間に挟まれて被覆される。特許文献2の温度センサによれば、特許文献1におけるパッケージ全体の平坦化の課題を解決できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-128901号公報
【文献】WO2019-087755A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2の温度センサは、一対の内層材を一対の外層材で挟み込んだ状態で内層材を加熱により溶融凝固させることにより形成される。したがって、外層材の方が内層材よりも融点が高い必要があり、内層材と外層材を構成する樹脂材料に制約がある。ちなみに、特許文献2において、内層材はフッ素樹脂のFEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)から形成し、外層材はフッ素樹脂のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から形成する例が示されている。
【0007】
そこで本発明は、使用される樹脂材料に格別な制約がなく、かつ、平坦化ができる薄型の温度センサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温度センサは、感熱部と感熱部に電気的に接続される一対の電線とを備えるセンサ素子と、センサ素子を保持する保持体と、を備える。
本発明における保持体は、厚さ方向Tに対向して配置される一対の第2の層と、一対の第2の層の間において一対の第2の層と接合される第1の層と、を備える。
本発明における第1の層は、感熱部および電線が収容される、表裏に開口する貫通孔からなる収容スペースを備える。
【0009】
本発明における収容スペースは、好ましくは、収容スペースが形成される第1の層と、第2の層と、を備え、第2の層は、収容スペースの表裏における開口の一方または双方に対向する位置に設けられる。
また、本発明における収容スペースは、好ましくは、少なくともセンサ素子の感熱部の全体が収容可能な容積を有する。
【0010】
本発明における収容スペースは、好ましくは、センサ素子の平面視した形状に倣った開口形状を有する。
【0011】
本発明における収容スペースは、好ましくは、感熱部を収容する第1収容スペースと、一対の電線のそれぞれを収容する一対の第2収容スペースと、を備え、一対の第2収容スペースのそれぞれの一方端は第1収容スペースに連なる。
【0012】
本発明における一対の第2収容スペースは、好ましくは、第1収容スペースに連なる一方端を除いて第1の層に独立して設けられ、一方端から離れるのにつれて相互の間隔が連続的に広くなる。
【0013】
本発明の第1収容スペースの内部において、感熱部の周囲に接着体が介在し、それぞれの第2収容スペースの内部において、電線の周囲にも接着体が介在することが好ましい。
【0014】
本発明における接着体は、好ましくは、ゲル状のポリ塩化ビニルから構成される。
【0015】
本発明における一対の第2の層および第1の層は、好ましくは、板状のポリ塩化ビニルから構成され、第1の層は、一対の第2の層のそれぞれより厚さ寸法が大きい。
【0016】
本発明は、以上説明した温度センサの製造方法を提供する。
感熱部および電線が収容される、表裏に開口する貫通孔からなる収容スペースを備える保持体に対して、収容スペースに感熱部および電線を収容する第1ステップと、感熱部および電線を収容スペースに保持する第2ステップと、を備える。
【0017】
本発明の製造方法における第2ステップは、好ましくは、収容スペースに接着剤を供給することで、収容スペースに収容される感熱部および電線を収容スペースに保持する。
【0018】
本発明にかかる温度センサにおける保持体が、好ましくは、収容スペースが形成される第1の層と、第2の層と、を備える。この温度センサの製造方法の第2ステップにおいて、好ましくは、第1の層の表裏における開口の一方または双方に対向する位置に第2の層を積層する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1の層(内層)および第2の層(外層)に使用される樹脂材料に格別な制約がなく、かつ、感熱部が設けられる部位を含めて平坦化ができる薄型の温度センサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る温度センサを示し、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
図2】本実施形態に係る温度センサの要素を示し、(a)は第2の層を示す側面図および平面図であり、(b)は電線を示す平面図である。
図3】本実施形態に係る温度センサの第1の層を示し、(a)は側面図、(b)は(d)のA-B-Aの矢視断面図、(c)は(d)のA-B-Cの矢視断面図線、(d)は平面図である。
図4】本実施形態に係る温度センサのセンサ要素を示す平面図である。
図5】本実施形態に係る温度センサの製造手順を示す図である。
図6図5に続いて、本実施形態に係る温度センサの製造手順を示す図である。
図7】本実施形態に係る温度センサの限定要素を説明するための図である。
図8】第1の層の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の温度センサとして好適な実施形態を説明する。
本実施形態に係る温度センサ1は、図1に示すように、温度検出の主体を担うセンサ素子10と、センサ素子10の主要部を覆う保持体30とを備える。
温度センサ1は、保持体30を、センサ素子10を収容する第1の層33と、第1の層33の表裏を覆う一対の第2の層31,31を備える。第1の層33にセンサ素子10を収容する収容スペース37を設けることにより、第2の層31,31および第1の層33に使用される樹脂材料に格別な制約がなく、かつ、平坦化ができる薄型の温度センサ1が提供される。以下、温度センサ1の各構成要素について説明したのちに、温度センサ1の製造手順を説明する。
【0022】
<センサ素子10:図1図4
センサ素子10は、図1および図4に示すように、感熱体11と、感熱体11の周囲を覆うガラス製の保護体13と、感熱体11に電気的に直に接続される一対の第1電線15,15と、第1電線15,15のそれぞれに電気的に接続される第2電線17,17と、を備えている。電気的に接続される第1電線15,15と第2電線17,17により本発明における一対の電線が構成される。 なお、温度センサ1において、図1に示すように、感熱体11が設けられる側を前方Fと定義し、第2電線17が引き出される側を後方Bと定義する。この定義は相対的なものとする。
【0023】
[感熱体11]
感熱体11は、例えば、サーミスタを用いることが好ましい。サーミスタはthermally sensitive resistorの略称であり、温度によって電気抵抗が変化する性質を利用して温度を検出する金属酸化物である。
サーミスタは、NTC(negative temperature coefficient)サーミスタとPTC(positive temperature coefficient)に区分されるが、本実施形態はいずれのサーミスタをも使用できる。
【0024】
NTCサーミスタとして典型的なスピネル構造を有するマンガン酸化物(Mn)を基本組成とする酸化物焼結体を感熱体11に用いることができる。この基本構成にM元素(Ni、Co、Fe、Cu、AlおよびCrの1種又は2種以上)を加えたMMn3-xの組成を有する酸化物焼結体を感熱体11に用いることもできる。さらに、V、B、Ba、Bi、Ca、La、Sb、Sr、TiおよびZrの1種又は2種以上を加えることができる。
また、PTCサーミスタとして典型的なペロブスカイト構造を有する複合酸化物、例えばYCrOを基本構成とする酸化物焼結体を感熱体11に用いることができる。
【0025】
[保護体13:図1図4
ガラス製の保護体13は、図1および図4に示すように、感熱体11を封止して気密状態に保持することによって、温度センサ1が用いられる周囲の環境条件に由来する感熱体11の化学的、物理的変化の発生を防止するとともに、感熱体11を機械的に保護する。ガラス製の保護体13は、感熱体11の全体に加えて第1電線15,15の前端を覆い、第1電線15,15を封着する。保護体13において、厚さ方向Tの寸法(以下、厚さ寸法)は薄型の温度センサ1が得られる限り限定されないが、0.3~0.8mmの範囲が好ましく、0.4~0.7mmの範囲がより好ましく、0.5~0.6mmの範囲がさらに好ましい。保護体13の厚さ寸法は典型的には0.55mmである。
なお、ガラス製の保護体13を設けることは、本発明において好ましい形態にすぎず、保護体13を設けることなく感熱体11だけでも足りる。したがって、感熱体11に加えて保護体13を備えている場合には両者で本発明における感熱部を構成し、感熱体11だけを備える場合には感熱体11だけで本発明の感熱部を構成する。
【0026】
[第1電線15:図1図4
第1電線15,15は、図1および図4に示すように、図示を省略する感熱体11の電極に電気的に接続される。
第1電線15,15は保護体13により封着されるため、線膨張係数がガラスと近いジュメット線(Dumet wires)が好適に用いられる。なお、ジュメット線は、鉄とニッケルを主成分とする合金を導電体である芯線として用い、そのまわりを銅で覆った電線である。
第1電線15,15は、前方Fの側から間隔が連続的に広がるが第2電線17,17と接続される範囲においては後方Bに向けて平行に延びる。
【0027】
[第2電線17:図1図2(b)]
第2電線17,17は、図1および図2(b)に示すように、導電体からなる芯線17A,17Aと、芯線17A,17Aを覆う絶縁被覆17B,17Bと、を備える。第2電線17,17は、2芯平行線、または単に平行線と称されている。第2電線17,17は、芯線17A,17Aの部分で第1電線15,15とそれぞれが溶接、導電性接着剤などにより電気的に接続される。一対の第2電線17,17の芯線17A,17Aは、第1電線15,15と接続される部分が剥き出しとされている。
第2電線17は、第1電線15のように線膨張係数の制約がなく、所定の耐熱性、耐久性を備えている限り、任意の材質を選択できる。
【0028】
[保持体30:図1図2(a),図3
次に、保持体30は、外部に対して電気的な絶縁性を確保した上で、センサ素子10を収容し、保持する。また、保持体30は、使用する材料には格別な制約がなく、かつ、薄型を前提として平坦化に寄与する構成を備える。
【0029】
保持体30は、図1に示すように、厚さ方向Tの表裏に配置される一対の第2の層31,31と、第2の層31,31の間に挟まれる第1の層33と、を備える。第1の層33には収容スペース37が形成され、センサ素子10の主要素はこの収容スペース37の内部に配置された状態で第1の層33に保持される。なお、本実施形態場合、第1の層33は内層ということができ、第2の層は外層ということができる。
【0030】
[第2の層31]
一対の第2の層31,31は、少なくとも、収容スペース37の表裏における開口の双方に対向する位置に設けられる。
第2の層31は、図2(a)に示すように、平面視した形状が矩形の樹脂材料から構成される。第2の層31には、好ましくは板状のポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride:PVC)が適用される。ポリ塩化ビニルは、長期間にわたり強度を維持できる安定性、劣化しにくい耐久性、優れた接着性などの特徴を有する。また、ほかの樹脂材料にくらべて難燃性を有するという特徴をも有する。ポリ塩化ビニルには、硬質材と軟質材が存在するが、第2の層31には軟質材を用いるのが好ましい。軟質材は、ショアAの硬度が50~100の範囲を示し、柔軟性に富む。
【0031】
ポリ塩化ビニルの他に第2の層31に適用できる樹脂材料としては、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリスチレン(polystyrene)などが掲げられる。
【0032】
第2の層31の厚さ方向Tの寸法(以下、厚さ寸法)は限定されないが、薄型の温度センサ1を得るには、第2の層31の厚さを0.03~0.3mmの範囲とすることが好ましく、より好ましい厚さ寸法は0.05~0.2mmの範囲であり、さらに好ましい厚さ寸法は0.08~0.15mmの範囲である。第2の層31の厚さ寸法は典型的には0.1mmである。
【0033】
[第1の層33,収容スペース37]
次に、第1の層33は、図1および図3に示すように、平面視した形状が矩形であって、第2の層31と同様の板状の樹脂材料から構成される。ただし、後述するように、第2の層31と厚さ寸法が異なる。
第1の層33は、樹脂材料から構成される外形が矩形をなす枠体35と、枠体35の内側に形成される空隙からなる収容スペース37と、を備える。収容スペース37は、一例として枠体35の表裏を貫通して厚さ方向Tに連なって形成される。
【0034】
収容スペース37は、センサ素子10の平面視した外観形状に倣った開口形状を有しており、第1収容スペース37Aと、一対の第2収容スペース37B,37Bとを備えている。第1収容スペース37Aは、平面視で概ね楕円形に形成され、感熱体11を覆うガラス製の保護体13が収容される。一対の第2収容スペース37B,37Bは、平面視で概ね矩形に形成され、第1電線15,15のそれぞれが収容される。
【0035】
第1収容スペース37Aは、一例として枠体35の長さ方向Lにおける前方Fの側であって、幅方向Wの中央に形成される。第1収容スペース37Aは、長さ方向L、幅方向Wおよび厚さ方向Tの何れにおいても、保護体13よりも寸法が微小量だけ大きく形成されている。したがって、第1収容スペース37Aに保護体13が収容されると保護体13の周囲には隙間が生じるが、この隙間には後述するように接着体BLが介在することで、保護体13が第1収容スペース37Aの内部に保持される。つまり、第1収容スペース37Aは、感熱体11を含む保護体13の全体が収容可能な容積を有している。第1収容スペース37Aは保護体13に対応して楕円形としているが、これは好ましい一形態であって、他の形態、例えば真円形、矩形、多角形などを採用してもよい。もっとも、保護体13に対応して、具体的には保護体13と相似の関係にある第1収容スペース37Aとすることにより、上述した隙間に介在される接着体BLの厚さを均等にできる。これにより、より少ない量の接着体BLで保護体13を保持できる。
【0036】
第2収容スペース37B,37Bは、一例として第1収容スペース37Aの後方Bの端部から、さらに枠体35の後方Bに向けて延びる。ただし、第2収容スペース37B,37Bは、枠体35の後方Bの端部まで至る前で留まる。仮に第2収容スペース37B,37Bは、枠体35の後方Bの端部まで延ばすと、第2収容スペース37Bと第2収容スペース37Bで挟まれる部分が分離してしまうからである。第2収容スペース37B,37Bは、第1収容スペース37Aに連なる前方Fの部位から後方Bに向けて連続的に間隔が広がるように形成されている。これは、センサ素子10の第1電線15,15が感熱体11に連なる前方Fの部位から後方Bに向けて連続的に間隔が広がることに対応している。
【0037】
一方の第2収容スペース37Bと他方の第2収容スペース37Bとの間には、枠体35が設けられる。したがって、第2収容スペース37B,37Bは、第1収容スペース37Aに連なる一方端の部分を除いて、独立している。第2収容スペース37B,37Bのそれぞれに収容される第1電線15,15の間には、枠体35が存在するために、第1電線15,15の相互の電気的な絶縁が確保される。好ましい形態として、第1電線15,15の周囲の第2収容スペース37B,37Bに接着体BLが設けられると、第1電線15,15の第2収容スペース37B,37Bにおける位置決めがなされる。
【0038】
収容スペース37を形成する方法は、所望する形態が得られる限り任意であるが、形成コストおよび形成効率を考慮すると、金型を用いた打ち抜き加工が好ましい。表裏を貫通する収容スペース37は打ち抜き加工により容易に得られる。他の形成方法としては、刃物を用いた切断加工、レーザ光を用いた切断加工などが掲げられる。
【0039】
第1の層33は、センサ素子10の保護体13が第1収容スペース37Aからはみ出すことなく収容できる厚さ寸法を有する。保護体13の厚さ寸法は前述した通りであり、この厚さ寸法と一致するかこれを超える厚さ寸法を有する必要がある。例えば、保護体13の厚さ寸法が典型例である0.55mmの範囲であるとすれば、第1の層33の厚さ寸法も0.55mmとすればよく、好ましくは0.05mmの余裕をみて0.6mmとする。
【0040】
例えば、第2の層31,31の厚さがそれぞれ0.1mm、第1の層33の厚さが0.6mmとすれば、第2の層31,31と第1の層33の間に介在する接着体BLの厚さを考慮して、温度センサ1の厚さを1mmに抑えることができる。そうすれば、第2の層31および第1の層33を構成するポリ塩化ビニルの柔軟性と相まって、温度センサ1は厚さ方向Tへの変形が極めて容易である。なお、接着剤Gが固まった後の状態を接着体BLと称して区別する。
【0041】
[製造手順:図5図6
次に、図5および図6を参照して、温度センサ1の製造手順を説明する。
はじめに、図5に示すように、間隔を空けて設けられる第2の層31,31の間に第1の層33およびセンサ素子10が配置される。このときセンサ素子10が第1の層33の収容スペース37に対して位置決めされ、保護体13は第1収容スペース37Aに対応する位置、第1電線15,15は第2収容スペース37B,37Bに対応する位置に配置される。なお、第1電線15と第2電線17の芯線17Aはすでに電気的および機械的に接続されているものとする。
【0042】
第2の層31,31の第1の層33と対向する面である接合面32,32には、図中に二点鎖線で示される接着剤Gが塗布されている。なお、接着剤Gは、第2の層31,31に代えて、または、第2の層31,31に加えて、第1の層33の表裏の接合面34,34に塗布しておいてもよい。
接着剤Gは、第2の層31,31と第1の層33とを接合し、かつ、センサ素子10の主要部を収容スペース37の内部に保持できる限り、材質を問わない。ただし、好ましくは、熱硬化性を有するポリ塩化ビニルからなる接着剤Gを用いる。ポリ塩化ビニルは、熱可塑性樹脂として知られるが、当業者間でよく知られるように、可塑剤と混合されることで常温において流動性の優れるゾル状となるので、接着剤Gして容易に塗布することができるからである。ゾル状のポリ塩化ビニルは、加熱されるとゲル状に硬化される。ゲル化のための加熱温度は一例として200℃である。
【0043】
次に、図6(a)に示すように、下側の第2の層31の上に第1の層33を載せる。次いで、第1の層33の第1収容スペース37Aに保護体13を収容し、第2収容スペース37Bに第1電線15を収容する。ただし、第1電線15は所定位置より後方Bの側は、第2収容スペース37Bからはみ出している。さらに、図6(a)は、第1収容スペース37Aおよび第2収容スペース37Bに接着剤Gが供給される。接着剤Gは、第1収容スペース37Aにおいて保護体13と枠体35の間の間隙を埋め、第2収容スペース37Bにおいて第1電線15と枠体35の間の間隙を埋める。なお、接着剤Gがゾル状の塩化ビニルからなる場合、この時点の接着剤Gは流動性を備えている。
【0044】
次に、図6(b)に示すように、上側の第2の層31を第1の層33に載せた後に、加熱を伴う押圧力を第2の層31,31に加える。この加熱により、ゾル状の塩化ビニルからなる接着剤Gはゲル状に硬化されるとともに、第1の層33がその表裏から押圧力を受けることで、第2の層31,31と第1の層33との接着剤Gによる接合力が向上する。
【0045】
[保護体13の径Rと第1の層33の厚さTとの関係]
以上の工程を経ることにより図1および図6(b)に示される温度センサ1が得られるが、保護体13の厚さ寸法13Rと第1の層33の収容スペース37の厚さ寸法37Tの関係について、図7を参照して説明する。
図7(a)は保護体13の厚さ寸法13Rより第1の層33の厚さ寸法37Tが大きい場合(37T>13R)を示し、図7(b)は保護体13の厚さ寸法13Rと収容スペース37の厚さ寸法37Tが等しい場合(37T=13R)を示し、図7(c)は保護体13の厚さ寸法13Rが収容スペース37の厚さ寸法37Tより大きい場合(37T<13R)を示している。なお、37T>13R、37T=13R、37T<13Rのそれぞれを第1態様(37T>13R)、第2態様(37T=13R)、第3態様(37T<13R)と称する。なお、ここまでは第2態様(37T=13R)として温度センサ1が示されている。本実施形態においては、第1態様(37T>13R)および第2態様(37T=13R)が採用されるが、第3態様(T<R)は採用されない。理由は以下の通りである。
【0046】
温度センサ1は、薄型であることから狭いスペースに配置されて使用される。この状態で、温度センサ1には厚さ方向Tに外部から荷重が加わることがある。この荷重は第2の層31,31を通じて保護体13および感熱体11に加わる。この荷重が大きいと、ガラスからなる保護体13が損傷したり、感熱体11が損傷したりするおそれがある。したがって、温度測定中に荷重が加わるおそれがある場合には、保護体13および感熱体11への荷重を抑えることが望まれる。
【0047】
しかし、図7(c)の第3態様における保護体13の厚さ寸法13Rは、第1の層33の収容スペース37の厚さ寸法37Tより大きいために、保護体13の一部が第1収容スペース37Aから外にはみ出してしまう。図示を省略しているが、第1収容スペース37Aからはみ出した保護体13の部分には、第2の層31,31が配置されているが、第2の層31,31と保護体13との間には第1の層33は介在しないので、第1態様および第2態様と比較して、外部から加わる荷重が大きくなる。
【0048】
これに対して、図7(a)の第1態様における保護体13の厚さ寸法13Rは、収容スペース37の厚さ寸法37Tよりも大きいために、保護体13の全体が第1収容スペース37Aの内部に収容されるので、図7(c)の第3態様のように保護体13が収容スペース37の外にはみ出すのを避けることができる。そして、第1態様は、第1収容スペース37Aの内部において、保護体13の図中の上側および下側に接着体BLが存在する。したがって、第1態様は厚さ方向Tに荷重が加わったとしても、第2の層31,31に加えて接着体BLを通じて保護体13および感熱体11に荷重が加わることになる。しかも、接着体BLがゲル状であれば、接着体BLは保護体13に対して加わる荷重の緩衝体として機能するので、保護体13および感熱体11に対して加わる荷重を第3態様に比べて小さくすることができる。
なお、温度センサ1には厚さ方向Tに外部から加わる荷重の大きさを比較すると、第2態様(37T=13R)における荷重の大きさは、第1態様(37T>13R)と第3態様(37T<13R)の中間的な位置付けとなる。
【0049】
[効 果]
以下、本実施形態の温度センサ1が奏する効果を説明する。
温度センサ1は、センサ素子10の保護体13と第1電線15,15が第1の層33の収容スペース37に収容され、かつ保持される。この収容および保持に際して、必要に応じて接着剤Gを用いれば足り、第1の層33だけを溶融する必要がない。したがって、第2の層31,31と第1の層33の融点の関係を考慮する必要がなく、第2の層31,31と第1の層33を構成する樹脂材料に格別な制約がない。
また、温度センサ1は、保護体13の径Rが第1の層33の厚さTと等しいかまたは小さく設定されるので、保護体13は第1収容スペース37Aの内部に収まってはみ出すことがない。したがって、センサ素子10において厚さ寸法が最も大きい保護体13の部分においても、第2の層31,31を平坦に形成できる。
以上の通りであり、本実施形態によれば第2の層31,31および第1の層33に使用される樹脂材料に格別な制約がなく、かつ、保護体13が設けられる部位を含めて平坦化ができる薄型の温度センサ1が提供される。
【0050】
本実施形態における収容スペース37は、保護体13に対応する形状を有する第1収容スペース37Aと第1電線15,15に対応する形状の第2収容スペース37B,37Bから構成される。したがって、第1収容スペース37Aに保護体13を配置し、第1電線15,15を第2収容スペース37B,37Bに配置すれば、第1の層33に対するセンサ素子10の位置決めがなされ、特に温度測定に重要となる感熱体11を所望の部位に位置決めできる。
【0051】
また、温度センサ1は、柔軟性に富むポリ塩化ビニルにより第2の層31,31および第1の層33を構成し、しかも、例えば厚さを1~2mm程度に抑えることができる。したがって、温度センサ1は極めて柔軟性に富むことになり、厚さ方向Tへの弾性変形が容易である。そうすると、温度センサ1が狭い隙間に設けられている場合に、この隙間の間隔が多少変化したとしても、温度センサ1はこの変化に応じて厚さが変動することにより、測定対象物との面接触の状態を維持できる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に置き換えたりすることができる。
例えば、図8に示すように、第1の層33に設けられる第2収容スペース37Bを延ばして枠体35の後方Bの端部まで達する延長室37Cを形成してもよい。そうすれば、第1電線15を延長室37Cに収容して後方Bの端部から引き出すことができる。なお、図8においては、第1収容スペース37Aおよび第2収容スペース37Bが第1の層33の表裏を貫通しているが、延長室37Cと同様に、厚さ方向Tの所定範囲までの溝形状とすることもできる。
【0053】
次に、温度センサ1は、収容スペース37の好ましい形態として、センサ素子10と平面視して相似形の第1収容スペース37Aおよび第2収容スペース37Bを形成したが、本発明はこれに限定されない。つまり、収容スペース37は保護体13および第1電線15,15を収容できることが最優先事項であり、平面視した形状は任意である。したがって、例えば平面視して矩形の収容スペース37としてもよい。
【0054】
また、実施形態に係る温度センサ1は前方Fから後方Bにわたって厚さ寸法がほぼ一定の例を示しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2電線17の芯線17Aの径が保持体30の厚さ寸法よりも相当程度大きければ、芯線17Aおよび絶縁被覆17Bを覆う第2の層31,31の部分の厚さ寸法が大きくなる。
【0055】
実施形態に係る温度センサ1は、好ましい実施形態として第1の層33の表裏に一対の第2の層31,31を設けているが、本発明はこれに限定されない。つまり、例えば接着剤だけでセンサ素子10を第1の層33に保持できるのであれば、第2の層31,31の一方または双方を設ける必要がない。
【符号の説明】
【0056】
1 温度センサ
10 センサ素子
11 感熱体
13 保護体
15 第1電線
17 第2電線
17A 芯線
17B 絶縁被覆
30 保持体
31 第2の層
32 接合面
33 第1の層
34 接合面
35 枠体
37 収容スペース
37A 第1収容スペース
37B 第2収容スペース
37C 延長室
F 前方
B 後方
G 接着剤
BL 接着体
【要約】
外層および内層に使用される樹脂材料に格別な制約がなく、かつ、平坦化ができる薄型の温度センサを提供する。本発明の温度センサ(1)は、感熱部(11,13)と感熱部(11)に電気的に接続される一対の電線(15,17)とを備えるセンサ素子(10)と、センサ素子10を保持する保持体(30)と、を備える。保持体(30)は、感熱部(11,13)および電線(15,17)が収容される、表裏に開口する貫通孔からなる収容スペース(37)を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8