(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】繊維状物質含有セメント系部材の除去方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
(21)【出願番号】P 2017224217
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 健彦
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 征夫
(72)【発明者】
【氏名】有薗 祐介
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-205127(JP,A)
【文献】特開2012-017607(JP,A)
【文献】特開2008-255655(JP,A)
【文献】特開2011-196169(JP,A)
【文献】特開2013-194356(JP,A)
【文献】特開2006-348704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に設けられた繊維状物質含有セメント系部材に削部を形成する削部形成工程と、
前記削部に凍結膨張材を充填する凍結膨張材充填工程と、
前記凍結膨張材を凍結して膨張させる凍結膨張工程と、
前記凍結膨張工程の後、前記基材から前記繊維状物質含有セメント系部材を除去する除去工程と、
を有する繊維状物質含有セメント系部材の除去方法であって、
前記除去工程は、凍結膨張工程で凍結した前記凍結膨張材が溶融した後に行う
ことを特徴とする繊維状物質含有セメント系部材の除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維状物質含有セメント系部材の除去方法であって、
前記凍結膨張材は、前記繊維状物質含有セメント系部材の内部に浸透する
ことを特徴とする繊維状物質含有セメント系部材の除去方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の繊維状物質含有セメント系部材の除去方法であって、
前記凍結膨張材は、前記基材と前記繊維状物質含有セメント系部材の界面に浸透する
ことを特徴とする繊維状物質含有セメント系部材の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状物質含有セメント系部材の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設建築物などにおいて、金属製の基材(例えばH形鋼)の耐火被覆として、当該基材の表面に石綿(アスベスト)を含有する石綿耐火被覆(繊維状物質含有セメント系部材の一例)が施されていることがある。石綿耐火被覆を基材から除去する際には、皮スキ(スクレーパー)などの工具を用いて徐々に除去している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
石綿耐火被覆は、石綿繊維とセメントとの複合体であり、セメントに石綿繊維が緻密に絡まり合っている。このため、石綿耐火被覆(繊維状物質含有セメント系部材)を基材から除去するのは困難であり、時間や労力を要していた。また、作業者の負担を低減させるため、例えば、電動チッパーを使用すると音や振動が発生する問題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、繊維状物質含有セメント系部材を剥がしやすくして、簡易に除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の上記目的を達成するための繊維状物質含有セメント系部材の除去方法は、
基材の表面に設けられた繊維状物質含有セメント系部材に削部を形成する削部形成工程と、
前記削部に凍結膨張材を充填する凍結膨張材充填工程と、
前記凍結膨張材を凍結して膨張させる凍結膨張工程と、
前記凍結膨張工程の後、前記基材から前記繊維状物質含有セメント系部材を除去する除去工程と、
を有する繊維状物質含有セメント系部材の除去方法であって、
前記除去工程は、凍結膨張工程で凍結した前記凍結膨張材が溶融した後に行う
ことを特徴とする。
このような繊維状物質含有セメント系部材の除去工方法によれば、繊維状物質含有セメント系部材を剥がしやすくすることができ、簡易に除去することができる。
【0009】
かかる繊維状物質含有セメント系部材の除去方法であって、前記凍結膨張材は、前記繊維状物質含有セメント系部材の内部に浸透することが望ましい。
このような繊維状物質含有セメント系部材の除去方法によれば、凍結膨張材の膨張変形によって、繊維状物質含有セメント系部材と基材の界面で剥離させたり、繊維状物質含有セメント系部材に亀裂を生じさせたりすることができる。
【0010】
かかる繊維状物質含有セメント系部材の除去方法であって、前記凍結膨張材は、前記基材と前記繊維状物質含有セメント系部材の界面に浸透することが望ましい。
このような繊維状物質含有セメント系部材の除去方法によれば、繊維状物質含有セメント系部材を基材との界面で剥離しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維状物質含有セメント系部材を簡易に除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】表面に耐火被覆30を施した鉄骨梁10の構成を示す断面図である。
【
図2】本実施形態の耐火被覆除去方法のフロー図である。
【
図4】
図4Aは、工具100の斜視図であり、
図4Bは、工具100の使用状態を示す概念図である。
【
図5】
図5Aは大型試験体の切り込みの説明図であり、
図5Bは、小型試験体の切り込みの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下の実施形態では、鉄骨梁(基材)の表面に施された石綿耐火被覆(繊維状物質含有セメント系部材)を除去する場合について説明する。
【0014】
===実施形態===
<<鉄骨梁の構成について>>
図1は、表面に耐火被覆30を施した鉄骨梁10の構成の一例を示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の鉄骨梁10(基材に相当)は、スラブ20の下に設けられたH形鋼であり、上下に間隔を隔てるとともに互いに対向する板状の上フランジ12及び下フランジ14と、上フランジ12と下フランジ14とを、幅方向の中央にて上下に繋ぐ板状のウェブ16とを有している。この鉄骨梁10のうちスラブ20との接続面(上フランジ12の上面)を除く各表面には、耐火被覆30が吹付けなどによって設けられている。本実施形態の耐火被覆30は、石綿(アスベスト)を含有する石綿耐火被覆であり、石綿繊維とセメントの複合体である。すなわち、耐火被覆30は、繊維状物質含有セメント系部材に相当する。
【0016】
このような耐火被覆30を鉄骨梁10から除去する場合、一般的に、作業者が皮スキ(スクレーパー)などの鋭利な除去工具を耐火被覆30の表面に差し込んで、そこから除去工具を移動させて徐々に耐火被覆30を剥離除去している。しかし、耐火被覆30は、セメントに石綿が緻密に絡み合って構成されているので、上述したような方法で取り除くのは困難であり、時間と労力を要し作業効率が悪かった。また、電動チッパーなどの工具を用いると、作業の際に音や振動が発生する問題があった。
【0017】
そこで、本実施形態では、耐火被覆30を剥がしやすくし、簡易に除去できるようにしている。
【0018】
<<耐火被覆の除去方法について>>
図2は、本実施形態の耐火被覆除去方法のフロー図であり、
図3A~
図3Eは、各工程における状態を示す断面図である。
【0019】
本実施形態では、後述するように、耐火被覆30を切削して切り込み(溝32)を形成する。そこで、まず、耐火被覆30に切り込みを入れる箇所の見極めを行う(
図2:S10)。切り込みを入れる箇所は、耐火被覆30を塊(ブロック)で除去できるような場所とすることが望ましい。また、切り込みの間隔は、後述の実施例のような評価を行って定めておくことが望ましい。
図3Aの破線は、本実施形態おける切り込みの箇所(塊の境界部分)の一例を仮想的に示したものである。切り込みを入れる箇所にはマーカーなどで場所を示すようにするとよい。
【0020】
次に、切削工具(例えば、円形カッターや引っ掻き工具)を用いて、耐火被覆30を深さ方向に切削する(
図2:S11)。こうして、
図3Bに示すように、耐火被覆30に溝32(削部に相当)を形成する。本実施形態では、鉄骨梁10の表面(換言すると、耐火被覆30と鉄骨梁10の界面)に達するように溝32を形成している。この切削の際に用いる切削工具は、耐火被覆30の硬度に応じて選定するとよい。例えば、硬度が所定値より低い場合(柔らかい場合)には円形カッター(丸鋸)を用いて耐火被覆30を押し切り、硬度が所定値より高い場合(硬い場合)には引っ掻き工具を用いて耐火被覆30を引っ掻く(引き裂く)などすればよい。このように、耐火被覆30に切削部を形成する際に用いる切削工具を、耐火被覆30の硬度に応じて適宜選定することにより、容易に溝32を形成することができ、作業効率を向上させることができる。
【0021】
溝32を形成した後、
図3Cに示すように、溝32に水を充填する(
図2:S12)。なお、水は常温では液体であり、凍ると(液体から固体に変化すると)体積が膨張する特性を有している。すなわち、水は凍結膨張材に相当し、溝32に水を充填するステップS12は凍結膨張材充填工程に相当する。本実施形態では、溝32に水を充填する際に、
図4A、
図4Bに示す工具100を使用している。
図4Aは、工具100の斜視図であり、
図4Bは、工具100の使用状態を示す概念図である。なお、ここでは図に示すように前後方向を定めている。
【0022】
工具100は、スクレーパー形状の工具であり、刃部110と、把持部120とを有している。
【0023】
刃部110は先端側(前側)が薄板形状に形成されている。また、刃部110の前側の端面には噴射口111が長手方向に沿って細長く設けられている。
【0024】
把持部120は、作業者が把持する部位であり刃部110の後側に設けられている。把持部120の後側の端面には、供給口121が設けられている。
【0025】
また、工具100の内部には、噴射口111と供給口121を連通する流路(不図示)が設けられている。
【0026】
溝32に水を充填する際には、
図4Bに示すように、工具100の刃部110の先端部分を、溝32に沿わせて挿入する。そして、不図示のポンプ等で工具100の供給口121に水を供給する。これにより、刃部110の噴射口111から水が噴射されて溝32に注入される。このようなスクレーパー形状の工具100を用いることで、溝32の広い範囲に水を充填させることができ、作業効率を高めることができる。
【0027】
また、この工具100は、耐火被覆30の硬度が低い場合(軟らかい場合)に、溝32を形成する切削工具として使用することも可能である。
【0028】
なお、本実施形態では、溝32に水を充填する際に、工具100の刃部110の先端を溝32に挿入していたが、挿入しなくてもよい。例えば、溝32の開口付近から水を噴射、あるいは、噴霧して、溝32に水を充填してもよい。この場合においても、溝32を形成しているので、溝32に沿って鉄骨梁10との界面部分まで湿潤させることができる。また、溝32に水を充填する工具は工具100には限られない。例えば、工具100と同様の形状において、先端に円形の噴射口が複数並んでいてもよい。また、例えば、注射器形状の工具を用いて溝32に水を充填するようにしてもよい。
【0029】
溝32に充填された水は、耐火被覆30の内部に浸透する。特に、本実施形態では、溝32が耐火被覆30と鉄骨梁10の界面に達しているので、この界面部分の耐火被覆30の内部にも確実に水が浸透する。これにより、溝32の周囲(特に、鉄骨梁10との界面部分)の耐火被覆30が湿潤する。なお、本実施形態では耐火被覆30を湿潤させるのに水を用いているが、水には限られず、凍結したときに膨張する液体であればよい。例えば、後述するグリコール酸水溶液のような水溶液を用いてもよい。
【0030】
耐火被覆30に水が十分浸透したら、
図3Dに示すように、冷媒を吹付け、あるいは、流入させて水を凍結させる(
図2:S13)。なお、本実施形態では、冷媒として液体窒素を用いている。そして、そのまま数時間放置する。液体窒素によって耐火被覆30に含まれる水が凍結すると、水の体積(換言すると耐火被覆30の体積)が膨張するので、耐火被覆30と鉄骨梁10の界面において相間剥離(界面剥離)が起こる。
【0031】
これにより、
図3Eに示すように、鉄骨梁10から耐火被覆30を塊(ブロック)として除去できる(
図2:S14)。耐火被覆30が自然に剥離しない場合は、溝32に除去工具(皮スキなど)を挿入して耐火被覆30を除去すればよい。本実施形態では、前述したステップS13で、耐火被覆30に含まれる水が膨張して鉄骨梁10との界面にて剥離が生じやすくなっているため、除去工具を切削部に挿入して僅かな力を加えるだけで、耐火被覆30を鉄骨梁10から剥離除去することができる。このように、本実施形態では、耐火被覆30を簡易に除去することができる。なお、除去工具を用いて耐火被覆30を除去する作業は、凍結した水(耐火被覆30)が溶融するまで待った後に行なうことが望ましい。これにより、耐火被覆30をより簡易に除去することができる。
【0032】
以上、説明したように、本実施形態の耐火被覆除去方法は、鉄骨梁10の表面に設けられた耐火被覆30に溝32を形成するステップS11(削部形成工程)と、溝32に水を充填するステップS12(凍結膨張材充填工程)と、水を凍結して膨張させるステップS13(凍結膨張工程)と、鉄骨梁10から耐火被覆30を除去するステップS14(除去工程)とを有している。これにより、耐火被覆30を塊として簡易に剥離することができ、作業効率の向上を図ることができる。また、騒音や振動の発生を最小限にすることができる。
【0033】
<実施例>
本発明の実施例として、水と液体窒素によるアスベストの除去性についての評価実験を行った。
【0034】
(型枠)
大きさ形状の異なる2種類の型枠を使用
型枠A・・・300mm×300mmの矩形型枠
型枠B・・・直径140mmの円形型枠
【0035】
(試験体)
鋼板の上に上記の各型枠を設置し、型枠内に下記配合の模擬アスベストを50mmの厚さになるように流し込み試験体を作製した。下地処理には下記の下地処理材を用いた。
〔模擬アスベストの配合〕
太平洋マテリアル フネンシール(湿式材)(20kg/袋)+セメント5%添加、フネンシール20kgに対し、17~25kgの清水を加えよく攪拌する。
〔下地処理材〕
アクリルエマルジョン溶液(刷毛にて型枠に塗布後、乳白色から透明になるまで養生)
【0036】
なお、以下の説明において、型枠Aを用いて作製した試験体(
図5A参照)を大型試験体といい、型枠Bを用いて作製した試験体(
図5B参照)を小型試験体という。
【0037】
試験体は、恒温恒湿室(20℃、65%)で28日間強度を発現させ、その後、恒量に達していない場合は、恒量化するまでさらに乾燥させた。
【0038】
そして、作製した各試験体に切り込み(溝)を設けた。
図5Aは大型試験体の切り込みの説明図である。図のように30mm角と50mm角のマス目になるようにのこぎりや回転カッターなどで切り込みを入れた。この切り込みは鋼板面(模擬アスベストと鋼板との界面)まで達するように形成した。また、
図5Bは、小型試験体の切り込みの説明図である。小型試験体においても
図5Bに示すように鋼板面に達する切り込みを入れた。
【0039】
また、比較例として、切り込みを設けない試験体(大型試験体、小型試験体)も作製した。
【0040】
(試験方法)
・試験体(模擬アスベスト)の周囲に枠を付け、試験体の上から下記の薬液1(水)、又は、薬液2(グリコール酸水溶液)を流し込んだ。なお、大型試験体には450~500g流し込み、小型試験体には150g流し込んだ。
薬液1・・水+界面活性剤(CapstoneFS-30)0.1wt%
薬液2・・水+界面活性剤(CapstoneFS-30)0.1wt%+グリコール酸15wt%
・薬液が試験体に十分に浸透した後、さらに液体窒素を流し込み1時間ほど放置した。
【0041】
(試験結果)
〔切り込みなし(比較例)の場合〕
・薬液は、模擬アスベストの表面から約20~30mmの深さまで浸透したが、鋼板界面(50mm)までは浸透しなかった。
【0042】
・薬液2を浸透させた大型試験体及び小型試験体では、薬液の浸透深さ(表面から約20mm)の位置に亀裂(クラック)が生じていた。この亀裂は、薬液の浸透部分が薬液の凍結により体積膨張して、薬液の浸透していない部分との間に応力が発生したことによるものであると考えられる。一方、薬液1を浸透させた大型試験体では、浸透深さの位置の亀裂は生じていなかった。薬液1を浸透させた小型試験体では浸透深さの位置に亀裂が生じていた。薬液1を浸透させた大型試験体で亀裂が生じなかったのは冷却不足が原因であると考えられる。
【0043】
・何れにおいても、鋼板との界面には変化が無かった(界面での剥離はできなかった)。
【0044】
〔切り込みありの場合〕
薬液1を浸透させた小型試験体は、鋼板と模擬アスベストの界面で剥離が生じており、容易に除去することができた。薬液2を浸透させた小型試験体は、薬液1の場合よりも剥離性が悪かった。
【0045】
薬液1を浸透させた大型試験体は、小さいマス目(30×30mm)を入れた領域において鋼板との界面に剥離が生じており、容易に除去することができた。大きいマス目(50×50mm)を入れた領域では、やや剥離が進行していない様子であった。
【0046】
この結果より、模擬アスベストに切り込みを入れることで、薬液の浸透を早めることができ、鋼板との界面で剥離しやすくなることが確認できた。特に、薬液1(水)の場合に浸透が顕著であり、剥離が容易であった。
【0047】
薬液2(グリコール酸水溶液)が薬液1(水)よりも浸透が遅いのは、薬液2が模擬アスベストのセメント成分と反応し、発泡を伴うためと考えられる。このため、マス目にカットした試験体での剥離性が薬液1の場合に比べて良くないと考えられる。
【0048】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0049】
<鉄骨梁10について>
前述の実施形態では、耐火被覆30が設けられる対象物(基材)を鉄骨梁10としていたが、これに限らない。例えば、柱や天井や壁体などでもよい。また、前述の実施形態の鉄骨梁10はH形鋼であったが、I形鋼やT形鋼であってもよい。また、基材は鋼材には限られず、例えば、ステンレスやアルミニウム合金などの金属材料を用いた部材であってもよい。
【0050】
<耐火被覆30について>
前述の実施形態では、耐火被覆30は吹付けで形成されていたが、吹付け以外の方法で施工された耐火被覆材であってもよい。
【0051】
また、前述の実施形態では、耐火被覆30は石綿(アスベスト)を含有していたが、石綿以外の繊維状物質を含有していてもよい。例えば、ロックウール、ガラス繊維、金属繊維などを含有していてもよい。
【0052】
また、耐火被覆以外の用途の部材(例えば防音用に設けられた部材)に対して本実施形態の除去方法を適用してもよい。
【0053】
<溝32について>
前述の実施形態では、耐火被覆30に直線状の溝32を形成していたが、これには限らない。例えば、ドリル等を用いて耐火被覆30に円形の削孔(削部に相当)を複数形成してもよい。この場合も、削孔は耐火被覆30と鉄骨梁10の界面まで形成することが望ましい。そして、各削孔にノズルなどを挿入して水を充填し(耐火被覆30の内部に水を浸透させ)、液体窒素で水を凍結して膨張させてもよい。こうすることにより、耐火被覆30と鉄骨梁10とを界面で剥離させることができ、耐火被覆30を簡易に除去することができる。
【0054】
また、前述の実施形態では、溝32は鉄骨梁10の表面(耐火被覆30と鉄骨梁10の界面)に達していたが、これには限られず、溝32が鉄骨梁10と耐火被覆30の界面に達していなくてもよい。この場合においても、溝32を設けた部位の耐火被覆30の厚さが薄くなるので、溝32を設けていない部位と比べて、鉄骨梁10との界面まで水が浸透しやすくなる。また、鉄骨梁10との界面まで水が浸透していなくても、水を凍結して膨張させることで、界面に近い位置に亀裂を発生させることができ、耐火被覆30の剥離性を高めることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 鉄骨梁(基材)
12 上フランジ
14 下フランジ
16 ウェブ
30 耐火被覆(繊維状物質含有セメント系部材)
32 溝(削部)
100 工具
110 刃部
111 噴射口
120 把持部
121 供給口